(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20221207BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20221207BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20221207BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
H01L21/30 541W
H01L21/30 541E
H01L21/30 541M
G03F7/20 506
G03F7/20 504
H01L21/30 541N
H01J37/305 B
H01J37/04 A
(21)【出願番号】P 2019022938
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕史
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-171713(JP,A)
【文献】特開2018-098242(JP,A)
【文献】特開2006-140267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/027
H01J 37/305
H01J 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の第1の開口部が形成され、前記複数の第1の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより第1のマルチビームを形成
し、前記複数の第1の開口部のそれぞれは第1の辺を有する第1の成型アパーチャアレイ基板と、
前記第1のマルチビームの各ビームの軌道に合わせた複数の第2の開口部が形成され、前記複数の第2の開口部のうちの対応する開口部を前記第1のマルチビームの各ビームがそれぞれ通過することにより、第2のマルチビームを形成
し、前記複数の第2の開口部のそれぞれは第2の辺を有する第2の成型アパーチャアレイ基板と、
前記第2のマルチビームの各ビームの軌道に合わせた複数の第3の開口部が形成され、前記複数の第3の開口部の周囲に、前記第2のマルチビームの各ビームのうちそれぞれ対応するビームに対してブランキング偏向を行う複数のブランカーが配置されたブランキングアパーチャアレイと、
前記第1の成型アパーチャアレイ基板と前記第2の成型アパーチャアレイ基板の少なくともいずれか一方を移動させる可動機構と、
前記可動機構を制御する制御部と、
を備え
、
前記第2のマルチビームは前記第1の辺と前記第2の辺により形成されるマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
複数の第4の開口部が形成され、前記複数の第4の開口部全体を含む領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の第4の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより第3のマルチビームを形成する制限アパーチャアレイ基板をさらに備え、
前記複数の第1の開口部は前記第3のマルチビームの各ビームの軌道に合わせて形成され、前記第4の開口部の大きさは、前記第4の開口部によって形成された前記第3のマルチビームの各ビームに対応する前記第1の開口部の大きさよりも大きい、
請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記複数の第1の開口部の形状と前記複数の第2の開口部の形状は異なる請求項1又は請求項2記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
放出部を用いて荷電粒子ビームを照射し、
前記荷電粒子ビームの一部が第1の成型アパーチャアレイ基板の複数の第1の開口部をそれぞれ通過することにより第1のマルチビームを形成し、
前記第1のマルチビームの各ビームの軌道に合わせて形成された第2の成型アパーチャアレイ基板の複数の第2の開口部を前記第1のマルチビームの各ビームがそれぞれ通過することにより第2のマルチビームを形成し、
前記第2のマルチビームの各ビームの軌道に合わせた複数の第3の開口部が形成され、前記複数の第3の開口部に、前記第2のマルチビームの各ビームの対応するビームにブランキング偏向を行う複数のブランカーを有するブランキングアパーチャアレイの前記ブランカーを用いて前記第2のマルチビームの一部の前記ブランキング偏向を行い、
前記ブランキング偏向がされなかった前記第2のマルチビームの透過電流の測定を行い、
前記第1の成型アパーチャアレイ基板と前記第2の成型アパーチャアレイ基板の少なくともいずれか一方の移動を行い、
前記測定に基づき、前記ブランキング偏向がされなかった前記第2のマルチビームが照射される領域の照射時間補正量を計算する、
マルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記荷電粒子ビームの一部が前記第1の成型アパーチャアレイ基板の前記複数の第1開口部をそれぞれ通過することにより前記第1のマルチビームを形成する前に、
複数の第4の開口部が形成された制限アパーチャアレイ基板の前記複数の第4の開口部全体に前記荷電粒子ビームを照射して第3のマルチビームを形成し、
前記複数の第1の開口部は前記第3のマルチビームの各ビームの軌道に合わせて形成され、前記第4の開口部の大きさは、前記第4の開口部によって形成された前記第3のマルチビームの各ビームに対応する前記第1の開口部の大きさよりも大きい、
請求項4記載のマルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法に係り、例えば、マルチビーム描画における個別ビームのサイズと電流量を調節する方法及び装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、マスクブランクスへ電子線を使ってマスクパターンを描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、マスク像が縮小されて、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチビーム描画においては、高いスループットを保ちつつ、各ビームのサイズ及び電流量等の特性を個別に制御して描画することが重要な課題である。後述する縮小レンズ、対物レンズ等のレンズの条件を調整することにより、各ビームの調整は可能である。しかし、レンズの条件の調整に時間がかかり、描画のスループットを向上させることが難しいという問題があった。
【0006】
各ビームの電流量を増加させれば、描画時間を短くしてスループットを向上させることができる。しかし、各ビームに含まれる荷電粒子は同一の極性の電荷を有する。例えば荷電粒子ビームとして電子ビームを用いる場合、各電子ビームに含まれる電子は負の電荷を有する。そのため、電流量を増加させると、クーロン力を起源とするクーロン効果による各電子ビーム同士の反発が強くなる。よって、所定のマスクパターンを描画することが難しくなり、描画精度が劣化してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、高い描画精度が求められないマスクパターン描画の場合には電流量を増加させて高速に描画し、高い描画精度が求められるマスクパターン描画の場合には電流量を減少させて高精度に描画することが考えられる。しかし、この場合には、マスクパターンごとに電流密度を切り替える事が求められる。電流密度の切り替えには、上述のレンズの条件の調整等による各ビームの調整が伴うため、やはり描画のスループットを向上させる事が難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の一態様は、レンズ条件の再調整をせずに、荷電粒子ビームのサイズと電流量を調整可能とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを放出する放出部と、複数の第1の開口部が形成され、複数の第1の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより第1のマルチビームを形成し、複数の第1の開口部のそれぞれは第1の辺を有する第1の成型アパーチャアレイ基板と、第1のマルチビームの各ビームの軌道に合わせた複数の第2の開口部が形成され、複数の第2の開口部のうちの対応する開口部を第1のマルチビームの各ビームがそれぞれ通過することにより、第2のマルチビームを形成し、複数の第2の開口部のそれぞれは第2の辺を有する第2の成型アパーチャアレイ基板と、第2のマルチビームの各ビームの軌道に合わせた複数の第3の開口部が形成され、複数の第3の開口部の周囲に、第2のマルチビームの各ビームのうちそれぞれ対応するビームに対してブランキング偏向を行う複数のブランカーが配置されたブランキングアパーチャアレイと、第1の成型アパーチャアレイ基板と第2の成型アパーチャアレイ基板の少なくともいずれか一方を移動させる可動機構と、可動機構を制御する制御部と、を備え、第2のマルチビームは第1の辺と第2の辺により形成されるマルチ荷電粒子ビーム描画装置である。
【0010】
上述のマルチ荷電粒子ビーム描画装置において、複数の第4の開口部が形成され、複数の第4の開口部全体を含む領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の第4の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより第3のマルチビームを形成する制限アパーチャアレイ基板をさらに備え、複数の第1の開口部は第3のマルチビームの各ビームの軌道に合わせて形成され、第4の開口部の大きさは、第4の開口部によって形成された第3のマルチビームの各ビームに対応する第1の開口部の大きさよりも大きい事が好ましい。
【0011】
上述のマルチ荷電粒子ビーム描画装置において、複数の第1の開口部の形状と複数の第2の開口部の形状は異なる事が好ましい。
【0012】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、放出部を用いて荷電粒子ビームを照射し、荷電粒子ビームの一部が第1の成型アパーチャアレイ基板の複数の第1の開口部をそれぞれ通過することにより第1のマルチビームを形成し、第1のマルチビームの各ビームの軌道に合わせて形成された第2の成型アパーチャアレイ基板の複数の第2の開口部を第1のマルチビームの各ビームがそれぞれ通過することにより第2のマルチビームを形成し、第2のマルチビームの各ビームの軌道に合わせた複数の第3の開口部が形成され、複数の第3の開口部に、第2のマルチビームの各ビームの対応するビームにブランキング偏向を行う複数のブランカーを有するブランキングアパーチャアレイのブランカーを用いて第2のマルチビームの一部のブランキング偏向を行い、ブランキング偏向がされなかった第2のマルチビームの透過電流の測定を行い、第1の成型アパーチャアレイ基板と第2の成型アパーチャアレイ基板の少なくともいずれか一方の移動を行い、測定と移動に基づき、ブランキング偏向がされなかった第2のマルチビームが照射される領域の照射時間補正量を計算する。
【0013】
上述のマルチ荷電粒子ビーム描画方法において、荷電粒子ビームの一部が第1の成型アパーチャアレイ基板の複数の第1開口部をそれぞれ通過することにより第1のマルチビームを形成する前に、複数の第4の開口部が形成された制限アパーチャアレイ基板の複数の第4の開口部全体に荷電粒子ビームを照射して第3のマルチビームを形成し、複数の第1の開口部は第3のマルチビームの各ビームの軌道に合わせて形成され、第4の開口部の大きさは、第4の開口部によって形成された第3のマルチビームの各ビームに対応する第1の開口部の大きさよりも大きい事が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、レンズ条件の再調整をせずに、荷電粒子ビームのサイズと電流量を調整可能とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態における描画装置の構成を示す概念図である。
【
図2】実施形態における制限アパーチャアレイ基板、第1の成型アパーチャアレイ基板及び第2の成型アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
【
図3】実施形態におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
【
図4】実施形態におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。
【
図5】実施形態の個別ブランキング機構の一例を示す図である。
【
図6】実施形態における描画動作の一例を説明するための概念図である。
【
図7】実施形態におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
【
図8】実施形態における制限アパーチャアレイ基板、第1の成型アパーチャアレイ基板、第2の成型アパーチャアレイ基板及びブランキングアパーチャアレイの配置を示す概念図である。
【
図9】実施形態におけるマルチ荷電粒子ビーム描画方法のフローチャートである。
【
図10】実施形態におけるマルチ荷電粒子ビームの調整に関するマルチ荷電粒子ビーム描画方法のフローチャートである。
【
図11】実施形態におけるマルチ荷電粒子ビームの調整方法の一例を示す概念図である。
【
図12】実施形態における原点マップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0017】
(実施形態)
図1は、実施形態における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102(マルチ電子ビームカラム)と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240、ブランキングアパーチャアレイ250、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、主偏向器208(第1の偏向器)、及び副偏向器209(第2の偏向器)が配置されている。なお電子銃201は、放出部の一例である。
【0018】
制限アパーチャアレイ基板220は、複数の第4の開口部222を有している。第1の成型アパーチャアレイ基板230は、複数の第1の開口部232を有している。第2の成型アパーチャアレイ基板240は、複数の第2の開口部242を有している。ブランキングアパーチャアレイ250は、複数の第3の開口部252を有している。第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240は、図示しない配線により、グランド電位に接続されている。
【0019】
第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240は、マルチビームの成型に用いられる。ブランキングアパーチャアレイ250は、マルチビームの一部又は全部の偏向に用いられる。制限アパーチャアレイ基板220は、描画に用いられない電子ビーム200が第1の成型アパーチャアレイ基板230に当たることを抑制するものである。電子ビームが第1の成型アパーチャアレイ基板230に当たると、第1の成型アパーチャアレイ基板230は発熱する。発熱により第1の成型アパーチャアレイ基板230は熱膨張するため、複数の第1の開口部232の形状及び配置がずれ、これにより、形成されるマルチビームの各ビームの電流量、形状及び描画される位置等にずれが生じてしまう。そこで、制限アパーチャアレイ基板220を設けて、第1の成型アパーチャアレイ基板230の発熱を抑制している。
【0020】
制限アパーチャアレイ基板220は、例えばシリコン基板である。このときに、例えば膜厚の厚く不純物がドープされたシリコン基板を用い、制限アパーチャアレイ基板220の過度の発熱や局所的な発熱を抑制することは好ましい。
【0021】
第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240は、例えば、不純物がドープされた半導体基板である。複数の第1の開口部232及び複数の第2の開口部242を精度良く形成するためには、シリコン(Si)基板を用いることが好ましい。
【0022】
ここで、説明の都合上、鉛直方向をZ方向とし、鉛直方向に垂直な水平方向のうちの一の方向をX方向とし、Z方向及びX方向に垂直な水平方向をY方向とする。電子鏡筒102内には、制限アパーチャアレイ基板220と第1の成型アパーチャアレイ基板230をXY面に平行な面内で動かすための第1の可動機構(可動機構)2及びブランキングアパーチャアレイ250をXY面に平行な面内で動かすための第2の可動機構258が設けられている。なお、第1の可動機構2は、第1の成形アパーチャアレイ基板230のみを動かすものであっても良い。
【0023】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、第1の成型アパーチャアレイ基板230を第2の成型アパーチャアレイ基板240に対してXY面内に平行に相対的に動かすことにより、鉛直方向における第1の開口部232と第2の開口部242の重なり方が変化するため、荷電粒子ビームのサイズと電流量が調整可能となるものである。
【0024】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、
電子ビームの電流を測定するためのビーム吸収電極(ファラデーカップ211)が配置されている。なお、描画時には描画対象基板となるレジストが塗布されたマスクブランクス等の図示しない試料がXYステージ105上に配置される。ここで試料には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。XYステージ105は、XY面内に移動可能である。
【0025】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ位置検出器139、描画データ記憶部140及び照射時間補正量記憶部142、原点マップ記憶部144及び電流マップ記憶部146を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、DACアンプユニット132,134、ステージ位置検出器139、描画データ記憶部140、照射時間補正量記憶部142、原点マップ記憶部144及び電流マップ記憶部146は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0026】
描画データ記憶部140、照射時間補正量記憶部142、原点マップ記憶部144及び電流マップ記憶部146は、例えば、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、ROM(リードオンリメモリ)、SSD(ソリッドステートドライブ)などの記録媒体を含む。
【0027】
偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ250が接続されている。DACアンプユニット132の出力は、副偏向器209に接続される。DACアンプユニット134の出力は、主偏向器208に接続される。ステージ位置検出器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を使ったレーザ干渉の原理を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0028】
制御計算機110内には、描画制御部56、アパーチャ移動制御部(制御部)58、照射時間補正量計算部60及び透過電流測定部62が設けられている。描画制御部56、アパーチャ移動制御部(制御部)58、照射時間補正量計算部60及び透過電流測定部62といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。描画制御部56、アパーチャ移動制御部(制御部)58、照射時間補正量計算部60及び透過電流測定部62に入出力される情報及び演算中の情報はメモリ112にその都度格納可能である。
【0029】
アパーチャ移動制御部58は、第1の可動機構2及び第2の可動機構258に接続されている。アパーチャ移動制御部58は、第1の可動機構2及び第2の可動機構258を用いて制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230及びブランキングアパーチャアレイ250を移動させることが出来る。
【0030】
また、描画装置100の外部から描画データが入力され、描画データ記憶部140に格納される。描画データには、通常、描画するための複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。或いは、図形パターン毎に、図形コード、及び各頂点座標等が定義される。
【0031】
ここで、
図1では、実施形態を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0032】
図2は、実施形態における第1の成型アパーチャアレイ基板230の構成を示す概念図である。縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(第1の開口部232)が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の第1の開口部232が形成される。それぞれの第1の開口部232は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の第1の開口部232を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。また、第1の開口部232の配列の仕方は、
図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0033】
なお、
図2には第1の成型アパーチャアレイ基板230と第1の開口部232の構成を示したが、第2の成型アパーチャアレイ基板240と第2の開口部242の構成、及び制限アパーチャアレイ基板220と第4の開口部222の構成も同様である。例えば、第1の開口部232の数、第2の開口部242の数、第3の開口部252の数及び第4の開口部222の数は、等しい。一方、第1の開口部232の形状と第2の開口部242の形状は、同じでも良いし、異なっていても良い。第1の開口部232の形状と第2の開口部242の形状が異なっていることにより、様々な形状のマルチビームを形成することが可能となる。
【0034】
ここで、第4の開口部222の大きさは、第4の開口部222によって形成されたマルチビームの各ビームに対応する第1の開口部232の大きさよりも大きいことが好ましい。もし第4の開口部222の大きさが、第4の開口部222によって形成されたマルチビームの各ビームに対応する第1の開口部232の大きさ以下であるとすると、第4の開口部222の大きさよりも小さなマルチビームを形成することができなくなり、第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240によるマルチビームの形成自由度が低下してしまう。上述の通り、第4の開口部222が設けられている制限アパーチャアレイ基板220は、描画に用いられない余分な電子ビームが第1の成型アパーチャアレイ基板230に当たることを抑制するものである。そこで、第4の開口部222は第1の開口部232よりも大きいものとして、余分な電子ビームが第1の成型アパーチャアレイ基板230に当たることを抑制しつつ、第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240による電子ビーム成型の自由度は損なわないようにすることが好ましい。
【0035】
図3は、実施形態におけるブランキングアパーチャアレイ250の構成を示す断面図である。
図4は、実施形態におけるブランキングアパーチャアレイ250のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。なお、
図3と
図4において、制御電極24と対向電極26と制御回路41とパッド43の位置関係は一致させて記載していない。また、また、第3の開口部252、制御電極254、対向電極256及び制御回路(ロジック回路)41の数は、
図3及び
図4に示したものと異なっていても良い。また、
図2に示した第1の開口部232の数と、
図3及び
図4に示した第3の開口部252の数は、一致させていない。
【0036】
ブランキングアパーチャアレイ250においては、
図3に示すように、ブランキングアパーチャアレイ支持台253上にSi(シリコン)等からなるブランキングアパーチャアレイ基板251が配置されている。ブランキングアパーチャアレイ基板251は、例えば半導体基板である。ブランキングアパーチャアレイ基板251の中央部は、例えば裏面側から薄く削られ、薄い膜厚hのメンブレン領域330(第1の領域)に加工されている。メンブレン領域330を取り囲む周囲は、厚い膜厚Hの外周領域332(第2の領域)である。メンブレン領域330の上面と外周領域332の上面とは、同じ高さ位置、或いは、実質的に高さ位置になるように形成されている。ブランキングアパーチャアレイ基板251は、外周領域332の裏面でブランキングアパーチャアレイ支持台253上に保持される。ブランキングアパーチャアレイ支持台253の中央部は開口しており、メンブレン領域330の位置は、ブランキングアパーチャアレイ支持台253の開口した領域に位置している。
【0037】
メンブレン領域330には、制限アパーチャアレイ基板220の第4の開口部222、第1の成型アパーチャアレイ基板230の第1の開口部232及び第2の成型アパーチャアレイ基板240の第2の開口部242に対応する位置に、マルチビームのそれぞれのビームの通過用の第3の開口部252が配置されている。また、言い換えれば、ブランキングアパーチャアレイ基板251のメンブレン領域330には、電子線を用いたマルチビームのそれぞれ対応するビームが通過する複数の第3の開口部252がアレイ状に形成されている。
【0038】
そして、ブランキングアパーチャアレイ基板251のメンブレン領域330上であって、複数の第3の開口部252のうち対応する第3の開口部252を挟んで対向する位置に2つの電極を有する複数の電極対がそれぞれ配置されている。具体的には、メンブレン領域330上に、
図3及び
図4に示すように、それぞれの第3の開口部252の近傍位置に、該当する第3の開口部252を挟んでブランキング偏向用の制御電極254と対向電極256の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置されている。また、ブランキングアパーチャアレイ基板251内部であってメンブレン領域330上の各第3の開口部252の近傍には、各第3の開口部252用の制御電極254に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。対向電極256は、グランド電位に接続されている。
【0039】
また、
図4に示すように、各制御回路41は、制御信号用のnビット(例えば10ビット)のパラレル配線が接続される。各制御回路41は、制御信号用のnビットのパラレル配線の他、クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号及び電源用の配線等が接続される。クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号及び電源用の配線等はパラレル配線の一部の配線を流用しても構わない。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、制御電極254と対向電極256と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。また、
図3の例では、制御電極254と対向電極256と制御回路41とが、ブランキングアパーチャアレイ基板251の膜厚が薄いメンブレン領域330に配置される。なお、制御電極254、対向電極256及び制御回路41の配置は
図3及び
図4に示したものに限るものではない。
【0040】
また、メンブレン領域330にアレイ状に形成された複数の制御回路41は、例えば、同じ行或いは同じ列によってグループ化され、グループ内の制御回路41群は、
図4に示すように、直列に接続される。そして、グループ毎に配置されたパッド43からの信号がグループ内の制御回路41に伝達される。具体的には、各制御回路41内に、図示しないシフトレジスタが配置され、例えば、p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの制御信号がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
【0041】
図5は、実施形態の個別ブランキング機構47の一例を示す図である。
図5において、制御回路41内には、アンプ46(スイッチング回路の一例)が配置される。
図5の例では、アンプ46の一例として、CMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。そして、CMOSインバータ回路は正の電位(Vdd:ブランキング電位:第1の電位)(例えば、5V)とグランド電位(GND:第2の電位)に接続される。CMOSインバータ回路の出力線(OUT)は制御電極254に接続される。一方、対向電極256には、グランド電位が印加される。そして、ブランキング電位とグランド電位とが切り替え可能に印加される複数の制御電極254が、基板31上であって、複数の第3の開口部252のそれぞれ対応する第3の開口部252を挟んで複数の対向電極256のそれぞれ対応する対向電極256と対向する位置に配置される。
【0042】
CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施形態では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極256のグランド電位との電位差による電界により対応する電子ビーム(E-beam)を偏向し、制限アパーチャ部材206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極256のグランド電位との電位差が無くなり対応する電子ビーム(E-beam)を偏向しないので制限アパーチャ部材206を通過することでビームONになるように制御する。
【0043】
各通過孔を通過する電子ビーム(E-beam)は、それぞれ独立に対となる2つの制御電極254と対向電極256に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。具体的には、制御電極254と対向電極256の組は、それぞれ対応するスイッチング回路となるCMOSインバータ回路によって切り替えられる電位によってマルチビームの対応する電子ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、第2の成型アパーチャアレイ基板240の第2の開口部242を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0044】
図6は、実施形態における制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240及びブランキングアパーチャアレイ250の配置と支持方法を示す概念図である。
図6(a)は、YZ平面内に平行な面内における、制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240及びブランキングアパーチャアレイ250の模式断面図である。
図6(b)は、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第1の支持台4、第1の支持金具6、第2の成型アパーチャアレイ基板240、第2の支持台14及び第2の支持金具16について、鉛直方向の下方から上向きに見たときの配置を示す模式図である。
【0045】
なお
図6において、第4の開口部222、第1の開口部232、第2の開口部242及び第3の開口部252の形状、配置及び個数は、
図1、
図2、
図3及び
図4の図示とは一致させていない。また、
図3及び
図4において示されていた制御回路41、制御電極254及び対向電極256の図示は省略している。
【0046】
第1の支持台4の中央は開口している。そして、制限アパーチャアレイ基板220は、第1の支持台4の上に、第1の支持台4の開口している部分の上に複数の第4の開口部222が配置されるように、配置されている。電子銃201から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に制限アパーチャアレイ基板220の複数の第4の開口部222全体を照明する。そして、電子ビーム200がそれぞれの第4の開口部222を通過することにより、マルチビーム20(第3のマルチビーム)が形成される。マルチビーム20の形状は、複数の第4の開口部222の形状を反映したものであり、例えば矩形形状である。
【0047】
図6(a)に示されるように、第1の成型アパーチャアレイ基板230は、第1の支持台4の下に、例えば第1の支持金具6を用いて固定されている。このとき、複数の第1の開口部232は、第1の支持台4の開口している部分の下に配置されている。さらに、複数の第1の開口部232は、マルチビーム20の各ビームの軌道に合わせて配置される。そして、複数の第1の開口部232をマルチビーム20の各ビームがそれぞれ通過することにより、マルチビーム21(第1のマルチビーム)が形成される。
【0048】
第1の可動機構2が第1の支持台4を動かすことにより、制限アパーチャアレイ基板220及び第1の成型アパーチャアレイ基板230はXY面内において動くことが可能となっている。第1の可動機構2は、
図6(a)に示されるような断面が円柱の形状を有する「ころ」であっても良いが、圧電素子等のアクチュエーターを用いると高精度に動かすことが可能であるため好ましい。なお、制限アパーチャアレイ基板220は第1の可動機構2によってXY面内において動かなくても良い。上述のように制限アパーチャアレイ基板220は直接電子ビームの照射を受けるため発熱量が大きいが、可動機構により動くことを前提としない方が、冷却が容易となるためである。
【0049】
図6(a)に示されるように、第2の成型アパーチャアレイ基板240は、第1の成型アパーチャアレイ基板230の下方に配置されている。複数の第2の開口部242は、マルチビーム21(第1のマルチビーム)の各ビームの軌道に合わせて配置される。そして、複数の第2の開口部のうちの対応する開口部をマルチビーム21がそれぞれ通過することにより、マルチビーム22(第2のマルチビーム)が形成される。
【0050】
図6(b)に示されるように、例えば、第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240が長方形の形状を有している場合、第1の成型アパーチャアレイ基板230の長手方向をX方向に平行に配置し、第2の成型アパーチャアレイ基板240の長手方向をY方向に平行に配置することが好ましい。これに伴い、第1の支持台4及び第1の支持金具6を用いて、第1の成型アパーチャアレイ基板230の長手方向の端で第1の成型アパーチャアレイ基板230を支持すること、及び、第2の支持台14及び第2の支持金具16を用いて、第2の成型アパーチャアレイ基板240の長手方向の端で第2の成型アパーチャアレイ基板240を支持することが好ましい。第1の成型アパーチャアレイ基板230と第2の成型アパーチャアレイ基板240のZ方向における間隔は、後述するマルチビーム22(第2のマルチビーム)の端における精度を高めるため、例えば1mm程度に狭くすることが好ましいのだが、これでは人間が手を入れたりするには狭すぎる。そのため、第1の成型アパーチャアレイ基板230と第2の成型アパーチャアレイ基板240の隙間にアクセスすることが大変難しくなる。そこで、第1の成型アパーチャアレイ基板230の長手方向と第2の成型アパーチャアレイ基板240の長手方向を
図6(b)のように互いに垂直になるように配置する。このようにすると、X方向からもY方向からも、第1の成型アパーチャアレイ基板230と第2の成型アパーチャアレイ基板240の隙間にある程度アクセスすることが可能になる。なお、第2の成型アパーチャアレイ基板240の領域244は、複数の第2の開口部242が配置されている領域である。
【0051】
なお、第2の成型アパーチャアレイ基板240を可動機構等によりXY面内において動くようにしても良い。
【0052】
ブランキングアパーチャアレイ250は、第2の成型アパーチャアレイ基板240の下に配置されている。複数の第3の開口部252は、マルチビーム22の各ビームの軌道に合わせて配置される。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過するマルチビーム22の各ビームを偏向する(ブランキング偏向を行う)。
【0053】
ブランキングアパーチャアレイ250を通過したマルチビーム22は、縮小レンズ205によって縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランカーによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランカーによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構47によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビーム毎に、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。
【0054】
制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム22は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、主偏向器208及び副偏向器209によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム22全体)が同方向に一括して偏向される。そして、ファラデーカップ211内に照射される。XYステージ105上に試料が配置されている場合には、試料上のそれぞれの照射位置に照射される。
【0055】
図7は、実施形態のマルチ荷電粒子ビーム描画方法のフローチャートである。
図8は、実施形態におけるマルチ荷電粒子ビームの調整に関するマルチ荷電粒子ビーム描画方法のフローチャートである。以下では、
図7及び
図8の両方を参照しながら、説明をする。
【0056】
まず、第1の粗位置調整を行う(S10)。これは、そもそも最初に制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240及びブランキングアパーチャアレイ250をセッティングする際には、第4の開口部222、第1の開口部232、第2の開口部242及び第3の開口部252が鉛直方向において並んでいてマルチビームが貫通することが可能になっているかどうかすら不明である。そのため、電子銃201から電子ビーム200を放出せずに、粗く位置調整を行うというものである。例えば、光学顕微鏡等を用いて鉛直方向に第4の開口部222、第1の開口部232、第2の開口部242及び第3の開口部252が貫通している部分があるか否かを確認する。また、目視で制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240及びブランキングアパーチャアレイ250の位置合わせを行う程度でも構わない。
【0057】
次に、電子銃201から電子ビーム(荷電粒子ビームの一例)200を放出する。これにより、特に制限アパーチャアレイ基板220が加熱される。また、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240及びブランキングアパーチャアレイ250も加熱される。加熱に伴うアパーチャの熱膨張により開口部の形状や寸法に変化が発生するためマルチビームの形状、サイズ及び電流量に変化が生じてしまう。そこで、第1の成型アパーチャアレイ基板230、第2の成型アパーチャアレイ基板240及びブランキングアパーチャアレイ250が加熱されて温度が安定するまで待機する(S20)。
【0058】
次に、第2の粗位置調整を行う(S30)。これは、制限アパーチャアレイ基板220、第1の成型アパーチャアレイ基板230及び第2の成型アパーチャアレイ基板240により形成されたマルチビームが、ブランキングアパーチャアレイ250を通過するように調整するものである。
【0059】
次に、成型調整開始する(S40)。まず、
図2に示した縦横(x,y方向)512×512列のうちの、例えば16×16列又は32×32列程度の所定の領域(所定の分割領域)についてブランキングアパーチャアレイ250を通過したマルチビーム22がファラデーカップ211に到達し、他の領域についてはファラデーカップ211に到達しないように、ブランカーを用いてブランキング偏向を行う(S42)。
【0060】
次に、アラインメント原点測定のため、透過電流測定部62が、ファラデーカップ211を用いて、ブランキング偏向されずに上述の所定の分割領域を通過するマルチビームの透過電流の測定を行う(S44)。この透過電流の測定は、例えば第1の成型アパーチャアレイ基板230又は第2の成型アパーチャアレイ基板240を動かしながら行う。
図9に、実施形態におけるマルチ荷電粒子ビームの調整方法の一例の概念図を示す。第1の開口部232のうちの一つと、第2の開口部242のうちの一つが、
図9(a)及び
図9(b)に示されている。なお、ここでは、第1の開口部232と第2の開口部242のいずれもが、同じ大きさの正方形の形状を有しているものとする。第1の可動機構2を用いて第1の成型アパーチャアレイ基板230をY方向に動かすと、Z方向から見たときの、第1の開口部232のうちの一つと第2の開口部242のうちの一つが重なる部分が変化する。よって、これに伴い、第1の開口部232のうちの一つと第2の開口部242のうちの一つの両方を通過するマルチビームの各ビームが有する電流量が変化することになる。
【0061】
また、
図9(a)では、紙面左側における第1の開口部232のうちの一つが有する正方形の一辺と、紙面左側における第2の開口部242のうちの一つが有する正方形の一辺がずれている。一方、
図9(b)では、紙面左側における第1の開口部232のうちの一つが有する正方形の一辺と、紙面左側における第2の開口部242のうちの一つが有する正方形の一辺がほぼ重なっている。さらに、紙面右側における第1の開口部232のうちの一つが有する正方形の一辺と、紙面右側における第2の開口部242のうちの一つが有する正方形の一辺がほぼ重なっている。そのため、
図9(b)に示した配置の方が、より大きなマルチビームの電流量が得られる。
【0062】
図9(c)に、Y方向に第1の成型アパーチャアレイ基板230を動かしたときの、第1の開口部232のうちの一つと第2の開口部242のうちの一つの両方を通過するマルチビームの各ビームが有する電流量の変化を示す。
図9(b)の方が、より大きな電流量が得られる。同様の作業をX方向についても行うと、その所定の分割領域における、最も大きな電流量が得られる、第1の成型アパーチャアレイ基板230と第2の成型アパーチャアレイ基板240の相対的な位置(アライメント位置)が得られる。以上では第1の開口部232のうちの一つと第2の開口部242のうちの一つについて一連の作業を行ったが、例えば16×16列又は32×32列程度の所定の領域について一度にファラデーカップ211でマルチビームの電流量を測定しながらアライメント位置を決定する事は好ましい。この作業を、すべての分割領域について行う(S46)。
【0063】
次に、(S44)で行った測定結果に基づき、原点マップを作成し(S48)、第1の成型アパーチャアレイ基板230と第2の成型アパーチャアレイ基板240の相対的な位置関係を決定する(S50)。作成された原点マップは、例えば、原点マップ記憶部144に保存される。
図10は、実施形態における原点マップの一例である。
図10では合計25個の円334が示されているが、一つ一つの円334が、それぞれのマルチビームが通して照射される位置を示すものである。また、合計16個の正方形の格子は、位置の目安を示すものである。合計25個の円のうち、中央に示された円334aの中心は、正方形の格子が形成する点とほぼ一致している。一方、その他の円334の中心は、334aから遠くなるほど、正方形の格子が形成する点とのずれが大きくなっている。このずれは、第1の成型アパーチャアレイ基板230の熱膨張と第2の成型アパーチャアレイ基板240の熱膨張の差に起因するものである。たとえ制限アパーチャアレイ基板220を設けていても、電子銃201により近い位置に配置されている第1の成型アパーチャアレイ基板230の方が、第2の成型アパーチャアレイ基板240よりも加熱されるため、熱膨張の度合いが大きくなる。そのために、25個の円334のうちの中央の円334aの位置に対し、その他の24個の円334の位置にはずれが生じる。この位置のずれは、各ビームの電流量のずれ(ばらつき)と関係する。すなわち、中央の円334aに関連付けられるビームが有する電流量は相対的に大きい。一方、他のビームについては、第1の開口部232のうちの一つと第2の開口部242のうちの一つの位置関係に相対的なずれが生じるため、電流量が相対的に小さくなる。
【0064】
そこで、測定された電子ビームの電流量に基づき、照射時間補正量計算部60が、電子ビームのその所定の分割領域における照射時間補正量を計算する。計算された照射時間補正量は、照射時間補正量記憶部142に保存される。例えば、電子ビームの電流量が少ない場合には照射時間が長くなるように照射時間補正量を計算する。また、電子ビームの電子量が大きい場合には、照射時間が短くなるように照射時間補正量を計算する。これにより、マルチビームの電流量のばらつきを調整することが可能になる。以上の結果は、例えば電流マップとして、電流マップ記憶部146に保存される(S56)。これにより成型の調整が終了し(S58)、描画が行われる(S60)。
【0065】
図11は、実施形態における試料上への描画動作の一例を説明するための概念図である。
図11に示すように、試料の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビームのショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を-y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、-x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、-x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。
【0066】
図12は、実施形態におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図12において、ストライプ領域32には、例えば、試料面上におけるマルチビームのビームサイズピッチで格子状に配列される複数の制御グリッド27(設計グリッド)が設定される。例えば、10nm程度の配列ピッチにすると良い。かかる複数の制御グリッド27が、マルチビーム20の設計上の照射位置となる。制御グリッド27の配列ピッチはビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく副偏向器209の偏向位置として制御可能な任意の大きさで構成されるものでも構わない。そして、各制御グリッド27を中心とした、制御グリッド27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された複数の画素36が設定される。各画素36は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。
図12の例では、試料の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビームの照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。照射領域34のx方向サイズは、マルチビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じた値で定義できる。照射領域34のy方向サイズは、マルチビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じた値で定義できる。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。
図12の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチが設計上のマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図12の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのサブ照射領域29(ビーム間ピッチ領域)を構成する。
図12の例では、各サブ照射領域29は、4×4(=16)画素で構成される場合を示している。
【0067】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0068】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0069】
2 第1の可動機構(可動機構)
4 第1の支持台
6 第1の支持金具
14 第2の支持台
16 第2の支持金具
20 第3のマルチビーム(マルチビーム)
21 第1のマルチビーム(マルチビーム)
22 第2のマルチビーム(マルチビーム)
41 制御回路(ロジック回路)
43 パッド
47 個別ブランキング機構
56 描画制御部
58 アパーチャ移動制御部(制御部)
60 照射時間補正量計算部
62 透過電流測定部
100 描画装置
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
130 偏向制御回路
132 DACアンプユニット
134 DACアンプユニット
139 ステージ位置検出器
140 描画データ記憶部
142 照射時間補正量記憶部
144 原点マップ記憶部
146 電流マップ記憶部
150 描画機構
160 制御系回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ部材
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
210 位置測定用ミラー
211 ファラデーカップ
220 制限アパーチャアレイ基板
222 第4の開口部
230 第1の成型アパーチャアレイ基板
232 第1の開口部
240 第2の成型アパーチャアレイ基板
242 第2の開口部
244 領域
250 ブランキングアパーチャアレイ
251 ブランキングアパーチャアレイ基板
252 第3の開口部
253 ブランキングアパーチャアレイ支持台
254 制御電極
256 対向電極
257 第3の支持金具
258 第2の可動機構
330 メンブレン領域
332 外周領域
334 円