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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】被加工物の研削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20221212BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01L21/304 631
B24B7/04 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018221865
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020088215
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】松澤 稔
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-038267(JP,A)
【文献】特開2008-109006(JP,A)
【文献】特開2018-062051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0207108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に互いに交差する複数の分割予定ラインが設定され、該複数の分割予定ラインにより区画された各領域にデバイスが形成された被加工物の裏面側を円板状の研削ホイールの下面の外周部に装着された研削砥石で研削する被加工物の研削方法であって、
該被加工物の表面に保護部材を貼着する保護部材貼着ステップと、
該被加工物の表面側を下方に向け、該研削ホイールの下方に配されたチャックテーブルの上方に露出した保持面上に該保護部材を介して該被加工物を載せ、該チャックテーブルに該被加工物を保持させる保持ステップと、
該研削ホイールと、該チャックテーブルと、を相対的に移動させ、該研削砥石の底面の該研削ホイールの径方向外側の外周部を該チャックテーブルに保持された該被加工物の該裏面の外周部の上方に位置付ける偏摩耗準備ステップと、
該研削ホイールを回転させ、該チャックテーブルを該保持面の中心を通る回転軸の周りに回転させ、該研削ホイールを下降させ、該研削砥石の該底面を該被加工物の該裏面に当接させることにより、該被加工物の該裏面の該外周部を研削するとともに該研削砥石の該外周部を摩耗させる偏摩耗ステップと、
該研削ホイールを回転させた際に該偏摩耗ステップにおいて該底面の該外周部が偏摩耗した該研削砥石が該チャックテーブルの該回転軸を通過するように該研削ホイールと、該チャックテーブルと、を相対的に移動させる裏面研削準備ステップと、
該研削ホイールを回転させ、該チャックテーブルを該回転軸の周りに回転させ、該研削ホイールを下降させ、該研削砥石により該被加工物の該裏面を研削する裏面研削ステップと、
を備え
該偏摩耗ステップでは、該研削ホイールを水平方向に移動させることを特徴とする被加工物の研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を研削する研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスチップは、例えば、円板状のシリコンウェーハから製造される。円板状のウェーハの表面にIC(Integrated Circuit)やLSI(Large Scale Integrated Circuit)等の複数のデバイスを形成し、ウェーハをデバイス毎に分割すると、個々のデバイスチップを得られる。
【0003】
近年、デバイスチップが搭載される電子機器の小型化及び薄型化の傾向が著しく、デバイスチップの薄型化に対する要求も高まっている。薄型のデバイスチップを製造するには、例えば、ウェーハをデバイス毎に分割する前にウェーハを裏面側から研削して該ウェーハを薄化する。
【0004】
ウェーハの研削には、チャックテーブルと、研削ユニットと、を備える研削装置が使用される。チャックテーブルは、上面に被加工物が載せられる保持面を有し、保持面上に載せられた被加工物を保持する機能を有する。表面側にデバイスが形成されたウェーハを裏面側から研削する際には、予めウェーハの表面を保護する保護テープを該表面に貼着する。そして、表面側を下方にむけて保護テープを介してウェーハをチャックテーブルの保持面上に載せる。すると、該ウェーハの裏面が上方に露出される。
【0005】
研削装置の研削ユニットは、チャックテーブルの保持面に垂直な方向に沿った回転軸を構成するスピンドルと、該スピンドルの下端に固定された円環状の研削ホイールと、を備える。研削ホイールの下面の外周部には、例えば、複数の研削砥石が環状に並ぶように装着されている。スピンドルを回転させて研削ホイールを回転させ、研削ユニットをウェーハの裏面側に向けて下降させると、研削砥石がウェーハの裏面に当たり、ウェーハが研削される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-209080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
研削砥石は、ダイヤモンド等で形成された砥粒と、該砥粒を分散保持する結合材と、からなる。研削砥石を被加工物に接触させて被加工物を研削すると砥粒の欠けや脱落が生じるが、研削により結合材が適度に摩耗して新しい砥粒が次々に表出するため、研削砥石の研削能力は維持される。この作用は、自生発刃と呼ばれる。
【0008】
近年、デバイスチップはSiCやサファイア等の硬度の高いウェーハから製造される場合がある。硬度の高い被加工物を研削装置で研削すると、研削砥石の研削能力が急速に低下して、研削ホイールを回転させるスピンドルや被加工物に過大な負荷がかかるようになる。
【0009】
例えば、研削砥石の形状を変更して該研削砥石の被加工物への接触面積を小さくすると、結合材の摩耗がより積極的に進行するため、該研削砥石の自生発刃が促進されて研削能力が維持される。しかしながら、被加工物への接触面積を小さくするために研削砥石の形状を変更し、被加工物に接触する接触面に平行な各断面における断面積を一様に小さくすると、該研削砥石自体の強度が低下する。そのため、被加工物の研削時に該研削砥石の破損や欠損が生じるおそれがある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被加工物に対する研削砥石の接触面積を小さくしつつも研削砥石の強度を高く維持できる被加工物の研削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によると、表面に互いに交差する複数の分割予定ラインが設定され、該複数の分割予定ラインにより区画された各領域にデバイスが形成された被加工物の裏面側を円板状の研削ホイールの下面の外周部に装着された研削砥石で研削する被加工物の研削方法であって、該被加工物の表面に保護部材を貼着する保護部材貼着ステップと、該被加工物の表面側を下方に向け、該研削ホイールの下方に配されたチャックテーブルの上方に露出した保持面上に該保護部材を介して該被加工物を載せ、該チャックテーブルに該被加工物を保持させる保持ステップと、該研削ホイールと、該チャックテーブルと、を相対的に移動させ、該研削砥石の底面の該研削ホイールの径方向外側の外周部を該チャックテーブルに保持された該被加工物の該裏面の外周部の上方に位置付ける偏摩耗準備ステップと、該研削ホイールを回転させ、該チャックテーブルを該保持面の中心を通る回転軸の周りに回転させ、該研削ホイールを下降させ、該研削砥石の該底面を該被加工物の該裏面に当接させることにより、該被加工物の該裏面の該外周部を研削するとともに該研削砥石の該外周部を摩耗させる偏摩耗ステップと、該研削ホイールを回転させた際に該偏摩耗ステップにおいて該底面の該外周部が偏摩耗した該研削砥石が該チャックテーブルの該回転軸を通過するように該研削ホイールと、該チャックテーブルと、を相対的に移動させる裏面研削準備ステップと、該研削ホイールを回転させ、該チャックテーブルを該回転軸の周りに回転させ、該研削ホイールを下降させ、該研削砥石により該被加工物の該裏面を研削する裏面研削ステップと、を備え、該偏摩耗ステップでは、該研削ホイールを水平方向に移動させることを特徴とする被加工物の研削方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る被加工物の研削方法では、裏面研削ステップを実施する前に、研削砥石の底面の外周部で被加工物の外周部を研削することにより該研削砥石の底面の外周部を摩耗させる偏摩耗ステップを実施する。被加工物の裏面を研削する際に偏摩耗した研削砥石を使用すると、偏摩耗していない研削砥石を使用する場合と比較して、研削砥石と、被加工物と、の接触面積が小さくなる。
【0013】
したがって、研削砥石が積極的に摩耗するため、研削砥石の自生発刃が促進される。研削砥石の自生発刃が促進されると研削砥石の研削能力が低下しにくくなるため、硬い被加工物を研削する場合においてもスピンドルに過大な負荷がかかりにくい。
【0014】
ここで、底面の外周部が摩耗して被加工物に対する接触面積が小さくなった研削砥石は、偏摩耗ステップにおいて除去された部分以外の主要な部分は残存しているため、強度が十分に保たれる。例えば、被加工物に対する接触面積が偏摩耗した該研削砥石と同等となる一様に小さな断面積を有する研削砥石と比較すると、偏摩耗した該研削砥石は、被加工物の研削時に破損や欠損が生じにくい。
【0015】
したがって、本発明の一態様によると、被加工物に対する研削砥石の接触面積を小さくしつつも研削砥石の強度を高く維持できる被加工物の研削方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】保護部材貼着ステップを模式的に示す斜視図である。
図2図2(A)は、偏摩耗ステップを模式的に示す斜視図であり、図2(B)は、偏摩耗ステップを模式的に示す断面図である。
図3図3(A)は、偏摩耗ステップの実施後の状態を模式的に示す斜視図であり、図3(B)は、偏摩耗ステップの実施後の状態を模式的に示す断面図である。
図4図4(A)は、偏摩耗ステップを実施する前の研削砥石を模式的に示す断面図であり、図4(B)は、偏摩耗した研削砥石の一例を模式的に示す断面図であり、図4(C)は、偏摩耗した研削砥石の一例を模式的に示す断面図であり、図4(D)は、偏摩耗した研削砥石を模式的に示す断面図である。
図5図5(A)は、研削ステップを模式的に示す斜視図であり、図5(B)は、研削ステップを模式的に示す断面図である。
図6図6(A)は、研削ステップの実施後の状態を模式的に示す斜視図であり、図6(B)は、研削ステップの実施後の状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る被加工物の研削方法により研削される被加工物について説明する。図1には、被加工物1を模式的に示す斜視図が示されている。
【0018】
被加工物1は、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。該ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等である。
【0019】
被加工物1の表面1aには、互いに交差する複数の分割予定ライン3が設定される。被加工物1の表面1aの分割予定ライン3により区画された各領域には、例えば、ICやLSI等のデバイス5が形成される。ただし、被加工物1はこれに限定されない。被加工物1の材質、形状、構造、大きさ等に制限はなく、被加工物1にはデバイス5が形成されていなくてもよい。
【0020】
被加工物1を分割予定ライン3に沿って分割すると、それぞれデバイス5を搭載する個々のデバイスチップが形成される。被加工物1を分割する際は、例えば、分割予定ライン3に沿って被加工物1をレーザ加工して分割溝を形成する。または、例えば、円環状の切刃を有する切削ブレードを切り込ませることで被加工物1を分割予定ライン3に沿って切削する。
【0021】
近年、デバイスチップが搭載される電子機器の小型化や薄型化の傾向が著しく、これに伴い、該電子機器に搭載されるデバイスチップに対しても薄型化の要求が高まっている。薄型のデバイスチップを製造する際には、表面1a側に複数のデバイス5が形成された被加工物1を分割する前に、予め被加工物1を裏面1b側から研削して被加工物1を薄化する。
【0022】
次に、被加工物1を研削する研削装置について説明する。図2(A)には、研削装置を模式的に示す斜視図が示されている。研削装置は、被加工物1を保持するチャックテーブル12と、チャックテーブル12の上方に配された研削ユニット2と、を有する。チャックテーブル12は、例えば、上面に多孔質部材(不図示)を備え、一端が該多孔質部材に通じている吸引路(不図示)を内部に備える。
【0023】
該吸引路の他端には図示しない吸引源が接続されている。チャックテーブル12の該多孔質部材の上に被加工物1を載せ、該吸引源を作動させると、該吸引路及び該多孔質部材を通じて被加工物1に負圧が作用し、被加工物1がチャックテーブル12に吸引保持される。すなわち、該多孔質部材の上面が被加工物1を保持する保持面12aとなる。
【0024】
なお、研削ユニット2と、チャックテーブル12と、は保持面12aに平行な方向に相対的に移動可能である。また、チャックテーブル12は、保持面12aに垂直な回転軸12b(図2(B)等参照)の周りに回転可能である。
【0025】
研削ユニット2は、スピンドル4と、スピンドル4の下端に固定されたホイールマウント6とを有する。スピンドル4には、該スピンドル4の伸長方向(上下方向)に沿った該回転軸4a(図2(B)等参照)の周りに該スピンドル4を回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が接続されている。
【0026】
例えば、ホイールマウント6の径はスピンドル4の径よりも大きく、ホイールマウント6の下面には円板状の研削ホイール8が装着されている。研削ホイール8には、該研削ホイール8の中央を上下に貫く貫通孔が形成されていてもよい。ホイールマウント6の外周部には、ボルト等の固定具6aが通る複数の貫通孔が形成されている。該貫通孔に通された固定具6aによりホイールマウント6の下面に研削ホイール8が固定される。スピンドル4を該回転軸4aの周りに回転させると、研削ホイール8が回転する。
【0027】
研削ホイール8の下面の径方向外側には、外周に沿って環状に並ぶように複数の研削砥石10が装着されている。または、研削ホイール8の下面の径方向外側には、円環状の研削砥石10が装着されていてもよい。研削砥石10は、ダイヤモンド等の材料で形成された微細な砥粒と、該砥粒が分散保持された結合材と、を有する。
【0028】
被加工物1の裏面1b側を研削する際には、チャックテーブル12と、スピンドル4と、をそれぞれ回転させて、研削ユニット2を下降させて被加工物1の裏面1bに研削砥石10を接触させる。被加工物1を研削すると砥粒の欠けや脱落が生じるが、研削により結合材が適度に摩耗して新しい砥粒が次々に表出するため、研削砥石10の研削能力は維持される。この作用は、自生発刃と呼ばれる。
【0029】
近年、デバイスチップは硬度の高いウェーハから製造される場合がある。硬度の高い被加工物1を研削装置で研削すると、研削砥石10の研削能力が急速に低下して、研削ホイール8を回転させるスピンドル4や被加工物1に過大な負荷がかかるようになる。そこで、以下に説明する本実施形態に係る被加工物の研削方法により、被加工物1を研削する。
【0030】
次に、本実施形態に係る被加工物の研削方法の各ステップについて説明する。該研削方法では、まず、被加工物1の表面1aに保護部材を貼着する保護部材貼着ステップS1を実施する。図1は、保護部材貼着ステップS1を模式的に示す斜視図である。保護部材貼着ステップS1では、被加工物1の裏面1b側を研削する間、被加工物1の表面1aに形成されたデバイス5等を保護する保護部材7を被加工物1の表面1a側に貼着する。
【0031】
被加工物1の表面1a側に貼着される保護部材7は、例えば、一方の面に糊層を備える円板状の粘着テープであり、被加工物1の表面1aと同等の径を有する部材である。保護部材7を被加工物1の表面1aに貼着すると、次に説明する保持ステップS2において、被加工物1は保護部材7を介してチャックテーブル12に保持されることとなる。
【0032】
保護部材貼着ステップS1を実施した後、保持ステップS2を実施する。保持ステップS2では、被加工物1の表面1a側を下方に向け、チャックテーブル12の上方に露出した保持面12a上に保護部材7を介して被加工物1を載せる。そして、チャックテーブル12の吸引源を作動させ、被加工物1に負圧を作用させてチャックテーブル12に被加工物1を保持させる。保持ステップS2を実施すると、被加工物1の裏面1b側が上方に露出される。
【0033】
本実施形態に係る被加工物の研削方法では、次に、偏摩耗準備ステップS3を実施する。偏摩耗準備ステップS3では、研削ユニット2の研削ホイール8と、チャックテーブル12と、を相対的に移動させて、偏摩耗ステップS4の準備を実施する。
【0034】
偏摩耗準備ステップS3では、研削砥石10の底面の外周部をチャックテーブル12に保持された被加工物1の裏面1bの外周部1cの上方に位置付ける。図4(A)に、偏摩耗をさせる前の研削砥石10の断面図を示す。ここで、研削砥石10の底面10aの外周部10bとは、研削ホイール8の径方向10cの外側の領域をいい、スピンドル4を回転させた際に回転軌道上を移動する研削砥石10の外側の領域である。
【0035】
次に、偏摩耗ステップS4を実施する。図2(A)は、偏摩耗ステップS4を模式的に示す斜視図であり、図2(B)は、偏摩耗ステップS4を模式的に示す断面図である。図2(B)には、研削砥石10の断面図と、被加工物1の断面図と、が示されている。偏摩耗ステップS4では、まず、回転軸4aの周りにスピンドル4を回転させて研削ホイール8を回転させ、また、チャックテーブル12を保持面12aの中心を通る回転軸12bの周りに回転させる。
【0036】
次に、研削ホイール8を下降させ、研削砥石10の底面10a(図4(A)等参照)を被加工物1の裏面1bに当接させる。この場合、偏摩耗ステップS4を実施する前に偏摩耗準備ステップS3を実施しているため、研削砥石10の底面10aの外周部10b(図4(A)等参照)が被加工物1の裏面1bの外周部1cに接触することとなる。すなわち、被加工物1の裏面1bの外周部1cが研削される。このとき、被加工物1の裏面1bの外周部1cに接触する研削砥石10の外周部10bが摩耗する。
【0037】
偏摩耗ステップS4では、研削ホイール8を所定の高さ位置まで下降させる。図3(A)は、偏摩耗ステップS4を実施した後の状態を模式的に示す斜視図であり、図3(B)は、偏摩耗ステップS4を実施した後の状態を模式的に示す断面図である。また、図4(A)は、偏摩耗ステップS4を実施する前の研削砥石10を模式的に示す断面図であり、図4(B)は、偏摩耗ステップS4を実施した後の研削砥石10の一例を模式的に示す断面図である。
【0038】
偏摩耗ステップS4を実施すると、研削砥石10の底面10aの外周部10bが摩耗する。このように、研削砥石10の底面10aが一様でない態様で摩耗することを偏摩耗と呼ぶ。研削砥石10を偏摩耗させると、底面10aの面積が減少する。研削砥石10を所定の量だけ偏摩耗させた後、研削ユニット2を上昇させて偏摩耗ステップS4を終了する。
【0039】
なお、偏摩耗ステップS4では、被加工物1から形成されるデバイスチップの仕上がり厚さ以上の厚さが被加工物1の表面1a側に残存するように裏面1bの外周部1cを研削する。換言すると、偏摩耗ステップS4における研削加工の深さは、被加工物1の厚さから該デバイスチップの仕上がり厚さを引いた厚さ以下に設定される。
【0040】
本実施形態に係る被加工物の研削方法では、次に、裏面研削準備ステップS5を実施する。その後の裏面研削ステップS6では、チャックテーブル12の回転軸12bを通過するように、研削砥石10に回転軌道上を移動させる。裏面研削準備ステップS5では、研削ホイール8を回転させた際に研削砥石10がチャックテーブル12の回転軸12bを通過するように研削ホイール8と、チャックテーブル12と、を相対的に移動させる。
【0041】
次に、被加工物1の裏面1b側を研削する裏面研削ステップS6を実施する。図5(A)は、裏面研削ステップS6を模式的に示す斜視図であり、図5(B)は、裏面研削ステップS6を模式的に示す断面図である。図5(B)には、研削砥石10の断面図と、被加工物1の断面図と、が示されている。裏面研削ステップS6では、まず、回転軸4aの周りにスピンドル4を回転させて研削ホイール8を回転させ、また、チャックテーブル12を保持面12aの中心を通る回転軸12bの周りに回転させる。
【0042】
次に、研削ホイール8を下降させ、研削砥石10の底面10a(図4(A)等参照)を被加工物1の裏面1bに当接させる。裏面研削ステップS6を実施する前に裏面研削準備ステップS5を実施しているため、研削砥石10が被加工物1の裏面1bの中央の上を通り回転移動する。
【0043】
裏面研削ステップS6では、被加工物1の裏面1bの偏摩耗ステップS4で研削された外周部1c以外の領域が研削砥石10により研削される。裏面研削ステップS6が進行すると、被加工物1の裏面1bが研削されて被加工物1が薄化されていくとともに、該被加工物1に接触する研削砥石10の外周部10bを除いた底部が摩耗していく。
【0044】
裏面研削ステップS6が進行すると、被加工物1の裏面1bの高さが外周部1cと、外周部1c以外の領域と、で等しくなる。さらに研削を継続する場合、その後は被加工物1の裏面1bの全体が研削される。また、裏面研削ステップS6が進行すると、研削砥石10の底面10aの高さが外周部10bと、その他の領域と、で等しくなる。さらに研削を継続する場合、その後は研削砥石10の底面10aの全体が被加工物1の裏面1bに接触する。
【0045】
被加工物1の厚さが予定された仕上がり厚さとなるまで研削ユニット2を下降させる。図6(A)は、研削ステップの実施後の状態を模式的に示す斜視図であり、図6(B)は、研削ステップの実施後の状態を模式的に示す断面図である。
【0046】
本実施形態に係る被加工物の研削方法では、偏摩耗準備ステップS3と、偏摩耗ステップS4と、を実施して研削砥石10の外周部10bを摩耗させた後に裏面研削ステップS6を実施する。そのため、偏摩耗準備ステップS3と、偏摩耗ステップS4と、を実施しない場合と比較して、裏面研削ステップS6においては、研削砥石10の被加工物1への接触面積が小さくなる。
【0047】
例えば、硬度の高い被加工物1を研削砥石10で研削する場合、研削砥石10の被加工物1への接触面積が大きいと、砥粒の脱落に比して結合材の摩耗が遅くなるため、自生発刃が十分に生じない。そのため、研削砥石10の研削能力が低下してスピンドル4及び被加工物1にかかる負荷が増大する。
【0048】
これに対して、本実施形態に係る被加工物の研削方法では、研削砥石10の被加工物1への接触面積が比較的小さくなるため結合材の摩耗が進行しやすく、研削砥石10の自生発刃が十分に生じる。そのため、被加工物1の裏面1bを研削する間、研削砥石10の研削能力が十分に維持され、スピンドル4に過度な負担がかからない。
【0049】
また、本実施形態に係る被加工物の研削方法では、研削砥石10の被加工物1への接触面積が比較的小さくなるが、偏摩耗ステップS4で摩耗した部分以外の部分が残るため、研削砥石10の強度も十分に保たれる。したがって、本実施形態に係る被加工物の研削方法によると、被加工物1の研削加工において、被加工物1に対する研削砥石10の接触面積を小さくしつつも研削砥石10の強度を高く維持できる。
【0050】
ここで、偏摩耗ステップS4と、裏面研削ステップS6と、における研削加工の加工条件について説明する。
【0051】
偏摩耗ステップS4では、例えば、研削砥石10の底面10aの外周から2mm内側までの領域を被加工物1の裏面1bに接触させる。すなわち、被加工物1の裏面1bの外周部1cの外周から2mm内側までの領域が研削される。また、偏摩耗ステップS4では、例えば、スピンドル4の回転数を1000rpm、チャックテーブル12の回転数を151rpmに設定する。また、送り速度(研削ホイール8の下降速度)を0.5μm/sに設定する。
【0052】
裏面研削ステップS6では、例えば、スピンドル4の回転数を3000rpm、チャックテーブル12の回転数を151rpmに設定する。また、送り速度(研削ホイール8の下降速度)を0.25μm/sに設定する。さらに、被加工物1を研削加工する間、研削砥石10に研削水として2.5L/minの量の水を供給する。
【0053】
好ましくは、偏摩耗ステップS4では、裏面研削ステップS6よりも研削負荷の高い研削条件で被加工物1を研削させることで、研削砥石10の底面10aの外周部10bを積極的に摩耗させる。
【0054】
また、偏摩耗ステップS4と、裏面研削ステップS6と、を上述の条件で実施して被加工物1を研削し、また、比較のために裏面研削ステップS6のみを実施して被加工物1を研削して、研削砥石10の摩耗率を比較する試験を実施したため、結果を説明する。なお、本試験では、裏面研削ステップS6と、偏摩耗ステップS4を実施する場合における偏摩耗ステップS4と、において、被加工物1の研削量はいずれも10μmとした。被加工物1には、直径4インチのSiCウェーハを使用した。
【0055】
ここで、研削砥石10の摩耗率とは、研削砥石10の摩耗した厚さを研削加工により被加工物1を除去した厚さで割ることにより算出される値である。研削加工により被加工物1を除去した厚さは、研削加工の前後で被加工物1の厚さを比較することで算出した。また、研削砥石10の摩耗した厚さは、研削ホイール8の送り量(下降量)から、研削加工により被加工物1を除去した厚さを差し引くことで算出した。これは、研削ホイール8の送り量と、被加工物1の研削深さと、の差が研削砥石10摩耗深さとなるためである。
【0056】
試験の結果、偏摩耗ステップS4と、裏面研削ステップS6と、を実施した場合の研削砥石10の摩耗率は、230%であった。また、偏摩耗ステップS4を実施せず裏面研削ステップS6のみを実施した場合における研削砥石10の摩耗率は、160%であった。
【0057】
当該試験の結果により、偏摩耗ステップS4と、裏面研削ステップS6と、を実施した場合に研削砥石10がより摩耗することが確認された。そして、本実施形態に係る被加工物の研削方法により研削砥石10の自生発刃がより生じやすくなり、研削砥石10の研削能力が高く維持されたことが示唆された。
【0058】
なお、本発明は、上記の実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記の実施形態では、偏摩耗ステップS4において研削砥石10の外周部10bを摩耗させる際に、研削ホイール8を下降のみさせる場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。
【0059】
例えば、偏摩耗ステップS4において研削砥石10の外周部10bを摩耗させる際に、研削ホイール8を下降させるとともに、該研削ホイール8をチャックテーブル12の径方向外側に移動させてもよい。この場合、偏摩耗ステップS4を実施している間、研削砥石10の底面10aの被加工物1への接触面積が徐々に減少するため、研削砥石10の底面10aの摩耗が生じる領域と、生じない領域と、の境界に現れる壁面が底面10aに垂直にはならない。
【0060】
例えば、図4(D)には、研削ホイール8を下降させるとともに、該研削ホイール8をチャックテーブル12の径方向外側に一定の速度で移動させた場合に研削砥石10の外周部10bに現れる形状が示されている。また、図4(C)には、偏摩耗ステップS4において研削ホイール8を下降させるとともに、該研削ホイール8をチャックテーブル12の径方向外側に徐々に減速させながら移動させた場合に研削砥石10の外周部10bに現れる形状が示されている。
【0061】
このように、偏摩耗ステップS4では、研削ホイール8を下降させるとともに、該研削ホイール8を水平方向に移動させることにより、偏摩耗ステップS4において研削砥石10の外周部10bに現れる形状を制御できる。研削砥石10の外周部10bに現れる形状は、例えば、被加工物1の種類や研削砥石10のサイズ、自生発刃の生じ易さ等を考慮して決定できる。
【0062】
また、上記の実施形態では、裏面研削ステップS6が進行するにつれて、研削砥石10の底面10aの高さが外周部10bと、その他の領域と、で等しくなり、その後は研削砥石10の底面10aの全体が被加工物1の裏面1bに接触する場合について説明した。しかしながら、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、被加工物1が仕上がり厚さにまで研削され裏面研削ステップS6が完了するまでの間に研削砥石10の底面10aの高さが外周部10bと、その他の領域と、で等しくならなくてもよい。
【0063】
偏摩耗ステップS4における研削砥石10の外周部10bの摩耗量や、研削砥石10及び被加工物1の性質次第では、裏面研削ステップS6が完了した後も研削砥石10が偏摩耗した状態である場合がある。この場合、該被加工物1の次に研削加工する他の被加工物1を研削する際に、偏摩耗準備ステップS3及び偏摩耗ステップS4を省略して、偏摩耗している該研削砥石10を使用して裏面研削ステップS6を実施してもよい。
【0064】
該他の被加工物1の裏面1bを研削した後においても該研削砥石10の偏摩耗が解消されない場合、さらに他の被加工物1を研削する際に、偏摩耗準備ステップS3及び偏摩耗ステップS4を省略し偏摩耗している該研削砥石10を使用してもよい。すなわち、研削砥石10の偏摩耗が解消されない範囲で、偏摩耗準備ステップS3及び偏摩耗ステップS4を省略して複数の被加工物1を研削してもよい。
【0065】
したがって、本発明の一態様に係る被加工物の研削方法では、偏摩耗ステップS4で研削される被加工物1と、裏面研削ステップS6で研削される被加工物1と、が一致していなくてもよい。この場合においても、研削を実施する際に偏摩耗している研削砥石10を使用できるため、本発明の一態様に係る被加工物の研削方法の作用効果が享受される。
【0066】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0067】
1 被加工物(ウェーハ)
1a 表面
1b 裏面
1c 外周部
3 分割予定ライン
5 デバイス
7 保護部材
2 研削ユニット
4 スピンドル
4a 回転軸
6 ホイールマウント
6a 固定具
8 研削ホイール
10 研削砥石
10a 底面
10b 外周部
10c 径方向
12 チャックテーブル
12a 保持面
12b 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6