(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20221213BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221213BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221213BHJP
C03C 17/28 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G01N33/543 501J
G01N33/53 D
G01N33/53 M
G01N37/00 102
C03C17/28 A
(21)【出願番号】P 2020513113
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007931
(87)【国際公開番号】W WO2019198374
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018075271
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小口 亮平
(72)【発明者】
【氏名】江口 創
(72)【発明者】
【氏名】山本 今日子
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070716(JP,A)
【文献】特開2017-093908(JP,A)
【文献】特開2017-164315(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス基材と、前記デバイス基材の水が接する表面の少なくとも一部に配設される表面層とを有する医療用デバイスであって、
前記デバイス基材の、前記表面層の配設される表面の少なくとも一部は無機材料からなり、
前記表面層が、生体親和性基とアルコキシシリル基とを有する化合物の硬化物からなり、
前記生体親和性基が、下式1で表される構造、下式2で表される構造、及び下式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなり、前記化合物中の前記生体親和性基の含有量が25~83質量%、かつ前記アルコキシシリル基の含有量が2~70質量%である医療用デバイス。
【化1】
ただし、式1中、nは1~300の整数であり、式1で表される構造のうち50~100モル%は、下式4で表される構造中の式1で表される構造である。式4におけるnは1~300の整数であり、R
6は水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式2中、R
1~R
3はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式3中、R
4およびR
5はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、X
-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、bは1~5の整数である。
【化2】
【請求項2】
前記表面層は40℃の水に7日間浸漬した場合に、前記表面層の単位面積1cm
2当たりの水に対する全有機炭素(TOC)の溶出量が10mg/L以下である請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
前記化合物が、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、前記ポリオキシエチレンポリオールまたは前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが有する水酸基および連結基を介してアルコキシシリル基が導入された化合物である請求項1又は2に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
前記化合物が、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、その水酸基に由来する酸素原子、または、その水酸基に由来する酸素原子と、-(CH
2)
k-、-CONH(CH
2)
k-、-(CF
2)
k-、-CO(CH
2)
k-、-CH
2CH(-OH)CH
2O(CH
2)
k-(kは、2~4の整数を表す)、-CH
2OC
3H
6-、または-CF
2OC
3H
6-が結合した連結基、を介して結合するようにアルコキシシリル基が導入された化合物である請求項1又は2に記載の医療用デバイス。
【請求項5】
前記化合物が、前記式1で表される構造(ただし50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位およびアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位とを有する共重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
前記化合物が、前記式1で表される構造(ただし、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位および式(B12)で表される単位を有する共重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【化3】
ただし、式(B12)中、Q
7およびQ
8はそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
【請求項7】
前記化合物が、前記式1で表される構造を有する(メタ)アクリレートに基づく単位およびアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有する共重合体と、前記式1で表される構造を有する(メタ)アクリレートに基づく単位のみからなる重合体と、を含み、前記化合物中の固形分に含まれる前記式1で表される構造のうち、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【請求項8】
前記化合物が、下式(A)で表される単位、下式(B11)で表される単位、および下式(B12)で表される単位を有する共重合体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【化4】
ただし、式(A)、式(B11)、式(B12)中の記号は以下のとおりである。
式(A)、式(B11)中、Rは水素原子またはメチル基である。
式(A)中、Q
2は2価有機基であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数であり、R
7およびOR
8が複数存在する場合、R
7およびR
8はそれぞれ同一であっても異なってもよい。
式(B11)中、Q
3は単結合または2価有機基であり、n2は1~300の整数であり、R
6は水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式(B12)中、Q
7およびQ
8はそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
【請求項9】
前記デバイス基材がガラスで構成される、請求項1~8のいずれか1項に記載の医療用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体由来物質の分析手法として、バイオチップを用いる方法が知られている。この手法では、特定の生体由来物質(タンパク質等)を補足する分子をチップ表面に固定化して当該分子に捕捉された生体由来物質を検出する。
【0003】
ところが、バイオチップでは、生体由来物質を補足する分子が固定されていない部分に検出対象である生体由来物質以外の非特異的なタンパク質が吸着すると、検出時にノイズとなって検出精度を悪化させるという問題がある。
【0004】
そのため、非特異的なタンパク質の吸着量(非特異吸着量)を低減する方法として、基材に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と、n-ブチルメタクリレート(BMA)の共重合体からなる硬化物層を形成する方法(例えば、特許文献1参照。)や、基材表面にシランカップリング剤をコーティングした後にアクリルアミドとラジカル重合させて硬化層を形成する方法(例えば、特許文献2参照。)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記した従来の方法では、バイオチップを長期間使用した場合などに、非特異吸着量が増大してしまうことや、硬化層の成分が溶出してしまい、検出精度が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-20938公報
【文献】米国特許4,680,201号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞やタンパクなどの非特異的な吸着量(非特異吸着量)が低減されるとともに、その耐久性に優れ、表面層からの溶出物の低減された医療用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用デバイスは、デバイス基材と、前記デバイス基材の水が接する表面の少なくとも一部に配設される表面層とを有する医療用デバイスであって、前記デバイス基材の、前記表面層の配設される表面の少なくとも一部は無機材料からなり、前記表面層が、生体親和性基とアルコキシシリル基とを有する化合物の硬化物からなり、前記生体親和性基が、下式1で表される構造、下式2で表される構造、及び下式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなり、前記化合物中の前記生体親和性基の含有量が25~83質量%、かつ前記アルコキシシリル基の含有量が2~70質量%である。
【化1】
ただし、式1中、nは1~300の整数であり、式1で表される構造のうち50~100モル%は、下式4で表される構造中の式1で表される構造である。式4におけるnは1~300の整数であり、R
6は水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式2中、R
1~R
3はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式3中、R
4およびR
5はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、X
-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、bは1~5の整数である。
【化2】
【0009】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記表面層は40℃の水に7日間浸漬した場合に、前記表面層の単位面積1cm2当たりの水に対する全有機炭素(TOC)の溶出量が10mg/L以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記化合物が、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、前記ポリオキシエチレンポリオールまたは前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが有する水酸基および連結基を介してアルコキシシリル基が導入された化合物であることが好ましい。
【0011】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記化合物が、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、その水酸基に由来する酸素原子、または、その水酸基に由来する酸素原子と、-(CH2)k-、-CONH(CH2)k-、-(CF2)k-、-CO(CH2)k-、-CH2CH(-OH)CH2O(CH2)k-(kは、2~4の整数を表す)、-CH2OC3H6-、または-CF2OC3H6-が結合した連結基、を介して結合するようにアルコキシシリル基が導入された化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記化合物が、前記式1で表される構造(ただし、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位およびアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0013】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記化合物が、前記式1で表される構造(ただし、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位および式(B12)で表される単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0014】
【0015】
ただし、式(B12)中、Q7およびQ8はそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
【0016】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記化合物が、前記式1で表される構造を有する(メタ)アクリレートに基づく単位およびアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有する共重合体と、前記式1で表される構造を有する(メタ)アクリレートに基づく単位のみからなる重合体と、を含み、前記化合物中の固形分に含まれる前記式1で表される構造のうち、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造であることが好ましい。
【0017】
本発明の医療用デバイスにおいて、前記化合物が、下式(A)で表される単位、下式(B11)で表される単位、および下式(B12)で表される単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0018】
【0019】
ただし、式(A)、式(B11)、式(B12)中の記号は以下のとおりである。
式(A)、式(B11)中、Rは水素原子またはメチル基である。
式(A)中、Q2は2価有機基であり、R7およびR8はそれぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数であり、R7およびOR8が複数存在する場合、R7およびR8はそれぞれ同一であっても異なってもよい。
式(B11)中、Q3は単結合または2価有機基であり、n2は1~300の整数であり、R6は水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式(B12)中、Q7およびQ8はそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
Q7およびQ8は、-C(CH3)(COOC2H5)-、-C(CH3)(COOCH3)-、-C(CH3)(CN)-が好ましく、-C(CH3)(COOCH3)-、-C(CH3)(CN)-がより好ましく、入手容易性及び重合時の製造容易性の観点から、-C(CH3)(CN)-がさらに好ましい。
本発明の医療用デバイスにおいて、前記デバイス基材がガラスで構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、非特異吸着量が低減されるとともに、その耐久性に優れており、表面層からの溶出物の低減された医療用デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明は下記説明に限定して解釈されるものではない。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得る。また、以下の実施形態、および変形例を任意に組み合わせた態様も好適な例である。
【0022】
本明細書において、式で表される化合物または基は、その式の番号を付した化合物または基としても表記し、例えば、式1で表される化合物は、化合物1とも表記する。
本明細書において、数値範囲を表す値は、その範囲の上限値又は下限値を含む。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
共重合体における「単位」とは、単量体が重合することによって形成する該単量体に由来する部分を意味する。
「生体親和性基」とは、細胞などのタンパク質が材料表面に接着して動かなくなることを抑制する性質を有する基を意味する。
【0023】
本発明の医療用デバイスは、デバイス基材と、表面層を有し、表面層は、デバイス基材の水が接する表面の少なくとも一部に配設される。そして、表面層が、上記式1で表される構造、上記式2で表される構造、および上記式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる生体親和性基とアルコキシシリル基とを有する化合物であって、生体親和性基の含有量が25~83質量%であり、アルコキシシリル基の含有量が2~70質量%である化合物(以下「化合物(X)」と示す。)の硬化物からなる。
【0024】
なお、化合物中の固形分とは、化合物を80℃、3時間で真空乾燥して揮発成分を除去した残留分をいう。また、以下の説明において、特に断りのない限り「生体親和性基」とは、上記式1で表される構造、上記式2で表される構造、および上記式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる基である。
【0025】
本発明の医療用デバイスは、医療用デバイス基材における水に接する表面に、化合物(X)の硬化物からなる表面層を有することで、非特異吸着量を低減することができ、その効果が持続される。
【0026】
化合物(X)が十分な量の生体親和性基を有することで、得られる硬化物においても十分な量の生体親和性基を有し、該生体親和性基が含水することで、非特異吸着量が効果的に低減されると考えられる。また、化合物(X)が所定量のアルコキシシリル基を有することで、化合物(X)が硬化する際にアルコキシシリル基がデバイス基材の表面に強固に結合するために、非特異吸着量を低減する効果が持続するものと考えられる。
【0027】
ここで、化合物(X)はアルコキシシリル基を有することで、加水分解反応し、シラノール基(Si-OH)を形成する。次いで、該シラノール基同士が脱水縮合反応してシロキサン結合(Si-O-Si)して硬化物となる。該シロキサン結合は、3次元マトリックス構造を形成できることから、表面層からの溶出が抑えられると考えられる。
【0028】
化合物(X)を、デバイス基材の表面で硬化させる場合、化合物(X)が加水分解反応することで生成したシラノール基は、上記Si-O-Si結合を形成するのと並行して、デバイス基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して化学結合(基材-O-Si)が形成される。これにより、得られる表面層はデバイス基材の表面と強固に密着することから、高い耐久性、例えば、耐水性を有する。
【0029】
デバイス基材の構成材料としては、医療用デバイスに通常用いられる無機材料が特に制限なく使用可能である。無機材料として、具体的には、金属、ガラス、これらの2種以上の複合材料等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。本発明の医療用デバイスにおいて、デバイス基材の構成材料は、表面層との密着性の観点から、該材料からなる成形体表面が水酸基を有する材料が好ましく、ガラスが好適である。なお、デバイス基材の表面が水酸基を有しない場合は、従来公知の方法、例えば、コロナ処理等の物理的処理方法、プライマー処理等の化学的処理方法により、水酸基を導入することが好ましい。また、デバイス基材は、少なくとも表面層の配設される表面の一部または全部が上記材料で形成されていれば、すべてが上記材料で形成されていなくてもよい。
【0030】
表面層は、化合物(X)の硬化物で構成される。化合物(X)は、式1で表される構造、式2で表される構造、および式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる生体親和性基とアルコキシシリル基とを有する。
【0031】
化合物(X)は、生体親和性基を25~83質量%の割合で含有し、かつアルコキシシリル基を2~70質量%含有する。
【0032】
【0033】
ただし、式1中、nは1~300の整数であり、式1で表される構造のうち50~100モル%は、下式4で表される構造中の式1で表される構造である。式4におけるnは1~300の整数であり、R6は水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式2中、R1~R3はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式3中、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、X-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、bは1~5の整数である。
【0034】
【0035】
本明細書において、アルキル基は、直鎖、分岐鎖および環状のいずれであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0036】
化合物(X)が有する、生体親和性基は、構造1(ただし、50~100モル%は構造4中の構造1である)、構造2および構造3から選ばれる少なくとも一種からなる。以下、構造1(ただし、50~100モル%は構造4中の構造1である)を、「構造1(4)」と示す。生体親和性基は、構造1(4)、構造2および構造3の1種のみからなってもよく、2種以上からなってもよい。生体親和性基としては、構造1(4)が好ましい。
【0037】
化合物(X)が有する、アルコキシシリル基は、例えば、式5で示される基が挙げられる。
-Si(R7)3-t(OR8)t 式5
ただし、式5中、R7は、炭素数1~18のアルキル基であり、R8は炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数である。R7およびOR8が複数存在する場合、R7およびR8は同一であっても異なってもよい。製造上の観点から同一であることが好ましい。
【0038】
デバイス基材と表面層の密着性の観点から、tは2以上が好ましく、3がより好ましい。縮合反応時の立体障害の観点から、R7は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。加水分解反応速度および加水分解反応時の副生成物の揮発性の観点から、R8は、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0039】
化合物(X)としては、例えば、上記化合物(X)としての要件を満足する、ポリオキシエチレン鎖を主鎖とし、末端または側鎖にアルコキシシリル基を有する化合物(X1)、エチレン性二重結合が重合した炭化水素鎖を主鎖とし、側鎖に生体親和性基とアルコキシシリル基を有する化合物(X2)、主鎖はエチレン性二重結合が重合した炭化水素鎖とポリオキシエチレン鎖の両方を含み、側鎖に生体親和性部位とアルコキシシリル基を有する化合物(X3)等が挙げられる。
【0040】
化合物(X1)は、例えば、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、前記ポリオキシエチレンポリオールまたは前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルが有する水酸基および連結基を介してアルコキシシリル基を導入することで得られる。より具体的には、化合物(X1)は、例えば、ポリオキシエチレン鎖を含むポリオキシアルキレンポリオールまたはポリオキシエチレン鎖を含み少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、所定の割合で、水酸基に反応性の基およびアルコキシシリル基を有するシラン化合物(以下、シラン化合物(S)ともいう。)を反応させて得られる。
【0041】
用いるポリオキシアルキレンポリオールとしては、アルカンポリオール、エーテル性酸素原子含有ポリオール、糖アルコールなどの比較的低分子量のポリオールに、少なくともエチレンオキシドを含むアルキレンモノエポキシドを開環付加重合して得られる化合物が挙げられる。ポリオキシアルキレンポリオールにおける、オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシ-1,2-ブチレン基、オキシ-2,3-ブチレン基、オキシイソブチレン基等が挙げられる。
【0042】
用いるポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、このようなポリオキシアルキレンポリオールの水酸基の一部を炭素数1~5の脂肪族アルコールとエーテル結合させた化合物が挙げられる。以下の説明において、特に断りのない限り「ポリオキシアルキレンアルキルエーテル」は、少なくとも1個の水酸基を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)をいう。「オキシアルキレン」が「オキシエチレン」に変わった場合も同様である。
【0043】
上記ポリオキシアルキレンポリオールおよびポリオキシアルキレンアルキルエーテルが有するオキシアルキレン基はオキシエチレン基のみからなってもよく、オキシエチレン基と他のオキシアルキレン基の組み合わせからなってもよい。化合物(X1)としての分子設計のし易さから、オキシエチレン基のみを有するポリオキシエチレンポリオールまたはポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。以下、ポリオキシエチレンポリオールとポリオキシエチレンアルキルエーテルをまとめて、ポリオキシエチレンポリオール等ということもある。
【0044】
すなわち化合物(X1)は、ポリオキシエチレンポリオール等とシラン化合物(S)の反応生成物が好ましい。ポリオキシエチレンポリオール等の水酸基の数としては、1~6が挙げられ、化合物(X1)としての分子設計のし易さの観点から、1~4が好ましく、1~3が特に好ましい。ポリオキシエチレンポリオール等として、具体的には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、トリメチロールプロパントリオキシエチレンエーテル、ペンタエリスリトールポリオキシエチレンエーテル、ジペンタエリスリトールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレングリコールモノアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)等が挙げられる。
【0045】
例えば、ポリオキシエチレンポリオール等が、水酸基数が2のポリオキシエチレングリコールの場合、化合物(X1)として、下記式のようにポリオキシエチレングリコールとR9-Q11-Si(R7)3-t(OR8)tで示されるシラン化合物(S1)が反応して得られる、式中、符号(X11)で示される化合物(X11)が挙げられる。
【0046】
【0047】
上記反応式において、ポリオキシエチレングリコールにおけるn1は1~300の整数であり、好ましくは2~100、より好ましくは4~20である。シラン化合物(S1)における、R7、R8、およびtは、好ましい態様を含めて上記式5の場合と同様である。シラン化合物(S1)における、R9は、水酸基と反応性の基であり、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、エポキシ基が挙げられる。Q11は、炭素数2~20の、炭素原子-炭素原子間に、エーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基に置換されていてもよい2価炭化水素基である。水素原子が水酸基に置換される場合、置換する水酸基の個数は1~5個が好ましい。
【0048】
式(X11)において、Q1は、シラン化合物(S1)のR9-Q11がポリオキシエチレングリコールの水酸基と反応した残基であり、R9’-Q11(Oに結合する側がR9’であり、アルコキシシリル基に結合する側がQ11である。)で示すことができる。R9’としては、R9に対応して、単結合、-C(=O)-、-C(=O)NH-、-C(=O)N(CH3)-、-C(=O)N(C6H5)-、-CH2CH(-OH)CH2O-が挙げられる。以下、-C(=O)N…は、-CON…と示す。例えば、-C(=O)NH-は、-CONH-と示す。
【0049】
Q1として、好ましくは、-(CH2)k-、-CONH(CH2)k-、-(CF2)k-(kは、2~4の整数を表す)、-CH2OC3H6-、-CF2OC3H6-等が挙げられる。これらのなかでも、-CONHC3H6-、-CONHC2H4-、-CH2OC3H6-、-CF2OC3H6-、-C2H4-、-C3H6-、および-C2F4-から選択されるいずれかがより好ましく、-CONHC3H6-、-CONHC2H4-、-C2H4-、-C3H6-がさらに、好ましい。
【0050】
なお、ポリオキシエチレングリコールを塩基性条件下で塩化アリルと反応させた後、ヒドロシリル化反応によってシラン変性することで、化合物(X11)を得てもよい。
【0051】
化合物(X11)における構造1は、構造4中の構造1である割合が、100モル%である。すなわち、化合物(X11)における構造1は、すべてが構造4中の構造1である。つまり、化合物(X11)におけるオキシエチレン鎖は、片末端がR6である割合が多い方が好ましい。化合物(X11)における生体親和性基の含有量は、式(X11)中の-n1(OCH2CH2)-O-の質量%であり、アルコキシシリル基の含有量は、式(X11)中の-Si(R7)3-t(OR8)tの質量%である。化合物(X11)における生体親和性基およびアルコキシシリル基の含有量は、組成物(Y)の固形分組成に応じて適宜調整される。化合物(X11)における生体親和性基の含有量は、例えば、10~90質量%が好ましく、25~83質量%がより好ましく、40~83質量%がさらに好ましく、60~83質量%が特に好ましい。化合物(X11)におけるアルコキシシリル基の含有量は、1~70質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、2~45質量%がさらに好ましく、10~30質量%が特に好ましい。
【0052】
なお、化合物(X11)における末端の水素原子が、水素原子以外のR6と置き換わった化合物も化合物(X1)として使用できる。すなわち、上記反応式において、水酸基数が2のポリオキシエチレングリコールの代わりにポリオキシエチレングリコールモノアルキルエーテル(アルキルはR6である。)を用いて得られる化合物も、化合物(X1)として使用できる。その場合のR6としては、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0053】
例えば、ポリオキシエチレンポリオールが、水酸基数が3のポリオキシエチレングリセリルエーテルの場合、化合物(X1)として、下記式のようにポリオキシエチレングリセリルエーテルとR9-Q11-Si(R7)3-t(OR8)tで示されるシラン化合物(S1)が反応して得られる、式中、符号(X12)で示される化合物(X12)が挙げられる。
【0054】
【0055】
上記反応式において、ポリオキシエチレングリセリルエーテルにおけるn1は、ポリオキシエチレングリコールにおけるn1と好ましい態様を含めて同様にできる。シラン化合物(S1)は上記同様とできる。化合物(X12)における、Q1は、化合物(X11)におけるQ1と好ましい態様を含めて同様にできる。
【0056】
化合物(X12)における構造1は、構造4中の構造1である割合が、67モル%である。化合物(X12)における生体親和性基およびアルコキシシリル基の含有量は、好ましい態様を含めて化合物(X11)の場合と同様にできる。
【0057】
なお、化合物(X12)におけるO-(CH2CH2O)n1-Hの末端の水素原子が、水素原子以外のR6と置き換わった化合物も化合物(X1)として使用できる。その場合のR6としては、メチル基が好ましい。
【0058】
化合物(X1)において、生体親和性基およびアルコキシシリル基以外の構造の含有量は、非特異吸着量の低減及び耐水性の両立の観点から、10~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。化合物(X1)の重量平均分子量は、原料入手の容易性の観点から、100~10,000が好ましく、500~2,000がより好ましい。化合物(X1)の重量平均分子量(以下、「Mw」と示すこともある)は、サイズ排除クロマトグラフィーによって算出される。
【0059】
以上、ポリオキシエチレンポリオール等として、ポリオキシエチレングリコールおよびポリオキシエチレングリセリルエーテルを例に化合物(X1)を説明した。これら以外のポリオキシエチレンポリオール等についても同様に、構造1が構造4中の構造1である割合、生体親和性基の含有量、アルコキシシリル基の含有量等を所望の割合に適宜調整して、化合物(X1)を製造することが可能である。
【0060】
化合物(X1)は、さらにその部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(X1)を部分加水分解縮合物とする場合、後述のようにしてデバイス基材の表面に表面層を形成する際に支障をきたさない程度の粘度となるように、縮合度を適宜調整する。このような粘度の観点から部分加水分解縮合物のMwは、1,000~1,000,000が好ましく、1,000~100,000がより好ましい。以下の部分加水分解共縮合物についても、Mwの好ましい範囲は同様である。なお、部分加水分解縮合物におけるアルコキシシリル基の含有量(質量%)は、原料のシラン化合物のアルコキシシリル基の含有量(質量%)と同等として扱う。部分加水分解共縮合物においては、原料のシラン化合物の混合割合からアルコキシシリル基の含有量(質量%)を算出できる。
【0061】
化合物(X1)は、2種以上の化合物(X1)を、所望の割合で生体親和性基とアルコキシシリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。化合物(X1)は、また、化合物(X1)と生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物を、得られる部分加水分解縮合物が化合物(X)として所望の割合で生体親和性基とアルコキシシリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。
【0062】
生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物としては、下式6のアルコキシシラン化合物が挙げられる。
Si(R20)4-p(OR21)p 式6
【0063】
ただし、式6中、R20は、ポリオキシエチレン鎖を有しない一価有機基であり、R21は炭素数1~18のアルキル基であり、pは1~4の整数である。R20およびOR21が複数存在する場合、R20およびR21は同一であっても異なってもよい。製造上の観点から同一であることが好ましい。
【0064】
R20として具体的には、炭素数1~18のアルキル基が挙げられ、縮合反応時の立体障害の観点からメチル基が好ましい。
【0065】
デバイス基材と表面層の密着性の観点から、pは2以上が好ましく、3または4がより好ましく、4が特に好ましい。加水分解反応速度および加水分解反応時の副生成物の揮発性の観点から、R21は、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0066】
化合物(X2)としては、例えば、生体親和性基を有する(メタ)アクリレートとアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートを必須とし、任意にこれら以外のその他(メタ)アクリレートを含む単量体を共重合させた(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。この場合、原料単量体は、得られる(メタ)アクリレート共重合体が化合物(X)として所望の割合で生体親和性基とアルコキシシリル基を含有するように、上記各(メタ)アクリレートの含有量を調整する。
【0067】
化合物(X2)は、言い換えれば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位およびアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を所定の割合で含み、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートに基づく単位を含む共重合体が好ましい。
【0068】
生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位とは、構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、構造2を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、構造3を有する(メタ)アクリレートに基づく単位から選ばれる少なくとも1種である。これらの単位として、具体的には、側鎖に構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位(以下、単位(B1)という)、下記式(B2)で示す構造2を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、下記式(B3)で示す構造3を有する(メタ)アクリレートに基づく単位が挙げられる。単位(B1)としては、下記式(B11)で示す構造4を有する(メタ)アクリレートに基づく単位が好ましい。
【0069】
上記において、単位(B1)は構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位である。単位(B1)は、単位(B11)を50~100モル%含むことが好ましい。すなわち、単位(B1)は、単位(B11)以外の単位を50モル%以下の割合で含んでもよい。単位(B11)以外の単位としては、単位(B11)において、R6の代わりにR6以外の基、例えば、二官能(メタ)アクリレートに由来するカルボニル基を有する単位が挙げられる。単位(B1)における、単位(B11)の割合は75~100モル%が好ましく、全て(100モル%)が単位(B11)であるのが特に好ましい。以下、単位(B1)の基となる単量体を(メタ)アクリレート(B1)という。
【0070】
単位(B1)、単位(B2)および単位(B3)をまとめて単位(B)という。また、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位としては、下記式(A)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位が挙げられる。さらに、その他の(メタ)アクリレートに基づく単位としては、下記式(C)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位が挙げられる。
【0071】
【0072】
ただし、式(B11)、式(B2)、式(B3)、式(A)、式(C)中の記号は以下のとおりである。
式(B11)、式(B2)、式(B3)、式(A)、式(C)中、Rは水素原子またはメチル基である。
式(B11)中、Q3は単結合または2価有機基であり、n2は1~300の整数であり、R6は水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。n2は、好ましくは1~100、より好ましくは1~20である。
【0073】
式(B2)中、Q4は2価有機基であり、R1~R3はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式(B3)中、Q5は2価有機基であり、R4およびR5はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、X-は基3-1または基3-2であり、bは1~5の整数である。
【0074】
式(A)中、Q2は2価有機基であり、R7およびR8はそれぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数であり、R7およびOR8が複数存在する場合、R7およびR8はそれぞれ同一であっても異なってもよい。R7、R8、およびtは、好ましい態様は上記式5の場合と同様である。
式(C)中、R10は、水素原子、または、生体親和性部位およびアルコキシシリル基を有しない一価有機基である。R10は、水素原子または炭素原子数1~100のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~20のアルキル基がより好ましい。
【0075】
Q2、Q4、Q5は、炭素数2~10の、炭素原子-炭素原子間に、エーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基に置換されていてもよい2価炭化水素基が好ましい。
Q2は、-C2H4-、-C3H6-、-C4H8-が好ましく、-C3H6-、-C4H8-がより好ましく、-C3H6-がさらに好ましい。
Q4およびQ5は、それぞれ独立して、-C2H4-、-C3H6-、-C4H8-が好ましく、-C2H4-、-C3H6-がより好ましく、-C2H4-がさらに好ましい。
Q3は、例えば、単結合または、-O-Q6-であり、Q6はQ2と同様である。Q3は単結合が好ましい。
【0076】
以下に、単位(A)、単位(B11)、単位(B2)、単位(B3)、単位(C)の原料となる(メタ)アクリレートを例示する。なお、(メタ)アクリレート(B1)、(メタ)アクリレート(B2)および(メタ)アクリレート(B3)をまとめて(メタ)アクリレート(B)という。以下の(メタ)アクリレートの説明において、符号の意味はすべて上記と同じである。また、-C(=O)O…は、-COO…と示す。
【0077】
(メタ)アクリレート(A)は、CH2=CR-COO-Q2-Si(R7)3-t(OR8)tであり、CH2=CR-COO-Q2-Si(OR8)3が好ましく、CH2=CR-COO-(CH2)3-Si(OCH3)3、CH2=CR-COO-(CH2)3-Si(OC2H5)3が特に好ましい。
【0078】
(メタ)アクリレート(B11)は、CH2=CR-CO-Q3-O-(CH2CH2O)n2-R6であり、CH2=CR-COO-(CH2CH2O)n2-R6(n2=1~300、R6はHまたはCH3である。)が好ましい。n2はさらに好ましくは1~20である。
【0079】
(メタ)アクリレート(B2)は、CH2=CR-COO-Q4-(PO4
-)-(CH2)a-N+R1R2R3であり、CH2=CR-COO-(CH2)2-(PO4
-)-(CH2)2-N+(CH3)3が好ましい。
(メタ)アクリレート(B3)は、CH2=CR-COO-Q5-N+R4R5-(CH2)b-X-であり、CH2=CR-COO-(CH2)2-N+(CH3)2-CH2-COO-が好ましい。
【0080】
(メタ)アクリレート(C)は、CH2=CR-COO-R10であり、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等が挙げられる。
【0081】
上記(メタ)アクリレート共重合体としては、例えば、下記式(X21)で示される共重合体(X21)が挙げられる。
【0082】
【0083】
ただし、式(X21)において、R1~R6、X-およびa、bは、式1~式4におけるのと同様である。R1~R3は、独立にメチル基が好ましく、R4およびR5は独立にメチル基が好ましい。R6はメチル基または水素原子が好ましい。a、bはそれぞれ独立に2が好ましい。
n2は1~300の整数であり、好ましくは1~100、より好ましくは1~20である。R7、R8、およびtは、好ましい態様を含めて上記式5の場合と同様である。
Rは各単位で独立に水素原子またはメチル基である。R10は、水素原子、または、生体親和性基およびアルコキシシリル基を有しない一価有機基である。R10は、水素原子または炭素原子数1~100のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~20のアルキル基がより好ましい。
共重合体(X21)は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0084】
Q2、Q4、Q5は、炭素数2~10の、炭素原子-炭素原子間に、エーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基に置換されていてもよい2価炭化水素基である。
Q2は、-C2H4-、-C3H6-、-C4H8-が好ましく、-C3H6-、-C4H8-がより好ましく、-C3H6-がさらに好ましい。
Q4およびQ5は、それぞれ独立して、-C2H4-、-C3H6-、-C4H8-が好ましく、-C2H4-、-C3H6-がより好ましく、-C2H4-がさらに好ましい。
Q3は、単結合または、-O-Q6-であり、Q6はQ2と同様である。Q3は単結合が好ましい。
【0085】
共重合体(X21)において、eは、共重合体の全単位数を100とした場合の、アルコキシシリル基を有する単位(以下、単位(A)という)の個数を示す。f、g、h、iは、同様に、構造1(4)を有する単位(以下、単位(B1)という)、構造2を有する単位(以下、単位(B2)という)、構造3を有する単位(以下、単位(B3)という)、および-(C-C(R)(C(=O)OR10))i-で示される単位(以下、単位(C)という)の、それぞれ共重合体の全単位数を100とした場合の個数を示す。以下、-C(=O)O-は、-COO-と示す。
【0086】
式(X21)においてe~iの割合を調整することにより、共重合体(X21)における生体親和性基およびアルコキシシリル基(-Si(R7)3-t(OR8)t)の含有量が調整できる。共重合体(X21)におけるe~iの割合は、組成物(Y)の固形分組成に応じて適宜調整される。共重合体(X21)における生体親和性基の含有量は、例えば、20~90質量%が好ましく、25~83質量%がより好ましく、30~83質量%がさらに好ましく、40~83質量%が特に好ましい。共重合体(X21)におけるアルコキシシリル基の含有量は、1~70質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、2~25質量%がさらに好ましく、2~15質量%が特に好ましい。
【0087】
共重合体(X21)としては、単位(A)および単位(B1)のみで構成される共重合体が好ましい。以下、単位(A)、単位(B1)、単位(B2)、単位(B3)、単位(C)の原料となる(メタ)アクリレートをそれぞれ、(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリレート(B1)、(メタ)アクリレート(B2)、(メタ)アクリレート(B3)、(メタ)アクリレート(C)という。また、(メタ)アクリレート(B1)、(メタ)アクリレート(B2)および(メタ)アクリレート(B3)をまとめて(メタ)アクリレート(B)という。以下の(メタ)アクリレートの説明において、符号の意味はすべて共重合体(X21)におけるのと同じである。
【0088】
(メタ)アクリレート(A)は、CH2=CR-COO-Q2-Si(R7)3-t(OR8)tであり、CH2=CR-COO-Q2-Si(OR8)3が好ましく、CH2=CR-COO-(CH2)3-Si(OCH3)3、CH2=CR-COO-(CH2)3-Si(OC2H5)3が特に好ましい。
【0089】
(メタ)アクリレート(B1)は、CH2=CR-CO-Q3-O-(CH2CH2O)n2-R6であり、CH2=CR-COO-(CH2CH2O)n2-R6(n2=1~300、R6はHまたはCH3である。)が好ましい。n2はさらに好ましくは1~20である。
【0090】
(メタ)アクリレート(B2)は、CH2=CR-COO-Q4-(PO4
-)-(CH2)a-N+R1R2R3であり、CH2=CR-COO-(CH2)2-(PO4
-)-(CH2)2-N+(CH3)3が好ましい。
(メタ)アクリレート(B3)は、CH2=CR-COO-Q5-N+R4R5-(CH2)b-X-であり、CH2=CR-COO-(CH2)2-N+(CH3)2-CH2-COO-が好ましい。
【0091】
(メタ)アクリレート(C)は、CH2=CR-COO-R10であり、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等が挙げられる。
【0092】
共重合体(X21)は、例えば、原料(メタ)アクリレートを、e~iが上記所定の割合となるように準備し、重合開始剤の存在下、従来公知の、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で共重合させることで得られる。
【0093】
なお、化合物(X2)において、生体親和性基およびアルコキシシリル基以外の構造の含有量は、非特異吸着量の低減及び耐水性の両立の観点から、15~55質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。化合物(X2)のMwは、製造容易性の観点から、1,000~1,000,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましい。化合物(X2)のMwは、サイズ排除クロマトグラフィーにより算出される。
【0094】
化合物(X2)は、さらにその部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(X2)を部分加水分解縮合物とする場合、後述のようにしてデバイス基材の表面に表面層を形成する際に支障をきたさない程度の粘度となるように、縮合度を適宜調整する。このような粘度の観点から部分加水分解縮合物のMwは、2,000~2,000,000が好ましく、30,000~300,000がより好ましい。以下の部分加水分解縮合物についても、Mwの好ましい範囲は同様である。
【0095】
化合物(X2)は、2種以上の化合物(X2)を、所望の割合で生体親和性基とアルコキシシリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。化合物(X2)は、また、化合物(X2)と生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物を、得られる部分加水分解縮合物が化合物(X)として所望の割合で生体親和性基とアルコキシシリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。
【0096】
化合物(X3)としては、例えば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートとアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレート、および、主鎖にポリオキシエチレン鎖を導入可能な化合物を必須とし、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートを含む原料化合物を共重合させた(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。なお、この場合、主鎖のポリオキシエチレン鎖は、構造4中の構造1ではないため、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートとして、構造4を有する(メタ)アクリレートを用いて、化合物(X3)中の全構造1に対する構造4中の構造1の割合が50モル%以上になるように調整する。また、原料化合物は、得られる(メタ)アクリレート共重合体が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位とアルコキシシリル基を含有するように、上記各原料化合物の含有量を調整する。
【0097】
化合物(X3)は、言い換えれば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位(ただし、構造4を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を必須とする)、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、および主鎖にポリオキシエチレン鎖を有する単位を所定の割合で含み、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートに基づく単位を含む共重合体が好ましい。
【0098】
化合物(X3)において、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位としては、上記単位(B)(ただし、単位(B11)を必須とする)が好ましく、単位(B11)がより好ましい。アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位としては単位(A)が好ましい。主鎖にポリオキシエチレン鎖を有する単位としては、下記式(B12)で示す単位が好ましい。その他の(メタ)アクリレートに基づく単位としては、単位(C)が好ましい。
【0099】
【0100】
ただし、式(B12)中、Q7およびQ8はそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。Q7およびQ8は炭素数2~10の、炭素原子-炭素原子間に、エーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基、またはシアノ基に置換されていてもよい2価炭化水素基が好ましい。Q7およびQ8は、-C(CH3)(COOC2H5)-、-C(CH3)(COOCH3)-、-C(CH3)(CN)-が好ましく、-C(CH3)(COOCH3)-、-C(CH3)(CN)-がより好ましく、-C(CH3)(CN)-がさらに好ましい。n3は、好ましくは40~200、より好ましくは40~140である。
【0101】
ここで、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)を有する共重合体(以下、共重合体(Z)ともいう。)は、本発明者が新たに作製した文献未記載の本発明の共重合体である。共重合体(Z)は、単位(B11)中および単位(B12)中に構造1を有する。単位(B11)中の構造1は構造4中の構造1であり、単位(B12)中の構造1は、構造4中の構造1ではない。共重合体(Z)のうちで、全構造1に対する構造4中の構造1の割合が50モル%以上に調整された共重合体は、化合物(X3)の範疇にあり、組成物(Y)に使用可能である。
【0102】
共重合体(Z)中の全構造1に対する構造4中の構造1の割合を50モル%以上に調整するには、共重合体中の単位(B12)由来の構造1のモル数より単位(B11)由来の構造1のモル数が多くなるように重合に用いる原料化合物の量を調整すればよい。
【0103】
共重合体(Z)は、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)以外に、単位(B2)、単位(B3)および単位(C)等の任意の単位を有してもよい。共重合体(Z)としては、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)のみからなる下記式(Z1)で表される共重合体(Z1)が好ましい。
【0104】
【0105】
式(Z1)において、e1は、共重合体(Z1)の全単位数を100とした場合の、単位(A)の個数を示す。f1、j1は、同様に、単位(B11)、単位(B12)の、それぞれ共重合体の全単位数を100とした場合の個数を示す。式(Z1)における、e1、f1、j1以外の符号は、上記に示したのと同じ意味を示す。共重合体(Z1)は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0106】
共重合体(Z1)を化合物(X3)として用いる場合、化合物(X3)の要件を満たすように、すなわち、1>f1/(f1+j1)≧0.5の関係になるように、好ましくは1>f1/(f1+j1)≧0.75の関係になるように、式(Z1)においてf1およびj1の割合を調整する。
【0107】
化合物(X3)における生体親和性部位の含有量は、例えば、20~90質量%が好ましく、25~83質量%がより好ましく、30~83質量%がさらに好ましく、40~83質量%が特に好ましい。化合物(X3)におけるアルコキシシリル基の含有量は、1~70質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、2~25質量%がさらに好ましく、2~15質量%が特に好ましい。共重合体(Z1)を化合物(X3)として用いる場合、e1、f1およびj1の割合を調整することで、共重合体(Z1)における生体親和性部位およびアルコキシシリル基(-Si(R7)3-t(OR8)t)の含有量が、化合物(X3)として用いるのに好ましい上記範囲に調整できる。
【0108】
共重合体(Z)は、例えば、(メタ)アクリレート(A)および(メタ)アクリレート(B11)を含む原料(メタ)アクリレート、および単位(B12)となる原料化合物を、所定の割合となるように準備し、重合開始剤の存在下、従来公知の、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で共重合させることで得られる。共重合体(Z)を化合物(3)として使用する際には、各単位の割合、例えば、共重合体(Z1)における、e1、f1、j1を適宜調整する。
【0109】
単位(B12)となる原料化合物としては、ポリオキシエチレン鎖を含み、両末端にラジカル重合性の基を有する化合物が特に制限なく挙げられる。また、単位(B12)となる原料化合物は、ポリオキシエチレン鎖と、アゾ基(-N=N-)等のラジカル発生部位を含む重合開始剤であってもよい。単位(B12)となる原料化合物が重合開始剤である場合、共重合体の主鎖に簡便にポリオキシエチレン鎖を導入できる点で好ましい。このような重合開始剤の例としては、ポリオキシエチレン鎖を有するアゾ系重合開始剤が例示できる。具体的には、下記式(PI)で示される化合物が例示でき、化合物(PI)としては、和光純薬社製VPE-0201等が挙げられる。
【0110】
【0111】
式(PI)中、n3は式(B12)中のn3と同様であり、n4は1~100の整数である。n4は、2~30が好ましく、3~20がより好ましい。
【0112】
なお、化合物(X3)、好ましくは、共重合体(Z1)からなる化合物(X3)において、生体親和性部位およびアルコキシシリル基以外の構造の含有量は、藻類の付着防止および耐水性の両立の観点から、15~55質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。化合物(X3)のMwは、製造容易性の観点から、1,000~1,000,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましい。共重合体(Z1)におけるMwも化合物(X3)のMwと同様にできる。化合物(X3)、共重合体(Z1)のMwは、サイズ排除クロマトグラフィーにより算出される。
【0113】
化合物(X3)は、さらにその部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(X3)を部分加水分解縮合物とする場合、後述のようにして水槽本体の表面に表面層を形成する際に支障をきたさない程度の粘度となるように、縮合度を適宜調整する。このような粘度の観点から部分加水分解縮合物のMwは、2,000~2,000,000が好ましく、30,000~300,000がより好ましい。以下の部分加水分解縮合物についても、Mwの好ましい範囲は同様である。
【0114】
化合物(X3)は、2種以上の化合物(X3)を、所望の割合で生体親和性部位とアルコキシシリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。化合物(X3)は、また、化合物(X3)と生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物を、得られる部分加水分解縮合物が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位とアルコキシシリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。
【0115】
化合物(X)中の、生体親和性基の含有量が25~83質量%であり、アルコキシシリル基の含有量が2~70質量%である。上記生体親和性基の含有量が25質量%以上であることで、得られる表面層は非特異吸着量の低減効果を有する。上記生体親和性基の含有量が83質量%以下であることで耐水性を付与できる。化合物(X)中の、生体親和性基の含有量は、30~83質量%が好ましく、40~83質量%がより好ましい。また、化合物(X)中の上記アルコキシシリル基の含有量が2質量%以上であることで、得られる表面層は耐久性、例えば、耐水性を有する。上記アルコキシシリル基の含有量が70質量%以下であることで十分な量の生体親和性基を導入することができる。化合物(X)中のアルコキシシリル基の含有量は、2~40質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
【0116】
化合物(X)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。化合物(X)を2種以上用いる場合には、化合物(X1)のみで2種以上を構成する、または化合物(X2)のみで2種以上を構成することが好ましい。化合物(X)のみを使用する場合、化合物(X)は、生体親和性基の含有量および、アルコキシシリル基の含有量が上記所定の範囲となるように選択される。
【0117】
本発明の第1の態様の医療用デバイスは、デバイス基材の水が接する表面に上記化合物(X)を用いて表面層を形成することで得られる。
【0118】
表面層を形成するデバイス基材の表面は上に説明したとおりである。表面層を形成する方法としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等のドライコーティングまたはウェットコーティングが挙げられ、ウェットコーティングが好ましい。
【0119】
表面層の形成をウェットコーティングで行う場合には、表面層は、上記化合物(X)と液状媒体とを含む組成物(Y)を用いて形成することで得られる。液状媒体は、化合物(X)からなる固形分を均一に溶解または分散可能できるものであればよく、公知の各種の液状媒体から適宜選択できる。液状媒体は、表面層の形成に際して、最終的には除去される必要があるため、その沸点は60~160℃の範囲にあることが好ましく、60~120℃がより好ましい。
【0120】
液状媒体として、具体的には、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類等が好ましい。上記沸点の条件を満足する液状媒体として、具体的には、イソプロピルアルコール、エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2-ブタノン、酢酸エチル等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0121】
液状媒体は、化合物(X)が加水分解反応するための水を含有することができるが、貯蔵安定性の観点からは水を含有しないことが好ましい。ただし、液状媒体が水を含有しない場合でも、化合物(X)は大気中の水分により加水分解反応が可能であるため、液状媒体における水の含有は必須ではない。
【0122】
組成物(Y)は、液状媒体を50~99.5質量%含むことが好ましく、65~99質量%含むことがより好ましく、70~99質量%含むことがさらに好ましい。
【0123】
組成物(Y)は、化合物(X)以外のその他成分を含有してもよい。その他成分としては、表面層に固形分として含有される化合物(X)以外のその他の固形分が挙げられる。
【0124】
その他の固形分は、化合物(X)と同様に硬化する成分であってもよく、非硬化性の成分であってもよい。その他の固形分としては、化合物(X)の製造過程で用いた原料や副生成物のうち除去しきれなかった不純物、機能性の添加剤、触媒等が挙げられる。機能性の添加剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0125】
なお、その他の固形分は、得られる表面層が後述するTOC溶出量の範囲を満足できる固形分であるのが好ましい。その他の固形分は、具体的には、化合物(X)と加水分解縮合が可能な成分が好ましく、化合物(X)以外の加水分解性シリル基含有成分、さらにはアルコキシシリル基含有成分がより好ましい。TOC溶出量を低減するとともに、非特異吸着量低減効果の耐久性を向上させる点で、組成物(Y)は化合物(X)以外の生体親和性基含有成分を含有しないことが好ましく、特に好ましくは、組成物(Y)は、化合物(X)以外の固形分を含有しない。
【0126】
触媒としては、アルコキシシリル基の加水分解縮合反応に用いる従来公知の触媒が特に制限なく用いられる。具体的には、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、メタンスルホン酸もしくはp-トルエンスルホン酸等のスルホン酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基、またはアルミ系、チタン系の金属触媒が挙げられる。
【0127】
化合物(X)として、化合物(X1)を用いる場合には、その他の固形分として、生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物を用いてもよい。生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物としては、上記化合物6が好ましい。生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物を部分加水分解縮合物とする場合には、そのMwは100~100,000が好ましく、100~10,000がより好ましい。
【0128】
組成物(Y)が、固形分として化合物(X1)と、生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物を含有する場合、化合物(X1)と生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物の合計における、生体親和性基の含有量は25~83質量%であり、アルコキシシリル基の含有量が2~70質量%であるのが好ましい。すなわち、固形分としてこれら以外の、生体親和性基および/またはアルコキシシリル基を有する化合物を含有しないことが好ましい。この場合、化合物(X1)100質量部に対する生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物の割合は、50~200質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましい。
【0129】
化合物(X)として、化合物(X1)を用いる場合には、全固形分中の化合物(X1)、生体親和性基を有しないアルコキシシラン化合物および触媒以外のその他の固形分の含有量は、合計で40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0130】
化合物(X)として、化合物(X2)を用いる場合にも、必要に応じて化合物(X2)以外のアルコキシシラン化合物を用いてもよい。化合物(X)として、化合物(X2)を用いる場合には、全固形分中の化合物(X2)および触媒以外のその他の固形分の含有量は、合計で40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0131】
組成物(Y)中の固形分濃度は、0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。固形分濃度が上記範囲内であると、組成物(Y)を用いてウェットコーティングで形成される表面層の膜厚が、非特異吸着量の低減効果とその耐久性を十分に発揮できる好適な範囲内となりやすい。組成物(Y)の固形分濃度は、組成物(Y)を80℃3時間の真空乾燥した後の質量と、加熱前の組成物(Y)の質量とから算出できる。組成物(Y)の製造時に配合される全固形分と液状媒体の量から算出してもよい。
【0132】
組成物(Y)の製造方法は特に限定されない。化合物(X)、その他の固形分および液状媒体を、上記含有量となるように混合すればよい。組成物(Y)にあっては、上記に説明したとおり、化合物(X)中の生体親和性基の含有量が25~83質量%であり、アルコキシシリル基の含有量が2~70質量%であるため、組成物(Y)を用いてデバイス基材の表面に形成される硬化物からなる表面層は、非特異吸着量が低減され、かつその耐久性、特に耐水性に優れる。
【0133】
ウェットコーティングにより表面層を形成する方法としては、デバイス基材の所定の表面に、上記で説明した液状媒体を含む組成物(Y)を塗布し塗膜を得ること(以下、「塗布工程」ともいう。)、および該塗膜を硬化して表面層を得ること(以下、「硬化工程」ともいう。)を含む方法が挙げられる。
【0134】
塗布工程における、組成物(Y)のデバイス基材表面への塗布方法としては、例えばディップコート法、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0135】
硬化工程における、塗膜の硬化方法としては、加熱が好ましい。加熱温度は、化合物(X)を含むアルコキシシリル基含有成分の種類によるが、50~150℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。なお、硬化工程においては、通常、液状媒体の除去も同時に行う。したがって、加熱温度は、液状媒体の沸点以上の温度が好ましい。ただし、デバイス基材の材質等によって加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して液状媒体の除去を行う。
【0136】
ウェットコーティングによる表面層の形成においては、必要に応じて塗布工程、乾燥工程以外の工程処理を有してよい。例えば、組成物(Y)が水を含有しない場合、硬化工程と同時、または、硬化工程の前、後に、加湿等の処理を行ってもよい。
【0137】
また、表面層形成後、表面層中の化合物であって余剰の化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、例えば、表面層に溶剤、例えば組成物(Y)の液状媒体として用いた化合物をかけ流す方法や、溶剤、例えば組成物(Y)の液状媒体として用いた化合物をしみ込ませた布でふき取る方法が挙げられる。
【0138】
表面層の厚さは、10~100,000nmが好ましく、10~10,000nmが特に好ましい。表面層の厚さが上記範囲の下限値以上であれば、十分な非特異吸着量の低減効果及びその耐久性、特に耐水性が発現しやすい。表面層の厚さが上記範囲の上限値以下であれば、強度が優れる。表面層の厚さは、リガク社ATX-Gに代表されるX線反射率測定装置での測定により求められる。
【0139】
表面層は、40℃の水に7日間浸漬した場合に、表面層の単位面積1cm2当たりの水に対する全有機炭素(TOC;Total Organic Carbon)の溶出量(以下、「TOC溶出量」ともいう。)が10mg/L以下であるのが好ましい。TOC溶出量は、言い換えれば、面積1cm2の表面層を40℃の水1Lに7日間浸漬した際に、水に溶出するTOCの質量[mg]である。表面層から構成成分が溶出すると、医療用デバイスを用いた生体由来物質の分析などに影響を及ぼすことがあるため、TOC溶出量が1mg/L以下であるのがより好ましく、0.5mg/L以下がさらに好ましく、0.3mg/L以下が特に好ましい。
【0140】
TOCとは、有機物の全量を炭素の量で示したものである。本明細書において、表面層TOC溶出量は、具体的には、次のようにして測定できる。表面層を所定量の水に40℃で7日間浸漬した後の処理水のTOC濃度[mg/L]を測定する。浸漬に使用する水は、蒸留水またはイオン交換水とする。上記で得られたTOC濃度を浸漬した表面層の面積(単位;cm2)で除すことで、TOC溶出量[mg/L]が得られる。水中のTOC濃度測定は、一般的なTOC計、例えば、TNC-6000(東レエンジニアリング社製)で行える。
【0141】
なお、TOC溶出量の測定に用いる表面層の試料としては、剥離性の基材上に表面層を作製し、剥離して得られる表面層単体を用いてもよく、上記条件(40℃、7日間)においてTOC溶出量が0[mg/L]の基材上に表面層を形成した、表面層付き基材を用いてもよい。
【0142】
本発明が対象とする医療用デバイスは、治療、診断、解剖学または生物学的な検査等の医療用として用いられるデバイスであり、人体等の生体内に挿入あるいは接触させる、または生体から取り出した媒体(血液等)と接触する如何なるデバイスも含む。医療用デバイスの具体例としては、例えば、医薬品、医薬部外品、医療用器具等が挙げられる。医療用器具としては、特に限定されず、細胞培養容器、細胞培養シート、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、包装材等が挙げられる。
【0143】
本発明の医療用デバイスは、上記で説明した生体親和性基とアルコキシシリル基とを有する化合物の硬化物からなる表面層を有しているため、非特異吸着量が低減されるとともに、その耐久性に優れ、表面層からの溶出物が低減される。そのため、例えば、マイクロ流路チップやバイオチップなどの検出デバイスとして長期間使用した場合にも、優れた検出精度を維持することができる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。「%」は、特に規定のない限り、「質量%」を示す。例1~6、例13~14が実施例、例7~12が比較例である。
【0145】
(化合物(X)の合成、準備)
<化合物(X1)>
化合物(X1)に分類される化合物および比較例用の生体親和性基を有しない化合物を以下のとおり合成または準備した。
【0146】
化合物(X11-1);以下に構造を示す化合物(X11-1)、すなわち、2-[メトキシ(ポリオキシエチレン)9-12プロピル]トリメトキシシランとして、市販品、SIM6492.72(商品名、Gelest社製)を準備した。化合物(X11-1)は、化合物(X11)の末端水素原子がメチル基に置換され、n1が9~12、Q1が-C3H6-、tが3、R8がメチル基の化合物である。
【0147】
【0148】
化合物(X11-2);化合物(X11-1)においてオキシエチレン基の繰り返し数が6~9である以外は同じ分子構造の化合物(X11-2)、すなわち、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)6-9プロピル]トリメトキシシランとして、市販品、SIM6492.7(商品名、Gelest社製)を準備した。
【0149】
化合物(X12-1);以下に構造を示す化合物(X12-1)は、化合物(X12)において、n1が7~8、Q1が-CONHC3H6-、tが3、R8がエチル基の化合物であり、次の方法で合成した。
【0150】
【0151】
300mLナス型フラスコに、n1が7~8のポリオキシエチレングリセリルエーテル(表1中、「ポリオキシエチレンポリオールA」と示す。)263g(259mmol)、KBE-9007(信越シリコーン社製、製品名、トリエトキシシリルプロピルイソシアネート)64.1g(259mmol)を加えた。続いて、得られた混合物に対して1質量%のトリエチルアミン3.27g(32.4mmol)を加え、その後80℃で16時間撹拌した。続いて、得られた反応混合物をロータリーエバポレーターによって加熱減圧し、トリエチルアミンを除去して無色透明液体として化合物(X12-1)を得た。収量は327g、収率は100%であった。
【0152】
化合物(Cf1);化合物(Cf1)として(3-メトキシプロピル)トリメトキシシラン(CH3-O-(CH2)3-Si(OCH3)3)、市販品、SIM6493.0(商品名、Gelest社製))を準備した。
【0153】
化合物(X12-1)の合成に用いたポリオキシエチレンポリオールの種類およびポリオキシエチレンポリオールに対するKBE-9007の添加量(当量)、および、上記各化合物における、Mw、基1(4)における(CH2CH2O)の繰り返し数(n1)、基1が基4中の基1である割合(モル%)、化合物中の生体親和性基(基1(4))の割合(質量%))、アルコキシシリル基の割合(質量%)を表1に示す。
【0154】
【0155】
<単量体略号>
(1)単量体(A)
KBM-503;信越シリコーン社製、製品名、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(CH2=C(CH3)-COO-(CH2)3-Si(OCH3)3)
KBM-5103;信越シリコーン社製、製品名、トリメトキシシリルプロピルアクリレート(CH2=CH-COO-(CH2)3-Si(OCH3)3)
【0156】
(2)単量体(B1)
AME-400;ブレンマーAME-400(日油社製、商品名、CH2=CH-COO-(CH2CH2O)9-CH3)
HEMA;CH2=C(CH3)-COO-CH2CH2O-H
HEA;CH2=CH-COO-CH2CH2O-H
【0157】
[製造例1]
500mL3つ口フラスコに、HEMAの57.0g(438mmol)、KBM-503の3.00g(12.1mmol)、1-メトキシ-2-プロパノールの119g、ジアセトンアルコールの21g、および2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチルの600mg(2.61mmol)を加えた。反応液中の単量体の濃度を30質量%、開始剤濃度を1質量%とした。続いて、得られた混合物を75℃、窒素雰囲気下で16時間撹拌し、室温まで空冷し無色透明液体(共重合体(X21-1)を30質量%含む溶液)を得た。収量は200g、収率は100%であった。
【0158】
[製造例2~4]
製造例1において、単量体組成を表2に示すとおりに変更した以外は同様にして、(共重合体(X21-2)、(X21-3)を製造した。また、生体親和性基を有する単量体の単独重合体(M)を製造した。
【0159】
製造例1~4で得られた化合物(共重合体)における、Mw、基1(4)における(CH2CH2O)の繰り返し数(n2)、化合物中の生体親和性基(基1(4))の割合(質量%))、アルコキシシリル基の割合(質量%)を表2に示す。
【0160】
[製造例5]
500mL3つ口フラスコに、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(東京化成工業社製)を8.85g(30.0mmol)、ブチルメタクリレート(東京化成工業社製)を9.94g(70.0mmol)をエタノールの43.6gに溶解させた。そこに、重合開始剤として2、2-アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)0.18g(1.14mmol)加えた。反応液中の単量体の濃度を30質量%、開始剤濃度を1質量%とした。続いて、得られた混合物を75℃、窒素雰囲気下で16時間撹拌し、室温まで空冷し反応溶液をジエチルエーテル中に滴下し、沈殿を収集することにより白色固体のポリマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン/ブチルメタクリレート(MPC/BMA)共重合体)を得た。
【0161】
【0162】
[例1]
洗浄した縦23mm、幅25mm、厚さ3mmのガラス板(旭硝子社製、商品名:FL3、透明フロート・ソーダライムガラス)の表面に、化合物(X11-1)を真空蒸着(背圧3.4×10-4Pa、基板温度25℃)することにより、膜厚2nmの表面層を形成して、表面層付きガラス板を得た。
【0163】
[例2]
例1において、化合物(X11-1)の代わりに化合物(X11-2)を用いた以外は同様にして、表面層付きガラス板を得た。
【0164】
[例3]
共重合体(X21-1)を含む溶液(固形分濃度:30質量%)を1-メトキシ-2-プロパノールとジアセトンアルコールと0.1質量%硝酸水溶液を質量比51:9:40で混合した溶媒に、固形分濃度10質量%になるように添加し、50℃、16時間撹拌して、共重合体(X21-1)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物を得た。得られた部分加水分解縮合物のMwを表2に示す。さらに、この液状組成物を、固形分濃度が1.0質量%となるように、メトキシプロパノールとジアセトンアルコールの85:15(質量比)の混合溶媒に溶解させ、表面層形成用組成物とした。
【0165】
例1と同様のガラス板の表面に、上記で得られた表面層形成用組成物を用いてディップコート法により、表面層形成用組成物の塗膜を形成した。次いで、これを、150℃の熱風循環オーブンで1時間乾燥して、膜厚1.8nmの表面層を形成して、表面層付きガラス板を得た。
【0166】
[例4、5、6]
例3において、共重合体(X21-1)を、共重合体(X21-2)、共重合体(X21-3)、または化合物(X12-1)に変えた以外は、同様にして、表面層付きガラス板を得た。なお、共重合体(X21-2)、共重合体(X21-3)、または化合物(X12-1)の部分加水分解縮合物のMwを表2または表1に示す。
【0167】
[例7]
単独重合体(M)を固形分濃度が1.0質量%となるように、メトキシプロパノールとジアセトンアルコールの85:15(質量比)の混合溶媒に溶解させ、表面層形成用組成物とした。得られた表面層形成用組成物を用いて、例3と同様にして表面層付きガラス板を得た。
【0168】
[例8]
例3において、共重合体(X21-1)を、化合物(Cf1)に変えた以外は、同様にして表面層付きガラス板を得た。なお、化合物(Cf1)の部分加水分解縮合物のMwを表1に示す。
【0169】
[例9]
リン酸緩衝液で1.0mg/mLに希釈したアルブミン(BSA、Sigma‐Aldrich社製)溶液に例1と同様のガラス板を室温下で16時間放置して表面層付きガラス板を得た。
【0170】
[例10]
製造例5で得られたMPC/BMA共重合体を固形分濃度10質量%になるようにエタノールに溶解させて、塗工液を得た。例1と同様のガラス板に、得られた塗工液をディップ方式でコーティングし、25℃で15分間放置後した。これにより、表面層付きガラス板を得た。
【0171】
[例11]
50mLのバイアル瓶に、KBM-503(信越化学社製)0.16g、メタノール2.88gとあらかじめpH3に調整した酢酸水溶液0.96gを加え室温で2時間撹拌させ加水分解を行った。その後さらにイソプロピルアルコール12.0g加えて、塗工液を作製した。例1と同様のガラス板に、本例で得られた塗工液をディップ方式でコーティングし、25℃で15分間放置後、120℃で1時間硬化させ、コーティング付きのガラス板を得た。
【0172】
[例13、14]
(共重合体(Z1)の製造)
化合物(3)の要件を満たす共重合体(Z1)として、共重合体(X3-1)および共重合体(X3-2)を以下のとおり製造した。
【0173】
(共重合体(X3-1))
500mL3つ口フラスコに、HEMAを45.0g(346mmol)、KBM-503を3.00g(12.1mmol)、1-メトキシ-2-プロパノールを119g、ジアセトンアルコールを21g、および、VPE-0201(和光純薬社製)を重合開始剤として12g(アゾ基として5.4mmol)加えた。続いて、得られた混合物を80℃、窒素雰囲気下で16時間撹拌し、室温まで空冷し無色透明液体(下記式(X3-Z1)で示す共重合体(X3-Z1)において、f1が95、e1が3、j1が2である共重合体(X3-1)を30質量%含む溶液)を得た。収量は200g、収率は100%であった。
【0174】
得られた無色透明液体を用いて例3と同様にして、共重合体(X3-1)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物を得た。該液状組成物をそのまま表面層形成用組成物13として用いた。
【0175】
【0176】
共重合体(X3-1)において、Mwは28500、得られた部分加水分解縮合物のMwは52100、構造1における構造4中の構造1である割合は98モル%、生体親和性部位(構造1)の割合は52.3質量%、アルコキシシリル基の割合は2.4質量%である。
【0177】
(共重合体(X3-2))
上記(共重合体(X3-1)の製造において、HEMAの質量を42.0g、KBM-503の質量を6.0gに変更したこと以外は同様にして、共重合体(X3-Z1)において、f1が91、e1が7、j1が2である共重合体(X3-2)を、無色透明液体(共重合体(X3-2)を30質量%含む溶液)として製造した。収量は200g、収率は100%であった。得られた無色透明液体を用いて例3と同様にして、共重合体(X3-2)の部水分解縮合物を含む液状組成物を得た。該液状組成物をそのまま表面層形成用組成物14として用いた。
【0178】
共重合体(X3-2)において、Mwは29600、得られた部分加水分解縮合物のMwは54600、構造1における構造4中の構造1である割合は98モル%、生体親和性部位(構造1)の割合は50.0質量%、アルコキシシリル基の割合は4.9質量%である。
【0179】
(表面層付きガラス板13、14の作製)
得られた表面層形成用組成物13、14をそれぞれ用いて、例3と同様に行い、表面層付きガラス板を得た。
【0180】
エタノールで3質量%に調整されたアクリルアミド(東京化成工業社製)を上記で得られたコーティング付きのガラス板に塗工液をディップ方式でコーティングし110℃で加熱することでアクリルアミドを重合させ、表面層付きガラス板を得た。
【0181】
(細胞非接着性)
各例の表面層付きガラス板及び表面層を有しないガラス板(例12)をそれぞれ、50ccのガラスバイアル瓶に入れ、さらにIPAを10cc加えて超音波で10分洗浄を行った。IPAを吸引した後、同様にエタノールを10cc入れ超音波で10分洗浄行い、乾燥させることで評価用基板を準備した。
【0182】
得られた洗浄済みの23mm×25mmの評価用基板を35mmφのポリスチレン製シャーレ(1000-035:ATGテクノグラス社製)に設置し、16時間クリーンベンチでUV照射滅菌を行った。
【0183】
播種時の細胞生存割合が97%以上であることが確認されたTIG-3細胞が3mLあたり13万細胞になるように、10%FBSが添加されたMEMを培地として用いて、細胞懸濁液の調製を行った。細胞懸濁液の3mLを上記評価用基板が設置されたシャーレに分注することで細胞を播種し37℃のインキュベーターで24時間培養した。その後、観察領域を1.8mm×1.3mmの範囲として、3箇所の観察領域において、顕微鏡観察(10倍)を行い細胞の伸展の有無で接着の判定を以下の基準で行った。なお、細胞が評価用基板に対して楕円状または正円状に広がっている状態を細胞の伸展と定義する。
【0184】
「○」;全ての箇所の観察領域に細胞が付着していない。
「△」;少なくとも1箇所の観察領域において、その一部に細胞が付着している。
「×」;全箇所について観察領域の略全体に細胞が付着している。
【0185】
(溶出量測定)
上記で得られた各例の表面層付きガラス板又は例12の表面層を有しないガラス板をそれぞれ、100mLのガラス製バイアル瓶に蒸留水6.4mLとともに入れ7日間40℃で静置してTOCを溶出させた。得られた溶出液の、TOC濃度[mg/L]をTOC計TNC-6000(東レエンジニアリング社製)により測定し、上記検体の面積(5.75cm2)で除して表層の単位面積1cm2当たりのTOC溶出量[mg/L]を算出した。ガラス板からのTOC溶出量は0mg/Lであることから、得られたTOC溶出量は、表層からのTOC溶出量を意味する。
【0186】
(細胞非接着性の耐久性)
上記溶出量測定後のガラス板を蒸留水から取り出して、上記と同様に細胞非接着性を評価した。
【0187】
【0188】
表3より、実施例(例1~6、例13~14)の表面層を形成したガラス板では、比較例(例8~12)の表面層を形成したガラス板に比べて、細胞非接着性に優れており、非特異吸着量が低減されたことがわかる。また、非特異吸着性の耐久性に優れ、TOC溶出量も少ないことがわかる。
なお、2018年04月10日に出願された日本特許出願2018-075271号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。