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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20221213BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20221213BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020563094
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049119
(87)【国際公開番号】W WO2020137647
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018244360
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018244362
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】北原 賢
(72)【発明者】
【氏名】片野 智一
(72)【発明者】
【氏名】北原 江梨子
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193809(JP,A)
【文献】特開2018-039702(JP,A)
【文献】特開2010-105880(JP,A)
【文献】特開2004-107163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/10
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部とをつなぐコーナー部とを有する石英ガラスルツボであって、
気泡を含まない石英ガラスからなる透明層と、
多数の気泡を含む石英ガラスからなり前記透明層の外側に形成された気泡層と、
前記気泡層の外側に形成され、原料シリカ粉が不完全に溶融した状態で固化した半溶融層とを備え、
前記側壁部の赤外線透過率に対する前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率の比が0.3以上0.99以下であり、
前記底部の中心から前記側壁部の上端に向かう前記ルツボの壁面に沿った高さ方向の赤外線透過率の変化率の絶対値が3%/cm以下であり、
前記赤外線透過率は、前記半溶融層を除去した状態で測定された値であることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率が25%以上51%以下である、請求項1に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項3】
前記底部の中心から前記側壁部の上端に向かう前記ルツボの壁面に沿った高さ方向の気泡層の厚さの変化率の絶対値が2.5mm/cm以下である、請求項1又は2に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項4】
前記ルツボの口径が32インチであり、
前記コーナー部の最大肉厚が19mm以上30mm以下であり、
前記コーナー部の肉厚最大位置における前記気泡層の厚さが18mm以上29mm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項5】
前記コーナー部の肉厚最大位置における前記気泡層の気泡含有率が0.1vol%よりも大きく5vol%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項6】
前記側壁部における前記気泡層の厚さは当該側壁部における前記透明層よりも厚く、
前記コーナー部における前記気泡層の厚さは当該側壁部における前記透明層よりも厚い、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項7】
円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部とをつなぐコーナー部とを有する石英ガラスルツボであって、
気泡を含まない石英ガラスからなる透明層と、
多数の気泡を含む石英ガラスからなり前記透明層の外側に形成された気泡層と、
前記気泡層の外側に形成され、原料シリカ粉が不完全に溶融した状態で固化した半溶融層とを備え、
前記側壁部の赤外線透過率に対する前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率の比が0.3以上0.99以下であり、
前記底部の中心から前記側壁部の上端に向かう前記ルツボの壁面に沿った高さ方向の気泡層の厚さの変化率の絶対値が2.5mm/cm以下であり、
前記赤外線透過率は、前記半溶融層を除去した状態で測定された値であることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項8】
前記ルツボの口径が32インチであり、
前記コーナー部の最大肉厚が19mm以上30mm以下であり、
前記コーナー部の肉厚最大位置における前記気泡層の厚さが18mm以上29mm以下である、請求項7に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項9】
前記コーナー部の肉厚最大位置における前記気泡層の気泡含有率が0.1vol%よりも大きく5vol%以下である、請求項7又は8に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項10】
前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率が25%以上51%以下である、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項11】
前記側壁部における前記気泡層の厚さは当該側壁部における前記透明層よりも厚く、
前記コーナー部における前記気泡層の厚さは当該側壁部における前記透明層よりも厚い、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の石英ガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボに関し、特に、チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造に用いられる石英ガラスルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法によるシリコン単結晶の製造では石英ガラスルツボが用いられている。CZ法では、シリコン原料を石英ガラスルツボ内で加熱して溶融し、このシリコン融液に種結晶を浸漬し、ルツボを回転させながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を成長させる。半導体デバイス用の高品質なシリコン単結晶を低コストで製造するためには、一回の引き上げ工程での単結晶化率を高める必要があり、そのためには長時間使用してもシリコン融液を安定的に保持することができるルツボが必要となる。
【0003】
石英ガラスルツボに関し、例えば特許文献1には、シリコン単結晶引上げ時にルツボの変形が少なく、シリコンの対流に対して悪影響を与えることがなく、高い単結晶化率を達成することが可能なシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボが記載されている。この石英ガラスルツボは、その厚さが全域に亘って均一であり、かつ、周壁部における透明層がコーナー部の透明層よりも厚く形成されている。
【0004】
また特許文献2には、大型のシリコン単結晶の引き上げにおいても、溶融シリコンの局所的な温度のばらつきを抑制して、均質なシリコン単結晶を製造するため、ルツボ内表面側から外表面側に向けて、気泡含有率が0.3%未満の透明層、気泡含有率が0.3%~0.6%の半透明層、および気泡含有率が0.6%超の不透明層を有するシリコン単結晶引上用石英ガラスルツボが提案されている。
【0005】
また特許文献3には、ルツボの保温性を損なわずに酸素濃度が高い単結晶の収率を高めることが可能なシリコン単結晶引上げ用石英ルツボが記載されている。この石英ルツボは、壁体の内表面側が透明ガラス層からなり、壁体の外表面側が不透明ガラス層からなり、該ルツボの周壁部と底部をつなぐコーナー部における透明ガラス層の厚さが他の壁体部分の透明ガラス層よりも0.5mm以上厚く、コーナー部の不透明ガラス層の厚さが他の部分より0.5mm以上薄いことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-326889号公報
【文献】特開2010-105880号公報
【文献】特開平8-301693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリコン単結晶の引き上げ工程中、石英ガラスルツボの内面はシリコン融液と接触して徐々に溶損するため、CZ法により製造されるシリコン単結晶には石英ガラスルツボから供給される酸素が含まれている。近年、高集積半導体デバイス用のシリコン単結晶には9×1017~12×1017atoms/cm程度の低い酸素濃度を有することが求められている。またシリコン単結晶中の酸素濃度はシリコン単結晶の長手方向(引き上げ軸方向)及び径方向(断面方向)ともにできるだけ均一であることが望ましい。
【0008】
しかしながら、従来の石英ガラスルツボを用いて酸素濃度が低いシリコン単結晶引き上げようとする場合、シリコン単結晶の長手方向(引き上げ軸方向)の酸素濃度分布を均一にすることが難しく、特に図10に示すように、シリコン単結晶の長手方向の特定の部位(ここでは、結晶長さ(相対値)が0.44の位置で酸素濃度の急激な落ち込み(10%以上の低下))が大きな問題となっている。結晶引き上げ工程中に結晶引き上げ条件を調整することでシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度分布を調整することができるが、調整範囲にも限度があり、改善が望まれている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、酸素濃度が低く、長手方向の酸素濃度分布が安定したシリコン単結晶を引き上げることが可能な石英ガラスルツボを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による石英ガラスルツボは、円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部とをつなぐコーナー部とを有する石英ガラスルツボであって、気泡を含まない石英ガラスからなる透明層と、多数の気泡を含む石英ガラスからなり前記透明層の外側に形成された気泡層とを備え、前記側壁部の赤外線透過率に対する前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率の比が0.3以上0.99以下であり、前記底部の中心から前記側壁部の上端に向かう前記ルツボの壁面に沿った高さ方向の赤外線透過率の変化率の絶対値が3%/cm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ルツボのコーナー部の赤外線透過率を低くすることでコーナー部の内面の高温化によるルツボの溶損を抑えることができ、これによりルツボからシリコン融液への酸素供給量を抑えてシリコン単結晶の低酸素化を図ることができる。また、ルツボの底部から側壁部にかけて赤外線透過率の変化を緩やかにすることで、石英ガラスルツボの内面温度分布のばらつきを抑えることができ、シリコン単結晶の長手方向(結晶成長方向)の酸素濃度分布が特定の部位で急変することを抑制することができる。したがって、酸素濃度が低く、引き上げ軸方向の酸素濃度分布が安定したシリコン単結晶を引き上げることができる。
【0012】
本発明において、前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率は25%以上51%以下であることが好ましい。これによれば、従来よりもコーナー部の赤外線透過率を低くしてコーナー部の内面の過度な温度上昇を抑えることができる。したがって、ルツボからシリコン融液への酸素供給量を抑えて低酸素濃度のシリコン単結晶を製造することができる。
【0013】
本発明において、前記底部の中心から前記側壁部の上端に向かう前記ルツボの壁面に沿った高さ方向の気泡層の厚さの変化率の絶対値は2.5mm/cm以下であることが好ましい。これによれば、ルツボの壁面に沿った高さ方向の赤外線透過率の変化率の絶対値を3%/cm以下にすることができる。したがって、酸素濃度が低く、引き上げ軸方向の酸素濃度分布が安定したシリコン単結晶を製造することができる。
【0014】
また、本発明による石英ガラスルツボは、円筒状の側壁部と、底部と、前記側壁部と前記底部とをつなぐコーナー部とを有する石英ガラスルツボであって、気泡を含まない石英ガラスからなる透明層と、多数の気泡を含む石英ガラスからなり前記透明層の外側に形成された気泡層とを備え、前記側壁部の赤外線透過率に対する前記コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率の比が0.3以上0.99以下であり、前記底部の中心から前記側壁部の上端に向かう前記ルツボの壁面に沿った高さ方向の気泡層の厚さの変化率の絶対値が2.5mm/cm以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、ルツボのコーナー部の赤外線透過率を低くすることでコーナー部の内面の高温化によるルツボの溶損を抑えることができ、これによりルツボからシリコン融液への酸素供給量を抑えてシリコン単結晶の低酸素化を図ることができる。また、ルツボの底部から側壁部にかけて気泡層の厚さの変化を緩やかにすることで、赤外線透過率の変化を緩やかにすることができ、石英ガラスルツボの内面温度分布のばらつきを抑えることができる。したがって、シリコン単結晶の長手方向(結晶成長方向)の酸素濃度分布が特定の部位で急変することを抑制することができ、酸素濃度が低く、引き上げ軸方向の酸素濃度分布が安定したシリコン単結晶を引き上げることができる。
【0016】
本発明において、前記ルツボの口径は32インチであり、前記コーナー部の最大肉厚は19mm以上30mm以下であり、前記コーナー部の肉厚最大位置における前記気泡層の厚さは18mm以上29mm以下であることが好ましい。なおルツボの各部位の肉厚及び気泡層の厚さは、使用前のルツボを室温環境下で測定した値である。これによれば、コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率を25~51%にすることができ、これにより酸素濃度が低いシリコン単結晶を製造することができる。
【0017】
本発明において、前記コーナー部の肉厚最大位置における前記気泡層の気泡含有率は0.1vol%よりも大きく5vol%以下であることが好ましい。なおこの気泡含有率は、使用前のルツボを室温環境下で測定した値である。これによれば、コーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率を25%以上51%以下にすることができ、これにより酸素濃度が低いシリコン単結晶を製造することができる。
【0018】
本発明による石英ガラスルツボは、前記気泡層の外側に形成され、原料シリカ粉が不完全に溶融した状態で固化した半溶融層をさらに備え、前記赤外線透過率は、前記半溶融層を除去した状態で測定された値であることが好ましい。これによれば、実際の引き上げ工程にできるだけ近い状態でルツボの赤外線透過率を規定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸素濃度が低く、引き上げ軸方向の酸素濃度分布が安定したシリコン単結晶を引き上げることが可能な石英ガラスルツボを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略側面断面図である。
図2図2は、赤外線透過率比率と結晶酸素濃度平均との関係を示すグラフである。
図3図3は、結晶引き上げ工程中の石英ガラスルツボ及びシリコン融液の状態を示す模式図である。
図4図4は、外面に半溶融層が形成された石英ガラスルツボの断面図である。
図5図5(a)及び(b)は、石英ガラスルツボの半溶融層の状態変化を説明するための図であって、図5(a)は使用前の状態、図5(b)は使用中の状態をそれぞれ示している。
図6図6は、ルツボ片を用いた石英ガラスルツボの赤外線透過率測定方法を示すフローチャートである。
図7図7は、石英ガラスルツボの赤外線透過率測定方法を示す模式図である。
図8図8は、上述した赤外線透過率の評価方法を含む石英ガラスルツボの製造方法を示すフローチャートである。
図9図9は、回転モールド法による石英ガラスルツボの製造方法を説明するための模式図である。
図10図10は、従来の石英ガラスルツボを用いて引き上げられたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略側面断面図である。
【0023】
図1に示すように、石英ガラスルツボ1は、シリコン融液を支持するためのシリカガラス製の容器であって、円筒状の側壁部10aと、底部10bと、側壁部10aと底部10bとをつなぐコーナー部10cとを有している。底部10bは緩やかに湾曲したいわゆる丸底であることが好ましいが、いわゆる平底であってもよい。コーナー部10cは側壁部10aと底部10bとの間に位置し、底部10bよりも大きな曲率を有する部位である。
【0024】
石英ガラスルツボ1の口径は22インチ(約560mm)以上であることが好ましく、32インチ(約800mm)以上であることが特に好ましい。このような大口径のルツボは直径300mm以上の大型のシリコン単結晶インゴットの引き上げに用いられ、長時間使用しても単結晶の品質に影響を与えないことが求められるからである。近年、シリコン単結晶の大型化によるルツボの大型化及び引き上げ工程の長時間化に伴い、引き上げ軸方向の結晶品質が問題となっており、大型ルツボでは結晶品質の安定化が極めて重要な課題である。ルツボの肉厚はその部位によって多少異なるが、22インチ以上のルツボの側壁部10aの肉厚は7mm以上であることが好ましく、24インチ(約600mm)以上のルツボの側壁部10aの肉厚は8mm以上であることが好ましい。また、32インチ以上の大型ルツボの側壁部10aの肉厚は10mm以上であることが好ましく、40インチ(約1000mm)以上の大型ルツボの側壁部10aの肉厚は13mm以上であることが好ましい。
【0025】
石英ガラスルツボ1は二層構造であって、気泡を含まない石英ガラスからなる透明層11と、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなり、透明層11よりもルツボの外側に形成された気泡層12(不透明層)とを備えている。
【0026】
透明層11は、シリコン融液と接触するルツボの内面10iを構成する層であって、石英ガラス中の気泡が原因で単結晶化率が低下することを防止するために設けられている。透明層11の厚さは0.5~12mmであることが好ましく、単結晶の引き上げ工程中の溶損によって完全に消失して気泡層12が露出することがないよう、ルツボの部位ごとに適切な厚さに設定される。気泡層12と同様、透明層11はルツボの側壁部10aから底部10bまでのルツボ全体に設けられていることが好ましいが、シリコン融液と接触しないルツボの上端部(リム部)において透明層11の形成を省略することも可能である。
【0027】
透明層11は、気泡含有率が0.1vol%以下の石英ルツボの内側の部位である。透明層11が「気泡を含まない」とは、気泡が原因で単結晶化率が低下しない程度の気泡含有率及び気泡サイズを有することを意味する。ルツボの内面近傍に気泡が存在すると、ルツボの内面の溶損によってルツボ内面近傍の気泡を石英ガラス中に閉じ込めておくことができなくなり、結晶引き上げの際に石英ガラス中の気泡が熱膨張によって破裂することによってルツボ破片(石英片)が剥離するおそれがあるからである。融液中に放出されたルツボ破片が融液対流に乗って単結晶の成長界面まで運ばれて単結晶中に取り込まれた場合には、単結晶の有転位化の原因となる。またルツボ内面の溶損によって融液中に放出された気泡が固液界面まで浮上して単結晶中に取り込まれた場合にはピンホールの原因となる。透明層11の気泡の平均直径は100μm以下であることが好ましい。
【0028】
透明層11の気泡含有率及び気泡の直径は、特開2012-116713号公報に開示された方法により、光学的検出手段を用いて非破壊で測定することができる。光学的検出手段は、ルツボに照射した光の透過光又は反射光を受光する受光装置を備える。照射光の発光手段は受光装置に内蔵されたものでもよく、外部の発光手段を利用してもよい。また光学的検出手段はルツボの内面に沿って回動操作できるものが好ましく用いられる。照射光としては、可視光、紫外線及び赤外線のほか、X線もしくはレーザ光などを利用することができる。受光装置は、光学レンズ及び撮像素子を含むデジタルカメラを用いることができる。光学的検出手段による測定結果は画像処理装置に取り込まれ、単位体積当たりの気泡含有率が算出される。
【0029】
ルツボ表面から一定深さに存在する気泡を検出するには、光学レンズの焦点を表面から深さ方向に走査すればよい。詳細には、デジタルカメラを用いてルツボ内表面の画像を撮影し、ルツボ内表面を一定面積ごとに区分して基準面積S1とし、この基準面積S1ごとに気泡の占有面積S2を求め、面積気泡含有率Ps=(S2/S1)×100(%)が算出される。
【0030】
体積比による気泡含有率の算出では、画像を撮影した深さと基準面積S1から基準体積V1を求める。さらに気泡を球状とみなして、気泡の直径から気泡の体積V2を算出する。そしてV1,V2から、体積気泡含有率Pv=(V2/V1)×100(%)を算出する。本発明においては、この体積気泡含有率Pvを「気泡含有率」として定義する。また、気泡を球状とみなして算出した気泡の直径から求めた相加平均値を「気泡の平均直径」として定義する。
【0031】
なお、基準体積は5mm×5mm×奥行(深さ)0.45mmであり、測定する最小の気泡の直径は5μm(直径が5μm未満のものは無視)、直径5μmの気泡を測定できる分解能があればよい。また、光学レンズの焦点距離を基準体積V1の深さ方向にずらして、基準体積の内部に含まれる気泡を捉えて、気泡の直径を測定する。
【0032】
気泡層12は、ルツボの外面10oを構成する層であり、ルツボ内のシリコン融液の保温性を高めると共に、単結晶引き上げ装置内においてルツボを取り囲むように設けられたヒーターからの輻射熱を分散させてルツボ内のシリコン融液をできるだけ均一に加熱するために設けられている。そのため、気泡層12はルツボの側壁部10aから底部10bまでのルツボ全体に設けられている。気泡層12の厚さは、ルツボの肉厚から透明層11の厚さを差し引いた値であり、ルツボの部位によって異なる。気泡層12の気泡含有率は、例えばルツボから切り出した不透明石英ガラス片の比重測定(アルキメデス法)により求めることができる。
【0033】
気泡層12の気泡含有率は、透明層11よりも高く、0.1vol%よりも大きく且つ5vol%以下であることが好ましく、1vol%以上且つ4vol%以下であることがさらに好ましい。気泡層12の気泡含有率が0.1vol%以下では気泡層12の機能を発揮できず、保温性が不十分となるからである。また、気泡層12の気泡含有率が5vol%を超える場合には気泡の膨張によりルツボが大きく変形して単結晶歩留まりが低下するおそれがあり、さらに伝熱性が不十分となるからである。特に、気泡層12の気泡含有率が1~4%であれば、保温性と伝熱性のバランスが良く好ましい。気泡層12に含まれる多数の気泡は目視で認識することができる。
【0034】
シリコン融液の汚染を防止するため、透明層11を構成する石英ガラスは高純度であることが望ましい。そのため、本実施形態による石英ガラスルツボ1は、合成シリカ粉から形成される内面層(以下「合成層」という)と、天然シリカ粉から形成される外面層(以下、「天然層」という)の二層からなることが好ましい。合成シリカ粉は、四塩化珪素(SiCl)の気相酸化(乾燥合成法)やシリコンアルコキシドの加水分解(ゾル・ゲル法)によって製造することができる。また天然シリカ粉は、α-石英を主成分とする天然鉱物を粉砕して粒状にすることによって製造されるシリカ粉である。
【0035】
詳細は後述するが、合成層と天然層の二層構造は、ルツボ製造用モールドの内面に沿って天然シリカ粉を堆積し、その上に合成シリカ粉を堆積し、アーク放電によるジュール熱によりこれらのシリカ粉を溶融することにより製造することができる。アーク溶融工程の初期にはシリカ粉の堆積層の外側から強く真空引きすることによって気泡を除去して透明層11を形成する。その後、真空引きを停止するか弱めることによって透明層11の外側に気泡層12を形成する。そのため、合成層と天然層との境界面は、透明層11と気泡層12との境界面と必ずしも一致するものではないが、合成層は、透明層11と同様に、結晶引き上げ工程中のルツボ内面の溶損によって完全に消失しない程度の厚さを有することが好ましい。
【0036】
本実施形態による石英ガラスルツボ1は、コーナー部10cの赤外線透過率を低くしてコーナー部10cの内面温度を低く抑えることによりシリコン単結晶中の酸素濃度を低くすると共に、底部10bの中心Pbから側壁部10aの上端に向かう赤外線透過率の変化率と気泡層12の厚さの変化率の許容範囲を規定してルツボの内面温度分布が大きく変化しないようにすることでシリコン融液の対流の変化を抑制し、これによりシリコン単結晶中の酸素濃度の急激な変化を防ぐものである。
【0037】
本実施形態において、ルツボのコーナー部10cの肉厚最大位置Pcの赤外線透過率は25~51%であることが好ましい。赤外線透過率が51%よりも高い場合にはコーナー部10cの内面の高温化によってルツボの溶損量が増加し、これによりシリコン融液中の酸素濃度が高くなり、単結晶の低酸素化を図ることができないからであり、25%よりも低い場合にはルツボ内への入熱量が少なすぎてシリコン融液からの単結晶成長が不安定になるからである。ルツボの赤外線透過率は、ルツボ壁の一方の面(外面10o)側に配置した赤外光源から赤外光を入射し、反対側の面(内面10i)側から出射した赤外光をレーザーパワーメーターで受光した場合における入射赤外光量に対する出射赤外光量の比である。
【0038】
コーナー部10cの赤外線透過率を25~51%とするため、コーナー部10cの最大肉厚は19~30mmであることが好ましく、コーナー部10cにおける気泡層12の厚さは18~29mmであることが好ましい。またコーナー部10cにおける気泡層12の気泡含有率は0.1~5vol%であることが好ましい。なおルツボの肉厚及び気泡含有率は、未使用のルツボを室温環境下で測定した値である。
【0039】
ルツボの側壁部10aの赤外線透過率T(%)に対するコーナー部10cの肉厚最大位置における赤外線透過率T(%)の比は0.3以上0.99以下(0.33≦T/T≦0.9)であることが好ましい。ルツボのコーナー部10cの赤外線透過率を側壁部10aよりも低くすることでコーナー部10cの内面の高温化によるルツボの溶損を抑えることができ、これによりルツボからシリコン融液への酸素供給量を抑えてシリコン単結晶の低酸素化を図ることができる。
【0040】
図2は、赤外線透過率比率と結晶酸素濃度平均との関係を示すグラフである。図示のように、側壁部の赤外線透過率に対するコーナー部の肉厚最大位置における赤外線透過率の比が0.3を下回った場合はシリコン融液の対流が不安定になりやすく、結晶の酸素濃度制御が困難になる。一方、0.99を上回った場合は結晶酸素濃度が高くなる。しかし、赤外線透過率の比が0.3以上0.99以下であればシリコン単結晶の低酸素化を図ることができる。
【0041】
このように、ルツボのコーナー部10cの赤外線透過率を従来よりも低く抑えることにより、シリコン融液中への酸素供給量を低く抑えることができ、シリコン単結晶の低酸素化が可能である。しかし、コーナー部10cの赤外線透過率が側壁部10aや底部10bに比べて極端に低い場合には、シリコン単結晶の引き上げ軸方向における特定の部位で酸素濃度の急激な落ち込みが発生するおそれがある。そのため、本実施形態では、ルツボの底部10bから側壁部10aにかけてルツボ壁の赤外線透過率及び肉厚の変化を緩やかにさせることで上記問題を解決する。
【0042】
図3は、結晶引き上げ工程中の石英ガラスルツボ及びシリコン融液の状態を示す模式図である。
【0043】
図3に示すように、結晶引き上げ炉内の石英ガラスルツボ1の外側にはヒーター20が配置されており、ヒーター20からルツボ内に向かう熱(実線矢印参照)は、ルツボの赤外線透過率と熱伝導率の影響を強く受けてルツボの内面10iに到達する。この加熱によりルツボ内のシリコン原料の溶融状態が維持されるだけでなく、ルツボの内面10iがシリコン融液に溶け込む。特に、石英ガラスルツボ1のコーナー部10cの内面10iは、側壁部10aおよび底部10bの内面10iよりも高温となりやすく、シリコン融液に溶け込みやすい部位である。そのため、コーナー部10cにおける赤外線透過率を低くすることにより、コーナー部10cの内面10iの温度を低温化し、コーナー部10cの溶け込みを抑制する。その結果、ルツボのコーナー部10cからシリコン融液への酸素の供給が抑制されるため、シリコン単結晶6の酸素濃度を低下させることができる。
【0044】
また本実施形態では、石英ガラスルツボ1のコーナー部10cにおける赤外線透過率を低くしながら、ルツボの壁面に沿った高さ方向における赤外線透過率の変化率及び気泡層12の厚さの変化率をそれぞれ緩やかにすることで、シリコン単結晶の引き上げの進行に伴ってルツボ内のシリコン融液5が消費されて液面5aの位置が低下したとしても融液量の変化の影響を小さくしてシリコン融液5の自然対流の急激な変化を抑制する。この抑制により、シリコン単結晶6の直胴部において酸素濃度が急激に落ち込むことを防止することができる。
【0045】
具体的には、赤外線透過率の変化率の絶対値|ΔW|は3%/cm以下であることが好ましく、気泡層12の厚さの変化率の絶対値|ΔT|は2.5mm/cm以下であることが好ましい。このように、ルツボの底部10bから側壁部10aにかけて赤外線透過率及び気泡層12の厚さを緩やかに変化させることにより、結晶引き上げ工程中に融液対流の状態(モード)の急変を防止することができ、シリコン単結晶の引上げ軸方向における特定の部位での酸素濃度の急激な落ち込みを抑制することができる。
【0046】
赤外線透過率の変化率ΔWは、底部10bの中心Pbから側壁部10aの上端に至るまでの測定ライン上の特定距離(1cm以上)を隔てた任意の2点間の赤外線透過率の差を示す値である。したがって、例えば、側壁部10aの測定位置Pでの赤外線透過率がW(%)であり、ルツボの外面10oに沿って一定距離L(cm)を隔てた別の測定位置Pでの赤外線透過率がW(%)であるとき、2点間の赤外線透過率の差(W-W)を距離Lで割った値が赤外線透過率の変化率:ΔW=(W-W)/Lである。
【0047】
同様に、気泡層12の厚さの変化率ΔTは、底部10bの中心Pbから側壁部10aの上端に至るまでの測定ライン上の特定距離(1cm以上)を隔てた任意の2点間の気泡層12の厚さの差を示す値である。したがって、例えば、側壁部10aの測定位置Pの気泡層12の厚さがT(mm)であり、ルツボの外面10oに沿ってPから一定距離Lを隔てた別の測定位置Pの気泡層12の厚さがT(mm)であるとき、2点間の気泡層12の厚さの差(T-T)を距離Lで割った値が気泡層12の厚さの変化率:ΔT=(T-T)/Lである。
【0048】
側壁部10a及び底部10bの肉厚はコーナー部10cの肉厚よりも薄いことが好ましく、コーナー部10cの肉厚よりも5mm以上薄いことが特に好ましい。なお、コーナー部10cの肉厚とは、コーナー部10cの肉厚最大位置Pcにおける肉厚のことを言う。コーナー部10cの赤外線透過率が側壁部10a又は底部10bと同等になるように、コーナー部10cの肉厚を薄くすると、コーナー部10cにおける気泡層12の厚さも薄くなり、ルツボ使用時にコーナー部10cの内面温度が上昇してルツボ内面の溶損量が増加し、シリコン単結晶中の酸素濃度が高くなるからである。側壁部10aや底部10bの肉厚をコーナー部10cと同等に厚くすることは好ましくない。シリコン融液の加熱量が不足して溶融時間が長くなるだけでなく、ルツボ製造時に多くの原料を使用することになり、現実的でないからである。
【0049】
コーナー部10cと比較される側壁部10aの肉厚は、側壁部10aの高さ方向中間位置Pa(図1参照)における肉厚であることが好ましい。側壁部10aの上端部の肉厚は平均肉厚よりも少し薄くなり、下端部の肉厚は平均肉厚よりも少し厚くなる傾向があり、側壁部10aの高さ方向中間位置Paは、側壁部10aの平均肉厚に近い値が得られる位置だからである。側壁部10aの肉厚の違いによる赤外線透過率の変化は僅かであるため、コーナー部10cの肉厚最大位置Pcの赤外線透過率と側壁部10aの赤外線透過率との関係は、側壁部10aの任意の位置において成立する。
【0050】
またコーナー部10cと比較される底部10bの肉厚は、底部10bの中心Pbの肉厚であることが好ましい。底部10bの肉厚は、底部10bの中心位置で最小となる傾向があり、底部10bの特徴が最も良く表れた部位だからである。
【0051】
ルツボの各部位の赤外線透過率は、気泡層12の厚さを変えることにより調整することができる。気泡層12の厚さは、ルツボの肉厚から透明層11の厚さを差し引いた値であり、透明層11の厚さが一定であればルツボの肉厚を厚くした分だけ気泡層12の厚さも厚くなる。したがって、例えばコーナー部10cの肉厚を増加させて気泡層12の厚さを厚くすることにより、コーナー部10cの赤外線透過率を下げることができる。
【0052】
ルツボの各部位の赤外線透過率は、気泡層12の気泡含有率を変えることにより調整してもよい。例えば、気泡層12の厚さが一定のままコーナー部10cの気泡層12の気泡含有率をより一層高くすることにより、コーナー部10cの赤外線透過率を下げることができる。気泡層12の気泡含有率は、石英ガラスルツボ1をいわゆる回転モールド法により製造する際に、原料シリカ粉の粒度やアーク加熱時の温度を調整することで制御することができる。
【0053】
図4に示すように、石英ガラスルツボ1の外面(気泡層12の表面)に半溶融層13が形成されている場合、ルツボの各部位の赤外線透過率は、半溶融層13を研磨等によって除去した状態で測定されることが好ましい。半溶融層13は原料シリカ粉の一部が不完全に溶融した状態(半溶融状態)で冷却されることによって固化した層であり、起伏に富んだ表面状態であるため、表面から入射した光の散乱や反射が大きい。未使用のルツボの赤外線透過率は半溶融層13の影響を受けて低下し、ルツボ間の個体差も大きくなる。一方、結晶引き上げ工程中の高温下では外面の凹凸が平滑化し,散乱・反射の影響が小さくなるので赤外線透過率が高くなり、ルツボ間の個体差がキャンセルされる。そこで、半溶融層13を除去した状態で赤外線透過率を評価することにより、実際の使用状態に近い状態でルツボの赤外線透過率の評価が可能となる。
【0054】
図5(a)及び(b)は、石英ガラスルツボ1の半溶融層13の状態変化を説明するための図であって、図5(a)は使用前の状態、図5(b)は使用中の状態をそれぞれ示している。
【0055】
図5(a)に示すように、使用前の製品状態の石英ガラスルツボ1には半溶融層13が形成されている場合がある。上記のように、半溶融層13は原料シリカ粉の一部が不完全に溶融した状態で固化した層であり、その表面状態は原料シリカ粉の粒度分布や溶融条件の違いよってルツボ製品ごとに多少のばらつきがあり、赤外線透過率にも個体差が生じている。またルツボの表面状態の差は、側壁部10a、コーナー部10c、底部10bといったルツボの部位ごとにも生じている。このようなルツボがカーボンサセプタ内に設置されて高温下で実際に使用されると半溶融層13の状態が変化する。
【0056】
すなわち、図5(b)に示すように、単結晶引き上げ工程中は1500℃以上の高温によって石英ガラスルツボ1が軟化すると共に、ルツボ内にシリコン融液5が貯留されていることによってルツボ壁を外側へ押し出す液圧が発生している。一方、石英ガラスルツボ1の外側にはカーボンサセプタ25があり、ルツボの外面は径方向に拘束されているため、半溶融層13の凹凸は押し潰されて平滑化される。したがって、単結晶引き上げ工程中の石英ガラスルツボの赤外線透過率は未使用の製品状態のときと異なる。
【0057】
通常、石英ガラスルツボの品質の評価には未使用状態のルツボの測定データが使用される。しかしながら、上述したようにルツボの外面の凹凸は使用中にキャンセルされるため、外面の凹凸にルツボ個体差や部位ごとの差がある状態で測定された赤外線透過率に基づいてルツボを評価することは望ましくない。例えば、半溶融層13が存在するときにはルツボの赤外線透過率が非常に低かったとしても、実際の引き上げ工程において半溶融層が消滅したときの赤外線透過率が高い場合には、ルツボの外側からの入熱を抑えることができず、単結晶中の酸素濃度を低くすることができない。
【0058】
以上の理由から、本発明では、外面の半溶融層13を意図的に除去し、外面の凹凸が赤外線透過率に与える影響を減じた上でルツボの各部位の赤外線透過率を測定・評価する。すなわち、本発明は、使用前の石英ガラスルツボに対して使用中の状態、特にルツボ使用中における半溶融層13の状態を擬似的に作り出し、そのような状態で石英ガラスルツボの赤外線透過率を測定するものである。なお結晶引き上げ工程中の石英ガラスルツボの赤外線透過率は、高温下で熱膨張した気泡の影響を受けているが、熱膨張前の気泡であっても赤外線透過率の評価指標として有効である。
【0059】
図6は、ルツボ片を用いた石英ガラスルツボの赤外線透過率測定方法を示すフローチャートである。また、図7は、石英ガラスルツボの赤外線透過率測定方法を示す模式図である。
【0060】
図6及び図7に示すように、石英ガラスルツボの赤外線透過率の測定では、まず石英ガラスルツボから切り出したルツボ片のサンプルを用意する(ステップS11)。上記のように、測定対象の石英ガラスルツボ1は、透明層11と、透明層11の外側に形成された気泡層12と、気泡層12の外側に形成された半溶融層13とを有するものである。
【0061】
次に、ルツボ片から半溶融層13を除去する(ステップS12)。半溶融層13を除去する方法としては、研磨処理やブラスト処理を挙げることができるが、他の方法でもよい。半溶融層13は完全に除去されることが好ましいが、完全に除去しなくてもよく、半溶融層13が形成されたルツボの外面の表面粗さがある程度小さくなるようにルツボ片を加工すれば足りる。この場合、ルツボの外面の算術平均粗さRaは15μm以下となることが好ましい。このように、ルツボ片の外面の表面粗さが小さくなるようにルツボ片を加工することにより、赤外線透過率の適切な評価が可能である。
【0062】
次に、ルツボ片の赤外線透過率を測定する(ステップS13)。図7に示すように、ルツボ片1sの赤外線透過率の測定では、赤外線ランプ21の下方にレーザーパワーメーター22(受光装置)を配置し、ルツボ片1sをレーザーパワーメーター22の受光部に配置する。赤外線ランプ21からの赤外光は、ルツボ片1sを透過してレーザーパワーメーター22で受光される。ルツボ片1sの赤外線透過率は、ルツボ壁の一方の面から赤外光を入射したときに反対側の面から出射した光を受光する場合における入射光量に対する出射光量の比として求められる。
【0063】
図8は、上述した赤外線透過率の評価方法を含む石英ガラスルツボ1の製造方法を示すフローチャートである。
【0064】
本実施形態による石英ガラスルツボ1の製造方法は、既定のルツボ製造条件(第1の製造条件)に基づいて石英ガラスルツボ(第1の石英ガラスルツボ)を製造する工程(ステップS21)と、この石英ガラスルツボの半溶融層13を除去する工程(ステップS22)と、石英ガラスルツボの半溶融層を除去した部分の赤外線透過率を測定する工程(ステップS23)と、赤外線透過率の測定値が目標値となるように既定のルツボ製造条件を修正する工程(ステップS24)と、新たなルツボ製造条件(第2の製造条件)に基づいて後続の石英ガラスルツボ(第2の石英ガラスルツボ)を製造する工程(ステップS25)とを有している。なお半溶融層13を除去する工程では半溶融層13を完全に除去しなくてもよく、外面の表面粗さが小さくなるように加工すれば足りる。このように、ルツボの赤外線透過率の評価結果をルツボ製造条件にフィードバックすることにより、部位ごとに所望の赤外線透過率を有する石英ガラスルツボを効率よく製造することができる。
【0065】
図9は、回転モールド法による石英ガラスルツボ1の製造方法を説明するための模式図である。
【0066】
図9に示すように、本実施形態による石英ガラスルツボ1は、いわゆる回転モールド法により製造することができる。回転モールド法では、回転するモールド30の内面30iに、天然シリカ粉16B及び合成シリカ粉16Aを順に堆積させて原料シリカ粉の堆積層16を形成する。ルツボの原料として天然シリカ粉のみを用いることも可能である。これらの原料シリカ粉は遠心力によってモールド30の内面30iに張り付いたまま一定の位置に留まり、ルツボの形状に維持される。原料シリカ粉の堆積層の厚さを変化させることで、ルツボ肉厚を部位毎に調整することができる。
【0067】
次に、モールド30内にアーク電極31を設置し、モールド30の内面30i側から原料シリカ粉の堆積層16をアーク溶融する。加熱時間、加熱温度等の具体的条件はルツボの原料やサイズなどの条件を考慮して適宜決定する必要がある。このとき、モールド30の内面30iに設けられた多数の通気孔32から原料シリカ粉の堆積層16を吸引することにより、溶融石英ガラス中の気泡量を制御する。具体的には、アーク溶融の開始時にモールド30の内面30iに設けられた多数の通気孔32からの吸引力を強めて透明層11を形成し、透明層11の形成後に吸引力を弱めて気泡層12を形成する。
【0068】
アーク熱は原料シリカ粉の堆積層16の内側から外側に向かって徐々に伝わり原料シリカ粉を融解していくので、原料シリカ粉が融解し始めるタイミングで減圧条件を変えることにより、透明層11と気泡層12とを作り分けることができる。シリカ粉が融解するタイミングで減圧を強める減圧溶融を行えば、アーク雰囲気ガスがガラス中に閉じ込められず、気泡を含まない石英ガラスになる。また、原料シリカ粉が融解するタイミングで減圧を弱める通常溶融(大気圧溶融)を行えば、アーク雰囲気ガスがガラス中に閉じ込められ、多くの気泡を含む石英ガラスになる。減圧溶融時や通常溶融時に、例えばアーク電極31の配置や電流を変更して部分的に溶融量を変化させることで、透明層11や気泡層12の厚みを部位毎に調整することができる。
【0069】
その後、アーク加熱を終了し、ルツボを冷却する。以上により、ルツボ壁の内側から外側に向かって透明層11及び気泡層12が順に設けられた石英ガラスルツボ1が完成する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態による石英ガラスルツボ1は、コーナー部10cの赤外線透過率が25~51%であり、従来のルツボのコーナー部よりも低い赤外線透過率を有するため、コーナー部10cの内面の過度な温度上昇を抑えることができ、ルツボからシリコン融液への酸素供給量を抑えて低酸素濃度のシリコン単結晶を製造することができる。また、赤外線透過率の変化率の絶対値が3%/cm以下であり、側壁部10aからコーナー部10cまでの気泡層の厚さの変化率の絶対値が2.5mm/cm以下であり、側壁部10aからコーナー部10cまでの赤外線透過率及び肉厚の変化が緩やかであるため、シリコン融液と接触するルツボの内面の温度分布のばらつきを小さくすることができ、シリコン融液中の対流の急激な変化に伴うシリコン融液への酸素供給量の急変を抑えることができる。したがって、シリコン単結晶の長手方向の酸素濃度分布が特定の部位で急変することを抑制することができ、引き上げ軸方向の酸素濃度分布が安定したシリコン単結晶を引き上げることができる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例
【0072】
<ルツボの赤外線透過率分布の考察>
ルツボの赤外線透過率分布がシリコン単結晶の酸素濃度分布に与える影響について考察した。この考察では、口径32インチ(約800mm)の石英ガラスルツボのサンプルA1~A5、B1~B4を用意し、各ルツボサンプルの内壁面に沿った高さ方向の赤外線透過率分布を測定した。赤外線透過率分布の測定では、ルツボの底部中心から側壁部の上端に向かって測定ラインを設定し、この測定ラインに沿って底部中心から20mm間隔で赤外線透過率を求めた。赤外線透過率の測定には赤外ランプとレーザーパワーメーターとを組み合わせからなる測定装置を用いた。赤外ランプは波長1000nm付近にピークを持つ近赤外ランプを使用した。レーザーパワーメーターは測定レンジ1~250W、波長レンジ190nm~11μm、校正波長10.6μmのものを使用した。なお、赤外線透過率の測定では、ルツボの内壁面に対して垂直な方向に測定した。その後、赤外線透過率の測定値から隣接する2つの測定点間における赤外線透過率の変化率を求めた。
【0073】
次に、各ルツボサンプルを用いてシリコン単結晶の引き上げを行った後、シリコン単結晶中の酸素濃度をOld-ASTM_F121 (1979)の規格に従ってFT-IRにより測定した。そして、シリコン単結晶の結晶長手方向の酸素濃度平均及び酸素濃度分布の急変の有無を評価した。その結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1によるルツボサンプルA1のコーナー部の赤外線透過率は24%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.3であった。また、このルツボサンプルA1の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は2.8%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA1を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0076】
実施例2によるルツボサンプルA2のコーナー部の赤外線透過率は57%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.8であった。また、このルツボサンプルA2の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は2.8%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA2を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0077】
実施例3によるルツボサンプルA3のコーナー部の赤外線透過率は60%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.99であった。また、このルツボサンプルA3の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は3.0%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA3を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0078】
実施例4によるルツボサンプルA4のコーナー部の赤外線透過率は25%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.8であった。また、このルツボサンプルA4の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は2.8%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA4を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±5%以内(95~105%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0079】
実施例5によるルツボサンプルA5のコーナー部の赤外線透過率は51%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.8であった。また、このルツボサンプルA5の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は2.8%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA5を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±5%以内(95~105%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0080】
比較例1によるルツボサンプルB1のコーナー部の赤外線透過率は30%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は1.1であった。また、このルツボサンプルB1の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は2.8%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルB1を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%よりも大きくなった。すなわち、酸素濃度平均は目標酸素濃度の110%超となり、低酸素濃度の単結晶を得ることはできなかった。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0081】
比較例2によるルツボサンプルB2のコーナー部の赤外線透過率は10%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.2であった。また、このルツボサンプルB2の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は2.8%/cm(3%/cm以下)となり、赤外線透過率の変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルB2を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%よりも小さくなった。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかったが、酸素濃度平均が目標酸素濃度の90%未満となったため、融液対流の不安定さにより酸素濃度調整が難しくなり、結晶軸方向の酸素濃度のばらつきが大きくなった。
【0082】
比較例3によるルツボサンプルB3のコーナー部の赤外線透過率は43%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は1.2であった。また、このルツボサンプルB3の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は3.5%/cmとなり、3%/cmを超える大きな変化率となった。さらにこのルツボサンプルB3を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%よりも大きくなり、低酸素濃度の単結晶を得ることはできなかった。さらに結晶長手方向における酸素濃度の急変も見られた。
【0083】
比較例4によるルツボサンプルB4のコーナー部の赤外線透過率は59%、側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.9であった。また、このルツボサンプルB4の赤外線透過率の変化率の絶対値の最大値は3.3%/cmとなり、3%/cmを超える大きな変化率となった。このルツボサンプルB4を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られたが、結晶長手方向における酸素濃度の急変が見られた。この結果から、ルツボの赤外線透過率分布の急激な変化は、結晶長手方向における酸素濃度の急変をもたらすことが分かる。
【0084】
<ルツボの気泡層の厚さ分布の考察>
次に、ルツボの気泡層の厚さ分布がシリコン単結晶の酸素濃度分布に与える影響について考察した。この考察では、口径32インチ(約800mm)の石英ガラスルツボのサンプルA6~A11、B5~B8を用意し、各ルツボサンプルの内壁面に沿った高さ方向の肉厚及び気泡層の厚さ分布を赤外線透過率分布と共に測定した。ルツボの肉厚及び気泡層の厚さ分布の測定では、赤外線透過率の測定と同様に、ルツボの底部中心から側壁部の上端に向かって測定ラインを設定し、この測定ラインに沿って底部中心から20mm間隔でルツボの肉厚及び気泡層の厚さを求めた。ルツボの肉厚及び気泡層の厚さの測定には超音波測定機(超音波厚さ計)を用いた。なお、ルツボの肉厚及び気泡層の厚さの測定では、ルツボの内壁面に対して垂直な方向に測定した。その後、気泡層の厚さの測定値から隣接する2つの測定点間における気泡層の厚さの変化率を求めた。
【0085】
次に、各ルツボサンプルを用いてシリコン単結晶の引き上げを行った後、シリコン単結晶中の酸素濃度をOld-ASTM_F121 (1979)の規格に従ってFT-IRにより測定した。そして、シリコン単結晶の結晶長手方向の酸素濃度平均及び酸素濃度分布の急変の有無を評価した。その結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例6によるルツボサンプルA6のコーナー部の肉厚は18mm、コーナー部の気泡層の厚さは17mmであった。なお気泡層の厚さはコーナー部の肉厚最大位置で測定した値である。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.3であった。さらに、このルツボサンプルA6の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は1.5mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA6を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0088】
実施例7によるルツボサンプルA7のコーナー部の肉厚は18mm、コーナー部の気泡層の厚さは17mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.8であった。さらに、このルツボサンプルA7の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.4mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA7を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0089】
実施例8によるルツボサンプルA8のコーナー部の肉厚は31mm、コーナー部の気泡層の厚さは30mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.99であった。さらに、このルツボサンプルA8の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.5mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA8を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0090】
実施例9によるルツボサンプルA9のコーナー部の肉厚は19mm、コーナー部の気泡層の厚さは18mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.5であった。さらに、このルツボサンプルA9の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.4mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA9を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±5%以内(95~105%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0091】
実施例10によるルツボサンプルA10のコーナー部の肉厚は25mm、コーナー部の気泡層の厚さは23mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.5であった。さらに、このルツボサンプルA10の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.4mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA10を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±5%以内(95~105%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0092】
実施例11によるルツボサンプルA11のコーナー部の肉厚は30mm、コーナー部の気泡層の厚さは29mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.4であった。さらに、このルツボサンプルA11の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.4mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。さらにこのルツボサンプルA11を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±5%以内(95~105%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られた。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0093】
比較例5によるルツボサンプルB5のコーナー部の肉厚は28mm、コーナー部の気泡層の厚さは26mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は1.1であった。さらに、このルツボサンプルB5の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.3mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。しかし、このルツボサンプルB5を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%よりも大きくなった。すなわち、酸素濃度平均は目標酸素濃度の110%超となり、低酸素濃度の単結晶を得ることはできなかった。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかった。
【0094】
比較例6によるルツボサンプルB6のコーナー部の肉厚は20mm、コーナー部の気泡層の厚さは17mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.2であった。さらに、このルツボサンプルB6の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.5mm/cm(2.5mm/cm以下)となり、気泡層の厚さの変化は緩やかだった。しかし、このルツボサンプルB6を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%よりも小さくなった。結晶長手方向における酸素濃度の急変は見られなかったが、酸素濃度平均が目標酸素濃度の90%未満となったため、融液対流の不安定さにより酸素濃度調整が難しくなり、結晶軸方向の酸素濃度のばらつきが大きくなった。
【0095】
比較例7によるルツボサンプルB7のコーナー部の肉厚は18mm、コーナー部の気泡層の厚さは17mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は1.0であった。さらに、このルツボサンプルB7の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は2.6mm/cmとなり、2.5mm/cmを超える大きな変化率となった。このルツボサンプルB7を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%よりも大きくなり、低酸素濃度の単結晶を得ることはできなかった。さらに結晶長手方向における酸素濃度の急変も見られた。
【0096】
比較例8によるルツボサンプルB8のコーナー部の肉厚は25mm、コーナー部の気泡層の厚さは17mmであった。また側壁部に対するコーナー部の赤外線透過率の比は0.8であった。さらに、このルツボサンプルB8の気泡層の厚さの変化率の絶対値の最大値は3.0mm/cmとなり、2.5mm/cmを超える大きな変化率となった。このルツボサンプルB8を用いて引き上げたシリコン単結晶の長手方向の酸素濃度平均は目標酸素濃度±10%以内(90~110%以内)となり、低酸素濃度の単結晶が得られたが、結晶長手方向における酸素濃度の急変が見られた。
【符号の説明】
【0097】
1 石英ガラスルツボ
5 シリコン融液
5a シリコン融液の液面
6 シリコン単結晶
10a 側壁部
10b 底部
10c コーナー部
10i ルツボの内面
10o ルツボの外面
11 透明層
12 気泡層
16 原料シリカ粉の堆積層
16A 合成シリカ粉
16B 天然シリカ粉
20 ヒーター
21 赤外線ランプ
22 レーザーパワーメーター
25 カーボンサセプタ
30 モールド
30i モールドの内面
31 アーク電極
32 通気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10