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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】端子付き電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20221207BHJP
   H01R 43/048 20060101ALI20221207BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R43/048
H01R4/62 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018160290
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020035600
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-05-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】生沼 良樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘哲
(72)【発明者】
【氏名】酒井 信昭
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-192530(JP,A)
【文献】特開2016-181387(JP,A)
【文献】特開2016-219231(JP,A)
【文献】特開2018-037344(JP,A)
【文献】特開2014-203808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 43/048
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線径が3sq以上である被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間にあり、前記導線の周方向全周に対して、前記導線との間に隙間が設けられているバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位が、塗布時に流動性を有し、硬化されたものである防食材で覆われており、
前記被覆導線の前記被覆部の先端の端面における前記導線の露出部で形成される隙間にも、前記防食材が設けられ、
前記被覆圧着部の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、前記被覆圧着部の内面の上下方向の高さの1/2の位置における上下方向に垂直な中心線で上下を2分割した際に、上方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積よりも、下方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積が大きく、
前記被覆導線と前記被覆圧着部の隙間の断面積の総和が、前記被覆導線の断面積の30%~45%であり、
前記被覆圧着部の最大幅部は、前記中心線よりも下方に位置し、前記中心線の幅よりも、前記被覆圧着部の最大幅が広く、前記被覆導線の幅方向の両側が、それぞれ、前記被覆圧着部の長手方向のいずれかの位置において、前記被覆圧着部の内面と接触し、それぞれの接触部分の上下両方向に、前記被覆導線と前記被覆圧着部の内面との間に隙間が設けられることを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記被覆圧着部の長手方向の略中央における前記被覆導線の高さが、前記圧着部以外における前記被覆導線の高さの87%~99%であることを特徴とする請求項1記載の端子付き電線。
【請求項3】
電線径が3sq以上である被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間にあり、前記導線の周方向全周に対して、前記導線との間に隙間が設けられているバレル間部と、を具備し、
圧着後の前記被覆圧着部の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、前記被覆圧着部の内面の上下方向の高さの1/2の位置における上下方向に垂直な中心線で上下を2分割した際に、上方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積よりも、下方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積が大きく、
前記被覆導線と前記被覆圧着部の隙間の断面積の総和が、前記被覆導線の断面積の30%~45%であり、
前記被覆圧着部の最大幅部は、前記中心線よりも下方に位置し、前記中心線の幅よりも、前記被覆圧着部の最大幅が広く、前記被覆導線の幅方向の両側が、それぞれ、前記被覆圧着部の長手方向のいずれかの位置において、前記被覆圧着部の内面と接触し、それぞれの接触部分の上下両方向に、前記被覆導線と前記被覆圧着部の内面との間に隙間が設けられ、
塗布時に流動性を有する防食材を、前記バレル間部、前記導線圧着部および前記導線圧着部から突出する前記導線の複数個所に塗布し、所定の樹脂浸透時間を放置した後硬化させ、
前記被覆導線の前記被覆部の先端の端面における前記導線の露出部で形成される隙間にも、前記防食材を設けることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられる端子付き電線およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0006】
このため、電線と端子との接続部を防食材で被覆する方法が提案されている。例えば、被覆圧着部と導線圧着部との間に露出する導線等に防食材を塗布して被覆した端子付き電線が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-102998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、被覆導線の先端近傍は、被覆部が除去されて内部の導線が露出する。しかし、被覆部の端部と導線露出部の境界部において、外径の変化に伴う微小な隙間が生じやすい。このため、十分な防食性を確保するためには、この隙間へも防食材を浸透させて硬化させる必要がある。
【0009】
図5(a)は、従来の端子付き電線100の長手方向断面図であり、図5(b)は、図5(a)のX-X線断面図である。端子付き電線100は、端子と被覆導線111が接続される。被覆導線111は、導線113と、導線113を被覆する被覆部115からなる。被覆導線111の先端は、被覆部115が剥離され、内部の導線113が露出する。
【0010】
端子は、被覆導線111の先端側に被覆部115から露出する導線113を圧着する導線圧着部107と、被覆導線111の被覆部115を圧着する被覆圧着部109と、導線圧着部107と被覆圧着部109の間のバレル間部108を有する。
【0011】
バレル間部108から導線圧着部107には、防食材117が塗布される。前述したように、高い止水性を確保するためには、被覆部115の端部と、被覆部115から露出する導線113との間の隙間(図中Z)にも防食材117を浸透させて被覆することが望ましい。
【0012】
しかし、被覆圧着部109は、通常上下方向に圧着されるため、図5(b)に示すように、被覆圧着部109は、略楕円形状となりやすい。このため、被覆導線111の両側(圧着方向に垂直な方向)において、被覆導線111と被覆圧着部109との間に、隙間が形成されやすい。
【0013】
このような隙間が大きくなると、バレル間部108の上部に塗布した防食材117が、被覆導線111に沿って後方に流れ(図中矢印Y)、被覆導線111の下方に十分に防食材117を行き渡らせることが困難となる。この結果、隙間Zに防食材117が浸透せず、使用時に、この隙間から水が浸入するおそれがある。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、高い防食性を確保することが可能な端子付き電線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達するために第1の発明は、電線径が3sq以上である被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間にあり、前記導線の周方向全周に対して、前記導線との間に隙間が設けられているバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位が、塗布時に流動性を有し、硬化されたものである防食材で覆われており、前記被覆導線の前記被覆部の先端の端面における前記導線の露出部で形成される隙間にも、前記防食材が設けられ、前記被覆圧着部の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、前記被覆圧着部の内面の上下方向の高さの1/2の位置における上下方向に垂直な中心線で上下を2分割した際に、上方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積よりも、下方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積が大きく、前記被覆導線と前記被覆圧着部の隙間の断面積の総和が、前記被覆導線の断面積の30%~45%であり、前記被覆圧着部の最大幅部は、前記中心線よりも下方に位置し、前記中心線の幅よりも、前記被覆圧着部の最大幅が広く、前記被覆導線の幅方向の両側が、それぞれ、前記被覆圧着部の長手方向のいずれかの位置において、前記被覆圧着部の内面と接触し、それぞれの接触部分の上下両方向に、前記被覆導線と前記被覆圧着部の内面との間に隙間が設けられることを特徴とする端子付き電線である。
【0016】
前記被覆圧着部の長手方向の略中央における前記被覆導線の高さが、前記圧着部以外における前記被覆導線の高さの87%~99%であることが望ましい。
【0018】
第1の発明によれば、被覆圧着部の内面の高さ方向の中心線で上下を2分割した際に、上方における被覆導線と被覆圧着部との隙間の断面積よりも、下方における被覆導線と被覆圧着部との隙間の断面積が大きいため、防食材を塗布した際に、防食材がより下方に流れやすい。このため、被覆導線の下方における隙間を効率よく埋めることができる。
【0019】
また、被覆導線と被覆圧着部の隙間の断面積の総和が、被覆導線の断面積の30%~45%であるため、被覆導線と被覆圧着部の間の空間が大きすぎることによる防食材の流出が抑制されるとともに、被覆導線と被覆圧着部の間の空間が小さすぎることにより防食材が浸透しにくくなることも抑制することができる。
【0020】
また、被覆圧着部における被覆導線の高さが、圧着部以外における被覆導線の高さの87%~99%であれば、被覆部が潰れすぎることによる被覆部の破れや切れ等を抑制することができるとともに、確実に被覆部を被覆圧着部で保持することができる。
【0021】
また、被覆導線の幅方向の両側が、被覆圧着部の内面と接触するようにすることで、被覆圧着部の内部で被覆導線が幅方向の一方に偏り、当該部における隙間が過剰に大きくなりすぎることを抑制することができる。この結果、防食材の流出を抑制することができる。
【0022】
第2の発明は、電線径が3sq以上である被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間にあり、前記導線の周方向全周に対して、前記導線との間に隙間が設けられているバレル間部と、を具備し、圧着後の前記被覆圧着部の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、前記被覆圧着部の内面の上下方向の高さの1/2の位置における上下方向に垂直な中心線で上下を2分割した際に、上方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積よりも、下方における前記被覆導線と前記被覆圧着部との隙間の断面積が大きく、前記被覆導線と前記被覆圧着部の隙間の断面積の総和が、前記被覆導線の断面積の30%~45%であり、前記被覆圧着部の最大幅部は、前記中心線よりも下方に位置し、前記中心線の幅よりも、前記被覆圧着部の最大幅が広く、前記被覆導線の幅方向の両側が、それぞれ、前記被覆圧着部の長手方向のいずれかの位置において、前記被覆圧着部の内面と接触し、それぞれの接触部分の上下両方向に、前記被覆導線と前記被覆圧着部の内面との間に隙間が設けられ、塗布時に流動性を有する防食材を、前記バレル間部、前記導線圧着部および前記導線圧着部から突出する前記導線の複数個所に塗布し、所定の樹脂浸透時間を放置した後硬化させ、前記被覆導線の前記被覆部の先端の端面における前記導線の露出部で形成される隙間にも、前記防食材を設けることを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0023】
第2の発明によれば、被覆導線の下方における隙間にも、防食材を浸透させることで、高い防食性能を確保することが可能な端子付き電線を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い防食性を確保することが可能な端子付き電線およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】端子付き電線10を示す斜視図。
図2】端子付き電線10の断面図。
図3】(a)は、図2の部分拡大図、(b)は、(a)のA-A線断面図。
図4】端子付き電線10の試験方法を示す図。
図5】(a)は、従来の端子付き電線100の部分拡大断面図、(b)は、(a)のX-X線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、図2は断面図である。なお、図1は、防食材17を透視した図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0027】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0028】
端子1は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0029】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。
【0030】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0031】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0032】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0033】
本発明では、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位が防食材17で覆われている。したがって、導線13は、防食材17によって外部に露出しない。なお、防食材17は、特に限定されないが、例えば、アクリレート系の光硬化樹脂などを適用可能である。
【0034】
図3(a)は、図2の部分拡大図であり、図3(b)は、図3(a)のA-A線断面図である。図3(a)に示すように、被覆導線11の被覆部15の端面における導線13の露出部で形成される隙間(図中B)にも、防食材17が設けられる。
【0035】
なお、図示した端子付き電線10は、被覆圧着部9のバレル同士が重なり合うようにラップして圧着されるオーバーラップ型である。オーバーラップ型の被覆圧着部9は、金型を用いて圧着作業を行う際、一方のバレルが他方のバレルの上方に重ねられて圧着される。このようなオーバーラップ型の被覆圧着部9に対しても、圧着後に防食材17を塗布することで、被覆圧着部9の防食性を確保することができる。なお、被覆圧着部9としては、オーバーラップ型に限られず、バレルの先端同士を突き合せる形態であってもよい。
【0036】
図3(b)に示すように、被覆圧着部9の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、被覆圧着部9の内面の最下端を通る、上下方向(圧着方向)に垂直な線Eと、被覆圧着部9の内面の最上端を通る、上下方向(圧着方向)に垂直な線Fとの間隔を、被覆圧着部9の内面の上下方向の高さ(図中C)とする。また、被覆圧着部9の内面の上下方向の高さCの1/2の位置(図中D)における上下方向(圧着方向)に垂直な中心線をGとする。
【0037】
この場合、中心線Gで上下を2分割した際に、上方(中心線Gと最上部の直線Fとの間)における被覆導線11と被覆圧着部9との隙間の断面積よりも、下方(中心線Gと最下部の直線Eとの間)における被覆導線11と被覆圧着部9との隙間の断面積が大きい。すなわち、被覆圧着部9は、断面形状が下方の方が幅の広い略台形形状となる。したがって、被覆圧着部9の最大幅部は、中心線Gよりも下方に位置し、中心線Gよりも上方における被覆圧着部9の最大幅よりも、中心線Gよりも下方における被覆圧着部9の最大幅が広くなる。
【0038】
図示したように、被覆導線11と被覆圧着部9との隙間には、防食材17が充填される。なお、被覆圧着部9の全長に渡って、被覆導線11と被覆圧着部9との隙間に、防食材17が充填されていなくてもよく、少なくとも一部において、被覆導線11と被覆圧着部9との隙間が、防食材17で塞がれていればよい。
【0039】
このように、中心線Gよりも上方における被覆導線11と被覆圧着部9との隙間の断面積を小さくすることで、防食材17が上方から下方に流れる過程で、防食材17が隙間から被覆導線11の後方に流れることを抑制し、被覆導線11の下方に防食材17を効率よく流すことができる。また、中心線Gよりも下方における被覆導線11と被覆圧着部9との隙間の断面積を大きくすることで、被覆導線11の下方により多くの防食材17を流すことができ、前述した被覆導線11の下方の隙間Bを防食材17で埋めることができる。
【0040】
なお、被覆圧着部9の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、被覆導線11と被覆圧着部9の隙間の断面積の総和Tは、被覆導線11の断面積の30%~45%であることが望ましい。断面積の総和Tが小さすぎると、隙間へ防食材17が浸透しにくく、断面積の総和Tが大きすぎると、隙間へ防食材17が多量に流れてしまい、防食材17が、被覆導線11の下方に十分に供給されなくなる。このため、止水性が悪化する。
【0041】
なお、前述した様に、被覆圧着部9においては、被覆導線11が圧着される。すなわち、被覆導線11は、被覆圧着部9によって上下方向に潰される。ここで、被覆圧着部9の長手方向の略中央における、長手方向に垂直な断面において、被覆導線11の高さ(概ね図中Cと一致)は、被覆圧着部9以外における被覆導線11の高さの87%~99%であることが望ましい。
【0042】
この潰れ量が大きすぎると(被覆導線11の高さが、被覆圧着部9以外における被覆導線11の高さの87%未満となると)、被覆部15の潰れ量が大きくなりすぎて、被覆部15の破れや切れ等の要因となる。一方、この潰れ量が小さすぎると(被覆導線11の高さが、被覆圧着部9以外における被覆導線11の高さの99%超となると)、被覆圧着部9における圧着量が小さくなり、被覆導線11を被覆圧着部9で保持することができない。
【0043】
また、被覆導線11の幅方向の両側は、被覆圧着部9の長手方向のいずれかの位置において、被覆圧着部9の内面と接触することが望ましい。特に、図示したように、同一断面において、被覆導線11の幅方向の両側が被覆圧着部9の内面と接触することが望ましい。このように、被覆導線11が被覆圧着部9の幅方向の内面と接触することで、被覆導線11が、被覆圧着部9において、幅方向の一方に偏り、当該部における隙間が過剰に大きくなりすぎることを抑制することができる。
【0044】
このように、本実施形態において、被覆導線11と被覆圧着部9の間の幅方向の隙間の大きさが、被覆圧着部9の下方から順に、中心線Gの下方において最大となり、中心線Gの近傍において最小(または接触)となる。例えば、図5(b)に示すように、従来の被覆圧着部109は、被覆導線111と被覆圧着部109の間の幅方向の隙間の大きさが、被覆圧着部109の下方から徐々に広がり、高さ方向の略中央部近傍で最大幅となる略楕円形である。これに対し、本実施形態では、その逆に、下方と上方において幅が広く、高さ方向の中央部近傍で最も幅が狭くなる略台形となる。このような形態とすることで、被覆導線11に沿って流出する防食材17の量を抑制し、効率よく被覆導線11の下方に防食材17を浸透させることができる。
【0045】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、被覆導線11と端子1とを圧着により接続する。次に、少なくとも、バレル間部8、導線圧着部7、および導線圧着部7から突出する導線13の複数個所に防食材17を塗布する。防食材17は、例えばディスペンサ等で塗布される。
【0046】
次に、所定の樹脂浸透時間放置する。樹脂浸透時間は、例えば、防食材17を塗布してから、10秒以上40秒以下とする。樹脂浸透時間を放置することで、防食材17を、被覆導線11の下方に十分に浸透させることができる。なお、樹脂浸透時間が短すぎると、十分に被覆導線11の下方に防食材17を浸透させることができず、樹脂浸透時間が長すぎると、サイクルタイムが長くなり望ましくない。その後、光照射等によって、防食材17を硬化させることで、端子付き電線10が製造される。
【0047】
なお、本発明において、防食材17を塗布するとは、防食材17の液滴を対象部に接触させる方法や、防食材17の液滴を供給部から打ち出して(滴下させて)対象部に付着させる方法など、対象部に防食材17が付着した状態を得る方法の全てを含むものとする。例えば、防食材17の液滴を対象部に対して、メカニカルディスペンサで接触させて塗布してもよく、ジェットディスペンサで供給部から打ち出して塗布してもよい。また、防食材17が光硬化樹脂以外の場合には、熱等の方法を適宜用いて防食材17を硬化させればよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、被覆圧着部9における被覆導線11と被覆圧着部9との隙間の断面積が、上方よりも、下方が大きくなるようにすることで、防食材17を塗布した後、防食材17を効率よく被覆導線11の下方に浸透させ、隙間を埋めることができる。このため、高い止水性を確保することができる。
【0049】
また、被覆圧着部9における被覆導線11の断面積に対する、被覆圧着部9と被覆導線11の隙間の断面積の割合を所定の範囲とすることで、防食材17が被覆導線11に沿って流出する量を抑制するとともに、被覆導線11の下方への防食材17の浸透を促すことができる。
【0050】
また、被覆圧着部9における被覆導線11の圧縮量を所定の範囲とすることで、被覆部15の破れや切れを抑制することができるとともに、被覆導線11を被覆圧着部9で確実に保持することができる。
【0051】
また、被覆圧着部9において被覆導線11の両側が被覆圧着部9の内面と接触することで、被覆導線11が被覆圧着部9内で幅方向に偏心することを抑制し、被覆導線11と被覆圧着部9との間の隙間が過剰に大きくなることを抑制すすることができる。
【0052】
また、防食材17を塗布した後、所定の樹脂浸透時間を放置することで、確実に防食材17を被覆導線11の下方に浸透させて、隙間を埋めることができる。
【実施例
【0053】
端子付き電線を各種の条件で製造し、防食材の流出の有無、端子付き電線の正圧シール性および圧着部における被覆部の切れの有無について評価した。それぞれの端子付き電線をn=10で評価し、全て合格であったものを○、合格数が1~9であったものを△、合格数が0であったものを×とした。結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表中の「隙間/被覆導線断面積比」は、被覆圧着部の長手方向の略中央の断面において、被覆導線の断面積と、被覆導線と被覆圧着部の隙間の断面積(防食材で充填されている部位も含む)の総和の比である。
【0056】
表中の「隙間 下方断面積>上方断面積」は、図3(b)で示した中心線Gを想定して、上方(図3(b)の直線Gから直線F)における被覆導線と被覆圧着部の隙間の断面積よりも、下方(図3(b)の直線Gから直線E)における被覆導線と被覆圧着部の隙間の断面積が大きいものを○とし、同等以下のものを×とした。
【0057】
表中の「圧着後上下電線径比率」は、圧着前の被覆導線の外径に対する、圧着後の被覆圧着部における被覆導線の上下方向での外径の比率である。
【0058】
表中の「防食材流出」は、各被覆導線の製造時において、防食材を塗布した後10秒放置した後に、被覆圧着部の後方へ防食材が流れたか否かを目視で確認し、流出が確認されたものを不合格とした。
【0059】
正圧試験は、端子付き電線の被覆導線から端子に向かって空気を送り、後端部から空気が漏れるか否かについて評価した。図4には、実験方法の概要を示す。実験は、水を入れた水槽21中に端子付き電線の一端(端子1)を入れ、被覆導線11の端部から端子1に向かってレギュレータ22によって加圧空気を送った。なお、エア圧は30kPaとした。
【0060】
サーマルショック試験は、それぞれの端子付き電線に対し、120℃×30分~-40℃×30分を500サイクルとした。サーマルショック試験後の端子付き電線についても正圧でのシール性を評価した。なお、正圧試験において、全くエアリークの見られなかったものを合格とした。
【0061】
また、表中の「圧着部被覆切れ」は、被覆圧着部において、被覆部が切れているかどうかを目視で確認し、被覆部に損傷が見られたものを不合格とした。
【0062】
電線径は3sq~8sqで評価したところ、いずれの電線径も、「隙間/被覆導線断面積比」が、0.30未満のものは、サーマルショック後の正圧試験で△評価となった。これは、隙間が狭いため、防食材が十分に隙間に充填されない部位が生じ、サーマルショック試験後において、止水性が低下したと考えられる。
【0063】
一方、「隙間/被覆導線断面積比」が、0.45超のものは、防食材の流出が見られ、この結果、正圧試験が×評価となった。
【0064】
また、「隙間 下方断面積>上方断面積」が×のものは、防食材の流出が見られ、この結果、正圧試験が×評価となった。
【0065】
また、「圧着後上下電線径比率」が、0.86以下とすると、圧着部被覆切れが確認された。また、「圧着後上下電線径比率」が、1.00では、被覆圧着部が確実に保持されない。このため、「圧着後上下電線径比率」が0.87~0.99の範囲外では、被覆圧着部における信頼性が低下するおそれがある。
【0066】
以上のように、少なくとも「圧着後上下電線径比率」が0.3~0.45であり、「隙間 下方断面積>上方断面積」が〇のものは、高い防食性能を確保することができた。
【0067】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0068】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10………端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
15………被覆部
17………防食材
21………水槽
22………レギュレータ
100………端子付き電線
107………導線圧着部
108………バレル間部
109………被覆圧着部
111………被覆導線
113………導線
115………被覆部
117………防食材
図1
図2
図3
図4
図5