(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 11/00 20060101AFI20221213BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20221213BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221213BHJP
C08J 3/21 20060101ALI20221213BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20221213BHJP
F16C 11/06 20060101ALN20221213BHJP
F16D 3/84 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C08L11/00
C08L1/02
C08K5/09
C08J3/21 CEQ
F16F1/36 C
F16C11/06 N
F16D3/84 Z
(21)【出願番号】P 2018194840
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2017236337
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】國脇 大樹
(72)【発明者】
【氏名】宮川 泰道
(72)【発明者】
【氏名】石田 直之
(72)【発明者】
【氏名】小池 知一
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070387(WO,A1)
【文献】特開2013-173938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08J
F16F,F16C,F16D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸又はカルボン酸のアルカリ金属塩を3~7重量%含む
クロロプレンゴム100重量部に対し、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーを1~7重量部含むゴム組成物。
【請求項2】
pHが10~14のクロロプレンラテックスにセルロースナノファイバーの水分散体を混合し、凍結凝固した後、熱風乾燥する請求項
1に記載のゴム組成物の製造法。
【請求項3】
請求項
1に記載のゴム組成物が加硫されたことを特徴とする加硫ゴム。
【請求項4】
JIS K6253(2012)に記載の硬さ(Hs)と、JIS K6254(2010)に記載の列理方向の25%歪みの静的せん断弾性率(Gs25)の関係が、硬さ40から80の範囲において、0.78Hs/(100-Hs)≦ Gs25であることを特徴とする請求項
3に記載の加硫ゴム。
【請求項5】
請求項
3又は
4に記載の加硫ゴムからなる防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より弾性に優れるゴム組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、各種合成ゴムの中でも各物性のバランスが良好であるため幅広い用途に使用されており、例えば、ベルト、ホース、エアスプリング、接着剤など、広く使用されている。クロロプレンゴムには、汎用のメルカプタン変性と動特性に優れる硫黄変性クロロプレンがあり、後者の方がより力学物性に優れるが、近年の高性能化の要求により、更なる高弾性化が要望されている。
【0003】
弾性の指標としては微小変形におけるモジュラスが挙げられ、通常カーボンブラックやシリカなどの補強材を配合することでこれらを向上することができるが、これらの粒状補強材は、その粒子径や比表面積により補強効果に限界がある。また、補強材の配合による補強では、加硫ゴムの硬さも同時に著しく上昇しゴム製品への加工性が低下するため、適切なゴムの硬さを維持するためには、補強効果に限界がある。
【0004】
そこで、繊維形状の補強材が提案されており、セルロース繊維を配合したタイヤ等が提案されている。(例えば特許文献1)しかし、疎水性のゴムに対し、親水性のセルロースは分散性が劣るため補強効果が低い。その対策として、ナノオーダーのセルロースと、それを分散するための分散剤や固定するためのシランカップリング剤を天然ゴムラテックスに配合したタイヤが提案されている。(特許文献2~特許文献3)しかし、これらの方法では分散剤等のゴムとセルロースを分散するための薬剤が別途必要であり、コストが高くなる。
【0005】
一方クロロプレン重合体はクロロプレンを乳化剤の存在下で乳化剤および開始剤を含有する水性乳濁液中で重合して得られることが知られている。一般にこの重合反応はカルボン酸のアルカリ金属塩の存在下、強アルカリ雰囲気下にて実施されるが、セルロースは強アルカリ下では加水分解してしまうため、強アルカリであるクロロプレンラテックスへの検討はあまりされていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-206864号公報
【文献】特開2009-191197号公報
【文献】特開2009-191198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低歪で優れた引っ張り応力を示すクロロプレンゴム組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、このような背景の下、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、クロロプレンゴムとセルロースナノファイバーを含むゴム組成物を用いることで、低硬度でありながら低歪で優れた引っ張り応力を示すことを見出した。即ち、本発明は、クロロプレンゴム100重量部に対し、セルロースナノファイバー1~7重量部を含むことを特徴とするクロロプレンゴム組成物である。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のゴム組成物は、クロロプレンゴム100重量部に対し、平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、リグニン含有量が20重量%以下で、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバー1~7重量部含むものである。
【0011】
クロロプレンゴムは、クロロプレン、又はクロロプレン及びこれと共重合可能な単量体を乳化重合することにより得ることができる。
【0012】
クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、硫黄、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられ、このうち1種類以上を併用して用いることが可能であるが、例えば架橋点となる硫黄を共重合することでモジュラス等の力学物性向上が可能である反面耐熱性は低下するため、必ずしも必要ではなく、要求物性に応じて適時使用する。共重合可能な単量体量は特に限定するものではないが、クロロプレン重合体の特性を損なわない程度としてクロロプレンゴム100重量部に対し一般的に30重量部以下が用いられる。特に硫黄に関しては耐熱性が低下するため、クロロプレン単量体100重量部に対し3重量部以下が好ましく、さらには1重量部が好ましい。
【0013】
クロロプレンゴムは、カルボン酸又はカルボン酸のアルカリ金属塩を3~7重量%含むことが好ましい。3重量%以上ではクロロプレン重合時の乳化安定性に優れ、7重量%以下では凍結によるゴム析出工程にて凍結不良が生じることなく安定的なゴム製品の生産が可能となる。
【0014】
クロロプレンゴムの乳化重合では、例えば、上記の単量体を乳化剤、水、重合開始剤、連鎖移動剤、その他安定剤等を混合し、所定温度にて重合を行い、所定の重合転化率で重合停止剤を添加し重合を停止する方法があげられる。
【0015】
乳化剤としては、カルボン酸のアルカリ金属塩やスルホン酸のアルカリ金属塩を等が挙げられ、例えば、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩、ポリカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系乳化剤、水溶性高分子化合物等があげられる。アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等があげられる。これらは、1種類でも良く、2種類以上を含んでいても良いが、重合安定性、乾燥時の凝集性、及びゴムの性能の観点からカルボン酸のアルカリ金属塩を含む事が好ましく、なかでもロジン酸のアルカリ金属塩、更にはロジン酸のカリウム塩を含むことが好ましい。
【0016】
乳化剤の量は特に限定するものではないが、重合後に得られるクロロプレンラテックスの安定性を考慮するとクロロプレンゴム100重量部に対し、3~10重量部が好ましい。また、そのうちカルボン酸のアルカリ金属塩は3~8重量部が好ましく、更には5~7重量部含むことが好ましい。
【0017】
重合液のpHを調節するために、pH調節剤により、pHを11以上とすることが好ましい。これ以下ではカルボン酸のアルカリ金属塩が酸性化し、ラテックスの安定性が低下する。pH調節剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、アンモニア等の塩基性化合物等が挙げられ、ずれか1種類以上を単独または併用して用いる。
【0018】
乳化重合の開始剤としては、公知のフリーラジカル性物質、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物、過酸化水素、ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド等の無機又は有機過酸化物等を用いることができる。また、これらは単独又は還元性物質、例えば、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、ハイドロサルファイト、有機アミン等との併用レドックス系で用いても良い。
【0019】
重合温度は特に限定するものではないが、10~50℃の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の製造方法では、重合終了時期は特に限定するものでは無いが、生産性の面から、単量体の転化率が60%以上95%まで重合を行うことが好ましい。60%以下では生産量が少なくラテックスの固形分が低くなる。一方95%以上は重合時間が非常に長くなる。
【0021】
重合停止剤としては、通常用いられる停止剤であれば特に限定するものでなく、例えば、フェノチアジン、2,6-t-ブチル-4-メチルフェノール、ヒドロキシルアミン等が使用できる。
【0022】
硫黄を共重合した硫黄変性クロロプレンの場合は、続いて重合停止したラテックスに解膠剤及び解膠助剤を添加し適当なムーニー粘度になるまで解膠を行うことが可能である。解膠剤にはテトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド等のチウラム化合物が挙げられ、前記の乳化剤等を用いて乳化した状態で添加することができる。解膠反応開始剤としてはジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム等のチオカルバミン酸化合物等が挙げられる。
【0023】
解膠温度は5~60℃の範囲で行うことができ、好ましくは20~50℃の範囲である。一般に解膠温度が高いほど解膠反応が速くなる。
【0024】
解膠反応を終了させるムーニー粘度は、本発明の高弾性応力を満足させるものであれば特に限定はしないが、混練作業性を考慮すると20~80が好ましい。
【0025】
セルロースナノファイバーは木材に含まれるセルロースの繊維を平均繊維径数ナノ~数十ナノレベルまで解繊したものである。セルロースナノファイバーの原料である木材等にはリグニンが含まれるが、リグニン量を多く含むセルロースナノファイバーはクロロプレンラテックスの安定性を損なうことから、含まれるリグニン量は20重量%以下が好ましい。好ましくは10重量%以下であって、更に好ましくは5重量%以下である。解繊処理は主に機械的処理によるものと、化学処理により各種官能基を付与し、機械処理を併用することで、より細いシングルナノレベルまで実施するものがあるが、本発明では主に機械処理により得た平均繊維径が10~300nmで、平均繊維長が0.5~200μmであって、セルロースのヒドロキシメチル基がカルボン酸又はカルボン酸塩で変性されていないセルロースナノファイバーを使用する。平均繊維径が10nm未満のセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックスの粘度が増大するため、凍結によるゴム析出工程に於いて問題が生じる。平均繊維径が300nmを超えるセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム組成物の粘度が増大し、成形加工性に問題を有する。好ましくは10~100nmである。一方、平均繊維長が0.5μm未満のセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー含有ゴム加硫物の引張応力向上効果が劣る。平均繊維長が200μmを超える場合には、セルロースナノファイバー含有ゴム組成物の粘度が上昇し、成形加工性が劣る。好ましくは0.5~100μmである。また、セルロースナノファイバーがカルボン酸塩又はカルボン酸を有するとゴム中でのセルロースナノファイバーの分散状態が悪化するため、得られる加硫ゴムの引張応力の増大効果が低下したり、ハンドリングが低下するため、セルロースにはカルボン酸塩及びカルボン酸を含まないものを用いる。
【0026】
本発明において、セルロースナノファイバーの含有量は、クロロプレンゴム100重量部に対して1~7重量部である。セルロースナノファイバー含有量が1重量部未満である場合には、低歪みでの優れた引張応力は得られない。セルロースナノファイバー含有量が7重量部を超える場合には、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度が増大し、凍結によるゴム析出工程に於いて問題が生じ、経済的な優位性の観点からも適当ではない。好ましくは1~5重量部、更に好ましくは1~3重量部である。
【0027】
また、本発明のゴム組成物は、クロロプレンラテックスにセルロースナノファイバーの水分散体を混合し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を作成し、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液から水を除去することにより得ることができる。
【0028】
クロロプレンラテックスは、クロロプレンモノマーとクロロプレンモノマーと共重合可能な不飽和単量体を含み、乳化重合法で製造されるものであれば特に制限されるものではなく、クロロプレンゴムラテックスの乳化安定性の観点からpHが10~14であることが好ましい。
【0029】
セルロースナノファイバーの水分散体は、木材やパルプ等を機械処理にて平均繊維径が10~300nm、平均繊維長が0.5~200μmとなるまで解繊したリグニン含有量が20重量%以下のセルロースナノファイバーを水に分散したものである。
【0030】
本発明において、クロロプレンゴムラテックスとセルロースナノファイバーの水分散体を混合する方法としては、特に制限はなく、プロペラ型の攪拌装置や、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーなどを用い、クロロプレンラテックスとセルロースナノファイバーの水分散体が外観上均一(塊等が無いこと)になるまで混合とすることで得ることができる。
【0031】
セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液からの水の除去方法(乾燥方法)としては、加熱乾燥や、酸や塩による凝集および凍結乾燥があるが、凝集させると乳化剤や凝固液や水分がゴムの内部に残存してしまうため、凍結によりゴムを析出(凍結凝固)させ、余分な乳化剤等を水洗除去してから熱風乾燥する方法が最も効率的で乾燥も容易であり好ましい。その際には凍結によりゴムが析出しやすくするため、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液のpHを10以下として凍結乾燥する方が更に好ましい。
【0032】
セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液から凍結凝固させ乾燥する方法において、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は1500mPa・s以下であることが好ましく、更に1000mPa・s以下30mPa・s以上であることが好ましい。また、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の固形分は20重量%以上であることが好ましく、更に25重量%以上35重量%以下であることが好ましい。粘度が1500mPa・s以下の場合、凍結凝固が良好で好ましい。また、固形分が20重量%以上の場合、凍結したゴムフィルムが割れにくくなり、解凍した際のゴムフィルムの強度が増大するため、ゴム製品の連続生産に好適であり好ましい。
【0033】
得られたセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム組成物は、通常のクロロプレンゴム同様に各種配合剤を配合混練し、加熱により加硫ゴムとすることができる。
【0034】
得られた加硫ゴムは、低歪で優れた引張応力を示すため、様々な用途に用いることができるが、特に使用によって生じる微小変形への高い応力が求められる防振ゴム、ワイパー、CVJブーツ、ボールジョイントブーツ、ゴム支承への適用が好ましい。
【0035】
一般的に、低歪の引張応力を表す25%歪の静的せん断弾性率は、硬さと正の相関関係を有しており、JIS K6253(2012)に記載の硬さ(Hs)と、JIS K6254(2010)に記載の列理方向の25%歪みの静的せん断弾性率(Gs)は、Hs=Gs/(Gs+Gs50)×100の関係式で表される。この時、Gs50は硬さ50を示す加硫ゴムの静的せん断弾性率である。セルロースナノファイバーを含有しないクロロプレンゴム加硫物の場合、Gs50は0.70MPaと近似され、Hs=Gs/(Gs+Gs50)×100の関係式は実測値のプロットと良く一致する近似曲線となることが経験則より判明している(株式会社 現代工学社発行「改訂新版 防振ゴム」昭和50年8月15日 改訂新版発行 11~14ページ)。一方で、セルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム加硫物は、同一硬さであるセルロースナノファイバーを含有しないクロロプレンゴム加硫物と比較して、優れた静的せん断弾性率を示す。静的せん断弾性率は高いほど、製品の薄肉化による軽量化が可能であり望ましいが、加硫ゴムの硬さは、適切な範囲でなければ製品への加工性が著しく低下し、生産性を損なう。加硫ゴムとして適性な加工性を示す硬さ40から80の範囲において、
0.78Hs/(100-Hs) ≦ Gsであることが好ましく、さらには0.88Hs/(100-Hs) ≦ Gsであることがより好ましい。さらには、Gs≦ 1.08Hs/(100-Hs)であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明のセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム組成物を用いることで、力学物性に優れ、低硬度でありながら低歪で高い静的せん断弾性率を有する加硫ゴムを得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
<クロロプレンゴムラテックスの作成>
単量体混合物としてクロロプレン100重量部に対して硫黄0.3重量部を加え、ロジン酸のカリウム塩4.0重量部、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物のナトリウム塩0.5重量部、水酸化ナトリウム0.05重量部及び正燐酸ナトリウム1.0重量部、水100重量部を含む乳化水溶液と混合攪拌し乳化させ、これに過硫酸カリウム1.0重量部、アントラキノン-β-スルホン酸ナトリウム0.01重量部、水30重量部からなる重合触媒をポンプにより一定速度で添加し重合を行なった。重合は重合転化率70%になるまで重合触媒を添加して行ない、ここにチオジフェニルアミン0.01重量部、4-t-ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-t-ブチルフェノール0.05重量部、ジエチルヒドロキシルアミン0.1重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.05重量部、クロロプレン5.0重量部、水1.0重量部からなる重合停止剤を添加して重合を停止させた。続いて、これにテトラエチルチウラムジスルフィド2重量部のトルエン溶液をロジン酸カリウムで乳化した物、及びジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.3重量部を添加し、ムーニー粘度が60になるまで40℃で解膠を行った後、減圧下でスチームストリッピングにより未反応のクロロプレンを除去回収し、クロロプレンゴムラテックスを得た。尚、得られたクロロプレンゴムラテックスのpHは11.3であった。
【0039】
<セルロースナノファイバーを含むクロロプレン(ゴム組成物)の作成>
クロロプレンゴムラテックスに、セルロースナノファイバーの水分散体を所定量添加し、オートホモミキサー(プライミックス社製:PRIMIX)にて2,000rpmで10分間混合した。その後、15重量%希酢酸を用いてpHを6.5に調整し、ついで凍結凝固によりポリマーを析出させ、乾燥させた。
【0040】
<粘度、固形分、pH>
粘度は、ビスメトロン粘度計(芝浦セムテック(株)社製:VD2)にて測定した。
【0041】
固形分は、液を約3g計量し、アルミ製蒸発皿の上で170℃15分乾燥し水分を除去し、除去前後の重量から算出した。
【0042】
pHはpHメーター((株)堀場製作所製)により、23℃におけるラテックスのpHを測定した。
【0043】
<カルボン酸またはカルボン酸のアルカリ金属塩の濃度>
使用した量から固形分あたりの濃度を算出した。
【0044】
<コンパウンドの作製>
セルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムのクロロプレンゴム成分100重量部に対し、表1に示す重量部のカーボンブラック(東海カーボン(株)製 シーストSO)酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製 キョーワマグ150)4重量部、ステアリン酸(日油(株)製)0.5重量部、酸化亜鉛(堺化学(株)製)5重量部、エチレンチオウレア(三新化学工業(株)製 サンセラー22―C)0.35重量部をオープンロール混練機にて添加し、セルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンドを得た。
【0045】
<加硫物の作成>
得られたセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンドを160℃で15分プレス加硫し、加硫シートを作成した。
【0046】
<加硫物の硬さ測定>
得られた加硫シートの硬さをJIS K6253(2012)に従い、評価した。デュロメータにはタイプAを選択した。
【0047】
<加硫物の力学物性測定>
得られた加硫シートの列理方向の25%歪みの静的せん断弾性率をJIS K6254(2010)に従い、引張速度50mm/分、23℃の条件にて評価した。得られた加硫シートの100%引張応力(M100)をJIS-K-6251(2012年度版)に従い、引張速度500mm/分、23℃の条件にて評価した。
【0048】
実施例1
クロロプレンゴムラテックス(固形分:37.7%)に機械的解繊手段によって製造されたセルロースナノファイバーの水分散体(モリマシナリー社製 グレード:C-100 繊維径:30~200nm、平均繊維長:100μm 固形分濃度:3重量% リグニン含有量:1重量%未満)を混合して10分間、上記の方法で撹拌しセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を得た。なお、セルロースナノファイバーの混合量は、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースの含有量2.5重量部となる量とした。得られたセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度、固形分を表2に示す。セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は540mPa・s、固形分は29.3%であり、上記凍結、乾燥工程で問題なく、セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物が得られた。
【0049】
このセルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物を上記方法に従ってセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫シートを得て、硬さおよび静的せん断弾性率測定、引張試験を実施した。結果を表1に示す。表1から、硬さは50、静的せん断弾性率は0.9MPa、100%引張応力は4.0MPaであり、硬さに対する静的せん断弾性率は良好であった。
【0050】
【0051】
実施例2
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が5重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫シートを得て、硬さおよび静的せん断弾性率試験、引張試験を実施した。結果を表1に示す。表1から、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は1240mPa・s、固形分は24.2%であり、凍結、乾燥工程で問題はなかった。硬さは58、静的せん断弾性率測定は1.4MPa、100%引張応力は7.1MPaであり、硬さに対する静的せん断弾性率は良好であった。
【0052】
実施例3
実施例2と同様にして得られたセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴム組成物を用いて、上記方法に従いセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫シートを得て、硬さおよび静的せん断弾性率測定、引張試験を実施した。結果を表1に示す。表1から、硬さは75、静的せん断弾性率は2.4MPa、100%引張応力は10.2MPaであり、硬さに対する静的せん断弾性率は良好であった。
【0053】
比較例1
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が10重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度が3120mPa・s、固形分は18.2%であり、凍結後のフィルム平滑性、強度に問題があり、セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴム組成物が得られなかった。
【0054】
比較例2
セルロースナノファイバーの混合量を、固形分のゴム成分100重量部に対してセルロースナノファイバーの含有量が0.5重量部となる量にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー含有クロロプレンゴムコンパウンド及び加硫シートを得て、硬さおよび静的せん断弾性率測定、引張試験を実施した。結果を表1に示す。表1から、セルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の粘度は50mPa・s、固形分は35.6%であり、凍結、乾燥工程で問題はなかった。硬さは42、静的せん断弾性率は0.5MPa、100%引張応力は1.4MPaであり、硬さに対する静的せん断弾性率は不十分であった。
【0055】
比較例3
セルロースナノファイバーを混合せず、コンパウンドの作製時に、クロロプレンゴム100重量部に対し、カーボンブラックを5重量部追加した以外は、実施例1と同様にクロロプレンゴムコンパウンド及び加硫シートを得て、硬さおよび静的せん断弾性率測定、引張試験を実施した。結果を表1に示す。硬さは42、静的せん断弾性率は0.5MPa、100%引張応力は1.5MPaであり、硬さに対する静的せん断弾性率は不十分であった。
【0056】
比較例4
比較例3と同様にセルロースナノファイバーを混合せず、コンパウンドの作成時に、クロロプレンゴム100重量部に対し、カーボンブラックを30部追加した以外は、実施例1と同様にクロロプレンゴムコンパウンド及び加硫シートを得て、硬さおよび静的せん断弾性率測定、引張試験を実施した。結果を表1に示す。硬さは55、静的せん断弾性率は0.7MPa、100%引張応力は3.1MPaであり、硬さに対する静的せん断弾性率は不十分であった。
【0057】
比較例5
セルロースナノファイバーをリグニン含有のリグノセルロースナノファイバー(モリマシナリー社製 グレード:L-45 繊維径:50~300nm 平均繊維長:45μm固形分濃度:3重量% リグニン含有量:約30重量%)にした以外は実施例1と同様にセルロースナノファイバー分散ゴムラテックス混合液の作成を実施したが、その作成工程中においてゴムが析出し、セルロースナノファイバーを含むクロロプレンゴムが得られなかった。