(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】分離装置、及び、樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
(21)【出願番号】P 2018105009
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐哉
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-238710(JP,A)
【文献】特開平11-095629(JP,A)
【文献】特開2017-056675(JP,A)
【文献】特開2014-162095(JP,A)
【文献】特開平07-266208(JP,A)
【文献】特開2003-127571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/02
B29B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムを搬送可能な搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記複層フィルムの前記表面層を擦過することにより分離可能な擦過部とを備え、
前記擦過部が、
前記表面層の少なくとも一部のエリアを、第一擦過方向に擦過可能な第一擦過具と、
搬送される前記複層フィルムを、前記第一擦過具とは反対側から押えることにより、前記複層フィルム及び前記第一擦過具の接触圧力及び接触長さを調整する第一の押えローラー若しくは第一の押え材、又は前記複層フィルムの前記表面層のうち、前記第一擦過具によって擦過されるのとは反対側の表面層を擦過可能な第四擦過ローラーと、
前記第一擦過具よりも下流に設けられ、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向と非平行な第二擦過方向に擦過可能な第二擦過具と、
搬送される前記複層フィルムを、前記第二擦過具とは反対側から押えることにより、前記複層フィルム及び前記第二擦過具の接触圧力及び接触長さを調整する第二の押えローラー若しくは第二の押え材、又は前記複層フィルムの前記表面層のうち、前記第二擦過具によって擦過されるのとは反対側の表面層を擦過可能な第五擦過ローラーと、
を備え、
前記第一擦過具及び前記第
二擦過具は、それぞれ独立して、前記表面層よりも硬い材料で形成され、前記表面層を擦過することにより分離可能な突起部を有する、分離装置。
【請求項2】
前記第一擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分と、
前記第二擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分とが、逆向きである、請求項1に記載の分離装置。
【請求項3】
前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第一擦過方向がなす角度の大きさと、
前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第二擦過方向がなす角度の大きさとの差が、0°~10°である、請求項2に記載の分離装置。
【請求項4】
前記擦過部が、
前記第一擦過具よりも上流に設けられ、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向及び前記第二擦過方向の両方と非平行な第三擦過方向に擦過可能な第三擦過具
と、
搬送される前記複層フィルムを、前記第三擦過具とは反対側から押えることにより、前記複層フィルム及び前記第三擦過具の接触圧力及び接触長さを調整する第三の押えローラー若しくは第三の押え材、又は前記複層フィルムの前記表面層のうち、前記第三擦過具によって擦過されるのとは反対側の表面層を擦過可能な第六擦過ローラーと、を備え、
前記第三擦過具は、前記表面層よりも硬い材料で形成され、前記表面層を擦過することにより分離可能な突起部を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の分離装置。
【請求項5】
第三擦過方向が、前記複層フィルムの搬送方向に平行である、請求項4に記載の分離装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の分離装置を用いて、樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムから、前記表面層を擦過することにより分離して、前記基材層を含む樹脂フィルムを得る、樹脂フィルムの製造方法であって、
前記複層フィルムを搬送する工程と、
搬送される前記複層フィルムの前記表面層を擦過することにより分離する工程と、を含み、
前記表面層を擦過することにより分離する工程が、
前記表面層の少なくとも一部のエリアを、第一擦過方向に擦過する工程と、
第一擦過方向へ擦過する工程の後で、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向に非平行な第二擦過方向に擦過する工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第一擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分と、
前記第二擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分とが、逆向きである、請求項6に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第一擦過方向がなす角度の大きさと、
前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第二擦過方向がなす角度の大きさとの差が、0°~10°である、請求項7に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記表面層を擦過することにより分離する工程が、
前記第一擦過方向へ擦過する工程の前に、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向及び前記第二擦過方向の両方と非平行な第三擦過方向に擦過する工程を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
第三擦過方向が、前記複層フィルムの搬送方向に平行である、請求項9に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置、及び、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂で形成された層を備える複層フィルムから、その複層フィルムに含まれる樹脂をリサイクルしようとする場合がある。この場合、一般には、各層を分離し、目的の層に含まれる樹脂を他の層に含まれる材料とは別に回収することが求められる。多くの場合、回収したい樹脂とそれ以外の材料との間の溶媒に対する溶解性の差を利用して、目的の層に含まれる樹脂の回収が行われる(特許文献1~3)。例えば、ある溶媒に不溶な樹脂で形成された基材層と、その溶媒に可溶な材料で形成された表面層とを備えた複層フィルムからは、前記の溶媒で表面層を溶解して分離することにより、基材層に含まれる樹脂を回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-173239号公報
【文献】特開2004-169005号公報
【文献】特願平4-291984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、回収したい樹脂とそれ以外の材料との間の溶媒に対する溶解性の差が小さい場合、従来の方法では、目的の層に含まれる樹脂を他の層に含まれる材料と別に回収することが難しい。そこで、本発明者は、擦過によって物理的に分離を行うことを試みた。
【0005】
具体的には、本発明者は、基材層及び表面層を備えた長尺の複層フィルムを用意し、その複層フィルムを長手方向に搬送しながら、表面層を擦過した。擦過具としては、複層フィルムの蛇行を抑制するために、表面層を複層フィルムの搬送方向に擦過できるローラー状の擦過具を用いた。ローラー状の擦過具を回転させて表面層を擦過することにより、基材層から表面層が分離されるので、基材層を含む樹脂フィルムが得られる。そこで、本発明者は、その樹脂フィルムに含まれる樹脂を回収し、リサイクルすることを試みた。
【0006】
しかし、前記のような擦過による表面層の分離は、効率的に行うことが難しかった。例えば、複層フィルムに対する擦過具の接触圧力を高くした場合、複層フィルムの摩耗による切断が生じ易かった。また、例えば、擦過具が複層フィルムの同一範囲を繰り返し擦過できるように、ローラー状の擦過具の回転速度を速くした場合には、擦過跡が深くなり、複層フィルムの切断が特に生じ易かった。さらに、例えば、複層フィルムが一様な平面形状を有さない場合、擦過具が撓む場合などのように、擦過具と複層フィルムとの接触圧力が局所的に大きくなりうる場合には、接触圧力が大きい部分を起点とした切断が生じ易かった。
【0007】
表面層の効率的な分離が難しいと、回収される樹脂に、表面層の材料が混入する可能性がある。このような混入は、特に、光学フィルムのリサイクルの分野において大きな課題となる。例えば、表面層が材料としてウレタン樹脂を含む場合、そのウレタン樹脂の混入は、リサイクルされた樹脂の着色を生じる可能性がある。光学フィルムでは、僅かな着色であっても当該光学フィルムの性能に対する影響が大きい。よって、前記の着色を抑制できる程度に効率的な分離ができないと、光学フィルムのリサイクルとしては、実用化は難しい。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので;樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムから、表面層を効率的に分離できる分離装置;並びに、樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムから、表面層を効率的に分離して、基材層を含む樹脂フィルムを製造できる製造方法;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、本発明者は、複層フィルムの表面層を第一擦過方向に擦過することと、その第一擦過方向に非平行な第二擦過方向に擦過することとを組み合わせて行うことにより、複層フィルムから表面層を効率的に分離できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0010】
〔1〕 樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムを搬送可能な搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記複層フィルムの前記表面層を擦過可能な擦過部とを備え、
前記擦過部が、
前記表面層の少なくとも一部のエリアを、第一擦過方向に擦過可能な第一擦過具と、
前記第一擦過具よりも下流に設けられ、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向と非平行な第二擦過方向に擦過可能な第二擦過具と、を備える、分離装置。
〔2〕 前記第一擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分と、
前記第二擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分とが、逆向きである、〔1〕に記載の分離装置。
〔3〕 前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第一擦過方向がなす角度の大きさと、
前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第二擦過方向がなす角度の大きさとの差が、0°~10°である、〔2〕に記載の分離装置。
〔4〕 前記擦過部が、
前記第一擦過具よりも上流に設けられ、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向及び前記第二擦過方向の両方と非平行な第三擦過方向に擦過可能な第三擦過具を備える、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の分離装置。
〔5〕 第三擦過方向が、前記複層フィルムの搬送方向に平行である、〔4〕に記載の分離装置。
〔6〕 樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムから、前記表面層を分離して、前記基材層を含む樹脂フィルムを得る、樹脂フィルムの製造方法であって、
前記複層フィルムを搬送する工程と、
搬送される前記複層フィルムの前記表面層を擦過する工程と、を含み、
前記表面層を擦過する工程が、
前記表面層の少なくとも一部のエリアを、第一擦過方向に擦過する工程と、
第一擦過方向へ擦過する工程の後で、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向に非平行な第二擦過方向に擦過する工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法。
〔7〕 前記第一擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分と、
前記第二擦過方向のベクトルの、前記複層フィルムの搬送方向に垂直な成分とが、逆向きである、〔6〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔8〕 前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第一擦過方向がなす角度の大きさと、
前記複層フィルムの搬送方向に対して、前記第二擦過方向がなす角度の大きさとの差が、0°~10°である、〔7〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔9〕 前記表面層を擦過する工程が、
前記第一擦過方向へ擦過する工程の前に、前記表面層の前記エリアを、前記第一擦過方向及び前記第二擦過方向の両方と非平行な第三擦過方向に擦過する工程を含む、〔6〕~〔8〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔10〕 第三擦過方向が、前記複層フィルムの搬送方向に平行である、〔9〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムから、表面層を効率的に分離できる分離装置;並びに、樹脂で形成された基材層及び表面層を備えた複層フィルムから、表面層を効率的に分離して、基材層を含む樹脂フィルムを製造できる製造方法;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置を模式的に示す正面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置が備える擦過部を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置が備える擦過部の、第一擦過ローラー及び第二擦過ローラーの周辺部分を拡大して模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法において、第三擦過ローラーで擦過された直後の複層フィルムの表面層側の面を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法において、第一擦過ローラーで擦過された直後の複層フィルムの表面層側の面を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法において、第二擦過ローラーで擦過された直後の複層フィルムの表面層側の面を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置を模式的に示す正面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置が備える擦過部を模式的に示す平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置を模式的に示す正面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置を模式的に示す正面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法で用いる分離装置を模式的に示す正面図である。
【
図12】
図12は、一例としての複層フィルムをその厚み方向に平行な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、一例としての複層フィルムをその厚み方向に平行な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
【
図14】
図14は、一例としての擦過具を模式的に示す平面図である。
【
図15】
図15は、一例としての擦過具を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態及び例示物を示して、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0014】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0015】
以下の説明において、「上流」及び「下流」とは、別に断らない限り、フィルムの搬送方向における上流及び下流を示す。
【0016】
以下の説明において、ある擦過具の「擦過方向」とは、複層フィルムの厚み方向から見て、その擦過具が複層フィルムの表面層を擦過する方向を表す。この擦過方向は、擦過具と表面層とが接触する点(擦過点)が、前記表面層に対して相対的に移動する方向に相当する。よって、擦過方向は、表面層において、擦過具と表面層とが接触を開始した点を「始点」、擦過具と表面層との接触が終了した点を「終点」としたベクトルの方向として表すことができる。したがって、擦過方向は、表面層に形成される擦過跡が延在する方向として測定できる。例えば、擦過具がある回転軸を中心に回転する部材(ローラー等)である場合、通常、擦過方向は、前記の回転軸に対して垂直である。この例において、擦過時に複層フィルムは搬送されているので、擦過方向は、厳密には、前記の擦過具の回転軸に対して垂直にならないことも考えられる。しかし、一般には、複層フィルムの搬送速度(例えば、数メートル/分)よりも擦過具による擦過速度(例えば、数百メートル/分)の方が大幅に速いので、実用上、擦過方向は、擦過具の回転軸に対して垂直な方向に近似できる。
【0017】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法を説明する。第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法では、基材層及び表面層を備えた長尺の複層フィルムから、表面層を分離して、基材層を含む長尺の樹脂フィルムを得る。
【0018】
図1は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置20を模式的に示す正面図である。この分離装置20は、
図1に示すように、複層フィルム30を搬送可能な搬送部としての搬送ローラー110及び120と、搬送ローラー110及び120によって搬送される複層フィルム30の表面層を擦過可能な擦過部200と、を備える。本実施形態では、分離装置20が、搬送ローラー110、擦過部200及び搬送ローラー120を、上流からこの順に備える例を示す。
【0019】
搬送ローラー110及び120は、周方向に回転可能に設けられている。また、これらの搬送ローラー110及び120には、当該搬送ローラー110及び120を回転駆動するための駆動装置(図示せず。)が接続されている。よって、搬送ローラー110及び120は、駆動装置から与えられる駆動力によって矢印A110及びA120で示すように回転し、その回転によって複層フィルム30及び樹脂フィルム10を搬送できるように設けられている。本実施形態では、搬送ローラー110及び120が、長尺の複層フィルム30及び樹脂フィルム10を、その長手方向に搬送可能に設けられた例を示す。
【0020】
図2は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置20が備える擦過部200を模式的に示す平面図である。
図2に示すように、擦過部200は、押えローラー210、第三擦過具としての第三擦過ローラー220、押えローラー230、押えローラー240、第一擦過具としての第一擦過ローラー250、押えローラー260、押えローラー270、第二擦過具としての第二擦過ローラー280、及び、押えローラー290を、上流からこの順に備える。
【0021】
第一擦過ローラー250は、複層フィルム30の搬送路の一側(表面層側)に、回転軸R
250を中心に周方向に回転可能に設けられている。また、第一擦過ローラー250には、当該第一擦過ローラー250を回転駆動するための駆動装置(図示せず。)が接続されている。さらに、第一擦過ローラー250の外周には、粗面、ブラシ等の、表面層を擦過可能な構造が形成されている。よって、第一擦過ローラー250は、回転状態の第一擦過ローラー250の外周が複層フィルム30の表面層に接触することにより、その接触したエリアの表面層を擦過できるように設けられている。複層フィルム30の長手方向において、第一擦過ローラー250の回転の向きは、複層フィルム30の搬送方向A
30と同じ向きでもよい。ただし、第一擦過ローラー250による複層フィルム30の表面層の擦過回数を増やす観点では、複層フィルム30の長手方向における第一擦過ローラー250の回転の向きは、
図1において矢印A
250で示すように、複層フィルム30の搬送方向A
30と逆向きが好ましい。
【0022】
第一擦過ローラー250は、複層フィルム30の表面層の少なくとも一部のエリアを擦過できるように設けられている。特に、第一擦過ローラー250は、複層フィルム30の表面層の全部のエリアを擦過できるように設けられることが好ましい。本実施形態では、
図2に示すように、第一擦過ローラー250が複層フィルム30の表面層の全部のエリアを擦過できるようにするため、複層フィルム30の幅方向全体に亘って第一擦過ローラー250が設けられた例を示す。
【0023】
第一擦過ローラー250は、複層フィルム30の表面層を、第一擦過方向A1stに擦過可能に設けられている。第一擦過方向A1stとは、第一擦過具としての第一擦過ローラー250が複層フィルム30の表面層を擦過する擦過方向を表す。
【0024】
第一擦過方向A1stは、複層フィルム30の搬送方向A30に非平行であることが好ましい。第一擦過方向A1stが複層フィルム30の搬送方向A30に非平行である場合、第一擦過ローラー250のある回転(例えば、一回転目)によって表面層に形成される擦過跡の位置と、その次の回転(例えば、二回転目)によって表面層に形成される擦過跡の位置とが、複層フィルム30の搬送に伴って変化する。そのため、繰り返し同じ位置に擦過跡が形成されて擦過跡が過剰に深くなることを抑制できる。第一擦過方向A1stが複層フィルム30の搬送方向A30に対してなす角度θ1stの大きさ(0°≦θ1st≦90°)は、本発明の所望の効果を顕著に得る観点では、好ましくは0.5°以上、より好ましくは1°以上、特に好ましくは2°以上であり、好ましくは15°以下、より好ましくは10°以下、特に好ましくは5°以下である。
【0025】
押えローラー240及び260は、それぞれ、複層フィルム30に対して第一擦過ローラー250とは反対側に回転可能に設けられたローラーである。押えローラー240及び260は、搬送される複層フィルム30を、第一擦過ローラー250とは反対側から押えることができるように設けられる。このように押えることにより、押えローラー240及び260は、複層フィルム30と第一擦過ローラー250との接触圧力の調整、及び、複層フィルム30と第一擦過ローラー250との接触長さの調整、が可能である。
【0026】
第二擦過ローラー280は、第一擦過ローラー250よりも下流に設けられている。また、第二擦過ローラー280は、複層フィルム30の搬送路の一側(表面層側)に、回転軸R
280を中心に周方向に回転可能に設けられている。さらに、第二擦過ローラー280には、当該第二擦過ローラー280を回転駆動するための駆動装置(図示せず。)が接続されている。また、第二擦過ローラー280の外周には、粗面、ブラシ等の、表面層を擦過可能な構造が形成されている。よって、第二擦過ローラー280は、回転状態の第二擦過ローラー280の外周が複層フィルム30の表面層に接触することにより、その接触したエリアの表面層を擦過できるように設けられている。複層フィルム30の長手方向において、第二擦過ローラー280の回転の向きは、複層フィルム30の搬送方向A
30と同じ向きでもよい。ただし、第二擦過ローラー280による複層フィルム30の表面層の擦過回数を増やす観点では、複層フィルム30の長手方向における第二擦過ローラー280の回転の向きは、
図1において矢印A
280で示すように、複層フィルム30の搬送方向A
30と逆向きが好ましい。さらに、複層フィルム30の搬送を安定に行うためには、複層フィルム30の長手方向において、第二擦過ローラー280の回転の向きは、第一擦過ローラー250の回転の向きと同じであることが好ましい。
【0027】
第二擦過ローラー280は、複層フィルム30の表面層のエリアのうち、前記第一擦過ローラー250が擦過したエリアを擦過できるように設けられている。特に、第二擦過ローラー280は、第一擦過ローラー250が擦過したエリアを含む複層フィルム30の表面層の全部のエリアを擦過できるように設けられることが好ましい。本実施形態では、
図2に示すように、第二擦過ローラー280が複層フィルム30の表面層の全部のエリアを擦過できるようにするため、複層フィルム30の幅方向全体に亘って第二擦過ローラー280が設けられた例を示す。
【0028】
第二擦過ローラー280は、複層フィルム30の表面層を、第二擦過方向A2ndに擦過可能に設けられている。第二擦過方向A2ndとは、第二擦過具としての第二擦過ローラー280が複層フィルム30の表面層を擦過する擦過方向を表す。
【0029】
第二擦過方向A2ndは、第一擦過方向A1stとは非平行である。第一擦過方向A1stと第二擦過方向A2ndとがなす角度の大きさは、所定の範囲に収まることが好ましい。前記の所定の範囲は、具体的には、好ましくは1°以上、より好ましくは2°以上、特に好ましくは4°以上であり、好ましくは30°以下、より好ましくは20°以下、特に好ましくは10°以下である。第一擦過方向A1stと第二擦過方向A2ndとがなす角度の大きさが、前記の範囲の下限値以上である場合、表面層の擦過を特に効率的に行うことができる。また、第一擦過方向A1stと第二擦過方向A2ndとがなす角度の大きさが、前記の範囲の上限値以下である場合、複層フィルム30の搬送を安定に行うことができる。
【0030】
図3は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置20が備える擦過部200の、第一擦過ローラー250及び第二擦過ローラー280の周辺部分を拡大して模式的に示す平面図である。
図3に示すように、第一擦過ローラー250の第一擦過方向A
1stのベクトルB1、及び、第二擦過ローラー280の第二擦過方向A
2ndのベクトルB2を考える。第一擦過方向A
1stのベクトルB1は、複層フィルム30の表面層において、第一擦過ローラー250と表面層とが接触を開始した点を「始点」、第一擦過ローラー250と表面層との接触が終了した点を「終点」としたベクトルを示す。また、第二擦過方向A
2ndのベクトルB2は、複層フィルム30の表面層において、第二擦過ローラー280と表面層とが接触を開始した点を「始点」、第二擦過ローラー280と表面層との接触が終了した点を「終点」としたベクトルを示す。ただし、
図3では、説明のため、ベクトルB1及びB2の大きさを大きく示す。
【0031】
第一擦過方向A1stのベクトルB1を、複層フィルム30の搬送方向A30に平行な成分B1MDと、複層フィルム30の搬送方向A30に垂直な成分B1TDとに分解する。また、第二擦過方向A2ndのベクトルB2を、複層フィルム30の搬送方向A30に平行な成分B2MDと、複層フィルム30の搬送方向A30に垂直な成分B2TDとに分解する。この場合、第一擦過方向A1stのベクトルB1の成分B1TDと、第二擦過方向A2ndのベクトルB2の成分B2TDとは、複層フィルム30の幅方向において、逆向きであることが好ましい。第一擦過方向A1stのベクトルB1と第二擦過方向A2ndのベクトルB2とが前記の関係を満たす場合、第一擦過ローラー250が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力と、第二擦過ローラー280が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力とが、互いに相殺し合う。よって、複層フィルム30の蛇行を抑制できるので、複層フィルムの搬送を安定に行うことができる。
【0032】
第一擦過方向A
1stのベクトルB1と第二擦過方向A
2ndのベクトルB2とが前記の関係を満たすようにする観点から、
図2に示すように、第二擦過方向A
2ndは、複層フィルム30の搬送方向A
30に非平行であることが好ましい。第二擦過方向A
2ndが複層フィルム30の搬送方向A
30に対してなす角度θ
2ndの大きさ(0°≦θ
2nd≦90°)は、好ましくは0.5°以上、より好ましくは1°以上、特に好ましくは2°以上であり、好ましくは15°以下、より好ましくは10°以下、特に好ましくは5°以下である。
【0033】
角度θ1stの大きさと角度θ2ndの大きさとの差は、好ましくは0°~10°、より好ましくは0°~5°、特に好ましくは0°~1°である。前記の差が小さい場合、第一擦過ローラー250が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力と、第二擦過ローラー280が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力とを、同程度に調整しやすい。よって、複層フィルム30の蛇行を効果的に抑制できる。
【0034】
押えローラー270及び290は、それぞれ、複層フィルム30に対して第二擦過ローラー280とは反対側に回転可能に設けられたローラーである。押えローラー270及び290は、搬送される複層フィルム30を、第二擦過ローラー280とは反対側から押えることができるように設けられる。このように押えることにより、押えローラー270及び290は、複層フィルム30と第二擦過ローラー280との接触圧力の調整、及び、複層フィルム30と第二擦過ローラー280との接触長さの調整、が可能である。
【0035】
第三擦過ローラー220は、第一擦過ローラー250よりも上流に設けられている。また、第三擦過ローラー220は、複層フィルム30の搬送路の一側(表面層側)に、回転軸R
220を中心に周方向に回転可能に設けられている。さらに、第三擦過ローラー220には、当該第三擦過ローラー220を回転駆動するための駆動装置(図示せず。)が接続されている。また、第三擦過ローラー220の外周には、粗面、ブラシ等の、表面層を擦過可能な構造が形成されている。よって、第三擦過ローラー220は、回転状態の第三擦過ローラー220の外周が複層フィルム30の表面層に接触することにより、その接触したエリアの表面層を擦過できるように設けられている。複層フィルム30の長手方向において、第三擦過ローラー220の回転の向きは、複層フィルム30の搬送方向A
30と同じ向きでもよい。ただし、第三擦過ローラー220による複層フィルム30の表面層の擦過回数を増やす観点では、複層フィルム30の長手方向における第三擦過ローラー220の回転の向きは、
図1において矢印A
220で示すように、複層フィルム30の搬送方向A
30と逆向きが好ましい。
【0036】
第三擦過ローラー220は、複層フィルム30の表面層のエリアのうち、前記第一擦過ローラー250が擦過するエリアを擦過できるように設けられている。特に、第三擦過ローラー220は、第一擦過ローラー250が擦過するエリアを含む複層フィルム30の表面層の全部のエリアを擦過できるように設けられることが好ましい。本実施形態では、
図2に示すように、第三擦過ローラー220が複層フィルム30の表面層の全部のエリアを擦過できるようにするため、複層フィルム30の幅方向全体に亘って第三擦過ローラー220が設けられた例を示す。
【0037】
第三擦過ローラー220は、複層フィルム30の表面層を、第三擦過方向A3rdに擦過可能に設けられている。第三擦過方向A3rdとは、第三擦過具としての第三擦過ローラー220が複層フィルム30の表面層を擦過する擦過方向を表す。
【0038】
第三擦過方向A3rdは、第一擦過方向A1st及び第二擦過方向A2ndの両方と非平行である。第一擦過方向A1stと第三擦過方向A3rdとがなす角度の大きさは、所定の範囲に収まることが好ましい。また、第二擦過方向A2ndと第三擦過方向A3rdとがなす角度の大きさも、所定の範囲に収まることが好ましい。前記の所定の範囲は、具体的には、好ましくは0.5°以上、より好ましくは1°以上、特に好ましくは2°以上であり、好ましくは15°以下、より好ましくは10°以下、特に好ましくは5°以下である。第一擦過方向A1stと第三擦過方向A3rdとがなす角度の大きさが前記の範囲の下限値以上である場合、及び、第二擦過方向A2ndと第三擦過方向A3rdとがなす角度の大きさが前記の範囲の下限値以上である場合、表面層の擦過を特に効率的に行うことができる。また、第一擦過方向A1stと第三擦過方向A3rdとがなす角度の大きさが前記の範囲の上限値以下である場合、及び、第二擦過方向A2ndと第三擦過方向A3rdとがなす角度の大きさが前記の範囲の上限値以下である場合、複層フィルム30の搬送を安定に行うことができる。
【0039】
第三擦過方向A3rdは、複層フィルム30の搬送方向に平行であることが好ましい。第三擦過方向A3rdが複層フィルム30の搬送方向に平行である場合、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220が複層フィルム30に与える力のバランスが良好になるので、複層フィルム30の搬送を特に安定にできる。この際、第三擦過方向A3rdと複層フィルム30の搬送方向との「平行」には、複層フィルム30の搬送を安定にできる範囲で、誤差が許容される。具体的には、第三擦過方向A3rdが複層フィルム30の搬送方向A30に対してなす角度θ3rd(図示せず。)の大きさ(0°≦θ3rd≦90°)は、好ましくは0°~1°、より好ましくは0°~0.5°、特に好ましくは0°である。
【0040】
押えローラー210及び230は、それぞれ、複層フィルム30に対して第三擦過ローラー220とは反対側に回転可能に設けられたローラーである。押えローラー210及び230は、搬送される複層フィルム30を、第三擦過ローラー220とは反対側から押えることができるように設けられる。このように押えることにより、押えローラー210及び230は、複層フィルム30と第三擦過ローラー220との接触圧力の調整、及び、複層フィルム30と第三擦過ローラー220との接触長さの調整、が可能である。
【0041】
上述した分離装置20を用いることにより、基材層及び表面層を備えた複層フィルム30から表面層を分離して、基材層を含む樹脂フィルム10を得る、樹脂フィルム10の製造方法を行うことができる。この製造方法は、
複層フィルム30を用意する工程と、
複層フィルム30を搬送する工程と、
搬送される複層フィルム30の表面層を擦過する工程と、を含む。
【0042】
複層フィルム30としては、基材層及び表面層を備える長尺のフィルムを用意する。基材層は、回収したい樹脂で形成された層である。また、表面層は、基材層に含まれる樹脂とは異なる材料で形成された層である。通常、表面層の材料は、基材層に含まれる樹脂とは種類の異なる樹脂である。本実施形態では、基材層及び表面層を備える2層構造の複層フィルム30を用いた例を示す。
【0043】
複層フィルム30を用意した後で、
図1に示すように、その複層フィルム30を搬送する工程を行う。分離装置20では、矢印A
110及びA
120に示すように回転駆動される搬送ローラー110及び120によって、複層フィルム30がその長手方向に連続的に搬送される。
【0044】
搬送される複層フィルム30は、搬送ローラー110を経て、擦過部200へと供給される。この擦過部200において、複層フィルム30の表面層を擦過する工程が行われる。具体的には、擦過部200に供給された複層フィルム30は、押えローラー210、第三擦過ローラー220、押えローラー230、押えローラー240、第一擦過ローラー250、押えローラー260、押えローラー270、第二擦過ローラー280及び押えローラー290をこの順で通るように搬送される。そして、このように搬送される期間に、複層フィルム30の表面層を擦過することによって表面層を分離する工程が行われる。
【0045】
以下、複層フィルム30の表面層を擦過する工程を、詳細に説明する。
擦過部200に供給された複層フィルム30は、押えローラー210を経て、第三擦過ローラー220へと送られる。第三擦過ローラー220は、矢印A
220で示すように回転駆動されている。よって、この第三擦過ローラー220の外周に複層フィルム30の表面層が接触することにより、接触したエリアにおいて表面層を第三擦過方向A
3rdへ擦過する工程が行われる。本実施形態では、
図2に示すように、複層フィルム30の幅方向全体に亘って第三擦過ローラー220が設けられている。よって、複層フィルム30の表面層の全部のエリアにおいて、第三擦過ローラー220による擦過が行われる。
【0046】
第三擦過ローラー220による擦過は、搬送される複層フィルム30が押えローラー210及び230によって押さえられた状態で行われる。この際、押えローラー210及び230により、複層フィルム30と第三擦過ローラー220との接触圧力、及び、複層フィルム30と第三擦過ローラー220との接触長さが調整される。前記の接触圧力及び接触長さは、表面層の適切な分離ができる範囲で、任意に設定できる。
【0047】
図4は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法において、第三擦過ローラー220で擦過された直後の複層フィルム30の表面層側の面を模式的に示す平面図である。
図4に示すように、第三擦過ローラー220によって擦過された複層フィルム30の表面層には、第三擦過方向A
3rdへと延びる溝状の擦過跡330が形成される。この擦過跡330の分だけ、複層フィルム30から表面層が分離される。
第三擦過ローラー220によって表面層を擦過された複層フィルム30は、押えローラー230を経て、下流へと送出される。
【0048】
その後、
図1に示すように、複層フィルム30は、押えローラー240を経て、第一擦過ローラー250へと送られる。第一擦過ローラー250は、矢印A
250で示すように回転駆動されている。よって、この第一擦過ローラー250の外周に複層フィルム30の表面層が接触することにより、接触したエリアにおいて表面層を第一擦過方向A
1stへ擦過する工程が行われる。本実施形態では、
図2に示すように、複層フィルム30の幅方向全体に亘って第一擦過ローラー250が設けられている。よって、複層フィルム30の表面層の全部のエリアにおいて、第一擦過ローラー250による擦過が行われる。
【0049】
第一擦過ローラー250による擦過は、搬送される複層フィルム30が押えローラー240及び260によって押さえられた状態で行われる。この際、押えローラー240及び260により、複層フィルム30と第一擦過ローラー250との接触圧力、及び、複層フィルム30と第一擦過ローラー250との接触長さが調整される。前記の接触圧力及び接触長さは、表面層の適切な分離ができる範囲で、任意に設定できる。第一擦過ローラー250と複層フィルム30との間の接触圧力及び接触長さは、第三擦過ローラー220と複層フィルム30との間の接触圧力及び接触長さと同じになるように調整することが好ましい。この場合、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220が複層フィルム30に与える力のバランスを良好にし易いので、簡単な搬送制御により、複層フィルムの搬送安定性を高めることができる。
【0050】
図5は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法において、第一擦過ローラー250で擦過された直後の複層フィルム30の表面層側の面を模式的に示す平面図である。
図5においては、第一擦過ローラー250による擦過跡311及び312は実線で示し、第三擦過ローラー220による擦過跡330は破線で示す。
図5に示すように、第一擦過ローラー250によって擦過された複層フィルム30の表面層には、第一擦過方向A
1stへと延びる溝状の擦過跡311及び312が形成される。
【0051】
第一擦過ローラー250の外周にある突起部が複層フィルム30の表面層に接触するとき、第一擦過ローラー250の前記突起部と表面層との接触圧力が十分に大きいと、前記突起部によって表面層が擦過され、擦過跡311が形成される。この擦過跡311は、表面層における擦過跡330の有無に依らず、形成される。よって、第一擦過ローラー250によって形成される一部の擦過跡311は、第一擦過ローラー250に供給される時点で仮に複層フィルム30の表面層に擦過跡330が無いとしても、形成される。
【0052】
さらに、第一擦過ローラー250によれば、第三擦過ローラー220によって擦過された複層フィルム30の表面層のエリアを、第三擦過方向A3rdとは非平行な第一擦過方向A1stに擦過するので、第一擦過ローラー250の前記突起部と表面層との接触圧力が十分に大きくなくても、擦過跡312が形成されることが有りえる。第三擦過ローラー220によって形成された擦過跡330は、第三擦過方向A3rdに延びている。よって、その第三擦過方向A3rdと非平行な第一擦過方向A1stへ第一擦過ローラー250が擦過を行うと、第一擦過ローラー250の外周にある突起部が、第三擦過ローラー220によって形成された擦過跡330に引っ掛かることがありえる。このような引っ掛かりが生じると、その引っ掛かった地点P312を起点として表面層が擦過され、擦過跡312が形成される。この擦過跡312は、第一擦過ローラー250の前記突起部と表面層との接触圧力が小さくても、形成されうる。よって、第一擦過ローラー250によって形成される一部の擦過跡312は、第一擦過ローラー250に供給される時点で複層フィルム30の表面層に擦過跡330があってはじめて形成される。
【0053】
このような仕組みにより、第一擦過ローラー250による擦過によれば、第三擦過ローラー220による擦過よりも効率的に、複層フィルム30の表面層の擦過を行うことができる。よって、第一擦過ローラー250によって擦過された複層フィルム30の表面層には、高密度に擦過跡311及び312を形成できる。この擦過跡311及び312の分だけ、複層フィルム30から表面層が更に分離される。
第一擦過ローラー250によって表面層を擦過された複層フィルム30は、押えローラー260を経て、下流へと送出される。
【0054】
その後、
図1に示すように、複層フィルム30は、押えローラー270を経て、第二擦過ローラー280へと送られる。第二擦過ローラー280は、矢印A
280で示すように回転駆動されている。よって、この第二擦過ローラー280の外周に複層フィルム30の表面層が接触することにより、接触したエリアにおいて表面層を第二擦過方向A
2ndへ擦過する工程が行われる。本実施形態では、
図2に示すように、複層フィルム30の幅方向全体に亘って第二擦過ローラー280が設けられている。よって、複層フィルム30の表面層の全部のエリアにおいて、第二擦過ローラー280による擦過が行われる。
【0055】
第二擦過ローラー280による擦過は、搬送される複層フィルム30が押えローラー270及び290によって押さえられた状態で行われる。この際、押えローラー270及び290により、複層フィルム30と第二擦過ローラー280との接触圧力、及び、複層フィルム30と第二擦過ローラー280との接触長さが調整される。前記の接触圧力及び接触長さは、表面層の適切な分離ができる範囲で、任意に設定できる。第二擦過ローラー280と複層フィルム30との間の接触圧力及び接触長さは、第一擦過ローラー250と複層フィルム30との間の接触圧力及び接触長さと同じになるように調整することが好ましい。この場合、第一擦過ローラー250が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力と、第二擦過ローラー280が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力とを、正確に相殺し易い。よって、簡単な搬送制御により、複層フィルムの搬送安定性を高めることができる。
【0056】
図6は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法において、第二擦過ローラー280で擦過された直後の複層フィルム30の表面層側の面を模式的に示す平面図である。
図6においては、第二擦過ローラー280による擦過跡321、322、323及び324は実線で示し、第一擦過ローラー250又は第三擦過ローラー220による擦過跡311、312及び330は破線で示す。
図6に示すように、第二擦過ローラー280によって擦過された複層フィルム30の表面層には、第二擦過方向A
2ndへと延びる溝状の擦過跡321、322、323及び324が形成される。
【0057】
第二擦過ローラー280は、第一擦過ローラー250及び第三擦過ローラー220によって擦過された複層フィルム30の表面層のエリアを、第一擦過方向A1st及び第三擦過方向A3rdの両方と非平行な第二擦過方向A2ndに擦過する。よって、第二擦過ローラー280による擦過によれば、第一擦過ローラー250による擦過と同じ要領で、第二擦過ローラー280の突起部と表面層との接触圧力が十分に大きいことによって形成される擦過跡321だけでなく、第二擦過ローラー280の突起部が第一擦過ローラー250又は第三擦過ローラー220によって形成された擦過跡311、312又は330に引っ掛かった地点P322、P323及びP324を起点とした擦過跡322、323及び324が形成される。したがって、第二擦過ローラー280による擦過によれば、第一擦過ローラー250及び第三擦過ローラー220による擦過よりも効率的に、複層フィルム30の表面層の擦過を行うことができる。よって、第二擦過ローラー280によって擦過された複層フィルム30の表面層には、高密度に擦過跡321、322、323及び324を形成できる。この擦過跡321、322、323及び324の分だけ、複層フィルム30から表面層が更に分離される。
【0058】
このようにして、多数の擦過跡311~312、321~324及び330が形成されることで、通常は大部分、好ましくは全ての表面層が複層フィルム30から分離され、樹脂フィルム10が得られる。得られた樹脂フィルム10は、
図1に示すように、押えローラー290及び搬送ローラー120を経て送出され、回収される。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、複層フィルム30の表面層を第一擦過方向A1stへ擦過する工程と、この第一擦過方向A1stへ擦過する工程の後で表面層を第二擦過方向A2ndに擦過する工程とを組み合わせて含む。よって、複層フィルム30からの表面層の分離を効率的に行うことができる。更には、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、複層フィルム30の表面層を第一擦過方向A1stへ擦過する工程の前に、表面層を第三擦過方向A3rdに擦過する工程を更に含む。よって、複層フィルム30からの表面層の分離を特に効率的に行うことができる。
【0060】
また、前記のような表面層の効率的な分離は、搬送される複層フィルム30の張力が小さかったり、擦過ローラーとの接触圧力が小さかったりする場合であっても、行うことができる。よって、上述した製造方法によれば、複層フィルム30の破断を抑制することが可能である。
【0061】
さらに、前記のように複層フィルム30の破断を抑制できることは、基材層の擦過量が少ないことを表す。よって、上述した製造方法によれば、通常、基材層に含まれていた樹脂のうち、樹脂フィルム10として回収できる樹脂の収率を高めることが可能である。
【0062】
また、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一擦過ローラー250が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力と、第二擦過ローラー280が複層フィルム30を幅方向に移動させようとする力とが、互いに相殺し合うように第一擦過方向A1stと第二擦過方向A2ndとの関係が調整されている。よって、複層フィルム30の蛇行を抑制して、複層フィルムの搬送を安定に行うことができる。
【0063】
さらに、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、第三擦過方向A3rdが、複層フィルム30の搬送方向と平行に調整されている。よって、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220が複層フィルム30に与える力のバランスを良好にできるので、複層フィルム30の搬送を特に安定にできる。
【0064】
ところで、前記の本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法によれば、複層フィルム30から表面層だけでなく、基材層の一部も分離されることがありえる。適切なリサイクルの観点では、表面層の効率的な分離が達成できれば、このように基材層の一部が分離されてもよい。基材層の一部が分離される場合、樹脂フィルム10への表面層の残留を特に効果的に抑制できるので、基材層に含まれる樹脂の特に高い純度でのリサイクルが可能である。
【0065】
第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、更に変更して実施してもよい。
例えば、擦過部200は、第三擦過ローラー220を備えなくてもよい。また、例えば、擦過部200は、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220に組み合わせて、更に任意の擦過ローラー(図示せず)を備えてもよい。任意の擦過ローラーの位置は、任意である。
【0066】
[第二実施形態]
上述した第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、押えローラー210、230、240、260、270及び290を用いて、複層フィルム30と、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220等の擦過ローラーとの接触圧力の調整を行った。しかし、接触圧力の調整は、押えローラー210、230、240、260、270及び290を用いる方法に限られない。以下、その例を、第二実施形態を示して説明する。
【0067】
図7は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置40を模式的に示す正面図である。この分離装置40は、
図7に示すように、擦過部200の代わりに擦過部400を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20と同じに設けられている。よって、分離装置40は、第一実施形態で説明したのと同じ搬送ローラー110及び120に組み合わせて、更に擦過部400を備える。
【0068】
図8は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置40が備える擦過部400を模式的に示す平面図である。
図8に示すように、擦過部400は、押えローラー210、230、240、260、270及び290の代わりに、板状の押え材410、420及び430を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20の擦過部200と同じに設けられている。よって、擦過部400は、第一実施形態で説明したのと同じ第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220に組み合わせて、更に、押え材410、420及び430を備える。
【0069】
押え材410は、当該押え材410と第三擦過ローラー220との間を複層フィルム30が通過できるように、第三擦過ローラー220に対向する位置に設けられている。また、押え材410は、搬送される複層フィルム30を、第三擦過ローラー220とは反対側から第三擦過ローラー220へ向けて押えることができるように設けられる。このように押えることにより、押え材410は、複層フィルム30と第三擦過ローラー220との接触圧力の調整が可能である。
【0070】
押え材420は、当該押え材420と第一擦過ローラー250との間を複層フィルム30が通過できるように、第一擦過ローラー250に対向する位置に設けられている。また、押え材420は、搬送される複層フィルム30を、第一擦過ローラー250とは反対側から第一擦過ローラー250へ向けて押えることができるように設けられる。このように押えることにより、押え材420は、複層フィルム30と第一擦過ローラー250との接触圧力の調整が可能である。
【0071】
押え材430は、当該押え材430と第二擦過ローラー280との間を複層フィルム30が通過できるように、第二擦過ローラー280に対向する位置に設けられている。また、押え材430は、搬送される複層フィルム30を、第二擦過ローラー280とは反対側から第二擦過ローラー280へ向けて押えることができるように設けられる。このように押えることにより、押え材430は、複層フィルム30と第二擦過ローラー280との接触圧力の調整が可能である。
【0072】
上述した分離装置40を用いることにより、複層フィルム30と第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220との接触圧力の調整以外については第一実施形態で説明した樹脂フィルム10の製造方法と同じように、複層フィルム30から表面層を分離して基材層を含む樹脂フィルム10を得る、樹脂フィルム10の製造方法を行うことができる。また、第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、押え材410、420及び430が複層フィルム30を押える力を調整することにより、複層フィルム30と第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220との接触圧力を調整することができる。よって、第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法によれば、第一実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0073】
第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、更に変更して実施してもよい。
例えば、第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で説明したのと同じように変更して実施してもよい。
【0074】
また、本実施形態では、押え材410、420及び430がいずれも板状である例を示したが、押え材410、420及び430の形状は任意である。例えば、擦過ローラーの外径に沿って湾曲した面を有する部材を、押え材410、420及び430として用いてもよい。これにより、複層フィルム30と擦過ローラーとの接触長さを長くすることが可能である。
【0075】
[第三実施形態]
複層フィルム30の表面層を擦過すると、その擦過により分離された表面層の一部が、擦過片として排出される。この擦過片は通常は細かいので、飛散しやすい。そのため、分離装置には、この擦過片の飛散を抑制するための飛散抑制部を設けることが好ましい。以下、その例を、第三実施形態を示して説明する。
【0076】
図9は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置50を模式的に示す正面図である。この分離装置50は、
図9に示すように、擦過部200の代わりに擦過部500を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20と同じに設けられている。よって、分離装置50は、第一実施形態で説明したのと同じ搬送ローラー110及び120に組み合わせて、更に擦過部500を備える。
【0077】
擦過部500は、飛散抑制部として液体を噴射可能なノズル510、520及び530を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20の擦過部200と同じに設けられている。よって、擦過部500は、第一実施形態で説明したのと同じ第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280、第三擦過ローラー220、並びに、押えローラー210、230、240、260、270及び290に組み合わせて、更にノズル510、520及び530を備える。
【0078】
ノズル510は、第三擦過ローラー220と複層フィルム30とが接触する範囲に水等の液体を噴射できるように設けられている。また、ノズル520は、第一擦過ローラー250と複層フィルム30とが接触する範囲に水等の液体を噴射できるように設けられている。さらに、ノズル530は、第二擦過ローラー280と複層フィルム30とが接触する範囲に水等の液体を噴射できるように設けられている。
【0079】
上述した分離装置50を用いることにより、第一実施形態で説明した樹脂フィルム10の製造方法と同じように、複層フィルム30から表面層を分離して基材層を含む樹脂フィルム10を得る、樹脂フィルム10の製造方法を行うことができる。よって、第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法によれば、第一実施形態と同じ利点を得ることができる。また、第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、ノズル510、520及び530から液体を噴射することにより、擦過によって生じる擦過片の飛散を抑制することができる。
【0080】
第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、更に変更して実施してもよい。
例えば、第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で説明したのと同じように変更して実施してもよい。
【0081】
[第四実施形態]
前述の第三実施形態では、擦過片の飛散を抑制するための飛散抑制部として、液体を噴射可能なノズルを用いたが、飛散抑制部は、前記のノズルに限定されない。以下、ノズル以外の飛散抑制部を用いた場合の例を、第四実施形態を示して説明する。
【0082】
図10は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置60を模式的に示す正面図である。この分離装置60は、
図10に示すように、擦過部200の代わりに擦過部600を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20と同じに設けられている。よって、分離装置60は、第一実施形態で説明したのと同じ搬送ローラー110及び120に組み合わせて、更に擦過部600を備える。
【0083】
擦過部600は、飛散抑制部としての液槽610、並びに、案内ローラー620、630、640及び650を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20の擦過部200と同じに設けられている。よって、擦過部600は、第一実施形態で説明したのと同じ第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280、第三擦過ローラー220、並びに、押えローラー210、230、240、260、270及び290に組み合わせて、更に液槽610並びに案内ローラー620、630、640及び650を備える。
【0084】
液槽610には、水等の液体660が溜められている。そして、この液槽610の液体660中に、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280、第三擦過ローラー220、並びに、押えローラー210、230、240、260、270及び290が設置されている。また、案内ローラー620及び630は、搬送ローラー110から送られる複層フィルム30を液槽610内の押えローラー210へと案内できるように設けられている。さらに、案内ローラー640及び650は、押えローラー290から送られる樹脂フィルム10を液槽610外の搬送ローラー120へと案内できるように設けられている。
【0085】
上述した分離装置60を用いることにより、第一実施形態で説明した樹脂フィルム10の製造方法と同じように、複層フィルム30から表面層を分離して基材層を含む樹脂フィルム10を得る、樹脂フィルム10の製造方法を行うことができる。よって、第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法によれば、第一実施形態と同じ利点を得ることができる。また、第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、液槽610に溜められた液体660中で擦過が行われるので、擦過によって生じる擦過片の飛散を抑制することができる。
【0086】
第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、更に変更して実施してもよい。
例えば、第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で説明したのと同じように変更して実施してもよい。
【0087】
[第五実施形態]
前述の第一実施形態から第四実施形態では、いずれも、片側にのみ表面層を有する複層フィルム30を用いた例を示したが、両側に表面層を有する複層フィルムについても、本発明の分離装置及び樹脂フィルムの製造方法を適用することが可能である。以下、その例を、第五実施形態を示して説明する。
【0088】
図11は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で用いる分離装置70を模式的に示す正面図である。この分離装置70は、
図11に示すように、擦過部200の代わりに擦過部700を備えること以外は、第一実施形態において説明した分離装置20と同じに設けられている。よって、分離装置70は、第一実施形態で説明したのと同じ搬送ローラー110及び120に組み合わせて、更に擦過部700を備える。
【0089】
擦過部700は、第一実施形態で説明したのと同じ第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220に組み合わせて、更に、第四擦過ローラー710、第五擦過ローラー720及び第六擦過ローラー730を備える。
【0090】
第四擦過ローラー710は、複層フィルム80の表面層のうち、第一擦過ローラー250によって擦過されるのとは反対側の表面層を擦過できるように設けられている。具体的には、第四擦過ローラー710は、第一擦過ローラー250に対向する位置に、複層フィルム80の表面層を第一擦過ローラー250と同じく第一擦過方向A
1st(
図11には図示せず)に擦過できるように設けられている。以上の事項以外は、第四擦過ローラー710は、第一擦過ローラー250と同じに設けられている。
【0091】
第五擦過ローラー720は、複層フィルム80の表面層のうち、第二擦過ローラー280によって擦過されるのとは反対側の表面層を擦過できるように設けられている。具体的には、第五擦過ローラー720は、第二擦過ローラー280に対向する位置に、複層フィルム80の表面層を第二擦過ローラー280と同じく第二擦過方向A
2nd(
図11には図示せず)に擦過できるように設けられている。以上の事項以外は、第五擦過ローラー720は、第二擦過ローラー280と同じに設けられている。
【0092】
第六擦過ローラー730は、複層フィルム80の表面層のうち、第三擦過ローラー220によって擦過されるのとは反対側の表面層を擦過できるように設けられている。具体的には、第六擦過ローラー730は、第三擦過ローラー220に対向する位置に、複層フィルム80の表面層を第三擦過ローラー220と同じく第三擦過方向A
3rd(
図11には図示せず)に擦過できるように設けられている。以上の事項以外は、第六擦過ローラー730は、第三擦過ローラー220と同じに設けられている。
【0093】
上述した分離装置70を用いることにより、両側に表面層を有する複層フィルム80から表面層を分離して、基材層を含む樹脂フィルム10を得る樹脂フィルム10の製造方法を行うことができる。具体的には、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、基材層と、この基材層の一側に形成された表面層と、この基材層の他側に形成された表面層とを備える複層フィルム80を、分離装置70に供給する。分離装置70では、第一実施形態で説明した樹脂フィルム10の製造方法と同じく、第一擦過ローラー250、第二擦過ローラー280及び第三擦過ローラー220によって、複層フィルム80から一方の表面層を分離できる。さらに、本実施形態に係る分離装置70によれば、第四擦過ローラー710、第五擦過ローラー720及び第六擦過ローラー730によって、複層フィルム80から他方の表面層を分離できる。よって、第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法によれば、第一実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0094】
第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、更に変更して実施してもよい。
例えば、第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法で説明したのと同じように変更して実施してもよい。
【0095】
[その他の実施形態]
上述した第一実施形態から第五実施形態は、更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態は、任意に組み合わせて実施してもよい。具体例を挙げると、第三実施形態又は第四実施形態において、押えローラー210、230、240、260、270及び290に代えて、第二実施形態で説明したように、押え材410、420及び430を用いてもよい。また、第五実施形態に係る分離装置70の擦過部700に、第三実施形態又は第四実施形態で説明した飛散抑制部を設けてもよい。
また、一般に、複層フィルム30又は80の張力が大きい方が、擦過による表面層の分離を効果的に行うことができることが判明している。そこで、例えば、上述した分離装置20、40、50、60及び70に、複層フィルム30又は80の張力を調整する張力調整部を設けてもよい。
【0096】
[樹脂のリサイクル方法]
上述した樹脂フィルムの製造方法を用いることにより、基材層及び表面層を含む複層フィルムから、基材層に含まれる樹脂をリサイクルするリサイクル方法を実現できる。このリサイクル方法は、通常、上述した樹脂フィルムの製造方法によって、複層フィルムから表面層を分離して、基材層を含む樹脂フィルムを得る工程と;前記の樹脂フィルムに、加熱処理等の溶融処理を行って、溶融樹脂を得る工程と;溶解樹脂を成形して、再生樹脂を得る工程と;を含む。一般的には、溶融樹脂はペレット状に成形されるので、再生樹脂は、樹脂ペレットとして得られる。また、前記のリサイクル方法は、樹脂フィルムを粉砕する工程、樹脂フィルムを洗浄する工程、などの任意の工程を含んでいてもよい。
【0097】
上述した樹脂フィルムの製造方法によれば、複層フィルムから表面層を効率良く分離できるので、基材層に含まれていた樹脂を高い含有率で含む樹脂フィルムを得ることができる。よって、この樹脂フィルムから得られる再生樹脂は、表面層に由来する成分の混入が少ない。したがって、前記のリサイクル方法によれば、基材層に含まれていた樹脂を高い純度で含む再生樹脂を得ることができる。
【0098】
前記のように純度の高い再生樹脂が得られるリサイクル方法は、特に、光学フィルムの材料としての樹脂のリサイクル方法として、特に有用である。光学フィルムは、一般に、光線透過率、ヘイズ、レターデーション、色等の光学属性において、厳しい制限がある。しかし、表面層に由来する成分が再生樹脂に混入すると、再生樹脂は前記の光学属性の制限を逸脱し易くなる。例えば、本発明者は、厚み50μmの無色の樹脂で形成された基材層と、厚み50nm以下のポリウレタンで形成された表面層とを備える光学フィルムから、無色の樹脂をリサイクルする実験を行った。この際、表面層をある一方向に擦過することで、表面層の分離を行った後で、樹脂のリサイクルを試みた。しかし、この場合、僅かに残留した表面層に由来して、再生樹脂にポリウレタンが混入したため、再生樹脂が着色し、光学フィルムの材料として不適になった。このように、表面層に由来する成分の混入は、例えその混入量が僅かでも、光学フィルムの材料としての再生樹脂が得られない原因となりうる。これに対し、上述したリサイクル方法では、そのような表面層に由来する成分の混入を効果的に抑制できるので、光学フィルムからの樹脂のリサイクルに好適である。
【0099】
[複層フィルム]
図12及び
図13は、それぞれ、一例としての複層フィルム30及び80をその厚み方向に平行な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図12及び
図13に示すように、複層フィルム30及び80は、基材層31並びに表面層32及び81を備える。
図12に示すように、複層フィルム30は、基材層31の一側のみに表面層32を備えていてもよい。また、
図13に示すように、複層フィルム80は、基材層31の両側に表面層32及び81を備えていてもよい。
【0100】
基材層は、樹脂によって形成された層である。基材層に含まれる樹脂が、前述したリサイクル方法において、リサイクルする対象となる。基材層に含まれる樹脂としては、通常、熱可塑性樹脂を用いる。この熱可塑性樹脂は、熱可塑性の重合体と、必要に応じて任意の成分を含みうる。重合体としては、例えば、スチレンポリマー;アクリルポリマー;ポリメチルメタクリレート等のメタクリルポリマー;ポリ塩化ビニル等のハロゲン含有ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィンポリマー;脂環式構造含有重合体;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリアミド;熱可塑性ポリウレタン;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;2,6-キシレノールの重合体等のポリフェニレンエーテル;二酢酸セルロース、三酢酸セルロース等のセルロースエステル類、セルロースカーバメートル類、セルロースエーテル類等のセルロース誘導体;ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のシリコーンポリマー;ビニルポリマー;ポリイミド;ポリアリレート;などが挙げられる。また、重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び加工性に優れ、光学フィルムの材料に好適であることから、脂環式構造含有重合体が好適である。脂環式構造含有重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有する重合体であり、例えば、特開2007-057971号公報に記載のものを用いうる。
【0101】
基材層は、1層を単独で含む単層構造を有していてもよく、組成の異なる複数の層を含む複層構造を有していてもよい。
【0102】
表面層を分離した後に得られる樹脂フィルムの機械的強度を高めてその搬送性を良好にする観点では、基材層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上である。基材層の厚みの上限は、特段の制限は無いが、好ましくは1mm以下、より好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0103】
表面層は、基材層の一側又は両側に形成された層であり、通常、複層フィルムの最外層となっている。この表面層は、基材層に含まれる樹脂とは異なる材料で形成されている。表面層に含まれる材料は、単体金属、金属化合物などのように、樹脂以外の材料であっても構わないが、通常は、樹脂である。
【0104】
表面層に含まれる樹脂は、通常、重合体を含む。重合体としては、例えば、スチレンポリマー;アクリルポリマー;メタクリルポリマー;ハロゲン含有ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィンポリマー;脂環式構造含有重合体;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリアミド;熱可塑性ポリウレタン等のポリウレタン;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;2,6-キシレノールの重合体等のポリフェニレンエーテル;セルロースエステル類、セルロースカーバメートル類、セルロースエーテル類等のセルロース誘導体;ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のシリコーンポリマー;ビニルポリマー;ポリエチレンイミン;等が挙げられる。また、重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリウレタンが好ましい。ポリウレタンとしては、例えば、特開2015-189051号公報に記載された物を用いうる。
【0105】
さらに、表面層に含まれる樹脂は、重合体以外の任意の成分を含んでいてもよい。このような任意の成分としては、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、粒子等が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0106】
表面層は、1層を単独で含む単層構造を有していてもよく、組成の異なる複数の層を含む複層構造を有していてもよい。
【0107】
表面層の厚みは、0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上が特に好ましく、また、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。
【0108】
複層フィルムは、通常、長尺のフィルムとして用意される。このような長尺の複層フィルムは、例えば、長尺の光学フィルムから切り取った端材、光学フィルムの製造途中で作成される中間フィルムから切り取った端材、等が挙げられる。
【0109】
[擦過具]
擦過具としては、複層フィルムの表面層を擦過可能な任意の部材を用いることができる。通常は、複層フィルムの表面層に接触しうる擦過具の部位には、表面層よりも硬度が硬い材料によって、表面層を擦過可能な構造が形成されている。通常、前記の構造は、突起部(ブラシの毛、剣山の針、等の長い部位を含む。)を含んでおり、この突起部が表面層に接触することで、擦過が行われる。例えば、厚み100nm以下程度の樹脂からなる表面層を擦過したい場合には、最大高さRzが5μm程度となる粗面を前記の構造として含む擦過具により、効率的な擦過が可能である。
【0110】
擦過具の形状は任意であり、上述した実施形態で用いた擦過具のようなローラー状擦過具の他、ブラシ状擦過具、スポンジ状擦過具、網目状擦過具、櫛状擦過具、剣山状擦過具、研磨布、サンドペーパー、スクレーパーなどが挙げられる。
【0111】
上述した例の中でも、ローラー状擦過具が好ましい。ローラー状擦過具は、省スペース化が可能である。また、ローラー状擦過具は、ローラーの回転軸の方向によって、擦過方向を容易に調整することができる。ローラー状擦過具が、その外周面に粗面を有する場合には、当該粗面が複層フィルムの表面層に接触することで、擦過が達成される。この際、擦過片の回収を容易に行うため、外周面に溝(例えば、幅及び深さが数ミリメートルから数センチメートル程度の溝)を形成してもよい。
【0112】
さらに、複層フィルムの表面層を複層フィルムの搬送方向に平行に擦過する擦過具は、ローラー状擦過具以外の擦過具であっても好ましい。そのような擦過具は、複層フィルムの搬送路に固定すると、搬送される複層フィルムの表面層が前記擦過具に接触することにより、搬送方向に平行な擦過方向への擦過が達成される。よって、例えば、上述した実施形態における第三擦過具として、ブラシ状擦過具、スポンジ状擦過具、網目状擦過具、櫛状擦過具、剣山状擦過具、研磨布、サンドペーパー、スクレーパー等の擦過具を、ブレード状に複層フィルムの幅方向に延在するように固定して設けた場合でも、望ましい擦過を行うことができる。
【0113】
また、擦過具としては、下記のようなものを用いてもよい。
図14は、一例としての擦過具900を模式的に示す平面図である。また、
図15は、一例としての擦過具900を模式的に示す斜視図である。
図14及び
図15に示すように、この擦過具900は、周方向に回転可能な軸材910と、軸材910の回転によって前記軸材910の周方向に移動可能に設けられた複数の擦過プレート920と、この擦過プレート920をガイドするガイド材930とを備える。擦過プレート920は、表面層を擦過可能な構造を表面に有する部材であり、軸材910の軸方向に移動可能に設けられている。そして、この擦過プレート920の軸方向への移動を制御できるように、ガイド材930が設けられている。このようなガイド材930としては、例えば、擦過プレート920を案内できるように軸材910の外周に環状に設けられたレール材などを用いてもよい。
【0114】
複層フィルムの厚み方向に見て、ガイド材930が複層フィルムの搬送方向A30に非平行な方向に設けられている場合を考える。この場合、軸材910の回転に伴って、擦過プレート920は、軸材910の外周を周方向に移動する。また、この移動の際、擦過プレート920は、ガイド材930にガイドされて、軸材910の軸方向に移動する。そうすると、擦過プレート920は、複層フィルムの表面層に接触する期間においては、複層フィルムの搬送方向A30に非平行な方向に移動できるので、上述した第一擦過方向及び第二擦過方向への擦過が可能な擦過具として用いることができる。
【0115】
前記の擦過プレート920は、その断面が平板状でもよく、円柱状でもよく、これら以外の形状でもよい。前記の擦過具900は、一回転当たりの擦過プレート920の軸方向への移動量を、ガイド材930によって調整できる。したがって、上述したローラ状擦過具と同様に、複層フィルムの搬送路に設置することができる。この際、擦過具900は、設置に要する空間が小さいので、省スペース化を促進できる。
【符号の説明】
【0116】
10 樹脂フィルム
20、40、50、60、70 分離装置
30、80 複層フィルム
31 基材層
32、81 表面層
110、120 搬送ロール
200、400、500、600、700 擦過部
210、230、240、260、270、290 抑えローラ―
220 第三擦過ローラー
250 第一擦過ローラー
280 第二擦過ローラー
311~312、321~324、330 擦過跡
410、420、430 押え材
510、520、530 ノズル
610 液槽
620、630、640、650 案内ローラー
660 液体
710 第四擦過ローラー
720 第五擦過ローラー
730 第六擦過ローラー
900 擦過具
910 軸材
920 擦過プレート
930 ガイド材