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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】加工装置および加工方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20221213BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G05B19/404 K
B23Q17/24 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019231826
(22)【出願日】2019-12-23
(62)【分割の表示】P 2017563656の分割
【原出願日】2016-01-29
(65)【公開番号】P2020047310
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2019-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山田 智明
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-126989(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057229(WO,A1)
【文献】特開2015-183640(JP,A)
【文献】特開2004-009293(JP,A)
【文献】特開2002-366212(JP,A)
【文献】特開2011-167787(JP,A)
【文献】特開2007-000966(JP,A)
【文献】特開平07-009303(JP,A)
【文献】特開2006-231428(JP,A)
【文献】特開2003-205442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 17/00 - 17/24
B23C 1/00 - 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取り付けられた工具によって被加工物を加工位置で加工する加工部であって、前記被加工物に対して少なくとも5つの自由度で相対移動可能な加工部と、
前記工具の取り付け位置とは異なる位置から前記被加工物の形状または位置を測定する測定部と、
前記加工部と前記測定部とを制御して、前記被加工物の加工を行う加工制御部と、を有し、
前記測定部は、前記被加工物と前記加工部との相対角度が異なる状態で前記工具によって加工された少なくとも2つの加工痕の位置と形状を測定し、
前記加工制御部は、前記測定の結果から得られた前記相対角度と前記加工位置との関係に基づいて前記加工部を制御する、加工装置。
【請求項2】
前記加工部と前記被加工物とを、互いに直交する3方向に、相対的に並進駆動する並進駆動部と、
前記3方向の少なくとも2方向の周りに、相対的に旋回駆動する旋回駆動部と、
を備える、
請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記加工部と共に移動および旋回し、前記旋回駆動部を固定した状態で、前記並進駆動を行い前記被加工物の測定を実行する、
請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記被加工物の三次元形状を測定する光切断センサーを含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項5】
前記測定部は、所定のパターンの光を前記被加工物に向けて投影し前記被加工物に投影されたパターンを撮影することにより前記被加工物の三次元形状を測定する三次元形状測定部を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項6】
前記加工部は、前記被加工物の製品製造のための加工に先立って、校正用の加工を行う、
請求項1から5のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項7】
前記加工部は、前記被加工物と前記加工部の相対角度を第1角度に設定して行う第1加工と、前記被加工物と前記加工部の相対角度を第2角度に設定して行う第2加工とを含む前記校正用の加工を行い、
前記測定部は、前記第1加工と前記第2加工とによって前記被加工物に形成された前記加工痕の形状または位置を測定し、
前記加工制御部は、前記関係に基づいて、前記被加工物の製品製造のための加工を制御する、
請求項6に記載の加工装置。
【請求項8】
前記第1角度と前記第2角度とのいずれか大きい角度は、前記校正用の加工に引き続いて行われる前記製品製造のための加工を行う際の前記相対角度よりも大きい、
請求項7に記載の加工装置。
【請求項9】
前記被加工物は、前記校正用の加工を行う校正用加工領域、および、前記製品製造のための加工を行う製品用加工領域を含む、
請求項6から8のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項10】
前記被加工物の校正用加工領域は、前記製品用加工領域と一体的に形成される、
請求項9に記載の加工装置。
【請求項11】
前記被加工物の前記校正用加工領域は、前記製品用加工領域の加工の際に削り取られる、
請求項9または10に記載の加工装置。
【請求項12】
前記加工部は工具を取り外し可能に取り付ける工具取り付け部を含む、
請求項6から11のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項13】
前記加工部は使用する工具を取り外し交換可能であり、
前記校正用の加工は、前記工具の交換に応じて行われる、
請求項6から12のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項14】
取り付けられた工具によって被加工物を加工位置で加工する加工部と、前記加工部の工具の取り付け位置とは異なる位置から前記被加工物の形状または位置を測定する測定部とを備える加工装置を用いて被加工物を加工する方法であって、
前記被加工物と、前記被加工物を加工位置で加工する前記加工部との相対角度とを変えて、前記被加工物に少なくとも2つの加工痕を形成することと、
前記少なくとも2つの加工痕の位置および形状を前記測定部で測定することと、
前記測定した結果から得られた前記相対角度と前記加工位置との関係に基づいて前記被加工物を加工することと、
を含む加工方法。
【請求項15】
取り付けられた工具によって被加工物を加工位置で加工する加工部と、前記加工部の工具の取り付け位置とは異なる位置から前記被加工物の形状または位置を測定する測定部とを備える加工装置を用いて被加工物を加工する方法であって、
前記加工部によって被加工物を加工することと、
前記加工部の前記被加工物に対する位置を校正することと、を含み、
前記校正することは、
被加工物と、前記被加工物を加工位置で加工する加工部との相対角度とを変えて、前記被加工物に少なくとも2つの加工痕を形成することと、
前記少なくとも2つの加工痕の位置および形状を前記測定部で測定することと、
前記測定した結果から得られた前記相対角度と前記加工位置との関係に基づいて、前記相対角度および前記加工位置の少なくとも一方を校正することと、
を含む加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5軸の複合加工装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2007-75995号公報
【発明の概要】
【0004】
従来技術では、形状測定ユニットを加工装置に取り付けて測定を行う場合、測定時に加工装置の位置決め精度の影響を受けてしまう問題があった。このような誤差が、ワークに形成される形状の精度を低下させるという問題があった。
【0005】
本発明の第1の態様による加工装置は、取り付けられた工具によって被加工物を加工位置で加工する加工部であって、前記被加工物に対して少なくとも5つの自由度で相対移動可能な加工部と、前記工具の取り付け位置とは異なる位置から前記被加工物の形状または位置を測定する測定部と、前記加工部と前記測定部とを制御して、前記被加工物の加工を行う加工制御部と、を有し、前記測定部は、前記被加工物と前記加工部との相対角度が異なる状態で前記工具によって加工された少なくとも2つの加工痕の位置と形状を測定し、前記加工制御部は、前記測定の結果から得られた前記相対角度と前記加工位置との関係に基づいて前記加工部を制御する。
本発明の第2の態様による加工方法は、取り付けられた工具によって被加工物を加工位置で加工する加工部と、前記加工部の工具の取り付け位置とは異なる位置から前記被加工物の形状または位置を測定する測定部とを備える加工装置を用いて被加工物を加工する方法であって、前記被加工物と、前記被加工物を加工位置で加工する前記加工部との相対角度とを変えて、前記被加工物に少なくとも2つの加工痕を形成することと、前記少なくとも2つの加工痕の位置および形状を前記測定部で測定することと、前記測定した結果から得られた前記相対角度と前記加工位置との関係に基づいて前記被加工物を加工することと、を含む。
本発明の第3の態様による加工方法は、取り付けられた工具によって被加工物を加工位置で加工する加工部と、前記加工部の工具の取り付け位置とは異なる位置から前記被加工物の形状または位置を測定する測定部とを備える加工装置を用いて被加工物を加工する方法であって、前記加工部によって被加工物を加工することと、前記加工部の前記被加工物に対する位置を校正することと、を含み、前記校正することは、被加工物と、前記被加工物を加工位置で加工する加工部との相対角度とを変えて、前記被加工物に少なくとも2つの加工痕を形成することと、前記少なくとも2つの加工痕の位置および形状を前記測定部で測定することと、前記測定した結果から得られた前記相対角度と前記加工位置との関係に基づいて、前記相対角度および前記加工位置の少なくとも一方を校正することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施の形態による加工装置を例示する図である。
図2図2(a)はワークの一例を示す図、図2(b)は加工痕形成部を例示する図である。
図3】加工装置の要部構成を例示するブロック図である。
図4】校正処理の流れを説明するフローチャートである。
図5】加工処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、一実施の形態による5軸複合工作機械として構成した加工装置1を例示する図である。なお、以下に説明する実施の形態は、発明の理解のために具体的に例示するものであり、特に指定の無い限り、発明を限定するものではない。
【0008】
図1において、コラム2がコラムベッド9に対して立設されている。コラムベッド9にY軸方向にスライドレール9aが形成されている。コラムベッド9に対して、ターニングテーブル15がY軸方向(前後方向)にスライド自在に設けられている。ターニングテーブル15(ワークテーブルとも称する)は、被加工物であるワークWの載置台である。ターニングテーブル15は、コラムベッド9のスライドレール9aに沿ってY軸方向に駆動できるように設けられた不図示のY軸駆動機構により、移動することができる。また、ターニングテーブル15は、ワーク主軸Cを中心に回動可能である。ワークWは、このターニングテーブル15上に芯出し位置決めし、固定される。
【0009】
本実施の形態では、上記のように、ワーク主軸Cの割出し方向に回動自在に設けたターニングテーブル15を、コラムベッド9上でY軸方向に移動自在に設けたので、ターニングテーブル15上に載置されたワークWが、コラム2に対して相対的に並進移動自在(Y軸方向)である。
また、ターニングテーブル15にはスライドレール9aに対してワーク主軸Cを中心に回転駆動させるターニングテーブル回転機構も備えられている。
【0010】
一方、コラム2には、例えば横レール3がY軸方向と直交するX軸方向(左右方向)に設けられている。また、横レール3には、横レール3と交叉係合し、横レール3に沿ってX軸方向に並進移動自在な縦レール4が、Y軸方向と直交するZ軸方向(上下方向)に設けられている。
【0011】
縦レール4にはさらに、縦レール4と係合し、縦レール4に沿ってZ軸方向に並進移動自在な刃物台5が設けられている。以上の構成により、ターニングテーブル15上に載置されたワーク(不図示)が、刃物台5に対して相対的に、X軸方向およびZ軸方向に並進移動自在である。
なお、横レール3にはX軸駆動機構11が設けられているので、縦レール4および刃物台5をX方向に自在に移動制御が可能である。また、縦レール4にはZ軸駆動機構13が設けられているので、刃物台5をZ方向に自在に移動制御が可能である。
なお、本明細書では、X軸駆動機構11と横レール3からなる移動機構をX軸移動機構、Z軸駆動機構13と縦レール4からなる移動機構をZ軸移動機構、スライドレール9aとY軸駆動機構からなる移動機構をY軸移動機構と称し、X軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構をまとめて並進移動機構と称す。
【0012】
刃物台5には、工具取り付け部6が、工具主軸AがYZ平面と平行な面内(前後方向)に旋回可能に設けられる。すなわち、工具取り付け部6はX軸に平行な旋回軸Bの周りに旋回可能に設けられる。工具取り付け部6の下部先端のチャック部には、例えばバイト、ドリルなどの工具7がチャックされる。チャックされた工具7は、不図示のモータによって工具主軸Aを回転軸として回転する。
【0013】
工具取り付け部6は、旋回機構を備えたユニバーサルヘッドを構成する。すなわち、旋回軸Bの周りに旋回自在に工具取り付け部6を軸支し、不図示の旋回軸駆動機構により、旋回軸Bの周りに工具取り付け部6を旋回制御自在に構成する。このような構成により、旋回軸Bの周りに旋回する工具取り付け部6に対して、旋回軸駆動機構を制御することによって工具取り付け部6のチャック部にチャックした工具7を首振り制御し、ターニングテーブル15に載置されたワークWに対する工具7または形状測定ユニット20の角度(姿勢)を自在に調整する。
なお、スライドレール9a、縦レール4、横レール3のそれぞれにはリニアエンコーダが設けられており、ターニングテーブル15の位置および刃物台5の位置を求めることができる。また、旋回軸B、ワーク主軸Cおよび工具主軸Aにもロータリーエンコーダが設けられており、それぞれの回動角度を求めることができる。
なお、本実施の形態における加工装置1は、上述の並進移動機構と、工具取付け部6に構成された旋回機構および旋回軸駆動機構と、ターニングテーブル15とターニングテーブル駆動機構とで位置変更部が構成されている。本実施の形態における加工装置1は、この位置変更部により、ターニングテーブル15に載置された被加工物と刃物台5に保持された工具7との相対的な位置を変更する。
【0014】
形状測定ユニット20は、例えば、工具取り付け部6に取り付けられており、ターニングテーブル15に載置されたワークWの三次元形状を測定するための画像データを取得するユニットである。形状測定ユニット20は、例えば、本願出願人により出願された特開2008-256484号公報に記載されている光切断法により、ワークWの三次元形状を測定することができるユニットである。
【0015】
この形状測定ユニット20は、被検物(本例ではワークW)に特定のパターンの光(例えばスリット状のスリット光)を投影して、ワークWに投影されたパターンを投影方向とは別方向から画像センサーにより撮影するユニットである。なお、撮影した画像は不図示の制御部に送出され、この制御部により、撮影した画像から画像上におけるパターンの像の位置を求め、かつ求めたパターンの位置と、ターニングテーブル15に対する形状測定ユニット20の位置および角度(姿勢)に基づき、ワークWの形状を算出することでスリット光が照射された位置におけるワークWの三次元位置を求めることができる。また、各駆動機構を移動させながら、スリット光が照射される位置を走査し、その照射される位置が変わる度に画像を取得することで、ワークWの三次元形状を求めることができる。
なお、形状測定の際には、形状測定ユニット20を被検物に対して相対的に走査させながら、加工痕等の三次元形状の測定が行われるので、位置変更部から移動軸または旋回軸Bの位置情報をエンコーダから取得する必要がある。そのため、位置変更部の並進移動機構に設けられたエンコーダからの信号取得タイミングと形状測定ユニット20による撮影タイミングとを同期させることで、形状測定精度を向上することができる。具体的には米国特許公報第6611617号に開示されているような同期方法を採用することが好ましい。なお、形状測定ユニット20と形状測定ユニット20から得られたデータを基に三次元形状を算出する制御部については、他にも特開2015-129665号に開示された形状測定ユニットと制御部を用いることでもよい。この形状測定ユニットは一定領域において加工痕と形状測定ユニットの相対移動なし三次元形状を求めることができる。したがって、このような形状測定ユニットを用いることにより、位置変更部からのエンコーダ情報を用いる必要なく複数の加工痕の相対位置関係を算出することが可能である。
【0016】
ワークWの三次元形状の測定時は、ワークWに対する形状測定ユニット20の位置を相対移動させて、ワークWをスリット光により走査する。この走査は、ターニングテーブル15上に載置されたワークWを、刃物台5(すなわち形状測定ユニット20)に対して相対的に、X軸方向、Y軸方向またはZ軸方向に並進移動させて行う。この際、工具取り付け部6を旋回軸B周りに旋回させる必要はない。これにより旋回軸Bやワーク主軸Cによる位置決め誤差による形状測定誤差が生じなくなる。
【0017】
形状測定ユニット20により、工具7によって加工されたワークWの加工痕を測定することで、加工痕の形状を測定できる。測定対象とする加工痕の全てが形状測定ユニット20による視野範囲に収まらない場合には、ターニングテーブル15上に載置されたワークWを、刃物台5(すなわち形状測定ユニット20)に対して相対的に並進移動させることにより、それぞれの加工痕を形状測定ユニット20による視野範囲に収めるようにしてもよい。この際、工具取り付け部6を旋回軸Bやワーク主軸C周りに旋回させない方が好ましい。
次に、本発明の実施の形態における加工装置1の補正方法について説明する。本発明の実施の形態では、加工装置1の補正方法を行うために、まず、製品形状にワークWを加工する前に、複数の加工痕を形成する。図2(a)は、ワークWの一例である。この円筒状のワークWの上端面には、予め複数の加工痕を形成するための加工痕形成部W1、W2が一体的に形成されている。この加工痕形成部W1、W2は矩形形状を有しており、各面が平面である。図2(b)は、ワークWの加工痕形成部W1の拡大図である。たとえば、加工装置1の補正用に形成する加工痕は、図2(b)のように同一面に形成された複数の加工痕である。複数の加工痕は、形状測定ユニット20で形状を測定する際、形状測定ユニット20を旋回軸Bやワーク主軸C周りで相対移動させて測定することを十分に避けることができる。特に、形状測定ユニット20でワークWを測定する場合、X軸、Y軸およびZ軸方向の並進移動の位置決めで生ずる誤差に対して、旋回軸Bの位置決め角度誤差の方が形状測定結果に及ぼす誤差が大きい。なぜなら、旋回軸Bの位置決め角度誤差により、旋回軸BからワークWの測定位置までの距離に応じて、比例的に測定位置の位置ズレ量が拡大してしまうためである。また同様に、ワーク主軸CからワークW上の加工位置までの距離に応じて、ターニングテーブル15の位置決め角度誤差により比例的に測定位置のズレ量が拡大してしまうことが理由となる。
【0018】
なお、それぞれ異なる場所に形成されたワークWの加工痕を形状測定ユニット20の視野範囲に収めるためにワークWをX軸方向、Y軸方向またはZ軸方向に並進移動させる場合とは、次のような場合である。図2(b)に例示した加工痕形成部W1は、複数の加工痕101および加工痕102を有する。加工痕101および102は、同じ工具7によって異なる姿勢によりそれぞれ加工したものである。この加工痕はある目的の形状創生を行うために形成された加工痕でなく、試し加工などでワークWにつけられた加工痕であればよい。そのため、加工痕の形状についてはいかなる形状でもよい。ただし、複数の加工痕の両者の相対位置関係を求めやすい形状であれば良い。また、このような複数の加工痕101および102の形状を形状測定ユニット20で測定する場合において、形状測定ユニット20による視野範囲に加工痕101および102が両方とも収まる場合(加工痕101を形状測定する画像に加工痕102も収まっている場合)には、加工痕101および102の形状を測定するためにワークWを並進移動させる必要はない。このようにすることで、加工装置の並進移動時に生ずる位置決め誤差による形状測定誤差を生じなくすることができる。
【0019】
しかし、一方の加工痕しか視野範囲に収まらない場合(加工痕101を形状測定する画像から加工痕102が外れている場合)には、例えば、先に加工痕101を視野範囲に収めて加工痕101の形状を測定した上で、形状測定ユニット20(すなわち刃物台5)を、ターニングテーブル15上に載置されたワークWに対して相対的に、X軸方向、Y軸方向またはZ軸方向に並進移動させる。そして加工痕102を視野範囲に収めて加工痕102の形状を測定する。加工痕101の形状測定データと加工痕102の形状測定データとの相対位置関係は、加工痕101の形状測定時から加工痕102の形状測定時に行われた並進移動させた距離と方向に基づいて算出することができる。
【0020】
上述のように、回動移動よりも並進移動により生ずる位置決め誤差による形状測定結果の影響は十分に低いので、Y軸方向への並進移動を行って測定される加工痕101と加工痕102との相対距離の測定精度は、形状測定ユニット20の視野範囲に加工痕101および102の双方が同時に収まる状態で測定される加工痕102と加工痕101との相対距離の測定精度とほぼ同程度である。
なお、X軸方向やZ軸方向へ並進移動する場合も同様である。
また、加工痕形成部W1、W2はワークWを製品形状に加工する際には、削り取られるような部材であってもよい。
【0021】
<校正処理の概要>
ところで、本実施の形態では、上述したような5軸制御の加工装置1によってワークWに形成される形状の精度を高めるため、以下のような校正処理を行う。すなわち、図2に例示したように、ターニングテーブル15上の所定位置に載置されたワークWに対して複数の試験加工(校正用の加工)を行い、ワークWに複数の加工痕101および加工痕102を残す。
【0022】
具体的には、工具7の旋回軸B周りの旋回角の設定角度をθ1に設定し、ワークW上における計算上での工具7の刃先の位置を目標位置P101となるようにワークWを並進移送させてワークWに対して加工を行い、ワークW上に図2の左側に示した加工痕101を形成する。
【0023】
次に、目標位置P101からY軸マイナス方向に所定距離だけ離れた目標位置P102を設定する。旋回軸B周りの旋回角の設定角度をθ2に設定し、ワークW上における計算上での工具7の刃先の位置を目標位置P102となるようにワークWを並進移動させてワークWに対して加工を行い、ワークW上に図2の右側に示した加工痕102を形成する。
【0024】
形状測定ユニット20でワークWの複数の加工痕101及び加工痕102の画像データを取得し、取得された画像データを基に制御部30により、ワークWの複数の加工痕101および加工痕102の形状および位置を算出する。工具7の先端の旋回角度精度が理想的であれば、測定した加工痕101および加工痕102の形状および位置が、加工装置1において校正用の加工時に目標とした複数の校正用加工形状および位置の許容範囲内に存在する。しかしながら、旋回軸から工具7の先端までは比較的距離が長いため、工具7の先端の旋回角度の精度が高くとも、加工痕の形成位置が許容された範囲にない場合がある。
【0025】
そこで、本実施の形態では、工具取り付け部6(すなわちチャックされた工具7の刃先)の旋回軸B周りにおける旋回角度ごとに、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向のそれぞれの座標値に対して適用する補正値を求める。これらの補正データを求めるために、ワークWに対する工具取り付け部6(すなわちチャックされた工具7の刃先)の旋回角度を複数の異なる値に変化させて校正用の加工を複数回行い、ワークW上に複数の校正用の加工痕101および加工痕102を形成する。
【0026】
なお、校正用の加工痕は、工具7の径や長さ、工具7の軸方向も取得し得るように、ワークWのいずれかの面において観察可能な形状に加工する。なお、工具7の刃先の径や工具7の軸方向、刃物台5に対する工具7の取り付け姿勢については、加工痕形状データ取得部で得られた三次元形状データから加工痕の表面形状データを求め、その表面形状データと工具7の加工軌跡データから算出してもよい。本実施の形態では、図2に例示するように、Y―Z平面に平行な面に対してX軸マイナス側に凹となるような加工痕101および加工痕102を形成する。加工痕101および加工痕102の位置および形状を測定することで、それぞれにおける、ワークWに対する工具7の角度(工具7の軸方向)、工具7の径、および加工された長さ(深さ)を取得することができる。また、加工痕101、加工痕102の相対的な位置関係を測定することができる。
【0027】
<ブロック図の説明>
図3は、加工装置1の要部構成を例示するブロック図である。図3において、加工装置1は、入力部10と、形状測定ユニット20と、制御部30と、X軸駆動機構11と、Y軸駆動機構50と、Z軸駆動機構13と、旋回軸駆動機構70と、ワーク主軸駆動機構80とを含む。
【0028】
入力部10は、例えば、オペレータによって操作される操作パネルによって構成される。オペレータは、加工装置1によってワークWに所定の加工を行わせるべく、例えば、目標とする工具7による加工の始点位置(三次元座標)、終点位置(三次元座標)、およびワークWに対する工具7の刃先の角度を示すデータの入力操作を行う。入力部10は、オペレータによって入力された情報を位置情報算出部31へ転送する。
【0029】
なお、オペレータは、加工装置1に校正用の加工を行わせる場合には、目標とする校正用の工具7による加工の始点位置(三次元座標)、終点位置(三次元座標)、およびワークWに対する工具7の刃先の角度(ワークWに対する工具主軸Aの軸方向の角度)を示すデータの入力操作を行う。
オペレータは、複数の加工痕101、102がそれぞれ加工痕を形成するワークW上で近接した位置に形成されるように、データを入力する。「近接した位置」とは、例えば、次のいずれかが満たされるものであってもよい。
(1)ワークWに形成された加工痕101、102の位置が、形状測定ユニット20を加工痕101、102に対して相対移動することなしに、加工痕101、102の少なくとも一部を測定可能であること。
(2)ワークWに形成された加工痕101、102の位置が、形状測定ユニット20のワークWに対する測定方向を変える必要の無い位置に形成されていること。
(3)ワークWに形成された加工痕101、102の位置が、後述の加工痕形状データ取得部32によって取得される加工痕101、102それぞれの形状データを少なくとも一部で分離できる位置関係にあること。
なお、ワークWにそれぞれ形成された加工痕101および102は、以下のようにして設けるようにしてもよい。形状測定ユニット20で加工痕101および102の一方の測定を行ってから、他方の測定する際に、少なくとも旋回軸である旋回軸Bを中心に回動する回動移動の必要が無い位置に加工痕101および102が形成されていること。
【0030】
また、オペレータは、加工装置1に製品用の加工を行わせる場合には、目標とする製品用の加工形状(三次元座標)、および加工位置ごとのワークWに対する工具7の刃先の角度を示すデータの入力操作を行う。
【0031】
なお、オペレータが入力部10に対して入力操作を行う代わりに、あらかじめプリセットされている情報(目標とする工具7のワークWへの進入経路の始点位置(三次元座標)、終点位置(三次元座標)、およびワークWまたはターニングテーブル15に対する工具7の角度または工具主軸Aの角度))を位置情報算出部31へ転送するように構成してもよい。
【0032】
形状測定ユニット20は、制御部30からの測定指示により、上述したようにワークWの複数の加工痕101および加工痕102の形状および位置を測定する。形状測定ユニット20は、測定結果を制御部30へ送る。
【0033】
制御部30は、位置情報算出部31と、加工痕形状データ取得部32と、比較部/補正データ作成部33と、5軸NCデータ生成部34と、補正データ記憶部35とを含む。
【0034】
位置情報算出部31は、入力部10から入力されたワークWまたはターニングテーブル15に対する工具7の角度または工具主軸Aの角度に基づき、旋回軸B周りに旋回する工具取り付け部6の旋回角度(所定の基準軸に対する工具主軸Aの角度)を決定する。また、位置情報算出部31は、入力部10から入力された情報に基づき、それぞれの旋回角度により形成されるべき加工形状(目標とする加工形状)を示す三次元的な位置のデータを算出する。位置情報算出部31はさらに、校正処理の際に、目標とする複数の校正用の加工形状を示すデータから、基準となる複数の校正用加工形状のノミナル相対位置情報(複数の校正用の加工形状の相対位置)を算出する。
【0035】
加工痕形状データ取得部32は、形状測定ユニット20から送られた加工痕101および加工痕102の画像情報からスリット光の像の位置を求め、かつ求めたパターンの位置と、ターニングテーブル15に対する形状測定ユニット20の位置および角度(姿勢)に基づき、加工痕101および加工痕102の三次元形状および位置を求める。
【0036】
比較部/補正データ作成部33は、加工痕形状データ取得部32によって加工痕101および加工痕102の三次元的な位置情報から相対位置情報を取得する。そして、校正処理の際に、旋回角度Θごとに、位置情報算出部31によって算出された加工痕101および加工痕102のノミナル相対位置情報と、加工痕形状データ取得部32によって取得された相対位置情報とを比較し、両者の間で相違する相対位置の相違情報(Δx,Δy,Δz)を取得する。比較部/補正データ作成部33はさらに、相違情報(Δx,Δy,Δz)に基づき、旋回角度Θを引数とする補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を作成する。
【0037】
比較部/補正データ作成部33は、実際に校正用の加工痕の形成を行ったときのそれぞれの旋回角度の間の旋回角度については、校正用の加工を行った複数の旋回角度についての相違情報を補間することによって、その旋回角度に対応する補正データを算出する。また、校正用の加工を行った旋回角度よりも大きい旋回角度については、上記複数の旋回角度についての相違情報を外挿することによって、その旋回角度に対応する補正データを算出する。
【0038】
補正データ記憶部35は、上記旋回角度Θを引数とする補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を記憶する。補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ)は、校正処理の際に、制御部30の指示によって補正データ記憶部35に記録される。また、補正データ記憶部35が記憶する補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))は、製品用の加工を行う場合において、制御部30によって指定された旋回角度Θに対応する補正データが読み出される。
【0039】
5軸NCデータ生成部34は、入力部10から入力された情報と工具7の情報(刃の形状、工具の径、工具の長さ、チャックされる位置)とに基づき、5軸の制御量(例えばNC(Numerical Control)データ)を生成する。5軸NCデータ生成部34はさらに、製品用の加工を行う場合において、生成した5軸の制御量を、補正データ記憶部35から読み出した補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))によって補正する。本出願明細書で説明されている位置変更部の制御量を補正する補正部としての機能も有する。すなわち、生成した5軸の制御量のうちのX軸、Y軸、およびZ軸の制御量を補正データによってそれぞれ補正する。
【0040】
5軸NCデータ生成部34は、加工装置1で校正用の加工を行う場合には、生成した5軸の制御量に基づいて旋回軸駆動機構70、ワーク主軸駆動機構80、X軸駆動機構11、Y軸駆動機構50、およびZ軸駆動機構13へそれぞれ出力する。
また、5軸NCデータ生成部34は、加工装置1で製品の加工を行う場合には、生成した5軸の制御量を上記補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ)によって補正して、旋回軸駆動機構70、ワーク主軸駆動機構80、X軸駆動機構11、Y軸駆動機構50、およびZ軸駆動機構13へそれぞれ出力する。
【0041】
旋回軸駆動機構70は、5軸NCデータ生成部34からの制御量に基づき、旋回軸B周りに旋回する工具取り付け部6の旋回角度(基準軸に対する工具主軸Aの角度)を制御する。ワーク主軸駆動機構80は、5軸NCデータ生成部34からの制御量に基づき、ターニングテーブル15の回転角度(ワーク主軸Cを回転軸とする)を制御する。
【0042】
X軸駆動機構11は、5軸NCデータ生成部34からの制御量に基づき、刃物台5のX軸方向の並進移動量を制御する。Y軸駆動機構50は、5軸NCデータ生成部34からの制御量に基づき、ワークWのY軸方向の並進移動量を制御する。Z軸駆動機構13は、5軸NCデータ生成部34からの制御量に基づき、刃物台5のZ軸方向の並進移動量を制御する。
【0043】
<フローチャートの説明>
図4は、校正処理の流れを説明するフローチャートである。制御部30は、校正処理を行う場合に図4による処理を起動させる。図4のステップS10において、制御部30の位置情報算出部31は、入力部10から入力された角度情報(設定角度θ1、θ2)と工具7による加工の始点位置および終点位置情報に基づき、旋回軸B周りの工具主軸Aの旋回角度を決定してステップS20へ進む。なお、この場合、始点位置と終点位置を直線で結んだ方向を基に、その方向に応じた仰角を基に旋回軸Bの角度を設定する。
【0044】
ステップS20において、制御部30の位置情報算出部31は、入力部10から入力された情報に基づき、それぞれの旋回角度において形成されるべき校正用の複数の加工形状(目標とする加工形状)を示すデータを生成してステップS30へ進む。
【0045】
ステップS30において、制御部30の位置情報算出部31は、目標とする複数の加工形状を示すデータから、複数の加工形状のノミナル相対位置情報を算出し、ステップS40へ進む。ステップS40において、制御部30の5軸NCデータ生成部34は、目標とする加工形状と工具7の情報とに基づき、NCデータを生成してステップS50へ進む。
【0046】
ステップS50において、制御部30は、5軸のNCデータを基に、旋回軸駆動機構70、ワーク主軸駆動機構80、X軸駆動機構11、Y軸駆動機構50、およびZ軸駆動機構13へそれぞれ制御データを出力してステップS60へ進む。
これにより、ワークWに校正用の加工痕101および加工痕102が形成される。
【0047】
ステップS60において、制御部30は形状測定ユニット20へ指示を送り、加工痕101および加工痕102の形状および位置を算出するために必要な画像情報を取得させる。そして、加工痕形状データ取得部32により必要な画像情報と各駆動軸の位置情報、角度情報を基に、加工痕101および加工痕102の三次元形状および位置情報を算出する。算出された三次元形状および位置情報から、加工痕101および加工痕102の相対位置情報を取得してステップS70へ進む。
【0048】
ステップS70において、制御部30の比較部/補正データ作成部33は、ステップS30で算出した相対位置情報(目標とする校正用の加工痕のノミナル相対位置情報)と、ステップS60で取得した相対位置情報(加工痕101および加工痕102の相対位置情報)とを比較し、相対位置の相違情報(Δx,Δy,Δz)を取得してステップS80へ進む。
【0049】
ステップS80において、制御部30の比較部/補正データ作成部33は、相違情報(Δx,Δy,Δz)に基づき、旋回角度Θごとに補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を作成してステップS90へ進む。
【0050】
ステップS90において、制御部30は、旋回角度Θを引数とする補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を補正データ記憶部35へ記録して図4による処理を終了する。
【0051】
以上説明した校正処理は、例えば、工具7を交換したとき、前回の校正処理後に製品の加工を所定回数行ったとき、製品用のワークWの形状を前回まで使用した形状と異なる形状に変更するとき、製品用の加工の内容を変更するときなどに、必要に応じて行うとよい。とくに、この校正処理は、ワークWから被加工物を形状創生する前に、同じワークWに対して校正用加工痕を形成することで実施することが好ましい。
【0052】
その際、校正処理に用いるワークWは、校正専用のワークWを用いてもよいし、製品用のワークWを用いてもよい。製品用のワークWを用いる場合は、最終的に製品となる部分以外の部分、すなわち、製品には不要な部分に校正用の加工を施すとよい。
【0053】
図5は、加工処理の流れを説明するフローチャートである。制御部30は、加工装置1で加工を行う場合に図5による処理を起動させる。図5のステップS210において、制御部30は、校正処理を行うか否かを判定する。制御部30は、オペレータによる校正処理の指示を受けた場合にステップS210を肯定判定してステップS220へ進み、ステップS220において上述した校正処理(図4)を行う。一方、制御部30は、オペレータによる校正処理の指示を受けない場合には、ステップS210を否定判定してステップS230へ進む。
【0054】
ステップS230において、制御部30の位置情報算出部31は、入力部10から入力された情報に基づき、工具主軸Aの旋回角度を抽出してステップS240へ進む。
【0055】
ステップS240において、制御部30の位置情報算出部31は、入力部10から入力された情報に基づき、それぞれの旋回角度において形成されるべき製品用の加工形状(目標とする加工形状)を示すデータを生成してステップS250へ進む。
【0056】
ステップS250において、制御部30の5軸NCデータ生成部34は、目標とする加工形状と工具7の情報とに基づき、5軸のNCデータを生成してステップS260へ進む。
【0057】
ステップS260において、制御部30は、補正データが存在するか否かを判定する。制御部30は、校正処理済みであり、補正データ記憶部35に補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))が記録されている場合にステップS260を肯定判定してステップS270へ進む。制御部30は、校正処理の前であり、補正データ記憶部35に補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))が記録されていない場合には、ステップS260を否定判定してステップS300へ進む。
【0058】
ステップS270において、制御部30は、ステップS230で抽出した旋回角度ごとに、対応する補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を補正データ記憶部35から読み出してステップS280へ進む。
【0059】
ステップS280において、制御部30の5軸NCデータ生成部34は、ステップS250で生成した5軸の制御量を、ステップS230で抽出した旋回角度ごとに、補正データ記憶部35から読み出した補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))によって補正してステップS290へ進む。
【0060】
ステップS290において、制御部30は、補正後の5軸のNCデータを旋回軸駆動機構70、ワーク主軸駆動機構80、X軸駆動機構11、Y軸駆動機構50、およびZ軸駆動機構13へそれぞれ出力して図5による処理を終了する。
これにより、ワークWに製品用の加工が行われる。
【0061】
ステップS260を否定判定して進むステップS300において、制御部30は、補正していない5軸のNCデータを旋回軸駆動機構70、ワーク主軸駆動機構80、X軸駆動機構11、Y軸駆動機構50、およびZ軸駆動機構13へそれぞれ出力して図5による処理を終了する。この場合は、補正なしのNCデータを用いてワークWに加工が行われる。
【0062】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)上記加工装置1で用いた補正方法は、ワークWと工具7との相対的な姿勢を変える旋回軸Bを備え、ワークWと工具7との相対的な位置を変更する駆動機構11、13、50、70と、駆動機構11、13、50、70の旋回軸B、およびその他のX軸、Y軸、Z軸の位置を制御する制御部30とを備える加工装置1に適用される。そして、補正方法は、ワークWの製品用の加工前に、近接した位置に、旋回軸Bにおける異なる設定角度θ1、θ2の各々でそれぞれ校正用の加工痕101、102をワークWに形成し、加工痕101、102の相対位置関係と、制御部30が指示する加工形状、すなわち目標とする校正用の加工痕のノミナル相対位置関係との差に基づいて、補正値を取得し、取得された補正値を基に駆動機構11、13、50へ出力される制御値を補正する。この補正方法によれば、加工後のワークWに形成される形状の精度の低下を抑えることができる。とくに、旋回軸B周りに工具7を旋回させる際の工具7の先端位置精度の影響を抑えたい場合に有効である。
なお、近接した位置に校正用の加工痕101、102をワークWに形成する旨の「近接した位置」とは、上述したように、ワークWに形成された加工痕101、102の位置が、形状測定ユニット20を加工痕101、102に対して相対移動することなしに、加工痕101、102の少なくとも一部を測定可能な位置であってもよい。また、ワークWに形成された加工痕101、102の位置が、形状測定ユニット20のワークWに対する測定方向を変える必要の無い位置に形成されていてもよい。さらにまた、ワークWに形成された加工痕101、102の位置が、加工痕形状データ取得部32で取得したそれぞれの加工痕の形状データが少なくとも一部で分離できるような位置関係であってもよい。
【0063】
(2)加工装置1は、画像センサーを有した形状測定ユニット20を備える。そして、上記補正方法において、制御部30は、画像センサーで取得できる視野範囲内に形成されたそれぞれの加工痕101、102の三次元形状データと三次元位置情報、または画像センサーの視野範囲内に各々の加工痕の画像が取れるように並進移動機構を制御し、加工痕101および102の画像と、それぞれの画像を取得した時の並進移動機構のエンコーダから得られた位置情報を用いて得られたそれぞれの加工痕101、102の三次元形状データと三次元位置情報に基づき、制御値への補正値、例えば補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を取得する。画像センサーを有した形状測定ユニット20によって複数の加工痕101、102の画像データを取得し、その画像データを基に形状データを算出することで、ワークWを加工装置1に載置したままの状態で、複数の校正用の加工痕101、102の相対位置関係を得ることができる。このため、ワークWを加工装置1から取り外して複数の加工痕101、102の形状を測定する場合に比べて、測定誤差が少ない加工痕101、102の相対位置関係を得ることができる。
【0064】
(3)上記補正方法において、それぞれの加工痕101、102を形成するときの設定角度は、製品用の加工時に設定される旋回軸Bの設定角度の旋回角度範囲内に含まれるように設定される。また、製品用の加工時に設定される旋回角度範囲の角度の最大値および最小値の差よりも小さな角度差を有するように設定されるようにした。校正用の加工を行う設定角度θ1、θ2よりも大きい設定角度については、上記複数の設定角度θ1、θ2における相違情報を外挿することによって、その設定角度に対応する補正値を取得する。これにより、校正用の加工時に設定角度を大きく振らなくても、製品用の加工時に設定される設定角度に対応する補正値、例えば補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を得ることができる。
【0065】
(4)上記(2)の形状測定ユニット20は、駆動機構40~60が具備する移動軸(X軸、Y軸、Z軸)上に設けられる。これにより、形状測定ユニット20によってワークWをスリット光で走査する際、あるいは測定対象とする加工痕101(または102)を形状測定ユニット20による視野範囲に収める際に、移動精度が十分高い並進移動のみにより実現できるので、誤差が少ない加工痕101、102の相対位置関係を得ることができる。
【0066】
(5)上記(4)の形状測定ユニット20は、光切断センサーであり、光切断センサーは、移動軸(X軸、Y軸、Z軸)上に設けられており、光切断センサーは、旋回軸Bを固定した状態で、移動軸(X軸、Y軸、Z軸)による相対移動を行うことで、加工痕101、102が形成された部分を走査し、形状測定ユニット20は、光切断センサーから取得された情報に基づきそれぞれの加工痕101、102の三次元形状を取得する。これにより、誤差が少ない加工痕101、102の相対位置関係を得ることができる。
【0067】
(6)上述した加工装置1は、ワークWと工具7とを相対的に並進移動軸(X軸、Y軸、Z軸)の方向に位置を変更する駆動機構11、13、50と、ワークWと工具7との相対的な姿勢を変える旋回軸駆動機構70とを備える。これら駆動機構11、13、50および旋回軸駆動機構70が位置変更部を構成する。加工装置1はさらに、位置変更部へ制御量を出力し、ワークWと工具7との相対的な位置を制御する制御部30と、工具7によってワークWの異なる位置に加工された複数の校正用加工痕101、102の形状および位置を測定する形状測定ユニット20と、制御部30が目標とする複数の目標加工形状の相対的位置関係、および形状測定ユニット20によって測定された複数の校正用加工痕101、102の相対的位置関係の差に基づいて、制御量の補正値、例えば補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を算出する制御部30、実施の形態ではとくに比較部/補正データ作成部33を備える。この加工装置1によれば、加工後のワークWに形成される形状の精度の低下を抑えることができる。すなわち、制御部30が目標とする2つの目標加工形状の相対的位置関係と、測定した校正用加工痕101、102の相対的位置関係との差に基づいて算出された制御量の補正値を用いることで、駆動機構11、13、50による並進移動軸方向への移動精度、および旋回軸駆動機構70による旋回軸B周りの旋回の精度のいずれの精度の影響も抑えることができる。
【0068】
(7)上記加工装置1においては、旋回軸駆動機構70の旋回軸Bの周りの旋回角度を変えることによってワークWと工具7との相対的な姿勢を変更することができる。制御部30は、駆動機構11、13、50による並進移動量および旋回軸駆動機構70による旋回角度を制御する。この制御により、複数の校正用加工痕101、102が形成される。形状測定ユニット20は、異なる旋回角度でそれぞれ加工された複数の校正用加工痕101、102の形状および位置を測定する。これにより、とくに、旋回軸駆動機構70により工具7を旋回軸B周りに旋回させた際の工具7の先端の位置精度の影響を抑えたい場合に有効である。
【0069】
(8)上記加工装置1において、制御部30である比較部/補正データ作成部33は、複数の目標加工形状の相対位置関係と、形状測定ユニット20で測定された複数の校正用加工痕101、102の相対位置関係を示す形状情報との差に基づき、複数の旋回角度ごとに、補正値として並進移動軸(X軸、Y軸、Z軸)の方向の並進移動量の補正値、例えば補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を算出する。これにより、旋回軸駆動機構70により工具7を旋回軸B周りに旋回させた際の工具7の先端位置精度を、旋回角度ごとに、並進移動軸(X軸、Y軸、Z軸)の方向の並進移動量として補正することができる。
【0070】
(9)上記加工装置1において、制御部30は、比較部/補正データ作成部33によって補正値を算出する前は、複数の目標加工形状を形成するために生成した旋回角度および並進移動量を制御量とし、比較部/補正データ作成部33によって補正値を算出した後は、目標形状情報に基づいて生成した並進移動量および旋回角度に補正値で補正した旋回角度および並進移動量を制御量とする。これにより、補正値を算出する前も後も、それぞれにおいて適切な制御量を得ることができる。
【0071】
(10)上記加工装置1において、形状測定ユニット20は、駆動機構11、13、50で並進移動軸(X軸、Y軸、Z軸)の方向の並進移動量を変えることにより、ワークWの校正用加工痕101、102との相対的な位置が変更されるようにした。これにより、形状測定ユニット20によってワークWをスリット光で走査する際、あるいは測定対象とする加工痕101(または102)を形状測定ユニット20による視野範囲に収める際に、形状測定時に旋回軸B周りの旋回角度を変化させる場合に比べて、誤差が少ない加工痕101、102の相対位置関係を得ることができる。
【0072】
(11)上記加工装置1において、形状測定ユニット20は、校正用加工痕101、102の形状測定結果に基づき、少なくとも工具7の径および工具7の長さと工具7の軸方向を取得する。これにより、加工痕101、102の相対位置関係を適切に得ることができる。
【0073】
(12)上記加工装置1において、形状測定ユニット20は、加工されたワークWが加工装置1に載置されている状態で複数の校正用加工痕101、102の形状および位置を測定するようにした。これにより、ワークWを加工装置1から取り外して複数の加工痕101、102の形状を測定する場合に比べて、測定誤差が少ない加工痕101、102の相対位置関係を得ることができる。
【0074】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上記実施の形態において、加工装置1はスライドレール9a、縦レール4、横レール3のみ有した並進軸移動手段のみによる3軸構成の位置変更部を有した加工装置であってもよい。
その場合、少なくともいずれか一つの並進移動機構により工具を移動させて、近接した位置に複数の加工痕を形成し、その複数の加工痕の相対位置関係と、前記制御部が指示する加工形状の相対位置関係との差に基づいて、前記位置変更部へ出力される制御値を補正するようにしてもよい。
なお、複数の加工痕の相対位置関係を求めるために形状測定ユニット20を加工痕が形成されたワークに対して相対移動させる必要がある場合、なるべく相対移動距離が短くなり、かつ、それぞれの加工痕の一部の形状が分離できるような位置に、複数の加工痕を形成することが好ましい。特に、複数の加工痕を形成する際に行った工具の移動距離よりも、測定時における形状測定ユニット20の移動距離が短いことで、並進移動機構による位置決め誤差により生ずる形状測定誤差を小さくすることができる。
【0075】
(変形例2)
上記実施の形態においては、入力部10を介して、目標とする工具7による加工の始点位置(三次元座標)、終点位置(三次元座標)、およびワークWに対する工具7の刃先の角度を示すデータを含む、ツールパス情報を入力する例を説明した。入力部10から入力する代わりに、ティーチング動作によってツールパスを設定するように構成してもよい。
【0076】
(変形例3)
上記実施の形態においては、補正データとして、旋回角度Θごとに補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))を作成する例を説明した。この代わりに、旋回軸Bの旋回軸駆動機構へ供給する制御データへの旋回角度毎の補正データとして作成してもよい。
また、旋回軸Bの旋回角度に応じた補正データ以外にも、ワーク主軸Cの旋回角度に応じた補正データや工具主軸Aの回転角度に応じた補正データも同様に作成してもよい。
【0077】
変形例3において、比較部/補正データ作成部33は、校正処理の際に、旋回角度Θごとに、位置情報算出部31によって算出された三次元的な位置と、加工痕形状データ取得部32によって算出された三次元的な位置とを比較し、両者の間で相違する相違情報(Δθ)を取得する。比較部/補正データ作成部33はさらに、相違情報(Δθ)に基づき、旋回角度Θを引数とする補正データ(-Δθ(Θ))を作成する。
【0078】
変形例3において、5軸NCデータ生成部34は、製品用の加工を行う場合において、生成した5軸の制御量のうちの旋回軸駆動機構70へ出力する制御量を、補正データ(-Δθ(Θ))によって補正する。
【0079】
(変形例4)
上記実施の形態においては、校正用の加工として2つの加工痕101および102を形成するようにしたが、3つ以上の加工をおこなってもよい。すなわち、設定角度をθ1にセットして加工する加工痕101と、設定角度をθ2にセットして加工する加工痕102とに加えて、設定角度をθ3にセットして加工する加工痕を形成する。
なお、複数の加工痕は、完全に分離していなくてもよく、形状測定ユニット20によって、各加工痕を分離して三次元形状を測定できる位置関係にあればよい。
【0080】
(変形例5)
形状測定ユニット20は、工具取付け部6の工具取付位置に、工具の代わりに脱着可能に取り付けるものでもよい。
【0081】
(変形例6)
形状測定ユニット20は、工具取付け部6ではなく刃物台5の外装部に取り付けられていてもよい。この場合、旋回軸Bにより可動する側に形状測定ユニット20が取り付けられていないので、旋回軸Bの回動による測定位置のズレで生ずる測定誤差を生じさせなくすることができる。
【0082】
(変形例7)
なお、被加工物を所定の目的の形状創生のために行う加工前に形成される複数の加工痕の全てを、同一の加工装置で形成するものに限定するものではない。共通の加工ワークに一つは加工装置Aで加工痕を形成し、他方は加工装置Bで加工痕を形成することで、加工装置Aと加工装置Bの加工位置の偏差量を求めることができる。具体的には以下の工程で補正を行う。
最初に被加工物と第1の工具との相対的な位置を変更する第1の位置変更部と第1の位置変更部を制御する第1の制御部を有した第1の加工装置により、前記被加工物に少なくとも一つの加工痕を形成する。次に、同じ被加工物と第2の工具との相対的な位置を変更する第2の位置変更部と前記第2の位置変更部を制御する第2の制御部を有した第2の加工装置により前記被加工物に、第1の加工装置で形成した加工痕の近傍に、さらに少なくとも一つの第2の加工痕を形成する。第1の加工装置で形成された少なくとも一つの加工痕と第2の加工装置で形成された少なくとも一つの第2の加工痕の相対位置関係と、前記第1の制御部が指示する加工形状と前記第2の制御部が指示する加工形状との相対位置関係との差に基づいて、前記第1または第2の位置変更部のいずれか一方へ出力される制御値を補正する。このようにその複数の加工痕の相対位置関係と、前記制御部が指示する加工形状の相対位置関係との差に基づいて、加工装置Aまたは加工装置Bの少なくとも一方の前記位置変更部へ出力される制御値を補正するようにしてもよい。
なお、その際は加工装置Aと加工装置Bとは共通の載置台を利用することが好ましい。これにより、加工装置Aと加工装置B間とで加工痕を形成するワークを置きなおすことによる位置ズレ量が位置変更部に出力される制御値に影響を及ぼしにくくなる。
【0083】
(変形例8)
本発明で使用する加工装置は、形状測定ユニット20が着脱式であってもよい。その際、加工痕を形成する際には、必ず形状測定ユニット20が取り付けられた状態でなくともよい。少なくとも加工痕の一方を形成する加工装置に、複数の加工痕を測定する際に、取り付け可能な形状測定ユニットであれば良い。
【0084】
(変形例9)
上述した説明では、補正データ記憶部35から読み出された補正データ(-Δx(Θ),-Δy(Θ),-Δz(Θ))の活用例として、加工装置1におけるNCデータの補正に用いる場合を説明した。補正データを基にした相違情報(Δx,Δy,Δz)が、目標とする加工形状と、実際に加工した加工痕の形状とのずれであることを鑑みると、上記補正データを以下の用途に用いることもできる。
【0085】
1.加工指示図
加工指示図を出力するときに、上記補正データを考慮した加工指示図を出力する。
2.設計図
設計図を作成するときに、上記補正データを製造誤差の出方情報として用いる。
【0086】
3.製品の面の許容差を、上記補正データで表す。
一般に、製品の面は、当該製品の基準面からの寸法に基づいて表されることが多い。しかしながら、基準面からの寸法よりも、製品の面の形状そのものの許容差を表したい場合がある。そこで、加工装置1の旋回軸B周りの旋回角度ごとに算出した上記補正データを、加工装置1で形成される形状の許容差として用いる。
【0087】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。実施形態および変形例で示された各構成を組み合わせて用いる態様も本発明の範囲内に含まれる。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…加工装置
5…刃物台
6…工具取り付け部
7…工具
11…X軸駆動機構
13…Z軸駆動機構
20…形状測定ユニット
50…Y軸駆動機構
70…旋回軸駆動機構
101、102…加工痕
θ1、θ2…旋回角の設定角度
A…工具主軸
B…旋回軸
C…ワーク主軸
W…ワーク
図1
図2
図3
図4
図5