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7189702焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/14 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
G02B3/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018161172
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020034725
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊賀崎 史朗
(72)【発明者】
【氏名】大庭 信男
(72)【発明者】
【氏名】岡安 正樹
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 佑旗
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106126(JP,A)
【文献】特開2018-94456(JP,A)
【文献】特開2002-112563(JP,A)
【文献】特開2018-106127(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0177376(US,A1)
【文献】国際公開第2017/110832(WO,A1)
【文献】特開2012-129893(JP,A)
【文献】特開平01-174274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0218270(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される駆動信号に応じて屈折率が変化するレンズシステムと、
前記レンズシステムの屈折力を制御する屈折力制御部と、を有し、
前記屈折力制御部は、前記レンズシステムに供給される駆動電流、前記駆動信号の電圧である駆動電圧、および、前記駆動電流と前記駆動電圧との位相差である電圧電流位相差の各検出値に基づいて、前記レンズシステムに供給される有効電力を算出し、算出された前記有効電力に応じて、前記駆動電圧を調整することを特徴とする焦点距離可変レンズ装置。
【請求項2】
請求項1に記載した焦点距離可変レンズ装置において、
前記屈折力制御部は、目標有効電力に対する前記有効電力の増減に基づいて、前記駆動電圧を調整することを特徴とする焦点距離可変レンズ装置。
【請求項3】
請求項2に記載した焦点距離可変レンズ装置において、
記駆動電流、前記駆動電圧、および、前記電圧電流位相差を検出し、前記駆動電流または前記電圧電流位相差に基づいて前記駆動信号の周波数を前記レンズシステムの共振周波数に追従させる共振ロック制御部をさらに有することを特徴とする焦点距離可変レンズ装置。
【請求項4】
請求項3に記載した焦点距離可変レンズ装置において、
前記共振ロック制御部は、目標電圧電流位相差に対する前記電圧電流位相差の増減に基づいて、前記駆動信号の周波数を調整することを特徴する焦点距離可変レンズ装置。
【請求項5】
請求項3に記載した焦点距離可変レンズ装置において、
前記共振ロック制御部は、基準駆動電流に対する前記駆動電流の増減に基づいて前記駆動信号の周波数を調整し、
前記屈折力制御部が前記駆動信号の電圧を増減させる間、前記共振ロック制御部は待機状態になることを特徴する焦点距離可変レンズ装置。
【請求項6】
請求項5に記載した焦点距離可変レンズ装置において、
前記屈折力制御部は、前記駆動信号の電圧を調整した際、前記基準駆動電流を更新することを特徴する焦点距離可変レンズ装置。
【請求項7】
入力される駆動信号に応じて屈折率が変化するレンズシステムと、前記レンズシステムの屈折力を制御する屈折力制御部と、を有する焦点距離可変レンズ装置において、
前記屈折力制御部は、前記レンズシステムに供給される駆動電流、前記駆動信号の電圧である駆動電圧、および、前記駆動電流と前記駆動電圧との位相差である電圧電流位相差の各検出値に基づいて、前記レンズシステムに供給される有効電力を算出し、算出された前記有効電力に応じて、前記駆動電圧を調整する処理を実施することを特徴とする焦点距離可変レンズ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焦点距離可変レンズ装置として、例えば特許文献1に記載された原理の液体レンズシステム(以下単にレンズシステムと呼ぶことがある)を利用した装置が開発されている。
液体レンズシステムは、圧電材料で形成された円筒状の振動部材を、透明な液体に浸漬して形成される。液体レンズシステムにおいて、振動部材の内周面と外周面とに交流電圧を印加すると、振動部材が厚み方向に伸縮し、振動部材の内側の液体を振動させる。液体の固有振動数に応じて印加電圧の周波数を調整すると、液体に同心円状の定在波が形成され、振動部材の中心軸線を中心として屈折率が異なる同心円状の領域が形成される。この状態で、振動部材の中心軸線に沿って光を通すと、この光は同心円状の領域ごとの屈折率に従って発散または収束する経路を辿ることになる。
【0003】
焦点距離可変レンズ装置は、前述した液体レンズシステムと、焦点を結ぶための対物レンズ(例えば通常の凸レンズあるいはレンズ群)とを、同じ光軸上に配置して構成される。液体レンズシステムは、液体レンズユニットとしてパッケージ化され、焦点距離可変レンズ装置に組み込まれる。
通常の対物レンズに平行光を入射させると、レンズを通過した光は所定の焦点距離にある焦点位置に焦点を結ぶ。これに対し、対物レンズと同軸に配置されたレンズシステムに平行光を入射させると、この光はレンズシステムで発散または収束され、対物レンズを通過した光は元の(レンズシステムがなかった状態の)焦点位置よりも遠くまたは近くにずれた位置に焦点を結ぶ。
従って、焦点距離可変レンズ装置においては、レンズシステムに入力される駆動信号(内部の液体に定在波を発生させる周波数の交流電圧)を印加し、この駆動信号の振幅を増減させることで、焦点距離可変レンズ装置としての焦点位置を一定の範囲内(対物レンズの焦点距離を基準としてレンズシステムにより増減できる所定の変化幅)で任意に制御することができる。
【0004】
焦点距離可変レンズ装置において、レンズシステムに入力される駆動信号としては、例えば正弦波状の交流信号が用いられる。このような駆動信号が入力されると、焦点距離可変レンズ装置の焦点距離(焦点位置)は正弦波状に変化する。この際、駆動信号の振幅が0のとき、レンズシステムを通る光は屈折されず、焦点距離可変レンズ装置の焦点距離は対物レンズの焦点距離となる。駆動信号の振幅が正負のピークにあるとき、レンズシステムを通る光は最も大きく屈折され、焦点距離可変レンズ装置の焦点距離は対物レンズの焦点距離から最も変化した状態となる。
このような焦点距離可変レンズ装置を用いて画像を取得する際には、駆動信号の正弦波の位相に同期して発光信号を出力してパルス照明を行う。これにより、正弦波状に変化する焦点距離のうち、所定の焦点距離に合焦した状態でパルス照明を行うことで、この焦点距離にある対象物の画像が検出される。一周期のうち複数の位相でパルス照明を行い、各位相に対応して画像検出を行えば、同時に複数の焦点距離の画像を得ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2010/0177376号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した焦点距離可変レンズ装置では、外気温の影響あるいは稼働に伴う発熱などにより、レンズシステムの内部の液体や振動部材の温度が変化する。レンズシステムでは、温度変化により固有振動数が変化し、定在波が得られる交流信号の周波数(共振周波数)も変動する。レンズシステムに入力される駆動信号が変動前と同じままであると、駆動信号が共振周波数のピークからずれてしまい、定在波を効率的に得ることができない。そこで、このような共振周波数の変動に対し、駆動信号を自動的に追従させる共振ロック機能を採用することが検討されている(例えば特願2017-89576参照)。
【0007】
しかし、共振ロック機能によってレンズシステムに定在波が得られたとしても、上述の温度変化の影響により、レンズシステムの最大屈折力(屈折率のピーク)が変動してしまうことがある。レンズシステムの屈折力は光学的特性であるため、当該屈折力を直接的に検出して補正することは困難である。
【0008】
本発明の目的は、レンズシステムの最大屈折力を制御できる焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の焦点距離可変レンズ装置は、入力される駆動信号に応じて屈折率が変化するレンズシステムと、前記レンズシステムの屈折力を制御する屈折力制御部と、を有し、前記屈折力制御部は、前記レンズシステムに供給される有効電力に応じて、前記駆動信号の電圧を調整することを特徴とする。
【0010】
本発明において、レンズシステムの最大屈折力は、レンズシステムに供給される有効電力と相関関係を有している。また、レンズシステムの有効電力は、駆動信号の電圧(駆動電圧)と相関関係を有している。そこで、本発明では、レンズシステムの現在の有効電力に応じて駆動電圧を調整することにより、レンズシステムに所望の有効電力を供給できる。これにより、レンズシステムの最大屈折力を所望の値に制御できる。
【0011】
本発明の焦点距離可変レンズ装置において、前記屈折力制御部は、目標有効電力に対する前記有効電力の増減に基づいて、前記駆動電圧を調整することが好ましい。
本発明によれば、レンズシステムの有効電力が目標有効電力を保つように駆動電圧を調整することができる。これにより、レンズシステムの最大屈折力を安定化させることができる。
【0012】
本発明の焦点距離可変レンズ装置は、前記レンズシステムに供給される駆動電流、前記駆動電圧、および、前記駆動電流と前記駆動電圧との位相差である電圧電流位相差を検出し、前記駆動電流または前記電圧電流位相差に基づいて前記駆動信号の周波数を前記レンズシステムの共振周波数に追従させる共振ロック制御部をさらに有し、前記屈折力制御部は、前記共振ロック制御部から取得した前記駆動電流、前記駆動電圧および前記電圧電流位相差に基づいて、前記有効電力を算出することが好ましい。
本発明によれば、レンズシステムに安定した定在波を発生させつつ、レンズシステムの最大屈折力を好適に制御することができる。
【0013】
本発明の焦点距離可変レンズ装置において、前記共振ロック制御部は、目標電圧電流位相差に対する前記電圧電流位相差の増減に基づいて、前記駆動信号の周波数を調整することが好ましい。
本発明において、共振ロック制御部は、電圧電流位相差が目標電圧電流位相差で安定化するように駆動信号の周波数を調整することにより、駆動信号の周波数をレンズシステムの共振周波数に追従させる。なお、目標電圧電流位相差は、予め設定された値であり、例えば電圧電流位相差のピーク値よりも低い値である。
このような本発明において、共振ロック制御部および屈折力制御部は、互いの制御対象や参照対象が異なるため、それぞれに好適なタイミングで独立した制御を行うことができる。
【0014】
本発明の焦点距離可変レンズ装置において、前記共振ロック制御部は、基準駆動電流に対する前記駆動電流の増減に基づいて前記駆動信号の周波数を調整し、前記屈折力制御部が前記駆動信号の電圧を増減させる間、前記共振ロック制御部は待機状態になることが好ましい。
本発明において、共振ロック制御部は、駆動電流が基準駆動電流で安定化するように駆動信号の周波数を調整することにより、駆動信号の周波数をレンズシステムの共振周波数に追従させる。ここで、基準駆動電流は、予め設定された値であり、例えば電圧電流位相差にピーク値を与えるときの駆動電流値である。
本発明では、屈折力制御部が駆動電圧を増減させることにより、共振ロック制御部が参照する対象の駆動電流が変動する。このため、本発明では、屈折力制御部が駆動電圧を増減させる間、共振ロック制御部が待機状態になることにより、共振ロック制御部の制御中にその参照対象が変動することが回避される。これにより、屈折力制御部が共振ロック制御部に与える影響を低減できる。
【0015】
本発明の焦点距離可変レンズ装置において、前記屈折力制御部は、前記駆動信号の電圧を調整した際、前記基準駆動電流を更新することが好ましい。
本発明では、基準駆動電流を更新することにより、変動後の駆動電流を参照する共振ロック制御部の制御において、適切な制御が行われる。
【0016】
本発明の焦点距離可変レンズ制御方法は、入力される駆動信号に応じて屈折率が変化するレンズシステムと、前記レンズシステムの屈折力を制御する屈折力制御部と、を有する焦点距離可変レンズ装置において、前記屈折力制御部は、前記レンズシステムに供給される有効電力に応じて、前記駆動信号の電圧を調整する処理を実施することを特徴とする。
本発明によれば、上述した焦点距離可変レンズ装置と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レンズシステムの最大屈折力を制御できる焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態を示す模式図。
図2】第1実施形態の液体レンズユニットの構成を示す模式図。
図3】第1実施形態の液体レンズユニットの振動状態を示す模式図。
図4】第1実施形態の液体レンズユニットの焦点距離を示す模式図。
図5】第1実施形態のレンズ制御部および制御用PCを示すブロック図。
図6】第1実施形態の初期設定の概要を説明するためのグラフ。
図7】第1実施形態の共振ロック制御の処理手順を示すフローチャート。
図8】第1実施形態の共振ロック制御の動作を説明するためのグラフ。
図9】第1実施形態の屈折力制御の処理手順を示すフローチャート。
図10】第1実施形態の屈折力制御の動作を説明するためのグラフ。
図11】本発明の第2実施形態の初期設定の概要を説明するためのグラフ。
図12】第2実施形態の共振ロック制御の処理手順を示すフローチャート。
図13】第2実施形態の共振ロック制御の動作を説明するためのグラフ。
図14】第2実施形態の屈折力制御の処理手順を示すフローチャート。
図15】第2実施形態の屈折力制御の動作を説明するためのグラフ。
図16】第1実施形態の共振ロック制御および屈折力制御の各動作のタイミングを説明するためのタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
(全体構成)
図1において、焦点距離可変レンズ装置1は、焦点距離Dfを可変しつつ測定対象物9の表面の画像を検出するものである。
このために、焦点距離可変レンズ装置1は、当該表面に交差する同じ光軸A上に配置された対物レンズ2および液体レンズユニット3と、対物レンズ2および液体レンズユニット3を通して得られる測定対象物9の画像を検出する画像検出部4と、測定対象物9の表面をパルス照明するパルス照明部5と、を備えている。
焦点距離可変レンズ装置1においては、対物レンズ2および液体レンズユニット3により焦点距離可変レンズが構成される。
【0020】
さらに、焦点距離可変レンズ装置1は、液体レンズユニット3およびパルス照明部5の動作を制御するレンズ制御部6と、レンズ制御部6を操作するための制御用PC7と、を備えている。
制御用PC7は、既存のパーソナルコンピュータにより構成され、所定の制御用ソフトウェアを実行することで所期の機能が実現される。制御用PC7には、画像検出部4から画像を取り込んで処理する機能も含まれている。
【0021】
対物レンズ2は、既存の凸レンズで構成される。
画像検出部4は、既存のCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサあるいは他の形式のカメラ等で構成され、入射される画像Lgを所定の信号形式の検出画像Imとして制御用PC7へ出力することができる。
パルス照明部5は、LED(Light Emitting Diode)などの発光素子で構成され、レンズ制御部6から発光信号Ciが入力された際に、所定時間だけ照明光Liを発光させ、測定対象物9の表面に対するパルス照明を行うことができる。照明光Liは測定対象物9の表面で反射され、測定対象物9の表面からの反射光Lrが対物レンズ2および液体レンズユニット3を通して画像Lgを形成する。
【0022】
液体レンズユニット3は、本発明のレンズシステムを内部に構成するものであり、レンズ制御部6から入力される駆動信号Cfに応じて屈折率が変化する。駆動信号Cfは、液体レンズユニット3に定在波を発生させる周波数の交流であって、正弦波状の交流信号である。
焦点距離可変レンズ装置1において、焦点位置Pfまでの焦点距離Dfは、対物レンズ2の焦点距離を基本としつつ、液体レンズユニット3の屈折率を変化させることで、任意に変化させることができる。
【0023】
〔液体レンズユニット3〕
図2において、液体レンズユニット3は、円筒形のケース31を有し、ケース31の内部には円筒状の振動部材32が設置されている。振動部材32は、その外周面33とケース31の内周面との間に介装されたエラストマ製のスペーサ39で支持されている。
振動部材32は、圧電材料を円筒状に形成したものであり、外周面33と内周面34との間に駆動信号Cfの交流電圧が印加されることで、厚み方向に振動する。
ケース31の内部には、透過性の高い液体35が充填されており、振動部材32は全体を液体35に浸漬され、円筒状の振動部材32の内側は液体35で満たされている。駆動信号Cfの交流電圧は、振動部材32の内側にある液体35に定在波を発生させる周波数に調整されている。
【0024】
図3に示すように、液体レンズユニット3においては、振動部材32を振動させると、内部の液体35に定在波が生じ、屈折率が交替する同心円状の領域が生じる(図3(A)部および図3(B)部参照)。
このとき、液体レンズユニット3の中心軸線からの距離(半径)と液体35の屈折率との関係は、図3(C)部に示す屈折率分布Wのようになる。
【0025】
図4において、駆動信号Cfは正弦波状の交流信号であるため、液体レンズユニット3における液体35の屈折率分布Wの変動幅もこれに従って変化する。そして、液体35に生じる同心円状の領域の屈折率が正弦波状に変化し、これにより焦点位置Pfまでの焦点距離Dfが正弦波状に変動する。
図4(A)の状態では、屈折率分布Wの振れ幅が最大となり、液体レンズユニット3は通過する光を収束させ、焦点位置Pfは近く、焦点距離Dfは最短となっている。
図4(B)の状態では、屈折率分布Wが平坦となり、液体レンズユニット3は通過する光をそのまま通過させ、焦点位置Pfおよび焦点距離Dfは標準的な値となっている。
図4(C)の状態では、屈折率分布Wが図4(A)と逆極性で振れ幅が最大となり、液体レンズユニット3は通過する光を拡散させ、焦点位置Pfは遠く、焦点距離Dfは最大となっている。
図4(D)の状態では、再び屈折率分布Wが平坦となり、液体レンズユニット3は通過する光をそのまま通過させ、焦点位置Pfおよび焦点距離Dfは標準的な値となっている。
図4(E)の状態では、再び図4(A)の状態に戻っており、以下同様の変動を繰り返すことになる。
【0026】
このように、焦点距離可変レンズ装置1においては、駆動信号Cfは正弦波状の交流信号であり、焦点位置Pfおよび焦点距離Dfも図4の焦点変動波形Mfのように正弦波状に変動する。
この際、焦点変動波形Mfの任意の時点で焦点位置Pfにある測定対象物9をパルス照明し、その時点で照明された画像を検出すれば、任意の照明時点での焦点距離Dfにある焦点位置Pfの画像が得られることになる。
【0027】
(レンズ制御部および制御用PC)
図5に示すように、焦点距離可変レンズ装置1において、液体レンズユニット3の振動、パルス照明部5の発光および画像検出部4の画像検出は、レンズ制御部6からの駆動信号Cf、発光信号Ciおよび画像検出信号Ccにより制御される。
レンズ制御部6は、液体レンズユニット3に駆動信号Cfを出力する駆動制御部61と、パルス照明部5に発光信号Ciを出力する発光制御部62と、画像検出部4に画像検出信号Ccを出力する画像検出制御部63とを有する。
【0028】
駆動制御部61は、初期設定部611と、共振ロック制御部612と、屈折力制御部613とを有する。
初期設定部611は、目標電圧電流位相差htや目標有効電力ptの各初期設定を行う。
共振ロック制御部612は、入力される駆動信号Cfに基づいてレンズシステム3が振動した際に、レンズシステム3の振動状態Vfの指標となる駆動信号Cfの電圧電流位相差Rhを検出する。そして、液体レンズユニット3に加えられる駆動信号Cfの電圧電流位相差Rhに基づいて駆動信号Cfの周波数(駆動周波数)を調整し、この駆動周波数を液体レンズユニット3の現在の共振周波数にロックする。なお、共振ロック制御部612の詳細については、特願2017-89576号を参照できる。
【0029】
屈折力制御部613は、駆動信号Cfに基づいて液体レンズユニット3が動作した際、液体レンズユニット3に加えられる有効電力Rpに基づいて駆動信号Cfの電圧(駆動電圧)を調整し、液体レンズユニット3の最大屈折力を制御する。また、屈折力制御部613は、駆動電圧、駆動電流Riおよび電圧電流位相差Rhなど、制御のための参照値を共振ロック制御部612から取得する。
【0030】
なお、駆動制御部61と液体レンズユニット3との間には、液体レンズユニット3に供給される駆動電圧および駆動電流Riを検出する各計測器が設けられており、各検出値は駆動制御部61に入力される。
【0031】
制御用PC7は、レンズ制御部6および画像検出部4にそれぞれ接続されている。
制御用PC7は、レンズ制御部6に設定などの操作を行うためのレンズ操作部71と、画像検出部4から検出画像Imを取り込んで処理する画像処理部72と、焦点距離可変レンズ装置1に対するユーザの操作を受け付ける操作インターフェイス73と、を備えている。
レンズ操作部71は、駆動制御部61における共振ロック制御部612の有効・無効を切り換えるための共振ロック操作部711を有する。
【0032】
(初期設定)
焦点距離可変レンズ装置1における初期設定について説明する。
まず、初期設定部611が、電圧電流位相差Rhピークスキャンを行う。
図6に示すように、ピークスキャンでは、液体レンズユニット3に駆動信号Cfを印加するとともに、駆動周波数を所定の下限値fminから上限値fmaxまで徐々に増加させ、各周波数での液体レンズユニット3における電圧電流位相差Rhを記録する。
【0033】
なお、電圧電流位相差Rhは、駆動信号Cfの電圧波形と、液体レンズユニット3から検出される駆動電流の波形と、から得ることができる。
【0034】
次に、初期設定部611は、液体レンズユニット3から検出される電圧電流位相差Rhについて、そのピーク値hpよりも低い所定値を目標電圧電流位相差htとして設定する。そして、電圧電流位相差Rhが目標電圧電流位相差htとなる2つの周波数を検出し、この2つの周波数のうちのいずれか一方の周波数(本実施形態では低い方の周波数fht)を駆動周波数に設定する。
すなわち、本実施形態では、電圧電流位相差Rhが目標電圧電流位相差htとなる2つの周波数のうち、低い方の周波数fhtを、液体レンズユニット3の共振周波数として扱う。
【0035】
ここで、目標電圧電流位相差htは、電圧電流位相差Rhのピーク値hpに対して所定の比率(例えば70%)を有する値とすることができる。あるいは、目標電圧電流位相差htは、電圧電流位相差Rhのピーク値hpよりも所定の値だけ小さい値としてもよい。
また、電圧電流位相差Rhが目標電圧電流位相差htとなる2つの周波数のうち、高い方の周波数を駆動周波数に設定してもよい。
【0036】
なお、図6では、ピークスキャン時、液体レンズユニット3に与えられる有効電力Rpを、電圧電流位相差Rhと共に示している。有効電力Rpは、駆動電圧の実効値をVe、駆動電流の実効値をIe、電圧電流位相差Rhをφとするとき、以下の式(1)によって算出される。
Rp=Ve・Ie・cosφ ・・・式(1)
図6に示すように、ピークスキャン時、液体レンズユニット3に与えられる有効電力Rpは、電圧電流位相差Rhのピーク周波数fhpより若干低い周波数fppにてピークを示し、駆動周波数に設定される周波数fhtでは有効電力Rpのピークに近い値となる。
【0037】
初期設定部611は、液体レンズユニット3に与えられる有効電力Rpについて、任意の目標有効電力pt(図10参照)を設定する。例えば、目標有効電力ptは、ユーザが所望する液体レンズユニット3の最大屈折力から算出される値であってもよい。
【0038】
(共振ロック制御)
初期設定後、駆動制御部61は、設定された駆動周波数および目標有効電力ptに基づいて、駆動信号Cfを液体レンズユニット3に供給する。これにより、液体レンズユニット3に定在波が形成され、液体レンズユニット3は稼働状態となる。
液体レンズユニット3の稼働開始後、共振ロック制御部612は、共振ロック制御を開始する。なお、本実施形態の共振ロック制御部612は、電圧電流位相差Rhが所定値(目標電圧電流位相差ht)で安定化するように駆動周波数を調整するものであり、これにより、駆動周波数を液体レンズユニット3の共振周波数に追従させる「位相差一定共振周波数追従式」の制御を行うものである。
【0039】
具体的には、共振ロック制御部612は、図7に示す共振ロック制御を行う。
図7において、共振ロック制御部612は、所定周期で電圧電流位相差Rhを取得し(処理S11)、目標電圧電流位相差htに対する電圧電流位相差Rhの変化(低下または上昇)を監視する(処理S12)。
電圧電流位相差Rhの変化がない場合、液体レンズユニット3の共振周波数の変動がないとして、処理S11~S12の監視を継続する。
【0040】
一方、電圧電流位相差Rhが変化した場合、液体レンズユニット3の共振周波数の変動があったとして、共振ロック制御部612は、電圧電流位相差Rhの変化の方向(低下か上昇か)を判定する(処理S13)。
そして、電圧電流位相差Rhが低下した場合には、駆動周波数を周波数fhtから上昇させ(処理S14)、電圧電流位相差Rhが上昇した場合には、駆動周波数を周波数fhtから低下させる(処理S15)。具体的には、共振ロック制御部612は、電圧電流位相差Rhの現在値と目標電圧電流位相差htとの差に対応する周波数変化量を算出し、現在の周波数に当該周波数変化量を反映させた周波数を、駆動周波数として新たに設定(更新)する。
【0041】
例えば、図8において、温度上昇などにより、液体レンズユニット3の共振周波数が周波数fhtから周波数fhuへと上昇したとき、電圧電流位相差Rhの波形は、図8の実線から図中右側へ移動し、破線で示す状態になる。このとき、共振ロック制御部612に取得される電圧電流位相差Rhは、目標電圧電流位相差htから値huに低下する。
このような場合、共振ロック制御部612は、上述の処理S13において、電圧電流位相差Rhが低下していると判定し、上述の処理S14により、駆動周波数を周波数fhtからfhuに上昇させる。これにより、値huに低下していた電圧電流位相差Rhを、目標電圧電流位相差htに上昇させることができる。
【0042】
一方、図8に示す場合とは逆に、液体レンズユニット3の共振周波数が周波数fhtから低下した場合、電圧電流位相差Rhの波形は、図8の実線から図中左方へ移動し、共振ロック制御部612に取得される電圧電流位相差Rhの値は上昇する。
このような場合、共振ロック制御部612は、上述の処理S13において電圧電流位相差Rhが上昇していると判定し、上述の処理S15により駆動周波数を周波数fhtから低下させる。これにより、上昇していた電圧電流位相差Rhを、目標電圧電流位相差htにまで低下させることができる。
【0043】
以上の処理では、液体レンズユニット3の共振周波数が上昇した場合には、駆動周波数が上昇され、液体レンズユニット3の共振周波数が低下した場合には、駆動周波数が低下される。このような処理によれば、駆動周波数を、液体レンズユニット3の共振周波数に対して追従させることができる。
【0044】
(屈折力制御)
液体レンズユニット3の稼働開始後、屈折力制御部613は、図9に示す屈折力制御を開始する。なお、本実施形態では、上述の共振ロック制御が1ms毎に行われるのに対し、屈折力制御は200ms毎に行われる。
【0045】
図9において、屈折力制御部613は、所定周期で有効電力Rpを取得し(処理S21)、有効電力Rpの変化(減少または増加)を監視する(処理S22)。
有効電力Rpの変化がない場合、液体レンズユニット3の共振周波数の変動がないとして、処理S21~S22の監視を継続する。
【0046】
一方、有効電力Rpが変化した場合、液体レンズユニット3の共振周波数の変動があったとして、屈折力制御部613は、有効電力Rpの変化の方向(減少か増加か)を判定する(処理S23)。
そして、有効電力Rpが減少した際には、駆動電圧を現在値より増加させ(処理S24)、有効電力Rpが増加した際には、駆動電圧を現在値より減少させる(処理S25)。具体的には、屈折力制御部613は、有効電力Rpの現在値と目標有効電力ptとの差に対応する電圧変化量を算出し、現在値に当該電圧変化量を加えた電圧値を、駆動電圧として新たに設定(更新)する。
【0047】
例えば、図10において、液体レンズユニット3内部温度の変化等により、液体レンズユニット3の最大屈折力が減少した場合、有効電力Rpの波形は、図中の実線から点線で示すようにピークが下側にずれる。このとき、液体レンズユニット3に供給される有効電力Rpは、目標有効電力ptからpuに減少する。
このような場合、屈折力制御部613は、上述の処理S23において有効電力Rpが減少していると判定し、上述の処理S24により駆動電圧を増加させる。これにより、値puに減少していた有効電力Rpを、目標有効電力ptにまで増加させることができる。
【0048】
一方、図10に示す場合とは逆に、液体レンズユニット3の最大屈折力が増加した場合、有効電力Rpの波形はピークが上側にずれる。このような場合、屈折力制御部613は、上述の処理S23において、有効電力Rpが増加していると判定し、上述の処理S25により駆動電圧を減少させる。これにより、増加していた有効電力Rpを、目標有効電力ptまで減少させることができる。
【0049】
以上の処理では、液体レンズユニット3の有効電力Rpが減少した場合、駆動電圧が増加され、液体レンズユニット3の有効電力Rpが減少した場合、駆動電圧が増加される。このような処理によれば、液体レンズユニット3の有効電力Rpを一定に調整することができる。その結果、液体レンズユニット3の最大屈折力を安定化させることができる。
【0050】
(第1実施形態の効果)
本実施形態の焦点距離可変レンズ装置1では、屈折力制御部613が、液体レンズユニット3の現在の有効電力Rpに応じて駆動電圧を調整することにより、液体レンズユニット3に所望の有効電力Rpを供給できる。これにより、液体レンズユニット3の最大屈折力を所望の値に制御できる。
【0051】
また、本実施形態において、屈折力制御部613は、目標有効電力ptに対する有効電力Rpの増減に基づいて、駆動電圧を増減させる。このため、有効電力Rpが目標有効電力ptを保つように駆動電圧を調整することができ、これにより、液体レンズユニット3の最大屈折力を安定化させることができる。換言すると、焦点距離可変レンズ装置1における焦点可変範囲を安定化させることができる。
【0052】
本実施形態において、共振ロック制御部612が駆動周波数を制御すると共に、屈折力制御部613が駆動電圧を制御する。また、屈折力制御部613は、共振ロック制御部612から取得した駆動電流Ri、駆動電圧および電圧電流位相差Rhに基づいて、有効電力Rpを算出する。
これにより、液体レンズユニット3に安定した定在波を発生させつつ、液体レンズユニット3の最大屈折力を好適に制御することができる。
【0053】
本実施形態において、共振ロック制御部612は、電圧電流位相差Rhが目標電圧電流位相差htで安定化するように駆動周波数を調整することにより、駆動周波数を液体レンズユニット3の共振周波数に追従させる制御を行っている。
このような構成において、共振ロック制御部612および屈折力制御部613は、互いの制御対象や参照対象が異なるため、それぞれに好適なタイミングで独立した制御を行うことができる。例えば、共振ロック制御部612による共振ロック制御を行う期間と、屈折力制御部613による屈折力制御を行う期間とが、重なっていてもよい。
【0054】
さらに本実施形態は、後述する第2実施形態に対して、以下の効果を奏する。
すなわち、本実施形態では、共振ロック制御部612および屈折力制御部613は、制御対象や参照対象が異なるため、第2実施形態において必要とする共振ロック制御部612の待機時間を必要としない。このため、共振ロック制御を継続的に安定して行うことができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
図11から図13には、本発明の第2実施形態が示されている。
第2実施形態は、前述した第1実施形態の焦点距離可変レンズ装置1と同じ構成において、主に共振ロック制御の方法が異なるものである。以下では、第1実施形態と同様の構成についての説明を省略し、第1実施形態とは異なる制御の内容について説明する。
【0056】
(初期設定)
焦点距離可変レンズ装置1における初期設定について説明する。
図11に示すように、初期設定部611は、第1実施形態と同様に、電圧電流位相差Rhのピークスキャンを行う。なお、図11では、ピークスキャン時、液体レンズユニット3から検出される駆動電流Riをおよび有効電力Rpを、電圧電流位相差Rhと共に示している。
【0057】
次に、初期設定部611は、液体レンズユニット3から検出される電圧電流位相差Rhについて、電圧電流位相差Rhがピーク値hpを示す周波数fhpを検出し、この周波数fhpを駆動周波数に設定する。
すなわち、第2実施形態では、電圧電流位相差Rhがピーク値hpとなる周波数fhpを液体レンズユニット3の共振周波数として扱う。
【0058】
また、初期設定部611は、駆動周波数に設定された周波数fhpにおいて、液体レンズユニット3から検出される駆動電流Riを、基準駆動電流itに設定する。
また、初期設定部611は、第1実施形態と同様、液体レンズユニット3に与える有効電力Rpについて、任意の目標有効電力pt(図15参照)を設定する。
【0059】
(共振ロック制御)
液体レンズユニット3の稼働開始後、共振ロック制御部612は、共振ロック制御を開始する。なお、本実施形態の共振ロック制御部612は、駆動電流Riを参照して電圧電流位相差Rhがピーク値hpで安定化するように駆動周波数を調整するものであり、これにより、駆動周波数を液体レンズユニット3の共振周波数に追従させる「位相差ピーク共振周波数追従式」の制御を行うものである。
【0060】
具体的には、共振ロック制御部612は、図12に示す共振ロック制御を行う。
図12において、共振ロック制御部612は、所定周期で電圧電流位相差Rhおよび駆動電流Riを取得し(処理S31)、電圧電流位相差Rhの低下を監視する(処理S32)。
電圧電流位相差Rhが低下していなければ、液体レンズユニット3の共振周波数の変動がないとして、処理S31~S32の監視を継続する。
【0061】
一方、電圧電流位相差Rhが低下した場合、液体レンズユニット3の共振周波数の変動があったとして、液体レンズユニット3から検出される駆動電流Riが減少したか否かを判定する(処理S33)。そして、駆動電流Riが減少した場合には、駆動周波数を周波数fhpから低下させ(処理S34)、駆動電流Riが増加した際には、駆動周波数を周波数fhpから上昇させる(処理S35)。具体的には、共振ロック制御部612は、駆動電流Riの現在値と基準駆動電流itとの差に対応する周波数変化量を算出し、現在の周波数に当該周波数変化量を反映させた周波数を、駆動周波数として新たに設定(更新)する。
【0062】
例えば、図13において、温度上昇などにより、液体レンズユニット3の共振周波数が周波数fhpから周波数fhuへと上昇したとき、電圧電流位相差Rhの波形は、図中右側へ移動し、破線で示す状態になる。このとき、共振ロック制御部612に取得される電圧電流位相差Rhの値は、ピーク値hpよりも低い値huに低下する。よって、上述の処理S32において、電圧電流位相差Rhが低下していると判定される。
【0063】
また、図13において、液体レンズユニット3の共振周波数が周波数fhpから周波数fhuへと増加したとき、駆動電流Riの波形は、図中右側へ移動し、破線で示す状態になる。このとき、共振ロック制御部612に取得される駆動電流Riの値は、基準駆動電流itより大きい値ituへと増加する。よって、上述の処理S33で駆動電流Riが増加と判定され、処理S35において駆動周波数が周波数fhpから周波数fhuに上げられる。これにより、値ituに増加していた駆動電流Riを、基準駆動電流itに減少させることができる。
【0064】
一方、図13に示す場合とは逆に、液体レンズユニット3の共振周波数が周波数fhpより低下した場合、駆動電流Riは周波数fhpの周辺で右下がりの区間であるため、駆動電流Riの値が下降する。よって、上述の処理S33において駆動電流Riが低下したと判定され、処理S34において駆動周波数が周波数fhpから下げられる。これにより、減少していた駆動電流Riを、基準駆動電流itに増加させることができる。
【0065】
以上の処理によっても、第1実施形態と同様、液体レンズユニット3の共振周波数が上昇した場合には、駆動周波数が上昇され、液体レンズユニット3の共振周波数が低下した場合には、駆動周波数が低下される。このような処理によれば、駆動周波数を、液体レンズユニット3の共振周波数に対して追従させることができる。
【0066】
また、第2実施形態では、処理S34または処理S35の後、処理S36に移行する。処理S36では、例えば処理S31~S35のループ回数や液体レンズユニット3開始後の経過時間等に基づいて、現在が待機開始タイミングであるか否かを判断する(処理S36)。YESの場合、処理S37に移行し、NOの場合、処理S31に戻ってループを繰り返す。
【0067】
処理S37では、所定の待機時間が経過したか否かを判断する。YESの場合、処理S31に戻ってループを繰り返し、NOの場合、YESと判断するまで待機する。
なお、共振ロック制御部612の待機時間において、後述する屈折力制御部613の屈折力制御が行われる。
【0068】
(屈折力制御)
液体レンズユニット3の稼働開始後、屈折力制御部613は、液体レンズユニット3の屈折力制御を行う。屈折力制御部613の具体的な処理内容は、第1実施形態で説明した内容とほぼ同様である。
【0069】
ただし、第2実施形態では、屈折力制御部613が屈折力制御のために駆動電圧を変更すると、共振ロック制御部612が共振ロック制御のために参照する駆動電流Riが変化してしまう。そこで、第2実施形態では、図14に示すように、第1実施形態の処理S21~S25に加え、処理S41~43を実施する。
【0070】
具体的には、液体レンズユニット3の稼働開始後、屈折力制御部613は、まず、現在が屈折力制御の開始タイミングか否かを判断する(処理S41)。ここで、屈折力制御の開始タイミングは、例えば、共振ロック制御部612が待機を開始してから所定の第1ポーズ時間が経過したか否かに基づいて判断できる。処理S41でYESの場合、処理S21に進み、NOの場合、YESと判断するまで待機する。
【0071】
その後、屈折力制御部613は、第1実施形態と同様に、処理S21から処理S24または処理S25までを実施する。
例えば、図15において、液体レンズユニット3の最大屈折力が減少した場合、有効電力Rpの波形は、図中の実線から点線で示すようにピークが下側にずれる。このとき、液体レンズユニット3に供給される有効電力Rpは、目標有効電力ptからpuに減少する。
このような場合、屈折力制御部613は、有効電力Rpが減少していると判定し(処理S23)、駆動電圧を増加させる(処理S24)。これにより、減少していた有効電力Rpを、目標有効電力ptにまで増加させることができる。
【0072】
一方、図15に示す場合とは逆に、液体レンズユニット3の最大屈折力が増加した場合、有効電力Rpの波形はピークが上側にずれる。このような場合、屈折力制御部613は、有効電力Rpが増加していると判定し(処理S23)、駆動電圧を減少させる(処理S25)。これにより、増加していた有効電力Rpを、目標有効電力ptにまで減少させることができる。
【0073】
その後、処理S42では、処理S24または処理S25から所定時間(第2ポーズ時間)が経過したか否かを判断する。処理S42でYESの場合、処理S43に進み、NOの場合、YESと判断するまで待機する。
【0074】
なお、処理S41,S42における第1,第2ポーズ時間は、レンズ制御部6の回路状態や液体レンズユニット3の振動状態などが、駆動周波数または駆動電圧を調整したことの影響を受けた後に安定化するまでの時間であり、任意に設定可能である。
【0075】
処理S43において、屈折力制御部613は、共振ロック制御に用いる駆動電流Riの基準駆動電流itを現在値に更新する。これにより、駆動電圧の変更に伴う駆動電流Riの変化の影響を抑制できる。
処理S43の後、処理S41に戻り、次の開始タイミングまで待機する。
【0076】
以上の処理によれば、第1実施形態と同様、液体レンズユニット3の有効電力Rpが一定になるように駆動電圧を増減させ、液体レンズユニット3の最大屈折力を安定化させることができる。
【0077】
(共振ロック制御と屈折力制御との関係)
図16のタイムチャートは、共振ロック制御部612および屈折力制御部613の動作例を示している。
なお、図16では、共振ロック制御における処理S31を実施する(電圧電流位相差Rhおよび駆動電流Riを取得する)タイミングをT1、屈折力制御において処理S21を実施する(有効電力Rpを取得する)タイミングをT2、屈折力制御において処理S43を実施する(駆動電流Riの基準駆動電流itを更新する)タイミングをT3として示している。
【0078】
図16に示すように、共振ロック制御部612は、5000msのうち、前半4000msにおいて1ms毎のタイミングT1にて共振ロック制御を開始し、後半1000msにおいて待機状態になる。
一方、屈折力制御部613は、共振ロック制御部612の待機開始から第1ポーズ時間(約500ms弱)が経過したタイミングT2にて、有効電力Rpの安定化制御を開始する。その後、第2ポーズ時間(約500ms弱)が経過したタイミングT3にて、基準駆動電流itの更新処理を開始する。
【0079】
このような動作例では、屈折力制御部613が駆動電圧を増減させる間、共振ロック制御部612が待機状態になることにより、共振ロック制御部612の制御中にその参照対象が変動することが回避される。これにより、屈折力制御部613が共振ロック制御部612に与える影響を低減できる。
【0080】
ただし、このような動作例では、共振ロック制御部612の待機時間中に共振周波数が変化する恐れがある。このため、実際の共振周波数と駆動周波数との間にずれが生じ、基準駆動電流itの更新値は、実際の共振周波数における駆動電流とは異なる可能性がある。
そこで、共振ロック制御を安定して継続するためには、定期的に、初期設定と同様のピークスキャンを実施し、共振周波数と駆動周波数とのずれを解消することが好ましい。
【0081】
〔他の実施形態〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
【0082】
前記第1実施形態および前記第2実施形態における各制御は、組み合わせ可能である。
例えば、第2実施形態よりも第1実施形態の方が、屈折力制御を行う周期を短くできる。よって、液体レンズユニット3の温度変化が所定値より小さい場合には、第2実施形態による共振ロック制御および屈折力制御を行い、液体レンズユニット3の温度変化が所定値以上である場合には、第1実施形態による共振ロック制御および屈折力制御を行ってもよい。
【0083】
前記各実施形態において、屈折力制御部613は、液体レンズユニット3の有効電力Rpが目標有効電力ptを保つように駆動電圧を調整するが、これに限られない。例えば、液体レンズユニット3の最大屈折力を変化させる目的で、有効電力Rpが変化するように駆動電圧を調整してもよい。
【0084】
前記各実施形態では、屈折力制御部613による屈折力制御は、共振ロック制御部612による共振ロック制御と共に実施されるものであるが、これに限られない。すなわち、温度制御など、他の方法により液体レンズユニット3に安定した定在波を発生させることができれば、共振ロック制御部612による共振ロック制御は行われずともよい。
【0085】
共振ロック制御部612による制御方法は、前記各実施形態で説明した方法に限定されない。例えば、共振ロック制御部612は、液体レンズユニット3に設置した振動センサにより液体レンズユニット3の振動状態Vfを検出してもよい。そして、検出した液体レンズユニット3の振動状態Vfを参照することにより、駆動周波数を液体レンズユニット3の共振周波数に追従させてもよい。
【0086】
前記各実施形態では、液体レンズユニット3の駆動および制御を行うために、レンズ制御部6と制御用PC7との組み合わせを用いたが、これらは液体レンズユニット3の駆動、制御ないし操作までを一括して行う一体の装置としてもよい。しかし、前記各実施形態のように、レンズ制御部6と制御用PC7との組み合わせとすることで、液体レンズユニット3の駆動および制御に必要なハードウェアを専用のレンズ制御装置として独立させることができる。また、レンズ制御部6操作や設定調整、さらには画像の取り込みまでを汎用性の高いパーソナルコンピュータを用いて実現することができる。
【0087】
前記各実施形態では、駆動信号Cfおよび焦点変動波形Mfを正弦波としたが、これは三角波、鋸歯状波、矩形波その他の波形であってもよい。
液体レンズユニット3の具体的構成は適宜変更してよく、ケース31および振動部材32は円筒状のほか六角筒状などであってもよく、これらの寸法や液体35の属性も適宜選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法に利用できる。
【符号の説明】
【0089】
1…焦点距離可変レンズ装置、2…対物レンズ、3…液体レンズユニット、31…ケース、32…振動部材、33…外周面、34…内周面、35…液体、39…スペーサ、4…画像検出部、5…パルス照明部、6…レンズ制御部、61…駆動制御部、611…初期設定部、612…共振ロック制御部、613…屈折力制御部、62…発光制御部、63…画像検出制御部、7…制御用PC、71…レンズ操作部、711…共振ロック操作部、72…画像処理部、73…操作インターフェイス、9…測定対象物、Cc…画像検出信号、Cf…駆動信号、Ci…発光信号、Df…焦点距離、Im…検出画像、Lg…画像、Li…照明光、Lr…反射光、Mf…焦点変動波形、Pf…焦点位置、Rh…電圧電流位相差、ht…目標電圧電流位相差、Ri…駆動電流、it…基準駆動電流、Rp…有効電力、pt…目標有効電力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16