(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】亜鉛含有抗菌剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20221208BHJP
A01N 59/26 20060101ALI20221208BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221208BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221208BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01N59/26
A01P1/00
A01P3/00
C02F1/50 510A
C02F1/50 520B
C02F1/50 520K
C02F1/50 531U
C02F1/50 540B
C02F1/50 540D
C02F1/50 540F
(21)【出願番号】P 2018207370
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮治 裕史
(72)【発明者】
【氏名】西田 絵利香
(72)【発明者】
【氏名】蔀 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】浜本 朝子
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039444(JP,A)
【文献】特開2001-199822(JP,A)
【文献】特開平03-120221(JP,A)
【文献】特開2002-161008(JP,A)
【文献】特開2017-036244(JP,A)
【文献】特開平05-294808(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/198890(JP,A1)
【文献】特開平11-240886(JP,A)
【文献】特開平11-180808(JP,A)
【文献】特開2005-281299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/16
A01P 1/00
A01P 3/00
C02F 1/50
A01N 59/26
A01N 59/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛元素とアルカリ金属元素と
中心原子にヒドロキシル基とオキソ基とが結合したアニオンとを含む複塩を含有
し、
該アニオンにおける中心原子は、炭素原子、硫黄原子、リン原子、窒素原子、ホウ素原子、ハロゲン原子、クロム、マンガンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする亜鉛含有抗菌剤
(但し、アルミニウム元素又はケイ素元素を含むものを除く。)。
【請求項2】
前記
アニオンは、リン酸
アニオンであることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛含有抗菌剤。
【請求項3】
前記複塩は、下記式(1);
M
xH
y(ZnPO
4)
z・mH
2O (1)
(式中、Mは、アルカリ金属元素を表す。xは、0より大きい数を表す。yは、0以上の数を表す。zは、1~10の数を表す。ただし、x、y及びzは、x+y=zを満たす。mは、0~16の数を表す。)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の亜鉛含有抗菌剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の亜鉛含有抗菌剤と、該亜鉛含有抗菌剤以外のその他の成分とを含むことを特徴とする亜鉛含有抗菌剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛含有抗菌剤に関する。より詳しくは、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に有用な亜鉛含有抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
O157等の細菌による感染症は、人間の生命を脅かすことから、細菌等に対する対策が世界的に求められている。近年、我が国では、消費者の清潔志向等から、医療や衛生分野にとどまらず、様々な分野において抗菌加工が施された種々のものが市販されている。抗菌加工に用いられる抗菌剤としては、有機系薬剤、無機系薬剤に分類することができ、例えば日用品等の分野において無機系薬剤が用いられる割合が高まってきている。例えば非特許文献1には、無機系抗菌剤の分類と抗菌機構について記載され、種々の金属イオンの抗菌性能が開示されている。また、抗菌成分として銀を用いたものに関して、特許文献1には、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、マンガン、ニッケル、銅、及び、亜鉛からなる群の中から選ばれた2種以上の金属の難溶性オルトリン酸複塩に、0.1~5.0重量%の銀を担持させたことを特徴とする抗菌・抗カビ性リン酸複塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】山本則幸(Noriyuki Yamamoto)「無機マテリアル」(日本)1999年、第6巻、p468-473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来種々の抗菌剤が開示され、特許文献1には、銀を抗菌成分として用いた技術が開示されている。また、非特許文献1には、抗菌成分として種々の金属元素が開示されている。金属の中でも亜鉛は、比較的安全性に優れることが知られており、非特許文献1には酸化亜鉛が開示されているものの、抗菌加工を施す用途等に応じて抗菌剤の種類を選択できるよう、亜鉛を用いた更なる抗菌剤を開発する余地があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、抗菌性に優れる亜鉛元素を含む抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、亜鉛元素を含む化合物について種々検討したところ、亜鉛元素とアルカリ金属元素とオキソ酸由来成分とを含む複塩が抗菌性に優れることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、亜鉛元素とアルカリ金属元素とオキソ酸由来成分とを含む複塩を含有する亜鉛含有抗菌剤である。
【0009】
上記オキソ酸由来成分は、リン酸由来成分であることが好ましい。
【0010】
上記複塩は、下記式(1);
MxHy(ZnPO4)z・mH2O (1)
(式中、Mは、アルカリ金属元素を表す。xは、0より大きい数を表す。yは、0以上の数を表す。zは、1~10の数を表す。ただし、x、y及びzは、x+y=zを満たす。mは、0~16の数を表す。)で表される構造を有することが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記亜鉛含有抗菌剤と、上記亜鉛含有抗菌剤以外のその他の成分とを含む亜鉛含有抗菌剤組成物でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の亜鉛含有抗菌剤は、上述の構成よりなり、抗菌性に優れるため、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、生体材料、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図2】実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤についてのSEM写真倍率:2000倍)である。
【
図3】実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤、比較例1として酸化亜鉛について、抗菌性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤、比較例1として酸化亜鉛について、抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例2の抗菌材料(1)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図6】実施例3の抗菌材料(2)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図7】比較例1の比較抗菌材料(1)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図8】実施例2で得られた抗菌材料(1)、比較例2で得られた比較抗菌材料(1)について、抗菌性評価(3)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0015】
<亜鉛含有抗菌剤>
本発明の亜鉛含有抗菌剤は、亜鉛元素とアルカリ金属元素とオキソ酸由来成分とを含む複塩を含むものである。
本発明における抗菌剤とは抗菌性能を有する剤のことをいう。抗菌性能とは、殺菌(微生物を殺す)、静菌(微生物の繁殖を抑える)、滅菌、消毒、制菌、除菌、防腐、防カビ等の性能を有することをいい、対象となる微生物は、細菌、真菌である。
【0016】
対象となる微生物として特に制限されないが、例えば具体的には、S. mutans、S. sobrinus、Lactobacillus、P. gingivalis、T. forsythia、P. intermedia、T. denticola、A. actinomycetemcomitans、A.naeslundii、E. corrodens、Spirochetes、Fusobacterium、及び、C. albicans等が挙げられる。
【0017】
本発明の亜鉛含有抗菌剤に含まれる複塩におけるアルカリ金属元素としては、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。アルカリ金属元素としてはこれらのうち1種を用いても2種以上を用いてもよい。アルカリ金属元素として好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウムであり、より好ましくはナトリウム、カリウムであり、更に好ましくはナトリウムである。
【0018】
上記複塩は、オキソ酸由来成分を含むものであればよいが、複塩がオキソ酸由来のアニオン構造を有するものであることが好ましい。
上記オキソ酸は、中心原子にヒドロキシル基とオキソ基とが結合し、且つ、そのヒドロキシル基が酸性プロトンを与える化合物であれば特に制限されない。上記中心原子としては、炭素原子、硫黄原子、リン原子、窒素原子、ホウ素原子、ケイ素原子;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;クロム、マンガン等の遷移金属原子;等が挙げられる。好ましくはリン原子、硫黄原子、炭素原子、窒素原子、であり、より好ましくはリン原子、である。
上記オキソ酸としては、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、ヒ酸、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸等が挙げられる。好ましくは、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸であり、より好ましくはリン酸である。
すなわち、オキソ酸由来成分がリン酸由来成分である形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0019】
上記複塩は、亜鉛元素とアルカリ金属元素とオキソ酸由来成分とを含むものであれば、複塩に含まれる陽イオン、陰イオンは特に制限されず、上記3成分以外の成分からなるイオンを含んでいてもよい。
亜鉛元素、アルカリ金属元素、オキソ酸由来成分以外の元素又は成分からなるイオンとしては、例えば、水素イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
上記複塩は、亜鉛元素とオキソ酸由来成分とを含む陰イオンとアルカリ金属イオンとを含むことが好ましい。
【0020】
上記複塩は、下記式(1);
MxHy(ZnPO4)z・mH2O (1)
(式中、Mは、アルカリ金属元素を表す。xは、0より大きい数を表す。yは、0以上の数を表す。zは、1~10の数を表す。ただし、x、y及びzは、x+y=zを満たす。mは、0~16の数を表す。)で表される構造を有するものであることが好ましい。
なお、化合物等の組成式における各組成比は、最も小さい整数比で表すことが一般的であるが、最小の整数比で表された組成比で表される構造が、結晶構造における単位構造として存在しない場合があり、本発明ではそのような結晶構造を有する化合物も上記式(1)では、組成比を最小の整数比で表すものとする。したがって、上記式(1)は、複塩の実際に存在する単位構造を必ずしも表すものではない。
xとして好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~6である。
yとして好ましくは0~5であり、更に好ましくは0~3であり、最も好ましくは0である。
zとして好ましくは1~8であり、更に好ましくは1~6である。
mとして好ましくは0~12であり、更に好ましくは0~8である。
x、y、z、mの組合せとして好ましくは、(x、y、z、m)=(3、0、3、4)、(1、0、1、1)であり、より好ましくは、(x、y、z、m)=(3、0、3、4)である。
【0021】
上記複塩としてより好ましくは下記式(2);
M6(ZnPO4)6・8H2O (2)
(式中、Mは、アルカリ金属元素を表す)で表される構造を有するものである。上記式(2)で表される複塩は、結晶中に水分子が水和水として入り込んでいるのではなく、式(2)で表される構造が最少の単位構造(単位格子)となる結晶構造をとるため、式(2)中の組成比は、最小の整数比ではなく、実際の単位格子の組成比で表している。
上記複塩として最も好ましくはNa6(ZnPO4)6・8H2Oである。
【0022】
本発明の亜鉛含有抗菌剤に含まれる上記複塩の製造方法は、特に制限されないが、亜鉛元素含有化合物とアルカリ金属元素含有化合物とオキソ酸とを反応させる工程を含むことが好ましい。
上記反応工程において、上記成分を反応させる方法は、特に制限されないが、亜鉛元素含有化合物とアルカリ金属元素含有化合物とオキソ酸とを含む溶液に、塩基性の塩を添加して複塩を析出させる方法が好ましい。
上記塩基性の塩としては、水に溶解させると塩基性を示すものであれば特に制限されないが、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属の水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0023】
上記亜鉛元素含有化合物としては、亜鉛元素を含むものであれば特に制限されないが、亜鉛錯体や亜鉛を含む塩が挙げられる。亜鉛と塩を形成する陰イオンとしては特に制限されないが、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン、ハロゲンイオン、水酸化物イオン等が挙げられる。好ましくは、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、酢酸イオンである。亜鉛含有塩としては、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛等が好ましく、より好ましくは硝酸亜鉛、酢酸亜鉛である。
【0024】
上記アルカリ金属元素含有化合物としては、アルカリ金属元素を含むものであれば特に制限されないが、アルカリ金属を含む塩が好ましい。アルカリ金属元素の好ましい形態は上述のとおりである。
アルカリ金属と塩を形成する陰イオンとしては、特に制限されず、上述の陰イオンが挙げられる。好ましくはハロゲンイオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、水酸化物イオンである。ハロゲンイオンとして好ましくは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンであり、より好ましくは塩化物イオン、臭化物イオンである。アルカリ金属元素含有塩として好ましくはアルカリ金属のハロゲン化物であり、より好ましくは塩化ナトリウム、臭化ナトリウムである。
【0025】
上記オキソ酸の具体例は上述のとおりであり、好ましくはリン酸、亜リン酸、ピロリン酸である。
【0026】
上記複塩の製造方法における亜鉛元素含有化合物、アルカリ金属元素含有化合物、オキソ酸の使用量の割合(モル%)(亜鉛元素含有化合物/アルカリ金属元素含有化合物/オキソ酸)は、10~50/10~50/20~60であることが好ましい。より好ましくは20~40/20~40/30~50である。
【0027】
上記複塩の製造方法における塩基性の塩の使用量は、特に制限されないが、亜鉛元素含有化合物100モル%に対して100~500モル%であることが好ましい。より好ましくは200~400モル%である。
【0028】
<亜鉛含有抗菌剤組成物>
本発明の亜鉛含有抗菌剤と、該亜鉛含有抗菌剤以外のその他の成分とを含む亜鉛含有抗菌剤組成物(以下、抗菌剤組成物ともいう。)もまた、本発明の1つである。
上記抗菌剤組成物における上記亜鉛含有抗菌剤の含有割合は、抗菌剤組成物100質量%に対して0.01~50質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~30質量%であり、更に好ましくは0.1~20質量%である。
上記その他の成分としては、亜鉛含有抗菌剤の抗菌性能を阻害するものでない限り特に制限されないが、例えば、溶媒;増粘剤、バインダー等が挙げられる。
上記抗菌剤組成物は、抗菌性を向上させる観点から、上記亜鉛元素とアルカリ金属元素とオキソ酸由来成分とを含む複塩以外の金属塩や金属酸化物、金属水酸化物などを含んでいてもよい。金属塩又は酸化物、金属水酸化物における金属としては、銅や、銀、チタン等の遷移金属が好ましい。
【0029】
上記溶媒としては、水;N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド等のアミド類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等の極性溶媒等が挙げられる。中でも好ましくは水である。
【0030】
<抗菌材料>
本発明は、本発明の亜鉛含有抗菌剤又は亜鉛含有抗菌剤組成物と基材とを含む抗菌材料でもある。
本発明の亜鉛含有抗菌剤又は亜鉛含有抗菌剤組成物を基材に担持させて使用することにより、抗菌性能をより効果的に発揮させることができる。
【0031】
上記基材としては、上記亜鉛含有抗菌剤又は亜鉛含有抗菌剤組成物を担持することができる限り特に制限されないが、紙、繊維基材、木材、樹脂フォーム、多孔性基材、フィルム状基材、粒子状基材等が挙げられる。
上記繊維基材としては、例えば、ガーゼ等の織物、編物、組み物、レース、網、不織布等が挙げられる。
上記樹脂フォームは、特に制限されないが、例えば発砲ポリウレタン、発砲ポリスチレン等が挙げられる。
【0032】
上記基材を構成する材料としては特に制限されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸;絹、羊毛等の動物繊維;ポリエステル、ポリプロピレン;綿、麻、レーヨン、キュプラ、リヨセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテート等のセルロース系繊維;等の高分子材料や、ハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウム等の無機材料等が挙げられる。
基材を構成する材料として、これらのうち1種のみを用いても2種以上を複合して用いてもよい。
基材を構成する材料として好ましくはコラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、ハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料である。より好ましくはコラーゲンである。
【0033】
上記基材として好ましくは繊維基材、多孔性基材であり、より好ましくは多孔性基材であり、更に好ましくは、細胞や組織等の再生の足場として機能するスキャフォールドである。中でも好ましくはコラーゲンを主成分とするコラーゲンスキャフォールドが好ましい。
【0034】
上記基材は、上記材料以外の成分を含んでいてもよく、例えば、浸透圧調整物質、pH緩衝剤等を含んでいてもよい。これらに含まれる成分としては例えば、アルカリ金属成分、ハロゲン成分、オキソ酸やオキソ酸に由来するアニオン等のオキソ酸由来成分等が挙げられる。
上記基材がアルカリ金属成分及び上記オキソ酸由来成分を含む場合、基材に亜鉛元素含有化合物を添加することにより、抗菌材料中で亜鉛元素とアルカリ金属元素とオキソ酸由来成分とを含む複塩を形成してもよい。
【0035】
上記抗菌材料における亜鉛元素の含有割合は、抗菌材料100質量%に対して、0.01~1質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~0.5質量%である。
上記抗菌材料におけるアルカリ金属元素の含有割合は、抗菌材料100質量%に対して、0.005~2質量%であることが好ましい。より好ましくは0.02~1質量%である。
上記抗菌材料におけるリン元素の含有割合は、抗菌材料100質量%に対して、0.005~2質量%であることが好ましい。より好ましくは0.03~1質量%である。
これらの元素の含有割合は、実施例に記載の蛍光X線(XRF)分析により測定することができる。
【0036】
本発明の亜鉛含有抗菌剤、亜鉛含有抗菌剤組成物、抗菌材料は、上述の構成よりなり、抗菌性能に優れるため、骨や皮膚等の組織再生等に用いられる生体材料用途;洗濯洗浄剤、柔軟剤、住居用洗剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧水、乳液、クリーム、日焼け止め、ファンデーション、アイメイク製品等の化粧品、制汗剤等の化粧料用途;塗料、木材防腐剤、セメント混和剤、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)等の工業用途;マスク、眼帯、包帯、絆創膏、ガーゼ等の衛生用品;医療器具;衣類等の繊維製品;食品添加物;太陽電池モジュールや有機素子デバイス、熱線遮蔽フィルム等の電子機器用途等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0038】
各種物性の測定を以下の方法により行った。
<蛍光X線(XRF)の測定>
XRF測定は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX Primus2)、Rh(4kW)X線管球を用い、検量線法にて測定を行った。
【0039】
<X線回折(XRD)の測定>
XRD測定は、全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)を用いて、以下の条件により行った。
CuKα1線:0.15406nm
走査範囲:10°-90°
X線出力設定:45kV-200mA
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:0.5°min-1-4°min-1
なお、XRD測定は、試料をグローブボックス中にて気密試料台に装填することにより、不活性雰囲気を保った状態で行った。
【0040】
<SEM観察>
SEM観察は走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7600F)を用いて、加速電子5.0keVで行い、反射電子像を観察した。
【0041】
<抗菌性評価(1)>
48穴プレートにActinomyces naeslundii (ATCC 27039)(4.4×107CFU/well)懸濁液を播種し、蒸留水で希釈した亜鉛含有抗菌剤分散液(最終濃度0.1wt%、0.01wt%)及び酸化亜鉛(富士フイルム和光純薬株式会社製)分散液(最終濃度0.04wt%、0.004wt%)100μLをそれぞれ添加し、37℃で24時間嫌気培養した後、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。なお、Controlとして亜鉛含有抗菌剤分散液の代わりに蒸留水を用いたものについても同様に試験を行った。
【0042】
<抗菌性評価(2)>
48穴プレートに蒸留水で希釈した亜鉛含有抗菌剤分散液(10wt%)及び酸化亜鉛(富士フイルム和光純薬株式会社製)分散液(4wt%)100μLを滴下し、常温にて乾燥して試験被膜を作成した。被膜上にActinomyces naeslundii (ATCC 27039)(5.5×107CFU/well)懸濁液0.5mLを播種して37℃で24時間嫌気培養した後、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。なお、Controlとして試験被膜を形成しないものについても同様に試験を行った。
【0043】
<抗菌性評価(3)>
作成した試料を48穴プレートに静置し、Streptococcus mutans (ATCC 35668)(6.0×106CFU/well)懸濁液を播種して37℃で24時間嫌気培養した後、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。なお、Controlとして試料を用いないものについても同様に試験を行った。
【0044】
<実施例1>亜鉛含有抗菌剤の調製
亜鉛含有抗菌剤(Na6(ZnPO4)6・8H2O)の合成は非特許文献(Nature,349,(1991)508-511)を参考に合成した。250mlポリ容器に30mlのイオン交換水に硝酸亜鉛六水和物(7.14g、富士フイルム和光純薬株式会社製)、臭化ナトリウム(2.06g、富士フイルム和光純薬株式会社製)および、80%リン酸(3.68g、富士フイルム和光純薬株式会社製)をマグネチックスターラを用いて溶解させた。そこへ固体の水酸化ナトリウムとイオン交換水から調製した8%水酸化ナトリウム溶液(42g、富士フイルム和光純薬株式会社製)を一気に投入したところ、反応しゲル状の白い固体が析出した。さらに激しく撹拌したところ均一な白色分散液が得られた。そのまま2時間撹拌した後、撹拌を止め終夜静置した。静置後、ろ過およびイオン交換水による洗浄を繰り返し、白色固体を得た。固体は常温真空乾燥により乾燥し、亜鉛含有抗菌剤(白色粉末4.9g)を得た。
【0045】
実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤についてXRD測定を行った。結果を
図1に示した。
図1より、亜鉛含有抗菌剤は、Na
6(ZnPO
4)
6・8H
2Oで表される複塩であることが明らかとなった。
実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤についてSEM観察を行った。結果を
図2に示した。
図2より、亜鉛含有抗菌剤に含まれる粒子(複塩)は、形状や粒子径が比較的そろった粒子であることが確認された。
【0046】
実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤、比較例1として酸化亜鉛について、抗菌性評価(1)を行った。結果を
図3に示した。
【0047】
実施例1で得られた亜鉛含有抗菌剤、比較例1として酸化亜鉛について、抗菌性評価(2)を行った。結果を
図4に示した。
【0048】
<実施例2>抗菌材料(1)の作成
6×6×3mmに成形したスキャフォールド(テルダーミス(登録商標)、オリンパステルモバイオマテリアル)(以下、Terとも記載する。)を、酢酸亜鉛(以下、Znとも記載する。)0.01質量%のN-メチルピロリドン溶液0.1mLに浸漬し、エタノールで洗浄、乾燥し、抗菌材料(1)を得た。
【0049】
<実施例3>抗菌材料(2)の作成
酢酸亜鉛の濃度を0.1質量%に変更した以外は、実施例2と同様にして、抗菌材料(2)を得た。
【0050】
<比較例2>比較抗菌材料(1)の作成
酢酸亜鉛0.01質量%のN-メチルピロリドン溶液の代わりにN-メチルピロリドンを用いた以外は、実施例2と同様にして、比較抗菌材料(1)を得た。
【0051】
実施例2で得られた抗菌材料(1)、比較例2で得られた比較抗菌材料(1)について、XRF測定を行った。結果を表1に示した。
【0052】
表1より、抗菌材料(1)には、亜鉛が担持されていることが明らかとなった。
【表1】
【0053】
実施例2、3で得られた抗菌材料(1)、(2)、比較例2で得られた比較抗菌材料(1)について、XRD測定を行った。結果を
図5~7に示した。
図5、6において、Na
6(ZnPO
4)
6・8H
2Oで表される構造に由来するピークが観測され、抗菌材料(1)、(2)には、Na
6(ZnPO
4)
6・8H
2Oで表される複塩が含まれることが明らかとなった。
【0054】
実施例2で得られた抗菌材料(1)、比較例2で得られた比較抗菌材料(1)について、抗菌性評価(3)を行った。結果を
図8に示した。
図8の結果より、本発明の複塩を含む抗菌材料(1)は、該複塩を含まない比較抗菌材料(1)よりも抗菌性能に優れることが明らかとなった。