(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】水素同位体比測定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20221207BHJP
C01B 4/00 20060101ALI20221207BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20221207BHJP
C01C 1/00 20060101ALN20221207BHJP
C01B 5/00 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
G01N21/3504
C01B4/00 Z
G01N21/61
C01C1/00
C01B5/00 A
C01B5/00 D
(21)【出願番号】P 2018204930
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】高柳 智
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-113353(JP,A)
【文献】特開2017-219428(JP,A)
【文献】特開2017-020929(JP,A)
【文献】特開2016-024156(JP,A)
【文献】特開平10-088180(JP,A)
【文献】特表平05-506509(JP,A)
【文献】特開2002-039939(JP,A)
【文献】特開2007-064709(JP,A)
【文献】特開昭57-113352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水素化化合物を前処理し、前処理で発生したガスの水素同位体を測定することで前記重水素化化合物における水素同位体比を測定する水素同位体比測定方法であって、前記重水素化化合物を前処理する前処理工程と、該前処理工程を行った後の残留重水素化化合物の量を測定する残留量測定工程と、重水素化化合物の残留量があらかじめ設定された量未満になったときに、前記前処理工程で発生したガス成分を測定して水素同位体比を算出するガス成分測定工程とを循環経路内で循環させながら連続して行うことを特徴とする水素同位体比測定方法。
【請求項2】
前記重水素化化合物は、窒素元素及び炭素元素の少なくともいずれか一方と、水素元素及び水素元素の同位体とからなる化合物であることを特徴とする請求項1記載の水素同位体比測定方法。
【請求項3】
前記ガス成分測定工程は、前記前処理工程で発生した水蒸気における水素同位体比(H/D)を測定することで水素同位体比を測定することを特徴とする請求項1又は2記載の水素同位体比測定方法。
【請求項4】
前記ガス成分測定工程は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)又は非分散型赤外分光計(NDIR)で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の水素同位体比測定方法。
【請求項5】
前記循環経路は、該循環経路内のガスを循環させるためのダイヤフラムポンプ又はスクロールポンプを備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の水素同位体比測定方法。
【請求項6】
前記循環経路は、該循環経路内に前記重水素化化合物を導入する導入経路を備えるとともに、該導入経路は、
前記重水素化化合物に含まれる水分を除去する水分除去手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の水素同位体比測定方法。
【請求項7】
前記循環経路は、該循環経路内に、前記前処理工程で使用する酸素又はオゾンを添加する酸素添加手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の水素同位体比測定方法。
【請求項8】
前記前処理工程は、該前処理における反応を促進する光照射手段又は触媒を有していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の水素同位体比測定方法。
【請求項9】
重水素化化合物を前処理し、前処理で発生したガスの水素同位体を測定することで前記重水素化化合物における水素同位体比を測定する水素同位体比測定方法であって、前記重水素化化合物を前処理する前処理手段と、該前処理手段で前処理を行った後の残留重水素化化合物の量を測定するとともに、前記前処理手段での前処理で発生したガス成分を測定して水素同位体比を算出するガス成分測定手段と、ガスを循環させるガス循環手段とを有する循環経路を備えていることを特徴とする水素同位体比測定装置。
【請求項10】
前記重水素化化合物は、窒素元素及び炭素元素の少なくともいずれか一方と、水素元素及び水素元素の同位体とからなる化合物であることを特徴とする請求項9記載の水素同位体比測定装置。
【請求項11】
前記ガス成分測定手段は、前記前処理手段での前処理で発生した水蒸気における水素同
位体比(H/D)を測定することで水素同位体比を測定することを特徴とする請求項9又は10記載の水素同位体比測定装置。
【請求項12】
前記ガス成分測定手段は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)又は非分散型赤外分光計(NDIR)であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項記載の水素同位体比測定装置。
【請求項13】
前記ガス循環手段は、ダイヤフラムポンプ又はスクロールポンプであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項記載の水素同位体比測定装置。
【請求項14】
前記循環経路は、該循環経路内に前記重水素化化合物を導入する導入経路を備えるとともに、該導入経路は、
前記重水素化化合物に含まれる水分を除去する水分除去手段を備えていることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項記載の水素同位体比測定装置。
【請求項15】
前記循環経路は、該循環経路内に、前記前処理手段で使用する酸素又はオゾンを添加する酸素添加手段を備えていることを特徴とする請求項9乃至14のいずれか1項記載の水素同位体比測定装置。
【請求項16】
前記前処理手段は、該前処理手段での反応を促進する光照射手段又は触媒を有していることを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項記載の水素同位体比測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素同位体比測定方法及び装置に関し、詳しくは、重水素化化合物の水素同位体比を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な化合物にて重水素化した化合物の有効性が確認されている。例えばアンモニアの構成元素である水素を重水素化した重水素化アンモニアを、半導体製膜工程などに使用することで半導体製品の性能向上に寄与することが知られている(特許文献1参照。)。このため、前記重水素化アンモニアなどの重水素化化合物の品質を評価するため、重水素化化合物における水素同位体比を測定することが行われており、安定同位体比質量分析計(IRMS)を用いることで高精度に測定することが可能となっている。さらに、測定時の前処理として、重水素化化合物を燃焼させ、発生したガス中の水素同位体比を測定する手法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、天然存在比付近の水素同位体比を高精度かつ簡便に測定できるキャビティーリングダウン分光法(CRDS)も知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-87712号公報
【文献】特開2017-219428号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Picarro社、B2221-iデーターシート、米国、2013年5月7日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記IRMSは、高精度に水素同位体比を測定可能であるが、装置が大型かつ高価であることが課題となっている。また、従来の前処理方法は、密閉容器内にて重水素化化合物を燃焼させ、燃焼によって発生したガスを測定する方法であることから、燃焼できていない残留物があると、その後の水素同位体比測定の誤差に直結するという問題がある。残留物を確認するには、重水素化化合物及び発生ガスを測定する必要があり、一般には、測定で重水素化化合物及び発生ガスを消費するため、前処理が不十分であると判断した場合、最初の工程から、前処理及び測定をやり直す必要がある。一方、前記CRDSは、天然存在比付近の水素同位体比を測定する仕様であり、天然存在比付近から大きく逸脱する化合物の同位体比測定には適していない。
【0006】
そこで本発明は、天然存在比より大きく逸脱する高い重水素化率の重水素化化合物であっても、重水素化化合物における水素同位体比を安価な装置で簡便に測定できる水素同位体比測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の水素同位体比測定方法は、重水素化化合物を前処理し、前処理で発生したガスの水素同位体を測定することで前記重水素化化合物における水素同位体比を測定する水素同位体比測定方法であって、前記重水素化化合物を前処理する前処理工程と、該前処理工程を行った後の残留重水素化化合物の量を測定する残留量測定工程と、重水素化化合物の残留量があらかじめ設定された量未満になったときに、前記前処理工程で発生したガス成分を測定して水素同位体比を算出するガス成分測定工程とを循環経路内で循環させながら連続して行うことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の水素同位体比測定方法では、前記重水素化化合物は、窒素元素及び炭素元素の少なくともいずれか一方と、水素元素及び水素元素の同位体とからなる化合物であること、前記ガス成分測定工程は、前記前処理工程で発生した水蒸気における水素同位体比(H/D)を測定することで水素同位体比を測定することを特徴としている。
【0009】
さらに、前記ガス成分測定工程は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)又は非分散型赤外分光計(NDIR)で行うこと、前記循環経路は、該循環経路内のガスを循環させるためのダイヤフラムポンプ又はスクロールポンプを備えていることを特徴とし、前記循環経路は、該循環経路内に前記重水素化化合物を導入する導入経路を備えるとともに、該導入経路は、前記重水素化化合物に含まれる水分を除去する水分除去手段を備えていることを特徴としている。また、前記循環経路は、該循環経路内に、前記前処理工程で使用する酸素又はオゾンを添加する酸素添加手段を備えていること、前記前処理工程は、該前処理における反応を促進する光照射手段又は触媒を有していることを特徴としている。
【0010】
本発明の水素同位体比測定装置は、重水素化化合物を前処理し、前処理で発生したガスの水素同位体を測定することで前記重水素化化合物における水素同位体比を測定する水素同位体比測定方法であって、前記重水素化化合物を前処理する前処理手段と、該前処理手段で前処理を行った後の残留重水素化化合物の量を測定するとともに、前記前処理手段での前処理で発生したガス成分を測定して水素同位体比を算出するガス成分測定手段と、ガスを循環させるガス循環手段とを有する循環経路を備えていることを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明の水素同位体比測定装置は、前記重水素化化合物は、窒素元素及び炭素元素の少なくともいずれか一方と、水素元素及び水素元素の同位体とからなる化合物であることを特徴とし、前記ガス成分測定手段は、前記前処理手段での前処理で発生した水蒸気における水素同位体比(H/D)を測定することで水素同位体比を測定すること、前記ガス成分測定手段は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)又は非分散型赤外分光計(NDIR)であることを特徴としている。
【0012】
また、前記ガス循環手段は、ダイヤフラムポンプ又はスクロールポンプであること、前記循環経路は、該循環経路内に前記重水素化化合物を導入する導入経路を備えるとともに、該導入経路は、前記重水素化化合物に含まれる水分を除去する水分除去手段を備えていること、前記循環経路は、該循環経路内に、前記前処理手段で使用する酸素又はオゾンを添加する酸素添加手段を備えていること、前記前処理手段は、該前処理手段での反応を促進する光照射手段又は触媒を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重水素化化合物を循環経路で循環させながら測定を行うので、前処理及び測定を同時かつ連続的に実施できる。このため、前処理、前処理完了確認、水素同位体比測定を同時に実施可能な簡便な測定法であり、かつ比較的安価な装置にてこれを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の水素同位体比測定方法を実施可能な本発明の水素同位体比測定装置の一形態例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の水素同位体比測定装置の一形態例を示す系統図であって、本形態例に示す水素同位体比測定装置は、測定対象となる試料である重水素化化合物を循環させるための循環経路11を有している。この循環経路11は、前記重水素化化合物を前処理し、前処理で発生したガスの水素同位体を測定することで前記重水素化化合物における水素同位体比を測定するためのものであって、前記重水素化化合物を前処理する前処理手段12と、該前処理手段12で前処理を行った後の残留重水素化化合物及び前記前処理手段12で発生したガス成分を測定するガス成分測定手段13と、循環経路11内でガスを循環させるためのガス循環手段14とを備えている。
【0016】
さらに、循環経路11には、該循環経路11に測定対象となる試料ガスを、試料ガス源15から循環経路11内に導入するための試料ガス導入経路16が設けられるとともに、測定済みのガスを循環経路11からパージするためのパージガスをパージガス源17から導入するためのパージガス導入経路18及びパージガスの導入に伴って循環経路11内のガスを外部に排出するための排気経路19が設けられている。さらに、循環経路11内を真空排気するための真空ポンプ20を備えた真空排気経路21が設けられている。また、試料ガス導入経路16とパージガス導入経路18とが合流した合流導入経路22には、試料ガスやパージガスに含まれていて測定に悪影響を与える成分、例えば水分を除去する水分除去手段23が設けられている。
【0017】
また、循環経路11における前処理手段12のガス流れ方向の上流側には、前処理を行う際に使用するガスとして、酸素又はオゾンを添加する酸素添加手段24が設けられている。さらに、循環経路11には、該循環経路11内のガス量を検出するための圧力計25が設けられている。
【0018】
本発明での測定対象となる前記重水素化化合物は、窒素元素及び炭素元素の少なくともいずれか一方と、水素元素及び水素元素の同位体とからなる化合物であって、例えば、NH3、N2H2、N2H4、(CH3)NH2、(CH3)2NH、CH3-NH-NH2であり、これらの化合物の水素の一部又は全部が水素の同位体である重水素(D)となっている化合物である。
【0019】
前記ガス成分測定手段13は、前記前処理手段12で発生したガス成分、通常は、水蒸気における水素同位体比(H/D)を測定するもので、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)や非分散型赤外分光計(NDIR)を好適に用いることができる。また、ガス成分測定手段13では、前処理手段12で未反応の残留重水素化化合物も同時に測定し、残留重水素化化合物が測定されなくなったときに、重水素化化合物の全量が前処理手段12で反応したと判断する。
【0020】
また、前記ガス循環手段14は、前記重水素化化合物や前記前処理手段12で発生したガス成分との反応性がない材料を使用したものが選択され、通常は、ダイヤフラムポンプやスクロールポンプを使用することが好ましい。
【0021】
次に、前記構成の水素同位体比測定装置を使用して重水素化化合物における水素同位体比を測定する手順の一例を説明する。なお、各弁についての開閉操作、切替操作についての詳細な説明は省略する。
【0022】
まず、第1の段階として、測定誤差の要因となる不要成分を循環経路11から排除する。例えば、パージガス導入経路18からパージガス、通常は窒素を導入して排気経路19から排出する流通パージや、真空ポンプ20によって循環経路11のガスを吸引排気する真空パージを行う。そして、循環経路11内に試料ガスを導入するため、循環経路11内のガスを、例えば圧力が100Pa未満になるまで排出する。
【0023】
次に、第2段階として、循環経路11に試料ガスを導入する。このとき、合流導入経路22に設けた水分除去手段23、例えば、モレキュラーシーブスなどの吸着剤やフロン冷媒などの低温を利用した水分捕集部などの水分除去手段23により、測定誤差が発生する要因となる水分を除去し、水分除去後の試料ガスを循環経路11に導入する。また、試料ガスの導入量は、圧力計25によって測定する。
【0024】
第3の段階では、ガス成分測定手段13、例えばFTIRによって試料ガスである重水素化化合物の赤外吸収スペクトルを取得する。
【0025】
第4の段階では、酸素添加手段24から一定量の酸素を導入する。酸素又はオゾンの導入量は、試料ガスの種類や導入量などの条件に応じてあらかじめ設定しておく。
【0026】
第5の段階で、ガス循環手段14を起動し、循環経路11内のガスを循環させる。同時に、前処理手段12で重水素化化合物と酸素とを反応(酸化反応)させて重水素化化合物中の水素と酸素とによって水を生成させる(本願発明方法の前処理工程)。重水素化化合物中の他の成分は、通常、二酸化炭素や二酸化窒素になる。また、特定の波長の光を照射したり、触媒を加熱することによって酸化反応を促進させる。
【0027】
第6の段階では、前処理手段12での酸化反応と同時に重水素化化合物の赤外吸収スペクトルを取得し、第3の段階で取得した赤外吸収スペクトルと比較して酸化反応処理率、残留重水素化化合物の量を確認する(本願発明方法の残留量測定工程)。
【0028】
重水素化化合物の残留量があらかじめ設定された量未満になった第7の段階で、第5の段階での酸化処理で発生したガスの赤外吸収スペクトルをFTIRにて連続的に取得し、発生したガス、通常は水分(水蒸気)におけるH/Dを算出し、重水素化化合物の水素同位体比を測定する(本願発明方法のガス成分測定工程)。測定終了後は、前記第1の段階に戻って次の測定に対する準備を行う。
【0029】
このように、循環経路11を使用することにより、重水素化化合物の前処理と、前処理の際に残留する重水素化化合物の測定と、前処理によって発生したガスにおけるH/Dの測定とを同時かつ連続的に実施できることから、重水素化化合物中の水素同位体の比率、すなわち、水素同位体比を容易かつ確実に測定することができる。また、簡単な装置構成で実施できることから、水素同位体比の測定を低コストで実施することができる。
【0030】
なお、各種構成要素は、同種の機器を任意に選択して使用することができ、循環経路における各機器の順番も特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
11…循環経路、12…前処理手段、13…ガス成分測定手段、14…ガス循環手段、15…試料ガス源、16…試料ガス導入経路、17…パージガス源、18…パージガス導入経路、19…排気経路、20…真空ポンプ、21…真空排気経路、22…合流導入経路、23…水分除去手段、24…酸素添加手段、25…圧力計