(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】導電性炭素材料分散液
(51)【国際特許分類】
H01B 1/24 20060101AFI20221213BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221213BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20221213BHJP
C09C 1/44 20060101ALI20221213BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221213BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221213BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221213BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221213BHJP
【FI】
H01B1/24 A
H01B5/16
H01M4/66 A
H01M4/13
C09D17/00
C09C1/44
C09D5/02
C09D5/00 D
C09D201/00
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2020510714
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011318
(87)【国際公開番号】W WO2019188535
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018063588
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑中 辰也
(72)【発明者】
【氏名】矢島 麻里
(72)【発明者】
【氏名】境田 康志
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/057031(WO,A1)
【文献】特開2017-134974(JP,A)
【文献】特開2003-183029(JP,A)
【文献】特開2013-203783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/24
H01B 5/16
H01M 4/66
H01M 4/13
C09D 17/00
C09C 1/44
C09D 5/02
C09D 5/00
C09D 201/00
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素材料、アニオン性官能基を有しないカチオン性分散剤、および溶媒を含み、アニオン性化合物を含まず、
前記カチオン性分散剤が、ジシアンジアミドおよびジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーを含むことを特徴とする導電性炭素材料分散液。
【請求項2】
前記導電性炭素材料が、カーボンナノチューブを含む請求項1記載の導電性炭素材料分散液。
【請求項3】
前記溶媒が、水を含む請求項1または2記載の導電性炭素材料分散液。
【請求項4】
固形分が20質量%以下である請求項1~3のいずれか1項記載の導電性炭素材料分散液。
【請求項5】
固形分が10質量%以下である請求項4記載の導電性炭素材料分散液。
【請求項6】
固形分が5質量%以下である請求項5記載の導電性炭素材料分散液。
【請求項7】
アンダーコート層形成用である請求項1~6のいずれか1項記載の導電性炭素材料分散液。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項記載の導電性炭素材料分散液から得られる導電性薄膜。
【請求項9】
目付量が5000mg/m
2以下である請求項8記載の導電性薄膜。
【請求項10】
目付量が1000mg/m
2以下である請求項9記載の導電性薄膜。
【請求項11】
目付量が500mg/m
2以下である請求項10記載の導電性薄膜。
【請求項12】
目付量が300mg/m
2以下である請求項11記載の導電性薄膜。
【請求項13】
請求項8~12のいずれか1項記載の導電性薄膜を備えるエネルギー貯蔵デバイスの電極用複合集電体。
【請求項14】
請求項13記載のエネルギー貯蔵デバイスの電極用複合集電体を備えるエネルギー貯蔵デバイス用電極。
【請求項15】
請求項14記載のエネルギー貯蔵デバイス用電極を備えるエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項16】
リチウムイオン二次電池である請求項15記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性炭素材料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやデジタルカメラ、携帯ゲーム機などの携帯電子機器の小型軽量化や高機能化の要求に伴い、近年、高性能電池の開発が積極的に進められており、充電により繰り返し使用できる二次電池の需要が大きく伸びている。
中でも、リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時におけるメモリー効果が無いことなどから、現在最も精力的に開発が進められている二次電池である。
また、近年の環境問題への取り組みから、電気自動車の開発も活発に進められており、その動力源としての二次電池には、より高い性能が求められるようになってきている。
【0003】
ところで、リチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵、放出できる正極と負極と、これらの間に介在するセパレータを容器内に収容し、その中に電解液(リチウムイオンポリマー二次電池の場合は液状電解液の代わりにゲル状または全固体型の電解質)を満たした構造を有する。
正極および負極は、一般的に、リチウムを吸蔵、放出できる活物質と、主に炭素材料からなる導電材、さらにポリマーバインダーを含む組成物を、銅箔やアルミニウム箔などの集電体上に塗布することで製造される。このバインダーは、活物質と導電材、さらにこれらと金属箔を接着するために用いられ、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのN-メチルピロリドン(NMP)に可溶なフッ素系樹脂や、オレフィン系重合体の水分散体などが市販されている。
【0004】
しかし、上述したバインダーの集電体に対する接着力は十分とは言えず、電極の裁断工程や巻回工程等の製造工程時に、活物質や導電材の一部が集電体から剥離、脱落し、微小短絡や電池容量のばらつきを生じる原因となる。
さらに、長期間の使用により、電解液によるバインダーの膨潤や、活物質のリチウム吸蔵、放出による体積変化に伴う電極合材層の体積変化により、電極合材層と集電体間の接触抵抗が増大したり、活物質や導電材の一部が集電体から剥離、脱落したりすることによる電池容量の劣化が起こるという問題や、さらには安全性の点で問題もある。
【0005】
上記課題を解決する試みとして、集電体と電極合材層の間の密着性を高め、接触抵抗を低下させることで電池を低抵抗化する技術として、集電体と電極合材層との間に導電性のアンダーコート層を介在させる手法が開発されている。
例えば、特許文献1では、炭素を導電性フィラーとする導電層をアンダーコート層として、集電体と電極合材層との間に配設する技術が開示されており、アンダーコート層を備えた複合集電体(以下、複合集電体とも称する)を用いることで、集電体と電極合材層の間の接触抵抗を低減でき、かつ、高速放電時の容量減少も抑制でき、さらに電池の劣化をも抑制できることが示され、また、特許文献2や特許文献3でも同様の技術が開示されている。
さらに、特許文献4や特許文献5では、カーボンナノチューブ(以下、CNTとも略記する)を導電性フィラーとしたアンダーコート層が開示されている。
【0006】
導電性炭素材料の中でも、特許文献4,5で用いられているCNTは、特に優れた導電性を有する導電性炭素材料であるが、溶媒に溶けないために塗膜を形成することが困難であった。そのため近年、分散剤を用いてCNTを分散させて用いる例が報告されている(特許文献6)。
【0007】
一方、カチオン性ポリマーは、アニオン性ポリマーと強く静電的な相互作用をすることにより高い接着力を示す。
特許文献7には、カチオン性ポリマーをカーボンナノチューブの分散剤として用いた例が報告されているが、この文献の技術では、ジアリルアミン系カチオン性ポリマーと、アニオン性界面活性剤と、ノニオン性界面活性剤とを併用する必要があった。
また、特許文献8では、カチオン性のアミンヘッドを有する分散剤が用いられているが、双性イオンであり、さらにカーボンナノチューブを分散するには第2のポリマー成分が必要であった。
【0008】
上記特許文献7,8の技術では、必要とされる絶縁性の成分が多くなることからCNTに期待される導電性の発現が阻害されてしまうという問題があるうえに、組成物内には、カチオン性の成分とアニオン性の成分が含まれることから、中和された状態となっており、アニオン性の別材料に対する強い静電的な相互作用は期待できない。
これらのことから、カチオン性ポリマーのみで導電性炭素材料を分散媒中に安定に分散できる技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-097625号公報
【文献】特開2000-011991号公報
【文献】特開平11-149916号公報
【文献】国際公開第2014/042080号
【文献】国際公開第2015/029949号
【文献】特許第5773097号公報
【文献】特許第5403738号公報
【文献】特許第5328150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、導電性炭素材料の分散剤としてカチオン性ポリマーのみを用いてなる導電性炭素材料分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アニオン性官能基を有しないカチオン性ポリマーを含む分散剤を用いてCNT等の導電性炭素材料を分散し得る組成を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
1. 導電性炭素材料、アニオン性官能基を有しないカチオン性分散剤および溶媒を含み、アニオン性化合物を含まないことを特徴とする導電性炭素材料分散液、
2. 前記カチオン性分散剤が、ジシアンジアミドをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、ジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、ジシアンジアミドおよびジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマー、並びにエチレンイミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーから選ばれる1種または2種以上を含む1の導電性炭素材料分散液、
3. 前記カチオン性分散剤が、エチレンイミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーを含む2の導電性炭素材料分散液、
4. 前記カチオン性分散剤が、ジシアンジアミドをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーを含む2の導電性炭素材料分散液、
5. 前記カチオン性分散剤が、ジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーを含む2の導電性炭素材料分散液、
6. 前記カチオン性分散剤が、ジシアンジアミドおよびジエチレントリアミンをモノマーとして用いてなるカチオン性ポリマーを含む2の導電性炭素材料分散液、
7. 前記導電性炭素材料が、カーボンナノチューブを含む1~6のいずれかの導電性炭素材料分散液、
8. 前記溶媒が、水を含む1~7のいずれかの導電性炭素材料分散液、
9. 固形分が20質量%以下である1~8のいずれかの導電性炭素材料分散液、
10. 固形分が10質量%以下である9の導電性炭素材料分散液、
11. 固形分が5質量%以下である10の導電性炭素材料分散液、
12. アンダーコート層形成用である1~11のいずれかの導電性炭素材料分散液、
13. 1~11のいずれかの導電性炭素材料分散液から得られる導電性薄膜、
14. 目付量が5000mg/m2以下である13の導電性薄膜、
15. 目付量が1000mg/m2以下である14の導電性薄膜、
16. 目付量が500mg/m2以下である15の導電性薄膜、
17. 目付量が300mg/m2以下である16の導電性薄膜、
18. 13~17のいずれかの導電性薄膜を備えるエネルギー貯蔵デバイスの電極用複合集電体、
19. 18のエネルギー貯蔵デバイスの電極用複合集電体を備えるエネルギー貯蔵デバイス用電極、
20. 19のエネルギー貯蔵デバイス用電極を備えるエネルギー貯蔵デバイス、
21. リチウムイオン二次電池である20のエネルギー貯蔵デバイス
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分散剤としてカチオン性ポリマーのみを用いてCNT等の導電性炭素材料を分散させることができる。
導電性炭素材料分散液は、リチウムイオン二次電池等のエネルギー貯蔵デバイスの電極集電体上に形成されるアンダーコート層の作製に適しており、本発明の分散液から作製されたアンダーコート層を有する電極を用いることで、低抵抗なエネルギー貯蔵デバイスおよびその簡便かつ効率的な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明で用いられるくびれ部を有するカーボンナノチューブの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る導電性炭素材料分散液は、導電性炭素材料、アニオン性官能基を有しないカチオン性分散剤および溶媒を含み、アニオン性化合物を含まないものである。
本発明の分散液に用いられる導電性炭素材料の具体例としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、カーボンナノチューブ(CNT)、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛等の公知の炭素材料から適宜選択して用いることができるが、本発明では、特に、カーボンブラックおよび/またはCNTを含む導電性炭素材料を用いることが好ましく、カーボンブラック単独またはCNT単独の導電性炭素材料を用いることがより好ましい。
【0016】
CNTは、一般的に、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法で得られたものでもよい。また、CNTには1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT(以下、SWCNTと略記する)と、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT(以下、DWCNTと略記する)と、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNT(MWCNTと略記する)とがあるが、本発明においては、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単体で、または複数を組み合わせて使用できる。コストの観点からは、特に直径が2nm以上である多層CNTが好ましく、薄膜化できるという観点からは、特に直径500nm以下の多層CNTが好ましく、直径100nm以下の多層CNTがより好ましく、直径50nm以下の多層CNTがより一層好ましく、直径30nm以下の多層CNTが最も好ましい。なお、CNTの直径は、例えば、CNTを溶媒中に分散させたものを乾燥させて得た薄膜を、透過型電子顕微鏡で観察することで測定することができる。
また、上記の方法でSWCNT、DWCNTまたはMWCNTを作製する際には、ニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存することがあるため、この不純物を除去するための精製を必要とする場合がある。不純物の除去には、硝酸、硫酸などによる酸処理とともに超音波処理が有効である。しかし、硝酸、硫酸などによる酸処理ではCNTを構成するπ共役系が破壊され、CNT本来の特性が損なわれてしまう可能性があるため、適切な条件で精製して使用することが望ましい。
【0017】
特に、本発明で用いられるCNTとしては、その分散液を塗膜にしてアンダーコート層とした際に電池抵抗を下げる効果を発揮するために、分散液中で分散し易いものを用いることが好ましい。そのようなCNTとしては、小さいエネルギーで容易に切断可能な結晶不連続部を多く有していることが好ましい。
このような観点から、本発明の組成物に用いられるCNTは、くびれ部を有するものが好ましい。くびれ部を有するCNTとは、CNTのウォールに、平行部と平行部のチューブ外径に対して90%以下のチューブ外径であるくびれ部とを有するものである。
このくびれ部は、CNTの成長方向が変更されることで作り出される部位であるため、結晶不連続部を有しており、小さな機械的エネルギーで容易に切断できる易破断箇所となる。
【0018】
図1に平行部1とくびれ部3とを有するCNTの模式断面図を示す。
平行部1は、
図1に示されるように、ウォールが2本の平行な直線または2本の平行な曲線と認識できる部分である。この平行部1において、平行線の法線方向のウォールの外壁間の距離が平行部1のチューブ外径2である。
一方、くびれ部3は、その両端が平行部1と連接し、平行部1に比べてウォール間の距離が近づいている部分であり、より具体的には、平行部1のチューブ外径2に対して90%以下のチューブ外径4を持つ部分である。なお、くびれ部3のチューブ外径4は、くびれ部3において、外壁を構成するウォールが最も近い箇所の外壁間距離である。
図1に示されるように、くびれ部3の多くには結晶が不連続である箇所が存在する。
上記CNTのウォールの形状とチューブ外径は、透過型電子顕微鏡等で観察することができる。具体的には、CNTの0.5%分散液を作製し、その分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型電子顕微鏡で5万倍にて撮影した画像によりくびれ部を確認することができる。
上記CNTは、CNTの0.1%分散液を作製し、その分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型電子顕微鏡で2万倍にて撮影した画像を100nm四方の区画に区切り、100nm四方の区画にCNTの占める割合が10~80%である区画を300区画選択した際に、1区画中にくびれ部分が少なくとも1箇所存在する区画が300区画中に占める割合によって易破断箇所の全体に占める割合(易破断箇所の存在割合)を判断する。区画中のCNTの占める面積が10%以下の場合には、CNTの存在量が少なすぎるため測定が困難である。また、区画のCNTの占める面積が80%以上の場合には、区画に占めるCNTが多くなるためCNTが重なり合ってしまい、平行部分とくびれ部分を区別するのが困難であり正確な測定が困難となる。
本発明で用いるCNTにおいては、易破断箇所の存在割合が60%以上である。易破断箇所の存在割合が60%よりも少ない場合は、CNTが分散しにくく、分散させるために過度の機械的エネルギーを加えた時には、グラファイト綱面の結晶構造破壊につながり、CNTの特徴である電気導電性などの特性が低下する。より高い分散性を得るためには、易破断箇所の存在割合は、70%以上であることが好ましい。
【0019】
本発明で使用可能なCNTの具体例としては、国際公開第2016/076393号や特開2017-206413号公報に開示されたくびれ構造を有するCNTである、TC-2010、TC-2020、TC-3210L、TC-1210LN等のTCシリーズ(戸田工業(株)製)、スパーグロース法CNT(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製)、eDIPS-CNT(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製)、SWNTシリーズ((株)名城ナノカーボン製:商品名)、VGCFシリーズ(昭和電工(株)製:商品名)、FloTubeシリーズ(CNano Technology社製:商品名)、AMC(宇部興産(株)製:商品名)、NANOCYL NC7000シリーズ(Nanocyl S.A.社製:商品名)、Baytubes(Bayer社製:商品名)、GRAPHISTRENGTH(アルケマ社製:商品名)、MWNT7(保土谷化学工業(株)製:商品名)、ハイペリオンCNT(Hypeprion Catalysis International社製:商品名)等が挙げられる。
【0020】
本発明の導電性炭素材料分散液では、分散剤として、アニオン性官能基を有しないカチオン性分散剤を用いる。なお、本発明において「アニオン性官能基を有しない」とは、分子内にアニオン性官能基を有しない、すなわち、双性イオン構造を取り得ないことを意味し、カチオン性分散剤が有するカチオンと、カウンターアニオンとの塩(例えばアミンの塩酸塩)の態様は含まれる。
カチオン性分散剤としては、アニオン性官能基を有しないものであれば特に限定されるものではなく、公知のアニオン性官能基非含有カチオン性ポリマーから適宜選択して用いることができるが、炭素材料の分散性により優れているという点から、特に、ジシアンジアミドをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、ジエチレントリアミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、ジシアンジアミドおよびジエチレントリアミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、並びにエチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーから選ばれる1種または2種以上を含むものが好ましく、特に、ジシアンジアミドおよびジエチレントリアミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマー、並びにエチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーから選ばれる1種または2種以上を含むものがより好ましく、ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン縮合物およびエチレンイミンをモノマーとして用いて合成されたカチオン性ポリマーであるポリエチレンイミンから選ばれる1種または2種以上を含むものがより一層好ましい。
なお、上記各カチオン性ポリマーは、上記各モノマー成分以外のモノマー成分を用いた共重合体であってもよい。
【0021】
これらのカチオン性ポリマーは、公知の手法で合成して得られたものを用いてもよいが、市販品を用いることもできる。
そのような市販品としては、センカ(株)製のユニセンスシリーズ、日本触媒(株)製のエポミン(ポリエチレンイミン) SP-003、SP-006、SP-012、SP-018、SP-020、P-1000、ポリメント(アミノエチル化アクリルポリマー)NK-100PM、NM-200PM、NK-350、NK-380等が挙げられる。
ユニセンスシリーズとしては、ユニセンス KHP10P(ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン縮合物 塩酸塩)を好適に用いることができる。
【0022】
本発明において、CNT等の導電性炭素材料とカチオン性分散剤との混合比率は、特に限定されるものではなく、質量比で1,000:1~1:100程度とすることができる。
また、分散液中における分散剤の濃度は、CNT等の導電性炭素材料を溶媒に分散させ得る濃度であれば特に限定されるものではないが、分散液中に0.001~30質量%程度が好ましく、0.002~20質量%程度がより好ましい。
さらに、分散液中におけるCNT等の導電性炭素材料の濃度は、目的とする導電性薄膜(アンダーコート層)の目付量や、要求される機械的、電気的、熱的特性などにおいて変化するものであり、また、CNTを用いる場合は、少なくともその一部が孤立分散し得る限り任意であるが、分散液中に0.0001~30質量%程度とすることが好ましく、0.001~20質量%程度とすることがより好ましく、0.001~10質量%程度とすることがより一層好ましい。
【0023】
溶媒としては、従来、導電性組成物の調製に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、水;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、n-プロパノール等のアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
特に、CNTの孤立分散の割合を向上させ得るという点から、水、NMP、DMF、THF、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールが好ましい。また塗工性を向上させ得るという点から、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールを含むことが好ましい。またコストを下げ得るという点からは、水を含むことが好ましい。これらの溶媒は、孤立分散の割合を増やすこと、塗工性を上げること、コストを下げることを目的として、1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。水とアルコール類との混合溶媒を用いる場合、その混合割合は特に限定されるものではないが、質量比で、水:アルコール類=1:1~10:1程度が好ましい。
【0024】
本発明の導電性炭素材料分散液には、マトリックスとなるアニオン性官能基を含まない高分子を添加してもよい。マトリックス高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔P(VDF-HFP)〕、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体〔P(VDF-CTFE)〕等のフッ素系樹脂;ポリビニルピロリドン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン-アクリル酸エチル共重合体)等のポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル-スチレン共重合体)、スチレン-ブタジエンゴム等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等の熱可塑性樹脂や、ポリアニリンおよびその半酸化体であるエメラルジンベース;ポリチオフェン;ポリピロール;ポリフェニレンビニレン;ポリフェニレン;ポリアセチレン等の導電性高分子、さらにはエポキシ樹脂;ウレタンアクリレート;フェノール樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などが挙げられるが、本発明の導電性炭素材料分散液においては、溶媒として水を用いることが好適であることから、マトリックス高分子としても水溶性のもの、例えば、水溶性セルロースエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が好適である。
【0025】
マトリックス高分子は、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、メトローズSHシリーズ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、メトローズSEシリーズ(ヒドロキシエチルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、JC-25(完全ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JM-17(中間ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JP-03(部分ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。
マトリックス高分子の含有量は、特に限定されるものではないが、分散液中に、0.0001~99質量%程度とすることが好ましく、0.001~90質量%程度とすることがより好ましい。
【0026】
なお、本発明の導電性炭素材料分散液は、アニオン性官能基を含まない架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤は、使用する溶媒に溶解することが好ましい。
架橋剤としては、例えば、アミノ基と反応し得るケトン類、アルキルハライド類、アクリロイル類、エポキシ化合物、シアナマイド類、尿素類、酸、酸無水物、アシルハライド類、チオイソシアネート基、イソシアネート基、アルデヒド基等の官能基を有している化合物や、同じ架橋性官能基同士で反応する水酸基(脱水縮合)、メルカプト基(ジスルフィド結合)、エステル基(クライゼン縮合)、シラノール基(脱水縮合)、ビニル基、アクリル基等を有している化合物などが挙げられる。
架橋剤の具体例としては、酸触媒の存在下で架橋反応性を発揮する多官能アクリレート、テトラアルコキシシラン、ブロックイソシアネート基を有するモノマーまたはポリマー等が挙げられる。
【0027】
このような架橋剤は、市販品として入手することもできる。市販品としては、例えば、多官能アクリレートでは、A-9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業(株)製)、A-GLY-9E(Ethoxylated glycerine triacrylate(EO9mol)、新中村化学工業(株)製)、A-TMMT(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学工業(株)製)、テトラアルコキシシランでは、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)、テトラエトキシシラン(東横化学(株)製)、ブロックイソシアネート基を有するポリマーでは、エラストロンシリーズE-37、H-3、H38、BAP、NEW BAP-15、C-52、F-29、W-11P、MF-9、MF-25K(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
これら架橋剤の添加量は、使用する溶媒、使用する基材、要求される粘度、要求される膜形状などにより変動するが、カチオン性分散剤に対して0.001~80質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.05~40質量%である。
【0028】
なお、上述のとおり、本発明の導電性炭素材料分散液は、アニオン性官能基を有するアニオン性化合物を含まない。したがって、マトリックスポリマーや架橋剤を用いる場合でも、アニオン性官能基を有するものは用いない。
【0029】
本発明の導電性炭素材料分散液の調製法は、特に限定されるものではなく、導電性炭素材料、カチオン性分散剤、溶媒、および必要に応じて用いられるマトリックスポリマー、架橋剤等を任意の順序で混合して分散液を調製すればよい。
この際、混合物を分散処理することが好ましく、この処理により、CNT等の導電性炭素材料の分散割合をより向上させることができる。分散処理としては、機械的処理である、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いる湿式処理や、バス型やプローブ型のソニケータを用いる超音波処理が挙げられるが、特に、ジェットミルを用いた湿式処理や超音波処理が好適である。
分散処理の時間は任意であるが、1分間から10時間程度が好ましく、5分間から5時間程度がより好ましい。この際、必要に応じて加熱処理を施しても構わない。
なお、マトリックスポリマー等の任意成分を用いる場合、これらは、カチオン性分散剤、導電性炭素材料および溶媒からなる混合物を調製した後から加えてもよい。
【0030】
本発明における導電性炭素材料分散液の固形分濃度は、特に限定されるものではないが、アンダーコート層形成用等の用途を考慮すると、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がより一層好ましい。
また、その下限は、任意であるが、実用的な観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がより一層好ましい。
なお、固形分とは、導電性炭素材料分散液を構成する溶媒以外の成分の総量である。
【0031】
以上で説明した導電性炭素材料分散液を基材上に塗布し、これを自然または加熱乾燥することで、導電性薄膜を作製することができる。この場合、基材としてエネルギー貯蔵デバイスの集電体を用いると、作製された導電性薄膜をアンダーコート層として機能させることができる。
導電性薄膜の目付量は、特に限定されるものではないが、アンダーコート層に用いた場合のデバイスの内部抵抗の低減等を考慮すると、5000mg/m2以下が好ましく、1000mg/m2以下がより好ましく、500mg/m2以下がより一層好ましく、300mg/m2以下がさらに好ましい。
一方、目付量の下限は特に限定されるものではないが、アンダーコート層の機能を担保して優れた特性の電池を再現性よく得ることを考慮すると、1mg/m2以上が好ましく、5mg/m2以上がより好ましく、10mg/m2以上がより一層好ましく、15mg/m2以上がさらに好ましい。
【0032】
なお、導電性薄膜の目付量は、導電性薄膜の面積(m2)に対する導電性薄膜の質量(mg)の割合であり、導電性薄膜がパターン状に形成されている場合、当該面積は導電性薄膜のみの面積であり、パターン状に形成された導電性薄膜の間に露出する基材の面積を含まない。
導電性薄膜の質量は、例えば、導電性薄膜が形成された基材から適当な大きさの試験片を切り出し、その質量W0を測定し、その後、試験片から導電性薄膜を剥離した後の質量W1を測定し、その差(W0-W1)から算出する、あるいは、予め基材の質量W2を測定しておき、その後、導電性薄膜を形成した基材の質量W3を測定し、その差(W3-W2)から算出することができる。
導電性薄膜を剥離する方法としては、例えば導電性薄膜が溶解、もしくは膨潤する溶剤に、導電性薄膜を浸漬させ、布等で導電性薄膜をふき取るなどの方法が挙げられる。
【0033】
また、導電性薄膜の厚みは、得られるデバイスの内部抵抗を低減することなどを考慮すると、1nm~10μmが好ましく、1nm~1μmがより好ましく、1~500nmがより一層好ましい。
導電性薄膜の膜厚は、例えば、導電性薄膜を形成した基材から適当な大きさの試験片を切り出し、それを手で裂く等の手法により断面を露出させ、走査電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡観察により、断面部分で導電性薄膜が露出した部分から求めることができる。
【0034】
これらの目付量や膜厚は、公知の方法で調整することができる。例えば、塗布により導電性薄膜を形成する場合、導電性炭素材料分散液の固形分濃度、塗布回数、塗工機の塗工液投入口のクリアランスなどを変えることで調整できる。
目付量や膜厚を多くしたい場合は、固形分濃度を高くしたり、塗布回数を増やしたり、クリアランスを大きくしたりする。目付量や膜厚を少なくしたい場合は、固形分濃度を低くしたり、塗布回数を減らしたり、クリアランスを小さくしたりする。
【0035】
集電体は、従来、エネルギー貯蔵デバイス用電極の集電体として用いられているものを使用することができる。例えば、銅、アルミニウム、チタン、ステンレススチール、ニッケル、金、銀およびこれらの合金や、カーボン材料、金属酸化物、導電性高分子等を用いることができるが、超音波溶接等の溶接を適用して電極構造体を作製する場合、銅、アルミニウム、チタン、ステンレススチールまたはこれらの合金からなる金属箔を用いることが好ましい。
集電体の厚みは特に限定されないが、本発明においては、1~100μmが好ましい。
【0036】
導電性炭素材料分散液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、インクジェット法、キャスティング法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、フレキソ印刷法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法などが挙げられるが、作業効率等の点から、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、ダイコート法が好適である。
加熱乾燥する場合の温度も任意であるが、50~200℃程度が好ましく、80~150℃程度がより好ましい。
【0037】
本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、上記導電性薄膜(アンダーコート層)上に、電極合材層を形成して作製することができる。
本発明におけるエネルギー貯蔵デバイスとしては、例えば、電気二重層キャパシタ、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、プロトンポリマー電池、ニッケル水素電池、アルミ固体コンデンサ、電解コンデンサ、鉛蓄電池等の各種エネルギー貯蔵デバイスが挙げられるが、本発明のアンダーコート箔は、特に、電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池に好適に用いることができる。
ここで、活物質としては、従来、エネルギー貯蔵デバイス用電極に用いられている各種活物質を用いることができる。
例えば、リチウム二次電池やリチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としてリチウムイオンを吸着・離脱可能なカルコゲン化合物またはリチウムイオン含有カルコゲン化合物、ポリアニオン系化合物、硫黄単体およびその化合物等を用いることができる。
このようなリチウムイオンを吸着離脱可能なカルコゲン化合物としては、例えばFeS2、TiS2、MoS2、V2O6、V6O13、MnO2等が挙げられる。
リチウムイオン含有カルコゲン化合物としては、例えばLiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2、LixNiyM1-yO2(但し、Mは、Co、Mn、Ti、Cr,V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦x≦1.10、0.5≦y≦1.0)などが挙げられる。
ポリアニオン系化合物としては、例えばLiFePO4等が挙げられる。
硫黄化合物としては、例えばLi2S、ルベアン酸等が挙げられる。
【0038】
一方、上記負極を構成する負極活物質としては、アルカリ金属、アルカリ合金、リチウムイオンを吸蔵・放出する周期表4~15族の元素から選ばれる少なくとも1種の単体、酸化物、硫化物、窒化物、またはリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料を使用することができる。
アルカリ金属としては、Li、Na、K等が挙げられ、アルカリ金属合金としては、例えば、Li-Al、Li-Mg、Li-Al-Ni、Na-Hg、Na-Zn等が挙げられる。
リチウムイオンを吸蔵放出する周期表4~15族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素の単体としては、例えば、ケイ素やスズ、アルミニウム、亜鉛、砒素等が挙げられる。
同じく酸化物としては、例えば、スズケイ素酸化物(SnSiO3)、リチウム酸化ビスマス(Li3BiO4)、リチウム酸化亜鉛(Li2ZnO2)、リチウム酸化チタン(Li4Ti5O12)、酸化チタン等が挙げられる。
同じく硫化物としては、リチウム硫化鉄(LixFeS2(0≦x≦3))、リチウム硫化銅(LixCuS(0≦x≦3))等が挙げられる。
同じく窒化物としては、リチウム含有遷移金属窒化物が挙げられ、具体的には、LixMyN(M=Co、Ni、Cu、0≦x≦3、0≦y≦0.5)、リチウム鉄窒化物(Li3FeN4)等が挙げられる。
リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、またはこれらの焼結体等が挙げられる。
【0039】
また、電気二重層キャパシタの場合、活物質として炭素質材料を用いることができる。
この炭素質材料としては、活性炭等が挙げられ、例えば、フェノール樹脂を炭化後、賦活処理して得られた活性炭が挙げられる。
【0040】
電極合材層は、以上で説明した活物質と、以下で説明するバインダーポリマーおよび必要に応じて溶媒を合わせて作製した電極スラリーを、アンダーコート層上に塗布し、自然または加熱乾燥して形成することができる。
【0041】
バインダーポリマーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔P(VDF-HFP)〕、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体〔P(VDF-CTFE)〕、ポリビニルアルコール、ポリイミド、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアニリン等の導電性高分子などが挙げられる。
なお、バインダーポリマーの添加量は、活物質100質量部に対して、0.1~20質量部、特に、1~10質量部が好ましい。
溶媒としては、上記分散液で例示した溶媒が挙げられ、それらの中からバインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、PVdF等の非水溶性のバインダーの場合はNMPが好適であり、PAA等の水溶性のバインダーの場合は水が好適である。
【0042】
なお、上記電極スラリーは、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
【0043】
電極スラリーの塗布方法としては、上述した分散液と同様の手法が挙げられる。
また、加熱乾燥する場合の温度も任意であるが、50~400℃程度が好ましく、80~150℃程度がより好ましい。
【0044】
電極は、必要に応じてプレスすることができる。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やロールプレス法が好ましい。ロールプレス法でのプレス圧は、特に限定されないが、0.2~3ton/cmが好ましい。
【0045】
本発明に係るエネルギー貯蔵デバイスは、上述したエネルギー貯蔵デバイス用電極を備えたものであり、より具体的には、少なくとも一対の正負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解質とを備えて構成され、正負極の少なくとも一方が、上述したエネルギー貯蔵デバイス用電極から構成される。
このエネルギー貯蔵デバイスは、電極として上述したエネルギー貯蔵デバイス用電極を用いることにその特徴があるため、その他のデバイス構成部材であるセパレータや、電解質などは、公知の材料から適宜選択して用いることができる。
セパレータとしては、例えば、セルロース系セパレータ、ポリオレフィン系セパレータなどが挙げられる。
電解質としては、液体、固体のいずれでもよく、また水系、非水系のいずれでもよいが、本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、非水系電解質を用いたデバイスに適用した場合にも実用上十分な性能を発揮させ得る。
【0046】
非水系電解質としては、電解質塩を非水系有機溶媒に溶かしてなる非水系電解液が挙げられる。
電解質塩としては、4フッ化硼酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のリチウム塩;テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルトリエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムパークロレート等の4級アンモニウム塩、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のリチウムイミドなどが挙げられる。
非水系有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類などが挙げられる。
【0047】
エネルギー貯蔵デバイスの形態は特に限定されるものではなく、円筒型、扁平巻回角型、積層角型、コイン型、扁平巻回ラミネート型、積層ラミネート型等の従来公知の各種形態のセルを採用することができる。
コイン型に適用する場合、上述した本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極を、所定の円盤状に打ち抜いて用いればよい。
例えば、リチウムイオン二次電池は、コインセルのワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、一方の電極を設置し、その上に、電解液を含浸させた同形状のセパレータを重ね、さらに上から、電極合材層を下にして本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極を重ね、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封して作製することができる。
【0048】
積層ラミネート型に適用する場合、電極合材層がアンダーコート層表面の一部または全面に形成された電極における、電極合材層が形成されていない部分(溶接部)で金属タブと溶接して得られた電極構造体を用いればよい。なお、アンダーコート層が形成され、かつ、電極合材層が形成されていない部分で溶接する場合、集電体の一面あたりのアンダーコート層の目付量を好ましくは0.1g/m2以下、より好ましくは0.09g/m2以下、より一層好ましくは0.05g/m2未満とする。
この場合、電極構造体を構成する電極は一枚でも複数枚でもよいが、一般的には、正負極とも複数枚が用いられる。
正極を形成するための複数枚の電極は、負極を形成するための複数枚の電極と、一枚ずつ交互に重ねることが好ましく、その際、正極と負極の間には上述したセパレータを介在させることが好ましい。
金属タブは、複数枚の電極の最も外側の電極の溶接部で溶接しても、複数枚の電極のうち、任意の隣接する2枚の電極の溶接部間に金属タブを挟んで溶接してもよい。
【0049】
金属タブの材質は、一般的にエネルギー貯蔵デバイスに使用されるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ニッケル、アルミニウム、チタン、銅などの金属;ステンレススチール、ニッケル合金、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金などの合金などが挙げられるが、溶接効率を考慮すると、アルミニウム、銅およびニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含んで構成されるものが好ましい。
金属タブの形状は、箔状が好ましく、その厚さは0.05~1mm程度が好ましい。
【0050】
溶接方法は、金属同士の溶接に用いられる公知の方法を用いることができ、その具体例としては、TIG溶接、スポット溶接、レーザー溶接、超音波溶接などが挙げられるが、超音波溶接にて電極と金属タブとを接合することが好ましい。
超音波溶接の手法としては、例えば、複数枚の電極をアンビルとホーンとの間に配置し、溶接部に金属タブを配置して超音波をかけて一括して溶接する手法や、電極同士を先に溶接し、その後、金属タブを溶接する手法などが挙げられる。
本発明では、いずれの手法でも、金属タブと電極とが上記溶接部で溶接されるだけでなく、複数枚の電極同士も互いに超音波溶接されることになる。
溶接時の圧力、周波数、出力、処理時間等は、特に限定されるものではなく、用いる材料やアンダーコート層の有無、目付量などを考慮して適宜設定すればよい。
以上のようにして作製した電極構造体を、ラミネートパックに収納し、上述した電解液を注入した後、ヒートシールすることでラミネートセルが得られる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[1]導電性炭素材料分散液の製造
[実施例1-1]
カチオン性ポリマーであるユニセンスKHP10P(センカ(株)製、固形分濃度:99質量%、モノマー組成:ジシアンジアミド/ジエチレントリアミン)0.5gと、純水49gとを混合し、さらにそこへ導電性炭素材料(NC7000、カーボンナノチューブ、Nanocyl社製)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置(Hielscher Ultrasonics社製 UIP1000)を用いて、500Wで10分間の超音波処理を施した結果、均一なカーボンナノチューブの分散液が得られた。
【0052】
[実施例1-2]
導電性炭素材料をTC-2010(カーボンナノチューブ、戸田工業(株)製)に変更した以外は、実施例1-1と同様にして分散液を調製した結果、均一なカーボンナノチューブの分散液が得られた。
【0053】
[実施例1-3]
導電性炭素材料をデンカブラック(カーボンブラック、デンカ(株)製)に変更した以外は、実施例1-1と同様にして分散液を調製した結果、均一なカーボンブラックの分散液が得られた。
【0054】
[実施例1-4]
カチオン性分散剤をエポミンP-1000(日本触媒(株)製、固形分濃度:30質量%、モノマー組成:エチレンイミン)1.67gに、純水を47.83gに変更した以外は、実施例1-2と同様にして分散液を調製した結果、均一なカーボンナノチューブの分散液が得られた。
【0055】
[実施例1-5]
カチオン性分散剤をエポミンP-1000(日本触媒(株)製、固形分濃度:30質量%、モノマー組成:エチレンイミン)1.67gに、純水を47.83gに変更した以外は、実施例1-3と同様にして分散液を調製した結果、均一なカーボンブラックの分散液が得られた。
【0056】
[比較例1-1]
分散剤を、中性ポリマーであるポリビニルアルコール(東亞合成(株)製、固形分濃度:100質量%、JF-17)0.5gに変更した以外は、実施例1-1と同様にして分散液を調製した結果、不均一で凝集物が残った。
【0057】
[比較例1-2]
分散剤を、アニオン性ポリマーであるポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)を含む水溶液であるアロンA-7195(東亞合成(株)製、固形分濃度19質量%)2.63gに、純水を46.87gに変更した以外は、実施例1-1と同様にして分散液を調製した結果、不均一で凝集物が残った。
【0058】
[比較例1-3]
分散剤を、アニオン性ポリマーであるポリアクリル酸アンモニウム(PAA-NH4)を含む水溶液であるアロンA-30(東亞合成(株)、固形分濃度31.6質量%)1.58gに、純水を47.92gに変更した以外は、実施例1-1と同様にして分散液を調製した結果、不均一で凝集物が残った。
【0059】
以上のとおり、本発明のカチオン性分散剤を用いた実施例1-1~1-5では、均一な導電性炭素材料分散液が作製できているのに対し、カチオン性分散剤を用いていない比較例1-1~1-3では凝集物が残り、均一な導電性炭素材料分散液が作製できていないことがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1 平行部
2 平行部のチューブ外径
3 くびれ部
4 くびれ部のチューブ外径