(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ドライエッチング方法およびドライエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20221212BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2018207708
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】村山 貴英
(72)【発明者】
【氏名】森川 泰宏
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-311507(JP,A)
【文献】特開2014-154866(JP,A)
【文献】特開2000-100781(JP,A)
【文献】特開2010-098012(JP,A)
【文献】特開2001-023956(JP,A)
【文献】特開2007-042744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
H01L 21/67-21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表層にパターニングされたレジストマスクを有する基板からなる被処理体のドライエッチング方法であって、
前記基板は可撓性部材からなり、
前記基板の最表層のうち、外縁部の一部あるいは全部に、前記レジストマスクに代えて中間体を配置し、
クランプを用い前記中間体の上方から前記基板を押さえることにより、該基板をドライエッチング装置のステージに固定
し、
前記中間体は、前記レジストマスクよりも前記クランプに対して付着しにくく、
前記中間体は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル、ポリイミドのうちいずれかの材料から成る、ことを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項2】
前記レジストマスクと前記中間体とを離間して配置する、ことを特徴とする請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
前記レジストマスクに比べて厚さの大きな前記中間体を用いる、ことを特徴とする請求項1または2に記載のドライエッチング方法。
【請求項4】
前記中間体として、弾性率[GPa]が2~4の範囲内にある樹脂材料からなる弾性体を用いる、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
前記中間体として、
比誘電率が2~4の範囲内にある樹脂材料からなる誘電体を用いる、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
前記クランプとして、
比誘電率が7~10の範囲内にある
誘電体セラミックスを用いる、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
最表層にパターニングされたレジストマスクを有する基板からなる被処理体のドライエッチング装置であって、
前記基板は可撓性部材からなり、
ドライエッチング処理する空間を備えたチャンバと、
前記チャンバ内に配置された、前記基板を載置するステージ、及び、前記レジストマスクの上方から前記基板を押さえ、該基板を前記ステージに固定するクランプと、
前記チャンバ内の空間へプロセスガスを導入するためのガス供給手段と、
前記チャンバ内の空間を減圧するためのガス排気手段と、を少なくとも備え、
前記基板の最表層のうち、外縁部の一部あるいは全部に、前記レジストマスクに代えて中間体を配置し、
前記中間体は、前記レジストマスクよりも前記クランプに対して付着しにくく、
前記中間体は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル、ポリイミドのうちいずれかの材料から成り、
ドライエッチング処理を行う際には、前記クランプが前記中間体にのみ接触して前記基板を上方から押さえ、該基板を該中間体を介して前記ステージに固定する、ことを特徴とするドライエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライエッチング方法およびドライエッチング装置に係る。より詳細には、ドライエッチング処理した後、被処理体をステージに固定するクランプが、被処理体と固着することを防止できる、ドライエッチング方法およびドライエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライエッチング装置では、Siウェハやガラス、セラミックスなどの剛体からなる基板を固定する手段として、基板を載置するステージに対して基板の周辺部をクランプで押圧固定する構成が公知である。たとえば、このようなクランプにおいては、ウェハを押圧固定するための接触子が、点接触、線接触または面接触のいずれかによりウェハに接触する接触部を複数備え、この接触部がウェハ表面の外周近縁部を押圧する構成が採用されている(引用文献1)。引用文献1の場合は、この複数の接触部は環状の支持体に配置されており、複数の接触部がウェハの外周部を押さえる構成となっている。このため、非押圧部分の隙間からプラズマが回り込み、基板外周の非被覆部分や基板の側面がエッチングされて、レジスト膜が剥がれたり、剥がれた部位がパーティクルの原因になる等、改善する必要があった。
【0003】
引用文献1の課題に対して、クランプが基板の外周部及び側面を全周にわたって覆う環状の構造を有し、クランプにおける基板と接する接触面側に、レジスト材料の付着を抑制する無機膜からなる付着防止層を有するドライエッチング装置が提案されている(引用文献2)。この構成によれば、クランプと基板との間に非押圧部分が存在しないので、非押圧部分の隙間におけるプラズマの回り込みが防止できる。しかしながら、引用文献2のドライエッチング装置における付着防止層は、クランプにおける基板と接する接触面側に固定して配置されており、エッチング処理の回数が増えるにつれて、付着防止層の付着能力が変動し、当初の付着能力が不安定となる虞があった。また、付着防止層が容易に交換できない構成となっており、メンテナンス性の観点からも改善が求められる。
【0004】
引用文献1および引用文献2に記載された発明は、Siウェハなどの剛体からなる基板を、エッチング処理する対象(処理体)としている。近年、このような剛体からなる基板の他に、樹脂に代表される可撓性部材からなる基板、いわゆるフレキシブル基板の上に設けられた被膜などをエッチングすることが可能な、ドライエッチング方法およびドライエッチング装置が求められている。
【0005】
図5Aと
図5Bは何れも、可撓性部材からなる基板Bの上に被膜MとレジストPを順に重ねて設け、レジストPをパターニングした状態を示す被処理体Sの模式的な断面図である。
図5Aは理想的な場合を示しており、基板Bが歪まず平板形状を維持し、基板B上に積層された被膜MとレジストPも平坦性が保たれ、被処理体S1(S)も平坦な状態にある。これに対して、現実的には
図5Bに示すように、可撓性部材からなる基板Bには反りや撓みが発生するため、基板B上に設けられた被膜MやレジストPにも反りや撓みが伝搬し、被処理体S2(S)の平坦性は損なわれた状態にある。
【0006】
図5Cと
図5Dは何れも、
図5Bに示す被処理体S2(S)を、エッチング処理時のステージ上に配置した場合を示している。
図5CはステージSTが静電チャックステージ(ESC:Electro chuck stage)の場合であり、
図5DはステージSTがメカチャックステージ(MC:Mecha chuck stage)の場合である。
図5Dにおいて、符号CLはクランプ(Clamp)であり、レジストPの表面に接して被処理体S2(S)をステージに対して押圧する手段である。
【0007】
図5Cと
図5Dに示すように、ステージの種類に依らず、ステージ表面(基板を載置する面)から基板の裏面が局所的に浮いた状態となり、ひいては被処理体S2の処理面をなす被膜MやレジストPも平坦性が保たれない。ゆえに、被処理体S2の処理面に対するエッチング処理が、当該処理面内において不均一となる問題が生じやすい。
【0008】
上述した問題を解決する手法の一つとして、ガラスキャリアGと静電チャックステージESCを用いる方法(
図6A~
図6C)が検討されている。
図6A~
図6Cにおいて、
図5Aの被処理体S1(S)に相当する部位が、符号S51(S)である。
図6Aは、被処理体S51がガラスキャリアGに載置された構造体PBX1を表す断面図である。被処理体S51は、たとえば接着部BT(Bonding Tape)によりガラスキャリアGに固定される。ガラスキャリアGにおいて、静電チャックステージESCと接する側には、たとえばメタル膜RMが配され、構造体PBX1を構成している。
図6Bと
図6Cは各々、静電チャックESCに載置する前の構造体PBX2と後の構造体PBX3である。このように、ガラスキャリアGと静電チャックESCとを用いることにより、
図5Bの問題(被処理体S2(S)の平坦性が損なわれる問題)は解消される。
【0009】
これに対して、ガラスキャリアGとメカチャックステージMCを用いる方法(
図7A~
図7E)においては、
図5Bの問題は解消されるが、別の問題が発生する。
メカチャックステージMCの場合は、クランプCLを用いて構造体PBY3をメカチャックステージMC(ST)に押圧する点が、前述した静電チャックステージESCの場合と異なる(
図7C)。
図7Cの下向き方向の矢印は、押圧方向を表す。押圧した際のクランプCLは、レジストPに接触した状態となり、この状態で構造体PBY4に対してエッチング処理が行われる(
図7D)。エッチング処理した後、構造体PBY5からクランプCLを離脱させるために上昇した際に、クランプCLに構造体PBY5のレジストPが接着し、クランプCLに構造体PBY5が張り付いてしまう(
図7E)、という問題が生じる虞があった。
【0010】
クランプCLに構造体PBY5が張り付くと、構造体PBY5に対して次工程(たとえば成膜処理など)を行うことができない。したがって、ガラスキャリアGとメカチャックステージMCを用いる方法において、クランプCLに構造体PBY5が張り付くという問題を解消できる手法の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-299422号公報
【文献】特開2014-154866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、最表面がレジストからなる構造体をメカチャックステージに載置し、クランプを用いて構造体をメカチャックステージに押圧した状態でエッチング処理した後、構造体PBY5がクランプに付着することを防止できる、ドライエッチング方法およびドライエッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載のドライエッチング方法は、最表層にパターニングされたレジストマスクを有する基板からなる被処理体のドライエッチング方法であって、
前記基板は可撓性部材からなり、
前記基板の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部に、前記レジストマスクに代えて中間体(クッション材)を配置し、クランプを用い前記中間体の上方から前記基板を押さえることにより、該基板をドライエッチング装置のステージに固定し、
前記中間体は、前記レジストマスクよりも前記クランプに対して付着しにくく、
前記中間体は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル、ポリイミドのうちいずれかの材料から成る、ことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のドライエッチング方法は、請求項1において、前記レジストマスクと前記中間体とを離間して配置する、ことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のドライエッチング方法は、請求項1または2において、前記レジストマスクに比べて厚さの大きな前記中間体を用いる、ことを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のドライエッチング方法は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記中間体として、弾性率[GPa]が2~4の範囲内にある樹脂材料からなる弾性体を用いる、ことを特徴とする。
本発明の請求項5に記載のドライエッチング方法は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記中間体として、比誘電率が2~4の範囲内にある樹脂材料からなる誘電体を用いる、を用いる、ことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載のドライエッチング方法は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記クランプとして、比誘電率が7~10の範囲内にある誘電体セラミックスを用いる、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に記載のドライエッチング装置は、最表層にパターニングされたレジストマスクを有する基板からなる被処理体のドライエッチング装置であって、前記基板は可撓性部材からなり、ドライエッチング処理する空間を備えたチャンバと、前記チャンバ内に配置された、前記基板を載置するステージ、及び、前記レジストマスクの上方から前記基板を押さえ、該基板を前記ステージに固定するクランプと、前記チャンバ内の空間へプロセスガスを導入するためのガス供給手段と、前記チャンバ内の空間を減圧するためのガス排気手段と、を少なくとも備え、
前記基板の最表層のうち、外縁部の一部あるいは全部に、前記レジストマスクに代えて中間体(クッション材)を配置し、
前記中間体は、前記レジストマスクよりも前記クランプに対して付着しにくく、
前記中間体は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル、ポリイミドのうちいずれかの材料から成り、
ドライエッチング処理を行う際には、前記クランプが前記中間体にのみ接触して前記基板を上方から押さえ、該基板を該中間体を介して前記ステージに固定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のドライエッチング方法は、最表層に(パターニングされたレジスト)レジストマスクを有する基板からなる被処理体をドライエッチングする際に、前記基板の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部に、前記レジストマスクに代えて中間体(クッション材)を配置する。クランプはレジストマスクに接触せず、中間体(クッション材)にのみ接触し、クランプを用いて基板をメカチャックステージに押圧した状態でエッチング処理する。中間体(クッション材)として、クランプと付着しにくい部材を用いることにより、エッチング処理した後、基板とクランプとの付着を防止できる、ドライエッチング方法が得られる。
【0016】
本発明のドライエッチング装置は、前述したドライエッチング方法を実施するため、
(ドライエッチング処理を行う際には、)被処理体である基板の最表層のうち、外縁部の一部あるいは全部に配置された、前記レジストマスクに代えて中間体(クッション材)にのみ接触して前記基板を上方から押さえ、該基板を該中間体を介して前記ステージに固定する。これにより、レジストマスクとステージとの接触が回避できる。本発明は、エッチング処理した後、基板とクランプとの付着を防止できる、ドライエッチング装置の提供に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るドライエッチング装置の一例を示す概略構成図。
【
図2A】
図1のドライエッチング装置における要部を示す概略構成図。
【
図3A】本発明に係るドライエッチング方法を示す模式断面図。
【
図4A】本発明に係るドライエッチング方法を適用した事例を示す模式断面図。
【
図5A】可撓性基板上の被膜を加工する場合(理想)を示す模式断面図。
【
図5B】可撓性基板上の被膜を加工する場合(実際)を示す模式断面図。
【
図5C】
図5Bの構造体を静電チャックステージに載置した状態を示す模式断面図。
【
図5D】
図5Bの構造体をメカチャックステージに載置した状態を示す模式断面図。
【
図6A】ガラスキャリアと静電チャックステージを用いる方法を示す模式断面図。
【
図7A】ガラスキャリアとメカチャックステージを用いる方法を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の実施形態において用いられるドライエッチング装置の一例を示す概略構成図である。図示するドライエッチング装置11は、NLD(磁気中性線放電:magnetic Neutral Loop Discharge)型のプラズマエッチング装置として構成されている。以下、その構成について説明する。
【0020】
ドライエッチング装置11は、真空槽21を備え、その内部にプラズマ形成空間21aを形成される。真空槽21にはターボ分子ポンプ等の排気手段Pが接続され、真空槽21の内部が所定の減圧雰囲気となるように機能する。
【0021】
プラズマ形成空間21aの周囲は、真空槽21の一部を構成する筒状壁22によって区画されている。筒状壁22は石英等の透明絶縁材料で構成されている。筒状壁22の外周側には、第1高周波電源RF1に接続されたプラズマ発生用の高周波コイル(アンテナ)23と、この高周波コイル23の外周側に配置された三つの磁気コイル24A,24B,24Cからなる磁気コイル群24がそれぞれ配置されている。
【0022】
磁気コイル24Aと磁気コイル24Cにはそれぞれ同一方向に電流が供給され、磁気コイル24Bには他の磁気コイル24A,24Cと逆方向に電流が供給される。これにより、プラズマ形成空間21aにおいて、磁場ゼロとなる磁気中性線25が環状に連続して形成される。そして、高周波コイル23により磁気中性線25に沿って誘導電場(高周波電場)が形成されることで、放電プラズマが発生される。
特に、NLD方式のプラズマ処理装置においては、磁気コイル24A~24Cに流す電流の大きさによって、磁気中性線25の形成位置および大きさを調整することができる。
【0023】
プラズマ形成空間21aの上部には、天板28が設置されている。天板28は、ステージ26の対向電極として構成されており、コンデンサ29を介して第3高周波電源RF3に接続されている。また、天板28の近傍には、真空槽21の内部にプロセスガス(エッチングガス)を導入するためのガス導入部材30が設置されている。
【0024】
一方、真空チャンバの内部には、被処理をなす基板Sを支持するステージ26が設置されている。本実施形態では、基板Sとしてシリコン基板が用いられている。ステージ26は導電体で構成されており、コンデンサ27を介して第2高周波電源RF2に接続されている。第2高周波電源RF2は、電圧を多段階に調整できる可変電源で構成されている。
【0025】
図2Aは
図1のドライエッチング装置における要部を示す概略構成図であり、
図2Bは
図2Aの領域αを拡大して示す概略構成図である。
図2Aに示すように、ステージ26の上方には、基板Wの周縁をステージ26の上面に押圧するメカニカルクランプ36が設置されている。なお、ステージ26には、基板Wを所定温度に加熱するためのヒータ等の加熱源が内蔵されていてもよい。
【0026】
図2Bに示すように、基板S[
図2Bでは、PBZ5(PB)と表示]の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部に、前記レジストマスク(レジスト)Pに代えて中間体(クッション材)CSを配置し、クランプCLを用いて中間体CSの上方から前記基板を押さえることにより、該基板をドライエッチング装置のステージSTに固定する。すなわち、本発明のドライエッチング装置では、クランプCLは中間体Cにのみ接触し、レジストPに接することがない。これにより、エッチング処理した後、クランプCLがレジストPと付着する問題が解消される。
【0027】
本発明のドライエッチング装置では、中間体Cはエッチング処理される基板PBZ5(PB)側に配置されているので、処理される基板が交換されるごとに、クランプCLは新しい中間体Cと接触することになる。本発明では、中間体CがクランプCL側に配置されていない。これにより、中間体CがクランプCL側に配置された場合の問題、処理する基板の増加に伴って中間体Cの表面が目減りし、基板との接触状態が不安定となる等の不具合の発生が回避できる。
【0028】
本発明では、中間体Cが処理される基板側に存在するので、エッチング処理条件やクランプCLの材料などに応じて、中間体CSの諸条件を柔軟に変更することが可能である。
中間体CSの材料としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリル(Acryl)、ポリイミド(Polyimide)などが挙げられる。中でも、ポリイミドが、耐熱性の高さ(ガラス転移点>300℃)から、プラズマエッチング処理の基板温度想定領域(約-20℃~150℃)において機械的特性保持が期待できる材料として優れており好適である。
【0029】
中間体CSとしては、たとえば、弾性率(Modulus of elasticity)[GPa]が2~4の範囲内にある樹脂材料からなる弾性体が好ましい。弾性率が2[GPa]より低い場合には、基板Bの想定材料であるポリイミドの弾性率との差が大きく、クッション材自体の歪みが大きくなり、基板固定が不安定となり芳しくない。弾性率が4[GPa]より高い場合には、基板B自体の歪みが大きくなり、基板固定が不安定となり芳しくない。
【0030】
また、中間体CSとしては、たとえば、
比誘電率(Dielectric constant)が2~4の範囲内にある樹脂材料からなる誘電体が好ましい。
比誘電率が2より低い場合には、可能性としては低いが、中間体CSと基板Bの接触部において異常放電の原因となり芳しくない。
比誘電率が4より高い場合には、基板バイアス高周波(
図1のRF2)を印加した際に、基板Bよりも中間体CSにバイアス高周波が比較的強く作用し、クッション材近傍での基板焼け等の異常の発生を誘起する原因となり芳しくない。
【0031】
さらに、中間体CSとしては、たとえば、ガラス転移点(Glass transition point)が200℃以上の樹脂材料が好ましい。ガラス転移点が200℃より低い場合には、プラズマエッチング中のクッション材の温度が200℃を超えるとクッション材の機械的特性保持が期待できなくなり、基板固定が不安定となり芳しくない。ガラス転移点が200℃より高い場合には、特に注意を要しない。
【0032】
中間体CSの高さ(厚さ)は、レジストPの高さ(厚さ)に比べて大きいことが好ましい。これにより、クランプCLがレジストPと接触する状態を確実に回避することができる。中間体CSの高さ(厚さ)としては、たとえば、0.5~1mmが好ましい。高さが0.5mmより低い場合には、中間体CSを基板B上に設置する際(たとえば、作業者により保持される際)に、外力により容易に歪む可能性を生じることとなり芳しくない。高さが1mmより高い場合には、中間体CSによる基板端部のプラズマシース歪みがより大きくなることで、基板端部における基板への入射イオン軌道が偏向され、基板全体におけるプラズマエッチング分布に影響を与えることとなり芳しくない。
【0033】
前記クランプとしては、たとえば、
比誘電率(Dielectric constant)が7~10の範囲内にある誘電体セラミックスが好ましい。
比誘電率が7より低い場合には、クランプ材質面において、ポアを多量に含む可能性があり、プラズマエッチングによるクランプのプラズマ対向面の消耗が早まることとなり芳しくない。
比誘電率が10より高い場合には、基板バイアス高周波(
図1のRF2)がクランプ側に透過しやすくなり、その分の基板バイアス作用の損失を招くことで、プラズマエッチング特性が不安定となり芳しくない。ただし、クランプリングへの高周波の透過を機構的に抑制可能な場合は、
比誘電率が10より高い誘電体セラミックスを用いてもよい。
【0034】
以下では、上述したドライエッチング装置の作用と併せて、
図3A~
図3Gを参照し、本発明に係るドライエッチング方法について説明する。本発明に係るドライエッチング方法は、ガラスキャリアGとメカチャックステージST(MC)を用いる方法である。
図3Aは、ドライエッチングする被処理体S52(S)を含む構造体PBZ1(PB)の模式断面図を表している。被処理体S52(S)は、最表層にレジストマスク(パターニングされたレジスト)Pを有する。
【0035】
図3Aにおいて、
図5Aの被処理体S1(S)に相当する部位が、符号S52(S)である。構造体PBZ1(PB)は、被処理体S52がガラスキャリアGに載置されたものである。被処理体S52は、たとえば接着部BT(Bonding Tape)によりガラスキャリアGに固定される。本発明においては、メカチャックステージST(MC)を用いるので、ガラスキャリアGがメカチャックステージと接する側(後段の
図3D~
図3G参照)には、メタル膜RMが不要である。
【0036】
また、構造体PBZ1(PB)においては、被処理体S52が可撓性部材からなる基板Bの上に被膜MとレジストPを順に重ねて設け、レジストPをパターニングした状態であっても、被処理体S52はガラスキャリアGに載置されているので、
図5Bに示す問題は回避することができる。
【0037】
図3Bは、
図3Aの次工程を示す模式断面図である。本工程では、構造体PBZ2(PB)を構成する基板Bの最表層、すなわち、被処理体S52(S)の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部に、レジストマスク(パターニングされたレジスト)Pに代えて、中間体を配置する様子を表している。
【0038】
中間体としてシート体を用いる場合は、たとえば、片面(下面)に接着部を備えた、ポリイミド(Polyimide)からなる可撓性基板を、被処理体S52(S)の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部を覆うように、シート体を所望の形状に成形した後、被処理体S52(S)の最表層に貼付する。
【0039】
図3Cは、
図3Bの次工程を示す模式断面図であり、構造体PBZ3(PB)を構成する被処理体S52(S)の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部を覆うように、シート体(中間体CS)を貼付した状態を表している。
図3Cにおいては、レジストPと中間体CSが同レベルの高さ(厚さ)に描かれているが、実際にはレジストPに比べて中間体CSの高さ(厚さ)が大きくなるように設定される。
【0040】
図3Dは、
図3Cの次工程を示す模式断面図であり、構造体PBZ4(PB)の下方にメカチャックステージSTが、構造体PBZ4(PB)の上方にクランプCLが、おのおの配置される様子を表している。クランプCLの先端部下面は、下降した際に、構造体PBZ4(PB)を構成する被処理体S52(S)の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部を覆うように配置された中間体CSに当接する位置にある。
【0041】
図3Eは、
図3Dの次工程を示す模式断面図であり、クランプCLを用い、構造体PBZ5(PB)をメカチャックステージST上に押圧して、固定した状態を表している。その際、構造体PBZ5(PB)を構成する被処理体S52(S)の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部を覆うように配置された中間体CSにのみ、クランプCLの先端部下面を当接し、クランプCLはレジストPと接していない。
図2Aおよび
図2Bにおける領域αは、前述した
図3Eに示した領域αに相当する。
【0042】
図3Fは、
図3Eの次工程を示す模式断面図であり、構造体PBZ6(PB)に対してドライエッチング処理を行い、レジストPのパターンに基づき、被膜Mに凹部を形成する様子を表している。
図3Fにおいて、点線矢印は、ドライエッチングによるプラズマの進行方向であり、構造体PBZ6(PB)を構成する被処理体S52(S)の最表層は、このプラズマに曝されることにより、エッチング処理が行われる。その際に、中間体CSはクランプCLの先端部下面と被膜Mとの間に位置するので、中間体CSの上面はクランプCLの先端部によってプラズマから遮蔽された状態にある。
【0043】
図3Gは、
図3Fの次工程を示す模式断面図であり、エッチング処理が終了した構造体PBZ7(PB)から、クランプCLが上昇し離れていく様子を表している。
図3Gにおいて、クランプCLの横に示した上向きの矢印は、クランプCLの移動方向(上昇する方向)である。クランプCLの先端部下面は中間体CSにのみ接しているため、従来の問題[クランプCLにレジストP(構造体PB)が張り付くという問題]が解消される。
したがって、本発明よれば、エッチング処理した後、構造体PBがクランプに付着することを防止できる、ドライエッチング方法およびドライエッチング装置が得られる。
【0044】
以下では、
図4A~
図4Jを参照し、上述したドライエッチング方法を適用した一例について説明する。本例では、たとえば、ポリイミドシート上にNb配線を形成する。
(1)ガラスキャリアG(
図4A)と、下面に接着部BT(Bonding Tape)を設けた可撓性部材からなる基板B(
図4B)とを用意する。基板Bとしては、たとえば、ポリイミドシートが好適に用いられるが、これに限定されるものではない。
【0045】
(2)ガラスキャリアGの上面に対して、接着部BTが接するように、ガラスキャリアGに基板Bを重ね合わせる(
図4C)。
【0046】
(3)基板Bの上面に対して、クリーニング処理(CL)を施す(
図4D)。クリーニング処理としては、たとえば、イオンガンを用いたプリエッチング処理や、アニール処理が用いられる。
【0047】
(4)クリーニング処理を施した基板Bの上面に、被膜Mを形成する(
図4E)。被膜Mの形成には、蒸着法やスパッタ法が好適に用いられる。本例では、被膜MとしてNb膜を用いる。
【0048】
(5)被膜MにレジストPを塗布し、リソグラフィ法により所定のパターニング処理を行う。さらに、
図3Cを用いて説明した手法により、被膜Mの表面のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部を覆うように、シート体(中間体CS)を貼付する(
図4F)。これにより、被処理体S51(S)の最表層のうち、外縁部(域)の一部あるいは全部を覆うように、中間体CSが貼付された、構造体PBZ4(PB)が得られる。
【0049】
(6)
図3Fを用いて説明した手法により、被膜Mに対してドライエッチングを行うことにより、所望のパターニングが施された被膜Mを備えた、構造体PBZ7(PB)が得られる(
図4G)。
【0050】
(7)被膜Mの表面から中間体CSおよびレジストPを除去する(
図4H)。これにより、構造体PBZ8(PB)が得られる。この除去には、ウェットエッチングまたはドライエッチングが用いられる。この除去は、中間体CSとレジストPを個別に行っても良いし、中間体CSとレジストPを同時に行っても構わない。後者の方が工程を削減できるので好ましい。
【0051】
(8)構造体PBZ8(PB)からガラスキャリアGを除去する(
図4I)。これにより、構造体PBZ9(PB)が得られる。この除去(Debonding)には、たとえば、紫外線照射(UV)剥離や熱剥離法が用いられる。
【0052】
(9)基板Bの裏面から接着部BTを除去する(
図4J)。これにより、構造体PBZ10(PB)が得られる。この構造体PBZ10(PB)が、目的とする、ポリイミドシートB上にNb配線Mが形成された積層体S51X(SX)となる。
【0053】
上述した工程(1)~(9)により、本発明に係るドライエッチング法は、ポリイミドシート上にNb配線を形成する用途に有効であることを詳述した。
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0054】
上記の実施形態では、可撓性基板がポリイミドシートの例について説明したが、本発明のドライエッチング法はポリイミドシートに限定されるものではなく、他の可撓性基板であっても構わない。他の可撓性基板としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリル(Acryl)などが挙げられる。
また、被膜MがNb膜の例について説明したが、本発明のドライエッチング法はNb膜に限定されるものではなく、他の被膜であっても構わない。他の被膜としては、たとえば、Mgや、Al、Ti、Cr、Mo、Ru、In、Ta、W、Pt、Auなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ドライエッチング方法およびドライエッチング装置に広く適用可能である。このようなドライエッチング方法およびドライエッチング装置は、可撓性基板上に金属配線が形成された積層体を形成する際に、特に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0056】
α 領域、B 基板、BT 接着部、CL クランプ、CS 中間体(シート体、クッション材)、G ガラスキャリア、M 被膜、P レジストマスク(パターニングされたレジスト)、PB(PBZ1、PBZ2、PBZ3、PBZ4、PBZ5、PBZ6、PBZ7) 構造体、RM メタル膜、S(S1、S52) 被処理体、ST(MC) メカチャックステージ。