(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】温度補償電圧生成回路、発振モジュール、及び、システム
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
H03B5/32 A
(21)【出願番号】P 2018208361
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 英明
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-258710(JP,A)
【文献】特開平05-145339(JP,A)
【文献】特開2017-108443(JP,A)
【文献】特開2006-287651(JP,A)
【文献】特開2008-028766(JP,A)
【文献】特開2009-272734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30- 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路に供給する温度補償電圧を生成する温度補償電圧生成回路であって、
温度を検知する温度検知回路と、
前記温度検知回路からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる高周波減衰部と、
前記高周波減衰部の出力に基づいて前記温度補償電圧を生成する補償電圧生成部と、
前記高周波減衰部の動作又は出力先を時間により制御するタイマースイッチと、
を備
え、
前記補償電圧生成部は、
前記温度検知回路からの出力に基づいて第1温度補償電圧を生成する第1電圧生成回路と、
前記高周波減衰部からの出力に基づいて第2温度補償電圧を生成する第2電圧生成回路と、
前記第1温度補償電圧及び前記第2温度補償電圧を加算する加算器と、
を有する、
温度補償電圧生成回路。
【請求項2】
発振回路に供給する温度補償電圧を生成する温度補償電圧生成回路であって、
温度を検知する温度検知回路と、
前記温度検知回路の出力に基づいて温度補償電圧を生成する補償電圧生成部と、
前記補償電圧生成部からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる高周波減衰部と、
を備
え、
前記補償電圧生成部は、
前記温度検知回路からの出力に基づいて第1温度補償電圧を生成する第1電圧生成回路と、
前記温度検知回路からの出力に基づいて第2温度補償電圧を生成して前記高周波減衰部に出力する第2電圧生成回路と、
前記第1温度補償電圧及び前記高周波減衰部からの出力を加算する加算器と、
を有する
温度補償電圧生成回路。
【請求項3】
発振回路に供給する温度補償電圧を生成する温度補償電圧生成回路であって、
温度を検知する温度検知回路と、
前記温度検知回路からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる高周波減衰部と、
前記高周波減衰部の出力に基づいて前記温度補償電圧を生成する補償電圧生成部と、
前記温度検知回路からの出力を増幅する第1増幅回路と、
前記高周波減衰部からの出力を増幅する第2増幅回路と、
前記第1増幅回路からの出力及び前記第2増幅回路からの出力を加算する加算器と、
前記高周波減衰部の動作又は出力先を時間により制御するタイマースイッチと、
を備
え、
前記補償電圧生成部は、前記加算器からの出力に基づいて、温度補償電圧を生成する、
温度補償電圧生成回路。
【請求項4】
発振回路に供給する温度補償電圧を生成する温度補償電圧生成回路であって、
温度を検知する温度検知回路と、
前記温度検知回路からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる高周波減衰部と、
前記温度検知回路からの出力に基づいた信号と、前記高周波減衰部の出力に基づいた信号とを加算する加算器と、
前記加算器からの出力に基づいて、温度補償電圧を生成する補償電圧生成部と、
を備える、
温度補償電圧生成回路。
【請求項5】
前記温度検知回路からの出力を増幅する第1増幅回路と、
前記高周波減衰部からの出力を増幅する第2増幅回路と、
を更に備え、
前記加算器は、前記第1増幅回路からの出力及び前記第2増幅回路からの出力とが入力される、
請求項
4に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項6】
前記高周波減衰部の動作又は出力先を時間により制御するタイマースイッチを更に備える、
請求項
2、4及び5のいずれか1項に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項7】
前記温度検知回路からの出力を、前記高周波減衰部を介さずに前記第2増幅回路へ出力する第1の経路と、
前記温度検知回路からの出力を、前記高周波減衰部を介して前記第2増幅回路へ出力する第2の経路と、
を備え、
前記タイマースイッチは、前記温度補償電圧生成回路の電源起動後の予め定められた時間後に、前記第1の経路を前記第2の経路に切り替える、
請求項
6に従属する場合における請求項
5に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項8】
前記タイマースイッチは、前記温度補償電圧生成回路の電源起動後の予め定められた期間、前記高周波減衰部と前記加算器との間の経路を切り離す、
請求項
1、請求項3、請求項6又は請求項7に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項9】
前記温度検知回路からの出力を、前記高周波減衰部を介さずに前記第2電圧生成回路へ出力する第1の経路と、
前記温度検知回路からの出力を、前記高周波減衰部を介して前記第2電圧生成回路へ出力する第2の経路と、
を備え、
前記タイマースイッチは、前記温度補償電圧生成回路の電源起動後の予め定められた時間後に、前記第1の経路を前記第2の経路に切り替える、
請求項1、又は、請求項
2に従属する場合における請求項
6に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項10】
前記高周波減衰部は、ローパスフィルタを含み、
前記タイマースイッチは、前記温度補償電圧生成回路の電源起動後の予め定められた時間後に、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を、第1周波数から前記第1周波数よりも低い第2周波数に切り替える、
請求項1又は請求項
6に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項11】
前記温度検知回路からの出力された低周波成分の少なくとも一部を減衰させる低周波減衰部と、
前記低周波減衰部からの出力を増幅する第3増幅回路と、
を更に備え、
前記加算器は、前記第1増幅回路からの出力、前記第2増幅回路からの出力、及び、前記第3増幅回路からの出力を加算する、
請求項
5に直接的又は間接的に従属する場合における請求項
6、
7、及び
10のいずれか1項に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項12】
前記高周波減衰部は、ローパスフィルタ、積分器、ステップ波生成回路、又は、ランプ波生成回路の少なくとも1つを含む、
請求項1から1
1のいずれか1項に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項13】
前記高周波減衰部は、Gmセルを用いたGm-Cフィルタを含むローパスフィルタである、
請求項1
2に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項14】
前記高周波減衰部は、前記Gmセルのオフセットを調整するオフセット調整部を更に有する、
請求項1
3に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項15】
前記補償電圧生成部は、N次関数発生回路を含む、
請求項1、
3、4、
5、及び1
0から1
4のいずれか1項に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項16】
前記第1電圧生成回路は、N次関数発生回路を含み、
前記第2電圧生成回路は、N次関数発生回路を含む、
請求項
1又は
2に直接的又は間接的に従属する請求項に記載の温度補償電圧生成回路。
【請求項17】
請求項1から1
6のいずれか1項に記載の温度補償電圧生成回路と、
前記温度補償電圧生成回路に近接して設けられ、前記温度補償電圧生成回路により生成された前記温度補償電圧が提供される発振回路と、
前記発振回路により駆動される発振素子と、
を備える発振モジュール。
【請求項18】
請求項1
7に記載の発振モジュールを備えるシステム。
【請求項19】
通信回路を更に備える請求項1
8に記載のシステム。
【請求項20】
請求項1
4に記載の温度補償電圧生成回路と、
前記温度補償電圧生成回路に近接して設けられ、前記温度補償電圧生成回路により生成された前記温度補償電圧で駆動される発振回路と、
を備える集積回路の製造方法であって、
前記集積回路の組み立て後に前記Gmセルのオフセットを調整するオフセット調整段階を行うことを含む、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償電圧生成回路、発振モジュール、及び、システムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電子機器においてクロック信号等の生成用に水晶発振回路を含む水晶発振モジュールが使用されている。水晶発振回路の発振周波数は、周囲の温度変化に対して安定であることが望まれている。例えば、電源起動時の温度センサの昇温に起因する発振周波数の変動を低減するための温度補償機能付きの水晶発振器が知られている(特許文献1)。しかし、係る技術によると水晶振動子自体の温度変化が温度センサの温度変化に対して遅い場合等に、周波数特性を悪化させることがあった。
特許文献1 特開2007-267246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発振モジュールにより精緻な温度補償機能を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、発振回路に供給する温度補償電圧を生成する温度補償電圧生成回路であって、温度を検知する温度検知回路と、温度検知回路の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる高周波減衰部と、高周波減衰部の出力に基づいて温度補償電圧を生成する補償電圧生成部と、を備える、温度補償電圧生成回路を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、発振回路に供給する温度補償電圧を生成する温度補償電圧生成回路であって、温度を検知する温度検知回路と、温度検知回路の出力に基づいて温度補償電圧を生成する補償電圧生成部と、補償電圧生成部からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる高周波減衰部と、を備える、温度補償電圧生成回路を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態におけるシステム10の構成の一例を示す。
【
図2】本実施形態における発振モジュール100の構成の一例を示す。
【
図3】本実施形態における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図4】本実施形態における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
【
図5】本実施形態の第1変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図6】本実施形態の第2変形例におけるシステム10の構成の一例を示す。
【
図7】第2変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図8】第2変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
【
図9】本実施形態の第3変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図10】本実施形態の第4変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図11】第4変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
【
図12】Gm-Cフィルタを用いた高周波減衰部114の構成の例を示す。
【
図13】本実施形態の第5変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図14】第5変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
【
図15】第5変形例における高周波減衰部114の構成例を示す。
【
図16】第5変形例における高周波減衰部114の構成例を示す。
【
図17】本実施形態の第6変形例における高周波減衰部114の構成例を示す。
【
図18】本実施形態の第7変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図19】第7変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
【
図20】第8変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図21】第9変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【
図22】第10変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1に本実施形態におけるシステム10の構成の一例を示す。システム10は、高電力デバイスの発熱に由来する温度変動に対して、高度に温度補償された発振信号を出力する。システム10は、システム基板20、高電力デバイス30、及び、発振モジュール100を備える。
【0010】
システム基板20は、高電力デバイス30、及び、発振モジュール100を搭載する。システム基板20は、高電力デバイス30、及び、発振モジュール100を電気的に接続する配線基板であってよい。後述するように、システム基板20は他のデバイス及び/又は回路を搭載してもよい。
【0011】
高電力デバイス30は、種々の機能を有する1又は複数の電子回路であってよい。例えば、高電力デバイス30は、通信回路、無線パワーアンプ、及び、信号処理回路等を含んでよい。高電力デバイス30は、動作時に発熱し、熱がシステム基板20を介して発振モジュール100に伝わる。高電力デバイス30からの伝熱の例を、図中の矢印で示す。
【0012】
発振モジュール100は、発振素子102及び集積回路108を有し、発振素子102によりクロック信号等の発振信号を生じる。発振素子102は、水晶振動子等の電気信号により発振する振動子であってよい。集積回路108は、後述するように基板上に複数の素子及び/又は回路等が集積された回路であってよい。
【0013】
図2は、本実施形態における発振モジュール100の構成の一例を示す。発振モジュール100は、発振素子102及び集積回路108を有しても良い。集積回路108は、発振回路105及び温度補償電圧生成回路110を含む。また、集積回路108は、メモリ200及びインターフェイス300を有してよい。集積回路108は、メモリ200に加えて又は代えて、ヒューズを有してもよい。
【0014】
発振回路105は、温度補償電圧に基づいて水晶振動子等の発振素子102を駆動する。発振回路105は、発振素子102によりクロック信号を生成し、生成したクロック信号を高電力デバイス30等の外部の回路に提供してよい。発振回路105は、温度補償電圧生成回路110に近接して設けられてよい。
【0015】
発振回路105は、一例として、
図2に示す回路構成を有してよい。これにより、発振回路105は、温度補償電圧生成回路110から出力された電圧に基づいて、クロック信号等の出力を行う。
【0016】
温度補償電圧生成回路110は、温度検知回路を有し、温度検知回路が検知した温度に基づいて、発振回路105に供給する温度補償電圧を生成する。温度補償電圧生成回路110により生成された温度補償電圧が発振回路105に供給されて、これにより発振回路105は発振素子102を駆動する。これにより、温度補償電圧生成回路110は、発振素子102の発振周波数が周囲の温度変動の影響を受ける程度を低減する。
【0017】
図1に示すように、集積回路108がシステム基板20に近い側に設けられ、発振素子102がシステム基板20に遠い側に設けられる場合、高電力デバイス30からの熱は、発振素子102よりも先に集積回路108に伝わる。その結果、発振素子102と集積回路108との間に温度差が生じる。
【0018】
集積回路108に備えられた温度補償電圧生成回路110は、実際の発振素子102の温度よりも高い温度に基づいて温度補償電圧を生成することになる。このため、従来のモジュールによると、発振素子102と温度補償電圧生成回路110の温度が一致するまでの間、発振回路105からの信号は発振周波数誤差を含み得ることとなる。一方で、本実施形態の温度補償電圧生成回路110は、後述するように、このような温度差に基づく発振周波数誤差を軽減又は解消する。
【0019】
温度補償電圧生成回路110は、温度検知回路112、高周波減衰部114、及び補償電圧生成部116を備える。
【0020】
温度検知回路112は、発振モジュール100において温度センサとして機能する回路である。温度検知回路112には、IC温度センサ、サーミスタ、又は、測温抵抗体等を含む公知の回路を用いることができる。温度検知回路112は、周辺環境の温度を検知し、高周波減衰部114及び補償電圧生成部116の少なくとも一方に検知した温度情報を含む信号を出力する。
【0021】
高周波減衰部114は、入力した信号の高周波成分の少なくとも一部を減衰させて出力する。例えば、高周波減衰部114は、温度検知回路112からの出力の高周波成分の少なくとも一部、又は、温度補償電圧からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させてよい。
【0022】
高周波減衰部114には、公知の回路を用いてよい。例えば、高周波減衰部114は、ローパスフィルタ、積分器、ステップ波生成回路、又は、ランプ波生成回路の少なくとも1つを含んでよい。例えば、高周波減衰部114は、一例として、Gm-Cフィルタを含むローパスフィルタ(LPF)であってよい。なお、ステップ波生成回路である場合、高周波減衰部114は、一段又は多段のステップ波を生成してよい。
【0023】
補償電圧生成部116は、発振回路105に供給する温度補償電圧を生成する。例えば、補償電圧生成部116は、高周波減衰部114の出力又は温度検知回路112の出力に基づいて温度補償電圧を生成してよい。補償電圧生成部116は、発振素子102の温度変化を近似する関数に対応する回路を有してよい。例えば、補償電圧生成部116は、0次関数発生回路、1次関数発生回路、及び、N次関数発生回路(Nは2以上の数であってよく、一例として3であってよい)の少なくとも一部を含んでよい。一例として、補償電圧生成部116は、特許文献1に記載される温度補償機能付き水晶発振器と同様の構成を有してよい。
【0024】
メモリ200は、温度補償電圧生成回路110に関するパラメータを記憶する。例えば、メモリ200は、温度検知回路112のオフセット、高周波減衰部114のカットオフ周波数、及び/又は、補償電圧生成部116の各0次、1次、及びN次の各関数の係数等に関するパラメータを記憶してよい。なお、集積回路108がメモリ200およびインターフェイス300を有する代わりに、集積回路108の外部にメモリ200またはインターフェイス300を備えてもよい。メモリ200は、例えば、EEPROM等の不揮発性メモリを含んでよい。これに代えて、メモリ200はヒューズであってもよい。
【0025】
インターフェイス300は、メモリ200と外部との接続を仲介する。例えば、インターフェイス300は、外部からパラメータに関するデータを受け取り、これをメモリ200に書き込んでよい。メモリ200への書き込みは、発振モジュール100の出荷前等の初期設定時又は動作中に行ってよい。
【0026】
図3は、本実施形態における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本例では、温度補償電圧生成回路110は、温度検知回路112、高周波減衰部114、及び、補償電圧生成部116を有する。高周波減衰部114は、温度検知回路からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させた信号を、補償電圧生成部116に出力する。補償電圧生成部116は、高周波減衰部114からの信号に基づき、温度補償電圧を生成する。
【0027】
図4は、本実施形態における温度、温度補償電圧及び周波数誤差の例を示す。
図4(a)では、発振素子102の実際の温度を実線で示し、温度検知回路112の検知温度を点線で示す。
【0028】
高電力デバイス30が動作を開始すると、高電力デバイス30から生じた熱が、システム基板20のグラウンドプレーンおよび発振モジュールのグラウンド端子といった熱伝導率の高い経路を介して、温度検知回路112に直ちに伝わる。その結果、
図4(a)の点線に示すように温度検知回路112の温度は直ちに立ち上がる。従って、温度検知回路112からの出力も
図4(a)の点線と同様に立ち上がった信号となる。その後、高電力デバイス30から生じた熱は、発振素子102を穏やかに昇温させる。その結果、
図4(a)の実線に示すように発振素子102の温度はゆるやかに立ち上がる。
【0029】
図4(b)では、
図3に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110を用いた場合において、高周波減衰部114から補償電圧生成部116に出力される温度補償電圧を実線で示す。また、
図3に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110から高周波減衰部114を省いた場合に、補償電圧生成部116に出力される温度補償電圧を点線で示す。
【0030】
図4(b)に示すように、高周波減衰部114を用いた場合(実線)、温度検知回路112からの立ち上がり遷移の急峻な出力は、高周波減衰部114により高周波部分が減衰されて、遷移の緩やかな波形となる。一方で、高周波減衰部114を用いない場合(点線)、温度検知回路112からの遷移の急峻な波形の出力がそのまま温度補償電圧として用いられる。
【0031】
図4(c)では、
図3に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110を用いた場合において、発振回路105の発振周波数誤差を実線で示す。また、
図3に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110から高周波減衰部114を省いた場合の、発振回路105の発振周波数誤差を点線で示す。
【0032】
図4(c)に示すように、高周波減衰部114を用いた場合、温度補償電圧と発振素子102の温度の波形が概ね一致するので、発振周波数誤差は非常に小さいものとなる。一方で、高周波減衰部114を用いない場合、温度補償電圧と発振素子102の温度の波形が一致せずに発振周波数誤差は大きくなる。
【0033】
このように本実施形態によれば、温度補償電圧生成回路110は、温度検知回路112からの温度信号のうち高周波部分を排除し、低周波部分を主に用いる。従って、温度検知回路112に急峻な温度変化が生じた場合でも、温度補償電圧生成回路110は、急峻な温度変化に対応する高周波部分を含まない温度補償電圧を生成する。このような高周波部分を含まない温度補償電圧は、水晶振動子の温度変化に合致するので、温度補償電圧生成回路110は、発振周波数誤差を低減することができる。
【0034】
図5は、本実施形態の第1変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。
図5は、
図3に示す温度補償電圧生成回路110において、高周波減衰部114と補償電圧生成部116の配置を逆転させたものを示す。この場合、補償電圧生成部116が温度検知回路112の出力に基づいて温度補償電圧をまず生成する。その後、高周波減衰部114が、温度補償電圧からの出力の高周波成分の少なくとも一部を減衰させる。
【0035】
本変形例によれば、温度補償電圧生成回路110は、補償電圧生成部116が生成した温度補償電圧のうち低周波部分のみを出力する。従って、
図3に示す実施形態と同様に、温度検知回路112に急峻な温度変化が生じた場合でも、温度補償電圧生成回路110は、水晶振動子の温度変化に合致した温度補償電圧を発振回路105に提供し、発振周波数誤差を低減することができる。
【0036】
図6は、本実施形態の第2変形例におけるシステム10の構成の一例を示す。本変形例では、システム10は
図1で示した構成に加えて、第2高電力デバイス40を有する。
【0037】
第2高電力デバイス40は、高電力デバイス30と同様の構成を有してよい。第2高電力デバイス40は、発振モジュール100の上部等、発振素子102に近接して配置される。その結果、本変形例では、発振素子102は、第2高電力デバイス40の動作開始後直ちに一定程度昇温される。
【0038】
図7は、第2変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例において、補償電圧生成部116は、温度検知回路112からの出力、及び、高周波減衰部114からの出力に両方に基づいて、温度補償電圧を生成する。温度補償電圧生成回路110は、第1増幅回路115A、第2増幅回路115B、及び加算器119を有する。
【0039】
まず、温度検知回路112は、検知結果を第1増幅回路115A及び高周波減衰部114に出力する。第1増幅回路115Aは、温度検知回路からの出力をゲインK1で増幅して、加算器119に出力する。ここで、K1は、任意の実数で良く、1以上であっても、1未満であってもよい。
【0040】
高周波減衰部114は、入力した信号の高周波成分の少なくとも一部を減衰させて、第2増幅回路115Bに出力する。第2増幅回路115Bは、高周波減衰部114からの出力をゲインK2で増幅し、加算器119に出力する。ここで、K2は、任意の実数で良く、1以上であっても、1未満であってもよい。
【0041】
加算器119は、第1増幅回路115Aからの出力及び第2増幅回路115Bからの出力を加算した結果を、補償電圧生成部116に出力する。補償電圧生成部116は、加算器119からの出力に基づいて、温度補償電圧を生成し、発振回路105に供給する。
【0042】
本変形例によれば、補償電圧生成部116は、温度検知回路112からの出力そのものと低周波部分のみを抽出した成分との両方に基づき、温度補償電圧を生成する。従って、温度補償電圧は、高周波成分も一定程度含むので、動作開始後直ちに発振素子102が一定程度昇温される場合においても、温度変化に合致した温度補償電圧を発振回路105に提供することができる。
【0043】
図8は、第2変形例における素子温度、温度補償電圧及び周波数誤差の例を示す。
図8(a)では、発振素子102の実際の温度を実線で示し、温度検知回路112の検知温度を点線で示す。
【0044】
高電力デバイス30が動作を開始すると、高電力デバイス30から生じた熱が、温度検知回路112を含む温度補償電圧生成回路110がシステム基板20を介して直ちに伝わる。その結果、
図8(a)の点線に示すように温度検知回路112の温度は直ちに立ち上がる。その結果、温度検知回路112からの出力は立ち上がった信号となる。
【0045】
同時に、第2高電力デバイス40から生じた熱は、近接する発振素子102に直ちに伝わる。その後、高電力デバイス30から生じた熱が、発振素子102を穏やかに昇温させる。その結果、
図8(a)の実線に示すように発振素子102の温度は、直ちに立ち上がった後、ゆるやかに上昇する。
【0046】
図8(b)に示すように、高周波減衰部114を用いた場合(実線)、温度検知回路112からの立ち上がり遷移の急峻な出力は高周波減衰部114を介して、一定程度遷移の緩やかな波形が温度補償電圧として用いられる。一方で、高周波減衰部114を用いない場合(点線)、温度検知回路112からの遷移の急峻な波形の出力がそのまま温度補償電圧として用いられる。
【0047】
図8(c)では、
図7に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110を用いた場合において、発振回路105の発振周波数誤差を実線で示す。また、
図7に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110から高周波減衰部114を省いた場合における、発振回路105の発振周波数誤差を点線で示す。
【0048】
図8(c)に示すように、高周波減衰部114を用いた場合(実線)、温度補償電圧と発振素子102の温度の波形が概ね一致するので、発振周波数誤差は非常に小さいものとなる。一方で、高周波減衰部114を用いない場合(点線)、温度補償電圧と発振素子102の温度の波形が一致せずに発振周波数誤差は大きくなる。
【0049】
図9は、本実施形態の第3変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例では、補償電圧生成部116は、第1電圧生成回路117Aと、第2電圧生成回路117Bと、加算器119とを有する。
【0050】
第1電圧生成回路117Aは、温度検知回路112からの出力に基づいて第1温度補償電圧を生成し、加算器119に出力する。第2電圧生成回路117Bは、高周波減衰部114からの出力に基づいて第2温度補償電圧を生成し、加算器119に出力する。加算器119は、第1温度補償電圧及び第2温度補償電圧を加算する。第1電圧生成回路117A及び第2電圧生成回路117Bは、合算されることで発振素子102の温度変化を近似する関数に対応する回路をそれぞれ有してよい。例えば、第1電圧生成回路117A及び第2電圧生成回路117Bは、係数が異なる0次関数発生回路、1次関数発生回路、及び、N次関数発生回路を有してよい。
【0051】
本変形例では、温度検知回路112からの出力及び高周波減衰部114からの出力を合算したものを入力して温度補償電圧を生成する代わりに、両出力のそれぞれに基づいて温度補償電圧を生成し、後に合算する。本変形例においても、第2変形例と同等の効果が得られる。
【0052】
図10は、本実施形態の第4変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例では、温度補償電圧生成回路110は、
図7に示した第2変形例の構成に加え、タイマースイッチ118を有する。
【0053】
本変形例において、高周波減衰部114は、ローパスフィルタを含む。また、温度検知回路112から第2増幅回路115Bまでの経路は2つ設けられ、2つの経路がタイマースイッチ118により切り替えられる。すなわち、温度補償電圧生成回路110は、温度検知回路112からの出力を、高周波減衰部114を介さずに第2増幅回路115Bへ出力する第1の経路(図中SWの下の経路)と、温度検知回路112からの出力を、高周波減衰部114を介して第2増幅回路115Bへ出力する第2の経路(図中SWの上の経路)と、を有する。
【0054】
タイマースイッチ118は、温度補償電圧生成回路110の電源起動後の予め定められた時間後に、第1の経路を第2の経路に切り替える。これにより、温度補償電圧生成回路110は、電源起動後の一定時間は、高周波減衰部114を使用せずに動作し、その後、高周波減衰部114を使用して動作する。
【0055】
図11は、第4変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
図11(a)は、動作開始後の電源電圧を示す。図示するように、温度補償電圧生成回路110の電源電圧は動作開始後に直ちに立ち上がる。
【0056】
図11(b)は、タイマースイッチ118によるスイッチングを示す。図示するように、タイマースイッチ118は、動作開始の後の一定時間はオンとなり、高周波減衰部114を通過しない第1経路を提供する。その後、タイマースイッチ118は、電源起動後の予め定められた時間経過後にオフに切り替わり、これにより高周波減衰部114を通過する第2経路を提供する。
【0057】
図11(c)は、発振素子102の実際の温度を示す。図示するように、電源起動直後に発振素子102の温度は自己発熱等により一定程度ゆっくりと上昇し、その後、高電力デバイス30が起動した後に高電力デバイス30からの伝熱により更に昇温する。
【0058】
図11(d)は、
図10に示す変形例の温度補償電圧生成回路110を用いた場合において、加算器119から補償電圧生成部116に出力される温度補償電圧を実線で示す。また、
図10に示す第4変形例の温度補償電圧生成回路110からタイマースイッチ118を省き、常に第1経路を用いた場合において、補償電圧生成部116に出力される温度補償電圧を点線で示す。
【0059】
図示するように、高周波減衰部114を省いて第1経路のみを用いた場合、高電力デバイス30からの伝熱による周波数変動が生じる。一方で、第4変形例の温度補償電圧生成回路110によれば高電力デバイス30からの伝熱による周波数変動が抑えられる。
【0060】
ここで、タイマースイッチ118のスイッチングの直後(図中のセトリング期間)において、周波数変動が若干生じる。これは、第4変形例においては、スイッチングにより高周波減衰部114への経路の変更を行う際に、高周波減衰部114のローパスフィルタのGmセルの入力換算オフセットによるギャップを埋め合わせるための挙動が生じるためである。以下、入力換算オフセットについて
図12を用いて説明する。
【0061】
図12は、Gm-Cフィルタを用いた高周波減衰部114の構成の例を示す。高周波減衰部114は、
図12に示すGmセルを有するGm-Cフィルタにより実現されてよい。高周波減衰部114は、入力換算オフセット190を有する。熱伝搬の時定数は例えば通常数十秒単位であり、この時定数を集積回路内の容量数十pFで実現するためのGm値は1pA/V程度と、非常に小さな値となる。このため、入力換算オフセット190は、100mVオーダーとなり、非常に大きくなる。
【0062】
このように、システム10の電源起動時に、高周波減衰部114のGmセルに起因して周波数が安定せずに数秒程度セトリングが続く場合がある。一方で、特定の用途においては、電源起動後直ちに(例えば数ミリ秒以内)セトリングを収束する必要がある場合がある。そこで、以下で説明する別の変形例において、温度補償電圧生成回路110は、高周波減衰部114の動作又は出力先を時間により制御するタイマースイッチを有し、これにより、電源起動直後のセトリングを低減してよい。
【0063】
図13には、本実施形態の第5変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例では、温度補償電圧生成回路110は、
図7に示した第2変形例の構成に加え、タイマースイッチ118を有する。
【0064】
本変形例において、高周波減衰部114は、ローパスフィルタを含む。また、タイマースイッチ118は、温度補償電圧生成回路110の電源起動後の予め定められた時間後に、高周波減衰部114のローパスフィルタのカットオフ周波数を、第1周波数から第1周波数よりも低い第2周波数に切り替える。例えば、タイマースイッチ118は、メモリ200に記憶されたカットオフ周波数に関するパラメータを読み出して、ローパスフィルタのカットオフ周波数を変更してよい。なお、
図10及び
図13の構成において、破線Aで囲む部分(第1増幅回路115Aと加算器119)を省いた構成を採用してもよい。
【0065】
図14は、第5変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
図14(a)は、動作開始後の電源電圧を示す。図示するように、温度補償電圧生成回路110の電源電圧は動作開始後に直ちに立ち上がる。
【0066】
図14(b)は、タイマースイッチ118によるスイッチングを示す。図示するように、タイマースイッチ118は、動作開始の後の一定時間はカットオフ周波数を、初期設定された第1周波数とする。その後、タイマースイッチ118は、電源起動後の予め定められた時間経過後に、カットオフ周波数を第1周波数よりも低い第2周波数に切り替える。
【0067】
図14(c)は、発振素子102の実際の温度を示す。温度変化は
図11(c)と同様である。
【0068】
図14(d)は、
図13に示す変形例の温度補償電圧生成回路110を用いた場合において、加算器119から補償電圧生成部116に出力される温度補償電圧を実線で示す。また、
図11に示す第4変形例において補償電圧生成部116に出力される温度補償電圧を点線で示す。
【0069】
点線で示す第4変形例においては、タイマースイッチ118のスイッチングの直後(図中のセトリング期間)において、周波数変動が若干生じる。一方で本変形例の温度補償電圧生成回路110によれば、第4変形例と比較して、スイッチング直後の周波数変動を低減することができる。これは、第5変形例においては、スイッチングにより高周波減衰部114への経路の変更を伴わないので、Gmセルのオフセットギャップを埋め合わせるための挙動が生じないからである。
【0070】
図15及び
図16に、第5変形例における高周波減衰部114の構成例を示す。一例として、高周波減衰部114は、GmCフィルタを含み、高カットオフ周波数時に
図15に示す回路構成となり、低カットオフ周波数時に
図16に示す回路構成となってよい。図示するように高周波減衰部114中のキャパシタは、高カットオフ周波数時にはGmセルから切り離され、オフセット調整された入力側の電圧でプリチャージされる。低カットオフ周波数時には、入力側の電圧からは切り離され、Gmセルの出力に接続される。
【0071】
図17は、本実施形態の第6変形例における高周波減衰部114の構成例を示す。本変形例において、高周波減衰部114は、GmCフィルタにより実装されるローパスフィルタであり、オフセット調整部113を更に有する。
【0072】
オフセット調整部113は、Gmセルのオフセットを調整する。例えば、オフセット調整部113は、メモリ200からオフセットの数値を読み出し、読み出した数値に基づいてGmセルの入力換算オフセットを設定する。一例として、発振モジュール100の製造段階において、組み立て後(例えば、発振回路105及び温度補償電圧生成回路110の集積後)に、EEPROMにオフセットの数値を外部から書き込み、当該数値によりオフセット調整部113にGmセルのオフセットを調整させてよい。また、別の一例において、オフセット調整部113は、組み立て後に、ヒューズを用いてオフセット調整を行ってよい。
【0073】
これにより、発振回路105を温度補償電圧生成回路110等のICに組み込んだ後に、素子ごとの特性に合わせてGmセルのオフセットを適宜調整することができる。本変形例によれば、発振回路105を駆動する補償電圧生成部116の動作点設計が容易になる。
【0074】
図18は、本実施形態の第7変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例において、補償電圧生成部116は、温度検知回路112からの出力、高周波減衰部114、及び、低周波減衰部120からの出力に基づいて、温度補償電圧を生成する。温度補償電圧生成回路110は、第2変形例の構成に加え、低周波減衰部120及び第3増幅回路115Cを更に有する。
【0075】
低周波減衰部120は、温度検知回路112からの出力された低周波成分の少なくとも一部を減衰させる。例えば、低周波減衰部120がハイパスフィルタ(HPF)であってよい。
【0076】
まず、温度検知回路112は、検知結果を第1増幅回路115A、高周波減衰部114、低周波減衰部120に出力する。第1増幅回路115Aは、温度検知回路からの出力をゲインK1で増幅して、加算器119に出力する。
【0077】
高周波減衰部114は、入力した信号の高周波成分の少なくとも一部を減衰させて、第2増幅回路115Bに出力する。第2増幅回路115Bは、高周波減衰部114からの出力をゲインK2で増幅し、加算器119に出力する。
【0078】
低周波減衰部120は、入力した信号の低周波成分の少なくとも一部を減衰させて、第3増幅回路115Cに出力する。第3増幅回路115Cは、低周波減衰部120からの出力をゲインK3で増幅し、加算器119に出力する。ここで、K3は、任意の実数で良く、1以上であっても、1未満であってもよい。
【0079】
加算器119は、第1増幅回路115Aからの出力、第2増幅回路115B、及び、第3増幅回路115Cからの出力を加算した結果を、補償電圧生成部116に出力する。補償電圧生成部116は、加算器119からの出力に基づいて、温度補償電圧を生成し、発振回路105に供給する。
【0080】
本変形例によれば、補償電圧生成部116は、温度検知回路112からの出力そのもの、低周波部分のみを抽出した成分、及び、高周波部分のみを抽出した成分の全てに基づき、温度補償電圧を生成する。従って、温度補償電圧は、低周波成分及び低周波成分を一定程度含むので、動作開始後直ちに発振素子102が一定程度昇温される場合においても、温度変化に合致した温度補償電圧を発振回路105に提供することができる。
【0081】
図19は、第7変形例における検知温度、発振素子温度及び周波数誤差の例を示す。
図19(a)では、発振素子102の実際の温度を実線で示し、温度検知回路112の検知温度を点線で示す。
【0082】
図6に示すようなシステム10において、高電力デバイス30及び第2高電力デバイス40が動作を開始すると、高電力デバイス30から生じた熱が、温度検知回路112を含む温度補償電圧生成回路110がシステム基板20を介して直ちに伝わる。
【0083】
このため、
図19(a)の点線に示すように温度検知回路112の温度は直ちに立ち上がる。その結果、温度検知回路112からの出力も
図19(a)の点線と同様に立ち上がった信号となる。
【0084】
また、第2高電力デバイス40から生じた熱は、近接する発振素子102に直ちに伝わり、発振素子102が昇温する。その後、第2高電力デバイス40が一時的に動作中止等すると発振素子102の温度は降下する。
【0085】
その後、高電力デバイス30から生じた熱が、発振素子102を穏やかに昇温させる。その結果、
図19(a)の実線に示すように発振素子102の温度は、直ちに立ち上がった後、一度降下し、その後ゆるやかに上昇する。
【0086】
図19(b)に示すように、高周波減衰部114を用いた場合(実線)、温度検知回路112からの立ち上がり遷移の急峻な出力は高周波減衰部114を介して、一定程度遷移が穏やかにならされる。そして、高周波減衰部114でならされた波形が温度補償電圧の一部として用いられる。
【0087】
温度検知回路112からの立ち上がり遷移の急峻な出力は、低周波減衰部120を介してそのまま温度補償電圧の一部として用いられる。一方で、高周波減衰部114及び低周波減衰部120を用いない場合(点線)、温度検知回路112からの遷移の急峻な波形の出力がそのまま温度補償電圧として用いられる。
【0088】
図19(c)では、
図18に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110を用いた場合において、発振回路105の発振周波数誤差を実線で示す。また、
図18に示す実施形態の温度補償電圧生成回路110から高周波減衰部114及び低周波減衰部120を省いた場合における、発振回路105の発振周波数誤差を点線で示す。
【0089】
図19(c)に示すように、高周波減衰部114及び低周波減衰部120を併用した場合(実線)、温度補償電圧と発振素子102の温度の波形が概ね一致するので、発振周波数誤差は非常に小さいものとなる。一方で、高周波減衰部114及び低周波減衰部120を用いない場合(点線)、温度補償電圧と発振素子102の温度の波形が一致せずに発振周波数誤差は大きくなる。
【0090】
上記実施形態及びその変形例で説明したように、温度補償電圧生成回路110は高周波減衰部114等を用いることにより、温度検知回路112からの出力を発振素子102の温度変化に近似させ、これにより温度変化による発振回路105の発振周波数誤差を低減することができる。
【0091】
図20は、本実施形態の第8変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例では、第3変形例と同様に、補償電圧生成部116は、第1電圧生成回路117Aと、第2電圧生成回路117Bと、加算器119とを有する。本変形例では、高周波減衰部114が第2電圧生成部117Bの前段でなく後段に配される。
【0092】
これにより、第2電圧生成回路117Bは、温度検知回路112からの出力に基づいて第2温度補償電圧を生成して高周波減衰部114に出力する。また、加算器119は、第1電圧生成回路が117Aが生成した第1温度補償電圧及び高周波減衰部114からの出力を加算する。本変形例においても、第3変形例と同等の効果が得られる。
【0093】
図21は、本実施形態の第9変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例では、第8変形例の構成に加えてタイマースイッチ118を更に備える。タイマースイッチ118は、温度補償電圧生成回路110の電源起動後の予め定められた期間、高周波減衰部114と加算器119との間の経路を切り離す。本変形例においても、温度補償電圧生成回路110は、第4変形例と同様に必要な時のみに高周波減衰の効果を得ることができる。なお、第5変形例と同様に高周波減衰部114は、ローパスフィルタを含んでおり、タイマースイッチ118は、高周波減衰部114のローパスフィルタのカットオフ周波数を、第1周波数から第1周波数よりも低い第2周波数に切り替える構成を採用してもよい。
【0094】
図22は、本実施形態の第10変形例における温度補償電圧生成回路110の構成の例を示す。本変形例では、第3変形例と同様に、補償電圧生成部116は、第1電圧生成回路117Aと、第2電圧生成回路117Bと、加算器119とを有する。本変形例では、温度検知回路112から第2電圧生成回路117Bまでの間に、温度検知回路112からの出力を高周波減衰部114を介さずに第2電圧生成回路117Bへ出力する第1の経路と、温度検知回路112からの出力を高周波減衰部114を介して第2電圧生成回路117Bへ出力する第2の経路とが設けられる。
【0095】
温度補償電圧生成回路110は、この2つの経路を切り替えるタイマースイッチ118を更に備える。例えば、タイマースイッチ118は、温度補償電圧生成回路110の電源起動後の予め定められた時間後に、第1の経路を第2の経路に切り替える。本変形例においても、温度補償電圧生成回路110は、第4変形例と同様に必要な時のみに高周波減衰の効果を得ることができる。なお、第5変形例と同様に高周波減衰部114は、ローパスフィルタを含んでおり、タイマースイッチ118は、高周波減衰部114のローパスフィルタのカットオフ周波数を、第1周波数から第1周波数よりも低い第2周波数に切り替える構成を採用してもよい。
【0096】
本実施形態では、発振器の発振素子102として水晶振動子を用いているが、発振素子としては、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子、ATカット水晶振動子、SCカット水晶振動子、音叉型水晶振動子、その他の圧電振動子やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子などを用いることができる。また、発振素子の基板材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ランガサイト、ランガテイト等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料等を用いることができる。また、発振素子の励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
【0097】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0098】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0099】
10 システム
20 システム基板
30 高電力デバイス
40 第2高電力デバイス
100 発振モジュール
102 発振素子
105 発振回路
108 集積回路
110 温度補償電圧生成回路
112 温度検知回路
113 オフセット調整部
114 高周波減衰部
115A 第1増幅回路
115B 第2増幅回路
115C 第3増幅回路
116 補償電圧生成部
117A 第1電圧生成回路
117B 第2電圧生成回路
118 タイマースイッチ
119 加算器
120 低周波減衰部
190 入力換算オフセット
200 メモリ
300 インターフェイス