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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】固液分離設備
(51)【国際特許分類】
   B01D 25/12 20060101AFI20221208BHJP
   B01D 36/00 20060101ALI20221208BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20221208BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20221208BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20221208BHJP
   C02F 11/122 20190101ALI20221208BHJP
【FI】
B01D25/12 Z
B01D36/00
B01D21/00 C
B01D21/24 Q
B01D21/30 G
C02F11/122
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018216311
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020081927
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 征千
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 將大
(72)【発明者】
【氏名】長野 晋作
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034115(JP,A)
【文献】特開昭52-144151(JP,A)
【文献】実開昭55-159712(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/01、21/02-21/34、
24/00-35/04、35/08-37/08
C02F 11/00-11/20
H01M 4/48-4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー中の固形物を回収する設備であって、
スラリーを収容するスラリー槽と、
該スラリー槽から供給されるスラリーを固液分離する固液分離機と、
該固液分離機で分離された分離液を収容し、該分離液に含まれる固形物を沈降分離する沈降分離槽と、
該沈降分離槽で分離された固形物を含む濃縮液を前記スラリー槽に供給する沈降濃縮液供給機構と、を備えており、
前記濃縮液が、
前記沈降分離槽から上澄み液を排出して形成されるものであり、
前記沈降濃縮液供給機構は、
記沈降分離槽に設けられた上部排出口からの前記上澄み液の排出を制御する上澄み液排出手段と、
該上澄み液排出手段により前記上澄み液の排出が完了した後、前記スラリー槽に前記濃縮液を搬送する機能を有する濃縮液搬送手段と、を備えており、
前記上澄み液排出手段は、
上澄み液の排出を開始するタイミングを制御する機能を有している
ことを特徴とする固液分離設備。
【請求項2】
前記上澄み液排出手段は、
前記沈降分離槽内の分離液の液面を検出するレベル計を備えており、
該レベル計に基づいて上澄み液の排出を停止するタイミングを制御する機能を有している
ことを特徴とする請求項1記載の固液分離設備。
【請求項3】
前記沈降分離槽は、
上澄み液を排出する上部排出口と、該上部排出口よりも下方に位置し前記濃縮液を排出する下部排出口と、を備えており、
該下部排出口が、前記濃縮液搬送手段に接続されており、
前記上部排出口が、前記上澄み液排出手段に接続されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の固液分離設備。
【請求項4】
前記固液分離機および/または前記沈降分離槽を複数備えている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の固液分離設備。
【請求項5】
前記固液分離機がフィルタープレス装置である
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の固液分離設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固液分離設備に関する。さらに詳しくは、スラリー中から固形物を分離するために使用される固液分離設備に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオン等を含有する複数の原料液を混合して、原料液中の金属イオン等を反応させて反応生成物を製造することが行われている。かかる工程において、反応生成物が固形物となって析出する場合には、反応生成物と原料液とが混合したスラリーから反応生成物を分離して反応生成物が回収される(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池の正極材の正極活物質として使用されるニッケル複合酸化物は、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物を混合して、その後焼成して製造される。この原料となるニッケル複合水酸化物は、例えば、ニッケルやコバルト等の金属化合物を含む原料液を調製し、この原料液とアンモニウムイオンを含むアルカリ水溶液に調製された原料液とを混合する。すると、ニッケルを含む複数の金属を含有する複合水酸化物が析出して、固体のニッケル複合水酸化物粒子と液体とからなるスラリーが形成される。
そして、このスラリーをフィルタープレス等によって固液分離すれば、固形物であるニッケル複合水酸化物粒子を回収することができる。一方、固液分離された液体分(ろ液)は、貯留槽を経て廃液として排水処理工程に送液され廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-300121号公報
【文献】特開2004-261775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、フィルタープレスによって固液分離した場合、フィルタープレスの構造上、排水処理工程に送液されるろ液中にはフィルタープレスで分離できなかった固形物が含有される。例えば、上述した製法の場合、スラリーに含まれていたニッケル複合水酸化物粒子のうち、約1.5%が廃液とともに排水処理工程に送液される場合もある。しかも、かかる液はそのまま(固形物を含有したまま)廃棄されているのが現状である。
このように、現状では、廃液中に存在する有効成分である反応生成物が利用されないまま廃棄されているのが実情であり、廃液からこれら反応生成物を回収して有効利用することが求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、フィルタープレス後の処理液に含まれる固形物を回収することができる固液分離設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の固液分離設備は、スラリー中の固形物を回収する設備であって、スラリーを収容するスラリー槽と、該スラリー槽から供給されるスラリーを固液分離する固液分離機と、該固液分離機で分離された分離液を収容し、該分離液に含まれる固形物を沈降分離する沈降分離槽と、該沈降分離槽で分離された固形物を含む濃縮液を前記スラリー槽に供給する沈降濃縮液供給機構と、を備えており、前記濃縮液が、前記沈降分離槽から上澄み液を排出して形成されるものであり、前記沈降濃縮液供給機構は、記沈降分離槽に設けられた上部排出口からの前記上澄み液の排出を制御する上澄み液排出手段と、該上澄み液排出手段により前記上澄み液の排出が完了した後、前記スラリー槽に前記濃縮液を搬送する機能を有する濃縮液搬送手段と、を備えており、前記上澄み液排出手段は、上澄み液の排出を開始するタイミングを制御する機能を有していることを特徴とする。
第2発明の固液分離設備は、第1発明において、前記上澄み液排出手段は、前記沈降分離槽内の分離液の液面を検出するレベル計を備えており、該レベル計に基づいて上澄み液の排出を停止するタイミングを制御する機能を有していることを特徴とする。
第3発明の固液分離設備は、第1または第2発明において、前記沈降分離槽は、上澄み液を排出する上部排出口と、該上部排出口よりも下方に位置し前記濃縮液を排出する下部排出口と、を備えており、該下部排出口が、前記濃縮液搬送手段に接続されており、前記上部排出口が、前記上澄み液排出手段に接続されていることを特徴とする。
第4発明の固液分離設備は、第1、第2または第3発明において、前記固液分離機および/または前記沈降分離槽を複数備えていることを特徴とする。
第5発明の固液分離設備は、第1、第2、第3または第4発明において、前記固液分離機がフィルタープレス装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、沈降分離槽で形成された濃縮液を沈降濃縮液供給機構によりスラリー槽に供給すれば、廃棄される固形物を有効に利用することができる。また、所定の時間静置した後に上澄み液の排出を開始することによって、固形物の沈降分離を適切に行うことができる。このため、固形物の濃度が高い液相を沈降分離槽の内底面近傍に形成することができる。
第2発明によれば、分離液の液面を計測するレベル計に基づいて上澄み液の排出を停止するタイミングを制御するので、濃縮液の濃縮率を適切に調製することができる。
第3発明によれば、濃縮液を排出する下部排出口が上澄み液を排出する上部排出口よりも下方に位置するように設けられているので、濃縮液を適切にスラリー槽に供給することができる。
第4発明によれば、固液分離機を複数備えることによりスラリー中の固形物の回収率を高くすることができる。また、沈降分離槽を複数備えることにより沈降分離に要する時間を抑制できるので、作業効率を向上させることができる。
第5発明によれば、固形物の回収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の固液分離設備1の概略ブロック図である。
図2】(A)は沈降分離槽20における固形物MPの沈降状況を説明した概略説明図であり、(B)は上澄み液の排出状況の概略説明図であり、(C)は濃縮液CLをスラリー槽2に供給する状況の概略説明図である。
図3】沈降濃縮液供給機構10の上澄み液排出手段11の作動フローである。
図4】沈降濃縮液供給機構10の濃縮液搬送手段12の作動フローである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の固液分離設備は、スラリー中の固形物を回収する設備であって、廃液に含まれる固形物を効率的に回収することができるようにしたことに特徴を有している。
【0011】
本実施形態の固液分離設備によって固形物が回収されるスラリーはとくに限定されない。このようなスラリーとしては、例えば、二次電池用正極材の正極材料を製造する際に発生するスラリー、つまり、固体のニッケル複合水酸化物粒子と液体とからなるスラリーや電子写真用のトナースラリー、めっき成分と老化液の混合しためっき廃液のスラリー等を挙げることができる。
また、スラリーに含まれる固形物の大きさはとくに限定されないが、後述する固液分離機としてフィルタープレス装置を使用する場合であれば、固形物の大きさが、1μm以上のもの、好ましくは5μm以上のものが好ましい。かかる大きさの固形物であれば、本実施形態の固液分離設備による固液分離後の従来は廃液として処理されていた分離液に含まれる固形物の回収効率を高くすることができる。
【0012】
<本実施形態の固液分離設備1>
以下、図面に基づいて本実施形態の固液分離設備1を説明する。
図1において、符号2は、金属化合物の前処理工程等の外部から金属化合物等の粒子などからなる固形物MPを含むスラリーが供給される、本実施形態の固液分離設備1のスラリー槽を示している。このスラリー槽2は、ある程度の量のスラリーを収容することができる容積を有するものである。このスラリー槽2は、配管を介して固液分離機3に連通されている。
【0013】
固液分離機3は、配管を通してスラリー槽2から搬送されるスラリーを固形物からなる固体と液体に分離する機能を有するものである。この固液分離機3は、例えば、フィルタープレス装置や真空ろ過機、ベルトプレス等の装置を挙げることができる。この固液分離機3は、沈降分離槽20に接続されている。固液分離機3で分離された分離液Lは、配管等により沈降分離槽20に搬送される。
【0014】
沈降分離槽20は、配管を通して固液分離機3から搬送される分離液Lを収容することができる容積を有するものである。そして、収容した分離液L中に含まれる固形物MPと液体の比重差を利用して、固形物MPの沈降分離を行わせるものである。
この沈降分離槽20は、沈降濃縮液供給機構10を介してスラリー槽2に連通されている。
【0015】
沈降分離槽20には、上部排出口21と、この上部排出口21よりも下方に位置する下部排出口21を備えている。この上部排出口21は、沈降分離した固形物MPを含む液層(濃縮液CL層、または単に濃縮液CLということもある)よりも上方に形成され、かかる液層に比べて固形物MP濃度が低い液層(以下。上澄み液の層、または単に上澄み液ということもある)を外部へ排出する排出口である。また、下部排出口22は、上部排出口21よりも下方に位置するように設けられており、上述した濃縮液CL層を外部へ排出する排出口である。
沈降分離槽20の上部排出口21は、沈降濃縮液供給機構10の上澄み液排出手段11を介して排水処理施設等に連通されている。一方、上澄み液が排出された後に形成された固形物MPを含む濃縮液CLが排出される下部排出口22は、沈降濃縮液供給機構10の濃縮液搬送手段12を介してスラリー槽2に連通されている。
【0016】
つまり、沈降濃縮液供給機構10は、沈降分離槽20の上澄み液を廃液として排出させる機能と、沈降分離槽20で沈降分離された固形物MPを含む濃縮液CLをスラリー槽2へ搬送しスラリー槽2に供給する機能と、を有するものである。
言い換えれば、沈降濃縮液供給機構10は、沈降分離槽20から上澄み液を排出する機能を有する上澄み液排出手段11と、上澄み液の排出が完了した後に沈降分離槽20内に形成される濃縮液CLをスラリー槽2に搬送し供給する機能を有する濃縮液搬送手段12とを備えている。
【0017】
<本実施形態の固液分離設備1による分離液L中の固形物MPの回収作業>
以上のごとき構成であるので、本実施形態の固液分離設備1による分離液L中の固形物MPの回収作業は、以下のように実施される。
【0018】
図1に示すように、まず、スラリー槽2に供給され収容されているスラリーが配管を通して固液分離機3に供給される。すると、固液分離機3によって固形物が塊となった固体と液体(分離液L)に分離される。分離された固体は次工程に供給される。一方、分離液Lは配管を介して沈降分離槽20に搬送される。この分離液Lには、固液分離機3で捕集されきれなかった固形物MPが微量に含まれており、かかる状態の分離液Lが沈降分離槽20に供給される。
【0019】
図2(A)に示すように、沈降分離槽20に供給された分離液Lは、分離液Lの中で所定の時間静置される。分離液Lを所定の時間静置することによって、分離液L中に含まれる固形物MPが沈降分離される。つまり、固形物MPを含む分離液Lを静置することによって、固形物MPと液体の比重差を利用した沈降分離により固形物MPは、沈降分離槽20の内底面に向かって沈降する。一方、分離液L中の固形物MPが沈降することによって、かかる下層(濃縮液CL層)の上層には、固形物MPがほとんど含まれない上澄み液の層を形成することができる。
【0020】
この所定の時間経過後に形成された上澄み液の層は、沈降分離槽20の上部排出口21から、この上部排出口21に接続した上澄み液排出手段11を介して廃液処理施設等へ搬送される(図2(B)参照)。
一方、上澄み液の排出が完了した後の沈降分離槽20内には、濃縮液CLが残留する。この濃縮液CLは、分離液Lから固形物MPをほとんど含まれない状態の上澄み液が排出された後に形成される液体であるので、静置直前の分離液L中の固形物MP濃度(図2の(A)左図参照)と比べて固形物MPが高濃度に含まれた状態となる(図2の(C)参照)。言い換えれば、この濃縮液CLは、沈降分離槽20に供給された分離液Lを濃縮することによって形成されているのである。
この濃縮液CLは沈降分離槽20の下部排出口22から排出されて、この下部排出口22に接続された濃縮液搬送手段12の配管へ供給される(図2(C)参照)。
【0021】
濃縮液搬送手段12はスラリー槽2に連通されているので、濃縮液搬送手段12に供給された濃縮液CLはスラリー槽2まで搬送されて、スラリー槽2に供給される(図2(C)参照)。スラリー槽2に供給された濃縮液CLは、スラリー槽2内に収容されているスラリーと混合される。
すると、分離液L中から回収された固形物MPは、スラリー槽2内のスラリーとともに再度、固液分離機3に供給されるので、他の固形物MPとともに固液分離機3で液体から分離されて塊の個体として回収される可能性が高くなる(図1参照)。
【0022】
また、同じ固形物MPが再度固液分離機3で回収されずに分離液L内に残留した場合でも、再度、沈降分離槽20で沈降分離が行われ、沈降濃縮液供給機構10によって濃縮された分離液Lがスラリー槽2に供給されるので、スラリー槽2内のスラリーとともにもう一度、固液分離機3に供給される。
【0023】
つまり、固液分離装機3で回収されずに分離液L内に残留した固形物MPであっても、スラリー槽2→固液分離機3→沈降分離槽20→沈降濃縮液供給機構10というループを何回も繰り返し流れるうちに分離液Lに含まれるほぼ全て(例えば、90%以上)の固形物MPを回収することができる。
したがって、従来であれば固形物が含まれているにも関わらず廃棄されていた分離液から適切に固形物を回収することができるので、固形物の回収効率を高くすることができる。しかも、従来廃棄されていた固形物を回収して利用することができるので、固形物を原料とする製品等の製造コストを抑えることも可能となる。
【0024】
しかも、分離液Lを沈降分離槽20で静置するだけであるので、分離液L中に含まれる固形物MPを濃縮するために特別な装置を設けなくてもよく、また濃縮のために特別にエネルギー供給を行わなくてもよくなるので、設備が複雑化したり大型化したりすることを抑制することができる。
【0025】
(スラリー槽2)
スラリー槽2は、反応によって固形物MPを生成する反応槽をそのまま使用してもよいし、反応槽とは別に設けてもよい。つまり、反応槽で形成されたスラリーを一旦貯留する槽を設けてスラリー槽2としてもよい。
反応槽と別にスラリー槽2を設ければ、固液分離機3に供給するスラリーはその前工程(例えば反応槽)などから直接供給されないので、固液分離機3に供給する前にスラリーを所定の状態となるように調製することもできる。すると、固液分離機3における固液分離を安定した状態で実施することができる。
【0026】
(固液分離機3)
固液分離機3は、スラリー等を固形物と液体(分離液L)に分離できるものであればよく、とくに限定されない。例えば、フィルタープレス装置や真空ろ過機やベルトプレス等を使用することができる。また、固液分離機3は、フィルタープレス装置のように間欠的に固液分離処理を実施するもの(バッチ処理するもの)や真空ろ過機やベルトプレス等のように連続的に固液分離処理を実施するもののいずれも採用することができる。
【0027】
なお、固液分離機3としてバッチ方式のフィルタープレス装置等を採用する場合には、複数のフィルタープレス装置等を採用した構成にするのが好ましい。固液分離機3がフィルタープレス装置のようなバッチ処理の装置であっても、連続した固液分離作業を行うことができるので、固液分離に要する作業時間を抑制して、作業効率を向上させることができるようになる。
【0028】
フィルタープレス装置は、堅牢性と操作性に優れている一方、構造上、加圧状態におけるろ板間の隙間からの固形物MPの漏れ、ろ布破れによる固形物MPの漏れ等が発生する可能性がある。
しかしながら、本実施形態の固液分離設備1が沈降分離槽20と沈降濃縮液供給機構10とを備えているので、固液分離機3としてフィルタープレス装置を採用した場合であっても、フィルタープレス装置で回収しきれなかった固形物MPを適切に回収することができる。具体的には、本実施形態の固液分離設備1のように固液分離機3であるフィルタープレス装置の下流側には沈降分離槽20が設けられており、フィルタープレス装置で分離された分離液Lが沈降分離槽20へ供給されるようになっている。このため、上述したような漏れが発生しても漏れた固形物MPは分離液Lとともに沈降分離槽20へ供給することができる。
【0029】
しかも、フィルタープレス装置の操業条件やメンテナンス等にある程度の余裕を持たせても、固形物MPの回収効率の低下を抑制することができるという利点が得られる。例えば、本実施形態の固液分離設備1では上述したようにある程度の漏れも許容することができるので、フィルタープレスの作動を必要以上に厳密にしなくてもよくなる。このため、操業管理が容易になる。また、メンテナンス頻度を少なくすることができるので、管理コストなども抑えることができる。
【0030】
(沈降分離槽20)
固液分離機3で分離された分離液Lは、固液分離機3の下流側に位置する沈降分離槽20に配管を通して供給される。
沈降分離槽20は、固液分離機3で分離された分離液Lを収容することができる収容空間を有するものであれば、とくに限定されない。例えば、図2に示すような、内部に中空な空間を有する有底筒状の構造を有するものを使用することができる。
【0031】
図2(A)に示すように、沈降分離槽20は、分離液Lの供給が完了した後、所定の時間静置する。すると、分離液L中に含まれる固形物MPは、固形物MPと液体との比重差によって固形物MPは沈降分離槽20の内底面に沈降する一方、分離液Lの上層には固形物MPが減少した液層の上澄み液層が形成される。
この静置時間を所定の時間行うことにより、固形物MPの沈降分離は進行して沈降分離槽20の内底面付近に固形物MPの濃度が高くなる層(濃縮液CL層)を形成することができる。
固形物MPを沈降分離するのに要する静置時間は、様々な方法(例えば、粒度測定法、超遠心法など)で求めることができる。静置時間をストークスの法則を用いる場合には、以下のストークスの式(1)によって求めることができる。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、上記式(1)において、
v:粒子の沈降速度〔cm/s]
ρs:粒子の密度〔g/cm
ρ:水の密度〔g/cm]
d:粒子の直径〔cm」
g:重力加速度〔cm/s]
μ:水の粘度〔g/cm・s]
である。
【0034】
沈降分離槽20には、上述したように上澄み液を排出するための上部排出口21と、上澄み液を排出が完了した後に形成される濃縮液CLを排出する下部排出口22が設けられている。そして、この上部排出口21には上澄み液を排水処理施設等に搬送するための排出手段11が接続されており、下部排出口22には濃縮液CLをスラリー槽2に搬送するための濃縮液搬送手段12が接続されている。
【0035】
上部排出口21は、上澄み液を沈降分離槽20から排出手段11の配管に供給することができればよい。例えば、上部排出口21を下部排出口22よりも上方に位置するように設けることができる。具体的には、上部排出口21は、上澄み液の排出完了後に形成される濃縮液CLの液面LSの沈降分離槽20の内底面からの高さよりもやや高くなるように沈降分離槽20の側壁面に内部と外部を連通するように形成することができる(図2参照)。この場合、上澄み液を適切に排出手段11に供給することができる。
また、例えば、上部排出口21を、上澄み液を排出手段11の配管の先端に接続した状態で沈降分離槽20内において、可動自在となるように形成してもよい。この場合、濃縮液CLの液面LSの高さに応じて上部排出口21を移動できるようなるので、上澄み液の排出の自由度を向上させることができる。
【0036】
下部排出口22は、濃縮液CLを沈降分離槽20から濃縮液搬送手段12の配管に供給することができればよい。例えば、下部排出口22を、沈降分離槽20の内底面近傍の沈降分離槽20の側壁面に内部と外部を連通するように形成することができる(図2参照)。この場合、濃縮液CLを適切に濃縮液搬送手段12に供給することができる。
【0037】
なお、この沈降分離槽20は、固液分離機3をバッチで可動した際にバッチごと発生する分離液Lを収容するような構成としてもよいし、複数回のバッチ処理で得らえる分離液Lをまとめて収容するような構成としてもよい。
しかし、沈降分離槽20における沈降分離時間は固液分離機3の可動時間よりも長い場合を要することが多い。この場合、沈降分離槽20に分離液Lを供給できない状態となるので、固液分離機3を可動させることができない時間が発生する。かかる場合、予備タンク等を設けてかかるタンクに分離液Lを一時的に保管するようにしてもよいが設備が大型化したり煩雑化したりする可能性がある。
そこで、複数の沈降分離槽20を有する構成とすれば、上記問題を解消することができるようになる。具体的には、固液分離機3がバッチ毎に可動した際に発生する分離液Lをそれぞれ沈降分離槽20に供給できるような構成とする。
この場合、沈降分離時間に要する時間を待つことなく固液分離機3を連続的に稼働させることができるようになる。つまり、沈降分離槽20における沈降分離時間に要する時間によって生じる生産性の低下を抑制することができるようになる。
【0038】
(沈降濃縮液供給機構10)
沈降濃縮液供給機構10は、上述したように沈降分離槽20で形成される上澄み液の排出を制御する上澄み液排出手段11と、この上澄み液排出手段11により上澄み液の排出が完了した後において、沈降分離槽20内に残留する濃縮液CLをスラリー槽2に搬送する機能を有する濃縮液搬送手段12とを備えている。
【0039】
上澄み液排出手段11は、沈降分離槽20内に形成される上澄み液の排出を開始するタイミングを制御する機能と、上澄み液の排出を停止するタイミングを制御する機能とを有している(例えば、図3参照)。
上澄み液の排出を開始するタイミングは、固形物MPの沈降分離の状況に基づいて決定することができる。例えば、固形物MPの沈降分離に要する時間を上記のストークスの式(1)によって求める場合には、かかる式によって求められる時間に基づいて決定することができる。
【0040】
静置時間を長くすれば、沈降分離槽20内の低層に沈降する固形物MPの濃度を向上させることができる。しかし、タクトタイムの伸びによるデメリットと固形物MPの回収率の向上の観点から、上澄み液の排出を開始するタイミングを決定するのが望ましい。例えば、9割程度の固形物MPの沈降が完了した段階を上澄み液の排出を開始するタイミングとすることができる。
【0041】
例えば、溶液が水、固形物MPの比重が2~3の場合、静置時間が10分~20分で分離液L中の9割以上の固形物MPを沈降させることができる。とくに、固形物MPの密度が分離液Lの液体と比較して十分に大きく、かつ液体の粘度が低い分離液Lを用いる場合には、タクトタイムを短くしかつ固形物MPの回収率をより向上させることができるという利点が得られる。
【0042】
上澄み液の排出を停止するタイミングは、上澄み液の層をある程度排出された段階で停止すればよい。かかるタイミングは、固形物MPの密度等に応じて適宜調整すればよい。
【0043】
例えば、分離液Lの液面の沈降分離槽20の内底面からの高さを予め決定しておき、かかる高さになれば上澄み液の排出を停止するように設定することができる。その逆に、静置状態における分離液Lの液面LSからの距離に基づいて上澄み液の排出を停止するように設定してもよい。
【0044】
また例えば、沈降分離槽2の蓋部内面に分離液Lの液面LSを検出することができるレベル計15を設ければ(例えば、図1または図2参照)、かかるレベル計15により分離液Lの液面LSの高さを適切に計測することができる。この場合、沈降分離槽2の蓋部内面からの距離に基づいて上澄み液の排出を停止するタイミングを決定するように設定してもよい。
また、上澄み液の排出を停止するタイミングをレベル計15に基づいて行う場合、上澄み液の排出を開始するときの分離液Lの液面LSと排出中の液面LSとの距離の差に基づいて排出を停止するタイミングを決定するように設定してもよい。この場合、沈降分離槽20内に供給される分離液Lの量の関わらず、上澄み液の排出後に形成される濃縮液CL中の固形物MP濃度を相対的にほぼ同じ濃度となるように形成することができるという利点が得らえる。
【0045】
なお、上澄み液排出手段11は、ストークスの式に基づいて静置時間を算出する機能および/またはレベル計15に基づいて分離液Lの量を算出する機能を有する解析手段を備えていてもよい。また、この解析手段は、解析結果に基づいて上澄み液の排出を開始するタイミングおよび/または上澄み液の排出を停止するタイミングを上澄み液排出手段11および/または濃縮液搬送手段12に送信する機能を有していてもよい。
この場合、上澄み液排出手段11は、解析手段から送信された信号に基づいて上澄み液の排出の開始および上澄み液の排出の停止を行うように作動させればよい。また、濃縮液搬送手段12は、上澄み液排出手段11が上澄み液の排出を停止した信号を受信して、かかる信号に基づいて濃縮液CLをスラリー槽2に供給するように作動させればよい。
【0046】
沈降濃縮液供給機構10の作動方法を以下具体的に説明する。
図1図2(B)および図2(C)に示すように、沈降分離槽20の上部排出口21には沈降濃縮液供給機構10の上澄み液排出手段11の配管が接続されており、沈降分離槽20の下部排出口22には沈降濃縮液供給機構10の濃縮液搬送手段12の配管が接続されている。この上澄み液排出手段11の配管は、濃縮液搬送手段12の配管の途中で接続されている。
この上澄み液排出手段11の配管には、上部排出口21の接続部と濃縮液搬送手段12の配管との接続部との間には開閉バルブB1が設けられている。
また、濃縮液搬送手段12の配管には、下部排出口22の接続部と上澄み液排出手段11の配管との接続部との間には開閉バルブB2が設けられている。この濃縮液搬送手段12の配管は途中で分岐しており、一の配管がスラリー槽2に連通しており、他の配管が排水処理施設等に向かって延設されている。
さらに、濃縮液搬送手段12の配管には、分岐点の下流側に開閉バルブB3が設けられており、分岐点からスラリー槽2側に延設されている配管に開閉バルブ4が設けられている。また、この分岐点と上澄み液排出手段11の配管との接続部との間にはポンプが設けられている。
【0047】
以上のごとき構成であるので、沈降濃縮液供給機構10の上澄み液排出手段11と濃縮液搬送手段12は、以下のように作動する。
【0048】
まず、上澄み液排出手段11の作動を図3に基づいて説明する。
図3に示すように、沈降分離槽20への分離液Lの供給が完了した後、所定の時間、沈降分離が行われる。なお、このとき上澄み液排出手段11および濃縮液搬送手段12の各配管に設けられたバルブB1~B4は全て閉じられている。
【0049】
そして、所定の時間静置した後、上澄み液の排出が開始される。上澄み液排出手段11の配管に設けられたバルブB1と、濃縮液搬送手段12の配管に設けられたバルブB3が開かれる。かかる状態において、上部排出口21と排水処理施設等は連通したような状態となる(図2(B)参照)。この状態でポンプを作動すれば、上澄み液は配管を通して排水処理施設等へ搬送される。沈降分離槽20内では分離液Lの液面LSが下がっていくのでかかる降下量をレベル計15で計測しながら排出が行われる。液面LSが所定の高さに到達した段階でポンプの作動を停止させ、開いていたバルブB1、B3を閉じれば、上澄み液排出手段11の作動が完了する。
【0050】
図4に示すように、上澄み液排出手段11の作動が完了すると、濃縮液搬送手段12の配管に設けられたバルブB2、B4が開かれる。かかる状態において、下部排出口22とスラリー槽2が連通した状態となる(図2(C)参照)。この状態でポンプを作動すれば、濃縮液CLは配管を通ってスラリー槽2へ搬送され、スラリー槽2内へ供給される。沈降分離槽20内では濃縮CLの液面LSが下がっていくのでかかる降下量をレベル計15で計測しながら搬送が行われる。液面LSが沈降分離槽20の内底面に到達した段階でポンプの作動を停止させ、開いていたバルブB2、B4を閉じれば、濃縮液搬送手段12の作動が完了する。
【0051】
なお、濃縮液搬送手段12の作動において、ポンプの停止のタイミングはポンプ抵抗に基づいて判断してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の固液分離設備1は、二次電池用材料などの製造の際に発生するスラリー等から固形物を回収する設備として適している。
【符号の説明】
【0053】
1 固液分離設備
2 スラリー槽
3 固液分離機
10 沈降濃縮液供給機構
11 上澄み液排出手段
12 濃縮液搬送手段
15 レベル計
20 沈降分離槽
21 上部排出口
22 下部排出口
B 開閉バルブ
CL 濃縮液
L 分離液
LS 分離液の液面
図1
図2
図3
図4