(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物および該潤滑剤組成物を含有する潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/06 20060101AFI20221209BHJP
C10M 171/04 20060101ALI20221209BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20221209BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20221209BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/16 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20221209BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20221209BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
C10M171/06
C10M171/04
C10N20:06 Z
C10N20:04
C10N30:06
C10N40:25
C10N40:04
C10N40:12
C10N40:08
C10N40:30
C10N40:02
C10N40:16
C10N40:24
C10N40:20 A
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2019558144
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2018043518
(87)【国際公開番号】W WO2019111753
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2017233180
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018080662
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢二
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 修平
(72)【発明者】
【氏名】花村 亮
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-162023(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076103(WO,A1)
【文献】特開2013-124266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなり、粒子径が10nm~10μmである粒子の割合が90%以上である有機微粒子とを含有してなる潤滑剤組成物であって、
前記有機微粒子の含有量が基油100質量部に対し0.01~50質量部であ
り、前記有機微粒子が、基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離が5.5~21.0(MPa)
1/2
である共重合体からなることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記基油のヒルデブランド溶解度パラメータが15.0~18.0(MPa)
1/2である、請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記有機微粒子が、ユニット(a)およびユニット(b)を構成ユニットとして含む共重合体からなる有機微粒子であって、ユニット(a)と基油のハンセン溶解度パラメータ相互作用距離が4.5~6.5(MPa)
1/2であり、ユニット(b)と基油のハンセン溶解度パラメータ相互作用距離が7.0~22.0(MPa)
1/2である、請求項1
または2記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記共重合体の重量平均分子量が1,000~500,000であり、ユニット(a)とユニット(b)の構成比がモル比で(a):(b)=10~70:30~90(ただし、モル比の合計は100)である、請求項
3記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項記載の潤滑剤組成物を含有する潤滑油組成物。
【請求項6】
更に、金属系清浄剤、無灰分散剤、耐摩耗剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性化剤及び消泡剤から選択される1種又は2種以上を含有する、請求項
5記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1ないし
4のいずれか1項記載の潤滑剤組成物により潤滑油の摩擦を抑制する、潤滑油の摩擦抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い潤滑性能を示し、安全性が高く環境への悪影響が少ない潤滑剤組成物および該潤滑剤組成物を含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤といった添加剤を含有する潤滑油は、摩擦や摩耗、焼き付き等をできるだけ抑え、機器及び機械類の寿命を延ばすことを目的としてあらゆる機器及び機械類で使用されている。一般的に、既存の摩擦調整剤の中で摩擦低減効果が高いものとして有機モリブデン化合物がよく知られている(特許文献1、2)。有機モリブデン化合物は、境界潤滑領域のような金属同士が接触する摺動面、即ち、ある程度の温度と荷重がかかる部分で二硫化モリブデンの皮膜を形成し、摩擦低減効果を発揮すると言われており、エンジン油をはじめ、あらゆる潤滑油でその効果が認められている。しかしながら、有機モリブデン化合物は、いかなる条件下で使用しても摩擦低減効果を発揮するというわけではなく、用途や目的によっては有機モリブデン化合物のみでは十分な摩耗低減効果を発揮できない場合や、点接触のような大きな接触面圧がかかる厳しい条件下では、その効果が弱まり、摩擦を低減させることが困難となる場合がある。
【0003】
特に、点接触のような特に大きな接触面圧がかかる厳しい条件での摩擦を低減させるための添加剤として、例えば、特許文献3には、ナフテン酸鉛、硫化脂肪酸エステル、硫化スパーム油、硫化テルペン、ジベンジルダイサルファイド、塩素化パラフィン、クロロナフサザンテート、トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスファイト、n-ブチルジ-n-オクチルホスフィネート、ジ-n-ブチルジヘキシルホスホネート、ジ-n-ブチルフェニルホスホネート、ジブチルホスホロアミデート、アミンジブチルホスフェート等の極圧剤が記載されている。また、特許文献4には、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド、モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル、チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩等の極圧剤が記載されている。しかしながら、こうした既知の極圧剤は、鉛、亜鉛といった金属元素や、塩素、硫黄、リン等の元素を含有しているため、潤滑面に対する腐食の原因になる場合や、潤滑油の廃棄において環境に悪影響を与えたりする場合があるという問題があった。
【0004】
このような課題を解決するため、特許文献5には、溶解安定性及び極圧性能に優れる潤滑油用極圧剤として、アルキルアクリレート及びヒドロキシアルキルアクリレートを必須の構成単量体として含む共重合体からなる潤滑油用極圧剤が記載されている。また、特許文献6には、脂肪酸と、(メタ)アクリレート等の単量体及び水酸基含有ビニル単量体を必須構成単量体とする共重合体を含有する燃料油用潤滑性向上剤が、冬季や寒冷地といった低温状態でも、曇ったり、固化や、結晶が析出したりすることがなく潤滑特性を向上させることが記載されている。このような潤滑油においては、基油に添加した際に沈殿・白濁や固化を生じず完全に溶解した状態でなければその特性を発揮できず、極圧剤や潤滑性向上剤といった用途に用いることはできないと考えられてきた。しかし、このような基油に溶解して用いる極圧剤や潤滑性向上剤においても、依然として十分な摩擦低減効果は発揮されず、潤滑油における摩擦抑制性能の向上に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-53983号公報
【文献】特開平10-17586号公報
【文献】特開2002-012881号公報
【文献】特開2005-325241号公報
【文献】特開2012-041407号公報
【文献】特開2017-141439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、金属元素等を含有する既存の極圧剤と同等以上の潤滑性能を示し、かつ実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる安全性が高く環境への悪影響が少ない潤滑剤組成物および該潤滑剤組成物を含有する潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は鋭意検討した結果、高い潤滑性能を示す潤滑剤組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、基油と、実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなり、粒子径が10nm~10μmである粒子の割合が90%以上である有機微粒子とを含有してなり、前記有機微粒子の含有量が基油100質量部に対し0.01~50質量部であることを特徴とする潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、金属元素等を含有する既存の極圧剤と同等以上の潤滑性能を示し、かつ実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる安全性の高い潤滑剤組成物および該潤滑剤組成物を含有する潤滑油組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる基油は、特に制限されるものではなく、使用目的や条件に応じて適宜、鉱物基油、化学合成基油、動植物基油及びこれらの混合基油等から選ぶことができる。ここで、鉱物基油としては、例えば、パラフィン基系原油、ナフテン基系原油、混合基系原油または芳香族基原油を常圧蒸留するか、或いは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油又はこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油及び白土処理油等が挙げられる。化学合成基油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、アルキルベンゼン及びGTL基油等が挙げられ、これらの中でも、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル及びポリオールエステル等は汎用的に使用することができ、ポリ-α-オレフィンとしては例えば、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン及び1-テトラデセン等をポリマー化又はオリゴマー化したもの、或いはこれらを水素化したもの等が挙げられ、ジエステルとしては例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等の2塩基酸と、2-エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール及びトリデカノール等のアルコールのジエステル等が挙げられ、ポリオールエステルとしては例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトール等のポリオールと、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等の脂肪酸とのエステル等が挙げられる。動植物基油としては、例えば、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油及びヤシ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂が挙げられ、これらの1種を用いても2種以上を用いてもよい。また必要に応じ、これらの基油を高度に精製し硫黄等の不純物量を低減させた高度精製基油を用いてもよい。これらの中でも、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル及びポリオールエステル等の化学合成基油を含んでなることが好ましく、ポリ-α-オレフィン等の炭化水素油からなる基油を含んでなることがより好ましく、これらの基油の高度精製基油を用いることがさらに好ましい。本発明においては、特に、炭化水素油からなる基油を、基油の全量のうち50質量%以上含んでなることで、共重合体(A)の基油への溶解性および分散性を好適に制御することができるため好ましく、基油の全量のうち90質量%以上含んでなることがさらに好ましい。
【0010】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる基油は、潤滑剤組成物の潤滑特性や取扱い性の観点から、ヒルデブランド溶解度パラメータが15.0~18.0(MPa)1/2であることが好ましく、15.5~17.5(MPa)1/2であることがより好ましく、16.0~17.0(MPa)1/2であることがさらに好ましい。ここで、本明細書に記載する「ヒルデブランド溶解度パラメータ」とは、正則溶液論に基づいて定義された2成分系溶液の溶解度の目安となるパラメータであり、分子集団の結合の強さを表すものである。複数の物質を混合する際に、ヒルデブランド溶解度パラメータ値が近い物質同士ほどよく混ざり合う・溶解するといった傾向が見られ、ヒルデブランド溶解度パラメータ値の差が大きい物質同士では混ざりにくい・溶解しないといった傾向が見られる。ヒルデブランド溶解度パラメータ(δ)は、対象とする分子構造内に存在する原子および原子団の種類と数に依存することから、原子団寄与法に基づきFedors法により、下記数式(1)を用いて算出される:
【0011】
【数1】
(式中、Eは、モル凝集エネルギー[J/mol]であり、Vは、モル体積[cm
3/mol]であり、△e
iは、部分モル凝集エネルギー[J/mol]であり、v
iは、部分モル体積[cm
3/mol]である。)
【0012】
ここで、△ei、viは、Fedors法のパラメータである下記表1に記載の数値から、分子構造内の原子および原子団の種類に対応した数値を用いることができる:
【0013】
【0014】
次に、本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機微粒子は、実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる化合物である。ここで、本明細書に記載する「実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる」とは、分子内に炭素、水素および酸素以外の元素を含有する構造を意図的に含まない化合物のみから構成されることを意味するものである。即ち、当該化合物を合成する際に添加される触媒等に由来する微量の金属元素等の他の元素の混入は許容されることを表すものである。このような有機微粒子は、例えば、炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる単一の重合性単量体を重合してなる重合体であってもよく、炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる異なる重合性単量体を重合してなる共重合体であってもよい。また、このとき、炭素、水素のみからなる重合性単量体を含んでいてもよい。
【0015】
有機微粒子を構成する重合体または共重合体を構成する重合性単量体としては、分子内に重合性官能基を有し、実質的に炭素、水素のみからなる重合性単量体、または炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる重合性単量体であれば特に限定されない。この時の重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基等が挙げられる。また、重合性単量体としては特に限定されないが、例えば、下記の一般式(1)で表されるアルキルアクリレートまたはアクリルメタクリレート;下記の一般式(2)で表されるヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート;下記の一般式(3)で表されるアルキルアクリレートまたはアクリルメタクリレート;炭素数8~14の芳香族ビニルモノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、オクタン酸ビニル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の脂肪族系ビニルモノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0016】
【化1】
(式中、R
1は、炭素数4~18のアルキル基を表し、A
1は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0017】
【化2】
(式中、R
2は、炭素数2~4のアルキレン基を表し、A
2は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0018】
【化3】
(式中、R
3は、炭素数1~3のアルキル基を表し、A
3は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0019】
上記一般式(1)のR1としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の直鎖アルキル基;分岐ブチル基、分岐ペンチル基、分岐ヘキシル基、分岐ヘプチル、分岐オクチル基、分岐ノニル基、分岐デシル基、分岐ウンデシル基、分岐ドデシル基、分岐トリデシル基、分岐テトラデシル基、分岐ペンタデシル基、分岐ヘキサデシル基、分岐ヘプタデシル基、分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基等が挙げられる。
【0020】
また、A1は、水素原子またはメチル基を表し、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0021】
上記一般式(2)のR2としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルエチレン基、メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2~3のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0022】
また、A2は、水素原子またはメチル基を表し、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0023】
上記一般式(3)のR3としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0024】
また、A3は、水素原子またはメチル基を表し、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0025】
更に、炭素数8~14の芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、4-エチルスチレン等の単環式モノマー、2-ビニルナフタレン等の多環式モノマーが挙げられる。これらの中でも、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、スチレンを含んでなることが好ましい。
【0026】
有機微粒子を構成する重合体または共重合体としては、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、一般式(2)で表されるヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート、もしくは炭素数8~14の芳香族ビニルモノマーを少なくとも含む共重合体であることが好ましい。すなわち、本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機微粒子としては、一般式(2)で表されるヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート、もしくは炭素数8~14の芳香族ビニルモノマーを重合させてなるユニットを少なくとも含む共重合体であることが好ましい。このとき、共重合体中における、一般式(2)で表されるヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート、もしくは炭素数8~14の芳香族ビニルモノマーのいずれか1種または複数を重合してなるユニットの合計含有比率が、共重合体を構成する全ユニットの20~100モル%であることが好ましく、40~95モル%であることがより好ましく、50~90モル%であることがさらに好ましい。
【0027】
一般式(2)で表されるヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレートは、重合反応により、下記一般式(4)で表されるユニット(b-1)として重合体中に存在する:
【化4】
(式中、R
4は、炭素数2~4のアルキレン基を表し、A
4は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0028】
一般式(4)で表されるユニット(b-1)としては、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ハンセン溶解度パラメータの極性項δpが4.5~12.0(MPa)1/2であることが好ましく、5.5~11.0(MPa)1/2であることがより好ましく、6.5~10.0(MPa)1/2であることがさらに好ましい。ここで、本明細書に記載する「ハンセン溶解度パラメータ」とは、分子集団の結合の強さを分子間力の三要素であるLondon分散エネルギー、双極子間相互作用エネルギーおよび水素結合エネルギーに分けることで物質間の親和性の尺度として用いられており、London分散エネルギーを表す分散項δd、双極子相互作用エネルギーを表す極性項δp、水素結合エネルギーを表す水素結合項δhからなるパラメータである。このうち双極子相互作用エネルギーを表す極性項δpとは、分子内の極性が高いほどそのδp値が高くなる項である。複数の物質を混合する際に、ハンセン溶解度パラメータの各パラメータ値が近い物質同士ほどよく混ざり合う・溶解するといった傾向が見られ、各パラメータ値の差が大きい物質同士では混ざりにくい・溶解しないといった傾向が見られる。
【0029】
ハンセン溶解度パラメータの分散項δd、極性項δpおよび水素結合項δhは、対象とする分子構造内に存在する原子および原子団の種類と数に依存することから、原子団寄与法に基づきvan Krevelen & Hoftyzer法により、下記数式(2)~(4)を用いてそれぞれ計算される:
【0030】
【数2】
(式中、△E
dは、分散モル引力定数[(MJ/m
3)
1/2/mol]、△E
pは、部分極性モル引力定数[(MJ/m
3)
1/2/mol]、△E
hは、部分水素結合エネルギー[J/mol]、Vは、モル体積[cm
3/mol]、F
diは、部分分散モル引力定数[(MJ/m
3)
1/2/mol]、V
iは、部分モル体積[cm
3/mol]、F
piは、部分極性モル引力定数[(MJ/m
3)
1/2/mol]、E
hiは、部分水素結合エネルギー[J/mol]である。)
【0031】
ここで、Fdi、Vi、Fpi、Ehiは、van Krevelen & Hoftyzer法のパラメータである下記表2に記載の数値から、分子構造内の原子および原子団の種類に対応した数値を用いることができる:
【0032】
【0033】
また、ユニット(b-1)のハンセン溶解度パラメータの分散項δd、および水素結合項δhの値は特に限定されないが、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、分散項δdは17.5~22.0(MPa)1/2であることが好ましく、18.0~21.0(MPa)1/2であることがより好ましく、水素結合項δhは6.5~32.0(MPa)1/2であることが好ましく、8.5~24.0(MPa)1/2であることがより好ましく、9.5~20.0(MPa)1/2であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、炭素数8~14の芳香族ビニルモノマーは、重合反応により、ビニル基が単結合となった構造で表されるユニット(b-2)として、重合体中に存在する。
【0035】
ユニット(b-2)としては、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ハンセン溶解度パラメータの分散項δdが17.5~22.0(MPa)1/2であることが好ましく、18.0~21.0(MPa)1/2であることがより好ましい。
【0036】
また、ユニット(b-2)のハンセン溶解度パラメータの極性項δpおよび水素結合項δhの値は特に限定されないが、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、極性項δpは0.1~5.0(MPa)1/2であることが好ましく、0.5~4.0(MPa)1/2であることがより好ましく、水素結合項δhは0.1~5.0(MPa)1/2であることが好ましく、0.5~4.0(MPa)1/2であることがより好ましい。
【0037】
有機微粒子を構成する重合体または共重合体としては、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ユニット(b-1)と、ユニット(b-2)とを構成ユニットとして含む共重合体であることが好ましい。このとき、共重合体中における、ユニット(b-1)とユニット(b-2)との構成比は、これらの合計を100としたときに、モル比で3:97~97:3であることが好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、10:90~40:60であることがさらに好ましく、10:90~30:70であることがさらにより好ましい。
【0038】
また、有機微粒子を構成する重合体または共重合体としては、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、一般式(1)で表されるアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートを重合してなるユニット(a)を含んでなることが好ましい。このとき、共重合体中における、一般式(1)で表されるアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートのいずれか1種または複数を重合してなるユニットの合計からなるユニット(a)の含有比率が、共重合体を構成する全ユニットのうち5~70モル%であることが好ましく、5~50モル%であることがより好ましく、10~40モル%であることがさらに好ましく、10~30モル%であることがさらにより好ましい。
【0039】
一般式(1)で表されるアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートは、重合反応により、下記一般式(5)で表されるユニット(a)として、重合体中に存在する:
【化5】
(式中、R
5は、炭素数4~18のアルキル基を表し、A
5は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0040】
上記一般式(5)のR5としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の直鎖アルキル基;分岐ブチル基、分岐ペンチル基、分岐ヘキシル基、分岐ヘプチル、分岐オクチル基、分岐ノニル基、分岐デシル基、分岐ウンデシル基、分岐ドデシル基、分岐トリデシル基、分岐テトラデシル基、分岐ペンタデシル基、分岐ヘキサデシル基、分岐ヘプタデシル基、分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基等が挙げられる。
【0041】
また、A5は、水素原子またはメチル基を表し、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0042】
一般式(5)で表されるユニット(a)は、ハンセン溶解度パラメータの極性項δpが0.1~4.0(MPa)1/2であることが好ましく、0.5~3.0(MPa)1/2であることがより好ましく、1.0~2.5(MPa)1/2であることがさらに好ましい。なお、ハンセン溶解度パラメータは上述した方法により計算される。
【0043】
また、ユニット(a)のハンセン溶解度パラメータの分散項δd、および水素結合項δhの値は特に限定されないが、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、分散項δdは16.6~17.8(MPa)1/2であることが好ましく、16.8~17.6(MPa)1/2であることがより好ましく、水素結合項δhは4.0~7.0(MPa)1/2であることが好ましく、4.4~6.0(MPa)1/2であることがより好ましい。
【0044】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機微粒子は、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、少なくとも1種のユニット(a)と、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)からなる群から選択される少なくとも1種のユニット(b)とを構成ユニットとして含む共重合体からなることが好ましい。このような共重合体は、重合性単量体(a)および重合性単量体(b)以外の重合性単量体を重合してなるその他のユニットを含んでいてもよいが、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ユニット(a)およびユニット(b)からなるユニットの合計が共重合体を構成する全ユニットの90モル%以上であることが好ましく、実質的にユニット(a)およびユニット(b)のみからなる共重合体であることが最も好ましい。このとき、ユニット(a)またはユニット(b)またはその両方が2種類以上の重合性単量体からなるユニットを含んでなる場合は、それぞれの合計モル量をユニット(a)、ユニット(b)のモル量として比率を計算する。
【0045】
このような共重合体中の、ユニット(a)とユニット(b)の構成比は特に限定されないが、モル比の合計を100としたときに、例えば、(a):(b)=10~70:30~90であることが好ましく、10~50:50~90であることがより好ましく、10~45:55~90であることがさらに好ましく、10~30:70~90であることがさらにより好ましい。ユニット(a)およびユニット(b)の構成比がこのような範囲にあることで、共重合体の溶解性および分散性を好適に制御することができ、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる。また、共重合体の重合形態は特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいはブロック/ランダム共重合体のいずれであってもよい。また、共重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000~500,000であることが好ましく、3,000~300,000であることがより好ましく、5,000~200,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にあることで、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる。なお、「重量平均分子量」は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定し、スチレン換算により求めることができる。
【0046】
共重合体を構成するユニット(a)とユニット(b)の組合せとしては、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ハンセン溶解度パラメータの極性項δpの差が、0.1~12.0(MPa)1/2となる組合せであることが好ましく、0.2~8.0(MPa)1/2となる組合せであることがより好ましく、0.5~6.0(MPa)1/2となる組合せであることが特に好ましい。ハンセン溶解度パラメータの極性項の差は、上述したユニット(a)とユニット(b)の中から適宜選択することで調節することができる。なお、ユニット(a)とユニット(b)の少なくとも一方が2種類以上のユニットからなる場合は、それぞれ、ユニット(a)またはユニット(b)を構成する単一又は複数のユニットをそれぞれモル比率に応じた個数構造内に有するユニットと見なすことで、前述の方法と同様にユニット(a)またはユニット(b)のハンセン溶解度パラメータを算出することができ、その値に基づき差を計算する。
【0047】
また、本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機微粒子は、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、一般式(5)で表される少なくとも1種のユニット(a)と、一般式(4)で表される少なくとも1種のユニット(b-1)と、炭素数8~14の芳香族ビニルモノマーを重合してなるユニット(b-2)とを含んでなることが好ましい。このときのユニット(a)、ユニット(b-1)および、ユニット(b-2)の具体的な構造は、前述した構造の中から選択することができる。
【0048】
有機微粒子が、ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)を構成ユニットとして含んでなる共重合体からなる場合、共重合体中にユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)以外のユニットを含んでいてもよいが、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)の合計比率が共重合体を構成する全ユニットの90モル%以上であることが好ましく、実質的にユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)のみからなる共重合体であることが最も好ましい。このとき、ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)の少なくともいずれかが2種類以上のユニットを含んでなる場合は、それぞれの合計モル量をユニット(a)、ユニット(b-1)、ユニット(b-2)のモル量として計算する。
【0049】
有機微粒子が、ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)を構成ユニットとして含んでなる共重合体からなる場合、共重合体中のユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)の構成比は特に限定されないが、モル比の合計を100としたときに、(a):(b-1):(b-2)=10~70:1~80:1~89であることが好ましく、10~50:5~80:5~80であることがより好ましく、10~40:10~60:20~80であることがさらに好ましく、10~30:10~40:40~80であることがさらにより好ましい。ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)の構成比がこのような範囲にあることで、共重合体の溶解性および分散性を好適に制御することができ、また、共重合体の各相互作用エネルギーを特定範囲に調節することが容易となり、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる。
【0050】
有機微粒子が、ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)を構成ユニットとして含んでなる共重合体からなる場合においても、共重合体の重合形態は特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいはブロック/ランダム共重合体のいずれであってもよい。また共重合体(A)の重量平均分子量は、1,000~500,000であり、3,000~300,000であることが好ましく5,000~200,000であることがより好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にあることで、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる。
【0051】
有機微粒子が、ユニット(a)、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)を構成ユニットとして含んでなる共重合体からなる場合、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、ユニット(a)のハンセン溶解度パラメータの極性項δpと、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)を含んでなるユニット(b)のハンセン溶解度パラメータの極性項δpの差が、0.1~12.0(MPa)1/2であることが好ましく、0.2~8.0(MPa)1/2であることがより好ましく、0.5~6.0(MPa)1/2であることが特に好ましい。共重合体の溶解性および分散性を好適に制御することができ、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる。ハンセン溶解度パラメータの極性項の差は、上述したユニット(a)とユニット(b-1)およびユニット(b-2)の中から適宜選択することで調節することができる。なお、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)を含んでなるユニット(b)の溶解度パラメータ、およびユニット(a)が少なくとも2種類以上のユニットからなる場合のユニット(a)の溶解度パラメータは、それぞれ、ユニット(a)、ユニット(b)を構成する単一又は複数のユニットをそれぞれモル比率に応じた個数構造内に有するユニットと見なすことで、前述の方法と同様に算出することができ、その値に基づき差を計算する。
【0052】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機微粒子は、粒子径が10nm~10μmである粒子の割合が体積基準で90%以上であることを特徴とする。ここで、本明細書に記載する「粒子径」は、基油中に分散した状態で観察される有機微粒子の粒子径を差し、動的光散乱法によって測定される。この粒子径の測定結果から、全粒子数に対する粒子径が10nm~10μmである粒子の比率を体積基準で計算することで、粒子径が10nm~10μmである粒子の割合を算出できる。なお、対象とする粒子径範囲が異なる場合においても、同様の操作により特定の粒子径の粒子の比率を算出することができる。
【0053】
本発明の潤滑剤組成物は、実質的に炭素、水素および酸素の3つの元素のみからなる有機微粒子がこのような粒子径で基油中に分散して存在していることにより、従来の極圧剤等とは異なる機構により高い潤滑性能を示す。潤滑性能の観点から、有機微粒子の粒子径が50nm~5μmである粒子の割合が90%以上であることが好ましく、粒子径が100nm~2μmである粒子の割合が90%以上であることがより好ましく、有機微粒子の粒子径が150nm~1μmである粒子の割合が90%以上であることがさらに好ましい。また、潤滑性能の観点から、粒子径がこのような範囲である割合が95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。有機微粒子の粒子径は、重合性単量体の重合条件や時間を調節する方法や、重合後に特定の粒子径の有機微粒子を除去する方法等により調節することができる。
【0054】
なお、本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機微粒子の製造方法は特に指定されず、公知の方法であればいずれの方法で製造してもよく、例えば、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合等の方法により重合性単量体を重合反応させることで製造することができる。また、摩擦抑制化合物を鉱物油や合成油等の基油に添加して使用する場合は、乳化重合や懸濁重合のように水を溶媒として使用する重合方法より、塊状重合や溶液重合が好ましく、溶液重合がより好ましい。
【0055】
溶液重合による具体的な方法としては、例えば、溶媒および重合性単量体を含む原料を反応器に仕込んだ後、50~120℃程度に昇温し、重合性単量体全量に対して0.1~10モル%の量の開始剤を一括或いは分割して添加し、1~20時間ほど攪拌して重量平均分子量が例えば1,000~500,000になるように反応させればよい。また、重合性単量体と触媒を一括して仕込んでから50~120℃に昇温し、1~20時間ほど攪拌して重量平均分子量が例えば1,000~500,000になるように反応させてもよい。
【0056】
使用できる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メトキシブタノール、エトキシブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油或いはこれらを水素化精製、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水添脱ろう、接触脱ろう、水素化分解、アルカリ蒸留、硫酸洗浄、白土処理等の精製した精製鉱油等の鉱物油;ポリ-α-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ヒンダードエステル、モノエステル、GTL(Gas to Liquids)等の合成油及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0057】
使用できる開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス-(N,N-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、1,1’-アゾビス(シクロヘキシル-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化水素及び過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、過安息香酸等の有機過酸化物、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素-Fe3+等のレドックス開始剤、その他既存のラジカル開始剤等が挙げられる。
【0058】
本発明の潤滑剤組成物は、基油と上記の有機微粒子とを、基油の質量を100質量部としたときに、有機微粒子を0.01~50質量部含有してなることで、極めて高い摩擦低減性能を発現するものである。本発明の潤滑剤組成物は、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能の観点から、基油の質量を100質量部としたときに、前記有機微粒子を0.1~30質量部含有してなることがより好ましく、0.3~20質量部含有してなることがさらに好ましい。
【0059】
本発明の潤滑剤組成物において、基油と、有機微粒子を構成する共重合体とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは特に限定されないが、5.5~21.0(MPa)
1/2であることが好ましい。ここで、本明細書に記載する「ハンセン溶解度パラメータ相互作用距離D」とは、例えば、化合物Aのハンセン溶解度パラメータを(δ
dA、δ
pA、δ
hA)、化合物Bのハンセン溶解度パラメータを(δ
dB、δ
pB、δ
hB)とそれぞれ表したときに、それぞれの化合物の溶解度パラメータを3次元ベクトル空間上において3つの項によって特定される座標点と捉えたときに、化合物Aと化合物Bのベクトル座標点間の距離を、各項の溶解性に与える影響の補正もふまえ、下記数式(5)により算出した値である:
【数3】
【0060】
ハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは、複数の物質を混合する際の混ざり易さ・溶解し易さを単一の数値で表したものであり、距離Dの値が小さい物質同士では混ざりやすい・溶解するといった傾向が見られ、距離Dの値が大きい物質同士では混ざりにくい・溶解しないといった傾向が見られる。本発明においては、共重合体の溶解性および分散性を好適に制御することができ、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる観点から、基油と、有機微粒子を構成する共重合体とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dが5.5~21.0(MPa)1/2であることが好ましく、6.0~20.0(MPa)1/2であることがより好ましく、6.5~19.0(MPa)1/2であることがさらに好ましく、7.0~18.0(MPa)1/2であることが特に好ましい。このとき、有機微粒子を構成する共重合体のハンセン溶解度パラメータは、共重合体を構成する単一又は複数のユニットをそれぞれモル比率に応じた個数構造内に有する分子と見なすことで、前述の方法と同様に算出することができる。
【0061】
また、有機微粒子を構成する共重合体が、少なくとも1種のユニット(a)と、ユニット(b-1)およびユニット(b-2)からなる群から選択される少なくとも1種のユニット(b)とを構成ユニットとして含む共重合体からなる場合、基油と、ユニット(a)またはユニット(b)とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは特に限定されないが、共重合体の溶解性および分散性を好適に制御することができ、得られる潤滑剤組成物の潤滑性能をより発揮できる観点から、例えば、基油とユニット(a)のハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは4.5~6.5(MPa)1/2であることが好ましく、基油とユニット(b)のハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは7.0~22.0(MPa)1/2であることが好ましい。このとき、潤滑性能の観点から、基油とユニット(a)のハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは、5.0~6.4(MPa)1/2であることがより好ましく、5.2~6.2(MPa)1/2であることがさらに好ましい。また、潤滑性能の観点から、基油とユニット(b)のハンセン溶解度パラメータ相互作用距離Dは7.5~20.0(MPa)1/2であることがより好ましく、8.0~18.0(MPa)1/2であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明の潤滑剤組成物は、従来の潤滑剤の用途であればいずれにも使用することができ、例えば、エンジン油、ギヤ油、タービン油、作動油、難燃性作動液、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、絶縁油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油、グリース等の潤滑油や、船舶用燃料油等の各種燃料油に使用することができる。これらの中でも、エンジン油、軸受油、グリースに使用することが好ましく、エンジン油に使用することが最も好ましい。
【0063】
また、本発明の潤滑剤組成物を潤滑油として用いる場合、潤滑油の摩擦特性、摩耗特性、酸化安定性、温度安定性、保存安定性、清浄性、防錆性、腐食防止性、取扱い性等の観点から、さらに使用目的に応じて公知の添加剤の添加を拒むものではなく、例えば、酸化防止剤、摩擦低減剤、耐摩耗剤、油性向上剤、金属系清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、消泡剤などの1種又は2種以上を添加してもよく、これらの添加剤は、合計で、潤滑油組成物全量に対し、例えば0.01~50質量%の量で含有することができる。
【0064】
ここで、酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-ターシャリブチルフェノール(以下、ターシャリブチルをt-ブチルと略記する。)、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸ステアリル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸オレイル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸デシル、テトラキス{3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオニルオキシメチル}メタン、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸グリセリンモノエステル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸とグリセリンモノオレイルエーテルとのエステル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸ブチレングリコールジエステル、3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオン酸チオジグリコールジエステル、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチル-α-ジメチルアミノ-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル-オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ビス{2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル―ジ(2,6-ジメチル-4-t-ブチル-3-ヒドロキシベンジルサルファイド)、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン、2,2-チオ-{ジエチル-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシナミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル-リン酸ジエステル、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)サルファイド、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t―ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス{3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル等のフェノール系酸化防止剤;1-ナフチルアミン、フェニル-1-ナフチルアミン、p-オクチルフェニル-1-ナフチルアミン、p-ノニルフェニル-1-ナフチルアミン、p-ドデシルフェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;N,N’-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジイソブチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-β-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、ジオクチル-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系酸化防止剤;ジピリジルアミン、ジフェニルアミン、p,p’-ジ-n-ブチルジフェニルアミン、p,p’-ジ-t-ブチルジフェニルアミン、p,p’-ジ-t-ペンチルジフェニルアミン、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、p,p’-ジノニルジフェニルアミン、p,p’-ジデシルジフェニルアミン、p,p’-ジドデシルジフェニルアミン、p,p’-ジスチリルジフェニルアミン、p,p’-ジメトキシジフェニルアミン、4,4’-ビス(4-α,α-ジメチルベンゾイル)ジフェニルアミン、p-イソプロポキシジフェニルアミン、ジピリジルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;フェノチアジン、N-メチルフェノチアジン、N-エチルフェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、フェノチアジンカルボン酸エステル、フェノセレナジン等のフェノチアジン系酸化防止剤;亜鉛ジチオホスフェートが挙げられる。これら酸化防止剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01~5質量%、より好ましくは0.05~4質量%である。
【0065】
また、摩擦低減剤としては、例えば、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオフォスフェート等の有機モリブデン化合物が挙げられる。モリブデンジチオカルバメートとして、例えば下記の一般式(6)で表される化合物が挙げられる:
【化6】
(式中、R
11~R
14は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の炭化水素基を表し、X
1~X
4は、それぞれ独立して硫黄原子又は酸素原子を表す。)
【0066】
上記一般式(6)において、R11~R14は、それぞれ独立して、炭素数1~20の炭化水素基を表し、こうした基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基及びこれら全ての異性体等の飽和脂肪族炭化水素基;エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基及びこれら全ての異性体等の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p-クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基及びこれら全ての異性体等の芳香族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基及びこれら全ての異性体等のシクロアルキル基等が挙げられる。中でも、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、飽和脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数3~15の飽和脂肪族炭化水素基が最も好ましい。
【0067】
また、一般式(6)において、X1~X4は、それぞれ独立して硫黄原子又は酸素原子を表す。中でも、X1及びX2が硫黄原子であることが好ましく、X1及びX2が硫黄原子でありX3及びX4が酸素原子であることがより好ましい。
【0068】
なお、摩擦低減剤の好ましい配合量は、基油に対してモリブデン含量で50~3000質量ppm、より好ましくは100~2000質量ppmであり、さらに好ましくは200~1500質量ppmである。
【0069】
さらに、耐摩耗剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、硫化オレフィン、ジベンジルスルフィド、エチル-3-[[ビス(1-メチルエトキシ)フォスフィノチオイル]チオ]プロピオネート、トリス-[(2、又は4)-イソアルキルフェノール]チオフォスフェート、3-(ジ-イソブトキシ-チオホスホリルスルファニル)-2-メチル-プロピオン酸、トリフェニルフォスフォロチオネート、β-ジチオホスフォリル化プロピオン酸、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメイト)、O,O-ジイソプロピル-ジチオフォスフォリルエチルプロピオネート、2,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブタンチオ)-1,3,4-チアジアゾール、及び2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール等の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ト、ジオクチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、モノブチルフォスフェート、ジブチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、モノフェニルフォスフェート、ジフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、モノイソプロピルフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、トリイソプロピルフェニルフォスフェート、モノターシャリーブチルフェニルフォスフェート、ジ-tert-ブチルフェニルフォスフェート、トリ-tert-ブチルフェニルフォスフェート、トリフェニルチオフォスフェート、モノオクチルフォスファイト、ジオクチルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、モノブチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、モノフェニルフォスファイト、ジフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、モノイソプロピルフェニルフォスファイト、ジイソプロピルフェニルフォスファイト、トリイソプロピルフェニルフォスファイト、モノ-tert-ブチルフェニルフォスファイト、ジ-tert-ブチルフェニルフォスファイト、及びトリ-tert-ブチルフェニルフォスファイト等のリン系化合物;一般式(7)で表されるジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオリン酸金属塩(Sb,Mo等)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn,Sb,Mo等)、ナフテン酸金属塩、脂肪酸金属塩、リン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、及び亜リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物;その他、ホウ素化合物、モノ及びジヘキシルフォスフェートのアルキルアミン塩、リン酸エステルアミン塩、及びトリフェニルチオリン酸エステルとtert-ブチルフェニル誘導体の混合物等が挙げられる。
【0070】
【化7】
(式中、R
15~R
18は、それぞれ独立して、炭素数1~20の第1級アルキル基、第2級アルキル基、又はアリール基を表す。)
【0071】
上記一般式(7)において、R15~R18は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、こうした基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、及びイコシル基等の1級アルキル基;2級プロピル基、2級ブチル基、2級ペンチル基、2級ヘキシル基、2級ヘプチル基、2級オクチル基、2級ノニル基、2級デシル基、2級ウンデシル基、2級ドデシル基、2級トリデシル基、2級テトラデシル基、2級ペンタデシル基、2級ヘキサデシル基、2級ヘプタデシル基、2級オクタデシル基、2級ノナデシル基、及び2級イコシル基等の2級アルキル基;3級ブチル基、3級ペンチル基、3級ヘキシル基、3級ヘプチル基、3級オクチル基、3級ノニル基、3級デシル基、3級ウンデシル基、3級ドデシル基、3級トリデシル基、3級テトラデシル基、3級ペンタデシル基、3級ヘキサデシル基、3級ヘプタデシル基、3級オクタデシル基、3級ノナデシル基、及び3級イコシル基等の3級アルキル基;分岐ブチル基(イソブチル基等)、分岐ペンチル基(イソペンチル基等)、分岐ヘキシル基(イソヘキシル基)、分岐ヘプチル基(イソヘプチル基)、分岐オクチル基(イソオクチル基、2-エチルヘキシル基等)、分岐ノニル基(イソノニル基等)、分岐デシル基(イソデシル基等)、分岐ウンデシル基(イソウンデシル基等)、分岐ドデシル基(イソドデシル基等)、分岐トリデシル基(イソトリデシル基等)、分岐テトラデシル基(イソテトラデシル基)、分岐ペンタデシル基(イソペンタデシル基等)、分岐ヘキサデシル基(イソヘキサデシル基)、分岐ヘプタデシル基(イソヘプタデシル基等)、分岐オクタデシル基(イソオクタデシル基等)、分岐ノナデシル基(イソノナデシル基等)、及び分岐イコシル基(イソイコシル基等)等の分岐アルキル基;フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p-クミルフェニル基、フェニルフェニル基、及びベンジルフェニル基等のアリール基等が挙げられる。これら摩耗防止剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。
【0072】
また、油性向上剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステアリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら油性向上剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0073】
さらに、清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でも過塩基性塩が好ましく、過塩基性塩の中でもTBN(トータルベーシックナンバー)が30~500mgKOH/gのものがより好ましい。更に、リン及び硫黄原子のないサリシレート系の清浄剤が好ましい。これらの清浄剤の好ましい配合量は、基油に対して0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%である。
【0074】
また、無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤であれば特に制限なく用いることができるが、例えば、炭素数40~400の直鎖、若しくは分枝状のアルキル基、又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物、又はその誘導体等が挙げられる。具体的には、コハク酸イミド、コハク酸アミド、コハク酸エステル、コハク酸エステル-アミド、ベンジルアミン、ポリアミン、ポリコハク酸イミド及びマンニッヒ塩基等が挙げられ、その誘導体としては、これら含窒素化合物にホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物、チオリン酸、チオリン酸塩等のリン化合物、有機酸及びヒドロキシポリオキシアルキレンカーボネート等を作用させたもの等が挙げられる。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する場合があり、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する場合がある。これらの無灰分散剤の好ましい配合量は、基油に対して0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%である。
【0075】
さらに、粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1~18)アルキル(メタ)アクリレート、(C1~18)アルキルアクリレート/(C1~18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート/(C1~18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン/(C1~18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。粘度指数向上剤の重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、10,000~1,500,000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1~20質量%。より好ましくは0.3~15質量%である。
【0076】
また、流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられ、重量平均分子量は1000~100,000である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、基油に対して0.005~3質量%、より好ましくは0.01~2質量%である。
【0077】
さらに、防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100~300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01~3質量%、より好ましくは0.02~2質量%である。
【0078】
また、腐食防止剤、金属不活性化剤としては、例えば、トリアゾール、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール又はこれら化合物の誘導体である、2-ヒドロキシ-N-(1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)ベンズアミド、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-[(1,2,4-トリアゾール-1-イル)メチル]アミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-[(1,2,4-トリアゾール-1-イル)メチル]アミン及び2,2’-[[(4又は5又は1)-(2-エチルヘキシル)-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチル]イミノ]ビスエタノール等が挙げられ、他にもビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスフィン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、テトラアルキルチウラムジサルファイド、N’1,N’12-ビス(2-ヒドロキシベンゾイル)ドデカンジハイドラジド、3-(3,5-ジ-t-ブチル-ヒドロキシフェニル)-N’-(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-ヒドロキシフェニル)プロパノイル)プロパンハイドラジド、テトラプロぺニルコハク酸と1,2-プロパンジオールのエステル化物、ジソディウムセバケート、(4-ノニルフェノキシ)酢酸、モノ及びジヘキシルフォスフェートのアルキルアミン塩、トリルトリアゾールのナトリウム塩及び(Z)-N-メチルN-(1-オキソ9-オクタデセニル)グリシン等が挙げられる。これら腐食防止剤、金属不活性化剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01~3質量%、より好ましくは0.02~2質量%である。
【0079】
さらに、消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンオイル、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート及びソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、基油に対して0.001~0.1質量%、より好ましくは0.001~0.01質量%である。
【0080】
なお、本発明の潤滑油組成物は、車両用潤滑油(例えば、自動車やオートバイ等のガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油等)、工業用潤滑油(例えば、ギヤ油、タービン油、油膜軸受油、冷凍機用潤滑油、真空ポンプ油、圧縮用潤滑油、多目的潤滑油等)等に使用することができる。中でも、本発明の潤滑油組成物は、車両用潤滑油に好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
本発明の潤滑剤組成物を構成する有機微粒子の合成に好適に用いることができる重合性単量体のハンセン溶解度パラメータδd、δp、δh及びヒルデブランド溶解度パラメータδを、それぞれ表3に示す。
【0082】
【0083】
使用した重合性単量体
ラウリルアクリレート [ユニット(a)の構成材料]
ヒドロキシエチルアクリレート [ユニット(b-1)の構成材料]
スチレン [ユニット(b-2)の構成材料]
【0084】
<製造例1>
反応容器中に、基油としての高度精製基油(炭素数20~50の炭化水素基油、粘度指数:112、δd=16.3、δp=0、δh=0、δ=16.3)を44.1gと、酢酸ブチル21.8g投入し、110℃に昇温した。そこに、重合性単量体としてラウリルアクリレート174.0gおよびヒドロキシエチルアクリレート22.0gと、酢酸ブチル14.7g、2,2-アゾビスイソブチロニトリル1.4gを滴下し、2時間攪拌した。その後、温度を75~85℃に保ちながら、重合性単量体としてスチレン284.1g、ラウリルアクリレート75.9gおよびヒドロキシエチルアクリレート28.2gと、2,2-アゾビスイソブチロニトリル5.2gを滴下し、4時間攪拌することで重合反応を行った。その後、さらに基油を344g加え、115~125℃に昇温しながら未反応の重合性単量体および酢酸ブチルを除去することで、基油中に、全質量に対し共重合体からなる有機微粒子が50質量部分散している有機微粒子分散液を調製した。この有機微粒子を構成する共重合体の基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離は7.9(MPa)1/2であり、また、この共重合体を構成するユニット(a)と基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離は6.0(MPa)1/2であり、ユニット(b)と基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離は11.0(MPa)1/2であった。
【0085】
<製造例2>
製造例1において、用いる重合性単量体のモル比の変更により構成ユニットのモル比を下記の表4のように変更し、基油中に、全質量に対し共重合体が50質量部完全に溶解している溶液(有機微粒子分散液)を調製した。この共重合体の基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離は9.4(MPa)1/2であり、また、この共重合体を構成するユニット(a)と基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離は6.0(MPa)1/2であり、ユニット(b)と基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離は22.2(MPa)1/2であった。
【0086】
製造例1および2で調製した各分散液中の有機微粒子の粒度分布を、粒度分布計(大塚電子株式会社製、ELSZ-1000)を用いて体積基準で測定した結果を表4に併記する。また、共重合体について、用いた重合性単量体のモル比、GPCを用いてスチレン換算により求めた重量平均分子量、および、Fedors法、van Krevelen & Hoftyzer法により算出した溶解度パラメータを併せて表4に示す。
【0087】
【0088】
<摩擦抑制特性評価>
製造例1および2で製造した有機微粒子分散液を基油により希釈し、さらにモリブデンジチオカルバメートを添加することで、基油100質量部に対し共重合体を0.5質量%、モリブデンジチオカルバメートをモリブデン含量で800ppm含有する潤滑剤組成物を製造した。また、比較例として、製造例1および2で製造した共重合体の代わりにグリセリンモノオレートを用いた潤滑剤組成物(このとき、グリセリンモノオレートは基油中に完全に溶解していた)、および共重合体を含有しない潤滑剤組成物をそれぞれ製造した。
各潤滑剤組成物について、摩擦摩耗試験機(HEIDEN TYPE:HHS2000、新東化学株式会社製)を用い、下記試験条件により摩擦係数を測定した。摩擦係数は、試験終了前の15往復の摩擦係数の平均値を用いた。各試験結果を表5に示す。
試験条件
荷重:9.8N
最大接触圧力:1.25×10-7Pa
摺動速度:5mm/秒
振幅:20mm
試験回数:50往復
試験温度:40℃
摺動速度:5mm/秒
上部プレート:AC8A-T6
下部プレート:SUJ2
【0089】
【0090】
上記実施例から、本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物中に分散する共重合体からなる有機微粒子により、高い摩擦抑制効果を示し、また、従来摩擦低減剤として使用されているモリブデン化合物と併用した際に、それぞれの効果を阻害せず、モリブデン化合物のみを用いるよりも優れた摩擦抑制効果を示す潤滑剤組成物を得ることができることが判る。
【0091】
<製造例3~11>
製造例1において、用いる重合性単量体のモル比の変更により構成ユニットのモル比を表6のように変更し、反応時間を適宜調節した以外は同様の方法により、有機微粒子分散液を製造した。有機微粒子を構成する共重合体について、GPCを用いてスチレン換算により求めた重量平均分子量、Fedors法、van Krevelen & Hoftyzer法により算出した溶解度パラメータならびに基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離をそれぞれ表6に示す。また、有機微粒子分散液中の有機微粒子の粒度分布を前述の方法により測定した結果を表6に示す。
【0092】
【0093】
<製造例12>
製造例1において、用いる重合性単量体のモル比の変更により構成ユニットのモル比を表7のように変更し、反応時間を適宜調節した以外は同様の方法により、有機微粒子分散液を製造した。有機微粒子を構成する共重合体について、Fedors法、van Krevelen & Hoftyzer法により算出した溶解度パラメータならびに基油とのハンセン溶解度パラメータ相互作用距離を表7に示す。また、有機微粒子分散液中の有機微粒子の粒度分布を前述の方法により測定した結果を表7に示す。
【0094】
【0095】
製造例3~12の有機微粒子分散液は、製造例1の有機微粒子分散液と同様に、有機微粒子の含有量を基油100質量部に対し0.01~50質量部とすることで、優れた潤滑性能を示す潤滑剤組成物として使用することができる。また、必要に応じて、モリブデンジチオカルバメート等の添加剤を添加したりして使用してもよい。