(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】多結晶シリコンロッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/035 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
C01B33/035
(21)【出願番号】P 2019111794
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】星野 成大
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌彦
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-180078(JP,A)
【文献】特開2013-170118(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0225246(US,A1)
【文献】特開2016-138021(JP,A)
【文献】特開昭63-074909(JP,A)
【文献】特表2002-508294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/035
C01B 33/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法で多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、
多結晶シリコンの析出工程の終了後に、表皮深さDが、前記析出工程終了時の表皮深さD
0よりも浅くなる条件で通電する析出後通電工程を備え
、
前記析出後通電工程は、前記析出工程終了後に前記多結晶シリコンロッドが常温まで冷却される間において、通電周波数fを前記多結晶シリコンロッドの結晶温度の低下に伴い高く設定する工程を含む、ことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項2】
前記析出後通電工程は、前記析出工程終了時に通電されている電流の周波数f
0よりも高い周波数fの電流を通電することで実行される、請求項1に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項3】
前記表皮深さDは、前記析出工程終了後の前記多結晶シリコンロッドの半径Rよりも小さい、請求項1に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項4】
シーメンス法で多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、
多結晶シリコンの析出工程の終了後に、前記析出工程終了時の結晶温度T
0よりも高く、かつ、多結晶シリコンの溶融温度未満の温度Tで前記多結晶シリコンロッドを処理する析出後熱処理工程
と、
前記析出後熱処理工程の後で前記多結晶シリコンロッドが常温まで冷却される間において、通電周波数fを前記多結晶シリコンロッドの結晶温度の低下に伴い高く設定する析出後通電工程と、を備え、
前記析出後熱処理工程
及び前記析出後通電工程を、前記析出工程終了後の前記多結晶シリコンロッドの半径Rよりも小さい表皮深さDとなる条件で前記多結晶シリコンロッドに通電しながら実行する、
ことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシーメンス法で育成された多結晶シリコンロッドに関し、特に、フローティングゾーン法(FZ法)による単結晶シリコン製造の原料として好適な多結晶シリコンロッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンは、半導体製造用の単結晶シリコンや太陽電池製造用シリコンの原料である。多結晶シリコンの製造方法としてはシーメンス法が知られており、この方法では、一般に、シラン系原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法で多結晶シリコンを析出させる。
【0003】
シーメンス法は、シリコン芯線を鉛直方向2本、水平方向1本の鳥居型(逆U字型)に組み立て、その両端部のそれぞれを芯線ホルダーに接続し、ベースプレート上に配置した一対の金属製の電極に固定する。一般的には反応炉内には複数組の逆U字型シリコン芯線を配置した構成となっている。
【0004】
逆U字型のシリコン芯線を析出温度まで通電により加熱し、原料ガスとして例えばトリクロロシランと水素の混合ガスをシリコン芯線上に接触させると、多結晶シリコンがシリコン芯線上で気相成長し、所望の直径の多結晶シリコン棒が逆U字状に形成される。
【0005】
FZ法による単結晶シリコン製造に際しては、逆U字状に形成された多結晶シリコンの鉛直方向2本の多結晶シリコン棒の両端部を切り離して円柱状の多結晶シリコンロッドとし、これを原料として単結晶シリコンの育成を行う。当然ながら、原料である円柱状の多結晶シリコンロッドは長尺であるほうが一度に引き上げられる単結晶シリコン長さが長くなるため好適である。
【0006】
特許文献1(特開2008-285403号公報)は、直径が120mmより大きい多結晶シリコンロッドを製造する際に、ロッドの内部と表面との間の温度差に起因する熱応力によりロッドにクラックや破損が生じることを防止するために、多結晶シリコンの析出反応温度を、ある直径となった時点で下げることを提案している。
【0007】
また、特許文献2(国際公開WO97/44277号公報)は、多結晶シリコンロッドに内在する歪みを減少させるために、シリコンの析出反応に引き続いて、該多結晶シリコンロッドに、水素または不活性ガスの存在下で通電を行うことによって、該多結晶シリコンロッドの表面の少なくとも一部が1030℃以上の温度を示すまで加熱するという方法を開示している。
【0008】
また、特許文献3(特開昭63-74909号公報)は、クラック発生防止のため、多結晶シリコンの析出工程において、シリコン芯棒に高周波電流を直接通電加熱し、表皮効果を利用してシリコン棒の表面付近に多くの電流を流す方法を提案している。
【0009】
また、特許文献4(特表2002-508294号公報)は、電極群に接続されたシリコン棒の内方部より外方区域により高い加熱を提供するため、多結晶シリコンの析出工程において、シリコン棒の外側区域に隣接する外表面を通して流れる電流の大部分を被覆効果を生成するに充分に高い周波数を有する高周波数のA.C.電流を供給することにより、11MPaよりも多くない応力の多結晶シリコン棒を直径300mmまで得ることができたと報告している。
【0010】
また、特許文献5(特開2013-170117号公報)および特許文献6(特開2013‐170118号公報)は、その実施例において、多結晶シリコンの析出工程終了時の通電条件と同じ条件で高周波電流を通電しつつ、徐々に温度を下げながら冷却することで、クラックのない多結晶シリコン棒を得ていることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-285403号公報
【文献】国際公開WO97/44277号公報
【文献】特開昭63-74909号公報
【文献】特表2002-508294号公報
【文献】特開2013-170117号公報
【文献】特開2013-170118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、多結晶シリコンの析出反応温度を下げることが必須であるため、得られる結晶の物性値の制御が制限を受けるという問題がある。
【0013】
また、特許文献2に開示の方法のように周波数50Hzや60Hzでの加熱によってロッドの表面温度を1030℃以上まで上げてしまうと、析出工程終了後の直径では、結晶溶融の危険性が高まるという問題がある。
【0014】
特許文献3~6に開示のような高周波電流による表皮効果を利用する方法は、多結晶シリコンロッドの表面と中心部の温度差を少なくするためには有効である。
【0015】
しかし、これらの文献が開示する範囲からは、クラックや破損の発生を防止するために、多結晶シリコンの析出工程後の工程において、どのような通電状態もしくは加温条件が適当であるのかは、必ずしも明らかではない。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、多結晶シリコンの析出工程の後の工程の諸条件を適切なものとすることで、クラックや破損の発生を防止する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の態様の多結晶シリコンロッドの製造方法は、シーメンス法で多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、多結晶シリコンの析出工程の終了後に、表皮深さDが、前記析出工程終了時の表皮深さD0よりも浅くなる条件で通電する析出後通電工程を備えている、ことを特徴とする。
【0018】
ある態様では、前記析出後通電工程は、前記析出工程終了時に通電されている電流の周波数f0よりも高い周波数fの電流を通電することで実行される。
【0019】
また、ある態様では、前記析出後通電工程は、前記析出工程終了後に前記多結晶シリコンロッドが常温まで冷却される間の工程として設けられており、前記析出後通電工程における通電周波数fを、前記多結晶シリコンロッドの結晶温度の低下に伴い高く設定する期間を設ける。
【0020】
好ましくは、前記表皮深さDは、前記析出工程終了後の前記多結晶シリコンロッドの半径Rよりも小さい。
【0021】
本発明に係る第2の態様の多結晶シリコンロッドの製造方法は、シーメンス法で多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、多結晶シリコンの析出工程の終了後に、前記析出工程終了時の結晶温度T0よりも高くかつ多結晶シリコンの溶融温度未満の温度Tで前記多結晶シリコンロッドを処理する析出後熱処理工程を備え、該析出後熱処理工程を、前記析出工程終了後の前記多結晶シリコンロッドの半径Rよりも小さい表皮深さDとなる条件で前記多結晶シリコンロッドに通電しながら実行する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、クラックや破損の発生が効果的に防止され、FZ法による単結晶シリコン製造の原料として好適な多結晶シリコンロッドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【
図2】実施例2のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【
図3】実施例3のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【
図4】実施例4のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【
図5】比較例1のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【
図6】比較例2のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【
図7】比較例3のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0025】
本発明者らは、FZ法による単結晶シリコンの製造用原料として好適な長尺の多結晶シリコンロッドの製造方法の検討を進める中で、これまで提案されてきた手法では、クラックの発生を十分に抑制することが困難であるとの結論に至った。
【0026】
そこで、さらに検討を進め、多結晶シリコンの析出工程の終了後の冷却工程において、析出工程終了時の表皮深さよりも浅い表皮深さとなる条件で多結晶シリコンロッドに高周波電流を流すことにより、クラックの発生確率が低くなるとの結論に至った。
【0027】
表皮深さδ(m)は、δ=[ρ/(π・f・μ)]1/2で与えられる。ここで、ρは抵抗率(Ωm)であり、fは周波数(Hz)であり、μは導体の透磁率(H/m)である。
【0028】
従って、表皮深さを小さくするためには、供給する電流の周波数を高めればよい。また、シリコン結晶の電気抵抗率は温度が高いほど低くなるため、結晶温度を高めることによっても表皮深さを小さく(浅く)することができる。つまり、表皮深さを小さくするためには、電流の周波数を高くすることおよび結晶温度を高くすることの2つの選択(条件)があり得る。なお、後者の場合、シリコンの溶融を防止するため、結晶温度は多結晶シリコンの溶融温度未満の温度とする。
【0029】
本発明者らは、上記2つの条件下での通電が、シリコンの析出工程においてのみならず、析出工程後の工程(この工程を便宜上、「冷却工程」という)においても、クラック発生の抑止に効果的であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0030】
表皮深さが浅くなればなるほど、多結晶シリコンロッドの表面付近を電流が流れ、内側領域には電流が流れないことになる。そのため、多結晶シリコンロッドの表面と中心部との温度差は小さくなる。その結果、クラックの発生が抑制される。
【0031】
なお、本発明では、析出工程後に室温迄冷却をする工程(本明細書で言う「冷却工程」)において、必ずしも、その全工程で高周波電流を流す必要はない。室温迄冷却される間の一部の期間のみ、表皮深さが浅くなる条件で高周波電流を流すようにしてもよい。
【0032】
例えば、析出反応時には、例えば50Hzや60Hzの周波数の電流を通電しておき、析出反応の終了後の一定期間、表皮深さが浅くなる条件で高周波電流を流すようにしてもよい。
【0033】
周波数が50Hzや60Hzの電流を流した場合、表皮深さは多結晶シリコンロッドの半径以上となる。そのため、多結晶シリコンロッドの表面付近のみならず中心部にも電流が流れ、多結晶シリコンロッドの表面と中心部との温度差は大きくなり、クラックが発生しやすい状態になる。しかし、析出反応の終了後の少なくとも一定期間、表皮深さが浅くなる条件で高周波電流を流すことにより、多結晶シリコンロッドの表面と中心部との温度差が小さくなる状態が実現され、熱歪が緩和されてクラックの発生が抑制される。
【0034】
なお、上述のとおり、シリコン結晶の電気抵抗率は、温度が高いほど低くなり、逆に、温度が低いほど高くなる。そして、電気抵抗率が高くなるほど、表皮深さは大きく(深く)なる。
【0035】
そこで、「冷却工程」において高周波電流を通電する際には、結晶温度の低下に伴い、通電する電流の周波数を高くすることが好ましい。また、通電する電流の周波数はそのままで、結晶成長をした多結晶シリコンロッドに対し、溶融温度未満の温度で加熱を行い、多結晶シリコンロッドの表面の電気抵抗率を低下させることにより、析出工程終了時の表皮深さD0よりも浅くなる条件で通電することも好ましい。また、通電する電流の周波数を高くして、かつ、結晶成長をした多結晶シリコンロッドに対し、溶融温度未満の温度で加熱を行うことも好ましい。
【0036】
このような多結晶シリコンロッドの製造方法は、下記のように整理することができる。
【0037】
すなわち、本発明に係る多結晶シリコンロッドの製造方法は、シーメンス法で多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、多結晶シリコンの析出工程の終了後に、表皮深さDが、前記析出工程終了時の表皮深さD0よりも浅くなる条件で通電する析出後通電工程を備えている。
【0038】
例えば、前記析出後通電工程は、前記析出工程終了時に通電されている電流の周波数f0よりも高い周波数fの電流を通電することで実行される。
【0039】
また、ある態様では、前記析出後通電工程は、前記析出工程終了後に前記多結晶シリコンロッドが常温まで冷却される間の工程として設けられており、前記析出後通電工程における通電周波数fを、前記多結晶シリコンロッドの結晶温度の低下に伴い高く設定する期間を設ける。
【0040】
好ましくは、前記表皮深さDは、前記析出工程終了後の前記多結晶シリコンロッドの半径Rよりも小さい。
【0041】
本発明に係る他の態様の多結晶シリコンロッドの製造方法は、シーメンス法で多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、多結晶シリコンの析出工程の終了後に、前記析出工程終了時の結晶温度T0よりも高くかつ多結晶シリコンの溶融温度未満の温度Tで前記多結晶シリコンロッドを処理する析出後熱処理工程を備え、該析出後熱処理工程を、前記析出工程終了後の前記多結晶シリコンロッドの半径Rよりも小さい表皮深さDとなる条件で前記多結晶シリコンロッドに通電しながら実行する。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
図1は、実施例1のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、結晶の直径が80mmとなるまでは50Hzの低周波数とし、その後、80kHzの高周波数に切り替えた。多結晶シリコンの析出工程の終了後、表皮深さDが析出工程終了時の表皮深さD
0よりも浅くなる条件で通電すべく、周波数を100kHzに設定して1時間通電し、その後、通電を停止して常温まで冷却した。
【0043】
[実施例2]
図2は、実施例2のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、結晶の直径が80mmとなるまでは50Hzの低周波数とし、その後、80kHzの高周波数に切り替えた。多結晶シリコンの析出工程の終了後、表皮深さDが析出工程終了時の表皮深さD
0よりも浅くなる条件で通電すべく、周波数を80kHzに維持しつつ、多結晶シリコンロッドの表面温度が1020℃となるように加熱し、この状態を1時間キープした後、通電を停止して常温まで冷却した。
【0044】
[実施例3]
図3は、実施例3のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、多結晶シリコンの析出工程を通じて50Hzの低周波数とし、当該析出工程終了後、100kHzの高周波数電流を1時間通電し、その後、通電を停止して常温まで冷却した。
【0045】
[実施例4]
図4は、実施例4のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、結晶の直径が80mmとなるまでは50Hzの低周波数とし、その後、15kHzの高周波数に切り替えた。多結晶シリコンの析出工程の終了後、表皮深さDが析出工程終了時の表皮深さD
0よりも浅くなる条件で通電すべく、多結晶シリコンロッドの表面温度が970℃から700℃まで降下する間、通電周波数を15kHzから35kHzまで徐々に変化させ、その後、通電を停止して常温まで冷却した。
【0046】
[比較例1]
図5は、比較例1のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、多結晶シリコンの析出工程を通じて50Hzの低周波数とし、多結晶シリコンの析出工程の終了後、通電周波数を50Hzに維持しつつ、多結晶シリコンロッドの表面温度が1020℃となるように加熱し、この状態を1時間キープした後、通電を停止して常温まで冷却した。この条件では、一部の多結晶シリコンロッドが倒壊した。その原因は、周波数50Hzの低周波数電流を通電した状態で結晶温度を高めたため、多結晶シリコンロッドの表面と中心の温度差が拡大したことによると考えている。
【0047】
[比較例2]
図6は、比較例2のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、多結晶シリコンの析出工程を通じて50Hzの低周波数とし、多結晶シリコンの析出工程の終了後、通電周波数を50Hzに維持しつつ、この状態を1時間キープした後、通電を停止して常温まで冷却した。この条件では、多結晶シリコンロッドのクラック発生が顕著であった。その原因は、周波数50Hzの低周波数電流を通電した状態で冷却を開始したため、多結晶シリコンロッドの中心領域にも電流が流れて当該領域も加熱された結果、表面と中心の温度差が大きいまま冷却されたことによると考えている。
【0048】
[比較例3]
図7は、比較例3のプロセスの概要を概念的に説明するための図である。トリクロロシランを原料ガスとし、水素との混合ガスを供給し、温度970℃をキープして、シーメンス法により直径160mmの多結晶シリコンロッドを育成した。通電する電流の周波数は、結晶の直径が80mmとなるまでは50Hzの低周波数とし、その後、15kHzの高周波数に切り替えた。多結晶シリコンの析出工程の終了後、多結晶シリコンロッドの表面温度が970℃から700℃まで降下する間、通電周波数を15kHzに維持し、その後、通電を停止して常温まで冷却した。
【0049】
これらの多結晶シリコンロッドの取得長さの相対歩留まり(結晶長さ相対歩留)を表1にまとめた。ここで言う結晶長さ相対歩留とは、クラックの無い領域として取得できた多結晶シリコンロッドの長さを、実施例1を基準(1.00)としたときの各例における比率である。
【0050】
なお、表1にまとめた結晶長さ歩留まりは、各例における10対分のサンプルから取得した歩留まりの平均値である。
【0051】
【0052】
表1に示したとおり、実施例のものは何れも0.8を上回る歩留まりが得られているのに対し、比較例のものでは精々0.7の歩留まりしか得られていない。
【0053】
なお、実施例2において歩留りが0.99と高い値が得られているのは、多結晶シリコンロッドの表面の温度を析出工程終了時に、970℃から1020℃に加熱したため、多結晶シリコンロッドの表面の抵抗の値が低下した結果、表皮深さDが、析出工程終了時の表皮深さD0よりも浅くなるためである。
【0054】
また、比較例中、歩留まりの高い比較例3でもその歩留りは精々0.70と低いのは、比較例3では、析出工程終了後も通電周波数を15kHzに維持した状態で、多結晶シリコンロッドの表面の温度が970℃から700℃まで降下させたため、多結晶シリコンロッドの表面の抵抗の値が高くなった結果、表皮深さDが多結晶シリコンロッドの半径Rよりも深くなったためである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、クラックや破損の発生が効果的に防止され、FZ法による単結晶シリコン製造の原料として好適な多結晶シリコンロッドの製造方法が提供される。