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特許71904224-メチル-5-ノナノン及び4-メチル-5-ノナノールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】4-メチル-5-ノナノン及び4-メチル-5-ノナノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/48 20060101AFI20221208BHJP
   C07C 49/04 20060101ALI20221208BHJP
   C07B 49/00 20060101ALI20221208BHJP
   C07C 29/143 20060101ALI20221208BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C07C45/48
C07C49/04 A
C07B49/00
C07C29/143
C07C31/125
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019224924
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2020100618
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018239591
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】長江 祐輔
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-529954(JP,A)
【文献】特開平06-009364(JP,A)
【文献】Chi-Hien Dang et al,A facile synthesis of racemic aggregation pheromones of palm pests, Rhinoceros beetle and Rhynchophorus weevil,Arkivoc,2017年10月16日,part V,p187-195,doi:10.24820/ark.5550190.p010.271
【文献】K.Maruoka et al.,Methylaluminum bis(4-bromo-2,6-di-tert-butylphenoxide) as a Key reagent for effecting primary α-alk,J.Am.Chem.Soc.,1992年,Vol.114,p4422-4423
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
で表される2-メチルペンタン酸無水物と、下記一般式(2)
【化2】
(式中、MはLi、MgZ、又はZnZを表し、Zはハロゲン原子又はn-ブチル基を表す)
で表されるn-ブチル求核試薬との求核置換反応により、下記式(3)
【化3】
で表される4-メチル-5-ノナノンを得る工程
を少なくとも含む、4-メチル-5-ノナノンの製造方法。
【請求項2】
下記式(4)
【化4】
で表される2-メチルペンタン酸の縮合反応により、上記の2-メチルペンタン酸無水物(1)を得る工程
をさらに含む、請求項1に記載の4-メチル-5-ノナノンの製造方法。
【請求項3】
前記求核置換反応の間、又は前記求核置換反応の終了後に、当該求核置換反応において副生した2-メチルペンタン酸を回収する工程
をさらに含む、請求項1又は2に記載の4-メチル-5-ノナノンの製造方法。
【請求項4】
前記回収した2-メチルペンタン酸の縮合反応により2-メチルペンタン酸無水物(1)を得る工程
をさらに含む、請求項3に記載の4-メチル-5-ノナノンの製造方法。
【請求項5】
前記得られた2-メチルペンタン酸無水物(1)が前記求核置換反応において用いられる、請求項4に記載の4-メチル-5-ノナノンの製造方法。
【請求項6】
前記得られた2-メチルペンタン酸無水物(1)を前記求核置換反応における原料として利用して、当該置換反応を繰り返す工程
をさらに含む、請求項4に記載の4-メチル-5-ノナノンの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法と、
前記製造方法に従い得られた4-メチル-5-ノナノン(3)と還元剤との還元反応により、下記式(5)
【化5】
で表される4-メチル-5-ノナノールを得る工程と
を少なくとも含む、4-メチル-5-ノナノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤシ等の害虫であるRed Palm Weevil(ヤシオオオサゾウムシ)、(学名:Rhynchophorus ferrugineus、例えばRhynchophorus ferrugineus Olivier)の集合フェロモン物質である4-メチル-5-ノナノン及び4-メチル-5-ノナノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のRed Palm Weevilは、ナツメヤシ、ココナッツ、アブラヤシ、ビンロウジュヤシ等のヤシ科植物の重要害虫である。Red Palm Weevilの成虫は、ヤシの木の中へ入り込んで産卵し、幼虫は、木の内部を食害するため、植物を弱らせ最終的には枯死させる。Red Palm Weevilは南アジアとメラネシア原産の種であるが、現在東南アジア、中東、北アフリカ、ヨーロッパ、米国等に侵入し、広範囲でヤシ科植物に甚大な被害をもたらしている。Red Palm Weevilの成虫及び幼虫はヤシの木の中へ入り込むため、殺虫剤による防除は困難であり、集合フェロモン物質を用いた大量誘殺が世界中で行われており防除に活用されている。
【0003】
Red Palm Weevilの集合フェロモン物質は、4-メチル-5-ノナノンと4-メチル-5-ノナノールとの10:1~9:1(重量比)の混合物であることが明らかとなっている(非特許文献1)。これら化合物の合成方法として、例えば、4-メチル-5-ノナノンは、5-ノナノンをジクロロメタン溶媒中、-40℃でメチルアルミニウム=ビス(4-ブロモ-2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシド)を用いて活性化し、メチル=トリフラートと反応させることにより合成できること(非特許文献2)、及び4-メチル-5-ノナノールは、2-メチル-1-ペンタナールとn-ブチルリチウムを反応させることにより合成できること(非特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A.C.Oehlschlager et al.,J.Chem.Ecol.,1996,22(2),357-368.
【文献】H.Yamamoto et al.,J.Am.Chem.Soc.,1992,114,4422-4423.
【文献】A.C.Oehlschlager et al.,J.Chem.Ecol.,1995,21(10)、1619-1629.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献2では、発がん性物質であるメチル=トリフラートをメチル化剤として用いており、更に一般試薬として入手困難な特殊なアルミニウム試薬を当量以上用いている。更に、非特許文献2では、-40℃で反応させているために特殊な冷却設備を有する反応器が必要となり、工業的な製造が難しい。また、非特許文献3では、高価なリチウム試薬を用いており、更に収率が67%と低い。これは2-メチル-1-ペンタナールとn-ブチルリチウムとの求核付加反応において、生成物のアルコールがヒドリド移動によりケトンとなった後に、当該ケトンがn-ブチルリチウムと再び反応することによる3級アルコールの副生が原因であると考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、効率のよい経済的な、4-メチル-5-ノナノン及び4-メチル-5-ノナノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、安価かつ大量に合成することができる2-メチルペンタン酸無水物と、工業的に入手することができ且つ簡便に調製が可能であるn-ブチル求核試薬との求核置換反応により、高収率且つ高純度で4-メチル-5-ノナノンが製造することができることを見出し、本発明を為すに至った。更に、引き続き、該製造された4-メチル-5-ノナノンに還元反応を行うことにより、4-メチル-5-ノナノールを高収率且つ高純度で製造することができることを見出し、本発明を為すに至った。
【0008】
本発明の1つの態様によれば、下記式(1)
【化1】
で表される2-メチルペンタン酸無水物と、下記一般式(2)
【化2】
(式中、MはLi、MgZ、又はZnZを表し、Zはハロゲン原子又はn-ブチル基を表す)
で表されるn-ブチル求核試薬との求核置換反応により、下記式(3)
【化3】
で表される4-メチル-5-ノナノンを得る工程
を少なくとも含む、4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、上述の4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法と、当該製造方法に従い得られた4-メチル-5-ノナノンと還元剤との還元反応により、下記式(5)
【化4】
で表される4-メチル-5-ノナノールを得る工程と
を少なくとも含む、4-メチル-5-ノナノール(5)の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短工程かつ高収率で、高純度の4-メチル-5-ノナノン及び4-メチル-5-ノナノールを安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A. 4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法
【0012】
まず、4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法において原料として使用される2-メチルペンタン酸無水物(1)の製造例を以下に説明する。2-メチルペンタン酸無水物(1)は、公知の合成方法を用いて得ることが出来る。2-メチルペンタン酸無水物(1)は例えば、下記の化学反応式で示される通り、下記式(4)で表される2-メチルペンタン酸の縮合反応により得られる。
【0013】
【化5】
【0014】
2-メチルペンタン酸(4)としては、下記式(4-1)で表される(R)-2-メチルペンタン酸、下記式(4-2)で表される(S)-2-メチルペンタン酸、これらのラセミ体及びスカレミック混合物が挙げられる。
【0015】
【化6】
【0016】
なお、2-メチルペンタン酸(4)は、市販されているものであってもよく、また独自に合成したものであってもよい。
【0017】
加熱により、縮合反応を進行させてもよい。反応効率の観点から、縮合剤を使用することが好ましい。
縮合剤としては、ギ酸無水物、無水酢酸、プロピオン酸無水物、ブタン酸無水物、2-メチルブタン酸無水物、3-メチルブタン酸無水物及びペンタン酸無水物等の炭素数1~5のカルボン酸化合物の酸無水物;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、酒石酸及びクエン酸等のカルボン酸化合物;p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びメタンスルホン酸等のスルホン酸化合物、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸及びホウ酸等の無機酸化合物;N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(EDC)及びN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等のカルボジイミド化合物等が挙げられる。取り扱いの観点から、ギ酸、酢酸及び無水酢酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。
縮合剤は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の縮合剤を用いることができる。
縮合剤の使用量は、反応性の観点から、2-メチルペンタン酸(4)1molに対して、好ましくは1.0~4.0mol、より好ましくは1.3~2.7mol、である。
【0018】
縮合反応において、必要に応じて溶媒を用いてもよい。該溶媒としては、トルエン、キシレン及びヘキサン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン及びジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチル=スルホキシド及びアセトニトリル等の極性溶媒等が挙げられる。
溶媒は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の溶媒を用いることができる。
溶媒の使用量は、反応性の観点から、2-メチルペンタン酸(4)1molに対して、好ましくは0~2000gである。
なお、使用する縮合剤が液体である場合には、縮合剤を溶媒として使用してもよい。液体である縮合剤は例えば、ギ酸無水物、無水酢酸、プロピオン酸無水物、ブタン酸無水物、2-メチルブタン酸無水物、3-メチルブタン酸無水物及びペンタン酸無水物等の炭素数1~5のカルボン酸化合物の酸無水物;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、酒石酸及びクエン酸等のカルボン酸化合物等であり、これらを使用することにより、別途の溶媒の使用を避けたり又はその量を低減することが可能である。
縮合剤を溶媒としても使用する場合における縮合剤の使用量は、生産性の観点から、2-メチルペンタン酸(4)1molに対して、好ましくは4.0超~10.0mol以下、より好ましくは4.5~8.5mol、である。
【0019】
縮合反応の温度は、用いる溶媒及び/又は減圧度によって異なるが、反応性の観点から、好ましくは35~189℃である。
反応時間は、用いる溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは4~35時間である。
縮合反応は、縮合反応を効率良く進める観点から、脱水縮合により生じた水及び/又は、縮合剤として酸無水物を使用した際に生じるカルボン酸や、不均化反応により生じる酸無水物、その他副生成物等を加熱及び/又は減圧することにより留出させながら行ってもよい。
留出の条件は、反応条件及び/又は使用する縮合剤により異なる。例えば、無水酢酸を縮合剤として使用した場合(無水酢酸が溶媒を兼ねる場合も含む)においては、まず、常圧下(760mmHg)において、2-メチルペンタン酸(4)と無水酢酸を反応器中の反応混合物の温度(内温)140~180℃において0.5~10時間反応させることにより、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物と酢酸とを生成させる。次に、常圧下、140~180℃にて、酢酸、無水酢酸及び2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物を少なくとも含む留分中の酢酸含有量が好ましくは10.0%以下、より好ましくは0.1~5.0%、となるまで酢酸を留出させ、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物の生成を十分に進行させる。
ここで、「酢酸、無水酢酸及び2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物を少なくとも含む留分中の酢酸含有量」とは、以下の式で定義されるものである。
(酢酸、無水酢酸及び2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物を少なくとも含む留分中の酢酸含有量)={(酢酸のピーク面積)/(酢酸、無水酢酸及び2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物のピーク面積の合計値)}×100
なお、「ピーク面積」は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の各種分析手法により求めることができる。
そして、55~75mmHgまで徐々に減圧し、内温を140~180℃とすることによって、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物の不均化反応により2-メチルペンタン酸無水物と無水酢酸の生成を十分に進行させる。なお、「内温」とは、反応器中の反応液の液温をいい、反応温度と同義である。
縮合剤として用いた無水酢酸及び不均化反応により生じた無水酢酸は、無水酢酸、2-メチルペンタノール、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物及び2-メチルペンタン酸無水物を少なくとも含む留分中の無水酢酸含有量が好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.1~0.5%、となるまで留出させる。
ここで、「無水酢酸、2-メチルペンタノール、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物及び2-メチルペンタン酸無水物を少なくとも含む留分中の無水酢酸含有量」とは、以下の式で定義されるものである。
(無水酢酸、2-メチルペンタノール、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物及び2-メチルペンタン酸無水物を少なくとも含む留分中の無水酢酸含有量)={(無水酢酸のピーク面積)/(無水酢酸、2-メチルペンタノール、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物及び2-メチルペンタン酸無水物のピーク面積の合計値)}×100
なお、「ピーク面積」は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の各種分析手法により求めることができる。
【0020】
最後に、1~10mmHgまで減圧し、内温を120~160℃とすることにより、2-メチルペンタン酸無水物(1)を効率良く製造することができる。
【0021】
2-メチルペンタン酸無水物(1)としては、下記式(1-1)で表される(R)-2-メチルペンタン酸=(R)-2-メチルペンタン酸=無水物、下記式(1-2)で表される(S)-2-メチルペンタン酸=(S)-2-メチルペンタン酸=無水物、及び下記式(1-3)で表される(R)-2-メチルペンタン酸=(S)-2-メチルペンタン酸=無水物(この化合物はメソ体であって(S)-2-メチルペンタン酸=(R)-2-メチルペンタン酸=無水物と同一の化合物である)、並びにこれらのラセミ体、ジアステレオマー混合物及びスカレミック混合物が挙げられる。
【0022】
【化7】
【0023】
次に、下記の化学反応式で示される4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法について、以下に説明する。当該製造方法は、上述した2-メチルペンタン酸無水物(1)と下記一般式(2)で表されるn-ブチル求核試薬との求核置換反応、及び続く加水分解反応により、4-メチル-5-ノナノンを得る工程を含む。
【0024】
【化8】
【0025】
n-ブチル求核試薬(2)におけるMは、Li、MgZ、又はZnZを表し、Zはハロゲン原子又はn-ブチル基を表す。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0026】
n-ブチル求核試薬(2)の具体例としては、n-ブチルリチウム、ブチルマグネシウム=クロライド及びブチルマグネシウム=ブロマイド等のブチルマグネシウム=ハライド試薬;ジブチル亜鉛等のブチル亜鉛試薬等が挙げられ、汎用性の観点から、ブチルマグネシウム=ハライド試薬が好ましい。
n-ブチル求核試薬(2)は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。また、ブチル求核試薬(2)は、市販されているものであってもよく、また独自に合成したものであってもよい。
n-ブチル求核試薬(2)は、常法に従い調製することができる。例えば、ブチルマグネシウム=ハライド試薬は、下記の化学反応式で示される通り、下記一般式(6)で表される1-ハロブタン化合物を溶媒中、マグネシウムと反応させることにより、ブチルマグネシウム=ハライド試薬を得る工程により調製することができる。
【0027】
【化9】
【0028】
1-ハロブタン化合物(6)におけるXはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
1-ハロブタン化合物(6)の具体例としては、1-クロロブタン、1-ブロモブタン及び1-ヨードブタンが挙げられる。
1-ハロブタン化合物(6)は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。また、1-ハロブタン化合物(6)は、市販されているものであってもよく、また独自に合成したものであってもよい。
【0029】
1-ハロブタン化合物(6)からブチルマグネシウム=ハライド試薬(2)を調製する際に用いるマグネシウムの使用量は、反応完結の観点から、1-ハロブタン化合物(6)1molに対して、好ましくは1.0~2.0グラム原子である。
溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチル=エーテル及び4-メチルテトラヒドロピラン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン及びヘキサン等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。グリニャール試薬生成の反応速度の観点から、テトラヒドロフランが好ましい。
溶媒は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の溶媒を用いることができる。
溶媒の使用量は、1-ハロブタン化合物(6)1molに対して、反応性の観点から、好ましくは100~1000gである。
反応温度は、用いる溶媒により異なるが、反応性の観点から、好ましくは30~120℃である。
反応時間は、用いる溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは1~30時間である。
【0030】
上記の求核置換反応には、必要に応じて溶媒を用いてもよい。該溶媒としては、トルエン、キシレン及びヘキサン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン及びジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチル=スルホキシド及びアセトニトリル等の極性溶媒が挙げられる。反応性の観点から、トルエン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン及びアセトニトリルが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
溶媒は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の溶媒を用いることができる。
溶媒の使用量は、反応性の観点から、2-メチルペンタン酸無水物(1)1molに対して、好ましくは30~2000gである。
求核置換反応の温度は、用いるブチル求核試薬によって異なるが、反応性の観点から、好ましくは-78~70℃、より好ましくは-20~25℃、である。
反応時間は、用いる溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは3~45時間である。
【0031】
上述の加水分解反応は、酸と水を用いることにより行うことができる。
酸としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びメタンスルホン酸等の有機酸類;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸及びホウ酸等の無機酸類等が挙げられる。経済性の観点から、ギ酸、酢酸及び塩酸が好ましい。
酸の使用量は、2-メチルペンタン酸無水物(1)1molに対して、反応性の観点から、好ましくは1~5molである。
水の使用量は、2-メチルペンタン酸無水物(1)1molに対して、溶解性の観点から、好ましくは100~1000gである。
【0032】
4-メチル-5-ノナノン(3)としては、下記式(3-1)で表される(4R)-4-メチル-5-ノナノン、下記式(3-2)で表される(4S)-4-メチル-5-ノナノン、これらのラセミ体及びスカレミック混合物が挙げられる。
【0033】
【化10】
【0034】
4-メチル-5-ノナノン(3)の製造方法における上述の求核置換反応の間、又は上述の求核置換反応の終了後に、当該求核置換反応において副生した2-メチルペンタン酸(4)を回収する工程、そして、当該回収した2-メチルペンタン酸(4)の縮合反応により2-メチルペンタン酸無水物(1)を得る工程、及び当該得られた2―メチルペンタン酸無水物(1)を上述の求核置換反応において用いること、又は当該得られた2-メチルペンタン酸無水物(1)を上述の求核置換反応における原料として利用して、当該求核置換反応を繰り返す工程をさらに行ってもよい。
【0035】
まず、上述の求核置換反応において副生した2-メチルペンタン酸(4)を回収する工程について説明する。
求核置換反応において、4-メチル-5-ノナノン(3)の生成と共に2-メチルペンタン酸無水物(1)に由来する2-メチルペンタン酸(4)が副生する。
2-メチルペンタン酸(4)の回収方法としては、例えば該求核置換反応の終了後における、下記する後処理操作において、4-メチル-5-ノナノン(3)と2-メチルペンタン酸(4)を分離し、2-メチルペンタン酸(4)を回収する方法、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより4-メチル-5-ノナノン(3)と2-メチルペンタン酸(4)を分離し、2-メチルペンタン酸(4)を回収する方法、蒸留により4-メチル-5-ノナノン(3)と2-メチルペンタン酸(4)を分離し、2-メチルペンタン酸(4)を回収する方法等が挙げられる。4-メチル-5-ノナノン(3)及び2-メチルペンタン酸(4)の分離操作の簡便性の観点から、例えば該求核置換反応の終了後における後処理操作において、4-メチル-5-ノナノン(3)及び2-メチルペンタン酸(4)を分離し、2-メチルペンタン酸(4)を回収する方法が好ましい。
【0036】
上記の後処理操作における回収方法は、具体的には、下記に示す化学反応式の通りである。上記のように、該求核置換反応により得られた4-メチル-5-ノナノン(3)及び2-メチルペンタン酸(4)を含む反応生成混合物(有機層)に、水及び塩基を順次若しくは同時に加えて又は塩基の水溶液の存在下で中和反応させて、4-メチル-5-ノナノン(3)を含む有機層と2-メチルペンタン酸の塩(7)を含む水層とを得る(中和工程)。次に、当該水層を分離し、これに酸を加えることによって、2-メチルペンタン酸(4)を遊離させて、2-メチルペンタン酸(4)を得る(遊離工程)。
【0037】
【化11】
【0038】
中和工程において、2-メチルペンタン酸(4)を塩基との中和反応により2-メチルペンタン酸の塩(7)とすることで、2-メチルペンタン酸の塩(7)が水に溶解するため、4-メチル-5-ノナノン(3)は、2-メチルペンタン酸の塩(7)と容易に分離することができる。そして、分液することにより4-メチル-5-ノナノン(3)を含む有機層と2-メチルペンタン酸の塩(7)を含む水層とを得ることができる。
塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸水素カルシウム及び炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩が挙げられ、取扱いの観点から、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
塩基の使用量は、回収率の観点から、上述の求核置換反応に使用した2-メチルペンタン酸無水物(1)1molに対して、好ましくは1.0~5.0molである。
塩基は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の塩基を用いることができる。
なお、塩基が固体である場合においては、固体のまま使用してもよいし、求核置換反応における用いる溶媒及び/又は水に溶かして使用してもよい。
水の使用量は、2-メチルペンタン酸の塩(7)の溶解度の観点から、上述の求核置換反応に使用した2-メチルペンタン酸無水物(1)1molに対して、好ましくは300~3000gである。
中和反応の温度は、反応性の観点から、好ましくは-20~70℃、より好ましくは0~40℃、である。
反応時間は、反応スケール及び/又は除熱能力により異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.1~20時間である。
中和工程における水層のpHは、2-メチルペンタン酸(4)の回収率の観点から、好ましくは10.0以上、より好ましくは12.0~14.0、である。pH値は、例えばpH試験紙又は測定対象の液温を25℃としてpHメータを用いて測定できる。
【0039】
2-メチルペンタン酸の塩は、下記一般式(7)で表される。2-メチルペンタン酸の塩(7)におけるYは、Li、Na、K、CaZ、MgZ、又はBaZを表し、Zは2-メチルペンタン酸のカルボキシラートイオン、OH又はHCOを表す。
【0040】
【化12】
【0041】
2-メチルペンタン酸の塩(7)の具体例としては、2-メチルペンタン酸ナトリウム及び2-メチルペンタン酸カリウム等の2-メチルペンタン酸のアルカリ金属塩;2-メチルペンタン酸カルシウム、2-メチルペンタン酸マグネシウム及び2-メチルペンタン酸バリウム等の2-メチルペンタン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0042】
次に、遊離工程において、2-メチルペンタン酸の塩(7)を含む水層に酸を加えて2-メチルペンタン酸の塩(7)を含む水層を酸性とすることにより2-メチルペンタン酸(4)を遊離させることができ、遊離した2-メチルペンタン酸(4)と水層を分離することにより2-メチルペンタン酸(4)を回収することができる。
遊離工程に用いる酸としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びメタンスルホン酸等の有機酸類;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸及びホウ酸等の無機酸類等が挙げられる。経済性の観点から、塩酸が好ましい。
酸は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の酸を用いることができる。
なお、酸が固体である場合においては、固体のまま使用してもよいし、求核置換反応における用いる溶媒及び/又は水に溶かして使用してもよい。
酸の使用量は、回収率の観点から、上述の求核置換反応に使用した2-メチルペンタン酸無水物(1)1molに対して、好ましくは1.0~6.0molである。
遊離反応の温度は、反応性の観点から、好ましくは-20~70℃、より好ましくは0~40℃、である。
反応時間は、反応スケール及び/又は除熱能力により異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5~20時間である。
水層のpHは、2-メチルペンタン酸(4)の回収率の観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは-1.0~+1.0、である。pH値は、例えばpH試験紙又は測定対象の液温を25℃としてpHメータを用いて測定できる。
【0043】
遊離工程においては、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン及びジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル及びアセトニトリル等の極性溶媒等の溶媒を添加してもよいが、添加した溶媒を除去する必要が生じることから溶媒を添加せずに反応を行うことが好ましい。
【0044】
回収された2-メチルペンタン酸(4)は、縮合反応により2-メチルペンタン酸無水物とすることができ、上述の求核置換反応における原料として利用して、当該求核置換反応を繰り返し行う為に使用することが可能であり、従って経済的に有利である。
【0045】
B. 4-メチル-5-ノナノール(5)の製造
【0046】
下記の化学反応式で示される4-メチル-5-ノナノール(5)の製造方法を説明する。当該製造方法は、上記項Aにおいて製造された4-メチル-5-ノナノン(3)と還元剤との還元反応により、4-メチル-5-ノナノール(5)を得る工程を含む。
【0047】
【化13】
【0048】
還元剤としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩;水素化ホウ素マグネシウム及び水素化ホウ素カルシウム等の水素化ホウ素アルカリ土類金属塩;シアノ水素化ホウ素リチウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム及びシアノ水素化ホウ素カリウム等のシアノ水素化ホウ素アルカリ金属塩;シアノ水素化ホウ素マグネシウム及びシアノ水素化ホウ素カルシウム等のシアノ水素化ホウ素アルカリ土類金属塩;水素化トリ-sec-ブチルホウ素ナトリウム及び水素化トリ-sec-ブチルホウ素リチウム等の水素化トリ-sec-ブチルホウ素アルカリ金属塩、並びに、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム及び水素化アルミニウムリチウム等が挙げられる。経済性の観点から、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩が好ましい。
還元剤は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の還元剤を用いることができる。
還元剤の使用量は、用いる還元剤により異なるが、反応性の観点から、4-メチル-5-ノナノン(3)1molに対して、好ましくは0.25~5.0molである。
【0049】
還元反応には、必要に応じて溶媒を用いてもよい。該溶媒としては、トルエン、キシレン及びヘキサン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン及びジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、ジクロロメタン及びクロロホルム等の極性溶媒;メタノール及びエタノール等のアルコール系溶媒、並びに水等が挙げられる。用いる還元剤に応じて適切な溶媒を選択すればよく、例えば、水素化ホウ素アルカリ金属塩を還元剤として用いる場合においては、エタノール等のアルコール系溶媒もしくはアルコール系溶媒とそれ以外の溶媒との混合溶媒が好ましい。
例えば、アルコール系溶媒と水との混合溶媒における混合比(重量比)は、反応性の観点から、好ましくは40.0:60.0~60.0:40.0である。
溶媒の使用量は、反応性の観点から、4-メチル-5-ノナノン(3)1molに対して、好ましくは40~1000gを用いることができる。
溶媒は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の溶媒を用いることができる。
【0050】
還元反応には、必要に応じて塩基を用いてもよい。該塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸水素カルシウム及び炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩等が挙げられる。取扱いの観点から、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
塩基は、1種類又は2種類以上を使用してもよい。市販の塩基を用いることができる。
なお、塩基が固体である場合においては、固体のまま反応混合物に加えてもよいし、還元反応に用いる溶媒に予め溶かしてもよい。
塩基の使用量は、反応性の観点から、4-メチル-5-ノナノン(3)1molに対して、好ましくは0.00~10.00mol、より好ましくは0.01~8.00mol、である。
還元反応の温度は、反応性の観点から、好ましくは-20~100℃、より好ましくは10~60℃、である。
反応時間は、用いる溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは2~35時間である。
【0051】
4-メチル-5-ノナノール(5)としては、下記式(5-1)で表される(4R,5R)-4-メチル-5-ノナノール、下記式(5-2)で表される(4S,5S)-4-メチル-5-ノナノール、下記式(5-3)で表される(4R,5S)-4-メチル-5-ノナノール、下記式(5-4)で表される(4S,5R)-4-メチル-5-ノナノール、これらのラセミ体、ジアステレオマー混合物及びスカレミック混合物が挙げられる。
【0052】
【化14】
【0053】
以下において、上述の式(5-1)及び式(5-2)の化合物を「syn体」、上述の式(5-3)及び式(5-4)の化合物を「anti体」とも記載する。
【0054】
水素化トリ-sec-ブチルホウ素アルカリ金属塩によりsyn体を選択的に製造することができ、水素化アルミニウムリチウムによりanti体を選択的に製造することができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下において、「純度」は、特に明記しない限り、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた面積百分率を示し、「生成比」はGC分析によって得られた面積百分率での相対比を示す。また「収率」は、GC分析によって得られた面積百分率を基に算出した。
各実施例において、反応のモニタリング及び収率の算出は、次のGC条件Iに従って行った。
<GC条件I>:GC:島津製作所 キャピラリガスクロマトグラフ GC-2014,カラム:DB-5,0.25mmx0.25mmφx30m,キャリアーガス:He(1.55mL/分)、検出器:FID,カラム温度:70℃ 5℃/分昇温 230℃。
また、4-メチル-5-ノナノール(5)のsyn体:anti体の分析は、次のGC条件IIに従って行った。
<GC条件>:GC:島津製作所 キャピラリガスクロマトグラフ GC-2014,カラム:CYCLODEX-B,0.25mmx0.25mmφx30m,キャリアーガス:He(1.55mL/分)、検出器:FID,カラム温度:70℃ 5℃/分昇温 230℃。
【0056】
収率は、原料及び生成物の純度(%GC)を考慮して、以下の式に従い計算した。
収率(%)={[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]
÷[ (反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]}×100
【0057】
実施例1 2-メチルペンタン酸無水物(1)の製造
【0058】
【化15】
【0059】
まず、反応器の1つの口に蒸留塔を接続し、蒸留塔の出口に分留塔を接続した。さらに、分留塔に温度計とコンデンサーを接続した。
室温で、上述の反応器に2-メチルペンタン酸(4)(459.41g、3.955mol)及び無水酢酸(AcO)(817.33g、7.91mol)を加え、分留塔を閉鎖し、常圧下、内温160℃にて30分間撹拌した。次に、分留塔を解放し、常圧下、内温160℃にて酢酸、無水酢酸及び2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物を少なくとも含む留分中の酢酸含有量が5.0%となるまで、酢酸を留出させた。更に、内温160℃にて、64mmHgまで徐々に減圧して無水酢酸を留出させた。無水酢酸、2-メチルペンタノール、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物及び2-メチルペンタン酸無水物を少なくとも含む留分中の無水酢酸含有量が0.5%となった後、3mmHgまで減圧し、2-メチルペンタン酸無水物を留出させた。この時、内温は140℃まで低下した。2-メチルペンタン酸無水物(1)(402.88g、1.88mol)が収率95.2%で得られた。
【0060】
上記で得られた2-メチルペンタン酸無水物(1)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.92(6H,t,J=7.3Hz),1.20(6H,d,J=7.3Hz),1.32-1.49(4H,m),1.40-1.74(4H,m),2.54(2H,tq,J=7.0,7.0Hz);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=13.85,16.22,20.11,35.18,40.26,172.48
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 172(M-42),143,99,71,55,43,29
〔赤外吸収スペクトル〕(NaCl):ν=2961,2937,2876,1813,1746,1460,1038,1018,991
【0061】
実施例2A 4-メチル-5-ノナノン(3)の製造
【0062】
【化16】
【0063】
室温で、反応器にマグネシウム(54.42g、2.27グラム原子)及びテトラヒドロフラン(THF)(639.90g)を加え、60~65℃で30分間撹拌した。撹拌後、該反応器に1-クロロブタン(197.17g、2.13mol)を60~75℃にて滴下し、75~80℃にて2時間撹拌することにより、ブチルマグネシウム=クロライド(2:M=Cl)を調製した。
続いて、別の反応器にテトラヒドロフラン(792.26g)及び2-メチルペンタン酸無水物(1)(456.46g、2.13mol)を加えて、-5~10℃において、上記で得た全量のブチルマグネシウム=クロライド(2:M=Cl)を滴下した。滴下終了後、0~10℃にて3時間撹拌した。次に、反応器内において反応液に酢酸(168.05g)及び水(826.68g)を加えて分液し、水層を除去した。そして、反応器内において、室温下、有機層に25重量%水酸化ナトリウム水溶液(469.26g、水酸化ナトリウムとして2.93mol)及び水(1279.80g)を加えて、17分間撹拌して中和反応を行い、分液することにより有機層と2-メチルペンタン酸ナトリウム(7:Y=Na)を含む水層(2604.29g)を得た。この時、2-メチルペンタン酸ナトリウム(7:Y=Na)を含む水層のpHをpH試験紙により確認したところ14.0であった。次に、得られた有機層に酢酸(6.09g)及び水(304.71g)を加えて有機層を洗浄し、次に分液した。有機層を減圧下濃縮し、残留物を減圧蒸留することにより、4-メチル-5-ノナノン(3)(307.24g、1.96mol、純度99.69%)が収率92.0%で得られた。
【0064】
上記で得られた4-メチル-5-ノナノン(3)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.87(3H,t,J=7.3Hz),0.89(3H,t,J=7.3Hz),1.04(3H,d,J=6.9Hz),1.14-1.66(2H,m),1.24-1.33(4H,m),1.53(2H,tt,J=7.6,7.6Hz),2.41(2H,dt、J=2.7,7.5Hz),2.51(1H,tq,J=6.8,6.8Hz);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=13.87,14.09,16.30,20.46,22.39,25.78,35.16,40.82,46.06,215.11
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 156(M),141,127,99,85,71,57,43,29
〔赤外吸収スペクトル〕(NaCl):ν=2960,2933,2874,1713,1459,1378
【0065】
実施例2B 2-メチル-1-ペンタン酸(4)の回収
【0066】
【化17】
【0067】
実施例2Aで得られた2-メチルペンタン酸ナトリウム(7:Y=Na)を含む水層(2604.29g)を反応器に加え、10~20℃で20重量%塩酸(570.93g、塩化水素として3.13mol)を滴下した。滴下終了後、15~25℃にて1時間撹拌した。静置して、2-メチル-1-ペンタン酸(4)が遊離することにより内容物が有機層と水層に分離した後、分液操作にて水層を除去して、2-メチル-1-ペンタン酸(4)を含む有機層を得た。水層のpHをpH試験紙により確認したところ1.0であった。得られた有機層を減圧下濃縮することにより2-メチル-1-ペンタン酸(4)(179.19g、2.03mol)が収率95.3%で得られた。
【0068】
上記で回収された2-メチル-1-ペンタン酸(4)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.91(3H,t,J=7.3Hz),1.17(3H,d,J=7.3Hz),1.37(2H,tt,J=7.1,7.1Hz),1.36-1.72(1H,m),2.47(1H,tq,J=6.9,6.9Hz),11.66(1H,br.s);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=13.89,16.77,20.30,35.64,39.17,183.77
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 115(M-1),101,87,74,43
〔赤外吸収スペクトル〕(NaCl):ν=2962,2937,2876,2662,1707,1467,1417,1246,1218,935
【0069】
実施例3 回収した2-メチルペンタン酸(4)を用いた2-メチルペンタン酸無水物(1)の製造
【0070】
【化18】
【0071】
まず、反応器の1つの口に蒸留塔を接続し、蒸留塔の出口に分留塔を接続した。さらに、分留塔に温度計とコンデンサーを接続した。
室温で、上述の反応器に実施例2Bにおいて回収した2-メチルペンタン酸(4)(179.19g、2.03mol)及び無水酢酸(AcO)(414.49g、4.06mol)を加え、分留塔を閉鎖し、常圧下、内温160℃にて30分間撹拌した。次に、分留塔を解放し、常圧下、内温160℃にて酢酸、無水酢酸及び2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物を少なくとも含む留分中の酢酸含有量が5.0%となるまで、酢酸を留出させた。更に、内温160℃にて、64mmHgまで徐々に減圧して無水酢酸を留出させた。無水酢酸、2-メチルペンタノール、2-メチルペンタン酸=酢酸=無水物及び2-メチルペンタン酸無水物を少なくとも含む留分中の無水酢酸含有量が0.5%となった後、3mmHgまで減圧し、2-メチルペンタン酸無水物(1)を留出させた。この時、内温は140℃まで低下した。2-メチルペンタン酸無水物(1)(366.45g、1.71mol)が収率84.4%で得られた。
【0072】
上記で得られた2-メチルペンタン酸無水物(1)のスペクトルデータは、実施例1で得られた2-メチルペンタン酸無水物(1)のスペクトルデータと同じであった。
【0073】
実施例4 4-メチル-5-ノナノール(5)の製造
【0074】
【化19】
【0075】
室温下、反応器に水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)(11.77g、0.31mol)、エタノール(97.88g)、25重量%水酸化ナトリウム水溶液(2.92g、水酸化ナトリウムとして0.018mol)及び水(78.77g)を加え、15~25℃にて4-メチル-5-ノナノン(3)(140.00g、純度99.69%、0.89mol)を滴下した。滴下後、30~35℃にて10時間撹拌し、分液することにより有機層を得た。得られた有機層に酢酸(10g)及び水(100g)を添加して再度分液した。引き続き、有機層を減圧下濃縮し、残留物を減圧蒸留することにより、4-メチル-5-ノナノール(5)(138.14g、0.82mol、純度99.75%、syn体:anti体=50:50)が収率97.5%で得られた。
【0076】
上記で得られた4-メチル-5-ノナノール(5)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.86(3H,t,J=6.9Hz),0.89(3H,t,J=6.9Hz),0.90(3H,t,J=7.1),1.04-1.56(12H,m),3.40-3.50(1H,m);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=13.48,14.07,14.30,14.34,15.18,20.39,20.44,22.77,22.79,28.32,28.45,33.01,34.10,34.13,35.58,37.86,38.52,75.15,76.02
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 157(M-1),140,101,87,69,55,41
〔赤外吸収スペクトル〕(NaCl):ν=3363,2958,2931,2873,1467,1379,1012,976