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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20221207BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20221207BHJP
   H01F 10/30 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C23C14/34 A
G11B5/851
H01F10/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018069386
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178401
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-10-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名 :IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS、第54巻、第2号 発行年月日:平成30年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】キム コング
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
(72)【発明者】
【氏名】青野 雅広
(72)【発明者】
【氏名】石橋 毅之
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 健志
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 伸
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0300994(US,A1)
【文献】国際公開第2014/097911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
G11B 5/851
H01F 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属および酸化物を含有するスパッタリングターゲットであって、
含有する前記金属は、その全体を単一の金属にしたとき、hcp構造を含む非磁性金属となり、該非磁性金属に含まれる前記hcp構造の格子定数aは2.59Å以上2.72Å以下であり、
また、含有する前記金属には、該金属の全体に対して金属Ruが4at%以上含まれており、
また、前記酸化物を前記スパッタリングターゲットの全体に対して20vol%以上50vol%以下含有し、含有する前記酸化物の融点は1700℃以上であり、
さらに、硬さが、ビッカース硬さHV10で926以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
さらに、Nb、Ta、W、Ti、Pt、Mo、V、Mn、Fe、Niのうちの少なくとも1種の金属を、合計で、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属全体に対して0at%よりも多く31at%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
さらに、CoおよびCrのうちの少なくとも1種の金属を、合計で、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属全体に対して0at%よりも多く55at%未満含有することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
さらに、金属Co、金属Crおよび金属Ptのうちの2種以上を含有してなり、
当該スパッタリングターゲットに含まれる金属全体に対して、金属Ruを20at%以上100at%未満含有し、金属Coを0at%以上55at%未満含有し、金属Crを0at%以上55at%未満含有し、金属Ptを0at%以上31at%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記酸化物は、Si、Ta、Co、Mn、Ti、Cr、Mg、Al、Y、Zr、Hfの酸化物のうちの1種以上の酸化物であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
Ru下地層と磁気記録層との間のバッファ層の作製に用いることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットに関し、詳細には、基板と磁気記録層との間のバッファ層の作製に好適に用いることができるスパッタリングターゲットに関する。なお、本願において、バッファ層とは、磁気記録媒体において、Ru下地層と磁気記録層との間に設ける層のことである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクの磁気記録媒体として用いるグラニュラ膜において記録密度を増大させるためには、下地層の厚さの低減およびグラニュラ膜の保磁力の増大が必須である。
【0003】
グラニュラ膜の保磁力を大きくするためには、グラニュラ膜における磁性結晶粒の結晶磁気異方性エネルギー定数(Ku)を大きくする必要がある。CoPt合金結晶粒を磁性結晶粒として用いたグラニュラ膜における粒界材料として、現在までに、種々の酸化物が検討されてきており、その結果、450℃という低融点のB23を粒界材料として用いることが、グラニュラ膜の高保磁力化に有効であることが判明している(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、CoPt-B23をRu下地層の上に積層させてグラニュラ膜を形成した場合、形成したグラニュラ膜中において隣接するCoPt磁性結晶粒同士のB23による分離がCoPt磁性結晶粒の形成の初期段階において不十分になっており、隣接するCoPt磁性結晶粒同士が磁気的に結合し、保磁力が低下してしまうことが判明している(非特許文献2)。
【0005】
これに対して、本発明者は、Ru下地層と磁気記録層との間にバッファ層を設けることを非特許文献3で提案しているが、磁気記録媒体のバッファ層として適する組成等は明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】K. K. Tham et al., Japanese Journal of Applied Physics, 55, 07MC06 (2016)
【文献】R. Kushibiki et al., IEEE Transactions on Magnetics, VOL.53, No.11, 3200604, November 2017
【文献】K. K. Tham et al., IEEE Transactions on Magnetics, VOL.54, No.2, 3200404, February 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、磁気記録層グラニュラ膜をRu下地層の上方に積層させる場合において、磁気記録層グラニュラ膜中の磁性結晶粒同士を良好に分離させることを可能にするバッファ層の形成に用いることができるスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のスパッタリングターゲットにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲットは、金属および酸化物を含有するスパッタリングターゲットであって、含有する前記金属は、その全体を単一の金属にしたとき、hcp構造を含む非磁性金属となり、該非磁性金属に含まれる前記hcp構造の格子定数aは2.59Å以上2.72Å以下であり、また、含有する前記金属には、該金属の全体に対して金属Ruが4at%以上含まれており、また、前記酸化物を前記スパッタリングターゲットの全体に対して20vol%以上50vol%以下含有し、含有する前記酸化物の融点は1700℃以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【0010】
ここで、「その全体を単一の金属にしたとき」の金属は、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属が1種類のときは、その1種類の金属のことであり、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属が2種類以上のときは、その2種類以上の金属からなる合金のことである。以下、本願における他の箇所の同様の記載においても同様に解釈するものとする。
【0011】
また、格子定数aとは、X線回折法によって測定した、hcp構造における最近接原子間距離のことであり、本願における他の箇所の同様の記載においても同様に解釈するものとする。
【0012】
また、「含有する前記酸化物の融点」は、含有する前記酸化物が複数種である場合は、含有する前記酸化物の種類ごとの融点について当該酸化物の含有割合(含有する前記酸化物の全体に対する体積比)の加重平均で計算する。以下、本願における他の箇所の同様の記載においても同様に解釈するものとする。
【0013】
さらに、Nb、Ta、W、Ti、Pt、Mo、V、Mn、Fe、Niのうちの少なくとも1種の金属を、合計で、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属全体に対して0at%よりも多く31at%以下含有してもよい。
【0014】
また、CoおよびCrのうちの少なくとも1種の金属を、合計で、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属全体に対して0at%よりも多く55at%未満含有してもよい。
【0015】
また、金属Co、金属Crおよび金属Ptのうちの2種以上を含有してもよく、その場合、当該スパッタリングターゲットに含まれる金属全体に対して、金属Ruを20at%以上100at%未満含有し、金属Coを0at%以上55at%未満含有し、金属Crを0at%以上55at%未満含有し、金属Ptを0at%以上31at%以下含有させてもよい。
【0016】
前記スパッタリングターゲットの硬さは、ビッカース硬さHV10で920以上であることが好ましい。
【0017】
前記酸化物は、Si、Ta、Co、Mn、Ti、Cr、Mg、Al、Y、Zr、Hfの酸化物のうちの1種以上の酸化物としてもよい。
【0018】
前記スパッタリングターゲットは、Ru下地層と磁気記録層との間のバッファ層の作製に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁気記録層グラニュラ膜をRu下地層の上方に積層させる場合において、磁気記録層グラニュラ膜中の磁性結晶粒同士を良好に分離させることを可能にするバッファ層の形成に用いることができるスパッタリングターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は、実施例1の磁気記録媒体10の垂直断面のSTEM(走査型透過電子顕微鏡)写真で、(B)は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)によるエネルギー分散型X線分析のCrについての分析結果を示す図で、(C)は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)によるエネルギー分散型X線分析のRuについての分析結果を示す図である。
図2】(A)は実施例1の磁気記録媒体の磁気記録層グラニュラ膜16の水平断面のTEM(透過電子顕微鏡)写真で、(B)は比較例1の磁気記録媒体の磁気記録層グラニュラ膜56の水平断面のTEM(透過電子顕微鏡)写真である。
図3】(A)は、Ru下地層12の上にバッファ層14を形成し、その形成したバッファ層14の上に磁気記録層グラニュラ膜16を形成してなる磁気記録媒体10の垂直断面模式図であり、(B)は、バッファ層14を設けずにRu下地層52の上に磁気記録層グラニュラ膜56を直接形成してなる磁気記録媒体50の垂直断面模式図である。
図4】バッファ層の酸化物の融点を横軸にとり、保磁力Hcを縦軸にとったグラフである。
図5】バッファ層の酸化物の融点を横軸にとり、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを縦軸にとったグラフである。
図6】バッファ層の酸化物の含有量を横軸にとり、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、金属および酸化物を含有するスパッタリングターゲットであって、含有する前記金属は、その全体を単一の金属にしたとき、hcp構造を含む非磁性金属となり、該非磁性金属に含まれる前記hcp構造の格子定数aは2.59Å以上2.72Å以下であり、また、含有する前記金属には、該金属の全体に対して金属Ruが4at%以上含まれており、また、前記酸化物を前記スパッタリングターゲットの全体に対して20vol%以上50vol%以下含有し、含有する前記酸化物の融点は1700℃以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットであり、磁気記録媒体における、Ru下地層と磁気記録層グラニュラ膜との間のバッファ層の作製に好適に用いることができる。
【0022】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いてRu下地層の上に作製したバッファ層の上に磁気記録層となるグラニュラ膜を形成すると、その形成したグラニュラ膜中の磁性結晶粒同士は酸化物相によって良好に分離され、得られる磁気記録層の保磁力を向上させることができる。
【0023】
なお、本願では、磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを単にスパッタリングターゲットまたはターゲットと記載することがある。また、本願では、金属Ruを単にRuと記載し、金属Coを単にCoと記載し、金属Ptを単にPtと記載し、金属Crを単にCrと記載することがある。また、他の金属元素についても同様に記載することがある。
【0024】
(1)ターゲットの構成成分
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、前述したように、金属および酸化物を含有するスパッタリングターゲットである。
【0025】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する金属は、その全体を単一の金属にしたとき、hcp構造を含む非磁性金属となり、該非磁性金属に含まれる前記hcp構造の格子定数aは2.59Å以上2.72Å以下である。また、含有する前記金属には、該金属の全体に対して金属Ruが4at%以上含まれている。本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する金属については、後記の「(3)作用効果の発現メカニズムを踏まえた金属成分の決定」で詳細に説明する。
【0026】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する酸化物は、融点が1700℃以上の酸化物であり、その含有量は、スパッタリングターゲット全体に対して20vol%以上50vol%以下である。本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する酸化物の融点、含有量および具体例については、後記の「(4)酸化物の融点」、「(5)酸化物の含有量」および「(6)酸化物の具体例」で詳細に説明する。
【0027】
前記したような金属および酸化物からなる本実施形態に係るスパッタリングターゲットでRu下地層の上にバッファ層を形成し、そのバッファ層の上に磁気記録層となるグラニュラ膜を形成すると、保磁力Hcの大きい磁気記録層となる。このことは、後述する実施例で実証している。
【0028】
(2)作用効果およびその発現メカニズム
本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製したバッファ層の作用効果およびその作用効果の発現メカニズムについて説明するが、ここでは、後述する実施例1の磁気記録媒体10および比較例1の磁気記録媒体50を取り上げて説明する。実施例1においてバッファ層作製に用いたスパッタリングターゲットは、その組成がRu50Co25Cr25-30vol%TiO2であり、本実施形態に係るスパッタリングターゲットに含まれる。実施例1の前記組成のスパッタリングターゲットが本実施形態に係るスパッタリングターゲットに含まれる理由は、前記組成の金属成分であるRu50Co25Cr25を単一の金属にすると、hcp構造を含む非磁性金属となり、該非磁性金属に含まれる前記hcp構造の格子定数aは2.63Å(即ち、2.59Å以上2.72Å以下の範囲内)であり、また、含有する前記金属には、該金属の全体に対して金属Ruが4at%以上含まれており、また、酸化物であるTiO2を30vol%含有し、その含有量は20vol%以上50vol%以下であり、かつ、TiO2の融点は1857℃であり、1700℃以上であるからである。
【0029】
図1(A)~(C)は、実施例1の磁気記録媒体10についてのSTEM(走査型透過電子顕微鏡)による測定結果を示す図である。図1(A)は、実施例1の磁気記録媒体10の垂直断面のSTEM(走査型透過電子顕微鏡)写真である。図1(B)、(C)は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)によるエネルギー分散型X線分析の分析結果を示す図であり、図1(B)はCrについての分析結果であり、図1(C)はRuについての分析結果である。
【0030】
図2(A)、(B)は、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製したバッファ層の効果を示すためのTEM(透過電子顕微鏡)写真(磁気記録層グラニュラ膜の水平断面のTEM写真)であり、図2(A)は、Ru下地層の上に本実施形態に係るスパッタリングターゲットの範囲に含まれるスパッタリングターゲット(Ru50Co25Cr25-30vol%TiO2)を用いてバッファ層を形成し、その形成したバッファ層の上に磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23を形成した磁気記録媒体の磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23の部位の水平断面のTEM写真(実施例1の磁気記録媒体のTEM写真で、Ru下地層からの距離が40Åの部位の水平断面のTEM写真。)であり、図2(B)は、Ru下地層と磁気記録層グラニュラ膜との間にバッファ層を設けずに、Ru下地層の上に磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23を直接設けた磁気記録媒体の磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23の部位の水平断面のTEM写真(比較例1の磁気記録媒体のTEM写真で、Ru下地層からの距離が40Åの部位の水平断面のTEM写真。)である。
【0031】
実施例1の磁気記録媒体10において、Ru下地層12の上に形成したバッファ層14の組成はRu50Co25Cr25-30vol%TiO2であり、バッファ層14の上に形成した磁気記録層グラニュラ膜16の組成はCo80Pt20-30vol%B23である。
【0032】
図1(A)および図2(A)に示すように、バッファ層14の上に形成した磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは酸化物(B23)相16Bによってきれいに分離された状態になっている。
【0033】
一方、Ru下地層と磁気記録層グラニュラ膜との間にバッファ層を設けずに、Ru下地層の上に磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23を直接設けた磁気記録媒体の磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23においては、図2(B)に示すように、磁気記録層グラニュラ膜56の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)56A同士の境界が不明瞭になっており、酸化物(B23)相56Bによる分離が不十分な状態になっている。
【0034】
したがって、本実施形態に含まれるスパッタリングターゲットを用いてRu下地層12の上に形成したバッファ層14は、その上に形成する磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒16A同士を良好に分離して、磁性結晶粒16A同士の磁気的な相互作用を小さくし、磁気記録層グラニュラ膜16の保磁力Hcを大きくする働きをする。
【0035】
図3(A)、(B)は、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製したバッファ層の作用効果の発現メカニズムを説明するための垂直断面模式図であり、図3(A)は、Ru下地層12の上にバッファ層14(本実施形態に係るスパッタリングターゲットで形成したバッファ層)を形成し、その形成したバッファ層14の上に磁気記録層グラニュラ膜16を形成してなる磁気記録媒体10の垂直断面模式図であり、図3(B)は、バッファ層14を設けずにRu下地層52の上に磁気記録層グラニュラ膜56を直接形成してなる磁気記録媒体50の垂直断面模式図である。
【0036】
以下、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製したバッファ層14の作用効果の発現メカニズムを説明するが、このメカニズムは現時点において得られている実験データに基づいて推定されるメカニズムである。なお、説明を具体的に行う都合上、図3(A)、(B)の各部位の組成は、それぞれ、実施例1および比較例1の磁気記録媒体の対応する各部位の組成と同じとする。即ち、図3(A)におけるバッファ層14の組成はRu50Co25Cr25-30vol%TiO2であるものとし、図3(A)、(B)における磁気記録層グラニュラ膜16、56の組成はCo80Pt20-30vol%B23であるものとして説明を行う。また、図3(A)は、図1(A)のSTEM写真を模式的に示した図でもあるので、対応する部位については、図1(A)と同じ符号を付している。
【0037】
まず、Ru下地層の上にバッファ層を設けず、Ru下地層の上に磁気記録層グラニュラ膜を直接形成してなる磁気記録媒体50について、図3(B)を用いて説明する。Ru下地層52の上にバッファ層を設けずに、Ru下地層52の上に磁気記録層グラニュラ膜56を直接形成すると、図3(B)に示すように、磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)56Aの形成初期段階において、Ru下地層52の表面に沿って磁性結晶粒56Aが成長するため、磁性結晶粒56Aの下部(Ru下地層52の近傍領域)において、隣接する磁性結晶粒56A同士に連結する箇所が生じる。このため、Ru下地層52の上に磁気記録層グラニュラ膜56を直接形成する場合には、酸化物(B23)相56Bによる磁性結晶粒56A同士の分離が不十分になり、磁性結晶粒56A同士の磁気的な相互作用が大きくなり、磁気記録媒体50の磁気記録層グラニュラ膜56の保磁力Hcは小さくなる。
【0038】
これに対して、図3(A)に示すように、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いてRu下地層12の上にバッファ層14をまず形成し、そのバッファ層14の上に磁気記録層グラニュラ膜16を形成する場合には、磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは、バッファ層14の金属成分である合金(Ru50Co25Cr25)相14Aの上に成長し、磁気記録層グラニュラ膜16の酸化物(B23)相16Bは、バッファ層14の酸化物成分である酸化物(TiO2)相14Bの上に析出するため、磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは、酸化物(B23)相16Bにより良好に分離する。このため、磁性結晶粒16A同士の磁気的な相互作用が小さくなり、磁気記録媒体10の磁気記録層グラニュラ膜16の保磁力Hcは大きくなる。
【0039】
前記のメカニズムをより詳しく説明すべく、バッファ層14の相構成について説明した上で、前記のメカニズムについてさらに説明する。
【0040】
バッファ層14は、合金(Ru50Co25Cr25)相14Aと酸化物(TiO2)相14Bとからなるが、バッファ層14の金属成分であるRu50Co25Cr25は、図3(A)に示すように、合金(Ru50Co25Cr25)相14AはRu下地層12の凸部に析出し、バッファ層14の酸化物成分であるTiO2は、図3(A)に示すように、酸化物(TiO2)相14BはRu下地層12の凹部に析出する。このため、Ru下地層12の凸部同士の間(Ru下地層12の凹部)には酸化物(TiO2)相14Bが配置されることになる。
【0041】
バッファ層14がこのように形成される理由は、Ru下地層12に飛来するスパッタ粒子から見ると、Ru下地層12の凹部は影になるため、Ru下地層12の凸部に金属が凝固し易く、そのため酸化物はRu下地層12の凹部に析出するからである。
【0042】
バッファ層14をRu下地層12の上に形成した後、バッファ層14の上に磁気記録層グラニュラ膜16を形成させると、バッファ層14の合金(Ru50Co25Cr25)相14Aと表面エネルギーの差が小さい磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは合金(Ru50Co25Cr25)相14Aの上に形成され、酸化物(B23)相16Bはバッファ層14の酸化物(TiO2)相14Bの上に形成される。このため、図3(A)に示すように、磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは、酸化物(B23)相16Bによって良好に分離され、磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16A同士の磁気的な相互作用は小さくなる。
【0043】
したがって、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いてRu下地層12の上にバッファ層14をまず形成し、そのバッファ層14の上に磁気記録層グラニュラ膜16を形成する場合には、磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは、酸化物(B23)相16Bにより良好に分離する。このため、磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16A同士の磁気的な相互作用が小さくなり、磁気記録媒体10の磁気記録層グラニュラ膜16の保磁力Hcが大きくなる。
【0044】
(3)作用効果の発現メカニズムを踏まえた金属成分の決定
本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、(2)に記載した作用効果の発現メカニズムに鑑み、含有する金属成分は、単一の金属にしたときに、Ru下地層および磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒と同じ結晶構造で中間的な格子定数を有する成分となるようにしている。具体的には、単一の金属にしたとき、hcp構造を含む非磁性金属となり、該非磁性金属に含まれる前記hcp構造の格子定数aは2.59Å以上2.72Å以下であると規定している。また、含有する金属の全体に対して金属Ruが4at%以上含まれるようにしている。
【0045】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する前記のような金属は、具体的には例えば、Ruの含有量が69at%以上100at%未満であるRuX合金(金属元素Xは、Nb、Ta、W、Ti、Pt、Mo、V、Mn、Fe、Niのうちの少なくとも1種で、合計で、0at%よりも多く31at%以下含有。)や、Ruの含有量が45at%より多く100at%未満であるRuY合金(金属元素Yは、CoおよびCrのうちの少なくとも1種で、合計で、0at%よりも多く55at%未満含有。)や、金属Ruの含有量が20at%以上100at%未満であるRuZ合金(金属元素Zは、Co、CrおよびPtのうちの2種以上であり、Coの含有量は0at%以上55at%未満、Crの含有量は0at%以上55at%未満、Ptの含有量は0at%以上31at%以下含有。)がある。
【0046】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、前段落で具体例として挙げた合金を、合金の状態で含まなくてもよく、前段落に記載の組成比を満たす、各金属元素の単体の微細な相の集合体として含むようにしてもよい。
【0047】
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する金属成分には、Ru下地層との格子定数の整合性の観点から、金属Ruを4at%以上含有させている。また、磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒との格子定数の整合性の観点から、磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒の金属成分が含まれていることが好ましい。より具体的に言えば、磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒の金属成分が、例えば、CoおよびPtの場合には、本実施形態に係るスパッタリングターゲットが含有する金属成分には、CoおよびPtのうちの少なくとも一方が含まれていることが好ましい。
【0048】
(4)酸化物の融点
バッファ層に含有させる酸化物の融点が磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcに与える影響についての評価を行い、本実施形態に係るスパッタリングターゲットに含有させる酸化物の融点を決定した。具体的には、Ru下地層の上に作製したバッファ層の上に形成した磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcを測定することにより評価を行った。評価を行ったバッファ層の組成はRu50Co25Cr25-30vol%酸化物とし、バッファ層作製に用いたスパッタリングターゲットについては、金属成分をRu50Co25Cr25とし、酸化物をスパッタリングターゲット全体に対して30vol%含有させた。また、Ru下地層の上にバッファ層を設けずに、Ru下地層の上に磁気記録層グラニュラ膜を直接形成した場合のHcについても評価を行った。バッファ層の厚さは2nmとし、保磁力Hc測定用のサンプルの層構成は、ガラス基板に近い方から順に表示して、Ta(5nm, 0.6Pa)/Ni9010(6nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 8Pa)/ バッファ層(2nm, 0.6Pa)/Co80Pt20-30vol%B23 (16nm, 4Pa)/C (7nm, 0.6Pa)とした(以下、この層構成を層構成Aと記載することがある。)。括弧内の左側の数字は膜厚を示し、右側の数字はスパッタリングを行ったときのAr雰囲気の圧力を示す。磁気記録層グラニュラ膜はCo80Pt20-30vol%B23である。
【0049】
次の表1に保磁力Hcの測定結果を示す。また、バッファ層の酸化物の融点を横軸にとり、保磁力Hcを縦軸にとったグラフを図4に示す。なお、表1の酸化物なしのデータは、Ru下地層の上にバッファ層を設けずに、Ru下地層の上に磁気記録層グラニュラ膜を直接形成した場合のデータである。
【0050】
【表1】
【0051】
表1および図4からわかるように、バッファ層に含有させる酸化物の融点が1700℃ぐらいまでは、融点が高いほど保磁力Hcが大きくなる傾向があるが、バッファ層に含有させる酸化物の融点が1700℃を超えると、酸化物の融点をそれ以上大きくしても、保磁力Hcはほぼ一定になる。
【0052】
そこで、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、含有させる酸化物の融点を1700℃以上とした。
【0053】
また、バッファ層の厚さを変えて磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcを試料振動型磁力計(VSM)で測定し、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを、含有させる酸化物ごとに求めた。その結果を次の表2に示す。また、バッファ層の酸化物の融点を横軸にとり、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを縦軸にとったグラフを図5に示す。なお、表2および図5のデータを測定する際の保磁力Hc測定用のサンプルの層構成は、バッファ層の厚さ以外は、前記した層構成Aと同様である。
【0054】
【表2】
【0055】
表2および図5からわかるように、バッファ層に含有させる酸化物の融点が高いほど、保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さが小さくなる傾向がある。
【0056】
保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さが小さいほど、書き込みヘッドからの磁束を再びヘッドに還流させる磁路を短くすることができ、書き込み磁界を強くすることができるので、バッファ層の厚さは小さいほどよいところ、含有させる酸化物の融点が1860℃以上になると、保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さが2nmを概ね下回ってくると考えられるので、含有させる酸化物の融点は1860℃以上であることが好ましい。
【0057】
(5)酸化物の含有量
バッファ層の上に形成する磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcを大きくする観点から、本実施形態に係るスパッタリングターゲットに含有させる酸化物の量を、スパッタリングターゲット全体に対して20vol%以上50vol%以下にしているが、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcをより大きくする観点から、本実施形態に係るスパッタリングターゲットに含有させる酸化物の量を、スパッタリングターゲット全体に対して25vol%以上40vol%以下にすることがより好ましい。以上のことは、後述する実施例で実証している。
【0058】
また、バッファ層の組成をRu50Co25Cr25-30vol%TiO2とし、バッファ層に含有させる酸化物(TiO2)の所定の含有量(25vol%、30vol%、31vol%、35vol%、40vol%、45vol%、50vol%)ごとにバッファ層の厚さを変えて磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcを試料振動型磁力計(VSM)で測定し、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを、前記所定の含有量ごとに求めた。その結果を次の表3に示す。また、バッファ層の酸化物の含有量を横軸にとり、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを縦軸にとったグラフを図6に示す。なお、保磁力Hc測定用のサンプルの層構成は、バッファ層の厚さ以外は、(4)で前記した層構成Aと同様である。
【0059】
【表3】
【0060】
表3および図6からわかるように、バッファ層に含有させる酸化物(TiO2)の量が多いほど、保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さが小さくなる傾向がある。
【0061】
磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さが小さいほど、書き込みヘッドからの磁束を再びヘッドに還流させる磁路を短くすることができ、書き込み磁界を強くすることができるので、バッファ層の厚さは小さいほどよいところ、含有させる酸化物(TiO2)の量が31vol%以上になると、保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さが2nmを概ね下回ってくると考えられるので、含有させる酸化物の量は31vol%以上50vol%以下であることが好ましい。
【0062】
(6)酸化物の具体例
本実施形態に係るスパッタリングターゲットに用いることができる酸化物の融点については(4)で説明し、その酸化物の含有量については(5)で説明したが、本実施形態に係るスパッタリングターゲットに用いることができる酸化物は、具体的には、Si、Ta、Co、Mn、Ti、Cr、Mg、Al、Y、Zr、Hf等の酸化物であり、例えば、SiO2、Ta25、CoO、MnO、TiO2、Cr23、MgO、Al23、Y23、ZrO2、およびHfO2等を挙げることができる。
【0063】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは複数種の酸化物を含有させることができ、含有する酸化物が複数種のときの酸化物の融点は、含有する酸化物の種類ごとの融点について当該酸化物の含有割合(含有する酸化物の全体に対する体積比)の加重平均で計算する。
【0064】
(7)スパッタリングターゲットのミクロ構造
本実施形態に係るスパッタリングターゲットのミクロ構造は特に限定されるわけではないが、金属相と酸化物相とが微細に分散し合ってお互いに分散し合ったミクロ構造とすることが好ましい。このようなミクロ構造とすることにより、スパッタリングを実施している際に、ノジュールやパーティクル等の不具合が発生しにくくなる。
【0065】
(8)スパッタリングターゲットの硬さ
金属相と酸化物相との界面で亀裂が発生することを抑制して、スパッタリングターゲットの割れやノジュールおよびパーティクル等の不具合の発生を少なくする観点から、本実施形態に係るスパッタリングターゲットの硬さは硬い方がよく、具体的には、ビッカース硬さHV10で920以上であることが好ましい。
【0066】
なお、ビッカース硬さHV10とは、試験力10kgで測定して得たビッカース硬さのことである。
【0067】
(9)スパッタリングターゲットの製造方法
本実施形態に係るスパッタリングターゲットの範囲に含まれるRu50Co25Cr25-30vol%TiO2という組成のスパッタリングターゲットを具体例として取り上げて製造方法の例について以下説明する。ただし、本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法が以下の具体例に限定されるわけではない。
【0068】
(9-1)Ru50Co25Cr25合金アトマイズ粉末の作製
金属Ru、金属Coおよび金属Crの合計に対する金属Ruの原子数比が50at%、金属Coの原子数比が25at%、金属Crの原子数比が25at%となるように、金属Ru、金属Co、金属Crを秤量してRuCoCr合金溶湯を作製する。そして、ガスアトマイズを行い、RuCoCr合金アトマイズ粉末を作製する。作製したRuCoCr合金アトマイズ粉末は分級して、粒径が所定の粒径以下(例えば106μm以下)となるようにする。
【0069】
(9-2)加圧焼結用混合粉末の作製
(9-1)で作製したRuCoCr合金アトマイズ粉末に30vol%となるようにTiO2粉末を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製する。RuCoCr合金アトマイズ粉末およびTiO2粉末をボールミルで混合分散することにより、RuCoCr合金アトマイズ粉末およびTiO2粉末が微細に分散し合った加圧焼結用混合粉末を作製することができる。
【0070】
得られるスパッタリングターゲットを用いて作製されるバッファ層の上に形成させる磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcを大きくする観点から、TiO2粉末の加圧焼結用混合粉末の全体に対する体積分率は、20vol%以上50vol%以下であることが好ましく、25vol%以上40vol%以下であることがより好ましい。
【0071】
また、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcがピーク値をとるときのバッファ層の厚さを小さくする観点から、TiO2粉末の加圧焼結用混合粉末の全体に対する体積分率は、31vol%以上50vol%以下にすることが好ましい。
【0072】
(9-3)成形
(9-2)で作製した加圧焼結用混合粉末を、例えば真空ホットプレス法により加圧焼結して成形し、スパッタリングターゲットを作製する。(9-2)で作製した加圧焼結用混合粉末はボールミルで混合分散されており、RuCoCr合金アトマイズ粉末とTiO2粉末とが微細に分散し合っているので、本製造方法により得られたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行っているとき、ノジュールやパーティクルの発生等の不具合は発生しにくい。
【0073】
なお、加圧焼結用混合粉末を加圧焼結する方法は特には限定されず、真空ホットプレス法以外の方法でもよく、例えばHIP法等を用いてもよい。
【0074】
また、以上説明した製造方法の例では、アトマイズ法を用いてRuCoCr合金アトマイズ粉末を作製し、作製したRuCoCr合金アトマイズ粉末にTiO2粉末を加えてボールミルで混合分散して、加圧焼結用混合粉末を作製しているが、RuCoCr合金アトマイズ粉末を用いることに替えて、Ru単体粉末、Co単体粉末およびCr単体粉末を用いてもよい。この場合には、Ru単体粉末、Co単体粉末、Cr単体粉末およびTiO2粉末をボールミルで混合分散して加圧焼結用混合粉末を作製する。
【0075】
(10)原料粉末の好ましい粒径
スパッタリング時には、スパッタリングターゲットのスパッタ面(以下、表面と記す。)とは反対側の面(以下、裏面と記す。)を冷却する。このため、スパッタリングターゲットの表面と裏面には温度差が生じ、スパッタリングターゲットは表面を凸として反り返る。この現象により、スパッタリングターゲットには応力負荷が加わり、破断に至る場合があり、問題となっている。
【0076】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、金属および酸化物を含有するスパッタリングターゲットであり、破断の発端となる亀裂の発生は金属相と酸化物相との界面で発生する。
【0077】
亀裂の発生および進展を防ぐためには、原料粉末である金属粉末および酸化物粉末は、できるだけ等方に、かつ、微細に分散させることが望ましい。このため、本発明に係るスパッタリングターゲットの作製に用いる原料粉末(金属粉末および酸化物粉末)の平均粒子径は小さいほど好ましい。
【0078】
展延性の高い金属(例えば、Ru粉末、Co粉末、Pt粉末)を原料粉末として用いる場合、混合による微細化が困難であるため、平均粒子径は5μm未満であることが好ましく、3μm未満であることがより好ましい。一方、できるだけ等方に、かつ、微細に分散させる観点から、平均粒子径は小さい方が望ましく、平均粒子径の下限は特にはない。しかしながら、取り扱いやすさや価格等を考慮して下限を設けてもよく、展延性の高い金属(例えば、Ru粉末、Co粉末、Pt粉末)を原料粉末として用いる場合、例えば、平均粒子径の下限を0.5μmとしてもよい。
【0079】
展延性の低い金属(例えば、Cr粉末)を原料粉末として用いる場合、混合による微細化がある程度期待できるため、平均粒子径があまり小さくなくても原料粉末として使用可能である。しかしながら、展延性の低い金属(例えば、Cr粉末)を原料粉末として用いる場合であっても平均粒子径は小さい方が望ましいので、展延性の低い金属(例えば、Cr粉末)を原料粉末として用いる場合の平均粒子径は50μm未満であることが好ましく、30μm未満であることがより好ましい。一方、できるだけ等方に、かつ、微細に分散させる観点から、平均粒子径は小さい方が望ましく、平均粒子径の下限は特にはない。しかしながら、取り扱いやすさや価格等を考慮して下限を設けてもよく、展延性の低い金属(例えば、Cr粉末)を原料粉末として用いる場合、例えば、平均粒子径の下限を0.5μmとしてもよい。
【0080】
酸化物粉末は、酸化物自体の硬さが硬いため、混合による微細化が困難である。このため、原料粉末として用いる酸化物粉末の平均粒子径は1μm未満であることが好ましく、0.5μm未満であることがより好ましい。一方、できるだけ等方に、かつ、微細に分散させる観点から、平均粒子径は小さい方が望ましく、平均粒子径の下限は特にはない。しかしながら、取り扱いやすさや価格等を考慮して下限を設けてもよく、原料粉末として用いる酸化物粉末の平均粒子径の下限を、例えば0.05μmとしてもよい。
【0081】
以上説明した原料粉末の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製X Vision 200 DB)を用いた画像解析により求めてもよく、あるいは、粒度分測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3000II)を用いて粒度分布を測定することにより求めてもよい。
【0082】
(11)適用可能な磁気記録層グラニュラ膜
本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いてRu下地層の上に設けたバッファ層の上に形成させる磁気記録層グラニュラ膜の組成は特には限定されない。本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いてRu下地層の上にバッファ層を設け、そのバッファ層の上に磁気記録層グラニュラ膜を積層して、磁気特性測定用サンプルを作製し、保磁力Hcを測定して、保磁力Hcが向上したことを確認した磁気記録層グラニュラ膜の具体例を以下に記載する。
【0083】
(Co-20Pt)-30vol%WO3
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%WO3
(Co-20Pt)-30vol%SiO2
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%SiO2
(Co-20Pt)-30vol%TiO2
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%TiO2
(Co-20Pt)-30vol%Cr23
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%Cr23
(Co-20Pt)-30vol%MoO3
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%MoO3
(Co-20Pt)-30vol%WO2
(Co-20Pt)-30vol%MnO
(Co-20Pt)-30vol%MnO2
(Co-20Pt)-40vol%B23
(Co-20Pt)-35vol%B23
(Co-20Pt)-30vol%B23
(Co-20Pt)-25vol%B23
(Co-20Pt)-20vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%B23
(Co-20Pt)-30vol%Y23
(Co-20Pt)-30vol%Mn34
(Co-20Pt)-30vol%Nb25
(Co-20Pt)-30vol%ZrO2
(Co-20Pt)-30vol%Ta25
(Co-20Pt)-30vol%Al23
(Co-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%TiO2-10vol%Cr23
(Co-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%Cr23-10vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%TiO2-10vol%CoO
(Co-5Cr-20Pt)-15vol%SiO2-15vol%Co34
(Co-5Cr-20Pt)-15vol%SiO2-15vol%CoO
(Co-20Pt)-15vol%SiO2-15vol%Co34
(Co-20Pt)-15vol%SiO2-15vol%CoO
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%Co34
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%CoO
(Co-20Pt)-30vol%Co34
(Co-20Pt)-30vol%CoO
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%SiO2
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%TiO2
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%CoO
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%Cr23
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%Co34
(Co-5B-20Pt)-30vol%Cr23
(Co-5B-20Pt)-30vol%TiO2
(Co-20Pt)-15vol%Cr23-15vol%WO3
(Co-5Ru-20Pt)-30vol%TiO2
(Co-5Ru-20Pt)-30vol%SiO2
(Co-5B-20Pt)-30vol%SiO2
(Co-5Ru-20Pt)-30vol%Cr23
(Co-5Ru-20Pt)-15vol%TiO2-15vol%Cr23
(Co-5Ru-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%TiO2-10vol%Cr23
(Co-5B-20Pt)-30vol%WO3
(Co-20Pt)-15vol%SiO2-15vol%TiO2
(Co-20Pt)-15vol%TiO2-15vol%Cr23
(Co-20Pt)-15vol%TiO2-15vol%CoO
(Co-20Pt)-25vol%B23-5vol%Cr23
(Co-20Pt)-25vol%B23-5vol%Al23
(Co-20Pt)-25vol%B23-5vol%ZrO2
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%Nb25
(Co-20Pt)-30vol%MgO
(Co-20Pt)-30vol%Fe23
(Co-20Pt)-25vol%B23-5vol%MgO
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%Ta25
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%MoO3
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%WO3
(Co-20Pt)-20vol%SiO2-5vol%TiO2-5vol%CoO
(Co-20Pt)-20vol%SiO2-5vol%TiO2-5vol%Cr23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-20vol%Cr23-5vol%B23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-20vol%TiO2-5vol%Cr23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-5vol%Cr23-20vol%B23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-5vol%TiO2-20vol%Cr23
(Co-20Pt)-20vol%SiO2-5vol%Cr23-5vol%B23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-20vol%TiO2-5vol%CoO
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-5vol%TiO2-20vol%CoO
(Co-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%CoO-10vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%TiO2-10vol%Co34-10vol%B23
(Co-20Pt)-15vol%TiO2-15vol%Co34
(Co-20Pt)-10vol%TiO2-10vol%CoO-10vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%Co34-10vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%TiO2-10vol%Cr23-10vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%SiO2-10vol%TiO2-10vol%B23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-5vol%CoO-20vol%B23
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-5vol%Co34-20vol%B23
(Co-20Pt)-10vol%TiO2-20vol%B23
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%ZrO2
(Co-20Pt)-5vol%SiO2-5vol%TiO2-20vol%B23
(Co-20Pt)-5vol%TiO2-5vol%Cr23-20vol%B23
(Co-20Pt)-25vol%B23-5vol%SiO2
(Co-20Pt)-25vol%B23-5vol%TiO2
(Co-20Pt)-20vol%B23-10vol%SiO2
(Co-20Pt)-20vol%B23-10vol%Cr23
(Co-20Pt)-15vol%B23-15vol%Y23
(Co-5Cr-20Pt)-30vol%B23
(Co-20Pt-5Ru)-30vol%B23
(Co-20Pt-5B)-30vol%B23
【実施例
【0084】
以下、実施例および比較例について記載する。
(実施例1)
実施例1として作製したターゲット全体の組成は、Ru50Co25Cr25-30vol%TiO2である。
【0085】
組成がRu:50at%、Co:25at%、Cr:25at%となるように秤量したRu粉末(平均粒子径が5μmより大きく50μm未満)、Co粉末(平均粒子径が5μmより大きく50μm未満)、Cr粉末(平均粒子径が50μmより大きく100μm未満)および30vol%となるように秤量したTiO2粉末(平均粒子径が1μm未満)を、遊星ボールミル装置に入れて混合・解砕して加圧焼結用混合粉末を得た。
【0086】
得られた加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:920℃、圧力:24.5MPa、時間:30min、雰囲気:5×10-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、焼結体テストピース(φ30mm)を作製した。作製した焼結体テストピースの相対密度は98.5%であった。なお、計算密度は8.51g/cm3である。得られた焼結体テストピースの厚さ方向断面を金属顕微鏡で観察したところ、金属相(Ru50Co25Cr25合金相)と酸化物相(TiO2相)とは微細に分散されていた。
【0087】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:920℃、圧力:24.5MPa、時間:60min、雰囲気:5×10-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ153.0×1.0mm+φ161.0×4.0mmのターゲットを1つ作製した。作製したターゲットの相対密度は98.8%であった。
【0088】
作製したターゲットを用いてDCスパッタ装置でスパッタリングを行い、Ru50Co25Cr25-30vol%TiO2からなるバッファ層をRu下地層上に成膜させ、磁気特性測定用サンプルおよび組織観察用サンプルを作製した。これらのサンプルの層構成は、ガラス基板に近い方から順に表示して、Ta(5nm, 0.6Pa)/Ni9010(6nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 0.6Pa)/Ru(10nm, 8Pa)/バッファ層(2nm, 0.6Pa) /磁気記録層グラニュラ膜 (16nm, 4Pa)/C (7nm, 0.6Pa)である。括弧内の左側の数字は膜厚を示し、右側の数字はスパッタリングを行ったときのAr雰囲気の圧力を示す。本実施例1で作製したターゲットを用いて成膜したバッファ層は厚さ2nmのRu50Co25Cr25-30vol%TiO2であり、そのバッファ層の上に形成した磁気記録層グラニュラ膜は厚さ16nmのCo80Pt20-30vol%B23である。なお、磁気記録層グラニュラ膜を成膜する際には基板は昇温させておらず、室温で成膜した。
【0089】
磁気特性測定用サンプルの保磁力Hcの測定には、試料振動型磁力計(VSM)を用いた。保磁力Hcの測定の測定結果を、他の実施例および比較例の結果と合わせて表4に示す。本実施例1の保磁力Hcは9.4kOeであり、本実施例1においては良好な保磁力Hcが得られた。
【0090】
格子定数aの測定には、X線回折装置(株式会社リガク製の薄膜構造評価用X線回折装置ATX-G/TS)を用い、CuKα線(波長0.154nm)を用いた。そして、回折線ピークの角度から格子定数aを算出した。
【0091】
また、磁気特性測定用サンプルの面内方向のX線回折の測定結果から、磁気記録層グラニュラ膜中のCoPt合金結晶粒がC面配向していることを確認した。
【0092】
組織観察用サンプルの構造の評価には、透過電子顕微鏡(TEM)および走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた。
【0093】
図1(A)~(C)は、実施例1の磁気記録媒体10についての走査型透過電子顕微鏡(STEM)による測定結果である。図1(A)は、実施例1の磁気記録媒体10の垂直断面のSTEM(走査型透過電子顕微鏡)写真である。図1(B)、(C)は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)によるエネルギー分散型X線分析の分析結果を示す図であり、図1(B)はCrについての分析結果であり、図1(C)はRuについての分析結果である。
【0094】
Ru下地層12の上に本実施例1のバッファ層14をまず形成し、そのバッファ層14の上に磁気記録層グラニュラ膜16を形成すると、図1(A)に示すように、磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは、酸化物(B23)相16Bにより良好に分離している。これは、磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは、バッファ層14の金属成分である合金(Ru50Co25Cr25)相14Aの上に成長し、磁気記録層グラニュラ膜16の酸化物(B23)相16Bは、バッファ層14の酸化物成分である酸化物(TiO2)相14Bの上に析出するためだと考えられる。
【0095】
また、組織観察用サンプルの磁気記録層グラニュラ膜について、柱状のCoPt合金結晶粒の高さ方向と略直交する水平断面(Ru下地層の上面から40Å上方の高さ位置の水平断面)を透過電子顕微鏡(TEM)で観察を行った。その観察結果の平面TEM写真を、比較例1の平面TEM写真(観察位置は実施例1の平面TEM写真と同様の観察位置)と合わせて図2に示す。図2(A)は実施例1の平面TEM写真であり、図2(B)は比較例1の平面TEM写真である。
【0096】
図1(A)および図2(A)に示すように、本実施例1においては、バッファ層14の上に形成した磁気記録層グラニュラ膜16の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16Aは酸化物(B23)相16Bによってきれいに分離された状態になっている。このため、磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)16A同士の磁気的な相互作用が小さくなり、本実施例1においては、磁気記録層グラニュラ膜16の保磁力Hcについて良好な値が得られたと考えられる。
【0097】
(実施例2~51、比較例1~9)
ターゲットの組成を実施例1から変更した以外は、実施例1と同様にして磁気特性測定用サンプルおよび組織観察用サンプルを作製し、実施例2~51、比較例1~9について、実施例1と同様に評価を行った。
【0098】
実施例1~51、比較例1~9についての保磁力Hcの測定結果をターゲットの組成とともに表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
実施例2~51について、透過電子顕微鏡(TEM)による観察を行った結果、実施例1と同様に磁性結晶粒が酸化物相によって分離された構造の磁気記録層グラニュラ膜が得られていることを確認した。
【0101】
一方、Ru下地層と磁気記録層グラニュラ膜との間にバッファ層を設けずに、Ru下地層の上に磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23を直接設けた比較例1の磁気記録媒体の磁気記録層グラニュラ膜Co80Pt20-30vol%B23においては、図2(B)の平面TEM写真(Ru下地層の上面から40Å上方の高さ位置の水平断面)に示すように、磁気記録層グラニュラ膜56の磁性結晶粒(Co80Pt20合金粒子)56A同士の境界が不明瞭になっており、酸化物(B23)相56Bによる分離が不十分な状態になっていることを確認した。また、本発明の範囲内に含まれない比較例2、4~6、9について、透過電子顕微鏡(TEM)による観察を行った結果、比較例1と同様に磁性結晶粒の酸化物相による分離が不十分な状態になっていることを確認した。
【0102】
(考察)
表4に示すように、本発明の範囲内に含まれる実施例1~51の磁気特性測定用サンプルにおいては、保磁力Hcの大きさが8.6kOe~10.5kOeと大きくなっており、良好な保磁力Hcが得られている。
【0103】
これに対し、表4に示すように、本発明の範囲に含まれない比較例1~9の磁気特性測定用サンプルにおいては、保磁力Hcの大きさが7.5kOe~8.4kOeと小さくなっている。
【0104】
本発明の範囲内に含まれる実施例1~51の磁気特性測定用サンプルにおいて良好な保磁力Hcが得られた理由は、例えば実施例1についての図1(A)および図2(A)に示すように、バッファ層の上に形成した磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒が酸化物相によってきれいに分離された状態になっていて、磁性結晶粒同士の磁気的な結合が小さくなっているためと考えられる。
【0105】
したがって、実施例1~51のスパッタリングターゲットを用いてRu下地層の上に形成したバッファ層は、その上に形成する磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒同士を良好に分離して、磁性結晶粒同士の磁気的な相互作用を小さくし、磁気記録層グラニュラ膜の保磁力Hcを大きくする働きをすると考えられる。
【0106】
一方、比較例1、2、4~6、9の磁気特性測定用サンプルの保磁力Hcが実施例1~51と比較して小さくなった理由は、例えば比較例1についての図2(B)に示すように、磁気記録層グラニュラ膜の磁性結晶粒同士の境界が不明瞭になっていて、酸化物相による分離が不十分な状態になっており、磁性結晶粒同士の磁気的な結合が大きくなっているためと考えられる。
【0107】
比較例3については、バッファ層の金属成分であるRu45Co55合金が磁性を持つため、保磁力Hcが小さくなったと考えられる。
【0108】
比較例7については、バッファ層の酸化物成分が多く、バッファ層の金属成分の結晶配向が劣化し、バッファ層の上に積層した磁気記録層のグラニュラ膜の結晶配向が劣化したため、保磁力Hcが小さくなったと考えられる。
【0109】
比較例8については、バッファ層のhcp構造の格子定数aがRuのhcp構造の格子定数a(2.72Å)よりも大きくなり、結晶配向が劣化したため、保磁力Hcが小さくなったと考えられる。
【0110】
また、実施例1、46~51は、組成がRu50Co25Cr25-TiO2であるスパッタリングターゲットについて、酸化物(TiO2)の含有量を20vol%から50vol%の範囲で変えたものであるが、酸化物(TiO2)の含有量が25vol%以上40vol%以下の範囲内にある実施例1、47~49において、保磁力Hcが9.0を上回っており、特に良好な結果が得られているので、本発明に係るスパッタリングターゲットの酸化物の含有量の範囲は、25vol%以上40vol%以下であることが好ましい。
【0111】
(参考データ(スパッタリングターゲットの硬さ))
前記した実施例1のスパッタリングターゲット(Ru50Co25Cr25-30vol%TiO2)の作製に際して用いたRu粉末、Co粉末、Cr粉末およびTiO2粉末の粒径は次の通りである。
【0112】
Ru粉末:平均粒子径が5μm未満
Co粉末:平均粒子径が5μm未満
Cr粉末:平均粒子径が50μm未満
TiO2粉末:平均粒子径が1μm未満
そして、得られたスパッタリングターゲットの硬さは、ビッカース硬さHV10で964であった。
【0113】
一方、スパッタリングターゲットの作製に際して通常用いられているRu粉末、Co粉末、Cr粉末およびTiO2粉末の粒径は次の通りである。
Ru粉末:平均粒子径が5μmより大きく50μm未満
Co粉末:平均粒子径が5μmより大きく50μm未満
Cr粉末:平均粒子径が50μmより大きく100μm未満
TiO2粉末:平均粒子径が1μm未満
【0114】
上記のRu粉末、Co粉末、Cr粉末およびTiO2粉末を用いた以外は実施例1と同様にして作製した、実施例1と同じ組成のスパッタリングターゲット(以下、参考例1のスパッタリングターゲットと記す。)の硬さは、ビッカース硬さHV10で907であった。
【0115】
したがって、前記した実施例1のスパッタリングターゲットの硬さ(ビッカース硬さHV10で964)は、参考例1のスパッタリングターゲットの硬さ(ビッカース硬さHV10で907)よりも、ビッカース硬さHV10で6%程度向上しており、強度特性が向上している。
【0116】
また、前記した実施例28のスパッタリングターゲット(Ru45Co25Cr25Pt5-30vol%TiO2)の作製に際して用いたRu粉末、Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびTiO2粉末の粒径は次の通りである。
Ru粉末:平均粒子径が5μm未満
Co粉末:平均粒子径が5μm未満
Cr粉末:平均粒子径が50μm未満
Pt粉末:平均粒子径が5μm未満
TiO2粉末:平均粒子径が1μm未満
【0117】
そして、得られたスパッタリングターゲットの硬さはビッカース硬さHV10で926であった。
【0118】
一方、スパッタリングターゲットの作製に際して通常用いられているRu粉末、Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびTiO2粉末の粒径は次の通りである。
Ru粉末:平均粒子径が5μmより大きく50μm未満
Co粉末:平均粒子径が5μmより大きく50μm未満
Cr粉末:平均粒子径が50μmより大きく100μm未満
Pt粉末:平均粒子径が5μmより大きく50μm未満
TiO2粉末:平均粒子径が1μm未満
【0119】
上記のRu粉末、Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびTiO2粉末を用いた以外は実施例28と同様にして作製した、実施例28と同じ組成のスパッタリングターゲット(以下、参考例2のスパッタリングターゲットと記す。)の硬さはビッカース硬さHV10で893であった。
【0120】
したがって、前記した実施例28のスパッタリングターゲットの硬さ(ビッカース硬さHV10で926)は、参考例2のスパッタリングターゲットの硬さ(ビッカース硬さHV10で893)よりも、ビッカース硬さHV10で4%程度向上しており、強度特性が向上している。
【0121】
また、実施例2~27、29~51において、スパッタリングターゲットの作製に用いた原料金属粉末も、実施例1、28のスパッタリングターゲットの作製に用いた原料金属粉末と同様の平均粒径を有した金属粉末であるので、実施例2~27、29~51のスパッタリングターゲットの硬さは、実施例1、28のスパッタリングターゲットの硬さと同等程度の値であると考えられ、実施例2~27、29~51のスパッタリングターゲットの硬さは、ビッカース硬さHV10で920以上970以下程度であると考えられる。
【符号の説明】
【0122】
10、50…磁気記録媒体
12、52…Ru下地層
14…バッファ層
14A…合金相
14B…酸化物相
16、56…磁気記録層グラニュラ膜
16A、56A…磁性結晶粒
16B、56B…酸化物相
図1
図2
図3
図4
図5
図6