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特許7192219繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20221213BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20221213BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20221213BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221213BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20221213BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221213BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20221213BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C08J5/04 CFD
C08K7/06
C08L69/00
C08L67/00
C08L67/02
C08L101/00
B29C43/34
B29K105:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018036889
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019151711
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花房 明宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】奥中 理
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 清利
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-049795(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159365(WO,A1)
【文献】特開2017-043672(JP,A)
【文献】特開2013-159675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;
15/08-15/14
B29C 43/34
B29C 70/00-70/88
C08J 5/04-5/10;5/24
C08K 7/06
C08L 69/00
C08L 67/00
C08L 67/02
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に記載する(A)成分と(B)成分を含み、プリプレグから得られる一方向積層材である炭素繊維強化樹脂材料であって、前記(A)成分中の結晶性樹脂の融解時の下記結晶化度χcが40%以上であり、かつ下記再結晶化率が70%未満である炭素繊維強化樹脂材料。
(A)成分:非晶性樹脂と結晶性樹脂とを含み、結晶性樹脂としてポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、またはポリエーテルケトンケトン樹脂を5重量パーセント以上含む樹脂組成物
(B)成分:炭素繊維
<結晶化度χcと再結晶化率>
結晶化度χc=ΔHm/ΔHo/w×100(%)
再結晶化率=|ΔHc/ΔHm|×100(%)
ΔHm;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の融解エンタルピー
ΔHo;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の平衡融解エンタルピー
ΔHc;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の再結晶化エンタルピー
w;結晶性樹脂の(A)成分中における質量分率
【請求項2】
前記非晶性樹脂が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、またはポリエーテルイミド樹脂を含む、請求項1に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
【請求項3】
前記(A)成分が、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂を合計で80重量パーセント以上含む樹脂である請求項1または2に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
【請求項4】
前記(A)成分中のポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂との混合質量比をPC/PEsとしたとき、PC/PEsが1以上であり、かつPC/PEsが19以下である請求項3に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
【請求項5】
前記(A)成分中のポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである請求項3または4に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の炭素繊維強化樹脂材料からなるスタンパブルシート。
【請求項7】
請求項6に記載のスタンパブルシートの成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた圧縮物性を発現する炭素繊維強化樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電気機器の軽量かつ高強度の構造部材として、炭素繊維樹脂複合材料が種々提案されている。一般に、工業的用途に用いられる構造部材は、軽量で、高い機械的物性、特に圧縮強度・圧縮弾性率を有することが強く求められている。
【0003】
このような構造部材には、従来金属材料が使用されることが多かったが、金属材料に比して軽量でかつ高強度の炭素繊維樹脂複合材(CFRP)の使用が、近年検討されている。炭素繊維樹脂複合材料のマトリクス樹脂としては様々なものを使用しうるが、熱硬化性樹脂に比して成形サイクルの短い熱可塑性樹脂によるCFRP(CFRTP)が産業上有用である。
炭素繊維樹脂複合材料のマトリクス樹脂としては、コストと軽量性に優れるポリプロピレン系樹脂(PP)、機械的強度に優れるポリアミド系樹脂(PA)、耐熱性に優れるポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などが一般によく検討されている。また、ポリカーボネート樹脂(PC)は、成形が比較的容易であり、自動車用途等の構造部材の使用環境下で安定な物性を維持するものの、耐薬品性が弱いため、接着による組立を行う際の接合強度や使用環境下における強度維持という点で問題があった。PCの耐薬品性を向上させる技術としては、ポリエステル等の他の結晶性樹脂とアロイ化することが広く知られており、CFRTPのマトリクス樹脂とする技術も考案されている。
【0004】
文献1には、ポリカーボネート樹脂、液晶性ポリエステル、炭素繊維を混合することにより、耐衝撃性、そり変形性、電磁波シールド性および薄肉難燃性が改良された繊維強化樹脂組成物について記載がある。文献2には酸変性ポリアクリレート幹とポリアクリレート側鎖とよりなるグラフト共重合体を用いることにより、ポリカーボネートとポリエステルとの均一性の高い樹脂組成物を得ることで、機械的強度、耐熱性、電気絶縁性および耐薬品性に優れた繊維強化樹脂積層体をうる技術が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの技術による樹脂組成物は、圧縮物性の改良検討は行われておらず、本発明の用途には不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-226508
【文献】特開平6-287428
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであり、優れた圧縮物性を発現する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明等は鋭意検討した結果、結晶性熱可塑性樹脂を用いること、樹脂部における結晶状態を制御し、樹脂に対する炭素繊維の含有量を特定の範囲とすることにより課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の要旨は、以下の(1)~(7)に存する。
(1) 以下に記載する(A)成分と(B)成分を含む炭素繊維強化樹脂材料であって、前記(A)成分中の結晶性樹脂の融解時の下記結晶化度χcが40%以上であり、かつ下記再結晶化率が70%未満である炭素繊維強化樹脂材料。
(A)成分:結晶性樹脂を5重量パーセント以上含む樹脂組成物
(B)成分:炭素繊維
<結晶化度χcと再結晶化率>
結晶化度χc=ΔHm/ΔHo/w×100(%)
再結晶化率=|ΔHc/ΔHm|×100(%)
ΔHm;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の融解エンタルピー
ΔHo;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の平衡融解エンタルピー
ΔHc;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の再結晶化エンタルピー
w;結晶性樹脂の(A)成分中における質量分率
(2) 前記(A)成分を100重量部としたとき、前記(B)成分を30~200重量部含む、上記(1)に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
(3) 前記(A)成分が、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂を合計で80重量パーセント以上含む樹脂である上記(1)から(2)のいずれかに記載の炭素繊維強化樹脂材料。
(4) 前記(A)成分中のポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂との混合質量比をPC/PEsとしたとき、PC/PEsが1以上であり、かつPC/PEsが19以下である上記(3)に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
(5) 前記(A)成分中のポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである上記(3)または(4)に記載の炭素繊維強化樹脂材料。
(6) 上記(1)から(5)のいずれかに記載の炭素繊維強化樹脂材料からなるスタンパブルシート。
(7) 上記(6)に記載のスタンパブルシートの成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた圧縮物性を発現する炭素繊維強化樹脂材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の炭素繊維強化樹脂材料について以下詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0010】
本発明の炭素繊維強化樹脂材料は、以下に記載する(A)成分と(B)成分を含む炭素繊維強化樹脂材料であって、前記(A)成分中の結晶性樹脂の融解時の下記結晶化度χcが40%以上であり、かつ下記再結晶化率が70%未満である炭素繊維強化樹脂材料である。
【0011】
(A)成分:結晶性樹脂を5重量パーセント以上含む樹脂組成物
(B)成分:炭素繊維
<結晶化度χcと再結晶化率>
結晶化度χc=ΔHm/ΔHo/w×100(%)
再結晶化率=|ΔHc/ΔHm|×100(%)
ΔHm;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の融解エンタルピー
ΔHo;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の平衡融解エンタルピー
ΔHc;(A)成分中に含まれる結晶性樹脂の再結晶化エンタルピー
w;結晶性樹脂の(A)成分中における質量分率
本発明の炭素繊維樹脂材料は、結晶性樹脂を用いること、樹脂に対する炭素繊維の含有量を特定の範囲とすること、樹脂部における結晶状態を制御することにより得られる。
以下、炭素繊維樹脂複合材材料の構成について詳細に説明する。
【0012】
<結晶性樹脂>
本発明に使用される結晶性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリテトラフルオロエチレン等が使用でき、これら単独あるいは混合物として使用することができる。これらのうち、成形性、耐薬品性の面から、ポリエステルを使用することが望ましい。
本発明で用いるポリエステル樹脂は芳香族ジカルボン酸またはその反応性誘導体と、ジオール、またはそのエステル誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。
【0013】
ここでいう芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸等の芳香族系ジカルボン酸が好適に用いられ、特にテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく使用できる。
【0014】
芳香族ジカルボン酸は二種以上を混合して使用してもよい。なお少量であれば、該ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を一種以上混合使用することも可能である。
【0015】
また本発明の芳香族ポリエステルの成分であるジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等、2,2-ビス(β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の芳香環を含有するジオール等およびそれらの混合物等が挙げられる。さらに少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
【0016】
また本発明の芳香族ポリエステルは少量の分岐剤を導入することにより分岐させることができる。分岐剤の種類に制限はないがトリメシン酸、トリメリチン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0017】
具体的な芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、
ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等の他、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、等のような共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、機械的性質等のバランスがとれたポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートおよびこれらの混合物が好ましく使用できる。
【0018】
また得られた芳香族ポリエステル樹脂の末端基構造は特に限定されるものではなく、末端基における水酸基とカルボキシル基の割合がほぼ同量の場合以外に、一方の割合が多い場合であってもよい。またかかる末端基に対して反応性を有する化合物を反応させる等により、それらの末端基が封止されているものであってもよい。
【0019】
かかる芳香族ポリエステル樹脂の製造方法については、常法に従い、チタン、ゲルマニウム、アンチモン等を含有する重合触媒の存在下に、加熱しながらジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合させ、副生する水またはジオールを系外に排出することにより行われる。例えば、ゲルマニウム系重合触媒としては、ゲルマニウムの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート、フェノラート等が例示でき、さらに具体的には、酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム等が例示できる。
【0020】
有機チタン化合物の重合触媒としては、好ましい具体例としてチタンテトラブトキシド、チタンイソプロポキシド、蓚酸チタン、酢酸チタン、安息香酸チタン、トリメリット酸チタン、テトラブチルチタネートと無水トリメリット酸との反応物などを挙げることができる。有機チタン化合物の使用量は、そのチタン原子がポリエステル樹脂を構成する酸成分に対し、3~12mg原子%となる割合が好ましい。
【0021】
また本発明では、従来公知の重縮合の前段階であるエステル交換反応において使用される、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の化合物を併せて使用でき、およびエステル交換反応終了後にリン酸または亜リン酸の化合物等により、かかる触媒を失活させて重縮合することも可能である。
【0022】
芳香族ポリエステル樹脂の製造方法は、バッチ式、連続重合式のいずれの方法をとることも可能である。
また芳香族ポリエステル樹脂の分子量については特に制限されないが、フェノール/テトラクロロエタン(50:50)混合液を溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.5~1.4、好ましくは0.7~1.2である。
【0023】
ポリエステル樹脂の固有粘度が0.5未満だと、耐薬品性が充分に確保されない。またポリエステル樹脂の固有粘度が1.4超過であると、炭素繊維束への含浸が困難となり、好ましくない。
【0024】
<(B)成分:炭素繊維>
本発明で用いる炭素繊維は、強化繊維として公知の炭素繊維を用いることができ、特に限定されない。炭素繊維の平均繊維直径は、1~50μmであることが好ましく、5~20μmであることがさらに好ましい。炭素繊維の平均単繊維繊度は、好ましくは0.5dtex以上、より好ましくは0.6dtex以上であり、好ましくは3.0dtex以下、より好ましくは2.5dtex以下である。通常、このような炭素繊維の単繊維を、1000本以上60000本以下束ねた炭素繊維束の形態で使用することが取扱い上望ましい。
【0025】
炭素繊維束を構成する単繊維は、例えば、アクリロニトリル系重合体(PAN系重合体)や、石油又は石炭から得られるピッチ、レイヨン、リグニン等を繊維化し、炭素化することで得られる。特に、PAN系重合体を原料としたPAN系炭素繊維が、工業規模における生産性及び機械的特性に優れており好ましい。
PAN系重合体は、分子構造中にアクリロニトリル単位を有するもので、アクリロニトリルの単独重合体や、アクリロニトリルと他のモノマー(例えば、メタクリル酸等)との共重合体とすることができる。
【0026】
炭素繊維は単独で使用することが望ましいが、その他の無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合せたハイブリッド構成の強化繊維を含んでもよい。
無機繊維としては、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル等が挙げられる。
金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。
強化繊維中の炭素繊維の含有率は50~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0027】
<(A)成分:結晶性樹脂を5重量パーセント以上含む樹脂組成物>
本発明は、マトリクス樹脂として、結晶性樹脂を5重量パーセント以上混合した樹脂部を用いる。本発明は、この樹脂部に特定量の炭素繊維を分散させた構成を取る。樹脂部には、結晶性樹脂の他に、非晶性樹脂、エステル交換反応抑制剤、酸化防止剤などを含んでも良い。樹脂部において、結晶性樹脂の合計含有量は、5重量パーセント以上、好ましくは10重量パーセント以上、より好ましくは15重量パーセントである。上記範囲内であれば、炭素繊維強化樹脂材料とした際に優れた圧縮特性を発現することができる。
【0028】
<(A)成分の製造方法>
本発明の樹脂部の製造方法には、従来公知の溶融混練法が用いられる。即ち、二軸押し出し機、単軸押し出し機、またはバッチ式混練機等に、原料樹脂を、一括、又は分割して供給することによって、原料樹脂等が混合された樹脂部が得られる。これらの中では、二軸押し出し機が好適に使用され、必要に応じて真空ベントを併用することにより、混練中における樹脂の劣化を低減することができる。
混練時の温度は、樹脂の種類・分子量等に応じて適宜変更される。二軸押し出し機のスクリューには、高い混練効率を得るために単一ないし複数のニーディングディスク部を設ける構成が好ましい。
上記の混練工程を経た後、通常、造粒工程で樹脂を一旦ペレット化し、次の工程に供する。造粒工程では、コールドカッター、又はホットカッターのうちいずれを用いてもよい。
【0029】
また、炭素繊維を短繊維として添加して樹脂組成物を得る場合は、樹脂部の混練工程において、裁断された炭素繊維を二軸押し出し機の下流領域でサイドフィードすることにより、繊維長を保持した良好な樹脂組成物を得ることができる。裁断された炭素繊維をサイドフィードする場合、フィード位置を適宜変えることによって、炭素繊維の平均長を制御することができる。
【0030】
<非晶性樹脂>
本発明の炭素繊維樹脂複合材組成物に用いられる樹脂部には、所定量の非晶性樹脂が含まれていてもよい。本発明に使用される非晶性樹脂は、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、AS樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン等が使用でき、これら単独あるいは混合物として使用することができる。これらのうち、強度・弾性率、成形性のバランスが優れたポリカーボネートを使用することが望ましい。
【0031】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂としては、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲン、または炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる芳香族ホモまたはコポリカーボネートが挙げられる。該芳香族ホモまたはコポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が約130~160℃であり、粘度平均分子量が8000~25000、好ましくは10000~20000の範囲のものであり、混合物の粘度平均分子量が8000~25000の範囲であれば、粘度平均分子量の異なるポリカーボネート樹脂を併用しても良い。粘度平均分子量は、以下の手順で測定される。まず、溶媒に塩化メチレンを用い、樹脂濃度C=0.5g/dlの濃度の溶液を調整し、ウベローデ式毛管粘度計を用いて溶液温度20℃で比粘度ηspを測定する。測定された還元粘度からHugginsの式
[η]={(1+1.8×ηsp1/2-1}/0.45
を用いて固有粘度[η]を計算する。さらに、Mark-Houwing-Sakuradaの式
[η]=1.23×10-4×Mv0.83
に[η]を代入することで、粘度平均分子量Mvが得られる。粘度平均分子量が8000以下では、本発明の優れた機械特性が損なわれるため好ましくなく、粘度平均分子量が25000以上では、連続炭素繊維に樹脂を含浸させてプリプレグを作成する際に含浸性が悪化することがあり、また樹脂組成物からなるスタンパブルシートを工業用部材に成形する際の流動性が損なわれるため好ましくない。
【0032】
前記の芳香族二価フェノール系化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等が使用でき、これら単独あるいは混合物として使用することができる。
【0033】
カーボネート前駆体としてホスゲンを使用する場合には、通常、酸結合剤および溶媒の存在下で反応を行い、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する。
酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、ピリジンなどのアミン化合物が使用される。溶媒としては、例えば塩化メチレンクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために、例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いてもよい。反応温度は、通常0~40℃で、反応時間は数分間~5時間である。
【0034】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用い、エステル交換反応で芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合には、不活性ガス雰囲気下で所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる。
【0035】
この場合の反応温度は、生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応系の圧力は、反応の初期段階から減圧とし、アルコールまたはフェノール類を留出させながら、反応を完結させる。
反応を促進するためには、エステル交換反応に通常使用される触媒を使用してもよい。
また、適当な分子量調整剤などを適宜使用してもよい。
【0036】
結晶性樹脂としてポリカーボネート樹脂、非晶性樹脂としてポリエステル樹脂を用いた際の、ポリカーボネート樹脂(PC)とポリエステル樹脂(PEs)との好ましい混合質量比PC/PEsは、1以上かつ19以下である。PC/PEsが1未満であると、強度・弾性率の低下が著しく、好ましくない。PC/PEsが19超過であると、十分な耐薬品性が得られない。より好ましいPC/PEsの組成比は、1以上かつ15以下である。さらに好ましいPC/PEsの組成比は、3以上かつ10以下である。
【0037】
<エステル交換反応抑制剤>
樹脂部を製造する際に、さらに酸性燐酸エステルを少量配合することが、芳香族ポリカーボネート樹脂と熱可塑性ポリエステルとのエステル交換反応を抑制することに有用であり、高分散時におけるポリエステル樹脂の結晶性を維持するために有効である。前記の酸性燐酸エステルとは、アルコール類と燐酸との部分エステル化合物の総称である。
【0038】
前記の酸性燐酸エステルの具体例としては、モノメチルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノイソプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノラウリルアシッドホスフェート、モノステアリルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノベヘニルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジベヘニルアシッドホスフェート、トリメチルアシッドホスフェート、トリエチルアシッドホスフェート、および前記のモノとジの混合物、モノ、ジおよびトリとの混合物や前記化合物の一種以上の混合物であっても良い。好ましく用いられる酸性燐酸エステルとしては、モノおよびジステアリルアシッドホスフェートの混合物などの長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。市販品としては、アデカ社製“アデカスタブ”AX-71を入手することができる。
【0039】
また、前記の酸性燐酸エステルの配合量は、熱変形温度と機械特性の点から、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル樹脂組成物100質量部に対し、0.05~2質量部、好ましくは0.1~1質量部である。
【0040】
<酸化防止剤>
本発明の炭素繊維樹脂複合材組成物に用いられる樹脂部には、所定量の酸化防止剤が含まれていてもよい。
酸化防止剤としては、1次酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤、2次酸化防止剤であるリン系酸化防止剤を併用することが望ましい。
【0041】
<フェノール系酸化防止剤>
フェノール系酸化防止剤としては、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、1,4-ブタンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、N,N’-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’-テトラメチレン-ビス-3-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオニル]ヒドラジン、N-サリチロイル-N’-サリチリデンヒドラジン、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、N,N’-ビス[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]オキシアミド、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等をあげることができる。好ましくは、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸である。ヒンダードフェノール系化合物の具体的な商品名としては、ADEKA製“アデカスタブAO-20”,”AO-30”,”AO-40”,”AO-50”,”AO-60”,”AO-70”,”AO-80”,”AO-330”、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス245”,”259”,”565”,”1010”,”1035”,”1076”,”1098”,”1222”,”1330”,”1425”,”1520”,”3114”,”5057”、(株)住友化学製“スミライザーBHT-R”、”MDP-S”、”BBM-S”、”WX-R”、”NW”、”BP-76”、”BP-101”、”GA-80”、”GM”、”GS”、サンケミカル(株)製“サイアノックスCY-1790”などが挙げられる。
【0042】
<リン系酸化防止剤>
リン系化合物としては、例えば、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物が挙げられる。かかるホスファイト系化合物の具体例としては、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,6-ヘキサメチレン-ビス(N-ヒドロキシエチル-N-メチルセミカルバジド)-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-サリシロイルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t(ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-N,N’-ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド-ジホスファイトなどが挙げられるが、少なくとも1つのP-O結合が芳香族基に結合しているものがより好ましく、具体例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルホスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ミックスド-モノおよびジ-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)などが挙げられ、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスホナイトなどが好ましく使用できる。ホスファイト系化合物の具体的な商品名としては、(株)ADEKA製“アデカスタブ C”、”PEP-4C”、”PEP-8”、”PEP-11C”、”PEP-24G”、”PEP-36”、”HP-10”、”2112”、”260”、”522A”、”329A”、”1178”、”1500”、”135A”、”3010”、”TPP”、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガフォス168”、(株)住友化学製”スミライザーP-16”、(株)クラリアント製”サンドスタブPEPQ”、GE製”ウエストン618”、”619G”、”624”などが挙げられる。
【0043】
<炭素繊維樹脂複合材組成物の製造方法>
本発明の炭素繊維樹脂複合材組成物の製造方法には、前述の炭素繊維を短繊維として添加する方法の他に、一方向に引き揃えられた炭素繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる方法が好適に用いられる。この方法によれば、炭素繊維を長繊維として含有したプリプレグを製造することができ、高弾性率・高強度の構造部材を製造する際に有利である。
【0044】
プリプレグを製造する際に用いられる炭素繊維は連続繊維であり、一ないし複数のボビンから供給され、溶融樹脂と接触する前に開線され、シート状の炭素繊維束として溶融樹脂を含浸させる装置に供給される。炭素繊維の開線方法には、バー開線、空気開線など、公知の技術が使用されうる。シート状の炭素繊維束は、溶融樹脂と接触する前に、加熱されていてもよい。
【0045】
溶融樹脂の供給方法は特に限定されないが、例えば、予め溶融混練されて造粒された樹脂部を単軸押し出し機に供給して、押し出し機の先端に装着されたT-ダイから膜状の溶融樹脂を炭素繊維束上に流下させる方法が好適に用いられる。また、押し出し機として二軸押し出し機を用いて、前述の樹脂部の混練工程から造粒工程を経ずに、直接プリプレグを製造することもできる。
【0046】
その他の方法として、予め製膜されたフィルム状の樹脂を樹脂の融点、または軟化点以上に加熱された熱ロール上に供給した後、炭素繊維束と接触させてもよい。
【0047】
樹脂の炭素繊維束への含浸には、対向した熱ロール中に炭素繊維束と溶融樹脂を挟み込み、加圧含浸させる方法が好適に用いられる。熱ロールは樹脂の融点または軟化点以上の温度であることが含浸効率の観点から好ましいが、特に溶融粘度の低い樹脂を用いる場合や、炭素繊維束の目付が低い場合は、炭素繊維束と溶融樹脂を樹脂の融点または軟化点以下の対向する熱ロールに同時に供給して、含浸と同時に樹脂を冷却固化させる方法も用い得る。
【0048】
溶融した樹脂を熱ロールから直接剥がすことも可能ではあるが、この場合は熱ロール表面に一定量の溶融樹脂が付着して残留することから、樹脂の熱劣化が生じやすい。材料物性、及び生産性の観点からは、熱ロールと冷却ロールをシームレスベルトで繋いで、溶融ゾーンで樹脂を炭素繊維束に含浸させた後、冷却ゾーンで樹脂を固化させる方法が好適に用いられる。また、熱ロールと溶融樹脂の間に離型紙を挿入し、離型紙ごと冷却ロールで冷却する方法も好適に用いられる。
【0049】
さらには、炭素繊維束上に溶融樹脂をカーテン状に流下させ、含浸ブレードでしごくことにより樹脂を含浸させる方法も好適に用い得る。この方法は、シームレスベルトや離型紙を用いる方法に比べて、設備投資が低減できることや運転管理が容易で高速化に向いているなどの長所がある。
【0050】
本発明の炭素繊維樹脂複合材組成物における樹脂部に対する炭素繊維の質量部は、樹脂部100質量部に対して、30質量部以上、好ましくは45質量部以上、より好ましくは60質量部以上であり、200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。樹脂部100質量部に対する炭素繊維の質量部が200質量部以下であれば、成形時に十分な流動性を確保することができ、炭素繊維の質量部の値が低いほど流動性は向上する。樹脂部100質量部に対する炭素繊維の質量部の値が30質量部以上であれば構造部材に必要な力学特性が得られる。なお、樹脂組成物中の炭素繊維の含有量は、JIS K7075に準拠した方法により測定することができる。
【0051】
このようにして得られた炭素繊維樹脂複合材プリプレグは、単独でテープ状の補強材として使用することもできるし、積層してスタンパブルシート(圧縮成形用シート)として使用することもできる。
炭素繊維樹脂複合材プリプレグは、通常、厚さ50~200μmの厚みを有するが、これを複数枚積層することで、炭素繊維樹脂複合材シートを得ることができる。積層する際に繊維軸方向を揃えて一方向材とすることも出来るが、繊維軸を任意に組み合わせることで、強度・弾性率の異方性を制御することができる。
【0052】
等方的な力学特性のスタンパブルシートを得るためには、例えばプリプレグを繊維軸に沿ってスリッティングしたのち任意の長さに切断し、得られた微小片をランダムに積層させて加熱圧着する方法を取ることができる。この際、スリッティングの幅としては、2~50(mm)が好ましい。更に好ましくは4~30(mm)である。スリッティング幅が2(mm)未満であるとスタンパブルシートの成形性が悪化するとともに、積層させる際に嵩高くなり生産性が悪化する。スリッティング幅が50(mm)超過であると、スタンパブルシートの力学強度のばらつきが大きくなり、好ましくない。
【0053】
また、等方的な力学特性のスタンパブルシートを得るためには、一方向に引き揃えられたプリプレグに、必要に応じて炭素繊維を断ち切るための切込を入れ、繊維方向が平面(360°)を等分割するように積層させる方法を取ることも好ましく用いられる。例えば、繊維軸を[0°,90°]として積層すれば平面を2分割できる。繊維軸を[0°,60°,120°]として積層すれば平面を3分割できる。4分割する場合は[0°,45°,90°,135°]とすればよく、6分割する場合は[0°,30°,60°,90°,120°,150°]とすればよい。
【0054】
一般に炭素繊維樹脂複合材に含まれる炭素繊維の長さは、長いほど力学特性に優れるものの、スタンピング成形時の流動性は低下する。スタンピング成形時の流動性向上のためには、炭素繊維をある長さに切断することが効果的であり、このことによりリブやボスといった複雑な3次元形状にも流入する炭素繊維樹脂複合材を得ることができる。なお、「炭素繊維を断ち切るための切込」とは、炭素繊維を断ち切る深さを有し、さらに炭素繊維の配向方向とは異なる方向に伸びる切込であることを意味する。
【0055】
炭素繊維樹脂複合材が炭素繊維を断ち切る切込を有する場合、断ち切られた炭素繊維の長さは特に限定されないが、通常5mm以上、好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上であり、通常100mm以下、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下である。上記範囲内であれば、十分な力学物性とスタンピング成形時のリブ等の薄肉部への流動を両立させることができる。本発明において長繊維とは、数平均繊維長が5mm以上のものを指す。
【0056】
このような切込みは、積層材とする前にプリプレグに入れておくことが好ましい。プリプレグに入れる切込みは、繊維に対して任意の角度を持たせることができるが、流動性、及び機械的強度のバランスから、繊維方向に対して30乃至60°の角度とすることが望ましい。切込みは連続なものでも不連続なものでもよい。
【0057】
スタンパブルシートは、例えば上記プリプレグを複数枚積層し、樹脂部の融点以上の温度で加熱プレス成型を行うことにより製造可能である。加熱プレスの後、樹脂部の結晶化促進を目的として、樹脂部の融点未満の温度で一定時間保持しても良い。加熱プレス、もしくは、融点未満の温度で一定時間保持した後、成形体の形態を保持することを目的として、樹脂部のガラス転移点未満の温度で冷却プレスを行っても良い。また、成型体中のボイドを抜くことを目的として、加熱プレス・冷却プレス中に減圧を行っても良い。
【0058】
これらの方法で得られた一方向、等方、または疑似等方のスタンパブルシートは、単独で用いても良いし、1種以上のシートを組み合わせて使用しても良い。
また、スタンパブルシートを積層させる場合、シートの間に樹脂組成物層、あるいは樹脂-フィラー複合材層、発泡樹脂層などを挟んでもよい。
【0059】
このような長繊維を含有する炭素繊維樹脂複合材の機械的強度は、ASTM D6641に基づいて圧縮強度、圧縮弾性率として測定することができる。本発明の製造方法によって得られる炭素繊維樹脂複合材成形体について、一方向材料の場合、圧縮強度は、550MPa以上、好ましくは560MPa以上、さらに好ましくは570MPa以上である。また、圧縮弾性率は、72GPa以上、好ましくは76GPa以上、さらに好ましくは80GPa以上である。
【0060】
本発明者らは、熱分析測定における結晶性樹脂成分の結晶融解熱量に着目し、樹脂部に含有される結晶性樹脂成分の結晶融解の際に吸収される熱エネルギー(融解エンタルピー)ΔHmの、含有される結晶性樹脂量から理論的に計算される平衡融解エンタルピーΔHoに対する値ΔHm/ΔHoが40%以上、好ましくは42%以上、さらに好ましくは45%以上であることが、炭素繊維樹脂複合材料とした時に、高い圧縮強度・圧縮弾性率を実現できることを見出した。ΔHm/ΔHoが40%未満であると、樹脂の結晶部が少ないため、炭素繊維樹脂複合材料とした時に十分な圧縮強度・圧縮弾性率を達成することができない。
【0061】
さらに本発明者らは、結晶性樹脂の再結晶化率を下げることで、圧縮物性の向上を実現した。樹脂部に含有される結晶性樹脂の再結晶化エンタルピーをΔHcとした際に、再結晶化率|ΔHc/ΔHm|が70%未満、好ましくは60%未満、更に好ましくは55%未満とすることが好ましい。|ΔHc/ΔHm|が70%未満であると、炭素繊維樹脂複合材料とした時に、高い圧縮強度・弾性率を発現することができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明の具体的態様を詳細に説明するが、本発明は実施例の態様のみに限定されるものではない。
(実施例の一方向積層材)
<原料>
<成分(A)>
T;ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラシチックス社製 ユーピロンH3000
U;ポリエステル樹脂 三菱エンジニアリングプラシチックス社製 ノバデュラン 5008
V;コアシェル型グラフト共重合体 三菱レイヨン社製 メタブレン S2006
W;エステル交換抑制剤 アデカ社製 アデカスタブ AX-71[オクタデシルホスフェート]
X;酸化防止剤 フェノール系酸化防止剤:アデカ社製 アデカスタブ AO-50[オクタデシル3-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
Y;リン系酸化防止剤:アデカ社製 アデカスタブ 2112[トリス(2,4-ジt-ブチルフェニル)ホスファイト]
【0063】
<成分(B)>
Z;炭素繊維 三菱レイヨン社製 パイロフィル TR50S15L AD
【0064】
<樹脂部の製造>
同方向二軸押出機(株式会社池貝製:PCM-30)を用いて、表1に示す(T)成分、(U)成分、(V)成分、(W)成分、(X)成分、(Y)成分を混練し、樹脂部を製造した。押し出されたストランドは水槽で冷却し、ペレタイザーにより造粒(ペレット化)した。なお、(T)成分、(U)成分、(V)成分、(W)成分、(X)成分、(Y)成分は、メインフィーダから押出機に供給した。混練条件は以下のとおりである。
シリンダ温度 C1:230℃、C2:250℃、C3~C8:270℃
スクリューフォーメーション:ニーディングゾーンを2箇所設置した。
減圧ベント:C7に設置
スクリュー回転数:200rpm
吐出量:15kg/hr
【0065】
<長繊維樹脂組成物の製造>
(樹脂フィルムの製造)
上述の樹脂部をアイ・ケイ・ジー(株)製PMS30-32単軸押し出し機に供給し、同押し出し機に装着された幅350mmのT-ダイから押し出し、(株)GSIクレオス製シート冷却巻取り装置705-FA082を経て、厚さ約40μmの樹脂部フィルムとした。
【0066】
(プリプレグの製造)
ドラムワインド方式にて、炭素繊維を用いて繊維目付を100g/mに調整した一方向配向炭素繊維シートを作製した後、この炭素繊維シートに適度に張力を掛け、炭素繊維シートの両面から前記樹脂フィルム、フッ素樹脂製フィルム(日東電工(株)社製、製品名:ニトフロンフィルム970-4UL)、アルミ製の平板(厚さ10mm)の順に挟み、加熱/冷却プレス機の加熱盤で270℃、無加圧で5分間予熱後、20kPaで5分間加圧成形し、冷却盤で25℃、30kPaで5分間加圧冷却し、繊維含有率約34vol%、厚み0.13mmを有する樹脂組成物プリプレグを得た。
【0067】
(一方向積層材の製造)
こうして得られたプリプレグ16枚を100mm角で深さ2.0mmの印籠金型内に繊維軸方向を揃えて配置し、加熱プレス機の加熱盤で260℃、20kPaで10分間加圧成形した。その後、圧力20kPaのまま、加熱盤の温度を100℃として、30分間保持した。次いで、冷却盤で25℃、40kPaで5分間加圧冷却し、繊維含有率約34vol%、厚み2mmの樹脂組成物一方向積層材(長繊維樹脂組成物)を得た。
【0068】
(比較例の一方向積層材)
実施例と同様の手順で得られたプリプレグ16枚を100mm角で深さ2.0mmの印籠金型内に繊維軸方向を揃えて配置し、加熱プレス機の加熱盤で260℃、20kPaで10分間加圧成形した。次いで、冷却盤で25℃、40kPaで5分間加圧冷却し、繊維含有率約34vol%、厚み2mmの樹脂組成物一方向積層材(長繊維樹脂組成物)を得た。
【0069】
<炭素繊維樹脂複合材組成物中の樹脂部における結晶状態の評価>
上記により得られた炭素繊維樹脂複合材組成物から、ニッパーを用いて約10mgのサンプルを切り出し、アルミニウム製オープンパン及びパンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(TAインスツルメンツ製「DSC Q-1000」)を用いて、窒素気流下、0℃から250℃まで10℃/minで昇温し、途中で観察されたポリエステル樹脂の再結晶化発熱量ΔHc、及び結晶融解の吸熱量ΔHmを測定した。
【0070】
ΔHcは上記測定中に100~190℃の間で観測される発熱ピーク面積から求め、ΔHmは180~250℃の間に観察される吸熱ピークの面積から求めた。いずれの場合もピークが多重ピークとなる場合はそれらの総和として求めた。
樹脂部のポリエステル樹脂成分の結晶化度の計算は、上述のΔHmとポリエステル樹脂添加量から計算される理論的な平衡融解エンタルピーの比から求めた。即ち、PBTの平衡融解エンタルピーΔHo=145J/gを使って、以下の式で結晶化度χcを求めた。
χc=ΔHm/ΔHo/w×100 (%)
【0071】
樹脂部のポリエステル樹脂成分の再結晶化率の計算は、上述のΔHc、およびΔHmから以下の式で計算した。
再結晶化率=ΔHc/ΔHm×100(%)
χc;ペレット中の樹脂の結晶化度(%)
w;樹脂部全体に対するポリエステル樹脂成分の質量分率
ΔHc;樹脂部の再結晶化発熱量(J/g)
ΔHm;樹脂部の融解吸熱量(J/g)
ΔHo;ポリエステル樹脂の理論的な平衡融解エンタルピー(J/g)
【0072】
なお、測定サンプルは炭素繊維を含むため、
ΔHc=ΔHcs/w
ΔHm=ΔHms/w
ΔHcs;測定サンプル(成形体)の再結晶化発熱量(J/g)
ΔHms;測定サンプル(成形体)の融解吸熱量(J/g)
;測定サンプル(成形体)における(A)成分の質量分率
であることに注意する。
【0073】
<炭素繊維樹脂複合材組成物の繊維方向圧縮物性評価>
(試験片の作製)
得られた平板状の炭素繊維樹脂一方向積層材から、繊維方向と平行方向(0°)に長さ137mm、幅10mmの試験片を切り出した。
(圧縮試験物性の評価)
切り出した曲げ試験片は、ASTM D6641に規定する試験方法に準じて、室温の環境下で、支点間距離を10mmとし、クロスヘッド速度1.0mm/分で圧縮試験を行って強度と弾性率を測定した。試験機としては、島津製作所製「オートグラフAG-X 100kN」を用いた。得られた測定値のそれぞれn=5の平均値を圧縮強度および圧縮弾性率として記録した。







【0074】
【表1】
【0075】
【表2】