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特許7192791全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、全固体二次電池用機能層、および全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、全固体二次電池用機能層、および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20221213BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20221213BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
H01M10/0562
C08L101/00
C08K5/098
H01M4/62 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019559565
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2018044562
(87)【国際公開番号】W WO2019116964
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2017240974
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕一郎
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/108109(WO,A1)
【文献】米国特許第02875166(US,A)
【文献】特開平11-050046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状重合体、不飽和酸金属モノマー、および有機溶媒を含み、
水分量が1000ppm未満であり、
前記不飽和酸金属モノマーが、二重結合を2つ以上有し、且つ、2価の金属を有する、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記不飽和酸金属モノマーの含有割合が、前記重合体100質量部に対し、0.01質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記2価の金属が、カルシウム、マグネシウム、銅および亜鉛から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
前記不飽和酸金属モノマーが(メタ)アクリル酸金属モノマーである、請求項1~のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含む、全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項に記載の全固体二次電池用スラリー組成物からなる、全固体二次電池用機能層。
【請求項7】
請求項に記載の全固体二次電池用機能層を備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、全固体二次電池用機能層、および全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器等の携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、電動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、など、様々な用途での需要が増加している。
【0003】
このように、用途が広がるに伴い、二次電池の安全性の更なる向上が要求されている。二次電池の安全性の更なる向上を確保するために、固体電解質を用いる方法が有効である。
【0004】
固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド等を用いた高分子固体電解質が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この高分子固体電解質は可燃性材料である点で改良の余地がある。
よって、不燃性材料である無機材料からなり、高分子固体電解質に比べて安全性が非常に高い無機固体電解質からなる固体電解質層を正極及び負極の間に有する全固体二次電池の開発が進んでいる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
全固体リチウム二次電池における固体電解質層は、例えば、固体電解質粒子と溶媒とを含む固体電解質層用スラリー組成物を正極または負極の上に塗布して乾燥する方法(塗布法)により形成されている(例えば、特許文献3および4参照)。このように、塗布法で固体電解質層を形成する場合には、活物質や固体電解質を含むスラリー組成物の粘度や流動性が、塗布可能な条件の範囲にあることが必要であり、また、スラリー組成物を塗布したのち溶剤を乾燥してなる電極および固体電解質層には、電池特性を良好に発現させるために活物質や固体電解質以外に全固体二次電池用バインダー組成物などを添加することが必要である。しかしながら、スラリー組成物の粘度や流動性塗布可能な条件の範囲にあり、且つ、電池特性を良好に発現させるスラリー組成物を実現し得る全固体二次電池用バインダー組成物は未だ得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4134617号公報
【文献】特開昭59-151770号公報
【文献】特開2009-176484号公報
【文献】特開2009-211950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることを可能とする全固体二次電池用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、上述の全固体二次電池用バインダー組成物を含む全固体二次電池用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、上述の全固体二次電池用スラリー組成物からなる全固体二次電池用機能層を提供することを目的とする。
さらに、上述の全固体二次電池用機能層を備える全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、2価の金属を有する不飽和酸金属モノマーを用いることにより、固形分濃度50質量%以上の高濃度でも分散安定性の良い全固体二次電池用スラリー組成物が得られ、該全固体二次電池用スラリー組成物を用いてなるプレス性が良好な全固体二次電池用機能層を得られ、全固体二次電池用機能層を備える全固体二次電池の抵抗値を小さくすることができる、即ち、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、下記に示す全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー組成物、全固体二次電池用機能層、および全固体二次電池が提供される。
【0009】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、重合体、不飽和酸金属モノマー、および溶媒を含み、前記不飽和酸金属モノマーが2価の金属を有する、ことを特徴とする。このように、全固体二次電池用バインダー組成物が、重合体、2価の金属を有する不飽和酸金属モノマー、および溶媒を含むことで、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることを可能とする。
【0010】
また、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記不飽和酸金属モノマーの含有割合が、前記重合体100質量部に対し、0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。不飽和酸金属モノマーの含有割合が、重合体100質量部に対し、0.01質量部以上10質量部以下であることにより、不飽和酸金属モノマーを添加する効果(全固体二次電池用スラリー組成物の固形分濃度を上げることができるという効果)を得ることができると共に、重合体の粒子同士が凝集すること(バインダー凝集)を抑制することができる。
【0011】
また、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、2価の金属が、カルシウム、マグネシウム、銅、および亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。2価の金属が、カルシウム、マグネシウム、銅、および亜鉛から選択される少なくとも1種であることにより、全固体二次電池の製造の際のプロセス性により優れ、より良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることができる。
【0012】
また、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記不飽和酸金属モノマーが二重結合を2つ以上有することが好ましい。不飽和酸金属モノマーが二重結合を2つ以上有することにより、全固体二次電池の製造の際のプロセス性により優れ、より良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることができる。
【0013】
また、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記不飽和酸金属モノマーが(メタ)アクリル酸金属モノマーであることが好ましい。不飽和酸金属モノマーが(メタ)アクリル酸金属モノマーであることにより、全固体二次電池の製造の際のプロセス性により優れ、より良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、上述した全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含む、ことを特徴とする。このように、上述した全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含めば、全固体二次電池用スラリー組成物の分散安定性を向上させることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用機能層は、上述した全固体二次電池用スラリー組成物からなる、ことを特徴とする。このように、上述した全固体二次電池用スラリー組成物からなれば、全固体二次電池用機能層のプレス性を向上させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池は、上述した全固体二次電池用機能層を備える、ことを特徴とする。このように、上述した全固体二次電池用機能層を備えれば、全固体二次電池の抵抗値を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることを可能とする全固体二次電池用バインダー組成物、該全固体二次電池用バインダー組成物を含む全固体二次電池用スラリー組成物、該全固体二次電池用スラリー組成物からなる全固体二次電池用機能層、および該全固体二次電池用機能層を備える全固体二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(全固体二次電池用バインダー組成物)
以下、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物について説明する。本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、重合体、不飽和酸金属モノマー、および溶媒を含み、前記不飽和酸金属モノマーが2価の金属を有する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明に用いられる固体電解質電池用バインダー組成物の固形分濃度としては、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5.6質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。固体電解質電池用バインダー組成物の固形分濃度が1質量%以上であれば、容易に塗工できるスラリーを得ることができる。また、固体電解質電池用バインダー組成物の固形分濃度が40質量%以下であれば、秤量等の取扱いが容易であることができる。
【0020】
本発明の全固体二次電池用バインダー組成物において、重合体が水系分散液中に存在する場合、水を有機溶媒に溶媒交換することが必要である。溶媒交換は、公知の方法により行うことができ、例えば、ロータリーエバポレーターに、重合体の水系分散液および有機溶媒を入れ、減圧して所定の温度にて溶媒交換及び脱水操作を行うことができる。
なおここで、溶媒交換後の重合体を含む有機溶媒中の水分量(バインダー組成物水分量)は、好ましくは1000ppm未満であり、より好ましくは500ppm未満であり、さらに好ましくは100ppm未満であり、さらにより好ましくは95ppm以下であり、特に好ましくは90ppm以下であり、最も好ましくは85ppm以下である。
【0021】
本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、正極活物質層、負極活物質層または固体電解質層の少なくとも1つに用いられる。なお、正極は集電体上に正極活物質層を有し、負極は集電体上に負極活物質層を有する。また、正極活物質層および負極活物質層を総称して電極活物質層ということがある。
【0022】
<重合体>
本発明の全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる重合体は、例えば、全固体二次電池用バインダー組成物が固体電解質層に用いられる場合、固体電解質層に含まれる固体電解質同士を結着して固体電解質層を形成するために用いられる。
【0023】
本発明の全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる重合体は、単量体組成物を重合または共重合してなる粒子状ポリマーであることが好ましい。
【0024】
[粒子状ポリマー]
粒子状ポリマーの平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であることがより好ましく、また、1μm以下であることが好ましく、0.70μm以下であることがより好ましい。粒子状ポリマーの平均粒子径が0.1μm以上1μm以下であれば、固体電解質粒子同士の接触点の数や接触面積が増加し、その結果、内部抵抗が小さくなるためである。なお、粒子状ポリマーの平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる個数平均粒子径である。
【0025】
粒子状ポリマーのガラス転移温度は、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、-32℃以下であることが特に好ましく、-60℃以上であることが好ましく、-50℃以上であることがより好ましく、-43℃以上であることが特に好ましい。粒子状ポリマーのガラス転移温度が0℃以下であれば、ガラス転移温度が高過ぎて密着力が不足する、という現象を抑制することができる。また、粒子状ポリマーのガラス転移温度が-60℃以上であれば、電池性能の低温での低下を抑制することができる。
【0026】
粒子状ポリマーの種類としては、特に制限はなく、共役ジエン系ポリマー、(メタ)アクリレート系ポリマー、などが好適に挙げられる。
【0027】
[[共役ジエン系ポリマー]]
共役ジエン系ポリマーとしては、共役ジエン系モノマーを重合することにより得られる共役ジエン系単量体単位を含むポリマーであれば、特に制限はなく、共役ジエン系ホモポリマーおよび共役ジエン系共重合ポリマーのいずれであってもよい。
共役ジエン系ポリマーとして、共役ジエン系ホモポリマーおよび共役ジエン系共重合ポリマーを、それぞれ単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
-共役ジエン系ホモポリマー-
共役ジエン系ホモポリマーとしては、共役ジエン系モノマーのみを重合してなる重合体であれば、特に制限はなく、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリシアノブタジエン、ポリペンタジエン、などの工業的に用いられる一般的なものが挙げられる。
なお、上述した共役ジエン系ホモポリマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、入手が容易であるという点で、ポリブタジエン、ポリイソプレンが好ましく、ポリブタジエンがより好ましい。
【0029】
共役ジエン系ホモポリマーにおける共役ジエン系単量体単位を構成する共役ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンクロロプレン、シアノブタジエン、などが挙げられる。なお、上述した共役ジエン系モノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、入手が容易である点で、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。
なお、ここで、共役ジエン系モノマーの重合様式としては、特に限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0030】
-共役ジエン系共重合ポリマー-
共役ジエン系共重合ポリマーは、共役ジエン系単量体単位(共役ジエン系モノマーが構成する単量体単位)を少なくとも含む共重合ポリマーであれば、特に制限はない。共役ジエン系単量体単位を構成する共役ジエン系モノマーとしては、上述した共役ジエン系ホモポリマーの重合で用いたものと同様のものを用いることができる。
ここで、共役ジエン系共重合ポリマーにおける共役ジエン系単量体単位以外の単量体単位を構成するモノマーとしては、共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に制限はなく、例えば、シアノ基含有ビニル単量体、アミノ基含有ビニル単量体、ピリジル基含有ビニル単量体、アルコキシル基含有ビニル単量体、芳香族ビニル単量体、などが挙げられる。なお、上述した共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、反応性の点で、芳香族ビニル単量体、シアノ基含有ビニル単量体、が好ましく、芳香族ビニル単量体がより好ましい。
共役ジエン系共重合ポリマーが、芳香族ビニル単量体と共役ジエン系単量体単位とからなる場合、即ち、芳香族ビニル化合物と共役ジエン系化合物との共重合体である場合、共役ジエン系化合物由来のビニル構造が共役ジエン系化合物由来の構造単位のうちの、10質量%以上であることが好ましく、60質量%以下であることが好ましい。
【0031】
--芳香族ビニル単量体--
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジエチルアミノエチルスチレン、などが挙げられる。なお、上述した芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレン、が好ましい。
【0032】
--シアノ基含有ビニル単量体--
シアノ基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、などが挙げられる。なお、上述したシアノ基含有ビニル単量体は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
共役ジエン系共重合ポリマー中における、共役ジエン系モノマー由来の単量体単位と、共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマー由来の単量体単位との割合は、目的に応じて適宜選択することができるが、「共役ジエン系モノマー由来の単量体単位/共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマー由来の単量体単位」の質量比で、70/30~100/0であることが好ましく、80/20~100/0であることがより好ましい。「共役ジエン系モノマー由来の単量体単位/共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマー由来の単量体単位」の質量比が、70/30~100/0であれば、全固体二次電池の製造の際のプロセス性により優れ、より良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることができる。
【0034】
[[(メタ)アクリレート系ポリマー]]
(メタ)アクリレート系ポリマーとしては、(メタ)アクリレート系モノマーを重合することにより得られるポリマーであれば、特に制限はない。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタアクリレートのことを意味する。
【0035】
-(メタ)アクリレート系モノマー-
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート等の2-(パーフルオロアルキル)エチルアクリレート;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、へプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;2-(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロペンチル)エチルメタクリレート等の2-(パーフルオロアルキル)エチルメタクリレート;ベンジルアクリレート;ベンジルメタクリレート;などが挙げられる。なお、上述した(メタ)アクリレート系モノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、反応性の点で、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0036】
また、ここで、(メタ)アクリレート系ポリマーにおける(メタ)アクリレート系単量体単位((メタ)アクリレートモノマーが構成する単量体単位)以外の単量体単位を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリレート系モノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に制限はなく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β-不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。なお、上述したアクリレート系ポリマーにおける(メタ)アクリレート系単量体単位((メタ)アクリレートモノマーが構成する単量体単位)以外の単量体単位を構成するモノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
また、(メタ)アクリレート系ポリマーにおける(メタ)アクリレート系単量体単位((メタ)アクリレートモノマーが構成する単量体単位)以外の単量体単位を構成するモノマーで官能基を複数有するものを架橋剤として用いることができる。架橋剤として用いることができるものは、例えば、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の2つ以上の炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有単量体;などである。
ここで、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)等の架橋剤を適量添加すると、系全体が硬くなり、バインダーの結着力が低下するのを防止し、ワレカケが発生するのを防止することができる。
【0037】
[粒子状ポリマーの製造方法]
粒子状ポリマーの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、などが挙げられる。
これらの中でも、粒径制御しやすい点で、乳化重合法が好ましい。なお、乳化重合法では、例えば、シード粒子の水性分散液中にて、単量体が乳化重合される。
重合方式としては、回分式、半連続式、連続式のいずれの方式を用いてもよい。また、重合圧力、重合温度および重合時間としては、公知の条件を採用することができる。
【0038】
[[乳化重合法]]
乳化重合法は、通常は常法により行う。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法で行う。すなわち、乳化重合法は、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に、(i)水と、(ii)分散剤、乳化剤、架橋剤等の添加剤と、(iii)重合開始剤と、(iv)単量体の溶液と、を所定の組成になるように加え、容器中の単量体組成物を攪拌して単量体等を水に乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。あるいは、乳化重合法は、上記単量体組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ、同様に反応を開始させる方法である。乳化重合に際しては、乳化重合反応に一般に使用される、界面活性剤(乳化剤)、重合開始剤、分子量調整剤(連鎖移動剤)、キレート剤、電解質、脱酸素剤等の各種添加剤を、重合用副資材として使用することができる。
【0039】
-界面活性剤(乳化剤)-
乳化重合法にて用いる界面活性剤(乳化剤)としては、所望の粒子状ポリマーが得られる限り、任意のものを用いることができ、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウム、などが挙げられる。なお、上述した界面活性剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上述した界面活性剤の量は、所望の粒子状ポリマーが得られる限り、任意であるが、粒子状ポリマーを作製するために用いられる単量体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。界面活性剤の量が0.5質量部以上であれば、乳化重合を安定に行うことができる。また、界面活性剤の量が10質量部以下であれば、電池への影響を小さくすることができる。
【0041】
-重合開始剤-
また、重合反応に際しては、通常、重合開始剤を用いる。この重合開始剤としては、所望の粒子状ポリマーが得られる限り、任意のものを用いることができ、例えば、過硫酸ナトリウム(NaPS)、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、などが挙げられる。なお、上述した重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、得られる全固体二次電池のサイクル特性の低下を抑制することができる点で、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが好ましく、過硫酸カリウムがより好ましい。
【0042】
-連鎖移動剤(分子量調整剤)-
また、重合反応に際しては、その重合系には、連鎖移動剤(分子量調整剤)が含まれていてもよい。連鎖移動剤(分子量調整剤)としては、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレン;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロロメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート等のチオ化合物;ジフェニルエチレン;α-メチルスチレンダイマー;などが挙げられる。なお、上述した分子量調整剤または連鎖移動剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
<不飽和酸金属モノマー>
不飽和酸金属モノマーとしては、2価の金属を有する限り、特に制限はなく、例えば、ジメタクリル酸カルシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、ジメタクリル酸銅、ジメタクリル酸亜鉛、ジアクリル酸カルシウム、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅、ジアクリル酸亜鉛、等の(メタ)アクリル酸金属モノマー、などが挙げられる。
なお、上述した不飽和酸金属モノマーは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、水溶性である点で、ジアクリル酸マグネシウム、ジアクリル酸銅が好ましく、ジアクリル酸マグネシウムがより好ましい。
不飽和酸金属モノマーにおける二重結合の数は、2以上であることが好ましく、2であることがより好ましい。
なお、不飽和酸金属モノマーを添加することにより、重合体の分散安定性を低下させずに、重合体の表面を架橋することができると推定される。
【0044】
上述した不飽和酸金属モノマーの含有割合は、重合体100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが特に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、4質量部以下であることが特に好ましく、3質量部以下であることが最も好ましい。不飽和酸金属モノマーの含有割合が、重合体100質量部に対し、0.01質量部以上であれば、不飽和酸金属モノマーを添加する効果(全固体二次電池用スラリー組成物の固形分濃度を上げることができるという効果)を得ることができる。また、不飽和酸金属モノマーの含有割合が、重合体100質量部に対し、10質量部以下であれば、ポリマー粒子表面の架橋構造の生成により、重合体の粒子同士が凝集すること(バインダー凝集)を抑制することができる。
【0045】
<溶媒>
本発明の全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる溶媒としては、特に制限はなく、例えば、沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒が好適に挙げられる。
沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒としては、例えば、トルエン(沸点:111℃)、キシレン(沸点:144℃)等の芳香族炭化水素類;シクロペンチルメチルエーテル(沸点:106℃)等のエーテル類;酢酸ブチル(沸点:126℃)、酪酸ブチル(沸点:164℃)等のエステル類;などが好適に挙げられる。
沸点が250℃超の有機溶媒の場合、電極等を製造する際の乾燥工程に必要な温度が立高くなるため、装置が大型になる等の問題がある。
なお、上述した沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、入手が容易である点で、キシレンが好ましい。
また、上述した水から有機溶媒への溶媒交換における有機溶媒として、上記にて例示した沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0046】
本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を用いると、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることができる。
【0047】
(全固体二次電池用スラリー組成物)
本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、上述した本発明の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含む。
【0048】
本発明の全固体二次電池用スラリー組成物の固形分濃度としては、40質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、62質量%以上であることが最も好ましく、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。全固体二次電池用スラリー組成物の固形分濃度が40質量%以上であれば、塗工乾燥するプロセスを容易にしたり、乾燥時間を短縮したり、乾燥に必要な熱量を低減したりすることができ、ひいては、全固体二次電池の製造の際のプロセス性を向上させることができる。
【0049】
<固体電解質>
固体電解質は、通常、粉砕工程を経たものを用いるため粒子状である。ここで、粒子状とは、完全な球形ではなく不定形である。
固体電解質粒子の大きさは、一般に、レーザー光を粒子に照射し散乱光を測定する方法などにより、平均粒子径として測定される。この場合の粒子径は、粒子の形状を球形と仮定した値である。複数の粒子をまとめて測定した場合、相当する粒子径の粒子の存在割合を粒度分布として表すことができる。
【0050】
固体電解質粒子の平均粒子径は、固体二次電池用スラリー組成物の分散性および塗工性の観点から、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることが特に好ましく、また、1.3μm以下であることが好ましく、1.2μm以下であることがより好ましい。なお、固体電解質粒子の平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる個数平均粒子径である。
【0051】
固体電解質としては、特に制限はなく、例えば、結晶性の無機リチウムイオン伝導体、非晶性の無機リチウムイオン伝導体、などが好適に挙げられる。
なお、上述した固体電解質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、導電性の点で、非晶性の無機リチウムイオン伝導体が好ましい。
【0052】
[結晶性の無機リチウムイオン伝導体]
結晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、特に制限はなく、例えば、LiN、LISICON(Li14Zn(GeO)、ペロブスカイト型Li0.5La0.5TiO、ガーネット型LiLaZr10、LIPON(Li3+yPO4-x)、Thio-LISICON(Li3.25Ge0.250.75)、などが挙げられる。
【0053】
[非晶性の無機リチウムイオン伝導体]
非晶性の無機リチウムイオン伝導体は、特に制限はなく、ガラスLi-Si-S-O、Li-P-S、などが挙げられる。
これらの中でも、導電性の点で、S(硫黄原子)を含有し、且つ、イオン伝導性を有するもの(硫化物固体電解質材料)が好ましい。
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物が用いられる全固体二次電池が全固体リチウム二次電池である場合、硫化物固体電解質材料としては、LiおよびPを含む非晶性の硫化物が好ましく、LiSと第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物がより好ましい。このような原料組成物を用いて硫化物固体電解質材料を合成する方法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶融急冷法等の非晶質化法を挙げることができる。これらの中でも、常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができる点で、メカニカルミリング法が好ましい。
【0054】
LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、リチウムイオン伝導性が高いため、無機固体電解質として用いることで電池の内部抵抗を低下させることができると共に、出力特性を向上させることができる。
【0055】
LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、電池の内部抵抗低下および出力特性向上という観点から、LiSとPとからなる硫化物ガラスであることが好ましく、LiS:Pのモル比が65:35~85:15であるLiSとPとの混合原料から製造された硫化物ガラスであることがより好ましい。また、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、LiS:Pのモル比が65:35~85:15のLiSとPとの混合原料をメカノケミカル法によって反応させて得られる硫化物ガラスセラミックスであることが好ましい。なお、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持する観点からは、混合原料は、LiS:Pのモル比が68:32~80:20であることが好ましい。
【0056】
第13族~第15族の元素の硫化物としては、例えば、Al、SiS、GeS、P、P、As、Sb、などが挙げられる。
なお、上述した第13族~第15族の元素の硫化物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、電池の内部抵抗低下および出力特性向上という観点から、第14族または第15族の硫化物が好ましく、Pがより好ましい。
【0057】
[[硫化物固体電解質材料]]
LiSと、第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料しては、例えば、LiS-P材料、LiS-SiS材料、LiS-GeS材料、LiS-Al材料、などが挙げられる。
これらの中でも、Liイオン伝導性が優れている点で、LiS-P材料が好ましい。
なお、硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性を低下させない程度において、上記LiS、Pの他に出発原料としてAl、BおよびSiSからなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物を含んでいてもよい。かかる硫化物を加えると、硫化物固体電解質材料中のガラス成分を安定化させることができる。
同様に、硫化物固体電解質材料は、LiSおよびPに加え、LiPO、LiSiO、LiGeO、LiBOおよびLiAlOからなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含んでいてもよい。かかるオルトオキソ酸リチウムを含ませると、硫化物固体電解質材料中のガラス成分を安定化させることができる。
【0058】
LiS-P材料、LiS-SiS材料、LiS-GeS材料、LiS-Al材料等の硫化物固体電解質材料におけるLiSのモル分率は、より確実に架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる観点から、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、74%以下であることが好ましい。
【0059】
また、硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性を高くすることができる観点から、架橋硫黄を有することが好ましい。ここで、「架橋硫黄を有する」ことは、例えば、ラマン分光スペクトルによる測定結果、原料組成比、NMRによる測定結果、などから判断することができる。
なお、硫化物固体電解質材料が架橋硫黄を有する場合、通常、正極活物質との反応性が高く、高抵抗層が生じやすい。しかしながら、全固体二次電池用バインダー組成物は、通常、芳香族ビニル化合物単量体単位と共役ジエン化合物単量体単位を含む共重合体を含むため、高抵抗層の発生を抑制できるという本発明の効果を充分に発揮することができる。
【0060】
また、硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであってもよく、その硫化物ガラスを熱処理して得られる結晶化硫化物ガラスであってもよい。ここで、「硫化物ガラス」は、例えば、上述した非晶質化法により得ることができる。結晶化硫化物ガラスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することにより得ることができる。
【0061】
結晶化硫化物ガラスは、Liイオン伝導性の点で、Li11で表されることが好ましい。ここで、Li11を合成する方法としては、例えば、LiSおよびPを、モル比70:30で混合し、ボールミルで非晶質化することで、硫化物ガラスを合成し、得られた硫化物ガラスを150℃~360℃で熱処理することにより、Li11を合成することができる。
【0062】
(全固体二次電池用機能層)
本発明の全固体二次電池用機能層は、上述した本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成され、正極活物質層、負極活物質層、および固体電解質層の少なくとも一層、好ましくは、全ての層を意味する。
本発明の全固体二次電池用機能層は、例えば、上述した本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を、後述する正極活物質層または負極活物質層の上に塗布し、乾燥することにより形成される固体電解質層である。
【0063】
(全固体二次電池)
本発明の全固体二次電池は、上述した本発明の全固体二次電池用機能層を備える。即ち、本発明の全固体二次電池は、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を用いて、正極活物質層、負極活物質層、および固体電解質層の少なくとも一層、好ましくは、全ての層を形成することにより、得られる。ここで、本発明の全固体二次電池は、通常、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、これらの正負極活物質層間に形成された固体電解質層とを有する。正極は集電体上に正極活物質層を有し、負極は集電体上に負極活物質層を有する。以下、固体電解質層、正極活物質層、および負極活物質層について説明する。
【0064】
<固体電解質層>
本発明の全固体二次電池用機能層が固体電解質層である場合、固体電解質層は、固体電解質層用スラリー組成物を、後述する集電体の表面に塗布し、乾燥することにより形成される。固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質、固体電解質層用バインダー(重合体)、2価の金属を有する不飽和酸金属モノマー、有機溶媒、および、必要に応じて添加される他の成分を混合することにより製造される。
本発明の全固体二次電池用機能層が固体電解質層でない場合、固体電解質層としては、特に限定されることなく、例えば、特開2012-243476号公報、特開2013-143299号公報および特開2016-143614号公報に記載の任意の固体電解質層を用いることができる。
【0065】
[固体電解質]
固体電解質は、全固体二次電池用スラリー組成物において例示したものと同じものを用いることができる。
【0066】
[固体電解質層用バインダー]
固体電解質層用バインダーは、固体電解質を結着して固体電解質層を形成するために用いられる。固体電解質層用バインダーとしては、全固体二次電池用バインダー組成物を構成する重合体を含んでいてもよい。
【0067】
[不飽和酸金属モノマー]
不飽和酸金属モノマーは、全固体二次電池用バインダー組成物において例示したものと同じものを用いることができる。
【0068】
[有機溶媒]
有機溶媒は、上記の全固体二次電池用バインダー組成物で例示した「沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒」を好適に用いることができる。
【0069】
[他の成分]
固体電解質層用スラリー組成物は、上記成分(固体電解質、固体電解質層用バインダー、不飽和酸金属モノマー、および有機溶媒)の他に、必要に応じて添加される他の成分として、導電剤、補強材、等の各種の機能を発現する添加剤を含んでいてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限はない。
【0070】
[[導電剤]]
導電剤としては、導電性を付与できるものであれば、特に制限はなく、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等の炭素粉末;各種金属のファイバー;各種金属の箔;などが挙げられる。
【0071】
[[補強材]]
補強材としては、球状、板状、棒状または繊維状の無機フィラーまたは有機フィラーを使用することができる。
【0072】
[[非導電性粒子]]
非導電性粒子としては、特に制限はなく、無機粒子および有機粒子を使用することができる。
無機粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO、ZrO、アルミナ-シリ力複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子;などが挙げられる。
有機粒子としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物等の各種架橋高分子粒子;ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性高分子粒子;などが挙げられる。
【0073】
<正極活物質層>
本発明の全固体二次電池用機能層が正極活物質層である場合、正極活物質層は、正極活物質層用スラリー組成物を、後述する集電体の表面に塗布し、乾燥することにより形成される。正極活物質層用スラリー組成物は、正極活物質、固体電解質、正極用バインダー(重合体)、2価の金属を有する不飽和酸金属モノマー、有機溶媒、および、必要に応じて添加される他の成分を混合することにより製造される。
本発明の全固体二次電池用機能層が正極活物質層でない場合、正極活物質層は、特に制限はなく、例えば、特開2016-181471号公報、特開2016-181472号公報に記載の任意の正極活物質層を用いることができる。
【0074】
[正極活物質]
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な化合物である。正極活物質としては、無機化合物からなる正極活物質、有機化合物からなる正極活物質、無機化合物と有機化合物との混合物、が挙げられる。
【0075】
正極活物質の平均粒子径は、(i)負荷特性、充放電サイクル特性、充放電容量等の電池特性、(ii)正極活物質層用スラリー組成物の取扱い、(iii)正極を製造する際の取扱いの観点から、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、また、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。なお、正極活物質の平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる個数平均粒子径である。
【0076】
[[無機化合物からなる正極活物質]]
無機化合物からなる正極活物質としては、(i)遷移金属酸化物、(ii)Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属とリチウムとの複合酸化物(リチウム含有複合金属酸化物)、(iii)遷移金属硫化物、などが挙げられる。
上記(i)遷移金属酸化物としては、Cu、非晶質VO-P、MoO、V、V13、などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
上記(ii)リチウム含有複合金属酸化物としては、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVO、などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
上記(iii)遷移金属硫化物としては、TiS、TiS、非晶質MoS、などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0077】
[[有機化合物からなる正極活物質]]
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N-フルオロピリジニウム塩、などが挙げられる。
【0078】
[固体電解質]
固体電解質は、全固体二次電池用スラリー組成物において例示したものと同じものを用いることができる。
【0079】
正極活物質と固体電解質との質量比率(正極活物質:固体電解質)は、90:10~50:50であることが好ましく、80:20~60:40であることがより好ましい。正極活物質と固体電解質との質量比率が上記範囲内であると、正極活物質の質量比率が少な過ぎるために、電池内の正極活物質の質量が低減して、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができ、また、固体電解質の質量比率が少なすぎるために、導電性が十分に得られず正極活物質を有効に利用することができずに、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができる。
【0080】
[正極用バインダー]
正極用バインダーは、正極活物質および固体電解質を結着して正極活物質層を形成するために用いられる。正極用バインダーとしては、全固体二次電池用バインダー組成物を構成する重合体を含んでいればよい。
【0081】
正極活物質層用スラリー組成物中における正極用バインダーの含有量は、電池反応を阻害せずに、電極から正極活物質が脱落するのを防ぐことができる観点から、固形分相当で正極活物質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、また、5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましい。
【0082】
[不飽和酸金属モノマー]
不飽和酸金属モノマーは、全固体二次電池用バインダー組成物において例示したものと同じものを用いることができる。
【0083】
[有機溶媒]
有機溶媒は、上記の全固体二次電池用バインダー組成物で例示した「沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒」を好適に用いることができる。
正極活物質層用スラリー組成物中における有機溶媒の含有量は、固体電解質の分散性を保持しながら、良好な塗料特性を得ることができる観点から、正極活物質100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、また、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。
【0084】
[他の成分]
正極活物質層用スラリー組成物は、上記成分(正極活物質、固体電解質、正極用バインダー、不飽和酸金属モノマー、および有機溶媒)の他に、必要に応じて添加される他の成分として、上述の導電剤、上述の補強材、上述の非導電性粒子等の各種の機能を発現する添加剤を含んでいてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限はない。
【0085】
<負極活物質層>
本発明の全固体二次電池用機能層が負極活物質層である場合、負極活物質層は、負極活物質層用スラリー組成物を、後述する集電体の表面に塗布し、乾燥することにより形成される。負極活物質層用スラリー組成物は、負極活物質、固体電解質、負極用バインダー、2価の金属を有する不飽和酸金属モノマー、有機溶媒、および、必要に応じて添加される他の成分を混合することにより製造される。
本発明の全固体二次電池用機能層が負極活物質層でない場合、負極活物質層は、特に制限はなく、例えば、特開2016-181471号公報、特開2016-181472号公報に記載の任意の負極活物質層を用いることができる。
【0086】
[負極活物質]
負極活物質としては、グラファイト、コークス等の炭素同素体;ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物または硫酸塩;金属リチウム;Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン;などが挙げられる。負極活物質が炭素同素体からなる場合は、金属、金属塩、酸化物等との混合体、被覆体の形態であってもよい。また、負極活物質が金属材料である場合は、金属箔または金属板をそのまま電極として用いてもよく、また、粒子状であってもよい。
【0087】
負極活物質が粒子状の場合、負極活物質の平均粒子径は、初期効率、負荷特性、充放電サイクル特性等の電池特性の向上の観点から、1μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。なお、負極活物質の平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる個数平均粒子径である。
【0088】
[固体電解質]
固体電解質は、全固体二次電池用スラリー組成物において例示したものと同じものを用いることができる。
【0089】
負極活物質と固体電解質との質量比率(負極活物質:固体電解質)は、90:10~50:50であることが好ましく、80:20~60:40であることがより好ましい。負極活物質と固体電解質との質量比率が上記範囲内であると、負極活物質の質量比率が少な過ぎるために、電池内の負極活物質の質量が低減し、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができ、また、固体電解質の質量比率が少なすぎるために、導電性が十分に得られず負極活物質を有効に利用することができずに、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができる。
【0090】
[負極用バインダー]
負極用バインダーは、負極活物質および固体電解質を結着して負極活物質層を形成するために用いられる。負極用バインダーとしては、全固体二次電池用バインダー組成物を構成する重合体を含んでいればよい。
【0091】
負極活物質層用スラリー組成物中における負極用バインダーの含有量は、電池反応を阻害せずに、電極から負極活物質が脱落するのを防ぐことができる観点から、固形分相当で負極活物質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましい。
【0092】
[不飽和酸金属モノマー]
不飽和酸金属モノマーは、全固体二次電池用バインダー組成物において例示したものと同じものを用いることができる。
【0093】
[有機溶媒]
有機溶媒は、上記の全固体二次電池用バインダー組成物で例示した「沸点が100℃以上250℃以下の有機溶媒」を好適に用いることができる。
【0094】
[他の成分]
負極活物質層用スラリー組成物は、上記成分(負極活物質、固体電解質、負極用バインダー、不飽和酸金属モノマー、および有機溶媒)の他に、必要に応じて添加される他の成分として、上述の導電剤、上述の補強材、上述の非導電性粒子等の各種の機能を発現する添加剤を含んでいてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限はない。
【0095】
[集電体]
正極活物質層および負極活物質層の形成に用いる集電体としては、電気導電性を有し、且つ、電気化学的に耐久性のある材料からなる集電体であれば、特に制限はないが、耐熱性の観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなる集電体、が好適に挙げられる。なお、上述した金属材料は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、正極用集電体としてはアルミニウムからなる集電体が特に好ましく、負極用集電体としては銅からなる集電体が特に好ましい。
集電体の形状としては、特に制限はないが、厚さ0.001mm~0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、上述した正極活物質層/負極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用することが好ましい。粗面化処理方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法、などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線等を備えたワイヤーブラシ、などが使用される。また、集電体と正極活物質層/負極活物質層との接着強度や導電性を高めるために、集電体の表面に、導電性接着剤層等の中間層を形成してもよい。
【0096】
上記の各スラリー組成物(固体電解質層用スラリー組成物、正極活物質層用スラリー組成物および負極活物質層用スラリー組成物)の混合法としては、特に制限はなく、例えば、撹拌式、振とう式、回転式等の混合装置を使用した方法が挙げられる。
また、上記の各スラリー組成物の混合法としては、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、サンドミル、ロールミル、遊星式混練機等の分散混練装置を使用した方法が挙げられる。これらの中でも、固体電解質の凝集抑制の観点から、プラネタリーミキサー、ボールミル、ビーズミル、を使用した方法が好ましい。
【0097】
<全固体二次電池の製造>
全固体二次電池における正極は、集電体上に正極活物質層を形成することにより得られる。ここで、正極活物質層は、上述した正極活物質層用スラリー組成物を集電体上に塗布、乾燥することにより形成される。
【0098】
また、全固体二次電池における負極は、負極活物質が金属箔又は金属板である場合にはそのまま負極として用いてもよい。また、負極活物質が粒子状である場合には、正極の集電体とは別の集電体上に負極活物質層を形成することにより得られる。ここで、負極活物質層は、上記の負極活物質層用スラリー組成物を正極の集電体とは別の集電体上に塗布、乾燥することにより形成される。
【0099】
次いで、形成した正極活物質層または負極活物質層の上に、固体電解質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥して固体電解質層を形成する。そして、固体電解質層を形成しなかった電極と、固体電解質層を形成した電極とを貼り合わせることで、全固体二次電池素子を製造する。
【0100】
電極活物質層用スラリー組成物の集電体への塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り、などが挙げられる。
電極活物質層用スラリー組成物の塗布量としては、特に制限はないが、有機溶媒を除去した後に形成される活物質層の厚さが、通常、5μm~300μm、好ましくは10μm~250μmになる程度の量である。
電極活物質層用スラリー組成物の乾燥方法としては、特に制限がなく、例えば、(i)温風、熱風、低湿風等による乾燥、(ii)真空乾燥、(iii)(遠)赤外線、電子線等の照射による乾燥、などが挙げられる。乾燥条件は、通常は、応力集中が起こって電極活物質層に亀裂が入ったり、電極活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く、有機溶媒が揮発するように調整する。
さらに、乾燥後の電極をプレスすることにより電極を安定させてもよい。プレス方法は、金型プレス、カレンダープレス等の方法が挙げられるが、限定されるものではない。
【0101】
乾燥温度は、有機溶媒が十分に揮発する温度である。具体的には、正極用バインダーおよび負極用バインダーが熱分解することなく、良好な活物質層を形成する観点から、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。乾燥時間としては、特に制限はないが、通常、10分間以上であり、60分間以下である。
【0102】
固体電解質層用スラリー組成物を正極活物質層又は負極活物質層へ塗布する方法としては、特に制限はなく、上述した電極活物質層用スラリー組成物の集電体への塗布方法と同様の方法により行うことができるが、固体電解質層の薄膜化の観点からは、グラビア法が好ましい。
固体電解質層用スラリー組成物の塗布量としては、特に制限はないが、有機溶媒を除去した後に形成される固体電解質層の厚さが、通常、2μm~20μm、好ましくは3μm~15μmになる程度の量である。
固体電解質層用スラリー組成物の乾燥方法、乾燥条件及び乾燥温度としては、上述の電極活物質層用スラリー組成物の乾燥方法と同様である。
【0103】
さらに、固体電解質層を形成した電極と固体電解質層を形成しなかった電極とを貼り合わせた積層体を、加圧してもよい。
加圧方法としては、特に制限はなく、例えば、平板プレス、ロールプレス、CIP(Cold Isostatic Press)、などが挙げられる。
加圧プレスする圧力としては、電極と固体電解質層との各界面における抵抗、さらには各層内の粒子間の接触抵抗が低くして、良好な電池特性を得る観点から、5MPa以上であることが好ましく、7MPa以上であることがより好ましく、700MPa以下であることが好ましく、500MPa以下であることがより好ましい。
【0104】
正極活物質層および負極活物質層のいずれかに固体電解質層用スラリー組成物を塗布するかについては、特に制限はないが、電極活物質の粒子径が大きい方の活物質層に固体電解質層用スラリー組成物を塗布することが好ましい。電極活物質の粒子径が大きいと、活物質層表面に凹凸が形成されるため、固体電解質層用スラリー組成物を塗布することで、電極活物質層表面の凹凸を緩和することができる。そのため、固体電解質層を形成した電極と、固体電解質層を形成しなかった電極とを貼り合わせて積層する際に、固体電解質層と電極との接触面積が大きくなり、界面抵抗を抑制することができる。
【0105】
上述したようにして得られた全固体二次電池素子を、電池形状に応じて、そのままの状態、または、巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口して全固体二次電池が得られる。
また、必要に応じて、エキスパンドメタル;ヒューズ;PTC素子等の過電流防止素子;リード板;などを電池容器に入れ、電池内部の圧力上昇および過充放電の防止をすることもできる。
全固体二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型、などのいずれであってもよい。
【実施例
【0106】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り、質量基準である。実施例及び比較例において、「塗膜の外観の観察」、「プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察」、「抵抗値の測定」は、以下のように行った。
【0107】
<塗膜の外観の観察>
実施例および比較例で作製した全固体電解質層用スラリー組成物を厚さ14μmのアルミ箔の片面にギャップ200μmのコーターで塗布し、80℃のホットプレートで乾燥することにより、固体電解質層を形成し、これを試験片とした。
【0108】
得られた試験片表面のヒビの有無を目視で確認した。ヒビが確認されなかったものを「○」、ヒビが確認されたものを「×」として、結果を表1に示す。ヒビが発生した塗膜を固体電解質層として用いた全固体二次電池は、電池性能に劣ることが想定される。
【0109】
<プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察>
実施例および比較例で作製した固体電解質層用スラリー組成物を厚さ14μmのアルミ箔の片面にギャップ200μmのコーターで塗布し、80℃のホットプレートで乾燥することにより、固体電解質層を形成し、これを試験片とした。この試験片を直径10mmの金属パンチで打ち抜いた。この時、試験片にワレや端部にカケの発生の有無を調べた。
ワレ・カケが発生しなかったものを、プレス機で2MPaの圧力で圧密化する。プレス処理の際に圧子として用いた金属丸棒の端面を観察した。表面に固体電解質が付着したり、バインダーポリマーが残存する等により、汚れが発生していないことを目視で確認した。汚れが付着しないものはプロセス性に優れていることを示す。
20個中で1個も汚れが確認できなかったものを「○」、汚れが確認できたものを「×」として、結果を表1に示す。
【0110】
<抵抗値の測定>
実施例および比較例で作製した固体電解質層用スラリー組成物を厚さ14μmのアルミ箔の片面にギャップ200μmのコーターで塗布し、80℃のホットプレートで乾燥することにより、固体電解質層を形成し、次いで同じアルミ箔で挟みこの試験片を直径10mmの金属パンチで打ち抜いた後、プレス機で2MPaの圧力で圧密化する。プレス処理に用い実施例および比較例にて作製した固体電解質層の抵抗値を、インピーダンスメーターを用いて測定し、ナイキストプロットから抵抗値を算出した。結果を表1に示す。抵抗値の値が小さいほど、電池性能が良好な全固体二次電池が得られることを示す。
【0111】
(実施例1)
<全固体二次電池用バインダー組成物の調製>
攪拌機付き反応器に、2-エチルヘキシルアクリレート59部、スチレン20部、ブチルアクリレート20部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム(KPS)0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子状ポリマーの水分散液を得た。
次いで、得られた水分散液を10wt%のNaOH水溶液を用いてpHを7に調整した。
なお、得られた粒子状ポリマーのガラス転移温度を以下のように測定した。
<<粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定>>
調製した粒子状ポリマーの水分散液を測定試料として、測定試料10mgをアルミパンに計量し、示差熱分析測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「EXSTAR DSC6220」)にて、測定温度範囲-100℃~500℃の間で、昇温速度10℃/分で、JIS Z 8703に規定された条件下で測定を実施し、示差走査熱量分析(DSC)曲線を得た。なお、リファレンスとして空のアルミパンを用いた。この昇温過程で、微分信号(DDSC)が0.05mW/分/mg以上となるDSC曲線の吸熱ピークが出る直前のベースラインと、吸熱ピーク後に最初に現れる変曲点でのDSC曲線の接線との交点を、ガラス転移温度(℃)として求めた。
【0112】
pHを7に調整したポリマーの水分散液に対しては、未反応単量体を除去するため加熱減圧処理を行った後、イオン交換水を添加し、固形分濃度を30wt%に調整した。
得られたポリマー水分散液50gに、不飽和酸金属モノマーとしてのジアクリル酸マグネシウム(アルドリッチ社試薬)の1質量%の水溶液を、撹拌しながら10g添加した。
次いで、キシレン500gを添加し、エバポレーターで80℃に加熱しながら水を除去して、水分量82ppmの全固体二次電池用バインダー組成物(固形分濃度7質量%)を調製した。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、0.67(=10×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
【0113】
<全固体二次電池用スラリー組成物の調製>
アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス(水分濃度0.6ppm、酸素濃度1.8ppm)で、固体電解質粒子としてLiSとPとからなる硫化物ガラス(LiS/P=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:1.2μm、累積90%の粒子径:2.1μm)100部と、全固体二次電池用バインダー組成物を固形分相当で2部とを混合し、さらに、有機溶媒としてのキシレンを加えて、固形分濃度65質量%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して固体電解質層用スラリー組成物(全固体二次電池用スラリー組成物)を調製した。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物(全固体二次電池用スラリー組成物)は、固形分濃度が65質量%であった。
塗膜を作製し、外観を観察した後、直径10mmに打ち抜き、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れを観察した後、抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2)
実施例1において、ジアクリル酸マグネシウムの1質量%の水溶液の添加量を、10gから300gに変更したこと以外は、実施例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が74ppmであり、固形分濃度が7質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、20(=300×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物は、固形分濃度が62質量%であった。
【0115】
(実施例3)
攪拌機付き反応器に、2-エチルヘキシルアクリレート49部、スチレン20部、ブチルアクリレート15部、アクリロニトリル15部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム(KPS)0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子状ポリマーの水分散液を得た。
以下、実施例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が66ppmであり、固形分濃度が6.2質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、0.67(=10×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物(全固体二次電池用スラリー組成物)は、固形分濃度が62質量%であった。
【0116】
(実施例4)
攪拌機付き耐圧反応器に、1,2-ブタジエン59部、スチレン30部、ブチルアクリレート10部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム(KPS)0.5部を添加し、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子状ポリマーの水分散液を得た。
以下、実施例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が95ppmであり、固形分濃度が5.6質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、0.67(=10×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物は、固形分濃度が62質量%であった。
【0117】
(実施例5)
実施例1において、ジアクリル酸マグネシウムの1質量%の水溶液を添加する代わりに、ジアクリル酸銅の1質量%の水溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が90ppmであり、固形分濃度が6.6質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸銅の含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、0.67(=10×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物は、固形分濃度が65質量%であった。
【0118】
(実施例6)
実施例3において、ジアクリル酸マグネシウムの1質量%の水溶液の添加量を、10gから30gに変更したこと以外は、実施例3と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が85ppmであり、固形分濃度が5.8質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、2(=30×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物は、固形分濃度が60質量%であった。
【0119】
(実施例7)
実施例1において、ジアクリル酸マグネシウムの1質量%の水溶液の添加量を、10gから400gに変更したこと以外は、実施例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が74ppmであり、固形分濃度が5.8質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、26.7(=400×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物は、固形分濃度が65質量%であった。
【0120】
(比較例1)
実施例1と同様の固形分濃度30%の粒子状ポリマー分散液を調製し、該粒子状ポリマー分散液50gに、不飽和酸金属モノマー水溶液を添加しないで、キシレン500gを添加し、エバポレーターで80℃に加熱しながら水を除去して、水分量85ppmの全固体二次電池用バインダー組成物(固形分濃度7質量%)を調製した。
調製された全固体二次電池用バインダー組成物を用いて、実施例1にと同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、塗膜の外観観察では、塗膜表面の一部にヒビが観察された。プレス時のワレ・カケの観察では、直径10mmの打ち抜き機で試験片を打ち抜いたところ、円周状の周囲の一部にカケが観察された。
また、固体電解質層用スラリー組成物(全固体二次電池用スラリー組成物)は、固形分濃度が65質量%であった。
【0121】
(比較例2)
実施例1において、ジアクリル酸マグネシウムの1質量%の水溶液を添加する代わりに、アクリル酸ナトリウムの1質量%の水溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、全固体二次電池用バインダー組成物は、水分量が77ppmであり、固形分濃度が5.2質量%であった。
また、全固体二次電池用バインダー組成物におけるジアクリル酸マグネシウムの含有割合は、粒子状ポリマー100質量部に対し、0.67(=10×0.01×(100/(50×0.3)))質量部であった。
さらに、固体電解質層用スラリー組成物は、固形分濃度が60質量%であった。
【0122】
(比較例3)
比較例1において、固体電解質層用スラリー組成物(全固体二次電池用スラリー組成物)の固形分濃度を、65質量%から30質量%に変更したこと以外は、比較例1と同様に、粒子状ポリマーのガラス転移温度の測定、全固体二次電池用バインダー組成物の調製、全固体二次電池用スラリー組成物の調製、塗膜の外観観察、プレス時のワレ・カケおよびプレス圧子の汚れの観察、および抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1において、実施例1~7と比較例1~3と比較することで、全固体二次電池用バインダー組成物が、(i)重合体、(ii)2価の金属を有する不飽和酸金属モノマー、および(iii)溶媒を含むことで、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性(低抵抗値)を有する全固体二次電池を得ることができることが分かった。
【0125】
表1における比較例1の結果から、不飽和酸金属モノマーを含まない二次電池用バインダー組成物を用いた場合、固体電解質層用スラリー組成物の固形分濃度が65質量%では、ゲル化してしまい平滑な塗膜を形成することができないことが分かった。
【0126】
表1における比較例2の結果から、不飽和酸金属モノマーにおける金属が1価である二次電池用バインダー組成物を用いた場合、固体電解質層用スラリー組成物の固形分濃度が60質量%では、ゲル化してしまい平滑な塗膜を形成することができないことが分かった。
【0127】
表1における比較例3の結果から、不飽和酸金属モノマーを含まない二次電池用バインダー組成物を用いた場合、固形分濃度を低濃度にしないと、固体電解質層用スラリー組成物(全固体二次電池用スラリー組成物)を作製することができない、即ち、全固体二次電池の製造の際のプロセス性が劣ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、全固体二次電池の製造の際のプロセス性に優れ、良好な電池特性を有する全固体二次電池を得ることを可能とする全固体二次電池用バインダー組成物、該全固体二次電池用バインダー組成物を含む全固体二次電池用スラリー組成物、該全固体二次電池用スラリー組成物からなる全固体二次電池用機能層、および該全固体二次電池用機能層を備える全固体二次電池を得ることができる。