(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電極活物質、その製造及び使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221207BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221207BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221207BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221207BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221207BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
H01M4/62 Z
C01G53/00 A
C01G51/00
(21)【出願番号】P 2020519784
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(86)【国際出願番号】 EP2018075143
(87)【国際公開番号】W WO2019068454
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-15
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】516141989
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】リル,トマス ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】エルク,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】デ ビアジ,レア
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-265849(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103708567(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0050859(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/131
H01M 4/62
C01G 53/00
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)、
Li
1+x(Ni
aCo
bMn
cM
d)
1-xO
2 (I)
(式中、
xは0~0.05の範囲であり、
aは0.1~0.3の範囲であり、
bは0.5~0.8の範囲であり、
cは0~0.15の範囲であり、
dは0から0.05未満であり、
MはAl、B、Mg、W、Mo、Ti、Si及びZrから選択され、
a+b+c+d=1で、a>cで、0.01≦c+d≦0.15である)
のリチウムイオン電池のための電極活物質であって、
Co及びNiが、それぞれの前記電極活物質の粒径にわたって均一に分布している、電極活物質。
【請求項2】
5~20μmの範囲の平均二次粒径(D50)を有する、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
一般式(II)
(Li
1+x)
y(Ni
aCo
bMn
cM
d)
1-xO
2 (II)
(式中、yは、y・(1+x)が0.35~1の範囲である条件を満たす)
による部分的に脱リチウム化された材料の結晶学的単位セル体積が、それぞれの完全にリチウム化された材料の結晶学的単位セル体積よりも最大1%小さい、請求項1又は2に記載の電極活物質。
【請求項4】
集電器及び、
(A)少なくとも1種の請求項1から3のいずれか一項に記載の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー、
(D)任意に、固体電解質、
を含有する電極。
【請求項5】
(A)50~100質量%の請求項1から3のいずれか一項に記載の電極活物質、
(B)0~5質量%の導電状態の炭素、
(C)0~5質量%のバインダー、及び
(D)任意に、固体電解質、
を含有し、
パーセンテージが(A)+(B)+(C)+(D)の合計に基づくものである、請求項
4に記載の電極。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極活物質の製造方法であって、以下の工程:
(a)Ni、Co及び任意にMn及び任意にMの水酸化物又は炭酸塩を共沈させることにより、粒子状前駆体を製造する工程と、
(b)前記粒子状前駆体をリチウムの源と混合する工程と、
(c)工程(b)で得られた前記混合物をか焼する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(I)、
Li1+x(NiaCobMncMd)1-xO2 (I)
(式中、
xは0~0.1の範囲であり、
aは0.1~0.5の範囲であり、
bは0.4~0.9の範囲であり、
cは0~0.3の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
MはAl、B、Mg、W、Mo、Ti、Si及びZrから選択され、
a+b+c+d=1で、a>cである)
のリチウムイオン電池のための電極活物質に関する。
【0002】
さらに、本発明は、電極活物質の製造の方法、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現今、リチウム化遷移金属酸化物は、リチウムイオン電池のための電極活物質として使用されている。電荷密度、比エネルギーなどの特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に逆に悪い影響を及ぼしうる低下したサイクル寿命及び容量損失などの他の特性も改善するために、過去数年間で幅広い研究及び開発が行われた。製造方法を改善するために、さらなる努力が行われている。
【0004】
リチウムイオン電池のための電極活物質の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、前駆体を、リチウム塩、例えばLiOH、Li2O、又は特にLi2CO3(これらに限定されものではない)と混合して、高温でか焼(焼成)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。一般に前駆体の熱処理又は加熱処理とも称されるか焼又は焼成は通常、600~1,000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。水酸化物又は炭酸塩を前駆体として使用する場合、固相反応の後に水又は二酸化炭素を除去する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0005】
現今議論されている多くの電極活物質は、リチウム化ニッケル-コバルト-マンガン酸化物(「NCM材料」)のタイプのものである。リチウムイオン電池に使用される多くのNCM材料は、遷移金属と比較して過剰のリチウムを有する。例えば、特許文献1(US 6,677,082)を参照されたい。
【0006】
特許文献2(US 2010/068376)は、特定のCoでコーティングされたMn/Ni水酸化物、及びそれから作製されたカソード活物質を開示している。
【0007】
特許文献3(EP 1 447 866 A1)では、リチウムイオン電池のためのCoリッチなカソード活物質が開示されている。特許文献4(CN 103 708 567 A1)では、等量のマンガン及びニッケルを有する特定のカソード活物質が開示されている。
【0008】
しかしながら、多くのリチウムイオン電池の寿命は限られていることが見出されている。具体的には、繰り返しサイクル後の容量損失は、多くの用途、例えば自動車用途(これらに限定されものではない)において、リチウムイオン電池の魅力を低下させる。一般的には、電極活物質、特にカソード活物質は、リチウムイオン電池の寿命に重要な役割が割り当てられている。繰り返しサイクル(充電と放電)による容量損失の改善は、サイクル性(cyclability)とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】US 6,677,082
【文献】US 2010/068376
【文献】EP 1 447 866 A1
【文献】CN 103 708 567 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、リチウムイオン電池の寿命を改善することを目的とした。具体的には、本発明は、改善した寿命を有するリチウムイオン電池の製造を可能にする良好なサイクル性を有する電極活物質を提供することを目的とした。さらに、本発明は、改善した寿命を有するリチウムイオン電池の製造を可能にする電極活物質の製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、冒頭で定義された、以下で本発明の電極活物質又は(本)発明による電極活物質とも称される電極活物質が見出された。本発明の活物質材料は好ましくは、充電及び放電時に体積の小さな変化を示すことが見出された。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、例えば、単位セル軸の寸法a、b、及びc、及び単位セル中の軸の傾斜角α、β、及びγによって定義される結晶学的単位セル体積の変化として測定された、電極活物質の体積のより大きな変化は、充電及び放電の過程で、電極における機械的ストレスをもたらし、したがって、サイクル性の低下につながると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電極活物質はコバルト及びマンガンを含有し、本発明の電極活物質は一般式(I)、
Li1+x(NiaCobMncMd)1-xO2 (I)
(式中、
xは0から0.1までの、好ましくは0.05以下までの範囲であり、
aは0.1~0.5の範囲、好ましくは0.1~0.3の範囲であり、
bは0.4~0.9の範囲、好ましくは0.5~0.8の範囲であり、
cは0~0.3の範囲、好ましくは0~0.15の範囲であり、
dは0~0.1の範囲、好ましくは0~0.03の範囲であり、より好ましくはd<0.05であり、さらにより好ましくはd=0であり、
Mは、Al、B、Mg、W、Mo、Ti、Si及びZrから選択され、好ましくはAl、B、Mg、W、Ti、Si及びZrであり、
a+b+c+d=1で、a>cである)
を有する。
【0013】
本発明の他の好ましい実施態様では、c+d>0である。さらにより好ましくは、0.01<c+d<0.15である。
【0014】
本発明の一実施態様において、Co及びNiは、本発明の電極活物質の粒径にわたって均一に分布している。分布は、SEM/EDX又はTEM/EDXによって測定されてもよい。
【0015】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、酸化物、例えばアルミナ、ジルコニア、二酸化チタン又はLiCoO2でコーティングされてもよい。別の実施態様において、本発明の電極活物質はコーティングされていない。
【0016】
多くの元素が遍在している。例えば、ナトリウム及び鉄は、実質的にすべての無機材料において、特定の非常に小さな割合で検出できる。本発明の文脈において、それぞれの本発明の電極活物質のカチオンの0.05モル%未満の割合は無視される。
【0017】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の平均二次粒径(D50)は、2~20μm、好ましくは5~20μm、さらにより好ましくは7~15μmの範囲である。本発明の文脈において、平均粒径(D50)は、例えば、光散乱によって測定することができるような、体積に基づく粒径の中央値を指す。
【0018】
ほとんどの実施態様において、本発明の電極活物質の粒子は一次粒子から構成され、一次粒子は凝集して二次粒子を形成する。本発明の一実施態様において、このような一次粒子は、例えばXRD又は走査型電子顕微鏡(SEM)によって決定した、50nm~500nmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0019】
本発明の一実施態様において、一般式(II)
(Li1+x)y(NiaCobMncMd)1-xO2 (I)
(式中、yは、y・(1+x)が0.35~1の範囲である条件を満たす)
による部分的に脱リチウム化された材料の結晶学的単位セル体積は、それぞれの完全にリチウム化された材料の結晶学的単位セルの体積よりも最大1%小さい。yの値は脱リチウム化の程度を指す。結晶学的単位セルの体積は、X線回折(「XRD」)によって決定されてもよい。それぞれの完全にリチウム化された材料においては、y=1である。
【0020】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、前記本発明の電極活物質に基づいて、Li2CO3として決定した0.01~1質量%の範囲のLi2CO3を含有する。この炭酸塩の含有量は、好ましくは、それぞれのリチウム化遷移金属酸化物を蒸留水中でスラリー化し、続いてろ過し、続いて0.1MのHCl水溶液でろ液を滴定することにより、又は代替として、IR分光法による無機炭素の測定により決定することができる。
【0021】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから、及びそれらの少なくとも2種の組合せ、例えばLi2OとLiOHとの組合せ、又はLiOHとLi2CO3との組合せ、又はLi2OとLi2CO3との組合せ、又はLiOHとLi2OとLi2CO3との組合せから選択された少なくとも1種のリチウム化合物を不純物として含有する。水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウム及びそれらの少なくとも2種の組合せから選択されたリチウム化合物の文脈における不純物という用語は、そのようなリチウム化合物が、出発材料又は少なくとも1種の出発材料中の不純物に由来するか、又はそれぞれのリチウム化遷移金属酸化物の合成中に副反応として形成されたことを意味する。計算の目的のために、炭酸イオンは通常、リチウムカチオンと結合される。したがって、本発明の過程において、Li2CO3は必ずしもLi2CO3の結晶として含有される必要はなく、計算値であってもよい。また、Li2O又はLiOHの量は、Li2CO3として計算されてもよい。水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから、及びそれらの少なくとも2種の組合せから選択されたこのような不純物のリチウム化合物は、本発明の文脈において、「Li2CO3不純物」と称されてもよい。
【0022】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の比表面積(BET、以下、「BET-表面」とも称される)は、0.1~10m2/g、好ましくは0.2~1m2/gの範囲である。BET-表面は、例えばDIN 66131に従って、窒素吸収により決定することができる。
【0023】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、本発明の電極活物質の凝集した一次粒子の形態である。したがって、このような凝集体は本発明の電極活物質の二次粒子とも称される。
【0024】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の一次粒子は、1~10,000nm、好ましくは10~1,000nm、特に好ましくは50~500nmの範囲の平均粒径を有する。平均一次粒径は、例えば、SEM又はTEMにより、又はレーザー散乱技術により、例えば0.5~3バールの範囲の圧力下で、決定することができる。
【0025】
本発明の電極材料は、コーティングされた形式又はコーティングされていない形式で適用されてもよい。例えば、本発明の電極活物質を酸化物で、例えばAl2O3でコーティングすることが可能である。
【0026】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明の電極活物質を含む電極に関する。それらは特に、リチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明の電極を含むリチウムイオン電池は、非常に良好な充電/放電及びサイクル挙動を示している。好ましくは、サイクル安定性及びC-レート容量挙動(C-rate capacity behavior)も改善されている。少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極は、以下に、本発明の電極又は本発明による電極、又は本発明のカソードとも称される。
【0027】
本発明の一実施態様において、本発明の電極は薄膜電極の形態である。薄膜電極は本発明の電極活物質を含む。物理的又は化学的蒸着技術を使用して、薄膜を製造してもよい。電極の膜は、10~10,000nm、好ましくは100~5,000nmの範囲の厚さを有する。
【0028】
本発明の一実施態様において、本発明の電極は、集電器及び、
(A)少なくとも1種の上述した本発明の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー、及び
(D)任意に、固体電解質、
を含有する。
【0029】
本発明の一実施態様において、本発明の電極は、集電器及び、
(A)50~100質量%の本発明の電極活物質、
(B)0~5質量%の導電状態の炭素、
(C)0~5質量%のバインダー、及び
(D)任意に、固体電解質、
を含有し、パーセンテージは(A)+(B)+(C)+(D)の合計に基づくものである。
【0030】
成分(A)、(B)、(C)及び(D)を以下でより詳細に説明する。本発明による電極はさらなる成分を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定されものではない)を含む。
【0031】
本発明による電極は、炭素(B)とも略称される、導電性修飾の炭素をさらに含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイトから選択することができる。炭素(B)は、例えば、本発明による電極材料の調製中に添加することができる。
【0032】
本発明の一実施態様において、炭素(B)の、本発明の電極材料に対する比は、本発明の電極の合計に基づいて、1~15質量%の範囲、好ましくは少なくとも2質量%である。
【0033】
本発明の電極はバインダー(C)をさらに含んでもよい。
【0034】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン、触媒又はフリーラジカル(共)重合によって得られる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、及びエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも好適である。さらに、ポリイソプレン及びポリアクリレートは好適である。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0035】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0036】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合したエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1種のさらなるコモノマー、例えば、α-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、特にアクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸n-ブチル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであってもよい。
【0037】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合したプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1種のさらなるコモノマー、例えば、エチレン及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。好ましくは、ポリプロピレンは、アイソタクチック又は本質的にアイソタクチックポリプロピレンである。
【0038】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン、及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0039】
別の好ましいバインダー(C)はポリブタジエンである。
【0040】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド、及びポリビニルアルコールから選択される。
【0041】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000から1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量MWを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0042】
バインダー(C)は、架橋されている又は架橋されていない(コ)ポリマーであってもよい。
【0043】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1種の(共)重合した(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0044】
好適なバインダー(C)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデン、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリフッ化ビニル及び特にポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0045】
本発明の電極は、電極材料(A)、炭素(B)及びバインダー(C)の合計に基づいて、0~5質量%のバインダー(単数又は複数)(C)を含んでもよい。
【0046】
固体電解質(D)は、少なくとも30℃、好ましくは少なくとも50℃の温度で固体であるリチウムイオン伝導性材料である。固体電解質(D)の例は、好ましくは、リチウムイオン伝導性材料、例えばリチウムイオン伝導性のセラミック、焼結セラミック、ガラスセラミック、ガラス、及びポリマー化合物である。好ましい固体電解質(D)は、25℃で10-7S/cmを超え、好ましくは25℃で1・10-6S/cm~5・10-2S/cmの範囲のリチウムイオンの伝導性を示す。特に、ペロブスカイト、ナシコン、チオリシコン、アルギロダイト、又はガーネット関連の結晶構造を有するセラミック材料は、優れた導電性を提供するが、無機リン及び硫黄含有材料が適している。ポリマーをベースとする電解質は、以下のリストからの少なくとも1種のポリマーを含有する:ポリエーテル、ポリエステル、ポリイミド、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリオレフィン、スチレン系ポリマー、ビニルポリマー、フルオロポリマー、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリシラザン、ホウ素ポリマー、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリフラン、ポリフェニレン、ポリピロール、ポリチオフェン又は前述したポリマーの少なくとも2種の混合物。
【0047】
本発明のさらなる態様は、
(a)少なくとも1つの本発明の電極、
(b)少なくとも1つのアノード、及び
(c)少なくとも1種の電解質、
を含有する電気化学セルである。
【0048】
カソード(a)の実施態様は、上記で詳細に説明した。
【0049】
アノード(b)は、少なくとも1種のアノード活物質、例えば、炭素(グラファイト)、リチウム金属、TiO2、リチウムチタン酸化物、シリコン又はスズを含有してもよい。さらに、アノード(b)は、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルを含有してもよい。
【0050】
電解質(c)は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0051】
電解質(c)のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくはポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートの中から選択される。
【0052】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここで、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。好ましくは、ポリアルキレングリコールは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0053】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、少なくとも400g/molであり得る。
【0054】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、5,000,000g/mol以下、好ましくは2,000,000g/mol以下であり得る。
【0055】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、好ましくは1,2-ジメトキシエタンである。
【0056】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0057】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0058】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン及び特に1,3-ジオキソランである。
【0059】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートである。
【0060】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(III.1)及び(III.2)、
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なることができ、水素及びC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R
2及びR
3は両方ともtert-ブチルではない)
の化合物である。
【0061】
特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、かつR2及びR3はそれぞれ水素であるか、又はR1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0062】
他の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0063】
【0064】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる、1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0065】
電解質(c)はさらに、少なくとも1種の電解質塩を含む。好適な電解質塩は特に、リチウム塩である、好適なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLi(式中、以下のように定義している:
Yが酸素及び硫黄の中から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンの中から選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素の中から選択される場合、t=3である)
の塩である。
【0066】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4の中から選択され、特に好ましくはLiPF6及びLiN(CF3SO2)2である。
【0067】
本発明の一実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1個以上のセパレータ(d)を含む。好適なセパレータ(d)は、金属リチウムに対して反応しないポリマー膜、特に多孔性ポリマー膜である。セパレータ(d)のための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特に膜形成性多孔性ポリエチレン及び膜形成性多孔性ポリプロピレンである。
【0068】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータ(d)は、35~45%の範囲の多孔度を有することができる。好適な細孔径は例えば、30~500nmの範囲である。
【0069】
本発明の他の実施態様において、セパレータ(D)は、無機粒子を充填したPET不織布の中から選択することができる。このようなセパレータは、40~55%の範囲の多孔度を有することができる。好適な細孔径は例えば、80~750nmの範囲である。
【0070】
本発明による電気化学セルは、任意の形状、例えば直方体又は円筒ディスクの形状を有することができるハウジングをさらに含むことができる。1つの変形態様では、ポーチとして構成された金属ホイルがハウジングとして使用される。
【0071】
本発明による電気化学セルは、特に容量損失に関して、非常に良好な充電/放電及びサイクル挙動を提供する。
【0072】
本発明による電池は、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる、互いに組み合わされた2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは、少なくとも1つの本発明による電極を含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は、本発明による電極を含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは、本発明による電極を含有する。
【0073】
本発明は、本発明による電池を、器具、特にモバイル器具に使用する方法をさらに提供する。モバイル器具の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル器具の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は電気手工具、例えば建築部門において、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0074】
本発明は、さらに、以下で本発明の製造方法とも称される、本発明の電極活物質を製造するための方法に関する。本発明の製造方法は、以下でそれぞれに工程(a)、工程(b)及び工程(c)とも称される以下の工程:
(a)Ni、Co及び任意にMn及び任意にMの水酸化物又は炭酸塩を共沈させることにより、粒子状前駆体を製造する工程と、
(b)この粒子状前駆体をリチウムの源と混合する工程と、
(c)工程(b)で得られた混合物をか焼する工程と
を含む。
【0075】
本発明の方法の工程(a)~(c)は、工程(a)、工程(b)及び工程(c)の順序で実行されている。それらは、実質的な中間工程なしで連続して実行されてもよく、又はそれらは、1つ以上の中間工程で実行されてもよい。以下、本発明の方法の実施態様をより詳細に説明する。
【0076】
本発明の方法の工程(a)において、ニッケル、コバルト及び任意にマンガン及び任意にMの水溶性塩を含有する溶液を、塩基、例えば、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属(水素)炭酸塩の溶液と接触させる。アルカリ金属水酸化物の例は水酸化カリウムであり、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属(水素)炭酸塩の例は、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムである。
【0077】
前記接触は、好ましくは撹拌しながら、前記塩基、及びニッケル、コバルト及び任意にマンガンの水溶性塩の1つ以上の溶液を同時に容器中に供給することにより実行することができる。好ましくは、このような接触は、アルカリ金属水酸化物の溶液、及びそれぞれのコバルト、ニッケル及びマンガンの水溶性塩を含有する溶液を、一般式(I)の前記材料のモル比で供給することにより実行される。必要に応じて、Mの塩も前記容器中に添加されてもよい。しかしながら、後の段階で前駆体にMを添加することは十分に可能である。
【0078】
本発明の文脈における水溶性とは、そのような塩が、20℃の蒸留水中で少なくとも20g/lの溶解度を有することを意味し、塩の量は、結晶水及びアクオ錯体に由来する水の省略時に決定される。ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩は、好ましくは、Ni2+、Co2+及びMn2+のそれぞれの水溶性塩であってもよい。
【0079】
本発明の一実施態様において、本発明の方法の工程(a)は、10~85℃の範囲の温度で、好ましくは20~60℃の範囲の温度で実行される。
【0080】
本発明の一実施態様において、本発明の方法の工程(a)は、8~13、好ましくは11~12.5、より好ましくは11.5~12.2の範囲の、それぞれ23℃の母液中で測定したpH値で実行される。
【0081】
本発明の一実施態様において、本発明の方法は、500ミリバール~20バールの範囲の圧力、好ましくは標準圧力で実行される。
【0082】
本発明の一実施態様において、遷移金属に基づいて、過剰の塩基、例えばアルカリ金属水酸化物を使用する。モル過剰は、例えば、1.1:1~100:1の範囲であってもよい。沈殿剤の化学量論的割合で作業することが好ましい。
【0083】
本発明の一実施態様において、アルカリ金属水酸化物の水溶液は、1~50質量%、好ましくは10~25質量%の範囲のアルカリ金属水酸化物の濃度を有する。
【0084】
本発明の一実施態様において、ニッケル、コバルト、及び必要に応じてマンガン塩の水溶液の濃度は、広い範囲内で選択することができる。好ましくは、濃度は、それらが合計で、1kgの溶液当たり1~1.8モルの遷移金属、より好ましくは1kgの溶液当たり1.5~1.7モルの遷移金属の範囲内であるように選択される。ここで使用される「遷移金属塩」とは、ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩を指す。
【0085】
本発明の一実施態様において、本発明の方法の工程(a)は、少なくとも1種の遷移金属の配位子として役立ち得る少なくとも1種の化合物Lの存在下で、例えば少なくとも1種の有機アミン又は特にアンモニアの存在下で実行される。本発明の文脈において、水は配位子と見なされるべきではない。
【0086】
本発明の一実施態様において、0.05~1mol/l、好ましくは0.1~0.7mol/lの範囲内でL、特にアンモニアの濃度を選択する。母液中のNi2+の溶解度が、1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下であるアンモニアの量が特に好ましい。
【0087】
本発明の一実施態様において、混合は、例えば撹拌機を用いて、本発明の方法の工程(a)の間に行われる。少なくとも1W/l、好ましくは少なくとも3W/l、より好ましくは少なくとも5W/lの攪拌機出力を反応混合物中に導入することが好ましい。本発明の一実施態様において、25W/l以下の攪拌機出力を反応混合物中に導入することができる。
【0088】
本発明の特定の実施態様において、バッチ式法の変形態様の場合には、この手順は、バッチ式の操作で最後に向かって攪拌機出力を下げることであり得る。
【0089】
本発明の一実施態様において、母液は、本発明の方法の工程(a)を行う間に排出される。
【0090】
本発明の方法の工程(a)は、1種以上の還元剤の存在下又は非存在下で実行されてもよい。好適な還元剤の例は、ヒドラジン、アスコルビン酸、グルコース、及びアルカリ金属サルファイトである。好ましくは、工程(a)ではいかなる還元剤も使用しない。
【0091】
本発明の方法の工程(a)は、空気下で、不活性ガス雰囲気下で、例えば、希ガス又は窒素雰囲気下で、又は還元雰囲気下で実行することができる。還元ガスの例は、例えばSO2である。不活性ガス雰囲気下で作業することが好ましい。
【0092】
本発明の方法の工程(a)は、ニッケル、コバルト、及びマンガンの混合水酸化物を、それらの母液中でスラリー化される粒子の形態で提供する。前記粒子は、不規則な形状、又は好ましくは球形を有してもよい。球形の粒子には、正確に球形の粒子だけでなく、代表的な試料の少なくとも95%(数平均)の最大直径と最小直径の差が5%以下である粒子も含まれる。
【0093】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、1~40時間、好ましくは2~30時間の持続時間を有する。本発明の他の実施態様において、工程aは連続的に行われ、平均滞留時間は1~40時間、好ましくは2~30時間の範囲である。
【0094】
代替の実施態様において、一方でニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液の添加速度、及び他方でアルカリ金属水酸化物の溶液の添加速度は、本発明の方法の工程(a)の間に変化し、及び/又はニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液の組成物は、工程(a)の間に変更される。後者の実施態様において、少なくとも2種の遷移金属が濃度勾配を示す混合水酸化物の粒子が得られる。
【0095】
このようにして得られた前駆体は、好ましくは除去され、次に酸素の存在下で乾燥される。前駆体の除去は、前記粒子をそれぞれの母液から除去することを指す。除去は、例えば濾過、遠心分離、デカンテーション、噴霧乾燥又は沈降によって、又は前述した操作の2つ以上の組合せによって行うことができる。好適な装置は、例えば、フィルタープレス、ベルトフィルター、スプレードライヤー、ハイドロサイクロン、傾斜清澄器又は前述した装置の組合せである。
【0096】
母液は、水、水溶性塩、及び溶液中に存在する任意のさらなる添加剤を指す。使用可能な水溶性塩は、例えば、遷移金属の対イオンのアルカリ金属塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、特に塩化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、及びまた追加の塩、使用されている任意の添加物、及び任意の過剰のアルカリ金属水酸化物、及びまた配位子Lである。さらに、母液は微量の可溶性遷移金属塩を含んでもよい。
【0097】
粒子をできる限り完全に除去することが望ましい。
【0098】
実際に除去した後、前駆体を洗浄してもよい。洗浄は、例えば、純水で、又はアルカリ金属炭酸塩又はアルカリ金属水酸化物の水溶液で、特に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はアンモニアの水溶液で行うことができる。水、及びアルカリ金属水酸化物の、特に水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
【0099】
洗浄は、例えば、高圧又は高温、例えば30~50℃を用いて行うことができる。他の変形態様において、洗浄を室温で実行する。洗浄の効率は、分析測定により確認することができる。例えば、洗浄水中の遷移金属(単数又は複数)の含有量を分析することができる。
【0100】
洗浄がアルカリ金属水酸化物の水溶液ではなく水で行われる場合、水溶性物質、例えば水溶性塩がまだ洗い流すことができるかどうか、洗浄水の導電率研究を用いて確認することが可能である。
【0101】
除去後、乾燥を酸素の存在下で実行してもよい。この文脈における酸素の存在とは、酸素ガスの存在を指す。したがって、酸素の存在には、空気の、純粋な酸素の、酸素と空気からの混合物の、及び窒素などの不活性ガスで希釈された空気の雰囲気が含まれる。
【0102】
乾燥は、例えば30~150℃の範囲の温度で実行されてもよい。空気で乾燥を実行する場合、多くの場合には、一部の遷移金属が、例えばMn2+からMn4+に及びCo2+からCo3+に部分的に酸化されることが観察され、前駆体の黒化(blackening)が観察される。
【0103】
本発明の方法の工程(b)を実行するために、手順は、例えば、前駆体を、少なくとも1種のリチウムの源と、例えばLi2O、LiOH及びLi2CO3から選択される少なくとも1種の化合物と混合することであってもよく、本発明の文脈において結晶水を無視する。好ましいリチウムの源はLi2CO3である。
【0104】
本発明の方法の工程(b)を実行するために、前駆体の量及びリチウム化合物の量は、所望の式(I)の材料の化学量論を得るように選択される。好ましくは、前駆体の量及びリチウム化合物(単数又は複数)の量は、リチウムの、すべての遷移金属及び任意のMの合計に対するモル比が1:1~1.1:0.9、好ましくは1.02:0.98~1.05:0.95の範囲であるように選択される。
【0105】
工程(b)では混合物を得る。
【0106】
本発明の方法の工程(c)を実行するために、次に、前駆体及びリチウム化合物(単数又は複数)の混合物は、例えば700~950℃、好ましくは800~950℃の範囲の温度でか焼される。
【0107】
本発明の方法の工程(c)は、炉で、例えば回転管炉で、マッフル炉で、振り子炉で、ローラーハース炉で、又はプッシュスルー炉で実行することができる。前述した炉の2種以上の組合せも可能である。
【0108】
本発明の方法の工程(c)は、30分~24時間、好ましくは3~12時間の期間にわたって実行することができる。温度レベルで工程(e)を行うことができるか、又は温度プロファイルを実行することができる。
【0109】
本発明の一実施態様において、工程(c)を酸素含有雰囲気中で実行する。酸素含有雰囲気には、空気の、純粋な酸素の、酸素と空気からの混合物の、及び窒素などの不活性ガスで希釈された空気の雰囲気が含まれる。工程(c)では、酸素、又は空気又は窒素で希釈された酸素の雰囲気、及び21体積%の酸素の最小含有量が好ましい。
【0110】
本発明の一実施態様において、工程(b)と(c)の間に、少なくとも1つのか焼工程(c*)を実行している。工程(c*)は、工程(d)で得られた混合物を300~690℃の範囲の温度で2~24時間加熱すること、及び工程(単数又は複数)(c)で得られた材料を用いて工程(c)を実行することを含む。
【0111】
本発明の一実施態様において、工程(b)と(c)の間に、2つの仮か焼工程を実行している。前記2つの仮か焼工程は、工程(b)で得られた混合物を300~400℃の範囲の温度で2~12時間加熱すること、及び次にこのようにして得られた材料を500~700℃の範囲の温度で2~12時間加熱することを含む。
【0112】
温度変化の間、1K/分から10K/分までの加熱速度を適用することができ、2~5K/分が好ましい。
【0113】
工程(c)の後、本発明の電極活物質を得る。
【0114】
実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0115】
一般:PVdF:ポリフッ化ビニリデン
ELY.1:エチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの1:1(w/w)の混合物中の1MのLiPF6
ELY.2:エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの3:7(w/w)の混合物中の1MのLiPF6。
【0116】
実施例1:Li1.03(Ni0.3Co0.6Mn0.1)0.97O2
混合金属水酸化物前駆体の合成:
遷移金属硫酸塩水溶液及びアルカリ性沈殿剤を、1.8の流量比及び12時間の滞留時間を得る総流量で撹拌タンク反応器中に同時に供給することにより、混合金属水酸化物前駆体材料を製造した。遷移金属硫酸塩水溶液は、3:6:1のモル比及び1.65mol/kgの合計遷移金属濃度で、Ni、Co及びMnを含有した。アルカリ性沈殿剤は、8.5の質量比での、25質量%の水酸化ナトリウムの水溶液及び25質量%のアンモニア溶液からなった。水酸化ナトリウム水溶液の追加の供給により、pH値を12.0に一定に維持した。反応器から連続的にオーバーフローするスラリーの濾過、蒸留水での洗浄、空気中120℃で12時間の乾燥、及びふるい分けにより、混合金属水酸化物前駆体を得た。
【0117】
本発明の電極活物質CAM.1の合成:
上記の記載により得られた混合金属水酸化物前駆体をLi2CO3と混合し、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03のモル比を得た。この混合物を、以下の加熱プロファイルで強制空気流中で加熱した:加熱速度3K/分、350℃で4時間、675℃で4時間、900℃で6時間、室温まで自然冷却。本発明の電極活物質CAM.1を得た。
【0118】
電極の調製:
KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、Alホイル(20μm、Nippon)にスラリーをキャスティングすることにより、電極を調製した。カソード材料(94質量%)、Super C65(1質量%、Timcal)及びSFG6L(2質量%、Timcal)導電性炭素添加剤、及びSolef(登録商標)5130 PVdFバインダー(3質量%、Solvay)を1-エチル-2-ピロリドン(NEP)中に分散することにより、スラリーを得た。
【0119】
特性:
コイン型ハーフセルで、25℃で電気化学的特性評価を行った。250μLの電解質ELY.1又はELY.2を使用して、それぞれ直径13、17及び13mmのカソード、ガラスマイクロファイバーセパレータ(GF/D、GE Healthcare Life Sciences、Whatman)、及びリチウムホイルアノード(Rockwood Lithium Inc.)を積み重ねることにより、Ar充填グローブボックス(MBraun)中でセルを組み立てた。面積負荷(areal loadings)は、C/10及び4.3Vの上限カットオフ電圧で、約2.0mAh/cm2であった。
【0120】
その場でのXRDにおいて、250μLのELY.1を使用して、カソード(20mm×40mm)、Celgard 2500ポリプロピレンセパレータ(30mm×50mm)及びリチウムホイルアノード(24mm×44mm)を積み重ねることにより、ドライルーム中でポーチ型セルを組み立てた。XRD前に、3.0~4.3Vの範囲の電圧で電極を3サイクル定電流的にサイクルした。次に、セルを回折計に挿入し、測定中にC/10で1サイクル充電/放電した。電極材料の熱力学的平衡を可能にするために、カットオフ電圧での定電圧工程を1時間適用した。90秒の露光時間で透過形状で、2D回折画像を収集した。2つの連続した画像の強度を合計し、次に統合して、さらに評価するための1Dパターンを得、180秒の時間分解能(time resolution)を得た。ソフトウェアTOPAS-Academicバージョン5を使用して、リートベルト法により、データ分析を実行した。機器分解能関数を、アニールされたCeO2試料から決定し、(Thompson-Cox-Hastings)疑似Voigtプロファイル関数によって記述した。分析は、格子パラメーターa及びc、及び酸素位置の原子座標zの精密化を含んだ。TOPASに実装されているように、畳み込みベースのプロファイルフィッティングにより、拡大効果(見かけの結晶子サイズ、微小ひずみなど)を説明した。このアプローチは、Balzarらによって記載されたDouble-Voigt法と同等であり、回折線の積分幅に基づいた。10項のチェビシェフ多項式関数を使用して、バックグラウンド精密化(Background refinement)を行った。ゼロ点補正(Norbyによる)を使用して、カソード材料とAl電流集電器の両方の試料変位誤差を補正した。
【0121】
実施例2(Li1.03(Ni0.2Co0.7Mn0.1)0.97O2)
混合金属水酸化物前駆体の合成:
遷移金属水溶液及びアルカリ性沈殿剤を、1.8の流量比及び12時間の滞留時間を得る総流量で撹拌タンク反応器中に同時に供給することにより、混合金属水酸化物前駆体材料を製造した。遷移金属溶液は、2:7:1のモル比及び1.65mol/kgの合計遷移金属濃度で、Ni、Co及びMnを含有した。アルカリ性沈殿剤は、8.5:1の質量比での、25質量%の水酸化ナトリウムの水溶液及び25質量%のアンモニア溶液からなった。水酸化ナトリウム水溶液の追加の供給により、pH値を12.0に一定に維持した。反応器から連続的にオーバーフローする懸濁液の濾過、蒸留水での洗浄、空気中120℃で12時間の乾燥、及びふるい分けにより、混合金属水酸化物前駆体を得た。
【0122】
本発明の電極活物質CAM.2の合成:
上記の記載により得られた混合金属水酸化物前駆体をLi2CO3と混合し、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03のモル比を得た。この混合物を、以下の加熱プロファイルで環境空気の強制流中で加熱した:加熱速度3K/分、350℃で4時間、675℃で4時間、900℃で6時間、自然冷却。本発明の電極活物質CAM.2を得た。実施例1と同様に、電極を調製し、テストした。
【0123】
比較例3(NCM523)
混合金属水酸化物前駆体の合成:
上記の記載によるが、以下の組成:(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2を有する混合金属水酸化物前駆体。
【0124】
リチウム化遷移金属酸化物の合成:
混合金属水酸化物前駆体をLi2CO3と混合し、Li/(Ni+Co+Mn)=1.08のモル比を得た。この混合物を、以下の加熱プロファイルで環境空気の強制流中で加熱した:加熱速度2.5K/分、350℃で4.8時間、650℃で6時間、900℃で7.2時間、1K/分で冷却。C-CAM.3を得た。
【0125】
電極の調製
実施例1と同様に電極を調製したが、スラリーの組成物は異なった。カソード材料(93質量%)、Super C65(1.5質量%、Timcal)及びSFG6L(2.5質量%、Timcal)導電性炭素添加剤、及びSolef(登録商標)5130 PVdFバインダー(3質量%、Solvay)をN-エチルピロリドン中に分散することにより、スラリーを得た。テスト:実施例1を参照されたい。
【0126】
比較例4(NCM111)
混合金属水酸化物前駆体の合成:
上記の記載によるが、以下の組成:(Ni0.33Co0.33Mn0.33)(OH)2を有する混合金属水酸化物前駆体。
【0127】
リチウム化遷移金属酸化物の合成:
混合金属水酸化物前駆体をLi2CO3と混合し、Li/(Ni+Co+Mn)=1.08のモル比を得た。この混合物を、以下の加熱プロファイルで環境空気の強制流中で加熱した:加熱速度2.5K/分、350℃で4.8時間、650℃で6時間、900℃で7.2時間、1K/分で冷却。C-CAM.4を得た。実施例1と同様に、電極を調製し、テストした。
【0128】
結果を表1にまとめる。
【0129】
【0130】
表に記載されている「体積変化」は、リチウムアノード及び対応するNCM材料を含むカソードを備えるセルをそれぞれ4.4V及び4.5Vの電圧に充電した場合の、結晶学的単位セル体積の相対的変化を指す。「放電容量」は、セルをそれぞれ4.4V及び4.5Vの所定の電圧に充電した後の、対応する材料の比放電容量である。
【0131】
yの値は、4.5Vで0.35~1の範囲であった。