IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221212BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221212BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020501561
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2018068301
(87)【国際公開番号】W WO2019011786
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】17181404.9
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】エルク,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】リル,トマス ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコフ,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ロング,ブランドン レイ
(72)【発明者】
【氏名】ハーグ,ヤコブ
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157735(WO,A1)
【文献】特開2016-122546(JP,A)
【文献】特開2012-113823(JP,A)
【文献】特開平09-237631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+xTM1-x(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al及びiから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、Li1+xTM1-x少なくとも60モル%がNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質の製造方法であって、以下の工程:
(a)
(A)Mn、Co及びNiの混合酸化物又は混合オキシ水酸化物であって、前記Mn、Co及びNiの混合オキシ水酸化物は、0.1~5質量%の範囲の残留水分を有する、混合酸化物又は混合オキシ水酸化物、及び
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択された少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)Al及び/又はTiの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物
を混合する工程と
(b)工程(a)で得られた混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程であって、この熱処理が、ガスの流れ下で行われ、及び持続時間が、1~24時間の範囲である工程と
を含む、方法。
【請求項2】
金属MがTiであり、及び成分(C)が、Tiの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極活物質におけるTMが、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.85の範囲であり、
bは、0.05~0.2の範囲であり、
cは、0.05~0.2の範囲であり、
dは、0.005~0.1の範囲であり、
MはAlであり、
a+b+c=1である)
による金属の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)における前記混合が乾燥状態で実行される、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)がロータリーキルン又はローラーハースキルンで実行される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(C)がAlである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(A)がMn、Co及びNiの酸化物である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(A)が、前駆体(A)は、検出可能な量の残留水分を含まない酸化物である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前駆体(A)が、ニッケル、コバルト及びマンガンの混合水酸化物を共沈させ、次に空気下で乾燥して脱水することにより得られる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電極活物質が、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された0.1~0.8m/gの範囲の表面(BET)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
金属MがTi又はTiとAlであり、及び成分(C)が、Ti又はTiとAlの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式Li1+xTM1-x(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al、Ti及びWから選択された少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、少なくとも60モル%のTMがNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2の範囲である)による電極活物質の製造方法に関し、当該方法は以下の工程:
(a)
(A)Mn、Co及びNiの混合酸化物又はオキシ水酸化物、及び
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択された少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)Al、Ti又はWの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物
を混合する工程と
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む。
【背景技術】
【0002】
現今、リチウム化遷移金属酸化物は、リチウムイオン電池の電極活物質として使用されている。電荷密度、比エネルギーなどの特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に逆に悪い影響を及ぼすことが可能である低下したサイクル寿命及び容量損失などの他の特性も改善するために、過去数年間で幅広い研究及び開発が行われた。製造方法を改善するために、さらなる努力が行われている。
【0003】
現今議論されている多くの電極活物質は、リチウム化ニッケル-コバルト-マンガン酸化物(「NCM材料」)のタイプのものである。
【0004】
リチウムイオン電池のカソード材料の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、前駆体を、リチウム塩、例えばLiOH、LiO、又は特にLiCO(これらに限定されものではない)と混合して、高温でか焼(焼成)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。一般に前駆体の熱処理又は加熱処理とも称されるか焼又は焼成は通常、600~1000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。水酸化物又は炭酸塩を前駆体として使用する場合、固相反応の後に水又は二酸化炭素を除去する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0005】
NCM材料のアルミニウム、チタン又はタングステンなどのドーパントは、サイクル安定性及び面積固有抵抗(area specific resistance)に関して、当該NCM材料の安定性に正の影響を及ぼす。このような安定性は、出発材料として未反応の炭酸リチウムから生じるか、又は塩基性電極活物質による二酸化炭素の取り込みによって形成されるLiCOにより損なわれる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、高いサイクル安定性を有する電極活物質の製造方法を提供することを目的とした。特に、本発明は、低いLiCO含有量を有する電極活物質の製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、以下で本発明の方法又は本発明による方法とも称される、冒頭で定義された方法が見出された。以下、本発明の方法を詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の方法は、一般式Li1+xTM1-x(式中、TMがMn、Co及びNiと、Al、Ti及びWから選択される少なくとも1種のさらなる金属Mとの組合せであり、ここで、少なくとも60モル%のTMがNiであり、パーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指し、xが0~0.2、好ましくは0.01~0.05の範囲である)による電極活物質の製造方法であって、前記方法が、以下にそれぞれ工程(a)及び工程(b)とも称される以下の工程を含む。
【0009】
工程(a)は、
(A)以下にそれぞれオキシ水酸化物(A)又は酸化物(A)、又は一緒に前駆体(A)とも称される、Mn、Co及びNiの混合酸化物又はオキシ水酸化物、及び
(B)以下にリチウム塩(B)又はリチウム化合物(B)とも称される、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択された少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)以下に化合物(C)とも称される、Al、Ti又はWの酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物
を混合することを含み、
ここで、Ni、Co及びMnの合計に基づいて、少なくとも60モル%のTMがNiである。
【0010】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は、ニッケル、コバルト及びマンガンの混合水酸化物を共沈させ、次に空気下で乾燥して部分的に又は完全に脱水することにより得られる。
【0011】
前駆体(A)は、ニッケル、コバルト及びマンガンを水酸化物として共沈させ、次に酸素含有の雰囲気で乾燥させて、酸素含有の雰囲気で熱前処理することにより得られる。
【0012】
好ましくは、前駆体(A)は、ニッケル、コバルト及びマンガンの硝酸塩、酢酸塩または好ましくは硫酸塩をTMに対応する化学量論比で含有する水溶液から、ニッケル、コバルト及びマンガンを水酸化物として共沈させることにより得られる。前記共沈は、連続、半連続又はバッチプロセスで、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの添加により行われる。その後、前記共沈に続いて、母液を除去、例えば濾過し、次に水を除去する。
【0013】
さらにより好ましくは、対象の電極活物質のTMは、前駆体(A)のTMに金属Mを加えたもの(下記で説明する)と同じである。
【0014】
好ましくは、水の除去は、異なる温度での少なくとも2つのサブステップで、例えば80~150℃でのサブステップ1で、165~600℃でのサブステップ2で実行される。
【0015】
本発明の一実施態様において、水の除去は、異なる装置中で実行される。好ましくは、サブステップ1は、噴霧乾燥機、スピンフラッシュ乾燥機(spin-flash dryer)、又は接触乾燥機で実行される。サブステップ2は、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、又はボックスキルンで実行されてもよい。
【0016】
前駆体(A)は粒子状である。本発明の一実施態様において、前駆体(A)の平均粒径(D50)は、6~12μm、好ましくは7~10μmである。本発明において、平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができるように、体積に基づく粒径の平均値に関する。
【0017】
前駆体(A)の二次粒子の粒子形状は、好ましくは球状であり、それは球形を有する粒子である。球状球体には、完全に球状のものだけでなく、代表サンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下異なる粒子も含む。
【0018】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、前駆体(A)は、一次粒子の凝集体である球状二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、前駆体(A)は、球状一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状二次粒子から構成される。
【0019】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は0.5~0.9の範囲の粒径分布スパン(particle diameter distribution span)を有してもよく、該スパンは[(D90)-(D10)]を(D50)で除したように定義され、全てはレーザー分析によって決定されている。本発明の別の実施態様において、前駆体(A)は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有してもよい。
【0020】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)の表面(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って窒素吸着によって決定され、2~10m/gの範囲である。
【0021】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は、粒子の直径にわたって遷移金属ニッケル、コバルト及びマンガンの均一な分布を有してもよい。本発明の他の実施態様において、ニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも2つの分布は、不均一であり、例えばニッケルとマンガンの勾配を示すか、又はニッケル、コバルト及びマンガンの少なくとも2つの異なる濃度の層を示す。好ましくは、前駆体(A)は、粒子の直径にわたって遷移金属の均一な分布を有する。
【0022】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は、ニッケル、コバルト及びマンガン以外の元素、例えばチタン、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニオブ又はマグネシウムを、TMに基づいて例えば0.1~5モル%の量で含有してもよい。しかしながら、前駆体(A)は、ごく僅かでしかない、例えば検出レベルが0.05モル%以下の、ニッケル、コバルト及びマンガン以外の元素を含有することが好ましい。
【0023】
前駆体(A)は、微量の金属イオン、例えば微量のナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛などの遍在する金属を不純物として含有してもよいが、そのような微量は本発明の説明では考慮されない。本発明における微量とは、TMの合計金属含有量に基づいて0.05モル%以下の量を意味する。
【0024】
本発明の一実施態様において、前駆体がニッケル、コバルト及びマンガンの1種以上の硫酸塩の溶液からの共沈によって作られた場合、前駆体(A)は残留硫酸塩などの1種以上の不純物を含有する。硫酸塩は、前駆体(A)の全体に基づいて0.1~0.4質量%の範囲であってもよい。
【0025】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)のものである

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.85、好ましくは0.6~0.7の範囲であり、
bは、0.05~0.2、好ましくは0.1~0.2の範囲であり、
cは、0.05~0.2、好ましくは0.1~0.2の範囲であり、
dは、0.005~0.1の範囲であり、
MはAlであり、
a+b+c=1である)。
【0026】
本発明の好ましい実施態様において、いずれの場合にもNi、Co及びMnの合計に基づいて、少なくとも60モル%、例えば60~95モル%、より好ましくは60~90モル%、さらにより好ましくは60~80モル%のTMはNiであり、それぞれの場合のパーセンテージがNi、Co及びMnの合計を指す。具体例は、Ni0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.8Co0.1Mn0.1、及びNi0.7Co0.2Mn0.1である。
【0027】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)はTMの酸化物又はオキシ水酸化物であり、得られた電極活物質はLi1+xTM1-xであり、ここで、前駆体(A)におけるTMが、遷移金属の量に関して、電極活物質から場合によってAl、Ti、及びWから選択されたMを引いたものと同じである。
【0028】
0.1~50質量%の範囲の残留水分含有量を有するオキシ水酸化物は、前駆体(A)として特に適している。前駆体(A)において、水分含有量は100gの前駆体(A)当たりのgのHOとして計算される。この場合、HOは、ヒドロキシル基として化学的に結合されてもよいか、又は物理吸着により結合されてもよい。好ましくは、前駆体(A)における残留水分は低く、例えば0.1~5質量%である。さらにより好ましくは、前駆体(A)は、検出可能な量の残留水分を含まないTMの酸化物である。
【0029】
リチウム化合物(B)の例は、それぞれ無水物又は水和物としての、LiO、LiOH及びLiCO、該当する場合、例えばLiOH・HOである。好ましい例は水酸化リチウムである。
【0030】
好ましくは、リチウム化合物(B)は、例えば3~10μm、好ましくは5~9μmの範囲の平均直径(D50)を有する粒子状である。
【0031】
化合物(C)は、ドーパントの源として使用されてもよい。化合物(C)は、Ti、W及び特にAlの酸化物、水酸化物及びオキシ水酸化物から選択される。チタン酸リチウムも使用可能なチタン源である。化合物(C)の例は、WO、ルチル及びアナターゼから選択されたTiO(アナターゼが好ましい)、さらに、TiO(OH)などの塩基性チタニア、さらにLiTi12、WO、Al(OH)、Al、Al・aq及びAlOOHである。Al化合物、例えばAl(OH)、α-Al、γ-Al、Al・aq及びAlOOHが好ましい。さらにより好ましい化合物(C)はα-Al、γ-Alから選択されたAlであり、γ-Alが最も好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様において、化合物(C)は、1~200m/g、好ましくは50~150m/gの範囲の表面(BET)を有してもよい。表面BETは、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って窒素吸着によって決定されてもよい。
【0033】
本発明の一実施態様において、化合物(C)はナノ微結晶である。好ましくは、化合物(C)の平均結晶子径は、100nm以下、好ましくは50nm以下、さらにより好ましくは15nm以下である。最小直径は4nmであり得る。
【0034】
本発明の一実施態様において、化合物(C)は、1~10μm、好ましくは2~4μmの範囲の平均直径(D50)を有する粒子材料である。通常、化合物(C)は凝集体の形態である。その粒子直径は、前記凝集体の直径を指す。
【0035】
好ましい実施態様において、化合物(C)は、1.5モル%以下(Ni、Co及びMnの合計に基づく)、好ましくは0.1~0.5モル%の量で適用される。
【0036】
工程(a)を実行するための好適な装置の例は、高せん断ミキサー、タンブラーミキサー、プラウシェアミキサー及び自由落下ミキサーである。
【0037】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、室温から200℃まで、好ましくは20~50℃の範囲の温度で実行される。
【0038】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、10分~2時間の持続時間を有する。工程(b)で追加の混合を実行するか否かに応じて、工程(a)で完全な混合を行う必要がある。
【0039】
前駆体(A)と、リチウム化合物(B)と、化合物(C)との混合は、全部を1つの工程で、又はサブステップで、例えばまずリチウム化合物(B)及び化合物(C)を混合して当該混合物を前駆体(A)に添加することにより、又はまず前駆体(A)及びリチウム化合物(B)を混合して次に化合物(C)を添加することにより、又はまず化合物(C)及び前駆体(A)を混合して次にリチウム化合物(B)を添加することにより実行されてもよい。まず前駆体(A)及びリチウム化合物(B)を混合して次に化合物(C)を添加することが好ましい。
【0040】
工程(a)において、有機溶媒、例えばグリセロール又はグリコール、又は水を添加することが可能であるが、乾燥状態、すなわち、水又は有機溶媒を添加しないで、工程(a)を実行することが好ましい。
【0041】
混合物を得る。
【0042】
工程(b)には、前記混合物を700~1000℃、好ましくは750~925℃の範囲の温度で熱処理することを含む。
【0043】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)と、リチウム化合物(B)と、化合物(C)と、任意に溶媒(単数又は複数)との混合物は、0.1~10℃/分の加熱率で700~1000℃に加熱される。
【0044】
本発明の一実施態様において、700~1000℃、好ましくは750~900℃の所望の温度に達する前に、温度を上昇させる。例えば、まず、前駆体(A)、リチウム化合物(B)及び化合物(C)を350~550℃の温度に加熱し、その後に10分~4時間一定に維持し、その後に700~1000℃に上昇させる。
【0045】
工程(a)で少なくとも1種の溶媒を使用した実施態様において、工程(b)の一部として、又は別個に工程(b)を開始する前に、例えば当該溶媒(単数又は複数)の濾過、蒸発又は蒸留により、当該溶媒(単数又は複数)を除去する。蒸発及び蒸留が好ましい。
【0046】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は少なくとも2種の上記のものの組合せで実行される。ロータリーキルンには、その中で作られた材料が非常に良好に均質化されているという利点がある。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンにおいて、異なる工程に関する異なる反応条件は非常に簡単に設定することができる。実験室規模の試験において、箱型及び管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0047】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、酸素含有雰囲気、例えば窒素-空気混合物、希ガス-酸素混合物、空気、酸素又は酸素富化空気中で実施される。好ましい実施態様において、工程(b)における雰囲気は、空気、酸素及び酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば体積比50:50の空気と酸素の混合物であってもよい。他のオプションは、体積比1:2の空気と酸素の混合物、体積比1:3の空気と酸素の混合物、体積比2:1の空気と酸素の混合物、及び体積比3:1の空気と酸素の混合物である。
【0048】
本発明の一実施態様において、本発明の工程(b)は、例えば空気、酸素及び酸素富化空気などのガス流下で実施される。当該ガス流は、強制ガス流(forced gas flow)と呼ばれてもよい。当該ガス流は、一般式Li1+xTM1-xによる材料1kgあたり0.5~15m/hの範囲の特定の流速(specific flow rate)を有してもよい。体積は通常の条件(298ケルビン及び1気圧)で決定される。当該ガス流は、水及び二酸化炭素などのガス状分解生成物の除去に有用である。
【0049】
本発明の方法は、さらなる工程、例えば工程(b)に続いて500~1000℃の範囲の温度での追加のか焼工程(これに限定されていない)を含んでもよい。
【0050】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、1時間~30時間の範囲の持続時間を有する。10~24時間が好ましい。本発明において、冷却時間を無視する。
【0051】
工程(b)による熱処理の後、さらなる処理の前に、このようにして得られた電極活物質を冷却させる。
【0052】
本発明の方法を実行することにより、優れた特性を有する電極活物質が簡単なプロセスで入手できる。好ましくは、このようにして得られた電極活物質は、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された、0.1~0.8m/gの範囲の表面(BET)を有する。
【0053】
本発明の一実施態様において、特に、Alは、本発明の方法によって得られた電極活物質中に、蓄積することなく均一に分布していることを検出することができる。
【0054】
実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0055】
実施例1:
攪拌タンク反応器に、脱イオン水、及び1kgの水当たり49gの硫酸アンモニウムを充填した。溶液を55℃に加熱し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより12のpH値を調整した。
【0056】
1.8の流量比、及び8時間の滞留時間をもたらす総流量で、遷移金属硫酸塩水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を同時に供給することにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、8:1:1のモル比及び1.65mol/kgの総遷移金属濃度で、Ni、Co及びMnを含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比の、25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別々に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の開始から始まり、母液を連続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥してふるい分けることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体(A.1)を得た。
【0057】
上述したように得られた混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体、Ni0.8Co0.1Mn0.1の組成物を、WO及びLiOH一水和物と混合して、Ni+Co+Mn+Wに対して1.0モル%のWの濃度、及び1.03のLi/(Ni+Co+Mn+W)モル比を得た。混合物を800℃に加熱し、酸素の強制流下で6時間保持した。このようにして得られたカソード活物質CAM.1を下記のようにテストした。
【0058】
さらに、CAM.1は、45℃の温度で優れたサイクル安定性を示した。
【0059】
比較例1:
実施例1に記載されているように混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体を調製したが、タングステン酸ナトリウムの水溶液を攪拌タンク反応器に連続的に添加し、Ni、Co及びMnの合計に基づいて1モル%のタングステンの共沈をもたらした。前駆体C-(A.1)を得た。
【0060】
1.03のLi/(Ni+Co+Mn+W)比で、前駆体C-(A.1)をLiOH一水和物と混合し、実施例1と同じ方法で、混合物を加熱した。比較用カソード活物質C-CAM.1を得た。C-CAM.1は、CAM.1よりもはるかに低い容量及びサイクル安定性を示した。
【0061】
実施例2:
前駆体(A.1)をTiO及びLiOH一水和物と混合して、Ni+Co+Mn+Tiに対して0.3モル%のTiの濃度、及び1.03のLi/(Ni+Co+Mn+Ti)モル比を得た。実施例1と同じ方法で、得られた混合物を熱処理した。カソード活物質CAM.2を得た。
【0062】
さらに、CAM.2は、45℃の温度で優れたサイクル安定性を示した。
【0063】
実施例3:
TiOの代わりに、LiTi12をLiOH一水和物と一緒に添加したことを除いて、実施例2と同じ方法で実施例3を実施し、実施例2に従ってTi濃度及びLi/(Ni+Co+Mn+Ti)比を調整した。カソード活物質CAM.3を得た。
【0064】
比較例2:
実施例1に記載されているように混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体を調製したが、0.4モル%のTiをTiOSOとしてスラリーに添加し、共沈プロセスの最後に共沈した。前駆体C-(A.2)を得た。
【0065】
前駆体C-(A.2)をLiOH一水和物と混合して1.03のLi/(TM+Ti)比を得、実施例1と同じ方法で、混合物を加熱した。比較用カソード活物質C-CAM.2を得た。C-CAM.2は、CAM.2又はCAM.3よりもはるかに低い容量及びサイクル安定性を示した。
【0066】
比較例3:
実施例1に記載されているように混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体を調製したが、0.2モル%のTiをTiOSOとしてスラリーに添加し、共沈プロセスの最後に共沈した。前駆体C-(A.3)を得た。
【0067】
前駆体C-(A.3)をLiOH一水和物と混合して1.03のLi/(TM+Ti)比を得、実施例1と同じ方法で、混合物を加熱した。比較用カソード活物質C-CAM.3を得た。C-CAM.3は、CAM.2又はCAM.3よりもはるかに低い第1サイクル容量及びサイクル安定性を示した。
【0068】
実施例4:
攪拌タンク反応器に、脱イオン水を充填した。1.8の流量比、及び8時間の滞留時間をもたらす総流量で、遷移金属水溶液及びアルカリ沈殿剤を同時に供給することにより、混合遷移金属水酸化物前駆体の沈殿を開始させた。遷移金属溶液は、8:1:1のモル比及び1.65mol/kgの総遷移金属濃度で、Ni、Co及びMnを含有した。アルカリ沈殿剤は、6の質量比の、25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液からなった。水酸化ナトリウム水溶液を別々に供給することにより、pHを12.7に維持した。粒径の安定化後、得られた懸濁液を撹拌容器から連続的に取り出した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥してふるい分けることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体を得た。
【0069】
上述したように得られた混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体、組成Ni0.8Co0.1Mn0.1を、平均粒径6nmのAl及びLiOH一水和物と混合して、Ni+Co+Mn+Alに対して0.3モル%のAlの濃度、及び1.03のLi/(TM+Al)モル比を得た。混合物を800℃に加熱し、酸素の強制流下で6時間保持した。CAM.4を得た。残留の炭酸リチウムを測定し、コインハーフセルで電気化学試験を行って、第1サイクル放電容量を得た。
【0070】
比較例4:
実施例4に記載されているように混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体を調製したが、0.3モル%のAlをアルミン酸ナトリウムとして反応混合物に添加して、共沈させた。前駆体C-(A.4)を得た。
【0071】
前駆体C-(A.4)をLiOH一水和物と混合して1.03のLi/(TM+Al)比を得、実施例4と同じ方法で、混合物を加熱した。比較用カソード活物質C-CAM.4を得た。C-CAM.4はCAM.4より低い容量、及びさらに、かなり多くの量の残留Li種を示した。
【0072】
実施例5:
実施例4と同じ方法で実施例5を行ったが、平均粒径6nmのAlを添加して、Ni+Co+Mn+Al%に対して1.0モル%のAlの濃度を得た。CAM.5を得た。結果を表1に示している。
【0073】
比較例5:
比較例4に従って比較例5を行ったが、沈殿の間に1.0モル%のAlをアルミン酸ナトリウムとして前駆体に添加した。前駆体C-(A.5)を得た。
【0074】
前駆体C-(A.5)をLiOH一水和物と混合して1.03のLi/(TM+Al)比を得、実施例4と同じ方法で、混合物を加熱した。比較用カソード活物質C-CAM.5を得た。結果を表1に示している。
【0075】
試験、一般的な方法
したがって、コインハーフセルで電気化学試験を行って、表1に記載されているように第1サイクル放電容量を得た。
【0076】
カソードを製造するために、塊のないペーストを得るまで、以下の成分を攪拌しながら互いに混合した:
活物質4g、Kynar HSV 900としてArkema Groupから購入できる、N-エチルピロリドン(NEP)に溶解されている10質量%のポリフッ化ビニリデン(「PVdF」)溶液2.7g、「Super C 65」としてImerysから購入できる、62m/gのBET表面積を有するカーボンブラック0.134g、「SFG6L」としてImerysから購入できるグラファイト0.133g、追加のNEP2.02g。
【0077】
以下のようにカソードを調製した:20μmの厚さのアルミニウムホイル上に、乾燥後の厚さが約28μmになるまで(約7.5mgの活物質/cm)ドクターブレードで上記のペーストを適用した。約3g/cmのコーティング層の密度に電極ホイルをカレンダー加工した。該ホイルから20mmの直径を有するディスク型カソードを打ち抜いた。その後、カソードディスクを秤量し、真空オーブン中105℃で16時間乾燥し、大気にさらすことなくアルゴングローブボックス中に導入した。その後、カソードを備えたセルを構築した。
【0078】
コイン型セルで電気化学試験を実施した。使用した電解質は、ジメチルカーボナート/エチレンカーボナート(質量比1:1)中のLiPFの1M溶液300μlであった。
【0079】
アノード:ガラス繊維隔離板によりカソードから分離した、リチウム。
【0080】
【表1】
【0081】
n.d.:未検出
0.1C及び3.0~4.3V(mA・h/g)で第1サイクル放電容量を決定した。