(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】偏光板用積層体、偏光板、積層体フィルムロール、偏光板用積層体の製造方法及び偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221213BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221213BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20221213BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B27/30 102
C08J7/04 B CEX
(21)【出願番号】P 2019561714
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047569
(87)【国際公開番号】W WO2019131631
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017253053
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞島 啓
(72)【発明者】
【氏名】猪股 貴道
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130681(WO,A1)
【文献】特開2007-137042(JP,A)
【文献】特開2009-98653(JP,A)
【文献】特開2005-107238(JP,A)
【文献】特開2017-97048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/04
B32B 27/30
B32B 27/32
C08J 7/04
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長550nmの光の透過率が50%以上のポリビニルアルコール樹脂フィルムと、
前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、直接積層された樹脂層と、を有
し、
前記樹脂層がシクロオレフィン系樹脂及び有機金属化合物を含有し、
前記樹脂層における前記有機金属化合物の割合は、前記樹脂層を形成する樹脂100重量部に対して、0.005重量部以上0.5重量部以下である、偏光板用積層体。
【請求項2】
前記樹脂層は、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムに、樹脂をコーティングすることにより形成した樹脂層である、請求項1に記載の偏光板用積層体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの面内方向の位相差Re1が50nm以下である、請求項1または2に記載の偏光板用積層体。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの厚みTが45μm以下であり、かつ、
前記樹脂層の延伸物の面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下であり、前記位相差Re2は、前記偏光板用積層体を50℃~120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸し、前記樹脂層を前記延伸物とした際に、前記延伸物が有する位相差である、請求項1~3のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
【請求項5】
前記樹脂層の厚みが50μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
【請求項6】
前記シクロオレフィン系樹脂がシクロオレフィン系重合体を含み、
前記シクロオレフィン系重合体が、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、
からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物である、請求項
1~5のいずれか1項に記載の偏光板用積層体。
【請求項7】
前記樹脂層が、可塑剤、軟化剤又はこれらの双方を含有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
【請求項8】
前記可塑剤、前記軟化剤又はこれらの双方が、エステル系可塑剤及び脂肪族炭化水素ポリマーから選ばれる一種以上である、請求項
7に記載の偏光板用積層体。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の偏光板用積層体を一軸延伸した、偏光板。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の偏光板用積層体と、
当該積層体の樹脂層の、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは反対側の面に、積層されたセパレーターフィルムと、を有し、
ロール形状に巻き取られた、積層体フィルムロール。
【請求項11】
波長550nmの光の透過率が50%以上であるポリビニルアルコール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂をコーティングして樹脂層を形成する第一の工程と、
前記第一の工程で形成した樹脂層を乾燥する第二の工程と、をこの順に含む、偏光板用積層体の製造方法
であって、
前記製造方法はさらに、前記第一の工程の前に、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを加熱処理する第三の工程を含む、偏光板用積層体の製造方法。
【請求項12】
波長550nmの光の透過率が50%以上であるポリビニルアルコール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂をコーティングして樹脂層を形成する第一の工程と、
前記第一の工程で形成した樹脂層を乾燥する第二の工程と、をこの順に含む、偏光板用積層体の製造方法であって、
前記製造方法はさらに、前記第一の工程の前に、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの表面を活性化処理する第四の工程を含む、偏光板用積層体の製造方法。
【請求項13】
前記コーティングの方法が、溶液コーティング、エマルジョンコーティング、あるいは溶融押出コーティングから選ばれる一以上の方法である、請求項
11又は12に記載の偏光板用積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の偏光板用積層体または請求項
11~13のいずれか一項に記載の偏光板用積層体の製造方法により得られた偏光板用積層体を用いて偏光板を製造する方法であって、
前記積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、
前記積層体を一軸延伸する第六の工程と、を含む、偏光板の製造方法。
【請求項15】
前記第五の工程及び/又は前記第六の工程を経た後に、前記積層体のポリビニルアルコール樹脂フィルムの樹脂層とは反対側の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含む、請求項
14に記載の偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板用積層体、偏光板、積層体フィルムロール、偏光板用積層体の製造方法及び偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置等の表示装置としては、従来から、表示面積が大きく、重量が軽く、且つ厚みが薄いものが求められている。そのため、表示装置を構成するパネルも、従来から薄いものが求められている。
【0003】
表示装置には、偏光子及び偏光子を保護する保護フィルムを備える偏光板が一般的に用いられる。厚みの薄い表示装置を構成するために、偏光板も、より薄いものが求められている。特に、偏光子は、表示装置の使用環境において収縮することがあるため、薄く面積が大きい表示装置においては、そのような収縮による反りが問題となりうる。したがって、厚み10μm以下といった薄い偏光子を採用することにより、偏光子の厚みの低減自体による表示装置の厚みの低減に加え、前述のような反りの発生の低減も期待できる。
【0004】
ところが、従来の製造方法により、そのような厚みの薄いポリビニルアルコールの偏光子を製造しようとした場合、偏光子の溶断が頻発する。このような、偏光子の溶断を防ぎ、且つ薄い偏光子を含む偏光板を製造する方法として、いくつかの方法が提案されている。
例えば、特許文献1では、非晶質エステル系熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶液を塗布することによりポリビニルアルコール系樹脂層を製膜して積層体とし、当該積層体を延伸処理した後、二色性物質を配向させて着色積層体とし、当該着色積層体を延伸処理して光学フィルムを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4691205号公報(対応公報:米国特許第8314987号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法により薄い偏光板を製造する場合、積層体を高い延伸倍率で延伸することに起因して、延伸処理後の樹脂フィルムにおいて位相差が発生することがある。そのような場合に、樹脂フィルムをそのまま偏光板保護フィルムとして使用することは難しく、剥離して廃棄することになるため、無駄になる材料が発生する。さらに、偏光板を保護するための保護フィルムを別途用意して、偏光板に貼り付ける作業が生じうる。
【0007】
従って、本発明は、樹脂フィルム(樹脂層)を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができる偏光板用積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに、前記積層体を用いた偏光板用積層体フィルムロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために検討を行った結果、本発明者は、所定波長の光の透過率が50%以上のポリビニルアルコール樹脂フィルムと、当該フィルムに直接積層された樹脂層と、を有する積層体を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明によれば、下記〔1〕~〔18〕が提供される。
〔1〕 波長550nmの光の透過率が50%以上のポリビニルアルコール樹脂フィルムと、
前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、直接積層された樹脂層と、を有する、偏光板用積層体。
〔2〕 前記樹脂層は、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムに、樹脂をコーティングすることにより形成した樹脂層である、〔1〕に記載の偏光板用積層体。
〔3〕 前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの面内方向の位相差Re1が50nm以下である、〔1〕または〔2〕に記載の偏光板用積層体。
〔4〕 前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの厚みTが45μm以下であり、かつ、
前記樹脂層の延伸物の面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下であり、前記位相差Re2は、前記偏光板用積層体を50℃~120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸し、前記樹脂層を前記延伸物とした際に、前記延伸物が有する位相差である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
〔5〕 前記樹脂層の厚みが50μm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
〔6〕 前記樹脂層がシクロオレフィン系樹脂からなる、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
〔7〕 前記シクロオレフィン系樹脂がシクロオレフィン系重合体を含み、
前記シクロオレフィン系重合体が、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、
からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物である、〔6〕に記載の偏光板用積層体。
〔8〕 前記樹脂層が、可塑剤、軟化剤又はこれらの双方を含有する、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
〔9〕 前記可塑剤、前記軟化剤又はこれらの双方が、エステル系可塑剤及び脂肪族炭化水素ポリマーから選ばれる一種以上である、〔8〕に記載の偏光板用積層体。
〔10〕 前記樹脂層が、有機金属化合物を含有する、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体。
〔11〕 〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体を一軸延伸した、偏光板。
〔12〕 〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体と、
当該積層体の樹脂層の、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは反対側の面に、積層されたセパレーターフィルムと、を有し、
ロール形状に巻き取られた、積層体フィルムロール。
〔13〕 波長550nmの光の透過率が50%以上であるポリビニルアルコール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂をコーティングして樹脂層を形成する第一の工程と、
前記第一の工程で形成した樹脂層を乾燥する第二の工程と、をこの順に含む、偏光板用積層体の製造方法。
〔14〕 前記コーティングの方法が、溶液コーティング、エマルジョンコーティング、あるいは溶融押出コーティングから選ばれる一以上の方法である、〔13〕に記載の偏光板用積層体の製造方法。
〔15〕 前記第一の工程の前に、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを加熱処理する第三の工程を含む、〔13〕または〔14〕に記載の偏光板用積層体の製造方法。
〔16〕 前記第一の工程の前に、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムの表面を活性化処理する第四の工程を含む、〔13〕~〔15〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体の製造方法。
〔17〕 〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体または〔13〕~〔16〕のいずれか一項に記載の偏光板用積層体の製造方法により得られた積層体を用いて偏光板を製造する方法であって、
前記積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、
前記積層体を一軸延伸する第六の工程と、を含む、偏光板の製造方法。
〔18〕 前記第五の工程及び/又は前記第六の工程を経た後に、前記積層体のポリビニルアルコール樹脂フィルムの樹脂層とは反対側の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含む、〔17〕に記載の偏光板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができる偏光板用積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに積層体フィルムロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の実施形態1に係る偏光板用積層体を模式的に示した断面図である。
【
図2】
図2は実施形態1に係る偏光板用積層体の製造装置の一例を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は本発明の実施形態1に係る偏光板用積層体を用いて製造した積層体フィルムロールを模式的に示した断面図である。
【
図4】
図4は実施形態1に係る偏光板用積層体を用いて偏光板を製造する製造装置の一例を模式的に示した図である。
【
図5】
図5は本発明の実施形態1に係る偏光板用積層体を用いて製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
【
図6】
図6は本発明の実施形態2に係る偏光板を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0012】
本願において、「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。フィルムの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0013】
本願において、フィルムの面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthは、式Re=(nx-ny)×d、及びRth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dに従って算出する。またフィルムのNz係数は、[(nx-nz)/(nx-ny)]で表される値であり、[(Rth/Re)+0.5]とも表しうる。ここで、nxは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、フィルムの面内の遅相軸に垂直な面内方向の屈折率であり、nzは、フィルムの厚み方向の屈折率であり、dは、フィルムの厚み(nm)である。測定波長は、別に断らない限り、可視光領域の代表的な波長である550nmとする。
【0014】
[実施形態1:偏光板用積層体及びその製造方法、積層体フィルムロール、偏光板及びその製造方法]
以下、本発明の一実施形態である実施形態1の偏光板用積層体(以下、単に「積層体」ともいう)及びその製造方法、当該積層体を用いた積層体フィルムロール、並びに、当該積層体を用いた偏光板及びその製造方法について
図1~
図5を参照しつつ説明する。
【0015】
[1.積層体]
本発明の積層体は、波長550nmの光の透過率が50%以上のポリビニルアルコール樹脂フィルムと、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、直接積層された樹脂層と、を有する。
文脈上明らかな通り、本願において、「樹脂層」は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは別の層である。
本願において、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの面に「直接積層」された樹脂層とは、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを構成する材料の層の面上で形成され、その結果ポリビニルアルコール樹脂フィルムの面に直接接した状態である樹脂層である。
【0016】
図1は、本発明に係る実施形態1の積層体10を模式的に示す断面図の一例である。
図1に示すように、本実施形態の積層体10は、未延伸のポリビニルアルコール樹脂フィルム11と、ポリビニルアルコール樹脂フィルム11の一方の面(図示上側面)に設けられた樹脂層12と、を含む。本発明の積層体10は、偏光子(偏光板)を製造するための材料である。
【0017】
[ポリビニルアルコール樹脂フィルム]
本発明において、ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、波長550nmの光の透過率(以下、「波長550nmの光の透過率」を、「光透過率」ともいう)が50%以上のフィルムである。本発明においてポリビニルアルコール樹脂フィルムとしては、未着色のフィルムを用いる。ポリビニルアルコール樹脂フィルムの光透過率は、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上であり、好ましくは99%以下、より好ましくは97%以下である。
【0018】
ポリビニルアルコール樹脂フィルムはポリビニルアルコール樹脂(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略称する事がある。)からなる未延伸のフィルムである。本願において、「未延伸のフィルム」とは、延伸処理に供していないものをいう。
【0019】
本発明において、PVA樹脂フィルム(ポリビニルアルコール樹脂フィルム)としては、必ずしも限定されないが、入手性などより、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをけん化することにより製造されたものを使用することが好ましい。PVA樹脂に含まれるPVAは、延伸性や得られる偏光子の偏光性能などが優れるという観点より、重合度は500~8000の範囲にあることが好ましく、けん化度は90モル%以上であることが好ましい。ここで重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した平均重合度であり、けん化度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した値である。重合度のより好ましい範囲は1000~6000、さらに好ましくは1500~4000である。けん化度のより好ましい範囲は95モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。PVAは、酢酸ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、あるいはグラフト重合体であってもよい。
【0020】
本発明において、PVA樹脂フィルムの製法は特に限定されず、公知の方法等の任意の方法により製造することができる。製法の例としては、PVAを溶剤に溶解したPVA溶液を製膜原液として使用した、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(PVA水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVA樹脂フィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法が挙げられる。製法のさらなる例としては、溶剤を含有するPVAを溶融したものを製膜原液として行う溶融押出製膜法が挙げられる。これらの中でも、流延製膜法、および溶融押出製膜法が、透明性が高く着色の少ないPVA樹脂フィルムが得られることから好ましく、高い製膜速度を得られることから溶融押出製膜法がより好ましい。
【0021】
本発明において、PVA樹脂フィルムは、機械的物性や二次加工時の工程通過性などを改善するために、グリセリン等の多価アルコールなどの可塑剤を、PVAに対して0.01~30重量%含有する事が好ましく、また取り扱い性やフィルム外観などを改善するため、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などの界面活性剤を、PVAに対して0.01~1重量%含有することが好ましい。
【0022】
PVA樹脂フィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、pH調整剤、無機物微粒子、着色剤、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物、水分などの任意成分を更に含んでいてもよい。PVA樹脂フィルムは、前記任意成分の1種または2種以上を含むことができる。
【0023】
PVA樹脂フィルムの厚みTは、好ましくは45μm以下であり、より好ましくは35μm以下、更に好ましくは25μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。PVA樹脂フィルムの厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより偏光板の収縮力を効果的に下げることができ、前記範囲の下限値以上であることにより十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることができる。
【0024】
PVA樹脂フィルムの面内方向の位相差Re1は、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下であり、好ましくは0nm以上、より好ましくは3nm以上である。PVA樹脂フィルムの面内方向の位相差Re1が上記範囲の上限値以下であることにより、積層体を十分な倍率で延伸することができ、高い偏光度の偏光板を得ることができる。
【0025】
PVA樹脂フィルムの形状及び寸法は、所望の用途に応じたものに適宜調整しうる。製造の効率上、PVA樹脂フィルムは長尺のフィルムであることが好ましい。
【0026】
[樹脂層]
樹脂層は樹脂からなる層である。樹脂層は、PVA樹脂フィルムに樹脂をコーティングすることにより形成した樹脂層であり得る。本発明において、樹脂層を形成する樹脂は、低温(例えば50~120℃)で、高い延伸倍率(例えば6.0倍)の延伸が可能な柔軟性を有する樹脂であることが好ましく、具体的にはシクロオレフィン系樹脂が好ましい。シクロオレフィン系樹脂はシクロオレフィン系重合体を含む樹脂である。
【0027】
[樹脂]
シクロオレフィン系樹脂に含まれるシクロオレフィン系重合体としては、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を、水素化したブロック共重合体水素化物が好ましい。このようなブロック共重合体水素化物としては、WO2000/32646号、WO2001/081957号、特開2002-105151号公報、特開2006-195242号公報、特開2011-13378号公報、WO2015/002020号、等に記載の重合体が挙げられる。
【0028】
[可塑剤、及び軟化剤]
本発明において、樹脂層を形成する樹脂は、可塑剤及び/又は軟化剤(可塑剤及び軟化剤のうちのいずれか一方、又は双方)を含有することが好ましい。可塑剤及び/又は軟化剤を含有することにより、積層体を延伸して偏光板を得た際に樹脂層に発生する位相差を小さくすることが出来る。
【0029】
可塑剤及び軟化剤としては、樹脂層を形成する樹脂に均一に溶解ないし分散できるものを用いうる。可塑剤及び軟化剤の具体例としては、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤(以下において「多価アルコールエステル系可塑剤」という。)、及び多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤(以下において「多価カルボン酸エステル系可塑剤」という。)等のエステル系可塑剤、並びに燐酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、及びその他のポリマー軟化剤が挙げられる。
【0030】
本発明において好ましく用いられるエステル系可塑剤の原料である多価アルコールの例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0031】
多価アルコールエステル系可塑剤の例としては、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、及びその他の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
【0032】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の例としては、ジカルボン酸エステル系可塑剤、及びその他の多価カルボン酸エステル系可塑剤が挙げられる。
【0033】
燐酸エステル系可塑剤の例としては、具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の燐酸アルキルエステル;トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等の燐酸シクロアルキルエステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等の燐酸アリールエステルが挙げられる。
【0034】
炭水化物エステル系可塑剤として、具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテートがより好ましい。
【0035】
ポリマー軟化剤としては、具体的には、脂肪族炭化水素重合体、脂環式炭化水素系重合体、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの共重合体、等のアクリル系ポリマー;ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN-ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー;ポリスチレン、ポリ4-ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル;ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。
【0036】
脂肪族炭化水素重合体の具体例としては、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン、ポリ-1-オクテン、エチレン・α-オレフィン共重合体等の低分子量体及びその水素化物;ポリイソプレン、ポリイソプレン-ブタジエン共重合体等の低分子量体及びその水素化物等が挙げられる。シクロオレフィン樹脂に均一に溶解ないし分散し易い観点から脂肪族炭化水素系ポリマーは、数平均分子量300~5,000であることが好ましい。
【0037】
これらポリマー軟化剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
【0038】
本発明において、可塑剤及び/又は軟化剤としては、樹脂層を形成する樹脂との相溶性に特に優れることからエステル系可塑剤、及び脂肪族炭化水素重合体から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0039】
樹脂層における可塑剤及び/又は軟化剤(以下「可塑剤等」ともいう)の割合は、樹脂層を形成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらにより好ましくは1.0重量部以上であり、一方好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。可塑剤等の割合を前記範囲内とすることにより、樹脂層を、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経ても、位相差の発現が充分に低いものとすることができる。
【0040】
[有機金属化合物]
本発明において、樹脂層は、有機金属化合物を含有することが好ましい。有機金属化合物を含むことにより、積層体を高い延伸倍率で延伸(例えば延伸倍率6.0で湿式延伸)した場合における、樹脂層の剥離の発生をより有効に抑制することができる。
【0041】
有機金属化合物は、金属と炭素との化学結合および金属と酸素との化学結合の少なくとも一方を含む化合物であり、有機基を有する金属化合物である。有機金属化合物としては、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。これらのうち、ポリビニルアルコールとの反応性に優れることから、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物が好ましく、有機ケイ素化合物がより好ましい。有機金属化合物は一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
有機金属化合物としては、例えば、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物が挙げられるが、これに限定されない。
R1
aSi(OR2)3-a (1)
(式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、エポキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基及び、炭素原子数1~10の有機基からなる群より選ばれる基を表し、aは、0~3の整数を表す。)
【0043】
式(1)において、R1として好ましい例を挙げると、エポキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基、アリール基、-CH2OCnH2n+1(nは1~4の整数を表す。)炭素原子数1~8のアルキル基などが挙げられる。
また、式(1)において、R2として好ましい例を挙げると、水素原子、ビニル基、アリール基、アクリル基、炭素原子数1~8のアルキル基、-CH2OCnH2n+1(nは1~4の整数を表す。)などが挙げられる。
【0044】
有機ケイ素化合物の例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ系有機ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系有機ケイ素化合物、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系有機ケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系有機ケイ素化合物、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0045】
有機チタン化合物の例としては、テトライソプロピルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタンキレート、チタンイソステアレート等のチタンアシレートが挙げられる。
【0046】
有機ジルコニウム化合物の例としては、ノルマルプロピルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウムキレート、ステアリン酸ジルコニウム等のジルコニウムアシレートが挙げられる。
【0047】
有機アルミニウム化合物の例としては、アルミニウムセカンダリーブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等のアルミニウムキレートが挙げられる。
【0048】
樹脂層における有機金属化合物の割合は、樹脂層を形成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上、さらにより好ましくは0.03重量部以上であり、一方好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。有機金属化合物の割合を前記範囲内とすることにより、積層体を高倍率(例えば延伸倍率6.0)で湿式延伸した場合における、樹脂層の剥離の発生をより有効に抑制することができる。
【0049】
[任意成分]
樹脂層は、樹脂、可塑剤、有機金属化合物等の他に任意成分を含みうる。任意成分の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤;滑剤などの樹脂改質剤;染料や顔料などの着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの配合剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は適宜選択される。
【0050】
[樹脂層の厚み]
樹脂層の厚みは1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。樹脂層の厚みが前記範囲の下限値以上であることにより、偏光板化工程における偏光子の溶断を効果的に防ぐことができ、前記範囲の上限値以下であることにより、積層体を延伸して偏光板を得た際に樹脂層に発生する位相差を小さくすることができる。
【0051】
[樹脂層のRe2]
樹脂層のRe2は、0nm以上20nm以下であることが好ましい。Re2はより好ましくは0nm以上であり、より好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下である。Re2が上限値以下であることにより積層体10を延伸して偏光板とした際に樹脂層に発現する位相差を小さくすることができる。
Re2は、積層体10を、50℃~120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸し、積層体における樹脂層を延伸物とした際に、樹脂層の延伸物が有する、面内方向の位相差である。即ち、Re2は、積層体における樹脂層自体の位相差ではなく、積層体に特定の延伸処理を加えた後に、樹脂層の延伸物に生じる位相差である。
かかる延伸物を得るための延伸温度は、50℃~120℃の範囲内のいずれの温度であってもよい。したがって、延伸物を得る延伸のための、複数の操作条件が考えられる。かかる複数の操作条件のいずれか一つによって、延伸物が0nm以上20nm以下の位相差を発現する場合、積層体は前記要件を満たす。
但し、とりうる前記複数の操作条件の全てによって、延伸物が0nm以上20nm以下の位相差を発現することが好ましい。その場合、本発明の偏光板用積層体による偏光板の製造において、高い延伸条件設定の自由度を得ることができる。
一般的に、当該温度範囲においては延伸温度がより低い場合においてより大きな位相差が発現する。したがって、50℃の延伸による延伸物の位相差及び120℃の延伸による延伸物の位相差の双方が0nm以上20nm以下の範囲内であれば、前記複数の操作条件の全てによって、延伸物が0nm以上20nm以下の位相差を発現すると判断しうる。
【0052】
[2.積層体の製造方法]
本実施形態に係る積層体の製造方法は、波長550nmの光の透過率が50%以上であるPVA樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂をコーティングして樹脂層を形成する第一の工程と、第一の工程で形成した樹脂層を乾燥する第二の工程と、をこの順に含む。
【0053】
また、積層体の製造方法は、第一の工程の前に、PVA樹脂フィルムを加熱処理する第三の工程及び、PVA樹脂フィルムの表面を活性化処理する第四の工程から選ばれるいずれか一方の工程または双方の工程を含んでいてもよい。
【0054】
[積層体の製造装置]
図2は、本実施形態に係る積層体の製造方法において用いる製造装置200の一例を模式的に示した概略図である。製造装置200は、繰り出し装置201、コーティング装置202、巻き取り装置203、加熱処理及び活性化処理等の処理を行う処理装置204、及び乾燥装置205を備える。
【0055】
[積層体の製造方法]
図2に示すように、繰り出し装置201から繰り出されたPVA樹脂フィルム11を処理装置204に搬送し、処理装置204にて加熱処理(第三の工程)及び活性化処理(第四の工程)から選ばれる処理(処理工程)を行った後、コーティング装置202において樹脂層12を形成し(第一の工程)、乾燥装置205において乾燥する工程(第二の工程)を経て、積層体10が得られる。製造された積層体10は、巻き取り装置203により巻き取られ、ロールの形状とし、さらなる工程に供することができる。以下各工程について説明する。
【0056】
[第一の工程]
第一の工程は、PVA樹脂フィルム11の少なくとも一方の面に、樹脂をコーティングして、樹脂層12を形成する工程である。PVA樹脂フィルム11に樹脂をコーティングする方法(コーティングの方法)は、特に限定されないが、例えば、溶液コーティング、エマルジョンコーティング、あるいは溶融押出コーティングから選ばれる一以上の方法であることが好ましく、高速塗布が可能で均一な膜厚の樹脂層が得られることから溶液コーティングがより好ましい。
【0057】
溶液コーティングにより樹脂層12を形成する場合、樹脂層12の形成に用いる樹脂及び必要に応じ添加される成分を溶剤に溶解して樹脂組成物とし、当該樹脂組成物をPVA樹脂フィルム11にコーティングする。即ち「樹脂をコーティングする」という文言は、樹脂のみをコーティングする場合、及び樹脂及びそれ以外の成分を含む樹脂組成物をコーティングする場合の両方を包含する。
【0058】
[第二の工程]
第二の工程は、第一の工程で形成した樹脂層を乾燥する工程である。
第二の工程においては、樹脂層を、温度50℃~120℃の温度の乾燥機中で、0.5分~10分乾燥することが好ましい。前記樹脂層の乾燥温度は、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下である。乾燥温度を下限値以上とすることにより乾燥時間を短縮することができ、乾燥温度を上限値以下とすることにより、PVA樹脂フィルムの結晶化を抑えることができる。
【0059】
[処理工程]
処理工程は、加熱処理(第三の工程)及び活性化処理(第四の工程)から選ばれる処理を行う工程である。
[第三の工程]
第三の工程は、第一の工程の前に、PVA樹脂フィルムを加熱処理する工程である。本発明において当該第三の工程は任意の工程であり、含んでいても含んでいなくてもよい。第三の工程においてPVA樹脂フィルムを加熱処理することによりPVA樹脂フィルムに存在するシワを除去し、平面性を向上させることができる。PVA樹脂フィルムを平滑にすることで第一の工程で形成される樹脂層の膜厚精度を向上させることができる。PVA樹脂フィルムの加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。
【0060】
[第四の工程]
第四の工程は、第一の工程の前に、PVA樹脂フィルムの樹脂層を形成する面を活性化処理する工程である。本発明において当該第四の工程は任意の工程であり、含んでいても含んでいなくてもよい。第四の工程において、PVA樹脂フィルムの表面を活性化することにより、PVA樹脂フィルム表面にブリードした可塑剤等を除去し、PVA樹脂フィルム表面を酸化することで樹脂層の接着性を高め、樹脂層形成に際して樹脂層が剥離することを抑制することができる。
【0061】
活性化処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、ケン化処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理等が挙げられる。
【0062】
第四の工程を行う時期は、第一の工程の前であれば限定はなく、第三の工程の前、第三の工程の後、第三の工程と同時のいずれの時期に行ってもよい。第三の工程によりPVA樹脂フィルムに含まれる可塑剤等がPVA樹脂フィルムの表面にブリードする可能性があるため、第四の工程は第三の工程の後に行うのが特に好ましい。
【0063】
[積層体の用途]
本発明の積層体10は偏光板を製造するための材料である。積層体は延伸処理及び染色処理等の所定の処理を行った後に偏光板とされる。積層体10を偏光板の材料とする場合、
図2に示す巻き取り装置203により巻き取られた積層体をそのまま用いてもよいし、巻き取り装置203に巻き取られた積層体の樹脂層12にセパレーターフィルムを積層し、ロール形状に巻き取って積層体フィルムロールとしてから用いてもよい。以下、本実施形態の積層体10を用いた本実施形態の積層体フィルムロール及び偏光板について順に説明する。
【0064】
[3.積層体フィルムロール]
図3は本実施形態に係る積層体を用いた積層体フィルムロールを模式的に示した断面図である。
図3に示すように、本実施形態の積層体フィルムロール15は、積層体10と、積層体10の樹脂層12のPVA樹脂フィルム11とは反対側の面(図示上側面)に、積層されたセパレーターフィルム13と、を有し、ロール形状に巻き取られたフィルムロールである。
【0065】
セパレーターフィルム13としては、樹脂層12から剥離可能な材料からなるフィルムであれば特に限定はなく、例えば、シクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びトリアセチルセルロース樹脂から選ばれる一種以上の樹脂からなるフィルムを用いることができる。
【0066】
[4.偏光板の製造方法]
本発明の偏光板100は本実施形態の偏光板用積層体10を一軸延伸することにより得られる。
図4は本実施形態に係る偏光板用積層体を用いて偏光板を製造する製造装置の一例を模式的に示した図である。
【0067】
本発明の偏光板の製造方法は、積層体を二色性色素で染色する第五の工程と、積層体を一軸延伸する第六の工程と、を含む。
また、本発明の偏光板の製造方法は第五の工程及び/又は第六の工程を経た後に、積層体のPVA樹脂フィルムの樹脂層とは反対側の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含んでいてもよい。第七の工程は任意の工程であり、実施形態においては、第七の工程を含まない製造方法により偏光板を製造する例について説明する。
【0068】
[偏光板を製造する装置]
図4に示すように、偏光板を製造する製造装置300は、繰り出し装置301,307、処理装置302~305、乾燥装置306,309、貼り合わせ装置308、及び巻き取り装置310を備える。
【0069】
[偏光板の製造方法]
本実施形態においては、繰り出し装置301から繰り出された積層体10を、処理装置302~305に搬送して、積層体10のPVA樹脂フィルム11を染色する染色処理(第五の工程)、積層体を一軸延伸する延伸処理(第六の工程)、及び所定の処理をおこなう。これらの処理を行った後の積層体を乾燥装置306にて乾燥する処理(乾燥工程)を行うと、偏光板100が得られる。以下、各工程について詳しく説明する。
【0070】
[第五の工程]
第五の工程は、積層体10のPVA樹脂フィルム11を染色する工程である。本実施形態では、積層体のPVA樹脂フィルムを染色しているが、PVA樹脂フィルムの染色は、積層体を形成する前のPVA樹脂フィルムについて行ってもよい。
【0071】
第五の工程におけるPVA樹脂フィルムを染色する物質としては、二色性物質が挙げられ、二色性物質としては、ヨウ素、有機染料などが挙げられる。これらの二色性物質を用いた染色方法は、任意である。例えば、二色性物質を含む染色溶液に、PVA樹脂フィルムの層を浸漬することにより、染色を行ってもよい。また、二色性物質としてヨウ素を用いる場合、染色効率を高める観点から、染色溶液はヨウ化カリウム等のヨウ化物を含んでいてもよい。二色性物質に特に制限はないが、偏光板を車載用の表示装置において用いる場合、二色性物質としては、有機染料が好ましい。
【0072】
[第六の工程]
第六の工程は、積層体を一軸延伸する工程である。積層体を延伸する方法としては特に限定されないが、湿式延伸が好ましい。第六の工程は第五の工程の前、第五の工程の後、第五の工程と同時のいずれの時期に行ってもよい。また、第六の工程は第五の工程の前、第五の工程の後、第五の工程と同時のいずれかの時期に分割して複数回行っても良い。延伸工程は1回行っても、2回以上行ってもよい。
【0073】
積層体の延伸倍率は、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上であり、好ましくは7.0以下、より好ましくは6.5以下である。積層体の延伸倍率を前記範囲の上限値以下とすると、延伸処理を含む偏光板の製造工程を経てもなお、樹脂層の位相差の発現を低くし、偏光板の破断の発生を防止することができ、延伸倍率を前記範囲の下限値以上とすると十分な偏光性能を持つ偏光板を得ることができる。積層体の延伸を2回以上行う場合、各回の延伸倍率の積で表されるトータルの延伸倍率が前記範囲となるようにすることが好ましい。
【0074】
積層体の延伸温度は、特段の制限は無いが、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは90℃以下、特に好ましくは70℃以下である。延伸温度が、前記範囲の下限値以上であることにより延伸を円滑に行うことができ、また、前記範囲の上限値以下であることにより延伸によって効果的な配向を行うことができる。前記延伸温度の範囲は乾式延伸及び湿式延伸のいずれの方法であっても好ましいが、湿式延伸の場合に特に好ましい。
【0075】
積層体の延伸処理は、フィルム長手方向に延伸を行う縦延伸処理、フィルム幅方向に延伸を行う横延伸処理、フィルム幅方向に平行でもなく垂直でもない斜め方向に延伸を行う斜め延伸処理のいずれを行ってもよい。積層体の延伸処理は、自由端一軸延伸が好ましく、縦方向の自由端一軸延伸がより好ましい。
【0076】
[乾燥工程]
乾燥工程は、第五の工程及び第六の工程を経た積層体を乾燥する工程である。乾燥工程においては、積層体を、温度50℃~100℃の温度の乾燥機中で、0.5分~10分乾燥することが好ましい。前記積層体の乾燥温度は、より好ましくは60℃以上であり、より好ましくは90℃以下である。乾燥温度を下限値以上とすることにより乾燥時間を短縮することができ、乾燥温度を上限値以下とすることにより、PVA樹脂フィルムの割れを防止することができる。前記積層体の乾燥時間は、より好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以下である。乾燥時間を、乾燥時間を下限値以上とすることで前記積層体の乾燥を十分なものとし、上限値以下とすることにより、積層体におけるPVA樹脂フィルムの割れを防止することができる。
【0077】
従来のPVA樹脂のみからなる薄膜の偏光子においては、乾燥工程後に割れが発生することがあったが、本実施形態の偏光板は、PVA樹脂フィルムと、PVA樹脂フィルムに直接積層された樹脂層とを有する積層体を用いて製造するので、乾燥工程を経た後でも偏光子の割れの発生を抑制することができる。
【0078】
[5.偏光板]
上述の本実施形態の偏光板の製造方法により、偏光板が得られる。本実施形態の偏光板は本実施形態の積層体を一軸延伸した偏光板である。
図5は本実施形態に係る積層体を用いて製造した偏光板を模式的に示した断面図である。
図5に示すように、偏光板100においては、PVA樹脂フィルム111の一方の面(図示上側面)の上に樹脂層112が積層されている。
【0079】
[偏光板における各層の特性]
偏光板100におけるPVA樹脂フィルム111の厚みは、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。厚みが上限値以下であることにより、偏光板の厚みを小さくすることができ、厚みが下限値以上であることにより、十分に高い偏光度を有する偏光板を得ることが出来る。
【0080】
偏光板における樹脂層の面内方向の位相差は、20nm以下であることが好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、0nm以上が好ましい。偏光板における樹脂層の面内方向の位相差が上記範囲内であることにより、偏光板を液晶表示装置に実装した際のブラックカラーシフトを抑えることができる。
【0081】
[偏光板の用途]
本発明の偏光板用積層体を用いて製造した偏光板は液晶表示装置の材料となりうる。
通常、液晶表示装置は、光源、光源側偏光板、液晶セル及び視認側偏光板を、この順に備えるが、本発明により得られた偏光板は、光源側偏光板及び視認側偏光板のいずれに用いてもよい。当該液晶表示装置は、本発明の偏光板を光源側偏光板及び視認側偏光板の双方またはいずれか一方として、液晶パネルに設けることにより製造することができる。
【0082】
また本発明の偏光板用積層体を用いて製造した偏光板は有機EL表示装置や無機EL表示装置などの材料となりうる。
通常、有機EL表示装置は、光出射側から順に、基板、透明電極、発光層及び金属電極層を備えるが、本発明の製造方法により得られた偏光板は、基板の光出射側に配される。
EL表示装置は、2枚の基板とその間に位置する発光層と、2枚の基板のうち一方の基板の外側に配される偏光板とを有する。当該表示装置は本発明の偏光板を有機ELパネルまたは無機ELパネルに設けることにより製造することができる。
【0083】
[6.本実施形態の作用・効果]
本実施形態においては、光透過率が50%以上のPVA樹脂フィルムと、PVA樹脂フィルムの面に直接積層された樹脂層と、を有する積層体を延伸することにより偏光板を製造するので、積層体を低温下、高倍率で延伸した場合でもPVA樹脂フィルムの溶断の発生を抑制することができ、かつ、延伸後の樹脂層における位相差の発現を抑えることができる。その結果、本実施形態によれば、樹脂層を剥離せずにそのままPVA樹脂フィルムの一方の面の保護フィルムとして用いることができ、かつ無駄になる材料を減らすことができるので、樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができる偏光板用積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに積層体フィルムロールを提供することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、樹脂層12をPVA樹脂フィルム11に直接積層した積層体を用いており、樹脂層とPVA樹脂フィルムとの間に他の材料が介在しないので、破断抑制効果に優れかつ、生産環境における他物質による環境汚染の防止や、製品へのコンタミネーション(異物混入)を防止することができる。
【0085】
[実施形態2:偏光板及びその製造方法]
以下、実施形態2に係る偏光板120及びその製造方法について
図4及び
図6を参照しつつ説明する。本実施形態に係る偏光板120は、実施形態1に係る偏光板100を用いて製造したものである。実施形態1と同様の構成及び態様については同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0086】
[偏光板]
図6は本発明の実施形態2に係る偏光板120を模式的に示した断面図である。この偏光板120においては、
図6に示すように、PVA樹脂フィルム111の一方の面(図示上側面)の上に樹脂層112が積層され、PVA樹脂フィルム111の他方の面側(図示下側面)に保護フィルム115が積層されている。
図5の114は接着剤である。
【0087】
本実施形態の偏光板120の製造方法は第五の工程及び第六の工程を経た後に、積層体のPVA樹脂フィルムの樹脂層とは反対側の面に、保護フィルムを貼合する第七の工程を含む。以下詳しく説明する。
【0088】
本実施形態の偏光板120は、
図4に示す装置を用いて製造される。本実施形態の偏光板120の製造方法では、積層体10のPVA樹脂フィルム11を染色する染色処理(第五の工程)及び、積層体を一軸延伸する延伸処理(第六の工程)の後、乾燥装置306にて乾燥して得られる偏光板100を用いる。
【0089】
偏光板120は、染色処理(第五の工程)及び延伸処理(第六の工程)を経て得られた偏光板100を、貼り合わせ装置308に搬送し、積層体のPVA樹脂フィルムの樹脂層とは反対側の面(樹脂層が積層されていない側の面)に接着剤114を塗布し、繰り出し装置307から繰り出された保護フィルム115を貼合すること(第七の工程)により得られる。得られた偏光板120は、巻き取り装置310により巻き取られ、ロールの形状とし、さらなる工程に供することができる。
【0090】
第七の工程において用いる、保護フィルム115をPVA樹脂フィルム111に貼り合わせるための接着剤113としては、特段の制限は無く、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、変性ポリオレフィン系接着剤、ポリビニルアルキルエーテル系接着剤、ゴム系接着剤、塩化ビニル-酢酸ビニル系接着剤、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)系接着剤、エチレン-スチレン共重合体などのエチレン系接着剤、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル系接着剤などが挙げられる。
【0091】
第七の工程において用いる保護フィルム115としては、シクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びトリアセチルセルロース樹脂から選ばれる一種以上の樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0092】
本実施形態の偏光板も、実施形態1の偏光板と同様に、光透過率が50%以上のPVA樹脂フィルムと、PVA樹脂フィルムの面に直接積層された樹脂層と、を有する偏光板用積層体を延伸することにより偏光板を製造するので、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0093】
また、本実施形態によれば、PVA樹脂フィルム111の樹脂層112の積層されていない側の面に保護フィルム115を備えるので、PVA樹脂フィルム111の表面に傷等がつくのを防止する効果も奏する。
【0094】
[他の実施形態]
(1)実施形態1では、PVA樹脂フィルムの一方の面に樹脂層が積層された偏光板用積層体を示し、実施形態1および2において、前記積層体を用いて製造した偏光板を示したが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において、成分の量比に関する「部」及び「%」は、別に断らない限り重量部を表す。
【0096】
[評価方法]
[重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn]
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、THFを溶離液とするGPCによる標準ポリスチレン換算値として、38℃において測定した。測定装置として、東ソー社製、HLC8020GPCを用いた。
【0097】
[水素化率]
ブロック共重合体水素化物の水素化率は、1H-NMRスペクトル又はGPC分析により算出した。水素化率99%以下の領域は、1H-NMRスペクトルを測定して算出し、99%を超える領域は、GPC分析により、UV検出器及びRI検出器によるピーク面積の比率から算出した。
【0098】
[位相差の測定方法]
ポリビニルアルコール樹脂フィルムの面内方向の位相差Re1、位相差Re2、及び偏光板における樹脂層の面内方向の位相差は、位相差計(株式会社オプトサイエンス社製、商品名「ミューラマトリクス・ポラリメータ(Axo Scan)」)を用いて測定した。測定に際し、測定波長は550nmとした。
位相差Re2の測定は、積層体を所定温度(50℃および120℃)で、6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差を測定した。本願では、積層体を50℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差、及び積層体を120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差の双方が0nm以上20nm以下の範囲内であれば、積層体を50℃~120℃の温度条件で、6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する、樹脂層の面内方向の位相差Re2が、0nm以上20nm以下であると判断した。
【0099】
[厚みの測定方法]
積層体に含まれる各フィルム(ポリビニルアルコール樹脂フィルムと樹脂層)の厚み、偏光板に含まれる各フィルムの厚みは、厚み計(株式会社ミツトヨ社製、商品名「ABSデジマチックシックネスゲージ(547-401)」)を使用して5回測定し、その平均値を各フィルムの厚みとした。
【0100】
[密着性の評価]
各例の偏光板の製造における第二延伸処理までの工程で、ポリビニルアルコール樹脂フィルムと樹脂フィルムとの間に剥離が発生しなかったものをA、一部に剥離が見られたものをB、完全に剥離したものをCとした。
【0101】
[乾燥工程性の評価]
各例の偏光板の製造における70℃、5分の乾燥工程で、偏光子にクラックが発生しなかったものをA、クラックが発生したものをCとした。
【0102】
[積層体の貼合面状の評価]
積層体の10cm四方(100cm2)の気泡の数を目視にて観察した。
【0103】
[ブラックカラーシフト]
液晶表示装置(LGエレクトロニクス・ジャパン社製、商品名「IPSパネルモニター(23MP47)」)から液晶表示パネルを取り外し、視認側に配置されている偏光板を剥離して、実施例及び比較例で作製した偏光板を、樹脂層がパネル側になるように貼合した。また、保護フィルムの無い偏光子単体を実施例及び比較例で作製した偏光板の隣に貼合し、液晶表示装置を組み直した。実施例及び比較例で作成した偏光板、保護フィルムの無い偏光子単体の吸収軸は、剥離前の偏光板の吸収軸と同方向になるように貼合した。
視認側に配置されている偏光板の吸収軸の方向を方位角0°、パネルの垂直方向を極角0°とした際、パネルを黒表示状態(即ちパネルの表示画面全面に黒い色を表示した状態)にして、方位角45°、極角45°の方位から目視して保護フィルムの無い偏光子の場合と色味変化が同じものをA、わずかに色味変化があるものをB、変化が大きいものをCと判断した。
【0104】
[実施例1]
(1-1)重合体Xの作製
特開2002-105151号公報に記載の製造例を参照して、第1段階でスチレンモノマー25部を重合させた後、第2段階でスチレンモノマー30部及びイソプレンモノマー25部を重合させ、その後に第3段階でスチレンモノマー20部を重合させてブロック共重合体[D1]を得た後、該ブロック共重合体を水素化してブロック共重合体水素化物[E1]を合成した。ブロック共重合体水素化物[E1]のMwは84,500、Mw/Mnは1.20、主鎖及び芳香環の水素化率はほぼ100%であった。
ブロック共重合体水素化物[E1]100部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](松原産業社製、製品名「Songnox1010」)0.1部を溶融混練して配合した後、ペレット状にして、成形用の重合体Xを得た。
【0105】
(1-2)積層体の製造
(1-1)で製造した重合体Xをシクロヘキサンに溶解させた後、重合体X100重量部に対して40重量部のポリイソブテン(JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン HV-300」、数平均分子量1,400)、及び0.1重量部の有機ケイ素化合物(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、KBM903、信越化学社製)を添加し、製膜用塗布液(樹脂組成物)を作製した。
得られた製膜用塗布液を、未延伸のポリビニルアルコール樹脂フィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、幅650mm、厚み20μm、以下において「PVA20」ともいう)の一方の面にダイコーターを用いて塗布、乾燥した。これにより、PVA樹脂フィルムと、重合体Xを含む樹脂層(幅600mm、厚み10μm)と、からなる長尺の積層体を得た。
得られた積層体における樹脂層の厚み、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの厚み及び面内方向の位相差Re1、並びに位相差Re2(温度条件50℃、120℃)を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
(1-3)偏光板の製造
(1-2)で製造した積層体を、ガイドロールを介して長手方向に連続搬送しながら、下記の操作を行った。
前記の積層体を、水に浸漬する膨潤処理、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色溶液に浸漬する染色処理、並びに、染色処理後の積層体を延伸する第一延伸処理を行った。次いで、第一延伸処理後の積層体を、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む浴槽中で延伸する第二延伸処理を行った。第一延伸処理での延伸倍率と第二延伸処理での延伸倍率との積で表されるトータルの延伸倍率が6.0となるように設定した。延伸温度は57℃とした。第二延伸処理後の積層体を乾燥機中で、70℃で5分間乾燥し(乾燥工程)、偏光板を得た。
第二延伸処理までの工程において密着性の評価を行い、乾燥工程において乾燥工程性の評価を行い、得られた偏光板についてブラックカラーシフトの評価を行った。評価結果を表1に示す。
また、得られた偏光板における樹脂層の厚み及び位相差、ならびにポリビニルアルコール樹脂フィルムの厚みを測定し、測定結果を表1に示した。
【0107】
[実施例2]
実施例1の(1-2)において、0.1重量部の有機ケイ素化合物に代えて、0.1重量部の有機チタン化合物(テトライソプロピルチタネート、オルガチックスTA-8、マツモトファインケミカル社製)を添加した製膜用塗布液を用いて樹脂層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、積層体及び偏光板を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例3]
実施例1の(1-2)において、0.1重量部の有機ケイ素化合物に代えて、0.1重量部の有機ジルコニウム化合物(ノルマルプロピルジルコネート、オルガチックスZA-45、マツモトファインケミカル社製)を添加した製膜用塗布液を用いて樹脂層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、積層体及び偏光板を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
[実施例4]
実施例1の(1-2)において、製膜用塗布液を、ポリビニルアルコール樹脂フィルムにダイコーターを用いて塗布、乾燥する操作を行う際に、塗布量等を調整して、厚みが5μmとなるように樹脂層を形成したこと(幅は実施例1と同じ)以外は、実施例1と同様にして、積層体及び偏光板を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
[実施例5]
実施例1の(1-2)において、ポリイソブテンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、積層体及び偏光板を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
[実施例6]
実施例1の(1-2)において、有機ケイ素化合物を用いなかったこと、及び製膜用塗布液を、ポリビニルアルコール樹脂フィルムにダイコーターを用いて塗布、乾燥する操作を行う際に、塗布量等を調整して、厚みが5μmとなるように樹脂層を形成したこと(幅は実施例1と同じ)以外は、実施例1と同様にして、積層体及び偏光板を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
[比較例1]
実施例1の(1-3)において、(1-2)で製造した積層体に代えて、未延伸のポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA20)のみを用いて、(1-3)と同じ操作を行ったところ、第一延伸処理及び第二延伸処理において溶断が多発し、乾燥工程において破断が多発し密着性およびブラックカラーシフトの評価ができなかった。
【0113】
[参考例1]
実施例1の(1-3)において、(1-2)で製造した積層体に代えて以下の(R1-2)の積層体を用いて偏光板を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0114】
(R1-2)積層体の製造
実施例1の(1-2)において、製膜用塗布液を、ポリビニルアルコール樹脂フィルムに塗布することに代えて、製膜用塗布液をセパレーターフィルム(三菱化学社製、「MRV38」)にダイコーターを用いて塗布、乾燥することにより、幅650mm、長さ500m、厚み10μmの重合体Xを含む長尺のフィルム(樹脂フィルム)を得た。
水100重量部、ポリビニルアルコール系接着剤(日本合成化学社製「Z-200」)3重量部、及び架橋剤(日本合成化学社製「SPM-01」)0.3重量部を混合して、接着剤を得た。この接着剤を、上記樹脂フィルムの一方の面に塗布し、未延伸のポリビニルアルコール樹脂フィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、幅650mm、厚み20μm、以下において「PVA20」ともいう)を貼り合わせた。この状態で、接着剤を70℃において5分間加熱乾燥して、積層体を得た。
【0115】
実施例、比較例及び参考例の評価結果を表1及び表2に示す。
表中、「Re2(50℃)」とは、積層体を50℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差を意味し、「Re2(120℃)」とは、積層体を120℃の温度条件で6.0倍に自由端一軸延伸した際に発生する樹脂層の面内方向の位相差を意味する。
表中、「Re1」とは、積層体におけるポリビニルアルコール樹脂フィルムの面内方向の位相差を意味する。
表中、「塗布」とは、樹脂層をポリビニルアルコール樹脂フィルムに製膜用塗布液(樹脂組成物)塗布することにより形成したものを示し、「貼合」とは樹脂フィルムを接着剤を介してポリビニルアルコール樹脂フィルムに貼り合わせたことを示す。
【0116】
【0117】
【0118】
表1及び表2の結果から、本発明によれば、積層体を延伸する工程を経た後の樹脂層に発現する位相差を小さくすることができ、密着性、乾燥工程性及び光学物性に優れた偏光板を得ることができることが分かる。これにより樹脂層を保護フィルムとしても用いることができ、厚みが薄くても効率的に製造することができる偏光板用積層体及びその製造方法、前記積層体を用いた偏光板及びその製造方法、ならびに積層体フィルムロールを提供しうることが分かる。
【符号の説明】
【0119】
10…積層体(偏光板用積層体)
11…ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA樹脂フィルム)
12…樹脂層
13…セパレーターフィルム
15…積層体フィルムロール
100,120…偏光板
111…ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA樹脂フィルム)
112…樹脂層
114…接着剤層
115…保護フィルム
200…製造装置
201,202…繰り出し装置
203…巻き取り装置
205…乾燥装置
300…製造装置
301,307…繰り出し装置
302~305…処理装置
306,309…乾燥装置
308…貼り合わせ装置
310…巻き取り装置