(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡及びそのプローブ接触検出方法
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/36 20100101AFI20221208BHJP
【FI】
G01Q60/36
(21)【出願番号】P 2021009827
(22)【出願日】2021-01-25
(62)【分割の表示】P 2016065007の分割
【原出願日】2016-03-29
【審査請求日】2021-01-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】繁野 雅次
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将史
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩令
(72)【発明者】
【氏名】茅根 一夫
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-027560(JP,A)
【文献】特開2008-281550(JP,A)
【文献】特開2004-125540(JP,A)
【文献】特開2009-150696(JP,A)
【文献】特開2006-053028(JP,A)
【文献】特開2007-085764(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1854793(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面にプローブを接触させて、前記試料表面を前記プローブで走査する走査型プローブ顕微鏡であって、
先端に前記プローブを備えるカンチレバーと、
前記カンチレバーのたわみ量とねじれ量とを検出する変位検出部と、
前記変位検出部により検出された、無変形のカンチレバーにおける全方位のたわみ量とねじれ量とに基づいて前記プローブの前記試料表面への一次の接触を判定する接触判定部と、
を備え、
前記接触判定部は、前記たわみ量の上限閾値及び下限閾値並びに前記ねじれ量の上限閾値及び下限閾値を有し、たわみ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合、又は、ねじれ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合に試料とプローブの接触と判定して試料からプローブを離す方向に移動させることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記プローブと前記試料表面とを接触させる際に、いずれか一方を相対的に他方に対して移動させた距離である相対距離を測定する測定部をさらに備える請求項
1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記測定部により前記相対距離が測定された後、前記プローブを前記試料から離れる方向に退避させ、前記試料の次の測定位置に移動する移動駆動部をさらに備える請求項
2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記たわみ量及び前記ねじれ量に基づいて、前記プローブを前記試料から離れる方向への退避距離の算出部をさらに備える請求項
3に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記移動駆動部は、上記退避後に、前記プローブに接触しない前記次の測定位置の直上に位置する測定下降位置に移動し、前記測定下降位置から前記測定位置まで前記プローブを下降させる請求項
3又は請求項
4に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記変位検出部により検出された前記たわみ量が第1の範囲内であり、且つ、前記ねじれ量が第2の範囲内になるように前記プローブで走査する移動駆動部をさらに備える請求項
2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
試料表面にプローブを接触させて、前記試料表面を前記プローブで走査する走査型プローブ顕微鏡のプローブ接触検出方法であって、
先端に前記プローブを備えるカンチレバーのたわみ量とねじれ量とを検出する変位検出ステップと、
前記変位検出ステップにより検出された、無変形のカンチレバーにおける全方位のたわみ量とねじれ量とに基づいて前記プローブの前記試料表面への一次の接触を判定する接触判定ステップと、を備え、
前記接触判定ステップは、前記たわみ量の上限閾値及び下限閾値並びに前記ねじれ量の上限閾値及び下限閾値を有し、たわみ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合、又は、ねじれ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合に試料とプローブの接触と判定して試料からプローブを離す方向に移動させることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡のプローブ接触検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡及びそのプローブ接触検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カンチレバーの先端に形成されたプローブと試料間との相互作用(例えば、カンチレバーの振幅やカンチレバーのたわみ)を一定に保ちながら、試料表面において連続的にプローブを走査させことで、試料表面の凸凹形状を測定する走査型プローブ顕微鏡が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の走査型プローブ顕微鏡では、常にプローブと試料とが接しているため、プローブの摩耗や試料の損傷が発生する可能性がある。
【0003】
これに対して、特許文献2、3には、予め設定された複数の試料表面の測定点のみ、プローブと試料表面とを接触させ試料表面を間欠的に走査することで、試料表面の凸凹形状を測定する間欠的測定方法が提案されている。この方法では、カンチレバーに加わる力(たわみ)が一定値以上になった場合に、プローブと試料表面とが接触したことを判定し、プローブが試料に接触したときのプローブの高さを計測する。これにより、間欠的測定方法は、特許文献1と比較してプローブと試料表面とが測定点のみで接触しているため最小の接触ですみ、プローブの摩耗や試料の損傷を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-62158号公報
【文献】特開2001-33373号公報
【文献】特開2007-85764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カンチレバーのたわみは、プローブが試料表面を押し付ける力(以下、「押し付け力」という。)以外に、その押し付ける試料表面の形状の影響を受ける。例えば、プローブが接触する試料表面が斜面である場合、カンチレバーのたわみが一定値以上になるには、水平面と比較して、より大きな押し付け力が必要となる場合があった。したがって、測定点である試料表面が斜面である場合には、プローブと試料表面との接触を検出する押し付け力の値が、水平面と比較して変化する場合があった。そのため、試料表面の斜面における形状測定に誤差が発生するとともに、プローブの摩耗や試料の変形を引き起こす場合がある。このような問題は間欠的測定方法に限られた問題ではなく、プローブを試料表面に接触させる工程を有する測定方法に共通する問題である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、プローブが接触する試料表面が斜面である場合に発生する力の値の変化量について、プローブと試料表面との接触を感知するカンチレバーの変形として、たわみのみならずねじれも対象とした上で其々の変形方向として無変形から上下のたわみと左右のねじれの全方位を対象とすることで改善可能な、走査型プローブ顕微鏡及びそのプローブ接触検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、試料表面にプローブを接触させて、前記試料表面を前記プローブで走査する走査型プローブ顕微鏡であって、先端に前記プローブを備えるカンチレバーと、前記カンチレバーのたわみ量とねじれ量とを検出する変位検出部と、前記変位検出部により検出された、無変形のカンチレバーにおける全方位のたわみ量とねじれ量とに基づいて前記プローブの前記試料表面への一次の接触を判定する接触判定部と、を備え、前記接触判定部は、前記たわみ量の上限閾値及び下限閾値並びに前記ねじれ量の上限閾値及び下限閾値を有し、たわみ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合、又は、ねじれ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合に試料とプローブの接触と判定して試料からプローブを離す方向に移動させることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡である。
【0010】
また、本発明の一態様は、上述の走査型プローブ顕微鏡であって、前記プローブと前記試料表面とを接触させる際に、いずれか一方を相対的に他方に対して移動させた距離である相対距離を測定する測定部をさらに備える。
【0011】
また、本発明の一態様は、上述の走査型プローブ顕微鏡であって、前記測定部により前記相対距離が測定された後、前記プローブを前記試料から離れる方向に退避させ、前記試料の次の測定位置に移動する移動駆動部をさらに備える。
【0012】
また、本発明の一態様は、上述の走査型プローブ顕微鏡であって、前記たわみ量及び前記ねじれ量に基づいて、前記プローブを前記試料から離れる方向への退避距離の算出部をさらに備える。
【0013】
また、本発明の一態様は、上述の走査型プローブ顕微鏡であって、前記移動駆動部は、上記退避後に、前記プローブに接触しない前記次の測定位置の直上に位置する測定下降位置に移動し、前記測定下降位置から前記測定位置まで前記プローブを下降させる。
【0014】
また、本発明の一態様は、上述の走査型プローブ顕微鏡であって、前記変位検出部により検出された前記たわみ量が第1の範囲内であり、且つ、前記ねじれ量が第2の範囲内になるように前記プローブで走査する移動駆動部をさらに備える。
【0015】
また、本発明の一態様は、試料表面にプローブを接触させて、前記試料表面を前記プローブで走査する走査型プローブ顕微鏡のプローブ接触検出方法であって、先端に前記プローブを備えるカンチレバーのたわみ量とねじれ量とを検出する変位検出ステップと、前記変位検出ステップにより検出された、無変形のカンチレバーにおける全方位のたわみ量とねじれ量とに基づいて前記プローブの前記試料表面への一次の接触を判定する接触判定ステップと、を備え、前記接触判定ステップは、前記たわみ量の上限閾値及び下限閾値並びに前記ねじれ量の上限閾値及び下限閾値を有し、たわみ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合、又は、ねじれ量が上限閾値を超えた場合か下限閾値を下回った場合に試料とプローブの接触と判定して試料からプローブを離す方向に移動させることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡のプローブ接触検出方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、プローブが接触する試料表面が斜面である場合において、プローブと試料表面との接触を検出する押し付け力の値が、水平面と比較して変化する現象を改善可能な、走査型プローブ顕微鏡及びそのプローブ接触検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における走査型プローブ顕微鏡1の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態における斜面を有する試料Sと、カンチレバー2との斜視図である。
【
図3】本実施形態における第1の範囲及び第2の範囲について説明する図である。
【
図4】本実施形態におけるドーム状の試料Sの平面図であり、試料Sの形状測定の測定点(1)~(7)を示す図である。
【
図5】本実施形態における試料Sの測定点(1)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図6】本実施形態における試料Sの測定点(2)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図7】本実施形態における試料Sの測定点(3)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図8】本実施形態における試料Sの測定点(4)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図9】本実施形態における試料Sの測定点(5)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図10】本実施形態における試料Sの測定点(6)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図11】本実施形態における試料Sの測定点(7)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
【
図12】本実施形態の制御装置7におけるプローブ2aと試料Sの表面との接触を検出する接触検出処理の流れを示す図である。
【
図13】本実施形態の制御装置7におけるプローブ2aと試料Sの表面との接触を検出する接触検出処理の他の例の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。
【0019】
実施形態における走査型プローブ顕微鏡は、試料表面にプローブを接触させて、その試料表面を走査するものであって、そのプローブのたわみ量とねじれ量とに基づいてプローブが試料表面に接触したか否かを判定する。以下、実施形態の走査型プローブ顕微鏡を、図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1の概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、走査型プローブ顕微鏡1は、カンチレバー2、試料台4、移動駆動部5、変位検出部6及び制御装置7を備えている。
【0021】
カンチレバー2は、先端にプローブ2aを備える。カンチレバー2は、その基端が固定され、先端が自由端となっている。カンチレバー2は、小さいバネ定数Kを備える弾性レバー部材であり、先端のプローブ2aと試料Sの表面とが接触すると、先端のプローブ2aが試料Sの表面を押圧する押し付け力に応じたたわみが生じる。また、カンチレバー2は、先端のプローブ2aと試料Sの表面とが接触した場合に、その試料Sの表面に傾きがある場合には、その傾きと、先端のプローブ2aと試料Sの表面との接触点である支点の支点反力と、に応じたねじれやたわみが生じる。本実施形態における走査型プローブ顕微鏡1の特徴の一つは、先端のプローブ2aと試料Sの表面とが接触することで生じるカンチレバー2のたわみとねじれとに基づいてプローブ2aと試料Sの表面との接触を検出するところにある。
【0022】
移動駆動部5は、Z方向駆動装置22及びXYスキャナ25を備える。
Z方向駆動装置22は、その下端にカンチレバー2が取付けられており、カンチレバー2を水平面に垂直な方向(Z方向)に移動させる。例えば、Z方向駆動装置22は、圧電素子である。Z方向駆動装置22は、制御装置7から出力される第1駆動信号に基づいてカンチレバー2を試料Sの表面に接近させたり、カンチレバー2を試料Sの表面から退避(又は離脱)させる。ただし、Z方向駆動装置22及びXYスキャナ25は、試料側に一体化した配置や、カンチレバー側に一体化した配置等など、相対的に3次元形状観察の走査が可能な構成であれば、配置関係は問わない。
【0023】
XYスキャナ25上には、試料台4が載置されている。試料台4には、カンチレバー2のプローブ2aに対向配置するように試料Sが載置されている。XYスキャナ25は、制御装置7から第2駆動信号が出力されると、その第2駆動信号の電圧値や極性に応じて、プローブ2aと試料Sとを、XY方向に対して相対的に移動させる。なお、
図1において試料台4の表面に平行な面は水平面であり、ここでは直交の2軸X,YによりXY平面と定義される。
【0024】
変位検出部6は、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とを検出する。本実施形態では、変位検出部6は、光てこ式を用いてカンチレバー2のたわみ量とねじれ量とを検出する場合について説明する。
変位検出部6は、光照射部31及び光検出部33を備える。
光照射部31は、カンチレバー2の裏面に形成された図示しない反射面に対してレーザ光L1を照射する。
【0025】
光検出部33は、上記反射面で反射されたレーザ光L2を受光する。光検出部33は、当該背面で反射されたレーザ光L2を受光する4分割の受光面27を備えた光検出器である。すなわち、カンチレバー2の背面で反射されたレーザ光L2は、光検出部33の4分割された複数の受光面27に入射されるように光路を(通常は、受光面27の中心付近に)調整する。以下に、本実施形態におけるカンチレバー2のたわみ量とねじれ量との検出方法について、
図1及び
図2を用いて、説明する。
図2は、斜面を有する試料Sと、カンチレバー2との斜視図である。
【0026】
カンチレバー2は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触した場合にZ方向とY方向のいずれか一方、又は両方に変位が生じる。本実施形態において、Z方向に生じるカンチレバー2の変位をたわみ量と称し、Y方向に生じるカンチレバー2の変位をねじれ量と称する。例えば、初期条件では、プローブ2aに力が加わっていない状態で反射されたレーザ光L2の光検出部33の受光面27における入射スポット位置を、受光面27の中心位置とする。なお、プローブ2aに力が加わっていない状態とは、例えば、プローブ2aと試料Sの表面とが接触していないカンチレバーが無変形な状態である。
【0027】
コンタクトモードにおいて、プローブ2aと試料Sの表面とが接触すると、プローブ2aに力が加わることで、カンチレバー2にたわみ量やねじれ量が生じる。したがって、たわみ量やねじれ量が生じたカンチレバー2の背面で反射されたレーザ光L2の反射スポット位置は、その中心位置から変位する。そのため、走査型プローブ顕微鏡1は、光検出部33の受光面27における当該スポット位置の移動方向を捉えることによってプローブ2aに加わった力の大きさと方向を検出可能となる。例えば、
図1において、カンチレバー2にねじれ量が発生した場合には、光検出部33の受光面27においてα方向のスポット位置の変化を捉えることができる。また、カンチレバー2にたわみ量が発生した場合には、受光面27でβ方向のスポット位置の変化を捉えることができる。中心位置からのスポット位置の変化量は、ねじれ量やたわみ量に依存する。また、カンチレバー2が+Z方向にたわんだ場合には、光検出部33の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポットは、+β方向に変化する。また、カンチレバー2が-Z方向にたわんだ場合には、光検出部33の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポットは、-β方向に変化する。一方、カンチレバー2が+Y方向にねじれ量が発生した場合には、光検出部33の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポット位置は、+α方向に変化する。また、カンチレバー2が-Y方向にねじれ量が発生した場合には、光検出部33の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポットは、-α方向に変化する。
【0028】
光検出部33は、受光面27の±Z方向におけるレーザ光L2の反射スポット位置に応じた第1検出信号を制御装置7に出力する。すなわち、第1検出信号は、カンチレバー2のたわみ量に応じたDIF信号(たわみ信号)である。また、光検出部33は、受光面27の±Y方向におけるレーザ光L2の反射スポット位置に応じた第2検出信号を制御装置7に出力する。すなわち、第2検出信号は、カンチレバー2のねじれ量に応じたFFM信号(ねじれ信号)である。
【0029】
図1に示すように、制御装置7は、接触判定部42、駆動部43及び測定部44を備える。
接触判定部42は、光検出部33から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料Sの表面に接触したか否かを判定する。すなわち、接触判定部42は、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とに基づいてプローブ2aが試料Sの表面に接触したか否かを判定する。
【0030】
接触判定部42は、第1判定部421及び第2判定部422を備える。
第1判定部421は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲を超えた場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。第1判定部421は、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定した場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したことを示す第1接触信号を駆動部43に出力する。
【0031】
第2判定部422は、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲を超えた場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。第2判定部422は、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定した場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したことを示す第2接触信号を駆動部43に出力する。このように、接触判定部42は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲を超える第1条件と、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲を超える第2条件と、のうち少なくともいずれか一方が成立した場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。上記では、第1検出信号と第2検出信号が、独立して判定される例であるが、接触判定部42内で、「第1検出信号の2乗」と「第2検出信号の2乗」を足し合わせ、その和の平方根の正の数が、一定以上となった場合に接したと判定する等、特性に応じた設定値により判定してもよい。
【0032】
以下に、本実施形態における第1の範囲及び第2の範囲について、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態における第1の範囲及び第2の範囲について説明する図である。
【0033】
図3に示すように、第1の範囲は、たわみ上限閾値及びたわみ下限閾値を備える。たわみ上限値は、プローブ2aと試料Sとの表面が接触することで+Z方向にたわんだカンチレバー2のたわみ量である。一方、たわみ下限値は、プローブ2aと試料Sとの表面が接触することで-Z方向にたわんだカンチレバー2のたわみ量である。したがって、第1判定部421は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量がたわみ上限値を超えた場合、又は第1検出信号が示すたわみ量がたわみ下限値を下回った場合、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。
【0034】
第2の範囲は、ねじれ上限閾値及びねじれ下限閾値を備える。ねじれ上限値は、プローブ2aと試料Sとの表面が接触することで+Y方向にねじれたカンチレバー2のねじれ量である。一方、ねじれ下限値は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触することで-Y方向にねじれたカンチレバー2のねじれ量である。したがって、第2判定部422は、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量がねじれ上限値を超えた場合、又は第2検出信号が示すねじれ量がねじれ下限値を下回った場合、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。このように、
図3に示すたわみ量とねじれ量との2次元座標において、第1検出信号が示すたわみ量と、第2検出信号が示すねじれ量とが示す位置が、斜線で示された範囲の外に位置された場合にプローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定されることになる。
【0035】
以下に、本実施形態におけるプローブ2aと試料Sの表面との接触を判定する方法について、説明する。
図4は、ドーム状の試料Sの平面図であり、プローブ2aと試料Sの表面とが接触する位置、すなわち試料Sの形状測定の測定点(1)~(7)を示す図である。
【0036】
図5は、本実施形態における試料Sの測定点(1)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図5(a)は、測定点(1)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図5(b)は、測定点(1)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図5(c)は、測定点(1)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図5(d)は、測定点(1)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0037】
図5(a),(b)に示すように、測定点(1)にプローブ2aが接触した一次の接触状態の場合、カンチレバー2には多少のたわみ量が発生するが、測定点(1)の表面に傾きが無い(水平である)ため、ねじれ量が発生しない。また、
図5(c),(d)に示すように、測定点(1)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた二次の接触状態の場合、カンチレバー2は押し付け力に応じたたわみ量が発生する。ただし、測定点(1)の表面に傾きが無いため、ねじれ量が発生しない。したがって、接触判定部42は、第1検出信号が示すたわみ量がたわみ上限閾値を超えるか否かでプローブ2aが試料Sの表面に接触したか否かを判定する。
【0038】
図6は、本実施形態における試料Sの測定点(2)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図6(a)は、測定点(2)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図6(b)は、測定点(2)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図6(c)は、測定点(2)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図6(d)は、測定点(2)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0039】
図6(a),(b)に示すように、測定点(2)にプローブ2aが接触した一次の接触状態の場合、カンチレバー2は、押し付け力に対応した垂直抗力により、試料Sの表面に垂直な軸方向に、プローブ2aを傾ける力と、押し付け力と、に対応した-Z方向のたわみ量が発生する。ただし、測定点(2)の表面に±Y方向の傾きが無いため、ねじれ量が発生しない。一方、
図6(c),(d)に示すように、測定点(2)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた二次の接触状態の場合、カンチレバー2はその押し付け力が垂直抗力によるたわみ量を発生させる力を上回るとたわみ方向が変化し、+Z方向にたわむ量が発生する。ただし、測定点(2)の表面に±Y方向の傾きが無いため、ねじれ量が発生しない。
【0040】
従来の走査型プローブ顕微鏡は、+Z方向のたわみ量が一定値を超えた場合にのみ、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。したがって、従来の走査型プローブ顕微鏡は、測定点(2)にプローブ2aが接触した一次の接触状態(
図6(a),(b))では、-Z方向にたわみ量が発生しているため、プローブ2aと試料Sとの接触を判定することができない。したがって、従来の走査型プローブ顕微鏡は、より大きな押し付け力で試料Sを押し付け、カンチレバー2が+Z方向にたわんだ二次の接触状態のとき(
図6(c),(d))に、プローブ2aと試料Sとの接触を判定することになる。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を引き起こす場合がある。本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、カンチレバー2のたわみ量が第1の範囲を超えた場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定するため、たわみ方向にかかわらず、プローブ2aと試料Sとの一次の接触状態を判定することができる。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を抑制できる。
【0041】
図7は、本実施形態における試料Sの測定点(3)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図7(a)は、測定点(3)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図7(b)は、測定点(3)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図7(c)は、測定点(3)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図7(d)は、測定点(3)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0042】
図7(a),(b)に示すように、測定点(3)にプローブ2aが接触した場合、カンチレバー2には、押し付け力に対応した垂直抗力により、試料Sの表面に垂直な軸方向に、プローブ2aを傾ける力と、押し付け力と、に対応した+Z方向のたわみ量が発生する。ただし、測定点(3)の表面に±Y方向の傾きが無いため、ねじれ量が発生しない。一方、
図7(c),(d)に示すように、測定点(3)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた場合、カンチレバー2は押し付け力に応じたたわみ量が発生する。ただし、測定点(3)の表面に±Y方向の傾きが無いため、ねじれ量が発生しない。したがって、接触判定部42は、第1検出信号が示すたわみ量がたわみ上限閾値を超えるか否かでプローブ2aが試料Sの表面に接触したか否かを判定する。
【0043】
図8は、本実施形態における試料Sの測定点(4)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図8(a)は、測定点(4)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図8(b)は、測定点(4)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図8(c)は、測定点(4)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図8(d)は、測定点(4)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0044】
図8(a),(b)に示すように、測定点(4)にプローブ2aが接触した場合、カンチレバー2は多少のたわみ量が発生するとともに、押し付け力に対応した垂直抗力により+Y方向のねじれ量が発生する。これは、測定点(4)における試料Sの表面に+Y方向の傾きがあるからである。また、
図8(c),(d)に示すように、測定点(4)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた場合、カンチレバー2は押し付け力に応じたたわみ量が発生するとともに、押し付け力に対応した垂直抗力により+Y方向のねじれ量が発生する。
【0045】
ここで、カンチレバー2に発生するたわみ量は、押し付け力以外に、その押し付ける試料Sの表面の傾きの影響を受ける。例えば、プローブ2aが接触する試料Sの表面が斜面である場合、カンチレバー2のたわみ量が一定値以上になるには、水平面と比較して、より大きな押し付け力が必要となる。したがって、測定点(1)と測定点(4)とを比較した場合、測定点(1)と同等のたわみ量を発生させるには、より大きな押し付け力が必要となる。
【0046】
従来の走査型プローブ顕微鏡において、上記一定値はプローブ2aが測定点(1)に接触したときのたわみ量に設定されている。これは、従来の走査型プローブ顕微鏡では、カンチレバー2のたわみが一定になるように設定されているためである。したがって、従来の走査型プローブ顕微鏡では、測定点(4)にプローブ2aが接触した状態(
図8(a),(b))では、プローブ2aと試料Sとの接触を検出することができない。したがって、従来の走査型プローブ顕微鏡は、より大きな押し付け力で試料Sを押し付け、カンチレバー2が一定値を超える程度の-Z方向のたわみ量が発生したときに、プローブ2aと試料Sとの接触を検出することになる(
図8(c),(d))。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を引き起こす場合がある。本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、カンチレバー2のねじれ量に基づいてプローブ2aと試料Sとの接触を検出することができる。すなわち、走査型プローブ顕微鏡1は、斜面を有する測定点(4)にプローブ2aが接触した場合に(
図8(a),(b))、カンチレバー2のねじれ量に基づいてプローブ2aと試料Sとの接触を検出することができる。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を抑制できる。
【0047】
図9は、試料Sの測定点(5)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図9(a)は、測定点(5)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図9(b)は、測定点(5)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図9(c)は、測定点(5)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図9(d)は、測定点(5)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0048】
図9(a),(b)に示すように、測定点(5)にプローブ2aが接触した場合、カンチレバー2は多少のたわみ量が発生するとともに、押し付け力に対応した垂直抗力により+Y方向のねじれ量が発生する。これは、測定点(5)における試料Sの表面に-Y方向の傾きがあるからである。また、
図9(c),(d)に示すように、測定点(5)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた場合、カンチレバー2は押し付け力に応じたたわみ量が発生するとともに、押し付け力に対応した垂直抗力により-Y方向のねじれ量が発生する。
【0049】
ここで、カンチレバー2に発生するたわみ量は、押し付け力以外に、その押し付ける試料Sの表面の傾きの影響を受ける。例えば、プローブ2aが接触する試料Sの表面が斜面である場合、カンチレバー2のたわみ量が一定値以上になるには、水平面と比較して、より大きな押し付け力が必要となる。したがって、測定点(1)と測定点(5)とを比較した場合、測定点(1)と同等のたわみ量を発生させるには、より大きな押し付け力が必要となる。
【0050】
従来の走査型プローブ顕微鏡において、上記一定値はプローブ2aが測定点(1)に接触したときのたわみ量に設定されている。したがって、従来の走査型プローブ顕微鏡では、測定点(5)にプローブ2aが接触した状態(
図9(a),(b))では、プローブ2aと試料Sとの接触を検出することができない。そのため、従来の走査型プローブ顕微鏡は、より大きな押し付け力で試料Sを押し付け、カンチレバー2が一定値を超える程度の+Z方向のたわみ量が発生したときに、プローブ2aと試料Sとの接触を検出することになる(
図9(c),(d))。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を引き起こす場合がある。本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、カンチレバー2のねじれ量に基づいてプローブ2aと試料Sとの接触を検出することができる。すなわち、走査型プローブ顕微鏡1は、斜面を有する測定点(5)にプローブ2aが接触した場合に(
図9(a),(b))、カンチレバー2のねじれ量に基づいてプローブ2aと試料Sとの接触を検出することができる。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を抑制できる。
【0051】
図10は、試料Sの測定点(6)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図10(a)は、測定点(6)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図10(b)は、測定点(6)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図10(c)は、測定点(6)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図10(d)は、測定点(6)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0052】
図10(a),(b)に示すように、測定点(6)にプローブ2aが接触した場合、カンチレバー2には、押し付け力に対応した垂直抗力により、試料Sの表面に垂直な軸方向に、プローブ2aを傾ける力と、押し付け力と、に対応した+Z方向のたわみ量が発生する。また、カンチレバー2には、押し付け力に対応した垂直抗力により-Y方向のねじれが発生する。また、
図10(c),(d)に示すように、測定点(6)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた場合、カンチレバー2は押し付け力に応じたたわみ量が発生するとともに、押し付け力に対応した垂直抗力により-Y方向のねじれ量が発生する。したがって、接触判定部42は、第1検出信号が示すたわみ量がたわみ上限閾値を超えるか否か、又は第2検出信号が示すねじれ量がねじれ上限閾値を超えるか否かでプローブ2aが試料Sの表面に接触したか否かを判定することができる。
【0053】
図11は、試料Sの測定点(7)に、プローブ2aが接触したときのカンチレバー2の変位を示す図である。
図11(a)は、測定点(7)にプローブ2aが接触した状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図11(b)は、測定点(7)にプローブ2aが接触した状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
図11(c)は、測定点(7)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図11(d)は、測定点(7)にプローブ2aが接触してから、さらに押し込んだ状態における-X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0054】
図11(a),(b)に示すように、測定点(7)にプローブ2aが接触した一次の接触状態の場合、カンチレバー2には、押し付け力に対応した垂直抗力により、試料Sの表面に垂直な軸方向に、プローブ2aを傾ける力と、押し付け力と、に対応した-Z方向のたわみ量が発生する。また、カンチレバー2には、押し付け力に対応した垂直抗力により-Y方向のねじれ量が発生する。一方、
図11(c),(d)に示すように、測定点(6)にプローブ2aが接触した状態から押し付けた二次の接触状態の場合、カンチレバー2はその押し付け力が垂直抗力によるたわみ量を発生させる力を上回るとたわみ方向が変化し、+Z方向にたわみ量が発生する。また、カンチレバー2には、押し付け力に対応した垂直抗力により-Y方向のねじれ量が発生する。
【0055】
従来の走査型プローブ顕微鏡は、+Z方向のたわみ量が一定値を超えた場合にのみ、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定するため、測定点(7)にプローブ2aが接触した一次の接触状態(
図11(a),(b))では、プローブ2aと試料Sとの接触を判定することができない。したがって、上述したように、従来の走査型プローブ顕微鏡は、より大きな押し付け力で試料Sを押し付け、カンチレバー2が+Z方向にたわんだ二次の接触状態(
図11(c),(d))のときに、プローブ2aと試料Sとの接触を検出することになる。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を引き起こす場合がある。本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、カンチレバー2のたわみ量が第1の範囲を超えた場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定するため、たわみ方向にかかわらず、プローブ2aと試料Sとの一次の接触状態を判定することができる。そのため、プローブ2aの摩耗や試料Sの変形を抑制できる。
【0056】
上述したように、従来の走査型プローブ顕微鏡では、プローブが接触する試料表面の形状によって、プローブ2aと試料Sとの接触を検出する接触検出時における押し付け力にばらつきが生じていた。本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1では、試料Sにプローブ2aが接した状態を、持ち上がり方向(+Z方向)によるたわみ量以外に、持ち下がり方向(-Z方向)、ねじれ方向(±Y方向)の変位(ねじれ量)であっても全方位で検出し判定するため、試料Sの表面の傾斜の影響による押し付け力のばらつきを低減し、プローブ2aを試料Sへの過剰な押し付けを未然に防止できる。
【0057】
図1に戻り、駆動部43は、移動駆動部5によるカンチレバー2の駆動を制御する。駆動部43は、移動駆動部5によりカンチレバー2を下降させることでプローブ2aを試料Sの表面とを接触させる。そして、測定部44は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触すると、カンチレバーが移動した距離を測定することで、試料Sの表面の凸凹形状を測定する。このように、測定部44は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触させる際に、相対的に他方に対して移動させた距離である相対距離(以下、単に「相対距離」という。)を測定する。本実施形態では、相対距離は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触するまでカンチレバー2を下降させた移動距離であるが、プローブ2aと試料Sの表面とが接触するまで試料Sを上昇させた移動距離でもよい。なお、測定部44は、試料Sの表面の物性を測定してもよい。例えば、測定部44は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触した状態で試料Sの表面を連続的に走査することで、試料Sの表面の凸凹形状を測定してもよい。また、駆動部43は、予め設定された複数の試料Sの表面の測定点のみ、プローブ2aと試料Sの表面とを接触させることで試料Sの表面を間欠的に走査し、試料Sの表面の凸凹形状を測定する間欠的測定方法で測定してもよい。間欠的測定方法は、プローブ2aが予め設定された複数の測定点の間を移動するときには、試料Sの凸部への接触を避けるためプローブ2aを試料Sの表面から一定距離(以下、「引き離し距離」という。)だけ離した状態で移動し、次の測定点の箇所でプローブ2aを試料Sの表面に接近させる。そして、プローブ2aを試料Sの表面に接触させて試料Sの表面の凸凹形状の測定を行い、その後に再び引き離し距離だけ離れた位置にプローブ2aを退避させる測定方法である。
本実施形態では、制御装置7が間欠的測定方法を用いる場合について説明する。
【0058】
駆動部43は、第1駆動部431及び第2駆動部432を備える。
第1駆動部431は、試料Sの表面を走査する場合に、プローブ2aと試料Sの表面とを接触させるため第1駆動信号をZ方向駆動装置22に出力し、カンチレバー2を下降させる。これにより、第1駆動部431は、プローブ2aと試料Sの表面とを接近させる。
【0059】
第1駆動部431は、接触判定部42から第1接触信号と第2接触信号とのうち、少なくともいずれか一方が出力された場合、Z方向駆動装置22に対する第1駆動信号の出力を停止することで、カンチレバー2の下降動作を停止させる。
【0060】
第1駆動部431によりカンチレバー2の下降動作が停止された後、測定部44は、相対距離を測定する。第1駆動部431は、測定部44による相対距離の測定が完了した場合、プローブ2aを試料Sの表面から引き離し距離だけ退避させる。そして、第2駆動部432は、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させるために、XYスキャナ25に第2駆動信号を出力する。そして、第1駆動部431は、その測定下降位置からカンチレバー2を下降させ、次の測定位置においてプローブ2aを接触させ、再度測定部44による相対距離の測定が開始される。
【0061】
測定部44は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触している状態で、試料Sの表面の凸凹形状を測定する。すなわち、測定部44は、相対距離を測定位置毎に取得することで、試料Sの表面の凸凹形状を測定する。例えば、測定部44は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触している状態における第1駆動信号の電圧値に基づいて相対距離を算出してもよい。また、測定部44は、第1駆動部431の変位をセンサー(不図示)により直接計測してもよいし、プローブの高さをセンサー(不図示)により直接計測してもよい。
【0062】
以下に、本実施形態の制御装置7におけるプローブ2aと試料Sの表面との接触を検出する接触検出処理の流れについて、説明する。
図12は、本実施形態の制御装置7におけるプローブ2aと試料Sの表面との接触を検出する接触検出処理の流れを示す図である。なお、初期条件として、所定の測定点における測定下降位置にプローブ2aが位置している場合とする。
【0063】
第1駆動部431は、プローブ2aと試料Sの表面とを接触させるため第1駆動信号をZ方向駆動装置22に出力し、カンチレバー2を下降させることでプローブ2aを試料Sの表面に接近させる接近動作を開始する(ステップS100)。
【0064】
第1判定部421は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲外か否かを判定する(ステップS101)。第1判定部421は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲外である場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定し、第1接触信号を第1駆動部431に出力する。第2判定部422は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であると判定された場合に、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外か否かを判定する(ステップS102)。第2判定部422は、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外である場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定し、第2接触信号を第1駆動部431に出力する。第2判定部422は、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外ではない場合には、カンチレバーの接近動作を継続する。なお、
図12において、ステップS101の処理の後に、ステップS102の処理を実行したが、これに限定されない。本実施形態における制御装置7は、ステップS102の処理の後に、ステップS101の処理を行ってもよいし、ステップS101の処理と、ステップS102の処理とを並列に実行してもよい。
【0065】
第1駆動部431は、第1接触信号と第2接触信号とのうち、少なくともいずれか一方を取得した場合、Z方向駆動装置22に対する第1駆動信号の出力を停止することで、カンチレバー2の接近動作を停止させる(ステップS103)。
【0066】
測定部44は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触している状態で、第1駆動信号の電圧値に基づいて相対距離を算出することで、試料Sの表面の凸凹形状を測定する(ステップS104)。
【0067】
第1駆動部431は、測定部44による所定の測定位置における凸凹形状の測定が完了すると、プローブ2aを試料Sの表面から引き離し距離だけ退避させる(ステップS105)。そして、第2駆動部432は、XYスキャナ25に第2駆動信号を出力することで、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させる(ステップS106)。
【0068】
なお、走査型プローブ顕微鏡1は、接触検出処理において、上記の様な時系列的な測定だけでなく、並列的な測定(以下、「並列測定」という。)を行ってもよい。例えば、測定部44は、接触判定部42から第1接触信号と第2接触信号とのうち、少なくともいずれか一方が出力された時の相対距離を測定すると同時に、第1駆動部431がZ方向駆動装置22に対する第1駆動信号の出力を反転することで、カンチレバー2の下降動作を反転させる。以下、本実施形態における並列測定について、説明する。
図13は、本実施形態における接触検出処理の並列測定の流れを示す図である。
【0069】
第1駆動部431は、プローブ2aと試料Sの表面とを接触させるため第1駆動信号をZ方向駆動装置22に出力し、カンチレバー2を下降させることでプローブ2aを試料Sの表面に接近させる接近動作を開始する(ステップS200)。
【0070】
第1判定部421は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲外か否かを判定する(ステップS201)。第1判定部421は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲外である場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定し、第1接触信号を第1駆動部431に出力する。第2判定部422は、光検出部33から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であると判定された場合に、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外か否かを判定する(ステップS202)。第2判定部422は、光検出部33から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外である場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定し、第2接触信号を第1駆動部431に出力する。
【0071】
例えば、測定部44は、接触検出処理が開始されると連続的に相対距離を測定する。そして、測定部44は、接触判定部42から第1接触信号と第2接触信号とのうち、少なくともいずれか一方が出力された時の相対距離を、プローブ2aが試料Sに接触した時の相対距離に決定する(ステップS203)。なお、測定部44は、接触判定部42から第1接触信号と第2接触信号が出力された場合にのみ、相対距離を測定してもよい。
第1駆動部431は、測定部44により相対距離が決定されると同時に、プローブ2aを試料Sの表面から引き離し距離だけ退避させる(ステップS203)。そして、第2駆動部432は、XYスキャナ25に第2駆動信号を出力することで、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させる(ステップS204)。
【0072】
このように、本実施形態における並列測定は、カンチレバー2を停止させずに、カンチレバーのプローブ2aが試料Sに接触したときの相対距離を測定することができる。カンチレバー2を停止させてから、相対距離を測定すると、カンチレバー2を停止するまでのわずかな時間、オーバーランすることになり、測定部44の測定値の誤差が増加し、試料Sへの力が誤差分だけ強く押込まれる場合がある。
本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、プローブ2aと試料Sとの接触の検出と、その接触時の相対距離の測定とを同時に行うことができるため、カンチレバー2のオーバーランを抑制し、測定部44の測定値の誤差の増加を抑制することができる。したがって、走査型プローブ顕微鏡1は、試料Sへの力が強く押込まれることを低減することができる。
【0073】
上述したように、本実施形態における走査型プローブ顕微鏡1は、試料Sの表面にプローブ2aを接触させて、試料Sの表面をプローブ2aで走査する走査型プローブ顕微鏡であって、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とに基づいてプローブ2aが試料Sの表面に接触したか否かを判定する。具体的には、走査型プローブ顕微鏡1は、カンチレバー2のたわみ量が第1の範囲を超える第1条件と、カンチレバー2のねじれ量が第2の範囲を超える第2条件の少なくともいずれか一方が成立した場合に、プローブ2aが試料Sの表面に接触したと判定する。これにより、プローブ2aが接触する試料Sの表面が斜面である場合において、プローブ2aと試料Sの表面との接触を検出する接触検出の押し付け力の値が、水平面と比較して変化する現象を改善することができる。
【0074】
また、上述の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡1は、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量に基づいて、走査方向における試料Sの表面に傾斜があるか否かを判定してもよい。また、走査型プローブ顕微鏡1は、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量の大きさに基づいて、走査方向における試料Sの表面の傾斜の大きさ(角度)を予測してもよい。また、走査型プローブ顕微鏡1は、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量の符号に基づいて、走査方向における試料Sの表面の傾斜が下り傾斜か上り傾斜かを判定してもよい。
【0075】
また、上述の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡1は、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量に基づいて、プローブ2aを試料Sから離れる方向に退避させる引き離し距離を算出する算出部をさらに備えてもよい。すなわち、走査型プローブ顕微鏡1は、間欠的測定方法において、カンチレバー2のねじれ量に基づいて次の測定下降位置へ移動する場合の引き離し距離を決定してもよい。例えば、算出部は、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量の大きさや符号に基づいて、引き離し距離を決定する。また、算出部は、ねじれ量と引き離し距離とが関連付けされたテーブルを備え、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量に対応する引き離し距離を、上記テーブルから選択することで、引き離し距離を決定してもよい。引き離し距離の最適値は、試料Sの表面の形状により異なる。したがって、試料表面の形状が解らない未知の試料を走査する場合では、事前に最適な引き離し距離を推定する必要がある。本実施形態では、走査方向における試料Sの斜面の傾斜に応じて引き離し距離を決定することができるため、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させる場合に、プローブ2aと試料Sの接触を低減し、且つ測定時間を短縮することが可能となる。
【0076】
また、上述の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡1は、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させる場合に、光検出部33により出力される第2検出信号が示すねじれ量に基づいて、プローブ2aと試料Sの表面との接触を検出してもよい。例えば、走査型プローブ顕微鏡1は、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置へのプローブ2aの移動時において、プローブ2aと試料Sの表面との接触を検出した場合には、その移動を停止し、プローブ2aを試料Sの表面から+Z方向に退避させる。これにより、プローブ2aが測定下降位置に移動している場合において、プローブ2aと試料Sが接触したとしても、従来と比較してプローブ2aの摩耗や試料Sの損傷を抑制することができる。
【0077】
また、上述の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡1は、間欠的測定方法における退避動作において、第1検出信号が示すたわみ量と、第2検出信号が示すねじれ量とに基づいて、プローブ2aと試料Sの表面とが接触していないことを判定してもよい。
【0078】
また、上述の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡1は、プローブ2aと試料Sの表面とが接触した状態で試料Sの表面を連続的に走査する場合に、第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であり、且つ、第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内になるように、Z方向駆動装置22を制御してもよい。これにより、試料Sの表面が斜面を有する場合であっても、プローブ2aと試料Sの表面との距離が一定の距離に保持することができる。
【0079】
また、上述の実施形態において、試料台4を移動させるのではなく、カンチレバー2を移動させることで、プローブ2aと試料Sとを、XY方向に対して相対的に移動させるようにしてもよい。
【0080】
上述した実施形態における制御装置7をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0081】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0082】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0083】
1 走査型プローブ顕微鏡
2 カンチレバー
5 移動駆動部
6 変位検出部
7 制御装置
42 接触判定部
43 駆動部
44 測定部
421 第1判定部
422 第2判定部