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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】MTF測定装置およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20221208BHJP
   H04N 17/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01M11/02 A
H04N17/00 200
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018205785
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020071144
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】正岡 顕一郎
(72)【発明者】
【氏名】三須 俊枝
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-134861(JP,A)
【文献】特開平9-98292(JP,A)
【文献】特開2001-324413(JP,A)
【文献】特開2018-136222(JP,A)
【文献】Kenichiro Masaoka,Accuracy and Precision of Edge-Based Modulation Transfer Function Measurement for Sampled Imaging Sy,IEEE Access,2018年07月,Vol.6
【文献】KENICHIRO MASAOKA,Practical edge-based modulation transfer function measurement,OPTICS EXPRESS,2019年01月,Vol. 27, No. 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-G01M 11/08
H04N 5/222-H04N 5/257
H04N 13/00-H04N 17/06
H04N 1/40-H04N 1/409
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像系の空間周波数特性を示すMTFを測定するMTF測定装置であって、
前記撮像系によって撮像された、傾きを有するエッジを含んだエッジ画像において、前記エッジを含んだ矩形形状の領域であるROIを設定するROI設定手段と、
前記ROIにおいて、前記エッジを含むラインごとに離散フーリエ変換を行うことで、前記ラインごとのMTFであるラインMTFを算出するラインMTF算出手段と、
前記ラインMTFを予め定めた空間周波数ごとに前記ROIのライン数で平均化して平均MTFを算出するラインMTF平均化手段と、
前記平均MTFからエイリアシング成分を除去する補正を行うエイリアシング除去手段と、
を備えることを特徴とするMTF測定装置。
【請求項2】
前記エイリアシング除去手段は、空間周波数ξごとの前記平均MTFの値において、空間周波数ξ=0.5におけるMTFの値が前記平均MTFの値を4/πで除算した値となり、かつ、空間周波数ξ=1においてMTFの値が0となる単調減少関数で近似した関数として、前記平均MTFを補正することを特徴とする請求項1に記載のMTF測定装置。
【請求項3】
前記エイリアシング除去手段は、空間周波数ξにおいて、前記ROIの本来のMTF特性|F(ξ)|を単調減少関数であるsinc(ξ)と仮定し、比r(ξ)=|F(1-ξ)|/|F(ξ)|=(ξ/(1-ξ))に基づいて、前記平均MTFの空間周波数ξごとのMTFの値を、((2/π)(r(ξ)+1)E(4r(ξ)/(r(ξ)+1)))(E()は第二種完全楕円積分)で除算して補正することを特徴とする請求項1に記載のMTF測定装置。
【請求項4】
前記エッジ画像は、前記撮像系によって連続して撮像される画像であって、
前記エイリアシング除去手段は、前記ROIを設定後、予め定めた時間または回数だけ加算平均したROIの画像において、前記比r(ξ)を算出し、空間周波数ξごとに1次元ルックアップテーブルとして保持し、それ以降、前記1次元ルックアップテーブルを参照して比r(ξ)の値を用いて、前記平均MTFの空間周波数ξごとのMTFの値を補正することを特徴とする請求項3に記載のMTF測定装置。
【請求項5】
前記ラインMTF平均化手段は、空間周波数ξごとに、前記平均MTFに1/sinc(ξ)を乗算することで、前記平均MTFの減衰成分を補償することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のMTF測定装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のMTF測定装置として機能させるためのMTF測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像系の空間周波数特性を示すMTF(Modulation Transfer Function)を測定するMTF測定装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高解像度テレビジョンの最大の特徴は、高い空間解像度であり、カメラの解像度特性が重要となる。カメラの解像度特性は、MTFで表すことができる。
現在、MTFを測定する方法として、カメラが撮像する測定用のチャートのサイズが比較的小さく、撮像画角を正確にチャートサイズにフレーミングする必要がないSlanted-edge法(傾斜エッジ法;以下、エッジ法という)が一般的に用いられている(特許文献1,2、非特許文献1~4参照)。
【0003】
ここで、図12を参照して、従来のエッジ法によるMTF測定について説明する。
まず、エッジ法は、図12(a)に示すように、エッジを含んだチャートを撮像した画像(エッジ画像I)において、MTFの測定対象となるROI(Region Of Interest:関心領域)を選定する。
次に、エッジ法は、図12(b)に示すように、ROIからエッジeを検出し、その傾きθeを求める。そして、エッジ法は、ROIの各画素を、エッジeに沿って、等間隔に区分されたビンが並ぶ投影軸(x軸)に投影する。このとき、ビンの幅は、ROIの1画素の幅の1/4、1/8といったサブピクセル幅とする。
【0004】
そして、エッジ法は、投影軸のビンに投影された画素の値を各ビンで平均化することで、図12(c)に示すようなオーバーサンプリングされたエッジ広がり関数(ESF:Edge Spread Function)を求める。
さらに、エッジ法は、エッジ広がり関数を微分することで、図12(d)に示すような線広がり関数(LSF:Line Spread Function)を求める。
最後に、エッジ法は、エッジ広がり関数をフーリエ変換して絶対値をとり、直流(空間周波数“0”)で正規化することで、図12(e)に示すように、MTFを求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-237177号公報
【文献】特開2018-13416号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】ISO 12233:2017,“Photography - Electronic still picture imaging - Resolution and spatial frequency responses”
【文献】K. Masaoka, K. Arai, and Y. Takiguchi, “Real-time measurement of ultra-high definition camera modulation transfer function,” SMPTE Motion Imaging Journal, 127(10), 2018, doi: 10.5594/JMI.2018.2868435. (in press)
【文献】K. Masaoka et. al., Modified slanted-edge method and multidirectional modulation transfer function estimation,” Optics Express 22(5):6040-6046, March 2014
【文献】「テレビジョンカメラシステムの解像度特性測定法 技術資料(ARIB TR-B41)」、1.0版、P3-7、一般社団法人電波産業会、平成28年9月29日策定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のエッジ法では、図12(b)に示したROIにおいてエッジeを検出するために計算コストがかかってしまうという問題がある。さらに、従来のエッジ法は、エッジが直線でなければMTFの計算精度が落ちてしまうという問題がある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、従来のエッジ法よりも計算コストを抑え、直線でないエッジからでもMTFを測定することが可能なMTF測定装置およびそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係るMTF測定装置は、撮像系の空間周波数特性を示すMTFを測定するMTF測定装置であって、ROI設定手段と、ラインMTF算出手段と、ラインMTF平均化手段と、エイリアシング除去手段と、を備える構成とした。
【0009】
かかる構成において、MTF測定装置は、ROI設定手段によって、撮像系によって撮像された、傾きを有するエッジを含んだエッジ画像において、エッジを含んだ矩形形状の領域であるROIを設定する。この矩形形状の領域がMTFの測定範囲となる。
そして、MTF測定装置は、ラインMTF算出手段によって、ROIにおいて、エッジを含むラインごとに離散フーリエ変換によりラインごとのMTFであるラインMTFを算出する。
そして、MTF測定装置は、ラインMTF平均化手段によって、ラインMTFを予め定めた空間周波数ごとにROIのライン数で平均化して平均MTFを算出する。これによって、MTF測定装置は、エッジの傾きを検出することなく、また、エッジが直線でなくても、ROIのMTFを測定することができる。
【0010】
さらに、MTF測定装置は、エイリアシング除去手段によって、平均MTFからエイリアシング成分を除去する補正を行う。この補正は、例えば、空間周波数ξ=0.5におけるMTFの値が平均MTFの値を4/πで除算した値となり、かつ、空間周波数ξ=1においてMTFの値が0となる単調減少関数で近似した関数を用いて行うことができる。
【0011】
なお、MTF測定装置は、コンピュータを、前記したROI設定手段、ラインMTF算出手段、ラインMTF平均化手段、エイリアシング除去手段として機能させるためのMTF測定プログラムで動作させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明によれば、従来のエッジ法のように、エッジの傾きを検出することがないため、計算コストを抑えることができる。これによって、本発明は、小規模なFPGA(Field-Programmable Gate Array)でも実装することが可能になる。
また、本発明によれば、エッジが直線でなくてもMTFを測定することができる。これによって、本発明は、専用のチャートを用いなくても、エッジを有する箇所を撮像するだけで、MTFを測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るMTF測定装置の構成を示すブロック構成図である。
図2】ROIを説明するための図であって、(a)は垂直のROI(垂直エッジ画像)、(b)は水平のROI(水平エッジ画像)である。
図3】ラインMTF算出手段で算出するラインごとのMTFを説明するための説明図である。
図4】本来のMTFとエイリアシングのMTFを示すグラフ図である。
図5】本来のMTFとエイリアシングを含んだ複数のラインごとのMTFおよびその平均とを説明するためのグラフ図である。
図6】本来のMTFとエイリアシングを含んだ平均MTFとを説明するためのグラフ図である。
図7】本来のMTFとエイリアシングのMTFとの合成ベクトルを説明するための説明図である。
図8】r(ξ)と〈|F(ξ)|〉CORR/|F(ξ)|との関係を示すグラフ図である。
図9】本発明の実施形態に係るMTF測定装置で測定したMTFの測定結果を示すグラフ図である。
図10】本発明の実施形態に係るMTF測定装置の動作を示すフローチャートである。
図11】本発明の実施形態に係るMTF測定装置の変形例として、MTFを単調減少関数で近似する例を説明するための説明図である。
図12】従来のエッジ法の測定手順を(a)~(e)で説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[MTF測定装置の構成]
最初に、図1を参照して、本発明の実施形態に係るMTF測定装置1の構成について説明する。
【0015】
MTF測定装置1は、撮像系2の空間周波数特性を表すMTFを測定するものである。ここで、MTF測定装置1は、撮像系2と表示装置3とを接続する。
撮像系2は、MTFの被測定対象であって、ビデオカメラまたはスチールカメラ、MTFの被測定対象となるレンズを含んだカメラ等である。
撮像系2は、エッジ(コントラストの異なる境界)を含んだチャートCHを撮像したエッジ画像(動画像または静止画像)を、MTF測定装置1に出力する。
【0016】
チャートCHは、エッジの傾きが、撮像系2の撮像素子(不図示)に対して垂直方向または水平方向から数度傾いたエッジパターンを含んだテストチャートである。
このチャートCHは、例えば、エッジ法で用いられるMTF測定用のテストチャートである。なお、本発明において、チャートCHのエッジは、必ずしも直線である必要はなく、曲線等の歪みをもっていてもよい。例えば、エッジを有する文字が描かれた看板等であっても構わない。
ここで、水平方向の周波数特性を測定する場合、撮像系2は、図2(a)に示すように、エッジをやや傾いた(数度程度)斜め垂直方向にした状態でチャートCHを撮像し、エッジ画像Iを取得する。また、垂直方向の周波数特性を測定する場合、撮像系2は、図2(b)に示すように、エッジを斜め水平方向にした状態でチャートCHを撮像し、エッジ画像Iを取得する。
【0017】
表示装置3は、MTF測定装置1を操作するユーザインタフェースを提供するとともに、撮像系2が撮像したエッジ画像、測定結果となるグラフ等を表示するものである。例えば、表示装置3は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等である。
なお、表示装置3は、撮像系2が撮像したエッジ画像を表示する表示装置と、測定結果を表示する表示装置とをそれぞれ別に設けてもよい。
【0018】
以下、撮像系2で撮像されたエッジ画像によって、撮像系2のMTFを測定するMTF測定装置1の構成について詳細に説明する。
図1に示すように、MTF測定装置1は、エッジ画像記憶手段10と、ROI設定手段11と、ラインMTF算出手段12と、ラインMTF平均化手段13と、エイリアシング除去手段14と、MTF出力手段15と、を備える。
【0019】
エッジ画像記憶手段10は、撮像系2でチャートCHを撮像した画像(エッジ画像)を記憶するものである。なお、撮像系2の出力が動画像であれば、エッジ画像記憶手段10は、図示を省略した映像入力手段を介して、エッジ画像が撮像系2からフレーム画像として順次時系列に入力される。このエッジ画像記憶手段10は、例えば、ハードディスク、メモリ等の一般的な記憶装置である。
なお、エッジ画像記憶手段10が記憶するエッジ画像は、図示を省略した映像出力手段を介して表示装置3に出力される。
【0020】
ROI設定手段11は、撮像系2で撮像したエッジ画像内で、傾きを有するエッジを含むMTFの測定対象の領域であるROI(関心領域)を設定するものである。例えば、ROI設定手段11は、表示装置3が表示しているエッジ画像内において、測定者が操作するポインティングデバイス(不図示)で矩形(長方形)形状の領域を指定されることで、ROIの位置、大きさ等を設定する。
【0021】
ここで、水平方向の周波数特性を測定する場合、ROI設定手段11は、測定者によって、図2(a)に示すように、チャートCHを撮像したエッジ画像Iから、縦長の矩形形状の領域を指定されることで、ROIを設定する。この場合、ROIによって、水平方向で明度が異なる垂直エッジ画像が特定されることになる。
また、垂直方向の周波数特性を測定する場合、ROI設定手段11は、測定者によって、図2(b)に示すように、チャートCHを撮像したエッジ画像Iから、横長の矩形形状の領域を指定されることで、ROIを設定する。この場合、ROIによって、垂直方向で明度が異なる水平エッジ画像が特定されることになる。
なお、測定者の指定によって、エッジの向き(垂直、水平)を指定することとしてもよい。その場合は、ROI設定手段11は、図2(a)において横長の矩形形状の領域、または、図2(b)において縦長の矩形形状の領域を指定しても構わない。
また、ROIとして、画面上の中心ではなく、上下左右のそれぞれの位置を設定したければ、当該位置にエッジがくるように、撮像系2の向き、あるいは、チャートCHの位置を変えて撮像すればよい。
【0022】
また、ROI設定手段11によるROIの設定は、順次入力される撮像画像において、ROIを変更する必要がなければ、一度の設定でよい。
ROI設定手段11は、設定したROIの位置、大きさ等を示す情報をラインMTF算出手段12に出力する。
【0023】
ラインMTF算出手段12は、ROI設定手段11で設定されたエッジ画像のROIで特定される画像(ROI画像)において、ラインごとのMTF(以下、ラインMTFと呼ぶ)を算出するものである。なお、ラインMTF算出手段12は、ROI画像が図2(b)に示した水平エッジ画像である場合、当該水平エッジ画像を回転させて、図2(a)に示した垂直エッジ画像とする。ラインとは、エッジと交差するROIの対向する辺(短辺)の方向の1画素×辺の画素数分の画像データである。
ラインMTF算出手段12は、図3に示すように、ROIで特定される画像のライン(L,L,L,…,L;RはROIのライン数)ごとに、1ライン分の画像データの濃度変化を微分した値に対して離散フーリエ変換(1次元離散フーリエ変換)を施すことで、ラインMTFを算出する。
【0024】
具体的には、ラインMTF算出手段12は、ξを1画素あたりの明暗サイクルである空間周波数(cycles/pixel)、Nを1ラインの画素数、nを画素位置のインデックス(0以上N未満)、x(n)を画素位置nの画素値としたとき、以下の式(1)により、ξごとに、ラインMTF(|F(ξ)|)を算出する。
ここで、ξごととは、予め定めた空間周波数ごとである。この空間周波数はROIの1ラインの画素数Nで決まり、ξ=[0,1/N,…,(N-1)/N]である。
【0025】
【数1】
【0026】
ラインMTF算出手段12は、算出したROIのライン数分のラインMTF(|F(ξ)|~|F(ξ)|)を、ラインMTF平均化手段13に出力する。
なお、ラインMTF算出手段12は、ROIのライン数分のラインMTF(|F(ξ)|~|F(ξ)|)を算出する前に、前フレームまでのROI画像と加算平均し、ラインMTFを算出する。これによって、ROIにおけるノイズを除去することができる。
【0027】
ラインMTF平均化手段13は、ラインMTF算出手段12で算出されたROIのライン数分のラインMTFを平均化するものである。
すなわち、ラインMTF平均化手段13は、式(1)で算出されたライン数(R)分のラインMTF(|F(ξ)|)を、ξごとに平均化して平均MTFを算出する。以下、ξごとに平均化した平均MTFを〈|F(ξ)|〉と表記する。
【0028】
ここで、ROIの大きさを無限と仮定した場合の理想的なアンサンブル平均について説明する。以下、理想的なアンサンブル平均を〈|F(ξ)|〉と表記する。
ROIのエッジ位相がサンプリング位置に対して一様に分布していると仮定した場合、〈|F(ξ)|〉は、以下の式(2)で表すことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
ξは、空間周波数(cycles/pixel)を示す。
step(x-s)は、位置sで値が0から1に遷移する理想的なエッジの濃度変化を表すステップ関数を示す。
f(x)は、サンプリングを櫛関数comb(x)で表したカメラシステム(ここでは撮像系2)の線広がり関数(LSF)を示す。
δ(x)は、デルタ関数で、{δ(x)-δ(x-1)}は、エッジ広がり関数(ESF)の1次元微分を近似する差分フィルタを示す。
F(ξ)は、f(x)のフーリエ変換で計算される光伝達関数(OTF:Optical Transfer Function)を示す。
sinc(ξ)はsinc関数である。
【0031】
この式(2)に示すように、〈|F(ξ)|〉は、減衰成分であるsinc(ξ)を含んでいるため、減衰成分を補償する必要がある。
ラインMTF平均化手段13は、有限の大きさのROIから算出した平均MTF〈|F(ξ)|〉を理想的な平均〈|F(ξ)|〉とみなし、式(3)に示した減衰補償を行う。
すなわち、ラインMTF平均化手段13は、以下の式(3)に示すように、〈|F(ξ)|〉に、sinc(ξ)の逆関数(1/sinc(ξ))を掛けることで減衰成分を補償する。ここで、補償後の平均を〈|F(ξ)|〉CORRと表記する。
【0032】
【数3】
【0033】
ラインMTF平均化手段13は、補償後の平均〈|F(ξ)|〉CORRを平均MTFとして、エイリアシング除去手段14に出力する。
【0034】
エイリアシング除去手段14は、ラインMTF平均化手段13で算出された平均MTFからエイリアシング成分を除去する補正を行うものである。
〈|F(ξ)|〉CORRは、撮像系2の撮像素子(不図示)のサンプリング位置(固定位相)に基づいて求められたもので、従来のエッジ法のように種々のエッジ位相により求められたMTFではない。そのため、〈|F(ξ)|〉CORRは、エイリアシング(折り返し)の影響を受け、誤りを含んでいる。
そこで、エイリアシング除去手段14は、ラインMTF平均化手段13で算出された平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRから、エイリアシング成分を除去する。
【0035】
ここで、図4図8および数式により、エイリアシング成分を含んだ平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRと、本来のMTFとの関係について説明する。
図4に示すように、線広がり関数(LSF)であるf(x)をフーリエ変換して求められる本来のMTF(|F(ξ)|)(図4中、実線で示すMTFtrue)は、式(2)に示したcomb(x)が畳み込まれ、エイリアシングのMTF(図4中、破線で示すMTFaliasing)と位相差e-2πsξ-jπξで重なる。
【0036】
具体的に、図5を参照して、図2(a)で示した垂直エッジ画像(ROI)として水平100画素、垂直200画素から求めたMTFで説明する。
図5において、MTFtrueは、従来のエッジ法により求めたMTF(本来のMTF)、MTFlineは、ラインMTF算出手段12で算出した複数のラインMTFを示す。
この場合、単純に、複数のラインMTF(MTFline)を平均化したMTFは、MTFaverage+aliasingとして求められることになる。
すなわち、ラインMTF算出手段12で算出されるMTFaverage+aliasingは、ナイキスト周波数ξ以下であっても、図6に示すように、MTFaverage+aliasingは、MTFaliasingの影響により、ナイキスト周波数ξに近づくほど大きく見積もられる。
【0037】
ただし、MTFaverage+aliasingは、本来のMTFとエイリアシングのMTFとの位相差によって、単純に本来のMTFにエイリアシングのMTFを加算したものにはならない。
そこで、本来のMTFとエイリアシングのMTFとの割合を予め定めた制約の下で特定する。
まず、制約として、本来のMTFである|F(ξ)|が、ξ≧1、ξ≦-1で“0”とする。ここで、0≦ξ≦1の範囲で|F(ξ)|を求めることとした場合、エイリアシングのMTFは|F(1-ξ)|となる。
【0038】
この場合、図7に示すように、0≦ξ≦1のξごと、すなわち、F(ξ)およびF(1-ξ)の2つのベクトルをそれぞれ反対方向に回転(位相π分)させたξごとの合成ベクトルvの長さの平均が、ラインMTF平均化手段13で算出される〈|F(ξ)|〉CORRと等しい。なお、この平均は、1回転分の平均であるため、F(ξ)とF(1-ξ)との位相差(-jπξ(式(2)参照))には依存しない。
ここで、|F(ξ)|と|F(1-ξ)|との比r(ξ)を、以下の式(4)で定義する。
【0039】
【数4】
【0040】
F(ξ)およびF(1-ξ)の位相差を2θとしたとき、合成ベクトルvの長さの総和は、(1+2r(ξ)cos(2θ)+r(ξ)1/2となり、合成ベクトルvの長さの平均となる平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRを求めることができる。この関係を以下の式(5)に示す。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、E()は、以下の式(6)に示す第二種完全楕円積分である。
【0043】
【数6】
【0044】
r(ξ)と〈|F(ξ)|〉CORR/|F(ξ)|との関係を図8に示す。
このように、ラインMTF平均化手段13で算出された平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRと本来のMTFである|F(ξ)|とは、|F(ξ)|とエイリアシングのMTF|F(1-ξ)|との比r(ξ)に応じて変化する。
なお、ξ=0.5の場合、前記式(4)よりr(ξ)=1となり、式(5)により|F(0.5)|は、〈|F(0.5)|〉CORRを4/π(=1.2732)で除算することで求めることができる。
すなわち、ξ=0.5においては、本来のMTF値は、〈|F(0.5)|〉CORRを4/πで除算した値として固定的に求めることができる。しかし、ξ≠0.5においては、式(4)のr(ξ)が未定であるため、本来のMTF値を求めることができない。
そこで、エイリアシング除去手段14は、平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRを予め定めた特定の点を通る単調減少の関数に近似するように補正して、MTF特性を求める。
【0045】
ここでは、計算を簡単にするため、平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRは、本来のMTF特性を矩形関数のフーリエ変換であるsinc関数をp乗して近似し、ラインMTF平均化手段13で算出された平均MTFを補正する。sinc関数は、sinc(0)=1、sinc(1)=0の特定の点を通る関数である。
ここで、本来のMTF特性である|F(ξ)|をsinc(ξ)(0≦ξ≦1)とする。sinc(ξ)のpは、ξ=0.5(r(0.5)=1)として、前記式(5)を変形した以下の式(7)により求めることができる。なお、ξ=0.5が存在しない場合は、近接する空間周波数に対応する値〈|F(ξ)|〉CORRから、内挿によって、〈|F(0.5)|〉CORRを求めればよい。
【0046】
【数7】
【0047】
エイリアシング除去手段14は、式(7)で算出したpを用いて、以下の式(8)により、|F(ξ)|と|F(1-ξ)|との比r(ξ)を、ξごとに算出する。ここで、ξごととは、ROIの1ラインの画素数で予め定めた空間周波数ごとである。
【0048】
【数8】
【0049】
エイリアシング除去手段14は、式(8)で算出したr(ξ)を用いて、前記式(5)を変形した以下の式(9)により、ラインMTF平均化手段13で算出された平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRを補正して|F(ξ)|を求める。
【0050】
【数2】
【0051】
これによって、エイリアシング除去手段14は、0≦ξ≦0.5の範囲で平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRのエイリアシング成分を除去して、本来のMTFを推定することができる。
エイリアシング除去手段14は、〈|F(ξ)|〉CORRを補正した|F(ξ)|をMTF出力手段15に出力する。
【0052】
MTF出力手段15は、測定結果となるMTFを外部(例えば、表示装置3)に出力するものである。
このMTF出力手段15は、空間周波数ごとのMTF値を出力してもよいし、グラフ化して出力してもよい。
これによって、MTF測定装置1は、図9に示すように、ラインごとの平均のMTFにエイリアシングを含んだMTFaverage+aliasingからエイリアシングを除去して、本来のMTFtrueを測定することができる。
【0053】
以上説明したようにMTF測定装置1を構成することで、MTF測定装置1は、エッジの傾きを求めずに、MTFを測定することができ、従来のエッジ法よりも計算コストを抑えることができる。
また、MTF測定装置1は、ROIのラインごとにMTF(ラインMTF)を算出して平均化することで、必ずしもエッジが直線である必要がない。
なお、MTF測定装置1は、コンピュータを、前記した各手段として機能させるためのプログラム(MTF測定プログラム)により動作させることができる。
【0054】
[MTF測定装置の動作]
次に、図10を参照(構成については適宜図1参照)して、本発明の実施形態に係るMTF測定装置1の動作について説明する。
ここでは、MTF測定装置1は、撮像系2から入力される、チャートCHを撮像したエッジ画像を、エッジ画像記憶手段10に記憶するとともに、表示装置3にエッジ画像を表示する。以下、MTF測定装置1がエッジ画像からMTFを測定する動作について詳細に説明する。
【0055】
ステップS1において、ROI設定手段11は、ROIの位置、大きさ等を設定する。例えば、ROI設定手段11は、表示装置3が表示しているエッジ画像内において、測定者が操作するポインティングデバイス(不図示)で矩形形状の領域を指定されることでROIを設定する。
【0056】
ステップS2において、ラインMTF算出手段12は、エッジ画像記憶手段10に記憶されているエッジ画像から、ステップS1で設定されたROIで特定される画像(ROI画像)を読み出す。
ステップS3において、ラインMTF算出手段12は、ステップS2で読み出したROI画像を、前フレームまでのROI画像とで加算平均を行う。
ステップS4において、ラインMTF算出手段12は、ROI画像のラインごとに、1ライン分の画像データの濃度変化の微分した値に対して、前記式(1)の離散フーリエ変換を施すことで、ラインMTFを算出する。
【0057】
ステップS5において、ROI画像のすべてのラインについてラインMTFを算出したか否かを判定する。
ここで、まだ、ROI画像のすべてのラインについてラインMTFを算出していない場合(ステップS5でNo)、MTF測定装置1は、ステップS4に戻って、ラインMTF算出手段12において、次のラインを対象としてラインMTFを算出する。
一方、ROI画像のすべてのラインについてラインMTFを算出した場合(ステップS5でYes)、MTF測定装置1は、ステップS6に動作を進める。
【0058】
ステップS6において、ラインMTF平均化手段13は、ROIのライン数分のラインMTFを空間周波数ξ(0≦ξ≦0.5)ごとに平均化して、平均MTF〈|F(ξ)|〉を算出する。
ステップS7において、ラインMTF平均化手段13は、前記式(3)により、平均MTF〈|F(ξ)|〉の減衰成分を補償した〈|F(ξ)|〉CORRを算出する。
【0059】
ステップS8において、エイリアシング除去手段14は、補償後の平均MTF〈|F(ξ)|〉CORRを補正する関数として、特定の点を通り、〈|F(ξ)|〉CORRに近似する予め定めた単調減少関数の形状を特定するパラメータを決定する。ここでは、エイリアシング除去手段14は、前記式(7)により、ξ=1でMTF値が“0”、ξ=0.5で、MTF値が、ラインMTF平均化手段13で求めた〈|F(0.5)|〉CORR/(4/π))となる各点を通る関数(ここでは、sinc(ξ))のパラメータ(ここでは、p)を決定する。なお、ξ=0.5が存在しない場合、エイリアシング除去手段14は、内挿により求めた〈|F(0.5)|〉CORRを用いる。
【0060】
ステップS9において、エイリアシング除去手段14は、パラメータpにより特定される関数で、本来のMTFとなる未知の|F(ξ)|と|F(1-ξ)|との比r(ξ)を、前記式(8)により、空間周波数ξ(0≦ξ≦0.5)ごとに算出する。
ステップS10において、エイリアシング除去手段14は、ステップS9で算出した比r(ξ)と、ステップS7で算出した〈|F(ξ)|〉CORRとから、前記式(9)により、空間周波数ξごとのMTF値である|F(ξ)|を算出する。
ステップS11において、MTF出力手段15は、ステップS10で算出された空間周波数ξごとのMTF値を、例えば、グラフ化して、表示装置3に出力する。
【0061】
ここで、外部から測定の終了を指示された場合(ステップS12でYes)、MTF測定装置1は、動作を終了する。
一方、測定動作を継続する場合(ステップS12でNo)、MTF測定装置1は、ステップS2に戻る。なお、ROIを再設定する場合は、ステップS1に戻る(不図示)。
【0062】
以上の動作によって、MTF測定装置1は、エッジの傾きを求めずに、ROIのラインごとのMTFから、ROI全体のMTFを測定することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0063】
(変形例1)
ここでは、MTF測定装置1は、エイリアシング除去手段14において、前記式(8)の比r(ξ)を逐次算出した。
しかし、この比r(ξ)の算出は、ROIを設定した後、予め定めた時間または回数だけROI画像を加算平均した場合、省略してもよい。
その場合、MTF測定装置1は、エイリアシング除去手段14によって、ROI設定後、予め定めた時間、あるいは、予め定めた回数だけROI画像の加算平均を行った後、図示を省略した記憶部に、空間周波数ξと比r(ξ)とを、1次元ルックアップテーブルとして保持する。そして、エイリアシング除去手段14は、ステップS8において、空間周波数ξごとに、1次元ルックアップテーブルから、比r(ξ)を読み出すこととする。これによって、MTF測定装置1は、演算量を減らすことができる。
【0064】
(変形例2)
ここでは、エイリアシング除去手段14は、ラインMTF平均化手段13で算出されたROIのMTFからエイリアシング成分を除去したMTFを近似する関数として、sinc関数を用いた。
しかし、この関数は、sinc関数に限定されるものではない。
ラインMTF平均化手段13で算出する〈|F(ξ)|〉CORRは、空間周波数ξが“0”に近いほど、エイリアシングの影響は少ない。
【0065】
そこで、図11に示すように、空間周波数ξを入力してMTF値を出力する関数g(ξ)として、エイリアシングの影響が少ない予め定めた空間周波数、例えば、ξ≦0.3以下では、ラインMTF平均化手段13で算出した〈|F(ξ)|〉CORRをそのまま用いる。そして、g(0.3)=〈|F(0.3)|〉CORRの点P1と、g(0.5)=〈|F(0.5)|〉CORR/(4/π)の点P2と、g(0.7)=0の点P3とを通る単調減少関数で近似する。なお、ξ≦0.3以下でエイリアシングの影響が少ないと仮定した場合、0.7≦ξ≦0で、g(ξ)=0となる。
この関数gは、2次関数、cos関数、スプライン関数等、任意の単調減少関数を用いることができる。
この場合、エイリアシング除去手段14は、図10のステップS8~S10の代わりに、図11に示した特定の点を通る関数を求め、空間周波数ごとにMTF値を算出すればよい。
【0066】
もちろん、エイリアシング除去手段14は、少なくとも空間周波数ξ=0でg(0)=100となるとともに、エイリアシングの影響が少ない予め定めた空間周波数、例えば、ξ≦0.3以下においては、g(ξ)として、ラインMTF平均化手段13で算出された平均MTFの値をすべてまたは一部を用い、図11で示した点P2および点P3を通る単調減少関数で近似して、補正を行うこととしてもよい。
【0067】
(変形例3)
ここでは、ROI設定手段11は、エッジが垂直方向に近いエッジ画像(図2(a)参照)や、エッジが水平方向に近いエッジ画像(図2(b)参照)で、ROIを設定することした。
しかし、ROI設定手段11は、垂直方向あるいは水平方向から大きく傾いたエッジ(例えば、傾きが斜め約45°)を含んだエッジ画像において、当該エッジを含んだROIを設定することとしてもよい。
その場合、ラインMTF算出手段12は、従来のエッジ法のように、ROIで特定される画像(ROI画像)からエッジの傾きを求め、以下の参考文献に示すように、エッジ広がり関数のピクセル間隔をエッジの傾き角に応じてスケーリングして、ラインごとのMTFを算出すればよい。これによって、ラインMTF算出手段12は、傾きによるエッジの水平方向(または垂直方向)の幅の違いを吸収して、ほぼ同一条件で、ラインMTFを算出することができる。
<参考文献>
J. K. M. Roland,“A Study of Slanted-Edge MTF Stability and Repeatability,” Proc. SPIE, vol. 9396, p. 93960L, Feb. 2015.
【符号の説明】
【0068】
1 MTF測定装置
10 エッジ画像記憶手段
11 ROI設定手段
12 ラインMTF算出手段
13 ラインMTF平均化手段
14 エイリアシング除去手段
15 MTF出力手段
2 撮像系
3 表示装置
CH チャート画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12