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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/04 20060101AFI20221207BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20221207BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20221207BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F28D15/04 D
F28D15/02 M
F28D15/04 B
F28D15/04 H
F28D15/02 101A
F28D15/02 101H
H01L23/46 B
H05K7/20 R
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020016902
(22)【出願日】2020-02-04
(62)【分割の表示】P 2019529675の分割
【原出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020079699
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2017253210
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018037959
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】上久保 将大
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014508(JP,A)
【文献】特開2013-100977(JP,A)
【文献】特開2015-121373(JP,A)
【文献】国際公開第2002/044639(WO,A1)
【文献】特開2016-194118(JP,A)
【文献】特開2014-081185(JP,A)
【文献】登録実用新案第3175037(JP,U)
【文献】登録実用新案第3164517(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/04
F28D 15/02
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止された内部空間を有するコンテナと、前記コンテナの内面に設けられた、金属繊維が焼結されたウィック構造体と、前記コンテナの内部空間に封入された作動流体と、を備え、
前記コンテナが、一方の端部の端面と他方の端部の端面とが封止された管形状であり、
前記金属繊維が、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下、繊維径が10μm以上50μm以下の金属繊維を含み、
前記コンテナの長手方向の一部に設けられた前記ウィック構造体と、前記コンテナの長手方向の他の一部に設けられた、金属粉が焼結された他のウィック構造体と、を備え、
前記ウィック構造体が、前記他のウィック構造体と前記コンテナの長手方向にて連接され、
受熱部として機能する前記コンテナの一方の端部に前記他のウィック構造体を備え、前記受熱部と放熱部として機能する前記コンテナの他方の端部との中間部である断熱部に前記ウィック構造体を備え、前記コンテナの他方の端部では、前記コンテナの内面の細溝が露出し、
前記コンテナの長手方向全体にわたって毛細管力を有し、前記中間部においては、気相の前記作動流体と液相の前記作動流体が対向流となる、ヒートパイプ。
【請求項2】
前記金属繊維が、平均繊維長が0.50mm以上1.8mm以下、平均繊維径が10μm以上50μm以下である請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記ウィック構造体の空隙率が、70%以上86%以下である請求項1または2に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記金属繊維の金属種が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金及びステンレスからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記コンテナが、管形状または平面形状である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記コンテナが金属製であり、前記コンテナの金属種と前記金属繊維の金属種が同じである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項7】
前記コンテナが、ベア管である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項8】
前記コンテナが、グルーブ管である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項9】
前記他のウィック構造体の部位における、前記コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状が、少なくとも一部に花弁形状、星形形状、多角形状または歯車形状を有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項10】
前記他のウィック構造体の、前記コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、前記断熱部から前記受熱部の方向へ向かうにつれて薄くなっている請求項1乃至8のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項11】
前記他のウィック構造体の、前記コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、前記ウィック構造体と連接した連接一端から該連接一端と対向した他端の方向へ向かうにつれて薄くなっている請求項1乃至8のいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な最大熱輸送量を有し、熱抵抗が小さく、トップヒート時であっても、優れた熱輸送特性を有するヒートパイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
デスクトップパソコンやサーバ等の電気・電子機器に搭載されている半導体素子等の電子部品は、高機能化に伴う高密度搭載等により、発熱量が増大し、その冷却がより重要となっている。電子部品の冷却方法として、ヒートパイプが使用されることがある。また、電気・電子機器の小型化から、蒸発部側が凝縮部側よりも高い位置、いわゆる、トップヒートの姿勢で、ヒートパイプが設置されることがある。
【0003】
そこで、トップヒートの姿勢でヒートパイプが設置されても熱輸送量の低下を抑制するヒートパイプとして、作動液が密封封入され、かつ、蒸気流路が形成されているとともに作動液を還流させるためのウィックが形成されている熱移動体であって、上記ウィックが不織布からなっている熱移動体が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、ウィックを目が不均一な不織布とすることで、ウィックの作動液還流力の設定範囲を広くすることができ、結果として、ウィックの作動液還流力を向上させるというものである。
【0004】
しかし、冷却対象である電子部品等の発熱量の増大により、特許文献1では、依然として、トップヒート時における最大熱輸送量の向上と熱抵抗の低減に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-372387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、トップヒートの姿勢で設置されても、良好な最大熱輸送量を有し、さらに熱抵抗を抑制でき、優れた熱輸送特性を発揮するヒートパイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、封止された内部空間を有するコンテナと、前記コンテナの内面に設けられた、金属繊維が焼結されたウィック構造体と、前記コンテナの内部空間に封入された作動流体と、を備え、前記金属繊維が、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下、繊維径が10μm以上50μm以下の金属繊維を含むヒートパイプである。
【0008】
本発明の態様は、前記金属繊維が、平均繊維長が0.50mm以上1.8mm以下、平均繊維径が10μm以上50μm以下であるヒートパイプである。
【0009】
本発明の態様は、前記ウィック構造体の空隙率が、70%以上86%以下であるヒートパイプである。
【0010】
本発明の態様は、前記金属繊維の金属種が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金及びステンレスからなる群から選択された少なくとも1種であるヒートパイプである。
【0011】
本発明の態様は、前記コンテナが、平面形状または管形状であるヒートパイプである。
【0012】
本発明の態様は、前記コンテナが金属製であり、前記コンテナの金属種と前記金属繊維の金属種が同じであるヒートパイプである。
【0013】
本発明の態様は、前記コンテナが、ベア管であるヒートパイプである。上記態様では、コンテナとして、内面平滑管が用いられている。
【0014】
本発明の態様は、前記コンテナが、グルーブ管であるヒートパイプである。上記態様では、コンテナとして、内面にコンテナの長手方向に沿って複数の細溝が延在した管材が用いられている。
【0015】
本発明の態様は、前記ウィック構造体が、前記コンテナの長手方向に一方の端部から他方の端部まで延在しているヒートパイプである。
【0016】
本発明の態様は、前記ウィック構造体が、前記コンテナの長手方向の一部に設けられているヒートパイプである。
【0017】
本発明の態様は、前記コンテナの長手方向の一部に設けられた前記ウィック構造体と、前記コンテナの長手方向の他の一部に設けられた、金属粉が焼結された他のウィック構造体と、を備えているヒートパイプである。
【0018】
前記コンテナの長手方向の一部に設けられた前記ウィック構造体と、前記ウィック構造体と前記コンテナの長手方向にて連接した前記コンテナの長手方向の他の一部に設けられた、金属粉が焼結された他のウィック構造体と、を備えたウィック部を有し、前記ウィック部が、前記コンテナの長手方向に一方の端部から他方の端部まで延在しているヒートパイプである。
【0019】
本発明の態様は、前記ウィック構造体が、前記他のウィック構造体と前記コンテナの長手方向にて連接されているヒートパイプである。
【0020】
本発明の態様は、前記コンテナが、グルーブ管であり、受熱部に前記他のウィック構造体を備え、前記受熱部と放熱部との中間部である断熱部に前記ウィック構造体を備えるヒートパイプである。
【0021】
本発明の態様は、前記コンテナが、グルーブ管であり、受熱部に前記他のウィック構造体を備えるヒートパイプである。本発明の態様は、前記他のウィック構造体の部位における、前記コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状が、少なくとも一部に花弁形状、星形形状、多角形状または歯車形状を有するヒートパイプである。本発明の態様は、前記他のウィック構造体の、前記コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、前記断熱部から前記受熱部の方向へ向かうにつれて薄くなっているヒートパイプである。本発明の態様は、前記他のウィック構造体の、前記コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、前記ウィック構造体と連接した連接一端から該連接一端と対向した他端の方向へ向かうにつれて薄くなっているヒートパイプである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の態様によれば、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下且つ繊維径が10μm以上50μm以下の金属繊維を含む金属繊維が焼結されて形成されたウィック構造体が、コンテナに収容されることにより、トップヒートの姿勢で設置されても、良好な最大熱輸送量を有し、さらに熱抵抗を抑制できることで、優れた熱輸送特性を発揮するヒートパイプを得ることができる。
【0023】
本発明の態様によれば、ウィック構造体の空隙率が70%以上84%以下であることにより、最大熱輸送量がさらに向上しつつ、熱抵抗をさらに抑制することができる。
【0024】
本発明の態様によれば、コンテナの金属種と金属繊維の金属種が同じであることにより、コンテナとウィック構造体間の熱抵抗をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプの正面断面図である。
図2】本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプの側面断面を説明する、図1のA-A断面図である。
図3】(a)図は、本発明の第2実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第2実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のB-B断面図である。
図4】(a)図は、本発明の第3実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第3実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のC-C断面図である。
図5】(a)図は、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のD-D断面図、(c)図は、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のE-E断面図である。
図6】(a)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のF-F断面図、(c)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のG-G断面図、(d)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のH-H断面図である。
図7】本発明の第6実施形態例に係るヒートパイプの正面断面図である。
図8】本発明の第7実施形態例に係るヒートパイプの正面断面図である。
図9】本発明の実施例及び比較例の測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプについて、図1、2を用いながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプの正面断面図であり、図2は、本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプの側面断面を説明する、図1のA-A断面図である。
【0027】
図1、2に示すように、本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプ1は、一方の端部11の端面と他方の端部12の端面とが封止された管形状のコンテナ10と、コンテナ10の内面に設けられたウィック構造体13と、コンテナ10の内部空間である空洞部17に封入された作動流体(図示せず)と、を備えている。
【0028】
コンテナ10は、密閉された管材である。コンテナ10の長手方向の形状は、直線状、曲部を有する形状等、特に特定されず、ヒートパイプ1では、略直線状となっている。コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面形状は、円形状、扁平形状、四角形等の多角形状など、特に限定されず、ヒートパイプ1では、略円形状となっている。コンテナ10の肉厚は、特に限定されないが、例えば、50~1000μmである。略円形状であるコンテナ10の径方向の寸法は、特に限定されないが、例えば、5~20mmである。また、ヒートパイプ1では、コンテナ10は、内面が平滑なベア管でもよく、内面にコンテナ10の長手方向に沿って複数の細溝(ブルーブ)が延在し、コンテナ10内面に毛細管力が付与されたグルーブ管でもよい。
【0029】
図2に示すように、コンテナ10の内面には、一方の端部11から他方の端部12まで、コンテナ10の長手方向に沿ってウィック構造体13が設けられている。すなわち、ウィック構造体13は、コンテナ10の長手方向に延在している。また、図1に示すように、ヒートパイプ1では、ウィック構造体13は、コンテナ10の径方向の内周面全体に形成されている。従って、コンテナ10の長手方向を形成する内周面は、層状のウィック構造体13によって、被覆されている。
【0030】
ウィック構造体13は、金属繊維が焼結された焼結体である。従って、ウィック構造体13は、原料として金属繊維材料が用いられている。ウィック構造体13は、金属繊維が繊維の状態を維持したまま焼結して固められた態様となっている。焼結体を構成する金属繊維は、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下の範囲であり、繊維径(直径)が10μm以上50μm以下の範囲である金属繊維を含んでいる。ウィック構造体13が上記した繊維長の範囲と繊維径の範囲を有する金属繊維を含むことにより、ヒートパイプ1が、トップヒートの姿勢で設置されても、ウィック構造体13が優れた毛細管力を発揮して、良好な最大熱輸送量を有し、さらに熱抵抗を抑制できる。従って、優れた熱輸送特性を発揮できる。なお、繊維長は、金属繊維を直線に伸ばした時の長さである。
【0031】
ウィック構造体13は、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下であり、繊維径が10μm以上50μm以下である金属繊維を含んでいれば、特に限定されないが、最大熱輸送量を確実に向上させつつ、熱抵抗を確実に抑制させる点から、ウィック構造体を構成する金属繊維は、平均繊維長が0.50mm以上1.8mm以下の範囲であり、平均繊維径が10μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。また、ウィック構造体13は、最大熱輸送量を確実に向上させつつ、熱抵抗を確実に抑制させる点から、繊維長が0.80mm以上1.5mm以下の範囲であり、繊維径が20μm以上40μm以下の範囲である金属繊維を含んでいることが好ましく、ウィック構造体13を構成する金属繊維は、平均繊維長が0.80mm以上1.5mm以下の範囲であり、平均繊維径が20μm以上40μm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0032】
金属繊維の焼結体であるウィック構造体13の金属繊維の繊維長及び繊維径は、焼結体の原料として、焼結体の繊維長及び繊維径に対応する金属繊維材料を使用することで、調整することができる。
【0033】
ウィック構造体13の空隙率は、特に限定されず、例えば、最大熱輸送量をさらに向上させつつ、熱抵抗をさらに抑制する点から、70%以上86%以下の範囲が好ましく、75%以上85%以下の範囲が特に好ましい。ウィック構造体13の空隙率の範囲は、金属繊維の繊維長及び繊維径と金属繊維の充填の程度にて調整をすることができる。なお、ウィック構造体の空隙率は、ウィック構造体の質量と体積から算出できる。
【0034】
図1、2に示すように、コンテナ10の内部空間は空洞部17であり、空洞部17は気相の作動流体が流通する蒸気流路となっている。すなわち、コンテナ10の長手方向の内周面では、金属繊維の焼結体層であるウィック構造体13の表面が、蒸気流路の壁面となっている。
【0035】
コンテナ10の材質は、特に限定されず、例えば、熱伝導率に優れた点から銅、銅合金、軽量性の点からアルミニウム、アルミニウム合金、強度の改善の点からステンレス等を使用することができる。その他、使用状況に応じて、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金等を用いてもよい。
【0036】
ウィック構造体13を構成する金属繊維の金属種は、特に限定されず、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。金属繊維の金属種とコンテナ10の金属種は、同じでも、相違してもよいが、コンテナ10とウィック構造体13間の熱抵抗をさらに抑制する点から、金属繊維の金属種とコンテナ10の金属種は、同じであることが好ましい。
【0037】
また、コンテナ10に封入する作動流体としては、コンテナ10の材料との適合性に応じて、適宜選択可能であり、例えば、水、代替フロン、パーフルオロカーボン、シクロペンタン等を挙げることができ、また、不凍液とすることもできる。
【0038】
次に、本発明の第1実施形態例に係るヒートパイプ1の熱輸送のメカニズムについて説明する。ヒートパイプ1が、他方の端部12よりも高い位置に設置された一方の端部11にて熱的に接続された発熱体(図示せず)から受熱すると、一方の端部11が蒸発部(受熱部)として機能し、蒸発部にて作動流体が液相から気相へ相変化する。気相に相変化した作動流体が、空洞部17である蒸気流路を、コンテナ10の長手方向に蒸発部から他方の端部12である凝縮部(放熱部)へ、すなわち、重力方向上方から下方へと流れることで、発熱体からの熱が蒸発部から凝縮部へ輸送される。蒸発部から凝縮部へ輸送された発熱体からの熱は、熱交換手段(図示せず)の設けられた凝縮部にて、気相の作動流体が液相へ相変化することで潜熱として放出される。凝縮部にて放出された潜熱は、凝縮部に設けられた熱交換手段を介して、凝縮部からヒートパイプ1の外部環境へ放出される。また、凝縮部にて液相に相変化した作動流体は、ウィック構造体13の毛細管力によって、凝縮部から蒸発部へ、すなわち、重力方向下方から上方へと還流される。
【0039】
上記第1実施形態例に係るヒートパイプ1では、ウィック構造体13が、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下且つ繊維径が10μm以上50μm以下の金属繊維を含むことにより、金属粉が焼結された焼結体と比較して流路抵抗が低減でき、ヒートパイプ1が、トップヒートの姿勢で設置されても、良好な最大熱輸送量を有し、さらに熱抵抗を抑制できることで、優れた熱輸送特性を発揮できる。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態例に係るヒートパイプについて、図3を用いながら説明する。なお、第1実施形態例に係るヒートパイプと同じ構成要素については、同じ符号を用いて説明する。図3の(a)図は、本発明の第2実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第2実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のB-B断面図である。
【0041】
第1実施形態例に係るヒートパイプでは、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面形状は、略円形状であったが、これに代えて、図3(a)、(b)に示すように、第2実施形態例に係るヒートパイプ2では、コンテナ10は扁平加工されて扁平形状となっている。また、コンテナ10としてベア管(内面平滑管)が用いられている。ヒートパイプ2では、第1実施形態例に係るヒートパイプと同じく、コンテナ10の内面には、一方の端部11から他方の端部12まで、コンテナ10の長手方向に沿って、金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられている。
【0042】
ヒートパイプ2では、コンテナ内面に長手方向に沿って複数の細溝(グルーブ)が延在したグルーブ管と比較して、コンテナ10の肉厚を薄肉化できるベア管が用いられることにより、蒸気流路である空洞部17の寸法を確保できる。従って、ヒートパイプ2では、コンテナ10が扁平形状であっても、所望の最大熱輸送量を得ることができる。また、ヒートパイプ2では、コンテナ10が扁平形状なので、狭小空間であっても設置することができる。
【0043】
次に、本発明の第3実施形態例に係るヒートパイプについて、図4を用いながら説明する。なお、第1、第2実施形態例に係るヒートパイプと同じ構成要素については、同じ符号を用いて説明する。図4の(a)図は、本発明の第3実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第3実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のC-C断面図である。
【0044】
第1実施形態例に係るヒートパイプでは、コンテナはベア管でもグルーブ管でも特に限定されなかったが、これに代えて、図4(a)、(b)に示すように、第3実施形態例に係るヒートパイプ3では、コンテナ10として、その内面に、コンテナ10の長手方向に沿って一方の端部11から他方の端部12まで複数の細溝18が延在したグルーブ管が用いられている。従って、ヒートパイプ3では、コンテナ10内面に毛細管力が付与されている。また、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面形状は、扁平加工されておらず、略円形状となっている。
【0045】
ヒートパイプ3では、第1、第2実施形態例に係るヒートパイプと同じく、コンテナ10の内面には、一方の端部11から他方の端部12まで、コンテナ10の長手方向に沿って、金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられている。トップヒートの姿勢でヒートパイプが設置されると、グルーブ管の毛細管力のみでは液相の作動流体が、重力方向下方から上方へと円滑に還流されない場合がある。しかし、ヒートパイプ3では、コンテナ10の一方の端部11から他方の端部12まで金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられているので、ヒートパイプ3の毛細管力が向上する。従って、ヒートパイプ3がトップヒートの姿勢で設置されても、良好な熱輸送特性を発揮する。また、ヒートパイプ3でも、ウィック構造体13が、繊維長が0.50mm以上1.8mm以下且つ繊維径が10μm以上50μm以下の金属繊維を含むことにより、金属粉が焼結された焼結体と比較して流路抵抗が低減でき、ヒートパイプ3がトップヒートの姿勢で設置されても、良好な最大熱輸送量を発揮できる。
【0046】
次に、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプについて、図5を用いながら説明する。なお、第1~第3実施形態例に係るヒートパイプと同じ構成要素については、同じ符号を用いて説明する。図5の(a)図は、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のD-D断面図、(c)図は、本発明の第4実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のE-E断面図である。
【0047】
第1~第3実施形態例に係るヒートパイプでは、コンテナ10の一方の端部11から他方の端部12まで金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられていたが、これに代えて、図5(a)、(b)、(c)に示すように、第4実施形態例に係るヒートパイプ4では、金属繊維の焼結体層であるウィック構造体13が、コンテナ10の長手方向の一部に設けられている。また、ヒートパイプ4では、コンテナ10として、複数の細溝18が形成されたグルーブ管が用いられている。従って、ウィック構造体13によって被覆されていない部分では、コンテナ10の内面に形成された細溝18が露出している。
【0048】
コンテナ10の長手方向のうち、ウィック構造体13が設けられる部分とウィック構造体13が設けられない部分は、特に限定されず、ヒートパイプ4の使用状況に応じて選択される。ヒートパイプ4では、コンテナ10の長手方向のうち、一方の端部11から一方の端部11と他方の端部12との中間である中間部19までウィック構造体13が設けられ、他方の端部12にはウィック構造体が設けられていない。
【0049】
ウィック構造体13は、コンテナ10の径方向の内周面全体に形成されている。従って、コンテナ10の長手方向を形成する内周面は、一方の端部11から中間部19では、層状のウィック構造体13によって被覆されている。すなわち、コンテナ10の長手方向の内周面は、一方の端部11から中間部19では、ウィック構造体13の表面が蒸気流路の壁面となっており、他方の端部12では、コンテナ10の内面が蒸気流路の壁面となっている。
【0050】
ヒートパイプ4では、グルーブ管が用いられているので、一方の端部11から中間部19では、複数の細溝18上にウィック構造体13が被覆されている。また、ヒートパイプ4では、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面形状は、扁平加工されておらず、略円形状となっている。
【0051】
ヒートパイプ4では、例えば、一方の端部11が受熱部、他方の端部12が放熱部、中間部19が断熱部として機能する場合、他方の端部12の細溝18が気相の作動流体が液相に相変化することに寄与し、他方の端部12にて気相から液相に相変化した作動流体は、細溝18の有する毛細管力とウィック構造体13の有する毛細管力とによって、放熱部(他方の端部12)から受熱部(一方の端部11)へ還流する。ヒートパイプ4では、コンテナ10の一方の端部11から中間部19まで金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられ、他方の端部12には、その内面に毛細管力を有する細溝18が露出しているので、コンテナ10の長手方向全体にわたって毛細管力を有する。従って、ヒートパイプ4は、良好な熱輸送特性を発揮する。
【0052】
また、ヒートパイプ4では、中間部19においては、気相の作動流体と液相の作動流体が対向流となる。しかし、気相の作動流体の流れによって液相の作動流体が細溝18から飛散してしまうことを、ウィック構造体13が防止できる。従って、ヒートパイプ4では、液相の作動流体の還流特性が向上して、結果、最大熱輸送量が向上する。
【0053】
次に、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプについて、図6を用いながら説明する。なお、第1~第4実施形態例に係るヒートパイプと同じ構成要素については、同じ符号を用いて説明する。図6の(a)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの側面断面図、(b)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のF-F断面図、(c)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のG-G断面図、(d)図は、本発明の第5実施形態例に係るヒートパイプの正面断面を説明する、(a)図のH-H断面図である。
【0054】
第1~第4実施形態例に係るヒートパイプでは、金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられていたが、これに代えて、図6(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、第5実施形態例に係るヒートパイプ5では、金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13と、粒子状の金属粉が焼結された焼結体である他のウィック構造体23とが設けられている。
【0055】
ヒートパイプ5では、コンテナ10の長手方向の一部に設けられたウィック構造体13と、コンテナ10の長手方向の他の一部に設けられた、金属粉が焼結された他のウィック構造体23と、を備えている。コンテナ10の長手方向のうち、ウィック構造体13が設けられる部分と他のウィック構造体23が設けられる部分は、特に限定されず、ヒートパイプの使用状況に応じて選択される。ヒートパイプ5では、コンテナ10の長手方向のうち、一方の端部11に他のウィック構造体23が設けられ、中間部19にウィック構造体13が設けられている。ウィック構造体13と他のウィック構造体23は、コンテナ10の長手方向において連接されている。
【0056】
また、他方の端部12には、ウィック構造体13も他のウィック構造体23も設けられていない。従って、ウィック構造体13にも他のウィック構造体23にも被覆されていない他方の端部12では、コンテナ10の内面が露出している。
【0057】
ウィック構造体13と他のウィック構造体23は、いずれもコンテナ10の径方向の内周面全体に形成されている。従って、コンテナ10の長手方向を形成する内周面は、一方の端部11では、層状の他のウィック構造体23によって被覆され、中間部19では、層状のウィック構造体13によって被覆されている。すなわち、コンテナ10の長手方向の内周面は、一方の端部11では、他のウィック構造体23の表面が蒸気流路の壁面となっており、中間部19では、ウィック構造体13の表面が蒸気流路の壁面となっている。また、他方の端部12では、コンテナ10の内面が蒸気流路の壁面となっている。また、図6(b)に示すように、他のウィック構造体23の、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における厚さは略同じであり、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、円形状である。
【0058】
他のウィック構造体23の原料である金属粉の金属種は、特に限定されず、例えば、銅、銅合金等を挙げることができる。また、金属粉の平均一次粒子径は、特に限定されず、例えば、10~300μmを挙げることができる。
【0059】
ヒートパイプ5では、コンテナ10として、複数の細溝18が形成されたグルーブ管が用いられている。従って、一方の端部11では複数の細溝18上に他のウィック構造体23が被覆され、中間部19では複数の細溝18上にウィック構造体13が被覆されている。また、ヒートパイプ5では、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面形状は、扁平加工されておらず、略円形状となっている。
【0060】
ヒートパイプ5では、例えば、一方の端部11が受熱部、他方の端部12が放熱部、中間部19が断熱部として機能する場合、他方の端部12の細溝18が気相の作動流体が液相に相変化することに寄与し、他方の端部12にて気相から液相に相変化した作動流体は、細溝18の有する毛細管力とウィック構造体13の有する毛細管力と他のウィック構造体23の有する毛細管力によって、放熱部(他方の端部12)から受熱部(一方の端部11)へ還流する。ヒートパイプ5では、コンテナ10の一方の端部11では金属粉が焼結された焼結体である他のウィック構造体23が設けられ、中間部19では他のウィック構造体23と連接した金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体13が設けられ、他方の端部12には、その内面に毛細管力を有する細溝18が露出しているので、コンテナ10の長手方向全体にわたって毛細管力を有する。なお、図6(a)に示すように、他のウィック構造体23は、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の平均厚さが、断熱部側から受熱部側にわたって、略同じとなっている。
【0061】
また、粒子状の金属粉が焼結された焼結体である他のウィック構造体23は、液相の作動流体の保持力に優れるので、ヒートパイプ5がトップヒートの姿勢で設置されても、ドライアウトをより確実に防止できる。
【0062】
次に、本発明の第6実施形態例に係るヒートパイプについて、図7を用いながら説明する。なお、第1~第5実施形態例に係るヒートパイプと同じ構成要素については、同じ符号を用いて説明する。図7は、本発明の第6実施形態例に係るヒートパイプの他のウィック構造体の部位の正面断面である。
【0063】
第5実施形態例に係るヒートパイプでは、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、円形状となっていたが、これに代えて、第6実施形態例に係るヒートパイプ6では、空洞部17である蒸気流路の壁面を形成する他のウィック構造体23の表面は凹凸部60を有している。すなわち、他のウィック構造体23の、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面形状は、凹凸部60を有している。凹凸部60における他のウィック構造体23の厚さは、凹部62よりも凸部61の方が厚くなっている。従って、ヒートパイプ6では、他のウィック構造体23表面の面積は、第5実施形態例に係るヒートパイプの他のウィック構造体表面の面積よりも増大した態様となっている。
【0064】
凹凸部60は、コンテナ10の径方向の内周面全体に形成されていてもよく、コンテナ10の径方向の内周面の一部に形成されていてもよい。ヒートパイプ6では、コンテナ10の径方向の内周面全体に、凹凸部60が形成されている。また、他のウィック構造体23のコンテナ10の長手方向について、凹凸部60は、長手方向全体に形成されていてもよく、長手方向の一部に形成されていてもよい。
【0065】
コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における凹凸部60の形状は、特に限定されないが、ヒートパイプ6では、凸部61が円弧状、凹部62も円弧状となっている。従って、ヒートパイプ6では、蒸気流路の壁面に、コンテナ10の内周面に沿って、円弧状に突出した凸部61と円弧状に窪んだ凹部62が形成されている。上記から、他のウィック構造体23の部位における、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、花弁形状となっている。
【0066】
ヒートパイプ6では、第5実施形態例に係るヒートパイプと同様に、一方の端部11が受熱部、他方の端部が放熱部、中間部が断熱部として機能する場合、他方の端部の細溝18が気相の作動流体が液相に相変化することに寄与し、他方の端部にて気相から液相に相変化した作動流体は、細溝18の有する毛細管力と、金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体の有する毛細管力と、他のウィック構造体23の有する毛細管力とによって、放熱部(他方の端部)から受熱部(一方の端部11)へ還流する。ヒートパイプ6でも、第5実施形態例に係るヒートパイプと同様に、コンテナ10の一方の端部11では金属粉が焼結された焼結体である他のウィック構造体23が設けられ、中間部では他のウィック構造体23と連接した金属繊維が焼結された焼結体であるウィック構造体が設けられ、他方の端部には、その内面に毛細管力を有する細溝18が露出しているので、コンテナ10の長手方向全体にわたって毛細管力を有する。
【0067】
また、ヒートパイプ6では、他のウィック構造体23の凹凸部60のうち、凸部61よりも他のウィック構造体23の厚さが薄い凹部62では、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。また、他のウィック構造体23が凹凸部60を有することで、他のウィック構造体23表面の面積が増大、すなわち、液相の作動流体の蒸発面積が増大して、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。さらに、凹部62よりも他のウィック構造体23の厚さが厚い凸部61では、液相の作動流体に対して優れた還流特性を発揮する。従って、ヒートパイプ6では、優れた最大熱輸送量を有しつつ、さらに熱抵抗を抑制できるので、優れた熱輸送特性を発揮することができる。
【0068】
次に、本発明の第7実施形態例に係るヒートパイプについて、図8を用いながら説明する。なお、第1~第6実施形態例に係るヒートパイプと同じ構成要素については、同じ符号を用いて説明する。図8は、本発明の第7実施形態例に係るヒートパイプの他のウィック構造体の部位の正面断面である。
【0069】
第6実施形態例に係るヒートパイプでは、他のウィック構造体の凸部が円弧状、凹部も円弧状であり、他のウィック構造体の部位における、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、花弁形状となっていたが、図8に示すように、第7実施形態例に係るヒートパイプ7では、他のウィック構造体23の部位における、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路(空洞部17)の形状は、星形形状となっている。ヒートパイプ7では、コンテナ10の長手方向に対して直交方向の断面における凹凸部60の凸部61の形状がV字状、凹部62の形状もV字状となっている。
【0070】
ヒートパイプ7でも、第6実施形態例に係るヒートパイプと同様に、他のウィック構造体23の凹凸部60のうち、凸部61よりも他のウィック構造体23の厚さが薄い凹部62では、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。また、他のウィック構造体23が凹凸部60を有することで、他のウィック構造体23表面の面積が増大して、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。さらに、凹部62よりも他のウィック構造体23の厚さが厚い凸部61では、液相の作動流体に対して優れた還流特性を発揮する。従って、ヒートパイプ7でも、第6実施形態例に係るヒートパイプと同様に、優れた最大熱輸送量を有しつつ、さらに熱抵抗を抑制できるので、優れた熱輸送特性を発揮することができる。
【0071】
次に、本発明のヒートパイプの製造方法例について説明する。ここでは、上記第1実施形態例に係るヒートパイプの製造方法例を説明する。前記製造方法は、特に限定されず、例えば、径方向の断面形状が略円形状である管材の長手方向の一方の端部から、所定形状の芯棒(例えば、ステンレス製の芯棒)を挿入する。管材の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に、ウィック構造体の原料である金属繊維を充填する。次に、金属繊維が充填された管材を還元雰囲気下にて加熱処理して金属繊維を焼結させることでウィック構造体を作製し、芯棒を管材から抜く。次に、一方の封入口を残してコンテナ(管材)の一方の端部を封止し、上記封入口から作動流体を注入した後、コンテナ内部を、加熱脱気、真空脱気等の脱気処理をして減圧状態とする。その後、封入口を封止することでヒートパイプを製造することができる。
【0072】
なお、管材の内面は、金属繊維を充填する前に、必要に応じて、洗浄処理をしてもよい。管材の内面を洗浄することで、汚染等による熱伝導特性の低下を防止できる。洗浄方法には、例えば、溶剤脱脂、電解脱脂、エッチング、酸化処理等を挙げることができる。また、封止の方法は、特に限定されず、例えば、TIG溶接、抵抗溶接、圧接、はんだ等を挙げることができる。
【0073】
次に、本発明の他の実施形態例に係るヒートパイプについて、説明する。上記実施形態例では、ヒートパイプのコンテナは管形状であったが、コンテナの形状は、特に限定されず、これに代えて、例えば、平面形状、すなわち、平面型ヒートパイプでもよい。この場合、一対の板状部材を重ね合わせることでコンテナを形成することができる。
【0074】
また、上記第1実施形態例では、コンテナの長手方向を形成する内周面全体が、ウィック構造体によって被覆されていたが、これに代えて、コンテナの長手方向を形成する内周面の一部がウィック構造体によって被覆され、他の部分ではコンテナの内面が露出していてもよい。
【0075】
また、上記第6実施形態例では、他のウィック構造体の部位における、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、花弁形状であり、上記第7実施形態例では、他のウィック構造体の部位における、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、星形形状であった。しかし、前記蒸気流路の形状は、特に限定されず、上記形状に代えて、例えば、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における、他のウィック構造体の凹凸部の凹部と凸部がともに台形である歯車形状でもよい。また、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における、前記蒸気流路の形状は、三角形状、四角形状、五角形状等の多角形状でもよい。
【0076】
また、上記第5~第7実施形態例では、他のウィック構造体の、コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、断熱部(中間部)側から受熱部(一方の端部)側にわたって、略同じであったが、これに代えて、他のウィック構造体の、コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、断熱部(中間部)から受熱部(一方の端部)の方向へ向かうにつれて薄くなっている態様でもよい。すなわち、他のウィック構造体の、コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、ウィック構造体と連接した端部である他のウィック構造体の連接一端から該連接一端と対向した他のウィック構造体の他端の方向へ向かうにつれて薄くなっている態様でもよい。
【0077】
また、上記第1~第3実施形態例では、金属繊維の焼結体であるウィック構造体がコンテナの一方の端部から他方の端部まで延在していたが、これに代えて、金属繊維の焼結体であるウィック構造体の一部を、粒子状の金属粉が焼結された焼結体である他のウィック構造体としてもよい。この場合、ウィック構造体は他のウィック構造体と連接しており、ウィック構造体と他のウィック構造体とからなるウィック部が、コンテナの一方の端部から他方の端部まで延在している。
【0078】
また、ウィック構造体と他のウィック構造体とからなるウィック部が、コンテナの一方の端部から他方の端部まで延在している上記態様では、他のウィック構造体の、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における厚さは略同じであり、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、円形状となっていてもよい。また、他のウィック構造体の、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面形状は、凹凸部を有していてもよい。この場合、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における他のウィック構造体の厚さは、凹部よりも凸部の方が厚くなっており、蒸気流路の壁面を形成する他のウィック構造体の表面が凹凸部を有している。凹凸部を有している他のウィック構造体表面の面積は、平均厚さが略同じである他のウィック構造体表面の面積よりも増大した態様となっている。
【0079】
ウィック部がコンテナの一方の端部から他方の端部まで延在している態様でも、凹凸部は、コンテナの径方向の内周面全体に形成されていてもよく、コンテナの径方向の内周面の一部に形成されていてもよい。また、他のウィック構造体のコンテナの長手方向について、凹凸部は、長手方向全体に形成されていてもよく、長手方向の一部に形成されていてもよい。
【0080】
ウィック部がコンテナの一方の端部から他方の端部まで延在している態様でも、他のウィック構造体の部位における、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、特に限定されないが、例えば、花弁形状、星形形状、歯車形状等の凹凸部を有する形状を挙げることができる。また、他のウィック構造体の部位における、コンテナの長手方向に対して直交方向の断面における蒸気流路の形状は、三角形状、四角形状、五角形状等の多角形状でもよい。
【0081】
他のウィック構造体は、例えば、受熱部として機能する部位に設けることができる。この態様では、トップヒートの姿勢で設置されても、ウィック部が優れた毛細管力を発揮し、優れた最大熱輸送量を有している。
【0082】
ウィック部がコンテナの一方の端部から他方の端部まで延在している態様でも、他のウィック構造体の凹凸部のうち、凸部よりも他のウィック構造体の厚さが薄い凹部では、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。また、他のウィック構造体が凹凸部を有することで、他のウィック構造体表面の面積が増大して、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。さらに、凹部よりも他のウィック構造体の厚さが厚い凸部では、液相の作動流体に対して優れた還流特性を発揮する。従って、ウィック部がコンテナの一方の端部から他方の端部まで延在しているヒートパイプでも、優れた最大熱輸送量を有しつつ、さらに熱抵抗を抑制できるので、優れた熱輸送特性を発揮することができる。
【0083】
また、蒸気流路の形状が、三角形状、四角形状、五角形状等の多角形状でも、他のウィック構造体の厚さが厚い部位と薄い部位とが形成されるので、他のウィック構造体表面の面積が増大して、液相の作動流体が気相へ相変化することが促進される。さらに、他のウィック構造体の厚さが厚い部位では、液相の作動流体に対して優れた還流特性を発揮する。
【0084】
また、ウィック部がコンテナの一方の端部から他方の端部まで延在している態様では、他のウィック構造体は、コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、他方の端部側から一方の端部側にわたって、略同じでもよい。また、コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、他方の端部から一方の端部の方向へ向かうにつれて薄くなっていてもよい。すなわち、他のウィック構造体の、コンテナの長手方向に対して直交方向の平均厚さが、ウィック構造体と連接した端部である他のウィック構造体の連接一端から該連接一端と対向した他のウィック構造体の他端の方向へ向かうにつれて薄くなっている態様でもよい。
【実施例
【0085】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0086】
実施例のヒートパイプ
ヒートパイプとして、図1、2に示す本発明の第1実施形態例に係る態様のヒートパイプを用いた。ヒートパイプの径方向の断面は円形であり、ヒートパイプの長さ300mm、直径10mm、ウィック構造体の平均厚さ1.7mmとした。ウィック構造体は、銅製コンテナの長手方向を形成する内周面全体に設けた。ウィック構造体を構成する金属繊維は、銅の繊維であり、繊維長0.9mm×繊維径30μm、繊維長1.4mm×繊維径30μmの2種とした。
【0087】
比較例のヒートパイプ
金属繊維の寸法を、繊維長0.4mm×繊維径30μm、繊維長1.9mm×繊維径30μm、繊維長2.9mm×繊維径30μmとした以外は、実施例と同様にした。
【0088】
参考例のヒートパイプ
金属繊維に代えて、平均粒子径0.1mmの銅粉を焼結して、銅粉の焼結体からなるウィック構造体を作製した。
【0089】
ヒートパイプの一方の端部に発熱体(発熱量30W~150W)を装着して蒸発部、他方の端部に熱交換手段を装着して凝縮部、蒸発部と凝縮部の間に断熱材を装着して断熱部とし、水平方向に対して22°の傾斜にて蒸発部側が凝縮部側よりも高い位置となるように設置した。この使用条件で、下記のように、最大熱輸送量(Qmax)と熱抵抗を測定した。
【0090】
空隙率(%)
コンテナとなる銅管に収容する金属繊維の質量を測定し、該銅管と芯棒の大きさから金属繊維の焼結体の体積を算出し、金属繊維の質量と金属繊維の焼結体の体積を用いて充填率を算出し、(100-充填率)から空隙率を算出した。
【0091】
(1)最大熱輸送量(Qmax)(W)
入熱量を30Wから10Wずつ増加させていき、蒸発部の温度が非定常となる直前の入熱量の大きさを最大熱輸送量とした。
評価
参考例のヒートパイプに対して優れた最大熱輸送量が得られた:○
参考例のヒートパイプに対して最大熱輸送量が低下した:×
(2)熱抵抗(℃/W)
入熱量が最大熱輸送量のときにおける、蒸発部の温度と断熱部の温度の差を入熱量で割った値を蒸発部の熱抵抗、凝縮部の温度と断熱部の温度の差を入熱量で割った値を凝縮部の熱抵抗、蒸発部の温度と凝縮部の温度の差を入熱量で割った値をヒートパイプ全体の熱抵抗とした。
評価
参考例のヒートパイプに対して、ヒートパイプ全体の熱抵抗が低減した:○
参考例のヒートパイプに対して、ヒートパイプ全体の熱抵抗が増大した:×
【0092】
測定結果の実測値を下記表1、表1の実測値に基づく評価結果を下記表2、測定結果の実測値のグラフを図9に、それぞれ示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1、2及び図9の結果から、金属繊維径30μm×金属繊維長0.9mmである実施例1、金属繊維径30μm×金属繊維長1.4mmである実施例2では、優れた最大熱輸送量を有し、且つ熱抵抗を抑制できたので、優れた熱輸送特性を発揮できることが判明した。一方で、金属繊維径30μm×金属繊維長0.4mmである比較例1では、最大熱輸送量が低下し、金属繊維径30μm×金属繊維長1.9mmである比較例2、金属繊維径30μm×金属繊維長2.9mmである比較例3では、熱抵抗を抑制することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のヒートパイプは、トップヒートの姿勢で設置されても、良好な最大熱輸送量を有し、さらに熱抵抗を抑制でき、結果、優れた熱輸送特性を発揮するので、例えば、電気・電子機器に搭載されている半導体素子等の電子部品の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1、2、3、4、5、6、7 ヒートパイプ
10 コンテナ
13 ウィック構造体
23 他のウィック構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9