(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用多孔質層
(51)【国際特許分類】
H01M 50/443 20210101AFI20221207BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221207BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20221207BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221207BHJP
【FI】
H01M50/443 C
H01M50/443 E
H01M50/414
H01M50/423
H01M50/417
H01M50/457
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2018114932
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 玄樹
(72)【発明者】
【氏名】倉金 孝輔
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-287888(JP,A)
【文献】特開2015-201323(JP,A)
【文献】特開2010-278018(JP,A)
【文献】特開2016-181491(JP,A)
【文献】特開2016-126998(JP,A)
【文献】特開2008-152985(JP,A)
【文献】特開2011-029122(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083546(WO,A1)
【文献】特開平09-330694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機フィラーおよびバインダー樹脂を含む非水電解液二次電池用多孔質層であって、
前記有機フィラーの陽イオン交換容量が2.0meq/g以上
、5.0meq/g以下である、非水電解液二次電池用多孔質層。
【請求項2】
前記有機フィラーの含有量が、前記非水電解液二次電池用多孔質層の全重量に対して、60重量%以上、99.5重量%以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用多孔質層。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、アラミド樹脂である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用多孔質層。
【請求項4】
ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に、請求項1~3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用多孔質層が積層している、非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項5】
正極と、請求項1~3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用多孔質層、または、請求項4に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されている、非水電解液二次電池用部材。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用多孔質層、または、請求項4に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用多孔質層に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用され、また最近では車載用の電池として開発が進められてきている。
【0003】
その非水電解液二次電池の部材として、耐熱性に優れたセパレータの開発が進められている。
【0004】
また、耐熱性に優れたセパレータを構成する非水電解液二次電池用多孔質層として、有機フィラーを含む多孔質層が開発されている。その一例として、例えば、特許文献1には、正極と負極との間に、有機物からなる粒子状樹脂とバインダー樹脂とを有する多孔質層を設けた非水電解液二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は、大電流で電池を充放電させた際の入出力特性である、所謂ハイレート特性の観点からは改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[5]に示す発明を含む。
[1]有機フィラーおよびバインダー樹脂を含む非水電解液二次電池用多孔質層であって、
前記有機フィラーの陽イオン交換容量が0.5meq/g以上である、非水電解液二次電池用多孔質層。
[2]前記有機フィラーの含有量が、前記非水電解液二次電池用多孔質層の全重量に対して、60重量%以上、99.5重量%以下である、[1]に記載の非水電解液二次電池用多孔質層。
[3]ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に、[1]または[2]に記載の非水電解液二次電池用多孔質層が積層している、非水電解液二次電池用積層セパレータ。
[4]正極と、[1]もしくは[2]に記載の非水電解液二次電池用多孔質層、または、[3]に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されている、非水電解液二次電池用部材。
[5][1]もしくは[2]に記載の非水電解液二次電池用多孔質層、または、[3]に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用多孔質層は、ハイレート特性に優れる非水電解液二次電池を提供することができるとの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
[非水電解液二次電池用多孔質層]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用多孔質層(以下、単に「多孔質層」とも称する)は、有機フィラーおよびバインダー樹脂を含む非水電解液二次電池用多孔質層であって、前記有機フィラーの陽イオン交換容量が0.5meq/g以上である。
【0011】
本発明の一実施形態において、「有機フィラーの陽イオン交換容量」は、単位重量当たりの有機フィラーと反応し得る陽イオンの量を表すパラメータである。言い換えると、前記「有機フィラーの陽イオン交換容量」は、非水電解液二次電池中において、有機フィラーが、非水電解液中の陽イオンと陽イオン交換反応することによって、当該非水電解液中の陽イオンをトラップする能力の度合いを表す指標である。有機フィラーの陽イオン交換容量は、有機フィラーにおける、陽イオン交換反応を行う基の量が多いほど大きくなる。有機フィラーにおける、前記陽イオン交換反応を行う基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、およびその塩等を挙げることができる。
【0012】
本発明の一実施形態における「有機フィラーの陽イオン交換容量」は、以下の(1)~(4)に示す方法にて測定される。なお、本発明の一実施形態における「有機フィラーの陽イオン交換容量」の測定は、通常、室温にて行われる。
(1)有機フィラーに酸を加えることにより、陽イオン交換反応を行う基をH型にする。
(2)工程(1)にてH型とした有機フィラーに一定量のアルカリを加えて反応させる。
(3)工程(2)にて消費されたアルカリの量を、酸による中和滴定によって決定する。
(4)工程(3)の結果から、以下の式に基づき、「有機フィラーの陽イオン交換容量」を算出する。
有機フィラーの陽イオン交換容量(meq/g)=[{(前記アルカリの濃度(mol/L))×(前記アルカリの使用量(mL))×(前記アルカリの価数)×(前記アルカリの力価)}-{(前記滴定に使用した酸の濃度(mol/L))×(前記滴定に使用した酸の使用量(mL))×(前記滴定に使用した酸の価数)×(前記滴定に使用した酸の力価)}]/{有機フィラーの重量(g)}
工程(1)にて使用される酸は、特に限定されないが、例えば、2mol/Lの塩酸(HCL)等が挙げられる。
【0013】
工程(2)にて使用されるアルカリは、特に限定されないが、例えば、1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)等が挙げられる。
【0014】
工程(3)にて滴定に使用される酸は、特に限定されないが、例えば、1mol/Lの塩酸(HCL)等が挙げられる。
【0015】
工程(3)における滴定には、例えば、市販の自動滴定装置を使用することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る多孔質層における有機フィラーの陽イオン交換容量は、0.5meq/g以上であり、0.7meq/g以上であることが好ましく、1.0meq/g以上であることがより好ましく、2.0meq/g以上であることがさらに好ましい。また、本発明の一実施形態に係る多孔質層における有機フィラーの陽イオン交換容量は、より良好な電池特性を得るという観点から、5.0meq/g以下であることが好ましい。有機フィラーの陽イオン交換容量が5.0meq/g以下であることが、有機フィラーの吸湿性が低いという点でも好ましく、その結果、電池内への水の持ち込みを抑制でき、より良好な電池特性を得ることができる。
【0017】
非水電解液二次電池において、特にハイレート条件にて充放電を行う場合には、正極と負極との間に電荷担体である陽イオンの濃度勾配が生じる場合がある。この際、陽イオンは、電解液中に陽イオンを放出する側の電極近傍に偏在する。一方で陽イオンを受け入れる側の電極近傍では、陽イオンが不足するため、電極での電荷の移動ができなくなり、結果として十分に充放電ができなくなる。本発明の一実施形態に係る多孔質層は、有機フィラーの陽イオン交換容量が0.5meq/g以上であることによって、当該多孔質層の中に電荷担体である陽イオンをトラップし、貯蔵(プール)しておくことができるため、ハイレート条件での充放電時の前記正負極間の陽イオン濃度勾配を緩和し、前記陽イオン受入側の電極近傍での陽イオンの不足を低減できる。その結果、非水電解液二次電池のハイレート特性は向上する。なお、前記陽イオンは、例えば非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池である場合は、Li+である。
【0018】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、非水電解液二次電池を構成する部材として、ポリオレフィン多孔質フィルムと、正極および負極の少なくともいずれか一方との間に配置され得る。前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、正極および負極の少なくともいずれか一方の活物質層上に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと、正極および負極の少なくともいずれか一方との間に、これらと接するように配置されてもよい。ポリオレフィン多孔質フィルムと正極および負極の少なくともいずれか一方との間に配置される多孔質層は1層でもよく2層以上であってもよい。
【0019】
ポリオレフィン多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、ポリオレフィン多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層される。より好ましくは、当該多孔質層は、正極と接する面に積層される。多孔質層は、絶縁性の多孔質層であることが好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体或いは液体が通過可能となった層である。また、本発明の一実施形態に係る多孔質層が非水電解液二次電池用セパレータを構成する部材として使用される場合、前記多孔質層は、当該セパレータ(積層体)の最外層として、電極と接する層となり得る。
【0021】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、有機フィラーを含む。ここで、有機フィラーは、有機物からなる微粒子を意味する。前記有機フィラーは、陽イオン交換容量が0.5meq/g以上であれば、特に限定されない。前記有機フィラーを構成する有機物の具体例としては、例えば、レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂(RF樹脂)、フェノール樹脂、アルカリ金属塩化されたスルホ基を有するポリスチレンまたはスチレンとジビニルベンゼンの共重合体、ポリアクリル酸アルカリ金属塩、カルボン酸変性された含フッ素樹脂およびセルロース等を挙げることができる。前記有機フィラーは、電解液への耐性の観点から熱硬化樹脂などの架橋した重合体であることが好ましく、架橋した硬化物であることがより好ましい。中でも、陽イオン交換量と電解液への耐性との観点から、前記有機フィラーはレゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂(RF樹脂)が好ましい。
【0022】
前記有機フィラーは、1種の有機物からなるものでもよいし、2種以上の有機物の混合物からなるものでもよい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、有機フィラーの他に、バインダー樹脂を含む。前記バインダー樹脂は、前記有機フィラー同士、前記有機フィラーと正極もしくは負極、または、前記有機フィラーとポリオレフィン多孔質フィルムとを接着させる樹脂として機能し得る。
【0024】
前記バインダー樹脂は、非水電解液二次電池の非水電解液に不溶であり、また、当該非水電解液二次電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。前記バインダー樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびエチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フッ化ビニル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、およびエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素樹脂;前記含フッ素樹脂の中でもガラス転移温度が23℃以下である含フッ素ゴム;芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂);スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステル等の融点またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれるバインダー樹脂としては、非水溶性ポリマーをも好適に用いることができる。言い換えると、本発明の一実施形態に係る多孔質層を製造する際に、例えば、アクリレート系樹脂等の非水溶性ポリマーを水系溶媒に分散させたエマルジョンを使用して、前記バインダー樹脂としての前記非水溶性ポリマーおよび前記有機フィラーを含む、本発明の一実施形態に係る多孔質層を製造することも好ましい。
【0026】
ここで、非水溶性ポリマーとは、水系溶媒には溶解せず、粒子となって水系溶媒に分散するポリマーである。「非水溶性ポリマー」とは、25℃において、当該ポリマー0.5gを水100gと混合した際に、不溶分が90重量%以上となるポリマーのことをいう。一方、「水溶性ポリマー」とは、25℃において、当該ポリマー0.5gを水100gと混合した際に、不溶分が0.5重量%未満となるポリマーのことをいう。前記非水溶性ポリマーの粒子の形状は特に限定されるものではないが、球状であることが望ましい。
【0027】
非水溶性ポリマーは、例えば、後述する単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合し、重合物の粒子とすることにより製造される。
【0028】
前記非水溶性ポリマーの単量体としては、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0029】
水系溶媒は、水を含み、前記非水溶性ポリマー粒子の分散が可能なものであれば格別限定されない。
【0030】
水系溶媒は、水へ任意の割合で溶解し得るメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N-メチルピロリドンなどの有機溶媒を含んでもよい。また、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩などの分散剤等を含んでもよい。
【0031】
なお、本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれるバインダー樹脂は、1種類でもよく、2種類以上のバインダー樹脂の混合物でもよい。
【0032】
また、前記芳香族ポリアミドとしては、具体的には、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2-クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等が挙げられる。このうち、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)がより好ましい。
【0033】
前記バインダー樹脂のうち、ポリオレフィン、含フッ素樹脂、芳香族ポリアミド、水溶性ポリマー、および、水系溶媒に分散された粒子状の非水溶性ポリマーがより好ましい。中でも、多孔質層が正極に対向して配置される場合には、電池作動時の酸性劣化による、非水電解液二次電池のレート特性、ハイレート特性、および、例えば液抵抗といった抵抗特性等の各種性能を維持し易いため、含フッ素樹脂がさらに好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が特に好ましい。前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンと、ヘキサフロロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレンおよびフッ化ビニルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーとの共重合体、並びに、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ここで、ポリフッ化ビニリデンは、フッ化ビニリデンの単独重合体である。
【0034】
水溶性ポリマー、および、水系溶媒に分散された粒子状の非水溶性ポリマーは、多孔質層を形成するときの溶媒として水を用いることができるため、プロセスや環境負荷の面からより好ましい。前記水溶性ポリマーは、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウムがさらに好ましく、セルロースエーテルが特に好ましい。
【0035】
セルロースエーテルとしては、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、長時間にわたる使用における劣化が少なく、化学的な安定性に優れているCMCおよびHECがより好ましく、CMCが特に好ましい。
【0036】
また、前記水系溶媒に分散された粒子状の非水溶性ポリマーは、有機フィラー間の接着性の観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリレート系単量体の単独重合体、もしくは、2種類以上の単量体の共重合体であることが好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態に係る多孔質層におけるバインダー樹脂の含有量の下限値は、前記多孔質層の全重量に対して、0.5重量%より大きいことが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、2重量%以上であることがさらに好ましい。一方、本発明の一実施形態に係る多孔質層におけるバインダー樹脂の含有量の上限値は、前記多孔質層の全重量に対して、40重量%未満であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。前記バインダー樹脂の含有量が0.5重量より大きいことは、有機フィラー間の密着性を向上させる観点、すなわち前記多孔質層からの有機フィラーの脱落防止の観点から好ましく、前記バインダー樹脂の含有量が40重量%未満であることは、電池特性(特にイオン透過抵抗)および耐熱性の観点から好ましい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る多孔質層において、前記有機フィラーの含有量は、前記多孔質層の全重量に対して、60重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。また、前記有機フィラーの含有量は、多孔質層の全重量に対して、99.5重量%以下であることが好ましく、99重量%以下であることがより好ましく、98重量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記有機フィラーの含有量が60重量%以上であることにより、前記多孔質層は耐熱性に優れる。また、前記有機フィラーの含有量が99.5重量%以下であることにより、前記多孔質層はフィラー間の密着性に優れる。さらに、前記有機フィラーを含有することにより、前記多孔質層を含む非水電解液二次電池用セパレータの滑り性および耐熱性を向上し得る。
【0040】
本発明の一実施形態に係る多孔質層において、前記有機フィラーの体積粒度分布におけるD50の値(以下、単に「D50」とも称する)は、3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。また、前記有機フィラーのD50は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態に係る多孔質層において、前記有機フィラーのD50が上述の好ましい範囲内であることによって、前記多孔質層は、良好な接着性、良好な滑り性および良好な通気性を確保することができ、かつ、優れた成形性を備え得る。
【0042】
前記有機フィラーの形状は、任意であり、特に限定されない。前記有機フィラーの形状は、粒子状であり得、例えば、球形状;楕円形状;板状;棒状;不定形状;繊維状並びにピーナッツ状およびテトラポット状のように球状や柱状の粒子が結合した形状が挙げられる。
【0043】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、上述の有機フィラーおよびバインダー樹脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、例えば、無機フィラーを含んでもよい。当該無機フィラーとしては、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。
【0044】
前記無機フィラーは、1種類のみ含んでいてもよく、2種類以上を混合して含んでいてもよい。
【0045】
前記その他の成分としては、例えば、界面活性剤およびワックスなどを挙げることができる。また、前記その他の成分の含有量は、多孔質層の全重量に対して、0重量%~10重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る多孔質層の膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、一層当たり、0.5μm~20μmの範囲であることが好ましく、一層当たり、0.5μm~10μmの範囲であることがより好ましく、一層当たり、1μm~7μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、イオン透過性の観点から、十分に多孔化された構造であることが好ましい。具体的には、空孔率が30%~60%の範囲であることが好ましい。
【0048】
前記空孔率の測定法としては、例えば、一定の体積(8cm×8cm×膜厚dcm)の多孔質層の重量W(g)、当該多孔質層の膜厚d(μm)および多孔質層の真比重ρ(g/cm3)から、以下の式に基づき算出する方法を挙げることができる。
空孔率(%)=(1-{(W/ρ)/(8×8×d)})×100
また、本発明の一実施形態に係る多孔質層は、平均孔径が20nm~100nmの範囲であることが好ましい。
【0049】
前記平均孔径の測定法は、例えば、本発明の一実施形態に係る多孔質層を上面から走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、無作為に選択した複数の空孔における孔径を測定し、その平均値を取ることによって算出することができる。
【0050】
<非水電解液二次電池用多孔質層の製造方法>
本発明の一実施形態に係る多孔質層の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基材上に、以下に示す工程(1)~(3)の何れかの1つの工程を用いて、前記有機フィラーと、前記バインダー樹脂とを含む多孔質層を形成する方法を挙げることができる。以下に示す工程(2)および工程(3)の場合においては、前記バインダー樹脂を析出させた後にさらに乾燥させ、溶媒を除去することによって、製造され得る。工程(1)~(3)における塗工液は、前記有機フィラーが分散しており、かつ、前記バインダー樹脂が溶解している状態であってもよい。前記基材は、特に限定されないが、例えば、正極、負極、および、後述する本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの基材であるポリオレフィン多孔質フィルムなどを挙げることができる。なお、前記溶媒は、バインダー樹脂を溶解させる溶媒であるとともに、バインダー樹脂または有機フィラーを分散させる分散媒であるとも言える。
【0051】
(1)前記多孔質層を形成する前記有機フィラーおよび前記バインダー樹脂を含む塗工液を、基材上に塗工し、前記塗工液中の溶媒を乾燥除去することによって多孔質層を形成させる工程。
【0052】
(2)前記多孔質層を形成する前記有機フィラーおよび前記バインダー樹脂を含む塗工液を、前記基材の表面に塗工した後、その基材を前記バインダー樹脂に対して貧溶媒である析出溶媒に浸漬することによって、前記バインダー樹脂を析出させ、多孔質層を形成する工程。
【0053】
(3)前記多孔質層を形成する前記有機フィラーおよび前記バインダー樹脂を含む塗工液を、前記基材の表面に塗工した後、低沸点有機酸を用いて、前記塗工液の液性を酸性にすることによって、前記バインダー樹脂を析出させ、多孔質層を形成する工程。
【0054】
前記塗工液における溶媒は、前記基材に悪影響を及ぼさず、前記バインダー樹脂を均一かつ安定に溶解または分散し、前記有機フィラーを均一かつ安定に分散させることができる溶媒であることが好ましい。前記溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、および水が挙げられる。
【0055】
前記析出溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールまたはt-ブチルアルコールを用いることが好ましい。
【0056】
前記工程(3)において、低沸点有機酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、酢酸等を使用することができる。
【0057】
多孔質層の塗工量(目付)は、電極との接着性およびイオン透過性の観点から、前記基材の片面において、通常、固形分で0.5~20g/m2であることが好ましく、0.5~10g/m2であることがより好ましく、0.5g/m2~7g/m2の範囲であることが好ましい。すなわち、得られる多孔質層の塗工量(目付)が上述の範囲となるように、前記基材上に塗布する前記塗工液の量を調節することが好ましい。
【0058】
前記工程(1)~(3)において、多孔質層を形成するバインダー樹脂を溶解または分散させた溶液中のバインダー樹脂量を変化させることにより、電解液に浸漬した後の多孔質層1平方メートル当たりに含まれる、電解液を吸収したバインダー樹脂の体積を調整することができる。
【0059】
また、多孔質層を形成するバインダー樹脂を溶解または分散させる溶媒量を変化させることにより、電解液に浸漬した後の多孔質層の空孔率、平均孔径を調整することができる。
【0060】
前記塗工液の好適な固形分濃度は、フィラーの種類などによって変化し得るが、一般には、10重量%より大きく40重量%以下であることが好ましい。
【0061】
前記塗工液を基材上に塗工する際の塗工せん断速度は、フィラーの種類などによって変化し得るが、一般には、2(1/s)以上であることが好ましく、4(1/s)~50(1/s)であることがより好ましい。
【0062】
[非水電解液二次電池用積層セパレータ]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用多孔質層を積層している。
【0063】
<ポリオレフィン多孔質フィルム>
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルム(以下、単に「多孔質フィルム」とも称する)は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体および液体を通過させることが可能となっている。前記多孔質フィルムは、単独で非水電解液二次電池用セパレータとなり得る。また、上述の多孔質層が積層された非水電解液二次電池用積層セパレータの基材ともなり得る。
【0064】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面上に、前記多孔質層が積層されてなる積層体を、本明細書において、「非水電解液二次電池用積層セパレータ」とも称する。また、本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムの他に、接着層、耐熱層、保護層等のその他の層をさらに備えていてもよい。
【0065】
多孔質フィルムに占めるポリオレフィンの割合は、多孔質フィルム全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。また、前記ポリオレフィンには、重量平均分子量が5×105~15×106の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィンに重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、非水電解液二次電池用セパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0066】
熱可塑性樹脂である前記ポリオレフィンとしては、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-ヘキセン等の単量体を重合してなる、単独重合体または共重合体が挙げられる。前記単独重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンを挙げることができる。また、前記共重合体としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体を挙げることができる。
【0067】
このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止することができるため、ポリエチレンがより好ましい。なお、この過大電流が流れることを阻止することをシャットダウンともいう。前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0068】
多孔質フィルムの膜厚は、4~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、6~15μmであることがさらに好ましい。
【0069】
多孔質フィルムの単位面積当たりの目付は、強度、膜厚、重量およびハンドリング性を考慮して適宜決定することができる。ただし、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができるように、前記目付は、4~20g/m2であることが好ましく、4~12g/m2であることがより好ましく、5~10g/m2であることがさらに好ましい。
【0070】
多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で30~500sec/100mLであることが好ましく、50~300sec/100mLであることがより好ましい。多孔質フィルムが前記透気度を有することにより、充分なイオン透過性を得ることができる。多孔質フィルムに上述の多孔質層を積層させた非水電解液二次電池用積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30~1000sec/100mLであることが好ましく、50~800sec/100mLであることがより好ましい。非水電解液二次電池用積層セパレータは、前記透気度を有することにより、非水電解液二次電池において、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0071】
多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止する機能を得ることができるように、20~80体積%であることが好ましく、30~75体積%であることがより好ましい。また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極および負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.30μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましく、0.10μm以下であることが更に好ましい。
【0072】
[ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法]
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、ポリオレフィン系樹脂と、無機充填剤および可塑剤等の孔形成剤と、任意で酸化防止剤等を混練した後に押し出すことで、シート状のポリオレフィン樹脂組成物を作製する。適当な溶媒にて当該孔形成剤を当該シート状のポリオレフィン樹脂組成物から除去した後、当該孔形成剤が除去されたポリオレフィン樹脂組成物を延伸することで、ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することができる。
【0073】
上記無機充填剤としては、特に限定されるものではなく、無機フィラー、具体的には炭酸カルシウム等が挙げられる。上記可塑剤としては、特に限定されるものではなく、流動パラフィン等の低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0074】
具体的には、以下に示すような工程を含む方法を挙げることができる。
(A)超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリエチレンと、炭酸カルシウムまたは可塑剤等の孔形成剤と、酸化防止剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(B)得られたポリオレフィン樹脂組成物を一対の圧延ローラで圧延し、速度比を変えた巻き取りローラで引っ張りながら段階的に冷却し、シートを成形する工程、
(C)得られたシートの中から適当な溶媒にて孔形成剤を除去する工程、
(D)孔形成剤が除去されたシートを適当な延伸倍率にて延伸する工程。
【0075】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、例えば、上述の「多孔質層の製造方法」において、前記塗工液を塗布する基材として、上述のポリオレフィン多孔質フィルムを使用する方法を挙げることができる。
【0076】
[非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、正極と、本発明の一実施形態に係る多孔質層、または、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる。
【0077】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、本発明の一実施形態に係る多孔質層、または、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを含む。
【0078】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の一実施形態に係る多孔質層と、ポリオレフィン多孔質フィルムと、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材、すなわち、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材を備えるリチウムイオン二次電池である。なお、多孔質層以外の非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0079】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、通常、負極と正極とが、本発明の一実施形態に係る多孔質層または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池であることが好ましい。なお、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、または挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0080】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材は、陽イオン交換容量が0.5meq/g以上の有機フィラーを含む、本発明の一実施形態に係る多孔質層を備えていることから、非水電解液二次電池に組み込まれた際に、当該非水電解液二次電池のハイレート特性を向上させることができるという効果を奏する。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、陽イオン交換容量が0.5meq/g以上の有機フィラーを含む、本発明の一実施形態に係る多孔質層を備えていることから、ハイレート特性に優れるという効果を奏する。
【0081】
<正極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材および非水電解液二次電池における正極としては、一般に非水電解液二次電池の正極として使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、正極活物質および結着剤を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0082】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。前記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα-NaFeO2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。
【0083】
さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1~20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるのでさらにより好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0084】
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。前記導電材は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-フッ化ビニルの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0086】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0087】
前記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0088】
シート状の正極の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0089】
<負極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材および非水電解液二次電池における負極としては、一般に非水電解液二次電池の負極として使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、負極活物質および結着剤を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0090】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg2Si、NiSi2)、リチウム窒素化合物(Li3-xMxN(M:遷移金属))等が挙げられる。前記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましい。また、黒鉛とシリコンの混合物であってもよく、その黒鉛を構成する炭素(C)に対するSiの比率が5%以上である負極活物質が好ましく、10%以上である負極活物質がより好ましい。
【0091】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0092】
前記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0093】
シート状の負極の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは前記導電剤、および、前記結着剤が含まれる。
【0094】
<非水電解液>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であり、特に限定されないが、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4等が挙げられる。前記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。前記リチウム塩のうち、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、およびLiC(CF3SO2)3からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0095】
本発明における非水電解液を構成する有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、前記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。前記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0096】
<非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材の製造方法としては、例えば、前記正極と、本発明の一実施形態に係る多孔質層または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とをこの順で配置する方法が挙げられる。
【0097】
また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、前記方法にて非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造することができる。
【0098】
非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【0099】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0101】
[物性の測定]
実施例および比較例における非水電解液二次電池用積層セパレータ、A層(ポリオレフィン多孔質フィルム)、B層(多孔質層)および非水電解液二次電池の物性等を、以下の方法で測定した。
【0102】
(1)膜厚(単位:μm):
非水電解液二次電池用積層セパレータ全体の膜厚、A層の膜厚、およびB層の膜厚は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機を用いて測定した。
【0103】
(2)目付(単位:g/m2):
非水電解液二次電池用積層セパレータから、一辺の長さ6.4cm×4cmの長方形のサンプルを切り取り、当該サンプルの重量W(g)を測定した。そして、次式
目付(g/m2)=W/(0.064×0.04)
に従い、非水電解液二次電池用積層セパレータの目付を算出した。同様にして、A層の目付を算出した。B層の目付は、非水電解液二次電池用積層セパレータの目付からA層の目付を差し引くことにより算出した。
【0104】
(3)平均粒子径、粒度分布(D10,D50,D90(体積基準))(単位:μm):
有機フィラーの粒子径を、日揮装株式会社製のMICROTRAC(MODEL:MT-3300EXII)を用いて測定した。
【0105】
(4)陽イオン交換容量の測定(単位:meq/g)
有機フィラー1.0gをビーカーに精秤し、2mol/Lの塩酸を10g添加し、20分間撹拌した。撹拌後、有機フィラーを濾別し、イオン交換水200gにて有機フィラーを洗浄することにより、有機フィラー表面に付着した余剰なHClを除去した。洗浄後の有機フィラーをビーカーに移し、0.1mol/LのNaOH水溶液を50mL加え30分間撹拌した。その後有機フィラーを濾別し、エタノール水40gで有機フィラーを洗浄した。得られた濾液を自動滴定装置(京都電子工業製:AT-510)を用いて0.1mol/Lの塩酸で滴定し、以下の式から陽イオン交換容量を算出した。
陽イオン交換容量(meq/g)={(0.1×NaOH使用量(mL)×NaOH力価)-(0.1×HCl使用量(mL)×HCl力価)}/有機フィラー重量(g)
<ハイレート特性(%)>
実施例および比較例にて作製された非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲;4.1~2.7V、電流値;0.2Cを1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。ここで、1Cは、1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を意味し、以下においても同様である。
【0106】
前記初期充放電後、当該非水電解液二次電池に対して、55℃、充電電流値;1C、放電電流値が0.2Cと20Cの定電流を用いて、それぞれ3サイクルずつ、充放電を行い、それぞれの場合の放電容量を測定した。
【0107】
放電電流値が0.2Cと20Cにおける、それぞれ3サイクル目の放電容量を放電容量の測定値とした。前記測定値の割合(20C放電容量/0.2C放電容量)をハイレート特性の値(%)とした。
【0108】
〔実施例1〕
下記A層(多孔質フィルム)、およびB層(多孔質層)を用いて、非水電解液二次電池用積層セパレータを形成した。
【0109】
<A層>
ポリエチレンを用いてポリオレフィン多孔質フィルムを作製した。具体的には、超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)70重量部と、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞株式会社製)30重量部とを混合して混合ポリエチレンを得た。得られた混合ポリエチレン100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量部、およびステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに、全体積に占める割合が38体積%となるように、平均粒子径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加えた。この組成物を粉末のまま、ヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂組成物を得た。次いで、このポリエチレン樹脂組成物を、表面温度が150℃に設定された一対のロールにて圧延することにより、シートを作製した。このシートを、4mol/Lの塩酸に0.5重量%の非イオン系界面活性剤を配合して調製した塩酸水溶液に浸漬させることにより炭酸カルシウムを溶解して除去した。続いて、前記炭酸カルシウムを除去したシートを105℃で6倍に延伸することにより、ポリオレフィン多孔質フィルム(A層)を作製した。
【0110】
<B層>
水、レゾルシン、37%のホルマリン、および触媒としての炭酸ナトリウムを、当該レゾルシンと当該ホルマリンのホルムアルデヒドとのモル比率が2:1となるように混合した。得られた混合物を80℃にて撹拌保温することによって重合反応を行い、レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂(RF樹脂)の微粒子を含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を遠心分離することによりRF樹脂の微粒子を沈降させ、その後、沈降したRF樹脂の微粒子を残しながら上澄みの分散媒を除去した。RF樹脂の微粒子に、さらに、洗浄液である水を加え、撹拌、遠心分離し、洗浄液を除去するという洗浄操作を2回繰り返すことによって、RF樹脂の微粒子を洗浄した。洗浄されたRF樹脂の微粒子をt-ブチルアルコールに浸漬後、凍結乾燥にてt-ブチルアルコールを除去し、有機フィラー1を得た。
【0111】
前記の方法によって測定した、得られた有機フィラー1の陽イオン交換容量は、4.08meq/gであった。また、前記有機フィラー1の平均粒子径(D50)は、1.47μmであった。
【0112】
前記有機フィラー1と、CMCと、水およびイソプロピルアルコールの混合溶媒とを、下記割合となるように混合した。即ち、100重量部の有機フィラー1に対してCMCが8重量部混合され、得られる混合液における固形分濃度(即ち、有機フィラー1とCMCとの合計濃度)が20.0重量%であり、かつ、溶媒組成が水95重量%およびイソプロピルアルコール5重量%となるように、有機フィラー1とCMCと水およびイソプロピルアルコールの混合溶媒とを混合し、混合液を得た。得られた混合液は、有機フィラー1の分散液であった。この得られた分散液を、高圧分散装置(株式会社スギノマシン製;スターバースト)を用いて高圧分散(高圧分散条件;100MPa×3パス)することにより、塗工液1を作製した。
【0113】
<非水電解液二次電池用積層セパレータ>
前記A層の片面に、20W/(m2/分)でコロナ処理を施した。次いで、コロナ処理を施したA層の面に、グラビアコーターを用いて、前記塗工液1を塗工した。このとき、A層に塗工液1を均一に塗工することができるように、塗工位置の前後をピンチロールで挟んでA層に張力を与えた。その後、塗膜を乾燥することでB層を形成した。これにより、A層の片面にB層が積層された非水電解液二次電池用積層セパレータ1を得た。
【0114】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータ1において、全体の膜厚は、18.3μmであり、A層の膜厚は、12.0μmであり、B層の膜厚は、6.3μmであった。また、前記非水電解液二次電池用積層セパレータ1において、全体の目付は、12.3g/m2であり、A層の目付は、6.8g/m2であり、B層の目付は、5.5g/m2であった。
【0115】
<非水電解液二次電池の作製>
(正極の作製)
LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2/導電剤/PVDF(重量比92/5/3)をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を用いた。前記正極を、正極活物質層が形成された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取って正極とした。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm3、正極容量は174mAh/gであった。
【0116】
(負極の作製)
黒鉛/スチレン-1,3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を用いた。前記負極を、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取って負極とした。負極活物質層の厚さは49μm、密度は1.40g/cm3、負極容量は372mAh/gであった。
【0117】
<非水電解液二次電池の組立て>
ラミネートパウチ内で、非水電解液二次電池用積層セパレータ1のB層と、正極の正極活物質層と、が接するように、かつ、非水電解液二次電池用積層セパレータ1のA層と負極の負極活物質層とが接するようにして、前記正極と、非水電解液二次電池用積層セパレータ1と、負極とをこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材1を得た。このとき、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面の範囲に含まれるように、正極および負極を配置した。すなわち、得られる非水電解液二次電池用部材1において、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面に重なるように、正極および負極を配置した。
【0118】
続いて、前記非水電解液二次電池用部材1を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.23mL入れた。前記非水電解液は、LiPF6を、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを3:5:2(体積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF6の濃度が1mol/Lとなるように溶解して調製した。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池1を作製した。
【0119】
[実施例2]
水、レゾルシン、37%のホルマリン、および触媒としての炭酸ナトリウムを、当該レゾルシンと当該ホルマリン中のホルムアルデヒドとのモル比率が1:2となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして有機フィラーを得た。得られた有機フィラーを有機フィラー2とした。
【0120】
有機フィラー1の代わりに、有機フィラー2を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池用積層セパレータ2を得た。その後、非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ2を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池2を得た。
【0121】
前記の方法によって測定した、得られた有機フィラー2の陽イオン交換容量は、2.05meq/gであった。また、前記有機フィラー2の平均粒子径(D50)は、0.43μmであった。
【0122】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータ2において、全体の膜厚は、17.6μmであり、A層の膜厚は、12.0μmであり、B層の膜厚は、5.6μmであった。また、前記非水電解液二次電池用積層セパレータ2において、全体の目付は、13.3g/m2であり、A層の目付は、6.8g/m2であり、B層の目付は、6.5g/m2であった。
【0123】
[実施例3]
水、レゾルシン、37%のホルマリン、および触媒としての炭酸ナトリウムを、当該レゾルシンと当該ホルマリン中のホルムアルデヒドとのモル比率が1:3となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして有機フィラーを得た。得られた有機フィラーを有機フィラー3とした。
【0124】
有機フィラー1の代わりに、有機フィラー3を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池用積層セパレータ3を得た。その後、非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ3を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池3を得た。
【0125】
前記の方法によって測定した、得られた有機フィラー3の陽イオン交換容量は、3.37meq/gであった。また、前記有機フィラー3の平均粒子径(D50)は、0.89μmであった。
【0126】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータ3において、全体の膜厚は、17.8μmであり、A層の膜厚は、12.0μmであり、B層の膜厚は、5.8μmであった。また、前記非水電解液二次電池用積層セパレータ3において、全体の目付は、13.3g/m2であり、A層の目付は、6.8g/m2であり、B層の目付は、6.5g/m2であった。
【0127】
[実施例4]
実施例2で得られた有機フィラー2に対し、陽イオン交換容量が、0.51meq/gとなるように市販のフェノール樹脂硬化物2を所定量混合し、有機フィラー4を得た。
【0128】
有機フィラー1の代わりに、有機フィラー4を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池用積層セパレータ4を得た。その後、非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ4を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池4を得た。ここで、市販のフェノール樹脂硬化物2の陽イオン交換容量は、0.36meq/gであった。また、前記市販のフェノール樹脂硬化物2の平均粒子径(D50)は、8.62μmであった。
【0129】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータ4において、全体の膜厚は、27.5μmであり、A層の膜厚は、12.0μmであり、B層の膜厚は、15.5μmであった。また、前記非水電解液二次電池用積層セパレータ4において、全体の目付は、12.4g/m2であり、A層の目付は、6.8g/m2であり、B層の目付は、5.6g/m2であった。
【0130】
[実施例5]
有機フィラー1の代わりに、陽イオン交換容量が、2.03meq/gの市販のフェノール樹脂硬化物1を有機フィラーとして用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池用積層セパレータ5を得た。その後、非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ5を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池5を得た。また、前記市販のフェノール樹脂硬化物1の平均粒子径(D50)は、10.0μmであった。
【0131】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータ5において、全体の膜厚は、25.8μmであり、A層の膜厚は、12.0μmであり、B層の膜厚は、13.8μmであった。また、前記非水電解液二次電池用積層セパレータ5において、全体の目付は、12.8g/m2であり、A層の目付は、6.8g/m2であり、B層の目付は、6.0g/m2であった。
【0132】
[比較例1]
有機フィラー1の代わりに、陽イオン交換容量が、0.36meq/gの市販のフェノール樹脂硬化物2を有機フィラーとして用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池用積層セパレータ6を得た。その後、非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに、非水電解液二次電池用積層セパレータ6を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池6を得た。
【0133】
前記非水電解液二次電池用積層セパレータ6において、全体の膜厚は、28.6μmであり、A層の膜厚は、12.0μmであり、B層の膜厚は、16.6μmであった。また、前記非水電解液二次電池用積層セパレータ6において、全体の目付は、13.3g/m2であり、A層の目付は、6.8g/m2であり、B層の目付は、6.5g/m2であった。
【0134】
【0135】
[結果]
表1に記載のとおり、実施例1~5にて作製された、陽イオン交換容量が0.5meq/g以上である有機フィラーを含む多孔質層を備える非水電解液二次電池1~5は、比較例1にて作製された、陽イオン交換容量が0.5meq/g未満である有機フィラーを含む多孔質層を備える非水電解液二次電池6よりも、ハイレート特性に優れる。
【0136】
従って、本発明の一実施形態に係る、陽イオン交換容量が0.5meq/g以上である有機フィラーを含む多孔質層は、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池のハイレート特性を向上させることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用多孔質層は、ハイレート特性に優れる非水電解液二次電池の製造に利用することができる。