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  • 特許-スパッタリング装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
C23C14/34 T
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019022631
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020128587
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】浅川 慶一郎
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-113169(JP,A)
【文献】特許第6456010(JP,B1)
【文献】特表平09-500690(JP,A)
【文献】特開平10-176267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットが設けられる真空チャンバを有し、この真空チャンバ内でターゲットに対向させて処理すべき基板をセットし、プラズマ雰囲気を形成してターゲットをスパッタリングすることでターゲットから飛散するスパッタ粒子を基板表面に付着、堆積させて所定の薄膜を成膜するスパッタリング装置であって、
基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、基板中心をターゲット中心からX軸方向一方にオフセットさせた状態で基板を保持するステージと、ステージをZ軸回りに回転駆動する駆動手段と、基板とターゲットとの間の空間でターゲットに正対させて設けられ、Z軸方向に貫通する複数の開口を有してターゲットから飛散するスパッタ粒子のうちZ軸方向に対して所定角を超えて基板の表面に斜入射するものを規制するコリメータとを備えるものにおいて、
基板中心がオフセットされる方向をX軸プラス方向、その逆方向をX軸マイナス方向とし、各開口のうち基板中心とターゲット中心との間の中心間距離の半分より短いX軸方向長さを持つものを第1開口、中心間距離と同等以上のX軸方向長さを持つものを第2開口として、いずれかの第1開口を起点開口とし、ターゲットに正対させてコリメータを配置した状態で、起点開口はその長さ方向一端が基板中心上に位置してX軸マイナス方向でX軸に対称に延在し、この起点開口に隣接してX軸マイナス方向に複数の第1開口が存すると共にX軸マイナス方向の一端に位置する第1開口がターゲット中心を跨ぎ、このターゲット中心を跨ぐ第1開口にX軸マイナス方向に隣接させて第2開口が存することを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記第1開口より短いX軸方向長さを持つものを第3開口とし、前記起点開口のX軸プラス方向側に隣接させて第3開口が存することを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記第1開口と同等の開口面積を持つものを第4開口とし、前記起点開口及び前記第1開口のY軸方向両側に夫々複数個の第4開口が隣接して存することを特徴とする請求項1または請求項2記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットが設けられる真空チャンバを有し、この真空チャンバ内でターゲットに対向させて処理すべき基板をセットし、プラズマ雰囲気を形成してターゲットをスパッタリングすることでターゲットから飛散するスパッタ粒子を基板表面に付着、堆積させて所定の薄膜を成膜するスパッタリング装置に関し、より詳しくは、基板表面に予め形成されたビアホールやトレンチといった凹部の内面を含む基板表面にカバレッジ良く且つ膜厚分布の面内均一性良く成膜するに適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程には、例えば、表面にビアホールやトレンチといった凹部を形成したシリコンウエハを処理すべき基板とし、その凹部内面(内側壁及び底面)を含む基板の表面にシード層としてのCu膜を成膜する工程があり、この成膜工程にはスパッタリング装置が一般に利用されている。このようなスパッタリング装置の中には、その凹部の側壁部分まで良好なカバレッジで成膜できるように、基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、基板中心をターゲット中心からX軸方向一方にオフセットさせて基板を保持するステージと、このステージをZ軸周りに回転駆動する駆動手段と、ターゲットと基板との間の空間に設けられる半円板状の遮蔽板とを備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記従来例のものでは、ターゲットと基板の偏心距離が基板半径に一致し、また、遮蔽板が基板の中心位置を含む半分の面積の外側領域を覆っている。ここで、ターゲットがスパッタリングされたとき、ターゲット表面から所定の余弦則に従ってスパッタ粒子が飛散するが、図4に示すように、基板中心Scがオフセットされる方向をX軸プラス方向、その逆方向をX軸マイナス方向とし、ターゲット中心Tcと基板中心Scとの間の距離をDとした場合、カバレッジは次のようになる。即ち、例えば、距離Dが基板Swの半径Rに等しい場合、ターゲット中心Tcの直下にあたるターゲットの両外周から基板の外周位置(図4中、3で示す位置)に向けて夫々飛散するスパッタ粒子では、そのX軸プラス方向の入射角度θ1とX軸マイナス方向の入射角度θ2が互いに等しく、基板Swの凹部内側壁の膜厚の差は少なくなって対称性が良いカバレッジが得られる。
【0004】
他方、基板Swの中央と外周の間の範囲、例えば、半径Rの1/2の位置(図4中、2で示す位置)では、X軸プラス方向の入射角度θ3は小さくなる一方で、X軸マイナス方向の入射角度θ4は大きくなり、カバレッジに非対称性を生じる。また、距離Dが基板Swの半径Rの1/2に等しい場合、ターゲット中心Tcの直下にあたる半径Rの1/2の位置の非対称は解消するが、その場合、基板Swの外周位置に非対称が生じるため、基板Sw全面で非対称性の小さいカバレッジを得ることはできなかった。また、基板中心Sc上の位置(図4中、1で示す位置)では、X軸プラス方向からのスパッタ粒子の飛散は遮蔽され、X軸マイナス方向からの入射になるが、回転しているためにカバレッジは非対称にはならないが、入射角度θ5は大きくなるため、オーバーハングを生じ、また、ボトムカバレッジが悪化する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-160863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、対称性のある良好なカバレッジで、しかも、膜厚分布の面内均一性良く成膜できるスパッタリング装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ターゲットが設けられる真空チャンバを有し、この真空チャンバ内でターゲットに対向させて処理すべき基板をセットし、プラズマ雰囲気を形成してターゲットをスパッタリングすることでターゲットから飛散するスパッタ粒子を基板表面に付着、堆積させて所定の薄膜を成膜する本発明のスパッタリング装置は、基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、基板中心をターゲット中心からX軸方向一方にオフセットさせた状態で基板を保持するステージと、ステージをZ軸回りに回転駆動する駆動手段と、基板とターゲットとの間の空間でターゲットに正対させて設けられ、Z軸方向に貫通する複数個の開口を有してターゲットから飛散するスパッタ粒子のうちZ軸方向に対して所定角を超えて基板の表面に斜入射するものを規制するコリメータとを備え、基板中心がオフセットされる方向をX軸プラス方向、その逆方向をX軸マイナス方向とし、各開口のうち基板中心とターゲット中心との間の中心間距離の半分より短いX軸方向長さを持つものを第1開口、中心間距離と同等以上のX軸方向長さを持つものを第2開口として、いずれかの第1開口を起点開口とし、ターゲットに正対させてコリメータを配置した状態で、起点開口が、その長さ方向一端が基板中心上に位置してX軸マイナス方向でX軸に対称に延在し、この起点開口に隣接してX軸マイナス方向に複数個の第1開口が存すると共にX軸マイナス方向の一端に位置する第1開口がターゲット中心を跨ぎ、このターゲット中心を跨ぐ第1開口にX軸マイナス方向に隣接させて第2開口が存することを特徴とする。
【0008】
以上によれば、ターゲットに正対させて複数個の開口を形成したコリメータを配置し、このとき、複数個の第1開口をターゲット中心からX軸マイナス方向に列設されているため、ターゲットをスパッタリングしたとき、基板の中央領域においては、ターゲットのX軸プラス方向及びX軸マイナス方向から夫々飛散するスパッタ粒子のうち、Z軸方向に対して所定角を超えて基板の表面に斜入射するものが規制される(言い換えると、Z軸方向に対して所定の角度範囲内のスパッタ粒子のみが基板に到達する)。このため、処理すべき基板が表面にビアホールやトレンチといった凹部を形成したものであるような場合でも、凹部内側壁の膜厚に差が生じる所謂カバレッジの非対称性を小さくすることができる。しかも、ターゲット中心を跨ぐ第1開口にX軸マイナス方向に隣接させて大面積の第2開口が存するため、基板の外縁領域においては、特にターゲットのX軸マイナス方向から飛散するスパッタ粒子の多くを取り込みながら、X軸プラス方向から飛散するスパッタ粒子のうちZ軸方向に対して所定角を超えて基板の表面に斜入射するものが規制されることで、上記と同様に、所謂カバレッジの非対称性を小さくできる。なお、第1開口のX軸方向長さや、この長さに対する第1開口のZ軸方向長さの比は、例えば、ターゲット種(即ち、ターゲットをスパッタリングしたときの飛散分布)に応じて適宜設定することができる。
【0009】
ここで、上記のようにスパッタリング装置を構成した場合、比較的面積の小さい第1開口に対向する基板の中央領域では、多くのスパッタ粒子の基板表面への到達が規制されるため、基板の外縁領域に比較して膜厚が薄くなり易い。本発明においては、前記第1開口より短いX軸方向長さを持つものを第3開口とし、前記起点開口のX軸プラス方向側に隣接させて第3開口が存することが好ましい。これによれば、基板の中央領域に対してのみ、第1開口より更に角度範囲が規制されたスパッタ粒子を到達させることで、所謂カバレッジの非対称性を小さくできるという機能を損なうことなく、膜厚分布の面内均一性を向上することができ、有利である。
【0010】
また、本発明においては、前記第1開口と同等の開口面積を持つものを第4開口とし、前記起点開口及び前記第1開口のY軸方向両側に夫々複数個の第4開口が隣接して存することが好ましい。これにより、所謂カバレッジの非対称性を小さくしながら、膜厚分布の面内均一性を向上できるという機能を損なうことなく、成膜レートを向上することができ、有利である。なお、カバレッジの非対称性や、膜厚分布の面内均一性を調整するために、前記ステージをX軸方向に移動可能な移動手段を更に備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態のスパッタリング装置を一部模式的に示す断面図。
図2図1に示すスパッタリング装置で用いられるコリメータの平面図。
図3】本発明の効果を示す実験結果の表。
図4】従来例のスパッタリング装置におけるスパッタ粒子の飛散状況を説明する模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、ターゲットをCu製とし、処理すべき基板Swを、平面視円形のシリコンウエハ表面にシリコン酸化物膜を所定の膜厚で形成した後にこのシリコン酸化物膜に例えばアスペクト比が3以上である微細な凹部を所定パターンで形成したものとし、この凹部の内面を含む基板Sw表面にCu膜を形成する場合を例に、本発明の実施形態のスパッタリング装置について説明する。以下においては、上、下、左、右といった方向は、図1に示すスパッタリング装置の設置姿勢を基準にし、また、後述の基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向、基板中心がオフセットされる方向(図1中、左方向)をX軸プラス方向、その逆方向(図1中、右方向)をX軸マイナス方向とする。
【0013】
図1を参照して、SMは、本実施形態のスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは、X軸方向に長手の下部チャンバ11と、X軸マイナス方向にオフセットさせて下部チャンバ11上に連設される上部チャンバ12とで構成される真空チャンバ1を備える。下部チャンバ11の天板部には、上部チャンバ12の内部空間との連通を許容する平面視円形の連通口11aが形成されている。また、下部チャンバ11の底壁には、特に図示して説明しないが、ターボ分子ポンプやロータリーポンプを有する真空ポンプユニットからの排気管が接続され、真空チャンバ1内を所定圧力まで真空引きできるようにしている。上部チャンバ12の側壁には、アルゴン等の希ガス(スパッタガス)を導入するガス導入管13が接続されている。ガス導入管13にはマスフローコントローラ13aが介設され、図示省略のガス源に連通している。
【0014】
上部チャンバ12の上面開口12aには、真空シール兼用の絶縁体21を介してCu製のターゲット2が取り付けられている。ターゲット2は、基板Swの輪郭より大きい面積を有し、ターゲット2の上面にはインジウム等のボンディング材(図示せず)を介してCu製のバッキングプレート22が接合され、ターゲット2のスパッタ面(下面)2aが上部チャンバ12内を臨む姿勢で、ターゲット2から径方向外側に延出するバッキングプレート22の部分で真空チャンバ1の上部開口に支持される。ターゲット2の取付状態では、ターゲット2の中心が、連通口11aの孔軸上に位置するようにしている(以降、これを「ターゲット中心線Tc」という)。バッキングプレート22には、第1電源E1からの出力が接続され、成膜時、ターゲット2に負の電位を持った所定電力が投入できるようにしている。特に図示して説明しないが、ターゲット2の上方には磁石ユニットが配置され、磁石ユニットによってターゲット2の下方空間に漏洩磁場を作用させるようにしている。なお、磁石ユニット自体は公知のものであるため、これ以上の説明は省略する。
【0015】
また、上部チャンバ12内には、金属製の防着板3が設けられている。防着板3は、ターゲット2の周囲を囲って下方にのびる筒状の上防着板31と、上防着板31の下端部とオーバーラップさせて下方にのびる下防着板32とで構成される。上防着板31には、第2電源E2からの出力が接続され、成膜時、上防着板31に正の直流電位を印加することで、イオン化したスパッタ粒子(Cuイオン)を反射できるようにしている。
【0016】
下部チャンバ11内には、基板Swがその成膜面を上にしてセットされるステージ4が配置されている。この場合、ステージ4に基板Swをセットした状態で基板Swの中心を通るZ軸方向線(以降、これを「基板中心線Sc」という)が、ターゲット中心線Tcから左方向に、基板Swの半径より短い所定の距離D1でオフセットされるようにステージ4が設けられている。ステージ4上には、基板Swの周囲を囲うようにプラテンリング51が設けられると共に、下部チャンバ11内には、防着板52が設けられている。また、ステージ4には、図外のモータ(駆動手段)の回転軸41が連結され、ステージ4、ひいては基板Swを所定の回転数で基板中心線Sc回りに回転駆動できるようにしている。また、ステージ4には、交流電源で構成される第3電源E3からの出力が接続され、成膜時、基板Swに所定のバイアス電力が投入できるようになっている。
【0017】
下部チャンバ11と上部チャンバ12との境界部には、ターゲット2に正対させて、Z軸方向に貫通する複数の開口61を有してターゲット2から飛散するスパッタ粒子のうちZ軸方向に対して所定角を超えて基板Swの表面に斜入射するものを規制するコリメータCmが設けられている。コリメータCmは、平面視円形の輪郭を持ち且つ所定の厚さ(Z軸方向高さh)を持つ金属製の板材で構成され、その上面には、径方向外方に延出させて取付フランジ62が形成されている。この場合、連通口11aの周囲に位置させて下部チャンバ11の天板部には、電気的絶縁材料から構成される所定高さのスペーサ63が立設されている。そして、上部チャンバ12から下部チャンバ11に突出するようにコリメータCmを連通口11aに挿入すると、取付フランジ62がスペーサ63に当接してコリメータCmが吊設されるようにしている。なお、スペーサ63を高さの異なるものに変更すれば、コリメータCmの下面と基板Swの上面との間の距離を任意に調整できる。
【0018】
上記スパッタリング装置SMにより基板Swに対してその凹部の内面を含めその表面にCu膜を成膜する場合には、ステージ4上に基板Swをセットした後、真空ポンプを作動させて真空チャンバ1内を真空引きする。真空チャンバ1内の圧力が所定値(例えば、1×10-5Pa)に達すると、マスフローコントローラ13aを制御してアルゴンガスを所定の流量(例えば、10~20sccm)で導入する(このとき、真空チャンバ1内の圧力は、0.8~1.6×10-2Paとなる)。これと併せて、第1電源E1からCu製のターゲット2に負の電位を持つ所定電力(例えば、20~25kW)を投入する。これに併せて、駆動手段によって基板Swを所定回転数(100~150rpm)で回転させると共に、ステージ4に第3電源E3から所定のバイアス電力(例えば、100~600W)を印加する。すると、上部チャンバ12内にプラズマ雰囲気が形成され、プラズマ雰囲気中のアルゴンガスのイオンによりターゲット2のスパッタ面2aがスパッタリングされる。そして、スパッタ面2aから飛散したスパッタ粒子やそのイオン(Cu)が、コリメータCmの各開口61を通って、バイアス電力が投入された、表面に所定パターンで形成された微細な凹部の内面を含む基板Swの表面に付着、堆積してCu膜が成膜される。
【0019】
ここで、上記のようにして成膜するとき、特に凹部内側壁の膜厚に差が生じる所謂カバレッジの非対称性が大きく、また、基板Swの径方向における膜厚分布が不均一にならないようにする必要がある。本実施形態では、各開口61のうち基板中心線Scとターゲット中心線Tcとの間の中心間距離D1の半分より短いX軸方向長さL1を持つ平面視略正方形のものを第1開口61、中心間距離D1と同等以上のX軸方向長さL2を持つ平面視略長方形のものを第2開口61、第1開口61より短いX軸方向長さL3を持つ平面視略長方形のものを第3開口61とした。第1開口61のうちいずれか1個を起点開口61として、起点開口61は、その長さ方向一端が基板中心Sc上に位置してX軸マイナス方向でX軸に対称に延在するようにしている。そして、起点開口61に隣接させてX軸マイナス方向には2個の第1開口61が存する。この場合、X軸マイナス方向の一端に位置する第1開口61は、ターゲット中心線Tcを跨ぐようになり、この第1開口61にX軸マイナス方向に隣接させて第2開口61が存するようにしている。
【0020】
起点開口61のX軸プラス方向には、起点開口61に隣接させて第3開口61が存するようにしている。この場合、X軸プラス方向に形成する第3開口61の数や範囲は、基板Swに成膜したときのX軸方向の膜厚分布を考慮して適宜設定される。なお、各開口61は、コリメータCmとしての板材に対し打ち抜き加工などの公知の加工法により形成されるが、「隣接させて」といった場合、コリメータCmの機械的強度が保持されるように各開口61の境界部を残して各開口61が並ぶことを意味する。
【0021】
以上によれば、ターゲット2に正対させて複数個の開口61を形成したコリメータCmを配置し、このとき、複数個の第1開口61がターゲット中心線TcからX軸マイナス方向に列設されているため、ターゲット2をスパッタリングしたとき、基板Swの中央領域においては、ターゲット2のX軸プラス方向及びX軸マイナス方向から夫々飛散するスパッタ粒子のうち、Z軸方向に対して所定角を超えて基板Swの表面に斜入射するものが規制される(言い換えると、Z軸方向に対して所定の角度範囲内のスパッタ粒子のみが基板Swに到達する)。このため、基板Sw表面に形成した凹部内側壁の膜厚に差が生じる所謂カバレッジの非対称性を小さくすることができる。しかも、ターゲット中心Tcを跨ぐ第1開口61にX軸マイナス方向に隣接させて大面積の第2開口61が存するため、基板Swの外縁領域においては、特にターゲット2のX軸マイナス方向から飛散するスパッタ粒子の多くを取り込みながら、X軸プラス方向から飛散するスパッタ粒子のうちZ軸方向に対して所定角を超えて基板Swの表面に斜入射するものが規制されることで、上記と同様に、所謂カバレッジの非対称性を小さくできる。その上、起点開口61のX軸プラス方向側に隣接させて第3開口61が存することで、基板Swの中央領域に対してのみ、第1開口61より更に角度範囲が規制されたスパッタ粒子を到達させることで、所謂カバレッジの非対称性を小さくできるという機能を損なうことなく、膜厚分布の面内均一性を向上することができる。なお、第1開口61のX軸方向長さL1や、この長さL1に対する第1開口61のZ軸方向長さの比並びに第3開口61の数は、例えば、ターゲット種(即ち、ターゲット2をスパッタリングしたときの飛散分布)に応じて適宜設定することができる。また、上記実施形態では、各開口61が、夫々平面視矩形の輪郭を持つものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、円形や六角形の輪郭を持つものでもよい。
【0022】
ところで、上記のように、X軸方向に沿って一列で各開口61を形成しただけでは、成膜レートの向上を図ることができない。本実施形態では、図2に示すように、起点開口61及び起点開口61にX軸マイナス方向で隣接する第1開口61のY軸方向両側には、この起点開口61と同等のX軸方向長さを持つ平面視略正方形の第4開口61が互いに隣接して存するようにしている。この場合、第4開口61は、Y軸方向両端に位置するものが基板Swの外縁を跨ぐ位置まで列設されている。また、ターゲット中心線Tcを跨ぐ第1開口61のY軸方向両側には、夫々更に別の1個の第4開口61が存し、これにより、基板SwのX軸マイナス方向側半分の中央領域に、9個の第1開口61及び第4開口61で構成される略正方形の開口領域が形成されるようにしている。この場合、第2開口61の面積は、開口領域の面積と同等になるようにしている。また、基板面内の膜厚分布を考慮して、第3開口61のY軸方向両側にも、他の第3開口61が複数個設けられている。
【0023】
次に、上記効果を確認するために、上記スパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。即ち、発明実験では、基板Swをアスペクト比が3以上の溝部が形成されたΦ300nmのシリコンウエハとし、上記トレンチの内面を含む基板Sw表面にバリア膜としてタンタルを公知の方法で成膜した後、以下の方法でCu膜を成膜した。即ち、ターゲット2としてΦ400mmのCu製のものを用い、コリメータCmとして高さhを53mmのものを用いた。この場合、第1開口61のX軸方向長さL1を36mm、第2開口61のX軸方向長さL2を100mm、L3を22mmに設定した。ターゲット2と基板Swとの間の距離を400mm、コリメータCmと基板Swとの間の距離を54mm、基板中心線Scとターゲット中心線Tcとの間の中心間距離D1を75mmに設定した。そして、成膜条件として、真空ポンプユニットを作動させて真空チャンバ1内を所定の真空度(例えば、1×10-5Pa)まで真空引きした後、マスフローコントローラ13aを制御してアルゴンガスを所定の流量(例えば、10sccm)で導入し(このときの真空チャンバ1内の圧力は約0.8×10-2Pa)、)、第2電源E2から上防着板31に100Vの正電圧を印加すると共に、第1電源E1からターゲット2に負の電位を持つ21kWの直流電力を投入した。なお、本発明のコリメータCmの効果を確認するため、ステージ4へのバイアス電力は投入しないこととした(バイアス電力0W)。
【0024】
以上の成膜条件の下、上部チャンバ12内にプラズマ雰囲気を形成し、ターゲット2のスパッタ面2aをスパッタリングすることで飛散したスパッタ粒子を、コリメータCmを介して基板Swに付着、堆積させてCu膜を成膜し、成膜後の基板Swの中央領域、R/2領域及び外縁領域における溝部を断面SEMにより測長し、断面SEM写真からシンメトリー率(対称性)を計算し、その結果を図3に示す。なお、図3には、比較実験として、図4に示す上記従来例のスパッタリング装置を用い、上記発明実験と同様の成膜条件で基板Sw表面にCu膜を成膜し、上記と同様にシンメトリー率(対称性)を計算したものを併記している。これによれば、発明実験では、いずれの領域においても溝部のカバレッジの非対称性を小さくできると共に、膜厚分布の面内均一性よく成膜できることが判った。また、断面SEM写真から求めた中央領域の側壁の膜厚のシンメトリー率は100%、R/2領域のシンメトリー率は95.2%、外縁領域のシンメトリー率は86.3%であり、いずれの領域においても良好なカバレッジで成膜できることが判った。他方、比較実験では、中央領域のシンメトリー率は100%、R/2領域のシンメトリー率は84.2%で同等であるが、外縁領域のシンメトリー率は52.0%であり、上記発明実験のように良好なカバレッジが得られないことが確認された。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、コリメータCmとして板材に開口61を形成したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、所定幅を持つ板材を格子状に組み付けて構成してもよい。
【符号の説明】
【0026】
Cm…コリメータ、SM…スパッタリング装置、Sc…基板中心、Sw…基板、Tc…ターゲット中心、1…真空チャンバ、2…ターゲット、61…開口、61…起点開口、61…第1開口、61…第2開口、61…第3開口、61…第4開口。
図1
図2
図3
図4