(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】複合ケーブル及び複合ハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20221213BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01B7/00 310
H01B7/00 301
H01B7/00 306
B60R16/02 620J
(21)【出願番号】P 2018229647
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 良和
(72)【発明者】
【氏名】村山 知之
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
(72)【発明者】
【氏名】二ツ森 敬浩
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/151752(WO,A1)
【文献】特開2017-228506(JP,A)
【文献】特開2017-096828(JP,A)
【文献】特開2002-260457(JP,A)
【文献】特開2016-119245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線が撚り合わされて構成されている第1の導体をそれぞれ備える一対の第1の単芯電線と、
前記一対の第1の単芯電線の中心軸を通る中心面を挟んで互いに対向する領域の一方側に配置され、前記一対の第1の単芯電線よりも断面積が小さい一対の第2の単芯電線が撚り合わされてなる第1のツイストペア線の外周に
ウレタン系樹脂により形成されている第1の内部シースが前記一対の第2の単芯電線の間に入り込みながら被覆されている充実構造電線であり、外径が前記一対の第1の単芯電線の外径の70%以上160%以下である
シールドされていない第1の多芯電線と、
前記一対の第1の単芯電線の中心軸を通る中心面を挟んで互いに対向する領域の他方側に配置され、前記一対の第1の単芯電線よりも断面積が小さい一対の第3の単芯電線が撚り合わされてなる第2のツイストペア線の外周に
ウレタン系樹脂により形成されている第2の内部シースが前記一対の第3の単芯電線の間に入り込みながら被覆されている充実構造電線であり、外径が前記一対の第1の単芯電線の外径の70%以上160%以下である
シールドされていない第2の多芯電線と、
を備え、
前記一対の第1の単芯電線と前記第1の多芯電線と前記第2の多芯電線とが撚り合わされて撚合体が形成されており、
前記第1の導体を構成する前記複数の素線の全てが同一の径を有する
複合ケーブル。
【請求項2】
前記一対の第2の単芯電線及び前記一対の第3の単芯電線は、回転速度を検出する回転速度センサ用の信号線であり、
前記一対の第2の単芯電線及び前記一対の第3の単芯電線の端部には、それぞれ前記回転速度センサが取り付けられている、
請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項3】
前記撚合体の周囲には、押さえ巻きテープが設けられている、
請求項1又は2に記載の複合ケーブル。
【請求項4】
前記押さえ巻きテープの外周には、外部シースが設けられている、
請求項3に記載の複合ケーブル。
【請求項5】
前記第1の多芯電線の外径及び前記第2の多芯電線の外径は、前記一対の第1の単芯電線の外径の85%以上145%以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
【請求項6】
前記第1の多芯電線及び前記第2の多芯電線は、同一の電線である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の複合ケーブルと、
前記第1の多芯電線の端部及び前記第2の多芯電線の端部を覆うように設けられた1つのモールド材と、
を備え、
前記モールド材内において、前記第1の多芯電線の端部と前記第2の多芯電線の端部とが離間している、
複合ハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブル及び複合ハーネスに関し、特に、車体から車輪に配線される複合ケーブル及び複合ハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、車体から車輪への配線に供される複合ケーブルが提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の複合ケーブルは、第1のツイストペア線と、第2のツイストペア線と、一対の第1の電線と、が撚り合わされて形成された撚合体と、該撚合体の外周を被覆するシースと、を備えるものである。
【0004】
また、複合ケーブルの横断面視において、第1のツイストペア線は、一対の第1の電線の中心を結んだ中心線の一方側に配置されており、第2のツイストペア線は、上記中心線の他方側に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の複合ケーブルによると、第1のツイストペア線を構成する任意の電線が第1のツイストペア線の周方向において同じ位置となる長手方向に沿った間隔(以下、「撚りピッチ」ともいう。)と、第2のツイストペア線の撚りピッチとが互いに異なっている場合や、第1のツイストペア線及び第2のツイストペア線の間で撚りの位相が異なっている場合、撚合体の外形、すなわち撚合体の横断面形状が複合ケーブルの長手方向に沿って変化してしまう虞がある。
【0007】
本発明は、第1のツイストペア線の撚りピッチと第2のツイストペア線の撚りピッチとが異なっていたり、第1のツイストペア線及び第2のツイストペア線の間で撚りの位相が異なっている場合であっても、複合ケーブルの長手方向に沿った撚合体の外形の変化を抑制することが可能な複合ケーブル及び複合ハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、下記の[1]~[7]の複合ケーブル、及び[8]~[9]の複合ハーネスを提供する。
[1]一対の第1の単芯電線(10)と、前記一対の第1の単芯電線(10)の中心軸(O)を通る中心面を挟んで互いに対向する領域の一方側に配置され、前記一対の第1の単芯電線(10)よりも断面積が小さい一対の第2の単芯電線(210)が撚り合わされてなる第1のツイストペア線(210A)の外周に第1の内部シース(220)が前記一対の第2の単芯電線(210)の間に入り込みながら被覆されている充実構造電線であり、外径が一対の第1の単芯電線の外径の70%以上160%以下である第1の多芯電線(20)と、前記一対の第1の単芯電線(10)の中心軸(О)を通る中心面を挟んで互いに対向する領域の他方側に配置され、前記一対の第1の単芯電線(10)よりも断面積が小さい一対の第3の単芯電線(310)が撚り合わされてなる第2のツイストペア線(310A)の外周に第2の内部シース(320)が前記一対の第3の単芯電線(310)の間に入り込みながら被覆されている充実構造電線であり、外径が前記一対の第1の単芯電線(10)の外径の70%以上160%以下である第2の多芯電線(30)とを備え、前記一対の第1の単芯電線と前記第1の多芯電線と前記第2の多芯電線とが撚り合わされて撚合体が形成されている複合ケーブル(1)。
[2]前記一対の第2の単芯電線(210)及び前記一対の第3の単芯電線(310)は、回転速度を検出する回転速度センサ用の信号線であり、前記一対の第2の単芯電線(210)及び前記一対の第3の単芯電線(310)の端部には、それぞれ前記回転速度センサ(104a)が取り付けられている、前記[1]に記載の複合ケーブル。
[3]前記撚合体(1A)の周囲には、押さえ巻きテープ(40)が設けられている、前記[1]又は[2]に記載の複合ケーブル(1)。
[4]前記押さえ巻きテープ(40)の外周には、外部シース(50)が設けられている、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の複合ケーブル(1)。
[5]前記第1の単芯電線(10)は、同一の直径を有する複数の素線が撚り合わされてなる導体(11)を備える、前記[1]から[4]のいずれか1つに記載の複合ケーブル(1)。
[6]前記第1の多芯電線(20)の外径及び前記第2の多芯電線(30)の外径は、前記一対の第1の単芯電線(10)の外径の85%以上145%以下である、前記[1]から[5]のいずれか1つに記載の複合ケーブル(1)。
[7]前記第1の多芯電線(20)及び前記第2の多芯電線(30)は、同一の電線である、前記[1]から[6]のいずれか1つに記載の複合ケーブル(1)。
[8]前記[1]から[7]のいずれか1つに記載の複合ケーブルと、前記一対の第1電線(10)の端部に取り付けられたコネクタ(61)と、を備える、複合ハーネス(6)。
[9]前記第1の多芯電線(20)と前記第2の多芯電線(30)とは互いに離間して配置されている、前記[8]に記載の複合ハーネス(1)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、第1のツイストペア線の撚りピッチと第2のツイストペア線の撚りピッチとが異なっていたり、第1のツイストペア線及び第2のツイストペア線の間で撚りの位相が異なっている場合であっても、複合ケーブルの長手方向に沿った撚合体の外形の変化を抑制することが可能な複合ケーブル及び複合ハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る複合ケーブルを用いた車両の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る複合ケーブルの構成の一例を示す横断面図である。
【
図3】
図2に示す複合ケーブルから撚合体を抜き出して示す横断面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る複合ハーネスの構成の一例を示す概略構成図である。
【
図5】本発明の一変形例に係る複合ハーネスの構成の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の複合ケーブル及び複合ハーネスの寸法比と一致するものではない。
【0012】
(複合ケーブルを適用する車両の説明)
図1は、本実施の形態に係る複合ケーブルを用いた車両の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、車両100には、電動式の制動装置として、電動パーキングブレーキ(以下、「EPB」ともいう。)101が備えられている。EPB101は、EPB用電気モータ101aと、EPB制御部101bと、を備えている。
【0013】
EPB用電気モータ101aは、車両100の車輪102に搭載されている。EPB制御部101bは、車両100のECU(電子制御ユニット)103に搭載されている。なお、EPB制御部101bは、ECU103以外のコントロールユニットに搭載されていてもよく、専用のハードウェアユニットに搭載されていてもよい。
【0014】
図示していないが、EPB用電気モータ101aには、ブレーキパッドが取り付けられたピストンが設けられており、当該ピストンをEPB用電気モータ101aの回転駆動により移動させることで、ブレーキパッドを車輪102の車輪のディスクロータに押し付け、制動力を発生させるように構成されている。EPB用電気モータ101aには、EPB用電気モータ101aに駆動電流を供給するための電源線として一対の第1の電線10(
図2参照)が接続されている。
【0015】
EPB制御部101bは、車両100の停止時に、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオフ状態からオン状態に操作されたとき、所定時間(例えば1秒間)にわたってEPB用電気モータ101aに駆動電流を出力することにより、ブレーキパッドを車輪102のディスクロータに押し付けた状態とし、車輪102に制動力を発生させるように構成されている。
【0016】
また、EPB制御部101bは、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオン状態からオフ状態に操作されたとき、あるいは、アクセルペダルが踏込操作されたときに、EPB用電気モータ101aに駆動電流を出力し、ブレーキパッドを車輪のディスクロータから離間させて、車輪102への制動力を解除するように構成される。
【0017】
つまり、EPB101の作動状態は、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオンされてから、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオフされるかアクセルペダルが踏み込まれるまで維持されるように構成されている。なお、パーキングブレーキ作動スイッチ101cは、レバー式又はペダル式のスイッチであってもよい。
【0018】
また、車両100には、ABS装置104が搭載されている。ABS装置104は、ABSセンサ104aと、ABS制御部104bと、を備えている。ABSセンサ104aは、回転速度センサの一例である。
【0019】
ABSセンサ104aは、走行中の車輪102の回転速度を検出するものであり、車輪102に搭載されている。ABS制御部104bは、急停止時に車輪102がロックされないように、ABSセンサ104aの出力に基づいてEPB101を制御し、車輪102の制動力を制御するものであり、ECU103に搭載されている。ABSセンサ104aには、信号線として第2の電線210や第3の電線310(
図2参照)が接続されている。
【0020】
第1の電線10と第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とを一括して外部シース50(
図2参照)で被覆したものが、本実施の形態に係る複合ケーブル1である。車輪102側から延出された複合ケーブル1は、車体105に設けられた中継ボックス106内にて電線群107に接続され、電線群107を介してECU103やバッテリ(不図示)に接続されている。
【0021】
図1では、図の簡略化のために1つの車輪102のみを示しているが、EPB用電気モータ101a、及びABSセンサ104aは、車両100の各車輪102に搭載されていてもよく、例えば、車両100の前輪のみ、あるいは後輪のみに搭載されていてもよい。
【0022】
(複合ケーブル1の説明)
本実施の形態に係る複合ケーブル1について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施の形態に係る複合ケーブル1の構成の一例を示す横断面図である。
図3は、
図2に示す複合ケーブル1から撚合体を抜き出して示す横断面図である。
図2及び
図3に示すように、複合ケーブル1は、一対(2本)の第1の電線10と、第1の電線10よりも外径が小さい一対(2本)の第2の電線210が撚り合わされてなる第1のツイストペア線210Aを含んで構成された第1の多芯電線20と、第1の電線10よりも外径が小さい一対(2本)の第3の電線310が撚り合わされてなる第2のツイストペア線310Aを含んで構成された第2の多芯電線30と、これら一対の第1の電線10と第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とが撚り合わされて形成された撚合体1Aの周囲に螺旋状に巻き付けられたテープ部材40と、テープ部材40の周囲を覆うように設けられた外部シース50と、を備えている。
【0023】
この複合ケーブル1は、上述したように、合計6本の電線を備えている。第1の電線10は、第1の単芯電線の一例である。第2の電線210は、第2の単芯電線の一例である。第3の電線310は、第3の単芯電線の一例である。
【0024】
〔第1の電線10〕
本実施の形態では、第1の電線10は、車両100の車輪102に搭載されたEPB101用電気モータ101aに駆動電流を供給するための電源線からなる。第1の電線10は、同一の直径を有する複数の素線が撚り合わされてなる第1の導体11の周囲に、例えば、架橋ポリエチレン等の絶縁性の樹脂からなる第1の絶縁体12を被覆して構成される。素線は、例えば、銅等の良導電性を有する材料で形成されている。なお、「同一の直径」の「同一」とは、完全に同じであることのみをいうものではなく、素線の製造の際等に生じる多少の誤差も含むものである。多少の誤差とは、たとえば、5%以下の誤差である。第1の導体11は、導体の一例である。
【0025】
第1の導体11に用いる素線としては、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。直径0.05mm未満の素線を用いた場合、十分な機械的強度が得られず耐屈曲性が低下する虞があり、直径0.30mmより大きい素線を用いた場合、複合ケーブル1の可撓性が低下する虞がある。
【0026】
第1の導体11の外径、及び第1の絶縁体12の厚さは、要求される駆動電流の大きさに応じて適宜設定すればよい。例えば、第1の電線10がEPB101用電気モータ101aに駆動電流を供給するための電源線であることを考慮すると、第1の導体11の外径を1.5mm以上3.0mm以下に設定することが好ましい。
【0027】
〔第1の多芯電線20〕
第2の電線210は、車輪102に搭載されたABSセンサ104a用の信号線からなる。第1の多芯電線20は、一対(すなわち、2本)の第2の電線210が撚り合わされてなる第1のツイストペア線210Aと、この第1のツイストペア線210Aの周囲を覆うように設けられた第1の内部シース220とを含んで構成されている。
【0028】
第2の電線210は、銅等の良導電性の素線が撚り合わされてなる第2の導体211の周囲に、架橋ポリエチレン等の絶縁性の樹脂からなる第2の絶縁体212を被覆して構成される。第2の導体211に用いる素線としては、第1の導体11に用いる素線と同様に、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。
【0029】
第2の電線210の外径は、第1の電線10の外径よりも小さい。複合ケーブル1の外径を円形状に近づけるという観点から、第2の電線210として、第1の電線10の外径の半分程度のものを用いることが望ましいといえる。具体的には、1.0mm以上1.8mm以下の外径を有する第2の電線210や、0.4mm以上1.0mm以下の外径を有する第2の導体211を用いることができる。
【0030】
また、複合ケーブル1の外形を断面円形状に近づけるという観点から、第1の多芯電線20の外径は、第1の電線10の外径の70%以上160%以下であることが好ましい。また、好ましくは、第1の多芯電線20の外径は、第1の電線10の外径の85%以上145%以下である。例えば、第1の多芯電線20の外径R3を3mm程度とした場合、第1の多芯電線20の外径R3は、2.10mm以上4.80mm以下(より好ましくは、2.55mm以上4.35mm以下)程度であることが好ましい。
【0031】
第1の内部シース220は、略円筒状の外周面220aを有し、第1のツイストペア線210Aの外周に被覆されている。第1の内部シース220は、例えば、熱可塑性ポリウレタン等のウレタン系の樹脂により形成されている。また、第1の内部シース220は、一対の第2の電線210の間に入り込んでいるとともに、各第2の電線210の外周面210aから第1の内部シース220の外周面220aに亘る全域Tにおいて隙間が空かないように充填されている。すなわち、第1の多芯電線20は、第1の内部シース220が一対の第2の電線210の間に入り込みながら第1のツイストペア線210Aを被覆する充実構造電線である。このような充実構造電線は、一対の第2の電線210が互いに接触している部分を除いた一対の第2の電線210の外周面220a全周と、第1の内部シース220と、が接触している。
【0032】
第1のツイストペア線210Aの撚りピッチ(以下、「第1の撚りピッチ」ともいう。)は、第2の電線210の外径を考慮し、第2の電線210に不要な負荷がかからない程度に設定するとよい。なお、第1の撚りピッチとは、任意の第2の電線210が第1のツイストペア線210Aの周方向において同じ位置となる第1のツイストペア線210Aの長手方向に沿った間隔である。
【0033】
〔第2の多芯電線30〕
第3の電線310は、車輪102に搭載されたABSセンサ104a用の信号線からなる。第2の多芯電線30は、一対(すなわち、2本)の第3の電線310が撚り合わされてなる第2のツイストペア線310Aと、この第2のツイストペア線310Aの周囲を覆うように設けられた第2の内部シース320とを含んで構成されている。
【0034】
第3の電線310は、第2の電線210と同様に、銅等の良導電性の素線が撚り合わされてなる第3の導体311の周囲に、架橋ポリエチレン等の絶縁性の樹脂からなる第3の絶縁体312を被覆して構成される。第3の導体311に用いる素線としては、第1の導体11及び第2の導体211に用いる素線と同様に、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。
【0035】
第3の電線310の外径は、第1の電線10の外径よりも小さい。また、好ましくは、第3の電線310の外径は、第2の電線210の外径と略等しい。第3の電線310として、第1の電線10の外径の半分程度のものを用いることが望ましく、具体的には、1.0mm以上1.8mm以下の外径を有する第3の電線310や、0.4mm以上1.0mm以下の外径を有する第3の導体311を用いることができる。
【0036】
また、複合ケーブル1の外形を断面円形状に近づけるという観点から第2の多芯電線30の外径は、第1の電線10の外径の70%以上160%以下である。また、好ましくは、第2の多芯電線30の外径は、第1の電線10の外径の85%以上145%以下である。例えば、第1の電線10の外径R3を3mm程度とした場合、第2の多芯電線30の外径R3は、2.10mm以上4.80mm以下(より好ましくは、2.55mm以上4.35mm以下)程度であることが好ましい。
【0037】
第2の内部シース320は、第1の内部シース220と同様に、略円筒状の外周面320aを有し、第2のツイストペア線310Aの外周に被覆されている。第2の内部シース320は、例えば、熱可塑性ポリウレタン等のウレタン系の樹脂により形成されている。また、第2の内部シース320も第1の内部シース220と同様に、一対の第3の電線310の間に入り込んでいるとともに、各第3の電線310の外周面310aから第2の内部シース320の外周面320aに亘る全域Tにおいて隙間が空かないように充填されている。すなわち、第2の多芯電線30は、一対の第3の電線310の間に入り込みながら第2のツイストペア線310Aを被覆する充実構造電線である。このような充実構造電線は、一対の第3の電線310が互いに接触している部分を除いた一対の第3の電線310の外周面320a全周と、第2の内部シース320と、が接触している。
【0038】
第2のツイストペア線310Aの撚りピッチ(以下、「第2の撚りピッチ」ともいう。)は、第1の撚りピッチと同様に、第3の電線310の外径を考慮し、第2の電線210に不要な負荷がかからない程度に適宜設定してよい。また、第2の撚りピッチは、上述した第1の撚りピッチと略同一でもよく、異なっていてもよいが、異なっている場合に対して従来技術と比して特にメリットがある。
【0039】
(第1の多芯電線20と第2の多芯電線30との関係性)
第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30は、同一の電線である。ここでいう「同一」とは、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30との間で構成、寸法、性質等を示す属性情報に特別な相違点がないことをいい、具体的には、内部シースの材料、内部シースの径、導体の材料、導体の径、導体の素線径、撚りピッチが両者の間で同じであることをいう。ここでいう「導体の径、導体の素線径、撚りピッチが両者の間で同じ」とは、完全に同じであることのみをいうものではなく、製造の際等に生じる多少(5%以下程度)の誤差も含むものである。
【0040】
〔撚合体1A〕
図3に示すように、撚合体1Aは、一対の第1の電線10と第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とが撚り合わされて形成されているものである。本実施の形態では、第1の電線10と、第1の多芯電線20又は第2の多芯電線30とを、撚合体1Aの周方向Cにおいて交互に配置する。換言すれば、一対の第1の電線10が互いに対向する位置に配置されているとともに、第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とが互いに対向する位置に配置されている。
【0041】
さらに換言すれば、第1の多芯電線20は、一対の第1の電線10の中心軸Oを通る中心面を挟んで互いに対向する領域の一方側に配置されているとともに、第2の多芯電線30は、該領域の他方側に配置されている。すなわち、第1の多芯電線20は、複合ケーブル1の横断面視において、一対の第1の電線10の中心(「O」参照)を結んだ中心線Lの一方側に配置されているとともに、第2の多芯電線30は、該領域の他方側に配置されている。
【0042】
かかる配置により、第1の電線10は、撚合体1Aの周方向Cにおける両隣で第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30にそれぞれ接触している。また、第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とは、一対の第1の電線10により互いに離間されており、互いに一定の距離をおいて離間して配置されている。換言すれば、第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とは、互いに直接的に接触しないように配置されている。これにより、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30が同時期(例えば、車両の走行時)に使用される場合であっても、第1の多芯電線20と第2の多芯電線30との間のクロストークを抑制することが可能である。また、第1の多芯電線20の外径及び第2の多芯電線30の外径は、一対の電線10間の距離よりも大きい。これにより、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30の一方が一対の電線10の間を介して他方側へ移動することが抑制される。
【0043】
撚合体1Aは、一対の第1の電線10の中心を通る直線の方向の最大外径を短径R
1とし、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30の中心を通る直線の方向の最大外径を長径R
2とする略楕円形の断面を有している(R
1≦R
2)。すなわち、撚合体1Aの横断面は、
図3の図示上下方向を短軸とし、
図3の図示左右方向を長軸とする略楕円形の形状(外形)を有している。好ましくは、撚合体1Aの横断面の形状、すなわち撚合体1Aの外形は、円形である(R
1=R
2)。なお、
図3では、説明の便宜上、撚合体1Aの横断面をR
1=R
2とする円形として描いた。
【0044】
撚合体1Aの短径R1及び長径R2はそれぞれ、例えば、5mm~9mm程度である。撚合体1Aの撚りピッチ(以下、「第3の撚りピッチ」ともいう。)は、撚合体1Aの外径を考慮し、第1の電線10と第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30とに不要な負荷がかからない程度に設定するとよい。なお、第3の撚りピッチとは、第1の電線10、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30のうち任意の電線が撚合体1Aの周方向Cにおいて同じ位置となる撚合体1Aの長手方向に沿った間隔である。
【0045】
〔テープ部材40〕
撚合体1Aの周囲には、テープ部材40が螺旋状に巻き付けられている。テープ部材40は、例えば、押さえ巻きテープである。また、テープ部材40は、一対の第1の電線10と、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30とに接触している。テープ部材40は、撚合体1Aと外部シース50との間に設けられ、屈曲時に撚合体1Aと外部シース50との間の摩擦を低減して、耐屈曲性を向上させる役割を果たす。
【0046】
テープ部材40としては、第1の絶縁体12、第2の絶縁体212及び第3の絶縁体312に対して滑りやすいもの(摩擦係数が小さいもの)を用いることが望ましく、例えば、不織布や紙、あるいは樹脂(樹脂フィルム等)からなるものを用いることができる。なお、テープ部材40としては、2層以上の積層構造となっているものを用いてもよい。また、テープ部材40の幅は、テープ部材40を巻き付けた際にテープ部材40に皺が寄らない程度の幅とすればよい。なお、テープ部材40は、撚合体1Aに必ずしも螺旋状に巻き付けなくてもよく、例えば、縦添えで巻き付けてもよい。
【0047】
〔外部シース50〕
テープ部材40の周囲には、外部シース50が設けられている。外部シース50は、例えば、熱可塑性ポリウレタン等のウレタン樹脂からなる。本実施の形態では、第1の電線10がEPB用電気モータ101aに駆動電流を供給するものであり、第1の電線10に駆動電流が流れる時間が比較的短いため、テープ部材40の周囲に設けられるシールド導体を省略しているが、第1の電線10の用途等に応じて、テープ部材40と外部シース50の間、あるいは外部シース50の外周にシールド導体を設けてもよい。シールド導体は、例えば、導線を編組して形成される。
【0048】
〔介在〕
なお、第1の電線10と、第1の多芯電線20又は第2の多芯電線30と、テープ部材40との間に形成された隙間Uに、複合ケーブル1の長手方向に延びる糸状(繊維状)の複数の介在を配置し(図示せず)、これらの介在を第1の電線10と第1の多芯電線20と第2の多芯電線30と共に撚り合わせることにより、撚合体1Aを構成してもよい。複数の介在を設けることにより、撚合体1Aの外周にテープ部材40を巻き付けた際の断面形状をより円形状に近づけることができる。なお、介在は、一対の第1の電線10と第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30とで囲まれる谷間Vにさらに配置してもよい。
【0049】
介在としては、ポリプロピレンヤーンや、スフ糸(レーヨンステープルファイバー)、アラミド繊維、ナイロン繊維、あるいは繊維系プラスチック等の繊維状体や、紙もしくは綿糸を用いることができる。
【0050】
(複合ケーブル1を用いた複合ハーネスの説明)
図4は、本実施の形態に係る複合ハーネスの概略構成図である。
図4に示すように、複合ハーネス6は、本実施の形態に係る複合ケーブル1と、第1の電線10の端部に取り付けられたコネクタ61と、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30の端部に取り付けられ樹脂モールドにより形成されたモールド材62と、を備えて構成される。
【0051】
一対の第1の電線10の端部に取り付けられたコネクタ61は、EPB用電気モータ101aとの接続のための車輪側電源コネクタである。第1の多芯電線20の端部には、第1のABSセンサ104aA(
図4の記号「S
1」参照)が取り付けられている。また、第2の多芯電線30の端部には、第2のABSセンサ104aB(
図4の記号「S
2」参照)が取り付けられている。2つのABSセンサ104aA,104aBを設ける構成により、センサの冗長性を向上することができる。これにより、第1のABSセンサ104aA及び第2のABSセンサ104aBのうち一方が損傷したとしても、これらのうち他方を機能させることができ、車両の安全性を向上させることができる。
【0052】
第1のABSセンサ104aA及び第2のABSセンサ104aBはともに、モールド材62に備えられた突出部621の内部に収納されている。モールド材62の突出部621は、ABS装置104に形成された所定の形状を有する挿入孔(不図示)と篏合するように構成されている。かかる構成により、ABSセンサを2つ設ける場合であっても、ヘッド部を1つに集約することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とをモールド材62内においても離間して配置し、第1の多芯電線20の周囲(
図4の「R」参照)及び第2の多芯電線30の周囲をそれぞれモールド材62で覆うようにしている(
図4の「R」参照。)。かかる構成により、モールド材62と内部シース220,320(外周面220a,320aの全周)とがそれぞれ溶着されるため、モールド材62と内部シース220,320との間からモールド材62内に水が浸入することを抑制することが可能となる。
【0054】
なお、ここでは、第1の電線10と、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30とに別々にコネクタ又はモールド材を設ける場合を説明したが、これら電線を一括して接続する専用のコネクタを備えるようにしてもよい。
【0055】
<複合ハーネス6の変形例>
図5は、本発明の一変形例に係る複合ハーネスの構成の一例を示す概略構成図である。
図5に示すように、第1の多芯電線20と第2の多芯電線30とにそれぞれ個々に樹脂モールドを施してもよい。具体的には、本変形例に係る複合ハーネスは、第1の多芯電線20及び第1のABSセンサ104aAを一括して覆う第1のモールド材62Aと、第1のモールド材62Aと離間する位置に設けられ、第2の多芯電線30及び第2のABSセンサ104aBを一括して覆う第2のモールド材62Bとを備えている。
【0056】
第1のモールド材62Aは、第1のABSセンサ104aAを収容する第1の突出部621Aを有する。第2のモールド材62Bは、第2のABSセンサ104aBを収容する第2の突出部621Bを有する。なお、第1のモールド材62Aと第2のモールド材62Bとを端部(例えば、ABSセンサ104aA,104aB側の先端部)側で繋いで両者を一体化してもよい。なお、第1の突出部621A及び第2の突出部621Bは、それぞれABS装置104に形成された第1の挿入孔(不図示)及び第2の挿入孔(不図示)と嵌合するように構成されている。
【0057】
(実施の形態の作用及び効果)
以上、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30を充実構造とするとともに、一対の第1の電線10の中心軸Oを通る中心面の一方側と他方側とにそれぞれ配置することにより、冗長化のために2つの回転速度センサを設ける構成において第1のツイストペア線210Aの撚りピッチ(第1の撚りピッチ)と第2のツイストペア線310Aの撚りピッチ(第2の撚りピッチ)とが異なっている場合であっても、複合ケーブル1の長手方向に沿った撚合体1Aの外形の変化を抑制することが可能となる。なお、第1の多芯電線20及び第2の多芯電線30を充実構造とすることにより、撚合体1Aの外周側に外部シース50を押出成形する際に、押出成形する際の圧力により第1の内部シース220及び第2の内部シース320が変形してしまうことを抑制することが可能である。これにより、複合ケーブル1の長手方向に沿った撚合体1Aの外形の変化をより抑制することが可能となる。
【0058】
また、複合ケーブル1の長手方向に沿った撚合体1Aの外形の変化が抑制されることにより、撚合体1Aの周方向Cに沿った外部シース50の厚みが、複合ケーブル1の長手方向の位置によって不均一になることを抑制することができる。これにより、複合ケーブル1の端末の加工性を向上させることができる。外部シース50の厚みの不均一性が大きいと、複合ケーブル1の端末加工における外部シース50に切れ込みを入れる作業の際に、充分に外部シース50に切れ込みが入らない箇所ができる可能性がある。充分に外部シース50に切れ込みが入らない箇所があると、撚合体1A側から外部シース50を剥ぎ取りにくくなる虞がある。本発明に係る複合ケーブル1によれば、当該虞を抑制することが可能となり、複合ケーブル1の端末の加工性を向上させることができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0060】
1:複合ケーブル、1A:撚合体、10:第1の電線、11:第1の導体、12:第1の絶縁体、20:第1の多芯電線、210:第2の電線、210A:第1のツイストペア線、210a:外周面、211:第2の導体、212:第2の絶縁体、220:第1の内部シース、220a:外周面、30:第2の多芯電線、310:第3の電線、310A:第2のツイストペア線、310a:外周面、311:第3の導体、312:第3の絶縁体、320:第2の内部シース、320a:外周面、40:テープ部材、50:外部シース、6:複合ハーネス、61:コネクタ、62:モールド材、621:突出部、100:車両、101a:EPB用電気モータ、101b:EPB制御部、101c:パーキングブレーキ作動スイッチ、102:車輪、104:ABS装置、104a,104aA,104aB:ABSセンサ、104b:ABS制御部、105:車体、106:中継ボックス、107:電線群