IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本水産株式会社の特許一覧 ▶ 持田製薬株式会社の特許一覧

特許7190013エイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】エイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11C 3/00 20060101AFI20221207BHJP
   C11C 3/10 20060101ALI20221207BHJP
   C07C 69/587 20060101ALI20221207BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20221207BHJP
   C07C 67/54 20060101ALI20221207BHJP
   C07C 67/56 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 31/232 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C11C3/00
C11C3/10
C07C69/587
C07C67/08
C07C67/54
C07C67/56
A61P9/10
A61P37/08
A61P29/00
A61P35/00
A61K31/232
A61P3/00
A61P7/02
A61P9/10 101
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021158734
(22)【出願日】2021-09-29
(62)【分割の表示】P 2019231068の分割
【原出願日】2015-09-17
(65)【公開番号】P2022008611
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2014188997
(32)【優先日】2014-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】土居崎 信滋
(72)【発明者】
【氏名】荒砥 真吾
(72)【発明者】
【氏名】深江 拓朗
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054435(WO,A1)
【文献】特開平05-222392(JP,A)
【文献】特表2014-510165(JP,A)
【文献】特開2001-303089(JP,A)
【文献】特許第6664328(JP,B2)
【文献】特許第6953504(JP,B2)
【文献】特表2013-516398(JP,A)
【文献】特開平11-080083(JP,A)
【文献】特開平08-100191(JP,A)
【文献】特開平04-041457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00- 15/00
C11C 1/00- 5/02
A61K31/00- 31/327
A61P 1/00- 43/00
C07B31/00- 63/04
C07C 1/00-409/11
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを96~98面積%含有し、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計1.417面積%以上、2.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。
【請求項2】
エイコサペンタエン酸アルキルエステルの5位、14位、及び17位二重結合のうちのいずれか一つがトランス型である、モノトランス体の含有量がそれぞれ0.5面積%以下である請求項1の組成物。
【請求項3】
エイコサペンタエン酸アルキルエステルの11位の二重結合がトランス型である、モノトランス体の含有量が1.0面積%以下である請求項1または2の組成物。
【請求項4】
ガスクロマトグラフィーを用いて下記分析条件により測定した場合に、エイコサペンタエン酸エチルを96~98面積%含有し、
エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が1.417面積%以上、2.5面積%以下である組成物。
[ガスクロマトグラフィー分析条件:GC-FID測定条件]
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム: DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス: ヘリウム, 0.5 mL/min
注入口: 300 oC, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器: FID, 300 oC
メークアップガス:窒素 40mL/min.
【請求項5】
エイコサテトラエン酸アルキルエステルの含有量が、0.7面積%以下である請求項1~請求項いずれか1項の組成物。
【請求項6】
オクタデカテトラエン酸アルキルエステルの含有量が、0.4面積%以下である請求項1~請求項いずれか1項の組成物。
【請求項7】
ノナデカペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、0.2面積%以下である請求項1~請求項いずれか1項の組成物。
【請求項8】
エイコサペンタエン酸アルキルエステルが、エイコサペンタエン酸エチル又はエイコサペンタエン酸メチルである請求項1~請求項いずれか1項の組成物。
【請求項9】
n-ノナデカン酸(C19:0)アルキルエステルの含有量が0.1面積%以下である、請求項1~請求項いずれか1項の組成物。
【請求項10】
アラキジン酸(C20:0)アルキルエステルの含有量が0.2面積%以下である、請求項1~請求項いずれか1項の組成物。
【請求項11】
飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量が0.5面積%以下である請求項1~請求項10いずれか1項の組成物。
【請求項12】
イコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17))アルキルエステルの含有量が0.2面積%以下である、請求項1~請求項11いずれか1項の組成物。
【請求項13】
ヘンイコサペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、0.2面積%以下である請求項1~請求項12いずれか1項の組成物。
【請求項14】
ジホモ-γ-リノレン酸アルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下である、請求項1~請求項13いずれか1項の組成物。
【請求項15】
炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下である、請求項1~請求項14いずれか1項の組成物。
【請求項16】
請求項1~請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物を有効成分として含有する、医薬組成物。
【請求項17】
更に、医薬的に許容可能な添加成分を含む請求項16の医薬組成物。
【請求項18】
動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤である請求項17又は請求項17の医薬組成物。
【請求項19】
エイコサペンタエン酸を含有する原料油をエチルエステル化したのち、蒸留及びクロマトグラフィーを行うことによって、高濃度エイコサペンタエン酸エチルを製造する方法において、蒸留を、0.2 Torr以下の真空度及び全塔190℃以下の温度での精密蒸留を行うことにより行い、アラキドン酸エチルを低減させ、かつ、熱によるトランス体の生成を抑える、高濃度エイコサペンタエン酸エチル含有組成物の製造方法であって、
前記組成物は、請求項1~請求項15いずれか1項の組成物である、前記方法
【請求項20】
エイコサペンタエン酸を含有する原料油をアルキルエステル化することにより得られたエイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物に対して、0.2 Torr以下の真空度、及び、全塔190℃以下の温度で、精密蒸留を行うこと、
精密蒸留後の組成物に対して、クロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、
を含む高濃度エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法であって、
前記組成物は、請求項1~請求項15いずれか1項の組成物である、前記方法
【請求項21】
アルキルエステル化が、炭素数1又は炭素数2の低級アルコールを用いて行われる請求項20の方法。
【請求項22】
精密蒸留が、2塔以上の蒸留塔を用いた連続精密蒸留である請求項19~請求項21いずれか1項の方法。
【請求項23】
クロマトグラフィーが、逆相クロマトグラフィーである請求項19~請求項22いずれか1項の方法。
【請求項24】
原料油が、水産物原料由来の油脂である請求項19~請求項23いずれか1項の方法。
【請求項25】
請求項1~請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、食品の製造における使用。
【請求項26】
請求項1~請求項15いずれか1項のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、医薬組成物の製造における使用。
【請求項27】
医薬組成物が、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤である請求項26の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ω3脂肪酸の1つであるエイコサペンタエン酸(EPA;(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-イコサ- 5,8,11,14,17-ペンタエン酸;本明細書中で単に「エイコサペンタエン酸」又は「EPA」と
表記した場合はこの物質を意味する。)は、抗動脈硬化作用、血小板凝集抑制作用、血中脂質低下作用などを示す成分として知られている。エイコサペンタエン酸のエステル体のひとつであるエイコサペンタエン酸エチル(「EPA-E」、「イコサペント酸エチル」とも
記載される)は、健康食品、スイッチOTC、医薬品などとして販売されている。
【0003】
このようなEPAの優れた機能性から、EPA又はEPA-Eの製造方法も多く報告されている。
例えば、天然油脂から得られる混合物を、高真空下で3塔以上の蒸留塔によって精密蒸留して実質的に炭素数20の脂肪酸又はそのエステルのみの留分を取得し、さらなる精製によって高純度のEPA又はエステル体が得られることが知られている(特開平5-2223
92号公報、参照)。
【0004】
一方、精製EPA-Eには、原料の魚油に由来するEPA以外の脂肪酸のエチルエステル、精製過程において生成する不純物などが混在することが知られている。原料の魚油由来のEPA
以外の脂肪酸としては、例えば、ω6脂肪酸に分類され、心血管イベントに対して好ましくない物質とされるアラキドン酸、飽和脂肪酸がある。精製過程で生成する不純物としては、精製過程における熱変性により生じる、EPAの5つのシス型二重結合がトランス型に
一部異性化した脂肪酸が知られている(例えば、European Journal of Lipid Science and Technology, 108 (2006) 589-597. “Geometrical isomerization of eicosapentaenoic and docosahexaenoic acid at high temperatures”; JAOCS, 66 (1989) 1822-1830. “Eicosapentaenoic acid geometrical isomer artifacts in heated fish oil esters"
)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エイコサペンタエン酸エチルのようなエイコサペンタエン酸アルキルエステルを高純度で含有し、かつ不純物の含有量がより少ない組成物を効率的に得るための、さらなる技術の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、不純物含有量を低減させた、エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物、及びその製造方法、並びにエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の各種用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題について鋭意検討した結果、エイコサペンタエン酸エチルの精製過程において、エイコサペンタエン酸エチルと極めて類似する構造を有し、エイコサペンタエン酸エチルと分離困難な不純物が生じること、これらの不純物の含有量を低減させ、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを高純度で含有する組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。不純物としては、例えば、エイコサペンタエン酸エチルと同じ炭素数を有するアラキドン酸(C20:4n-6)のエチルエステル、エイコサペンタエン
酸エチルと類似構造を有するその他の不純物(C20:0、C20:4n-3、C20:5n-3(5,9,11,14,17)、C18:3n-3、C18:4n-3、C19:0、C19:5n-3、C21:5n-3、C22:6n-3の各エチルエステル)、エイコサペンタエン酸エチルのモノトランス異性体が、本発明者らの研究により判明している。
【0008】
すなわち、本発明の態様には、これらに限定されるわけではないが、以下の発明が含まれる。
[1] ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを96~99面積%含有し、アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.7面積%
以下であり、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体の含有量が2.5面
積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。
[2] エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体及びジトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下である[1]の組成物。
[3] エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体及びトリトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下である[1]の組成物。
[4] エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下である[1]の組成物。
[5] エイコサペンタエン酸アルキルエステルの5位、14位、及び17位の二重結合の
うちのいずれか一つがトランス型である、モノトランス体の含有量がそれぞれ0.5面積%
以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下である[1]~[4]いずれか1の組成物。
[6] エイコサペンタエン酸アルキルエステルの11位の二重結合がトランス型である、モノトランス体の含有量が1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下、0.6面積%以下、0.4面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下である[1]~[5]いずれ
か1の組成物。
[7] ガスクロマトグラフィーを用いて下記分析条件により測定した場合に、エイコサペンタエン酸エチルを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%
以下であり、エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が2.5面
積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下である組成物。
[ガスクロマトグラフィー分析条件:GC-FID測定条件]
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム: DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス: ヘリウム, 0.5 mL/min
注入口: 300 oC, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器: FID, 300 oC
メークアップガス:窒素 40mL/min.
[8] アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.1面積%以下又は0.05面積%以下
である[1]~[7]いずれか1の組成物。
[9] エイコサテトラエン酸アルキルエステルの含有量が、0.7面積%以下、0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下である[1]~[8]いずれか1の組成物。
[10] オクタデカテトラエン酸アルキルエステルの含有量が、0.4面積%以下、0.3
面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下である[1]~[9]いずれか1の組成物。
[11] ノナデカペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、0.2面積%以下、0.15
面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.049面積%以下、又は0.02面積%以下である[1]~[10]いずれか1の組成物。
[12] エイコサペンタエン酸アルキルエステルが、エイコサペンタエン酸エチル又はエイコサペンタエン酸メチルである[1]~[11]いずれか1の組成物。
[13] n-ノナデカン酸(C19:0)アルキルエステルの含有量が0.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下である、[1]~[12]いずれか1の組成物。
[14] アラキジン酸(C20:0)アルキルエステルの含有量が0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下である、[1]~[1
3]いずれか1の組成物。
[15] 飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量が0.5面積%以下、0.3面積%以下、又は0.1面積%以下である[1]~[14]いずれか1の組成物。
[16] イコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17))アルキル
エステルの含有量が0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下である、[1]~[15]いずれか1の組成物。
[17] ヘンイコサペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.03面積%以下、又は0.02面積%以下である[1]~[16]いずれか1の組成物。
[18] エイコサペンタエン酸アルキルエステルの含有量が、96~98面積%である、[1]~[17]いずれか1の組成物。
[19] ジホモ-γ-リノレン酸アルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下である、[1]~[18]いずれか1の組成物。
[20] 炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下である、[1]~[19]いずれか1の組成物。
[21] [1]~[20]いずれか1のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物を有効成分として含有する、医薬組成物。
[22] 更に、医薬的に許容可能な添加成分を含む[21]の医薬組成物。
[23] 動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤である[21]又は[22]の医薬組成物。
[24] エイコサペンタエン酸を含有する原料油をエチルエステル化したのち、蒸留及びクロマトグラフィーを行うことによって、高濃度エイコサペンタエン酸エチルを製造する方法において、蒸留を、0.2 Torr以下の真空度及び全塔190℃以下の温度での精密蒸
留を行うことにより行い、アラキドン酸エチルを低減させ、かつ、熱によるトランス体の生成を抑える、高濃度エイコサペンタエン酸エチルの製造方法。
[25] エイコサペンタエン酸を含有する原料油をアルキルエステル化することにより得られたエイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物に対して、0.2 Torr以下の真空度、及び、全塔190℃以下の温度で、精密蒸留を行うこと、精密蒸留後の組成
物に対してクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、を含む高濃度エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法。
[26] アルキルエステル化が、炭素数1又は炭素数2の低級アルコールを用いて行われる[25]の方法。
[27] 精密蒸留及びクロマトグラフィーの実施により、[1]~[20]いずれか1のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物が得られ得る[24]~[26]いずれか1の方法。
[28] 精密蒸留が、2塔以上の蒸留塔を用いた連続精密蒸留である[24]~[27]いずれか1の方法。
[29] クロマトグラフィーが、逆相クロマトグラフィーである[24]~[28]いずれか1の方法。
[30] 原料油が、水産物原料由来の油脂である[24]~[29]いずれか1の方法。
[31] [1]~[20]いずれか1のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、食品の製造における使用。
[32] [1]~[20]いずれか1のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、医薬組成物の製造における使用。
[33] 医薬組成物が、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤である[32]の使用。
[34] [1]~[20]いずれか1のエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患の治療又は予防剤の有効成分としての使用。
[35] [21]~[23]いずれか1の医薬組成物を、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患に罹患している又は罹患する危険性のある対象者に投与することを含む、疾患の予防、治療又は寛解方法。
【0009】
また、本発明の態様には、これらに限定されるわけではないが、以下の発明も含まれる。
(1)ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、エイコサペンタエン酸エチルを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%以下であり、エイコサ
ペンタエン酸エチルのモノトランス体の含有量が2.5面積%以下である組成物。
(2)エイコサペンタエン酸エチルのモノトランス体及びジトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下である(1)の組成物。
(3)エイコサペンタエン酸エチルのモノトランス体、ジトランス体及びトリトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下である(1)の組成物。
(4)エイコサペンタエン酸エチルのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下である(1)の組成物。
(5)エイコサペンタエン酸エチルの5位、14位、17位の二重結合のうちのいずれか一つ
がトランス型である、モノトランス体の含有量がそれぞれ0.5面積%以下である(1)な
いし(4)いずれかの組成物。
(6)エイコサペンタエン酸エチルの11位の二重結合がトランス型である、モノトランス体の含有量が1.0面積%以下である(1)ないし(5)いずれかの組成物。
(7)ガスクロマトグラフィーを用いて下記分析条件により測定した場合に、エイコサペンタエン酸エチルを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%
以下であり、エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が2.5面
積%以下である組成物。
[ガスクロマトグラフィー分析条件:GC-FID測定条件]
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム: DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス: ヘリウム, 0.5 mL/min
注入口: 300℃, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器: FID, 300℃
メークアップガス:窒素40mL/min.
(8)n-ノナデカン酸(C19:0)エチルエステルの含有量が0.1面積%以下である、(1)ないし(7)いずれかの組成物。
(9)アラキジン酸(C20:0)エチルエステルの含有量が0.2面積%以下である、(1)ないし(8)いずれかの組成物。
(10)飽和脂肪酸のエチルエステルの含有量が0.5面積%以下である(1)ないし(9
)いずれかの組成物。
(11)イコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17))エチルエステ
ルの含有量が0.2面積%以下である、(1)ないし(10)いずれかの組成物。
(12)エイコサペンタエン酸エチルの含有量が、96~98面積%である、(1)ないし(11)いずれかの組成物。
(13)(1)ないし(12)いずれかの組成物を有効成分として含有する、医薬組成物。
(14)エイコサペンタエン酸含有する原料油をエチルエステル化したのち、蒸留工程及びクロマトグラフィー工程によって、エイコサペンタエン酸エチルを精製する方法おいて、蒸留工程を、真空度0.2Torr以下、全塔190℃以下の温度で精密蒸留を行うことにより行い、アラキドン酸エチルを低減させ、かつ、熱によるトランス体の生成を抑えることを特徴とする高濃度エイコサペンタエン酸エチルの製造方法。
(15)精密蒸留が、2塔以上の蒸留塔を用いた連続精密蒸留である(14)の方法。
(16)クロマトグラフィー工程が、逆相クロマトグラフィー工程である(14)又は(15)の方法。
(17)エイコサペンタエン酸エチルを96面積%以上、96~99面積%、または96~98面積%、及びアラキドン酸エチルを0.7面積%以下、0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、または0.1面積%以下含有する組成物。
(18)ガスクロマトグラフィーにより上記分析条件により測定した場合のエイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、又は1.062のピークとして現れる物質のそれぞれの含有量が0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、または0.1面積%以下である(17)の組成物。
(19)ガスクロマトグラフィーにより上記分析条件により測定した場合のエイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約1.077のピークとして
現れる物質の含有量が1.0面積%以下、0.8面積%以下、0.6面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、または0.1面積%以下である(17)又は(18)の組
成物。
(20)α-リノレン酸(C18:3n-3)エチルエステルの含有量が0.2面積%以下である(
17)ないし(19)いずれかの組成物。
(21)エイコサペンタエン酸エチルを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.2面積%以下、エイコサペンタエン酸エチルのモノトランス体、ジトランス体、ト
リトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が2.5面積%以下である組成物。
(22)さらに飽和脂肪酸のエチルエステルの含有量が0.5面積%以下である(21)の
組成物。
(23)さらにイコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17))エチル
エステルの含有量が0.2面積%以下である(21)又は(22)の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、エイコサペンタエン酸アルキルエステルと類似構造を有するアラキドン酸アルキルエステル、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体の含有量が低減され、かつエイコサペンタエン酸アルキルエステルを高純度で含有する組成物を製造できることを見出した。本発明の一実施形態における組成物は、工業的スケールにおいても製造可能なことから、安全性を有しつつ大量生産が必要とされる、健康食品、医薬品などとして用いることができる点で有利である。
【0011】
代表的なω6系脂肪酸であるアラキドン酸の含有量を極力低下させることは、エイコサペンタエン酸アルキルエステルの機能と反する機能を有する脂肪酸をできるだけ低下させることである。このため、アラキドン酸の含有量を極力低下させた場合には、エイコサペンタエン酸アルキルエステルの機能を効果的に発揮できる。
【0012】
一般に、アラキドン酸等を蒸留で低減させようとすると熱変性物であるトランス異性体が増加してしまうという関係が知られている。本発明の一実施形態による方法では、エイコサペンタエン酸とこのような関係にあるアラキドン酸及びエイコサペンタエン酸のトランス異性体をいずれも、従来よりも低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り、0%即ち「含有しない」場合を含み、又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。
【0015】
本明細書において、同一の対象について言及された1若しくは複数の上限値のみを規定する数値範囲と1若しくは複数の下限値のみを規定する数値範囲とが記載されている場合、特に断らない限り、1又は複数の上限値から任意に選択された上限値と、1又は複数の下限値から任意に選択された下限値とを組み合わせて成立する数値範囲も、本発明の一形態に含まれる。
【0016】
「油」又は「油脂」とは、本明細書では、トリグリセリドのみのものだけでなく、トリグリセリドを主成分とし、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、コレステロール、遊離脂肪酸等の他の脂質が含まれている粗油も含む。「油」又は「油脂」は、これらの脂質を含む組成物を意味する。
【0017】
用語「脂肪酸」には、遊離の飽和若しくは不飽和脂肪酸それら自体だけでなく、遊離の飽和若しくは不飽和脂肪酸、飽和若しくは不飽和脂肪酸アルコールエステル、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、ステリルエステル等中に含まれる構成単位としての脂肪酸も含まれ、構成脂肪酸とも言い換えられ得る。本明細書において、特に断らない限り、脂肪酸を含む化合物の形態については省略する場合がある。脂肪酸を含む化合物の形態としては、遊離脂肪酸形態、脂肪酸アルコールエステル形態、グリセロールエステル形態、リン脂質の形態、ステリルエステル形態等を挙げることができる。同一の脂肪酸を含む化合物は、油中、単一の形態で含まれていてもよく、2つ以上の形態の混合物として含まれていてもよい。
【0018】
脂肪酸を表記する際に、炭素数、二重結合の数及び二重結合の場所を、それぞれ数字とアルファベットを用いて簡略的に表した数値表現を用いることがある。例えば、炭素数20の飽和脂肪酸は「C20:0」と表記され、炭素数18の一価不飽和脂肪酸は「C18:1」等と表記され、アラキドン酸は「C20:4,n-6」等と表記され得る。「n-」は、脂肪酸のメチル末端から数えた二重結合の位置を示し、例えば「n-6」であれば、二重結合の位置が脂肪酸のメチル末端から数えて6番目であることを示す。この方法は当業者には周知であり、この方法に従って表記された脂肪酸については、当業者であれば容易に特定することができる。
【0019】
本明細書において「粗油」とは、上述した脂質の混合物であって、生物から抽出された状態の油を意味する。本明細書において「精製油」とは、粗油に対して、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、及び脱臭工程からなる群より選択される少なくとも1つの油脂の精製工程を行い、リン脂質及びステロールなどの目的物以外の物質を除去する粗油精製処理を行った油を意味する。
【0020】
<組成物>
組成
本発明の一実施形態における組成物は、下記の含有量のエイコサペンタエン酸エチル(EPA-E)のようなエイコサペンタエン酸アルキルエステル(以下、EPAアルキルエステルと称する。)を含有し、下記の含有量の1種又は2種以上の後述するその他の成分、即ち、不純物を含有し得る。
【0021】
即ち、本発明の一形態における組成物は、ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを96~99面積%含有し、アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.7面積%以下であり、エイコサペンタエン酸アルキルエステルの
モノトランス体の含有量が2.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル
含有組成物である。
【0022】
本発明の一実施形態における組成物には、EPAアルキルエステルが96~99面積%含まれ
、好ましくは96~98面積%含まれる。EPAアルキルエステルの含有量が96面積%以上であ
るので、医薬用途のように高純度のEPAアルキルエステルを必要とする場合に好ましく用
いられる。EPAアルキルエステルの含有量が99面積%以下であるので、高濃度にEPAアルキルエステルを含有しつつ、濃縮工程におけるEPAアルキルエステルの歩留りを良好な範囲
に維持でき、工業的に合理的と考えることができる。
【0023】
EPAアルキルエステルにおけるアルキル基は、脂肪酸のアルキルエステル化に一般的に
用いられる低級アルコールに由来するアルキル基である。EPAアルキルエステルにおける
アルキル基としては、好ましくは、炭素数1又は炭素数2のアルキル基を挙げることができ、メチル基及びエチル基が挙げられる。EPAアルキルエステルとしては、EPAエチル(EPA-E)及びEPAメチル(EPA-M)が挙げられる。
【0024】
本発明の一実施形態における組成物に含まれ得る不純物としての異性体には、EPAアル
キルエステルが有する5つのシス体の二重結合の1つがトランス体に変換されたモノトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物におけるこのモノトランス体の含有量は、2.5面積%以下であり、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下とすることができる。モノトランス体の含有量がより少なくなる
場合には、本発明の一実施形態における組成物は、より高濃度にEPAアルキルエステルを
含有し、EPAアルキルエステルの機能性をより効果的に発揮できる。
【0025】
他の不純物としての異性体には、EPAアルキルエステルが有する5つのシス体の二重結
合の2つがトランス体に変換されたジトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物におけるこのモノトランス体及びジトランス体の含有量の合計が、2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下とす
ることができる。
【0026】
モノトランス体及びジトランス体の含有量の合計がより少なくなる場合には、本発明の一実施形態における組成物は、より高濃度にEPAアルキルエステルを含有し、EPAアルキルエステルの機能性をより効果的に発揮できる。
【0027】
更に他の不純物としての異性体には、EPAアルキルエステルが有する5つのシス体の二
重結合の3つがトランス体に変換されたトリトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物は、これらのモノトランス体、ジトランス体及びトリトランス体の含有量の合計が、2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下とすることができる。
【0028】
更に他の不純物としての異性体には、EPA-アルキルエステルが有する5つのシス体の二重結合の4つがトランス体に変換されたテトラトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物は、これらのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計が、2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%
以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下とすることができる。
【0029】
上述のように、モノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体のうちの2つ以上の含有量の合計がより少なくなる場合には、本発明の一実施形態における組成物は、より高濃度にEPAアルキルエステルを含有し、EPAアルキルエステルの機能性をより効果的に発揮できる。
【0030】
本発明の一実施形態における組成物における不純物としての異性体には、例えば、EPA-Eが有する5つのシス体の二重結合の1つがトランス体に変換されたモノトランス体を挙
げることができる。本発明の一実施形態における組成物に含まれ得るこのモノトランス体の含有量は、2.5面積%以下であり、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であることができる。
【0031】
他の不純物としての異性体には、例えば、EPA-Eが有する5つのシス体の二重結合の2
つがトランス体に変換されたジトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物に含まれ得るこのモノトランス体及びジトランス体の含有量の合計は、2.5
面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であることができる。
【0032】
更に他の不純物としての異性体には、例えば、EPA-Eが有する5つのシス体の二重結合
の3つがトランス体に変換されたトリトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物に含まれ得るこれらのモノトランス体、ジトランス体及びトリトランス体の含有量の合計は、2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であることができる。
【0033】
更に他の不純物としての異性体には、例えば、EPA-Eが有する5つのシス体の二重結合
の4つがトランス体に変換されたテトラトランス体を挙げることができる。本発明の一実施形態における組成物に含まれ得るこれらのモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計は、2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積
%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であることができる。
【0034】
本発明の一実施形態における組成物は、上述したようなモノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体の含有量の合計は、1.417面積%以上とすること
ができる。組成物が、モノトランス体、ジトランス体、トリトランス体及びテトラトランス体を特定量以上含む場合、これらの異性体の含有量に応じて、EPAと構造の異なる他の
脂肪酸の含有量が低い傾向がある。組成物がこれらの異性体を特定以上含む場合には、EPAから分離がしにくい他の脂肪酸、特にアラキドン酸アルキルエステルの含有量が低い傾
向があり、組成物におけるEPAアルキルエステルと分離しにくい傾向にある他の脂肪酸ア
ルキルエステルとの含有量バランスがより良好であり、また生産性も向上する傾向がある
【0035】
EPAアルキルエステルのシス体の二重結合は、蒸留時に熱が加わると、最初に一つの二
重結合がトランス体になり、更に熱が加わると、ジ、トリ、テトラトランス体が生じる。したがって、モノトランス体の生成を抑制できれば、それ以上のトランス体の生成も抑制することができる。
【0036】
全塔を190℃以下の温度で蒸留した場合、EPAアルキルエステルの異性体が生じる場合がある。例えば実施例において示したように、全塔を190℃以下の温度で蒸留した場合に生
じる異性体は実施例で示したように、EPA-Eの5位、11位、14位、17位の二重結合のいずれか一つがトランス型になったモノトランス体である。
【0037】
本発明の一実施形態における組成物では、EPAアルキルエステルの5位、14位、17位の二重結合のうちのいずれか一つがトランス型である、モノトランス体の含有量が、それぞれ0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下と
することができる。
【0038】
本発明の一実施形態における組成物では、EPAアルキルエステルの11位の二重結合がト
ランス型である、モノトランス体の含有量が、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積
%以下、0.6面積%以下、0.4面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下とすることができる。
【0039】
本発明の一実施形態における組成物では、例えば、EPA-Eの5位、14位、17位の二重結合のうちのいずれか一つがトランス型である、モノトランス体の含有量が、それぞれ0.5面
積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下とすることができる。
【0040】
本発明の一実施形態における組成物では、例えば、EPA-Eの11位の二重結合がトランス
型である、モノトランス体の含有量が、1.0面積%以下、0.9面積%以下、0.8面積%以下
、0.6面積%以下、0.4面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下とすることができる。
【0041】
上述のように、5位、14位、17位の二重結合のうちのいずれか一つがトランス型であるモノトランス体の含有量が、上述のようにより少なくなる場合、又は、11位の二重結合がトランス型であるモノトランス体の含有量が上述のようにより少なくなる場合には、本発明の一実施形態における組成物は、より高濃度にEPAアルキルエステル、例えばEPA-Eを含有し、EPAアルキルエステル例えばEPA-Eの機能性をより効果的に発揮できる。融点が低く、低温で濁り又は固化しやすい傾向があるトランス体の含有量がより少ない場合には、本組成物は、低温において良好な取り扱い性を示す傾向がある。
【0042】
本発明において、「面積%」とは、水素炎イオン化検出器(FID)付きのガスクロマトグラフィーを用いて組成物を分析したチャートにおいて、それぞれの成分のピークを同定し、Agilent ChemStation積分アルゴリズム(リビジョンC.01.03 [37]、Agilent Technologies)を用いて、各脂肪酸のピーク面積を求め、脂肪酸のピーク面積の総和に対する
各ピーク面積の割合で、そのピークの成分の含有比率を示すものである。油化学分野では面積%を重量%とほぼ同義のものとして用いられている。日本油化学会(JOCS)制定
基準油脂分析試験法 2013版 2.4.2.1-2013 脂肪酸組成(FID恒温ガスクロマトグラフ法)及び、同2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温
ガスクロマトグラフ法)を参照のこと。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下のとおりである。
【0043】
EPAアルキルエステルをEPA-Eとした場合、EPA-Eのモノトランス体と同定した化合物は
、以下のガスクロマトグラフィー測定条件におけるピークの保持時間がそれぞれ、実施例1の表1に示した数値を示すものとなり得る。本発明において、相対保持時間とは、ガスクロマトグラフィー測定のそれぞれのピークの実際の保持時間をエイコサペンタエン酸エチルの保持時間で除した数字である。すなわち、エイコサペンタエン酸エチルの保持時間を1としたときのそれぞれのピークの相対的な保持時間を表す。それぞれのピークの保持時間の測定値は、測定毎、あるいは、サンプルに含まれる成分の濃度によって、多少のばらつきがあるが、そのばらつきは、相対保持時間で表現した場合、±0.01以内に収まる。本明細書において、相対保持時間について用いる「約」という用語は、これらばらつきの範囲を含むことを意味する。
【0044】
GC-FID測定条件
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム:DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス:ヘリウム, 0.5 mL/min
注入口:300 oC, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器:FID, 300 oC
メークアップガス:窒素 40mL/min.
【0045】
EPAアルキルエステルをEPA-Eとする組成物の場合には、エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量は、2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下1.8面積%以下、又は1.5面積%以下とすることができる。
【0046】
EPAアルキルエステルをEPA-Eとする組成物の場合には、エイコサペンタエン酸エチルの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量は、1.417面積%以上とすることができる。
【0047】
本発明の一実施形態にかかる組成物では、不純物として、アラキドン酸アルキルエステル等の炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステルなどが挙げられる。炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステルは、EPAアルキルエステルと、類似
する構造又は極めて類似する構造を有し、蒸留工程及びクロマトグラフィー工程において、一般に、EPAアルキルエステルと分離困難な傾向にある。
【0048】
炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステルにおけるアルキル基は、脂肪酸のアルキルエステル化に一般的に用いられる低級アルコールに由来するアルキル基である。炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステルにおけるアルキル基としては、好ましくは、炭素数1又は炭素数2のアルキル基を挙げることができ、具体的には、エチル基及びメチル基が挙げられる。例えば、炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステルとしては、炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸エチル、及び炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸メチルが挙げられる。以下に述べる炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステルの具体例におけるアルキル基についても、同様である。
【0049】
本発明の一実施形態における組成物では、「アラキドン酸アルキルエステル」(C20:4n-6アルキルエステル、(5Z,8Z,11Z,14Z)-5,8,11,14-イコサテトラエン酸アルキルエステル)の含有量が0.7面積%以下であり、より好ましくは、0.5面積%以下、0.4面積%以下、0
.3面積%以下、0.2面積%以下であってもよく、更に好ましくは0.1面積%以下、又は0.05面積%以下であってもよい。
【0050】
本発明の一実施形態における組成物では、例えば、「アラキドン酸エチル」(C20:4n-6エチルエステル、(5Z,8Z,11Z,14Z)-5,8,11,14-イコサテトラエン酸エチル)の含有量が0.7面積%以下であり、より好ましくは、0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下であってもよく、更に好ましくは、0.1面積%以下、又は0.05面積%以であってもよい。
【0051】
このように本発明の一実施形態における組成物において、上述したように、代表的なω6系脂肪酸であるアラキドン酸の含有量を極力低下させることにより、EPA-EのようなEPAアルキルエステルの機能を効果的に発揮できる。
【0052】
本発明の一実施形態における組成物に含まれるアラキドン酸アルキルエステル以外の不純物としては、例えば、以下のものが挙げられる。これらは主として、EPAアルキルエス
テルと類似構造を有するものであり、クロマトグラフィー工程においてEPAアルキルエス
テルから分離が困難な物質と考えられている。本発明の各実施形態における組成物では、これらの1又は複数の不純物の含有量が低いので、EPAアルキルエステルを高い含有量で
含むことができる。
【0053】
本発明の一実施形態における組成物では、「C20:5n-3(5,9,11,14,17) アルキルエステ
ル」(イコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸アルキルエステル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積
%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態における組成物では、「C20:5n-3(5,9,11,14,17)エチルエステル」(イコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸エチルエステル)
の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。
【0054】
本発明の一実施形態における組成物では、「C18:3n-3アルキルエステル」(α-リノレン酸アルキルエステル、(9Z,12Z,15Z)-9,12,15-オクタデカトリエン酸アルキルエステル
)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態における組成物では、「C18:3n-3エチルエステル」(α-リノレン酸エチル、(9Z,12Z,15Z)-9,12,15-オクタデカト
リエン酸エチル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。
【0055】
本発明の一実施形態における組成物では、「C18:4n-3アルキルエステル」(ステアリドン酸アルキルエステル、(6Z,9Z,12Z,15Z)-6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸アルキルエステル)の含有量が、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態における組成物では、「C18:4n-3エチルエステル」(ODTA-E、ステアリドン酸エチル、(6Z,9Z,12Z,15Z)-6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸エチル)の含有量が、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下であってもよい。
【0056】
C18:4n-3アルキルエステルは機能性成分として知られているため、C18:4n-3アルキルエステル、例えばC18:4n-3エチルエステルの含有量がより低い組成物には、組成物に付加される追加的な機能の影響がより弱くなる。このため、EPAアルキルエステルに基づく機能
性組成物として本組成物を用いる際に、他の機能を考慮する必要性が低くなり、組成物の取り扱いが容易となる。
【0057】
本発明の一実施形態における組成物では、「C19:5n-3アルキルエステル」(ナノデカペンタエン酸アルキルエステル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.049面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。例えば
、本発明の一実施形態における組成物では、「C19:5n-3エチルエステル」(NDPA-E、ナノデカペンタエン酸エチル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.049面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。
【0058】
C19:5n-3アルキルエステルは機能性成分として知られているため、C19:5n-3アルキルエステル、例えばC19:5n-3エチルエステルの含有量がより低い組成物には、組成物に付加される追加的な機能の影響がより弱くなる。このため、EPAアルキルエステルに基づく機能
性組成物として本組成物を用いる際に、他の機能を考慮する必要性が低くなり、組成物の取り扱いが容易となる。
【0059】
本発明の一実施形態における組成物では、「C20:4n-3アルキルエステル」(エイコサテトラエン酸アルキルエステル)の含有量が、0.7面積%以下、0.5面積%以下、0.4面積%
以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下であってもよい。例えば、本
発明の一実施形態における組成物では、「C20:4n-3エチルエステル」(ETA-E、エイコサ
テトラエン酸エチル)の含有量が、0.7面積%以下、0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下であってもよい。
【0060】
C20:4n-3アルキルエステルは機能性成分として知られているため、C20:4n-3アルキルエステル、例えばC20:4n-3エチルエステルの含有量がより低い組成物には、組成物に付加される追加的な機能の影響がより弱くなる。このため、EPAアルキルエステルに基づく機能
性組成物として本組成物を用いる際に、他の機能を考慮する必要性が低くなり、組成物の取り扱いが容易となる。
【0061】
本発明の一実施形態における組成物では、「C21:5n-3アルキルエステル」(ヘンイコサペンタエン酸アルキルエステル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.03面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態における組成物では、「C21:5n-3エチルエステル」(HPA-E、ヘン
イコサペンタエン酸エチル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.03面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。
【0062】
C21:5n-3アルキルエステルは機能性成分として知られているため、C21:5n-3アルキルエステル、例えばC21:5n-3エチルエステルの含有量がより低い組成物には、組成物に付加される追加的な機能の影響がより弱くなる。このため、EPAアルキルエステルに基づく機能
性組成物として本組成物を用いる際に、他の機能を考慮する必要性が低くなり、組成物の取り扱いが容易となる。
【0063】
本発明の一実施形態における組成物は、魚油には炭素数14~22の飽和脂肪酸が含まれるが、心血管系への用途の場合、飽和脂肪酸の摂取は避ける方が好ましく、飽和脂肪酸の含有量は低いほど好ましい。飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量の合計が、0.5面積%
以下、0.3面積%以下、又は0.1面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態における組成物では、飽和脂肪酸のエチルエステルの含有量の合計が、0.5面積%以下、0.3面積%以下、又は0.1面積%以下であってもよい。
【0064】
本発明の一実施形態における組成物では、飽和脂肪酸のうち「C19:0アルキルエステル
」(n-ノナデカン酸アルキルエステル)の含有量が、0.1面積%以下、0.07面積%以下
、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。本発明の一実施形態における組成物では、例えば、「C19:0エチルエステル」(n-ノナデカン酸エチル)の含有量が、0
.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。
【0065】
本発明の一実施形態における組成物では、飽和脂肪酸のうち「C20:0アルキルエステル
」(アラキジン酸アルキルエステル)の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態における組成物では、「C20:0エチルエステル」(アラキジン酸エチルエチル)
の含有量が、0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下であってもよい。
【0066】
本発明の一実施形態における組成物は、EPAアルキルエステル及び上述した脂肪酸以外
の他の脂肪酸の含有量が低くてもよい。これにより、EPAアルキルエステルをより高い含
有量で含むことができ、EPAアルキルエステルに基づく機能性組成物として本組成物を用
いる際に、他の機能を考慮する必要性を低くすることができる。
【0067】
他の脂肪酸としては、炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸(MUFA)のアルキルエステルを挙げることができ、本発明の一実施形態における組成物では、MUFAアルキルエステルの含有量が、0.05面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態にかかる組成物では、「C20:1n-11エチルエステル」(ガドレイン酸エチル)、「C20:1n-9エチ
ルエステル(ゴンドイン酸エチル)、「C22:1n-11エチルエステル」(セトレイン酸エチ
ル)及び「C22:1n-9エチルエステル」(エルカ酸エチル)のようなMUFAエチルの含有量の合計が、0.05面積%以下であってもよい。
【0068】
更に他の脂肪酸としては、「C20:3n-6アルキルエステル」(ジホモ-γ-リノレン酸アルキルエステル、DGLAアルキルエステル)の含有量が、0.05面積%以下であってもよい。例えば、本発明の一実施形態にかかる組成物では、「C20:3n-6エチル」(ジホモ-γ-リノレン酸エチル、DGLAエチル)の含有量が、0.05面積%以下であってもよい。EPAと逆の作用を発揮することがあるn-6系の脂肪酸の含有量が低い組成物は、EPAアルキルエステルに基づく機能を良好に発揮できる。
【0069】
更に他の脂肪酸としては、「C22:6n-3アルキルエステル」(ドコサヘキサエン酸アルキルエステル)の含有量が、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.03面積%以下であっ
てもよい。例えば、本発明の一実施形態にかかる組成物では、「C22:6n-3エチル」(ドコサヘキサエン酸エチル、DHAエチル)の含有量が、0.1面積%以下、0.05面積%以下、
又は0.03面積%以下であってもよい。
【0070】
C22:6n-3アルキルエステルは機能性成分として知られているため、C22:6n-3アルキルエステル、例えばC22:6n-3エチルエステルの含有量がより低い組成物には、組成物に付加される追加的な機能の影響がより弱くなる。このため、EPAアルキルエステルに基づく機能
性組成物として本組成物を用いる際に、他の機能を考慮する必要性が低くなり、組成物の取り扱いが容易となる。
【0071】
本発明の一実施形態には、例えば、EPAアルキルエステルの機能がより効果的に得られ
る以下の組成物のいずれかを含むことができる:
(1) ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、EPAアルキルエステル例えばEPA-Eを96~99面積%含有し、アラキドン酸アルキル例えばアラキドン酸エチルの含有量が0.1面積%以下、又は0.05面積%以下であり、エイコサペンタエン酸アルキルエステル例え
ばEPA-Eのモノトランス体の含有量が2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。
(2) ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、EPAアルキルエステル例えばEPA
-Eを96~99面積%含有し、アラキドン酸アルキル例えばアラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%以下であり、エイコサペンタエン酸アルキルエステル例えばEPA-Eのモノトランス体の含有量が、1.417面積%以上、且つ2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。
(3) ガスクロマトグラフィーを用いて下記分析条件により測定した場合に、EPA-Eを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.1面積%以下、又は0.05面積%以下であり、EPA-Eの平均保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が2.5面積%以下、2.3面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物。
[ガスクロマトグラフィー分析条件:GC-FID測定条件]
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム: DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス: ヘリウム, 0.5 mL/min
注入口: 300 oC, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器: FID, 300 oC
メークアップガス:窒素 40mL/min.
(4) ガスクロマトグラフィーを用いて下記分析条件により測定した場合に、EPA-Eを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%以下であり、EPA-Eの平均
保持時間を1としたときの相対保持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が、1.417面積%以上、且つ2.5面積%以下、2.3面積%以
下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸ア
ルキルエステル含有組成物。
[ガスクロマトグラフィー分析条件:GC-FID測定条件]
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム: DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス: ヘリウム, 0.5 mL/min
注入口: 300 oC, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器: FID, 300 oC
メークアップガス:窒素 40mL/min.
(5) 上記(1)の組成物において、エイコサペンタエン酸アルキルエステル例えばEPA-Eのモノトランス体の含有量が、1.417面積%以上である組成物。
(6) 上記(3)の組成物において、EPA-Eの平均保持時間を1としたときの相対保
持時間が約0.955、1.027、1.062又は1.077のピークとして現れる物質の含有量の合計量が、1.417面積%以上である組成物。
(7) 上記(2)の組成物において、アラキドン酸エチルの含有量が0.1面積%以下
、又は0.05面積%以下である組成物。
(8) 上記(4)の組成物において、アラキドン酸エチルの含有量が0.1面積%以下
、又は0.05面積%以下の組成物。
【0072】
上記(1)~(8)の組成物は、更に、DGLAアルキルエステル、例えばDGLAエチルの含有量が0.05面積%以下であってもよく、DGLAアルキルエステルの含有量に代えて若しくはこれに加えて、MUFAアルキルエステルの、例えばMUFAエチルの含有量が0.05面積%以下であってもよい。
【0073】
上記(1)~(8)の組成物は、更に、DGLA、MUFA又はDGLA及びMUFAの組み合わせに加えて、以下からなる群より選択される少なくとも1つを組み合わせたものであってもよい:
0.7面積%以下、0.5面積%以下、0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、
又は0.1面積%以下のエイコサテトラエン酸アルキルエステル、例えばエイコサテトラエ
ン酸エチル;
0.4面積%以下、0.3面積%以下、0.2面積%以下、又は0.1面積%以下のオクタデカテトラエン酸アルキルエステル、例えばオクタデカテトラエン酸エチル;
0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.049面積%以
下、又は0.02面積%以下のノナデカペンタエン酸アルキルエステル、例えばノナデカペンタエン酸エチル;
0.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下のn-ノナ
デカン酸(C19:0)アルキルエステル、例えばn-ノナデカン酸エチル;
0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下のアラキジン酸(C20:0)アルキルエステル、例えばアラキジン酸エチル;
0.5面積%以下、0.3面積%以下、又は0.1面積%以下の飽和脂肪酸のアルキルエステ
ル、例えば飽和脂肪酸エチル;
0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下のイコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17)
)アルキルエステル、例えばイコサ- 5,9,11,14,17-ペンタエン酸(C20:5n-3(5,9,11,14,17))エチル;
0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、0.03面積%以下、又は0.02面積%以下のヘンイコサペンタエン酸アルキルエステル、例えばヘンイコサペンタエン酸エチル;
0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.03面積%以下のドコサヘキサエン酸アルキ
ルエステル、例えばドコサヘキサエン酸エチル;
0.2面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.05面積%以下、又は0.02面積%以下のα-リノレン酸アルキルエステル、例えばα-リノレン酸エチル。
【0074】
本発明の他の実施形態は、ガスクロマトグラフィーにより測定した場合に、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを96~99面積%含有し、アラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.1面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物も包含す
る。上述のように、エイコサペンタエン酸アルキルエステル、例えば、EPA-Eは、構造が
類似しているアラキドン酸アルキルエステル、例えばARA-Eと、精製工程において分離が
しにくい傾向がある。本実施形態の組成物は、この分離がしにくい関係にある両化合物のうち、目的物であるエイコサペンタエン酸アルキルエステルを96~99面積%以上という高い含有量で含み、かつ、目的外となるアラキドン酸アルキルエステルの含有量が0.1面積
%以下と極めて低い。従って、本組成物では、アラキドン酸アルキルエステルによる影響が極めて低いので、本組成物は高含有量のエイコサペンタエン酸アルキルエステルが求められる用途に好ましく用いることができる。本実施形態の組成物では、エイコサペンタエン酸アルキルエステルのモノトランス体の含有量が、10面積%以下、5.0面積%以下、3.0面積%以下、2.5,面積%以下、2.0面積%以下、1.8面積%以下、又は1.5面積%以下であ
ってもよい。
【0075】
<組成物の製造方法>
本発明の一実施形態は、エイコサペンタエン酸を含有する原料油をアルキルエステル化することにより得られたエイコサペンタエン酸アルキルエステルを含有する組成物に対して、0.2Torr以下の真空度、及び、全塔190℃以下の温度で、精密蒸留を行うこと、精密蒸留後の組成物に対してクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、を含み、必要に応じて他の工程を含む高濃度エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成
物の製造方法を含む。
【0076】
また本発明の他の実施形態は、エイコサペンタエン酸を含有する原料油をエチルエステル化したのち、蒸留及びクロマトグラフィーを行うことによって、高濃度エイコサペンタエン酸エチルを製造する方法において、蒸留を、0.2Torr以下の真空度、及び、全塔190℃以下の温度での精密蒸留を行うことにより行い、アラキドン酸エチルを低減させ、かつ、熱によるトランス体の生成を抑える、高濃度エイコサペンタエン酸エチルの製造方法を含む。
【0077】
本明細書では、上述した本発明の各実施形態に含まれる製造方法において、蒸留を行う工程を単に蒸留工程という場合があり、クロマトグラフィーを行う工程を単にクロマトグラフィー工程という場合がある。また、本明細書では、蒸留工程とクロマトグラフィー工程を、更にまとめて精製工程という場合がある。
【0078】
本発明の原料としては、エイコサペンタエン酸を構成脂肪酸として含有する油脂、あるいはリン脂質等を用いることができる。エイコサペンタエン酸は微生物油、海産動物油などに多く含まれることが知られている。原料油としては、具体的には、イワシ、マグロ、カツオ等の魚類、オキアミ等の甲殻類の海産動物油;ヤロウィア属等の酵母、モルティエレラ属等の糸状菌類、ユーグレナ属等の藻類、ストラメノパイルなどの、脂質を産生する微生物由来の油が例示される。これらは、遺伝子改変された変異Δ9エロンガーゼのような遺伝子を導入された遺伝子組換え微生物由来の油であってもよい。これら微生物油においても、EPA以外にアラキドン酸等の炭素数20の脂肪酸が含まれるので、同様の課題が
存在する。また、変異Δ9エロンガーゼ等の遺伝子を組み換え技術により導入された、アブラナ属種、ヒマワリ、トウモロコシ、綿、亜麻、ベニバナ等の油料種子植物による遺伝子組換え植物由来の油も、原料油として使用できる。遺伝子組換え植物油及び遺伝子組換え微生物油等については、例えば、WO2012/027698、WO2010/033753等に記載のものを例示することができる。
【0079】
例えば、魚油には、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したトリグリセリドの状態でEPAが含まれる。魚油には、炭素数が14~22、二重結合数が0~6
の多くの種類の脂肪酸が含まれているため、EPAの濃度は限られている。したがって、ト
リグリセリドに結合した脂肪酸を、触媒又は酵素の存在下、低級アルコールと反応させてアルキルエステル化することにより、例えばエタノールと反応させエチルエステル化することによりグリセリンから脂肪酸を分離してから、EPA-EのようなEPAアルキルエステル以外の脂肪酸アルキルエステルを除去することにより、高純度のEPAアルキルエステル、例
えばEPA-Eが製造される。本発明の一形態における製造方法では、このようなアルキルエ
ステル化することにより得られたEPAアルキルエステルを用意することを含んでもよく、
原料油を調製すること、及び原料油を低級アルコールによりエステル化してEPAアルキル
エステルを得ること(以下、エステル化工程ということがある)を含んでもよい。
【0080】
粗油精製工程
アルキルエステル化で用いられる原料油は、粗油であってもよく、精製油であってもよい。粗油は、水産物原料から得られる油脂であっても、微生物原料から得られる油脂であってもよい。例えば、水産物原料から粗油を得る方法はいかなる方法でも構わないが、魚油の例では、通常、以下のような方法で採取される。魚全体又は水産加工から発生する魚の頭、皮、中骨、内臓等の加工残滓を粉砕して蒸煮した後、圧搾して煮汁(スティックウォーター)と圧搾ミールに分離する。煮汁とともに得られる油脂を煮汁から遠心分離により分離し、魚油粗油とする。
【0081】
一般に魚油の粗油は、原料に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、活性白土又は活性炭を用
いた脱色工程、水洗工程、水蒸気蒸留等による脱臭工程などを行って、リン脂質及びステロールなどの目的物以外の物質を除去する粗油精製工程を経て精製魚油とされる。本発明の一形態では、原料として、この精製魚油を用いることもできる。
【0082】
エステル化工程
原料油である油脂を、低級アルコールを用いたアルコール分解により、低級アルコールエステルに分解する。低級アルコールとしては、脂肪酸のアルキルエステル化に一般的に用いられるもの、例えば、炭素数1又は炭素数2の低級アルコールが挙げられる。アルコール分解は油脂に、低級アルコール例えばエタノールと触媒又は酵素を加え反応させ、グリセリンに結合した脂肪酸からエチルエステルを生成させるものである。触媒としては、アルカリ触媒、酸触媒などを用いる。酵素としてはリパーゼが用いられる。
【0083】
脂肪酸のアルコール分解の反応効率は高いことが経験的に判明しており、アルコール分解後には、主としてそれらのアルキルエステル形態の脂肪酸を含む組成物が得られる。このため、本明細書では、エステル化工程後の脂肪酸について、特に断らない限り、脂肪酸がアルキルエステル形態の脂肪酸であることを省略して表記する場合がある。ただし、アルキルエステル形態以外の形態の脂肪酸が含まれることを完全に排除するものではない。
【0084】
精製工程
本発明の一実施形態における組成物の製造は、蒸留工程及び高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)のようなクロマトグラフィーを用いたクロマトグラフィー工程による精製工程を含む。ここで、例えばEPA-Eとアラキドン酸エチルでは同様な分子構造を有する
が、分子量がわずかに異なることから沸点の差(EPA-E;417℃/760mmHg、アラキドン酸
エチル;418.1℃/760mmHg)を利用して精度を上げた蒸留で分離可能とも考えられる。この観点から分離度を上げるには段数の増加及び/又は、還流量を増やす必要があると考えられる。しかしながら、段数の増加は圧力抵抗の増加をもたらし蒸留温度を上げざるを得ない。同様に還流量の増加も蒸留温度を上げることになる。一方、EPAは熱により異性化
することが知られている(European Journal of Lipid Science and Technology, 108 (2006) 589-597;JAOCS, 66 (1989) 1822-1830)。このことから、蒸留の精度を上げるためのさらなる加熱は異性化を引き起こし、異性体が増加してしまう。このように、EPA-Eの
異性体を生成させず、あるいは生成量を少なく保ちながら、EPA-EのようなEPAアルキルエステルとアラキドン酸エチルのようなアラキドン酸アルキルエステルとを工業的に、すなわち歩留まりと純度を両立させて、分離することは極めて難しかった。
【0085】
また、特開平5-222392号に記載の蒸留はC20画分を集める方法であることから
、EPA-Eとアラキドン酸エチルとの分離はできない。その後のHPLCによる精製工程にてEPA-Eとアラキドン酸エチルの分離はある程度は可能だが、高純度のEPA-Eを得る為にはEPA-Eとアラキドン酸エチルが重なる部分をカットしなければならず、EPA-E回収率が大幅に低
下してしまう。特開平5-222392号でも図2から大幅にEPA-E画分をカットしてい
ることが分かり、EPAを99%以上まで精製しても、アラキドン酸を含むC20:4エチルエステルが不純物として認められている(段落0033)。さらに、この実施例におけるEPA回収率は60%と低く、実質的にアラキドン酸エチルを低減させたEPA-Eの工業生産は
不可能であった。
【0086】
そこで、上記エステル化工程で得られたエチルエステル体のようなアルキルエステル体の粗生成物を、特開平5-222392号などに記載の方法に沿って蒸留する場合に、本発明の一形態における組成物の製造方法においては、圧力及び温度条件を、真空度0.2Torr(26.7 Pa)以下、全塔の温度を190℃以下に保ちながら精密蒸留を行うことで、熱によ
り生じる異性体を大幅に増やすことなくEPA-Eとアラキドン酸エチルを分離することが可
能になる。
【0087】
圧力及び温度条件については、圧力抵抗の低下、真空ポンプの種類の選択、真空ポンプの組み合わせ等により、真空度0.2 Torr以下、且つ190℃以下の全塔温度を保つことがで
きる。圧力抵抗の低下としては、例えば、配管を太くする、配管の角度を滑らかにすることを挙げることができる。物質は圧力が低いほど沸点が低下するので、高真空(低圧力)になるとより低い温度で蒸留が可能になり、熱による物質の変性を抑えることが可能となる。一方で、沸点が低下するとより蒸発しやすくなり還流量を増やすことができる。精密蒸留の条件を、真空度0.2 Torr以下、且つ全塔温度190℃以下とすることにより、より低
い温度で、且つ、充分な還流量で、精密蒸留を行うことができる。還流量の増加により、蒸留での分離精度が向上し、アラキドン酸アルキルエステルのような、EPAアルキルエス
テルと沸点が近い物質との分離も容易になる。これにより、アラキドン酸アルキルエステルのような他の脂肪酸アルキルエステルとの分離及び熱による不純物の発生抑制の双方のバランスの観点から、EPAアルキルエステルの含有量がより高い組成物を得ることができ
る。
【0088】
本明細書において、精密蒸留とは、加熱条件下で発生した蒸気の一部を還流液として蒸留塔に戻し、塔内を上昇する蒸気と液体状の試料との間での気液平衡を利用して精度よく成分の分離を行う技術をいう(特開平4-128250及び特開平5-222392号、参照)。
【0089】
本明細書において、蒸留工程において圧力及び温度条件に関して用いられる「全塔」とは、蒸留工程で用いられ得るすべての蒸留塔での条件であることを意味する。蒸留工程で用いられる蒸留塔がひとつの場合には、当該ひとつの蒸留塔における条件であることを意味し、蒸留工程で用いられる蒸留塔が複数存在する場合には、存在する当該すべての蒸留塔における条件であることを意味する。
【0090】
蒸留工程は、1塔の蒸留塔を用いて行ってもよく、2塔以上、3塔以上、又は4塔以上の蒸留塔を用いた連続精密蒸留とすることができる。2塔以上の蒸留塔を用いた連続精密
蒸留では、真空度の維持が更に重要となる。真空内への原料の供給、留分又は残分の抜出が、真空度の変動する原因になるため、高真空での連続生産では真空度を安定に維持することに注意を払うことにより、真空度の変動を抑えることが好ましい。好ましくは、3塔以上、更に好ましくは4塔以上の蒸留塔を用いて行う連続蒸留において、全塔の真空度を0.2Torr以下にすることができる。真空度をより低くすれば、温度を更に低下させること
ができる。より高性能の設備の設置の必要性を含む工業的観点から、温度は150~190℃、好ましくは170~190℃で行うのが好ましい。
【0091】
蒸留工程に続くHPLC等によるクロマトグラフィー工程は、蒸留工程で得られた組成物中の目的外成分を除去すること等により、目的外成分の含有量を低減させて、精密蒸留後の組成物においてEPAアルキルエステルを更に濃縮する工程であり、従来公知の方法、例え
ば特開平5-222392号などに記載の方法に沿って行うことができる。濃縮処理に用いられるクロマトグラフィーとしては、逆相カラムクロマトグラフィーが適している。固定相として逆相分配系の吸着剤であれば特に指定なく用いることができ、好ましくはオクタデシルシリル(ODS)を用いたODSカラムである。
【0092】
蒸留工程にてアラキドン酸アルキルエステルの含有量を低減できることから、HPLCでのEPAアルキルエステルカット率が改善され、回収率が良くなり、アラキドン酸アルキルエ
ステルなどの不純物の含有量の少ないEPAアルキルエステルの工業的規模での生産が可能
となる。また、本方法によると、従来は分離しにくかったC20:0、C20:4n-3、C20:5n-3(5,9,11,14,17)、C18:3n-3、C18:4n-3、C19:0、C19:5n-3、C21:5n-3、C22:6n-3の各低級アルキルエステル体、EPA-Eのモノトランス異性体のようなEPAアルキルエステルのモノトラン
ス異性体などのアラキドン酸アルキルエステル以外の不純物の含有量も低減できる。
【0093】
<利用形態>
本発明の一実施形態における組成物の利用形態は、特に限定されないが、経口剤型であることが好ましく、典型的には、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤等の経口用製剤の形態とすることができる。本発明の組成物の用途には、例えば、飲食品(健康食品、栄養補助食品、特定保健用食品、サプリメント、乳製品、清涼飲料、ペット用飲食品、家畜飼料など)、医薬品、医薬部外品などが含まれ、特に、サプリメント、及び医薬品であることが好ましい。食品素材又は食品の他に、動物用の飼料用の添加成分として使用してもよい。従って、本発明の一形態における組成物は、これらの飲食品、医薬品、医薬部外品の素材又は有効成分として使用されることができ、これらの製造において、好ましく使用され得る。
【0094】
<医薬組成物>
本発明の別の実施形態は、上記組成物を有効成分として含有する医薬組成物を含む。医薬組成物中の上記組成物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは25重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、より更に好ましくは85重量%以上、特に好ましくは96重量%以上、とりわけ好ましくは98重量%以上である。
【0095】
医薬組成物は、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、血栓症、高脂血症などの生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、がんなどの疾患の治療又は予防に用いることができ、例えば、閉塞性動脈硬化症治療薬、高脂血症治療薬などとして用いられる。
【0096】
本発明の一形態の組成物では、不純物の含有量が低減されていることから、安全性が極めて高く、これを用いて安全域の広い医薬製剤を調製することができる。例えば、EPA-E
の1日投与量が通常用量の3倍以上、好ましくは5倍以上である高純度EPA-E製剤のよう
な高純度EPAエチルエステル製剤、又は、EPA-Eの1日投与量が6g以上、好ましくは10g以上である、高純度EPA-E製剤のような高純度EPAエチルエステル製剤を製造することができる。これらの製剤を用いて、例えば、高脂血症等における通常用量では治療効果が期待できない疾患に対しても、安全に治療が可能となる。
【0097】
本発明の一形態における医薬組成物は、有効成分に加え、医薬的に許容され得る添加成分を含むことができる。このような添加成分を含む医薬組成物は、医薬的に許容され得る賦形剤を含むことができる。医薬組成物は、適宜、公知の抗酸化剤、コーティング剤、ゲル化剤、嬌味剤、着香剤、保存剤、抗酸化剤、乳化剤、pH調整剤、緩衝剤、着色剤などを含有させてもよい。抗酸化剤としては、例えばブチレート化ヒドロキシトルエン、ブチレート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノン、アスコルビン酸パルミテート等のアスコルビン酸エステル、及びトコフェロール類から選ばれる少なくとも1種を抗酸化剤として有効量含有させることが望ましい。
【0098】
製剤の剤形は、有効成分の併用形態によっても異なり、特に限定されないが、経口製剤が好ましく、例えば、錠剤、フィルムコーティング錠、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、シロップ剤、ゼリー剤、吸入剤の形で用い得る。とりわけカプセル、例えば軟質カプセル又はマイクロカプセルに封入して、カプセル剤での経口投与が好ましい。また、腸溶製剤又は徐放化製剤として経口投与してもよく、透析患者、嚥下困難な患者などにはゼリー剤として経口投与することも好ましい。本発明における医薬組成物は、常法に従って製造、又は製剤化することが可能である。
【0099】
本発明の一実施形態は、本発明の他の実施形態における医薬組成物を、動脈硬化、脳梗
塞、心筋梗塞、血栓症、生活習慣病、アレルギー、炎症性疾患、及びがんからなる群より選択される少なくとも1つの疾患に罹患している又は罹患する危険性のある対象者に投与することを含む、疾患の予防、治療又は寛解方法を含む。投与形態としては、経口投与又は局所投与であってもよい。投与量は、治療又は予防に有効な量であればよく、目的とする疾患の種類、症状の程度、投与対象の年齢、体重及び健康状態などの条件に応じて、適宜設定される。例えば、成人であれば有効成分量として1mg~1g/kg/日、好ましくは5mg~300mg/kg/日の量で、本組成物を、経口又は非経口的に、1日1回若しくは2~4回、又は
それ以上に分割して、適宜間隔をあけて投与することができる。
【0100】
本明細書において、治療剤とは、目的とする疾患による症状が見出されている場合に、このような症状の進行を抑制し、又は緩和するために用いられる医薬をいう。一方、予防剤とは、目的とする疾患による症状の発症が予期される場合に、予め投与してその発症を抑制するために用いられる医薬をいう。ただし、これらの用語は、使用時期又は使用の際の症状によって複合的に用いられ、限定的に解釈されない。
【0101】
本明細書において、不定冠詞「a」又は「an」が付された要素は、文脈中で明確に示す又は結びつけることがない限り、1つ又は複数の要素が存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」又は「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0102】
本明細書に記載の動詞「含む(comprising)」及びその活用は、非限定的な意味で使用
され、かつこの用語に続く事項が含まれ、特別に言及されない事項は除かれないことを意味する。
【0103】
本明細書において、発明の各態様(aspect)に関する一実施形態(embodiment)中で説明された各発明特定事項(feature)は、任意に組み合わせて新たな実施形態としてもよ
く、このような新たな実施形態も、本発明の各態様に包含され得るものとして、理解されるべきである。
【実施例
【0104】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお下記実施例において、特記しない場合、「%」は「重量%」を意味する。
【0105】
以下の項における実施例及び比較例では、EPAアルキルエステルとしてEPA-Eを用いるが、本発明はこれ限定されず、EPA-M等の他のEPAアルキルエステルであってもよい。
【0106】
一般に、エタノールを用いた魚油のエチルエステル化率は95%~100%であることが経験的に判明している。このため、本実施例の項に記載の原料エチルエステル(魚油エチルエステル)では、含有する飽和又は不飽和脂肪酸のほとんどが脂肪酸エチルエステル形態であると推測された。従って、本実施例の項では、原料油中に含まれる飽和又は不飽和脂肪酸はすべてエチルエステル形態の飽和又は不飽和脂肪酸として記載する。ただし、エチルエステル形態以外の脂肪酸が含まれることを完全に排除するものではない。
【0107】
実施例1
<調製方法>
常法により調製した魚油エチルエステル(脂肪酸中EPA16面積%以上、酸価0.8以下、POV30以下)を、多段式蒸留装置を用いて、全塔の真空度0.2Torr以下、温度190℃以下の条件にて連続精密蒸留を行い、初留、主留、残留に分画した。得られた主留をカラムに逆相分配系のオクタデシル化シリカゲルを充填した高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)にて精製し、精製EPA-Eを得た。
【0108】
<評価方法>
異なる原料を用いて精製EPA-Eを11ロット製造し、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて脂肪酸組成を分析した。各脂肪酸エチルエステルのピークの平均保持時間、相対保持時間、含有量の平均値、最高値、最低値(面積%)を表1に示した。表1の相対保持時間は、EPA-Eの平均保持時間を1とした場合のそれぞれのピークの平均保持時間で
ある。
【0109】
なお、脂肪酸組成の分析に用いたGCの測定条件は、以下の通りである。
GC-FID測定条件
GC: 6890N (Agilent Technologies)
カラム: DB-WAX (Agilent Technologies)
30 m x 0.25 mm ID, 0.25 μm film thickness
キャリアガス:ヘリウム, 0.5 mL/min(EPA-Eが約30分で溶出するように調節する)
注入口:300 oC, 1 μL, Split (1:100)
カラム温度:200℃恒温
検出器:FID, 300 oC
メークアップガス:窒素 40mL/min.
【0110】
【表1】
【0111】
異性体A~Dについては、強制的に加熱して製造した異性体のサンプルを用いて、GC-FIDでの異性体組成の確認、各ピークのGC-MSによる二重結合数量の特定、そして各ピークのNMR解析を行った。その結果、異性体A~Dはそれぞれ、EPA-Eの5個の二重結合のうちの14,17,5,11位が1つだけトランス体となったEPA-E
の異性体であることを確認した。異性体Dと異性体Eのピークが重なっていて分離できなかったので、異性体Dの量は異性体Eとの合計量として表記した。
【0112】
<評価結果>
精密蒸留において、全塔の真空度を0.2Torr以下、温度を190℃以下にすることによって、アラキドン酸エチル、C20:0エチルエステル、C20:4n-3エチルエステル、C20:5n-3(5,9,11,14,17)エチルエステル、C18:3n-3エチルエステル、C18:4n-3エチルエステル、C19:0エチルエステル、C19:5n-3エチルエステル、C21:5n-3エチルエステル、C22:6n-3エチルエステルなどの分離しにくい不純物を低減すると同時に、EPA-Eのトランス異性体も低減できた。また得られた組成物では、MUFAエチルエステル及びDHAエチルエステルはそれぞれ、0.05面積%以下であった。
【0113】
精密蒸留後にODSカラムを用いたHPLCを実施することにより、エイコサペンタエン酸エチルを96~99面積%含有し、アラキドン酸エチルの含有量が0.7面積%以下であり、エイコサペンタエン酸エチルのモノトランス体の含有量が2.5面積%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物が得られた。
【0114】
本発明においては、従来より、更に不純物の含有量が低減された、エイコサペンタエン酸エチルのようなエイコサペンタエン酸アルキルエステルを高純度で含有する組成物を製造できることを見出した。本発明の一形態における組成物は、工業的スケールにおいても製造可能なことから、安全性を有しつつ大量生産が必要とされる、健康食品、医薬品などの原料として用いることができる点で有利である。
【0115】
2014年9月17日に出願された日本国特許出願第2014-188997号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0116】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。