(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 3/00 20060101AFI20221209BHJP
F03G 7/06 20060101ALI20221209BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G05D3/00 C
F03G7/06 E
F03G7/06 F
G05B11/36 507F
(21)【出願番号】P 2019014109
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 貴志
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-133350(JP,A)
【文献】特表2012-506971(JP,A)
【文献】特表2011-506813(JP,A)
【文献】特開2009-13909(JP,A)
【文献】特開2011-95775(JP,A)
【文献】実開昭59-187804(JP,U)
【文献】特開2015-232777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0255184(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00
F03G 7/06
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金の変形に応じて、対象物の対象位置を目標位置に制御するアクチュエータの制御装置であって、
前記対象位置の推定値と、前記対象位置の実測値との差分を取得する取得部と、
前記対象位置を前記目標位置に制御するための目標値に応じたゲインを取得し、前記推定値と前記実測値との差分と、前記ゲインとに基づく補正値を生成するゲイン補正部と、
前記推定値および前記補正値に基づいて前記目標値を生成し、前記目標値に基づいて前記対象位置を制御する制御部と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記対象位置の最小値および最大値に基づいて、前記対象位置の前記推定値を取得する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン補正部は、前記推定値と前記実測値との差分に対応する前記ゲインを前記対象位置ごとに予め取得する
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記形状記憶合金の温度を検出する温度検出部を更に備え、
前記ゲイン補正部は、前記温度検出部が検出した前記形状記憶合金の温度に基づいて、前記ゲインを補正する
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記対象位置に応じた位置コードを設定する位置コード設定部を更に備え、
前記制御部は、前記目標値として予め定められた目標位置コードを生成し、前記目標位置コードに基づいて前記対象位置を制御する
請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記形状記憶合金の抵抗値を前記実測値として検出する抵抗検出部を更に備え、
前記制御部は、前記目標値として予め定められた目標抵抗値を生成し、前記目標抵抗値に基づいて前記対象位置を制御する
請求項1から5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記目標値および前記推定値が入力され、前記目標値および前記推定値のいずれかを選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記目標値又は前記推定値に基づく信号を前記形状記憶合金に出力することにより、前記対象位置を制御する出力部と
を更に備える
請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記選択部は、
前記出力部が前記形状記憶合金を加熱している場合に、前記目標値を選択し、
前記出力部が前記形状記憶合金を冷却している場合に、前記推定値を選択する
請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
形状記憶合金の変形に応じて、対象物の対象位置を制御するアクチュエータの制御方法であって、
前記対象位置の推定値と、前記対象位置の実測値との差分を取得する段階と、
前記対象位置を目標位置に制御するための目標値に応じたゲインを取得し、前記推定値と前記実測値との差分と、前記ゲインとに基づく補正値を生成する段階と、
前記推定値および前記補正値に基づいて前記目標値を生成し、前記目標値に基づいて前記対象位置を制御する段階と
を備える制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形状記憶合金の変形に応じて、対象物の対象位置を制御するアクチュエータが知られている。このようなアクチュエータの制御装置において、熱モデルと逆ヒステリシスモデルとを用いて、形状記憶合金の抵抗値に基づきヒステリシスを補正することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の制御装置は、熱モデルおよび逆ヒステリシスモデルを用いるので、計算をするための複雑な回路が必要になる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、形状記憶合金の変形に応じて、対象物の対象位置を目標位置に制御するアクチュエータの制御装置であって、対象位置の推定値と、対象位置の実測値との差分を取得する取得部と、対象位置を目標位置に制御するための目標値に応じたゲインを取得し、推定値と実測値との差分と、ゲインとに基づく補正値を生成するゲイン補正部と、推定値および補正値に基づいて目標値を生成し、目標値に基づいて対象位置を制御する制御部とを備える制御装置を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、形状記憶合金の変形に応じて、対象物の対象位置を制御するアクチュエータの制御方法であって、対象位置の推定値と、対象位置の実測値との差分を取得する段階と、対象位置を目標位置に制御するための目標値に応じたゲインを取得し、推定値と実測値との差分と、ゲインとに基づく補正値を生成する段階と、推定値および補正値に基づいて目標値を生成し、目標値に基づいて対象位置を制御する段階とを備える制御方法を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】実施例1に係る制御システム300の構成の一例を示す。
【
図4】フィードバック部230のより具体的な構成の一例を示す。
【
図5】対象位置Poのヒステリシスを説明するための図である。
【
図6A】電流情報とワイヤー部20の抵抗値Rとの関係を示すグラフである。
【
図6B】対象位置Poと抵抗値Rとの関係を示すグラフである。
【
図7】比較例1に係る制御装置500の構成の一例を示す。
【
図8】実施例1に係るフィードバック部230のより具体的な構成の一例を示す。
【
図10】実施例2に係る制御システム300の構成の一例を示す。
【
図11A】実測値MVの変化量ΔMVのグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
[実施例1]
図1は、アクチュエータ100の構成の一例を示す。本例のアクチュエータ100は、レンズ部10、ワイヤー部20およびスプリング部30を備える。本例のアクチュエータ100は、形状記憶合金(SMA:SHAPE MEMORY ALLOY)の変形により駆動するSMAアクチュエータである。アクチュエータ100は、ワイヤー部20の変形に応じて、レンズ部10の対象位置Poを目標位置Ptに制御する。
【0010】
レンズ部10は、撮像装置に設けられ、撮像装置に入射する光を屈折させる。本例のレンズ部10は、予め定められた方向に駆動する。例えば、アクチュエータ100が撮像装置に搭載される場合、レンズ部10が駆動することにより、撮像装置のピントを調整する。即ち、レンズ部10は、アクチュエータ100が駆動を制御する対象物の一例である。
【0011】
ワイヤー部20は、形状記憶合金で形成される。ワイヤー部20は、形状記憶合金の加熱又は冷却により変形する。一例において、ワイヤー部20は、形状記憶合金の加熱により収縮し、形状記憶合金の冷却により延伸する。ワイヤー部20の加熱および冷却は、ワイヤー部20に流れる電流を制御することにより実現されてよい。例えば、ワイヤー部20は、NiTiで形成され、結晶構造がマルテンサイトとオーステナイトとの間で変化することによって収縮又は延伸する。
【0012】
ここで、ワイヤー部20の収縮および延伸は、ワイヤー部20の抵抗値Rの検出により検出される。理想的には、ワイヤー部20の長さは、ワイヤー部20の抵抗値Rに比例するので、ワイヤー部20の抵抗値Rを検出すれば、ワイヤー部20の長さが分かる。しかしながら、形状記憶合金の加熱と冷却とで、ワイヤー部20の組成比が均一に変化せず、ヒステリシスが生じる場合がある。この場合、ワイヤー部20の抵抗値Rを検出しても、ワイヤー部20を加熱するか冷却するかによって、ワイヤー部20の抵抗値Rと実際のワイヤー部20の長さにずれが生じる。
【0013】
スプリング部30は、ワイヤー部20の収縮および延伸に応じて、レンズ部10を駆動させる。本例のスプリング部30は、ワイヤー部20の一端と接続して設けられている。例えば、スプリング部30は、ワイヤー部20が収縮した場合にレンズ部10を上方に駆動させ、ワイヤー部20が延伸した場合にレンズ部10を下方に駆動させる。
【0014】
なお、本例では、アクチュエータ100を駆動することにより、撮像装置に設けられたレンズ部10を調整する場合について説明した。即ち、対象物をレンズ部10として説明した。しかしながら、アクチュエータ100は、形状記憶合金により駆動が制御されるものであれば、他の用途に適用されてよい。
【0015】
図2は、実施例1に係る制御システム300の構成の一例を示す。本例の制御システム300は、アクチュエータ100、抵抗検出部110および制御装置200を備える。
【0016】
抵抗検出部110は、アクチュエータ100が有するワイヤー部20の抵抗を検出する。即ち、抵抗検出部110は、ワイヤー部20の抵抗の実測値MVとして検出する。一例において、実測値MVは、ワイヤー部20の抵抗値Rに関する測定値である。抵抗値Rに関する測定値とは、例えば、ワイヤー部20における電圧値や電流値の変化量である。ワイヤー部20における電圧値や電流値の変化量を実測することにより、ワイヤー部20の抵抗値Rが算出される。抵抗検出部110は、取得した実測値MVを制御装置200に出力する。
【0017】
制御装置200は、アクチュエータ100の駆動を制御する。本例の制御装置200は、レンズ部10の対象位置Poを制御するための出力信号Soutを生成する。対象位置Poとは、対象物であるレンズ部10の位置を指す。制御装置200は、生成した出力信号Soutをアクチュエータ100に与える。出力信号Soutは、一例において、ワイヤー部20を変形させるための電流である。なお、制御装置200は、抵抗検出部110を内部に備えてもよい。
【0018】
図3は、制御システム300の構成の一例を示す。本例の制御装置200は、位置コード設定部210、ヒステリシス補正部220、フィードバック部230および出力部240を備える。
【0019】
位置コード設定部210は、対象位置Poに対応する位置コードPCを設定する。制御装置200は、位置コードPCに応じて、アクチュエータ100の駆動を制御する。即ち、制御装置200は、位置コードPCに応じた目標位置Ptにレンズ部10が移動するように、アクチュエータ100を制御する。位置コード設定部210は、生成した位置コードPCをヒステリシス補正部220に出力する。
【0020】
ヒステリシス補正部220は、ワイヤー部20のヒステリシスを補正する。ヒステリシス補正部220には、位置コードPCおよび後述のフィードバック信号FBが入力される。本例のヒステリシス補正部220は、フィードバック信号FBに応じて、ワイヤー部20のヒステリシスを補正する。例えば、ヒステリシス補正部220は、ワイヤー部20のヒステリシスを補正するために、位置コードPCを位置コードPC'に補正する。ヒステリシス補正部220は、補正した位置コードPC'をフィードバック部230に出力する。
【0021】
フィードバック部230は、ヒステリシス補正部220から入力された位置コードPC'に基づいて、ワイヤー部20を駆動させるための出力信号S1/S2を生成する。フィードバック部230には、位置コードPC'およびワイヤー部20の抵抗の実測値MVが入力される。本例のフィードバック部230は、入力された位置コードPC'に基づいて、ヒステリシス補正部220にフィードバックするためのフィードバック信号FBを生成する。フィードバック部230は、生成したフィードバック信号FBをヒステリシス補正部220に出力する。また、本例のフィードバック部230は、位置コードPC'およびワイヤー部20の抵抗の実測値MVに基づいて、第1出力信号S1および第2出力信号S2を生成する。フィードバック部230は、生成した第1出力信号S1および第2出力信号S2のいずれかを出力部240に出力する。
【0022】
第1出力信号S1は、ヒステリシスを補正するための出力信号である。第1出力信号S1は、ヒステリシス補正後の目標となる目標値Tの一例である。一方、第2出力信号S2は、フィードバック部230によりヒステリシス補正されていない出力信号である。第2出力信号S2は、ヒステリシス補正されない推定値Eの一例である。フィードバック部230は、第1出力信号S1および第2出力信号S2のいずれかを選択的に出力することにより、ヒステリシス補正するか否かを選択する。
【0023】
出力部240は、フィードバック部230からの第1出力信号S1又は第2出力信号S2に基づいて、アクチュエータ100を制御するための出力信号Soutを生成する。出力部240は、生成した出力信号Soutをアクチュエータ100に出力する。一例において、出力部240は、出力信号Soutとして、ワイヤー部20を加熱するための電流をワイヤー部20に与える。例えば、出力部240は、フィードバック部230が第1出力信号S1を選択した場合に、第1出力信号S1に応じた電流をワイヤー部20に与えて加熱する。一方、出力部240は、フィードバック部230が第2出力信号S2を選択した場合に、ワイヤー部20に電流を与えずにワイヤー部20を冷却してよい。
【0024】
図4は、フィードバック部230のより具体的な構成の一例を示す。本例のフィードバック部230は、取得部232、ゲイン補正部234、制御部236および選択部238を備える。
【0025】
取得部232は、積分非直線性INL(Integral Non-Linearity)を取得する。積分非直線性INLは、対象位置Poの推定値Eと、対象位置Poの実測値MVとの差分である。取得部232には、位置コードPC'および実測値MVが入力される。取得部232は、取得した積分非直線性INLをゲイン補正部234に出力する。一例において、取得部232は、入力された位置コードPC'および実測値MVを規格化する。取得部232は、規格化した位置コードPC'および実測値MVの差分を取ることにより、積分非直線性INLを取得する。
【0026】
また、取得部232は、入力された位置コードPC'および実測値MVに基づいて、第2出力信号S2を生成する。取得部232は、生成した第2出力信号S2を制御部236および選択部238に出力する。例えば、第2出力信号S2は、ワイヤー部20が冷却される場合、ゲイン補正部234においてゲイン補正されない。これにより、ワイヤー部20の冷却時の計算量が低減される。
【0027】
ゲイン補正部234は、積分非直線性INLを予め定められたゲインαでゲイン補正する。ゲイン補正部234は、対象位置Poを目標位置Ptに制御するための目標値Tに応じたゲインαを有する。一例において、ゲイン補正部234は、積分非直線性INLに基づいてゲインαを生成する。ゲイン補正部234は、生成したゲインαを用いて補正値CVを生成する。例えば、ゲイン補正部234は、積分非直線性INLおよびゲインαに基づく補正値CVを生成する。ゲイン補正部234は、生成した補正値CVを制御部236に出力する。
【0028】
制御部236は、補正値CVおよび第2出力信号S2に基づいて、第1出力信号S1を生成する。即ち、制御部236は、第2出力信号S2を補正値CVでヒステリシス補正することにより、第1出力信号S1を生成する。制御部236は、推定値Eおよび補正値CVに基づいて目標値Tを生成する。制御部236は、生成した目標値Tに基づいて対象位置Poを制御する。ここで、本例の推定値Eは、第2出力信号S2に対応する。また、第2出力信号S2は、規格化した位置コードPC'であってよい。例えば、第1出力信号S1は、ワイヤー部20の加熱時に用いられる出力信号である。これにより、制御部236は、ワイヤー部20が加熱され、レンズ部10が予め定められた目標位置Ptに移動するように制御する。第1出力信号S1は、ワイヤー部20の温度が上昇するように制御されている。
【0029】
なお、制御部236は、ヒステリシス補正する対象として任意のパラメータを選択してよい。一例において、制御部236は、目標値Tとして位置コードPC'およびワイヤー部20の抵抗値Rのいずれかを選択する。例えば、制御部236は、目標値Tとして予め定められた目標位置コードを生成する。この場合、制御部236は、位置コードPCをヒステリシスに応じて補正し、補正後の位置コードPC'を目標位置コードとして用いることにより、対象位置Poを最適に制御する。また、制御部236は、目標値Tとして予め定められた目標抵抗値Rtを生成してよい。この場合、制御部236は、ワイヤー部20の抵抗値Rをヒステリシスに応じて補正し、補正後の抵抗値Rを目標抵抗値Rtとして用いることにより、対象位置Poを最適に制御する。
【0030】
選択部238は、目標値Tおよび推定値Eが入力され、目標値Tおよび推定値Eのいずれかを選択する。即ち、本例において、目標値Tは、ヒステリシス補正された第1出力信号S1であり、推定値Eは、ヒステリシス補正されていない第2出力信号S2である。選択部238は、第1出力信号S1および第2出力信号S2のいずれかを選択する。本例の選択部238は、入力された選択信号Sselに応じて、第1出力信号S1および第2出力信号S2のいずれかを選択する。選択信号Sselは、出力部240が出力する信号に応じて変更されてよい。
【0031】
また、選択部238は、ヒステリシス補正が必要か否かに応じて出力する信号を変更する。即ち、選択部238は、ヒステリシス補正が必要な場合に目標値Tを選択し、ヒステリシス補正が不要な場合に推定値Eを選択する。これにより、計算が簡略化される。例えば、ワイヤー部20を加熱している場合にヒステリシス補正が必要であり、ワイヤー部20を冷却している場合にヒステリシス補正が不要な場合を考える。この場合、選択部238は、出力部240がワイヤー部20を加熱している場合に、目標値Tを選択する。一方、選択部238は、出力部240がワイヤー部20を冷却している場合に、推定値Eを選択する。より具体的には、選択信号Sselは、出力部240がワイヤー部20を加熱している場合に第1出力信号S1を選択する信号であり、出力部240がワイヤー部20を冷却している場合に第2出力信号S2を選択する信号である。選択部238は、選択した第1出力信号S1又は第2出力信号S2を出力部240に出力する。
【0032】
出力部240は、選択部238が選択した目標値T又は推定値Eに基づく信号をワイヤー部20に出力する。これにより、出力部240は、レンズ部10の対象位置Poを制御する。
【0033】
以上の通り、フィードバック部230は、ゲインαを用いて、積分非直線性INLを補正することにより、レンズ部10の対象位置Poを制御する。即ち、本例のフィードバック部230は、熱モデルと逆ヒステリシスモデルとを用いた複雑な計算をする必要がないので、回路構成を簡略化できる。
【0034】
図5は、対象位置Poのヒステリシスを説明するための図である。縦軸はレンズ部10の対象位置Poを示し、横軸はワイヤー部20の抵抗値Rを示す。実線は、ワイヤー部20を加熱する場合を示す。破線は、ワイヤー部20を冷却する場合を示す。抵抗値Rが大きくなるに従い対象位置Poが小さくなっている。なお、本明細書において、対象位置Poが小さくなる場合とはワイヤー部20が収縮する場合を指し、対象位置Poが大きくなる場合とはワイヤー部20が延伸する場合を指す。
【0035】
点Mは、ワイヤー部20が最も収縮する点である。言い換えると、点Mは、ワイヤー部20の抵抗値Rが大きく、且つ、対象位置Poが小さい位置を示している。即ち、ワイヤー部20がNiTiで形成される場合、比較的温度が低く、ワイヤー部20の結晶構造がマルテンサイトとなる点である。
【0036】
点Aは、ワイヤー部20が最も延伸する点である。言い換えると、点Aは、ワイヤー部20の抵抗値Rが小さく、且つ、対象位置Poが大きい位置を示している。即ち、ワイヤー部20がNiTiで形成される場合、比較的温度が高く、ワイヤー部20の結晶構造がオーステナイトとなる点である。
【0037】
ここで、ワイヤー部20の収縮により対象位置Poが小さくなる場合、ワイヤー部20の抵抗値Rが小さくなる。一方、ワイヤー部20の延伸により対象位置Poが大きくなる場合、ワイヤー部20の抵抗値Rが大きくなる。ワイヤー部20の組成比が均一で理想的な場合、ワイヤー部20の抵抗値Rと対象位置Poとは比例する。しかしながら、ワイヤー部20を加熱する場合と、ワイヤー部20を冷却する場合とでワイヤー部20の組成比が均一に変化せず、ヒステリシスが生じる場合がある。この場合、ワイヤー部20の抵抗値Rが同じ場合であっても、ワイヤー部20を加熱しているか冷却しているかによって、ワイヤー部20の長さが異なる。したがって、ワイヤー部20の抵抗値Rを検出しても、レンズ部10の対象位置Poが正確に算出されない。
【0038】
図6Aは、電流情報とワイヤー部20の抵抗値Rとの関係を示すグラフである。縦軸は電流情報を示し、横軸はワイヤー部20の抵抗値Rを示す。本例では、加熱によりワイヤー部20の抵抗値Rが減少する。実線は、ワイヤー部20からの電流情報の実測値MVを示す。破線は、ワイヤー部20からの電流情報の推定値Eを示す。
【0039】
推定値Eは、点Aと点Mとを結ぶ直線で示される。即ち、推定値Eは、ワイヤー部20の抵抗値Rがワイヤー部20の電流情報に比例する理想的な場合を示す。例えば、取得部232は、対象位置Poの最小値Mおよび最大値Aに基づいて、対象位置Poの推定値Eを取得する。取得部232は、抵抗値Rおよび電流情報の関数として直線で推定値Eを示す。これにより、ゲイン補正部234は、推定値Eと実測値MVとの差分に対応するゲインαを対象位置Poごとに予め取得できる。
【0040】
一方、実測値MVは、ワイヤー部20の抵抗値Rに基づいて、レンズ部10の対象位置Poを制御した場合に、実際にワイヤー部20に流れる電流である。実測値MVを示す実線は、推定値Eの直線からゆがむ。即ち、ワイヤー部20の組成が理想的に変化しておらず、抵抗値Rの変化に電流情報が比例しない。本例の制御装置200は、対象位置Poの推定値Eと、対象位置Poの実測値MVとの差分である積分非直線性INLを算出する。制御装置200は、ゲインαで積分非直線性INLをヒステリシス補正することにより、推定値Eからの実測値MVのずれを補正する。
【0041】
図6Bは、対象位置Poと抵抗値Rとの関係を示すグラフである。縦軸はレンズ部10の対象位置Poを示し、横軸はワイヤー部20の抵抗値Rを示す。実線は、ワイヤー部20を加熱する場合を示す。破線は、ワイヤー部20を冷却する場合を示す。本例の制御装置200は、ワイヤー部20の加熱時にのみ、推定値Eからのずれを補正している。
【0042】
対象位置Poは、ワイヤー部20が加熱される場合と、冷却される場合との両方で、抵抗値Rと比例している。即ち、ワイヤー部20のヒステリシスが補正されていることが分かる。本例では、ワイヤー部20を冷却する場合にヒステリシスが補正されていないが、加熱の場合と同様にヒステリシスが補正されてもよい。
【0043】
図7は、比較例1に係る制御装置500の構成の一例を示す。本例の制御装置500は、熱モデル510、抵抗検出部520、逆ヒステリシスモデル530、PID540およびドライバ550を備える。本例の制御装置500は、入力された位置コードPCと抵抗検出部520が検出した抵抗値Rを熱モデル510に入力する。そして、熱モデル510を逆ヒステリシスモデル530に入力し、逆ヒステリシスモデル530を計算することによりヒステリシスを補正する。そして、制御装置500は、PID540およびドライバ550を経由してアクチュエータを制御する。ここで、熱モデル510と逆ヒステリシスモデル530の計算には、多大な複雑な計算が必要になる。計算には大量のメモリが必要となり、制御装置500の回路構成が膨大となるので計算コストが高くなる。また、制御装置500は、モデル係数を個体ごとにチューニングする必要がある。そして、制御装置500は、計算量が多いので、高速制御に向かない。
【0044】
図8は、実施例1に係るフィードバック部230のより具体的な構成の一例を示す。本例のフィードバック部230は、規格化部231、減算部233、ゲイン補正部234、制御部236および選択部238を備える。
【0045】
規格化部231は、入力された実測値MVおよび位置コードPC'をそれぞれ規格化する。規格化部231は、実測値MVおよび位置コードPC'をそれぞれ規格化することにより、後段の減算部233において、実測値MVおよび位置コードPC'を減算できる状態にする。
【0046】
減算部233は、規格化された実測値MVから位置コードPC'を減算する。これにより、実測値MVと位置コードPC'との差分が算出される。言い換えると、減算部233は、実測値MVと位置コードPC'との差分を算出することにより、実測値MVの積分非直線性INLを算出する。
【0047】
ゲイン補正部234は、積分非直線性INLを予め定められたゲインαで補正した補正値CVを生成する。例えば、ゲイン補正部234は、積分非直線性INLが大きい程、ゲインαが大きくなるように、ゲインαの大きさを制御する。ゲイン補正部234は、予めワイヤー部20の組成の変化を取得して必要な補正値CVを算出しておくことにより、ゲインαの値を算出しておいてよい。ゲイン補正部234は、生成した補正値CVを制御部236に出力する。
【0048】
制御部236は、規格化部231から出力された第2出力信号S2から、ゲイン補正部234で生成された補正値CVを減算して第1出力信号S1を生成する。即ち、制御部236は、推定値Eから補正値CVを減算することにより、ヒステリシス補正された第1出力信号S1を生成する。制御部236は、第1出力信号S1を選択部238に出力する。
【0049】
選択部238には、第1出力信号S1又は第2出力信号S2を選択するための選択信号Sselが入力される。選択信号Sselは、ワイヤー部20を加熱している場合に、選択部238に第1出力信号S1を選択させる。一方、選択信号Sselは、ワイヤー部20を冷却している場合に、選択部238に第2出力信号S2を選択させる。
【0050】
ここで、フィードバック部230は、リアルタイムで第1出力信号S1および第2出力信号S2を更新して出力してよい。そして、制御装置200は、ヒステリシスをリアルタイムに補正する。
【0051】
例えば、位置コードPC'が"200"の状態において、位置コードPC'が"300"に対応する位置にレンズ部10を制御する場合を考える。この場合、位置コードPC'が300の場合に対応するワイヤー部20の抵抗値Rは、推定値よりも実際には小さくなる場合がある。この場合、制御装置200は、ヒステリシス補正することにより、位置コードPC'又は抵抗値Rが推定値となる前にワイヤー部20の位置制御を終了する。これにより、制御装置200は、ワイヤー部20のヒステリシスを考慮した位置にレンズ部10を制御できる。このように、ヒステリシス補正によって、制御装置200の位置精度が向上する。更に、本例の制御装置200は、デジタル実装が非常に容易である。そのため、制御装置200は、IC面積の増大を抑制できる。
【0052】
図9は、積分非直線性INLの一例を示す。縦軸はワイヤー部20に流れる電流Isma[a.u.]を示し、横軸は位置コードPC'[LSB]を示す。実線は、ワイヤー部20が加熱されている場合を示す。破線は、ワイヤー部20が冷却されている場合を示す。積分非直線性INLは、位置コードPC'ごとに異なる値を有している。そのため、制御装置200は、位置コードPC'ごとに積分非直線性INLに応じたゲインαでヒステリシス補正する必要がある。
【0053】
[実施例2]
図10は、実施例2に係る制御システム300の構成の一例を示す。本例の制御システム300は、温度検出部120を更に備える点で実施例1に係る制御システム300と異なる。本例では、実施例1の制御システム300と相違する点について特に説明する。
【0054】
温度検出部120は、アクチュエータ100の温度を検出する。一例において、温度検出部120は、ワイヤー部20の温度を検出する。但し、温度検出部120は、ワイヤー部20の温度特性に依存するものであれば、ワイヤー部20以外の温度を検出してもよい。温度検出部120は、検出した温度の実測値MTを制御装置200に出力する。
【0055】
制御装置200は、温度検出部120が検出した温度の実測値MTに基づいて、アクチュエータ100の駆動を制御する。一例において、ゲイン補正部234は、実測値MTに基づいて、ゲインαを補正する。これにより、制御装置200は、アクチュエータ100の温度特性を考慮して、アクチュエータ100をより精度良く制御できる。なお、レンジ調整のためのキャリブレーション部が、抵抗検出部110、温度検出部120および制御装置200の少なくとも1つに備えられてよい。
【0056】
図11Aは、実測値MVの変化量ΔMVのグラフを示す。
図11Bは、実測値MVNEGのグラフを示す。縦軸はワイヤー部20に流れる電流Isma[%,最大電流に対する割合]を示し、横軸は位置コードPC'[LSB]を示す。実線は、ワイヤー部20が加熱されている場合を示す。破線は、ワイヤー部20が冷却されている場合を示す。実測値MVの変化量ΔMVは、実測値MVの最大値と最小値の変化量を示す。実測値MVNEGは、実測値MVの最小値を示す。
【0057】
本補正で用いたパラメータ、例えばΔMVやMVNEG、α等に関しての温度特性を事前に取得しておくことにより、その効果も補正することで、ヒステリシス補正の精度を向上させることができる。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0059】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0060】
10・・・レンズ部、20・・・ワイヤー部、30・・・スプリング部、100・・・アクチュエータ、110・・・抵抗検出部、120・・・温度検出部、200・・・制御装置、210・・・位置コード設定部、220・・・ヒステリシス補正部、230・・・フィードバック部、231・・・規格化部、232・・・取得部、233・・・減算部、234・・・ゲイン補正部、236・・・制御部、238・・・選択部、240・・・出力部、300・・・制御システム、500・・・制御装置、510・・・熱モデル、520・・・抵抗検出部、530・・・逆ヒステリシスモデル、540・・・PID、550・・・ドライバ