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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】シングルキャリア方式の送信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
H04L27/26 114
H04L27/26 412
H04L27/26 200
H04L27/26 313
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019005967
(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2020115600
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【弁理士】
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】山里 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】山岸 史弥
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 敬文
(72)【発明者】
【氏名】岡部 聡
【審査官】高野 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059889(JP,A)
【文献】特開2018-006796(JP,A)
【文献】李 泰雨、落合 秀樹,Cyclic Prefixを用いたSC-FDE信号のTrellis Shapingによるピーク電力低減の一手法,電子情報通信学会2011年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2011年08月30日,p.388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式の送信装置であって、
所定の変調方式に応じてデータシンボルを伝送する際に時間領域におけるブロックを生成し、該ブロック内に、パイロット信号として機能する振幅一定で同パターンを持つ一対のユニークワードのシンボルと、前記一対のユニークワードのシンボルの振幅より小さい平均振幅を持つように当該変調方式に応じて前記一対のユニークワードの間に位置させるデータシンボルとを割り当てるブロック生成手段と、
データシンボルとユニークワードのシンボルとの間に生じうるピーク信号を抑圧するために、前記ブロック内における前記一対のユニークワードのうち後段のユニークワードのシンボルの直前に、NULLとして所定シンボル数の緩衝シンボルを挿入する緩衝シンボル挿入手段と、を備え
前記ブロック生成手段は、前記ブロック内にTMCC信号を割り当てる機能を有し、且つ前記TMCC信号から前記緩衝シンボルの所定シンボル数と同数のリザーブNULLシンボルを除去して割り当てることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式の送信装置であって、
所定の変調方式に応じてデータシンボルを伝送する際に時間領域におけるブロックを生成し、該ブロック内に、パイロット信号として機能する振幅一定で同パターンを持つ一対のユニークワードのシンボルと、前記一対のユニークワードのシンボルの振幅より小さい平均振幅を持つように当該変調方式に応じて前記一対のユニークワードの間に位置させるデータシンボルとを割り当てるブロック生成手段と、
データシンボルとユニークワードのシンボルとの間に生じうるピーク信号を抑圧するために、前記ブロック内における前記一対のユニークワードのうち後段のユニークワードのシンボルの直前に、NULLとして所定シンボル数の緩衝シンボルを挿入する緩衝シンボル挿入手段と、を備え、
前記ブロック生成手段は、前記ユニークワードのシンボルと前記データシンボルの振幅比を1.1以上1.6以下として割り当てることを特徴とす送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送又は通信等の無線伝送システムで使用可能な送信装置及び受信装置に関し、特に、チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式の送信装置及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放送や通信等の固定伝送の無線伝送システムにおいて、1つの搬送波を用いるシングルキャリア方式が広く用いられている。近年、シングルキャリア方式の中でも、周波数領域でチャネル等化(伝搬路で生じた振幅・位相の変化を元に戻す処理)を行うSC-FDE(Single Carrier-Frequency Domain Equalization)方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
SC-FDE方式は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式のように、周波数領域でチャネル推定とチャネル等化をブロック単位で行うことで、移動伝送における高速なチャネル変動に追従できる。そのため、時間領域でチャネル等化を行うシングルキャリア方式よりも移動伝送に適した方式である。
【0004】
より具体的に、SC-FDE方式の送信装置は、ガードインターバル(GI)として機能するユニークワード(UW,Unique Word)を設けてブロック単位でデータ信号を送信する。これにより、OFDM方式と同じようにマルチパス環境におけるブロック間干渉を防ぐことができる。尚、特許文献1の技法では、当該ブロック内に、伝送制御信号(TMCC信号)、及びその前段にスタッフィング領域を設け、データ信号のシンボルの割り当てが最大となるよう調整可能としている。
【0005】
一方、SC-FDE方式の受信装置は、まずブロック先頭を検出するブロック同期を行って、チャネル推定用のパイロット信号としても機能するUW及びデータ信号を抽出し、フーリエ変換(FFT)により周波数領域の信号に変換する。
【0006】
次に、SC-FDE方式の受信装置は、周波数領域に変換されたUWを用いてチャネル推定を行い、得られたチャネル情報から周波数領域のデータ信号に対してZF(Zero-Forcing)やMMSE(Minimum Mean Square Error)基準による等化を行う。最後に、逆フーリエ変換(IFFT)により等化後のデータ信号を時間領域の信号に戻して、シンボル判定等の処理を行う。
【0007】
ところで、シングルキャリア方式は、マルチキャリアのOFDM方式と比較して一般的に、送信信号のピーク電力と平均電力の比であるPAPR(Peak to Average Power Ratio)が小さい。そのため、送信装置の出力段の電力増幅器における非線形特性による歪に対して、OFDM方式よりも耐性が高く、送信信号の歪を抑えつつ送信電力を大きくできるため、伝送距離を伸ばすことが可能である。
【0008】
更に、受信品質を向上させる方法の1つとして、OFDM方式ではパイロットシンボルを含めた全キャリアの平均電力一定の条件で、パイロット信号とデータ信号の電力配分を調整する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
また、この方法を用いた結果のパイロット信号振幅レベルが、OFDM方式を用いた無線通信システムのARIB規格で規定されている(例えば、非特許文献2参照)。そして、SC-FDE方式においてもこのパイロット信号(UW)の振幅レベルを調整することで、チャネル推定の精度が向上し所要C/Nを低減させることが可能である(例えば、非特許文献3)。尚、SC-FDE方式において、非特許文献3に開示されるように、伝送制御信号(TMCC信号)に付随する補助情報をブロック内に設けることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-6796号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】高田政幸、土田健一、中原俊二、黒田徹, “地上ディジタル放送におけるOFDMシンボル長とスキャッタードパイロットによる伝送特性”, 映像情報メディア学会誌, Vol.52, No.11, pp.1658~1665, 1998.
【文献】“テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形ミリ波帯デジタル無線伝送システム”, 標準規格, ARIB STD-B43 2.1版, 2018年1月22日改定
【文献】山岸史弥、松崎敬文、伊藤史人、鴨田浩和、今村浩一郎、濱住啓之, “SC-FDE 方式におけるパイロット信号のブースト比の検討”, 電子情報通信学会, 総合大会, B-5-94, March 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、SC-FDE方式において、パイロット信号(UW)の振幅レベルを調整することで、チャネル推定の精度を向上させ所要C/Nを低減させることが可能である。
【0013】
しかし、UWの振幅がデータ信号のシンボルの平均振幅よりも大きくなるようUWとデータ信号のシンボルの振幅比を調整すると、PAPRが増大してしまう。PAPRが増大する主な要因は、送信装置側の直交変調処理前のシンボルに対し帯域制限フィルタを適用したときに(或いは受信装置側の直交復調処理後のシンボルに対し帯域制限フィルタを適用したときに)、UWとデータ信号の境目における信号波形が大きなピーク信号を示すためであり、UWの振幅を大きくするとこの傾向が顕著になる。
【0014】
このことは、送信装置の出力段の電力増幅器の影響を受けにくく、電力効率に優れているというSC-FDE方式の利点を損なう恐れがある。また、PAPRが増大してしまうと、送信装置側及び受信装置側のデジタル信号処理に係る信号のダイナミックレンジも大きくする必要が生じ、処理コストが増大するという問題が生じる。
【0015】
また、UWの振幅がデータ信号のシンボルの平均振幅よりも大きくなるようUWとデータ信号の振幅比を調整する際の調整範囲として、例えばUWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.0以上2.0以下として規格化された場合を考慮すると、様々な値を取りうるデータ信号のシンボルの平均振幅と、それに応じたUWとデータ信号の境目における信号波形が示す大きなピーク信号とを予め考量して当該振幅比を調整する必要が生じ、振幅調整が煩雑になる。
【0016】
非特許文献3によれば、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.3程度が最適とされている。
【0017】
本発明の目的は、上述の問題に鑑みて、チャネル推定用のパイロット信号の振幅をデータ信号のシンボルの平均振幅よりも大きくしたときに生じるピーク信号を安定して抑制可能とする、シングルキャリア方式の送信装置及び受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の送信装置は、チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式の送信装置であって、所定の変調方式に応じてデータシンボルを伝送する際に時間領域におけるブロックを生成し、該ブロック内に、パイロット信号として機能する振幅一定で同パターンを持つ一対のユニークワードのシンボルと、前記一対のユニークワードのシンボルの振幅より小さい平均振幅を持つように当該変調方式に応じて前記一対のユニークワードの間に位置させるデータシンボルとを割り当てるブロック生成手段と、データシンボルとユニークワードのシンボルとの間に生じうるピーク信号を抑圧するために、前記ブロック内における前記一対のユニークワードのうち後段のユニークワードのシンボルの直前に、NULLとして所定シンボル数の緩衝シンボルを挿入する緩衝シンボル挿入手段と、を備え、前記ブロック生成手段は、前記ブロック内にTMCC信号を割り当てる機能を有し、且つ前記TMCC信号から前記緩衝シンボルの所定シンボル数と同数のリザーブNULLシンボルを除去して割り当てることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の送信装置チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式の送信装置であって、所定の変調方式に応じてデータシンボルを伝送する際に時間領域におけるブロックを生成し、該ブロック内に、パイロット信号として機能する振幅一定で同パターンを持つ一対のユニークワードのシンボルと、前記一対のユニークワードのシンボルの振幅より小さい平均振幅を持つように当該変調方式に応じて前記一対のユニークワードの間に位置させるデータシンボルとを割り当てるブロック生成手段と、データシンボルとユニークワードのシンボルとの間に生じうるピーク信号を抑圧するために、前記ブロック内における前記一対のユニークワードのうち後段のユニークワードのシンボルの直前に、NULLとして所定シンボル数の緩衝シンボルを挿入する緩衝シンボル挿入手段と、を備え、前記ブロック生成手段は、前記ユニークワードのシンボルと前記データシンボルの振幅比を1.1以上1.6以下として割り当てることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シングルキャリア方式の送信装置及び受信装置において、UWシンボルとデータシンボルの振幅比を1.1以上1.6以下としたときに、UWとデータ信号の境目における信号波形が示すピーク信号について、安定して抑制することができる。これによりPAPRの増大を抑制し、デジタル信号処理に要求される信号のダイナミックレンジを小さくすることが可能になり、更にはデータ信号の末尾の位置からUWの先頭位置へのシンボルの振幅・位相の変化が大きくなることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による一実施形態の送信装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明による一実施形態の受信装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】(a)は従来技法による送信ブロック(SC-FDEブロック)におけるシンボル構成を示す図であり、(b)は本発明による実施例1の送信ブロック(SC-FDEブロック)におけるシンボル構成を示す図である。
図4】(a)は本発明による一実施例として送信ブロック(SC-FDEブロック)内に緩衝シンボルをNULLとして挿入するときのシンボル構成を示す図であり、(b)は本発明による一実施例としてIQ平面上における当該緩衝シンボルの座標点を示す図である。
図5】(a)は32APSKにおける従来技法に基づく「緩衝シンボル無し」時に、送信装置側の直交変調処理前のシンボルに対し帯域制限フィルタを適用したときの時間領域における信号波形(左図)とそのIQ平面上のUWとデータ信号の境目の信号波形の振幅・位相の変化(右図)を示す図であり、(b)は32APSKにおける本発明に基づく「緩衝シンボル有り」時に、送信装置側の直交変調処理前のシンボルに対し帯域制限フィルタを適用したときの時間領域における信号波形(左図)とそのIQ平面上のUWとデータ信号の境目の信号波形の振幅・位相の変化(右図)を示す図である。
図6】32APSKにおいて、従来技法に基づく「緩衝シンボル無し」時と、図7に示す「参考例の緩衝シンボル(非NULL)有り」時と、本発明に基づく「緩衝シンボル(NULL)有り」時におけるUWシンボルの振幅とデータシンボルの信号の平均振幅比対PAPRを比較して示す図である。
図7】(a)は参考例として送信ブロック(SC-FDEブロック)内に2個の緩衝シンボル(非NULL)を挿入するときのシンボル構成を示す図であり、(b)は参考例としてIQ平面上における当該2個の緩衝シンボル(非NULL)の座標点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明による一実施形態の送信装置1及び受信装置2を詳細に説明する。尚、本発明による一実施形態として変調方式は32APSKについて代表的に説明するが、他の変調方式についても適用可能である。
【0026】
〔送信装置〕
図1は、本発明による一実施形態の送信装置1の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の送信装置1は、チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式(SC-FDE方式)の送信装置であり、送信ブロック生成部10、緩衝シンボル挿入部11、帯域制限フィルタ部12、直交変調部13、デジタル・アナログ(DA)変換部14、及び周波数変換部15を備える。尚、図1において、本発明に係る主要な要素のみを図示しており、緩衝シンボル挿入部11が設けられている点、及び送信ブロック生成部10が緩衝シンボルを挿入可能に構成している点、及び直交変調部13が緩衝シンボル用のマッピングを行う機能を有する点を除き、特許文献1の技法と同様に構成することが可能である。
【0027】
送信ブロック生成部10は、所定の変調方式に応じてデータシンボルを伝送する際に時間領域における単位ブロックとなる送信ブロック(SC-FDEブロック)を構成し、緩衝シンボルを挿入する区間を空けた上で、当該所定の変調方式に応じてマッピングしたデータ信号のシンボル(以下、「データシンボル」と称する)と、パイロット信号として機能する振幅一定で同パターンを持つ一対のユニークワード(UW,Unique Word)のシンボル(以下、「UWシンボル」と称する)、及び伝送制御信号(TMCC信号)のシンボル(以下、「TMCCシンボル」と称する)を当該SC-FDEブロック内に割り当て、緩衝シンボル挿入部11に出力する。
【0028】
また、送信ブロック生成部10は、データシンボルについては、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.1以上1.6以下となるように当該変調方式に応じて一対のUWシンボル間に位置させる。尚、送信ブロック生成部10には、その前処理で、所定の符号化率で誤り訂正符号化処理等が施されたデータシンボルが入力される。
【0029】
ここで、TMCC信号は、当該SC-FDEブロックのデータ(DATA)部の変調方式、誤り訂正符号に係る符号化率、及び当該SC-FDEブロックのブロック番号の情報を少なくとも含み、DBPSKによりマッピングした例えば32シンボルのTMCCシンボルとして構成され、SC-FDEブロックの前段のUW(ガードインターバル(GI)として機能するUW)の直後に割り当てられる。尚、TMCC信号のシンボル数は、32シンボルに限定する必要は無く、更にはTMCC信号に含まれる各情報も本例の情報のみに限定する必要はない。尚、SC-FDE方式において、非特許文献3に開示されるように、伝送制御信号(TMCC信号)に付随する補助情報を送信ブロック内に設けることもできる。
【0030】
そして、UWは、送受間で既知の固定パターンであり、チャネル推定用のパイロット信号としても機能するようFrank-Zadoff符号やChu符号、或いはこれらの組み合わせのZadoff-Chu符号等を用いた、時間領域及び周波数領域で振幅が一定の符号列(例えば256シンボル)で構成され、本例では各SC-FDEブロックの前後(先頭及び末尾)に割り当てられる。
【0031】
例えば、Zadoff-Chu系列でUWを構成した場合、時間領域及び周波数領域で振幅が一定であるため、以下の数1に示すように、周期的自己相関特性に優れたCAZAC(Constant Amplitude Zero Auto-Correlation)系列とすることができる。
【0032】
【数1】
【0033】
上記の数1は、UWのシンボル数を256とした場合の例であり、iは0から255までの整数である。
【0034】
そして、SC-FDE方式は、FFT及びIFFTを行うため、1SC-FDEブロック内の等化対象、及びUWのシンボル数は2の累乗であることが望ましい。また、UWがガードインターバル(GI)としての機能を兼ねており、GI比=UWのシンボル数÷1ブロック内の等化対象のFFTポイント数(=シンボル数)であることから、1ブロック内の等化対象のFFTポイント数を2NFFT(NFFTは正の整数)とすると、1SC-FDEブロックのシンボル数は、“2NFFT+2NFFT×GI比”として定められ、1SC-FDEブロックの前後(先頭及び末尾)に割り当てられるUWのシンボル数も“2NFFT×GI比” として定められる。また、UWのシンボル数が2の累乗となるように、GI比は2NFFTを越えない2の累乗分の1が選択される。
【0035】
本実施形態に係る送信ブロック生成部10は、特許文献1等に開示される従来技法とは異なり、緩衝シンボルを挿入可能に構成している。更に、データ信号の平均振幅に関わらず、緩衝シンボルをNULLとして固定したものとしている。このような緩衝シンボルは3シンボル以上で構成してもよいが、伝送効率を考慮すると1シンボル以上とすることが好ましく、1シンボル以上でも十分に不所望なピーク信号を抑圧できるものとなっている。
【0036】
より具体的に、図3(a)に示すように、従来技法では、基本的な送信ブロックとして構成した1SC-FDEブロック内で、TMCCシンボル、データシンボル、及びUWシンボルにより等化対象シンボルを構成する。
【0037】
一方、図3(b)に示すように、本実施形態に係る送信ブロック生成部10は、一実施例として、送信ブロック毎に、本例ではTMCC内でリザーブとなっていて未使用のシンボル(リザーブNULLシンボル)の一部を1シンボル除去し、1シンボルの緩衝シンボルSCをNULLとして、後段UWの直前に挿入する領域を空けるようにしている。尚、緩衝シンボルSCのシンボル数を複数とすることもできる。
【0038】
ところで、本実施形態に係る送信ブロック生成部10は、緩衝シンボルSCを挿入する領域を空ける際に、TMCCシンボルのリザーブNULLシンボルの一部を除去する代わりに、データシンボルを挿入する領域の一部を除去し、その除去したシンボル数と同数の緩衝シンボルSCを、後段UWの直前に挿入する領域を空けるように構成することも可能である。ただし、伝送効率の観点で、図3(b)に例示したように、緩衝シンボルSCを挿入する領域を空ける際には、1シンボル以上分とし、そのシンボル数分をTMCCシンボルのリザーブNULLシンボルから除去する構成とすることが好ましい。
【0039】
図1を参照するに、緩衝シンボル挿入部11は、送信ブロック生成部10から、予め定めたシンボル数の緩衝シンボルを挿入する区間を空けた上で、データシンボル、UWシンボル、及びTMCCシンボルを割り当てた各送信ブロック(SC-FDEブロック)を順次入力し、それぞれのSC-FDEブロックに対し、当該緩衝シンボルSCをマッピングして挿入し、帯域制限フィルタ部12に出力する。緩衝シンボルのマッピングについては後述する。
【0040】
帯域制限フィルタ部12は、各送信ブロック(SC-FDEブロック)のシンボル系列に対し、2倍のアップサンプリングを行い、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行って直交変調部13に出力する。帯域制限フィルタとしては、通常、ルートロールオフフィルタを用いる。
【0041】
直交変調部13は、帯域制限フィルタ部12による波形成形後の送信ブロック(SC-FDEブロック)のシンボル系列に対し、直交変調処理、及び後段のデジタル/アナログ変換によるアパーチャ効果を補正するアパーチャ補正処理を行い、アパーチャ補正後のデジタル信号をDA変換部14に出力する。
【0042】
DA変換部14は、デジタル直交変調処理が施されたアパーチャ補正後のデジタル信号についてアナログ信号へ変換し、周波数変換部15に出力する。
【0043】
周波数変換部15は、DA変換部14から入力されたアナログ信号の周波数を無線周波数に周波数変換して、電力増幅器(図示せず)により規定の電力になるよう増幅した無線周波数信号を送信アンテナ16から送信する。
【0044】
〔受信装置〕
図2は、本発明による一実施形態の受信装置2の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の受信装置2は、チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式(SC-FDE方式)の受信装置であり、周波数変換部21、アナログ・デジタル(AD)変換部22、直交復調部23、帯域制限フィルタ部24、ブロック同期部25、周波数領域等化部26、逆フーリエ変換(IFFT)部27、緩衝シンボル除去部28、及びデマッピング部29を備える。尚、図2において、本発明に係る主要な要素のみを図示しており、緩衝シンボル挿入部28が設けられている点を除き、特許文献1の技法と同様に構成することが可能である。
【0045】
周波数変換部21は、受信アンテナ20を介して送信装置1から送信された無線周波数信号を受信し、低位相雑音増幅器(図示せず)で所望の電力へ増幅後、周波数変換して中間周波数に変換し、その中間周波数信号をAD変換部22に出力する。
【0046】
AD変換部22は、周波数変換部21から入力された中間周波数信号をデジタル信号へ変換し、直交復調部23へ出力する。
【0047】
直交復調部23は、AD変換部22を経て得られるデジタル信号に対し、自動周波数制御を行い、周波数ずれを補正しながら、直交復調した複素ベースバンド信号を生成し、周波数補正後の複素ベースバンド信号を帯域制限フィルタ部24に出力する。
【0048】
帯域制限フィルタ部24は、直交復調部23から入力された複素ベースバンド信号に対し、フィルタ処理による帯域制限を行い、帯域制限した複素ベースバンド信号をブロック同期部25に出力する。帯域制限フィルタとしては、ルートロールオフフィルタが通常用いられる。
【0049】
ブロック同期部25は、帯域制限フィルタ部24から入力された複素ベースバンド信号に対し、UWを基にSC-FDEブロックの同期タイミングを検出し、ブロック同期をとったSC-FDEブロックを周波数領域等化部26に出力する。
【0050】
周波数領域等化部26は、ブロック同期検出した同期タイミングで、UWに対してフーリエ変換を行うことにより周波数領域の信号に変換し、送受間で既知のUW(周波数領域信号)を参照信号としてチャネル推定を行う。更に、周波数領域等化部26は、TMCCシンボル、データシンボル、及び緩衝シンボルに対してもフーリエ変換を行うことで周波数領域信号に変換して、当該チャネル推定結果に基づき、ZF(Zero-Forcing)やMMSE(Minimum Mean Square Error)基準による波形等化を行い、等化後のTMCCシンボル、データシンボル、緩衝シンボル、及びUWシンボルからなるブロックをIFFT部27に出力する。
【0051】
IFFT部27は、周波数領域等化部26から入力された等化後のTMCCシンボル、データシンボル、緩衝シンボル、及びUWシンボルからなるブロックに対して、逆フーリエ変換を行うことで時間領域の信号に変換し、緩衝シンボル除去部28に出力する。
【0052】
緩衝シンボル除去部28は、IFFT部27から入力された、時間領域の信号に変換したブロックから緩衝シンボルとUWを除去し、TMCCシンボル及びデータシンボルをデマッピング部29に出力する。尚、TMCCシンボルについて、緩衝シンボルの挿入のために一部のリザーブが除去されていることは送受間で既知とする。
【0053】
デマッピング部29は、緩衝シンボル除去部28から入力されたデータシンボルについて、TMCCシンボルから抽出したTMCC信号に記述される変調方式に従いデマッピングし、当該デマッピングしたデータシンボル及びTMCC信号を外部に出力する。その後の処理で、当該データシンボルから、TMCC信号に含まれる誤り訂正符号に係る符号化率等の情報を用いて誤り訂正復号後のデータが復元可能となる。
【0054】
〔一実施例の緩衝シンボル〕
図3(b)を参照して説明したように、本実施形態に係る送信装置1は、一実施例として、送信ブロック生成部10により送信ブロック(SC-FDEブロック)毎に1シンボル以上の緩衝シンボルSCをNULLで固定したものとして、後段UWの直前から先行方向へ順に挿入する領域を空け、緩衝シンボル挿入部11により当該緩衝シンボルをマッピングして挿入する。これにより、UWの振幅をデータ信号のシンボルの平均振幅よりも大きくした場合でもピーク信号を抑制することができるようにする。
【0055】
例えば、図4(a)には、本発明による一実施例として送信ブロック(SC-FDEブロック)内に1シンボル以上の緩衝シンボルSCをNULLとして挿入するときのシンボル構成を示している。また、図4(b)には、本発明による一実施例としてIQ平面上における当該1シンボル以上の緩衝シンボルSCの座標点を示している。
【0056】
図4に示す実施例は、データ信号の末尾と後段のUWの先頭シンボルの間に緩衝シンボルSCを挿入し、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.1以上1.6以下を満たすようにして、且つ1シンボル以上の緩衝シンボルをNULLとして固定して挿入してPAPRを低減するようにしている。即ち、Zadoff-Chu系列におけるUWの先頭シンボルは、IQ平面においてIが正のI軸上に位置する。緩衝シンボルは、I軸上のデータ信号の平均振幅位置に配置するという例もあるが、データ信号はランダムであるため、UW先頭シンボルのみを考慮した前記の例ではPAPRの低減が十分にならない。そこで、本発明では、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.1以上1.6以下を満たすときには、ランダム信号であるデータ信号も考慮し、緩衝シンボルSCをデータ信号やUWなど各種信号の信号レベルに対して中間のレベルとなるよう、NULL固定としている。
【0057】
〔緩衝シンボルの配置による性能評価〕
図5(a)は32APSKにおける従来技法に基づく「緩衝シンボル無し」時に、送信装置側の直交変調処理前のシンボルに対し帯域制限フィルタを適用したときの時間領域における信号波形(左図)とそのIQ平面上のUWとデータ信号の境目の信号波形の振幅・位相の変化(右図)を示す図である。一方、図5(b)は32APSKにおける本発明に基づく「緩衝シンボル(NULLを2シンボルとした例)有り」時に、送信装置側の直交変調処理前のシンボルに対し帯域制限フィルタを適用したときの時間領域における信号波形(左図)とそのIQ平面上のUWとデータ信号の境目の信号波形の振幅・位相の変化(右図)を示す図である。
【0058】
図5(a)及び図5(b)の比較から理解されるように、本実施例のように2シンボルの緩衝シンボルをNULLとして固定して挿入した場合、データシンボルとUWシンボルの間に発生していたピーク信号が低減されていることが確認された。尚、図5では、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.3とした例を示しているが、当該振幅比として1.1以上1.6以下を満たす限りにおいて、以下に説明するように1シンボル以上の緩衝シンボルをNULLとして固定して挿入することで、データシンボルとUWシンボルの間に発生していたピーク信号が低減されていることが確認されている。
【0059】
図6は、32APSKにおいて、従来技法に基づく「緩衝シンボル無し」時と、「図7に示す参考例の緩衝シンボル(非NULLを2シンボル)有り」時と、本発明に基づく「緩衝シンボル(NULLを2シンボル)有り」時におけるUWシンボルの振幅とデータシンボルの信号の平均振幅比対PAPRを比較して示す図である。
【0060】
尚、図6に示すPAPRは、CCDF(Complementary Cumulative Distribution Function)が10-4となるときの値である。CCDFとは、或る数値を超える値が発生する累積確率のことをいい、10-4で評価するということは0.01%のSC-FDEブロックがそのPAPR以上の値となることを意味している。尚、図6に示すPAPRのシミュレーション結果は、ロールオフフィルターの係数を0.1、スパンを64に固定して、トライアル回数10000回を繰り返した時の評価値である。
【0061】
そして、図7(a)は参考例として送信ブロック(SC-FDEブロック)内に2個の緩衝シンボル(非NULLを2シンボル)を挿入するときのシンボル構成を示す図であり、図7(b)は図7(a)に示す参考例としてIQ平面上における当該2個の緩衝シンボル(非NULLを2シンボル)の座標点を示す図である。即ち、図7に示す参考例では、2個の緩衝シンボルSC1,SC2(非NULLを2シンボル)を当該送信ブロック内の後段UWの直前に挿入する際に、緩衝シンボルSC1については基準位相(正のI軸上)から180°(負のI軸上)でデータシンボルの平均振幅に一致するIQ座標点にマッピングし、緩衝シンボルSC2については基準位相上でデータシンボルの平均振幅に一致するIQ座標点にマッピングするものとしている。
【0062】
図6に示す比較から理解されるように、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.1以上1.6以下を満たす限りにおいて、緩衝シンボルを挿入しない場合においてはUWとデータ信号の振幅比を大きくするにつれてPAPRが増加していたが、後述する図7に示す参考例、及び本発明に係る緩衝シンボルを挿入することで、そのPAPRの増加を抑えることができることが確認された。
【0063】
また、本発明に係る緩衝シンボル(NULLを2シンボル)の挿入は、図7に示す参考例と比較しても、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.1以上1.6以下を満たす限りにおいて、PAPRの増加を抑えることができることが確認された。尚、本発明に係る緩衝シンボルとしてNULLを1シンボル挿入する構成とした場合でも、図示を省略するが、NULLを2シンボル挿入する場合と比較してPAPRの増加の抑制量は減少するものの、当該UWシンボルとデータシンボルの振幅比に対するPAPRの増加の抑制傾向は同様になることが確認されている。
【0064】
以上、特定の実施形態の例を挙げて本発明を説明したが、本発明は前述の実施形態の例に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、上述した実施形態の例では主として、周波数領域でチャネル等化を行うSC-FDE方式の送信装置1及び受信装置2の例を説明したが、チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式であれば、時間領域でチャネル等化を行うシングルキャリア方式の送信装置及び受信装置にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、シングルキャリア方式の送信装置及び受信装置において、UWシンボルとデータシンボルの振幅比として1.1以上1.6以下としたときに、UWとデータ信号の境目における信号波形が示すピーク信号について、安定して抑制することができるので、チャネル推定用のパイロット信号を時間領域で挿入するシングルキャリア方式の送信装置及び受信装置に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 送信装置
2 受信装置
10 送信ブロック生成部
11 緩衝シンボル挿入部
12 帯域制限フィルタ部
13 直交変調部
14 デジタル・アナログ(DA)変換部
15 周波数変換部
16 送信アンテナ
20 受信アンテナ
21 周波数変換部
22 アナログ・デジタル(AD)変換部
23 直交復調部
24 帯域制限フィルタ部
25 ブロック同期部
26 周波数領域等化部
27 逆フーリエ変換(IFFT)部
28 緩衝シンボル除去部
29 デマッピング部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7