(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】多価ヒドロキシ樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 61/02 20060101AFI20221213BHJP
C08G 8/08 20060101ALI20221213BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20221213BHJP
C08G 59/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C08G61/02
C08G8/08
C08G59/62
C08G59/06
(21)【出願番号】P 2018244514
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】矢野 博之
(72)【発明者】
【氏名】スレスタ ニランシ゛ャン
(72)【発明者】
【氏名】山田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】梶 正史
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-181359(JP,A)
【文献】特開昭63-086767(JP,A)
【文献】特開平08-165328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00-61/12
C08G 4/00-16/06
C08G 59/00-59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるスチレン系化合物とホルムアルデヒド類を酸性条件下にてPrins反応させて得られた構造中に二重結合を含む中間体樹脂と、芳香族ヒドロキシ化合物を反応させて得られることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂。
【化1】
(ここで、R
1は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
多価ヒドロキシ樹脂の水酸基当量が200~400g/eq.の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多価ヒドロキシ樹脂。
【請求項3】
芳香族ヒドロキシ化合物は、炭素数が6~20であり、ヒドロキシ基数が1~2であることを特徴とする請求項1に記載の多価ヒドロキシ樹脂。
【請求項4】
芳香族ヒドロキシ化合物が、一般式(2)、(3)、又は(4)で表されることを特徴とする請求項
1に記載の多価ヒドロキシ樹脂。
【化2】
(ここで、R1は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。mは1~2の数を示す。)
【化3】
(ここで、R1は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。mは1~2の数を示す。)
【化4】
(ここで、R1は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。Xは、単結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-CO-、-O-、-S-、又は-SO2-を示す。)
【請求項5】
下記式(c)~(r)の構造のいずれか一以上を含み、水酸基当量が200~400g/eq.の範囲であることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂。
ここで、式(c)~(r)において、ベンゼン環には置換基としてR
1が結合してもよく、この場合のR
1は炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の多価ヒドロキシ樹脂を製造する方法であって、スチレン系化合物とホルムアルデヒド類を0.1~10
wt%の酸触媒の存在下にて反応させた後、この反応生成物に芳香族ヒドロキシ化合物を反応温度40~150℃で反応させることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂の製造方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、硬化剤の一部又は全部として、請求項1~5のいずれかに記載の多価ヒドロキシ樹脂を必須成分としてなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の多価ヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンとを反応させて得られることを特徴とするエポキシ樹脂。
【請求項10】
エポキシ当量が250~500g/eq.の範囲であることを特徴とする請求項9に記載のエポキシ樹脂。
【請求項11】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、請求項9又は10に記載のエポキシ樹脂を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性に優れるとともに、低吸水性、低熱膨張性にも優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂、その中間体として適する多価ヒドロキシ樹脂、これらを用いたエポキシ樹脂組成物、及びその硬化物に関するものであり、例えば、電気電子分野の絶縁材料、塗料、接着材等の改質剤等に好適に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されてきているが、その要求性能は近年ますます高度化している。例えば、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂組成物の代表的分野に半導体封止材料があるが、半田耐熱性に優れた材料の開発が望まれている。従って、封止材料としては、低吸水性や低熱膨張性の向上が求められている。回路基板材料においても、同様な特性に加え、誘電損失低減の観点から低誘電性に優れた材料の開発が望まれている。これらの要求に対応するため、様々な新規構造のエポキシ樹脂及び硬化剤が検討されている。
【0003】
従って、上記背景から種々のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤が検討されている。エポキシ樹脂硬化剤の一例として、特許文献1にはビフェニル構造を有する硬化剤が提案され、難燃性向上に有効であることが記載されている。しかし、誘電特性について十分ではない場合があった。
【0004】
一方、フェノール化合物、スチレン系化合物及びホルムアルデヒド類の反応物については、これまでに幾つかの検討例が知られている。例えば、特許文献2にはフェノール化合物、スチレン及びホルムアルデヒドを一括仕込みすることによる樹脂の検討例が報告されている。一括仕込みの場合、フェノール化合物とスチレン類の親電子置換反応が速やかに進行し、スチレン化フェノール化合物が生成した後、ホルムアルデヒドとの重縮合反応が進行し、スチレン化フェノールノボラック樹脂が生成する。この樹脂では、フェノール化合物へのスチレン置換場所に限りがあるため、置換数が限定され、高水酸基当量の多価ヒドロキシ化合物を設計することが難しい。そのため、誘電特性、吸水性、低弾性化等に課題があった。
【0005】
一方、エポキシ樹脂についても、これらの要求を満足するものは未だ知られていない。例えば、耐熱性に優れるエポキシ樹脂として、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が知られているが、低吸水性に関しては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-140166号公報
【文献】特表2010-506976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、積層、成形、注型、接着等の用途において、誘電特性に優れると共に、硬化性、耐熱性等にも優れた性能を有する多価ヒドロキシ樹脂、及びこれを用いて得たエポキシ樹脂を提供することにあり、また、優れた誘電特性を有するとともに、低吸水性、低熱膨張性等にも優れた硬化物を与えて、電気電子分野の絶縁材料、塗料、接着材等に有用なエポキシ樹脂組成物を提供することにあり、更には、そのエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるスチレン系化合物とホルムアルデヒド類を酸性条件下にてPrins反応させて得られた構造中に二重結合を含む中間体樹脂と、芳香族ヒドロキシ化合物を反応させて得られることを特徴とする芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂である。
【化1】
(ここで、R
1は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0009】
上記多価ヒドロキシ樹脂の水酸基当量が200~400g/eq.の範囲であることが好適である。
【0010】
芳香族ヒドロキシ化合物は、炭素数が6~20であり、ヒドロキシ基数が1~2であることが好適である。
【0011】
芳香族ヒドロキシ化合物が、一般式(2)、(3)、又は(4)で表される化合物であることが好適である。
【化2】
(ここで、R
1は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。mは1~2の数を示す。)
【化3】
(ここで、R
1、mは式(2)におけるものと同義である。)
【化4】
(ここで、R
1は独立に式(2)におけるR
1と同義であり、各R
1が同一でも異なってもよい。Xは、単結合、-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-CO-、-O-、-S-、又は-SO
2-を示す。)
【0012】
また、本発明は、スチレン系化合物とホルムアルデヒド類を0.1~10%の酸触媒の存在下にて反応させた後、この反応生成物に芳香族ヒドロキシ化合物を反応温度40~150℃で反応させることを特徴とする多価ヒドロキシ樹脂の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、硬化剤の一部又は全部として、上記多価ヒドロキシ樹脂を必須成分としてなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0014】
また、本発明は、上記エポキシ樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物である。
【0015】
更に、本発明は、上記多価ヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンとを反応させて得られることを特徴とするエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂のエポキシ当量が250~500g/eq.の範囲であることが好適である。
【0016】
更に、本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、上記価ヒドロキシ樹脂及び/又は上記エポキシ樹脂を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物である。更にまた、本発明は、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエポキシ樹脂及び多価ヒドロキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物に応用した場合、誘電特性に優れるとともに、低吸水性、低熱膨張性にも優れた硬化物を与え、電気電子分野の絶縁材料、塗料、接着材等の用途に好適に使用することが可能である。
エポキシ樹脂硬化物においては、エポキシ基と水酸基との反応により生成するヒドロキシプロピル基が極性を有するため、誘電率等の上昇を生じ易いとされているが、本発明の多価ヒドロキシ樹脂は、その骨格中にスチレン由来の芳香族置換基を導入させ水酸基当量を高くすることで、エポキシ基由来の極性基成分の含有率は低くなり、低誘電特性を発現させることができる。また、疎水性に優れる芳香族構造の導入により、低吸水性の向上にも効果的である。更に、樹脂骨格中への芳香族構造の導入は、硬化物の分子運動を抑制させることにより、低熱膨張性の発現にも効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で得た多価ヒドロキシ樹脂ARH-AのFD-MSチャート
【
図2】比較例1で得た多価ヒドロキシ樹脂ARH-CのFD-MSチャート
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の多価ヒドロキシ樹脂は、先ずスチレン系化合物とホルムアルデヒド類とを、酸触媒の存在下反応させることによりPrins反応が進行し、構造中に二重結合を多数含む中間体樹脂が得られ、これと芳香族ヒドロキシ化合物を反応させることで得られる。
例えば、スチレンとホルムアルデヒドを反応させた場合、少なくとも下記式(a)および(b)の構造を含む中間体樹脂Aが得られる。
【化5】
【化6】
(mは0~10までの数を表わし、平均値として0.5~4の範囲である。)
【0020】
式(a)中の二重結合はスチレン由来の二重結合であり、酸触媒の存在下において、そのベンジル位において親電子置換反応を起こし易いことから、続く芳香族ヒドロキシ化合物と親電子置換反応が起こる。
例えば、芳香族ヒドロキシ化合物がフェノールの場合、下記式(c)~(r)の構造のいずれか一以上を含む多価ヒドロキシ樹脂を得ることができる。ここで、式(c)~(r)において、ベンゼン環には置換基としてR
1が結合してもよく、この場合のR
1は炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である。
(c)~(r)の構造のいずれか一以上を含む多価ヒドロキシ樹脂は高水酸基当量化が可能であり、エポキシ樹脂硬化剤として用いた場合、低誘電性、低吸水性、低弾性等の物性に優れる硬化物を得ることができる。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【0021】
中でも、(d)、(e)、(f)、(g)、(j)、(n)から選択される構造のいずれか一以上を含む多価ヒドロキシ樹脂(置換基R1を有してもよい)が好ましい。
特に、式(c)~(r)の構造を含む多価ヒドロキシ樹脂において、(d)の構造の割合が最も多く、その含有率は5~50wt%の範囲であり、好ましくは10~30wt%の範囲である。この範囲より含有率が高い場合、多官能ヒドロキシ成分の含有率が相対的に低下し、硬化性が低下する傾向にある。また、この範囲より含有率が低い場合、分子量が相対的に高くなることで流動性が低下する傾向にある。
【0022】
一方、スチレン系化合物、ホルムアルデヒド類および芳香族ヒドロキシ化合物を一括で仕込み、酸触媒の存在下反応させると、先ずスチレンと芳香族ヒドロキシ化合物の親電子置換反応が起こり、スチレン化フェノール類が生成し、続いてホルムアルデヒド類との重縮合反応が起こる。そのため、一括仕込場合、少なくとも下記一般式(x)の構造を含むスチレン化フェノールノボラック樹脂が得られる。(x)の構造を含むスチレン化フェノールノボラック樹脂は、スチレンのフェノール核への置換数に制約があり、高水酸基当量の多価ヒドロキシ樹脂を設計することが難しい。そのため、低誘電性、低吸水性、低弾性等の物性発現には限界がある。
【化23】
(nは1~10までの数を表わし、pおよびqは0~2までの数を表わす。)
【0023】
本発明に用いる芳香族ヒドロキシ化合物の芳香族炭素数の範囲としては、6~20の範囲であり、より好ましくは6~12の範囲である。芳香族炭素数が20以上の高分子芳香族化合物を用いた場合、上記と同様に樹脂粘度が上昇し、組成物とする際のハンドリング性に劣る。
【0024】
本発明の芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂は、一般式(1)で表されるスチレン系化合物とホルムアルデヒド類とを0.1~10wt%の酸触媒の存在下にて反応させた後、この反応生成物と一般式(2)で表される芳香族ヒドロキシ化合物とを、反応温度40~150℃で反応させて得ることが良い。酸触媒を用いる範囲としては、0.1~10wt%の範囲が好ましく、より好ましくは1.0~5.0wt%の範囲である。この範囲より少ない場合は、反応性が低くなり、原料の芳香族化合物や芳香族ヒドロキシ化合物の残存モノマーの割合が多くなり反応が効率的に進行しない傾向がある。一方で、この範囲よりも多くなると、樹脂中の残存触媒量が増加する傾向にあり、硬化物の信頼性が低下する傾向にある。
【0025】
また、本発明の芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の水酸基当量は200~500g/eq.の範囲のものが好ましい。誘電特性向上の面からは、水酸基当量250~400g/eq.の範囲が好ましい。この範囲よりも小さい場合、硬化物中の極性基濃度の割合が高くなり、誘電特性が低下する傾向にある。また、水酸基当量がこの範囲よりも大きい場合、硬化性が著しく悪くなる傾向にある。
【0026】
また、本発明の芳香族変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は300~600g/eq.の範囲のものが好ましい。誘電特性向上の面からは、水酸基当量300~500g/eq.の範囲が好ましい。この範囲よりも小さい場合、硬化物中の極性基濃度の割合が高くなり、誘電特性が低下する傾向にある。また、水酸基当量がこの範囲よりも大きい場合、硬化性が著しく悪くなる傾向にある。
【0027】
原料として使用するスチレン系化合物は、一般式(1)において、R1は水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基を示すが、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。好ましいスチレン系化合物としては、スチレン、メチルスチレンなどが挙げられる。
ホルムアルデヒド類としては、反応系内においてホルムアルデヒドを生ずるものであればよく、ホルマリン、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0028】
スチレン系化合物とホルムアルデヒド類を酸性条件下にてPrins反応させる場合のホルムアルデヒド類の使用量は、スチレン系化合物1モルに対して、0.5~1.5モル、好ましくは、0.9~1.2モルの範囲である。また、反応により得られた構造中に二重結合を含む中間体樹脂とフェノール等の芳香族ヒドロキシ化合物を反応させる場合の芳香族ヒドロキシ化合物の使用量は、中間体樹脂1モルに対して、1.0~10モル、好ましくは1.0~5.0モルの範囲である。この範囲より少ない場合、未反応二重結合の割合が大きくなり、硬化物の耐熱性が低下する傾向にある。また、この範囲より多い場合、回収フェノール等の割合が多くなり、製造時のプロセス性が低下する。
【0029】
芳香族ヒドロキシ化合物類として、一般式(2)の例としては、主としてフェノールである。このフェノール類は少量他のフェノール成分を含んでもよい。例えば、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、エチルフェノール類、イソプロピルフェノール類、ターシャリーブチルフェノール類、アリルフェノール類、フェニルフェノール類、2,6-キシレノール、2,6-ジエチルフェノール類などが挙げられる。これらのフェノール類単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等の2価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いることができる。また、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基によって置換されたフェノール類も用いることができる。
【0030】
また、一般式(3)の例としては、1-ナフトール、2-ナフトール、1,4-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、1,6-ナフタレンジオール、1,7-ナフタレンジオール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール等のナフトール類を用いることができる。また、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基によって置換されたナフトール類も用いることができる。
【0031】
また、一般式(4)の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、フルオレンビスフェノール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3',5,5’-テトラメチル-ビスフェノールF、3,3',5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェノール類を用いることができる。
【0032】
この反応は酸触媒の存在下に行うことができる。この酸触媒としては、周知の無機酸、有機酸より適宜選択することができる。例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の鉱酸や、ギ酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等の有機酸や、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄、三フッ化ホウ素等のルイス酸あるいはイオン交換樹脂、活性白土、シリカ-アルミナ、ゼオライト等の固体酸等が挙げられる。
【0033】
また、この反応における反応温度は40~150℃の範囲で行われる。これより低いと、反応性が低下し反応時間が長時間となる。また、これより高いと芳香族変性多価ヒドロキシ化合物のメチレン架橋結合が一部開裂し易くなり、開列反応により副生した単価フェノール成分により、硬化性および耐熱性を低下させる。
【0034】
また、この反応は通常、1~20時間行われる。更に、反応の際には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物等を溶媒として使用することができる。
【0035】
この反応を実施する具体的方法としては、式(1)のスチレン系化合物とホルムアルデヒド類とを酸触媒下、所定の温度で反応させた後、所定の温度に保ちつつ、更に式(2)~(4)の芳香族ヒドロキシ化合物を添加させながら反応させる方法が一般的である。反応後、溶媒を使用した場合は、必要により、触媒成分を取り除いた後、溶媒を留去させて本発明の樹脂を得ることができ、溶媒を使用しない場合は、直接熱時排出することによって目的物を得ることができる。
【0036】
次に、本発明の芳香族変性エポキシ樹脂について述べる。
本発明のエポキシ樹脂は、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂をエポキシ化することにより得ることができる。
【0037】
本発明の芳香族変性エポキシ樹脂は、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂と、エピクロルヒドリンを反応させることより製造することが有利である。
【0038】
上記芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂をエピクロルヒドリンと反応させる反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【0039】
例えば、上記芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、20~150℃、好ましくは、30~80℃の範囲で1~10時間反応させる方法が挙げられる。この際のアルカリ金属水酸化物の使用量は、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の水酸基1モルに対して、0.8~1.5モル、好ましくは、0.9~1.2モルの範囲である。また、エピクロルヒドリンは芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂中の水酸基1モルに対して過剰に用いられるが、通常、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂中の水酸基1モルに対して、1.5~30モル、好ましくは、2~15モルの範囲である。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的の芳香族変性エポキシ樹脂を得ることができる。
【0040】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくともエポキシ樹脂及び硬化剤を含むものであるが、次の3種類がある。
1)エポキシ樹脂の一部又は全部として前記芳香族変性エポキシ樹脂を配合した組成物。
2)硬化剤の一部又は全部として前記芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂を配合した組成物。
3)エポキシ樹脂及び硬化剤の一部又は全部として前記芳香族変性エポキシ樹脂と芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂を配合した組成物。
【0041】
上記2)及び3)の組成物の場合、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂を必須の成分として含む。芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の配合量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して2~200重量部、好ましくは5~80重量部の範囲である。これより少ないと誘電特性及び耐湿性向上の効果が小さく、これより多いと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。
【0042】
硬化剤の全量として芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂を用いる場合、通常、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の配合量は、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂のOH基とエポキシ樹脂中のエポキシ基の当量バランスを考慮して配合する。エポキシ樹脂及び硬化剤の当量比は、通常、0.2~5.0の範囲であり、好ましくは0.5~2.0の範囲である。これより大きくても小さくても、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0043】
硬化剤として芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂以外の硬化剤を併用することができる。その他の硬化剤の配合量は、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の配合量が、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して2~200重量部、好ましくは5~80重量部の範囲が保たれる範囲内で決定される。芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の配合量がこれより少ないと誘電特性、低吸水性及び低熱膨張性向上の効果が小さく、これより多いと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。この場合においても、エポキシ樹脂と硬化剤(合計)の当量比は上記の範囲とされる。
【0044】
本発明の芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂以外の硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用でき、ジシアンジアミド、酸無水物類、多価フェノール類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。これらの中でも、半導体封止材等の高い電気絶縁性が要求される分野においては、多価フェノール類を硬化剤として用いることが好ましい。本発明の芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂を必須成分とする組成物の場合、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂の配合量は硬化剤全体中、50~100重量%、好ましくは60~100重量%の範囲であることがよい。以下に、芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂以外の硬化剤の具体例を示す。
【0045】
酸無水物硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ドデシニルコハク酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。
【0046】
多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類がある。更には、フェノール類、ナフトール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-キシリレンジクロライド、ビスクロロメチルビフェニル、ビスクロロメチルナフタレン等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物等がある。
【0047】
アミン類としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類がある。
上記組成物には、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
上記組成物に使用されるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するもの中から選択される。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、3,3',5,5’-テトラメチル-ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'-ビフェノール、2,2'-ビフェノール、3,3',5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類のエポキシ化物、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類のエポキシ化物、ジシクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物、フェノール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるフェノールアラルキル樹脂類のエポキシ化物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から合成されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類のエポキシ化物又テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグリシジルエーテル化物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
上記1)及び3)の組成物の場合、本発明の芳香族変性エポキシ樹脂を必須の成分として含む。このエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、芳香族変性エポキシ樹脂以外に別種のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用でき、例えば前記したエポキシ化合物類である。そして、本発明の芳香族変性エポキシ樹脂を必須成分とする組成物の場合、芳香族変性エポキシ樹脂の配合量はエポキシ樹脂全体中、50~100重量%、好ましくは60~100重量%の範囲であることがよい。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を他の改質剤等として適宜配合してもよい。添加量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、2~30重量部の範囲である。
【0051】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合できる。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、半導体封止材に用いる場合の好ましい配合量は70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。
【0052】
顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0053】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換
ボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2から5重量部の範囲である。
【0054】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を溶解させたワニス状態とした後に、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー等のポリエステル不織布、等の繊維状物に含浸させた後に溶剤除去を行い、プリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができる。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させれば、エポキシ樹脂硬化物とすることができ、この硬化物は硬化性、難燃性、低吸湿性、低弾性等の点で優れたものとなる。この硬化物は、エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。この際の温度は通常、120~220℃の範囲である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0058】
(多価ヒドロキシ樹脂の合成)
実施例1
1Lの4口フラスコに、スチレンを63g(0.6mol)、パラホルムアルデヒドを21g(純度85%、0.6mol)、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(50%水溶液)5gを仕込み100℃に昇温し1時間反応させた。次に、100℃にて攪拌しながら、フェノール288g(3.0mol)を添加させた後、150℃にて3時間反応させた。その後、トルエン300gで希釈し、80℃にて水洗を5回行い酸触媒を除去した。その後、減圧下にて脱揮を行い、トルエン溶媒および残存モノマー類を留去し多価ヒドロキシ樹脂94gを得た。その水酸基当量は274g/eq.、軟化点は94℃、150℃での溶融粘度は1.3Pa・sであった。この樹脂をARH-Aという。ARH-AのFD-MSチャートを
図1に示す。
【0059】
実施例2
実施例1と同様にして、スチレンを37g(0.35mol)、パラホルムアルデヒドを12g(0.35mol)、p-トルエンスルホン酸11gを仕込み100℃に昇温し1時間反応させた。次に、100℃にて攪拌しながら、1-ナフトール255g(1.75mol)を添加させた後、150℃にて3時間反応させた。その後、トルエン300gで希釈し、80℃にて水洗を5回行い酸触媒を除去した。その後、減圧下にて脱揮を行い、トルエン溶媒および残存モノマー類を留去し芳香族変性多価ヒドロキシ樹脂87gを得た。その水酸基当量は387g/eq.、軟化点は95℃、150℃での溶融粘度は1.2Pa・sであった。この樹脂をARH-Bという。
【0060】
比較例1
1Lの4口フラスコに、スチレンを63g(0.6mol)、パラホルムアルデヒドを21g(0.6mol)およびフェノール288g(3.0mol)を仕込み100℃に昇温させた。続いて、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(50%水溶液)5gを仕込み100℃にて1時間反応させた。次に、150℃に昇温し攪拌しながら、3時間反応させた。その後、トルエン300gで希釈し、80℃にて水洗を5回行い酸触媒を除去した。その後、減圧下にて脱揮を行い、トルエン溶媒および残存モノマー類を留去し多価ヒドロキシ樹脂90gを得た。その水酸基当量は214g/eq.、軟化点は73℃、150℃での溶融粘度は0.30Pa・sであった。この樹脂をARH-Cという。ARH-CのFD-MSチャートを
図2に示す。
【0061】
(エポキシ樹脂の合成)
実施例3
四つ口セパラブルフラスコに実施例1で得たARH-A60g、エピクロルヒドリン203g、ジエチレングリコールジメチルエーテル30gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液18gを1時間かけて滴下し、この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離しエピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂60gを得た(ARE-A)。得られた樹脂のエポキシ当量は419g/eq.、軟化点は74℃、150℃における溶融粘度は0.47Pa・s、であった。
【0062】
実施例4
四つ口セパラブルフラスコに実施例2で得たARH-B60g、エピクロルヒドリン143g、ジエチレングリコールジメチルエーテル22gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液13gを1時間かけて滴下し、この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離しエピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂61gを得た(ARE-B)。得られた樹脂のエポキシ当量は590g/eq.、軟化点は88℃、150℃における溶融粘度は1.1Pa・s、であった。
【0063】
比較例2
四つ口セパラブルフラスコに実施例3で得たARH-C60g、エピクロルヒドリン259g、ジエチレングリコールジメチルエーテル39gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液23gを1時間かけて滴下し、この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離しエピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂63gを得た(ARE-C)。得られた樹脂のエポキシ当量は272g/eq.、軟化点は71℃、150℃における溶融粘度は0.28Pa・s、であった。
【0064】
1)水酸基当量の測定
電位差滴定装置を用い、1,4-ジオキサンを溶媒に用い、1.5mol/L塩化アセチルでアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で分解して0.5mol/L-水酸化カリウムを使用して滴定した。
【0065】
2)軟化点
自動軟化点装置(明峰社製、ASP-M4SP)を用い、JIS-K-2207に従い環球法にて測定した。
【0066】
3)溶融粘度
BROOKFIELD製、CAP2000H型回転粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0067】
4)エポキシ当量の測定
電位差滴定装置を用い、溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いて測定した。
【0068】
5)ガラス転移点(Tg)および熱膨張率(CTE)
熱機械測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000TMA/6100)により、昇温速度10℃/分の条件でTgを求めた。α1(Tg以下のCTE)は30~50℃の範囲の平均値から求めた。
【0069】
8)吸水率
25℃、相対湿度50%の条件を標準状態とし、85℃、相対湿度85%の条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。
【0070】
9)誘電率、誘電正接
マテリアルアナライザー/AGILENT Technologies 社製を用い、容量法により周波数1GHzにおける誘電率および誘電正接を求めることにより評価した。
【0071】
実施例5、6及び比較例3
エポキシ樹脂成分としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂(PNE;エポキシ当量178)を用い、硬化剤成分として実施例1で得たARH-A、実施例2で得たARH-B、比較例3として比較例1で得たARH-Cを用い、硬化触媒としてトリフェニルホスフィン(TPP)用い、表1に示す配合で混合しエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を175℃にて3分間プレス成形し、更に175℃にて5時間アフターキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。配合表及び物性評価結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
実施例7~9及び比較例4
エポキシ樹脂成分として、実施例3で得たARE-A、実施例4で得たARE-B、比較例2で得たARE-Cを用いた。また、硬化剤として、フェノールノボラック樹脂(PN;水酸基当量105g/eq.、軟化点80℃)、実施例1で得たARH-Aを用い、硬化触媒としてトリフェニルホスフィン(TPP)用い、表2に示す配合で混合しエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を175℃にて3分間プレス成形し、更に175℃にて5時間アフターキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。配合表及び物性評価結果を表2に示す。
【0074】