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特許7190997吸着及びアライメント方法、吸着システム、成膜方法、成膜装置及び電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】吸着及びアライメント方法、吸着システム、成膜方法、成膜装置及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/68 20060101AFI20221209BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20221209BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20221209BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20221209BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
H01L21/68 G
C23C14/04 A
C23C14/24 J
C23C14/24 G
H01L21/68 R
H01L21/205
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019198514
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2020072273
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0132427
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195907(JP,A)
【文献】特開2010-040565(JP,A)
【文献】特開2018-003151(JP,A)
【文献】特開2004-183044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/68
C23C 14/04
C23C 14/24
H01L 21/683
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電チャックを用いた被吸着体の吸着及びアライメント方法であって、
前記静電チャックにより第1被吸着体を吸着する工程と、
前記静電チャックによって吸着された前記第1被吸着体と、第2被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するアライメント工程と、
前記第1被吸着体に対する相対的な位置ずれが調整された前記第2被吸着体を、前記静電チャックにより前記第1被吸着体を介して吸着する工程とを含み、
前記アライメント工程は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が進行する途中に開始することを特徴とする吸着及びアライメント方法。
【請求項2】
前記第1被吸着体を吸着する工程では、前記第1被吸着体の中央部領域を挟んで一方の領域から前記中央部領域を挟んで他方の領域に向かって順次に前記第1被吸着体を前記静電チャックに吸着させ、
前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が、前記一方の領域から他方の領域に向かう吸着進行方向に沿って前記中央部領域まで進行された時点で、前記アライメント工程が開始されることを特徴とする請求項1に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項3】
前記第1被吸着体を吸着する工程では、前記第1被吸着体の一方の辺から対向する他方の辺に向かって順次に前記第1被吸着体を前記静電チャックに吸着させ、
前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が、前記一方の辺から他方の辺に向かう吸着進行方向に沿って前記第1被吸着体の中央部領域まで進行された時点で、前記アライメント工程が開始されることを特徴とする請求項1または2に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項4】
前記アライメント工程は、前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の大まかな位置合わせを行う第1アライメントと、前記第1アライメントより高い精度で前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の位置合わせを行う第2アライメントとを含み、
前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が進行している途中に、前記第1アライメントが開始されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項5】
前記第1アライメントは前記第1被吸着体と前記第2被吸着体が離れた状態で行い、前記第2アライメントは前記第1アライメントより前記第1被吸着体と前記第2被吸着体が近接した状態で行うことを特徴とする請求項4に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項6】
前記第1アライメントは、前記第1被吸着体の短辺中央付近と前記第2被吸着体の短辺中央付近にそれぞれ形成された第1アライメント用マークを撮影した画像に基づいて行い、
前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が、前記第1被吸着体の前記第1アライメント用マークの形成領域の全てにおいて完了した時点で、前記第1アライメントが開始されることを特徴とする請求項4または5に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項7】
前記第2アライメントは、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が完了した後に開始することを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項8】
前記第2アライメントは、前記第1被吸着体の4つの角部付近と前記第2被吸着体の4つの角部付近にそれぞれ形成された第2アライメント用マークを撮影した画像に基づいて行うことを特徴とする請求項4~7のいずれか1項に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項9】
前記第1被吸着体を吸着する工程の前に、前記静電チャックと前記第1被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整する位置調整工程をさらに含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項10】
前記第1被吸着体は基板であり、前記第2被吸着体は前記基板に成膜される成膜パターンに対応する開口を有するマスクであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の吸着及びアライメント方法。
【請求項11】
基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
成膜装置内に前記マスクを搬入する工程と、
前記成膜装置内に前記基板を搬入する工程と、
請求項1~10のいずれか1項に記載の吸着及びアライメント方法を使用して、前記静電チャックに、第1被吸着体としての前記基板と、第2被吸着体としての前記マスクを、相互間の相対的な位置ずれを調整して吸着させる工程と、
前記静電チャックに前記基板と前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を蒸発させ前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程とを含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項12】
請求項11に記載の成膜方法を使用して電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
第1被吸着体と、前記第1被吸着体を介して第2被吸着体を吸着するための吸着システムであって、
電極部を含み、前記電極部に印加される電圧によって、前記第1被吸着体、及び前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着する静電チャックと、
前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するアライメントのための位置調整機構と、
前記位置調整機構を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が進行する途中に、前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するための前記アライメントを開始するように前記位置調整機構を制御することを特徴とする吸着システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着時に、前記第1被吸着体の中央部領域を挟んで一方の領域から前記中央部領域を挟んで他方の領域に向かって順次に前記第1被吸着体が前記静電チャックに吸着されるように制御し、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が前記一方の領域から他方の領域に向かう吸着進行方向に沿って前記中央部領域まで進行された時点で前記アライメントが開始されるように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項13に記載の吸着システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着時に、前記第1被吸着体の一方の辺から対向する他方の辺に向かって順次に前記第1被吸着体が前記静電チャックに吸着されるように制御し、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が前記一方の辺から他方の辺に向かう吸着進行方向に沿って前記第1被吸着体の中央部領域まで進行された時点で前記アライメントが開始されるように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項13または14に記載の吸着システム。
【請求項16】
前記位置調整機構により行われる前記アライメントは、前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の大まかな位置合わせを行う第1アライメントと、前記第1アライメントよ
り高い精度で前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の位置合わせを行う第2アライメントとを含み、
前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が進行する途中に前記第1アライメントを開始するように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載の吸着システム。
【請求項17】
前記第1アライメントは前記第1被吸着体と前記第2被吸着体が離れた状態で行われ、前記第2アライメントは前記第1アライメントより前記第1被吸着体と前記第2被吸着体が近接した状態で行われることを特徴とする請求項16に記載の吸着システム。
【請求項18】
前記第1アライメントは、前記第1被吸着体の短辺中央付近と前記第2被吸着体の短辺中央付近にそれぞれ形成された第1アライメント用マークを撮影した画像に基づいて行われ、
前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が前記第1被吸着体の前記第1アライメント用マークの形成領域の全てにおいて完了した時点で前記第1アライメントを開始するように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項16または17に記載の吸着システム。
【請求項19】
前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が完了した後に前記第2アライメントを開始するように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項16~18のいずれか1項に記載の吸着システム。
【請求項20】
前記第2アライメントは、前記第1被吸着体の4つの角部付近と前記第2被吸着体の4つの角部付近にそれぞれ形成された第2アライメント用マークを撮影した画像に基づいて行われることを特徴とする請求項16~19のいずれか1項に記載の吸着システム。
【請求項21】
前記制御部は、前記静電チャックにより前記第1被吸着体を吸着する前に、前記静電チャックと前記第1被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するように前記位置調整機構をさらに制御することを特徴とする請求項13~20のいずれか1項に記載の吸着システム。
【請求項22】
前記第1被吸着体は基板であり、前記第2被吸着体は前記基板に成膜される成膜パターンに対応する開口を有するマスクであることを特徴とする請求項13~21のいずれか1項に記載の吸着システム。
【請求項23】
基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、
請求項13~22のいずれか1項に記載の、第1被吸着体である前記基板と第2被吸着体である前記マスクを吸着するための吸着システムを含むことを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着及びアライメント方法、吸着システム、成膜方法、成膜装置及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の蒸発源から蒸発した蒸着材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に蒸着させることで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、蒸発源は成膜装置の真空容器の下部に設けられる。一方、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に蒸着材料が蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度を落とす一つの要因となっている。上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においても、また、基板の自重による撓みは生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【0005】
特許文献1には、静電チャックで基板及びマスクを吸着する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許公開公報2007-0010723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このように、成膜対象である基板とマスクを静電チャックを使って吸着・密着させて成膜を行う方式において、特許文献1を含む従来技術では、基板とマスク間のアライメント開始タイミングの制御に関しては、十分検討されていなかった。
【0008】
本発明は、静電チャックへの基板の吸着進行状態を考慮し、基板とマスク間のアライメントの開始タイミングを制御することによって、より短時間で成膜工程に進み、装置の全体的な工程時間(Tact time)を減らすことを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による吸着及びアライメント方法は、静電チャックを用いた被吸着体の吸着及びアライメント方法であって、前記静電チャックにより第1被吸着体を吸着する工程と、前記静電チャックによって吸着された前記第1被吸着体と、第2被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するアライメント工程と、前記第1被吸着体に対する相対的な位置ずれが調整された前記第2被吸着体を、前記静電チャックにより前記第1被吸着体を介して吸着する工程とを含み、前記アライメント工程は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が進行する途中に開始することを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態による成膜方法は、基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する方法であって、成膜装置内にマスクを搬入する工程と、前記成膜装置内に基板を搬入する工程と、前記本発明の一実施形態による吸着及びアライメント方法を使用して、前記静電チャックに、第1被吸着体としての前記基板と、第2被吸着体としての前記マスクを、相互間の相対的な位置ずれを調整して吸着させる工程と、前記静電チャックに前記基板と前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を蒸発させ前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態による電子デバイスの製造方法は、前記本発明の一実施形態による成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態による吸着システムは、第1被吸着体と、前記第1被吸着体を介して第2被吸着体を吸着するための吸着システムであって、電極部を含み、前記電極部に印加される電圧によって、前記第1被吸着体、及び前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着する静電チャックと、前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するアライメントのための位置調整機構と、前記位置調整機構を制御する制御部と、を含み、前記制御部は、前記静電チャックによる前記第1被吸着体の吸着が進行する途中に、前記第1被吸着体と前記第2被吸着体との間の相対的な位置ずれを調整するための前記アライメントを開始するように前記位置調整機構を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態による成膜装置は、基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、上記の第1被吸着体である基板と第2被吸着体であるマスクを吸着するための吸着システムを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、静電チャックへの基板の吸着進行状態を考慮し、基板とマスク間のアライメントの開始タイミングを制御することによって、より短時間で成膜工程に進み、装置の全体的な工程時間(Tact time)を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
図3a図3aは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図である。
図3b図3bは、本発明の一実施形態による静電チャックの模式的な断面図である。
図3c図3cは、本発明の一実施形態による静電チャックの模式的な平面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態による成膜プロセスを示す工程図である。
図5図5aは、基板上に形成されるアライメントマークの例を、図5bは、マスク上に形成されるアライメントマークの例を示す図である。
図6図6は、静電チャックへの基板吸着シーケンスの詳細工程を示す工程図である。
図7図7は、電子デバイスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成
及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、蒸着材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもよい。なお、以下に説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0018】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0019】
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルを製作する。
【0020】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置の間を繋ぐ中継装置とを含む。
【0021】
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜処理)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0022】
搬送室13内には、基板SおよびマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0023】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ばれる)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクMを介して基板上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対的な位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0024】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0025】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に受け渡すパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に受け渡すためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0026】
バッファー室16とパス室15との間には、基板Sの向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Sの向きが同じになり、基板処理が容易になる。
【0027】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び下流側の少なくとも一方に設置される中継装置は、パス室15、バッファー室16、旋回室17のうち少なくとも1つを含む。
【0028】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機EL素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0029】
本実施例では、図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有してもよく、これらの装置やチャンバー間の配置が変わってもよい。
【0030】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0031】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、蒸発源25とを含む。
【0032】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送してきた基板Sを受取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
【0033】
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送してきたマスクMを受取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0034】
マスクMは、基板S上に形成する成膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ばれる。基板支持ユニット22の上方には、基板Sを静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。
【0035】
静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよい。さらには、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。しかし、静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。なぜなら、静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックであることによって、基板Sが絶縁性基板である場合であっても、静電チャック24によって良好に吸着することができるからである。静電チャック24がクーロン力タイプの静電チャックである場合には、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電圧が印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板Sなどの被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、基板Sと静電チャック24との間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。
【0036】
静電チャック24は、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。
【0037】
本実施形態では、後述のように、成膜前に静電チャック24で基板S(第1被吸着体)だけでなく、マスクM(第2被吸着体)をも吸着し保持する。その後、静電チャック24で基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を保持した状態で、成膜処理を行い、成膜処理が完了した後には基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)に対する静電チャック24による保持を解除する。
【0038】
即ち、本実施例では、静電チャック24の鉛直方向の下側に置かれた基板S(第1被吸着体)を静電チャック24で吸着及び保持し、その後、基板S(第1被吸着体)を挟んで静電チャック24と反対側に置かれたマスクM(第2被吸着体)を、基板S(第1被吸着体)を介して静電チャック24で吸着し保持する。そして、静電チャック24で基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を保持した状態で成膜処理を行った後には、基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を静電チャック24から剥離する。
【0039】
図2には示さなかったが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0040】
蒸発源25は、基板に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸発源25は、点(point)蒸発源や線状(linear)蒸発源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0041】
図2に示さなかったが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0042】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などが設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、或いはモータとリニアガイドなどで構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャッ
クZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0043】
位置調整機構29は、静電チャック24と基板S間及び基板SとマスクM間の少なくとも一方の、位置ずれを調整(アライメント)するための駆動手段である。つまり、位置調整機構29は、基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、静電チャック24を水平面に平行な面内でX方向、Y方向のうちの少なくとも一つの方向に相対的に移動、もしくはθ方向に相対的に回転させるための水平駆動機構である。なお、本実施形態では、基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23の水平面内での位置を固定し、静電チャック24をX方向、Y方向の少なくとも一つの方向に移動、θ方向に回転させるように位置調整機構を構成しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、静電チャック24の水平方向への位置を固定し、基板支持ユニット22とマスク支持ユニット23をX方向、Y方向の少なくとも一つの方向に移動や、θ方向に回転させるように位置調整機構を構成してもよい。
【0044】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20a、20bが設置される。アライメント用カメラ20a、20bによって撮影された画像から基板S上のアライメントマークとマスクM上のアライメントマークを認識することで、それぞれのX方向、Y方向における位置や、XY面内での相対的な位置ずれを計測することができる。基板SとマスクMとの間のアライメントは、大まかに位置合わせを行う第1位置調整工程である第1アライメント(「ラフアライメント(rough alignment)」とも称す)と、高精度に位置合わせを行う第2位置調整工程である第2アライメント(「ファインアライメント(fine alignment)」とも称す)の2段階のアライメントを実施することが好ましい。この場合、低解像度だが広視野の第1アライメント用のカメラ20aと狭視野だが高解像の第2アライメント用のカメラ20bの2種類のカメラを用いるとよい。本実施例では、基板SとマスクMのそれぞれについて、一方と他方で互いに対向する一対の辺の2箇所に付されたアライメントマークを2台の第1アライメント用カメラ20aで測定し、基板S及びマスクMの4つの角部付近に付されたアライメントマークを4台の第2アライメント用カメラ20bで測定する。アライメントマーク及びその測定用カメラの数は、特に限定されず、例えば、ファインアライメントの場合、基板S及びマスクMの互いに対向する2つの辺の隅に付されたマークを2台のカメラで測定するようにしてもよい。
【0045】
成膜装置11は、制御部(不図示)を具備する。制御部は、基板Sの搬送及びアライメント、蒸発源25の制御、成膜装置11の制御などの機能を有する。制御部は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。さらには、制御部の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0046】
<静電チャックシステム>
図3a~図3cを参照して本実施形態による静電チャックシステム30について説明する。
【0047】
図3aは、本実施形態の静電チャックシステム30の概念的なブロック図であり、図3
bは、静電チャック24の模式的な断面図であり、図3cは、静電チャック24の模式的な平面図である。
【0048】
本実施形態の静電チャックシステム30は、図3aに示したように、静電チャック24と、電圧印加部31と、電圧制御部32とを含む。
【0049】
電圧印加部31は、静電チャック24の電極部に静電引力を発生させるための電圧を印加する。
【0050】
電圧制御部32は、静電チャックシステム30の吸着工程または成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電圧印加部31により電極部に加えられる電圧の大きさ、電圧の印加開始時点、電圧の維持時間、電圧の印加順番などを制御する。電圧制御部32は、例えば、静電チャック24の電極部に含まれる複数のサブ電極部241~249への電圧印加をサブ電極部別に独立的に制御することができる。本実施形態では、電圧制御部32が成膜装置11の制御部とは別途に構成されるが、本発明はこれに限定されず、成膜装置11の制御部に統合されてもよい。
【0051】
静電チャック24は、吸着面に被吸着体(例えば、基板S、マスクM)を吸着するための静電吸着力を発生させる電極部を有し、電極部は複数のサブ電極部241~249を有する。例えば、本実施形態の静電チャック24は、図3cに示したように、静電チャック24の長手方向(Y方向)および、静電チャック24の短手方向(X方向)に沿って、分割された複数のサブ電極部241~249が配置されている。
【0052】
上述のサブ電極部241~249はそれぞれ、静電吸着力を発生させるためにプラス(第1極性)及びマイナス(第2極性)の電圧が印加される電極対33を有する。さらに、複数のサブ電極部241~249が有する電極対33は、プラス電圧が印加される第1電極331と、マイナス電圧が印加される第2電極332とを有する。
【0053】
第1電極331及び第2電極332は、図3cに示したように、それぞれ櫛歯形状を有する。例えば、第1電極331及び第2電極332は、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部とを有する。各電極331,332の基部は櫛歯部に電力を供給し、複数の櫛歯部は、被吸着体との間で静電吸着力を生じさせる。サブ電極部241~249のそれぞれにおいて、第1電極331の各櫛歯部は、第2電極332の各櫛歯部と対向し、かつ互いに入り組んだ構成となるように、交互に配置される。このように、各電極331,332の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電圧が印加される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって基板Sを吸着することができる。
【0054】
本実施例においては、静電チャック24のサブ電極部241~249の各電極331,332が櫛歯形状を有すると説明したが、本発明はそれに限定されず、被吸着体との間で静電引力を発生させることができる限り、多様な形状を持つことができる。
【0055】
本実施形態の静電チャック24は、複数のサブ電極部に対応する複数の吸着部を有する。例えば、本実施例の静電チャック24は、図3cに示すように、9つのサブ電極部241~249に対応する9つの吸着部を有するが、これに限定されず、基板Sの吸着をより精緻に制御するため、他の個数の吸着部を有してもよい。
【0056】
吸着部は、静電チャック24の長手方向(Y方向)及び短手方向(X方向)に分割されるように設けられるが、これに限定されず、静電チャック24の長手方向または短手方向だけに分割されてもよい。複数の吸着部は、物理的に一つのプレートが複数の電極部を持
つことで構成されてもよく、物理的に分割された複数のプレートそれぞれが一つまたはそれ以上の電極部を持つことで構成されてもよい。図3cに示した実施例のように、複数の吸着部それぞれが複数のサブ電極部それぞれに対応するように構成されてもよく、一つの吸着部が複数のサブ電極部を含むように構成されてもよい。
【0057】
例えば、電圧制御部32によるサブ電極部241~249への電圧の印加を制御することで、後述するように、基板Sの吸着進行方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に配置された3つのサブ電極部241、244、247が一つの吸着部を成すようにすることができる。すなわち、電圧制御部32は、3つのサブ電極部241、244、247のそれぞれに対して、独立的に電圧を印加する順序を制御することが可能である。そのため、これら3つのサブ電極部241、244、247に同時に電圧が印加されるように制御することで、これら3つのサブ電極部241、244、247を一つの吸着部として機能させることができる。複数の吸着部のそれぞれが独立的に基板Sの吸着を進行させることができる限り、その具体的な物理的構造及び電気回路的構造を変更してもよい。
【0058】
<アライメント方法および成膜プロセス(成膜方法)>
以下、図4(a)~(h)を参照して、成膜装置11内への基板S及びマスクMの搬入から、アライメントを経て成膜が行われるまでの一連の工程を説明する。なお、これらの説明に際し、基板S、マスクMや静電チャック24の移動を分かりやすくするため、上述の基板Sアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などは不図示としている。
【0059】
マスクMが真空容器21内に搬入されてマスク支持ユニット23に載置され(図4(a))、続いて、該マスクMを使って蒸着材料が成膜される基板Sが真空容器21内に搬入されて基板支持ユニット22の支持部上に載置される(図4(b))。
【0060】
この状態で、基板Sを静電チャック24に吸着させる前に、静電チャック24と基板支持ユニット22に載置された基板Sとの間の相対的な位置ずれを調整するアライメントを行う(図4(c))。つまり、搬送ロボット14による基板S搬入の際、搬送誤差などで静電チャック24と基板Sとの間の相対的な位置がずれる場合があり得る。そこで、先ずこのような基板Sと静電チャック24との間の相対的な位置ずれを調整してから、基板Sを静電チャック24に吸着させる。ここで、成膜対象体である基板SとマスクM間の位置調整(アライメント)に先立って行われる、このような静電チャック24に対する基板Sの位置合わせを「プリアライメント(pre-alignment)」と称す。
【0061】
基板Sプリアライメント工程では、例えば、矩形の静電チャック24の角部と基板Sに形成されたアライメントマークをアライメント用カメラで撮影し、静電チャック24に対する基板Sの相対的な位置ずれ量を測定する。または、静電チャック24側にも角部に別途の静電チャックアライメントマークを形成し、これを基板アライメントマークと共に撮影し、相対的な位置ずれ量を測定してもよい。
【0062】
静電チャック24と基板Sとの間の相対的な位置がずれていると判明すると、前述の位置調整機構29を水平方向のうちX方向やY方向に移動、もしくはθ方向へ回転させるように駆動させ、静電チャック24と基板Sの水平方向(X方向、Y方向、θ方向のうち少なくとも一つの方向)における相対的な位置を調整する。位置調整機構29による位置調整は、前述したように、水平方向における静電チャック24に対する相対的な位置が固定された基板支持ユニット22に対し、静電チャック24をX方向やY方向に移動、またはθ方向に回転させる方式であってもよい。または、逆に静電チャック24の水平方向における基板支持ユニット22に対する相対的な位置を固定し、基板支持ユニット22をX方向、Y方向に移動させたり、θ方向に回転させる方式であってもよい。
【0063】
静電チャック24に対する基板Sの位置調整(基板プリアライメント)が完了すると、図4(d)に示したように、静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28により下降させて、静電チャック24に所定の電圧(ΔV1)を印加し基板Sを静電チャック24に吸着させる。
【0064】
続いて、静電チャック24への基板Sの吸着が進行する間に、図4(e)~図4(g)に示すように、成膜対象である基板SとマスクM間の位置調整(アライメント)を行う。
【0065】
基板SとマスクM間のアライメントは、前述したように、2段階の工程で行われる。このため、基板SとマスクMにはそれぞれ、図5に示すように、所定の位置にアライメント用マーク(Psr、Pmr、Psf、Pmf)が形成されている。
【0066】
まず、図4(e)に示すように、基板SがマスクMから離れた状態で、基板Sの短辺中央付近とマスクMの短辺中央付近にそれぞれ形成された第1アライメント用マーク(Psr、Pmr;図5を参照)を第1アライメント用カメラ(20a)で撮影する。そして、その撮影画像に基づいてXY面内(マスクMの表面に平行な方向)における基板SとマスクMの相対的な位置を大まかに調整するラフアライメント(第1アライメント)を行う。ラフアライメントに用いるカメラ20aは、大まかな位置合わせができるように、低解像だが、広視野なカメラである。第1アライメント用マーク(Psr、Pmr)と、これを撮影するためのカメラ20aは、基板SとマスクMの短手方向における辺の中央部に該当する位置に設置されている。
【0067】
ラフアライメントが完了すると、静電チャックZアクチュエータ28を駆動させ、静電チャック24に吸着された基板SをマスクM側に下降させる(図4(f))。このとき、基板Zアクチュエータ26によって、基板支持ユニット22を静電チャック24の下降に合わせ共に下降させる。
【0068】
静電チャック24に吸着された基板Sが第2アライメント工程としてのファインアライメントを行うことができる計測位置まで下降した状態で、第2アライメント用カメラ(ファインアライメント用カメラ;20b)で基板Sの4つの角部付近とマスクMの4つの角部付近にそれぞれ形成された第2アライメント用マーク(Psf、Pmf;図5参照)を撮影する。そして、その相対的な位置ずれを調整する(図4(g))。ファインアライメントに用いるカメラ20bは、高精度の位置合わせができるように、狭視野だが高解像のカメラである。第2アライメント用マーク(Psf、Pmf)及び、これを撮影するためのカメラ20bは、基板SとマスクMの概略4つの角部に該当する位置に設置されている。
【0069】
ファインアライメントを行う計測位置は、基板SがマスクMに十分近接した位置に設定することができ、例えば、基板Sの最下端部がマスクMに一部接触される位置に設定することができる。
【0070】
第1および第2アライメントがすべて完了し、基板SとマスクMの相対的な位置ずれが閾値以内に入ると、図4(h)に示すように、静電チャックZアクチュエータ28を下降駆動させ、静電チャック24に吸着された基板SをマスクM上に載置させ、続いて、静電チャック24に所定の電圧(ΔV2)を印加して、マスクMを基板側に引き寄せ吸着することによって基板SとマスクMを密着(合着)させる。
【0071】
以上の過程を通じて、基板MとマスクS間のアライメント及び合着がすべて完了すると、蒸発源25のシャッターを開けて蒸発源25から蒸発した蒸着材料を、マスクを介して
基板の成膜面上に蒸着する(図4(i))。
【0072】
<静電チャック24への基板吸着電圧の印加、及びアライメント開始タイミングの制御>
本発明は、上述の成膜プロセス(成膜方法)において、基板SとマスクM間の相対的な位置ずれを調整するためのアライメント(特に、第1アライメントにおけるラフアライメント)を、静電チャック24に対する基板Sの吸着が進行する途中に開始することを特徴とする。以下、これを図6(a)~(f)を用いて詳細に説明する。なお、図6(a)~(f)は、静電チャック24に基板Sを吸着させる図4(d)の詳細工程を図示したものである。また、図6(a)~(c)における静電チャック24をZ軸方向から見たときの図が、図6(d)~(f)であり、図6(a)に図6(d)が対応し、図6(b)に図6(e)が、図6(c)に図6(f)が対応する。
【0073】
本実施形態においては、図6(a)~(f)に示したように、基板Sの全面が静電チャック24の下面に同時に吸着するのではなく、静電チャック24の第1辺(短辺)に沿って一端から他端に向かって順次に吸着が進行する。
【0074】
静電チャック24の第1辺に沿って基板Sが順次に吸着するようにするために、以下の方法が挙げられる。まずは、複数のサブ電極部241~249に基板吸着のための第1電圧を印加する順番を制御して、基板Sが順次に吸着するようにする方法がある。もしくは、複数のサブ電極部241~249に同時に第1電圧を印加し、基板Sを支持する基板支持ユニット22の支持部の構造や支持力を異ならせることで、基板Sが順次に吸着する方法を採用してもよい。
【0075】
図6(a)~(f)は、静電チャック24の複数のサブ電極部241~249に印加される電圧の制御によって、基板Sを基板吸着方向(X方向)に沿って、静電チャック24に順次に吸着させる実施形態を示す。ここでは、図6(a)の電圧ΔV1が印加されているサブ電極部が、図6(d)において斜線が引かれている部分に対応し、図3cにおけるサブ電極部241、244、247に相当する。これら静電チャック24の長辺方向(Y方向)に沿って配置される3つのサブ電極部241,244,247が第1吸着部(電圧印加の順番が1番目の吸着部)を構成する。また、図6(b)にて、さらに電圧ΔV1が印加されたサブ電極部が、図6(e)のさらに斜線が引かれた部分に対応し、図3cにおけるサブ電極部242、245、248に相当する。これら静電チャック24の中央部の3つのサブ電極部242、245、248が第2吸着部(電圧印加の順番が2番目の吸着部)を構成する。そして、図6(c)にて、最後に電圧ΔV1が印加されたサブ電極部が、図6(f)における斜線が引かれた部分に対応しており、図3cにおけるサブ電極部243、246、249に相当する。この残り3つのサブ電極部243、246、249が第3吸着部(電圧印加の順番が3番目の吸着部)を構成する。以上のことを前提に説明する。
【0076】
成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入され、基板支持ユニット22の支持部に載置される。そして、静電チャック24が基板Sに十分に近接または接触する位置まで下降すると、電圧制御部32は、基板吸着方向(X方向)である静電チャック24の第1辺(短手)に沿って第1吸着部(1番目の吸着部)から第3吸着部(3番目の吸着部)に向かって順次に基板吸着電圧(第1電圧;ΔV1)が印加されるよう制御する。
【0077】
つまり、電圧制御部32は、第1吸着部(1番目の吸着部)(図6(a))、第2吸着部(2番目の吸着部)(図6(b))、第3吸着部(3番目の吸着部)の順に第1電圧(ΔV1)が加えられるように制御する(図6(c))。
【0078】
第1電圧(ΔV1)は、基板Sを静電チャック24に確実に吸着させるために十分な大
きさの電圧に設定される。
【0079】
これにより、基板Sの静電チャック24への吸着は、基板Sの第1吸着部(1番目の吸着部)に対応する長手方向(Y方向)に沿った一方の辺側から吸着が開始され、基板Sの中央部領域を経て、第3吸着部(3番目の吸着部)側に対応する長手方向(Y方向)に沿った他方の辺側に向かって吸着が進行する。
【0080】
図6(d)~(f)は、以上の各電圧印加段階での基板Sの吸着状態を概念的に示した上面図(静電チャック24から見た上面図)である。各段階での電圧の印加に応じた基板の吸着領域を斜線で示しており、上述のとおり、図6(d)が図6(a)、図6(e)が図6(b)、図6(f)が図6(c)にそれぞれ対応している。
【0081】
このような吸着方式によって、基板Sは、中央部にしわを残さず、平らに静電チャック24に吸着される。
【0082】
本発明は、このように、しわ防止のために基板Sを長手方向(Y方向)に沿った一方の辺側から他方の辺側に向かって順次に静電チャック24に吸着させるにあたって、吸着が途中まで進行した時点で、基板SとマスクM間の相対的な位置ずれを調整するためのアライメントを開始する。つまり、基板吸着方向に沿って、一方の領域である第1吸着部から他方の領域である第3吸着部に向かって、基板Sを静電チャック24に吸着させる場合に、基板Sの中央部領域に該当する第2吸着部(2番目の吸着部)の領域まで吸着が進行した図6(b)の時点で、図4(e)で説明した基板SとマスクM間のラフアライメントを開始することを特徴とする。なお、上述の静電チャック24への基板Sの吸着が途中まで進行した時点で、ラフアライメントを開始するために必要な、位置調整機構29や、位置調整機構29を制御する制御部を含む構成が、本実施形態における吸着システムに相当する。
【0083】
前述したように、基板上に形成されたアライメントマークのうちラフアライメント時に用いられる第1アライメント用マーク(Psr)と、これを撮影するためのカメラ20aは、基板Sの短手方向における辺の中央部領域に対応する位置に設置されている。そのため、基板Sの中央部領域に該当する第2吸着部(2番目の吸着部)の領域まで吸着が進行した図6(b)の時点では、ラフアライメント時に必要とされる基板S上の第1アライメント用マーク(Psr)の位置が固定され、以降残りの吸着進行中にその位置は変わらない。よって、アライメントマーク(Psr)が吸着により位置固定される図6(b)の時点で、ラフアライメントの動作を開始すれば、アライメントの精度を低下させずにアライメントの開始時期を早めることができる。したがって、より短時間内に成膜工程に進むことができ、装置の全体的な工程時間(Tact time)を減らすことができる。なお、本実施形態では、基板Sを静電チャック24に吸着させる場合に、基板Sの中央部領域に該当する第2吸着部の領域全ての吸着が進行した時点で、ラフアライメントを開始しているが、これに限られない。すなわち、基板S上における第1アライメント用マーク(Psr)が形成された領域(形成領域)全ての吸着が完了した時点で、ラフアライメントを開始してもよい。
【0084】
要するに、静電チャック24に基板Sの全面が完全に吸着された後に基板SとマスクM間のアライメントを行っていた従来とは異なり、本発明では、静電チャック24に対する基板Sの吸着が所定方向に沿って順次に進行するように制御しつつ、その吸着進行方向と、基板上に形成されたアライメントマークの形成位置との相互関係を利用し、静電チャック24への吸着が進行する途中にアライメントを開始することを特徴としている。
【0085】
なお、基板Sの短手方向の中央部領域に該当する第2吸着部(2番目の吸着部)の領域
まで吸着が進行した図6(b)の時点、もしくは、少なくとも、基板S上における第1アライメント用マーク(Psr)の形成領域全ての吸着が完了した時点でラフアライメントが開始された後、は、該ラフアライメントと、それに続く前述のファインアライメントが基板Sの残りの領域への吸着とともに順次に行われる。ラフアライメント完了後に行われるファインアライメントの開始時期は特に限定されない。しかしながら、本実施形態では、ファインアライメント用マーク(Psf)を基板の4つの角部に形成し、静電チャック24に対する基板吸着は基板Sの短手方向における一方の辺側から他方の辺側に向かって順次吸着させる方式である。そのため、ファインアライメントは、前述の第3吸着部(3番目の吸着部)に対応する短手方向に沿った他方の辺側まで基板Sの吸着が進行した後に開始するのが好ましい。
【0086】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0087】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図7(a)は有機EL表示装置60の全体図、図7(b)は1画素の断面構造を表している。
【0088】
図7(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0089】
図7(b)は、図7(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0090】
図7(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されることができる。
【0091】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0092】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0093】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、基板保持ユニット及び静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0094】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、基板保持ユニット及び静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスク上に載置して、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0095】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0096】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0097】
本発明によると、このような有機EL表示素子の各有機層または、金属電極層を成膜する際に、成膜対象である基板SとマスクM間のアライメントを静電チャック24に対する基板Sの吸着が進行する途中に開始することによって、より短時間内に成膜工程に進むことができ、装置の全体的な工程時間(Tact time)を減らすことができるようになる。
【0098】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0099】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0100】
上記実施例は本発明の一例を示すものでしかなく、本発明は上記実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適宜に変形しても良い。
【符号の説明】
【0101】
11:成膜装置
20a,20b:アライメント用カメラ
Psr, Pmr, Psf, Pmf:アライメントマーク
22:基板支持ユニット
23:マスク支持ユニット
24:静電チャック
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7