(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】タッチパッド、およびタッチパネル
(51)【国際特許分類】
C03C 17/32 20060101AFI20221212BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20221212BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20221212BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20221212BHJP
C03C 17/42 20060101ALI20221212BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C03C17/32 A
B32B3/30
B32B17/06
C03C15/00 A
C03C17/42
G06F3/041 495
(21)【出願番号】P 2020072632
(22)【出願日】2020-04-15
(62)【分割の表示】P 2016560261の分割
【原出願日】2015-11-18
【審査請求日】2020-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2014236007
(32)【優先日】2014-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015140171
(32)【優先日】2015-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】稲本 美砂
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 崇
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C03C 15/00-23/00
G06F 3/033-3/039
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と防汚層とを有する透明板と、前記透明板における指のタッチ位置を検出する位置検出器と、前記位置検出器による検出結果に応じた画像を表示する画像表示装置とを備え、
前記透明板は、前記透明基板の表面に、走査型プローブ顕微鏡を用いて2μm四方の領域に対し取得データ数を1024×1024として測定した表面粗さRaが2.0~100nmの微小凹凸構造を有し、
前記防汚層はフッ素を含み、前記防汚層の少なくとも一部は前記微小凹凸構造の位置に形成され、
前記透明板は、前記微小凹凸構造の位置での、前記透明板のヘイズをY(%)とすると、下記式(2)および式(3)を満たす、タッチパネル。
Y≦a×X+b・・・(2)
Y≦2・・・・・・・(3)
X=(S
1
-S
2
)/(S
3
-S
2
)
a=0.67(%)
b=-0.33(%)
S
1
;前記微小凹凸構造の位置での、前記防汚層の蛍光X線測定装置で前記防汚層側から測定したF-Kα線強度
S
2
;フッ素を実質的に含有しないガラス板の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
S
3
;フッ素を2wt%含有するアルミノシリケートガラス板(標準サンプル)の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
【請求項2】
前記透明基板はガラス基板である、請求項
1に記載のタッチパネル。
【請求項3】
透明基板と防汚層とを有する透明板と、前記透明板における指のタッチ位置を検出する位置検出器とを備え、
前記透明板は、前記透明基板の表面に、走査型プローブ顕微鏡を用いて2μm四方の領域に対し取得データ数を1024×1024として測定した表面粗さRaが2.0~100nmの微小凹凸構造を有し、
前記防汚層はフッ素を含み、前記防汚層の少なくとも一部は前記微小凹凸構造の位置に形成され、
前記透明板は、前記微小凹凸構造の位置での、前記透明板のヘイズをY(%)とすると、下記式(2)および式(3)を満たす、タッチパッド。
Y≦a×X+b・・・(2)
Y≦2・・・・・・・(3)
X=(S
1
-S
2
)/(S
3
-S
2
)
a=0.67(%)
b=-0.33(%)
S
1
;前記微小凹凸構造の位置での、前記防汚層の蛍光X線測定装置で前記防汚層側から測定したF-Kα線強度
S
2
;フッ素を実質的に含有しないガラス板の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
S
3
;フッ素を2wt%含有するアルミノシリケートガラス板(標準サンプル)の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
【請求項4】
前記透明基板はガラス基板である、請求項
3に記載のタッチパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明板、タッチパッド、およびタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパッドやタッチパネル向けに、様々な機能層を透明基板に形成した透明板が開発されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1によれば、機能層として、平均粒径1~100μmの微粒子を含む重合性組成物の硬化物でハードコート層を形成する。これにより、硬度が高く、且つ、指の引っ掛かりがない物が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、機能層が平均粒径1~100μmの微粒子を含むため、ヘイズが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、低いヘイズのまま、従来とは異なる触感が得られる透明板の提供を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
透明基板と防汚層とを有する透明板と、前記透明板における指のタッチ位置を検出する位置検出器と、前記位置検出器による検出結果に応じた画像を表示する画像表示装置とを備え、
前記透明板は、前記透明基板の表面に、走査型プローブ顕微鏡を用いて2μm四方の領域に対し取得データ数を1024×1024として測定した表面粗さRaが2.0~100nmの微小凹凸構造を有し、
前記防汚層はフッ素を含み、前記防汚層の少なくとも一部は前記微小凹凸構造の位置に形成され、
前記透明板は、前記微小凹凸構造の位置での、前記透明板のヘイズをY(%)とすると、下記式(2)および式(3)を満たす、タッチパネルが提供される。
Y≦a×X+b・・・(2)
Y≦2・・・・・・・(3)
X=(S
1
-S
2
)/(S
3
-S
2
)
a=0.67(%)
b=-0.33(%)
S
1
;前記微小凹凸構造の位置での、前記防汚層の蛍光X線測定装置で前記防汚層側から測定したF-Kα線強度
S
2
;フッ素を実質的に含有しないガラス板の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
S
3
;フッ素を2wt%含有するアルミノシリケートガラス板(標準サンプル)の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、低いヘイズのまま、従来とは異なる触感が得られる透明板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による透明板を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による透明板を用いたタッチパッドを示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による透明板を用いたタッチパネルを示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態による透明板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態によるガラス基板のエッチング処理に使用される処理装置を示す図である。
【
図6】例14によるガラス基板のエッチング処理後の断面写真である。
【
図7】例14によるガラス基板のエッチング処理後の表面写真である。
【
図8】例1~43による透明板の「X」と「Y」との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。本明細書において、数値範囲を表す「~」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態による透明板を示す図である。透明板10は、透明基板としてのガラス基板11と、防汚層12とを有する。尚、ガラス基板11の代わりに、樹脂基板も使用可能である。
【0011】
ガラス基板11の厚さは、3mm以下であることが好ましく、例えば、0.2~2.0mmの範囲であっても良い。ガラス基板11の厚さは、0.3~1.5mmの範囲であることがより好ましい。ガラス基板11の厚さが3mm以上の場合、重量が上昇して軽量化が難しくなり、また原材料コストが上昇してしまう。
【0012】
ガラス基板11のマルテンス硬さは、例えば2000以上4500N/mm2未満であってもよく、2000~4000N/mm2であることがより好ましい。マルテンス硬さが2000N/mm2以上の場合、耐久性が良い。また、マルテンス硬さが4500N/mm2未満であれば、切断等の加工が可能であり、4000N/mm2以下の場合、指で触ったときに適度なへこみ感が得られる。マルテンス硬さは、さらに好ましくは2000~3500N/mm2である。なお、マルテンス硬さは、カバーガラスの表面の柔らかさを表す指標であり、ISO 14577に準拠した方法で測定可能である。
【0013】
ガラス基板11は、400~700nmの波長領城に高い透過率、例えば80%以上の透過率を有することが好ましい。また、ガラス基板11は、十分な絶縁性を有し、化学的物理的耐久性が高いことが望ましい。
【0014】
ガラス基板11は、フロート法、またはフュージョン法などで成形される。ガラス基板11は、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、または無アルカリガラスなどで構成される。ガラス基板11は、化学強化処理がなされた化学強化ガラスでも、未強化ガラスでもよい。化学強化ガラスの場合、ガラス基板11はアルカリ金属を含む。
【0015】
ガラス基板11は、例えば、モル%表示で61~77%のSiO2、1~18%のAl2O3、8~18%のNa2O、0~6%のK2O、0~15%のMgO、0~8%のB2O3、0~9%のCaO、0~1%のSrO、0~1%のBaO、および0~4%のZrO2を含む。
【0016】
SiO2はガラスの骨格を構成する成分であり必須である。61モル%未満では、ガラス表面に傷がついた時にクラックが発生しやすくなる、耐候性が低下する、比重が大きくなる、または液相温度が上昇しガラスが不安定になる等が起こりやすいため、好ましくは63モル%以上である。SiO2が77モル%超では粘度が102dPa・sとなる温度T2または粘度が104dPa・sとなる温度T4が上昇しガラスの溶解または成形が困難となる、または耐候性が低下しやすいため、好ましくは70モル%以下である。
【0017】
Al2O3はイオン交換性能および耐候性を向上させる成分であり必須である。1モル%未満ではイオン交換により所望の表面圧縮応力や圧縮応力層厚みが得られにくい、または耐候性が低下しやすい等から、好ましくは5モル%以上である。18モル%超では、T2もしくはT4が上昇しガラスの溶解もしくは成形が困難となる、または液相温度が高くなり失透しやすくなる。
【0018】
Na2Oはイオン交換時の表面圧縮応力のばらつきを小さくする、イオン交換により表面圧縮応力層を形成させる、またはガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須である。8モル%未満ではイオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することが困難となる、または、T2もしくはT4が上昇しガラスの溶解もしくは成形が困難となるため、好ましくは10モル%以上である。Na2Oが18モル%超では耐候性が低下する、または圧痕からクラックが発生しやすくなる。
【0019】
K2Oは必須ではないがイオン交換速度を増大させる成分であり、6モル%まで含有してもよい。6モル%超ではイオン交換時の表面圧縮応力のばらつきが大きくなる、圧痕からクラックが発生しやすくなる、または耐候性が低下する。
【0020】
MgOは溶融性を向上させる成分であり含有しても良い。MgOが15モル%超ではイオン交換時の表面圧縮応力のばらつきが大きくなる、液相温度が上昇し失透しやすくなる、またはイオン交換速度が低下するため、好ましくは12モル%以下である。
【0021】
B2O3は溶融性向上のために8モル%以下であることが好ましい。8モル%超では均質なガラスを得にくくなり、ガラスの成型が困難になるおそれがある。
【0022】
CaOは高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするために9モル%まで含有してもよいが、イオン交換時の表面圧縮応力のばらつきが大きくなる、またはイオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。
【0023】
SrOは高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするために1モル%以下で含有してもよいが、イオン交換時の表面圧縮応力のばらつきが大きくなる、または、イオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。
【0024】
BaOは高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするために1モル%以下で含有してもよいが、イオン交換時の表面圧縮応力のばらつきが大きくなる、またはイオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。
【0025】
ZrO2は必須成分ではないが、表面圧縮応力を大きくする、または耐候性を向上させる等のため、4モル%まで含有してもよい。4モル%超ではイオン交換時の表面圧縮応力のばらつきが大きくなる、またはクラック発生に対する耐性が低下する。
【0026】
防汚層12は、指紋や油脂などの汚れが付着することを防止したり、そのような汚れの除去を容易にしたりするためのものである。防汚層12は、指紋付着防止および指紋除去促進の少なくとも一方の作用を有する。防汚層12は、例えば、ガラス基板11の表面から垂直または斜めに伸びる樹脂毛の集合体で構成される。
【0027】
防汚層12は、フッ素を含む樹脂で形成される。防汚層12の材料としては、例えば下記式(A)で表される樹脂、下記式(B)で表される樹脂などが用いられる。
【0028】
【化1】
ここで、L
1は、例えばC、H、O、N、Fなどから形成される、たとえばエーテル結合、アミド結合などからなる結合構造である。kは繰り返し回数で、1以上1000以下の自然数である。L
0はガラスの末端OH基と交換することができる加水分解性基である。
【0029】
L0は、フッ素以外のハロゲンまたはアルコキシ基(-OR)であることが好ましく、ここで、Rは1~6の炭素原子の直鎖または分岐鎖炭化水素であり、例えば、-CH3、-C2H5、-CH(CH3)2の炭化水素が挙げられる。好ましいハロゲンは、塩素である。好ましいアルコキシシランは、トリメトキシシラン、Si(OMe)3である。
【0030】
【化2】
ここで、L
2は、例えばC、H、O、N、Fなどから形成される、たとえばエーテル結合、アミド結合などからなる結合構造である。mおよびnは繰り返し回数で、それぞれ、1以上1000以下の自然数である。L
0は式(A)のL
0と同じ意味である。
【0031】
防汚層の材料としては、S600(商品名、旭硝子社製)、S550(商品名、旭硝子社製)、KY-178(商品名、信越化学工業社製)、KY-185(商品名、信越化学工業社製)、X-71-186(商品名、信越化学工業社製)、X-71-190(商品名、信越化学工業社製)、オプツール(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)およびオプツール(登録商標)AES(商品名、ダイキン工業株式会社製)などが好ましく使用できる。
【0032】
ところで、防汚層12の成膜量が成膜部位の表面粗さに応じた閾値を超える場合、その超過量に応じた量の凝集体が形成される。そのため、上記成膜量には限界があり、凝集体が生じないように上記成膜量が設定される。尚、凝集体が形成されると、透明板10のヘイズ(散乱、曇度)が大きくなり、透明板10をタッチパネルに組み込んだ際に商品性を著しく低下させる。そして触感は成膜量に依存するため、成膜量が制限されると、設計可能な触感も一定範囲内に制限されることになる。
【0033】
ガラス基板11は、その表面に、表面粗さRaが0.3~300nmの微小凹凸構造11aを有する。ここで、表面粗さRaとは、日本工業規格(JIS B 0601)に記載の算術平均粗さである。表面粗さRaが0.3nm以上である場合、ガラス基板11の表面積が大きく、防汚層12の材料がガラス基板11の表面と反応する確率があがるため、防汚層12の材料の凝集を抑制でき、当該凝集に起因するヘイズの増大を抑制できる。そして、防汚層12の成膜量を増大でき、指で触ったときに従来とは異なる触感が得られる。さらに、より多くの防汚層12の材料がガラス基板と結合していることから、微小凹凸構造11aを有さないガラス基板に防汚層を形成した場合と比較して、所定の触感をより長期間維持できる。一方、表面粗さRaが300nm以下である場合、表面粗さRaが0.2nm以下の場合と同程度の低いヘイズが得られ、透明度が確保できる。表面粗さRaは、好ましくは0.3~200nm、より好ましくは0.3~100nmである。
【0034】
防汚層12の少なくとも一部は、微小凹凸構造11aの位置に形成される。よって、ヘイズが低く維持でき、且つ、防汚層12の成膜量を増大できる。ここでは、防汚層12の成膜量を表す値として、下記式(1)で表されるXを採用する。
X=(S1-S2)/(S3-S2)・・・(1)
S1;微小凹凸構造11aの位置での、透明板10の蛍光X線測定装置で防汚層12側から測定したF-Kα線強度
S2;フッ素を実質的に含有しないガラス板の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
S3;フッ素を2wt%含有するアルミノシリケートガラス板(標準サンプル)の蛍光X線測定装置で測定したF-Kα線強度
ここで、「フッ素を実質的に含有しないガラス板」とは、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定したフッ素の含有量が100ppm未満のガラス板を意味し、たとえば市販のソーダライムガラス等でもよい。ガラス基板11が実質的にフッ素を含有しない場合、防汚層12の成膜前のガラス基板11を測定してもよい。上記式(1)に示すようにS1およびS3からそれぞれS2を引くことで、蛍光X線測定装置のゼロ点補正を行っている。防汚層12にはフッ素原子が含まれている。上記式(1)で表されるXを測定することで、防汚層12の成膜量を定量することができる。
【0035】
一観点によれば、微小凹凸構造11aの位置での透明板10のヘイズが2%以下であって、上記式(1)で表されるXが0.5以上である透明板10が提供される。詳しくは実施例の欄において説明するが、このような構造の透明板10は従来なく、従来とは異なる触感が得られる。ヘイズは好ましくは1.5%以下である。Xは好ましくは0.5~10、より好ましくは0.5~7である。
【0036】
別の一観点によれば、微小凹凸構造11aの位置での透明板10のヘイズをY(%)とすると、下記式(2)および(3)を満たす透明板10が提供される。
Y≦a×X+b・・・(2)
Y≦2・・・・・・・(3)
a=0.67(%)
b=-0.33(%)
詳しくは実施例の欄において説明するが、このような構造の透明板10は従来なく、低いヘイズのまま、従来とは異なる触感が得られる。尚、式(2)においてaおよびbは、それぞれ、後述の例1~43の評価結果に基づき算出した。Xは好ましくは0.5~10、より好ましくは0.5~7である。
【0037】
防汚層12の厚さは、例えば1~100nmである。
【0038】
防汚層12の表面粗さは、ガラス基板11の表面粗さと同等であってもよい。
【0039】
なお、透明板10は、ガラス基板11と防汚層12との間に、機能層としての無機層を有してもよい。無機層は酸化膜、窒化膜、酸素窒化膜、金属膜のいずれか1層または任意の2以上の組み合わせからなる多層膜であって、以下に説明する下地層、反射防止層のほか、高反射層(ミラー層ともいう)、低放射層などのうち1以上の機能を発揮可能な機能層である。
【0040】
透明板10は、ガラス基板11と防汚層12との間に、下地層を有してもよい。ガラス基板11と防汚層12との密着性を改善する効果などがある。下地層は、例えば酸化ケイ素などの無機層で形成される。
【0041】
また、透明板10は、ガラス基板11と防汚層12との間に、反射防止層などの無機層を有してもよい。反射防止層は、公知の方法で形成されたものであってよく、たとえば屈折率の異なる層(例えば酸化ケイ素と酸化チタン)を交互に積層した多層膜でもよい。反射防止層は、たとえば屈折率が1.6以下の単層膜でもよい。そのような単層膜としては、例えばシリカ膜や、フッ素ドープシリカ膜、フッ化マグネシウム膜などが挙げられる。また、反射防止層は、ゾルゲル法によって形成されたものでもよい。ここで、「屈折率」は、波長550nmの光に対する屈折率を意味し、室温で測定する。
【0042】
透明板10は、ガラス基板11と防汚層12との間に、下地層と反射防止層の両方を有してもよい。この場合、透明板10は、ガラス基板11側から、反射防止層、下地層、防汚層をこの順で有してよい。
【0043】
図2は、本発明の一実施形態による透明板を用いたタッチパッドを示す図である。
図2において、
図1に示す微小凹凸構造11aの図示を省略する。
【0044】
タッチパッド20は、透明板10と、位置検出器21とを有する。位置検出器21は、一般的なものであってよく、例えば静電容量の変化などを利用して、透明板10における指のタッチ位置を検出する。
【0045】
タッチパッド20は透明板10を備えるため、低いヘイズのまま、従来とは異なる触感が得られる。タッチパッド20は、例えば、ノートパソコンなどに組み込まれる。
【0046】
図3は、本発明の一実施形態による透明板を用いたタッチパネルを示す図である。
図3において、
図1に示す微小凹凸構造11aの図示を省略する。
【0047】
タッチパネル30は、透明板10と、位置検出器31と、画像表示装置32とを有する。位置検出器31は、一般的なものであってよく、例えば静電容量の変化などを利用して、透明板10における指のタッチ位置を検出する。画像表示装置32は、一般的なものであってよく、例えば液晶ディスプレイなどで構成され、位置検出器31の検出結果に応じた画像を表示する。
【0048】
タッチパネル30は透明板10を備えるため、低いヘイズのまま、従来とは異なる触感が得られる。タッチパネル30は、例えば、デジタル情報機器などに組み込まれる。デジタル情報機器としては、携帯電話(スマートフォンを含む)、コンピュータ(タブレットを含む)、コピー機、ファクシミリなどが挙げられる。
【0049】
尚、本実施形態の透明板10は、
図2ではタッチパッド20に組み込まれ、
図3ではタッチパネル30に組み込まれるが、他の製品に組み込まれてもよい。例えば、透明板10は、機器の筐体、画像表示装置のカバーなどに用いられてもよい。
【0050】
また、透明板10は、指で触るものではなく、ペンで触るものでもよい。低いヘイズのまま、従来とは異なる書き心地が得られる。
【0051】
また、位置検出器31と画像表示装置32との配置は逆でもよく、画像表示装置32を基準として透明板10とは反対側に位置検出器31が配置されてもよい。
【0052】
図4は、本発明の一実施形態による透明板の製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、透明板の製造方法は、表面粗化工程S11と、化学強化工程S12と、コーティング工程S13とを有する。尚、化学強化工程S12は、任意の工程であって、必要に応じて設ければよい。
【0053】
表面粗化工程S11では、ガラス基板の表面を粗化することにより、表面粗さRaが0.3~300nmの微小凹凸構造を形成する。例えば、表面粗化工程S11では、ガラス基板11の表面にエッチング処理を行う。エッチングは、化学エッチング、物理エッチングのいずれでもよい。化学エッチングの場合は、ドライエッチング、ウェットエッチングのいずれでもよい。ドライエッチングでは、例えばフッ化水素(HF)ガスを含む処理ガスが用いてもよい。
【0054】
エッチング処理の温度は、特に限られないが、通常、400~800℃の範囲である。エッチング処理の温度は、500~700℃の範囲であることが好ましく、500~650℃の範囲であることがより好ましい。
【0055】
処理ガスは、フッ化水素ガスの他、キャリアガスおよび希釈ガスを含んでも良い。キャリアガス、希釈ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素および/またはアルゴン等が使用される。また、水を加えても構わない。
【0056】
処理ガス中のフッ化水素ガスの濃度は、ガラス基板の表面が適正にエッチング処理される限り、特に限られない。処理ガス中のフッ化水素ガスの濃度は、例えば、0.1~10vol%の範囲であり、0.3~5vol%の範囲であることが好ましく、0.5~4vol%の範囲であることがより好ましい。このとき、処理ガス中のフッ化水素ガスの濃度(vol%)は、フッ素ガス流量/(フッ素ガス流量+キャリアガス流量+希釈ガス流量)より求められる。
【0057】
ガラス基板のエッチング処理は、反応容器中で実施しても良いが、ガラス基板が大きい場合など、必要な場合、ガラス基板のエッチング処理は、ガラス基板を搬送させた状態で実施しても良い。この場合、反応容器中での処理に比べて、より迅速かつ高効率な処理が可能となる。
【0058】
ここで、エッチング処理に使用され得る装置の一例について簡単に説明する。
【0059】
図5は、本発明の一実施形態によるガラス基板のエッチング処理に使用される処理装置を示している。
図5に示す処理装置は、ガラス基板を搬送させた状態で、ガラス基板のエッチング処理を実施できる。
【0060】
図5に示すように、この処理装置300は、インジェクタ310と、搬送手段350とを備える。
【0061】
搬送手段350は、上部に置載されたガラス基板380を、矢印F301に示すように、水平方向(x軸方向)に搬送できる。
【0062】
インジェクタ310は、搬送手段350およびガラス基板380の上方に配置される。
【0063】
インジェクタ310は、処理ガスの流通路となる複数のスリット315、320、および325を有する。すなわち、インジェクタ310は、中央部分に鉛直方向(z軸方向)に沿って設けられた第1のスリット315と、該第1のスリット315を取り囲むように、鉛直方向(z軸方向)に沿って設けられた第2のスリット320と、該第2のスリット320を取り囲むように、鉛直方向(z軸方向)に沿って設けられた第3のスリット325とを備える。
【0064】
第1のスリット315の一端(上部)は、フッ化水素ガス源(図示されていない)とキャリアガス源(図示されていない)とに接続されており、第1のスリット315の他端(下部)は、ガラス基板380の方に配向される。同様に、第2のスリット320の一端(上部)は、希釈ガス源(図示されていない)に接続されており、第2のスリット320の他端(下部)は、ガラス基板380の方に配向される。第3のスリット325の一端(上部)は、排気系(図示されていない)に接続されており、第3のスリット325の他端(下部)は、ガラス基板380の方に配向される。
【0065】
このように構成された処理装置300を使用して、ガラス基板380のエッチング処理を実施する場合、まず、フッ化水素ガス源(図示されていない)から、第1のスリット315を介して、矢印F305の方向に、フッ化水素ガスが供給される。また、希釈ガス源(図示されていない)から、第2のスリット320を介して、矢印F310の方向に、窒素等の希釈ガスが供給される。これらのガスは、排気系により、矢印F315に沿って水平方向(x軸方向)に移動した後、第3のスリット325を介して、処理装置300の外部に排出される。
【0066】
なお、第1のスリット315には、フッ化水素ガスに加えて、窒素などのキャリアガスを同時に供給しても良い。
【0067】
次に、搬送手段350が稼働される。これにより、ガラス基板380が矢印F301の方向に移動する。
【0068】
ガラス基板380は、インジェクタ310の下側を通過する際に、第1のスリット315および第2のスリット320から供給された処理ガス(フッ化水素ガス+キャリアガス+希釈ガス)に接触する。これにより、ガラス基板380の上面がエッチング処理される。
【0069】
なお、ガラス基板380の上面に供給された処理ガスは、矢印F315のように移動してエッチング処理に使用された後、矢印F320のように移動して、排気系に接続された第3のスリット325を介して、処理装置300の外部に排出される。
【0070】
このような処理装置300を使用することにより、ガラス基板を搬送しながら、処理ガスによるエッチング処理を実施することができる。この場合、反応容器を使用してエッチング処理を実施する方法に比べて、処理効率を向上できる。また、このような処理装置300を使用した場合、大型のガラス基板に対してもエッチング処理を実施できる。
【0071】
ここで、ガラス基板380への処理ガスの供給速度は、特に限られない。処理ガスの供給速度は、例えば、0.1~1000SLMの範囲であっても良い。ここで、SLMとは、Standard Litter per Minute(標準状態における流量)の略である。また、ガラス基板380のインジェクタ310の通過時間(
図5の距離Sを通過する時間)は、1~120秒の範囲であり、2~60秒の範囲であることが好ましく、3~30秒の範囲であることがより好ましい。ガラス基板380のインジェクタ310の通過時間を320秒以下とすることにより、迅速なエッチング処理を実施可能である。以下、ガラス基板380のインジェクタ310の通過時間を「エッチング処理時間」ともいう。
【0072】
このように、処理装置300を使用することにより、搬送状態のガラス基板に対して、エッチング処理を実施できる。
【0073】
なお、
図5に示した処理装置300は、単なる一例に過ぎず、その他の装置を使用して、フッ化水素ガスを含む処理ガスによるガラス基板のエッチング処理を実施しても良い。例えば、
図5の処理装置300では、静止しているインジェクタ310に対して、ガラス基板380が相対的に移動する。しかしながら、これとは逆に、静止しているガラス基板に対して、インジェクタを水平方向に移動させても良い。あるいは、ガラス基板とインジェクタの両者を、相互に反対方向に移動させても良い。また、搬送手段350およびガラス基板の下方にインジェクタを設置し、ガラス下面をエッチング処理してもよい。
【0074】
また、
図5の処理装置300では、インジェクタ310は、合計3つのスリット315、320、325を有する。しかしながら、スリットの数は、特に限られない。例えば、スリットの数は、2つであっても良い。この場合、一つのスリットが処理ガス(キャリアガスとフッ化水素ガスと希釈ガスとの混合ガス)供給用に利用され、別のスリットが排気用に利用されても良い。また、スリット320と排気用スリット325との間に1つ以上のスリットを設けて、エッチングガス、キャリアガス、希釈ガスを供給させても良い。
【0075】
さらに、
図5の処理装置300では、インジェクタ310の第2のスリット320は、第1のスリット315を取り囲むように配置され、第3のスリット325は、第1のスリット315および第2のスリット320を取り囲むように設けられている。しかしながら、この代わりに、第1のスリット、第2のスリット、および第3のスリットを、水平方向(x軸方向)に沿って一列に配列しても良い。この場合、処理ガスは、ガラス基板の上面を、一方向に沿って移動し、その後、第3のスリットを介して排気される。
【0076】
さらに、複数個のインジェクタ310を搬送手段350の上に、水平方向(x軸方向)に沿って配置させても良い。
【0077】
さらに、別装置等によって、エッチング処理した面と同じ面に酸化ケイ素を主成分とする層を積層させても良い。該層を積層させることにより、エッチング処理した面の化学的耐久性を向上させることができる。
【0078】
また、ガラス基板上に予めマスクを施した上でエッチング処理を行うことにより、ガラス基板表面の所望の領域を部分的にエッチング処理したり、領域によって異なるエッチング条件を適用したりすることが可能である。
【0079】
化学強化工程S12では、ガラス基板を化学強化処理する。ここで、「化学強化処理(法)」とは、アルカリ金属を含む溶融塩中にガラス基板を浸漬させ、ガラス基板の最表面に存在する原子径の小さなアルカリ金属(イオン)を、溶融塩中に存在する原子径の大きなアルカリ金属(イオン)と置換する技術の総称を言う。「化学強化処理(法)」では、処理されたガラス基板の表面には、処理前の元の原子よりも原子径の大きなアルカリ金属(イオン)が配置される。このため、ガラス基板の表面に圧縮応力層を形成することができ、これによりガラス基板の強度が向上する。
【0080】
例えば、ガラス基板がナトリウム(Na)を含む場合、化学強化処理の際、このナトリウムは、溶融塩(例えば硝酸塩)中で、例えばカリウム(K)と置換される。あるいは、例えば、ガラス基板がリチウム(Li)を含む場合、化学強化処理の際、このリチウムは、溶融塩(例えば硝酸塩)中で、例えばナトリウム(Na)および/またはカリウム(K)と置換されても良い。
【0081】
ガラス基板に対して実施される化学強化処理の条件は、特に限られない。
【0082】
溶融塩の種類としては、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、および塩化カリウム等の、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属硫酸塩、およびアルカリ金属塩化物塩などが挙げられる。これらの溶融塩は、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0083】
処理温度(溶融塩の温度)は、使用される溶融塩の種類によっても異なるが、例えば、350~550℃の範囲であっても良い。
【0084】
化学強化処理は、例えば、350~550℃の溶融硝酸カリウム塩中に、ガラス基板を2分~20時間程度浸演することにより、実施しても良い。経済的かつ実用的な観点からは、350~500℃、1~10時間で実施されることが好ましい。
【0085】
これにより、表面に圧縮応力層が形成されたガラス基板を得ることができる。
【0086】
前述のように、化学強化工程S12は、必須の工程ではない。しかしながら、ガラス基板に対して化学強化処理を実施することにより、ガラス基板の強度を高めることができる。
【0087】
コーティング工程S13では、ガラス基板の微小凹凸構造に対して、防汚層の材料をコーティングする。この処理を、以下、「AFP(Anti-Finger Print)処理」と称する。
【0088】
コーティング工程には洗浄処理、下地層成膜、反射防止層成膜などが含まれていてもよい。
【0089】
AFP処理に用いる防汚層の材料は、ガラス基板などの表面のSi-OH基と結合する官能基およびフッ素を含むフッ素系シランカップリング剤である。防汚層の材料は、ガラス基板などの表面に存在するSi-OHと縮合することで、基板との密着性が確保される。
【0090】
防汚層の材料としては、公知の材料を利用でき、たとえば前記した化学式(A)あるいは(B)の化合物を使用できる。
【0091】
これらは、単独で使用しても、混合して使用しても良い。また、予め、酸またはアルカリなどで部分的に加水分解縮合物を作製してから、使用しても良い。
【0092】
AFP処理は、乾式法で実施されても、湿式法で実施されても良い。乾式法では、蒸着法等の成膜プロセスにより、防汚層の材料をガラス基板に成膜させる。一方、湿式法では、防汚層の材料を含む溶液をガラス基板に塗布した後、ガラス基板を乾燥する。
【0093】
AFP処理の前には、必要に応じて、ガラス基板に対して洗浄処理や下地処理を実施しても良い。また、AFP処理の後には、防汚層の密着力向上のため、加熱処理および加湿処理等を実施しても良い。
【実施例】
【0094】
以下、透明板の製造方法およびその評価結果について説明する。なお、例1~29は実施例、例30~41は比較例、例42は実施例、例43は比較例である。
【0095】
(ガラス基板の種類)
フロート法で成形した厚さ0.7mmのガラス基板を用意した。ガラス基板のガラスの種類としては、下記のガラスAと、ガラスBの2種類のいずれかとした。
【0096】
ガラスAは、アルミノシリケートガラス(旭硝子社製 ドラゴントレイル(登録商標))である。ガラスBは、ソーダライムガラス(旭硝子社製 AS)である。
【0097】
(表面粗化工程)
例1~29および例42では
図4に示す表面粗化工程S11を実施し、例30~41および例43では
図4に示す表面粗化工程S11を実施しなかった。
【0098】
表面粗化工程S11では、用意したガラス基板に対して、HFガスによるエッチング処理を実施した。エッチング処理には、前述の
図5に示した処理装置300を使用した。
【0099】
処理装置300において、第1のスリット315にはフッ化水素ガスと窒素ガスを、第2のスリット320には窒素ガスを供給し、HFガスの濃度が例1~6では0.35vol%、例7~13、42では0.48vol%、例14~21では0.60vol%、例22~24では0.71vol%、例25、26では0.60vol%、例27、28では0.90vol%、例29では1.2vol%となるようにした。
【0100】
第3のスリット325からの排気量は、全供給ガス量の2倍とした。
【0101】
ガラス基板は例1~24、42では580℃に加熱した状態で搬送し、例25~29では700℃に加熱した状態で搬送した。なお、ガラス基板の温度は、熱電対を配置した同種のガラス基板を、同様の熱処理条件で搬送しながら測定した値である。ただし、ガラス基板の表面温度は、直接放射温度計を用いて測定しても良い。
【0102】
エッチング処理時間は、10秒とした。
【0103】
(表面粗さ)
エッチング処理後の表面粗さRaは、走査型プローブ顕微鏡(SPI3800N:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)により測定した。測定は、ガラス基板の2μm四方の領域に対して、取得データ数1024×1024として実施した。
【0104】
一例として例14によるガラス基板のエッチング処理後の断面写真と表面写真とを、
図6および
図7に示す。これらの写真から、ガラス基板の表面にはエッチング処理によって微小凹凸構造が形成されていることがわかる。
【0105】
(化学強化工程)
例7~10、例17、例18、例22~24、例30~34、例42~43では、
図4に示す化学強化工程S12を実施した。化学強化工程では、450℃の100%硝酸カリウム溶融塩中に、エッチング処理後のガラス基板を1時間浸漬する化学強化処理を実施した。化学強化処理により、ガラス基板の表面に、圧縮応力層が形成された。
【0106】
尚、例1~6、例11~16、例19~21、例25~29、例35~41では、
図4に示す化学強化工程S12を実施しなかった。
【0107】
(コーティング工程)
例1~43では、
図4に示すコーティング工程S13を実施した。
【0108】
例1~29では、ガラス基板の表面のエッチング処理による微小凹凸構造に対し、下記の処理を行った。例4、例6では、ガラス基板の表面のエッチング処理による微小凹凸構造に対し直接、蒸着法によりAFP剤(AGC社製、S550またはS600)を成膜した。例1~3、例5、例7~29では、ガラス基板の表面のエッチング処理による微小凹凸構造に対し、酸化ケイ素のアンダーコートをスパッタ成膜した後、蒸着法によりAFP剤を成膜した。AFP剤の成膜量は、例毎に変更した。例2、例20では、AFP処理後、100℃で60分間ガラス基板を加熱する加熱処理を実施した(以降、後加熱ともいう)。尚、後加熱は、例1、例3~19、例21~29では実施しなかった。
【0109】
例30~41では、エッチング処理していないガラス基板の表面に対し、酸化ケイ素のアンダーコートをスパッタ成膜した後、蒸着法によりAFP剤を成膜した。また、例31では、AFP処理後、100℃で60分間、ガラス基板を加熱する後加熱を実施した。尚、後加熱は、例30、例32~41では実施しなかった。
【0110】
例42では、ガラス基板の表面のエッチング処理による微小凹凸構造に対し、下記の反射防止層を形成した後、蒸着法によりAFP剤を成膜した。尚、例42では、AFP処理後、後加熱を実施しなかった。
反射防止層は、高屈折率層と、低屈折率層とを交互に積層することで形成した。高屈折率層としては酸化ニオブ層を用い、低屈折率層としては酸化ケイ素層を用いた。
具体的には、まず、真空チャンバー内で、アルゴンガスと酸素ガスを1対3のsccm(standard cc/min)流量比で混合した混合ガスを導入しながら、ニオブターゲットを用いて、圧力0.3Pa、電力密度3.8W/cm2、の条件でマグネトロンスパッタリングを行い、ガラス基板のエッチング処理を施した側の面上に、厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
次いで、アルゴンガスと酸素ガスを1対3の割合で混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、電力密度3.8W/cm2、の条件でマグネトロンパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
次いで、アルゴンガスと酸素ガスを1対3の割合で混合した混合ガスを導入しながら、ニオブターゲットを用いて、圧力0.3Pa、電力密度3.8W/cm2、の条件でマグネトロンスパッタリングを行い、前記低屈折率層上に厚さ115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
次いで、アルゴンガスと酸素ガスを1対3の割合混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、電力密度3.8W/cm2、の条件でマグネトロンスパッタリングを行い、厚さ80nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)と酸化ケイ素(シリカ)とが合計4層積層された反射防止層を形成した。尚、反射防止層を構成する層の数が4つ以外でも、同じ傾向の結果が得られる。
【0111】
例43では、エッチング処理していないガラス基板の表面に対し、例42と同様にして反射防止層を形成した後、蒸着法によりAFP剤を成膜した。尚、例43では、AFP処理後、後加熱を実施しなかった。
【0112】
AFP処理後に、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX PrimusII)を用いて上記式(1)で表されるXを測定した。Xは、上述の如く、AFP剤の成膜量を表す値である。
【0113】
蛍光X線測定装置には、ZSX PrimusII((株)リガク社製:出力:Rh50kV-72mA)を使用した。
【0114】
また、AFP処理後に、透明板のヘイズを測定した。ヘイズの測定には、ヘーズメータ(HZ-2:スガ試験機)を使用し、JIS K7361-1に基づいて実施した。光源には、C光源を使用した。
【0115】
さらに、AFP処理後に、防汚層を指で触ったときの触り心地、すなわち触感を、官能試験により評価した。ここで、「ぬるぬる」とは、指がよく滑るものの、表面がべたついた印象を与える触感をいう。「つるつる」とは、指がよく滑り、表面が平らで硬い印象を与える触感をいう。「なめらか」とは、指がよく滑り、「つるつる」よりもさらに抵抗感のない、ストレスのない触感をいう。「しっとり」とは、指が滑りやすく、柔らかさや優しさを感じる触感をいう。「すべすべ」とは、指の動きが軽く、表面がきめの細かい印象を与える触感をいう。「さらさら」とは、指の動きが軽く、表面が凹凸のある印象を与える触感をいう。「かさかさ」とは、適度な抵抗感のある、表面が乾いた触感をいう。これらの触感は、ガラス基板の表面粗さ、および防汚層の材料の成膜量などで決まる。
【0116】
評価結果を表1および
図8に示す。
図8は、例1~43による透明板の「X」と「Y」との関係を示す図である。
図8において、白丸は例1~29および例42(表面粗さRaが0.3以上の例)を示し、黒丸は例30~41および例43(表面粗さRaが0.3未満の例)を示す。
【0117】
【表1】
表1および
図8から明らかなように、例1~29および例42ではガラス基板の表面に表面粗さRaが0.3以上の微小凹凸構造が形成されるため、低いヘイズのまま、防汚層の材料の成膜量を増やすことができ、例30~41および例43で得られる触感とは異なる触感が得られる。また、コーティング工程における下地処理や反射防止層の有無、後加熱処理の有無は、ヘイズや触感になんら影響を与えないことが示されている。
【0118】
以上、透明板、タッチパッドおよびタッチパネルの実施形態などを説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0119】
例えば、透明板の表面が複数の領域に分割され、ガラス基板11の表面粗さRa、および防汚層12の成膜量Xの少なくとも一方が領域毎に異なってもよい。領域毎に触感が異なるため、位置認識が可能である。
【0120】
本出願は、2014年11月20日に日本国特許庁に出願された特願2014-236007号および2015年7月14日に日本国特許庁に出願された特願2015-140171号に基づく優先権を主張するものであり、特願2014-236007号および特願2015-140171号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0121】
10 透明板
11 ガラス基板
11a 微小凹凸構造
12 防汚層
20 タッチパッド
21 位置検出器
30 タッチパネル
31 位置検出器
32 画像表示装置