(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】絶縁電線の被覆除去方法および被覆除去装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/10 20060101AFI20221207BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20221207BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20221207BHJP
H02G 1/12 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H01F41/10 C
H01F5/06 H
H01F41/04 F
H02G1/12 087
(21)【出願番号】P 2019059612
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠介
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-233916(JP,A)
【文献】特開2007-151284(JP,A)
【文献】特開昭55-061219(JP,A)
【文献】特開昭49-047891(JP,A)
【文献】特開平09-211235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/10
H01F 41/04
H01F 5/06
H02G 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線の端末を溶融はんだに浸漬する浸漬ステップと、
前記絶縁電線の端末のうち、溶融はんだに浸漬した浸漬部分を拭き取り部材で挟圧した状態で、当該絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜き、前記絶縁電線の導体に付着した溶融被覆材料を拭き取る除去ステップと
を含むことを特徴とする絶縁電線の被覆除去方法。
【請求項2】
前記除去ステップは、前記絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜く際、前記絶縁電線を前記拭き取り部材に対して相対回転させるステップを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線の被覆除去方法。
【請求項3】
絶縁電線を保持するとともに、はんだ槽に対する前記絶縁電線の位置を変位させる可動装置と、
前記絶縁電線のうち、溶融はんだに浸漬した浸漬部分に接触する拭き取り部材と、
前記拭き取り部材を前記浸漬部分に径方向に挟圧する挟圧装置と、
を備え、
前記可動装置は、前記絶縁電線の端末を前記溶融はんだに浸漬させるとともに、前記挟圧装置により前記浸漬部分が前記拭き取り部材で挟圧されている状態で、前記絶縁電線を軸方向に動かし、前記絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜き、
前記拭き取り部材は、前記可動装置により前記絶縁電線の端末が引き抜かれる際、前記絶縁電線の導体に付着した溶融被覆材料を拭き取る
ことを特徴とする絶縁電線の被覆除去装置。
【請求項4】
前記可動装置は、前記絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜く際、前記絶縁電線を前記拭き取り部材に対して相対回転させる
ことを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線の被覆除去装置。
【請求項5】
前記絶縁電線が巻き回された状態の部品を把持する把持治具、をさらに備え、
前記絶縁電線の端末は、前記把持治具から前記はんだ槽に向けて突出しており、
前記可動装置は、前記把持治具を保持するとともに、前記はんだ槽に対して当該把持治具を昇降させる
ことを特徴とする請求項3または4に記載の絶縁電線の被覆除去装置。
【請求項6】
前記拭き取り部材は、前記絶縁電線の径方向両側に配置された一対の拭き取り部材を含み、
前記挟圧装置は、前記可動装置により前記把持治具を下降させて前記絶縁電線の端末を溶融はんだに浸漬させる際には、前記一対の拭き取り部材を離間させた解放状態とし、前記絶縁電線の端末が溶融はんだに浸漬している最中に前記一対の拭き取り部材を接触させた挟圧状態とする
ことを特徴とする請求項5に記載の絶縁電線の被覆除去装置。
【請求項7】
前記一対の拭き取り部材は、帯状に形成された第1拭き取り部材と、帯状に形成された第2拭き取り部材とを含み、
前記第1拭き取り部材を送り出し、かつ送り出された前記第1拭き取り部材を巻き取る第1巻取装置と、
前記第2拭き取り部材を送り出し、かつ送り出された前記第2拭き取り部材を巻き取る第2巻取装置と、
をさらに備え、
前記挟圧装置は、各巻取装置により送り出された拭き取り部材を前記浸漬部分に接触させる
ことを特徴とする請求項6に記載の絶縁電線の被覆除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の被覆除去方法および被覆除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線の被覆を除去する方法として、絶縁電線の端末を溶融はんだに浸漬する方法(特許文献1参照)や、溶剤により絶縁被覆層を剥離する方法(特許文献2参照)や、回転刃などを用いて機械的に絶縁被覆層を剥離する方法、またはチャック先端にヒータ機能を持たせて加熱しながら絶縁電線を挟み絶縁被覆層を剥離する方法(特許文献3参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-52905号公報
【文献】特開平7-29597号公報
【文献】特開2003-68556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、絶縁電線は、熱可塑性樹脂の押出被覆により絶縁被覆層(被覆)の厚みを厚くすることで、絶縁性能が高くなり、これを用いたコイルやトランスの小型化に有利である。しかしながら、熱可塑性樹脂を厚く押出被覆した絶縁電線の場合、絶縁被覆層が厚いため、溶融はんだに浸漬させるだけでは、被覆除去が不十分となり、融解した被覆材料が導体上に残りやすい、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、絶縁電線を溶融はんだに浸漬する場合に、被覆を容易に除去することができる絶縁電線の被覆除去方法および被覆除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去方法は、絶縁電線の端末を溶融はんだに浸漬する浸漬ステップと、前記絶縁電線の端末のうち、溶融はんだに浸漬した浸漬部分を拭き取り部材で挟圧した状態で、当該絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜き、前記絶縁電線の導体に付着した溶融被覆材料を拭き取る除去ステップとを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去方法は、前記除去ステップは、前記絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜く際、前記絶縁電線を前記拭き取り部材に対して相対回転させるステップを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去装置は、絶縁電線を保持するとともに、はんだ槽に対する前記絶縁電線の位置を変位させる可動装置と、前記絶縁電線のうち、溶融はんだに浸漬した浸漬部分に接触する拭き取り部材と、前記拭き取り部材を前記浸漬部分に径方向に挟圧する挟圧装置と、を備え、前記可動装置は、前記絶縁電線の端末を前記溶融はんだに浸漬させるとともに、前記挟圧装置により前記浸漬部分が前記拭き取り部材で挟圧されている状態で、前記絶縁電線を軸方向に動かし、前記絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜き、前記拭き取り部材は、前記可動装置により前記絶縁電線の端末が引き抜かれる際、前記絶縁電線の導体に付着した溶融被覆材料を拭き取ることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去装置は、前記可動装置は、前記絶縁電線の端末を前記拭き取り部材から引き抜く際、前記絶縁電線を前記拭き取り部材に対して相対回転させることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去装置は、前記絶縁電線が巻き回された状態の部品を把持する把持治具、をさらに備え、前記絶縁電線の端末は、前記把持治具から前記はんだ槽に向けて突出しており、前記可動装置は、前記把持治具を保持するとともに、前記はんだ槽に対して当該把持治具を昇降させることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去装置は、前記拭き取り部材は、前記絶縁電線の径方向両側に配置された一対の拭き取り部材を含み、前記挟圧装置は、前記可動装置により前記把持治具を下降させて前記絶縁電線の端末を溶融はんだに浸漬させる際には、前記一対の拭き取り部材を離間させた解放状態とし、前記絶縁電線の端末が溶融はんだに浸漬している最中に前記一対の拭き取り部材を接触させた挟圧状態とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る絶縁電線の被覆除去装置は、前記一対の拭き取り部材は、帯状に形成された第1拭き取り部材と、帯状に形成された第2拭き取り部材とを含み、前記第1拭き取り部材を送り出し、かつ送り出された前記第1拭き取り部材を巻き取る第1巻取装置と、前記第2拭き取り部材を送り出し、かつ送り出された前記第2拭き取り部材を巻き取る第2巻取装置と、をさらに備え、前記挟圧装置は、各巻取装置により送り出された拭き取り部材を前記浸漬部分に接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被覆が厚い絶縁電線においても、溶融はんだに浸漬させて、拭き取り部材で溶融被覆材料を拭き取ることにより、容易に被覆を除去することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、絶縁電線の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る絶縁電線の被覆除去装置を示す模式図である。
【
図3】
図3は、絶縁電線の端末が溶融はんだに浸漬する状態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、拭き取り部材により絶縁電線が挟圧された状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、被覆が除去された状態を示す模式図である。
【
図6】
図6は、拭き取り部材が離間した状態を示す模式図である。
【
図7】
図7は、拭き取り部材が接触した状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、拭き取り部材の別の形状を示す模式図である。
【
図9】
図9は、拭き取り部材が接触した状態を示す模式図である。
【
図10】
図10は、拭き取り部材を更新する巻取装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載においては、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0016】
図1は、絶縁電線の一例を示す模式図である。
図2は、実施の形態に係る絶縁電線の被覆除去装置を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、絶縁電線1は、導体2と、絶縁被覆層3とより構成されている。絶縁被覆層3は、樹脂からなる絶縁層であり、導体2の周りに所定の厚さで被覆されている。この絶縁電線1では、被覆材料としての熱可塑性樹脂を押出被覆することにより絶縁被覆層3が所定厚さに形成されている。例えば、絶縁被覆層3の厚さは、一般的なエナメル線の被覆(絶縁層)よりも厚く形成されている。エナメル線の被覆が数~数十μmの厚さであるのに対して、絶縁被覆層3は百~数百μmの厚さに形成されている。
【0018】
なお、この説明では、芯線である導体2が延在する方向を軸方向と記載する。同様に、導体2の芯を中心とする径方向を単に径方向と記載する場合がある。
【0019】
図2に示すように、被覆除去装置100は、絶縁電線1の端末をはんだ槽200内の溶融はんだ201に浸漬させて、絶縁被覆層3を除去するための装置である。この被覆除去装置100は、可動装置10と、拭き取り部材20と、挟圧装置30と、を備える。
【0020】
可動装置10は、絶縁電線1を保持した状態で、絶縁電線1の端末の位置をはんだ槽200に対して変位させる装置である。この可動装置10によって絶縁電線1の端末を溶融はんだ201に浸漬させることができる。
【0021】
可動装置10は、上下方向に動く可動部11と、把持治具40に取り付けられる連結部12と、可動部11と連結部12との間を接続する支持部13と、を有する。可動装置10では、可動部11が上下方向に作動することによって、絶縁電線1の端末の上下位置を変位させることができる。さらに、可動部11は、絶縁電線1の芯を回転中心として把持治具40を回転させるように回転運動することが可能である。連結部12は、把持治具40が可動部11と同じ動きをするように、把持治具40と一体的に連結されている。この連結部12は可動装置10と把持治具40とを連結する部材である。支持部13は、連結部12を支持する部位であり、可動部11と連結部12との間を上下方向に延在している。この支持部13は、水平方向位置が絶縁電線1の端末が垂下する位置と同じ位置に配置されている。可動部11と支持部13と連結部12とは一体的に動作する。そのため、可動部11が回転すると、支持部13を回転中心として連結部12および把持治具40を回転させることができる。これにより、絶縁電線1の端末が突出している位置を回転中心位置として把持治具40を回転させることができる。なお、可動装置10には、可動部11を作動させることができるアクチュエータ(図示せず)が設けられている。このアクチュエータは電動式等により構成されている。
【0022】
把持治具40は、絶縁電線1が巻き回されたトランス50を把持する器具である。トランス50は把持治具40に固定されている。これにより、可動部11と把持治具40とトランス50とが一体的に動作する。また、把持治具40には、トランス50から突出する絶縁電線1の端末が、はんだ槽200に向けて延びる(垂下する)ことが可能な開口部が設けられている。
【0023】
拭き取り部材20は、溶融はんだ201に浸漬した後の絶縁電線1を対象に、絶縁電線1の導体2に付着した溶融被覆材料(溶融した被覆樹脂)を拭き取る部材である。この拭き取り部材20は、絶縁電線1の端末のうち、溶融はんだ201に浸漬した浸漬部分1aに接触する部材であり、高温により軟化した被覆樹脂を拭き取るものである。
【0024】
例えば、拭き取り部材20は綿の布により構成されている。また、拭き取り部材20は、所定の厚さを有し、浸漬部分1aの外周部分を全体的に覆うことができる大きさに形成されている。さらに、拭き取り部材20は、溶融被覆材料を拭き取ることが可能な耐久性(耐熱性を含む)と、導体2の表面を傷つけない滑らかさとを有する素材により構成されている。
【0025】
挟圧装置30は、拭き取り部材20の位置を変位させ、絶縁電線1に拭き取り部材20を接触させるとともに、絶縁電線1の浸漬部分1aを径方向に挟圧する装置である。この挟圧装置30は、拭き取り部材20の位置を変位させる可動挟圧部31を有する。拭き取り部材20は、第1拭き取り部材20Aと、第2拭き取り部材20Bとの一対の拭き取り部材により構成されている。さらに、挟圧装置30は、一対の拭き取り部材20A,20Bの位置を変位させて、一対の拭き取り部材20A,20Bを離間させた解放状態と、一対の拭き取り部材20A,20Bを接触させた挟圧状態とに切り替わることが可能である。挟圧装置30は、第1拭き取り部材20Aを水平方向に動かす第1可動挟圧部31Aと、第2拭き取り部材20Bを水平方向に動かす第2可動挟圧部31Bとを有する。なお、挟圧装置30には、可動挟圧部31を作動させることができるアクチュエータ(図示せず)が設けられている。このアクチュエータは電動式や油圧式等により構成されている。
【0026】
絶縁電線1の被覆除去方法について説明する。被覆除去装置100を用いた絶縁電線1の絶縁被覆層3を除去する方法は、浸漬ステップ(浸漬工程)と、除去ステップ(被覆除去工程)とを含む。浸漬ステップは、絶縁電線1の端末を溶融はんだ201に浸漬する工程である。除去ステップは、絶縁電線1を溶融はんだ201に浸漬した後に、高温により軟化した樹脂材料(溶融被覆材料)を拭き取り部材20によって導体2から拭き取る工程である。この除去ステップは浸漬ステップの後に行われる。
【0027】
ここで、
図2から
図4を参照して、被覆除去方法をより詳細に説明する。被覆除去方法は、
図2に示す状態、
図3に示す状態、
図4に示す状態、
図5に示す状態の順序に進む。
【0028】
図2に示す状態は、溶融はんだ201に浸漬させる前の準備状態である。準備状態では、把持治具40を介して可動部11に保持された絶縁電線1の端末が、はんだ槽200の上方に配置されている。この準備状態から、可動部11が下方に可動して、把持治具40を下降させ、絶縁電線1の端末を溶融はんだ201に向けて近づける。そして、絶縁電線1の端末の一部が溶融はんだ201に浸漬して、
図3に示す状態に遷移する。この
図2および
図3に示す状態が、浸漬ステップを行う際の状態変化を示す。
【0029】
図3に示す状態は、絶縁電線1の端末が溶融はんだ201に浸漬した浸漬状態である。可動部11が所定量だけ下方に動くと、下降した把持治具40が挟圧装置30に当接する。これにより、可動部11および把持治具40の下降が止まる。すなわち、挟圧装置30は把持治具40を載せるストッパ機構として機能する。この場合、絶縁電線1の端末は、一部が溶融はんだ201に浸漬する上下位置で位置決めされた状態となる。そして、絶縁電線1の一部が溶融はんだ201に浸漬している最中に、挟圧装置30によって一対の拭き取り部材20A,20Bが接触して絶縁電線1を挟圧する。これにより、
図3に示す状態から
図4に示す状態に遷移する。
【0030】
図4に示す状態は、浸漬状態にある絶縁電線1を、一対の拭き取り部材20A,20Bによって挟圧する挟圧状態である。
図4に示すように、挟圧当初、拭き取り部材20は、絶縁電線1のうち、浸漬部分1aよりも上方の部分、すなわち溶融はんだ201には浸漬していない部分を挟圧している。また、この挟圧状態で、所定時間経過するまで、絶縁電線1の端末を溶融はんだ201に浸漬した浸漬状態を継続させる。
【0031】
その後、所定時間が経過すると、可動装置10は、絶縁電線1の端末を溶融はんだ201から引き上げて、
図4に示す状態から
図5に示す状態に遷移する。
【0032】
詳細には、
図4に示すように、挟圧装置30によって拭き取り部材20を絶縁電線1の浸漬部分1aに挟圧させた状態のまま、絶縁電線1の端末を上方向に移動させて、拭き取り部材20から絶縁電線1を引き抜く。その結果、
図5に示す状態に遷移する。この場合、可動装置10は可動部11を回転させながら上方向に動かす。すなわち、可動装置10は絶縁電線1の端末を、拭き取り部材20に対して相対回転させながら、拭き取り部材20に対して上方向に相対移動させる。この際、拭き取り部材20による挟圧力によって、絶縁電線1の導体2に付着した溶融被覆材料を拭き取ることができる。このように、
図4および
図5に示す状態が、除去ステップを行う際の状態変化を示す。
【0033】
そして、
図5に示す状態は、溶融被覆材料を拭き取り部材20で拭き取った後の除去完了状態である。
図5に示すように、挟圧状態の拭き取り部材20から浸漬部分1aを軸方向に引き抜いたことにより、浸漬部分1aの導体2に付着した溶融被覆材料が除去されている。
【0034】
また、
図6、
図7に示すように、拭き取り部材20は、長方形のパッド状に形成されている。この場合、
図6に示すように、挟圧装置30が解放状態の場合に、絶縁電線1とは非接触に離間した状態となる。一方、挟圧装置30が挟圧状態となる場合には、
図7に示すように、一対の拭き取り部材20A,20Bが接触して絶縁電線1を挟圧する。この場合、拭き取り部材20は弾性変形して絶縁電線1の外周面に接触して径方向で中心に向けて押圧する。この拭き取り部材20から作用する導体2の中心に向けた径方向の荷重(挟圧力)によって浸漬部分1aの溶融被覆材料を拭き取ることができる。また、挟圧装置30は、この径方向の荷重(挟圧力)が徐々に大きくなるように構成されている。つまり、絶縁電線1を上下方向で上方向に引き抜く過程において、絶縁電線1の端末の上下位置が上方向に変位するに連れて、径方向の荷重(挟圧力)が徐々に大きくなるように拭き取り部材20を押圧するように構成されている。この結果、絶縁被覆層3よりも小径の導体2に挟圧力が十分に作用するため、拭き取り部材20による溶融被覆材料の拭き取り効果を十分に得ることができる。
【0035】
以上説明した通り、実施の形態によれば、絶縁電線1の端末を溶融はんだ201に浸漬した後、はんだ槽200から絶縁電線1の端末を取り出す際に、高温で軟化した溶融被覆材料(被覆)を拭き取り部材20によって拭き取ることができる。これにより、絶縁電線1の端末について、被覆の除去と、はんだ処理とを一括して行うことができる。さらに、拭き取り部材20によって挟圧して拭き取るため、絶縁被覆層3が厚い絶縁電線1においても、容易に被覆を除去することができる。
【0036】
なお、拭き取り部材の形状は、
図6および
図7に例示するものに限定されない。例えば、
図8、
図9に示すように、絶縁電線1の外周形状に沿った接触面を有する拭き取り部材21であってもよい。
図8に示すように、一対の拭き取り部材21A,21Bは、絶縁電線1の外周面に沿うように湾曲した面(湾曲面)を有する。
図9に示すように、拭き取り部材21の湾曲面が絶縁電線1の外周面に接触する。
【0037】
また、上述した実施の形態における変形例として、拭き取り部材を更新する機構として巻取装置を備えることもできる。つまり、被覆除去工程を行うたびに、自動で拭き取り部材が未使用の状態に更新されることにより、繰り返し同じ部分で拭き取りを行うことによる精度の低下を防止することができる。例えば、
図10に示すように、一対の巻取装置60A,60Bを配置した機構を備えてもよい。変形例の被覆除去装置100では、帯状の拭き取り部材22と、この拭き取り部材22を送りだし、かつ巻き取る巻取装置60と、を備える。また、巻取装置60は、送出ロール61と、巻取ロール62とを含んで構成されている。
【0038】
具体的には、拭き取り部材22は、帯状に形成された布からなる第1拭き取り布22Aと、帯状に形成された布からなる第2拭き取り布22Bとを含んで構成されている。さらに、巻取装置60は、第1拭き取り布22Aを送り出し、かつ第1拭き取り布22Aを巻き取る第1巻取装置60Aと、第2拭き取り布22Bを送り出し、かつ第2拭き取り布22Bを巻き取る第2巻取装置60Bと、を有する。
【0039】
第1巻取装置60Aは、第1拭き取り布22Aを送り出す第1送出ロール61Aと、送り出された第1拭き取り布22Aを巻き取る第1巻取ロール62Aと、を有する。第1送出ロール61Aおよび第1巻取ロール62Aは、図示しないモータにより回転駆動するように構成されている。第1巻取装置60Aにより送り出された第1拭き取り布22Aは、挟圧装置30の第1可動挟圧部31Aによって、絶縁電線1の浸漬部分1aに接触され、かつ挟圧される。そして、一度被覆除去工程が行われると、第1巻取装置60Aは、所定長さ分の第1拭き取り布22Aを送り出し、かつ巻き取り、第1可動挟圧部31Aの挟圧部分に未使用の部位が位置するように、使用済みの範囲から未使用の範囲に第1拭き取り布22Aを更新する。
【0040】
第2巻取装置60Bは、第2拭き取り布22Bを送り出す第2送出ロール61Bと、送り出された第2拭き取り布22Bを巻き取る第2巻取ロール62Bと、を有する。第2送出ロール61Bおよび第2巻取ロール62Bは、図示しないモータにより回転駆動するように構成されている。第2巻取装置60Bにより送り出された第2拭き取り布22Bは、挟圧装置30の第2可動挟圧部31Bによって、絶縁電線1の浸漬部分1aに接触され、かつ挟圧される。そして、一度被覆除去工程が行われると、第2巻取装置60Bは、所定長さ分の第2拭き取り布22Bを送り出し、かつ巻き取り、第2可動挟圧部31Bの挟圧部分に未使用の部位が位置するように、使用済みの範囲から未使用の範囲に第2拭き取り布22Bを更新する。
【0041】
また、別の変形例として、可動装置10は、上下方向に直線運動する第1可動部(上下可動部)と、上下方向に固定された状態で回転する第2可動部(水平可動部)と、を有する構成であってもよい。この場合、第1可動部は昇降機構として機能し、第2可動部は回転機構として機能する。
【0042】
また、絶縁電線1の導体2は、複数の素線が撚り合わせられた構造であってもよい。例えば、導体2を構成する各素線はエナメル線により構成されている。そして、複数のエナメル線を撚り合わせた構造の導体2の周りに、絶縁被覆層3が被覆された構造を有する。このように、導体2が複数素線の撚り合わせにより構成される場合には、上述した除去ステップの際、可動部11の回転方向は、導体2を撚り合わせた構造がほどけない回転方向に設定される。つまり、絶縁電線1を拭き取り部材20から引き抜く際の回転方向、すなわち可動部11の回転方向は、導体2を構成する素線を撚り合わせた構造を維持できる回転方向に設定されている。これにより、拭き取り部材20により導体2に付着した溶融被覆材料を拭き取る際に、導体2の撚り合わせた構造がほどけることを抑制することができる。その結果、導体2の形状を維持できるとともに、拭き取り過程で導体2の撚り合わせをまとめることができる。
【0043】
また、絶縁被覆層3は、複数の樹脂材料が積層した構造の絶縁層であってもよい。例えば、導体2側の第1絶縁層としてPET層、外側の第2絶縁層としてナイロン層を有する二層構造の絶縁被覆層3であってもよい。または、第1絶縁層、第2絶縁層、第3絶縁層を有する三層構造の絶縁被覆層3であってもよい。なお、絶縁被覆層3は、厚いものに限らず、エナメル線の被覆を含むものであってよい。つまり、上述した実施の形態に係る被覆除去方法および被覆除去装置100は、エナメル線のような薄い被覆(被膜)を有する電線にも適用可能である。
【0044】
また、拭き取り部材20と拭き取り部材22とは、布に限らず、適宜の材料により構成されてよい。例えば、拭き取り部材20,22は、溶融被覆材料に触れても問題がない程度の耐久性(耐熱性)と、導体2に触れても導体2に傷をつけない程度の柔軟性とを有する素材により構成される。一例として、拭き取り部材20は、樹脂製のスポンジにより構成することができる。同様に、拭き取り部材22は、樹脂製の帯状部材により構成することができる。
【0045】
また、把持治具40によって把持される部品はトランス50に限定されない。例えば、トランス50の代わりに、絶縁電線1による巻き線であるコイルを把持治具40に載置して把持することができる。すなわち、把持治具40は、絶縁電線1が巻き回された状態の部品を把持する。そして、その部品には、コイルやトランス50が含まれる。さらに、連結部12に連結された把持治具40は、被覆除去工程の後に、連結部12から取り外すことが可能である。被覆除去のたびに把持治具40を取り換えることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 絶縁電線
2 導体
3 絶縁被覆層
10 可動装置
11 可動部
12 連結部
13 支持部
20 拭き取り部材
20A 第1拭き取り部材
20B 第2拭き取り部材
30 挟圧装置
31 可動挟圧部
31A 第1可動挟圧部
31B 第2可動挟圧部
40 把持治具
50 トランス
60 巻取装置
100 被覆除去装置
200 はんだ槽
201 溶融はんだ