(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電気化学素子電極用スラリー組成物、電気化学素子用電極、電気化学素子、および電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221213BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20221213BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20221213BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20221213BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01G11/30
H01M4/139
H01G11/86
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2019541979
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031803
(87)【国際公開番号】W WO2019054173
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017177222
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】福峯 真弓
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄介
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-203555(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038628(WO,A1)
【文献】特開2010-129296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-62
H01G11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、導電材、第一の重合体、第二の重合体、および有機溶媒を含有し、
前記第一の重合体が、窒素含有環を有する単量体単位を、
前記第一の重合体の全繰り返し単位を100質量%として70質量%以上の割合で含み、
前記第二の重合体が、ニトリル基含有単量体単位を、
前記第二の重合体の全繰り返し単位を100質量%として10質量%以上70質量%以下の割合で含
み、アルキレン構造単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも一方を含み、
前記第一の重合体の含有量が、前記第一の重合体と前記第二の重合体の合計含有量の3質量%以上60質量%以下であり、
水の含有量が、前記有機溶媒100質量部当たり10質量部以下である、電気化学素子電極用スラリー組成物。
【請求項2】
前記導電材の比表面積が、100m
2/g以上2000m
2/g以下である、請求項1に記載の電気化学素子電極用スラリー組成物。
【請求項3】
前記窒素含有環が単環構造である、請求項1または2に記載の電気化学素子電極用スラリー組成物。
【請求項4】
前記窒素含有環を有する単量体単位が、N-ビニル-2-ピロリドン単位である、請求項1~3の何れかに記載の電気化学素子電極用スラリー組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備える、電気化学素子用電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。
【請求項7】
請求項1~4の何れかに記載の電気化学素子電極用スラリー組成物を製造する方法であって、
前記導電材、前記第一の重合体、前記第二の重合体、および前記有機溶媒を含む導電材ペーストを調製する工程と、
前記導電材ペーストに前記電極活物質を加える工程と、
を含む、電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子電極用スラリー組成物、電気化学素子用電極、電気化学素子、および電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子は、小型で軽量、且つ、エネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。
【0003】
電気化学素子の電極としては、例えば、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備える電極が使用されている。ここで、電極合材層は、例えば、電極活物質と、導電材と、結着材とを含む電気化学素子電極用スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。
【0004】
そして近年では、電気化学素子の更なる性能の向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられるスラリー組成物の改良が試みられている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1では、電極活物質、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位20重量%~70重量%およびフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位1重量%~30重量%を含む水溶性重合体、ビニルピロリドン系重合体、並びに水を含む、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物が開示されている。そして特許文献1によれば、このスラリー組成物から形成される電極を用いることで、リチウムイオン二次電池に優れた高温サイクル特性および低温特性を発揮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、分散媒として水を使用した上記従来のスラリー組成物を用いると、スラリー組成物に由来する水分が電極合材層に残留することで電気化学素子内に持ち込まれ、電気化学素子の素子特性(高温サイクル特性および低温特性など)が低下する虞があった。
また、電気化学素子用電極には、電気化学素子の高温サイクル特性を高めるべく、電解液中で電極合材層が過度に膨化しないことが求められる。しかしながら、上記従来のスラリー組成物を用いても、電解液中での膨化が抑制された電極を作製することは困難な場合があった。
すなわち、上記従来のスラリー組成物から作製される電極には、電解液中での膨化を抑制する共に水分含有量を低減して、電気化学素子の素子特性を更に向上させるという点において、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、電解液中での膨化が抑制されつつ水分含有量が低減されており、且つ電気化学素子に優れた素子特性を発揮させ得る電極を作製可能な電気化学素子電極用スラリー組成物およびその製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、電解液中での膨化が抑制されつつ水分含有量が低減されており、且つ電気化学素子に優れた素子特性を発揮させ得る電気化学素子用電極の提供を目的とする。
そして、本発明は、高温サイクル特性および低温特性などの素子特性に優れる電気化学素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、有機溶媒中に、電極活物質と、導電材と、所定の二種の重合体とが分散および/または溶解してなるスラリー組成物を用いて電極を作製すれば、得られる電極の水分含有量を低減すると共に電解液中での膨化を抑制して、電気化学素子の素子特性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、電極活物質、導電材、第一の重合体、第二の重合体、および有機溶媒を含有し、前記第一の重合体が、窒素含有環を有する単量体単位を含み、前記第二の重合体が、ニトリル基含有単量体単位を10質量%以上70質量%以下の割合で含むことを特徴とする。このように、電極活物質と、導電材と、上記第一の重合体と、上記第二の重合体と、有機溶媒とを含むスラリー組成物を用いて電極を作製すれば、得られる電極の水分含有量を低減すると共に電解液中での膨化を抑制して、電気化学素子に優れた高温サイクル特性および低温特性を発揮させることができる。
なお、本発明において、重合体が「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
また、本発明において、「窒素含有環」とは、少なくとも1つの窒素原子を含む複数の原子が連なって構成される環状構造を意味する。
加えて、本発明において、重合体中における各繰り返し単位(単量体単位および構造単位)の割合は、1H-NMRおよび13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、前記導電材の比表面積が、100m2/g以上2000m2/g以下であることが好ましい。導電材の比表面積が上述の範囲内であれば、電気化学素子の高温サイクル特性および低温特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「導電材の比表面積」とは、窒素吸着法によるBET比表面積のことであり、ASTM D3037-81に準拠して測定することができる。
【0011】
そして、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、前記窒素含有環が単環構造であることが好ましい。第一の重合体が、単環構造である窒素含有環を有する単量単位を含めば、電気化学素子の低温特性を更に向上させることができる。
【0012】
更に、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、前記窒素含有環を有する単量体単位が、N-ビニル-2-ピロリドン単位であることが好ましい。第一の重合体が、N-ビニル-2-ピロリドン単位を含めば、電気化学素子の低温特性をより一層向上させることができる。
【0013】
また、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、前記第二の重合体が、更に、アルキレン構造単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。第二の重合体が、ニトリル基含有単量体単位に加えて、アルキレン構造単位および/または(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含めば、電解液中での電極の膨化を更に抑制すると共に、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。
なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0014】
ここで、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、前記第一の重合体の含有量が、前記第一の重合体と前記第二の重合体の合計含有量の3質量%以上60質量%以下であることが好ましい。第一の重合体と第二の重合体の合計中に占める第一の重合体の割合が上述した範囲内であれば、スラリー組成物の安定性を向上させることができる。そして、電極合材層の集電体への密着強度(すなわち、電極のピール強度)を高め、また、電極の水分含有量を更に低減すると共に電解液中での膨化を一層抑制することができ、結果として電気化学素子の高温サイクル特性を更に向上させることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用電極は、上述した何れかの電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備えることを特徴とする。上述したスラリー組成物の何れかを用いて電極合材層を形成すれば、水分含有量が低減されると共に電解液中での膨化が抑制された電極を得ることができる。そして、当該電極によれば、電気化学素子に優れた高温サイクル特性および低温特性を発揮させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。上述した電極を備える電気化学素子は、高温サイクル特性および低温特性などの素子特性に優れる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法は、上述した何れかの電気化学素子電極用スラリー組成物を製造する方法であって、前記導電材、前記第一の重合体、前記第二の重合体、および前記有機溶媒を含む導電材ペーストを調製する工程と、前記導電材ペーストに前記電極活物質を加える工程と、を含むことを特徴とする。これらの工程を経て得られるスラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、水分含有量が低減されると共に電解液中での膨化が抑制された電極を得ることができる。そして、当該電極によれば、電気化学素子に優れた高温サイクル特性および低温特性を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電解液中での膨化が抑制されつつ水分含有量が低減されており、且つ電気化学素子に優れた素子特性を発揮させ得る電極を作製可能な電気化学素子電極用スラリー組成物およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、電解液中での膨化が抑制されつつ水分含有量が低減されており、且つ電気化学素子に優れた素子特性を発揮させ得る電気化学素子用電極を提供することができる。
そして、本発明によれば、高温サイクル特性および低温特性などの素子特性に優れる電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの等の電気化学素子の電極を作製する際に用いることができる。なお、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物は、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法により調製することができる。そして、本発明の電気化学素子用電極は、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて作製することができる。更に、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。
【0020】
(電気化学素子電極用スラリー組成物)
本発明のスラリー組成物は、有機溶媒中に、電極活物質と、導電材と、第一の重合体と、第二の重合体とを含有し、任意に、電気化学素子の電極に配合され得るその他の成分を更に含有する。ここで、本発明のスラリー組成物中の第一の重合体は、窒素含有環を有する単量体単位を含み、第二の重合体は、ニトリル基含有単量体単位を10質量%以上70質量%以下の割合で含む。
そして、主たる分散媒として、水でなく有機溶媒を用いつつ、上述した第一の重合体および第二の重合体を含む本発明のスラリー組成物を用いて電極を作製すれば、得られる電極の水分含有量を低減すると共に電解液中での膨化を抑制して、電気化学素子に優れた高温サイクル特性および低温特性を発揮させることができる。
【0021】
<電極活物質>
電極活物質は、電気化学素子の電極において、電子の受け渡しをする物質である。そして、電極活物質としては、特に限定されることなく、電気化学素子に用いられる既知の電極活物質を用いることができる。具体的には、例えば、電気化学素子の一例としてのリチウムイオン二次電池の電極合材層において使用し得る電極活物質としては、特に限定されることなく、以下の電極活物質を用いることができる。
【0022】
<<正極活物質>>
リチウムイオン二次電池の正極の正極合材層に配合される正極活物質としては、例えば、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
具体的には、正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
なお、上述した正極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
<<負極活物質>>
リチウムイオン二次電池の負極の負極合材層に配合される負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、および、これらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいう。そして、炭素系負極活物質としては、具体的には、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)およびハードカーボンなどの炭素質材料、並びに、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛質材料が挙げられる。
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。そして、金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびそれらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが挙げられる。
なお、上述した負極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
<導電材>
導電材は、電極合材層中で電極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層グラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの導電性炭素材料、並びに、各種金属のファイバー又は箔などを用いることができる。
なお、上述した導電材は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ここで、導電材の比表面積は、100m2/g以上であることが好ましく、200m2/g以上であることがより好ましく、500m2/g以上であることが更に好ましく、2000m2/g以下であることが好ましく、1300m2/g以下であることがより好ましい。導電材の比表面積が100m2/g以上であれば、電気化学素子の低温特性を更に高めることができ、2000m2/g以下であれば、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。
【0026】
なお、スラリー組成物中の導電材の含有量は、電極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。スラリー組成物中の導電材の量が、電極活物質100質量部当たり0.1質量部以上であれば、電気化学素子の低温特性を更に高めることができ、10質量部以下であれば、電極のピール強度を確保することができ、また電気化学素子のエネルギー密度を向上させることができる。
【0027】
<第一の重合体>
第一の重合体は、後述する第二の重合体と共に用いることで、それらを単独で使用した場合に比して、スラリー組成物中の導電材の分散性を飛躍的に向上させて、得られる電極合材層中での導電材の偏在を十分に抑制することができる。更に、第一の重合体は、窒素含有環を有する単量体単位を含み、窒素含有環の寄与によると推察されるが、電気化学素子の低温特性向上に寄与することができる。
【0028】
<<組成>>
ここで、第一の重合体は、窒素含有環を有する単量体単位を含み、任意に、窒素含有環を有する単量体以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含む。
【0029】
[窒素含有環を有する単量体単位]
窒素含有環を有する単量体単位の窒素含有環は、例えば、単環構造であっても縮合環構造であってもよいが、電気化学素子の低温特性を更に向上させる観点から、単環構造であることが好ましい。
また、窒素含有環を有する窒素含有環は、電気化学素子の低温特性を更に向上させる観点から、環状アミドであることが好ましい。
【0030】
ここで、窒素含有環を有する単量体単位を形成し得る窒素含有環を有する単量体としては、N-ビニル環状アミド単量体が好適に挙げられる。そして、N-ビニル環状アミド単量体としては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオンなどが挙げられる。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、電気化学素子の低温特性を更に向上させる観点から、N-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。
【0031】
そして、第一の重合体が含有する窒素含有環を有する単量体単位の割合は、第一の重合体の全繰り返し単位を100質量%とした場合、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。第一の重合体中の窒素含有環を有する単量体単位の割合が70質量%以上であれば、電気化学素子の低温特性を更に向上させることができる。なお、第一の重合体中の窒素含有環を有する単量体単位の割合は特に限定されず、100質量%以下とすることができる。
【0032】
[その他の繰り返し単位]
第一の重合体に、任意に含まれるその他の繰り返し単位としては、特に限定されず、例えば、上述した窒素含有環を有する単量体と共重合可能な単量体に由来する単量体単位が挙げられる。なお、第一の重合体は、その他の繰り返し単位としてニトリル基含有単量体を含むこともできるが、第一の重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合は、第一の重合体の全繰り返し単位を100質量%とした場合、0質量%以上10質量%未満である。
【0033】
<<調製方法>>
第一の重合体の調製方法は特に限定されないが、第一の重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合することで調製することができる。
ここで、第一の重合体の調製に用いる単量体組成物中の各単量体の含有割合は、第一の重合体中の各繰り返し単位の含有割合に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
【0034】
<<重量平均分子量>>
上述のようにして得られる第一の重合体の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、50,000以下であることが好ましく、20,000以下であることがより好ましい。第一の重合体の重量平均分子量が5,000以上であれば、電気化学素子の高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、第一の重合体の重量平均分子量が50,000以下であれば、電極の電解液中での膨化を更に抑制すると共に、水分含有量を一層低減することができる。すなわち、第一の重合体の重量平均分子量が5,000以上50,000以下であれば、電解液中での膨化が更に抑制されると共に、水分含有量を一層低減された電極を得ることができる。そして、当該電極を用いれば、電気化学素子に更に優れた高温サイクル特性を発揮させることができる。加えて、第一の重合体の重量平均分子量が5,000以上50,000以下であれば、電極のピール強度を高めることもできる。
なお、本発明において、「重量平均分子量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0035】
<<末端構造>>
そして、第一の重合体は、電気化学素子の低温特性を更に向上させる観点から、末端(重合開始末端および/または重合終了末端)に、カチオン性基を有することが好ましい。ここで、カチオン性基としては、単独で又は正電荷を供給する物質共に存在することで、カチオン性を帯びることができる官能基であれば特に限定されないが、電気化学素子の低温特性をより一層向上させる観点から、アミノ基が好ましい。
なお、第一の重合体の末端へのカチオン性基の導入は、特に限定されず、既知の方法を用いることができる。例えば、カチオン性基を含有する重合開始剤を用いて重合を開始することで、第一の重合体の重合開始末端にカチオン性基を導入することができ、また、カチオン性基を含有する変性剤を用いて重合を停止させることで、第一の重合体の重合終了末端にカチオン性基を導入することができる。
【0036】
<<含有量>>
なお、スラリー組成物中の第一の重合体の含有量は、電極活物質100質量部当たり、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.06質量部以上であることが更に好ましく、1質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、0.25質量部以下であることが更に好ましい。スラリー組成物中の第一の重合体の量が、電極活物質100質量部当たり0.01質量部以上であれば、電気化学素子の高温サイクル特性を向上させることができることができる。一方、スラリー組成物中の第一の重合体の量が、電極活物質100質量部当たり1質量部以下であれば、電極の電解液中での膨化を更に抑制すると共に、水分含有量を一層低減することができる。
【0037】
<第二の重合体>
第二の重合体は、スラリー組成物を使用して電極合材層を形成することにより製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持する、結着材として機能する重合体である。また、第二の重合体は、電解液中での電極の膨化抑制に寄与し得る成分である。
【0038】
<<組成>>
第二の重合体は、10質量%以上70質量%以下の割合でニトリル基含有単量体単位を含み、そして、30質量%以上90質量%以下の割合でニトリル基含有単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含む。
【0039】
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、電解液中での電極の膨化を更に抑制すると共に、電気化学素子の素子特性を一層向上させる観点から、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。
【0040】
そして、第二の重合体が含有するニトリル基含有単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位(単量体単位と構造単位の合計)を100質量%とした場合、10質量%以上70質量%以下であることが必要であり、13質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、65質量以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。第二の重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が10質量%未満であると、電解液中での電極の膨化を抑制することができず、電気化学素子に優れた高温サイクル特性を発揮させることができない。一方、第二の重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が70質量%超であると、電極合材層の電解液中での膨化を抑制することができず、電気化学素子に優れた高温サイクル特性を発揮させることができない。すなわち、第二の重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が10質量%以上70質量%以下であれば、電解液中での電極の膨化を抑制して、電気化学素子に優れた高温サイクル特性を発揮させることができる。
【0041】
[その他の繰り返し単位]
第二の重合体に含まれる1種類以上のその他の繰り返し単位としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位、アルキレン構造単位、酸性基含有単量体単位が挙げられる。
【0042】
―(メタ)アクリル酸エステル単量体単位―
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。そしてこれらの中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートが好ましく、n-ブチルアクリレート、エチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
【0043】
―脂肪族共役ジエン単量体単位―
脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの炭素数4以上の脂肪族共役ジエン化合物が挙げられる。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。そしてこれらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0044】
―アルキレン構造単位―
アルキレン構造単位は、一般式:-CnH2n-[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
ここで、アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、電解液中での電極の膨化を更に抑制して、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させる観点から、アルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。また、電解液中での電極の膨化を更に抑制して、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させる観点から、アルキレン構造単位の炭素数は4以上である(即ち、上記一般式のnが4以上の整数である)ことが好ましい。
【0045】
そして、第二の重合体へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)または(2)の方法:
(1)脂肪族共役ジエン単量体を含む単量体組成物から共重合体を調製し、当該共重合体に水素添加することで、脂肪族共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1-オレフィン単量体を含む単量体組成物から第二の重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が第二の重合体の製造が容易であり好ましい。
【0046】
なお、上記(1)の方法で用いる脂肪族共役ジエン単量体としては、「脂肪族共役ジエン単量体単位」の項で上述したものが挙げられ、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。そしてこれらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。すなわち、アルキレン構造単位は、脂肪族共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(脂肪族共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。そして、脂肪族共役ジエン単量体単位の選択的な水素化は、油層水素化法や水層水素化法などの公知の方法を用いて行なうことができる。
また、上記(2)の方法で用いる1-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどが挙げられる。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
―酸性基含有単量体単位―
酸性基含有単量体単位を形成し得る酸性基含有単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、およびリン酸基含有単量体が挙げられる。
【0048】
そして、カルボキシル基含有単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボキシル基含有単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
【0049】
また、スルホン酸基含有単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸(エチレンスルホン酸)、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0050】
更に、リン酸基含有単量体としては、例えば、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
上述した酸性基含有単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
―好適なその他の繰り返し単位―
そして、上述したその他の繰り返し単位の中でも、第二の重合体は、電解液中での電極の膨化を更に抑制して、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させる観点から、アルキレン構造単位および/または(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことが好ましく、アルキレン構造単位を含むことがより好ましい。
【0052】
第二の重合体がアルキレン構造単位を含む場合、第二の重合体が含有するアルキレン構造単位の割合は、重合体の全繰り返し単位(単量体単位と構造単位の合計)を100質量%とした場合、30質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。第二の重合体中のアルキレン構造単位の割合が30質量%以上であれば、電解液中での電極の膨化が更に抑制され、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。一方、第二の重合体中のアルキレン構造単位の割合が80質量%以下であれば、電解液中での電極の膨化が更に抑制され、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。すなわち、第二の重合体中のアルキレン構造単位の割合が30質量%以上80質量%以下であれば、電解液中での電極の膨化が更に抑制され、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。
【0053】
第二の重合体が(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む場合、第二の重合体が含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位(単量体単位と構造単位の合計)を100質量%とした場合、10質量%以上であることが好ましく、85質量%以下であることが好ましい。第二の重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が10質量%以上であれば、電解液中での電極の膨化を更に抑制することができる。一方、第二の重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が85質量%以下であれば、電気化学素子の高温サイクル特性を更に向上させることができる。そして、第二の重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が10質量%以上85質量%以下であれば、有機溶媒に対する第二の重合体の溶解性が高まり、スラリー組成物の安定性を向上させことができる。また、第二の重合体の電解液に対する安定性が高まり、電気化学素子の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0054】
<<調製方法>>
上述した第二の重合体の調製方法は特に限定されないが、第二の重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合して共重合体を得た後、必要に応じて得られた共重合体を水素化(水素添加)することで調製することができる。
【0055】
ここで、第二の重合体の調製に用いる単量体組成物中の各単量体の含有割合は、第二の重合体中の各繰り返し単位の含有割合に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
更に、共重合体の水素化方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号、国際公開第2013/080989号および特開2013-8485号公報参照)を使用することができる。
また、水素化後に得られた第二の重合体のヨウ素価は、特に限定されないが、30mg/100mg以下であることが好ましい。なお、本発明において、重合体の「ヨウ素価」は、JIS K6235(2006)に従い、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0056】
<<重量平均分子量>>
上述のようにして得られる第二の重合体の重量平均分子量は、55,000以上であることが好ましく、70,000以上であることがより好ましく、130,000以上であることが更に好ましく、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることが更に好ましい。第二の重合体の重量平均分子量が55,000以上であれば、電極のピール強度を向上させることができる。一方、第二の重合体の重量平均分子量が500,000以下であれば、電解液中での電極の膨化を更に抑制して、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。すなわち、第二の重合体の重量平均分子量が55,000以上500,000以下であれば、電極のピール強度を高めつつ電解液中で膨化を更に抑制して、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。
【0057】
<<含有量>>
なお、スラリー組成物中の第二の重合体の含有量は、電極活物質100質量部当たり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることが更に好ましく、3質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることが更に好ましい。スラリー組成物中の第二の重合体の量が、電極活物質100質量部当たり0.05質量部以上であれば、電解液中での電極の膨化を更に抑制することができる。一方、スラリー組成物中の第二の重合体の量が、電極活物質100質量部当たり3質量部以下であれば、電気化学素子の高温サイクル特性を更に高めることができる。
【0058】
<第一の重合体と第二の重合体との含有量比>
本発明のスラリー組成物における第二の重合体と第一の重合体との含有量比(質量基準)は特に限定されない。例えば、本発明のスラリー組成物中の第一の重合体の含有量は、第一の重合体と第二の重合体の合計含有量の3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。第一の重合体と第二の重合体の合計含有量に占める第一の重合体の含有量が3質量%以上であれば、電解液中での電極の膨化を更に抑制することができる。一方、第一の重合体と第二の重合体の合計含有量に占める第一の重合体の含有量が60質量%以下であれば、電極のピール強度を高めると共に水分含有量を更に低減することができる。すなわち、第一の重合体と第二の重合体の合計含有量に占める第一の重合体の含有量が3質量%以上60質量%以下であれば、電極のピール強度を高め、そして電解液中で膨化を更に抑制すると共に水分含有量を一層低減して、電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。また、第一の重合体と第二の重合体の合計含有量に占める第一の重合体の含有量が3質量%以上60質量%以下であれば、スラリー組成物の安定性を向上させることができる。
【0059】
<有機溶媒>
スラリー組成物に含まれる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系極性有機溶媒;N-メチルピロリドン(NMP);N,N-ジメチルスルホキシド;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、有機溶媒としては、NMPが好ましい。
なお、スラリー組成物中には、水が含まれていてもよいが、スラリー組成物中の水の含有量は、有機溶媒100質量部当たり10質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下が更に好ましく、0質量部が特に好ましい。
【0060】
<その他の成分>
スラリー組成物には、上記成分の他に、第二の重合体以外の結着材(以下、「その他の結着材」と称する。)補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分を含有させてもよい。その他の結着材としては、特に限定されず公知のもの、例えば、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。また、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤としては、特に限定されず公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法)
本発明のスラリー組成物は、上述した、電極活物質、導電材、第一の重合体、第二の重合体、および、任意に添加されるその他の成分を混合して調製することができる。このようなスラリー組成物を調製する方法は、特に限定されないが、本発明のスラリー組成物は、導電材、第一の重合体、第二の重合体、および有機溶媒を含む導電材ペーストを調製する工程(導電材ペースト調製工程)と、導電材ペーストに電極活物質を加える工程(電極活物質添加工程)とを含む本発明のスラリー組成物の製造方法を用いて調製することが好ましい。本発明のスラリー組成物の製造方法を用いれば、導電材の分散性を更に向上させることができる。そして、本発明のスラリー組成物の製造方法により得られるスラリー組成物を用いて電極を作製すれば、当該電極の電解液中での膨化を更に抑制しつつ、電気化学素子の素子特性を一層向上させることができる。
なお、スラリー組成物の調製にその他の結着材を用いる場合、その他結着材は、導電材ペースト調製工程の後、例えば、電極活物質添加工程において導電材ペーストに添加することが好ましい。
【0062】
<導電材ペースト調製工程>
導電材ペーストは、「電気化学素子電極用スラリー組成物」の項で上述した、導電材、第一の重合体、第二の重合体、および有機溶媒を混合することで調製することができる。混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。
【0063】
<電極活物質添加工程>
上述で得られた導電材ペーストに電極活物質を添加し、必要に応じて更に混合することで、スラリー組成物を調製することができる。混合方法には特に制限は無く、「導電材ペースト調製工程」の項で列挙した混合装置を用いることができる。
【0064】
(電気化学素子用電極)
本発明の電気化学素子用電極は、本発明の電気化学素子電極用スラリー組成物を使用して製造することができる。例えば、本発明の電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は、通常、上述した本発明のスラリー組成物の乾燥物よりなる。そして電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、導電材と、第一の重合体と、第二の重合体とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記電気化学素子電極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
ここで、本発明の電極は、上述した本発明のスラリー組成物を使用して電極合材層が形成されているので、電解液中での膨化が抑制され、また水分含有量が低減されている。そして、本発明の電極を用いれば、電気化学素子に優れた素子特性(高温サイクル特性および低温特性など)を発揮させることができる。
【0065】
<電気化学素子用電極の製造方法>
本発明の電極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0066】
<<塗布工程>>
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0067】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましく、負極に用いる集電体としては、銅箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
<<乾燥工程>>
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える電気化学素子用電極を得ることができる。
【0069】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極のピール強度を向上させることができる。
【0070】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。このような電気化学素子は、高温サイクル特性や低温特性などの素子特性に優れる。
【0071】
ここで、以下では、本発明の電気化学素子の一例としてのリチウムイオン二次電池の構成について説明する。このリチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、電解液、セパレータを備え、正極および負極の少なくとも一方が、上記本発明の電気化学素子用電極である。
【0072】
<電極>
本発明の電気化学素子用電極以外の電極としては、既知の電極を用いることができる。具体的には、電極としては、既知の方法を用いて電極合材層を集電体上に形成してなる電極を用いることができる。
【0073】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0074】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
また、電解液には、既知の添加剤、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0075】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0076】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、重合体の重量平均分子量、正極の電解液中での膨化抑制、水分含有量およびピール強度、並びに、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性および低温特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0078】
<重量平均分子量>
得られた重合体の重量平均分子量を、以下の条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
カラム:TSKgel α-M×2本(φ7.8mmI.D.×30cm×2本 東ソー社製)
溶離液:ジメチルホルムアミド(50mM臭化リチウム、10mMリン酸)
流速:0.5mL/分.
試料濃度:約0.5g/L(固形分濃度)
注入量:200μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製HLC-8320 GPC RI検出器)
検出器条件:RI:Pol(+),Res(1.0s)
分子量マーカー:東ソー社製 標準ポリスチレンキットPStQuick Kit-H
<電解液中での膨化抑制>
実施例および比較例で得られたシート状正極を、直径1.5mmの円状に切り出して試験片とし、厚みゲージを用いて正極合材層の厚みT0を測定した。この試験片を、恒温槽中で温度制御された60℃の電解液(濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(質量比)の混合溶媒にフルオロエチレンカーボネート5質量%を添加した混合溶液であり、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%を添加))に72時間浸漬させた。その後正極を取り出し、厚みゲージを用いて正極合材層の厚みT1を測定した。そして、ΔT={(T1-T0)/T0)}×100(%)で示される厚み変化率を求め、以下の基準により評価した。厚み変化率ΔTの値が小さいほど、電解液中での正極の膨化が抑制されていることを示す。
A:厚み変化率ΔTが15%未満
B:厚み変化率ΔTが15%以上20%未満
C:厚み変化率ΔTが20%以上25%未満
D:厚み変化率ΔTが25%以上30%未満
E:厚み変化率ΔTが30%以上
<水分含有量>
実施例および比較例で得られたシート状正極を、2cm×10cmの長方形状に切り出して試験片とした。この試験片について、カールフィッシャー法(JIS K-0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により水分含有量W(ppm)を測定し、以下の基準により評価した。水分含有量Wが小さいほど、正極中の水分含有量が少なく、リチウムイオン二次電池への持ち込み水分量を低減し得ることを示す。
A:水分含有量Wが200ppm未満
B:水分含有量Wが200ppm以上250ppm未満
C:水分含有量Wが250ppm以上300ppm未満
D:水分含有量Wが300ppm以上500ppm未満
E:水分含有量Wが500ppm以上
<ピール強度>
実施例および比較例で得られたシート状正極を、長さ100mm×幅10mmの長方形状に切り出してして、試験片とした。この試験片を、正極合材層面を下にして正極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度100mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。測定を3回行い、応力の平均値をピール強度として以下の基準により評価した。ピール強度の値が大きいほど、正極合材層と集電体が強固に密着していることを示す。
A:ピール強度が20N/m以上
B:ピール強度が15N/m以上20N/m未満
C:ピール強度が10N/m以上15N/m未満
D:ピール強度が5N/m以上10N/m未満
E:ピール強度が5N/m未満
<高温サイクル特性>
実施例および比較例で製造したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.35V)を行い、0.2Cの定電流法にてセル電圧3.00VまでCC放電した。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。
その後、温度45℃の環境下、セル電圧4.35-3.00V、0.5Cの充放電レートにて充放電の操作を100サイクル行った。その際、1回目のサイクルの放電容量をX1,100回目のサイクルの放電容量をX2と定義した。そして、ΔC=(X2/X1)×100(%)で示される容量維持率を求め、以下の基準により評価した。この容量維持率ΔCの値が大きいほど、リチウムイオン二次電池が高温サイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率ΔCが90%以上
B:容量維持率ΔCが87%以上90%未満
C:容量維持率ΔCが84%以上87%未満
D:容量変化率ΔCが80%以上84%未満
E:容量維持率ΔCが80%未満
<低温特性>
実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池の低温特性を評価するために、以下のようにしてIV抵抗を測定した。-10℃雰囲気下、1C(Cは定格容量(mA)/1時間(h)で表される数値)でSOC(State Of Charge:充電深度)の50%まで充電した後、SOCの50%を中心として0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cで15秒間充電と15秒間放電とをそれぞれ行い、それぞれの場合(充電側および放電側)における15秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、その傾きをIV抵抗(Ω)(充電時IV抵抗および放電時IV抵抗)として求めた。得られたIV抵抗の値(Ω)について、比較例1の値を100として指数化し、以下の基準により評価した。IV抵抗の値が小さいほど、内部抵抗が少なく、リチウムイオン二次電池が低温特性に優れていることを示す。
A:IV抵抗が60未満
B:IV抵抗が60以上70未満
C:IV抵抗が70以上80未満
D:IV抵抗が80以上120未満
E:IV抵抗が120以上
【0079】
(実施例1)
<第一の重合体の調製>
反応器中に、イオン交換水374.5部、ジエタノールアミン0.5部、次亜リン酸ナトリウム25部を仕込み、90℃に昇温した。次いで、反応器に、窒素含有環を有する単量体としてのN-ビニル-2-ピロリドン500部を180分かけて、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩10部とイオン交換水90部からなる開始剤水溶液100部を210分かけて、それぞれ添加した。更に、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩0.5部とイオン交換水4.5部からなる水溶液5部を、それぞれ重合開始から210分後、240分後に一括で添加した。そして、pH調整剤としての10%マロン酸水溶液8.0部を、重合開始から270分後に添加し、第一の重合体の水分散液を得た。得られた第一の重合体の重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
<第二の重合体の調製>
内容積10リットルの反応器に、イオン交換水100部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル35部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン65部を仕込んだ。この反応器に、乳化剤としてのオレイン酸カリウム2部、安定剤としてのリン酸カリウム0.1部、および、分子量調整剤としての2,2’,4,6,6’-ペンタメチルヘプタン-4-チオール(TIBM)0.5部を加え、更に重合開始剤としての過硫酸カリウム0.35部を加えて30℃で乳化重合を行い、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンとを共重合した。
重合転化率が90%に達した時点で0.2部のヒドロキシルアミン硫酸塩を添加して重合を停止させた。続いて、約70℃減圧下で水蒸気蒸留を行い、残留単量体を回収した。その後、老化防止剤としてアルキル化フェノールを2部添加して、重合体の水分散液を得た。
得られた重合体の水分散液400mL(全固形分:48g)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して水分散液中の溶存酸素を除去した。その後、水素化反応触媒としての酢酸パラジウム50mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応させた。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して、第二の重合体の水分散液を得た。得られた第二の重合体の重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。また、得られた第二の重合体のヨウ素価を測定したところ10mg/100mgであった。なお、ヨウ素価の測定手順は以下の通りである。
まず、重合体の水分散液100gを、メタノール1リットルで凝固した後、60℃で12時間真空乾燥し、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
<正極用バインダー組成物の調製>
上記第一の重合体の水分散液と、上記第二の重合体の水分散液と、有機溶媒としての適量のNMPとを混合した。なお、第一の重合体と第二の重合体の混合比(固形分換算)は、第一の重合体:第二の重合体=20:80に設定した。次いで、得られた混合液中に含まれる水を、減圧下で全て蒸発させて、第一の重合体と、第二の重合体と、NMPとを含有する正極用バインダー組成物を得た。
<正極用導電材ペーストの調製>
導電材としてのアセチレンブラック(比表面積:800m2/g)3.0部と、上記バインダー組成物0.6部(固形分換算量)と、NMPとを、ディスパーを用いて攪拌し(3000rpm、60分)、正極用導電材ペーストを調製した。なお、NMPの添加量は、得られる正極用導電材ペーストの固形分濃度が10%となるように調整した。なお、この調製手順を、後述する表1において「X」と表記する。
<正極用スラリー組成物の調製>
上記導電材ペースト中に、正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒子径:10μm)100部と、その他の結着材としてのポリフッ化ビニリデンのNMP溶液2部(固形分換算量)と、有機溶媒としてのNMPとを添加し、ディスパーにて攪拌して(3000rpm、60分)正極用スラリー組成物を調製した。なお、NMPの添加量は、得られる正極用スラリー組成物の粘度(JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計により測定。温度:25℃、回転数:60rpm)が4000~5000mPa・sの範囲内となるように調整した。
<正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリー組成物を、コンマコーターでアルミ箔の片面に乾燥後の塗布量が20mg/cm2になるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥後、60℃で10時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、アルミ箔と、密度が3.2g/cm3の正極合材層とからなるシート状正極を作製した。なお、シート状正極の厚みは70μmであった。このシート状正極を幅4.8mm、長さ50cmに切断して、リチウムイオン二次電池用正極とした。得られた正極を用いて、電解液中での膨化抑制、水分含有量およびピール強度を評価した。結果を表1に示す。
<負極の作製>
負極活物質としてのグラファイト(平均粒子径:20μm、比表面積:4.2m2/g)98部と、結着材としてのスチレンブタジエン重合体1部(固形分相当)とを混合し、更にカルボキシメチルセルロースを1部加えてプラネタリーミキサーで混合して負極用スラリー組成物を調製した。
集電体として、厚さ150μmの銅箔を準備した。上記負極用スラリー組成物を、銅箔の片面に乾燥後の塗布量が10mg/cm2になるように塗布し、60℃で20分、110℃で20分間乾燥後、60℃で10時間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、銅箔と、密度が1.5g/cm3の負極合材層とからなるシート状負極を作製した。
<リチウムイオン二次電池の製造>
アルミニウムシートの両面がポリプロピレンからなる樹脂で被覆されたラミネートフィルムを用いて、電池容器を作成した。次いで、上記で得られた正極および負極を用い、両極の電極合材層面が対向するようにしてポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレータを挟み、積層体を得た。得られた積層体を上記の電池容器に収納した。続いて、積層体を収納した電池容器に、電解液を注入した。なお、電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=1:2(25℃における体積比)で混合した混合溶媒に、LiPF6を1モル/リットルの濃度になるように溶解させて調製した。次いで、上記正極および負極の端部から電極合材層を除去して電池容器外に延出させ、その状態でラミネートフィルムを封止させて、リチウムイオン二次電池であるラミネートセルを作製した。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性および低温特性を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2)
正極用バインダー組成物の調製時に、以下のようにして調製した第二の重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<第二の重合体の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部および過硫酸カリウム0.3部をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。一方、別の容器で、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート82部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル15部、および酸性基含有単量体としてのメタクリル酸3部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了した。重合転化率は99%であった。得られた重合反応液を25℃に冷却後、アンモニア水を添加してpHを7に調整した。その後。スチームを導入して未反応の単量体を除去し、第二の重合体の水分散液を得た。
【0081】
(実施例3)
第一の重合体の調製時に、N-ビニル-2-ピロリドンに替えてN-ビニル-ε-カプロラクタムを使用し、実施例1と同様にして、第一の重合体を調製した。そして、正極用バインダー組成物の調製時に、上述のようにして調製した第一の重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、第二の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例4、5)
正極用バインダー組成物の調製時に、第一の重合体と第二の重合体の混合比(固形分換算、第一の重合体:第二の重合体)をそれぞれ、5:95(実施例4)、50:50(実施例5)に変更し、正極用導電材ペーストの調製時に、導電材としてアセチレンブラック(比表面積:200m2/g)を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体、第二の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例6)
以下のようにして調製した第一の重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、第二の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<第一の重合体の調製>
反応器中に、水94部と硫酸銅(II)4.5×10-6部とを仕込み、これを60℃まで昇温した。次いで、60℃を維持しながら、窒素含有環を有する単量体としてのN-ビニル-2-ピロリドン100部、25%アンモニア水0.6部、および35%過酸化水素水溶液3.5部を、3時間かけて滴下した。滴下後、25%アンモニア水0.2部を添加した。反応開始から4時間後、80℃に昇温し、35%過酸化水素水0.5部を添加した。次いで、反応開始から5.5時間後、35%過酸化水素水0.5部を添加し、更に80℃で1時間保持して、第一の重合体の水分散液を得た。
【0084】
(実施例7)
以下のようにして調製した第一の重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、第二の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<第一の重合体の調製>
反応器中に、窒素含有環を有する単量体としてのN-ビニル-2-ピロリドン400部と水1600部とを仕込み、窒素パージをしながら70℃に加熱し、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.4部を10%イソプロピルアルコール溶液として添加し、重合を開始した。重合開始から1時間経過後、重合終了までの間、反応液が90~99℃となるようにジャケット温度を調整した。反応開始から2時間後、さらに2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)10%イソプロピルアルコール溶液0.4部を添加し、重合率が99.5%以上であることを確認して、第一の重合体の水分散液を得た。
【0085】
(実施例8)
正極用導電材ペーストの調製時に、導電材としてアセチレンブラック(比表面積:70m2/g)を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体、第二の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例9)
以下のようにして調製した正極用導電材ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体、第二の重合体、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<正極用導電材ペーストの調製>
実施例1と同様にして得られた第一の重合体の水分散液中に含まれる水を、減圧下で全て蒸発させて、第一の重合体の粉末を得た。また、実施例1と同様にして得られた第二の重合体の水分散液とNMPを混合し、得られた混合液中に含まれる水を、減圧下で全て蒸発させて第二の重合体のNMP溶液を得た。
導電材としてのアセチレンブラック(比表面積:800m2/g)3.0部と、上記で得られた第一の重合体の粉末0.12部と、上記で得られた第二の重合体のNMP溶液0.48部(固形分換算量)と、NMPとを、ディスパーを用いて攪拌し(3000rpm、60分)、正極用導電材ペーストを調製した。なお、NMPの添加量は、得られる正極用導電材ペーストの固形分濃度が10%となるように調整した。なお、この調製手順を、後述する表1において「Y」と表記する。
【0087】
(比較例1)
正極用バインダー組成物の調製時に、第二の重合体を使用しなかった以外は、実施例8と同様にして、第一の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例2)
正極用バインダー組成物の調製時に、第一の重合体を使用しなかった以外は、実施例8と同様にして、第二の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例3)
正極用バインダー組成物の調製時に、第二の重合体の水分散液に替えてポリフッ化ビニリデンのNMP溶液を使用した以外は、実施例8と同様にして、第一の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例4)
正極用導電材ペーストの調製時に、導電材としてアセチレンブラック(比表面積:800m2/g)を使用した以外は、比較例3と同様にして、第一の重合体、正極用バインダー組成物、正極用導電材ペースト、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
なお、以下の表1中、
「VP」は、N-ビニル-2-ピロリドン単位を示し、
「VCL」は、N-ビニル-ε-カプロラクタム単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリルを示し、
「BD」は、1,3-ブタジエンを示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレートを示し、
「MAA」は、メタクリル酸を示し、
「PVDF」は、ポリフッ化ビニリデンを示す。
【0092】
【0093】
表1より、正極活物質と、導電材と、窒素含有環を有する単量体単位を含む第一の重合体と、ニトリル基含有単量体単位を10質量%以上70質量%以下の割合で含む第二の重合体と、有機溶媒とを含有するスラリー組成物を用いた実施例1~9では、電解液中での膨化が抑制されると共に、水分含有量が低減された正極を形成できることがわかる。また、実施例1~9では、スラリー組成物を用いて形成される正極は、ピール強度に優れ、且つリチウムイオン二次電池に優れた高温サイクル特性および低温特性を発揮させ得ることがわかる。
一方、上記第一の重合体を含むが、上記第二の重合体を含まないスラリー組成物を用いた比較例1では、電解液中での正極の膨化を抑制することができず、正極の水分含有量が上昇し、そして、正極のピール強度、並びにリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性および低温特性が低下することがわかる。
また、上記第二の重合体を含むが、上記第一の重合体を含まないスラリー組成物を用いた比較例2では、電解液中での正極の膨化を抑制することができず、そして、正極のピール強度、およびリチウムイオン二次電池の低温特性が低下することがわかる。
更に、上記第一の重合体を含むが、上記第二の重合体に替えてポリフッ化ビニリデンを用いて調製したスラリー組成物を用いた比較例3および4では、電解液中での正極の膨化を抑制することができず、正極の水分含有量が上昇し、そして、正極のピール強度、およびリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、電解液中での膨化が抑制されつつ水分含有量が低減されており、且つ電気化学素子に優れた素子特性を発揮させ得る電極を作製可能な電気化学素子電極用スラリー組成物およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、電解液中での膨化が抑制されつつ水分含有量が低減されており、且つ電気化学素子に優れた素子特性を発揮させ得る電気化学素子用電極を提供することができる。
そして、本発明によれば、高温サイクル特性および低温特性などの素子特性に優れる電気化学素子を提供することができる。