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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】複合伸縮性膜及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20221208BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20221208BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221208BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221208BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20221208BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20221208BHJP
   C08G 18/61 20060101ALI20221208BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20221208BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B27/36
B32B27/36 102
B32B27/00 101
B32B27/30 A
C08G18/42
C08G18/44
C08G18/61
C08G18/40 009
C08G18/67
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019169559
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2020097214
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018236758
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】池田 譲
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123304(JP,A)
【文献】特開2017-177742(JP,A)
【文献】特開平04-304224(JP,A)
【文献】特開2018-103524(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
C08F 283/01
C08F 290/00 - 290/14
C08F 299/00 - 299/08
C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性膜であって、
下記一般式(1)で示されるポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する単位a1、a2、a3、a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたポリウレタン1の硬化物からなる表面膜が、下記一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを有するポリウレタン2の硬化物からなる内部膜上に積層されてなるものであることを特徴とする複合伸縮性膜。
【化1】
(式中、R~R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。R、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。R10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。m、n、pは1~200の範囲であり、q、r、sは0~20の範囲の整数である。a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは繰り返し単位の割合であり、ポリウレタン1では0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0<b1+b2<1.0の範囲である。)
【請求項2】
前記ポリウレタン1が、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する構造を有するポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の複合伸縮性膜。
【化2】
(式中、R~R12、R20~R27、m、n、p、q、r、a1、a2、a3、a4、b1、b2は前述と同様である。R13は炭素数1~20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、エーテル基を有していてもよく、R14は水素原子又はメチル基である。dは1分子中の単位数であり、1≦d≦4の範囲である。)
【請求項3】
前記複合伸縮性膜が、JIS K 6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が20~1000%の範囲のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合伸縮性膜。
【請求項4】
前記複合伸縮性膜が、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複合伸縮性膜。
【請求項5】
複合伸縮性膜を形成する方法であって、
下記一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを含有してなるポリウレタン2の硬化物からなる内部膜上に、下記一般式(1)で示されるポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する繰り返し単位a1、a2、a3、a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたポリウレタン1を塗布し、加熱及び/又は光照射によって硬化させることで表面膜を形成することを特徴とする複合伸縮性膜の形成方法。
【化3】
(式中、R~R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。R、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。R10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。m、n、pは1~200の範囲であり、q、r、sは0~20の範囲の整数である。a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは繰り返し単位の割合であり、ポリウレタン1では0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0<b1+b2<1.0の範囲である。)
【請求項6】
前記ポリウレタン2を基板上に塗布し、加熱及び/又は光照射によって硬化させて前記内部膜とすることを特徴とする請求項5記載の複合伸縮性膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合伸縮性膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
【0003】
ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けて常時体の状態をモニタリングする形態が示される。このようなウェアラブルデバイスは、通常、体からの電気信号を検知するための生体電極、電気信号をセンサーに送るための配線、センサーとなる半導体チップと電池からなる。また、通常、肌に粘着するための粘着パッドも必要である。生体電極及びこの周りの配線や粘着パッドの構造については、特許文献1に詳細に記載されている。特許文献1に記載のウェアラブルデバイスは、生体電極の周りにシリコーン系粘着膜が配置され、生体電極とセンサーデバイスの間は伸縮性のウレタン膜で被覆された蛇腹の形の伸縮可能な銀配線で結ばれている。
【0004】
ウレタン膜は伸縮性と強度が高く、伸縮配線の被覆膜として優れた機械特性を有している。しかしながら、ウレタン膜には加水分解性があるため、加水分解によって伸縮性と強度が低下するという欠点がある。一方で、シリコーン膜には加水分解性がないものの、強度が低いという欠点がある。
【0005】
そこで、ウレタン結合とシロキサン結合の両方をポリマー主鎖に有するシリコーンウレタンポリマーが検討されている。このポリマーの硬化物は、シリコーン単独よりは高強度で、ポリウレタン単独よりは低加水分解性である。しかしながら、このポリマーの硬化物では、ポリウレタン単独の強度、シリコーン単独の撥水性には及ばず、シリコーンとポリウレタンの中間の強度と撥水性しか得られない。
【0006】
高伸縮なウレタン膜は、触ったときに表面がベタつく特性がある。表面がベタつくと膜同士をくっつけたときに離れないし、この膜上にスクリーン印刷を行ったときに版と膜がくっついて印刷不良が発生する。一方、シリコーン膜は剥離性が高いために、膜同士がくっつくことはない。但し、シリコーンは強度が低いために、薄膜のシリコーン膜は伸ばすと簡単に千切れてしまう。シリコーン膜上にスクリーン印刷を行うと、版とくっつくことによる印刷不良は起こらないが、インクとの接着性が低いために、硬化後のインクが剥がれてしまう。これは、シリコーンの表面の剥離性の高さによる。一方、ウレタン膜のインクとの接着力は高く、硬化後のインクが剥がれることはない。
【0007】
また、シリコーンがペンダントされたポリウレタンを用いた膜は、伸縮性、強度、撥水性のバランスに優れているが、膜表面がベタついているために膜同士がくっついてしまったり、スクリーン印刷時に版とくっついてしまう欠点がある。シリコーンが主鎖にブロック共重合されているポリウレタンをベースとする膜は、膜表面のベタ付き感が無いが、強度が弱い。
【0008】
高伸縮、高強度で、表面がベタつかずにスクリーン印刷等の印刷が可能で、印刷後のインクが剥がれることがない伸縮性の膜の開発が望まれている。
【0009】
シリコーンウレタン膜で表面が覆われ、その内部がウレタン膜、更に内部がポリオレフィン系エラストマーの二輪車シート用皮材が提案されている(特許文献2)。最表面をシリコーンウレタン膜にすることによって、耐摩耗性を向上している。シリコーンは表面エネルギーが低いためにベタつくことが無く、これによって耐摩耗性が向上するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-033468号公報
【文献】特開2001-18329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景から、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつシリコーンと同程度の優れた撥水性、更には膜同士がくっつかない自立性の伸縮性膜及びその形成方法の開発が望まれている。
【0012】
そこで本発明は上記事情に鑑み、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた伸縮性膜及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、伸縮性膜であって、下記一般式(1)で示されるポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する単位a1、a2、a3、a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたポリウレタン1の硬化物からなる表面膜が、下記一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを有するポリウレタン2の硬化物からなる内部膜上に積層されてなるものであることを特徴とする複合伸縮性膜を提供する。
【化1】
(式中、R~R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。R、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。R10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。m、n、pは1~200の範囲であり、q、r、sは0~20の範囲の整数である。a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは繰り返し単位の割合であり、ポリウレタン1では0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0<b1+b2<1.0の範囲である。)
【0014】
このような複合伸縮性膜であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れる。
【0015】
この場合、前記ポリウレタン1が、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する構造を有するポリマーであることができる。
【化2】
(式中、R~R12、R20~R27、m、n、p、q、r、a1、a2、a3、a4、b1、b2は前述と同様である。R13は炭素数1~20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、エーテル基を有していてもよく、R14は水素原子又はメチル基である。dは1分子中の単位数であり、1≦d≦4の範囲である。)
【0016】
このような(メタ)アクリレート基を有するポリマーであれば、ラジカルによる架橋性に優れる。
【0017】
また、前記複合伸縮性膜が、JIS K 6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が20~1000%の範囲のものであることが好ましい。
【0018】
このような伸縮率であれば、伸縮配線の被覆膜として特に好適に用いることができる。
【0019】
また、前記複合伸縮性膜が、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることが好ましい。
【0020】
本発明の伸縮性膜は、特にこのような用途に好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明は、複合伸縮性膜を形成する方法であって、下記一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを含有してなるポリウレタン2の硬化物からなる内部膜上に、下記一般式(1)で示されるポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する繰り返し単位a1、a2、a3、a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたポリウレタン1を塗布し、加熱及び/又は光照射によって硬化させることで表面膜を形成することを特徴とする複合伸縮性膜の形成方法を提供する。
【化3】
(式中、R~R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。R、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。R10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。m、n、pは1~200の範囲であり、q、r、sは0~20の範囲の整数である。a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは繰り返し単位の割合であり、ポリウレタン1では0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0<b1+b2<1.0の範囲である。)
【0022】
このような伸縮性膜の形成方法であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた複合伸縮性膜を容易に形成することができる。
【0023】
また、前記ポリウレタン2を基板上に塗布し、加熱及び/又は光照射によって硬化させて前記内部膜とすることもできる。
【0024】
このような伸縮性膜の形成方法であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた複合伸縮性膜をより容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の複合伸縮性膜であれば、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面は主鎖がシロキサン結合のシリコーンと同程度かそれ以上の優れた撥水性と、表面のベタ付き感の無い伸縮性膜となる。本発明のように、ポリエーテルを有するポリウレタンをベースとする層の表面に、ポリカーボネート又はポリエステルを有するシリコーンペンダント型ポリウレタンをベースとする層が形成された複合伸縮性膜は、高伸縮、高強度、高撥水で表面のベタ付き感が無い膜を形成することが出来る。このような本発明の伸縮性膜を導電性配線に接触させたり、導電性配線の片側か両面を被覆したりして得られる複合伸縮性配線膜であれば、伸縮性及び強度に優れるだけでなく、表面のベタ付き感が無くて肌触りが良好で、撥水性にも優れたものとなる。従って、本発明の伸縮性膜であれば、ウェアラブルデバイスにおいて、生体電極とセンサーを接続する配線部だけでなく、生体電極やセンサー全てを載せることができる伸縮性膜として特に好適に用いることができる。また、本発明の伸縮性膜の形成方法であれば、上述のような複合伸縮性膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の複合伸縮性膜上に形成した心電計を生体電極側から見た概略図である。
図2】本発明の複合伸縮性膜を基板上に形成した状態を示す断面図である。
図3】本発明の複合伸縮性膜上に心電計を形成した状態を示す断面図である。
図4図3の配線とセンターデバイスを伸縮性膜で覆った状態を示す断面図である。
図5】伸縮性膜の1層目の両面を伸縮性膜の2層目で覆った状態を示す断面図である。
図6図5の複合伸縮性膜上に心電計を形成した状態を示す断面図である。
図7図6の配線とセンターデバイスを伸縮性膜で覆った状態を示す断面図である。
図8】実施例1の伸縮性膜の伸縮-応力ヒステリシスカーブである。
図9】比較例1の伸縮性膜の伸縮-応力ヒステリシスカーブである。
図10】比較例2の伸縮性膜の伸縮-応力ヒステリシスカーブである。
図11】比較例3の伸縮性膜の伸縮-応力ヒステリシスカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ポリウレタンは十分な伸縮性と強度を有するが、撥水性が低く、加水分解によって強度と伸縮性が低下するという欠点があり、シリコーンは撥水性が高いが強度が低いという欠点があった。また、ウレタン結合とシロキサン結合の両方を主鎖に有するシリコーンウレタンポリマーの硬化物では、膜表面のベタ付き感が小さく撥水性に優れているが強度が低い欠点があり、側鎖にシリコーンがペンダントしてポリエーテルを有するポリウレタンをベースとする膜は、高強度、高伸縮、高撥水だが表面がベタつく欠点があった。このような背景から、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の強度も十分に高く、かつシリコーンと同程度かそれ以上の優れた撥水性と表面硬度を有する伸縮性膜及びその形成方法の開発が求められていた。
【0028】
ポリエーテルをソフトセグメントとするポリウレタンを用いたシートの繰り返し伸縮試験を行うと、伸張時には伸張度に比例して応力が高くなり、収縮時は応力が低くなり、伸張度が0%になった時に応力が0に戻る。伸張度と応力が直線関係にあり、伸縮と応力のヒステリシスに優れる特徴がある。一方、ポリカーボネートやポリエステルをソフトセグメントとするポリウレタンを用いた場合は、伸張初期に大きく応力が増大し、その後に応力の増大の傾きが緩やかになり、いわゆる降伏点が発生する。収縮時には急激に応力が低下し、0%伸びになる前に応力が無くなり、伸張度が0%になった時にシートが伸びたままで元に戻らない。
【0029】
ポリエーテルとポリカーボネートやポリエステルを共重合したソフトセグメントを有するポリウレタンのシートの場合も、ポリカーボネートやポリエステルソフトセグメントだけの場合程ではないが、ヒステリシスが悪い。
【0030】
そこで、本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、高伸縮、高強度で伸縮時のヒステリシスが良好だが表面がベタつくポリエーテル型ポリウレタンをベースとする膜の表面に、低伸縮だが高強度、高撥水で表面がベタつかない側鎖シリコーンポリカーボネートやポリエステル型ポリウレタン層を形成し、複合膜とすることによって、高伸縮、高強度、高撥水性、表面ベタ付き感が無く膜同士がくっつかない優れた伸縮性膜となるため、ウェアラブルデバイスにおける伸縮配線を形成するための伸縮性基板膜として特に好適なものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
すなわち、本発明は、伸縮性膜であって、
下記一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなるcを含有するポリウレタン2からなる膜の上に、下記一般式(1)で示されるポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する繰り返し単位a1、a2、a3、a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位とb1、b2とが共重合されたポリウレタン1からなる膜が積層されていることを特徴とする。
【化4】
(式中、R~R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。R、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。R10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。m、n、pは1~200の範囲であり、q、r、sは0~20の範囲の整数である。a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは繰り返し単位の割合であり、ポリウレタン1では0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0<b1+b2<1.0の範囲である。)
【0032】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<伸縮性膜>
本発明の伸縮性膜は、ポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する単位a1~a4のうち1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたポリウレタン1の硬化物からなる表面膜が、ポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを有するポリウレタン2の硬化物からなる内部膜上に積層されてなるものである。高伸縮、高強度で伸縮時のヒステリシスが良好だが表面がベタつくポリエーテル型ポリウレタンをベースとする内部膜の表面に、低伸縮だが高強度、高撥水で表面がベタつかない側鎖シリコーンポリカーボネート及び/又はポリエステル型ポリウレタンからなる表面膜(層)を形成し、複合膜とすることによって、高伸縮、高強度、高撥水性、表面ベタ付き感が無く膜同士がくっつかない優れた伸縮性膜となる。
以下、表面膜と内部膜、各膜(層)を与えるポリウレタン1、2について説明する。なお、以下では、単位a1、a2、a3、a4をまとめて「単位a」若しくは「a単位」ともいう。
【0034】
[表面膜]
本発明の伸縮性膜の表面上(内部膜の上)には、表面膜が形成されている。表面膜(ポリカーボネート及び/又はポリエステルシリコーンペンダント型ポリウレタン層)は、下記一般式(1)中、a1~a4のうち1つ以上とb1及び/又はb2で示される構造を有するポリウレタン1の硬化物である。
【0035】
【化5】
(式中、R~R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。R、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。R10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。mは1~200の範囲であり、q、r、sは0~20の範囲の整数である。a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは繰り返し単位の割合であり、ポリウレタン1では0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0<a1+a2+a3+a4<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0<b1+b2<1.0の範囲である。)
【0036】
また、前記ポリウレタン1は、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する構造を有するポリマーであることが好ましい。
【化6】
(式(3)中、R13は炭素数1~20の直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基であり、エーテル基を有していてもよく、R14は水素原子又はメチル基である。dは1分子中の単位数であり、1≦d≦4の範囲である。)
【0037】
このような(メタ)アクリレート基を有するポリマーであれば、熱又光照射によって前記ポリマーをラジカルで反応させて容易に架橋(硬化)することができる。
【0038】
一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物は、(メタ)アクリレート基を有するイソシアネート化合物を後述の珪素含有基を有するジオール化合物やポリカーボネート化合物又はポリエステル化合物と反応させることにより得ることができる。また、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート基を有する化合物をイソシアネート化合物と反応させることによっても、前記(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることが出来る。
【0039】
[ポリウレタン1]
ポリウレタン1は、一般式(1)中、a1~a4のうちの1つ以上とb1及び/又はb2で示される構造を有するポリウレタンであって、一般式(1)で示されるポリカーボネートやポリエステルとウレタン結合を有する単位a1~a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたものである。ポリウレタン1は、上記構造を有するポリウレタンであればよく、その他の構造を含むことができる。
【0040】
繰り返し単位a中のR、R、R20~R27は同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。アルキレン基としては、例えばエチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、1-メチル-n-ブチレン基、2-メチル-n-ブチレン基、3-メチル-n-ブチレン基、1,1-ジメチル-n-プロピレン基、1,2-ジメチル-n-プロピレン基、2,2-ジメチル-n-プロピレン基、1-エチル-n-プロピレン基、n-ヘキシレン基、1-メチル-n-ペンチレン基、2-メチル-n-ペンチレン基、3-メチル-n-ペンチレン基、4-メチル-n-ペンチレン基、1,1-ジメチル-n-ブチレン基、1,2-ジメチル-n-ブチレン基、1,3-ジメチル-n-ブチレン基、2,2-ジメチル-n-ブチレン基、2,3-ジメチル-n-ブチレン基、3,3-ジメチル-n-ブチレン基、1-エチル-n-ブチレン基、2-エチル-n-ブチレン基などを挙げることができる。
また、 繰り返し単位aは単位a1~a4の単独でも、任意の2つ以上の組み合わせであっても良く、単位a1(ポリカーボネート)と単位a2~a4(ポリエステル)を組み合わせても良い。ポリカーボネートのソフトセグメントとポリエステルのソフトセグメントを組み合わせることで得られる伸縮膜の伸縮性や強度を高めることができる。
【0041】
繰り返し単位a1中のポリカーボネート含有ポリウレタンを得るためには、下記に例示される末端がジオールのポリカーボネート化合物を原料とすることができる。
【0042】
【化7】
【0043】
ここで、括弧の繰り返し数がmである。
【0044】
共重合可能なポリエステルのソフトセグメントa2(単位a2)を得るための末端がジオールのポリエステル化合物を原料とするジオール化合物は下記に例示することが出来る。
【化8】
ここで、括弧の繰り返し数がmである。
【0045】
共重合可能なポリエステルのソフトセグメントa3(単位a3)を得るための末端がジオールのポリエステル化合物を原料とするジオール化合物は下記に例示することが出来る。
【化9】
ここで、括弧の繰り返し数がmである。
【0046】
共重合可能なポリエステルのソフトセグメントa4(単位a4)を得るための末端がジオールのポリエステル化合物を原料とするジオール化合物は下記に例示することが出来る。
【化10】
ここで、括弧の繰り返し数がmである。
【0047】
一般式(1)中b1で示される構造を形成するためのジオール化合物としては、下記一般式(b)-1’で示される化合物等を挙げることが出来る。
【化11】
【0048】
、R、Rは同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基である。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、シクロへキシル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基を挙げることができる。
【0049】
は同一又は非同一の炭素数1~6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基、-(OSiR-OSiR基である。sは0~20の範囲の整数である。
【0050】
10は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基である。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基を挙げることができる。R11は単結合、メチレン基、又はエチレン基、R12は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数3~7の直鎖状、分岐状のアルキレン基で、エーテル基を含有しても良い。Xとしては、例えばn-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、1-メチル-n-ブチレン基、2-メチル-n-ブチレン基、3-メチル-n-ブチレン基、1,1-ジメチル-n-プロピレン基、1,2-ジメチル-n-プロピレン基、2,2-ジメチル-n-プロピレン基、1-エチル-n-プロピレン基、n-ヘキシレン基、1-メチル-n-ペンチレン基、2-メチル-n-ペンチレン基、3-メチル-n-ペンチレン基、4-メチル-n-ペンチレン基、1,1-ジメチル-n-ブチレン基、1,2-ジメチル-n-ブチレン基、1,3-ジメチル-n-ブチレン基、2,2-ジメチル-n-ブチレン基、2,3-ジメチル-n-ブチレン基、3,3-ジメチル-n-ブチレン基、1-エチル-n-ブチレン基、2-エチル-n-ブチレン基などを挙げることができる。q、rは0~20の範囲の整数である。
【0051】
一般式(b)-1’で示される短鎖シリコーンがペンダントされたジオール化合物は、例えばグリセリンモノアリルエーテルとSiH基を有する短鎖シロキサン化合物を白金触媒中で反応させることによって得ることが出来る。具体的には下記に例示することが出来る。
【0052】
【化12】
【0053】
【化13】
【0054】
一般式(1)中b2で示される構造を形成するためのジオール化合物としては、下記一般式(b)-2’で示される化合物を挙げることが出来る。
【化14】
(式中、R~R、Xは前述と同様である。)
【0055】
一般式(b)-2’で示される短鎖シリコーンがペンダントされたジオール化合物は、例えばジヒドロキシジアルケニル化合物とSiH基を有する短鎖シロキサン化合物を白金触媒中で反応させることによって得ることが出来る。具体的には下記に例示することが出来る。
【0056】
【化15】
【0057】
【化16】
【0058】
【化17】
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0063】
本発明の伸縮性膜の表面膜を与える一般式(1)中a1~a4、b1、b2に示される構造を有するポリウレタン1は、末端がヒドロキシ基のポリカーボネート化合物、ポリエステル化合物や上記一般式(b)-1’、(b)-2’に示される珪素含有基を有するジオール化合物を原料とし、これらとイソシアネート化合物を反応させることで形成することができる。
【0064】
上記ポリカーボネート化合物、ポリエステル化合物や上記珪素含有基を有するジオール化合物と反応させるイソシアネート化合物としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0065】
【化22】
【0066】
【化23】
(式中、tは1以上の整数である。)
【0067】
上記のイソシアネート化合物のうち、特に、(メタ)アクリレート基を有するイソシアネート化合物を一般式(b)-1’、(b)-2’に示される珪素含有基を有するジオール化合物やポリカーボネート化合物等と反応させることにより、一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることができる。ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート基を有する化合物をイソシアネート化合物と反応させることによっても、一般式(3)で示される末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることが出来る。
【0068】
上記のイソシアネート化合物は、一般式(b)-1’、(b)-2’に示される珪素含有基を有するジオール化合物やポリカーボネート化合物等の反応性が高いために、これをコントロールすることが困難な場合がある。また、イソシアネート化合物は、保管中に大気中の水分と反応してイソシアネート基が失活してしまうことがあるため、保管には湿度を十分に防ぐ等十分な注意を要する。そこで、これらの事象を防ぐために、イソシアネート基が置換基で保護されたブロックイソシアネート基を有する化合物が用いられることがある。
【0069】
ブロックイソシアネート基は、加熱によってブロック基が脱保護してイソシアネート基となるものであり、具体的には、アルコール、フェノール、チオアルコール、イミン、ケチミン、アミン、ラクタム、ピラゾール、オキシム、β-ジケトン等で置換されたイソシアネート基が挙げられる。
【0070】
ブロックイソシアネート基の脱保護温度を低温化させるために、触媒を添加することもできる。この触媒としては、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫、ビスマス塩、2-エチルヘキサン酸亜鉛や酢酸亜鉛等のカルボン酸亜鉛が知られている。
【0071】
特に、特開2012-152725号公報では、カルボン酸としてα,β-不飽和カルボン酸亜鉛をブロックイソシアネート解離触媒として含むことによって、脱保護反応の低温化が可能であることが示されている。
【0072】
また、アミノ基を有する化合物を添加することもできる。イソシアネート基とアミノ基が反応すると、尿素結合が形成される。ウレタン結合と尿素結合の部分はハードセグメントと呼ばれ、これらの水素結合によって強度が高まる。従って、ウレタン結合だけでなく、これに尿素結合を加えることによって強度を高めることが可能である。このように、アミノ基を有する化合物は強度付与剤となる。
【0073】
[内部膜]
本発明の内部膜は、一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを有するポリウレタン2の硬化物からなる。
【化24】
(式中、R~Rは同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基である。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。n、pは1~200の範囲の整数である。cは繰り返し単位の割合である。)
【0074】
[ポリウレタン2]
ポリウレタン2は、一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを有するポリウレタンである。ポリウレタン2は、上記単位を有するポリウレタンであればよく、その他の構造を含むことができる。
式(2)中、R、Rは同一又は非同一の炭素数2~12の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、上記R、Rと同様の基を挙げることができる。Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状のアルキレン基又は芳香族基を含有する2価の連結基であり、エーテル基、チオール基、エステル基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ハロゲン原子を有していても良い。
【0075】
繰り返し単位c中のポリエーテルを得るためには、下記に例示される末端がジオールのポリエーテル化合物を原料とする。
【化25】
【0076】
ここで、括弧の繰り返し数がn、又はpである。
【0077】
繰り返し単位c中のRは、具体的には下記に例示される。
【0078】
【化26】
【0079】
【化27】
【0080】
一般式(2)中cに示される構造を有するポリウレタン2は、末端がヒドロキシ基のポリエーテル化合物とイソシアネート化合物との反応によって形成することが出来る。
【0081】
末端がヒドロキシ基のポリオール化合物と反応させるイソシアネート化合物としては、ポリウレタン1の原料となる末端がヒドロキシ基のポリカーボネート化合物や珪素含有基を有するジオール化合物と反応させるイソシアネート化合物を例示することができる。
【0082】
上記のイソシアネート化合物のうち、(メタ)アクリレート基を有するイソシアネート化合物を末端がヒドロキシ基のポリオール化合物と反応させることにより、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることができる。
【0083】
上記のイソシアネート化合物は、末端がヒドロキシ基のポリオール化合物の反応性が高いために、これをコントロールすることが困難な場合がある。また、イソシアネート化合物は、保管中に大気中の水分と反応してイソシアネート基が失活してしまうことがあるため、保管には湿度を十分に防ぐ等十分な注意を要する。そこで、これらの事象を防ぐために、イソシアネート基が置換基で保護されたブロックイソシアネート基を有する化合物が用いられることがある。
【0084】
[その他の構成]
上述のポリエーテル含有ポリウレタンは、それぞれポリエステルdを共重合しても良い。共重合可能なポリエステル部分を得るためのジオール化合物は下記に例示することが出来る。
【0085】
【化28】
【0086】
本発明の複合伸縮性膜形成に用いられるポリウレタン1,2は、合成(製造)の過程において、上記a1~a4、b1、b2、c又はd単位を与える成分以外の成分を必要に応じて含むことができる。このような成分としては、例えば、鎖長延長剤、架橋剤、触媒、強度付与剤、ラジカル発生剤、他のモノマー、溶剤、充填材などが挙げられる。
【0087】
[ポリウレタン1,2の特性等]
本発明の複合伸縮性膜形成に用いられるポリウレタン1,2としては、重量平均分子量が500以上のものであることが好ましい。このようなものであれば、本発明の伸縮性膜に好適に用いることができる。また、樹脂の重量平均分子量の上限値としては、500,000以下が好ましい。
【0088】
[複合伸縮性膜の特性等]
本発明の複合伸縮性膜の膜厚は、内部膜が1~1000μm、表面膜が0.1~100μmであることが好ましい。
内部膜に対して表面膜の方が薄い方が好ましく、表面膜/内部膜の膜厚の比が0.3~0.0001の範囲が好ましい。
【0089】
また、本発明の複合伸縮性膜は、JIS K 6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が20~1000%のものであることが好ましい。このような伸縮率であれば、伸縮配線の被覆膜として特に好適に用いることができる。
【0090】
また、本発明の複合伸縮性膜は、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることが好ましい。本発明の伸縮性膜は、特にこのような用途に好適に用いることができる。
【0091】
以上説明したような、本発明の複合伸縮性膜であれば、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度、ヒステリシスを有し、かつ膜表面はシリコーンと同程度の優れた撥水性とベタ付き感がない表面を有する伸縮性膜となる。
【0092】
<複合伸縮性膜の形成方法>
また、本発明では、複合伸縮性膜を形成する方法であって、下記一般式(2)で示されるポリエーテルとウレタン結合からなる単位cを含有してなるポリウレタン2の硬化物からなる内部膜上に、下記一般式(1)で示されるポリカーボネート又はポリエステルとウレタン結合を有する繰り返し単位a1、a2、a3、a4のうちの1つ以上と、シリコーンペンダント型ウレタン単位b1及び/又はb2とが共重合されたポリウレタン1を塗布し、加熱及び/又は光照射によって硬化させることで表面膜を形成することを特徴とする複合伸縮性膜の形成方法を提供する。
【化29】
(式中、R~R12、R20~R27、X、m、n、p、q、r、s、a1、a2、a3、a4、b1、b2、cは前述の通りである。)
【0093】
上記内部膜は、硬化物を直接用いても、ポリウレタン2を基板上に塗布し、加熱及び/又は光照射によって硬化させたものを用いてもよい。
【0094】
複合伸縮性膜の形成において、一般式(2)中c単位を形成するためのポリエーテルジオール化合物、イソシアネート基を有する化合物や、鎖長延長のためのポリエステルジオール化合物、ポリカーボネートジオール化合物、アミン化合物、架橋剤となる3つ以上のヒドロキシ基を有する化合物と触媒とを混合し、該混合物を製膜し、加熱又は光照射によって硬化させてベースとなる内面膜(1層目の膜)を形成し、その上に上記一般式(1)中a単位を形成するためのポリカーボネート化合物、ポリエステル化合物、b1単位及び/又はb2単位を形成するためのシリコーンペンダントジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物、場合によっては鎖長延長のためのポリエーテルジオール化合物、ポリエステルジオール化合物、アミン化合物、架橋剤となる3つ以上のヒドロキシ基を有する化合物と触媒とを混合し、該混合物を製膜し、加熱又は光照射によって硬化させてベースとなる1層目の伸縮性膜の上に表面膜(2層目の膜)を形成(積層)することが好ましい。
【0095】
このような伸縮性膜の形成方法の一例としては、上記混合物を1層目は基板上に、2層目は1層目の上に塗布して加熱硬化させ形成する方法が挙げられる。
【0096】
この方法においては、イソシアネート基とヒドロキシ基の反応によって、ウレタン結合を形成しながら高分子量化することで、ポリマーネットワークが形成される。ヒドロキシ基やイソシアネート基が3つ以上の化合物を添加すると架橋反応が進行するため、伸縮性は低下するが、膜強度は高まる。従って、ヒドロキシ基やイソシアネート基が2つあるいは3つの化合物の添加量を調整することによって、硬度、伸縮性、強度の調整を行うことができる。また、硬化後に基板から膜を剥がすことによって、独立した伸縮性膜を得ることができる。
【0097】
混合物中におけるヒドロキシ基とイソシアネート基のモル数の割合としては、ヒドロキシ基とイソシアネート基が同モル数あるいはヒドロキシ基の方が多い、即ちヒドロキシ基のモル数をイソシアネート基のモル数で割った数値が1以上であることが好ましい。イソシアネート基の方が少なければ、余剰のイソシアネート基が水と反応して炭酸ガスが発生することはなくなるため、膜内に発泡による穴が生じてしまう恐れがない。発泡ウレタンを作製するときにはイソシアネート基を過剰にするが、本発明の伸縮性膜では、高強度の特性が必要であるために、膜内に発泡による穴は存在しないことが好ましい。
【0098】
本発明の伸縮性膜における樹脂を、上記のようにヒドロキシ基のモル数がイソシアネート基より多い状態で形成すると、ポリマー末端においては、一般式(b’)-1、(b’)-2で示されるジオール化合物の片側にのみウレタン結合が形成される場合がある。
【化30】
(式中、R~R、X、q、rは前述の通りである。)
【0099】
ヒドロキシ基を含有する化合物とイソシアネート化合物を混合して高分子体(プレポリマー)を形成し、その後ヒドロキシ基を含有する化合物又はイソシアネート基を含有する化合物を追加混合して加熱硬化するプレポリマー法によって膜を形成することも出来る。プレポリマーを形成する場合は、ヒドロキシ基を含有する化合物又はイソシアネート化合物の何れか一方を過剰にして分子量を上げる。ヒドロキシ基を含有する化合物イソシアネート化合物を混合して一度に膜を形成するワンショットよりも、未反応の残留イソシアネート量を少なくすることが出来、未架橋部分を低減して高強度な膜を形成することが出来る。
【0100】
硬化させる際の加熱温度は室温から200℃の範囲が好ましく用いられる。より好ましくは40~160℃の範囲で、時間は5秒から60分の範囲である。加熱硬化させるときに、剥離膜で膜の片側を覆う場合と、膜の両側を覆う場合があり、ロールで巻き取りながらの硬化の場合は片側、枚葉硬化の場合は両側の方が好ましいが、この限りではない。
【0101】
また、イソシアネート基とヒドロキシ基の反応によってウレタンポリマーを合成し、これに一般式(3)で示される末端に(メタ)アクリレート基を形成し、このポリマーを製膜し加熱及び/又は光照射によって硬化させることにより、複合伸縮性膜を形成することもできる。具体的には、ポリカーボネートやポリエステル含有シリコーンペンダントポリウレタンアクリレートの場合は、上記一般式(1)中a1を得るためのポリカーボネートジオール化合物、a2~a4を得るためのポリエステルジオール化合物、b1、b2を得るためのシリコーンペンダントジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート化合物又はヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを混合し重合して、ポリマー末端が(メタ)アクリレートであるポリカーボネート含有シリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレートポリマーを合成する。
【0102】
内部のポリエーテル含有ポリウレタン膜は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)膜を用いることも出来る。TPU膜は、各種販売されている市販品を用いることが出来る。
【0103】
ウレタン(メタ)アクリレートポリマーを製膜し、熱又は光照射によってこれを硬化して伸縮性膜を形成する場合は、(メタ)アクリレートをラジカルで反応させて架橋する。ラジカル架橋する方法としては、ラジカル発生剤の添加が望ましい。ラジカル発生剤としては、熱分解によってラジカルを発生させる熱ラジカル発生剤、光照射によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤がある。
【0104】
熱ラジカル発生剤としてはアゾ系ラジカル発生剤、過酸化物系ラジカル発生剤が挙げられ、アゾ系ラジカル発生剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。過酸化物系ラジカル発生剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバロエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0105】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’-ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4-ベンゾイル安息香酸、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン(BAPO)、カンファーキノンを挙げることができる。
【0106】
なお、熱又は光ラジカル発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0107】
また、複数の(メタ)アクリレートやチオールを有する架橋剤を添加することもできる。これにより、ラジカル架橋の効率を向上させることができる。
【0108】
アルキル基やアリール基を有するモノマーや、珪素含有基やフッ素で置換されたアルキル基やアリール基を有するモノマーを添加することもできる。これにより、溶液の粘度を低下させ、より薄膜の伸縮性膜を形成することができる。これらのモノマーが重合性二重結合を有していれば、膜の硬化時に膜中に固定化される。
【0109】
アルキル基やアリール基を有するモノマーは、イソボロニルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、アダマンタンアクリレート、フェノキシエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2~6官能のアクリレートを挙げることが出来る。2官能のアクリレートとしては、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、イソノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2-ヒドロキシ-3-メタクリルプロピルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレートを、3官能のアクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、プロポキシ化グリセリントリアクリレート、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートを、4官能のアクリレートとしては、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、プロポキシ化ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートを、5-6官能のアクリレートとしては、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールポリアクリレート、プロポキシ化ジペンタエリスリトールポリアクリレートを挙げることが出来る。前記アクリレートをメタクリレートに変更したモノマーを用いることも出来る。
【0110】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を用いて伸縮性膜を形成する場合、熱硬化と光硬化とを組み合わせて硬化させることもできる。例えば、ベースとなる伸縮性膜は熱硬化で形成しておいて、その上の伸縮性膜は光硬化で形成することもできる。光硬化のメリットは、加熱が必ずしも必要ではないことと、短時間で硬化が可能なことである。デメリットは、光が届かない部分の硬化ができないことである。熱硬化と光硬化とを組み合わせることによって、それぞれの長所を生かした硬化方法を選択することができる。
【0111】
例えば、一般式(2)中のcで示されるベースポリマーとラジカル発生剤を混合した溶液を基板上に塗布し、熱又は光照射によってこれを硬化させて1層目を形成して、その上に一般式(1)中のa1~a4、b1、b2の組み合わせで示されるベースポリマーとラジカル発生剤を混合した溶液を塗布して2層目を塗布し、熱又は光照射によってこれを硬化させて伸縮性膜を形成することができる。
【0112】
1層目を、一般式(2)で示されるc単位を得るためのポリオールジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物と、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物と、場合によってはアミノ基を有する化合物とを混合して硬化させて形成し、2層目を、(1)中のa1~a4、b1、b2の組み合わせで示されるシリコーンペンダントポリウレタン(メタ)アクリレートとラジカル発生剤を混合した溶液を塗布して熱又は光で硬化させて形成しても構わない。また、1層目を、(2)中のcで示されるポリウレタン(メタ)アクリレートを混合した溶液を塗布して熱又は光で硬化させて形成し、2層目を、一般式(1)で示されるa1~a4単位を得るためのポリカーボネートジオール化合物、ポリエステルジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物と、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物と、場合によってはアミノ基を有する化合物とを混合して硬化させて形成しても構わない。
【0113】
本発明の伸縮性膜の1層目を形成する方法としては、上述の組成物を平板基板上や、ロール上に塗布する方法が挙げられる。組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート、バーコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等が挙げられる。
【0114】
本発明の伸縮性膜の2層目を形成する方法としても、1層目と同様の方法を挙げることが出来る。本発明の複合伸縮性膜の膜厚は、内部膜が1~1000μm、表面膜が0.1~100μmである。内部膜に対して表面膜の方が薄い方が好ましく、表面膜/内部膜の膜厚の比が0.3~0.0001の範囲が好ましい。
【0115】
凹凸がある部品の封止には、ロールコートやスプレーコーティング等の方法や、スクリーン印刷等で必要な部分だけに塗布する方法が好ましい。なお、種々のコーティングや印刷を行うために、混合溶液の粘度を調整する必要がある。低粘度にする場合は、有機溶剤を混合し、高粘度にするときは、シリカ等の充填剤を混合する。
【0116】
有機溶剤としては、大気圧での沸点が115~200℃の範囲の有機溶剤が好ましい。具体的には、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ブテニル、酢酸イソアミル、酢酸フェニル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、蟻酸イソアミル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0117】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を加熱によって硬化させる場合、加熱硬化は、例えば、ホットプレートやオーブン中あるいは遠赤外線の照射によって行うことができる。加熱条件は、30~150℃、10秒~60分間が好ましく、50~120℃、30秒~20分間がより好ましい。ベーク環境は大気中でも不活性ガス中でも真空中でもかまわない。
【0118】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を光照射によって硬化させる場合、光照射による硬化は、波長200~500nmの光で行うことが好ましい。光源としては、例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、メタルハライドランプ、LED等を用いることができる。また、電子ビームの照射であってもよい。照射量は、1mJ/cm~100J/cmの範囲とすることが好ましい。
【0119】
本発明の複合伸縮性膜は、内部膜(ポリエーテル含有ポリウレタン層)の表面に、表面膜(ポリカーボネートやポリエステル含有シリコーンペンダント型ポリウレタン層)を形成してなる複合伸縮性膜であるが、ポリエーテル含有ポリウレタン層は、これの両面、又は片面どちらをポリカーボネートやポリエステル含有シリコーンペンダント型ポリウレタン層で覆っていても構わない。ポリカーボネートやポリエステル含有シリコーンペンダント型ポリウレタンの膜厚は特には限定しないが、ポリエーテル含有ポリウレタン層に比べて薄い方が、ヒステリシスの劣化無く高伸縮な点で好ましい。
【0120】
より薄膜のポリカーボネートやポリエステル含有シリコーンペンダント型ポリウレタン層を形成するために、前記有機溶剤を混合することも出来る。内部膜のポリエーテル含有ポリウレタン層の溶液の方には有機溶剤を含んでいても含んでいなくても構わない。
【0121】
以上説明したような、本発明の複合伸縮性膜の形成方法であれば、ポリウレタンと同程度又はそれ以上の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面は高い撥水性と低タック性を有する伸縮性膜を容易に形成することができる。
【0122】
<複合伸縮性膜の使用>
本発明の複合伸縮性膜は、単独の自立膜として用いるだけでなく、繊維上やメンブレン膜上に形成することも出来る。
【0123】
ここで、図1~7に本発明の伸縮性膜の使用例を示す。図1は、本発明の伸縮性膜6上に形成した心電計1を生体電極側から見た概略図である。また、図2は、本発明の伸縮性膜6(伸縮性膜1層目6-1、伸縮性膜2層目6-2)を基板7上に形成した状態を示す断面図であり、図3は伸縮性膜6上に心電計1を形成した状態を示す断面図であり、図4図3の心電計1の伸縮する配線3とセンターデバイス4を伸縮性膜6で覆った状態の断面図であり、図1の心電計1は特許文献1に記載のものである。図1に示されるように、心電計1は、3つの生体電極2が電気信号を通電する配線3によって繋がれ、センターデバイス4に接続されている。
【0124】
配線3の材料としては、一般的に金、銀、白金、チタン、ステンレス等の金属やカーボン等の導電性材料が用いられる。なお、伸縮性を出すために、特許文献1に記載のように蛇腹形状の配線とすることもできるし、伸縮性フィルム上に前述の導電性材料の粉やワイヤー化した導電性材料を貼り付けたり、前述の導電性材料を含有する導電インクを印刷したり、導電性材料と繊維が複合された導電性布を用いたりして配線3を形成しても良い。
【0125】
心電計1は肌に貼り付ける必要があるので、図3、4では、生体電極2が肌から離れないようにするために生体電極2の周りに粘着部5を配置している。なお、生体電極2が粘着性を有するものである場合は、周辺の粘着部5は必ずしも必要ではない。
【0126】
この心電計1を、図1に示されるように、本発明の複合伸縮性膜である伸縮性膜6上に作製する。伸縮性膜6は、表面のベタ付きが少ないので、この上にスクリーン印刷等で印刷を行った場合、版離れが良好である。すなわち、版が離れるときにインク離れが生じ、伸縮膜上にインクが転写されないことがなく、好ましい。
【0127】
更には、伸縮する配線3を伸縮性膜6で覆うことも出来る。この時の伸縮性膜6は複合型である必要はなく、伸縮性膜1層目6-1、伸縮性膜2層目6-2何れか1つの層だけの膜であっても構わない。なお、図4では伸縮する配線3を伸縮性膜2層目6-2で覆っている。
【0128】
さらに、図5に示すように、図2で形成した伸縮性膜を反転させ、伸縮性膜1層目6-1の、伸縮性膜2層目6-2が形成されていない面にも伸縮性膜2層目6-2を形成した伸縮性膜とすることも出来る。この場合の伸縮性膜を用いた心電計の断面図は図6又は図7に示される。
【実施例
【0129】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0130】
伸縮性膜形成用組成物に、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物として配合したポリエーテル含有ウレタン(メタ)アクリレート1-1~1-5、ポリカーボネート含有シリコーンウレタン(メタ)アクリレート2-1~2-4、ポリエーテルとポリカーボネート共重合体含有シリコーンウレタン(メタ)アクリレート2-5、ポリエステル含有シリコーンウレタン(メタ)アクリレート2-6~2-8、ポリカーボネートとポリエステル含有シリコーンウレタン(メタ)アクリレート2-9を以下に示す。
【0131】
【化31】
【0132】
【化32】
【0133】
【化33】
【0134】
【化34】
【0135】
伸縮性膜形成用組成物に添加剤として配合した光ラジカル発生剤1を以下に示す。
光ラジカル発生剤1:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド
【0136】
伸縮性膜形成用組成物に配合したアルキル基やアリール基を有するモノマーを以下に示す。
アルキル基やアリール基を有するモノマー:イソボロニルアクリレート
【0137】
[実施例、比較例]
【0138】
表1に記載の組成で、末端に(メタ)アクリレート基を有するシリコーンウレタン化合物、光ラジカル発生剤、有機溶剤を混合し、伸縮性膜形成用組成物(伸縮性膜材料1-1~1-5、2-1~2-10)を調製した。
【0139】
【表1】
【0140】
(伸縮性膜の製作)
ポリエチレン基板上に、1層目伸縮性膜材料1-1~1-5をスリットコーターで塗布し、窒素雰囲気下1,000Wのキセノンランプで500mJ/cmの光を照射して伸縮性膜の1層目を硬化させた。
【0141】
1層目上に、2層目伸縮性膜材料をバーコート法で塗布し、伸縮性膜材料2-1~2-4、2-6~2-10では窒素雰囲気下1,000Wのキセノンランプで500mJ/cmの光を照射して伸縮性膜の2層目を硬化させ、2層目伸縮性膜材料2-5では100℃で10分間ベークして溶剤を蒸発させ、窒素雰囲気下1,000Wのキセノンランプで500mJ/cmの光を照射して伸縮性膜の2層目を硬化させ、複合伸縮性膜を形成した。
【0142】
比較例のため、1層目伸縮性膜材料と2層目伸縮性膜材料のそれぞれ単独をスリットコーターで塗布し、上記条件で光硬化させた。
【0143】
(膜厚・接触角・伸縮率・強度の測定)
硬化後の複合伸縮性膜(実施例1~14)、比較例の単独の伸縮性膜(比較例1~4)における膜厚、及び表面の水の接触角を測定し、指で触ったときのタック感を求めた。また、伸縮性膜表面の水の接触角を測定した後に、伸縮性膜を基板から剥がし、JIS K 6251に準じた方法で伸縮率と強度を測定した。結果を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
表2に示されるように、本発明の伸縮性膜では、撥水性、強度、伸縮性が高く、かつ表面のタック性が低い伸縮性膜が得られた。特に、ポリエステル含有シリコーンウレタン(メタ)アクリレートや、ポリカーボネートとポリエステル含有シリコーンウレタン(メタ)アクリレートを配合した実施例11~14の伸縮性膜は、300%を超える伸び率と高強度とを両立することが確認できた。
【0146】
一方、比較例1、2のように1層しかない膜では、1層目伸縮性膜単独(比較例1、4)では、撥水性、強度、伸縮性が高いが表面のタック性があり、膜同士がくっついてしまう特性であり、2層目伸縮性膜単独(比較例2、3)では、表面タック性がないものの伸縮性が劣っていた。
【0147】
(ヒステリシスの測定)
前記方法にて硬化させた実施例1、比較例1~3のシートを13cm×15cmの大きさにカットし、島津製作所製引っ張り試験機(AGS-1X 1KN)を用いて0から20%の範囲で5%/分の速度で伸縮を行い、この時の応力を測定し、ヒステリシスカーブを求めた。ヒステリシスカーブを図8~11に示す。
【0148】
実施例1の伸縮性膜の繰り返し伸縮試験を行うと、伸張時には伸張度に比例して応力が高くなり、収縮時は応力が低くなり、伸張度が0%になった時に応力がほぼ0に戻る。このように実施例1の伸縮性膜は伸張度と応力が直線関係にあり、伸縮と応力のヒステリシスに優れる特徴がある。一方、比較例2、3では、伸張度と応力が直線関係になく、伸縮と応力のヒステリシスに劣る。比較例1の伸縮性膜(実施例1の1層目伸縮性膜単独)では、伸縮と応力のヒステリシスは良いものの、上記のように表面タック性があり、膜同士がくっついてしまう。
【0149】
以上のことから、本発明の伸縮性膜であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性と低タック性に優れ、伸縮繰り返しにおけるヒステリシスも良好であるため、ウェアラブルデバイス等に用いられる伸縮性の配線が印刷可能な膜として優れた特性を有していることが明らかとなった。
【0150】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0151】
1…心電計、 2…生体電極、 3…配線、 4…センターデバイス、
5…粘着部、 6…複合伸縮性膜、 6-1…複合伸縮性膜1層目、
6-2…複合伸縮性膜2層目、 7…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11