IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-励起光生成装置 図1
  • 特許-励起光生成装置 図2
  • 特許-励起光生成装置 図3
  • 特許-励起光生成装置 図4
  • 特許-励起光生成装置 図5
  • 特許-励起光生成装置 図6
  • 特許-励起光生成装置 図7
  • 特許-励起光生成装置 図8
  • 特許-励起光生成装置 図9
  • 特許-励起光生成装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】励起光生成装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20221207BHJP
   G02F 1/377 20060101ALI20221207BHJP
   G02F 1/39 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01S3/10
G02F1/377
G02F1/39
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021521576
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019020823
(87)【国際公開番号】W WO2020240643
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓志
(72)【発明者】
【氏名】柏崎 貴大
(72)【発明者】
【氏名】忠永 修
(72)【発明者】
【氏名】圓佛 晃次
(72)【発明者】
【氏名】笠原 亮一
(72)【発明者】
【氏名】梅木 毅伺
(72)【発明者】
【氏名】小勝負 信建
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-004253(JP,A)
【文献】特開2019-002975(JP,A)
【文献】特開2018-207362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/10
G02F 1/39
G02F 1/377
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光および当該信号光のアイドラ光の信号対を増幅する光位相感応増幅のための励起光を発生する装置であって、
局部発振光を変調して生じた複数のサイドバンド光に対して、光位相同期ループ(OPLL)によって前記信号対の位相に同期した複数のサイドバンド光を生成する光位相同期部と、
前記同期した複数のサイドバンド光の内の1つのサイドバンド光を励起光として抽出する励起光切り出し部であって、
前記局部発振光の第二高調波を生成する第1の二次非線形光学素子と、
前記同期した複数のサイドバンド光に対して、サイドバンド光毎に位相を調整する位相調整器と、
前記位相を調整されたサイドバンド光をパラメトリック増幅する第2の二次非線形光学素子と、
前記第二高調波の位相および前記第2の二次非線形光学素子によって増幅される1つのサイドバンド光の位相を同期させる手段と、
前記1つのサイドバンド光のみを抽出する光フィルタと
を備えた励起光切り出し部と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記位相調整器は、
前記1つのサイドバンド光に対して、前記第2の二次非線形光学素子において増幅動作となるように、前記第二高調波との間の位相を設定し、
前記1つのサイドバンド光を除いた他のサイドバンド光および前記局部発振光に対して、前記第2の二次非線形光学素子において減衰動作となるように、前記第二高調波との間の位相を設定するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光位相同期部は、
前記信号対から、和周波光を生成する第3の二次非線形光学素子と、
前記局部発振光を変調して、前記複数のサイドバンド光を生じる変調器と、
前記変調器からの前記サイドバンド光の第二高調波を生成する第4の二次非線形光学素子と、
前記複数のサイドバンド光の内の前記1つのサイドバンド光と、前記和周波光との位相差を検出し、前記位相差に応じて、前記変調器へフィードバックする位相同期手段と、
前記変調器の前段側で、前記局部発振光を分岐する第1の分岐器と、
前記変調器の後段側で、同期した前記複数のサイドバンド光を分岐する第2の分岐器と
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記1つのサイドバンド光は、前記局部発振光の高周波側の1次サイドバンド光であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記二次非線形光学素子に含まれる光導波路は、直接接合リッジ導波路であって、
前記直接接合リッジ導波路は、LiNbO、KNbO、LiTaO、LiNb(x)Ta(1-x)(0≦x≦1)、またはKTiOPOのいずれかの材料、または、
これらの材料のいずれかにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として加えた材料から構成されることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の装置と、
前記励起光切り出し部によって生成された前記励起光から第二高調波を生成する第5の二次非線形光学素子と、
前記信号対の非縮退パラメトリック増幅を行う第6の二次非線形光学素子と、
前記信号対の位相と、前記励起光の位相を同期させる位相同期手段と
を含む位相感応増幅器と
を備えたことを特徴とする中継型光増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムや光計測システムにおいて用いられる光増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の光伝送システムでは、光ファイバを伝搬することにより減衰した信号を再生するために、光信号を電気信号に変換し、デジタル信号を識別した後に光信号を再生する識別再生光中継器が用いられていた。しかしながら、この識別再生光中継器では、光信号を電気信号に変換する電子部品の応答速度に制限があることや、伝送する信号のスピードが速くなると、消費電力が大きくなる等の問題があった。
【0003】
この問題を解決するため、光信号を光のままで増幅するレーザ増幅器が登場し、さらに良好な伝送品質が期待できる位相感応光増幅器(Phase Sensitive Amplifier:PSA)が検討されている。このPSAは、信号光波形や位相信号を整形する機能を有する。また、信号とは無関係の直交位相を持った自然放出光を抑圧でき、同相の自然放出光も最小限で済むため、増幅前後で信号光のS/Nを劣化させず同一に保つことが原理的に可能である。
【0004】
図1は、従来のPSAの基本的な構成を示す。図1に示されるように、PSA100は、光パラメトリック増幅を用いた位相感応光増幅部101と励起光源102と励起光位相制御部103と、第1及び第2の光分岐部104-1及び104-2とを備える。図1に示されるように、PSA100に入力された信号光110は、光分岐部104-1で2分岐されて、一方は位相感応光増幅部101に入射し、他方は励起光源102に入射する。励起光源102から出射した励起光111は、励起光位相制御部103を介して位相が調整されて、位相感応光増幅部101に入射する。位相感応増幅部101は、入力した信号光110及び励起光111に基づいて出力信号光112を出力する。
【0005】
位相感応光増幅部101は、入射した信号光110の位相と励起光111の位相とが一致すると信号光110を増幅し、両者の位相が90度ずれた直交位相関係になると、信号光110を減衰する特性を有している。この特性を利用して増幅利得が最大となるように励起光111―信号光110間の位相を一致させると、信号光110と直交位相の自然放出光が発生しない。また同相の成分に関しても信号光のもつ雑音以上に過剰な自然放出光を発生しないため、つまりS/N比を劣化させずに信号光110の増幅が可能になる。
【0006】
このような信号光110および励起光111の位相同期を達成するため、励起光位相制御部103は、第1の光分岐部104-1で分岐された信号光110の位相と同期するように励起光111の位相を制御する。加えて、励起光位相制御部103は第2の光分岐部104-2で分岐された出力信号光112の一部を狭帯域の検出器で検波し、出力信号光112の増幅利得が最大となるように励起光111の位相を制御する。その結果、位相感応光増幅部102では、上記の原理によってS/N比の劣化のない光増幅が実現される。
【0007】
なお、励起光位相制御部103は、励起光源102の出力側で励起光111の位相を制御する構成の他に、励起光源102の位相を直接制御する構成としても良い。また信号光110を発生する光源が位相感応光増幅部101の近くに配置されている場合は、信号光用光源の一部を分岐して励起光として用いることもできる。
【0008】
上述のパラメトリック増幅を行う非線形光学媒質としては周期分極反転LiNbO(PPLN)導波路に代表される二次非線形光学材料を用いる方法と、石英ガラスファイバに代表される三次非線形光学材料を用いる方法がある。
【0009】
図2は、非特許文献1等に開示されているPPLN導波路を用いた従来技術のPSAの構成を例示する。図2に示されるPSA200は、エルビウム添加ファイバレーザ増幅器(EDFA)201と、第1及び第2の二次非線形光学素子202、204と、第1及び第2の光分岐部203-1、203-2と、位相変調器205と、PZTによる光ファイバ伸長器206と、偏波保持ファイバ207と、光検出器208と、位相同期ループ(PLL)回路209と、を備える。第1の二次非線形光学素子202は、第1の空間光学系211と、第1のPPLN導波路212と、第2の空間光学系213と、第1のダイクロイックミラー214と、を備え、第2の二次非線形光学素子204は、第3の空間光学系215と、第2のPPLN導波路216と、第4の空間光学系217と、第2のダイクロイックミラー218と、第3のダイクロイックミラー219と、を備える。
【0010】
第1の空間光学系211は、第1の二次非線形素子202の入力ポートから入力された光を第1のPPLN導波路212に結合する。第2の空間光学系213は、第1のPPLN導波路212から出力された光を第1のダイクロイックミラー214を介して第1の二次非線形光学素子202の出力ポートに結合する。第3の空間光学系215は、第2の二次非線形光学素子204の入力ポートから入力された光を第2のダイクロイックミラー218を介して第2のPPLN導波路216に結合する。第4の空間光学系217は、第2のPPLN導波路216から出力された光を第3のダイクロイックミラー219を介して第2の二次非線形光学素子204の出力ポートに結合する。
【0011】
図2に示した例では、PSA200に入射した信号光250は、光分岐部203-1によって分岐されて、一方は第2の二次非線形光学素子204に入射する。他方は励起基本波光251として位相変調器205及び光ファイバ伸長器206を介して位相制御されてEDFA201に入射する。光通信に用いられる微弱なレーザ光から非線形光学効果を得るのに十分なパワーを得るためにEDFA201は、入射した励起基本波光251を増幅し、第1の二次非線形光学素子202に入射する。第1の二次非線形光学素子202では、入射した励起基本波光251から第2高調波(SH光:Second Harmonics)252が発生し、当該発生したSH光252は偏波保持ファイバ207を介して第2の二次非線形光学素子204に入射する。第2の二次非線形光学素子204では、入射した信号光250とSH光252とで縮退パラメトリック増幅を行うことで位相感応増幅を行い、出力信号光253を出力する。
【0012】
PSAにおいては、信号と位相の合った光のみを増幅するために、上述のように信号光の位相と励起光の位相とが一致するか、または、πラジアンだけずれている必要がある。すなわち二次の非線形光学効果を用いる場合は、SH光に相当する波長である励起光の位相φ2ωsと、信号光の位相φωsとが次の(式1)の関係を満たすことが必要となる。ここで、nは整数とする。
【0013】
Δφ=1/2(φ2ωs-φωs)=nπ (式1)
図3は、二次非線形光学効果を利用したPSAにおける、入力信号光‐励起光間の位相差Δφと、利得(dB)との関係を示すグラフである。Δφが-π、0、またはπのときに、利得が最大となっていることがわかる。
【0014】
図2に示した構成においては、信号光250と励起基本波光251とを位相同期させるために、位相変調器205を用いて微弱なパイロット信号により位相変調を励起基本波光251に施した後、出力信号光253の一部を分岐して検出器208で検波する。このパイロット信号成分は、図3に示される位相差Δφが最小の位相同期が取れている状態で最小となる。したがって、パイロット信号が最小、つまり増幅出力信号が最大となるようにPLL回路209を用いて、光ファイバ伸長器206にフィードバックを行う。このようなフィードバック動作により、励起基本波光251の位相を制御して信号光250と励起基本波光251の位相同期を達成することができる。
【0015】
PPLN導波路を非線形媒質として用い、信号光250およびSH光252を第2の二次非線形光学素子204に入射して縮退パラメトリック増幅を行う上述の構成では、例えばダイクロイックミラー214の特性を用いて励起基本波光の成分を取り除く。これにより、SH光252および信号光250のみを第2の二次非線形光学素子204のようなパラメトリック増幅媒質に入射することができる。EDFA201の発生する自然放出光の混入による雑音が防げるので、低雑音な光増幅が可能になる。
【0016】
PSAは強度雑音が少ないだけでなく、位相雑音を低減させる効果を持つことから、光通信における中継増幅器や受信器の前置増幅器として用いると、伝送路の非線形歪等の低減が可能であり、光信号品質の改善に効果的である。非特許文献2は、縮退パラメトリック過程を用いたPSAの中継増幅の構成例を開示している。
【0017】
一方、上述の縮退パラメトリック過程を用いた位相感応増幅は図3に示したように、直交する位相成分を減衰させる特性を有している。このため、通常の強度変調信号や二値の位相変調を用いるIMDD、BPSK、DPSK等の変調信号の増幅に対してのみ用いることができる。また、縮退パラメトリック過程を用いた位相感応増幅は、1波長の信号光のみしか位相感応増幅することができない。PSAを光通信技術に適用するためには、多値変調フォーマット・波長多重信号等、種々の光信号への対応が可能な構成が必要である。非特許文献3は、予め信号光の対となる位相共役光を用意し、PPLN等の非線形媒質への入力光とする非縮退のパラメトリック増幅に基づく構成を開示している。
【0018】
ここで、PSAを光通信に適用する場合のより具体的な位相同期の手法に着目する。図2で示した基本構成のように、PSAが光信号の送信器の直後に配置され、信号光を発生する光源が位相感応光増幅部の近くにある場合、信号光用光源の出力の一部を分岐して励起光として利用できる。しかしながら、光伝送における中継増幅器としてPSAを用いる場合は、光変調が施されている信号光から平均的な位相を抽出し、信号の搬送波位相と同期した励起光を生成する必要がある。PSAを光伝送における中継増幅器として用いる場合は、搬送波位相の抽出方法を含めてPSAを構成することが重要となる。
【0019】
PSAを中継増幅器に適用する構成としては、変調信号のキャリア位相と同じ位相をもつ連続波(CW)のパイロットトーンを利用する構成(非特許文献4)が知られている。信号光とともにパイロットトーンを光ファイバ伝送路に送り出し、中継増幅地点に設置した局部発振光に光注入同期をすることで、信号光と位相同期した局部発振励起光を生成できる。しかいながらこの構成では、信号光と同送するパイロットトーンが信号帯域の一部を占有し、帯域利用効率を落としてしまう問題があった。CW光を同送することでファイバ中の四光波混合による不要な変換光が発生し、信号品質を劣化させる問題もあった。
【0020】
中継増幅器適用への別構成として光位相同期ループ(OPLL:Optical Phase Lock Loop)を用いた構成が提案されている(非特許文献5)。このOPLLの構成ではパイロットトーンを必要とせず、変調された信号光から搬送波位相の抽出を行っているため、帯域利用効率を落とさずにPSAを中継増幅器へ適用できる。
【0021】
図4は、従来技術のOPLLを用いた中継型PSAの構成図である。中継型PSA300は、主な構成要素として、励起光327を生成する局部発振位相同期回路301およびPSA302を含む。信号光304の一部はカプラ306によってタップされ、BPF307およびEDFA308を経て、局部発振位相同期回路301の第1の二次非線形光学素子309に入力される。局部発振光源303からの局部発振光325は、EDFA315を経て、後述するLN位相変調器314に入力される。局部発振位相同期回路301は、タップされた信号光から以下に述べるように、信号光304と位相同期した励起光326を生成するよう動作する。
【0022】
図5は、図4のOPPLの各部における信号光等の光周波数スペクトルを模式的に説明する図である。以下、図4および図5を交互に参照しながら、中継型PSA300の動作を説明する。図4における信号光304は、図5に示したように位相変調を受けた信号光φsおよび位相共役光(アイドラ光)φiの対400からなる。信号光の送信源において、ポンプ光φpumpを使用して信号光φsおよび位相共役光φiの対400が生成されて、信号光304として、光伝送路へ送信される。以下の説明では、φは各信号等の光周波数を示している。
【0023】
図4に戻ると、伝搬してきた信号光304は光カプラ306によってタップされ、BPF307経て、EDFA308によって強度を復元した後、第1の二次非線形光学素子309に入力される。第1の二次非線形光学素子309では、2次の非線形媒質(ここではPPLN)内の和周波発生機構(SFG:Sum Frequency Generation)によって上述の信号光および位相共役光の対400から和周波光320(Sum Frequency:φSF)を生成する。SFG過程による信号光および位相共役光の対から和周波光の生成は、図5においてφSF401として示されている。図5に示したように和周波光の光周波数φSFは、ポンプ光の光周波数φpumpの2倍、すなわち2φpumpとなっている。このとき、信号光φsおよび位相共役光φiのSFG過程により、位相変調成分がキャンセルされ、搬送波位相が再生された和周波光φSF401が生成される。すなわち、第1の二次非線形光学素子309によって、データ変調された信号光304から得られる和周波光φSF401では、送信源において信号光を生成するために使用された搬送波の位相情報が再生される。
【0024】
局部発振器(Lo)303から生成された局部発振光325は、以下さらに述べるOPLLにおいて、搬送波位相が抽出された和周波光φSF401と同期した励起光を生成するために利用される。局部発振光325は、EDFA315で増幅された後、LN変調器314によって例えば位相変調を受ける。図5のスペクトルに示したように、局部発振光φLOには、その光周波数φLOの上下に、変調による複数のサイドバンド光(側波)403、すなわち光周波数φL-1、φL+1、φL-2、φL+2等の成分が生じる。
【0025】
これらのサイドバンド光の内、高周波数側の1次のサイドバンド光φL+1を、第2の二次非線形光学素子310の2次の非線形媒質(PPLN)内における第二高調波発生過程(SHG:Second Harmonic Generation)によって、第二高調波(SH)光に変換する。図5のスペクトルを再び参照すれば、第2の二次非線形光学素子310のSHG過程によって、1次のサイドバンド光φL+1から、そのSH光φSH(=2φL+1)402が生成される。上述の搬送波位相の情報を有する和周波光φSF401と、SH光φSH402とが同じ光周波数を持つように、局部発振光325の光周波数およびLN変調器314の変調周波数が選択される。
【0026】
バランスドディテクタ311によって、上述の和周波光φSF401およびSH光φSH402の間で、周波数および位相が比較される。バランスドディテクタ311からは、周波数および位相差に応じた交流の検波出力322が得られ、さらにループフィルタ312によって低速の誤差信号323が得られる。誤差信号323は、VCO313の制御信号として入力される。VCO313からの発振出力324は、上述のLN変調器314へ、サイドバンド光を生成させるための変調信号として供給される。このように、LN変調器314、バランスドディテクタ311、ループフィルタ312、VCO313の経路によって、OPPLのフィードバックループが形成される。和周波光φSF401およびSH光φSH402の間の周波数差、位相差を解消するようにVCO313の出力周波数が調整され、1次のサイドバンド光φL+1の光周波数および位相が変化する。結果として、和周波光φSF401の光周波数および位相と同期した1次のサイドバンド光φL+1が得られる。
【0027】
位相同期した1次のサイドバンド光φL+1を含む変調された局部発振光は、LN変調器314の出力側で分岐され、分岐光326から、BPF316によって図5に示したように1次のサイドバンド光φL+1のみが切り出される。位相同期したサイドバンド光φL+1は、EDFA317によって強度を回復されて、位相同期した励起光327として、PSA302に供給される。
【0028】
上述の局部発振位相同期回路301の動作は、次のように要約できる。第1に、第1の二次非線形光学素子309のSFG過程によって、和周波光φSF401において信号光304の平均位相が抽出される。第2に、和周波光φSF401と、局部発振光325の1次のサイドバンド光φL+1から生成したSH光φSHとの位相差に基づいた誤差信号323を生成する。第3に、誤差信号323によってVCO313を制御して、1次のサイドバンド光φL+1の光周波数を制御し、和周波光φSF401と位相同期させる。第4に、位相同期した1次のサイドバンド光φL+1のみをBPF316で切り出して、強度を回復してPSAの励起光を生成する。
【0029】
上述のようにOPLLによって得られた励起光を利用することで、PSA302を中継増幅器に適用できる。上述の1次のサイドバンド光φL+1の切り出しの精度が十分でない場合、本来不要な基本波光φL0や2次のサイドバンド光φL+2が発生する高調波励起光成分が、PSA302における信号光増幅時に雑音となって重畳してしまう。このため、OPLLにおける一次のサイドバンド光は、隣接する不要な基本波φLOおよびサイドバンド光のレベルを十分に減衰させて、十分なレベル差(コントラスト)で切り出す必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0030】
【文献】T. Umeki, O. Tadanaga, A. Takada and M. Asobe, "Phase sensitive degenerate parametric amplification using directly-bonded PPLN ridge waveguides," Optics Express, 2011, Vol.19, No.7, p.6326-6332
【文献】Takeshi Umeki, Masaki Asobe, and Hirokazu Takenouchi,“In-line phase sensitive amplifier based on PPLN waveguides,” Optics Express, May 2013, Vol.21, No.10, p.12077-12084
【文献】M. Asobe, T. Umeki, H. Takenouchi, and Y. Miyamoto,“In-line phase-sensitive amplifier for QPSK signal using multiple QPM LiNbO3 waveguide,” In Proceedings of the OptoElectronics and Communications Conference, OECC, 2013, PDP paper PD2-3
【文献】M. Abe, T. Kazama, T. Umeki, K. Enbutsu, Y. Miyamoto, and H. Takenouchi, “PDM-QPSK WDM Signal amplification using PPLN-based polarization-independent in-line phase-sensitive amplifier,”in Proc. 42nd European Conference on Optical Communication (ECOC’16), 2016, paper W.4.P1.SC2.4
【文献】Y. Okamura et al., “Optical pump phase locking to a carrier wave extracted from phase-conjugated twin waves for phase-sensitive optical amplifier repeaters,” 2016年, Opt. Exp., vol. 24, no. 23, pp. 26300-26306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
しかしながら、図4に示したOPLLにより励起光を生成して中継増幅器としてPSAを動作させる従来技術の構成では、以下に述べるような問題点があった。図4のPSAにおいて低雑音性を担保するためには、信号光に対してSN比の良い励起光327が要求される。励起光327のSN比が悪かったり、励起光のレベルに不安定性があったりすると、増幅された信号光の品質が低下する。一例を挙げれば、励起光のパワー変動は、PSAの利得に直接影響を与える。
【0032】
図6は、PSAにおける励起光強度と利得との関係を示す図である。横軸に励起光強度を、縦軸にPSAの利得を示している。PSAの増幅利得は次式のように記述され、励起光の強度によって増幅利得が決まる。
PSA=(exp(ηP))1/2 (式2)
【0033】
上式において、GPSAはPSAの利得、ηはPPLNの効率、Pは励起光強度である。増幅に用いる励起光が雑音成分を持っている場合、励起光と雑音光の間のビートにより励起光強度に揺らぎが発生する。図6に模式的に示したように、PSAの増幅利得は励起光の強度によるため、励起光強度に揺らぎがあると増幅された出力光にも揺らぎが移ってしまう。(式2)から明らかなように、増幅利得GPSAは励起光強度Pに対して指数関数状に増加するため、増幅利得GPSAが大きいほど出力光の揺らぎが増大されてしまう。このため、励起光のSN比が十分に確保できていないと、PSA本来の低雑音性を活かすことができない。より正確に言えば、増幅したい信号光のSN比に対して励起光のSN比が十分に良くないと低雑音増幅ができない。したがって、信号光の低雑音な光増幅のためには、励起光のSN比を十分に小さく抑えて、励起光の品質を維持しなければならない。
【0034】
光感応増幅において理想的には、図2に示した基本構成のように、光源から出力された光250をそのまま励起光として用いることが望ましい。しかしながら図4に示したようなOPLLによって励起光を生成する構成では、LN変調器314を通過後のサイドバンド光を励起光として用いている。このために、変調によって生じる大きな光損失だけでなく、変調器そのものの挿入損失や、サイドバンド光を切り出すためのフィルタによる損失によって、励起光のレベルは低下する(Sの減少)。さらには、励起光のレベルを回復するためのEDFA317による過剰雑音の累積が生じる(Nの増加)。これらの影響により、PSA302に供給される位相同期した励起光327のSN比を十分に高く保つことができなかった。結果として、このようなSN比が低下した励起光を用いても、SN比が良く信号品質の良い信号光に対しては、励起光が低品質であるがために低雑音な増幅ができない問題があった。
【0035】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであって、中継型PSAにおいてSN比の高い励起光を生成する構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本開示の1つの実施態様は、信号光および当該信号光のアイドラ光の信号対を増幅する光位相感応増幅器のための励起光を発生する装置であって、局部発振光を変調して生じた複数のサイドバンド光に対して、光位相同期ループ(OPLL)によって前記信号対の位相に同期した複数のサイドバンド光を生成する光位相同期部(501)と、前記同期した複数のサイドバンド光の内の1つのサイドバンド光を励起光として抽出する励起光切り出し部(600)であって、前記局部発振光の第二高調波(610)を生成する第1の二次非線形光学素子(602)と、前記同期した複数のサイドバンド光に対して、サイドバンド光毎に位相を調整する位相調整器(606)と、前記位相を調整されたサイドバンド光をパラメトリック増幅する第2の二次非線形光学素子(603)と、前記第二高調波の位相および前記第2の二次非線形光学素子によって増幅される1つのサイドバンド光の位相を同期させる手段(604、605)と、前記1つのサイドバンド光のみを抽出する光フィルタとを備えた励起光切り出し部とを備えたことを特徴とする装置である。
【0037】
好ましくは、前記位相調整器は、前記1つのサイドバンド光に対して、前記第2の二次非線形光学素子において増幅動作となるように、前記第二高調波との間の位相を設定し、前記1つのサイドバンド光を除いた他のサイドバンド光および前記局部発振光に対して、前記第2の二次非線形光学素子において減衰動作となるように、前記第二高調波との間の位相を設定するよう構成される。
【0038】
前記光位相同期部(501)は、前記信号対から、和周波光を生成する第3の二次非線形光学素子(509)と、前記局部発振光を変調して、前記複数のサイドバンド光を生じる変調器(514)と、前記変調器からの前記サイドバンド光の第二高調波を生成する第4の二次非線形光学素子(510)と、前記複数のサイドバンド光の内の前記1つのサイドバンド光と、前記和周波光との位相差を検出し、前記位相差に応じて、前記変調器へフィードバックする位相同期手段(511、512、513)と、前記変調器の前段側で、前記局部発振光を分岐する第1の分岐器(516)と、前記変調器の後段側で、同期した前記複数のサイドバンド光を分岐する第2の分岐器(517)とを含むことができる。
【0039】
前記1つのサイドバンド光は、前記局部発振光の高周波側の1次サイドバンド光であり得る。また、低周波側の1次サイドバンド光、さらに、2次のサイドバンド光でも良い。
【0040】
好ましくは、前記二次非線形光学素子に含まれる光導波路は、直接接合リッジ導波路であって、前記直接接合リッジ導波路は、LiNbO、KNbO、LiTaO、LiNb(x)Ta(1-x)(0≦x≦1)、またはKTiOPOのいずれかの材料、または、これらの材料のいずれかにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として加えた材料から構成されることができる。
【0041】
本開示の別の実施態様は、前記励起光切り出し部によって生成された前記励起光から第二高調波を生成する第5の二次非線形光学素子と、前記信号対の非縮退パラメトリック増幅を行う第6の二次非線形光学素子と、前記信号対の位相と、前記励起光の位相を同期させる位相同期手段とを含む位相感応増幅器とを備えたことを特徴とする中継型光増幅装置であり得る。
【発明の効果】
【0042】
中継型PSAにおいてSN比の高い励起光を生成する構成を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】従来技術の位相感応光増幅器の構成の説明図である。
図2】二次非線形光学効果を利用した位相感応光増幅器の構成図である。
図3】入力信号光-励起光間の位相差Δφと利得との関係を示すグラフである。
図4】従来技術の光位相同期ループを用いた中継型PSAの構成図である。
図5】OPPL各部における信号光等のスペクトルを模式的に説明する図である。
図6】励起光強度とPSA利得の関係を示す図である。
図7】本開示に係るOPLLを利用した光増幅装置の構成を示す図である。
図8】励起光生成装置における各サイドバンド光への作用を説明する図である。
図9】PPLN導波路モジュールにおける利得飽和特性を説明する図である。
図10】入力信号光のSN比と中継型PSAの雑音指数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下の説明においては、SN比の良好な励起光をPSAに提供する励起光生成装置の構成が開示される。さらに、励起光生成装置を含むPSAの中継増幅器の構成も示される。以下の開示には、励起光生成装置、および、励起光生成装置を含む光増幅装置、光伝送システムを含む。より具体的には、OPLLを用いて生成された励起光に対して、光感応増幅機能を利用して、励起光のSN比を高い状態に保つ励起光生成装置が開示される。この励起光生成装置から供給される低雑音な励起光を使用した、中継型PSAとしての動作が開示される。
【0045】
図7は、本開示に係るOPLLを利用した光増幅装置500の構成を示す図である。光増幅装置500は、主な構成要素として、PSA502、OPLLによって信号光に同期した励起光を生成する光位相同期部501、および、励起光切り出し部600を備える。PSA502および光位相同期部501の構成および動作は、図4に示した従来技術の構成と概ね同じである。励起光切り出し部600は、光位相同期部501から得られるOPLLによって位相同期した励起光を高いSN比に保ち、低雑音の励起光をPSA501へ供給する。励起光切り出し部600は、PSAの機能およびバンドパスフィルタの機能を有し、図4におけるBPF316が励起光切り出し部600によって置き換えられる。光位相同期部501および励起光切り出し部600は、励起光生成装置として動作することになる。
【0046】
以下、図7を参照しながら光増幅装置500の各構成要素の構成および動作を説明する。上述のように光位相同期部501の構成は、図4の従来技術のOPLL構成における局部発振位相同期回路301の構成と概ね同一であり、相違点について詳述する。信号光504は、光カプラ506によってタップされ、BPF507、EDFA508を経て、第3の二次非線形光学素子(PPLN-3)509に入力される。局部発振光源503からの局部発振光525は、EDFA515を経由して、LN変調器514に入力される。LN変調器の変調された励起光は、第4の二次非線形光学素子(PPLN-4)510に入力される。
【0047】
ここで、LN変調器514の前後には、光カプラ516、517を備えている点で、図4の構成と相違する。前段の光カプラ516は、局部発振光すなわち励起光の0次成分を分岐して、0次成分光526を励起光切り出し部600へ供給する。後段の光カプラ517は、1次のサイドバンド光を含む変調を受けた局部発振光を分岐して、変調された局部発振光527を励起光切り出し部600へ供給する。これらの分岐された信号は、さらに励起光切り出し部600の動作とともに後述する。
【0048】
バランスドディテクタ511からは検波出力522が得られ、さらに検波出力522からループフィルタ512によって低速の誤差信号523が得られる。誤差信号523は、VCO513の制御信号として入力される。VCO513からの発振出力524は、上述のLN変調器514へ、サイドバンド信号を生成させるための変調信号として供給される。OPLLの動作は、図4の場合と同じであり、説明は省略する。
【0049】
励起光切り出し部600は、第1の二次非線形光学素子(PPLN-1)602および第2の二次非線形光学素子(PPLN-2)604を備えている。いずれも例えばPPLN導波路モジュールであって、後述するように光位相同期部501からの1次サイドバンド光による励起光のSN比を維持するように動作する。前述のLN変調器514前段で分岐された0次成分光526は、EDFA601およびBPF614を経て、SHG過程によりSH帯の励起光を生成する第1の二次非線形光学素子(PPLN-1)602に入力される。第1の二次非線形光学素子602では、SHG過程によって、0次成分光526のSH光610が生成される。
【0050】
前述のLN変調器514の後段で分岐された変調された局部発振光527は、ピエゾ型光ファイバ伸長器(PZT)605、位相調整器606を経由して、第2の二次非線形光学素子(PPLN-2)603に入力される。第2の二次非線形光学素子603は、光パラメトリック増幅過程(OPA:Optical Parametric Amplifier)によって、位相調整された1次のサイドバンド光611を位相感応増幅動作する。増幅された1次のサイドバンド光612は、BPF608によって、1次のサイドバンド光のみが切り出されて、励起光としてEDFA518に入力される。
【0051】
増幅された1次のサイドバンド光612は、光カプラ607によって分岐され、光検出器609によって検波信号が得られる。検波信号は、位相同期回路(PLL)604にフィードバックされる。光感応増幅された出力を検波する光検出器609、PLL604、PZT605の経路は、図2で説明した位相同期回路の構成と同一である。
【0052】
励起光切り出し部600は、LN変調器514の前段で分岐した励起光の0次成分光526すなわち励起光のキャリア成分を、第2の二次非線形光学素子603によるパラメトリック増幅の励起光として用いている。これによって、LN変調器514の後段で分岐した変調された局部発振光527のすべての成分を一括で位相感応増幅することが可能である。すなわち第2の二次非線形光学素子603において、局部発振光527の0次成分に対する縮退位相感応増幅および局部発振光527の0次以外の成分に対する非縮退位相感応増幅を同時に利用している。最終的に励起光613として使用される1次のサイドバンド光は、LN変調器514により得られたものではあるが、第2の二次非線形光学素子603におけるパラメトリック増幅動作によってSN比劣化を最低限に抑えた状態で、PAS502に供給される。
【0053】
上述のように本開示の励起光生成装置においては、光位相同期部501および励起光切り出し部600で、4つの二次非線形光学素子(PPLN導波路モジュール)を用いている。これらの内、第3の二次非線形光学素子509(PPLN-3)、第4の二次非線形光学素子510(PPLN-4)、第1の二次非線形光学素子602(PPLN-1)は、SH光発生に用いられる。第2の二次非線形光学素子603(PPLN-2)のみがパラメトリック増幅に用いられる。SH光発生のための3つの二次非線形光学素子(PPLN-1、PPLN-3、PPLN-4)はそれぞれ、PPLN導波路、および、その前後に第1の空間光学系および第2の空間光学系を備えている。第1の空間光学系はPPLN導波路モジュールに入力された光をPPLN導波路に結合し、第2の空間光学系はPPLN導波路から出力された光をPPLN導波路モジュールの出力ポートに結合する。
【0054】
パラメトリック増幅のための二次非線形光学素子(PPLN-2)は、PPLN導波路、および、その一方に第3の空間光学系と第1のダイクロイックミラー、他方に第4の空間光学系と第2のダイクロイックミラーを備える。第3の空間光学系はPPLN導波路モジュールに入力された光を第1のダイクロイックミラーを介してPPLN導波路に結合し、第4の空間光学系はPPLN導波路から出力された光を第2のダイクロイックミラーを介してPPLN導波路モジュールの出力ポートに結合する。
【0055】
本開示の励起光生成装置で用いたPPLN導波路の作製方法を以下に例示的に説明する。まず、Znを添加したLiNbO上に周期が約17μmの周期的な電極を形成した。次に、電界印加法により電極パターンに応じた分極反転グレーティングをZn:LiNbO中に形成した。次に、この周期分極反転構造を有するZn:LiNbO基板をクラッドとなるLiTaO上に直接接合を行い、500℃の熱処理によって両基板を強固に接合した。次に、コア層を研磨により5μm程度まで薄膜化し、ドライエッチングプロセスを用いてリッジ型の光導波路を形成した。この光導波路はペルチェ素子により温度調整が可能であり、光導波路の長さは、50mmとした。このようにして形成されたPPLN導波路を有する二次非線形光学素子は、1.5μm帯の偏波保持ファイバで光の入出力が可能なモジュールの形態として構成した。本開示では、Znを添加したLiNbOを用いたが、それ以外の非線形材料であるKNbO、LiTaO、LiNbTa1-x(0≦x≦1)もしくはKTiOPO、またはそれらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している材料を用いても良い。
【0056】
次に、図7に示した励起光生成装置を含む光増幅装置500の動作について、さらに詳細に説明する。光位相同期部501については、図4に示した従来技術のOPLL構成における局部発振位相同期回路301の動作と同じである。具体的な動作条件を述べれば、LN変調器514に対して約20GHzのSin波状の電気信号によって局部発振光525の変調を行った。すなわちVCO513は、入力誤差電圧(VCO制御電圧)523の中央値近辺で、約20GHzの電気信号524を出力する。
【0057】
LN変調器514は、LiNbO結晶のポッケルス効果による屈折率変化を利用した光変調器であり、DFBレーザなどのCW光を変調する外部変調器として広く使用されている。本開示ではLN変調器514として強度変調器を用いているが、位相変調器を用いても良い。光増幅装置500の各部の光周波数の一例を挙げれば、データ変調を受けた信号光の光周波数は193.1THz、アイドラ光の光周波数は192.9THz、局部発振光の光周波数は193THzであり得る。
【0058】
図4に示した従来技術の構成では、位相同期した励起光として1次のサイドバンド光φL+1をBPF316によって切り出して利用していた。変調後に得られる各サイドバンド光の強度は、変調器損失のために低下していた。さらに、サイドバンド光のうちの1次のサイドバンド光φL+1のみを励起光として用いるために、フィルタ316により切り出していた。十分な不要光の減衰を得るためには、サイドバンド光φL+1を含む透過域の損失が大きくなり、励起光の強度が低下していた。励起光の強度の補償のためにEDFA17で増幅をしていたため、最終的な励起光327のSN比を大きく劣化させていた。
【0059】
これとは対照的に、図7の本開示の励起光生成装置の構成では、LN変調器304を介した生成された励起光(1次のサイドバンド光)を、励起光切り出し部600の第2の二次非線形光学素子603により位相感応増幅することで過剰なSN比劣化を回避できる。LN変調器514の前段側から、局部発振光、すなわち励起光のキャリア成分である0次成分光を分岐して、分岐された0次成分光526をパラメトリック増幅の励起光として用いる。これによって、LN変調器514の後段側から分岐された、変調された局部発振光527のすべての成分を一括で位相感応増幅している。励起光を第2の二次非線形光学素子603によって位相感応増幅することの意義は、2つある。
【0060】
第1の意義は、位相感応増幅の増幅動作および減衰動作を利用することで、二次非線形光学素子604にアンプおよびフィルタの両方の機能を担わせることができる点である。LN変調器314を介して生成されるサイドバンド光では、例えば図5を参照すれば、φL-1およびφL+1、φL-2およびL+2などの対となるサイドバンド光同士が位相同期している。このために、キャリア成分およびサイドバンド成分ともに位相感応増幅が可能である。ここで、図7の励起光生成装置では、位相感応増幅を実施する第2の二次非線形光学素子603(PPLN-2)の前段側に位相調整器606を備えている。
【0061】
図8は、本開示の励起光生成装置における各サイドバンド光に対する作用を模式的に説明する図である。図8の(a)は、励起光切り出し部600の位相調整器606の直前における、変調された励起光のスペクトルを示している。0と表示された励起光の基本波成分が最大レベルを持ち、その両側に一次のサイドバンド光(+1、-1)、二次のサイドバンド光(+2、-2)が存在している。尚、カッコ内の数字は、サイドバンドの次数を示している。ここで、位相調整器606によって、一次のサイドバンド光(+1、-1)については、第2の二次非線形光学素子603における利得が最大となるように、励起光であるSH光610との関係で位相を調整する。図3のPSAにおける利得および位相の関係を参照されたい。一方で、基本波成分および二次のサイドバンド光(+2、-2)については、第2の二次非線形光学素子603における利得最小、すなわち減衰最大となるように、SH光610との関係で位相を調整する。
【0062】
位相調整器606は、様々なものを利用できるが、一例を挙げれば、LCOS(Liquid crystal on silicon)を用いた波長選択性のあるフィルタを利用できる。LCOSによるフィルタでは、波長ごとに減衰量と位相回転量の調整ができる。他に、位相調整器として波長合分波器と位相変調器を組み合わせたものも利用できる。
【0063】
図8の(b)は、第2の二次非線形光学素子603の出力におけるスペクトルを示している。本開示では、1次のサイドバンド光を中継増幅用のPSA502の励起光として利用するので、励起光切り出し部600では、1次のサイドバンド光(+1、-1)のみを増幅動作させ、励起光として切り出す。第2の二次非線形光学素子603によって切り出したいサイドバンド光のみを増幅動作させ、残りのサイドバンド光等を減衰動作させるように、位相調整器606を用いて、変調された局部発振光527のサイドバンド光の成分毎に位相調整する。これによって、過剰な光損失を生じることなく、所望のサイドバンド光と他の成分との間で強度差を大きく取ることができる。
【0064】
具体的には、第2の二次非線形光学素子603による位相感応増幅の増幅利得は20dBであり、一方で減衰動作時は第2の二次非線形光学素子603で-15dBの減衰が得られる。したがって、所望の1次のサイドバンド光と、不要な他のサイドバンド成分との間で約35dB以上の強度差(コントラスト)を取ることができた。光パワーのコントラストをさらに大きくとるため、第2の二次非線形光学素子603の後段にバンドパスフィルタ608を設置した。この結果、図8の(c)に示したように励起光切り出し部600の全体で、所望の励起光の光強度と不要なサイドバンド成分光強度とのレベル差は50dBであった。
【0065】
励起光を二次非線形光学素子によって位相感応増幅する第2の意義は、パラメトリック増幅の利得飽和現象を利用できる点である。パラメトリック増幅においては、増幅するためのエネルギー源となる励起光の光強度以上の増幅出力は得られない。このため、増幅したい光が励起光の光強度に近づくと利得飽和が発生する。
【0066】
図9は、PPLN導波路モジュールにおける利得飽和特性を説明する図である。図7における第2の二次非線形光学素子603について、位相整合状態における光周波数193.1THzの光に対する入出力特性を示している。増幅する光の入力パワーが0dBm付近で、出力パワーの増加が止まり、利得が飽和している。利得飽和領域では、入力光パワーに対して、出力される光パワーが一定となるため、図6において説明したポンプ光の時間揺らぎを大幅に減らすことができる。一般にレーザ光出力の時間変動は、強度雑音としても知られている。図7の励起光切り出し部600において、利得飽和領域で1次のサイドバンド光を増幅することで、強度雑音が圧縮され、第2の二次非線形光学素子出力における増幅された1次のサイドバンド光612のSN比、すなわち励起光のSN比を改善する。すなわち、利得飽和領域では、入力光パワーに対して、出力される光パワーが一定となるため、強度揺らぎが圧縮されて励起光の品質を改善する。この利得飽和領域を用いるため、第2の二次非線形光学素子603へ入力させる励起光のパワーが0dBm以上となるように、局部発振光源503の直後のEDFA515にて局部発振光の出力パワーを調整している。
【0067】
以上述べたように、励起光を二次非線形光学素子によって位相感応増幅する励起光切り出し部600は、位相感応増幅の増幅動作および減衰動作の2つの作用を利用することで、過剰な損失なく励起光の1次のサイドバンド光を切り出すことができる。変調器514による強度の低下(Sの低下)やEDFAによる雑音増加(Nの上昇)で生じる励起光のSN比を抑えることができる。さらに、位相感応増幅の得飽和領域を用いることで、励起光強度の時間変動を圧縮し、励起光のSN比および品質を改善することができる。
【0068】
励起光切り出し部600において、第2の二次非線形光学素子603による位相感応増幅動作を安定化させるために、第2の二次非線形光学素子603の後段側に光カプラ607を設置し、一部の出力光を取り出す。第2の二次非線形光学素子のパラメトリック増幅の観点からは、SH光610が励起光であり、位相調整された1次のサイドバンド光611が増幅の対象となる光となる。光検出器609により光強度の変化を検出して、PLL回路604を用いて、励起光であるSH光610の位相と、増幅対象である1次のサイドバンド光611の位相とが同期するようにPZT605にフィードバックを掛けた。
【0069】
図10は、入力信号光のSN比と、中継型PSAの雑音指数の関係を示す図である。図4に示した従来技術の構成による励起光をPSAに供給した場合を〇(白丸)、図7に示した本開示の励起光生成装置によって励起光をPSAに供給した場合を●(黒丸)で示す。横軸には、入力信号光304、504のSN比を示し、横軸は中継型SAE302、502の雑音指数を示した。従来構成の構成で中継型PSAに励起光を供給した場合は、入力信号光のSN比が30dBを越える辺りで、雑音指数が次第に劣化していくことがわかる。中継型PSAへの入力信号光の品質が向上しているにもかかわらず、PSAにおいて雑音が生じていることを意味している。これは、信号光のSN比と比較して励起光のSN比が十分に良くない結果である。言い換えれば、PASを動作させるための励起光のSN比が増幅する信号光のSN比よりも常に良い状態でないと、PSAの低雑音性の特徴が十分に得られないことを意味している。
【0070】
一方、本開示の励起光生成装置によって励起光をPSAに供給した場合は、入力信号光のSN比が38dBに至るまで、SN比の値の如何にかかわらず、雑音指数は1dB余りの一定値を維持している。入力信号光の品質が良い場合も、その品質を維持したままで光感応増幅が可能となり、PSAを中継増幅器として使用する場合の雑音特性を大幅に改善していることが確認できる。
【0071】
上述の開示においては、LN変調器において励起光を生成するために局部発振光の高周波数側の1次のサイドバンド光を利用する例について説明してきた。これは1次のサイドバンド光の発生強度が大きく、扱いやすいからである。しかしながら、サイドバンド光として、低周波数側の1次のサイドバンド光を利用することもできるし、2次以上のサイドバンド光を利用することもできる。また、OPLLにおけるLN変調器に変調信号を供給するVCOの中心発振周波数を20GHzとしたが、これに限られない。
【0072】
以上、詳細に述べてきたように、本開示の励起光生成装置によって、OPLLを用いたSN比の十分に高い局部発振励起光を生成することで、中継型PSAにおいて、SN比の高い信号光に対してもPSA本来の低雑音動作が可能となる。本開示の励起光生成装置により大容量光伝送に必要なSN比の向上のキーとなるPSAの適用領域を拡げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、通信に利用できる。より具体的には光通信システムに利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10