(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】回収レジスト剥離剤からのジメチルスルホキシドの回収方法
(51)【国際特許分類】
C07C 315/06 20060101AFI20221212BHJP
C07C 317/04 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C07C315/06
C07C317/04
(21)【出願番号】P 2019534515
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2018028539
(87)【国際公開番号】W WO2019026868
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017149846
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬屋原 邦男
(72)【発明者】
【氏名】田村 耕司
(72)【発明者】
【氏名】竹田 明展
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-537231(JP,A)
【文献】特開2005-288329(JP,A)
【文献】特開平09-278743(JP,A)
【文献】特開2006-069960(JP,A)
【文献】特開2004-043434(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C、B01D、G03F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールおよびジメチルスルホキシドを含む回収レジスト剥離剤と
、前記回収レジスト剥離剤1質量部に対し0.1~100質量部の水とを接触させて蒸留する工程を含む、ジメチルスルホキシドの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回収レジスト剥離剤からのジメチルスルホキシド(DMSO)の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等をフォトリソグラフィで製造する際、エッチングにより微細回路等を形成した後、レジスト剥離剤を用いて不要なレジスト膜やエッチング残留物の洗浄除去が行われる。レジスト剥離剤としては水酸化ナトリウム水溶液や一般の有機溶剤を単独で用いることもできるが、剥離性が十分でなく、剥離性を向上させるためにこれまでに様々なレジスト剥離剤が提案されてきた。
剥離性の高いレジスト剥離剤としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等の水酸化第4級アンモニウムを、DMSOおよび3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(MMB)等のグリコールエーテルなどの混合溶媒で溶解したものなどがよく用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、使用済みのレジスト剥離剤(回収レジスト剥離剤)は通常、産業廃棄物として廃棄されている。一方で、上記のようなレジスト剥離剤において用いられるDMSOは、レジスト剥離を行った後のリンス工程でリンス液としても使用されており、近年使用量が著しく増加している。そのため回収レジスト剥離剤から高純度のDMSOを回収して再利用することができれば、コスト面等で有利である。
しかしながら、DMSO(沸点189℃)とグリコールエーテル等は沸点が近いことが多く(例えば、MMBは沸点174℃)、通常の減圧蒸留等の方法では高純度のDMSOを回収することが困難であり、DMSOの再利用は現実的ではなかった。
本発明の目的は、回収レジスト剥離剤から高純度のDMSOを安価に効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、回収レジスト剥離剤に水を添加して蒸留することにより高純度のDMSOを安価に効率よく回収することができることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、下記[1]~[3]に関する。
[1]グリコールエーテル、グリコールおよびトリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物ならびにDMSOを含む回収レジスト剥離剤と水とを接触させて蒸留する工程を含む、DMSOの回収方法。
[2]前記化合物が3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンおよび2-(2-メトキシエトキシ)エタノールからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]の回収方法。
[3]前記化合物が3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールである、[1]の回収方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、回収レジスト剥離剤から高純度のDMSOを安価に効率よく回収できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の方法を具体的に説明する。
本発明においてDMSOを回収する対象となる「回収レジスト剥離剤」とは、典型的にはフォトリソグラフィにおいて不要なレジスト膜等を洗浄除去した後の使用済みのレジスト剥離剤を指し、グリコールエーテル、グリコールおよびトリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物ならびにDMSOが含まれる。
また通常、回収レジスト剥離剤には、水酸化第4級アンモニウムやレジスト成分等も含まれる。
【0009】
グリコールエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(MMB)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール等が挙げられる。
グリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。
トリオールとしては、例えばグリセリン等が挙げられる。
これらの中でも、前記化合物は、MMB、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンおよび2-(2-メトキシエトキシ)エタノールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、MMBであることがより好ましい。
【0010】
水酸化第4級アンモニウムとしては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、トリエチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、スピロ-[1,1’]-ビピロリジニウムヒドロキシド等が挙げられる。
これらの中でも、水酸化第4級アンモニウムは、TMAH、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドおよびスピロ-[1,1’]-ビピロリジニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、TMAHであることがより好ましい。
【0011】
回収レジスト剥離剤には、他の成分として水、アルカノールアミン類、アミノ酸、界面活性剤、消泡剤などが含まれていてもよい。
【0012】
本発明のDMSOの回収方法では、回収レジスト剥離剤と水とを接触させて蒸留する。これにより、まずグリコールエーテル、グリコールおよびトリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を留出させ、その後に高純度のDMSOを留出させることができる。
回収レジスト剥離剤と水との接触は、例えば回収レジスト剥離剤と水とを混合することにより行うことができる。回収レジスト剥離剤と水とを接触させて蒸留する際の具体的な方法としては、例えば、回収レジスト剥離剤に水を添加して蒸留する方法などが挙げられる。このような回収レジスト剥離剤に水を添加して蒸留する方法を実施するにあたっては、回収レジスト剥離剤に水を一括で添加してから蒸留してもよく、間欠的または一定速度で水を添加しながら蒸留してもよい。
蒸留時の温度は、30~250℃の範囲が好ましく、50~230℃の範囲がより好ましい。蒸留は常圧下または減圧下で実施できる。
加える水の量は、回収レジスト剥離剤1質量部に対し、0.1~100質量部の範囲が好ましく、0.1~10質量部の範囲がより好ましい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されない。
【0014】
<実施例>
ヘリパック50cm蒸留塔(蒸留段数:7段)を備えた500ml三口フラスコに、回収レジスト剥離剤としてDMSO70gおよびMMB30gの混合物を加えた。そこに水300gを投入し、内温を104~140℃、常圧の条件で蒸留を行った。留出物がなくなったところで、内温120~130℃、2~10mmHgの条件でDMSOを留出させ、純度99.9%のDMSOを62.2g得た(収率88.9%)。
【0015】
<比較例>
実施例において、水を投入しなかったこと以外は同様の操作を行ったところ、純度82.3%のDMSO22.3gが得られた。
【0016】
なお上記の実施例および比較例は、実際の回収レジスト剥離剤に通常含まれると考えられる水酸化第4級アンモニウムやレジスト成分等を含まない条件での試験ではあるが、これらの成分は蒸留により留出しないと考えられるため、上記の実施例および比較例はモデル試験として十分に機能するものである。
実施例および比較例の結果から、本発明の方法によれば、回収レジスト剥離剤から高純度のDMSOを安価に効率よく回収できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の方法によれば、回収レジスト剥離剤から高純度のDMSOを安価に効率よく回収できるため、従来は廃棄されていたDMSOを再利用できる点で有用である。