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特許7190061電源供給モジュールおよび荷電粒子ビーム装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-06
(45)【発行日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電源供給モジュールおよび荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/08 20060101AFI20221207BHJP
   H02M 7/10 20060101ALI20221207BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H02M3/08
H02M7/10 Z
H01J37/248 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021550956
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039497
(87)【国際公開番号】W WO2021070223
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門井 涼
(72)【発明者】
【氏名】李 ウェン
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直也
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/016857(WO,A1)
【文献】特開平11-225476(JP,A)
【文献】特開2000-116132(JP,A)
【文献】特開2002-175900(JP,A)
【文献】特開2017-131022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0058659(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/08
H02M 7/10
H01J 37/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対称構成である2系統の昇圧回路を含み、前記2系統の昇圧回路内の容量素子およびダイオードを用いて昇圧動作を行う対称型の高電圧生成回路と、
前記高電圧生成回路を収容し、基準電源電圧が印加される筐体と、
前記筐体内で、前記2系統の昇圧回路の一方の近傍に固定的に設置される第1の電極と、
前記筐体内で、前記2系統の昇圧回路の他方の近傍に固定的に設置される第2の電極と、
前記第1の電極と前記基準電源電圧との間の電気的な接続特性と、前記第2の電極と前記基準電源電圧との間の電気的な接続特性とをそれぞれ電気的に制御することで、前記2系統の昇圧回路の浮遊容量の容量値を調整する浮遊容量調整回路と、
を有する、
電源供給モジュール。
【請求項2】
請求項1記載の電源供給モジュールにおいて、
さらに、前記筐体内で、前記高電圧生成回路、前記第1の電極および前記第2の電極を覆う絶縁用樹脂部材を有する、
電源供給モジュール。
【請求項3】
請求項2記載の電源供給モジュールにおいて、
前記第1の電極および前記第2の電極のそれぞれは、複数の分割電極で構成され、
前記浮遊容量調整回路は、
前記複数の分割電極と前記基準電源電圧との間にそれぞれ接続される複数のスイッチと、
前記複数のスイッチのオン・オフをそれぞれ制御するスイッチ制御回路と、
を有する、
電源供給モジュール。
【請求項4】
請求項3記載の電源供給モジュールにおいて、
前記複数の分割電極の少なくとも一部は、互いにサイズが異なっている、
電源供給モジュール。
【請求項5】
請求項4記載の電源供給モジュールにおいて、
前記第1の電極および前記第2の電極のそれぞれは、複数の電極グループを備え、
前記複数の電極グループのそれぞれに含まれる前記複数の分割電極は、互いに2(n=0,1,2,…)倍単位でサイズが異なっている、
電源供給モジュール。
【請求項6】
請求項3記載の電源供給モジュールにおいて、さらに、
前記高電圧生成回路の出力電圧に含まれるリップル振幅を測定するリップル測定器と、
前記スイッチ制御回路を介して前記複数のスイッチのオン・オフ状態を変更しながら、前記リップル振幅が最小となる前記オン・オフ状態を探索する探索回路と、
を有する、
電源供給モジュール。
【請求項7】
電子源と、
前記電子源から電子を引き出す引出電極と、
前記引出電極に印加する電圧を生成する引出電極電源と、
前記電子を加速させるための加速電源と、
を有する荷電粒子ビーム装置であって、
前記引出電極電源または前記加速電源の少なくとも一方は、
互いに対称構成である2系統の昇圧回路を含み、前記2系統の昇圧回路内の容量素子およびダイオードを用いて昇圧動作を行う対称型の高電圧生成回路と、
前記高電圧生成回路を収容し、基準電源電圧が印加される筐体と、
前記筐体内で、前記2系統の昇圧回路の一方の近傍に固定的に設置される第1の電極と、
前記筐体内で、前記2系統の昇圧回路の他方の近傍に固定的に設置される第2の電極と、
前記第1の電極と前記基準電源電圧との間の電気的な接続特性と、前記第2の電極と前記基準電源電圧との間の電気的な接続特性とをそれぞれ電気的に制御することで、前記2系統の昇圧回路の浮遊容量の容量値を調整する浮遊容量調整回路と、
を有する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子ビーム装置において、
さらに、前記筐体内で、前記高電圧生成回路、前記第1の電極および前記第2の電極を覆う絶縁用樹脂部材を有する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
請求項8記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記第1の電極および前記第2の電極のそれぞれは、複数の分割電極で構成され、
前記浮遊容量調整回路は、
前記複数の分割電極と前記基準電源電圧との間にそれぞれ接続される複数のスイッチと、
前記複数のスイッチのオン・オフをそれぞれ制御するスイッチ制御回路と、
を有する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
請求項9記載の荷電粒子ビーム装置において、さらに、
前記高電圧生成回路の出力電圧に含まれるリップル振幅を測定するリップル測定器と、
前記スイッチ制御回路を介して前記複数のスイッチのオン・オフ状態を変更しながら、前記リップル振幅が最小となる前記オン・オフ状態を探索する探索回路と、
を有する、
荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源供給モジュールおよび荷電粒子ビーム装置に関し、例えば、対称型のコッククロフト・ウォルトン回路を含んだ電源供給モジュール、および当該電源供給モジュールからの電源で動作する荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧力タンク内で昇圧コイルの二次コイルの両外側の端面に間をあけてそれぞれ対向するように配置された二つのアース板と、この各アース板とそれに対向する二次コイルの端面との間の距離をそれぞれ調整する二つの距離調整機構とを備えた直流高圧電源装置が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-225476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高電圧の電源を供給する電源供給モジュールは、例えば、対称型のコッククロフト・ウォルトン回路といった高電圧生成回路を備える。このような高電圧生成回路は、回路構成を線対称にすることで、線対称軸の両側で発生するリップルノイズを打ち消すことが可能である。一方、電源供給モジュールでは、高電圧生成回路と基準電源電圧が印加される筐体との間や、高電圧生成回路に含まれる容量素子間に浮遊容量(電気的な弱い結合)が形成される。この浮遊容量の容量値は、各部品の実装位置や実装方向等によって定まる。
【0005】
このため、例えば、部品実装時に実装位置や実装方向がばらつくと、浮遊容量の容量値もそれに応じてばらつく。その結果、回路構成の対称性が低下し、リップルノイズが増加する恐れがある。特に、筐体内で高電圧生成回路が絶縁用樹脂部材で覆われたようなモールド構成の電源供給モジュールでは、絶縁用樹脂部材の比誘電率が空気よりも大きいため、浮遊容量の容量値はより大きくなる。この場合、回路構成の対称性はより低下し易くなり、リップルノイズはより増加し易くなる。一方、特許文献1には、浮遊容量の容量値を機械的に可変調整する方式が示される。ただし、当該方式は、前述したモールド構成の電源供給モジュールに対しては適用困難である。
【0006】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、リップルノイズを低減可能な電源供給モジュールおよび荷電粒子ビーム装置を提供することにある。
【0007】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による電源供給モジュールは、対称型の高電圧生成回路と、筐体と、第1および第2の電極と、浮遊容量調整回路とを有する。高電圧生成回路は、互いに対称構成である2系統の昇圧回路を含み、当該2系統の昇圧回路内の容量素子およびダイオードを用いて昇圧動作を行う。筐体は、高電圧生成回路を収容し、基準電源電圧が印加される。第1の電極は、筐体内で、2系統の昇圧回路の一方の近傍に固定的に設置され、第2の電極は、筐体内で、2系統の昇圧回路の他方の近傍に固定的に設置される。浮遊容量調整回路は、第1の電極と基準電源電圧との間の電気的な接続特性と、第2の電極と基準電源電圧との間の電気的な接続特性とをそれぞれ電気的に制御することで、2系統の昇圧回路の浮遊容量の容量値を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、電源供給モジュールにおいて、リップルノイズが低減可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。
図2図1における高電圧生成回路の構成例を示す回路図である。
図3図1の電源供給モジュールにおける主要部の実装形態の一例を示す模式図である。
図4】本発明の実施の形態2による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。
図5図4を変形した電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。
図6】本発明の実施の形態3による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。
図7図6における探索回路の処理内容の一例を示すフロー図である。
図8図6の電源供給モジュールにおいて、スイッチのオン・オフ状態の組み合わせの一例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態4による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。
図10】本発明の実施の形態5による荷電粒子ビーム装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
(実施の形態1)
《電源供給モジュールの構成》
【0014】
図1は、本発明の実施の形態1による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。図2は、図1における高電圧生成回路の構成例を示す回路図である。図1に示す電源供給モジュール(言い換えれば高電圧電源装置)10aは、高電圧生成回路101と、左側電極(第1の電極)102aと、右側電極(第2の電極)102bと、浮遊容量調整回路100aとを有する。
【0015】
高電圧生成回路101は、代表的には、図2に示されるように、対称型のコッククロフト・ウォルトン回路等である。図2の高電圧生成回路101は、基準ノード1003と、出力ノード1006と、2系統の昇圧回路CPa,CPbと、トランス1004と、交流信号源1005とを有する。基準ノード1003には、基準電源電圧(例えば接地電源電圧)が印加され、出力ノード1006には、出力電圧が生成される。
【0016】
2系統の昇圧回路CPa,CPbは、基準ノード1003と出力ノード1006との間でラダー状に接続される複数の容量素子1001および複数のダイオード1002を備える。2系統の昇圧回路CPa,CPbは、基準ノード1003と出力ノード1006とを結ぶ線対称軸を基準として互いに対称構成となっている。
【0017】
交流信号源1005は、トランス1004に交流電圧を供給する。トランス1004は、当該交流電圧を受けて2系統の昇圧回路CPa,CPbに対して互いに逆位相となる入力電圧を印加する。高電圧生成回路101は、当該入力電圧を、2系統の昇圧回路CPa,CPb内の容量素子1001およびダイオード1002を用いて順次昇圧(加算)し整流する。その結果、出力ノード1006には、入力電圧を昇圧加算し整流された高電圧(例えば数kV~数十kV等)が生成される。
【0018】
図1において、左側電極102aは、2系統の昇圧回路CPa,CPbの一方(ここではCPa)の近傍に固定的に設置される。右側電極102bは、2系統の昇圧回路CPa,CPbの他方(ここではCPb)の近傍に固定的に設置される。左側電極102aおよび右側電極102bのそれぞれは、単数または複数(ここでは複数)の分割電極PLで構成される。分割電極PLは、例えば、導電体板等である。
【0019】
浮遊容量調整回路100aは、複数のスイッチSWからなるスイッチ群103と、スイッチ制御回路105とを備える。複数のスイッチSWは、例えば、パワートランジスタまたはリレー等で構成され、左側電極102aおよび右側電極102b内の複数の分割電極PLと、基準電源電圧104との間にそれぞれ接続される。スイッチ制御回路105は、例えば、パワートランジスタまたはリレーを駆動するドライバ回路等で構成され、複数のスイッチSWのオン・オフをそれぞれ制御する。
【0020】
このような構成により、浮遊容量調整回路100aは、左側電極102aと基準電源電圧104との間の電気的な接続特性と、右側電極102bと基準電源電圧104との間の電気的な接続特性とをそれぞれ電気的に制御する。これによって、浮遊容量調整回路100aは、2系統の昇圧回路CPa,CPbの浮遊容量の容量値を調整する。
《電源供給モジュールの実装形態》
【0021】
図3は、図1の電源供給モジュールにおける主要部の実装形態の一例を示す模式図である。図3の電源供給モジュール10aは、図1に示した高電圧生成回路101、左側電極102aおよび右側電極102bを収容する導電性の筐体(ケース)106と、絶縁用樹脂部材108とを備える。筐体106には、基準電源電圧(例えば接地電源電圧)107が印加される。絶縁用樹脂部材108は、筐体106内で、高電圧生成回路101、左側電極102aおよび右側電極102bを覆う(言い換えればモールドする)ように設けられる。
【0022】
高電圧生成回路101は、例えば、図2の容量素子1001およびダイオード1002等が実装された配線基板で構成される。左側電極102aは、配線基板に実装された一方の昇圧回路CPaの近傍に設置される。具体的な設置形態として、例えば、配線基板とは異なる箇所に設置される形態や、配線基板上で、昇圧回路CPaの近傍(例えば、配線基板の外周部分等)に取り付けられる形態等が挙げられる。右側電極102bに関しても同様である。
【0023】
また、左側電極102aおよび右側電極102bは、調整用配線109を介してスイッチ群103に接続され、スイッチ群103を介して、筐体106と同じ基準電源電圧107に接続される。ただし、スイッチ群103の接続先は、場合によっては、筐体106とは異なる基準電源電圧であってもよい。
【0024】
スイッチ群103は、図1のスイッチ制御回路105(例えばドライバ回路)を含めて高電圧生成回路101と同じ配線基板上に実装されるか、または、配線基板とは別個の部品で構成されてもよい。調整用配線109は、配線基板上の配線、または、配線基板とは別のケーブル配線等である。調整用配線109の少なくとも一部は、実装形態に関わらず、絶縁用樹脂部材108で覆われる。
【0025】
ここで、高電圧生成回路101は、通常、図3に示されるように、基準電源電圧107が印加される筐体106内に収容される。これにより、高電圧生成回路101から外部への放電等を遮蔽することができ、高電圧生成回路101と外部とを絶縁することができる。さらに、この絶縁をより短い距離で行うため(ひいては、電源供給モジュール10aの小型化を図るため)、高電圧生成回路101と筐体106との間には、空気よりも絶縁性能が高い絶縁用樹脂部材108を設けることが望ましい。ただし、一般的に、絶縁用樹脂部材108は空気よりも誘電率が高い。
【0026】
このような構成を用いると、高電圧生成回路101と筐体106との間には、浮遊容量Ca’,Cb’が形成されることになる。浮遊容量Ca’は、高電圧生成回路101内の一方の昇圧回路CPaと筐体106との間に形成され、浮遊容量Cb’は、高電圧生成回路101内の他方の昇圧回路CPbと筐体106との間に形成される。この浮遊容量Ca’,Cb’の容量値は、絶縁用樹脂部材108を設けた場合に、より大きくなる。
【0027】
ここで、浮遊容量Ca’の容量値と浮遊容量Cb’の容量値とが同じであれば、高電圧生成回路101の対称性を保つことができる。しかし、例えば、組み立て時(部品実装時)に、高電圧生成回路101(例えば配線基板)と筐体106との位置関係にズレが生じたり、または、配線基板上の部品(特に容量素子1001)の実装位置にズレが生じたような場合には、浮遊容量Ca’,Cb’の容量値に不平衡が生じる。この不平衡の程度は、特に、絶縁用樹脂部材108を設けた場合、さらには、それに応じて絶縁距離を短くした場合に、より大きくなる。そして、不平衡の程度が大きくなるほど、高電圧生成回路101の対称性を保ち難くなり、リップルノイズが増大する恐れがある。
《浮遊容量調整回路の動作》
【0028】
そこで、図1の浮遊容量調整回路100aを用いて昇圧回路CPa,CPbの浮遊容量の容量値を調整することが有益となる。具体的には、例えば、左側電極102a内の一部の分割電極PLが、オン状態のスイッチSWを介して基準電源電圧107(または104)に接続されると、昇圧回路CPaの浮遊容量の容量値は増加する。一方、左側電極102a内の分割電極PLが、オフ状態のスイッチSWによってフローティング状態である場合、昇圧回路CPaの浮遊容量の容量値は変化しない。
【0029】
このように、スイッチ制御回路105は、複数のスイッチSWのオン・オフ状態を制御することで、昇圧回路CPa,CPbのそれぞれに対して浮遊容量を増加させる/させないを制御することができる。これにより、昇圧回路CPa,CPbの浮遊容量の容量値が平衡状態となるように調整することが可能になる。具体例として、2系統の昇圧回路CPa,CPbに元々形成される浮遊容量Ca’,Cb’の容量値が“Ca’<Cb’”の場合、左側電極102aを用いて昇圧回路CPa側の浮遊容量を増加させればよい。
【0030】
また、このような浮遊容量の容量値の調整は、絶縁用樹脂部材108を含めて電源供給モジュール10aの組み立てが完了したのちに実行される。その結果、組み立て後の電源供給モジュール10aにおいて、高電圧生成回路101の対称性を保つことができ、リップルノイズを低減することが可能になる。
【0031】
なお、スイッチ制御回路105は、より詳細には、例えば外部からのオン・オフ状態の指示を所定の信号配線を介して受信し、当該指示に基づいて複数のスイッチSWのオン・オフ状態を制御する。この場合、当該所定の信号配線に対して、電源供給モジュール10aの組み立て後に信号を送信できる構成になっていればよい。
《実施の形態1の主要な効果》
【0032】
以上、実施の形態1の電源供給モジュールを用いることで、代表的には、リップルノイズが低減可能になる。特に、図3のように絶縁用樹脂部材108を有する場合に、リップルノイズがより増大し易くなるが、この場合であっても、リップルノイズを十分に低減することが可能になる。
【0033】
なお、特許文献1の方式は、電極の位置を機械的に可変調整する方式であるため、絶縁用樹脂部材108によって電極の位置が固定される場合には適用困難となる。一方、実施の形態1の方式は、絶縁用樹脂部材108の有無に関わらず適用可能である。特に、絶縁用樹脂部材108が有る場合には、絶縁用樹脂部材108の影響を含めた上で浮遊容量を調整できる。さらに、実施の形態1の方式を用いることで、特許文献1のような機械的な可変調整方式と比較して、絶縁用樹脂部材108の有無に関わらず、より低コストで調整分解能を高めることが可能になる。
(実施の形態2)
《電源供給モジュールの構成》
【0034】
図4は、本発明の実施の形態2による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。図4に示す電源供給モジュール10bは、図1の構成例と比較して、左側電極(第1の電極)202aおよび右側電極(第2の電極)202bの構成が異なっている。左側電極202aおよび右側電極202bのそれぞれは、複数の分割電極PL0,PL1,PL2で構成される。そして、複数の分割電極PL0,PL1,PL2の少なくとも一部(この例では全て)は、互いにサイズ(面積)が異なっている。
【0035】
図4の例では、各分割電極PLn(n=0,1,2)のサイズは、2倍単位で異なる。具体例として、各分割電極PL0,PL1,PL2のサイズは、それぞれ、10mm,20mm,40mm等である。このように、互いにサイズが異なる分割電極を用いることで、例えば、同サイズの分割電極を用いる場合と比較して、分割電極の数やスイッチSWの数を減らした上で同程度の分解能を得ることができる。
【0036】
この分割電極の数(スイッチの数)の削減効果は、特に、分割電極のサイズを2倍単位で定めた場合により大きくなる。例えば、3個の分割電極PL0,PL1,PL2を用いた場合、8(=2)段階(0~70mmの範囲で10mm刻み)の調整が可能となる。このように、基準電源電圧104に接続される電極のサイズを可変調整することで、理想的には、当該電極のサイズに比例するように浮遊容量の容量値も調整される。
【0037】
図5は、図4を変形した電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。図5に示す電源供給モジュール10cは、図4の構成例と比較して、左側電極(第1の電極)204aおよび右側電極(第2の電極)204bの構成が異なっている。左側電極204aおよび右側電極204bのそれぞれは、複数の電極グループPLGを備える。そして、当該複数の電極グループPLGのそれぞれに含まれる複数の分割電極PL0,PL1,PL2は、図4の場合と同様に、互いに2倍単位でサイズが異なっている。
【0038】
ここで、例えば、前述した図4の構成例において、左側電極202aのサイズを同一の刻み幅で8段階に調整した場合、理想的には、浮遊容量の容量値も同一の刻み幅で8段階に調整される。ただし、詳細には、浮遊容量の容量値の刻み幅は、同一であるとは限らない。これは、浮遊容量の容量値は、分割電極と高電圧生成回路101内の各部品との相対的な位置関係に依存するためである。これに伴い、例えば、浮遊容量の容量値の刻み幅が大きく異なると、浮遊容量の容量値を目標値に定めることが困難となる恐れがある。
【0039】
そこで、図5では、複数の電極グループPLGが設けられ、各電極グループPLGは、それぞれ異なる位置に分散して設置される。これにより、分割電極の位置依存性がある場合でも、浮遊容量の容量値を目標値に定め易くなる。すなわち、複数の電極グループPLGの中から単数又は複数を選択し、かつ、選択された電極グループPLGの中から単数または複数の分割電極PL0,PL1,PL2を選択することで、これらの組み合わせによって目標値に近い容量値が得られ易くなる。
《実施の形態2の主要な効果》
【0040】
以上、実施の形態2の電源供給モジュールを用いることで、実施の形態1で述べた各種効果に加えて、さらに、必要とされる分割電極の数やスイッチSWの数を減らすことができる。その結果、電源供給モジュールの低コスト化等が実現可能になる。
(実施の形態3)
《電源供給モジュールの構成》
【0041】
図6は、本発明の実施の形態3による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。図6に示す電源供給モジュールは、例えば、図1に示したような高電圧生成回路101、分割電極PL、スイッチ群103およびスイッチ制御回路105に加えて、リップル測定器300と、探索回路303と、記憶回路304とを備える。
【0042】
リップル測定器300は、ハイパスフィルタ301および電圧検出器302を備え、高電圧生成回路101の出力電圧に含まれるリップル振幅を測定する。この際に、ハイパスフィルタ301は、高電圧生成回路101の出力電圧の中からリップルノイズを抽出し、電圧検出器302は、当該リップルノイズの電圧振幅を検出する。
【0043】
探索回路303は、スイッチ制御回路105を介してスイッチ群103内の複数のスイッチSWのオン・オフ状態を変更しながら、リップル測定器300で測定されるリップル振幅が最小となるオン・オフ状態を探索する。そして、探索回路303は、探索結果として得られるオン・オフ状態を記憶回路304に格納する。スイッチ制御回路105は、その後の通常動作において、当該記憶回路304に格納されたオン・オフ状態に基づいてスイッチ群103を制御する。
【0044】
電圧検出器302、探索回路303および記憶回路304は、例えば、単数または複数の専用IC(Integrated Circuit)を用いる形態や、マイコンを用いる形態等を代表に様々な実装形態で実現可能である。例えば、マイコンを用いる場合、電圧検出器302は、アナログディジタル変換器等によって実現され、探索回路303は、CPU(Central Processing Unit)を用いたプログラム処理等によって実現される。このようなマイコンは、高電圧生成回路101と同一の配線基板上に実装されてもよい。また、専用ICを用いる場合、例えば、探索回路303は、デジタル回路等によって実現される。
《探索回路の詳細》
【0045】
図7は、図6における探索回路の処理内容の一例を示すフロー図である。図8は、図6の電源供給モジュールにおいて、スイッチのオン・オフ状態の組み合わせの一例を示す図である。図8において、ここでは、左側電極および右側電極のそれぞれが3個の分割電極PLを備える場合を想定する。この場合、計6個の分割電極PLに対応する6個のスイッチSWに、それぞれ固有番号であるスイッチNo.が割り当てられる。また、6個のスイッチSWに伴い、オン・オフ状態の組み合わせは64通り存在し、この64通りの組み合わせ毎に組み合わせNo.が割り当てられる。図8のような組み合わせテーブルは、例えば、予め記憶回路304に格納される。
【0046】
図7のフローは、所定のタイミングで適宜実行される。一例として、電源投入後のシステムの初期化段階で実行される場合や、または、システムのメンテナンス時等においてユーザの要求に応じて実行される場合や、あるいは、電源供給モジュールの組み立て後に一度だけ実行される場合等が挙げられる。
【0047】
図7のステップS201において、探索回路303は、記憶回路304から組み合わせNo.1に対応するオン・オフ状態を取得し、当該オン・オフ状態をスイッチ制御回路105を介してスイッチ群103に設定する。ステップS202において、探索回路303は、リップル測定器300を用いて、高電圧生成回路101のリップル振幅を測定する。ステップS203において、探索回路303は、現在の組み合わせNo.とリップル振幅の測定値との対応関係を記憶回路304に格納する。
【0048】
その後、ステップS204において、探索回路303は、記憶回路304から次の組み合わせNo.に対応するオン・オフ状態を取得し、当該オン・オフ状態をスイッチ制御回路105を介してスイッチ群103に設定する。ステップS205において、探索回路303は、リップル測定器300を用いて、高電圧生成回路101のリップル振幅を測定する。
【0049】
続いて、ステップS206において、探索回路303は、ステップS205でのリップル振幅の現測定値が記憶回路304に格納されているリップル振幅の旧測定値よりも小さいか否かを判定する。ステップS206で現測定値が旧測定値よりも小さい場合(“Yes”時)、ステップS207において、探索回路303は、現在の組み合わせNo.とリップル振幅の現測定値との対応関係を、既存の対応関係に上書きする形で記憶回路304に格納する。
【0050】
一方、ステップS206で現測定値が旧測定値以上の場合(“No”時)、ステップS208において、探索回路303は、記憶回路304に次の組み合わせNo.が有るか否かを判定する。ステップS208で次の組み合わせNo.が有る場合(“Yes”時)、探索回路303は、ステップS204に戻り、次の組み合わせNo.が無くなるまでステップS204~S207の処理を繰り返す。
【0051】
一方、ステップS208で次の組み合わせNo.が無い場合(“No”時)、探索回路303は探索動作を終了する。その結果、記憶回路304は、探索結果として、リップル振幅を最小にする組み合わせNo.(すなわち、各スイッチSWのオン・オフ状態)のみを記憶することになる。ステップS209において、探索回路303は、その後に通常動作を行う際に、当該記憶回路304内の探索結果(組み合わせNo.)に対応するオン・オフ状態をスイッチ制御回路105へ指示する。これに応じて、スイッチ制御回路105は、スイッチ群103を制御する。
【0052】
なお、ここでは、リップル振幅が最小となるスイッチSWの組み合わせを総当りで探索する方法を用いたが、例えば、二分法などの反復法により組み合わせを探索してもよい。また、ここでは、図1の構成例に対する適用例を示したが、勿論、図4または図5の構成例に対しても同様に適用可能である。
《実施の形態3の主要な効果》
【0053】
以上、実施の形態3の電源供給モジュールを用いることで、実施の形態1,2で述べた各種効果に加えて、さらに、リップル振幅が最小となるように自動的に浮遊容量を調整することが可能になる。なお、浮遊容量の調整は、例えば、電源供給モジュールの組み立て後に一度だけ実行されればよい場合がある。このような場合、例えば、図6のリップル測定器300および探索回路303は、外部のテスト装置等に実装されてもよい。
【0054】
ただし、浮遊容量の容量値は、例えば、図3の絶縁用樹脂部材108の経時変化等に伴い変化する場合がある。この場合、実使用段階での浮遊容量の再調整を容易に可能にするため、リップル測定器300および探索回路303は、電源供給モジュールの一部として実装されることが望ましい。また、この際には、探索回路303に対して外部からイネーブル信号等を発行できるように構成することが望ましい。
(実施の形態4)
《電源供給モジュールの構成》
【0055】
図9は、本発明の実施の形態4による電源供給モジュールの構成例を示す概略図である。図9に示す電源供給モジュール10dは、図1の構成例と比較して、浮遊容量調整回路100bの構成が異なっている。図9の浮遊容量調整回路100bは、複数の可変容量素子CVからなる可変容量群111と、可変容量制御回路112とを備える。複数の可変容量素子CVは、左側電極102aおよび右側電極102b内の複数の分割電極PLと、基準電源電圧104との間にそれぞれ接続される。可変容量制御回路112は、複数の可変容量素子CVの容量値をそれぞれ制御する。
【0056】
このような構成により、浮遊容量調整回路100bは、左側電極102aと基準電源電圧104との間の電気的な接続特性と、右側電極102bと基準電源電圧104との間の電気的な接続特性とをそれぞれ電気的に制御する。これによって、浮遊容量調整回路100bは、図1の場合と同様に、2系統の昇圧回路CPa,CPbの浮遊容量の容量値を調整する。
【0057】
なお、ここでは、左側電極102aおよび右側電極102bのそれぞれは複数の分割電極PLで構成されたが、例えば、単数の分割電極PLで構成されてもよい。この場合であっても、当該単数の分割電極PLに接続される可変容量素子CVの容量値を制御することで、浮遊容量の容量値を調整できる。
《実施の形態4の主要な効果》
【0058】
以上、実施の形態4の電源供給モジュールを用いることで、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。
(実施の形態5)
《荷電粒子ビーム装置の構成》
【0059】
図10は、本発明の実施の形態5による荷電粒子ビーム装置の構成例を示す概略図である。図10に示す荷電粒子ビーム装置40は、荷電粒子ビームの一つである電子ビーム415の放出・加速等を制御する電子銃412を有し、電子銃412からの電子ビーム415を測定対象であるターゲット(試料)414等に照射するものとなっている。電子銃412は、電子源401と、引出電極402と、引出電極電源403と、加速電源404と、サプレッサ電極電源405と、サプレッサ電極406と、加速電極407とを備える。
【0060】
電子源401は、電子を放出する。引出電極電源403は、引出電極402に印加する電圧(例えば、電子源電圧に対して正の電圧)を生成し、引出電極402に印加する。これに応じて、引出電極402は、電子源401からターゲット方向に電子を引き出す。加速電源404は、引出電極402により引き出された電子を加速させるための電圧を生成し、加速電極407に印加する。これに応じて、加速電極407は、引出電極402で引き出された電子を引き寄せて加速させる。サプレッサ電極406は、熱電子が電子ビーム415に混入することを抑える。サプレッサ電極電源405は、当該サプレッサ電極406に印加する電圧を生成する。
【0061】
このような構成において、引出電極電源403または加速電源404の少なくとも一方(望ましくは両方)に、実施の形態1~4のいずれかの電源供給モジュールが適用される。さらに加えて、サプレッサ電極電源405に、実施の形態1~4のいずれかの電源供給モジュールが適用されてもよい。例えば、これらの各電源からの出力電圧にリップルノイズが生じると、電子ビーム415に揺らぎが生じ、荷電粒子ビーム装置40の性能(例えば、電子ビーム415の照射位置の精度や照射エネルギーのばらつき精度等)が低下する恐れがある。そこで、実施の形態1~4のいずれかの電源供給モジュールを適用することが有益となる。
《実施の形態5の主要な効果》
【0062】
以上、実施の形態5の荷電粒子ビーム装置を用いることで、実施の形態1~4で述べた各種効果に加えて、荷電粒子ビームの揺らぎを抑制することができ、荷電粒子ビーム装置の性能を向上させることが可能になる。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
10a~10d…電源供給モジュール、40…荷電粒子ビーム装置、100a,100b…浮遊容量調整回路、101…高電圧生成回路、102a…左側電極、102b…右側電極、104…基準電源電圧、105…スイッチ制御回路、106…筐体、107…基準電源電圧、108…絶縁用樹脂部材、300…リップル測定器、303…探索回路、401…電子源、402…引出電極、403…引出電極電源、404…加速電源、1001…容量素子、1002…ダイオード、CPa,CPb…昇圧回路、PL…分割電極、PLG…電極グループ、SW…スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10