(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20221209BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20221209BHJP
H05H 1/46 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/90 P
H05H1/46 M
(21)【出願番号】P 2019037737
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】新関 智彦
(72)【発明者】
【氏名】木原 嘉英
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-043246(JP,A)
【文献】特開2018-195846(JP,A)
【文献】特開2013-229351(JP,A)
【文献】特開2014-175521(JP,A)
【文献】特開2009-267250(JP,A)
【文献】米国特許第06969685(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/768
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理する基板処理方法であって、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
前記基板を予め定められた温度以下に冷却する工程と、
ハロゲンを含有するガスにカルボニル結合を有するガスを添加した混合ガスより生成されるプラズマによって、前記マスクの開口部を通じて前記被エッチング膜をエッチングする工程と、
を有
し、
前記予め定められた温度は、前記被エッチング膜をエッチングする工程における圧力設定値に対する前記遷移金属の一酸化炭素錯体の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度である、基板処理方法。
【請求項2】
前記カルボニル結合を有するガスは、CO、CO
2、COS、COF、COF
2、アセトン(CH
3COCH
3)、メタンエタンケトン(CH
3COC
2H
5)、及び酢酸のうちの少なくとも一つである、
請求項
1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記遷移金属は、タングステン、ニッケル、又はクロムである、
請求項1
又は2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記ハロゲンを含有するガスは、水素を含む、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記混合ガスの総流量に対して、前記カルボニル結合を有するガスの添加する割合を増減することによって、前記マスクの開口部の側壁に付着する遷移金属からなる反応生成物の付着量を制御する、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
基板を処理する基板処理方法であって、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をトリートメントする工程と、
ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をエッチングする工程と、
を有し、
前記基板をトリートメントする工程と前記基板をエッチングする工程とは、予め定められた回数交互に実行される、基板処理方法。
【請求項7】
基板を処理する基板処理方法であって、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をトリートメントする工程と、
ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をエッチングする工程と、
を有し、
前記基板をトリートメントする工程と前記基板をエッチングする工程を実行する前に、前記基板を予め定められた温度以下に冷却する工程を有し、
前記予め定められた温度は、前記基板をトリートメントする工程における圧力設定値に対する前記遷移金属の一酸化炭素錯体の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度である、基板処理方法。
【請求項8】
基板を処理する基板処理方法であって、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をトリートメントする工程と、
ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をエッチングする工程と、
を有
し、
前記基板をトリートメントする工程は、前記基板が載置された載置台に、プラズマ生成用の高周波電力を印加し、
前記基板をエッチングする工程は、前記載置台にプラズマ生成用の高周波電力とイオン引き込み用の高周波電力とを印加する、基板処理方法。
【請求項9】
前記基板をトリートメントする工程と前記基板をエッチングする工程を実行する前に、前記基板を予め定められた温度以下に冷却する工程を有する、
請求項6又は8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記基板をエッチングする工程は、前記マスクの開口部を通じて前記被エッチング膜をエッチングする、
請求項
6~9のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記基板をトリートメントする工程は、前記基板をエッチングする工程において生成された反応生成物に含まれる前記遷移金属又は前記マスクに含まれる前記遷移金属の少なくとも一方の表面を前記遷移金属の一酸化炭素錯体にカルボニル化する、
請求項
6~10のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記カルボニル結合を有するガスは、CO、CO
2、COS、COF、COF
2、アセトン(CH
3COCH
3)、メタンエタンケトン(CH
3COC
2H
5)、及び酢酸のうちの少なくとも一つである、
請求項
6~11のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記遷移金属は、タングステン、ニッケル、又はクロムである、
請求項
6~12のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記ハロゲンを含有するガスは、水素を含む、
請求項
6~13のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記基板をエッチングする工程の間、シリコンを含む反応生成物が発生される、
請求項
6~14のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
基板処理装置であって、
ガス導入口及び排気口を備える処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、基板を載置するように構成されている載置台と、
前記基板の処理を制御する制御部と、を備え、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
前記制御部は、
カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をトリートメントする工程と、
ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をエッチングする工程と、
を制御
し、
前記基板をトリートメントする工程と前記基板をエッチングする工程とは、予め定められた回数交互に実行する、基板処理装置。
【請求項17】
基板処理装置であって、
ガス導入口及び排気口を備える処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、基板を載置するように構成されている載置台と、
前記基板の処理を制御する制御部と、を備え、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
前記制御部は、
前記基板を予め定められた温度以下に冷却する工程と、
ハロゲンを含有するガスにカルボニル結合を有するガスを添加した混合ガスより生成されるプラズマによって、前記マスクの開口部を通じて前記被エッチング膜をエッチングする工程と、
を制御し、
前記予め定められた温度は、前記被エッチング膜をエッチングする工程における圧力設定値に対する前記遷移金属の一酸化炭素錯体の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度である、基板処理装置。
【請求項18】
基板処理装置であって、
ガス導入口及び排気口を備える処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、基板を載置するように構成されている載置台と、
前記基板の処理を制御する制御部と、を備え、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
前記制御部は、
カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をトリートメントする工程と、
ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をエッチングする工程と、
を制御し、
前記基板をトリートメントする工程は、前記基板が載置された載置台に、プラズマ生成用の高周波電力を印加し、
前記基板をエッチングする工程は、前記載置台にプラズマ生成用の高周波電力とイオン引き込み用の高周波電力とを印加する、基板処理装置。
【請求項19】
基板処理装置であって、
ガス導入口及び排気口を備える処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、基板を載置するように構成されている載置台と、
前記基板の処理を制御する制御部と、を備え、
前記基板は、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有し、
前記制御部は、
カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をトリートメントする工程と、
ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、前記基板をエッチングする工程と、
を制御し、
前記基板をトリートメントする工程と前記基板をエッチングする工程を実行する前に、前記基板を予め定められた温度以下に冷却する工程を制御し、
前記予め定められた温度は、前記基板をトリートメントする工程における圧力設定値に対する前記遷移金属の一酸化炭素錯体の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度である、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、プラズマ生成用の高周波電力により水素含有ガス及びフッ素含有ガスからプラズマを生成し、-30℃以下の極低温環境において生成したプラズマによりシリコン酸化膜及び窒化シリコン膜のエッチング対象膜をエッチングする方法を提案する。これにより、高エッチングレート及び高選択比を実現する。
【0003】
特許文献2は、シリコン酸化膜及び当該シリコン酸化膜上に設けられたマスクを有する被処理体を処理ガスのプラズマに晒して、シリコン酸化膜をエッチングし、シリコン酸化膜のエッチングにより得られる形状のボーイングを低減させる方法を提案する。特許文献2において、マスクは、金属を含有する膜を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-207840号公報
【文献】特開2015-041624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、遷移金属のマスクの残渣に基づくネッキングを改善することが可能な基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有する基板を処理する基板処理方法であって、ハロゲンを含有するガスにカルボニル結合を有するガスを添加した混合ガスより生成されるプラズマによって、前記マスクの開口部を通じて前記被エッチング膜をエッチングする工程、を有する基板処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一の側面によれば、遷移金属のマスクの残渣に基づくネッキングを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る基板処理装置の一例を示す断面模式図。
【
図3】一実施形態に係るCOガス添加の結果の一例を示す図。
【
図4】COガス添加の有無とエッチングのシフト量を比較した図。
【
図5】一実施形態に係るトリートメント工程時の各種ガス添加の結果の一例を示す図。
【
図6】タングステンの一酸化炭素錯体の蒸気圧曲線を示す図。
【
図7】一実施形態に係る基板処理方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
[基板処理装置]
一実施形態に係る基板処理装置1について、
図1を用いて説明する。
図1は、一実施形態に係る基板処理装置1の一例を示す断面模式図である。一実施形態にかかる基板処理装置1は、処理容器10内に載置台11とシャワーヘッド20とを対向配置した平行平板型のプラズマ処理装置である。
【0011】
載置台11は、ウェハWを保持する機能を有するとともに下部電極として機能する。シャワーヘッド20は、ガスを処理容器10内にシャワー状に供給する機能を有するとともに上部電極として機能する。
【0012】
処理容器10は、例えば表面がアルマイト処理(陽極酸化処理)されたアルミニウムからなり、円筒形である。処理容器10は、電気的に接地されている。載置台11は、処理容器10の底部に設置され、ウェハWを載置する。
【0013】
載置台11は、たとえばアルミニウム(Al)やチタン(Ti)、炭化ケイ素(SiC)等から形成されている。載置台11は、静電チャック12及び基台13を有する。静電チャック12は、基台13の上に設けられる。静電チャック12は、絶縁体12bの間にチャック電極12aを挟み込んだ構造になっている。チャック電極12aには電源14が接続されている。静電チャック12は、電源14からチャック電極12aに電流が供給されることで発生するクーロン力によってウェハWを静電チャック12に吸着する。
【0014】
基台13は、静電チャック12を支持する。基台13の内部には、冷媒流路13aが形成されている。冷媒流路13aには、冷媒入口配管13b及び冷媒出口配管13cが連結されている。チラーユニット15からは所定温度の冷却媒体(熱媒体)が出力され、冷却媒体は、冷媒入口配管13b、冷媒流路13a及び冷媒出口配管13cを循環する。これにより、載置台11が冷却され、ウェハWが所定温度に制御される。
【0015】
伝熱ガス供給源17は、ヘリウムガス等の伝熱ガスをガス供給ライン16に通して静電チャック12の表面とウェハWの裏面との間に供給する。これにより、静電チャック12とウェハWとの間の伝熱効率を高め、ウェハWの温度制御性を高める。
【0016】
載置台11には、第1周波数の、プラズマ生成用の高周波パワー(以下、「HFパワー」ともいう。)を供給する第1高周波電源30と、第1周波数よりも低い第2周波数の、イオン引き込み用の高周波パワー(以下、「LFパワー」ともいう。)を供給する第2高周波電源31とを有する。第1高周波電源30は、第1整合器30aを介して載置台11に電気的に接続される。第2高周波電源31は、第2整合器31aを介して載置台11に電気的に接続される。第1高周波電源30は、例えば、40MHzのプラズマ生成用の高周波パワーを載置台11に印加する。第2高周波電源31は、例えば、400kHzのイオン引き込み用の高周波パワーを載置台11に印加する。なお、第1高周波電源30は、プラズマ生成用の高周波パワーを載置台11に印加する替わりにシャワーヘッド20に印加してもよい。
【0017】
第1整合器30aは、第1高周波電源30の出力(内部)インピーダンスに載置台11側の負荷インピーダンスを整合させる。第2整合器31aは、第2高周波電源31の出力(内部)インピーダンスに載置台11側の負荷インピーダンスを整合させる。
【0018】
シャワーヘッド20は、周縁部を被覆する絶縁体のシールドリング22を介して処理容器10の天井部の開口を閉塞する。シャワーヘッド20には、ガスを導入するガス導入口21が形成されている。シャワーヘッド20の内部にはガス導入口21に繋がる拡散室23が設けられている。ガス供給源25から出力された処理ガスは、ガス導入口21を介して拡散室23に供給され、多数のガス供給孔24から処理容器10の内部に導入される。
【0019】
処理容器10の底面には排気口18が形成されており、排気口18には排気装置19が接続されている。排気装置19は、処理容器10内を排気し、これにより、処理容器10内が所定の真空度に制御される。処理容器10の側壁には搬送口26を開閉するゲートバルブ27が設けられている。ゲートバルブ27の開閉に応じて搬送口26から処理容器10内にウェハWを搬入したり、処理容器10外へウェハWを搬出したりする。
【0020】
基板処理装置1には、装置全体の動作を制御する制御部40が設けられている。制御部40は、CPU41、ROM42及びRAM43を有する。CPU41は、ROM42及びRAM43の記憶領域に格納された各種レシピに従ってウェハWの冷却工程、トリートメント工程及びエッチング工程を実行する。レシピにはプロセス条件に対する装置の制御情報であるプロセス時間、圧力(ガスの排気)、高周波電力や電圧、各種ガス流量、処理容器内温度(静電チャック温度等)、チラーユニット15から供給される冷却媒体の温度等が記載されている。なお、これらのプログラムや処理条件を示すレシピは、ハードディスクや半導体メモリに記憶されてもよい。また、レシピは、CD-ROM、DVD等の可搬性のコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体に収容された状態で記憶領域の所定位置にセットするようにしてもよい。
【0021】
基板処理が行われる際には、ゲートバルブ27の開閉が制御され、搬送口26から図示しない搬送アームによりウェハWが処理容器10内に搬入され、載置台11に載置され、静電チャック12に吸着される。
【0022】
次いで、シャワーヘッド20から処理ガスが処理容器10内に供給され、プラズマ生成用のHFパワーが載置台11に印加され、プラズマが生成される。生成されたプラズマによりウェハWにトリートメント処理及びエッチング処理が施される。エッチング処理には、HFパワーとともにイオン引き込み用のLFパワーが載置台11に印加されてもよい。
【0023】
処理後、除電処理によりウェハWの電荷が除電され、ウェハWが静電チャック12から剥がされ、図示しない搬送アームによりウェハWが保持され、ゲートバルブ27を開いて処理容器10から搬出される。
【0024】
[遷移金属のマスクの残渣に基づくネッキング]
遷移金属から形成され、開口部を有するマスクと、前記マスクの下部に形成され、シリコンを含有する被エッチング膜とを有するウェハWを処理容器10内に搬送し、ウェハWを処理する基板処理方法におけるネッキングについて説明する。以下では、
図2に示すように、遷移金属のマスクとしてタングステンのマスク100を用い、被エッチング膜としてシリコン酸化膜101を用いる。なお、マスク100の開口部103及びシリコン酸化膜101のエッチング形状は、ホール形状であってもよいし、ライン形状であってもよい。
【0025】
タングステンのマスク100を用いて、例えば載置台11の温度を例えば-70℃程度又はそれ以下の温度に制御した状態にてシリコン酸化膜101をエッチングする方法では、エッチングレートを飛躍的に高くできる。
【0026】
しかしながら、この方法では、エッチング時に生じたタングステンの残渣102がマスク100に再付着する。これにより、
図2(a)の「A」に示すように、マスク100の開口部103が狭窄したり、開口部103の寸法が変化したり、閉塞したりする、所謂ネッキングが生じる。以下、マスク100の開口部103の最小幅を「ネックCD(Neck CD)と表記する。
【0027】
ネッキングは、次の(a)~(d)の問題を派生的に生じさせる。
(a)ネッキングによりプラズマ中のイオン105がマスク100の開口部103に垂直に照射されず、斜めに照射される。このため、エッチングされたシリコン酸化膜101の側壁にイオン105が衝突し、側壁が削れて
図2(a)の「B」に示すボーイングが発生する。ボーイングは、深穴等のエッチングにおいて比較的浅い部分に樽形状の太りが生じる現象をいう。以下、シリコン酸化膜101の側壁の最大幅を「ボーイングCD(Bowing CD)と表記する。
(b)マスク100の開口部103が狭窄することで、イオン105がシリコン酸化膜101の凹部に進入し難くなり、シリコン酸化膜101のエッチングレートが低下する。
(c)
図2(a)の「C」に示すようにシリコン酸化膜101のエッチング形状が先端に向かって先細り、シリコン酸化膜101に形成された凹部の底部のCD(以下、「ボトムCD(Bottom CD)」と表記する)が小さくなる。
(d)シリコン酸化膜101に形成された凹部へのイオン105の垂直な入射が妨げられ、シリコン酸化膜101のエッチング形状が垂直でなく曲がってしまう(Bending)。開口部103が真円の場合、シリコン酸化膜101のホール形状が真円でなく、楕円や三角形等の形状に変形する(Distortion)。ベンディングは、深穴等のエッチングにおいて形状が直線的ではなく、一方向、或いはランダムに曲がる現象をいう。
【0028】
そこで、本実施形態にかかる基板処理方法では、遷移金属のマスク100を用いて、載置台11を予め定められた温度に制御した状態にてシリコン酸化膜101をトリートメント及びエッチングを同一工程で同時に実現する。その際、カルボニル結合を有するガスにより生成されるプラズマによってウェハWをトリートメントし、かつ、ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによってウェハWをエッチングする。これにより、
図2(b)に示すように、ネッキングを改善し、ネックCDを広げることができる。この結果、シリコン酸化膜101のエッチング形状を垂直に形成することができる。これにより、ボーイングの発生(ボーイングCDが大きくなること)及びエッチング形状の先細り(ボトムCDが小さくなること)を改善できる。
【0029】
[実験結果]
次に、処理ガスにCOガスを添加したときの実験結果を、COガスを添加しなかったときの実験結果と比較して説明する。
図3は、一実施形態に係るCOガスを添加した処理ガスによりトリートメント工程とエッチング工程とを同一工程で同時に実行したときの実験結果の一例を、COガスを添加しなかったときの実験結果と比較して示した図である。
【0030】
以下の実験では、マスク100の開口部103のパターンは、ラインパターンを使用した。本実験のプロセス条件は以下の通りである。
【0031】
<プロセス条件:トリートメント工程とエッチング工程とを同時に行う場合>
ガス種 H2/CF4/CO
載置台の温度 -30℃~0℃
処理容器内の圧力 10mT(13.3Pa)~100mT(133.3Pa)
HFパワー On
LFパワー On
なお、トリートメント工程とエッチング工程とを別工程で実行してもよい。別工程の場合、トリートメント工程を実行した後にエッチング工程を実行する。この場合のプロセス条件は以下の通りである。
【0032】
<プロセス条件:トリートメント工程の後にエッチング工程を行う場合>
(トリートメント工程)
ガス種 CO
載置台の温度 -30℃~0℃
処理容器内の圧力 10mT(13.3Pa)~100mT(133.3Pa)
HFパワー On
LFパワー On
(エッチング工程)
ガス種 CF
4/H
2
載置台の温度 -30℃~0℃
処理容器内の圧力 10mT(1.33Pa)~100mT(13.33Pa)
HFパワー On
LFパワー On
図3(a)の上図は、比較例として、上記処理ガス(H
2/CF
4)にCOガスを添加せずにシリコン酸化膜101をエッチングした結果のエッチング形状の断面図を示す。これによれば、マスク100やシリコン酸化膜101に形成された凹部の開口部に再付着するタングステンの残渣102の量が多く、
図3(a)の「D」に示すようにネッキングが生じている。
図3(a)の下図(左)のF1は、
図3(a)の上図の上下を縮小した図であり、
図3(a)の下図(右)のG1は、
図3(a)の上図におけるマスク100を上方から観察した図(Top View)を示す。
【0033】
図3(b)の上図は、一実施形態として、上記処理ガス(H
2/CF
4/CO)の総流量に対して3%のCOガスを添加した場合に、シリコン酸化膜101のトリートメント工程とエッチング工程とを同時に実行した結果のエッチング形状の断面図を示す。
【0034】
図3(c)の上図は、一実施形態として、上記処理ガスの総流量に対して5%のCOガスを添加した場合に、シリコン酸化膜101のトリートメント工程とエッチング工程とを同時に実行した結果のエッチング形状の断面図を示す。
【0035】
これによれば、
図3(b)に示すように、3%のCOガスを添加した場合、マスク100やシリコン酸化膜101に形成された凹部の開口部に再付着するタングステンの残渣102の量が低下した。更に
図3(c)「E」に示すように、5%のCOガスを添加した場合、マスク100やシリコン酸化膜101に形成された凹部の開口部に再付着するタングステンの残渣102の量が更に低下した。以上から、処理ガスにCOガスを添加することで、ネッキングが改善されることがわかった。
【0036】
図3(b)及び(c)の下図(左)のF2、F3は、
図3(b)及び(c)の上図の上下を縮小した図であり、
図3(b)及び(c)の下図(右)のG2、G3は、
図3(b)及び(c)の上図におけるマスク100を上方から観察した図(Top View)を示す。これによれば、
図3(a)の比較例(処理ガスにCOガスを添加しなかった場合)と比べてネッキングが改善されることによってマスク100の間の寸法が広くなっていることが分かる。
【0037】
図4(a)は、
図3(a)の比較例と同じプロセス条件、つまり、処理ガスにCOガスを添加しなかった場合に、シリコン酸化膜101のエッチング工程を実行した結果得られた凹部のそれぞれの深さごとに幅方向の中心位置を深さ方向にプロットした結果を示す。横軸の「0」は、マスク100とシリコン酸化膜101の界面における幅方向の中心位置、すなわち、シリコン酸化膜101に形成された凹部の形状が垂直のときの中心線を示し、縦軸はエッチングによりシリコン酸化膜101に形成された凹部のマスク100とシリコン酸化膜101の界面を起点した深さを示す。複数の線は、複数のウェハにおいて凹部の幅方向の中心位置を算出したものである。深さ方向に応じて、エッチング形状が垂直な場合の中心からのシフト量の絶対値が大きくなるということは、ベンディング形状になっていることを示している。
【0038】
図4(b)及び(c)は、
図3(b)及び(c)の本実施形態と同じプロセス条件、つまり、処理ガスにCOガスを3%及び5%添加した場合に、得られたシリコン酸化膜101の凹部の幅方向の中心位置を深さ方向にプロットした結果を示す。複数の線は、複数のウェハにおいて凹部の幅方向の中心位置を算出したものである。
【0039】
この結果、
図4(a)に示す処理ガスにCOガスを添加しなかった場合、ネッキングの発生に起因して、エッチング形状が垂直な場合の中心からのシフト量(絶対値)の最大値は44.3(nm)となった。これに対して、
図4(b)に示す処理ガスの総流量に対してCOガスを3%添加した場合、
図3(b)に示すようにネッキングが改善されたため、エッチング形状が垂直な場合の中心からのシフト量(絶対値)の最大値は19.6(nm)となった。これは、
図4(a)に示す処理ガスにCOガスを添加しなかった場合のシフト量(絶対値)の最大値の半分以下である。
【0040】
図4(c)に示す処理ガスの総流量に対してCOガスを5%添加した場合、
図3(c)に示すように更にネッキングが改善されたため、エッチング形状が垂直な場合の中心からのシフト量(絶対値)の最大値は10.6(nm)となった。これは、
図4(a)に示す処理ガスにCOガスを添加しなかった場合のシフト量(絶対値)の最大値の1/4以下である。
【0041】
図3および
図4の結果においては、COガスの添加量を増加し、タングステンの残渣102を減少させることによって、ネッキングが改善され、ベンディング形状も改善されている。しかしながら、必ずしもタングステンの残渣102によるネッキングが少ない、もしくはない状態が好ましいことに限られない。例えば、エッチング前のマスク形状やターゲットとするボトムCDのサイズによっては、タングステンの残渣102を制御することによってネッキングのCDを適切なサイズにすることが望ましい場合がある。この場合、
図3および
図4の結果から、COガスの添加量を調整することによって、タングステンの残渣102の量およびネッキングのCDサイズを制御できる。
【0042】
図5は、処理ガスに添加するガスをCOガスと、Cl
2ガスと、NF
3ガスと、Arガスとに設定して実験した結果を示す。その他のプロセス条件は、上記に示したプロセス条件と同じである。
【0043】
図5の横軸は、上記4種類のガスを添加した場合のネックCD、ボーイングCD、ボトムCD、エッチングレートを示す。縦軸の「1」は規格化された値であり、各ガスを添加したときに、各ガスを添加しなかったときの各項目の値と変化がない場合に「1」に設定される。
【0044】
これによれば、ネックCDについては、Cl2ガス、NF3ガス、Arガスを添加した場合、約1又は1に満たない値になり、これらの各ガスを添加してもネッキングは改善されないか、より悪化した。これに対して、COガスを添加した場合、COガスを添加しなかったときと比べてネッキングが約3倍改善された。
【0045】
ボーイングCDについては、Cl2ガスを添加するとエッチング形状の垂直性が悪化した。Arガスを添加した場合、ボーイングCDは変化せず、NF3ガス及びCOガスを添加するとボーイングCDは改善された。
【0046】
ボトムCDについては、COガスを添加した場合、先細りが改善されたのに対して、Cl2ガス、NF3ガス、Arガスを添加した場合、先細りは悪化した。
【0047】
エッチングレートについては、Cl2ガス、NF3ガス、Arガス、COガスのいずれのガスを添加しても、エッチングレートにはほぼ影響はなかった。
【0048】
以上から、処理ガスにCOガスを添加した場合、エッチングレートに影響を与えずに、ネッキングを改善することができた。これにより、その波及的効果として、ボーイングCD及びボトムCDが改善され、より垂直形状にエッチングすることができた。
【0049】
これに対して、Cl2ガス、NF3ガス、Arガスを添加しても、ネッキングを改善することができなかった。これにより、ボーイングCD及びボトムCDが改善されず、垂直形状にエッチングすることができなかった。
【0050】
[ネッキングの改善メカニズム]
以上の実験により、処理ガスにCOガスを添加することで、ネッキングを改善できることがわかった。このときのネッキングの改善メカニズムについて説明する。エッチング工程では、主に処理ガスに含まれるフッ素ガスを用いてシリコン酸化膜101をエッチングする。このとき、フッ素ガスがマスク100のタングステンと反応すると、(1)式に示すように、揮発性の高いWF6が生成される。
W+6F→WF6↑・・・(1)
WF6はそのまま揮発するものだけでなく、シリコン酸化膜101をエッチングしたときの反応生成物に含まれるSiと反応するものがある。そうすると、(2)式に示すように、Siによりタングステンの還元反応が生じ、タングステンを抽出するとともに揮発性の高いSiF4を生成する。
WF6+Si→W↓+SiF4↑・・・(2)
これにより、SiF4は揮発し、タングステンが残る。残ったタングステンは、タングステンのマスク100の上に再付着し堆積するのみならず、エッチングされたシリコン酸化膜101に形成された凹部にも付着しタングステンの残渣102となる。
(1)式及び(2)式の化学反応はループを構成する。このため、シリコン酸化膜101に形成された凹部内で(1)式に示す化学反応と、(2)式に示す化学反応とが繰り返される。これにより、抽出されたタングステンによる再堆積によって、タングステンの残渣102が増加し、タングステンのマスク100の開口部103にネッキングが発生する。また、さらにタングステンの残渣102が増加するとタングステンのマスク100の開口部103が閉塞してしまう。
【0051】
ここで、COガスを添加すると、タングステンはCOガスと反応し、(3)式に示すように、ヘキサカルボニルタングステン(以下、「W(CO)6」と表記する。)を生成する。
W+6CO→W(CO)6・・・(3)
【0052】
図6は、W(CO)
6の蒸気圧曲線を示す。参考にWF
6の蒸気圧曲線も示す。プロセス条件の圧力が、10mTから100mTの間のいずれかとしたとき、W(CO)
6は、
図6の「H」の領域で示す温度であれば揮発し、一方、
図6の「I」の領域で示す温度であれば揮発しない。例えば、プロセス圧力が100mTである場合、40℃以上の常温であればW(CO)
6は揮発し、40℃より低い温度であれば揮発しない。そこで、本基板処理方法では、ウェハWを予め定められた温度以下に冷却する工程を有する。「予め定められた温度」は、プロセス条件に設定された圧力(全圧)と蒸気圧曲線とで決まる温度であって、プロセス条件に設定された圧力(全圧)に対するW(CO)
6の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度である。
【0053】
このようにして、W(CO)6を固体の状態で抽出させることが出来る環境下(圧力、温度)で、COガスを添加した処理ガスにより生成されるプラズマによってウェハWをトリートメントする工程が行われる。また、トリートメント工程と同時又はトリートメント工程の後にハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、ウェハWをエッチングする工程が行われる。
【0054】
トリートメント工程では、タングステンのマスク100の表面およびタングステンの残渣102の表面がW(CO)6になるように表面改質する。これにより、COガスを添加しても、タングステンのエッチングは必要以上には促進されず、マスク100の選択比を確保できる。一方、COはタングステンとは反応するが、Si及びシリコン酸化膜とはほとんど反応しない。このため、シリコン酸化膜101に形成された凹部の形状を垂直に保った状態で、マスク100の開口部のネッキングを改善できる。
【0055】
また、トリートメントと同時に行われるエッチング中、プラズマ中のイオンをシリコン酸化膜101に入射させ、イオン衝撃による物理的作用と、プラズマ中のラジカルによる化学的作用の相互的反応によってエッチングが促進される。(4)式では、イオン衝撃による入熱をQionにて示す。
W(CO)6+Qion→W(CO)6↑・・・(4)
ウェハWを0℃またはそれ以下の温度に制御していても、イオン衝撃による入熱Qionにより、ウェハWの表面は局所的且つ瞬時的に温度が上がると考えられる。したがって、(4)式に示すように、固体で堆積するW(CO)6が入熱Qionにより局所的且つ瞬時的にプロセス条件に設定された圧力に対する蒸気圧曲線が示す温度より高くなり、揮発性のガス(W(CO)6↑)となって揮発する。なお、ウェハWの平均温度は低いままであるため、持続的かつ自発的に揮発性のガス(W(CO)6↑)にはならず、イオン衝撃が生じた時のみ揮発する。
【0056】
ウェハの温度は、所定の温度に冷却さえた冷媒を循環することによって冷却された静電チャックから伝熱ガスを介してウェハに伝熱されることにより調整されるが、継続的なイオン衝撃による入熱Qionにより、ウェハ全体の平均温度は、調整された温度より高くなる場合がある。そのため、エッチング処理中の実際のウェハの温度を測定することが出来る、もしくは、プロセス条件からウェハの調整温度と実際のウェハの表面温度の温度差が推測出来るならば、ウェハの平均温度がW(CO)6の蒸気圧曲線が示す温度より低くなる温度範囲でウェハの温度を調整することが望ましい。
【0057】
このようにして、一実施形態に係る基板処理方法によれば、ウェハWを予め定められた温度に制御し、処理ガスにCOガスを添加することで、W(CO)6を固体の状態で生成し、マスクおよびタングステンの残渣102の表面がW(CO)6になるように表面改質する。この状態でタングステンの残渣102へイオンが衝突したときの入熱Qionによって局所的にW(CO)6が揮発性のガスとなって揮発する。これにより、マスク100の選択比を確保しつつ、マスク100やシリコン酸化膜101に形成された凹部の開口部からタングステンの残渣102を除去することで、ネッキングを改善することができる。
【0058】
つまり、マスク100のタングステンは、(1)式及び(2)式の反応を繰り返すルートと、(3)式の反応によりカルボニル化するルートのいずれかを辿る。このとき、処理ガスの総流量に対するCOガスの分圧が多いと、カルボニル化する確率が高くなり、残渣102としてマスクに残る量が減る。このようにしてネッキングが改善されると考えられる。
【0059】
以上、タングステンから形成され、開口部103を有するマスク100と、マスク100の下部に形成されたシリコン酸化膜101とを有するウェハWの処理方法について説明した。かかる方法は、処理容器10内に提供したウェハWを予め定められた温度以下に冷却する工程を有する。また、カルボニル結合を有するCOガスにより生成されるプラズマによって、ウェハWをトリートメントする工程と、ハロゲンを含有するガスにより生成されるプラズマによって、ウェハWをエッチングする工程とを有する。
【0060】
これにより、式(1)及び式(2)に示すSi還元の化学反応のパスを介さずに、式(3)及び式(4)に示す化学反応により、W(CO)6が固体の状態で生成され、その一部が揮発する。これにより、マスク100の選択比を確保しつつ、マスク100に付着したタングステンの残渣の102を揮発させ、ネッキングを改善することができる。
【0061】
[基板処理]
最後に、制御部40により制御される一実施形態に係る基板処理方法について、
図7を参照して説明する。
図7は、一実施形態に係る基板処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0062】
本処理が開始されると、制御部40は、ウェハWを処理容器10内に搬入し、載置台11に載置し、ウェハWを供給する工程を実行する(ステップS1)。次に、制御部40は、ウェハWを、プロセス条件に設定された所定圧力において、W(CO)6の蒸気圧の温度よりも低い温度に冷却する工程を実行する(ステップS2)。プロセス条件に設定された所定圧力は、25mT以下である。
【0063】
次に、制御部40は、COガスを添加した処理ガスにより生成されるプラズマによって、ウェハWをトリートメントする工程を実行する(ステップS3)。次に、制御部40は、CF4ガスにより生成されるプラズマによって、ウェハWをエッチングする工程を実行し(ステップS4)、本処理を終了する。
【0064】
以上に説明した一実施形態に係る基板処理方法によれば、ウェハWをエッチングする工程において生成された反応生成物に含まれるタングステン又はマスク100に含まれるタングステンの少なくとも一方の表面をW(CO)6にカルボニル化する。そして、イオンが衝突した箇所においてイオンからの入熱によりW(CO)6を局所的に揮発させる。これにより、マスク100上のタングステンの残渣102を除去し、ネッキングを改善することができる。
【0065】
エッチング工程では、マスク100の開口部103を通じてシリコン酸化膜101をエッチングする。よって、タングステンの残渣102を除去し、ネッキングを改善してマスク100の開口部103を広げることで、シリコン酸化膜101のエッチング形状を垂直に形成できる。これにより、ボーイング、ベンディング及び先端部の先細りを抑制することができる。なお、COガスを添加しても、エッチングレートに影響を与えず、低温環境における高エッチングレートを維持できる。
【0066】
[変形例]
トリートメント工程とエッチング工程の実行順は、トリートメント工程を実行後にエッチング工程を実行してもよいし、同時に行ってもよい。同時に行う場合、処理ガスは、カルボニル結合とハロゲンとを有するガスが使用される。また、トリートメント工程とエッチング工程とを予め定められた回数だけ交互に行ってもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、タングステンによりマスク100を形成したが、マスク100を形成する物質は、タングステンに限られず、遷移金属であればよい。遷移金属は、タングステン、ニッケル、又はクロムであってもよい。
【0068】
また、W(CO)6は、遷移金属の一酸化炭素錯体をカルボニル化した物質の一例であり、これに限らない。遷移金属の一酸化炭素錯体をカルボニル化した物質は、ニッケル、又はクロムの一酸化炭素錯体をカルボニル化した物質であってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、被エッチング膜であるシリコン酸化膜101の直上にタングステンのマスク100を形成したウェハWを用いたが、直上であることに限定されるものではない。被エッチング膜とマスクの間に例えばポリシリコン膜や非結晶シリコン膜による中間層を有し、その中間層もマスクと同様に開口部を有していれば、同様なエッチングを行うことが出来る。中間層は、ポリシリコン膜以外に、シリコン窒化膜、有機膜など被エッチング膜に対して選択比を有する膜が望ましい。
【0070】
また、上記実施形態では、被エッチング膜は、シリコン酸化膜101を用いたが、これ限られず、シリコンを含有する膜であればよい。シリコンを含有する膜の一例としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコンカーバイド、窒化炭化シリコン膜などのシリコン絶縁膜であってよい。また、ポリシリコン膜、シリコン単結晶、非結晶シリコン膜などのシリコン膜であってよい。シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜、シリコン酸化膜とポリシリコン膜の積層膜、ドープ量が異なる2種類のポリシリコン膜の積層膜、又はその他の前記の2以上の膜の積層膜であってよい。被エッチング膜がシリコンを含有する膜であるため、エッチング工程の間、シリコンを含む反応生成物が発生する。
【0071】
また、トリートメント工程において供給されるCOガスを添加した処理ガスは、カルボニル結合(CO結合)を有するガスの一例であり、これに限られない。カルボニル結合を有するガスは、CO、CO2、COS、COF、COF2、アセトン(CH3COCH3)、メタンエタンケトン(CH3COC2H5)、又は酢酸うちの少なくとも一つであってもよい。
【0072】
トリートメント工程における処理ガスにCOガス以外のカルボニル結合を有するガスを用いた場合、(3)式に示す反応に処理ガスに含まれるカルボニル基以外の結合種が加わることになり、W(CO)
6の蒸気圧曲線がシフトする可能性がある。特に低蒸気圧側(
図6において、右側)にシフトした場合、処理ガスがタングステンの表面を改質して揮発しない温度が高温側にシフトすることになる。そのため、処理ガスがマスク100および残渣102に対して揮発しない程度にトリートメントすること可能であれば、「予め定められた温度」は必ずしもプロセス条件に設定された圧力に対するW(CO)
6の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度であるとは限らない。
【0073】
また、マスク100や残渣102の表面状態、トリートメント工程を行う前の前処理の条件、もしくはトリートメント工程における処理ガスにカルボニル結合を有するガス以外に添加するガスにより副作用によっては、W(CO)6の蒸気圧曲線がシフトする可能性がある。そのため、これらの条件による作用によって、マスク100および残渣102に対して揮発しない程度にトリートメントすること可能であれば、「予め定められた温度」は必ずしもプロセス条件に設定された圧力に対するW(CO)6の蒸気圧曲線が示す温度よりも低い温度であるとは限らない。
【0074】
また、エッチング工程において供給されるCF4ガスは、ハロゲンを含有するガスの一例であり、これに限られない。シリコン絶縁膜をエッチングする場合、ハロゲンを含有するガスは、フッ素を含んでいればよい。ただし、ハロゲンを含有するガスは、フッ素を含んだガスに水素を含んだガスを含有させることが好ましい。これにより、エッチングレートを向上させることができる。フッ素を含んだガスは、CF4、CH2F2、NF3、CHF3、C4F8、C4F6及びC3F8のうちの少なくとも一つであってもよい。水素を含んだガスは、C3H6、H2、HBr、CH2F2、CH4、及びCHF3のうちの少なくとも一つであってもよい。また、シリコン膜をエッチングする場合、ハロゲンを含有するガスは、塩素、もしくは臭素が含んでいればよく、例えばCl2,HCl及びHBrのうちの少なくとも一つであってもよい。
【0075】
エッチング工程は、ウェハWが載置された載置台11にイオン引き込み用のLFパワーを印加してもよい。これにより、エッチング工程時のイオンの入熱を制御でき、これにより、式(4)を促進させて、タングステンカルボニルとして揮発させ、これによりネッキングを除去することができる。なお、エッチング工程ではLFパワーを印加することが好ましいが、トリートメント工程では、LFパワーを印加しなくてもよい。
【0076】
今回開示された一実施形態に係る基板処理方法及び基板処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0077】
本開示の基板処理装置は、ALD(Atomic Layer Deposition )装置、Capacitively Coupled Plasma(CCP),Inductively Coupled Plasma(ICP),Radial Line Slot Antenna, Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR),Helicon Wave Plasma(HWP)のどのタイプでも適用可能である。また、基板処理装置の一例としてプラズマ処理装置を挙げて説明したが、基板処理装置は、基板に所定の処理(例えば、成膜処理、エッチング処理等)を施す装置であればよく、プラズマ処理装置に限定されるものではない。例えば、CVD装置であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 基板処理装置
11 載置台
20 シャワーヘッド
12 静電チャック
13 基台
13a 冷媒流路
14 電源
15 チラーユニット
19 排気装置
25 ガス供給源
30 第1高周波電源
31 第2高周波電源
40 制御部
100 マスク
101 シリコン酸化膜
102 タングステンの残渣
103 マスクの開口部