IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】共重合体およびポジ型レジスト組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/12 20060101AFI20221213BHJP
   C08F 212/12 20060101ALI20221213BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C08F220/12
C08F212/12
G03F7/039 501
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019549175
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018035918
(87)【国際公開番号】W WO2019077956
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2017203879
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017233380
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】星野 学
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115622(WO,A1)
【文献】特開平02-197846(JP,A)
【文献】特開昭59-083157(JP,A)
【文献】国際公開第99/062964(WO,A1)
【文献】特開2017-119744(JP,A)
【文献】特開2017-120286(JP,A)
【文献】O. Makoto et al.,Improvement of polymer type EB resist sensitivity and line edge roughness,Proceedings of SPIE,2011年,8081,p.808107/1-808107/8
【文献】YAMAGUCHI. T et al.,Influence of molecular weight of resist polymers on surface roughness and line-edge roughness,J. Vac. Sci. Technol. B,2004年,22(6),p.2604-2610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00、301/00
G03F7/039
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-アルキルスチレン単位と、α-クロロアクリル酸エステル単位のみからなり
重量平均分子量が6.7×10以上であり、
分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.35以上1.45以下であり、
分子量が40000未満の成分の割合が40%以下であり、
分子量が100000超の成分の割合が18%以上27%以下である、共重合体。
【請求項2】
前記分子量が40000未満の成分の割合が15%以上30%以下である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の共重合体と、溶剤とを含む、ポジ型レジスト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体およびポジ型レジスト組成物に関し、特には、ポジ型レジストとして好適に使用し得る共重合体および当該共重合体を含むポジ型レジスト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造等の分野において、電子線などの電離放射線や紫外線などの短波長の光(以下、電離放射線と短波長の光とを合わせて「電離放射線等」と称することがある。)の照射により主鎖が切断されて現像液に対する溶解性が増大する重合体が、主鎖切断型のポジ型レジストとして使用されている。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、高感度な主鎖切断型のポジ型レジストとして、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸メチル単位とを含有するα-メチルスチレン・α-クロロアクリル酸メチル共重合体よりなるポジ型レジストが開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献2~8には、主鎖切断型のポジ型レジストとして使用されるα-メチルスチレン・α-クロロアクリル酸メチル共重合体について、所定の分子量を有する成分の割合を調整することで、解像度および明瞭性に優れるレジストパターンの形成を可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平8-3636号公報
【文献】国際公開第2016/132722号
【文献】国際公開第2016/132726号
【文献】国際公開第2016/132727号
【文献】国際公開第2016/132728号
【文献】特開2017-120286号公報
【文献】特開2017-119744号公報
【文献】国際公開第2017/115622号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のα-メチルスチレン・α-クロロアクリル酸メチル共重合体よりなるポジ型レジストには、レジストパターンを形成した際にオープン欠陥(パターンの途切れ)やブリッジ欠陥(隣接するパターン間の橋架け)が生じる場合があるという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生を抑制し得る共重合体を提供することを目的とする。
また、本発明は、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生が抑制されたレジストパターンを形成し得るポジ型レジスト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、重量平均分子量が所定値以上であり、且つ、分子量が40000未満の成分の割合および分子量が100000超の成分の割合が所定値以下であるα-アルキルスチレン・α-クロロアクリル酸エステル共重合体であれば、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の共重合体は、α-アルキルスチレン単位と、α-クロロアクリル酸エステル単位とを含有し、重量平均分子量が6.7×10以上であり、分子量が40000未満の成分の割合が40%以下であり、分子量が100000超の成分の割合が27%以下であることを特徴とする。重量平均分子量が上記下限値以上であり、且つ、分子量が40000未満の成分の割合および分子量が100000超の成分の割合が上記上限値以下であるα-アルキルスチレン・α-クロロアクリル酸エステル共重合体は、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥が発生し難く、ポジ型レジストとして良好に使用することができる。
なお、本発明において、「重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用し、標準ポリスチレン換算値として測定することができる。また、本発明において、「分子量が40000未満の成分の割合」は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られるクロマトグラムを使用し、クロマトグラム中のピークの総面積(A)に対するクロマトグラム中の分子量が40000未満の成分のピークの面積の合計(B)の割合(=(B/A)×100%)を算出することにより求めることができる。更に、本発明において、「分子量が100000超の成分の割合」は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られるクロマトグラムを使用し、クロマトグラム中のピークの総面積(A)に対するクロマトグラム中の分子量が100000超の成分のピークの面積の合計(C)の割合(=(C/A)×100%)を算出することにより求めることができる。
【0010】
ここで、本発明の共重合体は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.45以下であることが好ましい。共重合体の分子量分布が1.45以下であれば、ポジ型レジストとして使用した際にブリッジ欠陥の発生を更に抑制することができる。
なお、本発明において、「数平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用し、標準ポリスチレン換算値として測定することができる。
【0011】
また、本発明の共重合体は、前記分子量が40000未満の成分の割合が15%以上30%以下であることが好ましい。分子量が40000未満の成分の割合が上記範囲内であれば、共重合体をポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥の発生を更に抑制することができる。
【0012】
そして、本発明の共重合体は、分子量が100000超の成分の割合が18%以上であることが好ましい。分子量が100000超の成分の割合が上記下限値以上であれば、共重合体をポジ型レジストとして使用した際にブリッジ欠陥の発生を更に抑制することができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のポジ型レジスト組成物は、上述した共重合体の何れかと、溶剤とを含むことを特徴とする。上述した共重合体をポジ型レジストとして含有すれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生が抑制されたレジストパターンを形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の共重合体によれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生を抑制し得るポジ型レジストを提供することができる。
また、本発明のポジ型レジスト組成物によれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生が抑制されたレジストパターンを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の共重合体は、電子線などの電離放射線や紫外線などの短波長の光の照射により主鎖が切断されて低分子量化する、主鎖切断型のポジ型レジストとして良好に使用することができる。そして、本発明のポジ型レジスト組成物は、ポジ型レジストとして本発明の共重合体を含むものであり、例えば、半導体素子、フォトマスク、ナノインプリントのマスターテンプレートなどの製造プロセスにおいてレジストパターンを形成する際に用いることができる。
【0016】
(共重合体)
本発明の共重合体は、α-アルキルスチレン単位と、α-クロロアクリル酸エステル単位とを含有するα-アルキルスチレン・α-クロロアクリル酸エステル共重合体であり、重量平均分子量、分子量が40000未満の成分の割合、および、分子量が100000超の成分の割合が所定の範囲内にあることを特徴とする。そして、本発明の共重合体は、α位にクロロ基(-Cl)を有するα-クロロアクリル酸エステルに由来する構造単位(α-クロロアクリル酸エステル単位)を含んでいるので、電離放射線等(例えば、電子線、KrFレーザー、ArFレーザー、EUVレーザーなど)が照射されると、主鎖が容易に切断されて低分子量化する。また、本発明の共重合体は、重量平均分子量、分子量が40000未満の成分の割合、および、分子量が100000超の成分の割合が所定の範囲内にあるので、ポジ型レジストとしてレジストパターンの形成に用いた際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生を抑制することができる。
【0017】
<α-アルキルスチレン単位>
ここで、α-アルキルスチレン単位は、α-アルキルスチレンに由来する構造単位である。そして、本発明の共重合体は、α-アルキルスチレン単位を有しているので、ポジ型レジストとして使用した際に、ベンゼン環の保護安定性により優れた耐ドライエッチング性を発揮する。
【0018】
そして、共重合体を構成し得るα-アルキルスチレン単位としては、特に限定されることなく、例えば、α-メチルスチレン単位、α-エチルスチレン単位、α-プロピルスチレン単位、α-ブチルスチレン単位などの炭素数が4以下の直鎖状アルキル基がα炭素に結合しているα-アルキルスチレン単位が挙げられる。中でも、共重合体をポジ型レジストとして使用した際の耐ドライエッチング性を高める観点からは、α-アルキルスチレン単位はα-メチルスチレン単位であることが好ましい。
ここで、共重合体は、α-アルキルスチレン単位として上述した単位を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上有していてもよい。
【0019】
なお、本発明の共重合体は、α-アルキルスチレン単位を30モル%以上70モル%以下の割合で含有することが好ましい。
【0020】
<α-クロロアクリル酸エステル単位>
また、α-クロロアクリル酸エステル単位は、α-クロロアクリル酸エステルに由来する構造単位である。そして、本発明の共重合体は、α-クロロアクリル酸エステル単位を有しているので、電離放射線等が照射されると、塩素原子が脱離し、β開裂反応によって主鎖が容易に切断される。従って、本発明の共重合体よりなるポジ型レジストは、高い感度を示す。
【0021】
そして、共重合体を構成し得るα-クロロアクリル酸エステル単位としては、特に限定されることなく、例えば、α-クロロアクリル酸メチル単位、α-クロロアクリル酸エチル単位等のα-クロロアクリル酸アルキルエステル単位などが挙げられる。中でも、共重合体をポジ型レジストとして使用した際の感度を高める観点からは、α-クロロアクリル酸エステル単位はα-クロロアクリル酸メチル単位であることが好ましい。
ここで、共重合体は、α-クロロアクリル酸エステル単位として上述した単位を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上有していてもよい。
【0022】
なお、本発明の共重合体は、α-クロロアクリル酸エステル単位を30モル%以上70モル%以下の割合で含有することが好ましい。
【0023】
そして、共重合体は、α-アルキルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸エステル単位以外のその他の単量体単位を含んでいてもよいが、共重合体を構成する全単量体単位(100モル%)中でα-アルキルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸エステル単位が占める割合は、合計で90モル%以上であることが好ましく、100モル%である(即ち、共重合体はα-アルキルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸エステル単位のみを含む)ことがより好ましい。α-アルキルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸エステル単位の合計含有量が多い共重合体、特には単量体単位がα-アルキルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸エステル単位のみからなる共重合体は、ポジ型レジストとして好適に使用することができるからである。
【0024】
<分子量が40000未満の成分の割合>
本発明の共重合体は、分子量が40000未満の成分の割合が、40%以下であることが必要であり、15%以上30%以下であることが好ましい。分子量が40000未満の成分の割合が40%超の場合、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥の発生を十分に抑制することができない。そして、分子量が40000未満の成分の割合が15%以上30%以下であれば、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の双方の発生を良好に抑制することができる。
【0025】
<分子量が100000超の成分の割合>
また、本発明の共重合体は、分子量が100000超の成分の割合が、27%以下であることが必要であり、18%以上であることが好ましい。分子量が100000超の成分の割合が27%超の場合、ポジ型レジストとして使用した際にブリッジ欠陥の発生を十分に抑制することができない。そして、分子量が100000超の成分の割合が18%以上27%以下であれば、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の双方の発生を良好に抑制することができる。
【0026】
<重量平均分子量>
本発明の共重合体の重量平均分子量(Mw)は、6.7×10以上であることが必要であり、6.8×10以上であることが好ましく、8.0×10以下であることが好ましく、7.7×10以下であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が6.7×10未満の場合、ポジ型レジストとして使用した際にブリッジ欠陥の発生を十分に抑制することができない。そして、重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であれば、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の双方の発生を良好に抑制することができる。
【0027】
<数平均分子量>
また、本発明の共重合体の数平均分子量(Mn)は、4.5×10以上であることが好ましく、4.8×10以上であることがより好ましく、6.0×10以下であることが好ましく、5.5×10以下であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が上記範囲内であれば、ポジ型レジストとして使用した際にオープン欠陥およびブリッジ欠陥の双方の発生を良好に抑制することができる。
【0028】
<分子量分布>
そして、本発明の共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.45以下であることが好ましく、1.44以下であることがより好ましく、1.20以上であることが好ましく、1.35以上であることがより好ましい。共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.45以下であれば、ポジ型レジストとして使用した際にブリッジ欠陥の発生を更に抑制することができる。また、共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.20以上であれば、共重合体の調製が容易となる。
【0029】
(共重合体の調製方法)
そして、上述した性状を有する共重合体は、例えば、α-アルキルスチレンとα-クロロアクリル酸エステルとを含む単量体組成物を、溶液重合などの既知の重合方法を用いて重合させた後、得られた共重合体を回収し、任意に精製することにより調製することができる。
なお、共重合体の組成、分子量分布、重量平均分子量および数平均分子量、並びに、共重合体中の各分子量の成分の割合は、重合条件および精製条件を変更することにより調整することができる。具体的には、例えば、重量平均分子量および数平均分子量は、重合温度を高くすれば、小さくすることができる。また、重量平均分子量および数平均分子量は、重合時間を短くすれば、小さくすることができる。
【0030】
<単量体組成物の重合>
ここで、本発明の共重合体の調製に用いる単量体組成物としては、α-アルキルスチレンおよびα-クロロアクリル酸エステルを含む単量体と、重合開始剤と、任意に添加される溶媒と、任意に添加される添加剤との混合物を用いることができる。そして、単量体組成物の重合は、既知の方法を用いて行うことができる。中でも、溶媒としては、シクロペンタノンなどを用いることが好ましく、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
【0031】
なお、共重合体の組成は、重合に使用した単量体組成物中の各単量体の含有割合を変更することにより調整することができる。
【0032】
そして、単量体組成物を重合して得られた重合液中に含まれている共重合体は、特に限定されることなく、例えば、任意にテトラヒドロフラン等の良溶媒を重合液に添加した後、重合液をメタノール等の貧溶媒中に滴下して共重合体を凝固させ、ろ過などの固液分離手段を用いて凝固した共重合体を分離する(重合液から溶媒と残存モノマー等の未反応物とを除去する)ことにより、回収することができる。
なお、共重合体の回収方法は上述した方法に限定されるものではなく、共重合体は、溶媒および未反応物の留去などの既知の方法を用いて回収してもよい。また、回収した共重合体は、必要に応じて以下のようにして精製することができる。
【0033】
<共重合体の精製>
得られた共重合体を精製して上述した性状を有する共重合体を得る際に用いる精製方法としては、特に限定されることなく、再沈殿法やカラムクロマトグラフィー法などの既知の精製方法を用いることができる。中でも、精製方法としては、再沈殿法を用いることが好ましい。
なお、共重合体の精製は、複数回繰り返して実施してもよい。
【0034】
そして、再沈殿法による共重合体の精製は、例えば、得られた共重合体をテトラヒドロフラン等の良溶媒に溶解した後、得られた溶液を、テトラヒドロフラン等の良溶媒とメタノール等の貧溶媒との混合溶媒に滴下し、共重合体の一部を析出させることにより行うことが好ましい。このように、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に共重合体の溶液を滴下して共重合体の精製を行えば、良溶媒および貧溶媒の種類や混合比率を変更することにより、得られる共重合体の分子量分布、重量平均分子量および数平均分子量、並びに、共重合体中の各分子量の成分の割合を容易に調整することができる。具体的には、例えば、混合溶媒中の良溶媒の割合を高めるほど、混合溶媒中で析出する共重合体の分子量を大きくすることができる。
【0035】
なお、再沈殿法により共重合体を精製する場合、本発明の共重合体としては、所望の性状を満たせば、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中で析出した共重合体を用いてもよいし、混合溶媒中で析出しなかった共重合体(即ち、混合溶媒中に溶解している共重合体)を用いてもよい。ここで、混合溶媒中で析出しなかった共重合体は、濃縮乾固などの既知の手法を用いて混合溶媒中から回収することができる。
【0036】
(ポジ型レジスト組成物)
本発明のポジ型レジスト組成物は、上述した共重合体と、溶剤とを含み、任意に、レジスト組成物に配合され得る既知の添加剤を更に含有する。そして、本発明のポジ型レジスト組成物は、上述した共重合体をポジ型レジストとして含有しているので、本発明のポジ型レジスト組成物を塗布および乾燥させて得られるレジスト膜を使用すれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生が抑制されたレジストパターンを良好に形成することができる。
【0037】
<溶剤>
なお、溶剤としては、上述した共重合体を溶解可能な溶剤であれば既知の溶剤を用いることができる。中でも、適度な粘度のポジ型レジスト組成物を得てポジ型レジスト組成物の塗工性を向上させる観点からは、溶剤としてはアニソールを用いることが好ましい。
【実施例
【0038】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、共重合体の重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布、共重合体中の各分子量の成分の割合、並びに、レジストパターンの形成性は、下記の方法で測定および評価した。
【0039】
<重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布>
得られた共重合体についてゲル浸透クロマトグラフィーを用いて重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、共重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算値として求めた。そして、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
<共重合体中の各分子量の成分の割合>
ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、共重合体のクロマトグラムを得た。そして、得られたクロマトグラムから、ピークの総面積(A)、分子量が40000未満の成分のピークの面積の合計(B)および分子量が100000超の成分のピークの面積の合計(C)を求めた。そして、下記式を用いて各分子量の成分の割合を算出した。
分子量が40000未満の成分の割合(%)=(B/A)×100
分子量が100000超の成分の割合(%)=(C/A)×100
<レジストパターンの形成性>
スピンコーター(ミカサ製、MS-A150)を使用し、ポジ型レジスト組成物を、直径4インチのシリコンウェハ上に塗布した。次いで、塗布したポジ型レジスト組成物を温度180℃のホットプレートで3分間加熱して、シリコンウェハ上に厚さ40nmのレジスト膜を形成した。そして、電子線描画装置(エリオニクス社製、ELS-S50)を用いてレジスト膜を電子線照射量140μC/cmで露光して、パターンを描画した。その後、レジスト用現像液として酢酸アミル(日本ゼオン社製、ZED-N50)を用いて温度23℃で1分間の現像処理を行った後、リンス液としてのイソプロピルアルコールで10秒間リンスしてレジストパターンを形成した。そして、形成したレジストパターンを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察(倍率:100000倍)し、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の有無を観察した。なお、レジストパターンのライン(未露光領域)とスペース(露光領域)は、それぞれ20nmとした。
【0040】
(実施例1)
<共重合体の調製>
[単量体組成物の重合]
単量体としてのα-クロロアクリル酸メチル3.0gおよびα-メチルスチレン6.88gと、溶媒としてのシクロペンタノン39.564gと、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.0109gとを含む単量体組成物をガラス容器に入れ、ガラス容器を密閉および窒素置換して、窒素雰囲気下、75℃の恒温槽内で48時間撹拌した。その後、室温に戻し、ガラス容器内を大気解放した後、得られた溶液にテトラヒドロフラン(THF)30gを加えた。そして、THFを加えた溶液をメタノール300g中に滴下し、重合物(未精製の共重合体)を析出させた。その後、析出した重合物を含む溶液をキリヤマ漏斗によりろ過し、白色の凝固物(重合物)を得た。なお、得られた重合物は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸メチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
[重合物の精製]
次いで、得られた重合物を100gのTHFに溶解させ、得られた溶液をTHF600gとメタノール(MeOH)400gとの混合溶媒に滴下し、白色の凝固物(α-メチルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸メチル単位を含有する共重合体)を析出させた。その後、析出した共重合体を含む溶液をキリヤマ漏斗によりろ過し、白色の共重合体を得た。そして、得られた共重合体について、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布、並びに、共重合体中の各分子量の成分の割合を測定した。結果を表1に示す。
<ポジ型レジスト組成物の調製>
得られた共重合体を溶剤としてのアニソールに溶解させ、共重合体の濃度が11質量%であるレジスト溶液(ポジ型レジスト組成物)を調製した。そして、レジストパターンの形成性を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2~3)
単量体組成物の重合時に、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を、それぞれ14.836g(実施例2)および6.594g(実施例3)に変更した以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例4~8)
単量体組成物の重合時に、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を14.836gに変更し、更に、重合物の精製時に、混合溶媒として、それぞれTHF605gとMeOH395gとの混合溶媒(実施例4)、THF603gとMeOH397gとの混合溶媒(実施例5)、THF602gとMeOH398gとの混合溶媒(実施例6)、THF599gとMeOH401gとの混合溶媒(実施例7)、および、THF595gとMeOH405gとの混合溶媒(実施例8)を用いた以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1)
単量体組成物の重合時に、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を14.836gに変更し、重合物の精製を実施することなく、単量体組成物を重合した際にろ過により回収した重合物をそのまま共重合体として用いてポジ型レジスト組成物を調製した以外は実施例1と同様にして、重合物(α-メチルスチレン単位およびα-クロロアクリル酸メチル単位を含有する共重合体)およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
単量体組成物の重合時に、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を2.4741gに変更し、恒温槽の温度を78℃に変更し、更に、撹拌時間を6.5時間に変更した以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例3)
単量体組成物の重合時に、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を2.4741gに変更すると共に恒温槽の温度を78℃に変更した以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例4)
単量体組成物の重合時に、溶媒としてのシクロペンタノンを使用せず、恒温槽の温度を78℃に変更した以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例5)
単量体組成物の重合時に、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を2.4741gに変更し、恒温槽の温度を78℃に変更し、更に、撹拌時間を6時間に変更した以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例6)
単量体組成物の重合時に、使用する重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリルの量を0.0873gに変更し、使用する溶媒としてのシクロペンタノンの量を2.4918gに変更し、恒温槽の温度を78℃に変更し、撹拌時間を6.5時間に変更し、更に、重合物の精製時に、混合溶媒としてTHF500gとMeOH500gとの混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、重合物、共重合体およびポジ型レジスト組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、実施例1~8の共重合体よりなるポジ型レジストを含むポジ型レジスト組成物によれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生が抑制されたレジストパターンを形成し得ることが分かる。一方、表1より、分子量が40000未満の成分の割合が40%超の共重合体よりなるポジ型レジストを含む比較例1および6のポジ型レジスト組成物では、オープン欠陥の発生を抑制できないことが分かる。更に、表1より、重量平均分子量が6.7×10未満の共重合体よりなるポジ型レジストを含む比較例2および5のポジ型レジスト組成物、並びに、分子量が100000超の成分の割合が27%超の共重合体よりなるポジ型レジストを含む比較例3および4のポジ型レジスト組成物では、ブリッジ欠陥の発生を抑制できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の共重合体によれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生を抑制し得るポジ型レジストを提供することができる。
また、本発明のポジ型レジスト組成物によれば、オープン欠陥およびブリッジ欠陥の発生が抑制されたレジストパターンを形成することができる。