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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】炭素製ルツボ
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/10 20060101AFI20221213BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/06 502B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019203656
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021075421
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝長 恒成
(72)【発明者】
【氏名】黒川 篤史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英城
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102206855(CN,A)
【文献】特開2011-121827(JP,A)
【文献】特開平10-297992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/10
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に、原料融液を収容する石英ルツボを支持する炭素製ルツボであって、直胴部と、湾曲部と、底部と、からなり、
前記湾曲部は、前記湾曲部の外面から内面に貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、屈曲部を有することを特徴とする炭素製ルツボ。
【請求項2】
チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に、原料融液を収容する石英ルツボを支持する炭素製ルツボであって、直胴部と、湾曲部と、底部と、からなり、
前記湾曲部は、前記湾曲部の外面から内面に貫通する貫通孔と、前記湾曲部の内面において周方向に延びる環状溝と、を有し、
前記環状溝は、前記湾曲部の上方に形成された第1環状溝と、前記湾曲部の下方に形成された第2環状溝と、を有し、
前記貫通孔は、前記内面側の端部が前記第1環状溝内に位置する第1貫通孔と、前記内面側の端部が前記第2環状溝内に位置する第2貫通孔と、を有し、
前記炭素製ルツボは、前記湾曲部の内面に形成され、上下方向に延びて前記第1環状溝と前記第2環状溝とを接続する縦溝を有することを特徴とする炭素製ルツボ。
【請求項3】
チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に、原料融液を収容する石英ルツボを支持する炭素製ルツボであって、直胴部と、湾曲部と、底部と、からなり、
前記炭素製ルツボは、中心軸を含む分割面で複数の炭素製ルツボ片に分割され、
前記湾曲部は、前記湾曲部の外面から内面に貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、周方向に隣接する前記炭素製ルツボ片の分割面に形成されていることを特徴とする炭素製ルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に原料融液を収容する石英ルツボを支持する炭素製ルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶などの単結晶の製造方法として、チョクラルスキー法(以下、CZ法という)と呼ばれる方法が知られている。CZ法において原料融液を収容するために使用されるルツボは、内側を石英ルツボとし、外側を黒鉛ルツボなどの炭素製ルツボとする二重構造である。石英ルツボは炭素製ルツボに収容された状態で引き上げ装置内に設置されて使用される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-43890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor,IGBT)などのパワーデバイス用ウェーハでは、単結晶中の炭素濃度の低減が求められている。炭素汚染の原因としては、単結晶の引き上げ時に炉内で発生した一酸化炭素ガスなど(以下、COガスと呼ぶ。)が原料融液に溶け込むことが挙げられる。
【0005】
COガスの発生源として、以下の2つの発生源が考えられる。第1の発生源は、原料融液がシリコン融液の場合はシリコン融液から発生する一酸化ケイ素ガス(SiO)と、ルツボ周辺に配置されたカーボン製品に含まれる炭素(C)との反応である。第2の発生源は、石英ルツボの石英(SiO)と、炭素製ルツボに含まれる炭素(C)との反応である。
このうち、第2の発生源については、石英ルツボと炭素製ルツボとの間で発生したCOガスはルツボの上端近傍から排出され、排出されたCOガスの一部が石英ルツボ内に導入されて原料融液に取り込まれてしまい、単結晶中の炭素濃度を増加させているものと考えられる。
【0006】
本発明は、チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に、引き上げ中の単結晶に取り込まれる炭素を低減することができる炭素製ルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素製ルツボは、チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に、原料融液を収容する石英ルツボを支持する炭素製ルツボであって、直胴部と、湾曲部と、底部と、からなり、前記湾曲部は、前記湾曲部の外面から内面に貫通する貫通孔を有することを特徴とする。
【0008】
上記炭素製ルツボにおいて、前記貫通孔は、屈曲部を有する。
【0009】
上記炭素製ルツボにおいて、前記湾曲部の内面に周方向に延びる環状溝を有し、前記貫通孔の前記内面側の端部は、前記環状溝内に位置する。
【0010】
上記炭素製ルツボにおいて、前記環状溝は、前記湾曲部の上方に形成された第1環状溝と、前記湾曲部の下方に形成された第2環状溝と、を有し、前記貫通孔は、前記内面側の端部が前記第1環状溝内に位置する第1貫通孔と、前記内面側の端部が前記第2環状溝内に位置する第2貫通孔と、を有し、前記炭素製ルツボは、前記湾曲部の内面に形成され、上下方向に延びて前記第1環状溝と前記第2環状溝とを接続する縦溝を有する。
【0011】
上記炭素製ルツボにおいて、前記貫通孔は、周方向に複数個設ける。
【0012】
前記炭素製ルツボは、中心軸を含む分割面で複数の炭素製ルツボ片に分割され、前記貫通孔は、周方向に隣接する前記炭素製ルツボ片の分割面に形成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、石英ルツボと炭素製ルツボとの接触界面で発生するCOガスを、炭素製ルツボの湾曲部に形成した貫通孔より排出することにより、原料融液に取り込まれるCOガスが低減され、引き上げ中の単結晶に取り込まれる炭素を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る引き上げ装置の概略断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る炭素製ルツボの一部を切り欠いた側面図である。
図3】本発明の実施形態の貫通孔の拡大断面図である。
図4】本発明の実施形態の炭素製ルツボの平面図である。
図5】本発明の実施形態の炭素製ルツボ片の側面図である。
図6】本発明の実施形態の引き上げ装置の作用について説明する断面図である。
図7】本発明の実施形態の貫通孔の変形例を示す断面図である。
図8】通常の炭素製ルツボと本発明の実施形態の炭素製ルツボのCOガス排出効果を確認するために行った実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
〔引き上げ装置〕
図1は、本発明の実施形態に係る引き上げ装置1の概略断面図である。
引き上げ装置1は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶Sを引き上げ、育成を行う装置である。図1に示されるように、引き上げ装置1は、外郭を構成するチャンバ2と、チャンバ2の中心部に配置されるルツボ3と、ヒーター4と、を備える。
【0016】
ルツボ3は、上方から見て円形をなす、シリコン融液M(原料融液)が収容される容器である。ルツボ3は、内側の石英ルツボ3Aと、外側の炭素製ルツボ5とから構成される二重構造である。ルツボ3は、回転および昇降が可能で上下方向に延びる支持軸6の上端部に固定されている。
【0017】
石英ルツボ3Aは、有底円筒形状の石英ガラス製の容器である。
炭素製ルツボ5は、有底円筒形状の黒鉛(グラファイト)製の容器であり、加熱によって軟化した石英ルツボ3Aの形状が維持されるように、石英ルツボ3Aの外面を覆うように石英ルツボ3Aを支持する。
【0018】
ヒーター4は、ルツボ3内のシリコン融液Mを加熱する加熱装置である。ヒーター4は、円筒形状をなし、ルツボ3の外側においてルツボ3の中心軸Aと同軸状に配置されている。ヒーター4は、抵抗加熱式の所謂カーボンヒーターである。ヒーター4の外側には、チャンバ2の内面に沿って断熱材7が設けられている。
【0019】
ルツボ3の上方には、支持軸6と同軸上に引き上げ軸8が配置されている。引き上げ軸8は、ワイヤなどによって形成されている。引き上げ軸8は、軸回りに所定の速度で回転する。引き上げ軸8の下端には種結晶SCが取り付けられている。引き上げ軸8は、種結晶SC(シリコン単結晶S)を回転させる。
【0020】
チャンバ2内には、熱遮蔽体9が配置されている。熱遮蔽体9は、筒状をなし、ルツボ3内のシリコン融液Mの上方で育成中のシリコン単結晶Sを囲む。
熱遮蔽体9は、育成中のシリコン単結晶Sに対して、ルツボ3内のシリコン融液Mやヒーター4やルツボ3の側壁からの高温の輻射熱を遮断する。
【0021】
チャンバ2の上部には、ガス導入口10が設けられている。ガス導入口10は、アルゴンガスなどの不活性ガスG1をチャンバ2内に導入する。チャンバ2の下部には、排気口11が設けられている。排気口11は、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ2内の気体を吸引して排出する。ガス導入口10からチャンバ2内に導入された不活性ガスG1は、育成中のシリコン単結晶Sと熱遮蔽体9との間を下降する。次いで、不活性ガスG1は、熱遮蔽体9の下端とシリコン融液Mの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体9の外側、さらにルツボ3の外側に向けて流れる。その後、不活性ガスG1は、ルツボ3の外側を下降し、排気口11から排出される。
【0022】
図2に示されるように、炭素製ルツボ5は、円筒形状の直胴部51と、円筒形状の湾曲部52と、円形状の底部53と、からなる。湾曲部52は、直胴部51と底部53とを滑らかに接続する。底部53は湾曲している。湾曲部52の曲率は、底部53の曲率よりも大きい。
直胴部51は、略一定の厚さで形成された円筒形状の部位である。直胴部51は、完全に円筒形状とする必要はなく、例えば、上方に向かって内径が漸次大きくなるようなテーパー形状をなしてよい。
【0023】
湾曲部52は、直胴部51と底部53の間の部位である。湾曲部52の内面は、湾曲部52の上端部において直胴部51の内面と滑らかに接続され、湾曲部52の下端部において底部53の内面と滑らかに接続されている。
【0024】
炭素製ルツボ5は、炭素製ルツボ5の高さをHP、湾曲部52の上端部の高さをHCとすると、0.3HP<HC<0.5HPとなるように形成されている。また、炭素製ルツボ5は、炭素製ルツボ5の直径をDP、底部53の直径をDCとすると、0.5DP<DC<0.7DPとなるように形成されている。
直胴部51と湾曲部52と底部53とは、それぞれの内面が滑らかに接続され、有底筒形状をなすように形成されている。
【0025】
本実施形態の炭素製ルツボ5は、底部53中央に形成された円形の開口5Hを有する。開口5Hが支持軸6(図1参照)と組み合わされることによって、炭素製ルツボ5を容易に設置することができる。
【0026】
炭素製ルツボ5の湾曲部52は、複数の貫通孔12(本実施形態の炭素製ルツボ5では、上下3つずつの6つの貫通孔12)を有する。これらの貫通孔12は、湾曲部52の外面から内面に貫通している。貫通孔12の断面形状は円形である。
貫通孔12は、湾曲部52の上方に形成された3つの第1貫通孔12Aと、湾曲部52の下方に形成された3つの第2貫通孔12Bと、を有している。
3つの第1貫通孔12Aは、周方向に等間隔に形成されている。同様に、3つの第2貫通孔12Bは、周方向に等間隔に形成されている。
貫通孔12の数は、これに限ることはなく、少なくとも1つの貫通孔12が形成されていればよい。また、貫通孔12の断面形状は円形に限ることはなく、矩形状としてもよい。
【0027】
炭素製ルツボ5は、湾曲部52の内面に周方向に延びる上下2段の環状溝13を有する。環状溝13は、炭素製ルツボ5の湾曲部52の内面に凹むように形成された切り欠き溝形状である。環状溝13は、湾曲部52の全周にわたって連続して形成されている。
環状溝13は、第1貫通孔12Aを通過するように周方向に延びる第1環状溝13Aと、第2貫通孔12Bを通過するように周方向に延びる第2環状溝13Bと、を有する。換言すれば、貫通孔12の内面側の端部は、環状溝13内に位置する。
なお、環状溝13は、全周にわたって連続して形成されている必要はなく、周方向の一部に形成されている構成としてもよい。
【0028】
炭素製ルツボ5は、上下方向に延びて第1環状溝13Aと第2環状溝13Bとを接続する縦溝14を有する。縦溝14は、湾曲部52の内面に形成されている。本実施形態の炭素製ルツボ5は、複数の縦溝14(本実施形態では12本)を有しており、複数の縦溝14は、周方向に等間隔に形成されている。
【0029】
図3に示されるように、各々の貫通孔12は、直線的に形成されておらず、屈曲部15を有している。本実施形態の貫通孔12は、外側の開口121から水平方向(中心軸Aと直交する方向)に延びる水平部123と、内側の開口122から延びる傾斜部124とから構成されている。傾斜部124は、中心軸Aと傾斜部124の中心軸ATとのなす角度θが20°~30°であり、径方向外側に向かうにしたがって、低くなるように形成されている。
貫通孔12は、傾斜部124と水平部123とが湾曲部52の厚さ方向の中間近傍の屈曲部15で交わるように形成されている。
これにより、各々の貫通孔12は、貫通孔12を介して炭素製ルツボ5の外側から内側を視認できない形状となっている。すなわち、炭素製ルツボ5の外側から光を照射した場合、その光が炭素製ルツボ5の内側に直接的に到達しないように形成されている。
【0030】
貫通孔12の内径と環状溝13の幅と縦溝14の幅とは、同等とすることが好ましい。溝の幅は例えば、1mm~20mmに設定することが好ましく、特に2mm~10mmに設定することが望ましい。また、溝の深さは、炭素製ルツボ5の板厚の20%~40%に設定することが好ましい。
溝の幅が狭すぎる場合には、溝を介してガスが誘導されることによるガス排出効果が得られなくなる。溝の幅が広すぎる場合には、石英ルツボ3Aの軟化変形により、溝内に石英ルツボ3Aが入り込んでしまい、炭素製ルツボ5と石英ルツボ3Aとの熱膨張差に起因して各ルツボの冷却時に炭素製ルツボ5が割れる恐れがある。
【0031】
図4は、炭素製ルツボ5を上方から見た平面図である。ただし、図4では、貫通孔12、環状溝13、および縦溝14の図示は省略している。
図4に示されるように、本実施形態の炭素製ルツボ5は、複数の炭素製ルツボ片5Pに分割されている。各々の炭素製ルツボ片5Pは、炭素製ルツボ5を中心軸Aを含む分割面Pで分割した形状である。本実施形態の炭素製ルツボ5は、周方向に均等に3分割されている。
【0032】
図5は、炭素製ルツボ片5Pの側面図である。図5に示されるように、貫通孔12は、炭素製ルツボ片5Pの分割面Pに形成されている断面半円状の貫通孔用溝12Gによって形成されている。貫通孔12は、周方向に隣接する一方の炭素製ルツボ片5Pの分割面Pに形成された貫通孔用溝12Gと、他方の炭素製ルツボ片5Pの分割面Pに形成された貫通孔用溝12Gとによって、断面円形状の貫通孔12となるように形成されている。
なお、本実施形態の貫通孔12は、一対の貫通孔用溝12Gにより形成されているが、これに限ることはなく、周方向に隣接する一方の炭素製ルツボ片5Pの分割面Pに形成された貫通孔用溝12Gのみで貫通孔12を形成してもよい。また、貫通孔12の断面形状も円形に限らず、矩形、その他の形状でもよい。
【0033】
次に、本実施形態の炭素製ルツボ5を有する引き上げ装置1の作用について説明する。
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶Sの製造の際、シリコン単結晶Sの引き上げ中は、ヒーター4の熱により石英ルツボ3Aを構成する二酸化ケイ素(SiO)と炭素製ルツボ5を構成する炭素(C)とが反応することによって、一酸化炭素ガス(COガス)が発生する。発明者らは、直胴部51、湾曲部52、底部53のうち、湾曲部52が最も温度が高くなる部位であり劣化が大きいことから、この部位におけるCOガスの発生が最も多いと推測し、湾曲部52に貫通孔12を形成した。
【0034】
図6に示されるように、湾曲部52で発生したCOガスG2は、貫通孔12からルツボ3の外部へ排出される。ルツボ3の外部(直胴部51の径方向外側)においては、ガス導入口10から導入された不活性ガスG1が下方に向かって流れており、貫通孔12から排出されたCOガスG2は、シリコン融液Mに向かって流れることなく、不活性ガスG1とともに排気口11より排出される。
ただし、貫通孔を直線形状とすると、ヒーター4からの放射熱が石英ルツボ3Aに直接的に当たってしまうため、石英ルツボ3Aに局所的な温度上昇が生じてしまい、石英ルツボ3Aの軟化変形やシリコン融液にばらつきを生じてしまう恐れがある。このため、本実施形態の貫通孔12に屈曲部15を形成した。
【0035】
上記実施形態によれば、湾曲部52に貫通孔12が形成されていることによって、シリコン融液Mに取り込まれるCOガスが低減され、ひいては、引き上げ中のシリコン単結晶Sに取り込まれる炭素を低減することができる。換言すれば、本実施形態の引き上げ装置1を用いることによって、従来、石英ルツボ3Aと炭素製ルツボ5との間であって、ルツボ3の上縁から排出されていたCOガスの排出経路を変更することができる。
【0036】
また、貫通孔12が形成されていることで、ヒーター4からの放射熱が貫通孔12を介して石英ルツボ3Aと炭素製ルツボ5との接触面に作用し、COガスの排出量が増大するとともに、貫通孔12に対応する箇所の温度が上昇し、シリコン融液Mに意図しない発熱分布が生じることが考えられる。しかし、本実施形態の炭素製ルツボ5では、貫通孔12が屈曲部15を有しているため、ヒーター4からの放射熱が直接的に石英ルツボ3Aに当たらない。これにより、ヒーター4からの石英ルツボ3Aへの局所的な加熱が抑制され、石英ルツボ3Aの軟化変形、およびシリコン融液Mの温度のばらつきを抑制することができる。
【0037】
また、炭素製ルツボ5を3分割構造とし、貫通孔12を炭素製ルツボ片5Pの分割面Pに形成する構成としたことによって、屈曲部15を有する貫通孔12であっても容易に形成することができる。
【0038】
また、炭素製ルツボ5の内面に、貫通孔12を通過する環状溝13を形成するとともに、環状溝13同士を縦溝14で接続する構成としたことによって、COガスの排出効果を高めることができる。
さらに、貫通孔12を周方向に複数個設けたことによって、COガスの排出効果を高めることができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、炭素製ルツボ5を3分割構造としたが、分割数はこれに限ることはない。また、ルツボ3を分割することなく一体成形としてもよい。この場合、貫通孔12は、図3に示す形状となるよう、炭素製ルツボ5の内周側および外周側からエンドミルなどの工具を用いて形成することができる。
また、炭素製ルツボ5は、炭素を含む材料によって形成されていれば、黒鉛ルツボに限ることはなく、例えば、カーボンコンポジットによって形成してもよい。
【0040】
また、貫通孔12の形状は、屈曲した部位を有していれば、これに限ることはない。例えば、貫通孔12を図7に示されるように、蛇行した形状としてもよい。
また、貫通孔12および縦溝14は、周方向に等間隔としなくてもよい。
【0041】
次に、本実施形態の炭素製ルツボ5によるCOガス排出効果を確認するために行った実験について説明する。実験は、炉内に石英ルツボ3Aと炭素製ルツボを設置した状態で空焼き(シリコン融液をルツボ3に収容することなくルツボ3加熱)を実施し、炉から排気されるガスのCO濃度を分析することにより行った。
ガス分析用の配管は、ルツボ3の上端近傍(炉内)および排気口11に配置した。ルツボ3の上端近傍には、3つのガス分析用の配管を設置した。
【0042】
図8は、横軸をガス分析用の配管の設置場所(炉内3ヶ所、および排気口)、縦軸をCOガスの濃度〔ppm〕とし、貫通孔12、環状溝13、および縦溝14が形成されていない通常の炭素製ルツボ(通常品)と、本実施形態の炭素製ルツボ5との比較を示すグラフである。
図8に示すように、特に炉内のルツボ3の上端近傍におけるCOガスの低減を図ることができ、平均して20%のCO濃度の低減を図ることができた。
【0043】
なお、上記実施形態では、引き上げ装置1を用いてシリコン単結晶を製造したが、これに限ることはない。すなわち、本発明の炭素製ルツボは、チョクラルスキー法により単結晶を製造する際に用いる石英ルツボを支持するルツボとして幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…引き上げ装置、2…チャンバ、ルツボ…3、3A…石英ルツボ、5…炭素製ルツボ、5P…炭素製ルツボ片、12…貫通孔、12A…第1貫通孔、12B…第2貫通孔、13…環状溝、14…縦溝、15…屈曲部、51…直胴部、52…湾曲部、53…底部、M…シリコン融液、P…分割面、S…シリコン単結晶。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8