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特許7192224電極用バインダー、電極合剤、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイス
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  • 特許-電極用バインダー、電極合剤、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電極用バインダー、電極合剤、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221213BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221213BHJP
   C08F 220/46 20060101ALI20221213BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20221213BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20221213BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20221213BHJP
   H01M 4/48 20100101ALN20221213BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F220/46
C08F8/44
H01G11/38
H01G11/30
H01M4/48
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018048174
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019160691
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛岡 広喜
(72)【発明者】
【氏名】高岡 謙次
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-115109(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151518(WO,A1)
【文献】特表2011-513911(JP,A)
【文献】特開2018-137222(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143344(WO,A1)
【文献】特開2016-219358(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
C08F 220/46
C08F 8/44
H01G 11/38
H01G 11/30
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位とを有し、前記酸性官能基の少なくとも一部が金属由来の塩基と塩を形成している共重合体を含み、
前記共重合体中の前記ニトリル基を含有する構造単位と前記酸性官能基を含有する構造単位との合計の比率が、前記共重合体を構成する全構造単位の95モル%以上であり、
前記共重合体中の前記ニトリル基を含有する構造単位Aと前記酸性官能基を含有する構造単位Bとの比率(A:B)がモル比で1:0.1~1:0.67の範囲内であり、
前記共重合体は炭化水素基を側鎖に含まないか、炭化水素基を側鎖に含む場合はその炭素原子数が5以下であり、
水をさらに含み、前記共重合体が前記水に溶解した状態である、電極用バインダー。
【請求項2】
ニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位とを有し、前記酸性官能基の少なくとも一部が金属由来の塩基と塩を形成している共重合体を含み、
前記共重合体中の前記ニトリル基を含有する構造単位Aと前記酸性官能基を含有する構造単位Bとの比率(A:B)がモル比で1:0.1~1:0.67の範囲内であり、
前記共重合体は炭化水素基を側鎖に含まないか、炭化水素基を側鎖に含む場合はその炭素原子数が5以下であり、
水をさらに含み、前記共重合体が前記水に溶解した状態である、電極用バインダー。
【請求項3】
前記共重合体の重量平均分子量が50,000~200,000である、請求項1又は請求項2に記載の電極用バインダー。
【請求項4】
前記酸性官能基がカルボキシ基、スルホ基及びホスホ基からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
【請求項5】
前記酸性官能基を有する構造単位がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニル安息香酸及びビニルベンゼンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種に由来する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
【請求項6】
前記ニトリル基を含有する構造単位がアクリロニトリルに由来する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
【請求項7】
ケイ素を含有する化合物を活物質として含む電極の形成のための、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電極用バインダーと、活物質とを含む、電極合剤。
【請求項9】
前記活物質がケイ素を含有する化合物を含む、請求項に記載の電極合剤。
【請求項10】
集電体と、前記集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、請求項又は請求項に記載の電極合剤を含む電極合剤層と、を有する、エネルギーデバイス用電極。
【請求項11】
正極と負極とを備え、前記正極及び前記負極の少なくとも一方が請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電極用バインダーと活物質とを含む、エネルギーデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダー、電極合剤、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話、PDA等の携帯情報端末の電源、電気自動車用の電源などとして、高エネルギー密度を有する非水電解液系エネルギーデバイスであるリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極は、以下のようにして作製される。まず、活物質、バインダー及び溶媒を混練してスラリー状の電極合剤を調製する。この電極合剤を転写ロール等で集電体である金属箔の片面又は両面に塗布し、溶媒を乾燥除去して合剤層を形成する。その後、合剤層をロールプレス機等で圧縮成形する工程を経て電極が作製される。
【0004】
ここで使用されるバインダーは、活物質間及び活物質と集電体間の密着性、並びに、電気化学安定性等の特性に優れていることが求められる。また、リチウムイオン二次電池の高容量化のためにより少ない添加量でこれらの特性を満足することが求められる。さらに、環境負荷低減の観点から電極合剤の調製に用いる溶媒として水を用いることが好ましいとされ、水系溶媒への適合性もバインダーに対する要求のひとつとなっている。
【0005】
水系溶媒とともに使用するバインダーとして、特許文献1には(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位と、2以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物由来の構造単位とを含む共重合体の水分散液が開示されている。また、特許文献2には、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を含み電解液に対する膨潤度が200~400%である共重合体の水分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/098233号
【文献】特開2016-143635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、リチウムイオン二次電池の高容量化を背景に、ケイ素酸化物の負極活物質としての使用が検討されている。ケイ素酸化物を負極活物質として用いると、リチウムイオン二次電池の放電容量の大幅な向上が期待できる。
【0008】
しかしながら一方で、ケイ素酸化物からなる活物質は充放電に伴う体積の膨張収縮が大きいために、活物質間又は活物質と集電体間の充分な密着性が得られず活物質の電極からの脱離が生じる場合があった。さらに、充放電時に活物質の表面に形成される保護皮膜(Solid Electrolyte Interphase、SEI)の割れ、剥離等が生じて活性面が形成され、電解液の分解が進行する場合があった。このため、ケイ素酸化物を活物質として用いるリチウムイオン二次電池は、寿命に関わるサイクル特性と電池容量に関わる初回充放電効率が充分でないという問題があった。
【0009】
上記の問題を解決する方策としては、充放電による体積の膨張収縮が生じても活物質間又は活物質と集電体間の充分な密着性が確保され、かつSEIの割れ等を充分に抑制できるバインダーを用いることが考えられる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されたバインダーでは、充分なサイクル特性と初回充放電効率の向上が実現できなかった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、サイクル特性と初回充放電効率に優れるエネルギーデバイスの電極を製造可能なバインダーを提供することを課題とする。本発明はまた、このバインダーを用いた電極合剤、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>ニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位とを有し、前記酸性官能基の少なくとも一部が金属由来の塩基と塩を形成している共重合体を含む、電極用バインダー。
<2>前記共重合体中の前記ニトリル基を含有する構造単位Aと前記酸性官能基を含有する構造単位Bとの比率(A:B)がモル比で1:0.1~1:1.5の範囲内である、<1>に記載の電極用バインダー。
<3>前記共重合体中の前記ニトリル基を含有する構造単位と前記酸性官能基を含有する構造単位との合計の比率が、前記共重合体を構成する全構造単位の95モル%以上である、<1>又は<2>に記載の電極用バインダー。
<4>前記共重合体は炭化水素基を側鎖に含まないか、炭化水素基を側鎖に含む場合はその炭素原子数が5以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<5>前記共重合体の重量平均分子量が50,000~200,000である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<6>水をさらに含み、前記共重合体が前記水に溶解した状態である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<7>前記酸性官能基がカルボキシ基、スルホ基及びホスホ基からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<8>前記酸性官能基を有する構造単位がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニル安息香酸及びビニルベンゼンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種に由来する、<1>~<7>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<9>前記ニトリル基を含有する構造単位がアクリロニトリルに由来する、<1>~<8>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<10>ケイ素を含有する化合物を活物質として含む電極の形成のための、<1>~<9>のいずれか1項に記載の電極用バインダー。
<11><1>~<10>のいずれか1項に記載の電極用バインダーと、活物質とを含む、電極合剤。
<12>前記活物質がケイ素を含有する化合物を含む、<11>に記載の電極合剤。
<13>集電体と、前記集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、<11>又は<12>に記載の電極合剤を含む電極合剤層と、を有する、エネルギーデバイス用電極。
<14>正極と負極とを備え、前記正極及び前記負極の少なくとも一方が<1>~<10>のいずれか1項に記載の電極用バインダーと活物質とを含む、エネルギーデバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイクル特性と初回充放電効率に優れるエネルギーデバイスの電極を製造可能なバインダーが提供される。また本発明によれば、このバインダーを用いた電極合剤、エネルギーデバイス用電極及びエネルギーデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】エネルギーデバイスの一例であるリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本明細書において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本明細書において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本明細書において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アリル」はアリル及びメタリルの少なくとも一方を意味する。
【0015】
<電極用バインダー>
本開示の電極用バインダー(以下、単にバインダーともいう)は、ニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位とを有し、前記酸性官能基の少なくとも一部が金属由来の塩基と塩を形成している共重合体(以下、単に共重合体ともいう)を含む。
【0016】
本開示のバインダーに含まれる共重合体は、酸性官能基の少なくとも一部が金属由来の塩基との中和反応により塩を形成していることで、水への溶解性に優れている。本発明者らの検討の結果、上記共重合体を含むバインダーをエネルギーデバイスの電極のバインダーとして用いると、エネルギーデバイスのサイクル特性が向上することがわかった。
【0017】
本開示のバインダーを用いるとエネルギーデバイスのサイクル特性が改善する理由は必ずしも明らかではないが、例えば、非水溶性のバインダーは水に分散した状態で活物質と混合され、電極中で微粒子の状態で活物質の間に介在して活物質同士を結着するのに対し、本開示のバインダーは水溶性であるために活物質の表面を被覆する状態を作りやすいことが考えられる。その結果、活物質の膨張収縮に伴う電極からの脱離、破壊、表面に形成されたSEIの剥離等の現象が活物質の表面を被覆するバインダーによって抑制され、電極の劣化が進行しにくくなってサイクル特性が向上すると考えられる。
【0018】
さらに、本発明者らの検討の結果、酸性官能基が金属由来の塩基と塩を形成している共重合体を含むバインダーを用いる場合は、酸性官能基が金属由来でない塩基と塩を形成している共重合体を含むバインダーを用いる場合に比べてエネルギーデバイスの初回充放電効率により優れていることがわかった。その理由は必ずしも明らかではないが、金属由来の塩基の方が酸性官能基と塩を形成している状態を維持しやすいことが考えられる。
【0019】
本開示のバインダーは、活物質の膨張収縮に伴う電極の劣化を抑制する効果に優れているため、膨張収縮の度合いが大きい活物質を含む電極のバインダーとして特に好適である。膨張収縮の度合いが大きい活物質としては、ケイ素を含有する化合物が挙げられる。
【0020】
さらに、本開示のバインダーは水に共重合体が溶解した水溶液の状態で使用できるため、共重合体を溶解するために有機溶媒を用いることなく電極の製造を行うことができ、安全性及び環境適合性の点で優れている。また、本開示のバインダーは共重合体が水に分散した状態に比べて粘度が高いため、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤の添加を省略することもできる。このため、増粘剤に起因する密着性、保存安定性等の低下を回避することができる。
【0021】
(共重合体)
共重合体は、ニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位とを有し、前記酸性官能基の少なくとも一部が金属由来の塩基と塩を形成しているものであれば特に制限されない。例えば、ニトリル基を含有する単量体(以下、ニトリル基含有単量体ともいう)と、酸性官能基を含有する単量体(以下、酸性官能基含有単量体ともいう)と、必要に応じてその他の単量体との重合反応により得られる共重合体に、金属由来の塩基性化合物を反応させて得られるものであってもよい。
【0022】
共重合体の構造単位がニトリル基を有することで、バインダーの優れた靭性と電解液への優れた耐性が得られる傾向にある。また、共重合体の構造単位が酸性官能基を有することで、水への優れた溶解性と活物質に対する優れた接着性が得られる傾向にある。
【0023】
共重合体中のニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位との比率は特に制限されない。バインダーとしての特性のバランスの観点からは、例えば、ニトリル基を含有する構造単位Aと酸性官能基を含有する構造単位Bとの比率(A:B)がモル比で1:0.1~1:1.5の範囲内であってもよい。
【0024】
共重合体中の酸性官能基は、そのうちの一部が金属由来の塩基と塩を形成していても、すべてが塩を形成していてもよい。例えば、共重合体中の酸性官能基の50モル%以上が塩を形成していてもよく、80モル%以上が塩を形成していてもよく、90モル%以上が塩を形成していてもよい。酸性官能基のうち塩を形成しているものの割合は、共重合体と反応させる金属由来の塩基性化合物の量等によって調節することができる。
【0025】
共重合体中のニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位との合計の比率は特に制限されない。例えば、共重合体中のニトリル基を含有する構造単位と、酸性官能基を含有する構造単位との合計の比率が、共重合体を構成する全構造単位の95モル%以上であってもよく、99モル%以上であってもよく、99モル%を超えるものであってもよい。
【0026】
共重合体は、電解液への過度の膨潤を抑制する観点から、炭化水素基を側鎖に含まないか、炭化水素基を側鎖に含む場合はその炭素原子数が5以下であることが好ましく、炭化水素基を側鎖に含まないか、炭化水素基を側鎖に含む場合はその炭素原子数が3以下であることがより好ましく、炭化水素基を側鎖に含まないか、炭化水素基を側鎖に含む場合はその炭素原子数が2以下であることがさらに好ましく、炭化水素基を側鎖に含まないことが特に好ましい。ここでいう炭化水素基には、炭化水素基と酸素原子との組合せも含めるものとする。
【0027】
共重合体の重量平均分子量は、50,000~200,000であることが好ましく、70,000~150,000であることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量が50,000以上であると活物質の表面に形成した被覆の安定性に優れる傾向にあり、200,000以下であると活物質の被覆性に優れる傾向にある。共重合体の重量平均分子量は、重合反応時の温度(温度が高いほど分子量が小さくなる傾向にある)、重合開始剤の種類、連鎖移動剤の添加等によって調節することができる。
【0028】
本開示において共重合体の重量平均分子量は、以下のようにして測定される値である。
測定対象をN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルタ〔倉敷紡績株式会社、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)前処理用、クロマトディスク、型番:13N、孔径:0.45μm〕を通して不溶分を除去する。GPC〔ポンプ:L6200 Pump(株式会社日立製作所)、検出器:示差屈折率検出器L3300 RI Monitor(株式会社日立製作所)、カラム:TSKgel-G5000HXLとTSKgel-G2000HXL(計2本)(共に東ソー株式会社)を直列に接続、カラム温度:30℃、溶離液:N-メチル-2-ピロリドン、流速:1.0mL/分、標準物質:ポリスチレン〕を用い、重量平均分子量を測定する。
【0029】
共重合体の酸価は、0mgKOH/g~70mgKOH/gであることが好ましく、0mgKOH/g~20mgKOH/gであることがより好ましく、0mgKOH/g~5mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0030】
本開示において共重合体の酸価は、以下のようにして測定される値である。
まず、測定対象1gを精秤した後、その測定対象にアセトンを30g添加し、測定対象を溶解する。次いで、指示薬であるフェノールフタレインを測定対象の溶液に適量添加して、0.1NのKOH水溶液を用いて滴定する。そして、滴定結果より下記式(A)により酸価を算出する(式中、Vfはフェノールフタレインの滴定量(mL)を示し、Wpは測定対象の溶液の質量(g)を示し、Iは測定対象の溶液の不揮発分の割合(質量%)を示す。)。
酸価(mgKOH/g)=10×Vf×56.1/(Wp×I) (A)
なお、測定対象の溶液の不揮発分は、測定対象の溶液をアルミパンに約1mL量り取り、160℃に加熱したホットプレート上で15分間乾燥させ、残渣重量から算出する。
【0031】
-ニトリル基含有単量体-
共重合体をニトリル基含有単量体を用いて作製する場合、用いられるニトリル基含有単量体の種類は、特に制限されない。一般にはエチレン性不飽和二重結合と、ニトリル基とを有する化合物であって、共重合体の側鎖にニトリル基を導入しうる化合物が挙げられる。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリル系ニトリル基含有単量体、α-シアノアクリレート、ジシアノビニリデン等のシアン系ニトリル基含有単量体、フマロニトリル等のフマル系ニトリル基含有単量体などが挙げられる。さらに、炭素数5以下、好ましくは炭素数3以下、より好ましくは炭素数2以下の炭化水素基(酸素原子との組合せであってもよい)とニトリル基とを含有する単量体(例えば、下記一般式(I)~(IV)で表される単量体)が挙げられる。ニトリル基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
【化1】
【0033】
式中、RはH又はCHである。R10は炭素数1~3のアルキレン基であり、好ましくはメチレン基である。
【0034】
【化2】
【0035】
式中、R11はH又はCHである。nは0又は1であり、好ましくは0である。
【0036】
【化3】
【0037】
式中、R12はH又はCHである。R13は炭素数1~3のアルキレン基であり、好ましくはメチレン基である。
【0038】
【化4】
【0039】
式中、R14はH又はCHである。R15は単結合又は炭素数1~3のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、好ましくは単結合又はメチレン基である。
【0040】
これらの中では、重合のし易さ、コストパフォーマンス、電極の柔軟性、可とう性等の点で、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0041】
-酸性官能基含有単量体-
共重合体を酸性官能基含有単量体を用いて作製する場合、酸性官能基含有単量体は特に制限されない。一般にはエチレン性不飽和二重結合と、酸性官能基とを有する化合物であって、共重合体の側鎖に酸性官能基を導入しうる化合物が挙げられる。酸性官能基としてはカルボキシ基、スルホ基、ホスホ基等が挙げられ、中でもカルボキシ基が好ましい。
【0042】
酸性官能基としてカルボキシ基を含有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル系カルボキシ基含有単量体、クロトン酸等のクロトン系カルボキシ基含有単量体、マレイン酸及びその無水物等のマレイン系カルボキシ基含有単量体、イタコン酸及びその無水物等のイタコン系カルボキシ基含有単量体、シトラコン酸及びその無水物等のシトラコン系カルボキシ基含有単量体、ビニル安息香酸などが挙げられる。さらに、炭素数5以下、好ましくは炭素数3以下、より好ましくは炭素数2以下の炭化水素基(酸素原子との組合せであってもよい)とカルボキシ基とを含有する単量体(例えば、下記一般式(V)及び(VI)で表される単量体)が挙げられる。
【0043】
【化5】
【0044】
式中、RはH又はCHである。Rは炭素数1~5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、好ましくは炭素数1又は2のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、より好ましくはメチレン基である。
【0045】
【化6】
【0046】
ここで、RはH又はCHである。Rは炭素数1~5のアルキレン鎖又はアルキレンオキシ鎖であり、好ましくは炭素数1又は2のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、より好ましくはメチレン基である。
【0047】
酸性官能基としてスルホ基を含有する単量体としては、ビニルベンゼンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩等)などが挙げられる。
【0048】
酸性官能基としてホスホ基を含有する単量体としては、アシッドホスホキシエチルメタクリレート(ユニケミカル株式会社、商品名:Phosmer M)、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル株式会社、商品名:Phosmer PE)、3-クロロ-2-アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(ユニケミカル株式会社、商品名:Phosmer CL)、アシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル株式会社、商品名:Phosmer PP)等が挙げられる。
【0049】
これらの中でも、酸性官能基としてカルボキシ基を含有する単量体が好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。
【0050】
-その他の単量体-
共重合体をニトリル基含有単量体又は酸性官能基含有単量体以外の単量体(以下、その他の単量体ともいう)を用いて作製する場合、その種類は特に制限されない。
その他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等のアルキル基を含む(メタ)アクリル酸エステル類、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、が挙げられる。その他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
-金属由来の塩基性化合物-
共重合体において塩を形成している酸性官能基は、例えば、共重合体の酸性官能基と金属由来の塩基性化合物とを反応させて得てもよい。
【0052】
金属由来の塩基性化合物として具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、リチウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコラートなどが挙げられる。
【0053】
金属由来の塩基性化合物の中でも、サイクル特性向上の観点からは金属の水酸化物が好ましい。また、金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が好ましい。
【0054】
金属由来の塩基性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて金属に由来しない塩基性化合物を併用してもよい。金属に由来しない塩基性化合物として具体的には、アミン化合物、ピリジン化合物、アゾール化合物等が挙げられる。
【0055】
-共重合体の合成方法-
共重合体を合成する方法は、特に限定されるものではない。水中沈殿重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の重合方法を適用することが可能である。樹脂合成のし易さ、回収、精製等といった後処理のし易さなどの点で、水中沈殿重合及び乳化重合が好ましく、水中沈殿重合がより好ましい。
【0056】
共重合体を合成する際に使用する重合開始剤としては、重合開始効率等の点で水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。
水溶性の重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素等の水溶性過酸化物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジンハイドロクロライド)等の水溶性アゾ化合物、過硫酸塩等の酸化剤と亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の還元剤と硫酸、硫酸鉄、硫酸銅等の重合促進剤とを組合せた酸化還元型(レドックス型)の重合開始剤などが挙げられる。
これらの中では、樹脂合成のし易さ等の点で過硫酸塩(より好ましくは過硫酸アンモニウム)及び水溶性アゾ化合物が好ましい。
重合開始剤は、共重合体の合成に使用される単量体の総量に対し、例えば、0.001モル%~5モル%の範囲で使用されることが好ましく、0.01モル%~2モル%の範囲で使用されることがより好ましい。
【0057】
共重合体を合成する際は、分子量調節等の目的で、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、チオグリコール等のメルカプタン化合物、四塩化炭素、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。これらの中では、臭気が少ない等の点で、α-メチルスチレンダイマーが好ましい。
【0058】
共重合体を合成する際は、溶媒を用いてもよい。溶媒としては水及び有機溶媒が挙げられる。共重合体を水中沈殿重合により合成する場合は、析出する共重合体の粒子径の調節等のため、水と有機溶媒を併用してもよい。
水以外の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレア等のウレア類、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン類、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル類、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
共重合体の合成条件は、特に制限されない。例えば、単量体を溶媒中に導入し、重合温度を好ましくは0℃~100℃、より好ましくは30℃~90℃として、好ましくは1時間~50時間、より好ましくは2時間~12時間保持することによって行われる。
重合温度が0℃以上であれば、重合反応が促進される傾向にある。また、重合温度が100℃以下であれば、溶媒として水を使用したときでも、水が蒸発して重合ができなくなりにくい傾向にある。
【0060】
合成した共重合体の酸性官能基と塩基性化合物とを反応させることで、酸性官能基の少なくとも一部が塩を形成した状態とすることができる。
【0061】
共重合体と塩基性化合物とを反応させる方法は特に制限されず、既知の手法により実施することができる。共重合体との反応に用いる塩基性化合物の量は、共重合体に含まれる酸性官能基の量、酸性官能基のうち塩基と反応させたい割合等に応じて設定できる。
【0062】
塩基性化合物の量は、例えば、共重合体に含まれる酸性官能基に対して0.01モル当量~1.5モル当量であることが好ましく、0.3モル当量~1.1モル当量であることがより好ましく、0.5モル当量~1.0モル当量であることがさらに好ましい。
【0063】
-バインダーの用途-
本開示のバインダーは、エネルギーデバイス、特に非水電解液系のエネルギーデバイスの電極の材料として好適に利用される。非水電解液系エネルギーデバイスとは、水以外の電解液を用いる蓄電又は発電デバイス(装置)をいう。エネルギーデバイスとしては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、太陽電池、燃料電池等が挙げられる。中でも、充放電による膨張収縮の大きいケイ素を含有する化合物を活物質として含む電極の材料として好適に利用される。
【0064】
<電極合剤>
本開示の電極合剤は、上述したバインダーと、活物質とを含む。電極合剤に含まれる活物質の種類は特に制限されず、エネルギーデバイスの電極の材料として一般的に用いられるものから選択できる。本開示の電極合剤に含まれるバインダーは活物質の被覆性に優れていることから、充放電に伴う膨張収縮が大きい活物質を含む場合であってもサイクル特性に優れる電極を形成することができる。
【0065】
電極合剤に含まれる活物質は、ケイ素を含有する化合物を含むものであってもよい。ケイ素を含有する化合物をエネルギーデバイスの負極用の活物質(負極活物質)として用いると、黒鉛等の負極活物質に比べて高容量化が実現できる反面、充放電に伴う膨張収縮が大きいために活物質が劣化しやすく、サイクル特性が維持されにくいという性質を有する。
【0066】
ケイ素を含有する化合物としてはケイ素酸化物が挙げられ、ケイ素酸化物としては一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、亜酸化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
一酸化ケイ素は、例えば、二酸化ケイ素と金属ケイ素との混合物を加熱して生成した一酸化ケイ素の気体を冷却及び析出させる公知の昇華法にて得ることができる。また、酸化ケイ素、一酸化ケイ素等として市場から入手することができる。
【0068】
ケイ素酸化物は、ケイ素酸化物中にケイ素の結晶子が分散した構造(好ましくは、二酸化ケイ素中にケイ素の結晶子が分散した構造)を有するものであってもよい。ケイ素酸化物中にケイ素の結晶子が存在していると、初期の放電容量の高容量化と良好な初期の充放電効率が得られやすい。
【0069】
ケイ素酸化物が粒子状である場合、その平均粒子径は特に制限されない。例えば、0.1μm~20μmであることが好ましく、0.5μm~10μmであることがより好ましい。
【0070】
本開示において活物質の平均粒子径は、界面活性剤を含んだ精製水に試料を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所、SALD-3000J)で測定される体積基準の粒度分布において、小径側からの積算が50%となるときの値(メジアン径(D50))とする。
BET比表面積は、例えば、JIS Z 8830:2013に準じて窒素吸着能から測定することができる。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社:AUTOSORB-1(商品名)を用いることができる。試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、BET比表面積の測定を行う際には、まず加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。
【0071】
ケイ素酸化物の粒子は、例えば、塊状のケイ素酸化物を粉砕及び分級して製造することができる。詳しくは、まず、塊状のケイ素酸化物を微粉砕機に投入できる大きさまで粉砕する一次粉砕及び分級を行い、さらにこの粉砕物を微粉砕機により二次粉砕(分級)する方法が好ましい。
【0072】
本開示の電極合剤は、活物質としてケイ素を含有する化合物と、他の活物質とを含むものであってもよい。他の活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質として常用されるものから選択してもよい。具体的には、炭素材料、金属リチウム、リチウム合金、金属間化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。これらの中でも、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。
【0073】
炭素材料の中でも、エネルギーデバイスの特性向上の観点からは、X線広角回折法における炭素六角平面の間隔(d002)が3.35Å~3.40Åであり、c軸方向の結晶子(Lc)が100Å以上である炭素材料(黒鉛)が好ましい。
一方、エネルギーデバイスのサイクル特性及び安全性の向上の観点からは、X線広角回折法における炭素六角平面の間隔(d002)が3.50Å~3.95Åである炭素材料(非晶質炭素)が好ましい。
炭素材料の平均粒子径は、0.1μm~60μmであることが好ましく、0.5μm~30μmであることがより好ましい。また、炭素材料のBET比表面積は、1m/g~10m/gであることが好ましい。
【0074】
本開示の電極合剤は、これに含まれるバインダーが水系溶媒への適合性に優れているため、水系溶媒を用いた製造方法が採用されている負極用の電極合剤として好適であるが、正極用の電極合剤であってもよい。
【0075】
電極合剤が正極用であって正極活物質を含む場合、正極活物質の種類は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質として常用されるものから選択してもよい。具体的には、リチウム含有金属複合酸化物、オリビン型リチウム塩、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。リチウム含有金属複合酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。異種元素としては、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V、B等が挙げられ、中でもMn、Al、Co、Ni、Mg等が好ましい。異種元素は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
正極活物質の平均粒子径は、0.1μm~60μmであることが好ましく、0.5μm~30μmであることがより好ましい。また、正極活物質のBET比表面積は、1m/g~10m/gであることが好ましい。
【0077】
電極合剤が活物質としてケイ素を含有する化合物と、他の活物質とを含む場合、その割合は特に制限されない。例えば、ケイ素を含有する化合物Aと、他の活物質Bとの質量比(A:B)が0.5:9.5~5:5であってもよい。
【0078】
電極合剤に含まれるバインダーと活物質の割合は、特に制限されない。例えば、バインダーAと活物質Bとの質量比(A:B)が20:80~0.1:99.9であってもよい。
【0079】
電極合剤は、液状媒体を含むものであってもよい。特に、作業性の観点からはバインダーの使用時(活物質と混合する際)に液状媒体を含んでいることが好ましい。電極合剤に含まれる液状媒体としては水が好ましいが、必要に応じて水とともに有機溶媒を含んでいてもよい。
【0080】
電極合剤の使用時における粘度は、例えば、25℃において500mPa・s~50000mPa・sであることが好ましく、1000mPa・s~20000mPa・sであることがより好ましく、2000mPa・s~10000mPa・sであることがさらに好ましい。なお、粘度は回転式せん断粘度計を用いて、25℃、せん断速度1.0s-1で測定される。
【0081】
電極合剤は、必要に応じてバインダー、活物質及び液状媒体以外の成分を含んでいてもよい。例えば、電解液に対する耐膨潤性を補完するための架橋成分、電極の柔軟性及び可とう性を補完するためのゴム成分、電極合剤の塗工性を向上させるための増粘剤、沈降防止剤、消泡剤、レベリング剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。電極合剤の状態は特に制限されず、保管方法、電極の形成方法等に応じて選択できる。例えば、スラリー状であってもよい。
【0082】
<エネルギーデバイス用電極>
本開示のエネルギーデバイス用電極は、集電体と、前記集電体の少なくとも一方の表面上に設けられ、上述した電極合剤を含む電極合剤層と、を有する。
本開示のエネルギーデバイス用電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、太陽電池、燃料電池等の電極として用いることができる。
以下に、本開示のエネルギーデバイス用電極をリチウムイオン二次電池の電極に適用した場合について詳細に説明するが、本開示のエネルギーデバイス用電極は下記内容に限定されるものではない。
【0083】
集電体の種類は特に制限されない。例えば、リチウムイオン二次電池の分野で常用されるものから選択してもよい。
リチウムイオン二次電池の負極に用いられる集電体(負極集電体)としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅等を含むシート、箔などが挙げられる。これらの中でも、銅を含有するシート又は箔が好ましい。シート及び箔の厚さは特に限定されず、集電体として必要な強度及び加工性を確保する観点から、例えば、1μm~500μmであることが好ましく、2μm~100μmであることがより好ましく、5μm~50μmであることがさらに好ましい。
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる集電体(正極集電体)としては、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン等を含有するシート、箔などが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムを含有するシート又は箔が好ましい。シート及び箔の厚さは特に限定されず、集電体として必要な強度及び加工性を確保する観点から、例えば、1μm~500μmであることが好ましく、2μm~80μmであることがより好ましく、5μm~50μmであることがさらに好ましい。
【0084】
電極合剤層は、上述した電極合剤を用いて形成することができる。具体的には、例えば、スラリー状の電極合剤を集電体の少なくとも一方の表面上に塗布し、次いで溶媒を乾燥して除去し、必要に応じて圧延して形成することができる。
スラリー状の電極合剤の塗布は、例えば、コンマコーター等を用いて行うことができる。塗布は、対向する電極において、正極容量と負極容量との比率(負極容量/正極容量)が1以上になるように行うことが適当である。スラリー状の電極合剤の塗布量は、例えば、電極合剤層の片面当たりの乾燥質量が、5g/m~500g/mであることが好ましく、50g/m~300g/mであることがより好ましい。
溶媒の除去は、例えば、50℃~150℃、好ましくは、80℃~120℃で、1分~20分間、好ましくは、3分~10分間乾燥することによって行われる。
圧延は、例えばロールプレス機を用いて行われ、合剤層の密度が、負極の合剤層の場合、例えば、1g/cm~2g/cm、好ましくは、1.2g/cm~1.8g/cmとなるように、正極の合剤層の場合、例えば、2g/cm~5g/cm、好ましくは、2g/cm~4g/cmとなるようにプレスされる。
さらに、電極内の残留溶媒、吸着水の除去等のため、例えば、100~150℃で1~20時間真空乾燥してもよい。
【0085】
<エネルギーデバイス>
本開示のエネルギーデバイスは、正極と負極とを備え、正極及び負極の少なくとも一方が上述したバインダーと活物質とを含む。
本開示のエネルギーデバイス用電極は、正極及び負極の少なくとも一方が上述したバインダーと活物質とを含むため、活物質として膨張収縮が大きい材料を含む場合であってもサイクル特性に優れている。
【0086】
ある実施態様では、エネルギーデバイスは少なくとも負極が上述したバインダーと活物質とを含む。またある実施態様では、エネルギーデバイスは少なくとも負極が上述したバインダーと活物質とを含み、活物質としてケイ素を含有する化合物を含む。
【0087】
本開示のエネルギーデバイスとしては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、太陽電池、燃料電池等が挙げられる。以下に、エネルギーデバイスがリチウムイオン二次電池の場合について詳細に説明するが、本開示のエネルギーデバイスは下記内容に限定されるものではない。
【0088】
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、電解液と、を備える。正極及び負極の詳細については、上述したエネルギーデバイス用電極に記載したものを参照できる。
【0089】
セパレータは、正極及び負極間を電子的には絶縁しつつもイオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物等が用いられる。
【0090】
上記樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が用いられる。具体的には、電解液に対して安定で、保液性の優れた材料の中から選ぶのが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート、不織布などを用いることが好ましい。
【0091】
無機物としては、アルミナ、二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩類、ガラスなどが用いられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。
薄膜形状の基材としては、孔径が0.01μm~1μmであり、厚さが5μm~50μmのものが好適に用いられる。また、例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、樹脂等の結着剤を用いて複合多孔層としたものをセパレータとして用いることができる。さらに、この複合多孔層を、正極又は負極の表面に形成し、セパレータとしてもよい。あるいは、この複合多孔層を他のセパレータの表面に形成し、多層セパレータとしてもよい。例えば、90%粒子径(D90)が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として結着させた複合多孔層を、正極の表面に形成してもよい。
【0092】
電解液は、溶質(支持塩)と非水溶媒とを含み、さらに必要に応じて各種添加剤を含む。溶質は通常、非水溶媒中に溶解した状態である。電解液は、例えば、セパレータに含浸される。
【0093】
溶質としては、この分野で常用されるものを使用できる。具体的には、LiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム等が挙げられる。イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CFSONLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム((CFSO)(CSO)NLi)、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((CSONLi)等が挙げられる。溶質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5モル/L~2モル/Lとすることが好ましい。
【0094】
非水溶媒としては、この分野で常用されるものを使用できる。具体的には、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が挙げられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。非水溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
また、電池特性をより向上できる観点から、非水溶媒はビニレンカーボネート(VC)を含有することが好ましい。非水溶媒がビニレンカーボネート(VC)を含有する場合の含有率は、非水溶媒全量に対して、0.1質量%~2質量%であることが好ましく、0.2質量%~1.5質量%であることがより好ましい。
【0096】
リチウムイオン二次電池の構成例として、ラミネート型のリチウムイオン二次電池の構成について以下に説明する。
ラミネート型のリチウムイオン二次電池は、例えば、次のようにして作製できる。まず、正極と負極を角形に切断し、それぞれの電極にタブを溶接し正極端子及び負極端子を作製する。正極と負極との間にセパレータを介在させ積層した電極積層体を作製し、その状態でアルミニウム製のラミネートパック内に収容し、正極端子及び負極端子をアルミラミネートパックの外に出し密封する。次いで、電解液をアルミラミネートパック内に注液し、アルミラミネートパックの開口部を密封する。これにより、リチウムイオン二次電池が得られる。
【0097】
リチウムイオン二次電池の構成例として、円柱状のリチウムイオン二次電池の構成について以下に図面を参照して説明する。
図1は、円柱状のリチウムイオン二次電池の断面図である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器6を有している。電池容器6には、帯状の正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して断面渦巻状に捲回された電極群5が収容されている。セパレータ4は、例えば、幅が58mm、厚さが30μmに設定される。電極群5の上端面には、一端部を正極板2に固定されたアルミニウム製でリボン状の正極タブ端子が導出されている。正極タブ端子の他端部は、電極群5の上側に配置され正極外部端子となる円盤状の電池蓋の下面に超音波溶接で接合されている。一方、電極群5の下端面には、一端部を負極板3に固定された銅製でリボン状の負極タブ端子が導出されている。負極タブ端子の他端部は、電池容器6の内底部に抵抗溶接で接合されている。従って、正極タブ端子及び負極タブ端子は、それぞれ電極群5の両端面の互いに反対側に導出されている。なお、電極群5の外周面全周には、図示を省略した絶縁被覆が施されている。電池蓋は、絶縁性の樹脂製ガスケットを介して電池容器6の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池1の内部は密封されている。また、電池容器6内には、図示しない電解液が注液されている。
【実施例
【0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(合成例1)
撹拌機、温度計、冷却管及び送液ポンプを装着した0.50リットルの4口フラスコ内に水115.00gを加え、アスピレーターで2.6kPa(20mmHg)に減圧後、窒素で常圧に戻す操作を3回繰り返し、溶存酸素を除去した。フラスコ内を窒素雰囲気に保ち、撹拌しながらウォーターバスで75℃に加温した。過硫酸アンモニウム0.19gを水5.00gに溶解してフラスコ内に加えた。過硫酸アンモニウムを加えた直後から、ニトリル基含有単量体のアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社)21.00g、酸性官能基含有単量体のアクリル酸(和光純薬工業株式会社)19.00g(アクリロニトリル1.00モルに対して0.67モルの割合)の混合物を送液ポンプで2時間かけて滴下した。モノマを全量滴下した後、4時間撹拌を継続した。その後、1時間かけて90℃に昇温し、90℃で2時間撹拌することで、樹脂析出物を得た。得られた樹脂析出物をろ過により回収後、80℃で12時間乾燥し、ニトリル基含有単量体由来の構造単位と、酸性官能基含有単量体由来の構造単位とを含む共重合体の乾燥物を得た。0.2リットルフラスコに得られた乾燥物0.1gとN-メチル-2-ピロリドン9.9gを加え溶解した後、上述した測定条件でGPCにより重量平均分子量を測定した結果、13万であった。
【0100】
(合成例2)
撹拌機、温度計、冷却管及び送液ポンプを装着した0.50リットルの4口フラスコ内に水265.00gを加え、アスピレーターで2.6kPa(20mmHg)に減圧後、窒素で常圧に戻す操作を3回繰り返し、溶存酸素を除去した。フラスコ内を窒素雰囲気に保ち、撹拌しながらウォーターバスで75℃に加温した。過硫酸アンモニウム0.19gを水5.00gに溶解してフラスコ内に加えた。過硫酸アンモニウムを加えた直後から、ニトリル基含有単量体のアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社)21.00g、酸性官能基含有単量体のアクリル酸(和光純薬工業株式会社)19.00g(アクリロニトリル1.00モルに対して0.67モルの割合)の混合物を送液ポンプで2時間かけて滴下した。モノマを全量滴下した後、4時間撹拌を継続した。その後、1時間かけて90℃に昇温し、90℃で2時間撹拌することで、ニトリル基含有単量体由来の構造単位と、酸性官能基含有単量体由来の構造単位とを含む共重合体の分散液を得た。室温に冷却後、アルミパンに分散液2.00g計り取り、160℃のホットプレートで15分加温し、樹脂組成物の乾燥物を得た。0.20リットルフラスコに得られた乾燥物0.1gとN-メチル-2-ピロリドン9.9gを加え溶解した後、上述した測定条件でGPCにより重量平均分子量を測定した結果、10万であった。
【0101】
(合成例3)
撹拌機、温度計、冷却管及び送液ポンプを装着した0.50リットルの4口フラスコ内に水335.00g、乳化剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム株式会社、商品名:CMC#2200)の2.00質量%水溶液21.46gを加え、アスピレーターで2.6kPa(20mmHg)に減圧後、窒素で常圧に戻す操作を3回繰り返し、溶存酸素を除去した。フラスコ内を窒素雰囲気に保ち、撹拌しながらウォーターバスで60℃に加温した。過硫酸アンモニウム0.26gを水8.00gに溶解してフラスコ内に加えた。過硫酸アンモニウムを加えた直後から、アクリロニトリル(和光純薬工業株式会社)16.98g、ブチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社)68.26g(総単量体量(100モル%)中に60モル%の割合)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社、商品名:ATM-4E)0.34gの混合物を送液ポンプで2時間かけて滴下した。モノマを全量滴下した後、4時間撹拌を継続した。その後、1時間かけて90℃に昇温し、90℃で2時間撹拌することで、共重合体の水分散液を得た。
【0102】
<実施例1>
0.20リットルフラスコに合成例1で得られた共重合体の乾燥物3.00g、塩基性化合物として水酸化リチウム一水和物0.67g、水25.00gを加え、室温で3時間撹拌して、中和反応を生じさせた。その後、不揮発分濃度が10.00質量%になるよう水を加え、共重合体の水溶液を得た。
【0103】
次いで、黒鉛系負極材(日立化成株式会社、MAGE)と、シリコン系負極材(日立化成株式会社)と、得られた共重合体の水溶液と、を固形分の比率(黒鉛系負極材:シリコン系負極材:共重合体)が87.00質量%:10.00質量%:3.00質量%となるように混合し、更に粘度調整のために水を加えて、スラリー状の負極合剤を得た。得られた負極合剤を厚さ10μmの圧延銅箔(集電体)の片面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、プレスにより圧延化して、評価用の負極を得た。負極合剤の密度(プレス後)は1.60g/cmとし、負極合剤の塗布量は100.00g/mとした。
【0104】
<実施例2~4>
共重合体の種類と塩基性化合物の組成を表1に示したものに変えた以外は、全て実施例1と同様にして、共重合体の水溶液を得た。得られた共重合体の水溶液を用いて、実施例1と同様にして負極を作製した。
【0105】
<比較例1>
塩基性化合物としてトリエチルアミン1.62gを使用したこと以外は、全て実施例1と同様にして、共重合体の水溶液を得た。得られた共重合体の水溶液を用いて、実施例1と同様にして負極を作製した。
【0106】
<比較例2>
合成例2で得られた共重合体と、塩基性化合物としてトリエチルアミン1.62gを使用したこと以外は、全て実施例1と同様にして、共重合体の水溶液を得た。得られた共重合体の水溶液を用いて、実施例1と同様にして負極を作製した。
【0107】
<比較例3>
0.2リットルフラスコに合成例1で得られた共重合体の乾燥物を粉砕したもの3.00g、水27.00gを加え、室温で撹拌し、共重合体の沈殿液を得た。
【0108】
次いで、黒鉛系負極材(日立化成株式会社、MAGE)と、シリコン系負極材(日立化成株式会社)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC:ダイセルファインケム株式会社、2200番)水溶液(不揮発分濃度:1.5質量%)と、得られた共重合体の沈殿液と、を固形分の比率(黒鉛系負極材:シリコン系負極材:CMC:共重合体)が87.00質量%:10.00質量%:1.50質量%:1.50質量%となるように混合し、更に粘度調整のために水を加えて、スラリー状の負極合剤を得た。得られた負極合剤を厚さ10μmの圧延銅箔(集電体)の片面に実質的に均等かつ均質に塗布した。その後、乾燥処理を施し、プレスにより圧延化して、評価用の負極を得た。負極合剤の密度(プレス後)は1.60g/cmとし、負極合剤の塗布量は100.00g/mとした。
【0109】
<比較例4>
合成例2で作製した共重合体の水分散液をそのまま用いて、比較例1と同様にして負極を作製した。
【0110】
<比較例5>
合成例3で作製した共重合体の水分散液をそのまま用いて、比較例1と同様にして負極を作製した。
【0111】
<評価>
(1)負極の密着強度
作製した負極を幅10.00mm、長さ100mmの短冊状に切り出し、両面テープを用いてガラス板に合剤層面を被着面として貼り合わせ、密着強度試験用サンプルとした。精密万能試験機(株式会社島津製作所、AGS-X)に密着強度測定用サンプルを装着し、10mm/min、測定距離25mmで180°剥離強度を測定し、剥離距離10mm~20mm間の荷重平均値を算出した。各負極について、5本の試験片を測定し、その平均値を負極の密着強度(N/m)とした。結果を表1に示す。
【0112】
(2)初回充放電効率及びサイクル特性
直径2.00cmのステンレス製コイン外装容器に、正極として直径1.80cmの円形に切断した金属リチウムと、直径1.80cmの円形に切断した厚さ20.00μmのポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータとをこの順に配置し、電解液(1.20MのLiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート=2/2/3体積%の混合溶液+ビニレンカーボネート0.80重量%)を溢れない程度に数滴垂らした。さらに、直径1.50cmの円形に切断した負極と、スペーサとして直径1.60cmの円形に切断した厚さ200μmのステンレス板とをこの順に重ね、ポリプロピレン製のパッキンを介してステンレス製のキャップを被せ、コイン電池作製用のかしめ機で密封して評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0113】
作製した評価用のリチウムイオン二次電池を25.00℃の恒温槽内に入れ、充放電装置(東洋システム株式会社、TOSCAT-3200)に接続した。0.10Cで0.05Vまで定電流放電した後、0.05Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧放電し、放電容量を測定した。次いで、0.10Cで1.5Vまで定電流充電し、充電容量を測定し、初回充放電効率を以下の式により算出した。結果を表1に示す。
初回充放電効率(%)=1回目の充電容量(mAh)×100/1回目の放電容量(mAh)
【0114】
次いで、同様の操作を53回繰り返し、サイクル特性を以下の式により算出した。結果を表1に示す。
サイクル特性(%)=53回目の充電容量(mAh)×100/3回目の充電容量(mAh)
【0115】
【表1】
【0116】
表1に示すように、共重合体の酸性官能基を塩基性化合物と反応させたものを用いた実施例で作製した負極は、共重合体の酸性官能基を塩基性化合物と反応させていない比較例3、4の負極に比べて負極の密着強度に優れ、電池のサイクル特性に優れていた。これは、共重合体が水に溶解した状態となっている実施例の方が、共重合体が水に溶解していない比較例3、4に比べて活物質の被覆性に優れているためと考えられる。
比較例5は負極の密着強度の評価は実施例と同等であったが、電池のサイクル特性の法化が実施例よりも低かった。これは、水に微粒子の状態で分散した状態の共重合体は活物質及び集電体との密着性を有するが、水に溶解した状態の実施例の共重合体に比べて活物質の被覆性に劣るためと考えられる。
さらに、共重合体の酸性官能基を金属由来の塩基性化合物と反応させたものを用いた実施例で作製した負極は、共重合体の酸性官能基を金属に由来しない塩基性化合物と反応させた比較例1、2の負極に比べて初回充放電効率に優れていた。
【0117】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1