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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】免疫検査方法及び濃縮用治具
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20221212BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20221212BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G01N33/48 A
G01N33/531 B
G01N33/543 521
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021550465
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033152
(87)【国際公開番号】W WO2021065300
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019178682
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020005325
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020096898
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】油屋 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚之
(72)【発明者】
【氏名】片田 順一
(72)【発明者】
【氏名】和田 淳彦
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-543110(JP,A)
【文献】特許第5728453(JP,B2)
【文献】国際公開第2005/058453(WO,A1)
【文献】国際公開第01/040762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原を含み得る液と、高吸水性ポリマーとを混合することにより、前記抗原を含み得る液を濃縮して、抗原濃縮液を得る、濃縮工程と、
抗原抗体反応を用いて、前記抗原濃縮液中の抗原を検出する、検出工程とを備える、免疫検査方法であって、
前記高吸水性ポリマーの膨潤率が、0.2g/g超800g/g未満であり、
前記抗原抗体反応に用いられる抗体が、モノクローナル抗体である、免疫検査方法。
【請求項2】
前記高吸水性ポリマーの膨潤率が、20g/g以上500g/g以下である、請求項1に記載の免疫検査方法。
【請求項3】
前記高吸水性ポリマーが、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、セルロース系、又は、ポリエチレンオキシド系のポリマーである、請求項1又は2に記載の免疫検査方法。
【請求項4】
前記抗原を含み得る液が、尿である、請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫検査方法。
【請求項5】
前記抗原濃縮液中の尿素の濃度が、前記抗原を含み得る液中の尿素の濃度の5倍以下である、請求項に記載の免疫検査方法。
【請求項6】
前記高吸水性ポリマーの粒子径が、5mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の免疫検査方法。
【請求項7】
前記高吸水性ポリマーの吸水速度が、高吸水性ポリマー1g当たり0.01g/分以上40g/分以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の免疫検査方法。
【請求項8】
イムノクロマトグラフィーである、請求項1~のいずれか1項に記載の免疫検査方法。
【請求項9】
前記検出工程が、
前記抗原濃縮液中の抗原と、前記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させた状態で、前記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位を有する不溶性担体に展開する、展開工程と、
前記不溶性担体の反応部位において、前記金粒子複合体を捕捉する、捕捉工程と、
前記捕捉工程で捕捉された金粒子複合体を銀増幅する、銀増幅工程とを備える、請求項に記載の免疫検査方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の免疫検査方法の濃縮工程で使用される濃縮用治具であって、
前記高吸水性ポリマーを収容する容器を備え、
前記容器は、前記抗原を含み得る液を取り込むための取込部と、前記抗原濃縮液を排出するための排出部とを有する、濃縮用治具。
【請求項11】
前記容器であるシリンダーと、前記シリンダーに挿入可能なピストンとを備える、請求項10に記載の濃縮用治具。
【請求項12】
前記容器である内筒と、前記内筒を挿入及び取り出し可能な外筒とを備える、請求項10に記載の濃縮用治具。
【請求項13】
管部とポンプ部とを有するスポイト状であり、
前記管部が前記容器である、請求項10に記載の濃縮用治具。
【請求項14】
前記濃縮工程において、請求項1013のいずれか1項に記載の濃縮用治具を用いる、請求項1~のいずれか1項に記載の免疫検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫検査方法及び濃縮用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫検査方法(特に、イムノクロマトグラフィー)は、操作が簡便であり短時間で測定可能であることから、昨今頻繁に利用されている。
例えば、インフルエンザウイルス等の抗原をイムノクロマトグラフィーで検出する場合、以下のような操作が行われる。
まず、抗体で修飾された標識(標識抗体)を用意し、抗原を含む試料と混合する。標識抗体は抗原と結合し、複合体を形成する。この状態で、抗原と特異的に反応する抗体が塗布された検出ラインを有する不溶性担体に展開させると、複合体は検出ライン(テストライン)上で抗体と反応して捕捉され、目視等により検出が確認される。
このようなイムノクロマトグラフィーとしては、例えば、特許文献1に開示されるイムノクロマトグラフィーが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5728453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、抗原の濃度が極めて薄い検体液にも適用可能な免疫診断法が望まれている。そのため、イムノクロマトグラフィー等の免疫検査方法に対しても、特許文献1に開示されるような従来の方法よりもさらに高感度な方法が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、検出感度の高い免疫検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、所定の方法により濃縮した検体液を用いることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 抗原を含み得る液と、高吸水性ポリマーとを混合することにより、上記抗原を含み得る液を濃縮して、抗原濃縮液を得る、濃縮工程と、
抗原抗体反応を用いて、上記抗原濃縮液中の抗原を検出する、検出工程とを備える、免疫検査方法であって、
上記高吸水性ポリマーの膨潤率が、0.2g/g超800g/g未満であり、
上記抗原抗体反応に用いられる抗体が、モノクローナル抗体である、免疫検査方法。
(2) 上記高吸水性ポリマーが、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、セルロース系、又は、ポリエチレンオキシド系のポリマーである、上記(1)に記載の免疫検査方法。
(3) 上記抗原を含み得る液が、尿である、上記(1)又は(2)に記載の免疫検査方法。
(4) 上記抗原濃縮液中の尿素の濃度が、上記抗原を含み得る液中の尿素の濃度の5倍以下である、上記(3)に記載の免疫検査方法。
(5) 上記高吸水性ポリマーの粒子径が、5mm以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の免疫検査方法。
(6) 上記高吸水性ポリマーの吸水速度が、高吸水性ポリマー1g当たり0.01g/分以上40g/分以下である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の免疫検査方法。
(7) イムノクロマトグラフィーである、上記(1)~(6)のいずれかに記載の免疫検査方法。
(8) 上記検出工程が、
上記抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させた状態で、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位を有する不溶性担体に展開する、展開工程と、
上記不溶性担体の反応部位において、上記金粒子複合体を捕捉する、捕捉工程と、
上記捕捉工程で捕捉された金粒子複合体を銀増幅する、銀増幅工程とを備える、上記(7)に記載の免疫検査方法。
(9) 上記(1)~(8)のいずれかに記載の免疫検査方法の濃縮工程で使用される濃縮用治具であって、
上記高吸水性ポリマーを収容する容器を備え、
上記容器は、上記抗原を含み得る液を取り込むための取込部と、上記抗原濃縮液を排出するための排出部とを有する、濃縮用治具。
(10) 上記容器であるシリンダーと、上記シリンダーに挿入可能なピストンとを備える、上記(9)に記載の濃縮用治具。
(11) 上記容器である内筒と、上記内筒を挿入及び取り出し可能な外筒とを備える、上記(9)に記載の濃縮用治具。
(12) 管部とポンプ部とを有するスポイト状であり、
上記管部が上記容器である、上記(9)に記載の濃縮用治具。
(13) 上記濃縮工程において、上記(9)~(12)のいずれかに記載の濃縮用治具を用いる、上記(1)~(8)のいずれかに記載の免疫検査方法。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、検出感度の高い免疫検査方法及びこれに使用される濃縮用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の方法で使用される不溶性担体の一態様の模式図である。
図2】本発明の濃縮用治具の好適な態様1の一態様の模式的断面図である。
図3】本発明の濃縮用治具の好適な態様2の一態様の模式的断面図である。
図4】本発明の濃縮用治具の好適な態様3の一態様の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の免疫検査方法及び本発明の免疫検査方法に使用される濃縮用治具について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において各成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
また、本明細書において「検出感度及びS/N比(信号/ノイズ比)がより向上する」ことを「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
【0011】
[1]免疫検査方法
本発明の免疫検査方法(以下、「本発明の方法」とも言う)は、
抗原を含み得る液と、高吸水性ポリマーとを混合することにより、上記抗原を含み得る液を濃縮して、抗原濃縮液を得る、濃縮工程と、
抗原抗体反応を用いて、上記抗原濃縮液中の抗原を検出する、検出工程とを備える、免疫検査方法であって、
上記高吸水性ポリマーの膨潤率が、0.2g/g超800g/g未満であり、
上記抗原抗体反応に用いられる抗体が、モノクローナル抗体である、免疫検査方法である。
【0012】
本発明の方法はこのような構成をとるため、上述した効果が得られるものと推測される。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと考えられる。
上述のとおり、本発明の方法では、特定の膨潤率の高吸水性ポリマーを用いて抗原を含み得る液(検体液)を濃縮する。検体液と高吸水性ポリマーとを混合した場合、検体液中の水は高吸水性ポリマーに取り込まれるのに対して、検体液中の抗原は、ある程度の流体力学半径を有するため、高吸水性ポリマーの表面の網目構造がふるい効果を生み出し、高吸水性ポリマーに取り込まれ難い。結果として、検体液中の抗原が濃縮され、検出感度の向上に繋がる。
一方、検体液中には、通常、低分子成分や塩等の夾雑物が含まれる。例えば、検体液が尿である場合、尿素等の夾雑物が含まれる。本発明者らの検討から、抗原と一緒にこれらの夾雑物が濃縮された場合、抗原抗体反応が阻害され、検出感度が低下してしまうことが知見されている。すなわち、濃縮による検出感度の向上効果が十分に得られないことが分かっている。
本発明の方法は上記知見等に基づくものである。すなわち、本発明の方法においては、高吸水性ポリマーとして特定の膨潤率の高吸水性ポリマーを使用するため、これらの夾雑物は水と一緒に高吸水性ポリマーに取り込まれる。そのため、上述したような検出感度の低下は生じ難い。結果として、極めて高い検出感度が達成されるものと考えられる。
【0013】
以下、本発明の方法が備える各工程について説明する。
【0014】
[濃縮工程]
濃縮工程は、抗原を含み得る液(検体液)と、高吸水性ポリマーとを混合することにより、検体液を濃縮して、抗原濃縮液(抗原が濃縮された液)を得る工程である。ここで、上記高吸水性ポリマーの膨潤率は、0.2g/g超800g/g未満である。
【0015】
〔検体液〕
濃縮工程で使用される検体液は、抗原を含み得る液であれば特に制限されない。そのような液としては、例えば、生物学的試料、特には動物(特にヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、又は喀痰)、うがい液等を挙げることができる。
【0016】
検体液は、本発明の効果がより優れる理由から、尿であることが好ましい。
検体液が尿である場合、濃縮工程で得られる抗原濃縮液中の尿素の濃度は、本発明の効果等がより優れる理由から、検体液中の尿素の濃度の5倍以下であることが好ましい。
【0017】
<抗原>
抗原としては、例えば、菌、細菌(例えば、結核菌、結核菌に含まれるリポアラビノマンナン(LAM))、バクテリア、ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)や、それらの核タンパク質等が挙げられる。なお、LAMは、結核における主要な抗原であり、細胞膜および細胞壁の主要構成成分である糖脂質である。
抗原は、本発明の効果等がより優れる理由から、ウイルス(特に、インフルエンザウイルス)又はLAMであることがより好ましく、LAMであることがさらに好ましい。
【0018】
<検体液の前処理>
上記検体液は、検体液をそのままで、又は、抗原を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる抽出液の形で、更には、抽出液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形、若しくは抽出液を適当な方法で濃縮した形で、用いることができる。
上記抽出用溶媒としては、通常の免疫学的分析法で用いられる溶媒(例えば、水、生理食塩液、又は緩衝液等)、あるいは、かかる溶媒で希釈することにより直接抗原抗体反応を実施することができる水混和性有機溶媒を用いることもできる。
【0019】
〔高吸水性ポリマー〕
濃縮工程で使用される高吸水性ポリマーは、膨潤率が0.2g/g超800g/g未満であるポリマー(以下、「特定高吸水性ポリマー」とも言う)である。ここで、膨潤率とは、「高吸水性ポリマー1gが保持する水の質量(g)」として定義される値である。
【0020】
特定高吸水性ポリマーは膨潤率が0.2g/g超800g/g未満であれば特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、セルロース系、又は、ポリエチレンオキシド系のポリマーであることが好ましい。
【0021】
<膨潤率>
上述のとおり、特定高吸水性ポリマーの膨潤率は0.2g/g超800g/g未満である。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、1.0g/g以上600g/g以下であることが好ましく、10g/g以上500g/g以下であることがより好ましく、20g/g以上100g/g以下であることがさらに好ましい。
【0022】
(膨潤率の測定方法)
25℃5%RH(相対湿度)で10日間保管した高吸水性ポリマーの質量を測定し、その後すぐに、多量の蒸留水の中に浸漬させる。120分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、再度質量を測定し、以下の計算式を用いて膨潤率を測定する。
{(吸水後の質量(g)-吸水前の初期質量(g))/吸水前の初期質量(g)}
【0023】
膨潤率を上述した特定の範囲に調整する方法は特に制限されないが、ポリマーの種類を変更する、ポリマーの分子量を変更する、架橋度を変更する、粒子径を変更する等の方法が挙げられる。
【0024】
<吸水速度>
特定高吸水性ポリマーの吸水速度は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、高吸水性ポリマー1g当たり0.01g/分以上40g/分以下であることが好ましく、高吸水性ポリマー1g当たり0.02g/分以上40g/分以下であることがより好ましい。
【0025】
上記吸水速度は以下のように測定する。
25℃5%RH(相対湿度)で10日間保管した高吸水性ポリマーの質量を測定し(重量M、単位g)、その後すぐに、多量の蒸留水の中に浸漬させる。10分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、質量を測定する(質量M10)。質量測定後ただちに、多量の蒸留水の中に再び浸漬させる。10分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、再度質量を測定する(質量M20)。質量M20の測定後ただちに、多量の蒸留水の中に再び浸漬させる。10分後、高吸水性ポリマーを取り出し、表面の水を除去して、再度重量を測定する(質量M30)。
【0026】
以下のように吸水量を定義する。
10分間の吸水量: ΔM10 = (M10-M)/M20分間の吸水量: ΔM20 = (M20-M)/M30分間の吸水量: ΔM30 = (M30-M)/M
上記のように定義した吸水量を用いて、以下のように吸水速度を求める。
横軸時間(x=10,20,30;単位 分)と縦軸吸水量(y=ΔM10、ΔM20、ΔM30;単位 g水/gポリマー量)としてX-Y平面に3点をプロットし、最小二乗法を用いた時間に対する吸水量の直線近似式の傾きを、単位時間(分)あたりの吸水速度とする。
【0027】
<粒子径>
特定高吸水性ポリマーは粒子状であることが好ましく、その場合の粒子径は、本発明の効果等がより優れる理由から、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。特定高吸水性ポリマーの粒子径の下限は、本発明の効果等がより優れる理由から、0.001mm以上であることが好ましく、0.005mm以上であることがより好ましく、0.01mm以上であることがさらに好ましい。粒子状の特定高吸水性ポリマーの粒子径の測定方法としては、光学顕微鏡により50個の粒子状のポリマーの直径を測定し、その算術平均値を粒子径とすることができる。
【0028】
<使用量>
特定高吸水性ポリマーの使用量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、検体液1mLに対して、0.01~100gであることが好ましく、0.1~50gであることがより好ましい。
【0029】
〔濃縮工程の手順〕
濃縮工程の手順は特に制限されないが、例えば、検体液と特定高吸水性ポリマーとを混合して、特定高吸水性ポリマーに吸収されなかった検体液(抗原濃縮液)を回収する方法等が挙げられる。
検体液と特定高吸水性ポリマーとを混合する方法も特に制限されず、例えば、検体液に特定高吸水性ポリマーを配合、撹拌して、静置する方法等が挙げられる。
濃縮工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、後述する濃縮用治具を使用するのが好ましい。
【0030】
[検出工程]
検出工程は、抗原抗体反応を用いて、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液中の抗原を検出する工程である。ここで、抗原抗体反応に用いられる抗体は、モノクローナル抗体である。そのため、本発明の方法は擬陽性となる懸念が少ない。
【0031】
検出工程は、抗原抗体反応を用いるものであれば特に制限されないが、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、固相酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフィー等が挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、イムノクロマトグラフィーが好ましい。すなわち、本発明の方法はイムノクロマトグラフィーであることが好ましい。
【0032】
以下、検出工程がイムノクロマトグラフィーである場合の好適な態様について説明する。
検出工程は、本発明の効果等がより優れる理由から、
上記抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させた状態で、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位を有する不溶性担体に展開する、展開工程と、
上記不溶性担体の反応部位において、上記金粒子複合体を捕捉する、捕捉工程と、
上記捕捉工程で捕捉された金粒子複合体を銀増幅する、銀増幅工程とを備えるのが好ましい。
ここで、上記第1の結合物質及び上記第2の結合物質の少なくとも一方はモノクローナル抗体である。本発明の効果等がより優れる理由から、上記第1の結合物質及び上記第2の結合物質の両方がモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0033】
以下、上記好適な態様が備える各工程について説明する。
【0034】
[展開工程]
展開工程は、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させた状態で、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位を有する不溶性担体に展開する工程である。
【0035】
〔金粒子複合体〕
上述のとおり、展開工程では、まず、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液中の抗原と、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である修飾金粒子との複合体である金粒子複合体を形成させる。
【0036】
<修飾金粒子>
修飾金粒子は、上記抗原と結合し得る第1の結合物質で修飾された金粒子である。
【0037】
(金粒子)
金粒子は特に制限されない。
金粒子は、後述する銀増幅工程において銀イオンを還元する触媒として働く。
【0038】
上記金粒子の粒子径は、本発明の効果等がより優れる理由から、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、15nm以下であることが特に好ましい。
上記金粒子の粒子径の下限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。
【0039】
なお、粒子径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。粒度分布の測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。粒子径の測定方法としては、粒子径範囲および測定の容易さから、動的光散乱法を好ましく用いることができる。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB-550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株))等が挙げられ、本発明においては、25℃の測定温度で測定したメジアン径(d=50)の値として求める。
【0040】
(第1の結合物質)
第1の結合物質は上記抗原と結合し得るものであれば特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、タンパク質であることが好ましく、抗体(例えば、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体)であることがより好ましく、モノクローナル抗体であることがより高い検出感度を実現する観点でさらに好ましい。
上記抗体は特に制限されないが、例えば、抗原によって免疫された動物の血清から調製する抗血清や、抗血清から精製された免疫グロブリン画分を用いることが可能であり、また、抗原によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFv]を用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行うことができる。
【0041】
抗原がLAMである場合の、第1の結合物質の一例としては、国際公開2017/139153号に記載のA194-01抗体が挙げられる。A194-01抗体に関する国際公開2017/139153号に記載の内容はすべて本明細書の開示の一部として本明細書中に援用される。
抗原がLAMである場合の、第1の結合物質の別の一例としては、国際公開2013/129634号の段落番号[0080]においてMoAb1として記載される配列を有する抗体を挙げることができる。MoAb1抗体に関する国際公開2013/129634号に記載の内容はすべて本明細書の開示の一部として本明細書中に援用される。
【0042】
(修飾金粒子の製造方法)
上記修飾金粒子を製造する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
例えば、金とSH基とが化学結合することを利用し、抗体にSH基を導入後、金粒子と接近するときにSH結合が開裂してAu表面上に生成するAu-S結合で固定化させる等の化学的な結合方法が挙げられる。
【0043】
〔不溶性担体〕
上記不溶性担体は、上記抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化された反応部位(テストライン)を有する不溶性担体である。不溶性担体は、抗原の種類に合わせて複数のテストラインを有していてもよい(例えば、インフルエンザA型ウイルス用のテストラインとインフルエンザB型用のテストライン)。また、不溶性担体は、上記金粒子複合体の展開を確認するために、テストラインより下流側にコントロールラインを有していてもよい。また、後述する銀増幅工程において還元剤液を用いる場合には、還元剤液を検出するために、テストラインより下流側に発色試薬固定化ラインを有していてもよい。
上記不溶性担体の具体的な態様としては、例えば、図1に示されるような、上流側から、金コロイド保持パッド1、テストライン2、コントロールライン3、発色試薬固定化ライン4を有するニトロセルロースメンブレン100が挙げられる。ここで、金コロイド保持パッド1は第1の結合物質で修飾された金粒子(修飾金粒子)を保持するパッドであり、テストライン2は第2の結合物質が固定化されたラインであり、コントロールライン3は展開を確認するためのラインであり、発色試薬固定化ライン4は後述する還元剤液を検出するためのラインである。ここで上流側、下流側とは、金粒子複合体が展開する際、上流側から下流側に向けて展開することを意図した記載を意味する。
上記不溶性担体(又はこれを有するイムノクロマトグラフキット)のより具体的な態様としては、例えば、特許第5728453号公報に記載の不溶性担体及びイムノクロマトグラフキットが挙げられ、不溶性担体及びイムノクロマトグラフキットに関する特許第5728453号公報に記載の内容はすべて本明細書の開示の一部として本明細書中に援用される。
【0044】
<不溶性担体>
不溶性担体は、多孔性担体が好ましい。特に、本発明の効果等がより優れる理由から、ニトロセルロース膜(ニトロセルロースメンブレン)、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等が好ましく、ニトロセルロース膜がより好ましい。
【0045】
<第2の結合物質>
第2の結合物質は上記抗原と結合し得るものであれば特に制限されない。
第2の結合物質の具体例及び好適な態様は、上述した第1の結合物質と同じである。
【0046】
なお、上記第2の結合物質は上述した第1の結合物質と同じであっても異なってもよいが、本発明の効果等がより優れる理由から、異なる物質である態様が好ましい。
また、第1の結合物質及び第2の結合物質が抗体である場合、第1の結合物質である抗体と第2の結合物質である抗体は、本発明の効果等がより優れる理由から、異なる態様が好ましい。
また、第1の結合物質及び第2の結合物質が抗体である場合、第1の結合物質のエピトープ(第1の結合物質が認識する抗原の一部)と第2の結合物質のエピトープ(第2の結合物質が認識する抗原の一部)は、本発明の効果等がより優れる理由から、異なる態様が好ましい。抗体のエピトープが異なることは、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によって確認することができる。
【0047】
〔展開〕
金粒子複合体を形成させた状態でテストラインを有する不溶性担体に展開する方法は特に制限されないが、例えば、上述した図1に示されるようなニトロセルロースメンブレン100(又はこれを有するイムノクロマトグラフキット)を準備して、上述した濃縮工程で得られた抗原濃縮液を金コロイド保持パッドに滴下し、図1に示されるように上流側から下流側に毛細管現象を利用して移動させる方法等が挙げられる。
【0048】
[捕捉工程]
捕捉工程は、上記不溶性担体の反応部位において、上記金粒子複合体を捕捉する工程である。
上述のとおり、不溶性担体の反応部位には抗原と結合し得る第2の結合物質が固定化されているため、上記展開工程で不溶性担体に展開された金粒子複合体(抗原と修飾金粒子との複合体)は、不溶性担体の反応部位(テストライン)で捕捉される。
なお、検体液が抗原を含まない場合には上記金粒子複合体が形成されないため、金粒子複合体は不溶性担体の反応部位で捕捉されない。
【0049】
[銀増幅工程]
銀増幅工程は、上記捕捉工程で捕捉された金粒子複合体を銀増幅する工程である。
銀増幅工程は、上記捕捉工程後の不溶性担体に銀イオンを付与することにより、不溶性担体の反応部位で捕捉された金粒子複合体に大きな銀粒子を形成する工程である。より詳細には、上記金粒子複合体の金粒子を触媒として銀イオンが還元され、銀粒子(例えば、直径10μm以上)が形成される工程である。
これにより、捕捉された金粒子複合体の検出感度が著しく向上する。
【0050】
〔好適な態様〕
上記捕捉工程後の不溶性担体に銀イオンを付与する方法は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、下記還元剤液及び下記銀増幅液を使用する方法が好ましい。
また、還元剤液及び銀増幅液に加えて、特異的な結合反応以外で不溶性担体に残存している複合体を洗浄するために洗浄液を使用してもよい。上記還元液は洗浄液を兼ねていてもよい。
【0051】
<還元剤液>
上記還元剤液は、銀イオンを還元し得る還元剤を含有する。銀イオンを還元し得る還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本発明ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、本発明のより好ましい態様としては、Fe2+の金属塩を還元剤として用いることが好ましい。
【0052】
なお、湿式のハロゲン化銀写真感光材料に用いられる現像主薬(例えばメチル没食子酸塩、ヒドロキノン、置換ヒドロキノン、3-ピラゾリドン類、p-アミノフェノール類、p-フェニレンジアミン類、ヒンダードフェノール類、アミドキシム類、アジン類、カテコール類、ピロガロール類、アスコルビン酸(またはその誘導体)、およびロイコ色素類)、および本分野での技術に熟練しているものにとって明らかなその他の材料、例えば米国特許第6,020,117号に記載されている材料も還元剤として用いることができる。
【0053】
還元剤としては、アスコルビン酸還元剤も好ましい。有用なアスコルビン酸還元剤は、アスコルビン酸とその類縁体、異性体とその誘導体を含み、例えば、D-またはL-アスコルビン酸とその糖誘導体(例えばγ-ラクトアスコルビン酸、グルコアスコルビン酸、フコアスコルビン酸、グルコヘプトアスコルビン酸、マルトアスコルビン酸)、アスコルビン酸のナトリウム塩、アスコルビン酸のカリウム塩、イソアスコルビン酸(又はL-エリスロアスコルビン酸)、その塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩又は当技術分野において知られている塩)、エンジオールタイプのアスコルビン酸、エナミノールタイプのアスコルビン酸、チオエノ-ルタイプのアスコルビン酸等を好ましく挙げることができ、特にはD、LまたはD,L-アスコルビン酸(そして、そのアルカリ金属塩)若しくはイソアスコルビン酸(またはそのアルカリ金属塩)が好ましく、ナトリウム塩が好ましい塩である。必要に応じてこれらの還元剤の混合物を用いることができる。
【0054】
還元剤液は、本発明の効果等がより優れる理由から、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度が0度~150度になるように流すのが好ましく、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度が0度~135度になるように流すのがより好ましい。
なお、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度を調節する方法としては、例えば、特開2009-150869号公報の実施例に記載の方法等が挙げられる。
【0055】
<銀増幅液>
上記銀増幅液は、銀イオンを含む化合物を含有する液である。銀イオンを含む化合物としては、例えば、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物である、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。
【0056】
有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として銀増幅液に0.001mol/L~5mol/L、好ましくは0.005mol/L~3mol/L、更には0.01mol/L~1mol/Lの濃度で含有されることが好ましい。
【0057】
銀増幅液の助剤としては、緩衝剤、防腐剤、例えば酸化防止剤または有機安定剤、速度調節剤等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウムまたはこれらの塩のうちの一つ、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いた緩衝剤、その他一般的化学実験に用いられる緩衝剤を用いることができる。これら緩衝剤を適宜用いて、その増幅溶液に最適なpHに調整することができる。また、カブリ防止剤としてアルキルアミンを助剤として用いることができ、特に好ましくはドデシルアミンである。またこれら助剤の溶解性向上のため、界面活性剤を用いることができ、特に好ましくはC19-C-O-(CHCHO)50Hである。
【0058】
銀増幅液は、本発明の効果等がより優れる理由から、上述した展開工程と逆方向から流すのが好ましく、展開工程における展開方向と還元剤液の展開方向との間の角度が45度~180度になるように流すのがより好ましい。
なお、展開工程における展開方向と銀増幅液の展開方向との間の角度を調節する方法としては、例えば、特開2009-150869号公報の実施例に記載の方法等が挙げられる。
【0059】
[2]濃縮用治具
本発明の濃縮用治具は、上述した濃縮工程で使用される濃縮用治具であって、上述した特定高吸水性ポリマーを収容する容器を備え、上記容器は上述した抗原を含み得る液を取り込むための取込部と、上述した抗原濃縮液を排出するための排出部とを有する、濃縮用治具である。
【0060】
上述した濃縮工程において本発明の濃縮用治具を使用することにより、濃縮液の回収時間が短くなり短時間に濃縮工程を終了させることが可能となる。加えて、抗原濃縮液を定量的に取得でき、測定ごとの濃縮率のばらつきを低く抑えることが可能となる。さらに、濃縮時間と濃縮量、および濃縮率を制御可能となることにより、より簡便に且つ繰り返し再現性の高い濃縮が可能となる。
【0061】
以下、本発明の濃縮用治具の好適な態様について説明する。
【0062】
[好適な態様1]
本発明の濃縮用治具の好適な態様1は、上述した容器であるシリンダーと、上記シリンダーに挿入可能なピストンとを備える濃縮用治具である。
【0063】
図面を用いて、上記好適な態様1について説明する。
図2は、上記好適な態様1の一態様である濃縮用治具の模式的断面図である。
図2(A)に示されるように、濃縮用治具200は、シリンダー10とシリンダー10に挿入可能なピストン20とを備える。
ここで、シリンダー10はノズル部12と開口部14と目盛り16とを有し、特定高吸水性ポリマー30を収容する。
【0064】
〔濃縮工程の手順〕
まず、シリンダー10に抗原を含み得る液(検体液)40を取り込む。
検体液40を取り込む方法としては、例えば、(i)ノズル部12に栓をしてから開口部14からシリンダー10に検体液40を入れる方法、(ii)シリンダー10にピストン20を挿入してからノズル部12を検体液40に浸け、その状態でピストンを引っ張ることにより、ノズル部12からシリンダー10に検体液40を取り込む方法、等が挙げられる。
上記(i)の場合、開口部14が上述した取込部となる。また、上記(ii)の場合、ノズル部12が上述した取込部となる。
その際、シリンダー10の所定の位置(例えば、目盛り16の上端)まで検体液40を取り込む。このようにして、シリンダー10に所定量の検体液40を取り込むことができる(図2(B))。
なお、図2ではシリンダー10に目盛り16が付されているが、目盛り16の代わりに、所定量の検体液40を取り込むためのストッパーを有していてもよい。
【0065】
次に、図2(B)の状態で所定の時間放置する。これにより、検体液40のうち主に液(特に水)及び夾雑物が特定高吸水性ポリマー30に吸収され、検体液40は濃縮されて抗原濃縮液42となる(特定高吸水性ポリマー30は膨潤した特定高吸水性ポリマー32となる)(図2(C))。
【0066】
そして、図2(C)の状態からピストン20を押し込むことによりノズル部12から抗原濃縮液42を排出する(図2(D))。排出された抗原濃縮液42を回収することにより抗原濃縮液42を得る。
抗原濃縮液42を排出する際には、シリンダー10の目盛り16を利用して所定量の抗原濃縮液42を排出する。または、抗原濃縮液42を全量排出する。このようにして、所定量の抗原濃縮液42を回収することができる。
なお、図2ではシリンダー10に目盛り16が付されているが、目盛り16の代わりに、所定量の抗原濃縮液42を排出するためのストッパーを有していてもよい。
【0067】
〔シリンダー〕
上述のとおり、シリンダー10はノズル部12と開口部14と目盛り16とを有し、特定高吸水性ポリマー30を収容する。
【0068】
<材質>
シリンダー10の材質は特に制限されないが、射出成型可能で安価で大量に生産できることから、熱可塑性樹脂であることが好ましい。ある程度の硬度を有することから、具体的には、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂)が好ましい。
【0069】
<排出部>
ノズル部12は抗原濃縮液42を排出する部分である。
【0070】
ノズル部12は、特定高吸水性ポリマー30が排出されない構造を有することが好ましい。そのような構造にする方法としては、例えば、ノズル部12の内径12aを特定高吸水性ポリマー30(膨潤前)の粒子径30aよりも小さくする方法(好ましくは粒子径30aの1.5分の1以下、より好ましくは粒子径30aの2分の1以下、さらに好ましくは粒子径30aの5分の1以下)、ノズル部12から特定高吸水性ポリマー30が排出されることを防止するためのメッシュ(メッシュの孔径は、特定高吸水性ポリマー30(膨潤前)の粒子径30aよりも小さく、好ましくは粒子径30aの1.5分の1以下、より好ましくは粒子径30aの2分の1以下、さらに好ましくは粒子径30aの5分の1以下)を設置する方法、ノズル部12に栓をする方法(抗原濃縮液42を回収する際には栓を外す)、これらの組み合わせた方法、等が挙げられる。
【0071】
ノズル部12の先端は、抗原濃縮液42の回収し易さの観点から、斜めになっているのが好ましい。
【0072】
〔ピストン〕
上述のとおり、濃縮用治具200はピストン20を備える。
【0073】
<材質>
ピストン20の材質は特に制限されず、その好適な態様は上述したシリンダー10と同じである。ピストン20のシリンダーに挿入する側の先端部22にはゴム材料(例えば、シリコン製のゴム)が付着されているのが好ましい。
【0074】
<径>
ピストン20の先端部22の径22aは特に制限されないが、特定高吸水性ポリマー30の粒子径30aの5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることがさらに好ましい。
【0075】
[好適な態様2]
本発明の濃縮用治具の好適な態様2は、上述した容器である内筒と、上記内筒を挿入及び取り出し可能な外筒とを備える濃縮用治具である。
【0076】
図面を用いて、上記好適な態様2について説明する。
図3は、上記好適な態様2の一態様の模式的断面図である。
図3(A)に示されるように、濃縮用治具300は、内筒50と内筒50を挿入及び取り出し可能な外筒60とを備える。
ここで、内筒50の底面52の少なくとも一部はメッシュ状である(図示せず)。また、内筒50は、特定高吸水性ポリマー30を収容する。
また、外筒60は目盛り16を有する。外筒60の一方の端は底面62によって塞がれ、他方の端は空いている。
【0077】
〔濃縮工程の手順〕
まず、内筒50に検体液40を取り込む。
検体液40を取り込む方法としては、例えば、(i)内筒50がその上方に開口部(図示せず)を有する場合には、内筒50の開口部から内筒50に検体液40を入れる方法、(ii)内筒50を外筒60から取り出した状態で外筒60の開口部64から検体液40を入れ、その後、内筒50を外筒60に挿入することにより、内筒50のメッシュ状の部分から内筒50に検体液40を取り込む方法、等が挙げられる。
上記(i)の場合、内筒50の開口部が上述した取込部となる。また、上記(ii)の場合、内筒50のメッシュ状の部分が取込部となる。
その際、外筒60の所定の位置(例えば、目盛り16の上端)まで検体液40を取り込む。このようにして、内筒50に所定量の検体液40を取り込むことができる(図3(B))。
【0078】
次に、図3(B)の状態で所定の時間放置する。これにより、検体液40のうち主に液(特に水)及び夾雑物が特定高吸水性ポリマー30に吸収され、検体液40は濃縮されて抗原濃縮液42となる(特定高吸水性ポリマー30は膨潤した特定高吸水性ポリマー32となる)(図3(C))。
【0079】
そして、図3(C)の状態から内筒50を取り出すことにより内筒50のメッシュ状の部分から抗原濃縮液42を排出する。排出された抗原濃縮液42は外筒60に溜まる。このようにして、所定量の抗原濃縮液42を回収することができる。
【0080】
〔内筒〕
上述のとおり、内筒50の底面52の少なくとも一部はメッシュ状である(図示せず)。また、内筒50は、特定高吸水性ポリマー30を収容する。
内筒50の底面52の全てがメッシュ状であることが好ましい。また、内筒50の側面54もメッシュ状であることが好ましいが、上記(i)の方法で検体液40を取り込む場合には、内筒50の開口部から内筒50に検体液40を入れる際に検体液40が内筒50から流出しないようにする理由から、内筒50のうち外筒60に挿入されたときに外筒60から露出する部分(上側の部分)はメッシュ状でないことが好ましい。
【0081】
<材質>
内筒50の材質は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、金属、熱可塑性樹脂(好適な態様は上述したシリンダー10と同じ)、布が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0082】
<メッシュ>
内筒50のメッシュ状の部分の孔径は、本発明の効果等がより優れる理由から、特定高吸水性ポリマー30(膨潤前)の粒子径30aよりも小さいことが好ましく、粒子径30aの1.5分の1以下であることがより好ましく、粒子径30aの2分の1以下であることがさらに好ましく、粒子径30aの5分の1以下であることが特に好ましい。
上記メッシュ状の部分の孔径は、本発明の効果等がより優れる理由から、0.1μm~5mmであることが好ましく、0.2μm~2mmであることがより好ましい。
【0083】
〔外筒〕
上述のとおり、濃縮用治具300は外筒60を備える。
【0084】
<材質>
外筒60の材質は特に制限されず、その好適な態様は上述したシリンダー10と同じである。
【0085】
なお、内筒50の底面52と外筒60の底面62とが接しないように、内筒50及び/又は外筒60はストッパーを有していてもよい。
【0086】
[好適な態様3]
本発明の濃縮用治具の好適な態様3は、管部とポンプ部とを有するスポイト状である濃縮用治具である。ここで、上記管部が上述した容器である。
【0087】
図面を用いて、上記好適な態様3について説明する。
図4は、上記好適な態様3の一態様の模式的断面図である。
図4に示されるように、濃縮用治具400は、管部70とポンプ部80とを有するスポイト状である。
ここで、管部70はノズル部72と目盛り16とを有し、特定高吸水性ポリマー30を収容する。
【0088】
〔濃縮工程の手順〕
まず、管部70に検体液40を取り込む。具体的には、ポンプ部80を押圧した状態でノズル部72を検体液40に浸け、その状態でポンプ部80の押圧を解除することにより、ノズル部72から管部70に検体液40を取り込む。
その際、管部70の所定の位置(例えば、目盛り16)まで検体液40を取り込む。このようにして、管部70に所定量の検体液40を取り込むことができる。
【0089】
次に、所定の時間放置する。これにより、検体液40のうち主に液(特に水)及び夾雑物が特定高吸水性ポリマー30に吸収され、検体液40は濃縮されて抗原濃縮液となる(特定高吸水性ポリマー30は膨潤した特定高吸水性ポリマーとなる)。
【0090】
そして、ポンプ部80を押圧することによりノズル部72から抗原濃縮液を排出する。排出された抗原濃縮液を回収することにより抗原濃縮液を得る。
抗原濃縮液を排出する際には、全量又は所定の目盛り(目盛り16以外の目盛り)(図示せず)まで抗原濃縮液を排出する。このようにして、所定量の抗原濃縮液を回収することができる。
【0091】
上述のとおり、ノズル部72から管部70に検体液40を取り込み、ノズル部72から抗原濃縮液を排出するため、ノズル部72は上述した取込部且つ上述した排出部である。
【0092】
〔管部〕
上述のとおり、管部70はノズル部72と目盛り16とを有し、特定高吸水性ポリマー30を収容する。
【0093】
<材質>
管部70の材質は特に制限されず、その好適な態様は上述したシリンダー10と同じである。
【0094】
<特定高吸水性ポリマー>
上述のとおり、管部70は特定高吸水性ポリマー30を収容する。
特定高吸水性ポリマー30は、管部70の内部にとどまるように配置されていることが好ましく、管部70の内壁に存在するのがより好ましい。特定高吸水性ポリマー30を管部70にとどまるように配置させる方法としては、例えば、特定高吸水性ポリマー30を管部70の内壁に接着剤で固定する方法、ノズル部72の内径を特定高吸水性ポリマー30の粒子径よりも小さくする方法、特定高吸水性ポリマー30の粒子径よりも小さい孔径のメッシュをノズル部に設置する方法、等が挙げられる。
また、特定高吸水性ポリマー30が収容されている位置は、検体液を取り込む所定の位置(例えば、目盛り16)よりもノズル部72側であることが好ましい。このような態様にすることにより、収容されている全ての特定高吸水性ポリマー30が検体液40と接触することが可能となり、再現性の良い濃縮率を実現することが可能となる。
【0095】
〔ポンプ部〕
上述のとおり、濃縮用治具400はポンプ部80を備える。
【0096】
<材質>
ポンプ部80の材質は特に制限されず、その好適な態様は上述したシリンダー10と同じである。
【0097】
管部70に加えてポンプ部80が特定高吸水性ポリマー30を収容していてもよいが、その場合は、ポンプ部80に収容されている特定高吸水性ポリマー30に検体液40が接触するように検体液40を取り込むことが好ましい。
【実施例
【0098】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
[A]抗原がインフルエンザウイルスである例
【0100】
[検体液の調製]
クイックS-インフルA・B「生研」陰性/陽性コントロール液(品番;322968、デンカ生研社製)を用いて検体液(抗原を含み得る液)を調製した。
具体的には、上記陽性コントロール液を、0.1質量%BSA(Bovine Serum Albumin)を含むPBS(Phosphate buffered salts)バッファーで、10倍ずつ希釈し、各希釈率の検体液(抗原を含み得る液)とした。
【0101】
[実施例A1]
以下のとおり、実施例A1のイムノクロマトグラフィーを行った。
【0102】
〔濃縮工程〕
市販のSAP(高吸水性ポリマー)粒子(型番197-12451:富士フイルム和光純薬(株)社製)を、分粒して、濃縮工程で使用する高吸水性ポリマーとした。上記高吸水性ポリマーの粒子径は0.05mmであり、膨潤率は600g/gであり、吸水速度は20g/分であった。
【0103】
上述した検体液6mLに上記高吸水性ポリマー1gを滴下した。滴下後、スパチュラで10秒程撹拌して、静置した。静置時間10分後、高吸水性ポリマーに吸収されなかった液(インフルエンザウイルス濃縮液)(抗原濃縮液)をエッペンドルフ(ピペット)で回収した。
【0104】
〔展開工程〕
図1に示されるように、上流側から、金コロイド保持パッド1、テストライン2、コントロールライン3、発色試薬固定化ライン4を有するニトロセルロースメンブレン100を準備した。なお、金コロイド保持パッド1は、抗インフルエンザA型モノクローナル抗体で修飾された金コロイド(修飾金粒子)を保持するパッドであり、テストライン2は、抗インフルエンザA型モノクローナル抗体が固定化されたラインであり、コントロールライン3は、展開を確認するためのラインであり、発色試薬固定化ライン4は、後述する還元液を検出するためのラインである。
【0105】
上記インフルエンザウイルス濃縮液を金コロイド保持パッドに滴下した。これにより、液中のインフルエンザA型ウイルスと金コロイド保持パッド中の抗インフルエンザA型モノクローナル抗体で修飾された金コロイド粒子(修飾金粒子)との複合体である金粒子複合体が形成された。この状態で、上記ニトロセルロースメンブレンの下流側に展開した。
【0106】
〔捕捉工程〕
展開工程で展開された金粒子複合体はテストラインで捕捉される。
【0107】
〔銀増幅工程〕
以下のとおり、銀増幅工程を実施した。
【0108】
<還元剤液の調製>
水290gに、硝酸鉄(III)九水和物(富士フイルム和光純薬社製)を水に溶解して作製した1mol/Lの硝酸鉄水溶液23.6mL、及び、クエン酸(富士フイルム和光純薬社製)13.1gを溶解させた。全て溶解した後、スターラーで攪拌しながら硝酸(10質量%)を36ml加え、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)を60.8g加え、これを還元剤液とした。
【0109】
<銀増幅液の調製>
水66gに、硝酸銀溶液8mL(10gの硝酸銀を含む)と1mol/Lの硝酸鉄水溶液24mLを加えた。さらに、この溶液と、硝酸(10質量%)5.9mL、ドデシルアミン(富士フイルム和光純薬社製)0.1g、界面活性剤C1225-C-O-(CHCHO)50H 0.1gをあらかじめ47.6gの水に溶解した溶液を混合し、これを銀増幅液とした。
【0110】
<還元剤液の展開>
ニトロセルロースメンブレンにおいて、上述した展開工程と同じ方向から(より上流側から)、上述のとおり調製した還元剤液を流した。
【0111】
<銀増幅液の展開>
発色試薬固定化ラインが変色した後、展開工程における展開方向と逆方向から(下流側から)、上述のとおり調製した銀増幅液を流した。このようにして、テストラインで捕捉された金粒子複合体を銀増幅した。
【0112】
〔評価〕
テストラインの着色を目視により確認し、着色が確認された最も小さい希釈率(最小検出感度)を調べた。結果を表1に示す。最小検出感度が小さいほど、抗原の濃度が薄い試料でも抗原を検出できることを意味し、検出感度が高いことを意味する。
【0113】
[実施例A2]
濃縮工程において、下記高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表1に示す。
【0114】
〔実施例A2で用いた高吸水性ポリマー〕
市販のSAP(高吸水性ポリマー)粒子(M2 Polymer Technologies Inc.社製;SAP Sphere 2.5mm)を、分粒して、濃縮工程で使用する高吸水性ポリマーとした。上記高吸水性ポリマーの粒子径は2.5mmであり、膨潤率は13g/gであり、吸水速度は0.5g/分であった。
【0115】
[実施例A3]
濃縮工程において、下記高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表1に示す。
【0116】
〔実施例A3で用いた高吸水性ポリマー〕
SAP(高吸水性ポリマー)粒子は、特表2015-536375号公報に記載の実施例1及び比較例1の方法を参考に調製し、粒子径の異なる粒子に関しては、0.5mmの篩を使って分級することにより、粒子径0.5mm、膨潤率30g/gの高吸水性ポリマー粒子を得た。
【0117】
[実施例A4]
濃縮工程において、下記高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表1に示す。
【0118】
〔実施例A4で用いた高吸水性ポリマー〕
実施例A3で用いた高吸水性ポリマーの調製において、0.1mmの篩を使用した以外は同様の手順に従って高吸水性ポリマーを調製した。結果、粒子径0.1mm、膨潤率90g/gの高吸水性ポリマー粒子を得た。
【0119】
[比較例A1]
濃縮工程を行わずに、展開工程においてインフルエンザウイルス濃縮液の代わりに上述した検体液自体を用いた点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表1に示す。
【0120】
[比較例A2]
濃縮工程において、下記高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。
その結果、比較例A2では着色を確認することができなかった。夾雑物によって抗体抗原反応が阻害されたためと推測される。
【0121】
〔比較例A2で用いた高吸水性ポリマー〕
富士フイルム和光純薬社製ポリアクリル酸5000を、分粒して、濃縮工程で使用する高吸水性ポリマーとした。上記高吸水性ポリマーの粒子径は0.01mmであり、膨潤率は1,000g/gであり、吸水速度は60g/分であった。
【0122】
[比較例A3]
濃縮工程において、下記高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表1に示す。
【0123】
〔比較例A3で用いた高吸水性ポリマー〕
10質量%のPVA(ポリビニルアルコール)溶液を調製して、これを1M HCl中に滴下することにより粒子を調製した。得られた粒子を、分粒して、濃縮工程で使用する高吸水性ポリマーとした。上記高吸水性ポリマーの粒子径は0.5mmであり、膨潤率は0.2g/gであり、吸水速度は0.01g/分であった。
【0124】
【表1】
【0125】
表1等から分かるように、濃縮工程を行わなかった比較例A1、及び、膨潤率が特定の範囲から外れる高吸水性ポリマーを用いて濃縮工程を行った比較例A2~A3と比較して、膨潤率が特定の範囲にある高吸水性ポリマー(特定高吸水性ポリマー)を用いて濃縮工程を行った実施例A1~A4は、高い検出感度を示した。なかでも、特定高吸水性ポリマーの膨潤率が20g/g以上である実施例A1及び実施例A3~A4は、より高い検出感度を示した。そのなかでも、特定高吸水性ポリマーの膨潤率が500g/g以下である実施例A3~A4は、さらに高い検出感度を示した。
【0126】
[B]抗原がLAMである場合
【0127】
[検体液の調製]
健常人の尿検体(BioreclamationIVT社)をプールした尿検体に、結核菌より抽出されたリポアラビノマンナン(LAM)(02249-61、ナカライテスク社)を添加し、表2に記載のLAM濃度の検体液(抗原を含み得る液)を調製した。
【0128】
[実施例B1]
以下のとおり、実施例B1のイムノクロマトグラフィーを行った。
【0129】
〔濃縮工程〕
上述した検体液6mLに、上述した実施例A1で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマー1gを滴下した。滴下後、10秒間撹拌して、静置した。静置時間10分後、高吸水性ポリマーに吸収されなかった液(LAM濃縮液)(抗原濃縮液)をエッペンドルフ(ピペット)で回収した。LAM濃縮液中の尿素の濃度は、検体液中の尿素の濃度の5倍以下であった。
【0130】
〔展開工程〕
図1に示されるように、上流側から、金コロイド保持パッド1、テストライン2、コントロールライン3、発色試薬固定化ライン4を有するニトロセルロースメンブレン100を準備した。なお、金コロイド保持パッド1は、抗LAMモノクローナル抗体で修飾された金コロイド(修飾金粒子)を保持するパッドであり、テストライン2は、抗LAMモノクローナル抗体が固定化されたラインであり、コントロールライン3は、展開を確認するためのラインであり、発色試薬固定化ライン4は、後述する銀増幅工程の還元液を検出するためのラインである。
【0131】
上記LAM濃縮液を金コロイド保持パッドに滴下した。これにより、液中のLAMと抗LAMモノクローナル抗体で修飾された金コロイド粒子(修飾金粒子)との複合体である金粒子複合体が形成された。この状態で、上記ニトロセルロースメンブレンの上流側から下流側に向けて展開した。
【0132】
〔捕捉工程〕
展開工程で展開された金粒子複合体はテストラインで捕捉される。
【0133】
〔銀増幅工程〕
実施例A1と同様の手順に従って、銀増幅工程を実施した。
このようにして、テストラインで捕捉された金粒子複合体を銀増幅した。
【0134】
〔評価〕
テストラインの着色を目視により確認し、以下の基準で評価した。
+++:着色が濃い
++:着色がある
+:薄い着色がある
-:着色がない
【0135】
結果を表2に示す。+++、++又は+と評価された検体液のLAM濃度のうち最も小さいLAM濃度(最小検出感度)が小さい程、検出感度が高いことを意味する。
【0136】
[実施例B2]
濃縮工程において、上述した実施例A2で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例B1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表2に示す。なお、LAM濃縮液中の尿素の濃度は、検体液中の尿素の濃度の5倍以下であった。
【0137】
[実施例B3]
濃縮工程において、上述した実施例A3で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例B1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表2に示す。なお、LAM濃縮液中の尿素の濃度は、検体液中の尿素の濃度の5倍以下であった。
【0138】
[実施例B4]
濃縮工程において、上述した実施例A4で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例B1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表2に示す。なお、LAM濃縮液中の尿素の濃度は、検体液中の尿素の濃度の5倍以下であった。
【0139】
[比較例B1]
濃縮工程を行わずに、展開工程においてLAM濃縮液の代わりに上述した検体液自体を用いた点以外は、実施例B1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表2に示す。
【0140】
[比較例B2]
濃縮工程において、上述した比較例A2で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例B1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表2に示す。
比較例B2では着色を確認することができなかった。尿素等の夾雑物によって抗体抗原反応が阻害されたためと推測される。
【0141】
[比較例B3]
濃縮工程において、上述した比較例A3で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマーを用いた点以外は、実施例B1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施し、評価した。結果を表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2等から分かるように、濃縮工程を行わなかった比較例B1、及び、膨潤率が特定の範囲から外れる高吸水性ポリマーを用いて濃縮工程を行った比較例B2~B3と比較して、膨潤率が特定の範囲にある高吸水性ポリマー(特定高吸水性ポリマー)を用いて濃縮工程を行った実施例B1~B4は、高い検出感度を示した。なかでも、特定高吸水性ポリマーの膨潤率が20g/g以上である実施例B1及び実施例B3~B4は、より高い検出感度を示した。そのなかでも、特定高吸水性ポリマーの膨潤率が500g/g以下である実施例B3~B4は、さらに高い検出感度を示した。
【0144】
[C]擬陽性評価
【0145】
[擬陽性評価1]
LAMを添加していない個別尿(BioreclamationIVT社)を実施例B1の方法で濃縮し、同様に評価した。5人分の個別尿を用いて該手法で評価し、擬陽性の懸念に関して調べた。結果を表3に示す。
+:着色がある
-:着色がない
【0146】
[擬陽性評価2]
LAMを添加していない個別尿(BioreclamationIVT社)を実施例B1の方法で濃縮し、抗LAMモノクローナル抗体の代わりに抗LAMポリクローナル抗体を用いた点以外は実施例B1と同様に評価した。5人分の個別尿を用いて該手法で評価し、擬陽性の懸念に関して調べた。結果を表3に示す。
+:着色がある
-:着色がない
【0147】
【表3】
【0148】
表3から分かるように、モノクローナル抗体を用いた場合には擬陽性は見られなかったが、ポリクローナル抗体を用いた場合には擬陽性が見られた。
【0149】
[D]濃縮用治具を使用したイムノクロマトグラフィー
以下のとおり、濃縮工程において濃縮用治具を使用してイムノクロマトグラフィーを行った。
【0150】
[濃縮用治具の準備]
図2(A)に示されるようなシリンジ状の濃縮用治具200を準備した。
ここで、シリンダー10について、内径10aは29mmφであり、長さ10aは100mmであり、ノズル部12の内径12aは1mmφである。また、シリンダー10には、上述した実施例A1で使用した高吸水性ポリマーと同じ高吸水性ポリマー(1g)が収容されている。また、ノズル部12には栓がされている。
また、ピストン20の先端部22にはシリコン製のゴムが付着されている。
【0151】
[実施例D1]
以下のとおり濃縮工程を行った点以外は、実施例A1と同様の手順にしたがって、イムノクロマトグラフィーを実施した。その結果、実施例A1と同様に高い検出感度を示した。
【0152】
〔濃縮工程〕
上述のとおり準備した濃縮用治具200の開口部14から上述した検体液(検体液40)6mLをピペットで添加した(図2(B))。
次に、図2(B)の状態で10分間静置した。これにより、検体液のうち主に水及び夾雑物が高吸水性ポリマーに吸収され、検体液は濃縮された抗原濃縮液42となった。そして、ピストン20を開口部14からシリンダー10に装着した(図2(C))。
そして、図2(C)の状態から、ノズル部12の栓を外し、ピストン20を押し込むことにより、ノズル部12から抗原濃縮液42を200μL回収した(図2(D))。
【0153】
[回収時間]
上記実施例D1の濃縮工程において、抗原濃縮液42を回収するのに要した時間(回収時間)を計測した。なお、上記濃縮工程を合計で10回行い、それぞれについて回収時間を計測した。そして、回収時間の平均(平均回収時間)を求めた。
また、上述した実施例A1についても同様に平均回収時間を求めた。
結果を下記表4に示す。
【0154】
[濃縮率の変動係数]
上記実施例D1の濃縮工程における濃縮率を評価した。濃縮率に関しては、2倍、4倍、8倍、10倍、16倍、20倍、32倍、・・・と希釈していった検査液を使って評価した。濃縮前の検体液の検出可能な検査液の希釈倍率に比べて、濃縮後の検体液について検出可能な検査液の希釈倍率を調べる事で、繰り返し実験のそれぞれの濃縮率を計算した。
濃縮率=(濃縮後の検出可能希釈倍率)/(濃縮前の検出可能希釈倍率)実施例A1の方式と実施例D1の方式で回収した液の濃縮率をn10で評価した。
n10の結果の変動係数は、以下の式から導くことができる。
標準偏差σは、σ=√{(1/N)Σ(x_av.-xi)}変動係数CVは、CV=σ/x_av. ここで、x_av. は10回測定の平均値
【0155】
【表4】
【0156】
表4からわかるように、実施例A1の方法では平均回収時間1分であったが、シリンジ状の濃縮用治具を使用することにより平均回収時間が20秒に短縮され、抗原濃縮液の回収の短時間化が可能になることが分かった。また、同じ操作を10回繰り返した時の濃縮後のインフルエンザウイルス濃度のバラつきに関し、濃縮率の変動係数は、60%が30%まで減少していることから、測定ごとのバラツきが低く抑えられ、測定精度の優れた方法であることが分かった。
【0157】
また、図3に示される濃縮用治具、及び、図4に示される濃縮用治具を用いて同様に濃縮工程を行い、平均回収時間、及び、濃縮率の変動係数を求めたところ、実施例D1と同様に、抗原濃縮液の回収の短時間化が可能になり、測定精度の優れた方法であることが確認された。
【0158】
上記のように行った濃縮用治具を使用したイムノクロマトグラフィーと同様に、濃縮用治具を準備し、実施例B1と同様の手順にしたがって、実施例D1で行った濃縮工程とイムノクロマトグラフィーにおいて、イムノクロマトグラフィーを実施し、抗原濃縮液の回収時間と濃縮率の変動係数を求めたところ、尿検体中のリポアラビノマンナン(LAM)濃度の検出においても同様の効果が確認された。
【符号の説明】
【0159】
1 金コロイド保持パッド
2 テストライン
3 コントロールライン
4 発色試薬固定化ライン
100 ニトロセルロースメンブレン
10 シリンダー
12 ノズル部
14 開口部
16 目盛り
20 ピストン
22 先端部
30 特定高吸水性ポリマー
32 膨潤した特定高吸水性ポリマー
40 抗原を含み得る液(検体液)
42 抗原濃縮液
50 内筒
52 底面
54 側面
60 外筒
62 底面
64 開口部
70 管部
72 ノズル部
80 ポンプ部
200、210、220、230、300、310、320、330、400 濃縮用治具
図1
図2
図3
図4