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特許7191311集光機能を有する分光素子を利用した分光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】集光機能を有する分光素子を利用した分光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20221212BHJP
   G01J 3/18 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G02B5/18
G01J3/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018038277
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019152768
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江本 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】西田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】田中 絢也
(72)【発明者】
【氏名】油谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆史
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-005221(JP,A)
【文献】特開昭61-153550(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203573(WO,A1)
【文献】特開平09-018897(JP,A)
【文献】特開平09-033726(JP,A)
【文献】特表2010-533895(JP,A)
【文献】特開2001-091748(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0296118(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0038918(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102914256(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G01J 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X軸と該X軸に直交するY軸とによって規定されるXY平面上にある回折面を有する、透光性を有する基板からなるバイナリ型の分光素子と、
前記回折面に平行な受光面を有する受光部と、
を備え、
前記回折面の中心は、Z軸に直交する前記XY平面の原点にあり、
前記回折面は、遮光性を有する層を部分的に設けることにより、または前記基板の厚みを部分的に薄くすることにより形成した、回折格子の役割を果たす複数の帯構造を含み、
前記複数の帯構造は、X>0およびX<0のそれぞれの領域において、前記中心からの距離が大きくなるにつれて前記帯構造の幅が減少していき、かつ、X>0の領域における前記幅の減少は、X<0の領域における前記幅の減少よりも緩やかであり、
前記回折面は、回折光の強度が相対的に強くなる点の前記X軸方向の位置を該回折光の波長と前記Z軸方向の位置とに基づいて変化させるよう構成されており、
前記受光面は、前記Z軸方向において、前記回折面から予め定められた距離だけ離れて配置されている
ことを特徴とする分光装置。
【請求項2】
前記帯構造のそれぞれが、前記Y軸に平行な直線状を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の分光装置
【請求項3】
前記帯構造のそれぞれが、前記中心を取り囲む環状を有している
ことを特徴とする請求項1に記載の分光装置
【請求項4】
前記複数の帯構造は、Y>0およびY<0のそれぞれの領域において、前記中心からの距離が大きくなるにつれて前記帯構造の幅が減少していく
ことを特徴とする請求項3に記載の分光装置
【請求項5】
前記受光部は、カバーガラス付きのCCDカメラまたはCMOSカメラからなり、
前記分光素子は、前記カバーガラスに貼り付けられており、
前記カバーガラスの厚みが前記予め定められた距離に等しい
ことを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定の対象となる光を集光しながら分光する分光素子を利用した分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分光測定技術によってもたらされる情報は、現代社会において欠かせないものとなっている。分光測定技術の適用分野は、化学的分析のほか、環境測定および製品開発に関わる検査等の広範囲にわたっている。このため、従来から、各分野における要求を満足するように、様々なタイプの分光装置の開発が進められている。
【0003】
その一例として、図15に、いわゆる「前分光方式」を採用した分光装置を示す。この方式では、ランプ等の光源からの入射光L1を回折格子100で分光し、これにより生じた回折光L2のうち、遮光板101のスリット102を透過した特定波長の光(例えば、回折光L2a)だけを測定対象物103に入射させ、測定対象物103を透過した光を受光部104で検出することにより、その特定波長における測定対象物103の物性を測定する。この方式によれば、回折格子100の回転に同期した複数回の測定を行うことにより、波長毎の測定を行うことができる。しかしながら、この方式は、波長毎の測定が時間的に分解されているので、測定に時間がかかることが問題であった。また、この方式は、回折格子100を回転させる機構が必要なので、装置が大型化することも問題であった。
【0004】
また、別の一例であるいわゆる「後分光方式」では、図16に示すように、光源からの入射光L1を測定対象物103に入射させ、測定対象物103を透過した光L1’を回折格子100で分光し、これにより波長毎に空間的に分解された回折光L2a,L2b,L2cのそれぞれをアレイ状に配置された受光部104a,104b,104cで検出する。この方式によれば、測定対象物103の波長毎の物性を同時に測定することができる。また、前分光方式で必要とされる回転機構も不要である。ただし、前分光方式では測定対象物103に特定波長の光しか照射されないのに対し、後分光方式では測定対象103に常に入射光L1の全部が照射されるため、入射光L1に短波長の光が含まれる場合は該短波長の光によって測定対象物103が蛍光を発したり、光劣化を起こしたりすることがある。このため、後分光方式では、測定対象物103や測定条件に制限がかかる場合がある点に注意が必要である。
【0005】
回折素子としてフレネルレンズを利用した方式も検討されている。フレネルレンズには、図17(A),(B)に示した振幅型フレネルレンズ200および図17(C),(D)に示した位相型フレネルレンズ201等がある。前者は、透光性を有する基板の一方の面(回折面)の一部に遮光性を有する材料(例えばクロム)からなる層を設けることにより、回折格子の役割を果たす複数の帯構造B,B,B・・・を形成したものである。また、後者は、透光性を有する基板の一方の面(回折面)の一部を除去して厚みに差を設けることにより、複数の帯構造B,B,B・・・を形成したものである。
【0006】
ここで、波長λにおける焦点距離をfとした場合、各帯構造B,B,B・・・の幅を決定するために必要な定数aは、次式で求められる。
【数1】
回折面がXY平面上にある場合、帯構造B,Bの境界は、[2]式中のrと[3]式から求めたrが一致するときの座標(x,y)によって規定される。つまり、帯構造B,Bの境界は、座標(0,0)を中心とした半径r(=a)の円を描く。
【数2】
【数3】
また、帯構造B,Bの境界は、[2]式中のrと[3]式から求めたrが一致するときの座標(x,y)によって規定される。つまり、帯構造B,Bの境界は、座標(0,0)を中心とした半径r(=a√3)の円を描く。同様に、帯構造B,Bの境界は、座標(0,0)を中心とした半径r(=a√5)の円を描き、帯構造B,Bの境界は、座標(0,0)を中心とした半径r(=a√7)の円を描く。
【0007】
これらから明らかなように、回折格子の役割を果たす複数の帯構造B,B,B・・・は、座標(0,0)からの距離が大きくなるにつれて幅が減少する。より詳しくは、帯構造Bの幅はa(=r)であり、帯構造Bの幅は約0.732a(=r-r)であり、帯構造Bの幅は約0.504a(=r-r)であり、帯構造Bの幅は約0.410a(=r-r)である。
【0008】
図18に、上記のようなフレネルレンズ200またはフレネルレンズ201を利用した、非特許文献1に記載の従来の分光装置を示す。同図に示すように、この装置は、回折面がXY平面上にあるフレネルレンズ200(201)と、Z軸方向に移動可能な台車202と、台車202に取り付けられた受光部204とを備えている。また、台車202は、ピンホール付きの遮光板203を有している。
【0009】
フレネルレンズ200(201)の焦点は、明確な波長依存性を有している。より詳しくは、フレネルレンズ200(201)が生じさせた回折光L2のうち、波長が比較的短い光は回折面からの距離Zが比較的大きいところで集光し、波長が比較的長い光は回折面からの距離Zが比較的小さいところで集光する。したがって、この装置によれば、Z軸方向における台車202の位置Zrを調整することにより、ピンホールを通過することができた任意の波長の回折光L2だけを受光部204で検出することができる。
【0010】
図19に、フレネルレンズ200(201)を利用した、非特許文献2に記載の従来の分光装置を示す。同図に示すように、この装置は、回折面がXY平面上にあるフレネルレンズ200(201)と、位置Zrに固定された受光部205とを備えている。また、この装置は、入射光L1が斜めに入射するように構成されている。
【0011】
この装置では、各波長の回折光L2が、位置Zrにおいて、X軸方向またはY軸方向にずれた位置で集光する。したがって、この装置によれば、受光部205の位置Zrを変えることなく、波長毎に空間的に分解された回折光L2を同時に検出することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Nobuyuki Kitaura, Shiro Ogata and Yuzo Mori, "Spectrometer employing a micro-Fresnel lens," Optical Engineering, 1995, Vol.34, No.2, p.584-588.
【文献】Chenji Zhang, Gong Cheng, Perry Edwards, Ming-Da Zhou, Siyang Zheng and Zhiwen Liu, "G-Fresnel smartphone spectrometer," Lab on a Chip, The Royal Society of Chemistry, 2016, Vol.16, p.246-250.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、非特許文献1に記載の装置は、台車202をZ軸方向に移動させる必要があるため、小型化に不向きであった。また、非特許文献2に記載の装置は、入射光L1を斜めに入射させる必要があるため、やはり小型化に不向きであった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、装置の小型化に寄与する分光素子を利用した分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る分光装置は、X軸と該X軸に直交するY軸とによって規定されるXY平面上にある回折面を有する、透光性を有する基板からなるバイナリ型の分光素子と、回折面に平行な受光面を有する受光部と、を備え、回折面の中心が、Z軸に直交するXY平面の原点にあり、回折面が、遮光性を有する層を部分的に設けることにより、または基板の厚みを部分的に薄くすることにより形成した、回折格子の役割を果たす複数の帯構造を含み、複数の帯構造が、X>0およびX<0のそれぞれの領域において、上記中心からの距離が大きくなるにつれて帯構造の幅が減少していき、かつ、X>0の領域における幅の減少が、X<0の領域における幅の減少よりも緩やかであり、回折面が、回折光の強度が相対的に強くなる点のX軸方向の位置を該回折光の波長とZ軸方向の位置とに基づいて変化させるよう構成されており、受光面は、Z軸方向において、回折面から予め定められた距離だけ離れて配置されていることを特徴とする。
【0016】
上記分光装置を構成する分光素子は、帯構造のそれぞれが、Y軸に平行な直線状を有していてもよいし、上記中心を取り囲む環状を有していてもよい。
【0017】
上記分光装置を構成する分光素子の複数の帯構造は、Y>0およびY<0のそれぞれの領域において、上記中心からの距離が大きくなるにつれて帯構造の幅が減少していくように構成されていてもよい。
【0019】
上記分光装置は、受光部がカバーガラス付きのCCDカメラまたはCMOSカメラからなる場合、分光素子がカバーガラスに貼り付けられており、カバーガラスの厚みが上記予め定められた距離に等しいことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、装置の小型化に寄与する分光素子を利用した分光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る分光装置の概略的な構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施例に係る一次元分光素子の平面図である。
図3】一次元分光素子を備えた分光装置による測定をシミュレートした結果を示すグラフである。
図4】第1実施例に係る一次元分光素子を備えた分光装置による測定の結果を示すグラフである。
図5】第1実施例に係る一次元分光素子を備えた分光装置による測定の結果と該測定をシミュレートした結果との一致の程度を示すグラフである。
図6】本発明の第2実施例に係る二次元分光素子の平面図である。
図7】二次元分光素子を備えた分光装置による測定をシミュレートした結果を示すグラフである。
図8】第2実施例に係る二次元分光素子を備えた分光装置による測定の結果を示すグラフである。
図9】本発明の第3実施例に係る二次元分光素子を備えた分光装置による測定をシミュレートした結果を示すグラフである。
図10】本発明の第4実施例に係る一次元分光素子を備えた分光装置による測定をシミュレートした結果を示すグラフである。
図11】本発明の第5実施例に係る一次元分光素子を備えた分光装置による測定をシミュレートした結果を示すグラフである。
図12】本発明の第6実施例に係る分光装置による測定をシミュレートした結果を示すグラフであって、(A)は一次元分光素子の全面を使用した場合、(B)は一次元分光素子の一部を遮光して不使用とした場合である。
図13】本発明の第6実施例に係る分光装置による別の測定をシミュレートした結果を示すグラフであって、(A)は一次元分光素子の全面を使用した場合、(B)は一次元分光素子の一部を遮光して不使用とした場合である。
図14】本発明の変形例に係る分光装置の概略的な構成を示す図である。
図15】前分光方式を採用した従来の分光装置の概略的な構成を示す図である。
図16】後分光方式を採用した従来の分光装置の概略的な構成を示す図である。
図17】代表的なフレネルレンズの構成を示す図であって、(A),(B)は振幅型フレネルレンズ、(C),(D)は位相型フレネルレンズである。
図18】フレネルレンズを利用した従来の分光装置の概略的な構成を示す図である。
図19】フレネルレンズを利用した従来の別の分光装置の概略的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、図1を参照しながら、本発明に係る分光装置1について説明する。なお、以下の説明において、X軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交するものとする。
【0023】
図1に示すように、分光装置1は、入射光L1に対応する回折光L2を生じさせる分光素子2と、回折光L2を受光するとともに該回折光L2に対応する電気信号を適当な処理装置4に向けて出力する受光部3とを備えている。
【0024】
分光素子2は、XY平面上にある回折面2aを有し、受光部3は、XY平面上にある受光面3aを有している。また、回折面2aを基準とした受光面3aのZ軸方向における位置は、Zrである。言い換えると、回折面2aおよび受光面3aは、互いに平行であり、かつZrだけ離間している。位置Zrは、調整可能になっていることが好ましい。
【0025】
分光素子2は、実施例毎に構成が異なる。ただし、いずれの実施例においても、回折面2aの中心は、XY平面の原点(0,0)にあることを基本とするが、必要に応じてX軸またはY軸方向にオフセットさせてもよい。
【0026】
受光部3は、例えば、CMOSカメラまたはCCDカメラからなる。処理装置4は、例えば、ディスプレイ付きのコンピュータ等からなる。また、入射光L1は、ランプ等の光源からの光であってもよいし、ランプ等の光源からの光を測定対象物に照射したときに生じる透過光または反射光であってもよいし、環境光であってもよい。
【0027】
続いて、図2図13を参照しながら、本発明に係る分光素子および該素子を備えた分光装置の実施例について説明する。
【0028】
[第1実施例]
第1実施例では、分光素子2として、図2に示すような複数の帯構造B1p,B2p,B3p,B4p・・・および帯構造B1n,B2n,B3n,B4n・・・を回折面2aに形成してなる振幅型の一次元分光素子(フレネルレンズ)を使用した。同図から明らかなように、帯構造B1p,B2p,B3p,B4p・・・はX>0の領域にあり、帯構造B1n,B2n,B3n,B4n・・・はX<0の領域にある。また、帯構造B2p,B2n,B4p,B4n・・・には、遮光性を有する材料からなる層が設けられているが、帯構造B1p,B1n,B3p,B3n・・・には、そのような層は設けられていない。
【0029】
本実施例に係る分光素子2は、波長λ=535nmにおける焦点距離fが23mmになるように、定数aが80μmに設定されている([1]式参照)。また、帯構造B1p,B2p,B3p,B4p・・・および帯構造B1n,B2n,B3n,B4n・・・の境界は、[2]式の代わりに使用する[4]式中のrと[3]式から求めたrとが一致するときの座標(x,0)を通る、Y軸に平行な直線を描く。
【数4】
ここで、Nは、帯構造B1p,B2p,B3p,B4p・・・および帯構造B1n,B2n,B3n,B4n・・・をY軸に対して非対称なものとするための非対称変数である。本実施例では、非対称変数Nを150に設定した。
【0030】
X>0の領域では、[4]式中のrが[5]式によって求められるrよりもNxの項の分だけ大きくなる。一方、X<0の領域では、[4]式中のrが[5]式によって求められるrよりもNxの項の分だけ小さくなる。このため、図2に示すように、X>0の領域にある帯構造B1p,B2p,B3p,B4p・・・の幅は、X<0の領域にある帯構造B1n,B2n,B3n,B4n・・・の幅よりも、Y軸から遠ざかるにつれて緩やかに減少していく。
【数5】
【0031】
また、本実施例では、入射光L1として、強度が最大となる波長λがそれぞれ450nm、550nmおよび650nmである3つの光を使用した。
【0032】
図3に、本実施例に係る分光素子2を使用した測定のシミュレーション結果(G)~(I)と、非対称変数Nを0,75とした比較例に係る分光素子2を使用した測定のシミュレーション結果(A)~(F)とを示す。シミュレーション結果を示す各グラフの横軸は、X軸方向における測定位置(単位はμm)を示しており、縦軸は、Z軸方向における測定位置、すなわち図1における位置Zr(単位はmm)を示している。また、各グラフにおける2.5mm刻みの15本の線の振動は、その位置における回折光L2の強度を示している。なお、Y軸方向における測定位置は0mmである。
【0033】
本実施例におけるシミュレーション結果(G)~(I)と、比較例におけるシミュレーション結果(A)~(F)との比較から明らかなように、本実施例によれば、各波長の回折光L2をX>0の領域に集光することができる。
【0034】
また、本実施例によれば、シミュレーション結果(G)~(I)の比較から明らかなように、各位置Zrにおいて各波長の回折光L2の集光点がX軸方向に空間的に分離される。例えば、本実施例によれば、図4に示した測定結果から明らかなように、位置Zr=13mmにおいて、X=750μm付近で波長λ=450nmの回折光L2の強度を選択的に測定することができる。同様に、本実施例によれば、位置Zr=13mmにおいて、波長λ=550nmの回折光L2の強度をX=400μm付近で選択的に測定することができ、波長λ=650nmの回折光L2の強度をX=150μm付近で選択的に測定することができる。
【0035】
なお、図4に示した測定結果は、シミュレーション結果と概ね一致する(図5参照)。ただし、図3および図5を得るためのシミュレーションでは、入射光L1としての波長λ=450nm,550nm,650nmの光の半値幅を無限に小さく設定したのに対し、図4および図5を得るための測定では、入射光L1としての波長λ=450nm,550nm,650nmの光の半値幅を10nmに設定した。
【0036】
このように、本実施例に係る分光素子2によれば、非常にシンプルな構成でありながら集光機能と分光機能を同時に実現することができる。このため、本実施例に係る分光素子2を使用すれば、集光機能を有していない素子では分光スペクトルを取得し得ないような微弱な入射光L1の分光計測が可能になる。この効果は、位相型の素子(図17(C),(D)参照)において特に顕著である。
【0037】
また、本実施例に係る分光装置1によれば、回折面2aに極めて近いところ、言い換えると、位置Zrが極めて小さいところで各波長の回折光L2がX軸方向に分離されるように分光素子2を設計することにより、装置の小型化を実現することができる。
【0038】
なお、図4および図5に示したグラフの横軸は、X軸方向における測定位置(単位はμm)を示しており、縦軸は、無次元の光の強度を示している。図8図13に示したグラフについても同様である。
【0039】
[第2実施例]
第2実施例では、分光素子2として、図6に示すような複数の帯構造B,B,B,B,B・・・を回折面2aに形成してなる振幅型の二次元分光素子(フレネルレンズ)を使用した。同図から明らかなように、帯構造B,B,B,B,B・・・は、回折面2aの中心を取り囲む環状を有し、X軸に対しては対称であるが、Y軸に対しては非対称である。また、帯構造B,B,B・・・には、遮光性を有する材料からなる層が設けられているが、帯構造B,B・・・には、そのような層は設けられていない。
【0040】
本実施例に係る分光素子2は、波長λ=535nmにおける焦点距離fが50mmになるように、定数aが116μmに設定されている([1]式参照)。また、帯構造B,B,B,B,B・・・の境界は、[2]式に代わる[6]式中のrと[3]式から求めたrとが一致するときの座標(x,y)によって規定される、偏芯した円を描く。
【数6】
ここで、Nは、帯構造B,B,B,B,B・・・をY軸に対して非対称なものとするための非対称変数である。本実施例では、非対称変数Nを150に設定した。
【0041】
X>0の領域では、[6]式中のrが[2]式によって求められるrよりもNxの項の分だけ大きくなる。一方、X<0の領域では、[6]式中のrが[2]式によって求められるrよりもNxの項の分だけ小さくなる。このため、図6に示すように、X>0の領域にある帯構造B,B,B,B,B・・・の幅は、X<0の領域にあるものよりも、Y軸から遠ざかるにつれて緩やかに減少していく。
【0042】
また、本実施例では、入射光L1として、強度が最大となる波長λがそれぞれ450nm、550nmおよび650nmである3つの光を使用した。
【0043】
図7に、本実施例に係る分光素子2を使用した測定のシミュレーション結果(G)~(I)と、非対称変数Nを0,75とした比較例に係る分光素子2を使用した測定のシミュレーション結果(A)~(F)とを示す。シミュレーション結果を示す各グラフの横軸は、X軸方向における測定位置(単位はμm)を示しており、縦軸は、Z軸方向における測定位置、すなわち図1における位置Zr(単位はmm)を示している。また、各グラフにおける5mm刻みの15本の線の振動は、その位置における回折光L2の強度を示している。なお、Y軸方向における測定位置は0mmである。
【0044】
本実施例におけるシミュレーション結果(G)~(I)と、比較例におけるシミュレーション結果(A)~(F)との比較から明らかなように、本実施例によれば、第1実施例と同様に、各波長の回折光L2をX>0の領域に集光することができる。
【0045】
また、本実施例によれば、シミュレーション結果(G)~(I)の比較から明らかなように、第1実施例と同様に、各位置Zrにおいて、各波長の回折光L2の集光点をX軸方向に空間的に分離させることができる。
【0046】
図8に、定数aを340μmに設定した以外は第2実施例と同一の構成とした比較例における測定結果を示す。この結果は、位置Zrを41mmとした場合、および62mmとした場合のいずれにおいても、各波長の回折光L2の集光点がX軸方向に空間的に分離していることを示している。
【0047】
なお、図7を得るためのシミュレーションでは、入射光L1としての波長λ=450nm,550nm,650nmの光の半値幅を無限に小さく設定した。また、図8を得るための測定では、入射光L1としての波長λ=450nm,550nm,650nmの光の半値幅を10nmに設定した。
【0048】
[第3実施例]
第3実施例に係る分光素子2(フレネルレンズ)は、振幅型ではなく位相型の二次元分光素子である点、波長λ=580nmにおける焦点距離fが15mmになるように定数aを66μmに設定した点、および[6]式に代わる[7]式を用いて、非対称変数N,N,Nをそれぞれ0.1605,1,109.95に設定した点において、第2実施例に係る二次元の分光素子2と相違している。
【数7】
【0049】
また、本実施例では、入射光L1として、強度が最大となる波長λがそれぞれ380nm、580nmおよび780nmであり、かつ半値幅が無限に小さい3つの光を使用した。
【0050】
図9に、本実施例に係る分光素子2を使用した、位置Zr=31mmにおける測定をシミュレートした結果を示す。この結果は、各波長の回折光L2の集光点がX軸方向に空間的にほぼ完全に分離していることを示している。
【0051】
[第4実施例]
第4実施例に係る分光素子2(フレネルレンズ)は、非対称変数NをX>0の領域においては50に設定するとともにX<0の領域においては100に設定した点において、第1実施例に係る一次元の分光素子2と相違している。
【0052】
また、本実施例では、入射光L1として、強度が最大となる波長λがそれぞれ450nm、550nmおよび650nmであり、かつ半値幅が無限に小さい3つの光を使用した。
【0053】
図10に、本実施例に係る分光素子2を使用した、位置Zr=31mmにおける測定をシミュレートした結果を示す。この結果は、各波長の回折光L2の集光点がX軸方向に空間的に良好に分離していることを示している。
【0054】
[第5実施例]
第5実施例に係る分光素子2(フレネルレンズ)は、波長λ=535nmにおける焦点距離fが23mmになるように定数aを80μmに設定した点、および[4]式に代わる[8]式を用いて、非対称変数Nを900に設定した点において、第1実施例に係る一次元の分光素子2と相違している。
【数8】
【0055】
また、本実施例では、入射光L1として、強度が最大となる波長λがそれぞれ450nm、550nmおよび650nmであり、かつ半値幅が無限に小さい3つの光を使用した。
【0056】
図11に、本実施例に係る分光素子2を使用した、位置Zr=13mmにおける測定をシミュレートした結果を示す。この結果は、各波長の回折光L2の集光点がX軸方向に空間的に良好に分離していることを示している。
【0057】
[第6実施例]
第6実施例に係る分光装置1は、回折面2aの一部を覆う遮光板をさらに備えている点において、一次元の分光素子2を備えた第1実施例に係る分光装置1と相違している。
【0058】
また、本実施例では、入射光L1として、強度が最大となる波長λがそれぞれ450nm、550nmおよび650nmであり、かつ半値幅が無限に小さい3つの光を使用した。
【0059】
図12(A)は、遮光版を使用しない場合の、位置Zr=37mmにおける測定をシミュレートした結果であり、図12(B)は、回折面2aのX<0の領域を遮光板で覆った場合の、位置Zr=37mmにおける測定をシミュレートした結果である。また、図13(A)は、遮光版を使用しない場合の、位置Zr=13mmにおける測定をシミュレートした結果であり、図13(B)は、回折面2aのX>0の領域を遮光板で覆った場合の、位置Zr=13mmにおける測定をシミュレートした結果である。これらの結果は、遮光板を用いると、集光点以外の位置に不要な光が生じにくくなり、分光機能が向上することを示している。
【0060】
[変形例]
以上、本発明に係る分光素子および分光装置の実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0061】
例えば、本発明は、スペクトルカメラに適用することができる。この場合は、図14に示すように、分光素子2をX軸方向およびY軸方向に並べて分光アレイ20を構成するとともに、分光素子2のそれぞれに対応する受光部3をX軸方向およびY軸方向に並べて受光アレイ30を構成すればよい。
【0062】
また、本発明は、スペクトルから求めた色度をユーザに提示する色度計に適用することもできる。
【0063】
また、分光素子2の回折面2aと受光部3の受光面3aとの間は、受光部3としてのCCDカメラまたはCMOSカメラのカバーガラスで埋められていてもよい。言い換えると、分光素子2は、受光部3としてのCCDカメラまたはCMOSカメラのカバーガラスに貼り合わされていてもよい。この構成によれば、非常に小型の分光装置を実現することができる。
【0064】
この場合、CCDカメラまたはCMOSカメラは、スマートフォンに搭載されたカメラであることが好ましい。この構成によれば、専用のアプリケーションを実行することにより、当該スマートフォンを分光装置として使用したり、色度計として使用したりすることができる。
【0065】
また、本発明に係る分光素子2は、図17(A),(B)に示した振幅型フレネルレンズ200または図17(C),(D)に示した位相型フレネルレンズ201を改良したものに限定されず、階調(厚み)を3以上にした位相型フレネルレンズ(いわゆる、ブレーズドフレネルレンズ)を改良したものであってもよい。このような分光素子2によれば、より高度に位相を制御することができる。
【0066】
また、本発明に係る二次元の分光素子2の帯構造B,B,B,B,B・・・(図6参照)は、Y軸のみならずX軸に対しても非対称であってもよい。このような分光素子2を設計する場合は、例えば、[6]式の代わりに[9]式を用いればよい。
【数9】
ここで、Nは、Y軸に対する非対称の度合いを決定づける非対称係数であり、Nは、X軸に対する非対称の度合いを決定づける非対称係数である。
【0067】
また、第1実施例および第4~第6実施例に係る一次元の分光素子2(図2参照)は、帯構造B2p,B2n,B4p,B4n・・・ではなく帯構造B1p,B1n,B3p,B3n・・・が遮光性を有していてもよい。同様に、第2,第3実施例に係る二次元の分光素子2(図6参照)は、帯構造B,B,B・・・ではなく帯構造B,B・・・が遮光性を有していてもよい。つまり、本発明に係る分光素子2は、遮光性を有する帯構造と透光性を有する帯構造とが交互に並んでさえいればよい。
【0068】
また、一次元の分光素子2に形成された帯構造B1p,B2p,B3p,B4p・・・および帯構造B1n,B2n,B3n,B4n・・・を非対称化させるための[4],[8]式、および二次元の分光素子2に形成された帯構造B,B,B,B,B・・・を非対称化させるための[6],[7],[9]式は、単なる一例に過ぎない。本発明では、これらの式の代わりに、X>0の領域における帯構造の幅の減少がX<0の領域における帯構造の幅の減少よりも緩やかになるような任意の式を使用して分光素子2を設計してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 分光装置
2 分光素子
2a 回折面
3 受光部
3a 受光面
4 処理装置
1p,B2p,B3p,B4p (一次元分光素子の)帯構造
1n,B2n,B3n,B4n (一次元分光素子の)帯構造
,B,B,B,B (二次元分光素子の)帯構造
L1 入射光
L2 回折光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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