(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】横型旋盤
(51)【国際特許分類】
B23B 31/02 20060101AFI20221207BHJP
B23B 31/36 20060101ALI20221207BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B23B31/02 610B
B23B31/36 Z
B23B19/02 C
(21)【出願番号】P 2018568047
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2018000841
(87)【国際公開番号】W WO2018150780
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2017025565
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-178956(JP,A)
【文献】特開昭59-097548(JP,A)
【文献】米国特許第05711781(US,A)
【文献】特開2001-172025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 23/00,31/00-33/00;
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの両端を前記ターゲットの長手方向が略水平方向になるように把持して固定し、前記長手方向に平行な軸を回転軸として前記ターゲットを回転させる、光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤であって、
前記ターゲットの一端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第1チャック爪と、
前記ターゲットの他端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第2チャック爪とを備え、
前記ターゲットの前記回転軸方向の熱膨張による前記回転軸方向に沿った延伸長を吸収する熱膨張吸収機構を有
し、
前記熱膨張吸収機構は、前記第2チャック爪が、前記ターゲットの前記回転軸方向に可動に構成された機構である
ことを特徴とする横型旋盤。
【請求項2】
前記第2チャック爪に対して前記回転軸方向に引張力を作用する弾性部材を備える
ことを特徴とする請求項
1に記載の横型旋盤。
【請求項3】
ターゲットの両端を前記ターゲットの長手方向が略水平方向になるように把持して固定し、前記長手方向に平行な軸を回転軸として前記ターゲットを回転させる、光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤であって、
前記ターゲットの一端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第1チャック爪と、
前記ターゲットの他端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第2チャック爪とを備え、
前記ターゲットの前記回転軸方向の熱膨張による前記回転軸方向に沿った延伸長を吸収する熱膨張吸収機構を有し、
前記熱膨張吸収機構は、前記第1チャック爪と前記第2チャック爪との少なくとも一方のチャック爪が、前記ターゲットとの接触部分における前記ターゲットとの摩擦力が熱膨張により前記ターゲットの前記回転軸方向に生じる熱膨張力未満になるように構成された機構である
ことを特徴とす
る横型旋盤。
【請求項4】
前記少なくとも一方のチャック爪における前記ターゲットとの接触部分が、軟鋼又はフッ素樹脂から構成されている
ことを特徴とする請求項
3に記載の横型旋盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産性を向上させるため、光ファイバ用ガラス母材の大型化が進んでいる。光ファイバ用ガラス母材は、例えば、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法やMCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法などの周知の方法によって作製される。
【0003】
このうち、OVD法は、バーナに可燃性ガス、助燃性ガス、ガラス原料を導入して火炎加水分解反応させて生成されるガラス微粒子を、回転するターゲット(基材)の半径方向に堆積させて、光ファイバ用ガラス母材の元となる多孔質母材を製造する方法である。特許文献1には、ターゲットを、その長手方向が重力方向(垂直方向)になるように把持しつつ回転させる縦型旋盤を用い、熱膨張差によって把持力が低下することを防止する機能によって、ターゲットの外周に形成される多孔質ガラスの径方向の変化を補正して改善する機構が記載されている。縦型旋盤を用いてターゲットを把持しつつ回転させる際に、縦型旋盤の上部に設けられたチャックが加熱されるため、チャックが加熱されることによる影響が無視できないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、多孔質母材の製造時に、長手方向が略水平方向になるようにターゲットを把持しつつ固定する横型旋盤を用いる場合、ターゲットの加熱時に軸方向に沿った熱膨張が発生することによって、ターゲットがたわんで振れ回りが発生する可能性があった。ターゲットの振れ回りが発生すると、光ファイバのガラス母材から製造する最終製品としての光ファイバのコアが偏心して、光ファイバの品質が悪化するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、ターゲットを長手方向が水平方向になるように把持しつつ固定する横型旋盤において、加熱による軸方向に沿ったターゲットの熱膨張に起因した振れ回りを抑制し、光ファイバのコアの偏心を抑制できる横型旋盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る横型旋盤は、ターゲットの両端を前記ターゲットの長手方向が略水平方向になるように把持して固定し、前記長手方向に平行な軸を回転軸として前記ターゲットを回転させる、光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤であって、前記ターゲットの回転軸方向の熱膨張による寸法変化を吸収する熱膨張吸収機構を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る横型旋盤は、上記の発明において、前記ターゲットの一端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第1チャック爪と、前記ターゲットの他端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第2チャック爪とを備え、前記熱膨張吸収機構は、前記第2チャック爪が、前記ターゲットの前記回転軸方向に可動に構成された機構であることを特徴とする。本発明の一態様に係る横型旋盤は、この構成において、前記第2チャック爪に対して前記回転軸方向に引張力を作用する弾性部材を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る横型旋盤は、上記の発明において、前記ターゲットの一端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第1チャック爪と、前記ターゲットの他端を把持し、前記回転軸を中心として回転可能に構成された第2チャック爪とを備え、前記熱膨張吸収機構は、前記第1チャック爪と前記第2チャック爪との少なくとも一方のチャック爪が、前記ターゲットとの接触部分における前記ターゲットとの摩擦力が熱膨張により前記ターゲットの前記回転軸方向に生じる熱膨張力未満になるように構成された機構であることを特徴とする。本発明の一態様に係る横型旋盤は、この構成において、前記少なくとも一方のチャック爪における前記ターゲットとの接触部分が、軟鋼又はフッ素樹脂から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る横型旋盤によれば、ターゲットを長手方向が水平方向になるように把持しつつ固定する横型旋盤において、加熱による軸方向に沿ったターゲットの熱膨張に起因した振れ回りを抑制し、光ファイバのコアの偏心を抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態による横型旋盤を示す側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態による横型旋盤を示す側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第3の実施形態による横型旋盤を示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3の実施形態による横型旋盤の吸収側チャック爪に軟鋼を用いた第1実施例における、ワーク加圧力に対するターゲットロッドの振幅を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の第3の実施形態による横型旋盤の吸収側チャック爪にフッ素樹脂を用いた第2実施例における、ワーク加圧力に対するターゲットロッドの振幅を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ターゲットロッドの振幅を説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複した説明を適宜省略する。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0013】
まず、本発明の第1の実施形態による光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤について説明する。
図1は、第1の実施形態による横型旋盤を示す側面図である。
【0014】
図1に示すように、第1の実施形態による横型旋盤1は、回転モータ11、固定側チャックブロック12、固定側チャック爪13、軸受部14、可動側チャックブロック15、可動側チャック爪16、及びベアリング17を備えて構成される。
【0015】
回転モータ11は、固定側チャックブロック12及び第1チャック爪としての固定側チャック爪13を、回転軸Oを中心として回転させるように構成されている。固定側チャック爪13は、固定側チャックブロック12に固定されている。可動側チャック爪16は可動側チャックブロック15に固定されている。
【0016】
可動側チャックブロック15には、第2チャック爪としての可動側チャック爪16が設けられた側とは反対側に凸状部15aが設けられている。凸状部15aの回転軸Oに垂直な断面は例えば略円形状である。軸受部14には、回転軸Oに垂直な断面が例えば略円形状の凹状部14aが、凸状部15aを挿入可能に形成されている。ベアリング17は、例えばボールブッシングからなり、凹状部14aの内周側面と凸状部15aとの外周側面との間に設けられている。これにより、可動側チャックブロック15及び可動側チャック爪16は、軸受部14に対して回転軸O方向に沿って可動自在、かつ回転軸Oを中心として回転自在に構成される。
【0017】
固定側チャック爪13及び可動側チャック爪16は、例えば石英ガラスからなるターゲットロッド50の長手方向が回転軸O方向に平行で略水平方向になるように、ターゲットロッド50の両端をそれぞれ把持可能に構成される。固定側チャック爪13及び可動側チャック爪16によってターゲットロッド50の両端が把持された状態で、回転モータ11を回転させることにより、回転軸Oを中心としてターゲットとしてのターゲットロッド50を回転させることができる。
【0018】
以上のように構成された横型旋盤1において、酸水素バーナ18は、火炎によってターゲットロッド50にガラス微粒子を堆積可能、かつ横型旋盤1及びターゲットロッド50に対して、回転軸O方向に沿って移動可能に構成される。なお、酸水素バーナ18を静止状態に固定して、横型旋盤1を回転軸O方向に沿って移動可能に構成してもよい。すなわち、酸水素バーナ18は、横型旋盤1に対して回転軸O方向に沿って相対移動可能に構成される。また、酸水素バーナ18は、必要に応じてターゲットロッド50が加熱されない位置に退避可能に構成してもよい。また、酸水素バーナ18は、1本に限定されるものではなく、複数本から構成することも可能である。
【0019】
また、可動側チャックブロック15及び可動側チャック爪16は、ターゲットロッド50を加熱する前の状態で、凹状部14aの凸状部15a側の面と、凸状部15aの凹状部14a側の面との間の可動域の範囲で移動可能である。なお、可動域の長さは、加熱されるターゲットロッド50の熱膨張による延伸長に応じて、適宜設定可能である。
【0020】
次に、ターゲットロッド50にガラス微粒子を堆積させる場合について説明する。ターゲットロッド50は、固定側チャック爪13及び可動側チャック爪16によって両端が把持されつつ、回転モータ11の駆動によって回転されるとともに、酸水素バーナ18の火炎によって加熱される。ターゲットロッド50は、外周にガラス微粒子が堆積されるとともに、回転軸O方向に沿って熱膨張する。ターゲットロッド50が回転軸O方向に沿って熱膨張すると、可動側チャックブロック15及び可動側チャック爪16に、ターゲットロッド50の熱膨張による力(以下、熱膨張力)が作用する。可動側チャックブロック15及び可動側チャック爪16は、回転軸O方向に沿って、ターゲットロッド50が延伸する向きに移動する。この際、可動側チャックブロック15の凸状部15aが、回転軸O方向に沿って軸受部14の凹状部14a内を移動する。すなわち、軸受部14が移動することなく、可動側チャックブロック15及び可動側チャック爪16がターゲットロッド50の延伸する向きに移動することで、横型旋盤1において、ターゲットロッド50の熱膨張による回転軸O方向の寸法変化分を吸収することになる。これにより、凹状部14a、凸状部15a、及びベアリング17が、横型旋盤1において、ターゲットロッド50の回転軸O方向に沿った熱膨張による回転軸O方向の寸法変化分を吸収する熱膨張吸収機構を構成する。
【0021】
以上説明した本発明の第1の実施形態による横型旋盤1によれば、ターゲットロッド50が加熱される際に、熱膨張によって回転軸O方向に沿って延伸した場合であっても、ターゲットロッド50の膨張による延伸分を、軸受部14の凹状部14aによって吸収できる。これにより、ターゲットロッド50が延伸によってたわんで振り回りが発生することを抑制できる。したがって、回転軸Oを中心としてターゲットロッド50を回転させつつガラス微粒子を堆積させる場合においても、ターゲットロッド50の振幅を小さくすることができ、最終製品としての光ファイバのコアの偏心を抑制できる。
【0022】
次に、本発明の第2の実施形態による光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤について説明する。
図2は、第2の実施形態による横型旋盤を示す側面図である。
図2に示すように、第2の実施形態による横型旋盤2は、回転モータ21、固定側チャックブロック22、固定側チャック爪23、軸受部24、可動側チャックブロック25、可動側チャック爪26、ベアリング27、及び弾性部材28を備えて構成される。回転モータ21、固定側チャックブロック22、固定側チャック爪23、軸受部24、可動側チャックブロック25、可動側チャック爪26、及びベアリング27はそれぞれ、第1の実施形態による回転モータ11、固定側チャックブロック12、固定側チャック爪13、軸受部14、可動側チャックブロック15、可動側チャック爪16、及びベアリング17と同様である。また、酸水素バーナ29は、第1の実施形態による酸水素バーナ18と同様であって、1本に限定されるものではなく、複数本から構成することも可能である。
【0023】
第2の実施形態による横型旋盤2においては、第1の実施形態と異なり、軸受部24の凹状部24aにおける可動側チャックブロック25の凸状部25a側の面と凸状部25aの凹状部24a側の面との間に、弾性部材28が設けられている。弾性部材28によって、凹状部24aにおける凸状部25a側の面と凸状部25aにおける凹状部24a側の面とが連結されている。弾性部材28は、例えば引張バネからなる。弾性部材28は、可動側チャックブロック25の可動域内において、軸受部24及び可動側チャックブロック25に対して弾性部材28の縮む向きに引張力を作用可能に構成される。なお、可動域の長さは、加熱されるターゲットロッド50の熱膨張による延伸長に応じて、適宜設定可能である。
【0024】
以上のように構成された横型旋盤2において、酸水素バーナ29は、火炎によってターゲットロッド50にガラス微粒子を堆積可能、かつ横型旋盤2及びターゲットロッド50に対して、回転軸O方向に沿って移動可能に構成される。なお、酸水素バーナ29を静止状態に固定して、横型旋盤2を回転軸O方向に沿って移動可能に構成してもよい。すなわち、酸水素バーナ29は、横型旋盤2に対して回転軸O方向に沿って相対移動可能に構成される。また、酸水素バーナ29は、必要に応じてターゲットロッド50が加熱されない位置に退避可能に構成してもよい。
【0025】
次に、ターゲットロッド50にガラス微粒子を堆積させる場合について説明する。ターゲットロッド50は、第1チャック爪としての固定側チャック爪23及び第2チャック爪としての可動側チャック爪26によって両端が把持されつつ、回転モータ21の駆動によって回転されるとともに、酸水素バーナ29の火炎によって加熱される。ターゲットロッド50は、外周にガラス微粒子が堆積されるとともに、回転軸O方向に沿って熱膨張する。ターゲットロッド50は、回転軸O方向に沿って熱膨張する一方、弾性部材28によって可動側チャックブロック25及び可動側チャック爪26を介してターゲットロッド50が膨張する方向に力が作用している。可動側チャックブロック25及び可動側チャック爪26は、回転軸O方向に沿って、弾性部材28の力が作用する向き、すなわちターゲットロッド50が熱膨張によって延伸する向きに移動する。この際、可動側チャックブロック25の凸状部25aが、回転軸O方向に沿って軸受部24の凹状部24a内を移動する。すなわち、軸受部24が移動することなく、可動側チャックブロック25及び可動側チャック爪26がターゲットロッド50の延伸する向きに移動することで、横型旋盤2において、ターゲットロッド50の熱膨張による回転軸O方向の寸法変化分を吸収することになる。これにより、凹状部24a、凸状部25a、ベアリング27、及び弾性部材28が、横型旋盤2において、ターゲットロッド50の回転軸O方向に沿った熱膨張による回転軸O方向の寸法変化分を吸収する熱膨張吸収機構を構成する。
【0026】
以上説明した本発明の第2の実施形態による横型旋盤2によれば、ターゲットロッド50が加熱される際に、熱膨張によって回転軸O方向に沿って延伸した場合であっても、弾性部材28によって、ターゲットロッド50の膨張による延伸分を、軸受部24の凹状部24aに吸収できる。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、弾性部材28の引張力によって、ターゲットロッド50の熱膨張によるたわみを低減できるので、ターゲットロッド50の振れ回りの発生を抑制できる。
【0027】
次に、本発明の第3の実施形態による光ファイバ多孔質母材製造用の横型旋盤について説明する。
図3は、第3の実施形態による横型旋盤を示す側面図である。
図3に示すように、第3の実施形態による横型旋盤3は、回転モータ31、固定側チャックブロック32、固定側チャック爪33、吸収側軸受部34、吸収側チャックブロック35、及び吸収側チャック爪36を備えて構成される。回転モータ31、固定側チャックブロック32、及び第1チャック爪としての固定側チャック爪33は、それぞれ、第1の実施形態による回転モータ11、固定側チャックブロック12、及び固定側チャック爪13と同様である。また、酸水素バーナ37は、第1の実施形態による酸水素バーナ18と同様であって、1本に限定されるものではなく、複数本から構成することも可能である。
【0028】
第3の実施形態による横型旋盤3においては、第1の実施形態と異なり、吸収側軸受部34は、吸収側チャック爪36が固定された吸収側チャックブロック35を、ターゲットロッド50の回転軸Oの回りで回転可能に構成されている。これにより、固定側チャック爪33がターゲットロッド50の一端を把持するとともに、吸収側チャック爪36がターゲットロッド50の他端を把持した状態で、回転モータ31を回転させることにより、ターゲットロッド50を回転軸Oの回りで回転させることができる。
【0029】
第2チャック爪としての吸収側チャック爪36における少なくともターゲットロッド50と接触する部分は、摩擦係数が低い材質から構成されている。摩擦係数が低い材質とは、吸収側チャック爪36によってターゲットロッド50に加圧する力(ワーク加圧力)を、ターゲットロッド50のがたつきが発生しない大きさの力とした場合でも、ターゲットロッド50との接触部分に生じる摩擦力をターゲットロッド50の熱膨張力より小さくできる材質である。摩擦係数が低い材質とは、具体的に、ターゲットロッド50との間において、摩擦係数が0.51の軟鋼や、摩擦係数が0.1の例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂である。ワーク加圧力は、吸収側チャック爪36とターゲットロッド50との間に生じる摩擦力に応じて、種々の範囲を設定し得る。また、吸収側チャック爪36の代わりに、固定側チャック爪33における少なくともターゲットロッド50との接触部分を、摩擦係数が低い材質から構成してもよい。また、固定側チャック爪33及び吸収側チャック爪36の両方におけるターゲットロッド50との接触部分を、摩擦係数が低い材質から構成してもよい。
【0030】
次に、ターゲットロッド50にガラス微粒子を堆積させる場合について説明する。ターゲットロッド50は、固定側チャック爪33及び吸収側チャック爪36によって両端が把持されつつ、回転モータ31の駆動によって回転されるとともに、酸水素バーナ37の火炎によって加熱される。ターゲットロッド50は、外周にガラス微粒子が堆積されるとともに、回転軸O方向に沿って熱膨張する。ターゲットロッド50が回転軸O方向に沿って熱膨張すると、ターゲットロッド50の熱膨張力は、固定側チャック爪33及び吸収側チャック爪36に作用する。なお、吸収側チャック爪36によってターゲットロッド50の一端を把持する際には、吸収側チャック爪36の把持部分の端部と、ターゲットロッド50の把持部分との間に、ターゲットロッド50の熱膨張分よりも大きい可動域を確保しておく。また、ターゲットロッド50は、吸収側チャック爪36によって、回転方向のずれが発生しない大きさ、かつ吸収側チャック爪36との接触部分における摩擦力が熱膨張力より小さくなる把持力で把持されている。そのため、ターゲットロッド50は、膨張する方向に伸張しつつ吸収側チャック爪36との接触部分を摺動する。すなわち、吸収側軸受部34が移動することなく、ターゲットロッド50の延伸分が吸収側チャック爪36の可動域内に収まる。すなわち、横型旋盤3において、ターゲットロッド50の熱膨張による回転軸O方向の寸法変化分を吸収することになる。これにより、吸収側チャック爪36が、横型旋盤3において、ターゲットロッド50の回転軸O方向に沿った熱膨張による回転軸O方向の寸法変化分を吸収する熱膨張吸収機構を構成する。
【0031】
(実施例)
次に、第3の実施形態による横型旋盤3の実施例について説明する。第1実施例として、吸収側チャック爪36における少なくともターゲットロッド50との接触部分を構成する摩擦係数が低い材質として軟鋼を用いる。
図4は、横型旋盤3の吸収側チャック爪36に軟鋼を用いた第1実施例における、ワーク加圧力に対するターゲットロッド50の振幅を示すグラフである。また、第2実施例として、吸収側チャック爪36における少なくともターゲットロッド50との接触部分を構成する摩擦係数が低い材質としてフッ素樹脂を用いる。
図5は、横型旋盤3の吸収側チャック爪36にフッ素樹脂を用いた第2実施例における、ワーク加圧力に対するターゲットロッド50の振幅を示すグラフである。ここで、ターゲットロッド50は、石英ガラスからなる。
図6は、ターゲットロッド50の振幅を説明するための略線図である。
図6に示すように、ターゲットロッド50の振幅とは、
図6(a)に示すターゲットロッド50が回転軸Oに平行な通常状態に比して、
図6(b)に示すターゲットロッド50が回転軸Oに対して外側にたわんだ、いわゆる振れ回りの状態における最大変位(mm)を意味する。
【0032】
図4に示すように、吸収側チャック爪36のワーク加圧力を3kgfから増加させ、12kgfより大きくすると、ワーク加圧力が12kgf以下の場合に比して、ターゲットロッド50の振幅が大幅に増加することが分かる。これは、吸収側チャック爪36のワーク加圧力を12kgfより大きくすると、吸収側チャック爪36とターゲットロッド50との間の最大静止摩擦力がターゲットロッド50の熱膨張力より大きくなり、延伸部分を吸収できなくなるためである。すなわち、吸収側チャック爪36のターゲットロッド50との接触部分を軟鋼から構成する場合、ワーク加圧力を所定値である12kgf以下とすることにより、ターゲットロッド50の熱膨張による延伸長を、横型旋盤3によって吸収できる。その上で、ワーク加圧力を3kgf以上、好適には6kgf以上とすることで、ターゲットロッド50の回転方向のずれを小さく抑制できる。
【0033】
また、
図5に示すように、吸収側チャック爪36のワーク加圧力を5kgfから増加させ、64kgfより大きくすると、ワーク加圧力が64kfg以下の場合に比して、ターゲットロッド50の振幅が大幅に増加することが分かる。これは、吸収側チャック爪36のワーク加圧力を64kgfより大きくすると、吸収側チャック爪36とターゲットロッド50との間の最大静止摩擦力がターゲットロッド50の熱膨張力より大きくなり、延伸部分を吸収できなくなるためである。すなわち、吸収側チャック爪36のターゲットロッド50との接触部分を例えばPTFEなどのフッ素樹脂から構成する場合、ワーク加圧力を所定値である64kgf以下とすることにより、ターゲットロッド50の熱膨張による延伸長を横型旋盤3によって吸収できる。その上で、ワーク加圧力を5kgf以上、好適には20kgf以上とすることで、ターゲットロッド50の回転方向のずれを小さく抑制できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述した実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明は、光ファイバ多孔質母材を製造する際に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1,2,3 横型旋盤
11,21,31 回転モータ
12,22,32 固定側チャックブロック
13,23,33 固定側チャック爪
14,24 軸受部
14a,24a 凹状部
15,25 可動側チャックブロック
15a,25a 凸状部
16,26 可動側チャック爪
17,27 ベアリング
18,29,37 酸水素バーナ
28 弾性部材
34 吸収側軸受部
35 吸収側チャックブロック
36 吸収側チャック爪
50 ターゲットロッド
O 回転軸