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<図1>
  • 特許-アスファルトバインダー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】アスファルトバインダー
(51)【国際特許分類】
   C08L 91/00 20060101AFI20221212BHJP
   C08L 95/00 20060101ALI20221212BHJP
   E01C 7/20 20060101ALI20221212BHJP
   E01C 7/24 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C08L91/00
C08L95/00
E01C7/20
E01C7/24
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019544425
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2018031093
(87)【国際公開番号】W WO2019065016
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2017192150
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌洋
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-126664(JP,A)
【文献】特開2008-056742(JP,A)
【文献】特開2013-155345(JP,A)
【文献】特開2015-054865(JP,A)
【文献】特開2015-081279(JP,A)
【文献】特開昭57-116805(JP,A)
【文献】特開昭60-123554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 91/00- 91/08
C08L 95/00
E01C 7/00- 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤抽出油:73.0重量%未満と、
潤滑油基油:27.0重量%以上と、
アスファルトと、
を含有し、
上記アスファルトの含有量Yと上記潤滑油基油の含有量Xとの関係が、1.25×X-32≦Y≦1.25×X-25.375、及び、Y≦-13.3×X+437.06を満たし、
0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下であること
を特徴とするアスファルトバインダ
【請求項2】
上記アスファルトは、溶剤脱れきアスファルト、及びストレートアスファルトの少なくとも何れかであること
を特徴とする請求項1記載のアスファルトバインダ
【請求項3】
上記潤滑油基油の動粘度が40℃において80.0mm2/秒以上110.0mm2/秒以下、及び100℃において9.0mm2/秒以上13.0mm2/秒以下であること
を特徴とする請求項1又は2記載のアスファルトバインダ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装の再利用に用いられ、特に冬期や寒冷地のような低温時においても良好な流動性を有するアスファルトバインダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アスファルト舗装の再利用(リサイクル)において、アスファルト再生用の添加剤が用いられる。この理由として、供用後のアスファルト舗装中に存在する、劣化したアスファルトの性状回復が挙げられる。アスファルトが劣化することで、アスファルト中の芳香族分が減少することが知られている(遠西智次,「改質アスファルトの物理科学的特性に関する研究」,財団法人土木研究センター平成6年度部外研究員報告書概要版,平成7年6月,p.167-170、立石大作,「改質アスファルトの物理科学的特性に関する研究」,財団法人土木研究センター平成6年度部外研究員報告書概要版,平成8年6月,p.229-232)。このため、芳香族分を補うためにエキストラクト等の高芳香族系鉱油等を添加することがある。
【0003】
しかしながら、芳香族分を多く含む添加剤は、高い粘度を示す。このため、添加剤の流動性が乏しく、作業性が低下するという問題点がある。また、添加剤の粘度を下げる場合、引火点や密度が低下する傾向にあるため、安全性や劣化したアスファルトとの混合性に問題が生じる。
【0004】
この点、特許文献1では、芳香族含有量を減らさずに、常温での流動性を向上させるアスファルトバインダー(バインダ組成物)が提案されている。特許文献1では、25℃における0.1rad/秒での複素弾性率を10.00Pa以下としているため、常温での流動性に優れており、従来の添加剤に比べて作業性を良好にすることができるアスファルトバインダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-56742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたアスファルトバインダーは、冬期や寒冷地のような低温時(例えば0℃)で使用した場合、増粘に伴い流動性が乏しくなる。これにより、低温時において作業性が低下するという問題が生じる。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、冬期等の低温時においても作業性の低下を抑制するアスファルトバインダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のアスファルトバインダは、上述した課題を解決するために、溶剤抽出油:73.0重量%未満と、潤滑油基油:27.0重量%以上と、アスファルトと、を含有し、上記アスファルトの含有量Yと上記潤滑油基油の含有量Xとの関係が、1.25×X-32≦Y≦1.25×X-25.375、及び、Y≦-13.3×X+437.06を満たし、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載のアスファルトバインダは、請求項1の発明において、上記アスファルトは、溶剤脱れきアスファルト、及びストレートアスファルトの少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載のアスファルトバインダは、請求項1又は2記載の発明において、上記潤滑油基油の動粘度が40℃において80.0mm2/秒以上110.0mm2/秒以下、及び100℃において9.0mm2/秒以上13.0mm2/秒以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上述した構成からなる本発明を適用したアスファルトバインダは、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下である。このため、冬期や寒冷地等のような低温時においても、流動性に優れている。これにより、低温時においても、作業性の低下を抑制することが可能である。
【0012】
また、本発明を適用したアスファルトバインダは、溶剤抽出油を多く含有し、芳香族分を多く含む。このため、劣化したアスファルトの芳香族分を補うことが可能である。これにより、新規アスファルト舗装と同等の特性を有する再生アスファルト舗装が得られる。
【0013】
また、上述した構成からなる本発明を適用したアスファルトバインダは、引火点が260℃以上となり、作業時の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、潤滑油基油の含有量と、アスファルトの含有量との関係をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用したアスファルトバインダー(以下、バインダ組成物として説明する)の実施の形態について、詳細に説明する。
【0016】
本発明者は、アスファルト再生用の軟化剤、ゴム伸展油及びゴム配合油等として使用されるバインダ組成物について、低温時においても良好な流動性を有し、作業性の低下を抑制するために、鋭意実験研究を行った。その結果、このような使用状況下、特に、流動を開始するときは、バインダ組成物に極めてゆっくりとした力(保存容器からの流出であれば重力、ポンプによる移送であれば圧力)が作用することから、0℃において、0.1rad/秒(0.0159Hz)というゆっくりとした周波数での複素弾性率を測定し、その値が10.0Pa以下であれば、これらの作業において求められている流動性が得られることを見出した。さらに、従来、アスファルト用添加剤として使用されていた溶剤抽出油に、潤滑油基油及びアスファルトを添加すると、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下となることを見出し、本発明に至った。
【0017】
即ち、本発明を適用したバインダ組成物は、溶剤抽出油:73.0重量%未満と、潤滑油基油:27.0重量%以上と、アスファルトとを含有する。また、アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、1.25×X-32≦Y≦1.25×X-25.375、及び、Y≦-13.3×X+437.06を満たす。そして、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下である。
【0018】
以下、本発明を適用したバインダ組成物における数値限定理由について説明する。
【0019】
<溶剤抽出油:73.0重量%未満>
溶剤抽出油は、芳香族分を多く含み、主に劣化したアスファルトの芳香族分を補うために添加され、軟化剤として作用する成分である。溶剤抽出油は、原油から潤滑油を製造する際の溶剤抽出過程で生成される抽出油であり、芳香族分及びナフテン分に富んだ油状物質である(「石油製品のできるまで」,図6-1“一般的な潤滑油製造工程”,石油連盟発行,昭和46年11月,p.99、及び「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.304参照)。溶剤抽出油の含有量は、73.0重量%以下であり、本発明を適用したバインダ組成物のベース材として用いられる。このため、本発明を適用したバインダ組成物は、芳香族分を多く含むことができる。
【0020】
溶剤抽出油の含有量が73.0重量%以上の場合、バインダ組成物の複素弾性率が高くなる。このため、低温時におけるバインダ組成物の流動性が乏しく、作業性が低下する。よって、溶剤抽出油の含有量は、73.0重量%未満とする。なお、溶剤抽出油は、60℃における動粘度が400.0~600.0mm/秒、及び15℃における密度が0.960~0.990g/cmの少なくとも何れかであることが望ましく、15℃における密度が0.970~0.980g/cmであることがより望ましい。
【0021】
<潤滑油基油:27.0重量%以上>
潤滑油基油は、主に溶剤抽出油の動粘度を低下させるために添加される。潤滑油基油の生成方法として、例えば、プロパン脱れき法を用いて減圧蒸留残油から脱れき油を抽出し、溶剤抽出法を用いて脱れき油から精製油を抽出し、溶剤脱ろう法を用いて精製油から脱ろう油を抽出し、水素化精製法を用いて脱ろう油から潤滑油基油を生成する方法が用いられる。潤滑油基油の含有量は、27.0重量%以上である。このため、本発明を適用したバインダ組成物は、溶剤抽出油の動粘度を十分に低下させることができ、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率を10.0Pa以下に保つことができる。
【0022】
潤滑油基油の含有量が27.0重量%未満の場合、溶剤抽出油の動粘度を十分に低下させることができず、バインダ組成物の複素弾性率が高くなる。このため、低温時におけるバインダ組成物の流動性が乏しく、作業性が低下する。よって、潤滑油基油の含有量は、27.0重量%以上とする。なお、潤滑油基油は、動粘度が40℃において80.0mm/秒以上110mm/秒以下、及び100℃において9.0mm/秒以上13.0mm/秒以下、15℃における密度が0.870~0.890g/cm、並びに引火点が230℃以上の少なくとも何れかであることが望ましい。
【0023】
<アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≦1.25×X-25.375を満たす>
アスファルトは、主に溶剤抽出油と潤滑油基油との混合物における流動性を向上させるために添加される。アスファルトとして、例えば、ストレートアスファルト(JIS K 2207 参照)、ブローンアスファルト(JIS K 2207 参照)セミブローンアスファルト(「アスファルト舗装要綱」,社団法人日本道路協会発行,平成9年1月13日,p.51,表-3.3.4 参照)、溶剤脱れきアスファルト(「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.308 参照)等のアスファルト又はこれらの混合物が用いられる。アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≦1.25×X-25.375を満たすことで、本発明を適用したバインダ組成物の0℃における0.1rad/秒での複素弾性率を10.0Pa以下に保つことができる。
【0024】
アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y>1.25×X-25.375となる場合、バインダ組成物内に占めるアスファルトの含有量が多過ぎるため、溶剤抽出油と潤滑油基油との混合物における流動性の向上を阻害する。このため、バインダ組成物の混合バラつきが大きくなる傾向を示す。これにより、バインダ組成物の複素弾性率が高くなる可能性が高まり、流動性が乏しく、作業性が低下する。よって、安定したバインダ組成物の特性を得るためには、アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係は、Y≦1.25×X-25.375を満たすこととする。
【0025】
なお、本発明を適用したバインダ組成物では、溶剤脱れきアスファルト、及びストレートアスファルトの少なくとも何れかを用いることが望ましい。ストレートアスファルトとは、常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られるアスファルトを示す。溶剤脱れきアスファルトは、他のアスファルトに比べて密度が高いため、バインダ組成物の密度を向上させることが可能である。また、溶剤脱れきアスファルトは、他のアスファルトに比べて、芳香族分が多い。このため、劣化したアスファルトの芳香族分を補うことができる。なお、溶剤脱れきアスファルトは、針入度が3~20(0.1mm)、軟化点が56.0~70.0℃、及び15℃における密度が1.060~1.070g/cmの少なくとも何れかであることが望ましい。
【0026】
<アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≧1.25×X-32を満たす>
本発明を適用したバインダ組成物は、アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≧1.25×X-32を満たす。このため、本発明を適用したバインダ組成物の15℃における密度を0.950g/cm以上に保つことができる。
【0027】
アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y<1.25×X-32の場合、潤滑油基油の含有量に対するアスファルトの含有量の割合が小さくなる。このため、アスファルト組成物の密度が低下する。これにより、劣化したアスファルトとの混合性に問題が生じる。よって、バインダ組成物におけるアスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係は、Y≧1.25×X-32を満たすこととする。
【0028】
<アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≦-13.3×X+437.06を満たす>
本発明を適用したバインダ組成物は、アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≦-13.3×X+437.06を満たす。このため、本発明を適用したバインダ組成物の、芳香族含有率を50.00%以上に保つことができる。
【0029】
アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y>-13.3×X+437.06となる場合、潤滑油基油の含有量及びアスファルトの含有量に対する溶剤抽出油の含有量の割合が小さくなる。このため、アスファルト組成物の中の芳香族分の含有率が低下する。これにより、劣化したアスファルトとの混合性に問題が生じる。よって、バインダ組成物におけるアスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係は、Y≦-13.3×X+437.06を満たすこととする。
【0030】
上記を踏まえ、アスファルトの含有量Yと上記潤滑油基油の含有量Xとの関係は、1.25×X-32≦Y≦1.25×X-25.375、及び、Y≦-13.3×X+437.06を満たすこととする。
【0031】
<0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下>
前述したように、本発明において作業性低下の抑制を目指しているのは、0℃付近の低温時においてゆっくりとした力が作用する作業時である。この作業を実現するためには、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Paを超えると、低温ではほとんど流動しなくなる。このため、例えば保存容器から流出及びポンプ移送時の作業性が低下する。よって、本発明を適用したバインダ組成物では、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率を10.0Pa以下とする。
【0032】
なお、複素弾性率Gは、舗装調査・試験法便覧(社団法人日本道路協会編)に規定されているダイナミックシアレオメータ(DSR)試験方法に準拠して測定した。本試験の測定原理は、バインダ組成物を2枚の平行円盤(直径が50mm)間に挟み、一方の円盤に所定の周波数の正弦波歪み(歪みが10%)を加え、バインダ組成物(厚さが1mm)を介して他方の円盤に伝わる正弦的応力σを測定し、正弦的応力と正弦波歪みから複素弾性率を求めるというものである。そして、その測定結果に基づき、下記数式(1)から複素弾性率Gを求める。ここで、下記数式(1)におけるγは平行円盤に加えた最大歪みである。
【0033】
【数1】
【0034】
<潤滑油基油の動粘度が40℃において80.0mm/秒以上110.0mm/秒以下、及び100℃において9.0mm/秒以上13.0mm/秒以下>
潤滑油基油の動粘度は、動粘度が40℃において80.0mm/秒以上110.0mm/秒以下、及び100℃において9.0mm/秒以上13.0mm/秒以下であることが望ましい。潤滑油基油の動粘度が40℃において80.0mm/秒、及び100℃において9.0mm/秒の少なくとも何れかを下回る場合、潤滑油基油の引火点が低くなりすぎ、バインダ組成物の引火点が250℃未満となり、作業時における安全性の悪化や、保管の難易度が高くなる。また、40℃において110.0mm/秒、及び100℃において13.0mm/秒の少なくとも何れかを超える場合、潤滑油基油の動粘度が高くなりすぎ、取り扱い難くなる。このため、潤滑油基油の動粘度は、40℃において80.0mm/秒以上110.0mm/秒以下、及び100℃において9.0mm/秒以上13.0mm/秒以下であることが望ましい。
【0035】
上述したように、本発明を適用したバインダ組成物において、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率を10.0Pa以下としている。このため、低温時において流動性に優れており、保存容器からの流出及びポンプ移送といったゆっくりとした力が作用する作業における作業性を良好にすることができる。
【0036】
バインダ組成物の引火点は、作業時における安全性及び保管の難易度に影響する。バインダ組成物の引火点が250℃未満の場合、危険物(第4類第四石油類)に該当し、作業時における安全性の悪化、及び保管の難易度が高まる。よって、本発明を適用したバインダ組成物では、引火点を250℃以上とすることが望ましい。
【0037】
なお、本発明を適用したバインダ組成物は、ベース材の溶剤抽出油、潤滑油基油、及びアスファルトに加え、例えば炭素数12~22である飽和脂肪酸若しくは不飽和脂肪酸、又はこれらの混合物、若しくは2量体を含有してもよい他、これらのアマイド、並びにポリマー等を含有してもよい。
【実施例
【0038】
以下、本発明を適用したバインダ組成物の特性について、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
【0039】
本実施例において、溶剤抽出油と、潤滑油基油と、アスファルトとを、下記表1の割合で混合し、実施例及び比較例のバインダ組成物を作製し、複素弾性率、密度、及び芳香族分含有量を測定した。
【0040】
溶剤抽出油として、15℃における密度が0.975g/cm、40℃における粘度が2902mm/秒、60℃における粘度が485mm/秒、引火点が332℃、芳香族分が73.2%、アニリン点が70.2℃のものを使用した。
【0041】
潤滑油基油として、動粘度が40℃において87.92mm/秒、60℃において36.57mm/秒、及び100℃において10.66mm/秒、15℃における密度が0.875g/cm、流動点が-12.5℃、引火点が260℃、芳香族分が2.6%のものを使用した。
【0042】
アスファルト(1)として、針入度12、軟化点65.0℃、15℃における密度が1.060g/cm、引火点が362℃、芳香族分が67.9%の溶剤脱れきアスファルトを使用した。また、アスファルト(2)として、針入度64、軟化点49.0℃、15℃における密度が1.034g/cm、芳香族分が58.0%のストレートアスファルトを使用した。
【0043】
なお、複素弾性率は、上記のDSR試験方法に準拠して測定した。密度は、JIS K2249に準拠して測定した。
【0044】
芳香族分はJPI-5S-70-10「TLC/FID法によるアスファルト組成分析試験方法」の条件の下、測定した。
【0045】
【表1】
【0046】
図1は、表1の値に基づき、各実施例1~12及び比較例1~13における潤滑油基油の含有量と、アスファルトの含有量との関係をプロットした図である。プロット周辺の数値は、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率(単位のPaは省略している)を示す。図1の実線は、潤滑油基油の含有量における下限の境界線を示し、破線は、アスファルトの含有量と、潤滑油基油の含有量との上限の境界線を示し、一点鎖線は、アスファルトの含有量と、潤滑油基油の含有量との関係における下限の境界線を示す。
【0047】
<潤滑油基油:27.0重量%以上の実施例>
表1及び図1に示すように、比較例2及び3に示すように、潤滑油基油の含有量が27.0重量%未満の場合、潤滑油基油の含有量に対する溶剤抽出油の含有量の割合が大きくなる。このため、溶剤抽出油の動粘度を十分に低下させることができず、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Paを超える。これにより、バインダ組成物の複素弾性率が高くなり、低温時における流動性が乏しく、作業性が低下する。
【0048】
これに対し、潤滑油基油の含有量が27.0重量%以上の実施例1~12では、潤滑油基油の含有量に対する溶剤抽出油の含有量の割合の増大が抑制される。このため、溶剤抽出油の動粘度を十分に低下させることができ、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下である。これにより、実施例1~12のバインダ組成物では、低温時における流動性に優れており、作業性の低下を抑制することが可能である。
【0049】
<アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≦1.25×X-25.375を満たす実施例>
また、比較例4~6、11~13では、アスファルトの含有量Yと、潤滑油基油の含有量Xとの関係における境界線Y=1.25×X-25.375よりも上にプロットされ、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Paを超える。このため、Y≦1.25×X-25.375の関係を満たさない比較例4~6、11~13のバインダ組成物では、低温時における流動性が乏しく、作業性が低下する。
【0050】
これに対し、実施例1~12では、Y≦1.25×X-25.375を満たし、それぞれ0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下である。このため、実施例1~12のバインダ組成物では、低温時における流動性に優れており、作業性の低下を抑制することが可能である。
【0051】
<アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≧1.25×X-32を満たす実施例>
また、比較例1、10では、アスファルトの含有量Yと、潤滑油基油の含有量Xとの関係における境界線Y=1.25×X-32よりも下にプロットされ、15℃における密度が0.950g/cm未満である。このため、Y≧1.25×X-32の関係を満たさない比較例1、10のバインダ組成物では、アスファルト組成物の密度が低く、劣化したアスファルトとの混合性に問題が生じる。
【0052】
これに対し、実施例1~12では、Y≧1.25×X-32を満たし、それぞれ15℃における密度が0.950g/cm以上である。このため、実施例1~12のバインダ組成物では、劣化したアスファルトとの混合性の悪化を抑制することができる。
【0053】
<アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、Y≦-13.3×X+437.06を満たす実施例>
また、比較例7~9では、アスファルトの含有量Yと、潤滑油基油の含有量Xとの関係における境界線Y=-13.3×X+437.06よりも上にプロットされ、芳香族の含有率が50.00%未満である。このため、Y≦-13.3×X+437.06の関係を満たさない比較例7~9のバインダ組成物では、アスファルト組成物の中の芳香族分の含有率が低く、劣化したアスファルトとの混合性に問題が生じる。
【0054】
これに対し、実施例1~12では、Y≦-13.3×X+437.06を満たし、それぞれ芳香族分の含有率が50.00%以上である。このため、実施例1~12のバインダ組成物では、劣化したアスファルトとの混合性の悪化を抑制することができる。
【0055】
上記より、本発明を適用したバインダ組成物は、溶剤抽出油:73.0重量%未満と、潤滑油基油:27.0重量%以上と、アスファルトとを含有する。また、アスファルトの含有量Yと潤滑油基油の含有量Xとの関係が、1.25×X-32≦Y≦1.25×X-25.375、及び、Y≦-13.3×X+437.06を満たす。そして、0℃における0.1rad/秒での複素弾性率が10.0Pa以下である。このため、冬期や寒冷地等のような低温時においても、流動性に優れている。これにより、低温時においても、作業性の低下を抑制することが可能である。
【0056】
また、本発明を適用したバインダ組成物は、ベース材として溶剤抽出油を多く含有し、芳香族分を多く含む。このため、劣化したアスファルトの芳香族分を補うことが可能である。これにより、新規アスファルト舗装と同等の特性を有する再生アスファルト舗装が得られる。
【0057】
また、本発明を適用したバインダ組成物は、引火点が250℃以上である。これにより、アスファルトの安全性が増すため、取り扱いや保管が容易になる。
【0058】
また、本発明を適用したバインダ組成物に含有される潤滑油基油の動粘度は、40℃において80.0mm/秒以上110.0mm/秒以下、及び100℃において9.0mm/秒以上13.0mm/秒以下である。これにより、材料特性のバラつきを抑制することができ、低温時における作業性の低下の抑制を、容易に達成することが可能である。
【0059】
なお、本発明を適用したバインダ組成物は、低温時以外の環境において用いられてもよい。
【0060】
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1